説明

アゾ化合物及びそれらを含有する染料系偏光膜

【課題】新規なアゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物を含有してなる染料系偏光膜を提供する。
【解決手段】下記式(1):


(式中、R1,R2は各々独立に水素原子、スルホン酸基、低級アルキル基、低級アルコキシル基を示し、R3〜R6は各々独立に水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシル基を示す。R7は低級アルキル基、低級アルコキシル基を示し、nは0または1を表す。)で示される、アゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物を一種類以上偏光膜基材に含有してなる染料系偏光膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物、及びそれらを含有してなる染料系偏光膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の透過・遮へい機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶と共に液晶ディスプレイ(LCD)等の表示装置の基本的な構成要素である。このLCDの適用分野も初期の頃の電卓および時計等の小型機器から、ノートパソコン、ワープロ、液晶プロジェクター、液晶テレビ、カーナビゲーションおよび屋内外の計測機器等の広範囲に広がっている。また、低温〜高温、低湿度〜高湿度、低光量〜高光量の幅広い条件で使用されている。従って、偏光性能が高くかつ耐久性に優れた偏光板が求められている。
【0003】
現在、偏光膜は延伸配向したポリビニルアルコール又はその誘導体のフィルムあるいは、ポリ塩化ビニルフィルムの脱塩酸又はポリビニルアルコール系フィルムの脱水によりポリエンを生成して配向せしめたポリエン系のフィルムなどの偏光膜基材に、偏光素子としてヨウ素や二色性染料を染色乃至は含有せしめて製造される。これらのうち、偏光素子としてヨウ素を用いたヨウ素系偏光膜は、初期偏光性能に優れている。一方で、水および熱に対して弱く、高温、高湿の状態で長時間使用する場合にはその耐久性に問題がある。耐久性を向上させるためにホルマリン、あるいは、ほう酸を含む水溶液で処理したり、また透湿度の低い高分子フィルムを保護膜として用いる方法などが考えられている。しかし、その効果は十分とはいえない。一方、偏光素子として二色性染料を用いた染料系偏光膜はヨウ素系偏光膜に比べ、耐湿性および耐熱性は優れるものの、一般に偏光性能が十分でない。
【0004】
高分子フィルムに数種の二色性染料を吸着・配向させてなる中性色の偏光膜において、2枚の偏光膜をその配向方向が直交するように重ね合わせた状態(直交位)で、可視光領域の波長領域における特定波長の光漏れ(色漏れ)があると、偏光膜を液晶パネルに装着したとき、暗状態において液晶表示の色相が変わってしまうことがある。そこで、偏光膜を液晶表示装置に装着したとき、暗状態において特定波長の色漏れによる液晶表示の変色を防止するためには、可視光領域の波長領域における直交位の平均光透過率(直交平均光透過率)を一様に低くしなければならない。
【0005】
また、カラー液晶投射型ディスプレー、即ちカラー液晶プロジェクターの場合、その液晶画像形成部に偏光板を使用する。この用途のため、以前は偏光性能が良好でニュートラルグレーを呈するヨウ素系偏光板が使用されていた。しかし、ヨウ素系偏光板は前記したようにヨウ素が偏光子であるが故に耐光性、耐熱性、耐湿熱性が十分でないという問題がある。この問題を解決するため、染料系の二色性色素を偏光子としたニュートラルグレーの偏光板が使用されるようになってきた。ニュートラルグレーの偏光板は、可視光波長領域全域での透過率、偏光性能を平均的に向上させるべく、通常3原色の色素を組み合わせて使用する。このため、カラー液晶プロジェクターのように、より明るくという市場の要求に対しては、光の透過率が悪く、明るくするためには光源強度をより高くしなければならないという問題がある。この問題解決のため、3原色に対応した、即ち、青色チャンネル用、緑色チャンネル用、赤色チャンネル用という3つの偏光板が使用されるようになってきた。
【0006】
しかしながら、偏光板により光が大幅に吸収されること、および0.5〜3インチの小面積の画像を数十インチ乃至百数十インチ程度まで拡大すること等により明るさの低減は避けられない。その為光源としては高い輝度のものが使用される。しかも液晶プロジェクターの一層の明るさの向上要望は根強く、その結果として自ずと、使用する光源強度は益々強くなってきている。それに伴って偏光板にかかる光、熱も増大している。
【0007】
上記のような染料系偏光膜の製造に用いられる染料としては、例えば特許文献1から特許文献6などに記載されている水溶性アゾ化合物が挙げられる。
しかしながら、前記水溶性染料を含有してなる従来の偏光板は、偏光特性、吸収波長領域、色相等の観点から、市場のニーズを十分に満足させるに至っていない。また、カラー液晶プロジェクターの3原色に対応した、即ち、青色チャンネル用、緑色チャンネル用、赤色チャンネル用という3つの偏光板に明るさと偏光性能、高温や高湿条件における耐久性、更には長時間暴露に対する耐光性のいずれもが良好なものがなく、その改良が望まれている。
【特許文献1】特開2003−215338号公報
【特許文献2】特願2004−338876号公報
【特許文献3】特許2622748号公報
【特許文献4】特開昭60−168743号公報
【特許文献5】特開2001−33627号公報
【特許文献6】特開2002−275381号公報
【特許文献7】特開平05−295281号公報
【非特許文献1】染料化学;細田豊著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の一つは、優れた偏光性能および耐湿性・耐熱性・耐光性を有する高性能な偏光板を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、高分子フィルムに二種類以上の二色性染料を吸着・配向せしめてなる中性色の偏光板であって、可視光領域の波長領域における直交位の色もれがなく、優れた偏光性能及び耐湿性、耐熱性、耐光性を有する高性能な偏光板を提供することにある。
さらなる目的はカラー液晶プロジェクターの3原色に対応した、明るさと偏光性能、耐久性及び耐光性のいずれもが良好である高性能な偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる目的を達成すべく鋭意研究を進めた。その結果、特定の染料を含有する偏光膜及び偏光板が、優れた偏光性能及び耐湿性、耐熱性、耐光性を有することを見い出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
【0010】
(1)下記式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1,R2は各々独立に水素原子、スルホン酸基、低級アルキル基、低級アルコキシル基を示し、R3〜R6は各々独立に水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシル基を示す。R7は低級アルキル基、低級アルコキシル基を示し、nは0または1を表す。)で示される、アゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物。
(2)R7がメチル基、メトキシ基のいずれかである、(1)に記載のアゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物。
(3)R1、R2のうち少なくとも1つがスルホン酸基である、(1)又は(2)に記載のアゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物。
(4)R1がアゾ基に対してオルト位であり、R2がアゾ基に対してパラ位である、(1)乃至(3)のいずれか1項に記載のアゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物。
(5)R3〜R6が各々独立に水素原子、メチル基、メトキシ基である、(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のアゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1項に記載のアゾ化合物及び/又はその塩、並びにその銅錯塩化合物を1種類以上偏光膜基材に含有することを特徴とする染料系偏光膜。
(7)(1)乃至(5)のいずれか1項に記載のアゾ化合物及び/又はその塩、並びにその銅錯塩化合物を1種類以上、並びにこれら以外の有機染料を1種類以上偏光膜基材に含有することを特徴とする、染料系偏光膜。
(8)(1)乃至(5)のいずれか1項に記載のアゾ化合物及び/又はその塩、並びにその銅錯塩化合物を2種類以上、並びにこれら以外の有機染料を1種類以上偏光膜基材に含有することを特徴とする、染料系偏光膜。
(9)偏光膜基材がポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムである、(6)乃至(8)のいずれか1項に記載の染料系偏光膜。
(10)(6)乃至(9)のいずれか1項に記載の染料系偏光膜の少なくとも一方の面に透明保護層を貼合してなる、染料系偏光板。
(11)(6)乃至(10)のいずれか1項に記載の染料系偏光膜又は染料系偏光板を用いることを特徴とする、液晶表示用偏光板。
(12)(6)乃至(10)のいずれか1項に記載の染料系偏光膜又は染料系偏光板を用いることを特徴とする、液晶プロジェクター用カラー偏光板。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物は、偏光膜用の染料として有用である。そしてこれらの化合物を含有する偏光膜は、ヨウ素を用いた偏光膜に匹敵する高い偏光性能を有し、且つ耐久性にも優れる。そのため、各種液晶表示体及び液晶プロジェクター用、又、高い偏光性能と耐久性を必要とする車載用途、各種環境で用いられる工業計器類の表示用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアゾ化合物は式(1)で表される。式(1)において、R1、R2は各々独立に水素原子、スルホン酸基、低級アルキル基、低級アルコキシル基を示す。低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。低級アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシル基、iso−プロポキシル基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。R1、R2は、そのいずれかがスルホン酸基であることが好ましい。更にR1はアゾ基に対してオルト位、R2はアゾ基に対してパラ位であることが好ましい。R1は水素原子、スルホン酸基、メチル基、メトキシ基、R2がスルホン酸基、メトキシ基であることが特に好ましい。R3〜R6は各々独立に水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシル基を表す。R3〜R6としては、水素原子、メチル基、メトキシ基が好ましい。R7は低級メチル基、低級メトキシ基を示す。R7としては、メチル基、メトキシ基が好ましい。
次に本発明で使用する式(1)で表されるアゾ化合物、並びにその銅錯塩化合物の具体例を以下に挙げる(式(2)〜(18))。尚、以下の式では、スルホン酸基、カルボキシル基及び水酸基は遊離酸の形で表す。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
【化10】

【0024】
【化11】

【0025】
【化12】

【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
【化15】

【0029】
【化16】

【0030】
【化17】

【0031】
【化18】

【0032】
式(1)で表されるアゾ化合物は、非特許文献1に記載されるような通常のアゾ染料の製法に従い、公知のジアゾ化、カップリングを行うことにより容易に製造できる。具体的な製造方法としては、下式(A)で示されるアミノ基含有化合物をジアゾ化し、下式(B)で示されるアニリン類とカップリングさせ、モノアゾアミノ化合物(下式(C))を得る。
【0033】
【化19】

【0034】
(式中R1、R2は、式(1)におけるのと同じ意味を表す。)
【0035】
【化20】

【0036】
(式中R3、R4は、式(1)におけるのと同じ意味を表す。)
【0037】
【化21】

【0038】
次いで、このモノアゾアミノ化合物をジアゾ化し、下式(D)のアニリン類と二次カップリングさせ、下式(E)で示されるジスアゾアミノ化合物を得る。
【0039】
【化22】

【0040】
(式中R5、R6は式(1)におけるのと同じ意味を表す。)
【0041】
【化23】

【0042】
このジスアゾアミノ化合物をジアゾ化し、下式(F)で表されるナフトール類と三次カップリングさせることにより式(1)のアゾ化合物が得られる。
【0043】
【化24】

【0044】
(式中R7は式(1)におけるのと同じ意味を表す。)
【0045】
上記反応において、ジアゾ化工程はジアゾ成分の塩酸、硫酸などの鉱酸水溶液またはけん濁液に亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩を混合するという順法によって行ってもよい。あるいはジアゾ成分の中性もしくは弱アルカリ性の水溶液に亜硝酸塩を加えておき、これと鉱酸を混合するという逆法によって行ってもよい。ジアゾ化の温度は、−10〜40℃が適当である。また、アニリン類とのカップリング工程は塩酸、酢酸などの酸性水溶液と上記各ジアゾ液を混合し、温度が−10〜40℃でpH2〜7の酸性条件で行われる。
【0046】
カップリングして得られたモノアゾ化合物及びジスアゾ化合物はそのままあるいは酸析や塩析により析出させ濾過して取り出すか、溶液またはけん濁液のまま次の工程へ進むこともできる。ジアゾニウム塩が難溶性でけん濁液となっている場合は濾過し、プレスケーキとして次のカップリング工程で使うこともできる。
【0047】
ジスアゾアミノ化合物のジアゾ化物と、式(F)で表されるナフトール類との三次カップリング反応は、温度が−10〜40℃でpH7〜10の中性からアルカリ性条件で行われる。反応終了後、塩析により析出させ濾過して取り出す。更にその水溶液をアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等の存在下、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅等の銅塩と80〜100℃で反応させ、塩析等により析出させ、ろ過することにより銅錯塩化合物が得られる。また精製が必要な場合には、塩析を繰り返すかまたは有機溶媒を使用して水中から析出させればよい。精製に使用する有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類等の水溶性有機溶媒が挙げられる。
【0048】
尚、本発明において式(1)で表されるアゾ化合物は遊離酸として用いられる他、アゾ化合物の塩を用いることができる。そのような塩としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等の有機塩が挙げられる。一般的にはナトリウム塩が用いられる。
【0049】
式(1)で表されるアゾ化合物である水溶性染料を合成するための出発原料であるAで表されるアミンとしては、Aが置換基を有するフェニルの場合、例えば4−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノベンゼンスルホン酸、2−アミノベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼンスルホン酸、4−アミノ−2−メチルベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メトキシベンゼンスルホン酸、3−アミノ−4−メトキシベンゼンスルホン酸、等が挙げられる。その中でも、4−アミノベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メトキシベンゼンスルホン酸又は4−アミノ−2−メチルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0050】
一次、及び二次カップリング成分である、置換基(R3、R4又はR5、R6)を有してもよいアニリン類(式(B)又は(D))における置換基としては、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基又はアセチルアミノ基が挙げられる。これらの置換基は1つまたは2つ結合してもよい。その結合位置は、アミノ基に対して、2位、3位、2位と5位、3位と5位、又は2位と6位であってもよい。3位、又は2位と5位が好ましい。アニリン類としては、例えばアニリン、2−メチルアニリン、3−メチルアニリン、2−エチルアニリン、3−エチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,5−ジエチルアニリン、2−メトキシアニリン、3−メトキシアニリン、2−メトキシ−5−メチルアニリン、2,5−ジメトキシアニリン、3,5−ジメチルアニリン、2,6−ジメチルアニリン又は3,5−ジメトキシアニリン等が挙げられる。これらのアニリン類はアミノ基が保護されていてもよい。
【0051】
保護基としては、例えばそのω−メタンスルホン酸基が挙げられる。一次カップリングに使用するアニリン類とニ次カップリングに使用するアニリン類は同じであっても異なっていてもよい。
【0052】
上記した三次カップリング成分である式(F)で表わされるナフトール類は、R7がメチル基又はメトキシ基であるものが好ましい。
【0053】
また、本発明の染料系偏光膜又は染料系偏光板には、式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩あるいはその銅錯塩化合物が一種あるいは複数で使用される他、必要に応じて他の有機染料を一種以上併用してもよい。併合する有機染料に特に制限はないが、本発明のアゾ化合物又はその塩あるいはその銅錯塩化合物の吸収波長領域と異なる波長領域に吸収特性を有する染料であって二色性の高いものが好ましい。例えば、シー.アイ.ダイレクト.イエロー12、シー.アイ.ダイレクト.イエロー28、シー.アイ.ダイレクト.イエロー44、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ26、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ39、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ71、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ107、シー.アイ.ダイレクト.レッド2、シー.アイ.ダイレクト.レッド31、シー.アイ.ダイレクト.レッド79、シー.アイ.ダイレクト.レッド81、シー.アイ.ダイレクト.レッド247、シー.アイ.ダイレクト.グリーン80又はシー.アイ.ダイレクト.グリーン59および特許文献1〜4に記載された染料等が挙げられる。これらの色素は遊離酸、あるいはアルカリ金属塩(例えばNa塩、K塩、Li塩)、アンモニウム塩又はアミン類の塩として用いられる。
【0054】
必要に応じて、他の有機染料を併用する場合、目的とする偏光膜が、中性色の偏光膜、液晶プロジェクター用カラー偏光膜、その他のカラー偏光膜により、それぞれ配合する染料の種類は異なる。その配合割合は特に限定されるものではないが、一般的には、式(1)のアゾ化合物またはその塩あるいはその銅錯塩化合物の重量を基準として、前記の有機染料の少なくとも一種以上の合計で0.1〜10重量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0055】
式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩あるいはその銅錯塩化合物を、必要に応じて他の有機染料と共に、偏光膜材料である高分子フィルムに公知の方法で含有せしめることにより、本発明の偏光膜又は液晶プロジェクター用偏光板に使用される各種の色相及び中性色を有する偏光膜を製造することができる。得られた偏光膜は、保護膜を付け偏光板として、必要に応じて保護層又はAR(反射防止)層及び支持体等を設け、液晶プロジェクター、電卓、時計、ノートパソコン、ワープロ、液晶テレビ、カーナビゲーション及び屋内外の計測器や表示器等に使用される。
【0056】
本発明の染料系偏光膜に使用する基材(高分子フィルム)は、ポリビニルアルコール系基材が良い。ポリビニルアルコール系基材としてはポリビニルアルコールまたはその誘導体、及びこれらのいずれかをエチレン、プロピレンのようなオレフィンや、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸又はマレイン酸のような不飽和カルボン酸などで変性したもの等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコールまたはその誘導体からなるフィルムが、染料の吸着性および配向性の点から、好適に用いられる。基材の厚さは通常30〜100μm、好ましくは60〜90μm程度である。
【0057】
このような高分子フィルムに、式(1)のアゾ化合物またはその塩あるいはその銅錯塩化合物を含有せしめるにあたっては、通常、高分子フィルムを染色する方法が採用される。染色は、例えば次のように行われる。まず、本発明のアゾ化合物又はその塩あるいはその銅錯塩化合物、及び必要によりこれ以外の染料を水に溶解して染浴を調製する。染浴中の染料濃度は特に制限されないが、通常は0.001〜10重量%程度の範囲から選択される。また、必要により染色助剤を用いてもよく、例えば、芒硝を0.1〜10重量%程度の濃度で用いるのが好適である。このようにして調製した染浴に高分子フィルムを1〜10分間浸漬し、染色を行う。染色温度は、好ましくは40〜80℃程度である。
【0058】
水溶性染料の配向は、上記のようにして染色された高分子フィルムを延伸することによって行われる。延伸する方法としては、例えば湿式法、乾式法など、公知のいずれの方法を用いてもよい。高分子フィルムの延伸は、場合により、染色の前に行ってもよい。この場合には、染色の時点で水溶性染料の配向が行われる。水溶性染料を含有・配向せしめた高分子フィルムは、必要に応じて公知の方法によりホウ酸処理などの後処理が施される。このような後処理は、偏光膜の光線透過率および偏光度を向上させる目的で行われる。ホウ酸処理の条件は、用いる高分子フィルムの種類や用いる染料の種類によって異なる。一般的にはホウ酸水溶液のホウ酸濃度を0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲とし、処理は30〜80℃、好ましくは40〜75℃の温度範囲で、0.5〜10分間浸漬して行われる。更に必要に応じて、カチオン系高分子化合物を含む水溶液で、フィックス処理を併せて行ってもよい。
【0059】
このようにして得られた本発明の染料系偏光膜は、その片面または両面に、光学的透明性および機械的強度に優れる透明保護層を貼合して、偏光板とすることができる。保護膜を形成する材料としては、例えば、セルロースアセテート系フィルムやアクリル系フィルムのほか、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン系共重合体のようなフッ素系フィルム、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂またはポリアミド系樹脂からなるフィルム等が用いられる。保護膜の厚さは通常40〜200μmである。
偏光膜と保護膜を貼り合わせるのに用いうる接着剤としては、ポリビニルアルコール系接着剤、ウレタンエマルジョン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステルーイソシアネート系接着剤などが挙げられる。ポリビニルアルコール系接着剤が好適である。
【0060】
本発明の染料系偏光板の表面には、さらに透明な保護層を設けてもよい。保護層としては、例えばアクリル系やポリシロキサン系のハードコート層やウレタン系の保護層等が挙げられる。また、単板平均光透過率をより向上させるために、この保護層の上にAR層を設けることが好ましい。AR層は、例えば二酸化珪素、酸化チタン等の物質を蒸着またはスパッタリング処理によって形成することができる。またフッ素系物質を薄く塗布することにより形成することができる。なお、本発明の染料系偏光板は、位相差板を貼付した楕円偏光板として使用することも出来る。
【0061】
このように構成した本発明の染料系偏光板は中性色を有し、可視光領域の波長領域において直交位の色もれがなく、偏光性能に優れ、さらに高温、高湿状態でも変色や偏光性能の低下を起こさず、可視光領域における直交位での光もれが少ないという特徴を有する。
【0062】
本発明における液晶プロジェクター用偏光板は、二色性分子として、式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩あるいはその銅錯塩化合物を、必要に応じて更に前記の他の有機染料と共に含有するものである。また、本発明の液晶プロジェクター用カラー偏光板に使用される偏光膜も、前記の染料系偏光膜の製造法と同様の方法で製造される。該偏光膜はさらに保護膜を付け偏光板とし、必要に応じて保護層又はAR層及び支持体等を設け、液晶プロジェクター用カラー偏光板として用いられる。
【0063】
液晶プロジェクター用カラー偏光板としては、該偏光板の必要波長域(A.超高圧水銀ランプを用いた場合;青色チャンネル用420〜500nm、緑色チャンネル500〜580nm、赤色チャンネル600〜680nm、B.3原色LEDランプを用いた場合のピーク波長;青色チャンネル用430〜450m、緑色チャンネル520〜535nm、赤色チャンネル620〜635nm)における、単板平均光透過率が39%以上、直交位の平均光透過率が0.4%以下であることが望ましい。より好ましくは該偏光板の必要波長域における単板平均光透過率が41%以上、直交位の平均光透過率が0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。さらに好ましくは、該偏光板の必要波長域における単板平均光透過率が42%以上、直交位の平均光透過率が0.1%以下である。本発明の液晶プロジェクター用カラー偏光板は上記のように明るさと優れた偏光性能を有するものである。
【0064】
本発明の液晶プロジェクター用カラー偏光板は、偏光膜と保護膜からなる偏光板に、前記AR層を設け、AR層付き偏光板としたものが好ましい。さらに透明ガラス板などの支持体に貼付したAR層及び支持体付き偏光板はより好ましい。
【0065】
なお、単板平均光透過率は、AR層及び透明ガラス板等の支持体の設けていない一枚の偏光板(以下単に偏光板と言うときは同様な意味で使用する)に自然光を入射したときの特定波長領域における光線透過率の平均値である。直交位の平均光透過率は、配向方向を直交位に配した二枚の偏光板に自然光を入射したときの特定波長領域における光線透過率の平均値である。
【0066】
本発明の液晶プロジェクター用カラー偏光板は、通常支持体付偏光板として使用される。支持体は偏光板を貼付するため、平面部を有しているものが好ましい。また光学用途であるため、ガラス成形品が好ましい。ガラス成形品としては、例えばガラス板、レンズ、プリズム(例えば三角プリズム、キュービックプリズム)等が挙げられる。レンズに偏光板を貼付したものは液晶プロジェクターにおいて偏光板付のコンデンサレンズとして利用し得る。また、プリズムに偏光板を貼付したものは液晶プロジェクターにおいて偏光板付きの偏光ビームスプリッタや偏光板付ダイクロイックプリズムとして利用し得る。また、液晶セルに貼付してもよい。ガラスの材質としては、例えばソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、サファイヤガラス等の無機系のガラスやアクリル、ポリカーボネート等の有機系のガラス等が挙げられる。無機系のガラスが好ましい。ガラス板の厚さや大きさは所望のサイズでよい。また、ガラス付き偏光板には、単板平均光透過率をより向上させるために、そのガラス面または偏光板面の一方もしくは双方の面にAR層を設けることが好ましい。
【0067】
液晶プロジェクター用支持体付カラー偏光板を製造するには、例えば支持体平面部に透明な接着(粘着)剤を塗布し、ついでこの塗布面に本発明の染料系偏光板を貼付すればよい。また、偏光板に透明な接着(粘着)剤を塗布し、ついでこの塗布面に支持体を貼付してもよい。ここで使用する接着(粘着)剤は、例えばアクリル酸エステル系のものが好ましい。尚、この偏光板を楕円偏光板として使用する場合、位相差板側を支持体側に貼付するのが通常であるが、偏光板側をガラス成形品に貼付してもよい。
【0068】
即ち、本発明の染料系偏光板を用いたカラー液晶プロジェクターでは、液晶セルの入射側または出射側のいずれか一方もしくは双方に本発明の染料系偏光板が配置される。該偏光板は液晶セルに接触していても、接触していなくてもよいが、耐久性の観点からすると接触していないほうが好ましい。出射側において、偏光板が液晶セルに接触している場合、液晶セルを支持体とした本発明の染料系偏光板を使用することができる。偏光板が液晶セルに接触していない場合、液晶セル以外の支持体を使用した本発明の染料系偏光板を使用することが好ましい。また、耐久性の観点からすると、液晶セルの入射側または出射側のいずれにも本発明の染料系偏光板が配置されることが好ましい。さらに本発明の染料系偏光板の偏光板面を液晶セル側に、支持体面を光源側に配置することが好ましい。なお、液晶セルの入射側とは、光源側のことであり、反対側を出射側という。
【0069】
本発明の染料系偏光板を用いたカラー液晶プロジェクターでは、紫外線カットフィルタを光源と上記入射側の支持体付偏光板の間に配置したものが好ましい。また、使用する液晶セルは、例えばアクティブマトリクス型で、電極及びTFTが形成された透明基板と対向電極が形成された透明基板との間に液晶を封入して形成されるものが好ましい。超高圧水銀ランプ(UHPランプ)やメタルハライドランプ、白色LED等の光源から放射された光は、紫外線カットフィルタを通過し、3原色に分離した後、青色、緑色、赤色のそれぞれのチャンネル用支持体付カラー偏光板を通過し、ついで合体し、投射レンズにより拡大されてスクリーンに投影される。或いは青色、緑色、赤色各色のLEDを使用して各色のLEDから放射された光は青色、緑色、赤色のそれぞれのチャンネル用支持体付カラー偏光板を通過し、ついで合体し、投射レンズにより拡大されてスクリーンに投影される。
【0070】
このように構成した液晶プロジェクター用カラー偏光板は、偏光性能に優れ、さらに高温、高湿状態でも変色や偏光性能の低下を起こさないという特徴を有する。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本発明をなんら限定するものではない。例中にある%および部は、特にことわらない限り重量基準である。
【0072】
実施例1
4−(4’−アミノフェニル)−アゾベンゼンスルホン酸27.7部を水500部に加え、水酸化ナトリウムで溶解した。35%塩酸32部を加え、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、1時間攪拌した。一方、下式(19)で示されるナフトール化合物55部を20%ピリジン水溶液250部に加え、炭酸ナトリウムで弱アルカリ性として溶解した。続いて、この液に先に得られたジスアゾ化合物のジアゾ化物をpH7〜10を保って注入し、攪拌して、カップリング反応を完結させた。塩化ナトリウムで塩析し、濾過して前記式(2)で示されるトリスアゾ化合物24.7部を得た。この化合物は赤紫色を呈し、20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は542nmであった。
【0073】
【化25】

【0074】
実施例2
実施例1で使用した前記式(19)のナフトール化合物を下式(20)の化合物に代える以外は、実施例1と同様にして前記式(3)で表される化合物25.3部を得た。この化合物は紫色を呈し、20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は542nmであった。
【0075】
【化26】

【0076】
実施例3
4−(4’−アミノフェニル)−アゾベンゼンスルホン酸27.7部を水500部に加え、水酸化ナトリウムで溶解した。35%塩酸32部を加え、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、1時間攪拌した。そこへ希塩酸水に溶解した2,5−ジメチルアニリン12.1部を加え、30〜40℃で攪拌しながら、炭酸ナトリウムを加えてpH3とした。さらに攪拌してカップリング反応を完結させ、下記式(21)で示されるジスアゾ化合物32.8部を得た。
【0077】
【化27】

【0078】
上記式(21)のジスアゾ化合物40.9部を水600部に分散させた後、35%塩酸32部を、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、25〜30℃で2時間攪拌してジアゾ化した。一方、上記式(20)で示されるナフトール化合物34.5部に水250部に加え、炭酸ナトリウムで弱アルカリ性として溶解した。続いて、この液に先に得られたジスアゾ化合物のジアゾ化物をpH7〜10を保って注入し、攪拌して、カップリング反応を完結させた。塩化ナトリウムで塩析し、濾過して前記式(5)で示されるトリスアゾ化合物45部を得た。この化合物の20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は563nmであった。
【0079】
実施例4
4−アミノベンゼンスルホン酸17.3部に水500部に加え、水酸化ナトリウムで溶解した。冷却し10℃以下で、35%塩酸32部を加え、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、5〜10℃で1時間攪拌した。そこへ希塩酸水に溶解した2,5−ジメチルアニリン12.1部を加え、30〜40℃で攪拌しながら、炭酸ナトリウムを加えてpH3とした。さらに攪拌してカップリング反応を完結させ、濾過して、モノアゾ化合物を得た。得られたモノアゾ化合物に35%塩酸32部を、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、25〜30℃で2時間攪拌した。そこへ希塩酸水に溶解した2−メトキシ−5−メチルアニリン13.7部を加え、20〜30℃で攪拌しながら、炭酸ナトリウムを加えてpH3とした。さらに攪拌してカップリング反応を完結させ、濾過して、下記式(22)で示されるジスアゾ化合物30部を得た。
【0080】
【化28】

【0081】
上記式(22)のジスアゾ化合物45.3部を水600部に分散させた後、35%塩酸32部を、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、25〜30℃で2時間攪拌してジアゾ化した。一方、上記式(20)で示されるナフトール化合物34.5部に水250部に加え、炭酸ナトリウムで弱アルカリ性として溶解した。この液に先に得られたジスアゾ化合物のジアゾ化物をpH7〜10を保って注入し、攪拌して、カップリング反応を完結させた。塩化ナトリウムで塩析し、濾過して前記式(6)で示されるトリスアゾ化合物58部を得た。この化合物の20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は585nmであった。
【0082】
実施例5
上記式(22)で示される化合物の1次カップラーを2,5−ジメチルアニリンから2−メトキシ−5−メチルアニリンに代える以外は、実施例4と同様にして前記式(7)で表される化合物33部を得た。この化合物の20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は598nmであった。
【0083】
実施例6
2−アミノー5−メトキシベンゼンスルホン酸20.3部を水500部に加え、水酸化ナトリウムで溶解した。冷却し10℃以下で、35%塩酸32部を加え、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、5〜10℃で1時間攪拌した。そこへ希塩酸水に溶解した2,5−ジメチルアニリン12.1部を加え、30〜40℃で攪拌しながら、炭酸ナトリウムを加えてpH3とした。さらに攪拌してカップリング反応を完結させ、濾過して、モノアゾ化合物を得た。得られたモノアゾ化合物に35%塩酸32部を、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、25〜30℃で2時間攪拌した。そこへ希塩酸水に溶解した2,5−ジメチルアニリン12.1部を加え、20〜30℃で攪拌しながら、炭酸ナトリウムを加えてpH3とした。さらに攪拌してカップリング反応を完結させ、濾過して、下記式(23)で示されるジスアゾ化合物16.8部を得る。
【0084】
【化29】

【0085】
上記式(23)のジスアゾ化合物16.8部を水600部に分散させた後、35%塩酸12部を、次に亜硝酸ナトリウム2.5部を加え、25〜30℃で2時間攪拌してジアゾ化した。一方、上記式(19)のナフトール化合物を水250部に加え、炭酸ナトリウムで弱アルカリ性として溶解した。続いて、この液に先に得られたジスアゾ化合物のジアゾ化物をpH7〜10を保って注入し、攪拌して、カップリング反応を完結させた。塩化ナトリウムで塩析し、濾過して前記式(10)で示されるトリスアゾ化合物11.6部を得た。この化合物の20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は572nmであった。
【0086】
実施例7
実施例6で使用した前記式(19)のナフトール化合物を上式(20)の化合物に代える以外は、実施例6と同様にして前記式(11)で表される化合物11.9部を得た。この化合物の20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は574nmであった。
【0087】
実施例8
実施例4で使用した上記式(22)で示される化合物の出発原料である4−アミノベンゼンスルホン酸を4−アミノベンゼン−1,3−ジスルホン酸に変更する以外は、実施例4と同様にして前記式(16)で表されるトリスアゾ化合物24部を得た。この化合物の20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は588nmであった。
【0088】
実施例9
実施例8で使用した化合物の1次カップラーである2,5−ジメチルアニリン、2次カップラーである2−メトキシ−5−メチルアニリンをそれぞれ3−メチルアニリンに変更する以外は、実施例8と同様にして前記式(17)で表される化合物27部を得た。この化合物の20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は561nmであった。
【0089】
実施例10
実施例8で使用した化合物の1次カップラーである2,5−ジメチルアニリンをアニリンに、及び2次カップラーである2−メトキシ−5−メチルアニリンを2,5−ジメチルアニリンに変更する以外は、実施例8と同様にして前記式(18)で表される化合物25部を得た。この化合物の20%ピリジン水溶液中の極大吸収波長は575nmであった。
【0090】
実施例11
実施例1で得られた前記式(2)の化合物0.02%および芒硝0.1%の濃度とした45℃の水溶液に、厚さ75μmのポリビニルアルコールを4分間浸漬した。このフィルムを3%ホウ酸水溶液中で50℃で5倍に延伸し、緊張状態を保ったまま水洗、乾燥して偏光膜を得た。
得られた偏光膜は(a)極大吸収波長が553nmであり、(b)偏光率が99.9%であった。また、(c)耐光性(照射前後の偏光率の変化)は5.44%であった。すなわち、長時間暴露に対する耐光性においても次に示す比較例1に比べ優れていることが分かった。また、高温且つ高湿の状態でも長時間にわたる耐久性を示した。上記(a)〜(c)の特性の試験方法を下記に示す。
【0091】
(a)偏光膜の極大吸収波長(λmax)の測定
上記で得られた偏光膜2枚をその配向方向が直交するように重ね合わせた状態(直交位)で、分光光度計(日立製作所製 U−4100)を用いて極大吸収波長を測定した。
(b)偏光率の測定
上記の分光光度計で平行位の透過率(Tp)、直交位(Tc)を測定した。偏光率=[(Tp−Tc)/(Tp+Tc)]1/2×100(%)で算出した。
(c)耐光性(照射前後の偏光率の変化)
促進キセノンアークフェードメーター(ワコム社製)を用いて576時間光照射し、照射後の偏光率を(b)に記載の方法で求め、照射前後の偏光率変化=(照射前の偏光率−照射後の偏光率)/照射前の偏光率×100%で算出した。
【0092】
実施例12〜20
前記式(2)の化合物の代わりに、前記式(3)、(5)〜(7)、(10)、(11)及び(16)〜(18)のアゾ化合物を用いて、実施例11と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜の極大吸収波長及び偏光率を表1に示す。表1に示した通り、これらの化合物を用いて作成した偏光膜は、高い偏光率を有していた。また、表2〜表4に示した通り、前記式(2)、(3)、(5)、(10)、(11)及び(16)の化合物を用いて作成した偏光膜は、長時間暴露に対する耐光性においても後述の比較例1〜4に比べ優れていることが分かった。また、これらの偏光膜は高温且つ高湿の状態でも長時間にわたる耐久性を示した。
【0093】
【表1】

【0094】
比較例1
実施例1で得られた前記式(2)の化合物に代えて、特許文献1の実施例1において公開されている下記式(24)の構造で示される化合物を用いる以外は、実施例11と同様にして偏光膜を作成した。当該偏光膜をワコム社製の促進キセノンアークフェードメーターを用いて576時間光照射した。光照射前後の偏光率の変化は、12.29%であり、実施例11及び12における式(2)及び(3)の化合物を用いて作成した偏光膜に比べ1/2以下の耐光性であった。
【0095】
【化30】

【0096】
【表2】

【0097】
比較例2、3
実施例13で得られた前記式(5)の化合物に代えて、特許文献7の実施例1において公開されている下記式(25)及び特許文献3の実施例1において公開されている下記式(26)の構造で示される化合物を用いる以外は、実施例13と同様にして偏光膜を作成した。当該偏光膜をワコム社製の促進キセノンアークフェードメーターを用いて720時間光照射した。光照射前後の偏光率の変化は、表3に示したとおりであり、実施例13における式(5)の化合物を用いて作成した偏光膜に比べ1/2以下の耐光性であった。
【0098】
【化31】

【0099】
【化32】

【0100】
【表3】

【0101】
比較例4
実施例16で得られた前記式(10)の化合物に代えて、特許文献2の実施例1において公開されている下記式(27)の構造で示される化合物を用いる以外は、実施例16と同様にして偏光膜を作成した。当該偏光膜をワコム社製の促進キセノンアークフェードメーターを用いて720時間光照射した。光照射前後の偏光率の変化は、表4で示したとおりであり、実施例16〜18における式(10)、(11)及び(16)の化合物を用いて作成した偏光膜に比べ1/2以下の耐光性であった。
【0102】
【化33】

【0103】
【表4】

【0104】
実施例21
実施例3で得られた前記式(5)の化合物を0.04%、シー・アイ・ダイレクト・レッド81を0.04%、シー・アイ・ダイレクト・オレンジ39を0.03%、特許文献4の実施例23において公開されている下記(28)構造式で示される化合物を0.03%及び芒硝を0.1%の濃度とした45℃の水溶液に厚さ75μmのポリビニルアルコールを4分間浸漬した。このフィルムを3%ホウ酸水溶液中で50℃で5倍に延伸し、緊張状態を保ったまま水洗、乾燥して中性色(平行位ではグレーで、直交位では黒色)の偏光膜を得た。得られた偏光膜は、単板平均光透過率が41%、直交位の平均光透過率が0.1%以下であり、高い偏光率を有していた。しかも高温かつ高湿の状態でも長時間にわたる耐久性を示した。
【0105】
【化34】

【0106】
実施例22
実施例7で得られた前記式(11)の化合物を0.05%、シー・アイダイレクト・オレンジ39を0.1%の濃度とした45℃の水溶液に、厚さ75μmのポリビニルアルコールを4.5分間浸漬した。このフィルムを3%ホウ酸水溶液中で50℃で5倍に延伸し、緊張状態を保ったまま水洗、乾燥して偏光膜を得た。得られた偏光膜の一方の面にTAC膜(膜厚80μm、商品名TD−80U、富士写真フィルム社製)、他方の面に該TAC膜の片側に約10μmのUV(紫外線)硬化型ハードコート層を形成したフィルムをPVA系の接着剤を使用して貼付し、本発明の偏光板を得た。この偏光板の片側にアクリル酸エステル系の粘着剤を付与して粘着層付き偏光板とした。さらにハードコート層の外側に真空蒸着によりAR(反射防止)マルチコート加工を施し、30mm×40mmの大きさにカットし、同じ大きさの透明な片面AR層付きのガラス板に貼付してAR支持体付きの本発明の偏光板(液晶プロジェクタ緑色チャンネル用)を得た。本実施例の偏光板は、極大吸収波長(λmax)が570nmであり、500〜580nmにおける単板平均光透過率が44.1%、直交位の平均光透過率が0.02%であり、高い偏光率を有していた。しかも、高温且つ高湿の状態でも長時間にわたる耐久性を示した。また、この偏光板にプロジェクターの光源に使用される200WのUHPランプ(超高圧水銀ランプ)からの光をPBS(偏光変換素子)により偏向光に揃えた上で、そのうちの495〜595nmの光を選択的に取り出し、この偏光板をその光を吸収する配置で設置した。823時間照射した前後の570nmにおける偏光率の変化量(偏光率変化量(%) = 光照射前の偏光率(%) − 光照射後の偏光率(%))は0.03%であり、次に示す比較例5に比べ高い耐光性を示した。
【0107】
比較例5
実施例7で得られた前記式(11)で示される化合物を0.05%、シー・アイダイレクト・オレンジ39を0.1%の濃度とした45℃の水溶液の代わりに、比較例4で示した式(27)の化合物を0.05%、シー・アイダイレクト・オレンジ39を0.08%の濃度とした45℃の水溶液を用いること以外は、実施例22と同様にして偏光板を得た。この偏光板に実施例22と同様にしてプロジェクターの光源に使用される200WのUHPランプ(超高圧水銀ランプ)からの光をPBS(偏光変換素子)により偏向光に揃えた上で、そのうちの495〜595nmの光を選択的に取り出し、この偏光板をその光を吸収する配置で設置した。823時間照射した前後の570nmにおける偏光率の変化量は0.12%であり、実施例22に比べ耐光性が大きく劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のアゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物は、偏光膜用の材料として有用である。これらの化合物を含有する偏光膜は、各種液晶表示体及び液晶プロジェクター用として、具体的には車載用途、各種環境で用いられる工業計器類の表示用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】


(式中、R1,R2は各々独立に水素原子、スルホン酸基、低級アルキル基、低級アルコキシル基を示し、R3〜R6は各々独立に水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシル基を示す。R7は低級アルキル基、低級アルコキシル基を示し、nは0を表す。)で示される、アゾ化合物又はその塩、並びにその銅錯塩化合物を一種類以上偏光膜基材に含有してなる染料系偏光膜。
【請求項2】
R7がメチル基、メトキシ基のいずれかである、請求項1に記載の染料系偏光膜。
【請求項3】
R1、R2のうち少なくとも1つがスルホン酸基である、請求項1又は2に記載の染料系偏光膜。
【請求項4】
R1がアゾ基に対してオルト位であり、R2がアゾ基に対してパラ位である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の染料系偏光膜。
【請求項5】
R3〜R6が各々独立に水素原子、メチル基、メトキシ基である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の染料系偏光膜。
【請求項6】
偏光膜基材が、上記アゾ化合物及び/又はその塩、並びにその銅錯塩化合物以外の有機染料を1種類以上更に含有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の染料系偏光膜。
【請求項7】
偏光膜基材が、上記アゾ化合物及び/又はその塩、並びにその銅錯塩化合物を2種類以上、並びにこれら以外の有機染料を1種類以上含有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の染料系偏光膜。
【請求項8】
偏光膜基材が、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムである、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の染料系偏光膜。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の染料系偏光膜の少なくとも一方の面に透明保護層を貼合してなる、染料系偏光板。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の染料系偏光膜又は染料系偏光板を用いることを特徴とする、液晶表示用偏光板。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の染料系偏光膜又は染料系偏光板を用いることを特徴とする、液晶プロジェクター用カラー偏光板。

【公開番号】特開2013−47842(P2013−47842A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−243760(P2012−243760)
【出願日】平成24年11月5日(2012.11.5)
【分割の表示】特願2008−522510(P2008−522510)の分割
【原出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(594190998)株式会社ポラテクノ (30)
【Fターム(参考)】