説明

アッパーのフィット性を改良した運動靴

足の甲を包むと共に、着用時に足が上方に出る第1開口(1)と、舌片(T)で閉じられた第2開口2を有する運動靴のアッパー(U)に関する。両開口(1,2)は互いに連なっており、前記アッパーUは、足の踏まず部の内側面の一部を覆う内側伸縮部(51)と、足の小指球の外側面の一部を覆う外側伸縮部(50)と、両伸縮部(50,51)の前方に配置された前部(3)と、後方に配置された後部(4)とを備えている。前記各伸縮部(50,51)は、ソール(S)の上面から前記第2開口2まで前記アッパー(U)の一方の側面を横断する。前記各伸縮部(50,51)の足長方向(L)についてのヤング率は、前記前部(3)および後部(4)のそれよりも、小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はアッパーのフィット性を改良した運動靴に関するものである。
【背景技術】
一般に、アッパーは静止時における足の形状を考慮して設計されている。運動時の足の形状はシューズ内において常に変化している。つまり、運動時においては、足の変形にアッパーが追従できずにソールが足から離れたり、あるいは、逆にアッパーが足の自然な変形を拘束してしまう場合がある。従って、ソールを足に追従させるパーツとしてアッパーを捉えた場合、アッパーは運動時における足の形状変化に追従して変形していくことが望ましい。
すなわち、足は走行時に変形するため、靴には足に対するフィット性が要求される。前記フィット性を高めるためには、アッパーのひずみ分布が足のひずみ分布に近くなるのが望ましい。
フィット性を向上させた靴として、特許文献1(実公平4−107608公報(図1))、特許文献2(実公昭和60−18082号公報(第1図))特許文献3(特開2000−287704号公報(図2))、特許文献4(実開平1−26245号公報(第1図))および特許文献5(特開2000−184902号公報(要約))の靴が知られている。
図16(a)は、前記特許文献1の靴を示す。この靴では、アッパーUの足の外側の一部が、弾性部材100で形成されている。
図16(b)は、前記特許文献2の靴を示す。この靴では、アッパーUの履口101の両側の一部が弾性部材100で形成されている。
図16(c),図16(d)は、前記特許文献3の靴を示す。この靴では、アッパーUの前部の両側が弾性部材100で形成されている。
図17(a)は、前記特許文献4の靴を示す。この靴では、アッパーUの開口の前方の部分が屈曲性部材100で形成されている。
図17(b)は、前記特許文献5の靴を示す。この靴では、楔形状の切欠部分102が伸縮性素材100で形成されている。この切欠部分102は、アッパーUの開口103から靴底に向って短く延びている。
【発明の開示】
しかし、これらの靴は、以下に述べるように、走行時の足の変形に沿うように設計されていない。
図2(a)、図2(b)は足の斜視図である。
一般に走行時には、足で地面を蹴りだすために踵を上げる。この際、図2(a)、図2(b)の足の内側の踏まず部の近傍81および足の外側の小指球の近傍80を境界にして、前足と後足の挙動が大きく異なる。この挙動における差異は足が静止している状態では明白ではない。
前記足の内側の踏まず部の近傍81は、足のリスフラン関節を覆う部位及びその近傍の部位を含む。前記足の外側の小指球の近傍80は、足の第5中足骨骨頭を覆う部位およびその近傍の部位を含む。これらの部位の前後の間で、走行時の足のひずみ分布が、急激に変化する。足の前記部位の前方の部分と後方の部分との間で走行時のひずみ分布が不連続である。
ここにおいて、前記各特許文献の靴では、伸縮性のある部材は前記内側の踏まず部または小指球の双方を覆っていない。そのため、走行時には、靴の変形が足の変形に沿わず、着用者は足と靴との間にごわつきを感じ、靴が足に適度にフィット(conform)しない。その結果、運動時に靴が足の屈曲または動きを阻害する。
前記特許文献2の靴では、弾性部材100が、靴の履口の内外の両側に配置されており、互いに対向している。したがって、アッパーUが不必要に折れ曲がり易く、そのような靴は、型崩れし易く、安定性に欠ける。
本発明の目的は、フィット性が向上した改良された靴のアッパーにより、靴のフィット性を向上させる前述の問題点を解決することである。
前記目的を達成するために、本発明の1つの態様において、運動に適した運動靴が提供される。かかる靴は、着地の衝撃を吸収するソールと、足の甲を包むアッパーとを有する。
前記アッパーは、着用時に足が上方に出る第1開口と、舌片で閉じられた第2開口とを含んでいる。前記2つの開口は、前後に互いに連なっている。前記アッパーは、足の内側面の一部を覆う内側伸縮部と、足の外側面の一部を覆う外側伸縮部と、前記2つの伸縮部の前方に配置された前部と、前記2つの伸縮部の後方に配置された後部とを備えている。前記各伸縮部の足長方向についてのヤング率は、前記前部および後部のそれよりも小さい。
前記外側伸縮部は、第5中足骨遠位骨頭に相当する部位またはその近傍の部位から前記第2開口に至る領域に設けられている。すなわち、前記領域は、第5中足骨遠位骨頭の上端に本質的に相当する部位から第2開口まで延びている。前記領域は、前記近傍の部位から該近傍の部位よりも前方の斜め上方に向かうラインを含む。すなわち、前記領域は前方に向かうにつれて上方に向かって傾斜したラインを含む。前記外側伸縮部は、前記近傍の部位において、足長方向に沿って伸縮し得る長さを有する。
このように、第5中足骨遠位骨頭の上端に本質的に相当する部位またはその近傍の部位に、外側伸縮部が設けられているので、足のひずみ分布が急激に大きくなり得る前記部位が伸縮性のある素材で覆われている。そのため、アッパーが前記部位のひずみに応じて変形することができ、フィット性が高くなる。
本発明において、「第5中足骨遠位骨頭の上端に本質的に相当する部位」なる用語の使用により、第5中足骨遠位骨頭の上端にちょうど相当する部位だけでなく、その周囲の近傍も含むことが意味される。したがって、外側伸縮部が、前記部位の若干上方から第2開口まで延びている場合でも、外側伸縮部は「第5中足骨遠位骨頭の上端に本質的に相当する部位」から第2開口に至る領域に設けられている。
さらに、外側伸縮部は、前記部位において、足長方向に沿って伸縮できる十分な長さを有する。これにより、外側伸縮部の前方の前足部と後方の後足部とが互いに干渉されずに、実質的に独立して機能するよう働く。すなわち、外側伸縮部によって、前足部の動きと後足部の動きとが互いに分断される。これにより、アッパーがより自由に変形することができ、動作中の足の自然な変形を拘束しないので、更にフィット性が向上する。この作用については、後述の実施例において、詳述する。
本発明の他の1つの態様によれば、着地の衝撃を吸収するソールと、足の甲を包むアッパーとを有する、運動に適した運動靴が提供される。前記アッパーは、着用時に足が上方に出る第1開口と、舌片で閉じられた第2開口とを定義している。前記2つの開口は互いに連なっている。前記アッパーは、足の踏まず部の内側面の少なくとも一部、すなわち、一部もしくは全部、を覆う内側伸縮部と、足の小指球の外側面の少なくとも一部、すなわち、一部もしくは全部、を覆う外側伸縮部と、前記2つの伸縮部の前方に配置された前部と、前記2つの伸縮部の後方に配置された後部とを備える。前記各伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの一方の側面を本質的に横断するように設けられている。前記各伸縮部の足長方向についてのヤング率は、前記前部および後部のそれよりも小さく設定されている。
運動時に踵が上って足の踏まず部および小指球の近傍が変形すると、アッパーの内側伸縮部および外側伸縮部が、足の変形に沿って伸縮する。そのため、ソールが足から離れたり、アッパーが動作中の足の自然な変形を拘束するおそれがない。つまり、フィット性が高い。
各伸縮部はソールの上面から第2開口までアッパーの側面を本質的に横断している。したがって、靴紐を締めて靴を着用した状態や踵が上がっていない状態では、各伸縮部が縮まって、前部および後部がそれぞれ足の前足部および後足部にフィットする。
なお、本発明において、内側伸縮部は踏まず部の内側面の少なくとも一部を覆い、外側伸縮部は小指球の外側面の少なくとも一部を覆う。
この態様によれば、運動時に、アッパーの内側伸縮部および外側伸縮部が、それぞれ、アッパーの内側面および外側面を横断して延びて(extend across)、足の踏まず部及び小指球の少なくとも一部の側面を覆うので、フィット性が向上する。
本発明において、「ソールの上面から第2開口までアッパーの一方の側面を本質的に横断する」との用語の使用により、伸縮性を有する部材が、前記アッパーの側面においてソールの上面から第2開口まで設けられていることで、第2開口の縁部に沿った一部について伸縮が許容されることが意味される。たとえば、前記第2開口の縁部に沿ったハトメ飾りを設け、前記ハトメ飾りを切り欠いた場合に、当該切り欠いた切欠部を外側面から単に覆った場合も、前記伸縮性を有する部材がアッパーの側面を“本質的に横断”する。
一方、本発明の更に他の態様によれば、着地の衝撃を吸収するソールと、足の甲を包むアッパーとを有する、運動に適した運動靴が提供される。前記アッパーは、着用時に足が上方に出る第1開口と、舌片で閉じられた第2開口とを定義している。前記2つの開口は互いに連なっている。前記アッパーは、足の内側面の一部を覆う内側伸縮部と、足の外側面の一部を覆う外側伸縮部と、前記2つの伸縮部の前方に配置された前部と、前記2つの伸縮部の後方に配置された後部とを備える。前記各伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの一方の側面を本質的に横断するように設けられている。前記各伸縮部の足長方向についてのヤング率は、関係する前記前部および後部のそれよりも小さい。前記前部の後側の縁には、前部補強材が設けられ、前記後部の前側の縁には、後部補強材が設けられている。前記内側伸縮部の位置に対応する足の外側の部分のヤング率は、前記内側伸縮部のそれよりも大きい。同様に、前記外側伸縮部の位置に対応する足の内側の部分のヤング率は、前記外側伸縮部のそれよりも大きい。すなわち、両伸縮部は互いに相対していないので、前記内側伸縮部に対向する、あるいは、相対する(opposite or facing)アッパーの外側面は、内側伸縮部よりも大きなヤング率を有する。同様に、前記外側伸縮部に対向する、あるいは、相対するアッパーの内側面は、外側伸縮部よりも大きなヤング率を有する。
前記前部と後部とは、足の前後方向に互いに分かれている。足に靴が装着される際に、足の動きに応じて伸縮部が伸縮することにより、アッパーの前部と後部とが足にフィットする。この際、前記伸縮部が伸縮しても前部の後縁と後部の前縁は、補強材で補強されているので、前記前部および後部が型崩れすることなく、アッパーの前部が足の爪先にフィットし、後部が足の踵にフィットする。
また、各伸縮部に対向する反対側の側面のヤング率は、かかる伸縮部のそれよりも大きい。すなわち、各伸縮部に対向する反対側の側面は、伸縮部よりも大きなヤング率を有する。このように、アッパーが足の側面を支えるので、足に安定性を提供する。一方、アッパーが、柔らかい又は弾性的な部材で構成された互いに相対する内外の両側面を有する場合は、足のどちらの側面も支えられないので、足の安定性が低くなる。
この態様によれば、伸縮部が伸縮しても前部の後縁と後部の前縁は、補強材で補強されているので、型崩れすることなく、アッパーの前部が足の爪先にフィットし、後部が足の踵にフィットする。加えて、伸縮部に対応する反対側の側面のヤング率は、対応する伸縮部のそれよりも大きいので、アッパーによる足の安定機能が損なわれない。
本発明の好ましい実施例においては、前記各伸縮部における前記第2開口の近傍の縁部は、当該伸縮部の伸縮を許容する素材で形成される。一方、前記前部および後部は、それぞれ、前記第2開口に接する周縁部を有しており、該周縁部は本質的に非弾性的な(inelastic)又は本質的に伸び難い素材で形成されている。
ここにおいて、伸縮部の前記縁部が伸縮し易い。したがって、足が屈曲する際の抵抗が小さくなって足の屈曲動作をスムーズに行なえる;一方、前記前部および後部の周縁部が本質的に伸び難い素材で形成されている。したがって、靴紐(レース)により、靴を締め付けた際に靴の形状が型崩れしにくいから、フィット性が低下しない。
本発明において、「本質的に伸び難い素材」または「本質的に非弾性的な(inelastic)素材」との用語の使用によって、一般に運動靴のアッパーに用いられる素材および伸縮部のヤング率に比ベヤング率が大きい素材を含むことが意味される。
本発明の他の好ましい実施例においては、前記各伸縮部は、ソールから前記第2開口に近付くに従い、足の前後方向に沿った幅が小さくなる概ね三角形状ないし台形状である。
このように、各伸縮部の形状が、三角形状ないし台形状であることにより、前記第2開口の近傍よりもソールの上面の方が大きくなっているアッパーの足長方向のひずみが足のひずみに合致することを許容する。
本発明の別の実施例においては、前記各伸縮部は、各々、互いに重ね合わされた(overlap)複数枚の生地を備える。かかる構造により、前記生地同士が前記各伸縮部の中央の領域において互いに独立して変形できる。即ち、前記複数枚の生地は前記中央の領域において、互いに独立して変形できるよう重ねられている(stack)。
この実施例によれば、前記複数枚の生地のうち足に接する裏側の生地が足の変形に応じて変形し、前記複数枚の生地のうち表側の生地は前記裏側の生地とは独立して変形する。その結果、アッパーと足との間の変形のズレを吸収し得る。すなわち、アッパーと足との間の変形の相異を受け入れる(accomodate)ことができる。
なお、ここにいう“生地”との用語の使用によって、靴のアッパーに用いられるシート状の素材が意味され、ゴムや樹脂のシート、織物、編物、および/または、不織布を含み得る。
本発明においては、前記アッパーの前記第2開口に沿った縁部が、前記各伸縮部に対応する位置で切欠されているのが好ましい。すなわち、アッパーの縁部は、前記伸縮部に対応する位置で前記縁部を切欠ないし切り離して形成された内側切欠部と外側切欠部とを定義している。前記縁部が足の内側と外側において切欠されていることで、第2開口の近傍の部分が屈曲し易くなり、靴の屈曲性が著しく向上する。
この場合、前記切欠部に沿った上縁部にエラストマーによる弾性部材を一体に成型するのが好ましく、その結果、弾性部材により伸縮性が高まると共に、耐久性も向上する。
前記切欠部は、V字状等の任意形状に切り欠かれてもよい。好ましくは、切欠部はU字状に形成され、その結果、応力の集中を緩和できるから、耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。本発明の範囲は請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
図1は、足の骨格と本発明の靴との関係を示す概略平面図である。図2(a)および図2(b)は、走行時にひずみが生じる部分(80,81,82)を示す足の斜視図である。図3は、本発明の第1実施例にかかる靴の内側面を示す側面図である。図4は、同靴の外側面を示す側面図である。図5は、同靴の平面図である。図6は、同靴の靴紐を通した状態を示す平面図である。図7(a)はベース材を示す断面図、図7(b)は弾性部材が積層された伸縮部の断面図、図7(c)は前部の後縁におけるアッパーの部分を示す断面図である。図8は、本発明の第2実施例にかかる靴の内側面を示す側面図である。図9は、同靴の外側面を示す側面図である。図10(a)は第3実施例の内側伸縮部およびその近傍の斜視図、図10(b)は同分解斜視図である。図11(a)は第4実施例の内側伸縮部およびその近傍の斜視図、図11(b)は同分解斜視図である。図12(a)および図12(b)は第5実施例の靴を示す内外の側面図、図12(c)は靴と足の骨との関係を示す概略側面図(外側面)である。図13(a)および図13(b)は外側伸縮部およびその近傍の側面図である。図14(a)および図14(b)は第6実施例の靴を示す内外の側面図、図14(c)は靴と足の骨との関係を示す概略側面図(外側面)である。図15(a),図15(b),図15(c)および図15(d)は本発明の伸縮部の作用を示す側面図、図15(e)は従来例を示す側面図である。図16(a),図16(b),図16(c)および図16(d)は従来の靴を示す斜視図または平面図である。図17(a)は別の従来の靴を示す平面図、図17(b)は側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
第1実施例:
図3〜図7は第1実施例を示す。図3は第1実施例の靴(右足)の内側面、図4は同外側面を示す。なお、図3〜図6において、伸縮部の設けられた位置を分かり易くするために、伸縮部に網かけを施している。
図3に示すように、靴はソールSおよびアッパーUを備える。
前記アッパーは、第1開口1、第2開口2、外側伸縮部50、内側伸縮部51、前部3および後部4を備える。
前記第1開口1および第2開口2は、図5に示すように、アッパーUの中央に形成されている。第1開口1は、着用の際に足が上方に出る開口である。第2開口2は、舌片Tで閉じられる開口である。第1開口1は第2開口2の後方に位置し、第2開口2に連なっている。第2開口2は足の甲の前部を覆っている。
前記舌片Tは、第2開口の前方で、アッパーUに縫合されている。舌片Tの上面の中央には筒状のループPが形成されている。靴の着用の際は、図6に示すように、レースRが前記ループPに挿通されてもよい。
図5に示すように、前記内外の伸縮部50,51、前部3および後部4は、前記両開口1,2の周囲に位置する。内側伸縮部51は第2開口2の内側に位置するアッパーUの内側面31に形成されている。外側伸縮部50は第2開口2の外側に位置するアッパーUの外側面30に形成されている。前部3は両伸縮部50,51の前方に配置されている。後部4は両伸縮部50,51の後方に配置されている。すなわち、前記両開口1,2および両伸縮部50,51によって、アッパーUは前部3と後部4とに分断されている。
前記各伸縮部50,51は伸縮性の大きい素材で形成されている。これに対して、前部3および後部4は、前記伸縮部50,51よりも伸縮性の小さい素材で形成されている。つまり、前記各伸縮部50,51のヤング率は、足長方向および幅方向について、前記前部3および後部4のそれよりも、小さく設定されている。
次に、前記各伸縮部50,51の配置について、説明する。
前述のように、図2(a),図2(b)に示すように、走行時には、足の内側の踏まず部の内側面81と足の外側の小指球の外側面80の前方に位置する足の前足の挙動が、後方に位置する後足の挙動と大きく異なる。
前記踏まず部の内側面81および小指球の外側面80は、互いに斜向かいに位置している。図1に示すように、前記内側面81および外側面80は、それぞれ、前記各伸縮部50,51により覆われている。したがって、各伸縮部50,51も互いに斜向かいに配置されている。
また、図1に示すように、前記外側伸縮部50は、第5中足骨遠位骨頭90およびその近傍の部位を覆うと共に、当該部位から第2開口2に至る領域に設けられている。この外側伸縮部50の配置された領域は、前記第5中足骨遠位骨頭90の後端90bから第2開口2に向って上方の斜め前方に延びるラインを含んでいる。前記中足骨遠位骨頭90の近傍の部位において、外側伸縮部50は足長方向Lに沿った長さを有しており、そのため、足長方向に伸縮可能である。
一方、内側伸縮部51は、足の内側のリスフラン関節92の一部およびその近傍の部位を覆うと共に、当該部位から第2開口2に向って至る領域に設けられている。前記リスフラン関節92の近傍の部位において、内側伸縮部51は足長方向Lに沿った長さを有しており、そのため、足長方向Lに伸縮可能である。
図5に示すように、内側伸縮部51に対向する足の反対側の位置には後部4が配置されていると共に、外側伸縮部50に対応する足の反対側の位置には、前部3が配置されている。すなわち、後部4の外側面は内側伸縮部51の反対側の位置にあると共に、前部3の内側面は外側伸縮部50の反対側の位置にある。
図4に示すように、外側伸縮部50は、前記ソールSの上面から前記第2開口2まで、前記アッパーUの外側面30を本質的に横断するように設けられている。同様に、内側伸縮部51は、図3に示すように、前記ソールSの上面から前記第2開口2まで、前記アッパーUの内側面31を本質的に横断するように設けられている。すなわち、各伸縮部50,51はアッパーUの一方の側面を横断して延びている。
次に各伸縮部50,51の形状について説明する。
図3に示すように、前記各伸縮部50,51は、足裏から足の頂部に近づくに従い、足長方向Lの幅が小さくなっている。すなわち、内側伸縮部51は、ソールSから第2開口2に近づくに従い、足長方向Lの幅が小さくなるように、概ね三角形状ないし台形状に形成されている。外側伸縮部も、図4に示すように、同様の形状である。
図3〜5に示すように、前記アッパーUの前記第2開口2に沿う縁部35は、各伸縮部50,51に対応する位置で切り欠かれており、これにより、切欠部63,64が形成されている。すなわち、前記縁部35の内側伸縮部51に対応する位置には内側切欠部63が設けられており、前記縁部35の外側伸縮部50には外側切欠部64が設けられている。切欠部63,64は、アッパーの縁部35から突き出ていない(included)。足の内側と外側において切欠部63,64を形成することで、アッパーUが第2開口2の近傍の部分が屈曲し易くなり、これにより、靴の屈曲性を著しく向上させる。
なお、内側切欠部63(図3)および外側切欠部64(図4)は、U字状に形成されるのが好ましいが、V字状等の任意形状に形成してもよい。
次に、前部3および後部4の補強材6,7について説明する。
図3〜5に示すように、前部3の後側の縁33には帯状の前部補強材6が設けられている。前部補強材6は、第1内側部61、第1外側部60および前側のハトメ飾り部62を備えており、前記各部61,60,62は互いに連らなっている。
前記第1内側部61は、図3に示すように、足の内側のソールSの上面から第2開口2の近傍まで延びている。第1内側部61は、前記内側伸縮部51の前縁に沿って、直線状に延びている。
図4に示すように、外側伸縮部50は足の外側のソールSの上面から第2開口2の近傍まで延びている。第1外側部60は、外側伸縮部50の前縁に沿って、直線状に形成されている。
前記前側のハトメ飾り部62は、図5に示すように、前記第1内側部61と前記第2外側部60の間に位置する。前側のハトメ飾り部62は、第2開口2の前縁に沿うように曲線状に形成されている。
なお、前側のハトメ飾り部62および第1内側部61の第2開口2側には筒状のループPが縫着されている。第1内側部61にはハトメ孔Eが形成されている。
図3〜5に示すように、後部4の前側の縁43には帯状の後部補強材7が設けられている。後部補強材7は、第2内側部71、第2外側部70および内側および外側のハトメ飾り部72B(図3),72C(図4)を備えている。図3に示すように、前記第2内側部71と内側のハトメ飾り部72Bとは互いに連なっている。図4に示すように、前記第2外側部70と外側のハトメ飾り部72Cとは互いに連なっている。
前記第2内側部71は、図3に示すように、足の内側のソールSの上面から第2開口2の近傍まで延びている。第2内側部71は、前記内側伸縮部51の後縁に沿って、直線状に延びている。前記内側のハトメ飾り部72Bは、第2開口2の内側の縁に沿って直線状に延びている。
前記第2外側部70は、図4に示すように、足の外側のソールSの上面から第2開口2の近傍まで延びている。第2外側部70は、前記外側伸縮部50の後縁に沿って、直線状に形成されている。前記外側のハトメ飾り部72Cは、第2開口2の外側の縁に沿って、直線状に延びている。
図5に示すように、内外のハトメ飾り部72B,72Cには筒状のループPが縫着されていると共に、ハトメ孔Eが形成されている。
次に、前部3、後部4および各伸縮部50,51を形成する素材について説明する。
前部3および後部4は、一般的な運動靴に用いられている織物や編物などの生地を積層(好ましくは互いに接着)して形成されている。前部3および後部4には、必要に応じて芯材を固定するための帯状部材が前記生地のさらに上面に縫合されている。
前記各伸縮部50,51は、図7(a)の断面図に示すベース材55を備えており、該ベース材55は伸縮性を有する複数枚の生地57,58を重ね合わせて(stack or layer)形成されている。生地57,58同士は、前記前部の後縁33および後部の前縁43において、縫合されている。生地57,58同士は、各伸縮部50、51の中央部では接着も縫合もされていないので、互いの生地の上を自由に滑ることができ、互いに独立して変形し得る。
図7(b)の断面図に示すように、前記ベース材55の上の生地57には、部分的に、弾性部材56が設けられている。該弾性部材56は、前記上の生地57の表面に入り込んで固着するように形成されている。この弾性部材は、伸縮部50,51の伸びの方向を規制する手段を提供する。
前記弾性部材56は、図3に示すように、前記内側伸縮部51における前記切欠部63に沿った上縁部で、前記ベース材55に積層されている。さらに、前記弾性部材56は、前記内側伸縮部51において、前記切欠部63からソールSの上面まで内側伸縮部51を横断するように、積層されている。これにより、内側伸縮部51の上下方向の伸びを足長方向の伸びより小さくなるように抑制する。
前記外側伸縮部50においても、図4に示すように、同様の方法で前記弾性部材56が積層されている。
一方、図7(c)の断面図に示すように、前記補強材6,7の部分においては、前記補強材6,7(図5)の帯状部材に、前記伸縮部50,51の生地57,58および前部3や後部4の素材37,38が縫合されている。
靴を足に装着する場合には、図6のレースRを緩め、第1開口1および第2開口2の後部から足を靴に挿入する。このとき、内外の伸縮部51,50が足長方向に若干伸びた状態となって、前部3が足の爪先にフィットし、一方、後部4が足の踵にフィットする。
図2(a)に示すように、走行する際に踵が上がって足が屈曲する際、小指球の近傍80および足の内側の踏まず部の近傍81を境界にして前足と後足の挙動が大きく異なる。この際、アッパーUは図3のソールSの上面の近傍で伸び、アッパーUは第2開口2の近傍で縮む。ここで、本運動靴の伸縮部51,50は、ソールSの近傍の部分において足長方向Lに長く、同部分の足長方向Lのヤング率が小さいので、伸縮部51,50はソールSの近傍の部分で伸び易い。一方、伸縮部51,50の第2開口2の近傍の部分には、切欠部63,64が形成されているので、伸縮部51,50は第2開口2の近傍の部分で容易に縮む。したがって、アッパーUが足にフィットする。
図2に示すように、足の踝の下方付近の外側部分82についても、足の屈曲時にこれを境として足の前後の挙動が大きく異なる。したがって、好ましくは、伸縮部材を小指球および踏まず部の近傍部分80,81に加え、前記足の踵の下方付近の外側部分82にも配置する。
第2実施例:
図8および図9は本発明の靴の第2実施例を示す。図8は靴(左足)の内側面、図9は同外側面を示す。なお、図8および図9において、伸縮部の設けられた部位を分かり易くするために、伸縮部に網かけを施している。なお、以下の実施例において、第1実施例と同一部分または相当部分には同一符号を付し、その詳しい説明および図示を省略する。
図8に示すように、本実施例においては、内側伸縮部51の前記弾性部材56が、上下方向に分断されている。
さらに、図8に示すように、第1内側部61が、二叉状に形成されている。また、図9に示すように、外側のハトメ飾り部72Cが、足の後部のソールSの上面まで延びている。
第3実施例:
図10は、本発明の靴の第3実施例を示す。図10(a)は同実施例の内側伸縮部およびその近傍の斜視図、図10(b)は同分解斜視図である。
本実施例では、図10(a)に示すように、ループPが前記内側切欠部63を覆っている。破線で示すように、当該ループPは、その両端が第1内側部71および第2内側部61の上端に縫合されているが、ハトメ飾り部62,72Bには縫合されていない。したがって、ループPは前記内側伸縮部51の伸縮を許容する。
さらに、図10(b)の分解斜視図に示すように、前部補強材6の各部61,62および後部補強材7の各部71,72Bが、各々、互いに別体に形成されている。補強材6,7の各内側部61,71の上端が、各々、ハトメ飾り部62,72Bに近接している。これにより、各補強材6,7を一体に形成する必要がなくなるので、コストダウンが可能である。
図10(a)の破線で示すように、第1内側部61および第2内側部71は、内側伸縮部51の生地57,58と共に、前部3の後縁および後部4の前縁に、各々、縫合される。
第4実施例:
図11は、第4実施例を示す。図11(a)は同実施例の内側伸縮部およびその近傍の斜視図、図11(b)は同分解斜視図である。
本実施例においては、図11(b)に示すように、ループPが第1内側部61および第2内側部71と一体に形成されている。当該ループPは、図11(a)に示すように、ハトメ飾り部62,72Bに縫合されていない。したがって、前記第3実施例と同様に、ループPは前記内側伸縮部51の伸縮を許容する。
第5実施例:
図12および図13は、第5実施例のコート競技(例えば、バレーボール)用の靴を示す。図12(a)は同実施例の靴(右足)の内側面、図12(b)は同外側面を示す。図12(c)は前記外側面と足の骨との関係を示す。図13(a),(b)は外側伸縮部50の近傍の拡大側面図である。
図12(a),図12(b),図13(b),図14(a)および図14(b)においては、伸縮部の設けられた部位を分かり易くするために、伸縮部に網かけを施している。
図12(a)に示すように、本実施例の靴の内側伸縮部51は、ソールSの上面から第2開口2までアッパーUの内側面31を本質的に横断するように設けられている。この構造は、前記第1実施例と同様である。内側伸縮部51は概ね長四角形状又は方形状(rectangular or square−shaped)に形成されている。前側のハトメ飾り部62は、第2開口2の内外で分断されて設けられており、第2開口2の前方には配置されていない。
図12(b)に示すように、アッパーUの外側面30には、外側伸縮部50の下方に、前部3から後部4に連なる連設部69が配置されている。外観上、外側伸縮部50はソールの上面まで延びていない。外側伸縮部50は、第2開口から下方に向かってアッパーUの高さの概ね半分程度以上設けられている。前記連設部69は、第2内側部70と同一または類似の素材からなっている。前記連設部69の足長方向Lについてのヤング率は外側伸縮部50のそれよりも大きく設定されている。前記連設部69の下方では、ソールSが上方に巻上げられるように突出した巻上部68が形成されている。
次に、前記外側伸縮部50の近傍の構造について説明する。
図13(a)及び図13(b)に示すように、第1内側部60、第2内側部70及びソールSに囲まれる位置(一点鎖線で示す位置)に、伸縮性を有する部材54が配置される。次に、このように配置された伸縮性部材54の下部の表面を覆うように、連設部69が縫合される。この連設部69は本質的に伸び難い素材からなるので、前記伸縮性部材54の下部は殆ど伸縮しない。一方、図13(b)の、第1外側部60、第2外側部70、連設部69及び第2開口2の縁部35に囲まれる長四角形状もしくは方形状の部分が伸縮可能であり、該部分が外側伸縮部50である。
前記外側伸縮部50の各部の足の骨との関係について説明する。
図12(b)および図12(c)に示すように、前記連設部69および巻上部68は、足の外側の第5中足骨遠位骨頭90に相当する部位に位置している。連設部69および巻上部68は本質的に伸び難い素材で形成されている。そのため、足の横方向の動きが激しいコート競技用の靴において、前記部位の外側が前記連設部69および巻上部68によってサポートされる。一方、外側伸縮部50は、前記部位から第2開口2に向って延びる領域に配置されている。前記領域は前記部位から第2開口2に向って斜め上方に延びるラインDを含んでいる。これにより、中足趾節関節(MP関節)93に沿った位置を境として、アッパーUの前部3と後部4が互いに独立した動きをすることができる。すなわち、アッパーUの前部3および後部4は、MP関節に相当する境界を境にして異なって動く。
なお、本実施例では連設部69を第2外側部70と一体に形成しているが、これらを別体に形成してもよいし、連設部69と第1外側部60とを一体に形成してもよい。また、連設部69を設けずにソールSの巻上部68のみが前記第5中足骨遠位骨頭90に相当する部位を支持してもよい。
第6実施例:
図14は、第6実施例のトレイルシューズを示す。図14(a)は本実施例の靴(左足)の内側面、図14(b)は同外側面を示し、図14(c)は前記外側面と足の骨との関係を示す。
本実施例の内側伸縮部51は、図14(a)に示すように、第2開口2から、下方に向って、アッパーUの高さの概ね半分程度まで、設けられている。内側および外側伸縮部51,50は、第2開口2の対向する側に配置されている。すなわち、内側伸縮部51は第2開口2を介して外側伸縮部50と相対している。このような伸縮部の配置は前記各実施例と異なる。内側伸縮部51とソールSとの間には、本質的に伸び難い素材からなる部材が配置されている。
また、内側伸縮部51の前後の中央には本質的に伸び難い素材からなる帯状の保護部材55が縫合されている。当該保護部材55により内側伸縮部51は前後に分割されている。かかる保護部材55は、外部からの衝撃に弱い内側伸縮部51を保護する。
一方、外側伸縮部50は、図14(c)に示すように、前記実施例1と同様の領域(第5中足骨遠位骨頭90に相当する部位から第2開口に向って延びる領域)に配置されている。また、外側伸縮部50は、前記内側伸縮部51と同様に、保護部材55により前後に分割されている。この分割された外側伸縮部50のうちの前側の部分は、図14(b)に示すように、ソールSの上面から第2開口までアッパーの外側面30を横断している。
山を登り降りする際の足のひずみ方向は、ランニングシューズ時のそれと異なる。したがって、靴は異なった構造としなければならない。前記保護部材55や他の非伸縮性部材を各伸縮部50,51内の適切な位置に縫合することにより、各伸縮部50,51を前記足のひずみに適合させるように、各伸縮部50,51の伸縮可能な方向を調整することができる。
足の舟状骨骨頭に相当する部位およびその近傍を保護するため、当該部位がアッパーUの後部4で内側から覆われていてもよい。
外側伸縮部の作用:
前記6つの実施例においては、外側伸縮部50は略長四角形状や略方形状や三角形に近似した略台形状に形成されると共に、図14(c)のように、第5中足骨遠位骨頭90に相当する部位またはその近傍において、足長方向の長さを有するように設定されている。以下に、かかる設定による作用を、外側伸縮部の概念図(図15(a)〜(e))を用いて説明する。なお、図15(a)〜図15(e)において、伸縮部の設けられた部位を分かり易くするために、伸縮部に網かけを施している。
従来例(図15(e))では、足の外側に、逆三角形状の小さな伸縮部500を設けている。ここで、足長方向Lの力が伸縮部500に加わると、伸縮部500の伸張は同図の2点鎖線Mに示すとおりとなる。この場合、伸縮部500の底点501においては伸び率はゼロとなる。すなわち、逆三角形状の伸縮部500は、下部において足長方向Lの一定の長さを持たないので、下部においては伸張が殆ど生じなくなる。そのため、アッパーの外側面の大部分が足長方向Lに殆ど伸張しない。
本発明によれば、図15(a)に示すように、外側伸縮部50が略方形状又は略長四角形状に形成される。外側伸縮部50とソールSとの間に伸縮し難い連設部69を設けている。かかる構造において、外側伸縮部50に足長方向Lの力が加わった場合、外側伸縮部50は同図の二点鎖線M1のように伸張する。ここで、前記第5中足骨遠位骨頭90の近傍の部位(点)Oにおいて外側伸縮部50が足長方向Lにある程度の長さを持っているので、この部分が足長方向Lに伸び得る。すなわち、前記部位Oから第2開口2までの範囲において、外側伸縮部50が前後に伸縮し得る。
一方、図15(b)では、外側伸縮部50が三角形に近似した略台形状に形成されると共に、第2開口2からソールSの上面まで設けられている。かかる構造においては、第2開口2付近の外側伸縮部50の長さは極めて短い。しかし、外側伸縮部50は第2開口2の近傍にV字状ないしU字状の切欠部58を有している。そのため、かかる構造においても、外側伸縮部50は第2開口2の近傍において足長方向Lに伸縮し得る。
このように、前記略台形や略長四角形や略方形の場合には、外力に応じて、外側伸縮部50は様々な形状に変形をすることができる。したがって、運動時に足の変形に応じて外側伸縮部50が伸張し、第5中足骨遠位骨頭90の近傍の境界を境として、前部3と後部4とが互いに独立した動きをすることができる。その結果、互いに異なる前足と後足の動きにアッパーが追従し得る。
したがって、第5中足骨遠位骨頭90の近傍の部位Oから第2開口2に至る範囲において、足長方向Lに沿って伸縮し得る伸縮手段を外側伸縮部50が有していれば、当該外側伸縮部50を境にして大きく異なる前足と後足の動きに、アッパーが容易にかつ十分に追従することができる。
前記部位Oを含む領域の伸縮手段は、かかる領域において外側伸縮部50がある程度の長さを有していることにより、具現化できる。
ランニングシューズのように、高い伸縮性が求められる場合には、外側伸縮部50が、第2開口2からソールSの上面までアッパーUの外側面を横断するように設けられる。コート競技用の靴やトレイルシューズのように、適切な伸縮性と十分なサポートが求められる場合には、外側伸縮部50とソールSの間に連設部69が設けられたり、あるいは、ソールSの上面において外側伸縮部50が伸縮し得る長さを有しないようにしてもよい。
一方、前記第2開口2の近傍における伸縮手段は、前記第2開口2に沿って、外側伸縮部50がある程度の長さを有していることにより具現化できる。前記長さの極めて短い略三角形状の外側伸縮部50であっても、外側伸縮部50が前記第2開口2の近傍にU字状ないしV字状の切欠部58を有していれば伸縮手段となり得る。
略方形状又は略長四角形状の外側伸縮部50としては、図15(c)のように、外側伸縮部50の中央に伸縮し難い部材59が島状に設けられてもよい。外側伸縮部50は、図15(d)のように、外側伸縮部50が上下の中央でくびれた形状等に形成されてもよい。
また、不必要な伸びを防止すると共に十分な伸びを得るため、外側伸縮部50の単位高さW(図15(a))あたりの弾性定数kは、0.1N/mm〜50N/mm程度に設定するのが好ましい。ここで、前記弾性定数は、伸縮部から足長方向に細長い試験片を切り取って当該試験片に足長方向に沿った荷重fを負荷した場合に当該試験片に生じる歪みεと当該試験片の幅Wで前記荷重fを除した値と定義される。この弾性定数kは、下記の(1)式で表される。
k=f/(ε・W) ……(1)
このように、本発明において“弾性定数”なる概念を導入した理由は、アッパーの素材は、その厚さが明瞭でないからである。すなわち、アッパーの素材の正確な厚さは計測し難い。そのため、アッパーの素材の下記のヤング率の正確な値を求めることは困難である。前記“弾性定数”kは、アッパーの素材の正確な厚さを計測することなく得ることができる。
ヤング率は、前記荷重fを前記試験片の歪みεと前記試験片の横断面積Sとで前記荷重fを除した値と定義される。すなわち、ヤング率Eは次の(2)式で表される。
E=f/(ε・S) ……(2)
前記弾性定数kの好ましい値は、靴の用途や大きさやタイプ、ならびに、伸縮部の形状や大きさによって異なる。前記弾性定数kは、図1〜図11(b)および図14(a)〜図14(c)のシューズでは0.1N/mm〜7.0N/mm程度に設定されるのが好ましい。また、前記弾性定数kは、例えば、図1〜図11(b)のランニングシューズでは0.1N/mm〜3.0N/mm程度に設定されるのが好ましい。図12(a)〜図13(b)のコート競技用シューズでは10N/mm〜30N/mm程度に設定されるのが好ましい。図14(a)〜図14(c)のトレイルシューズでは1.0N/mm〜7.0N/mm程度に設定されるのが更に好ましい。
これらの具体的な弾性定数kの値は、従来の伸縮素材の弾性定数kに比べて大きな値に設定されていると推測される。本発明において、伸縮部50は足長方向Lにある程度長く形成する必要がある。そのため、伸縮部50を伸び易くしすぎると、足の保持機能が低下しすぎる。そこで、伸縮部50を足長方向Lに長く形成したのに対応して伸縮部50の素材の弾性定数kが大きく設定されている。
以上、本発明のいくつかの典型的な実施例についてのみ詳述したが、当業者でれば、前記典型的な実施例において、本発明の新しい教示や長所から実質的に外れることなく、多くの変形が可能であることを容易に認識するであろう。したがって、そのような全ての変形は本発明の範囲に含まれるものと意図される。
【産業上の利用可能性】
本発明は、ランニングシューズ、ウォーキングシューズの他、バレーボール、バスケットボール、テニスなどのコート競技用シューズや、登山などのトレイルシューズやゴルフシューズ、サッカーシューズなど様々な運動靴に利用することができる。例えば、硬い樹脂靴底からなるゴルフシューズに本発明を利用する場合は、伸縮部材を設ける位置に対応して靴底に屈曲溝を設けると、フィット性が良くなる。
【図1】


【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【図8】

【図9】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
着地の衝撃を吸収するソールと、足の甲を包むアッパーとを有し、運動に適した運動靴であって、
前記アッパーは、着用時に足が上方に出る第1開口と、舌片で閉じられた足の甲の上方の第2開口とを定義しており、前記2つの開口は、前後に互いに連なっており、
前記アッパーは:
足の内側面の一部を覆う内側伸縮部と;
足の外側面の一部を覆う外側伸縮部と;
前記2つの伸縮部の各々に付着されると共に、その前方に配置された前部と;
前記2つの伸縮部の各々に付着されると共に、その後方に配置された後部とを備え、
前記各伸縮部は、前記前部および後部よりも、足長方向に沿った小さなヤング率を有しており、
前記外側伸縮部は、足の第5中足骨遠位骨頭の上端に本質的に相当する部位から前記第2開口に至る領域に設けられ、
前記領域は、前記部位から前方の斜め上方に向うラインを含み、
前記外側伸縮部は、前記部位において、足長方向に沿って伸縮し得る十分な長さを有する運動靴。
【請求項2】
請求項1において、
前記アッパーは、前記第2開口の縁に沿って設けられた縁部を有し、前記外側伸縮部は前記縁部まで延びており、
このアッパーの縁部は前記外側伸縮部に対応する位置で前記縁部を切欠ないし切り離して形成された外側切欠部を定義する運動靴。
【請求項3】
請求項1において、
前記アッパーは前記第2開口の縁に沿って設けられた縁部を有し、前記外側伸縮部は前記縁部まで延びており、
前記外側伸縮部が前記縁部の一部を辺とする方形の形状に形成されている運動靴。
【請求項4】
請求項1において、
前記外側伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの外側面を本質的に横断する運動靴。
【請求項5】
請求項1において、
前記前部と前記後部とを、前記外側伸縮部の下方において、前後に連結する連設部を更に備え、
ここにおいて、前記連設部の足長方向についてのヤング率は、前記外側伸縮部のそれよりも大きく、
足の外側の前記第5中足骨遠位骨頭の少なくとも一部が、前記連設部によって覆われている運動靴。
【請求項6】
請求項1において、
前記外側伸縮部の下方において、足の外側の前記第5中足骨遠位骨頭の少なくとも一部が、前記ソールによって覆われている運動靴。
【請求項7】
請求項1において、
前記内側伸縮部が、足の内側において、リスフラン関節に相当する位置に設けられている運動靴。
【請求項8】
請求項1において、
前記内側伸縮部が、前記外側伸縮部に対向する位置に設けられている運動靴。
【請求項9】
請求項1において、
前記内側伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの内側面を本質的に横断するように設けられている運動靴。
【請求項10】
請求項1において、
前記内側伸縮部は、前記アッパーの概ね半分程度の高さであり、前記第2開口から下方に向って延びている運動靴。
【請求項11】
着地の衝撃を吸収するソールと、足の甲を包むアッパーとを有し、運動に適した運動靴であって、
前記アッパーは、着用時に足が上方に出る第1開口と、舌片で閉じられた第2開口とを定義しており、前記2つの開口は互いに連なっており、
前記アッパーは:
足の踏まず部の内側面の少なくとも一部を覆う内側伸縮部と;
足の小指球の外側面の少なくとも一部を覆う外側伸縮部と;
前記2つの伸縮部の各々に付着されると共に、その前方に配置された前部と;
前記2つの伸縮部の各々に付着されると共に、その後方に配置された後部とを備え、
前記内側伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの内側面を本質的に横断し、
前記外側伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの外側面を本質的に横断し、
前記各伸縮部の足長方向についてのヤング率は、前記前部および後部のそれよりも小さく設定されている、運動靴。
【請求項12】
着地の衝撃を吸収するソールと、足の甲を包むアッパーとを有し、運動に適した運動靴であって、
前記アッパーは、着用時に足が上方に出る第1開口と、舌片で閉じられた第2開口とを定義しており、前記2つの開口は互いに連なっており、
前記アッパーは:
足の内側面の少なくとも一部を覆う内側伸縮部と;
足の外側面の少なくとも一部を覆う外側伸縮部と;
前記2つの伸縮部の各々に付着されると共に、その前方に配置された前部と;
前記2つの伸縮部の各々に付着されると共に、その後方に配置された後部とを備え、
前記内側伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの内側面を本質的に横断し、
前記外側伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの外側面を本質的に横断し、
前記各伸縮部の足長方向についてのヤング率は、前記前部および後部のそれよりも小さく、
前記前部の後側の縁には、前記前部を補強するための前部補強材が配置されており、
前記後部の前側の縁には、前記後部を補強するための後部補強材が配置されており、
前記内側伸縮部に対向する前記アッパーの外側の部分のヤング率は、前記内側伸縮部のそれよりも大きく、
前記外側伸縮部に対向する前記アッパーの内側の部分のヤング率は、前記外側伸縮部のそれよりも大きい運動靴。
【請求項13】
請求項11において、
前記各伸縮部における前記第2開口の近傍の縁部は、当該伸縮部の伸縮を許容する素材で形成され、
前記前部および後部は、それぞれ、前記第2開口に接する周縁部を有し、該周縁部は本質的に伸び難い素材で形成されている運動靴。
【請求項14】
請求項11において、
前記各伸縮部は、形状において、ソールから前記第2開口に近付くに従い、足の前後方向に沿った幅が小さくなる概ね三角形状である運動靴。
【請求項15】
請求項11において、
前記各伸縮部は、形状において、ソールから前記第2開口に近付くに従い、足の前後方向に沿った幅が小さくなる概ね台形状である運動靴。
【請求項16】
請求項11において、
前記各伸縮部は、各々、複数枚の生地を備え、前記生地同士が前記各伸縮部の中央の領域において互いに独立して変形できるように重ね合わされている運動靴。
【請求項17】
請求項11において、
前記アッパーは前記第2開口の縁に沿って設けられた縁部を有し、前記各伸縮部は前記縁部まで延びており、
このアッパーの縁部は、前記内側伸縮部に対応する位置で前記縁部を切欠ないし切り離して形成された内側切欠部と、前記外側伸縮部に対応する位置で前記縁部を切欠ないし切り離して形成された外側切欠部とを定義し、前記各切欠部は前記第2開口に連なっている、運動靴。
【請求項18】
請求項17において、
前記各伸縮部における前記切欠部に沿った上縁部には、伸縮性を有するベース材の表面に弾性部材が積層されている運動靴。
【請求項19】
着地の衝撃を吸収するソールと、足の甲を包むアッパーとを有し、運動に適した運動靴であって、
前記アッパーは、着用時に足が上方に出る第1開口と、舌片で閉じられた第2開口とを定義しており、前記2つの開口は互いに連なっており、
前記アッパーは:
足の踏まず部の内側面の少なくとも一部を覆う内側伸縮部と;
足の小指球の外側面の少なくとも一部を覆う外側伸縮部と;
前記2つの伸縮部の各々に付着されると共に、その前方に配置された前部と;
前記2つの伸縮部の各々に付着されると共に、その後方に配置された後部とを備え、
前記内側伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの内側面を本質的に横断し、
前記外側伸縮部は、前記ソールの上面から前記第2開口まで前記アッパーの外側面を本質的に横断し、
前記各伸縮部の足長方向についてのヤング率は、前記前部および後部のそれよりも小さく、
前記前部の後側の縁には、前記前部を補強するための前部補強材が配置されており、
前記後部の前側の縁には、前記後部を補強するための後部補強材が配置されており、
前記前部補強材は:
前記内側伸縮部に接する第1内側部と;
前記外側伸縮部に接する第1外側部と;
前記第2開口の一部に接する前側のハトメ飾り部とを有し;
ここにおいて、前記前部補強材は前記第1内側部と前記前側のハトメ飾り部と前記第1外側部とが概ね連なって形成されており、
前記後部補強材は:
前記内側伸縮部に接する第2内側部と;
前記外側伸縮部に接する第2外側部と;
前記第2開口の一部に接する内側および外側のハトメ飾り部とを有し;
ここにおいて、前記後部補強材は前記第2内側部と内側のハトメ飾り部とが互いに概ね連なっており、かつ、前記第2外側部と外側のハトメ飾り部とが互いに概ね連なって形成されている運動靴。
【請求項20】
請求項12において、
前記各伸縮部における前記第2開口の近傍の縁部は、当該伸縮部の伸縮を許容する素材で形成され、
前記前部および後部は、それぞれ、前記第2開口に接する周縁部を有し、該周縁部は本質的に伸び難い素材で形成されている運動靴。
【請求項21】
請求項12において、
前記各伸縮部は、形状において、ソールから前記第2開口に近付くに従い、足の前後方向に沿った幅が小さくなる概ね三角形状である運動靴。
【請求項22】
請求項12において、
前記各伸縮部は、形状において、ソールから前記第2開口に近付くに従い、足の前後方向に沿った幅が小さくなる概ね台形状である運動靴。
【請求項23】
請求項12において、
前記各伸縮部は、各々、複数枚の生地を備え、前記生地同士が前記各伸縮部の中央の領域において互いに独立して変形できるように重ね合わされている運動靴。
【請求項24】
請求項12において、
前記アッパーは前記第2開口の縁に沿って設けられた縁部を有し、前記各伸縮部は前記縁部まで延びており、
このアッパーの縁部は、前記内側伸縮部に対応する位置で前記縁部を切欠ないし切り離して形成された内側切欠部と、前記外側伸縮部に対応する位置で前記縁部を切欠ないし切り離して形成された外側切欠部とを定義し、前記各切欠部は前記第2開口に連なっている、運動靴。
【請求項25】
請求項24において、
前記各伸縮部における前記切欠部に沿った上縁部には、伸縮性を有するベース材の表面に弾性部材が積層されている運動靴。
【請求項26】
着地の衝撃を吸収するソールと、該ソールに取り付けられ足を覆うアッパーとを備えた靴であって、
前記アッパーは、足の内側面を覆う内側面と足の外側面を覆う外側面とを備え:
前記内側面は足の内側面の一部を覆う内側伸縮部を含み;
前記外側面は足の外側面の一部を覆う外側伸縮部を含み;
前記各伸縮部は、各々の側面の残りの部分よりも、足長方向に沿った小さなヤング率を有し、
前記外側伸縮部は、第5中足骨遠位骨頭に相当する足の部位を覆い;
前記各伸縮部は、その各々の部位において、足長方向に沿って伸縮し得る十分な長さを有する靴。
【請求項27】
着地の衝撃を吸収するソールと、該ソールに取り付けられ足を覆うアッパーとを備えた靴であって、
前記アッパーは、足の内側面を覆う内側面と足の外側面を覆う外側面とを備え:
前記内側面は、足の内側面の一部を覆う内側伸縮部を含み;
前記外側面は、足の外側面の一部を覆う外側伸縮部を含み;
ここにおいて、前記各伸縮部は、各々の側面の残りの部分よりも小さな足長方向に沿ったヤング率を有し、
前記内側伸縮部は、リスフラン関節に相当する足の部位を覆い;
前記各伸縮部は、その各々の部位において、足長方向に沿って伸縮し得る十分な長さを有する靴。
【請求項28】
着地の衝撃を吸収するソールと、該ソールに取り付けられ足を覆うアッパーとを備えた靴であって、
前記アッパーは、足の内側面を覆う内側面と足の外側面を覆う外側面とを備え:
前記内側面は足の内側面の一部を覆う内側伸縮部を含み;
前記外側面は足の外側面の一部を覆う外側伸縮部を含み;
前記各伸縮部は、各々の側面の残りの部分よりも、足長方向に沿った小さなヤング率を有し、
前記外側伸縮部は、第5中足骨遠位骨頭に相当する足の部位を覆い、
前記内側伸縮部は、リスフラン関節に相当する足の部位を覆い;
前記各伸縮部は、その各々の部位において、足長方向に沿って伸縮し得る十分な長さを有する靴。

【国際公開番号】WO2004/093587
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505720(P2005−505720)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005335
【国際出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【特許番号】特許第3780296号(P3780296)
【特許公報発行日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り Asics Tiger Oceania Pty Ltd.,asics SPORT FOOTWEAR DECEMBER 03 − MAY 2004(平成15年5月)に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ASICS TIGER Corporation,Footwear Spring 2004(平成15年5月)に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 株式会社アシックス,2004 Spring & Summer Shoes Lineup 展示会用(平成15年7月)に発表
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】