説明

アタマジラミの駆除方法

【課題】ピレスロイド剤のような殺虫成分を使用せずとも実用的なシラミ駆除効果を奏し得るとともに、使用性に優れたアタマジラミの駆除方法の提供。
【課題の解決手段】界面活性剤、発泡剤及び精製水を含み、泡比重が0.05〜0.2で、かつロスマイルス法による消泡性試験において2分後の消泡度が30%以下であるシャンプー組成物を吐出してシャンプー後、泡状態を15分以上放置し、アタマジラミを窒息死させるアタマジラミの駆除方法。好ましくは、シャンプーキャップを用いて泡状態を15分以上放置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アタマジラミの駆除方法、より具体的にはピレスロイド剤のような殺虫成分を使用しないアタマジラミの駆除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人に寄生するシラミには、アタマジラミ、コロモジラミ及びケジラミの3種があり、このうちアタマジラミは頭部に寄生し毛髪に産卵する。卵は0.5mm前後で1週間ほどでかえり、幼虫期は1〜2週間ほどである。成虫の寿命は約1ケ月でこの間に卵を200個ほど産むことが知られている。第二次世界大戦後、日本ではほぼ絶滅したとされていたが、海外との交流が盛んになるにつれて国内に持ち込まれ、再び広がりつつある。人体用シラミ駆除剤として日本で薬事登録を受けている殺虫成分は、現在のところ、ピレスロイド系のスミスリンのみで、駆除剤にはスミスリンシャンプーが広く使用されている。
そして、その組成物に関していくつかの特許が出願されており、例えば、特許文献1(特許第3274223号)には、アミンオキサイド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び/又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びスミスリンを含有するシャンプー組成物が開示されている。
【0003】
一方、近年限定的ではあるが、スミスリンに対して耐性を示すシラミが出現しているとの報告がある。そこで、従来の殺虫成分を配合せず新規な作用性を示す薬効成分を用いたり、あるいは物理的作用に基づくシラミ駆除剤の開発も模索されている。例えば、特許文献2には薬効成分として脂肪酸エステルを含有する組成物が、また、特許文献3にはテルペン類を含有する組成物が記載されているが、施用時の液性について格別の検討がなされているわけでなく十分効果的であると言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3274223号
【特許文献2】特表2005−529896
【特許文献3】特表2002−501007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シャンプー時におけるシャンプー組成物の液性に着目し、ピレスロイド剤のような殺虫成分を使用せずとも実用的なシラミ駆除効果を奏し得るとともに、使用性に優れたアタマジラミの駆除方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)界面活性剤、発泡剤及び精製水を含み、泡比重が0.05〜0.2で、かつロスマイルス法による消泡性試験において2分後の消泡度が30%以下であるシャンプー組成物を吐出してシャンプー後、泡状態を15分以上放置し、アタマジラミを窒息死させるアタマジラミの駆除方法。
(2)シャンプーキャップを用いて泡状態を15分以上放置する(1)記載のアタマジラミの駆除方法。
(3)前記発泡剤が一般式
【化1】



(R1は炭素数8〜16のアルキル基、R2、R3は炭素数1〜2のアルキル基又はヒドロキシエチル基を表し、R2、R3は同一であっても異なっていてもよい)で表されるアミンオキサイドである(1)又は(2)記載のアタマジラミの駆除方法。
(4)前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含む(1)ないし(3)のいずれかに記載のアタマジラミの駆除方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアタマジラミの駆除方法は、ピレスロイド剤のような殺虫成分を使用せずとも簡単な方法で実用的なシラミ駆除効果を奏し、しかも薬剤の耐性を生じる恐れがないので、その実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどがあげられるがこれらに限定されない。なかんずく、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルのHLBが10以上のものが好ましく、例えば、ポリオキシエチレン(以降、POEと略する)(20)ソルビタンモノラウレート、POE(20)ソルビタンモノパルミテート、POE(20)ソルビタンモノステアレート、POE(20)ソルビタンモノオレエート、POE(22)ソルビタンモノイソステアレート等があげられる。
また、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、POE(15)グリセリンモノステアレート、POE(18)グリセリンモノオレエート、POE(20)グリセリントリステアレート等を例示でき、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、POE(7.5)ノニルフェニルエーテル、POE(15)ノニルフェニルエーテル、POE(30)オクチルフェニルエーテル等があげられる。
これらの界面活性剤の配合量は、通常シャンプー組成物全量の1.0〜15重量%、好ましくは2.0〜10重量%の範囲内である。
【0009】
本発明で用いる発泡剤としては、両性界面活性剤に相当するものが良く、なかでも一般式
【化2】





(R1は炭素数8〜16のアルキル基、R2、R3は炭素数1〜2のアルキル基又はヒドロキシエチル基を表し、R2、R3は同一であっても異なっていてもよい)で表されるアミンオキサイドが好ましい。例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ミリスチルジメチルアミンオキサイド等のアルキルジメチルアミンオキサイド、ラウリルジエチルアミンオキサイド等のアルキルジエチルアミンオキサイド、ラウリルメチルエチルアミンオキサイド、ラウリルジヒドロキシエチルアミンオキサイド等があげられ、好ましくは、ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルジメチルアミンオキサイドがあげられる。
該発泡剤の配合量は、通常、シャンプー組成物全量の1.0〜10重量%の範囲内であるが、刺激性、物理的安定性等の点から、1.5〜4.0重量%が好ましい。
【0010】
本発明では、シャンプー組成物の粘度を調整するために粘稠剤を配合するのがよい。このような粘稠剤としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが使いやすく、4〜200単位の酸化エチレン及び5〜100単位の酸化プロピレンを含んでいるものが特に有効である。例えば、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)ブロックポリマー、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)ブロックポリマー、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)ブロックポリマー等があげられる。
該ブロックポリマーの配合量は、通常シャンプー組成物全量の1.0〜40重量%の範囲内であり、シャンプー組成物の粘度を考慮して適宜調整すればよい。
【0011】
本発明のシャンプー組成物には、前記成分以外に、精製水をはじめ、本発明の目的に支障を来たさない限りにおいて、種々の添加剤、例えば、防腐剤、殺菌剤、緩衝剤、pH調整剤、酸化防止剤、香料、色素、起泡安定剤、キレート剤、コンディショニング剤等を配合することができる。
酸化防止剤としては、特にエデト酸ナトリウム及び/又はジブチルヒドロキシトルエン等が有効であり、シャンプー組成物のpHはpH調整剤を用いて中性付近、例えば4〜8に調整するのが好ましい。
【0012】
本発明では、吐出する泡の泡比重が0.05〜0.2で、かつロスマイルス法による消泡性試験において2分後の消泡度が30%以下であることを必須とする。
泡比重が0.05未満であると泡が軽すぎてシラミを包み込む作用が不足し、一方、0.2を超えると泡が毛髪の根元まで行き届きにくくなるので不適当である。
また、消泡度が30%を超えると、捕獲したシラミを包み込んで窒息死させるまでの時間が足りずシラミを完全に駆除できない。
本発明が開示する如く、泡比重と消泡度をシラミ駆除剤に適用する技術思想は全く新規なものであり、例えば、特許文献1からは示唆も教唆もされないし、特許文献2や特許文献3でも、薬効成分としての脂肪酸エステルやテルペン類の効能に主眼が置かれ、泡の液性には全く触れられていない。
【0013】
本発明において、上記シャンプー組成物は、泡吐出容器に収容されるが、吐出された泡は手の平にとって頭部を処理しやすい泡状態に調整されているので、極めて実用性の高いものである。なお、かかる泡吐出容器は、一定量のシャンプー組成物を一定量の空気と混合し、泡状態として使用時に容器から吐出させるものであればいずれのタイプのものでもよい。具体的には、例えば、軟質容器の胴部を手指で押圧することにより使用するスクイズフォーマー、ポンプ機構を備えたキャップの頭を指で押圧することにより使用するポンプフォーマー等があげられるが、ポンプフォーマーが使いやすい。
容器内のシャンプー組成物を空気と混合した混合物は、通常多孔質膜を通すことによって、容器吐出口から泡状に吐出するようになっており、多孔質膜としては、例えばネット、スポンジ、焼結体等があげられる。使用性の点から薄肉のネットが好ましく、その網目は30〜300メッシュ程度が好適である。30メッシュ未満では孔が大きすぎて泡立ちが悪くなり、一方、300メッシュを超えるとシャンプー組成物が目詰まりを生じやすくなるので好ましくない。このようなネットの材料としては、ナイロン、ポリエステル等があげられ、1枚あるいは複数枚備えられる。
【0014】
こうして得られた本発明のシャンプー組成物を用い、例えば、吐出された泡を手の平にとって頭部の毛髪に処理するとシャンプー組成物は毛髪の根元まで到達する。そして、この泡状態を15分以上放置することによって、アタマジラミを窒息死させることが可能となる。なお、シャンプー後、シャンプーキャップで頭部を覆うようにすれば、良好な泡状態を確実に保つことができるのでより効果的である。
また、本発明のアタマジラミの駆除方法は、コロモジラミ及びケジラミに対しても同様に適用できることはもちろんである。
【0015】
次に具体的な実施例ならびに試験例に基づき、本発明のアタマジラミの駆除方法について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
POE(20)ソルビタンモノオレエート5.0g、ラウリルジメチルアミンオキサイド2.4g、及びPOE(160)POP(30)ブロックポリマー20.0gと精製水を適量混合攪拌した後、塩酸によりpH6に調整した。次いで、エデト酸ナトリウム0.001g、及び微量の香料を添加攪拌し、残量の精製水を加え、シャンプー組成物100gを得た。このシャンプー組成物50gを、泡吐出容器に収容して本発明に適用した。泡状態は、泡比重が0.09、また消泡度が14%であった。
【0017】
当該泡吐出容器から吐出した泡状物の約10gを手の平に取り、アタマジラミの寄生が認められた頭部毛髪に処理し、シャンプーキャップを被り、約30分間放置した。本シャンプーの泡状物は毛髪の根元まで十分に到達し、約20分間放置後に水で洗髪して頭部を調べたところ、アタマジラミは完全に窒息死していた。
【実施例2】
【0018】
実施例1に準じて表1に示す各種シャンプー組成物を調製し、実施例1で用いた泡吐出容器に収容して下記に示す試験を行った。なお、シャンプー組成物のその他の成分として、粘稠剤であるPOE(160)POP(30)ブロックポリマーを20.0重量%配合した。
シラミ駆除効果
100mLポリエチレンカップ内に2×2cmの起毛ウール布小片を置き、アタマジラミ羽化後約8令成虫10頭を放飼した。供試シャンプーから吐出させた泡状物又は液状物の50mLをウール布小片上に施用し、5ないし60分間放置した。その後ウール布小片をポリエチレンカップ内の水道水で1分間十分に洗浄した。次いで、供試虫をウール布小片から外し、底面に濾紙を敷いた100mLポリエチレンカップに移した。その後、30℃の恒温室内に置き1日後に生死を観察し、死虫率を求めた。なお、無処理区として供試シャンプーの替わりに水道水を用いた。
(2)使用感
供試シャンプーから手の平に約10gを吐出させ、頭部の毛髪を処理するにあたり、吐出物を展げて洗髪し易いかどうかなどの使用感を評価した。結果を、〇(使いやすく、毛髪の根元まで吐出物が到達したことを実感できる)、△、×(手の平にとって洗髪する方法では処理しにくい)で示した。
【0019】
【表1】





【0020】
試験の結果、泡比重が0.05〜0.2で、かつロスマイルス法による消泡性試験において2分後の消泡度が30%以下であるシャンプー組成物を用い、泡状態を15分以上放置する本発明のアタマジラミの駆除方法によれば、シラミ駆除効果、使用感のいずれにおいても優れ、実用性の高いものであった。なお、実施例1〜5の評価からみて、界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、また、発泡剤としては、アルキルジメチルアミンオキサイドが好ましいことが確認された。
これに対し、比較例1のように、発泡剤を含まない場合や、泡比重が0.05未満の場合(比較例2)は、シラミ駆除効果が劣り、一方、比較例3の如く、泡比重が0.2を超えると使用性の点で問題があった。また、比較例4〜5から明らかなように、十分なシラミ駆除効果を得るためには、泡状態を15分以上放置する必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のアタマジラミの駆除方法は、人体用のシラミ駆除用途だけでなく、ペット用や他の害虫駆除用途等にも利用できる可能性がある。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤、発泡剤及び精製水を含み、泡比重が0.05〜0.2で、かつロスマイルス法による消泡性試験において2分後の消泡度が30%以下であるシャンプー組成物を吐出してシャンプー後、泡状態を15分以上放置し、アタマジラミを窒息死させることを特徴とするアタマジラミの駆除方法。
【請求項2】
シャンプーキャップを用いて泡状態を15分以上放置することを特徴とする請求項1記載のアタマジラミの駆除方法。
【請求項3】
前記発泡剤が一般式
【化1】




(R1は炭素数8〜16のアルキル基、R2、R3は炭素数1〜2のアルキル基又はヒドロキシエチル基を表し、R2、R3は同一であっても異なっていてもよい)で表されるアミンオキサイドであることを特徴とする請求項1又は2記載のアタマジラミの駆除方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアタマジラミの駆除方法。



【公開番号】特開2011−42619(P2011−42619A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191520(P2009−191520)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】