説明

アップライトピアノのバックチェック

【課題】二度打ちが発生しないようキャッチャーを確実に静止することができ、かつ、キャッチャーが当接する当接面の耐久性を向上することができるバックチェックを提供する。
【解決手段】バックチェック30では、キャッチャー20が打弦後に当接して当接面上を滑って移動し当接面の移動防止部位34までくると、この移動防止部位34が窪んで、この窪みにキャッチャー20が入り、キャッチャー20の上下方向への移動が阻止される。従って、このバックチェック30を用いると、キャッチャー20の上下方向への移動が、移動防止部位34の窪みに入ることで阻止されるので、二度打ちが発生しないようキャッチャー20を確実に静止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップライトピアノのバックチェックに関する。
【背景技術】
【0002】
アップライトピアノでは、打弦後のハンマーを停止させるため、ハンマーと伴に回動するバットに取り付けられたキャッチャーをバックチェックに当接させている。
このときキャッチャーは、バックチェックの当接面上を、上方から下方に滑りながら当接する。そのため、キャッチャーがバックチェックに当接しても、ハンマーはすぐには停止しない。
【0003】
そこで、従来のアップライトピアノでは、バックチェックの当接面の下部に突起を設け、この突起にキャッチャーを当接させることで、ハンマーを停止させている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−171575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、打弦後のキャッチャーは、バックチェックに当たって上方に移動することもあり、この上方への移動が発生すると、1回の押鍵でハンマーが弦に2度当たる、いわゆる二度打ちが発生することが考えられる。
【0006】
そのため、二度打ちを防止する対策として、バックチェックの当接面のうち上部にも突起を設けることも考えられるが、この突起にキャッチャーが当たって二度打ちがなされることも考えられる。
【0007】
また、バックチェックのキャッチャーに対向する側にはフェルトが積層され、上述した当接面及び突起はこのフェルトによって形成されているが、上述した突起を設けると、突起の頂部にキャッチャーが触れてこすれ、フェルトの耐久性が低下することが懸念される。
【0008】
そこで、本発明では、二度打ちが発生しないようキャッチャーを確実に静止することができ、かつ、キャッチャーが当接する当接面の耐久性を向上することができるバックチェックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、バットフレンジに回動可能に取り付けられたバット、該バットに固定されたハンマー、前記バットに固定されたキャッチャー、押鍵時に、鍵に突き上げられて上方に回動するウィッペン、及び、押鍵時に前記ウィッペンに突き上げられて、前記バットを突き上げて回動させるジャックを有するアップライトピアノのアクションに備えられ、押鍵時に前記バットとともに回動したハンマーが打弦を行った後、押鍵時とは反対方向に回動するときに前記キャッチャーに当接して、前記ハンマーの回動を止めるバックチェックであって、前記キャッチャーが当接する当接面が面一に形成され、前記当接面のうち、上下の部位の間の中央部に、これら上下の部位よりも柔らかい硬度で形成され、打弦後の前記キャッチャーが当接すると窪んで、この窪みに入った前記キャッチャーの上下方向の移動を防止する移動防止部位が形成されていることを特徴とする。
【0010】
このバックチェックでは、打弦後のキャッチャーが当接面に当接し、当接面上を滑って移動して移動防止部位までくると、この移動防止部位が窪んで、この窪みにキャッチャーが入り、キャッチャーの上下方向への移動が阻止される。
【0011】
従って、本発明のバックチェックを用いると、キャッチャーが移動防止部位の窪みに入ることで上下方向への移動が阻止されるので、二度打ちが発生しないようキャッチャーを確実に静止することができる。
【0012】
また、本発明のように構成すると、当接面が面一に形成されているので、当接面に突起を設けた場合に比べて、当接面の耐久性を向上することができる。
尚、請求項2に記載したように、バックチェックは、キャッチャーが当接する側の面にフェルトが積層されていることが多い。この場合、当接面は、フェルトがキャッチャーに対向する側の面となるので、このフェルトに移動防止部位を形成するとよい。
【0013】
次に、請求項3に記載したように、請求項1,2のいずれか1項に記載のバックチェックにおいて、移動防止部位が形成する窪みは、キャッチャーに対して遊びを有する大きさであることが好ましい。
【0014】
移動防止部位が形成する窪みの大きさがキャッチャーと同じ大きさだと、キャッチャーが移動防止部位に到達しても移動防止部位を窪ませることなく通り過ぎてしまうことが考えられる。
【0015】
また、移動防止部位が形成する窪みがキャッチャーに比較して大きすぎると、移動防止部位と他の部位との間に形成された段差の部分にキャッチャーが当接した後、移動防止部位からキャッチャーが飛び出してしまい、キャッチャーの移動を防止できないこともあり得る。
【0016】
しかし、本発明のように構成すると、キャッチャーが窪みに入ることで、移動防止部位が構成する窪みに摘まれたような状態で固定されるので、キャッチャーの上下方向への移動を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】アップライトピアノのアクションの全体構造図である。
【図2】(a)はバックチェックの側面図で、(b)はキャッチャーが当接したときのバックチェックの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態のアップライトピアノのアクション1について図面と共に説明する。
打弦時の動作について説明する。
【0019】
本実施形態のアップライトピアノのアクション1は、図1に示すように、ウィッペン10、ジャック11、バット12、ハンマー13を主に備えている。
ウィッペン10は、長尺な形状に形成されており、長手方向の一端が、鍵αよりも非演奏者側に配置されたセンターレール16の下部にフレンジ14を介して回動可能に固定されている。また、ウィッペン10は、非押鍵時に水平に配置され、かつ長手方向の他端が、鍵αの非演奏者側の端部の上方に位置するように配置される。
【0020】
このウィッペン10は、鍵αが押鍵されて、非演奏者側の端部が持ち上がると、鍵αに装着されたキャプスタンボタン15により、長手方向の遊端側がセンターレール16を始点に上方に押し上げられて、図1中の反時計方向に回動する。
【0021】
ジャック11は、L字状に形成されており、L字をなす長短2つの辺のうち長尺な辺の遊端が上方を向き、かつ、ウィッペン10の中央部から上方に向かって延設されたジャックフレンジ17の上端に対し、L字に折れた部分を支点として回動するように、回動可能に固定されている。
【0022】
バット12は、バットフレンジ19に回動自在に取付けられ、鍵αが押鍵されて、ジャック11で突き上げられると、図1中の反時計方向に回動する。
ハンマー13は、非押鍵時にバット12から演奏者側に傾いた状態で上方に向かって延設されているハンマーシャンク18の先端に固定されている。
【0023】
このように構成されたアクション1では、鍵αを押鍵すると、鍵αの非演奏者側の端部が持ち上がり、これに伴いウィッペン10の演奏者側の端部が持ち上がって、ジャック11が上方に向かって突き上げられる。
【0024】
このジャック11が突き上げられると、バット12が反時計回りに回転し、このバット12の回転に伴ってハンマー13が、図1中の反時計方向に回転して弦βを打弦する。
次に、打弦後の動作について説明する。
【0025】
本実施形態のアクション1は、上記構成の他に、キャッチャー20、バックチェック30を備えている。
キャッチャー20は、ハンマーシャンク18に対してL字を描く方向にバット12から延設されたキャッチャーシャンク21を備え、このキャッチャーシャンク21の先端に固定されている。
【0026】
バックチェック30は、ウィッペン10がフレンジ14に回動可能に固定されている点から見て、ジャックフレンジ17が固定されている点よりも、さらに演奏者側のウィッペン10上から立設されており、非押鍵時、キャッチャー20に対向する位置に配置されるとともに、キャッチャー20よりも上下方向に幅広な大きさに形成されている。
【0027】
そして、キャッチャー20及びバックチェック30には、互いに対向する側の面に、フェルト22、32が積層されている。
本実施形態のアクション1では、打弦が行われると、ハンマー13が、非演奏者側に移動する。また、このハンマー13の移動に合わせて、キャッチャー20も、バット12を介して、センターレール16を支点に時計回りに回動する。
【0028】
このとき、バックチェック30は、ウィッペン10の遊端側が上方に向かって回動するのに伴って上昇しており、打弦後、時計回りに回動するキャッチャー20は、この上昇したバックチェック30と当接して停止する。
【0029】
その後、鍵αを押している指が鍵αから離れ、鍵αの非演奏者側の端部が下方に移動すると、ウィッペン10、ジャック11等が下方に下がるなどして、各器具が、押鍵時に鍵αの動作をハンマー13に伝えるために必要な位置に配置される。
【0030】
次に、バックチェック30に積層されたフェルト32について詳細に説明する。
本実施形態のバックチェック30に積層されたフェルト32は、図2(a)に示すように、キャッチャー20に対向する側の面は段差のない面一な形状に形成されているが、上下方向の中央部(以下「移動防止部位」と呼ぶ)34が、この移動防止部位34の上下の部分35,36と比較して柔らかい硬度となるよう構成されている。
【0031】
打弦後、キャッチャー20がバックチェック30に当接するとき、キャッチャー20が図1中の時計回りに回動しているため、キャッチャー20はバックチェック30のフェルト32上を滑るようにして当接する。
【0032】
そして、キャッチャー20は、移動防止部位34に当接する位置まで滑ると移動防止部位34を弾性変形させ、移動防止部位34が凹むことによって形成された窪みに嵌り、この窪みに捕まれるようにして移動を停止する。
【0033】
移動防止部位34は、キャッチャー20がバックチェック30に対向する面に対して遊びを有する形状に形成されており、上下方向には、1〜2mmほどの大きい範囲に形成されている。
【0034】
以上のように構成されたアップライトピアノのアクション1は、以下のような効果を有する。
本実施形態では、キャッチャー20が打弦後に当接してバックチェック30の当接面上を滑って移動し、移動防止部位34に対向する位置までくると、この移動防止部位34を押して窪ませ、この窪みにキャッチャー20が入り、キャッチャー20の上下方向への移動が阻止される。
【0035】
従って、本実施形態のバックチェック30を用いると、キャッチャー20が移動防止部位34の窪みに入ることで上下方向への移動が阻止されるので、二度打ちが発生しないようキャッチャー20を確実に静止することができる。
【0036】
また、本実施形態のように構成すると、バックチェック30の当接面が面一に形成されているので、当接面に突起を設けた場合に比べて、当接面の耐久性を向上することができる。
【0037】
また、本実施形態のように構成すると、キャッチャー20が窪みに入ることで、移動防止部位34が構成する窪みに摘まれたような状態で固定されるので、キャッチャー20の上下方向への移動を確実に防止することができる。
【0038】
本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
1…アクション、10…ウィッペン、11…ジャック、12…バット、13…ハンマー、14…フレンジ、15…キャプスタンボタン、16…センターレール、17…ジャックフレンジ、18…ハンマーシャンク、19…バットフレンジ、20…キャッチャー、21…キャッチャーシャンク、22…フェルト、30…バックチェック、32…フェルト、34…移動防止部位、α…鍵、β…弦。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バットフレンジに回動可能に取り付けられたバット、該バットに固定されたハンマー、前記バットに固定されたキャッチャー、押鍵時に、鍵に突き上げられて上方に回動するウィッペン、及び、押鍵時に前記ウィッペンに突き上げられて、前記バットを突き上げて回動させるジャックを有するアップライトピアノのアクションに備えられ、押鍵時に前記バットとともに回動したハンマーが打弦を行った後、押鍵時とは反対方向に回動するときに前記キャッチャーに当接して、前記ハンマーの回動を止めるバックチェックであって、
前記キャッチャーが当接する当接面が面一に形成され、
前記当接面のうち、上下の部位の間の中央部に、これら上下の部位よりも柔らかい硬度で形成され、打弦後の前記キャッチャーが当接すると窪んで、この窪みに入った前記キャッチャーの上下方向の移動を防止する移動防止部位が形成されている
ことを特徴とするバックチェック。
【請求項2】
請求項1に記載のバックチェックにおいて、
前記バックチェックは、前記キャッチャーが当接する側の面にフェルトが積層され、
前記当接面は、前記フェルトが前記キャッチャーに対向する側の面であることを特徴とするバックチェック。
【請求項3】
請求項1,2のいずれか1項に記載のバックチェックにおいて、
前記移動防止部位が形成する窪みは、前記キャッチャーに対して遊びを有する大きさであることを特徴とするバックチェック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−208407(P2012−208407A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75465(P2011−75465)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)