説明

アゾ色素

【課題】優れた耐光性を有し、ポリマーを透明に着色し、かつ着色後も色素の溶出或いは色移行がない色素の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示される重合可能な官能基を有するアゾ色素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性の官能基を有するアゾ色素に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂(以後ポリマーと略称する)の着色は、未着色のポリマーに染料或いは顔料を分散させる、またはモノマー成分中に色素を分散或いは溶解させた後に重合するなどの手段により行われてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、着色剤として染料を使用する場合は、染料が着色物から溶出したり、或いは耐光性などの点で必ずしも適切ではない。一方で、着色剤として顔料を使用する場合は耐光性の点では染料よりも遙かに改良が見られるものの、依然として着色物からの溶出或いは色移行の問題は満足のゆくものではない。さらには顔料を用いた場合、着色物は不透明なものとならざるを得ず、透明な着色物を得ることは不可能であるのが現実である。
【0004】
また、銅フタロシアニンのメチルメタクリレートポリマー誘導体(堀口正二郎著、色材協会誌第38巻100頁、1965年)をポリマーの着色剤として用いると、透明な着色物を得ることが可能であるが、上記着色剤は製造毎にポリマー鎖の長さが異なるために、着色剤の樹脂に対する溶解性に差が生じて、ロット管理が煩雑となり、最悪の場合は重合後に色素が析出するという欠点がある。従って、優れた耐光性を有し、ポリマーを透明に着色し、かつ着色後も色素の溶出或いは色移行がない色素は得られていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、プラスチック着色用色素を改良すべく研究し、下記一般式(1)で示される重合可能な官能基を有するアゾ色素が優れた特性を有することを見出して本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示される重合可能な官能基を有するアゾ色素を提供する。

(ただし、式中Xはベンゼン環と縮合して置換・非置換のナフタレン環或いはベンゾカルバゾール環を形成するのに必要な原子群、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基および炭素数1〜5のアルコキシ基から選択される原子団、Zは下記の何れかから選択される重合可能な原子団、Aはアゾ基と結合している置換または非置換の芳香族残基、nは1、2或いは3を示す。)
【0007】

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた耐光性を有し、ポリマーを透明に着色し、かつ着色後も色素の溶出或いは色移行がない色素が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のアゾ色素は公知の方法で合成できる。例えば、先ず、アミノ基を有するナフトールAS誘導体と(メタ)アクリル酸クロライド、(メタ)アクリル酸グリシジル或いは(メタ)アクリル酸イソシアネートエチルとを反応させ、重合性二重結合基を有するカップラーを合成し、該カップラーに従来公知の芳香族アミンをジアゾ化およびカップリングすることにより得られる。または、アミノ基を有するアゾ色素を(メタ)アクリル酸クロライド、(メタ)アクリル酸グリシジル或いは(メタ)アクリル酸イソシアネートエチルと反応させることによっても、本発明のアゾ色素を得ることができる。
【0010】
本発明のアゾ色素を合成する際に使用するカップラーは、(メタ)アクリルアミド基或いは(メタ)アクリル酸エステル基を分子内に持っていることが不可欠である。カップラーの構造は合成する色素の色相および使用するジアゾ成分の構造を考慮して選択することが可能であるが、原材料の入手しやすさや反応の容易さ、そして合成されたアゾ色素の共重合性などを考慮すると、N−(メタクリルアミドフェニル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸アミド或いはN−(メタクリル酸エチル尿素フェニル)−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸アミドの使用が好ましい。
【0011】
本発明で使用する好ましいジアゾ成分としては、4−ベンゾイルアミノ−2,5−ジエトキシアニリン、4−ベンゾイルアミノ−2−メトキシ−5−メチルアニリン、4−ベンゾイルアミノ−2,5−ジメトキシアニリン、4−アミノベンズアニリド、3,3’−ジクロルベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、2,5−ジクロルアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、4−アミノジフェニルアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンなど、公知のアゾ顔料およびアゾ染料に使用されるアミンを挙げることができる。求める色素の色調とカップラーの構造に合わせて、上記のジアゾ成分を使い分けることが好ましい。
【0012】
通常、アゾ色素は後述の如きモノマーに溶解しにくいが、本発明のアゾ色素は、分子中に(メタ)アクリルアミド基、(メタ)アクリル酸アルキルエステル置換アミノ基或いは(メタ)アクリル酸アルキルエステル置換尿素基などを有するので、モノマーに対する溶解度が増し、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)やN−ビニルピロリドン(NVP)のような極性の高いモノマーには勿論、メチルメタクリレート(MMA)やエチルメタクリレート(EMA)のような比較的極性の低いモノマーにも若干溶解する。
【0013】
上記本発明のアゾ色素は、その構造中に重合性二重結合を有しており、該アゾ色素とモノマーとを任意の比率で共重合して色素含有重合体を得ることができる。本発明のアゾ色素と共重合可能なモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フルオロアルキル(メタ)アクリレート、シロキサニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸、メタアクリル酸、N,N,−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリルなどの(メタ)アクリル酸誘導体、或いはスチレンの誘導体、N−ビニルピロリドンなどが挙げられる。また、用途や求められる共重合物の特性に応じて二種類以上のモノマーを混合して使用することも可能である。また、必要に応じて、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能モノマーを、架橋剤として用いることもできる。中でも(メタ)アクリル酸誘導体のモノマーが使用に際して好ましい。
【0014】
本発明のアゾ色素をモノマーと共重合させる場合、水或いは有機溶媒中に本発明のアゾ色素とモノマーと重合開始剤とを混合し、加熱・撹拌することにより色素共重合体を得ることができる。この際に界面活性剤の様なものを加えて混合効率を高めてもよい。重合に際して使用する本発明のアゾ色素とモノマーの比率は、アゾ色素とモノマーとの合計を100質量部とした時に、アゾ色素が0.001〜50質量部の割合が好ましい。特に望ましいのは0.001〜30重量部の範囲である。前記アゾ色素の使用量が0.001質量部よりも少なくなると、着色効果を充分に発揮できず、一方、50重量部を超えると共重合が充分に進まず、未重合のアゾ色素が残留し、後に色素が再溶出或いはブリーディングを起こすなどの問題を惹起する。
【0015】
本発明の色素共重合体による樹脂の着色方法としては大きく二種類がある。一方は色素分を多目にして共重合した後に、単離した色素共重合体を被着色樹脂と混練することにより着色する方法である。もう一方は共重合時に最終的な色素―樹脂配合にして共重合させる方法である。何れの場合でも着色濃度は質量比で0.001〜10質量%にすることが好ましい。少なすぎれば上述のように着色効果を充分に発揮することができず、多すぎれば色調が濃くなり過ぎて、成型物或いは塗膜が透明とは言えない状態となり、本発明の特徴が失われてしまう。色素共重合体を被着色樹脂と混練することにより着色する場合は、一般的には共重合に使用したモノマーと被着色樹脂のモノマーが類似、好ましくは同じ場合は時に混合が容易である。
【0016】
本発明の色素共重合体中の色素は、ポリマー鎖中と化学的に結合しているので、樹脂の着色に使用しても、着色樹脂の外部に溶出或いは色移行といった現象は起こらない。また、本発明の色素共重合体は、一般的なアゾ顔料と類似の化学構造を有しているので着色物は優れた耐光性を有する。さらに、色素が顔料のように粒子ではなく、分子でポリマー鎖と結合しているので着色物は透明である。
【0017】
以下に一般式(1)に示される本発明のアゾ色素の具体例を挙げるが、これによって本発明のアゾ色素が限定されるものではない。なお、各色素の製造方法は、後記実施例の合成例1に準じる。
【0018】

【0019】

【0020】

【0021】

【0022】

【0023】

【0024】

【0025】

【0026】

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【0029】

【0030】

【0031】

【0032】

【0033】

【0034】

【0035】
以下の表1に前記例示アゾ色素の最大吸収波長、融点を記載する。

【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」とあるのは質量量準である。
【0037】
実施例1
(1)例示アゾ色素1の合成
<カップラーの合成>
3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(3’−アミノアニリド)13.92gをTHF(テトラヒドロフラン)中に分散させ、周囲を冷却しながら塩化メタクリロイル6.8gをゆっくり滴下する。滴下終了後、室温で数時間撹拌する。次いで炭酸カリウム4.45gを水30mlに溶解した溶液を滴下し、滴下終了後、還流温度で数時間、撹拌する。冷却後、濾過し、濾物をメタノール・水の順に洗浄する。乾燥して11.3gの3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(3’−メタクリロイルアミノアニリド)を得た(収率65%)。分析値は以下の通りであった。
【0038】
(1)融点:226℃
(2)元素分析値:()内は理論値:C;72.4%(72.8)%、H;5.27%(5.24)、N;8.11%(8.09)
(3)赤外吸収スペクトルを図1に示す。
(4)NMRスペクトル(TMS標準、溶媒:DMSO−d6)
1.97ppm(s・3H)、5.53(s・1H)、5.84(s・1H)、7.32〜7.53(m・6H)、7.76〜7.79(d・1H)、7.92〜7.95(d・1H)、8.18(s・1H)、8.53(s・1H)、9.88(s・1H)、10.62(s・1H)、11.41(s・1H)。スペクトルを図2に示す。
【0039】
<アゾ色素の合成>
上述のカップラー9.54gをN,N−ジメチルアセトアミド500mlに溶解し、酢酸ナトリウム三水和物13.8gを水50mlに溶解した溶液を加える。次いでブルーBBベース7.51gを定法にてジアゾ化し、得られたジアゾ液を上述のカップラー溶液中に滴下してカップリングする。室温で数時間撹拌した後、濾過し、濾物を1−ブタノンで、次いで水で充分に洗浄する。乾燥して14.8gの前記例示のアゾ色素1を得た(収率90%)。得られたアゾ色素は鮮やかな紫色であった。分析値は以下の通りであった。
(1)融点:254℃
(2)元素分析値:()内は理論値:C;69.0%(69.4)%、H;5.39%(5.36)、N;10.68%(10.65)
(3)赤外吸収スペクトルを図3に示す。
【0040】
<例示アゾ色素1とメタクリル酸エチルエステルとの共重合物の合成>
メチルエチルケトン125部、例示アゾ色素1の3.5部、メタクリル酸エチルエステル9.2部およびアゾビスイソブチロニトリル0.5部を混合し、約80℃で10時間加熱、撹拌し共重合させた。室温まで冷却した後、重合液を水1,250部中に投じ、吸引濾過により析出物を濾過し、メタノールと水とで順に洗浄、乾燥し、12.5部のアゾ色素含有共重合物を得た。得られた共重合物をGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)にかけたところ、原料であるアゾ色素のピークは検出されず、例示アゾ色素1が、モノマーであるメタクリル酸エチルエステルと共重合していることが確認された。
【0041】
さらに当該共重合物をメチルエチルケトンに溶解した後、ポリエステルフィルム上に塗布したところ、鮮明で透明な紫色の被膜が得られ、上述の被膜に白色塗料(酸化チタン/アルキッド樹脂)を塗布しも色移行は見られなかった。また、上述の共重合物の被膜をはがしてメタノール中で浸漬しても液の着色は全く見られず、色素の溶出は無いことが確認できた。
【0042】
実施例2〜17
実施例1と同様にして前記例示アゾ色素2〜17を合成し、且つ下記表2に記載の組み合わせで色素含有重合体を得、同様にして着色性を調べたところ同様な結果が得られた。なお、実施例1も併記する。
【0043】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のアゾ色素は、モノマーと共重合することにより色素の溶出或いは色移行がなく、各種ポリマーを透明に着色する顕著な効果を有する色素である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1で合成したカップラーの赤外吸収スペクトルを示す図。
【図2】実施例1で合成したカップラーのNMRスペクトルを示す図。
【図3】実施例1で合成したアゾ色素の赤外吸収スペクトルを示す図。
【図4】例示アゾ色素8の赤外吸収スペクトルを示す図。
【図5】例示アゾ色素10の赤外吸収スペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される重合可能な官能基を有することを特徴とするアゾ色素。

(ただし、式中Xはベンゼン環と縮合して置換・非置換のナフタレン環或いはベンゾカルバゾール環を形成するのに必要な原子群、Yは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基および炭素数1〜5のアルコキシ基から選択される原子団、Zは下記の何れかから選択される重合可能な原子団、Aはアゾ基と結合している置換または非置換の芳香族残基、nは1、2或いは3を示す。)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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