説明

アディポネクチン産生促進剤

【課題】優れたアディポネクチン産生促進剤の提供。
【解決手段】下記式(1):


で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれるアディポネクチン産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レスベラトロール誘導体を含有するアディポネクチン産生促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の社会生活においては、過剰なストレスや食物摂取、運動不足が蔓延している。これらが原因となるメタボリックシンドロームが大きな社会問題になっている。メタボリックシンドロームとは、内蔵脂肪型肥満に加えて高血糖、高血圧、脂質異常のうち二つ以上を併せ持った状態であり、動脈硬化のリスクが高くなる。高血糖状態や高血圧状態が進行すると、糖尿病や高血圧症が発症する。高血糖状態の原因の一つがインスリン抵抗性である。インスリン抵抗性は過剰なインスリンが分泌されつづけることによりインスリン感受性が低下することにより起こる。また肥満は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)における肝線維化の危険因子の1つであることが明らかになっている。肝線維化は肝硬変や肝臓がんの原因となることが明らかとなっている。
【0003】
一方、体内にはこのような疾患を改善する作用を示すホルモンも見出されている。その一つがアディポネクチンである。アディポネクチンは脂肪細胞が特異的に産生するペプチドホルモンであり、その機能から善玉ホルモンと呼ばれている。具体的な機能は、インスリン感受性の亢進、動脈硬化抑制、抗炎症性、心筋肥大抑制など多岐にわたることが報告されている。したがって、脂肪細胞からのアディポネクチンの産生によって体内で発生する様々な疾患を抑制し、健全な身体を維持していると考えられている。
【0004】
アディポネクチンのメタボリックシンドローム予防効果は多くの報告がされている。例えば、アディポネクチンは筋肉細胞のAMP(adenylic acid)キナーゼを活性化し、グルコースの取り込みと脂肪燃焼を促進することが報告されている(非特許文献1)。さらにアディポネクチンノックアウトマウスでの研究により、このマウスは高脂肪・高蔗糖食を摂取させることで、野生型マウスにくらべ強いインスリン抵抗性を示した。このノックアウトマウスの全身にアディポネクチンを過剰発現させることで、インスリン抵抗性が改善された(非特許文献2)。また高血圧症症例における血管内皮機能と血中アディポネクチン濃度とは正の相関を示し、収縮期血圧と血中アディポネクチン濃度は逆相関することが知られている。実際にアディポネクチンノックアウトマウスに高脂肪・高蔗糖・高塩負荷の餌を摂取させると、野生型よりも高血圧を呈し、さらに内皮依存性血管拡張反応が低下した(非特許文献3)。
【0005】
メタボリックシンドロームの進行により動脈硬化の危険性が高まることは良く知られているが、アディポネクチンは動脈硬化の予防効果も報告されている。例えば、動脈硬化の要因として、内皮への単球接着が挙げられる。アディポネクチンは接着分子の抑制を介して単球の接着を抑制している(非特許文献4)。また、血管内での平滑筋細胞の増殖も動脈硬化の一因であるが、アディポネクチンはこの増殖を抑制する(非特許文献5)。さらに、マクロファージにおいては、アディポネクチンが炎症性サイトカインの発現を抑制することで、細胞の泡沫化を抑制することが知られている(非特許文献6)。
【0006】
アディポネクチンのNASHにおける肝線維化の予防効果に関しても報告されている。例えば、アディポネクチンノックアウトマウスに肝線維化誘発剤を投与すると、野生型に比べて線維化が亢進した(非特許文献7)。また現在、肝星細胞の活性化が肝線維化に重要な役割をしていることが考えられているが、肝線維化誘発剤の投与により野生型に比べ活性化した肝星細胞が増加した(非特許文献7)。
【0007】
以上のように脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンの有用性から、その産生促進剤の先行技術も報告されている。医薬品においては例えば、チアゾリジンジオン類を有効成分とするアディポネクチン産生強化剤(特許文献1)、天然物においては例えばレスベラトロールを有効成分とするアディポネクチン産生促進剤(特許文献2)、リコピンを有効成分とするアディポネクチン産生促進剤(特許文献3)、クルクミンを有効成分とするアディポネクチン産生増強・促進剤(特許文献4)、ジンゲロールを有効成分とするアディポネクチン産生増強剤(特許文献5)、抽出物においては、プロポリス抽出物を有効成分とするアディポネクチン産生増強剤(特許文献6)、西洋梨の果実またはその抽出物を有効成分とするアディポネクチン増加剤(特許文献7)、また、大豆加水分解物を有効成分とするアディポネクチン分泌促進組成物(特許文献8)などこの他にも数多くの先行技術が報告されている。
【0008】
このようにアディポネクチン産生促進剤の有用性から、このような活性を有する化合物や素材が複数提案されているが、更なる新規素材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−197427号公報
【特許文献2】特開2008−255040号公報
【特許文献3】特開2009−286729号公報
【特許文献4】特開2005−060308号公報
【特許文献5】特開2011−001386号公報
【特許文献6】特開2010−037221号公報
【特許文献7】特開2011−063543号公報
【特許文献8】特開2009−209080号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日薬雑誌,2003,122:294−300
【非特許文献2】Nature Med.,2003,8:731−737
【非特許文献3】Hypertension,2003,42:231−234
【非特許文献4】Circulation,1999,100:2473−2476
【非特許文献5】Circulation,2002,105:2893−2898
【非特許文献6】Circulation,2003,103:1057−1063
【非特許文献7】Gastroenterology,2003,125:2796−1807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、前記の状況を鑑みて、新規なアディポネクチン産生促進剤の探索をした。その結果、新たに作製したレスベラトロール誘導体類が優れたアディポネクチン産生促進作用を有する化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
したがって、本発明は、優れたアディポネクチン産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は、下記式(1):
【0014】
【化1】

【0015】
で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とするアディポネクチン産生促進剤、に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、公知の産生促進剤であるレスベラトロールと比べ優れたアディポネクチン産生促進作用を有していることから、新規のアディポネクチン産生促進剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aは実施例2で行ったウェスタンブロット解析の結果を示す。左から、(1)DMSO、(2)レスベラトロール、(3)UHA9021で処理した細胞培養液中のアディポネクチンを検出した結果を示している。図1Bは画像解析ソフトにより得られたバンド強度の相対値を算出した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、下記式(1):
【0019】
【化2】

【0020】
で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする。
【0021】
本発明において、「アディポネクチン産生促進剤」とは、各種疾患の予防・治療効果があるアディポネクチンの脂肪細胞からの産生を促進することができる薬剤をいう。
アディポネクチン産生促進作用は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定し、公知の化合物であるレスベラトロールの作用と対比することで確認することができる。
【0022】
前記レスベラトロール誘導体において、炭素−炭素2重結合は、トランスまたはシスであってよく、シス体とトランス体との混合物を含む。
【0023】
前記レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩; アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩; アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩; α−アミノ酸塩、ω−アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩またはそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬理的に許容し得る塩は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
また、前記レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能なエーテルまたはエステルとは、ヒドロキシ基(−OH)の1個または2個以上がエーテル化またはエステル化ヒドロキシ基であるものをいう。これらのエーテル化またはエステル化ヒドロキシ基は、非置換のまたは置換された1〜26個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基、または非置換のまたは置換された1〜26個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖脂肪族、芳香脂肪族または芳香族カルボン酸に由来してもよい。エーテル化ヒドロキシ基はさらにグリコシド基であってもよく、エステル化ヒドロキシ基はさらにグルクロニドまたは硫酸基であってもよい。これらの薬理的に許容し得るエーテルまたはエステルは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
本発明の製造方法では、前駆体としてレスベラトロールを用いる。レスベラトロールにはトランス体とシス体の構造異性体が存在するが、加熱や紫外線によってトランス体とシス体の変換が一部生じる。したがって、レスベラトロールとしては、トランス体でもシス体でも、あるいはトランス体とシス体の混合物であってもよい。レスベラトロールは、ブドウ果皮から抽出・精製した天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のレスベラトロールを用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、後述のように所望の生成反応が進み最終的に本発明で用いる前記レスベラトロール誘導体が得られるから、レスベラトロール以外の成分を含む混合物も使用できる。また、レスベラトロールには、塩、エーテル、エステル等の誘導体もあるが、本発明の製造方法では、これらの誘導体も原料として使用することができる。
ただし、前記レスベラトロール誘導体の回収率の観点からは、レスベラトロール換算で1重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。
前記レスベラトロールとしては、ブドウ果皮、ピーナッツ等の原料からの抽出物、凍結乾燥品等を使用してもよい。
【0026】
また、本発明の製造方法では、前駆体としてシナピン酸も必要である。シナピン酸は、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のシナピン酸を用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、後述のように所望の生成反応が進み最終的に本発明の新規レスベラトロール誘導体が得られるのであれば、シナピン酸以外の成分を含む混合物も使用できる。
ただし、前記レスベラトロール誘導体の回収量の観点からは、シナピン酸換算で5重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。このような原料としては、例えば、リンゴ果実、穀物等の原料からの抽出物、凍結乾燥品等を使用してもよい。
【0027】
本発明では、レスベラトロール、シナピン酸、またはレスベラトロールとシナピン酸との混合物を適切な溶媒に溶解させる。この際、溶媒が水のみであれば、レスベラトロールやシナピン酸の水への溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混合液や、有機溶媒のみに溶解させればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類については特に制限はなく、レスベラトロールやシナピン酸が十分に溶解すれば良い。中でも、メタノールやエタノールのみの溶媒や、水とメタノール、水とエタノール等の混合液を使用することが、安全性やコスト面から好ましい。新規レスベラトロール誘導体を含む反応後組成物に対して最終的な精製を十分に適用せずにその組成物を食品に使用する場合には、安全性や法規面から溶媒としてエタノールや含水エタノールを使用することが望ましい。
得られるレスベラトロール、シナピン酸、またはレスベラトロールとシナピン酸との混合物を含有する溶液中のレスベラトロールおよびシナピン酸の濃度について特に制限はないが、それぞれの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、レスベラトロールおよびシナピン酸の濃度は各々の溶媒に対しレスベラトロールおよびシナピン酸がそれぞれ飽和する濃度近くが好ましい。
また、レスベラトロール、シナピン酸は前記溶液中において生成反応前に完全に溶解していなくともよい。例えば、レスベラトロール含有溶液とシナピン酸含有溶液とを混合する場合、それぞれの溶液中のレスベラトロール濃度、シナピン酸濃度がともに飽和濃度以上であっても、混合液とした場合には、飽和濃度近くになるように調整しておけばよい。
【0028】
次に、前記レスベラトロールおよびシナピン酸を含有する溶液(以下、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液)のpHを8未満に調整することが好ましい。調整方法として、例えば、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液を調製した後にpH調整剤を添加してpHを調整しても良いし、前記溶液の調製時に前もって溶媒のpHを調整しておいても良い。レスベラトロール、シナピン酸含有溶液の反応開始時のpHは8.0以上であれば、他の反応や目的化合物の分解も一方で生じるために、生成される前記レスベラトロール誘導体の回収量が低下する。したがって、反応開始時のpHは3以上8未満が望ましい。
【0029】
本発明では、前記レスベラトロール、シナピン酸含有溶液中に金属塩を添加する。前記金属塩としては、酸性塩、塩基性塩、正塩のいずれでもよく、また、単塩、複塩、錯塩のいずれでもよい。さらに、金属塩は1種類であっても、複数種類の混合物であってもよい。金属塩の例としては、食品添加物として認可されているものが安全性の面で好ましい。例えば、食品に添加することが認められているマグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、銅塩等が挙げられる。
また、前記金属塩の混合物としては、例えば、ミネラルプレミックス(田辺製薬株式会社、グルコン酸亜鉛、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸カルシウム、グルコン酸銅、リン酸マグネシウムを主成分としたミネラル混合物)のように金属塩を数種類含む物質が挙げられる。また、複数の金属塩を含む混合物として、ミネラルウォーターも挙げることができる。
なお、前記金属塩の含有量としては、前記レスベラトロール誘導体を生成可能な量であればよく、特に限定はない。
【0030】
次に、金属塩存在下で、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液を加熱処理する。この加熱処理により、新規レスベラトロール誘導体の生成反応を行う。生成反応を効率的に進ませるために、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液の加熱温度は110℃以上に調整することが好ましい。また、使用する溶媒の沸点から考え、加圧加温が望ましい。例えば、開放容器にレスベラトロール、シナピン酸含有溶液を入れ、溶媒の沸点を超える高温で前記容器を加温する、密閉容器にレスベラトロール、シナピン酸含有溶液を入れて前記容器を加温する、レトルト装置やオートクレーブを用いて加圧加温する等、少なくとも部分的に溶液温度が110℃以上に達するように加熱することが好ましい。回収効率面から、溶液温度が均一に110℃〜150℃になることが、さらに好ましい。加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度との兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、130℃付近で加熱する場合は、5分〜120分の加熱時間が望ましい。また、加熱は、一度でも良いし、複数回に分けて繰り返し加熱しても良い。複数回に分けて加熱する場合、蒸発した溶媒を補うために溶媒を新たに追加して行うことが好ましい。
【0031】
前記加熱処理によるレスベラトロール誘導体の生成反応の終了は、例えば、HPLCによる成分分析によりレスベラトロール誘導体の生成量を確認して判断すればよい。
【0032】
得られる反応液中には、本発明で用いるレスベラトロール誘導体が含有されている。
また、安全な原料のみを用いた工程でレスベラトロール誘導体を製造した場合には、前記レスベラトロール誘導体を含む混合物の状態で食品、医薬品または医薬部外品に使用することが可能である。例えば、天然由来のレスベラトロール、シナピン酸を含水エタノール溶媒に溶解し、ミネラルウォーターやミネラルプレミックスを添加して加熱処理した場合には、得られる反応液を食品原料の一つとして使用することが可能である。
【0033】
また、風味面での改良やさらなる高機能化を望む場合は、前記反応液を濃縮してレスベラトロール誘導体の濃度を高める、あるいは前記反応液を精製しレスベラトロール誘導体の純品を得ることができる。濃縮、精製は、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等を用いた溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出してレスベラトロール誘導体を濃縮できる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮や精製を施すことも可能である。再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0034】
また、前記反応液から式(1)で表されるレスベラトロール誘導体を分離して回収する場合には、カラムクロマトグラフィー、HPLC等を用いてもよい。
【0035】
前記濃縮物や精製物を、必要に応じて、減圧乾燥や凍結乾燥して溶媒除去することで、粉末状のレスベラトロール誘導体を得ることができる。
【0036】
また、得られたレスベラトロール誘導体は、必要に応じて、当該分野で公知の方法により、レスベラトロール誘導体の塩としたり、レスベラトロール誘導体のヒドロキシ基をエーテル化またはエステル化してもよい。
【0037】
前記のレスベラトロール誘導体はいずれも、レスベラトロールに比べて、優れたアディポネクチン産生促進作用する。
したがって、本発明は、前記レスベラトロール誘導体を有効成分として含有するアディポネクチン産生促進剤を提供することができる。
【0038】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、前記レスベラトロール誘導体のみであってもよいが、例えば、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、ゲル剤等に配合される場合にはそれぞれの剤形に応じた任意成分をさらに含有してもよい。また、錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒は、必要により、ショ糖等の糖類、マルチトール等の糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等でコーティングを施したりすることもできる。また、胃溶性または腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、公知の可溶化処理を施すこともできる。常法に基づいて、注射剤、点滴剤に前記レスベラトロール誘導体を配合して使用してもよい。
【0039】
本発明のアディポネクチン産生促進剤を使用する場合、例えば、前記レスベラトロール誘導体の摂取量は、所望の効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常その態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。前記レスベラトロール誘導体換算で、1日当たり約0.1mg〜1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1〜4回に分けて摂取することができる。
【0040】
また、前記レスベラトロール誘導体は、安全性に優れたものであるので、ヒトに対してだけでなく、例えば、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤または飼料に配合してもよい。飼料としては、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、イヌ、ネコ、小鳥、リス等に用いるペットフードが挙げられる。
【0041】
次に、本発明を実施例に基いて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
(実施例1:UHA9021の生成および単離・精製)
トランス−レスベラトロール1g、シナピン酸(和光純薬(株)社製)1gをエタノール20mLに溶解し、ミネラルウォーター20mLを加えて、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液(pH=4.9)を得た。このレスベラトロール、シナピン酸含有溶液をオートクレーブにて130℃、90分間加熱した。得られた反応溶液のうち1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、このうち10μLをHPLCにより分析し、UHA9021の生成を確認した。HPLC分析は、実施例1と同様の条件で行った。
【0043】
得られた反応物からUHA9021を分取HPLCにより精製し、常法により乾燥したところ、褐色粉末状の物質であった。
【0044】
高分解能電子イオン化質量分析法にてUHA9021の分子量を測定したところ、測定値は348.3915であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C22H20O4(M+):348.3918
分子式C22204
【0045】
次に、前記UHA9021を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMRおよび各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA9021が前記式(1)で表される構造を有することを確認した。
【0046】
(実施例2:アディポネクチン産生促進作用の比較)
アディポネクチン産生促進作用を評価するために、3T3L1細胞(マウス由来脂肪前駆細胞)を用いて評価を行った。
【0047】
試料にはレスベラトロール、本発明品であるUHA9021の2種類を用いた。各試料をジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業(株)社製)に2mMの濃度で溶解させて試験に使用した。
【0048】
培養は、10%ウシ胎児血清(Foetal Bovine Serum:FBS Biological industries社製)、1%アンチバイオティック−アンチマイコティック(Antibiotic−Antimycotic、ギブコ(GIBCO)社製)を含むDulbecco‘s modified Eagle medium(DMEM、Sigma社製)を用いていった。試験に使用する脂肪細胞は定法に従って調整した。つまり、細胞培養用10cmディッシュ(日本BD社製)に3T3L1細胞を5×104cells/mLで播種して37℃、5%CO2条件下で48時間培養し、100%コンフルエントしたものを毎日培地交換しながらさらに48時間培養した。その後、培地をAdipoInducer Reagent(タカラバイオ社製)付属のインスリン、デキサメタゾン、イソブチルメチルキサンチンをそれぞれ1%、0.5%、0.1%添加した分化用DMEM10mLに交換し、37℃、5%CO2条件下で48時間分化・培養したものを使用した。
【0049】
試験は以下のように行った。分化させた脂肪細胞の培地を、インスリン1%を含むDMEM(維持培地)に交換し、これに試料を50μL(終濃度10μM)添加し、2日おきに培地交換(化合物含有維持培地)しながら7日間培養した。培養終了後の培地を3000rpmで5分間遠心分離した上清をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供し、ウェスタンブロット解析を行った。
【0050】
SDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供するタンパク質サンプルは、培地上清8μLにLaemmliサンプルバッファー(10%ドデシル硫酸ナトリウム、100mMジチオトレイトール、30%グリセロール、50mMTris−HCl、pH6.8)2μLを添加して96℃で5分間加熱変性させたものを使用した。ゲルには「ミニプロティアンTGX7.5%Gel」(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ(株)製)を使用した。
【0051】
変性させた培地サンプルを全量ゲルに供し、200V、30分間電気泳動した。
電気泳動後、セミドライ式ブロッティング装置「TRANS−BLOT S−D SEMI−DRY TRANSFER CELL」(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ(株)製)でPVDF膜(ミリポア(株)社製)にブロッティングした。ここから、「Anti−Adiponectin Rabbit IgG monoclonal Antibody」(一次抗体、CSTジャパン社製)と「Anti−Rabbit IgG HRP−linked Antibody」(二次抗体、CSTジャパン社製)を用いた抗体反応によってアディポネクチンの検出をいった。得られた検出結果を画像解析ソフト「Image J」によってバンド強度を数値化し、その相対値を算出した。これらの結果を図1に示した。
【0052】
図1の結果より、UHA9021においてレスベラトロールよりもアディポネクチン産生量が有意に増強されたことがわかる。
特にコントロールであるDMSOとのバンド強度の差から、約2.5倍に増強されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアディポネクチン産生促進剤は、優れたアディポネクチン酸性促進作用を有するものである。したがって、本発明のアディポネクチン産生促進剤は、低アディポネクチン血症治療剤、メタボリックシンドローム予防または改善剤、インスリン抵抗性予防または改善剤、糖尿病予防または治療剤、高血圧症予防剤または治療剤、動脈硬化予防剤または治療剤、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)およびそれに由来する肝疾患の予防および治療剤としても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とするアディポネクチン産生促進剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−10721(P2013−10721A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145331(P2011−145331)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】