説明

アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法

【課題】 アダマンチル(メタ)アクリレート類を高収率で得る。
【解決手段】 硫酸触媒の存在下、アダマンタノール類と(メタ)アクリル酸類を反応させてアダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法において、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量が0.5重量%以下のアダマンタノール類を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能性ポリマー、合成潤滑油や可塑剤等の原料として有用なアダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸触媒の存在下、アダマンタノールと(メタ)アクリル酸を反応させてアダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法では、アダマンチル(メタ)アクリレート類が着色したり、メタクリル酸の重合物が多量生成する問題がある。これに対して、クレゾールスルホン酸を触媒兼重合禁止剤として用いる方法(特開平8−310995号公報)、p−トルエンスルホン酸触媒を用いる方法(特公平7−61980号公報)、および周期第3族元素化合物で構成される触媒を用いる方法(特開平11−35522号公報)が提案されている。しかし、これらの方法は反応速度が遅い、(メタ)アクリル基の数を制御することが難しい等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−310995号公報
【特許文献2】特公平7−61980号公報
【特許文献3】特開平11−35522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術における上記したような課題を解決し、選択的かつ高収率でアダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の問題点について鋭意検討した結果、硫酸触媒の存在下、アダマンタノール類を有機溶媒中(メタ)アクリル酸類と反応させるとき、アダマンタノール類に含まれるアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量が0.5重量%以下である場合にアダマンチル(メタ)アクリレート類が高収率で速やかに得られることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、硫酸触媒の存在下、アダマンタノール類と(メタ)アクリル酸類を反応させてアダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法において、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量が0.5重量%以下のアダマンタノール類を用いることを特徴とするアダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高収率で速やかにアダマンチル(メタ)アクリレート類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のアダマンタノール類は下記一般式で表されるものである。
【化1】

(式中、R1〜R3は、同一または異なって、水素原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数2〜6のアシルオキシ基、ハロゲン基を示す)
【0009】
ここでアリール基として、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、シクロアルキル基として、シクロヘキシル、シクロオクチル基等が挙げられ、アリールオキシ基として、フェノキシ基等が挙げられる。
【0010】
本発明で使用するアダマンタノール類は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量が0.5重量%、好ましくは0.1重量%のものを用いる。アルカリ金属のハロゲン化物として、塩化ナトリウム、臭化ナトリウムが挙げられる。ハロゲン化物含有量がこの範囲より多いと、反応の途中で重合が起こる。なお、原料アダマンタノール類のハロゲン化物濃度が高い場合には、アダマンタノール類を水との相溶性が低い溶媒(例えばヘキサノール等の水に不溶のアルコール)で溶解し、有機相を水で洗浄することにより、ハロゲン化物を0.5重量%以下に低減させることができる。
【0011】
本発明の(メタ)アクリル酸類には、アクリル酸及びメタクリル酸が含まれる。(メタ)アクリル酸類は、アダマンタノール類中の水酸基1当量に対して1.0〜10倍当量、好ましくは1.2〜5倍当量を使用する。使用量がこの範囲より少ないと未反応のアダマンタノール類が残り、逆に多いと釜効率が低下する。
【0012】
本発明では、硫酸を触媒として用いる。硫酸は、原料であるアダマンタノール類1モルに対して、0.005〜1.0モル、より好ましくは0.01〜0.1モルの割合で使用する。使用量をこの範囲より少なくすれば反応速度が低下し、逆に多くすればアダマンチル(メタ)アクリレート類の選択率が低下する。
【0013】
本発明では、反応中の(メタ)アクリル酸の重合を抑制するため、重合禁止剤を使用する。重合禁止剤の例としては、ジフェニルピクリルヒドラジル、ジ−p−フルオルフェニルアミン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、N−(3−N−オキシアニリニ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、p−ベンゾキノン、クロラニル、p−tert−ブチルカテコール、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、p−メトキシフェノール、m−ジニトロベンゼン、ニトロソベンゼン、p−フェニルジアミン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、N,N,N’,N’−テトラエチル−p−フェニルジアミン、クロルアニル、分子状酸素、硫黄、塩化銅(II)等を挙げることができる。
【0014】
重合禁止剤は(メタ)アクリル酸類1モルに対して0.005〜1.5モル%、好ましくは0.01〜0.5モル%を使用する。使用量がこの範囲より少ないと反応中に重合が起こり、逆に多いと重合禁止剤に由来する副生成物によりアダマンチル(メタ)アクリレート類の選択率が低下する。
【0015】
本発明で使用する有機溶媒としては、水との相溶性が低く、アダマンチル(メタ)アクリレート類の溶解性が高く、反応に対し不活性な溶媒を選択する。また、反応中に副生する水を除去するため、水と共沸する溶媒を用いることが好ましい。そのような有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の炭素数6〜10の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の炭素数6〜10の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。これらの溶媒は単独でも2種以上の溶媒を混合した系でも使用できる。溶媒は、原料として用いるアダマンタノール類1重量部に対して、0.1〜20重量部好ましくは1〜10重量部の割合で使用する。
【0016】
本発明における反応温度は、使用する有機溶媒と水との共沸温度である。反応温度が60℃よりも低い場合は反応速度が著しく低下し、150℃より高い場合は、アダマンチル(メタ)アクリレート類の選択率が低下する。本発明では、エステル化反応を進行させるため、共沸により反応中に副生する水を除去することが好ましい。共沸による水の除去にはDean−Stark水分離器等を用いることが出来る。
【0017】
本発明では、反応終了後の反応液を水洗あるいはアルカリ水洗することにより硫酸触媒、未反応の(メタ)アクリル酸類等が除去される。このとき、アダマンチル(メタ)アクリレート類の溶解度をあげるため、有機溶媒を添加してもよい。添加する有機溶媒は、反応と同一のものを使用することもできるし、異なったものを使用することもできる。また、水洗は1回でもよいし、複数回行ってもよい。そして、アダマンチル(メタ)アクリレート類は有機相から蒸留、濃縮、濾過、晶析、再結晶等の公知方法で分離される。
【0018】
本発明で製造されるアダマンチル(メタ)アクリレート類は、アダマンチルモノ(メタ)アクリレート、アダマンチルジ(メタ)アクリレート、アダマンチルトリ(メタ)アクリレート、アダマンチルテトラ(メタ)アクリレート等が含まれ、これらは置換基を有していてもよい。
[実施例]
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0020】
参考例塩化ナトリウムを1.2重量%含む1,3−アダマンタンジオール10gをヘキサノール100mlに溶解させて有機層を水40mlで2回洗浄後、濃縮、結晶化して、塩化ナトリウムを0.05重量%含む1,3−アダマンタンジオールを得た。
【0021】
実施例1
撹拌機、温度計、Dean−Stark水分離器、ジムロート冷却器及び空気導入管をつけた1000ml容量の4つ口フラスコに塩化ナトリウムを0.05重量%含む1,3−アダマンタンジオール41.6g(247mmol)、n−オクタン400ml、メタクリル酸62.3g(724mmol)、濃硫酸0.60g、メチルヒドロキノン0.045gを仕込んだ。少量の空気を吹き込みながら還流状態(125℃)で1.5時間反応した。この間、Dean−Stark水分離器を用いて副生する水を除去した。反応液を室温まで冷却後、ベンゼン300mlを加えて不溶物を濾別した。5重量%水酸化ナトリウム水溶液380gを加えて混合、分液した後、有機相を水150mlで5回洗浄した。有機相を減圧濃縮、濾過、乾燥し、白色粉末状のアダマンチルモノメタクリレート50.2gを得た。
【0022】
実施例2
撹拌機、温度計、Dean−Stark水分離器、ジムロート冷却器、空気導入管および下部に分液弁をつけた2000ml容量のセパラブルフラスコに塩化ナトリウムを0.05重量%含む1,3−アダマンタンジオール86.4g(513mmol)、トルエン400ml、n−オクタン400ml、アクリル酸108g(1500mmol)、濃硫酸1.23g、p−メトキシフェノール0.37gを仕込んだ。少量の空気を吹き込みながら還流状態(112℃)で5時間反応した。この間、Dean−Stark水分離器を用いて副生する水を除去した。反応液を室温まで冷却後、不溶物を濾別した。5重量%水酸化ナトリウム水溶液840gを加えて混合、分液した後、有機相を水400mlで6回洗浄した。有機相を減圧濃縮、濾過、乾燥し、白色粉末状のアダマンチルモノアクリレート83.8gを得た。
【0023】
実施例3
塩化ナトリウムを0.5重量%含む1,3−アダマンタンジオールを用いた以外は、実施例2と同じ条件で反応させたところ、仕込みと同時に反応溶液が黄色になり、最終的に黄色に着色したアダマンチルモノアクリレートを得た。得られた結晶をメタノール/ヘキサン溶解試験したところ、白濁が認められ、重合物が少量確認された。
【0024】
比較例1
塩化ナトリウムを1.2重量%含む1,3−アダマンタンジオールを用いた以外は、実施例1と同じ条件で反応させたところ、メタクリル酸の重合物が多量に生成した。
【0025】
比較例2
臭化ナトリウムを1.5重量%含む1,3−アダマンタンジオールを用いた以外は、実施例2と同じ条件で反応させたところ、アクリル酸の重合物が多量に生成した。
【0026】
本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.硫酸触媒の存在下、一般式で表されるアダマンタノール類と、アクリル酸又はメタクリル酸を反応させてアダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法において、ナトリウムのハロゲン化物の含有量が0.5重量%以下のアダマンタノール類を用いることを特徴とするアダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法。
【化2】

(式中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数2〜6のアシルオキシ基、ハロゲン基を示す)
2.ナトリウムのハロゲン化物の含有量が0.1重量%以下である上記1記載の製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸触媒の存在下、アダマンタノール類と(メタ)アクリル酸類を反応させてアダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法において、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量が0.5重量%以下のアダマンタノール類を用いることを特徴とするアダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物の含有量が0.1重量%以下である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−60472(P2013−60472A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−682(P2013−682)
【出願日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【分割の表示】特願平11−283345の分割
【原出願日】平成11年10月4日(1999.10.4)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】