説明

アディポネクチン産生増強・促進剤

【課題】天然物由来で安全性が高いアディポネクチン産生増強・促進剤及びそれらを含有する医薬品、飲食品を提供すること。
【解決手段】ナリンゲニンカルコン又はその誘導体を有効成分とするアディポネクチン産生増強・促進剤。このアディポネクチン産生増強・促進剤を含有する医薬品、飲食品。
【効果】これらの剤、医薬品、飲食品は、高いアディポネクチン増強・促進作用を有し、かつ安全性が高いため、アディポネクチン分泌不全に起因する動脈硬化症又は糖尿病、あるいはメタボリックシンドロームの予防又は改善に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアディポネクチン産生増強・促進剤、及びそれらを含有する医薬品、飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の生活様式の急速な変化に伴い、内臓脂肪の蓄積を伴う肥満、またはそれを基盤としてなるメタボリックシンドローム(以下、「MS」と略す)は増加の一途をたどっている。平成16年の国民健康・栄養調査結果によると、40〜74歳におけるMSの有病者数・予備軍者数は合わせて1960万人と推定されている。
【0003】
MSは内臓脂肪蓄積を伴う肥満を基盤として高血糖、高血圧、高脂血症などが重複した状態であり、動脈硬化性疾患の発症リスクが極めて高い。動脈硬化性疾患は日本人の死因統計で悪性新生物と双璧をなす位置にあり、その発症リスクであるMSの予防・治療対策の確立はきわめて重要である。
【0004】
MS発症を惹起する要因は運動不足、過剰な脂質摂取などの生活習慣の乱れや、加齢や喫煙などの外部ストレスなどであり、これらが積み重なることで内臓脂肪の蓄積を伴う肥満を発症する。これが進行すると脂肪細胞から分泌される生体調節因子であるアディポサイトカインのバランスが崩れる。
【0005】
アディポサイトカインの中でも、とくにMSとの関わりが深いものがアディポネクチンであり、冠動脈疾患患者や2型糖尿病患者、肥満患者のアディポネクチン濃度は健常人に比べ有意に低値を示すことが報告されている。また、アディポネクチンノックアウトマウスを用いた解析では、ノックアウトマウスは野生型にくらべ血管傷害による内膜肥厚を起こしやすく、より強いインスリン抵抗性を示すことが報告されている(例えば、非特許文献1,2参照)。これらのことから、アディポネクチンはインスリン抵抗性を伴う2型糖尿病や動脈硬化のリスクを抑制するアディポサイトカインであることがわかってきた。
【0006】
実際に、粥状動脈硬化を高率に発症するアポEノックアウトマウスにアディポネクチンを過剰発現させたところ動脈硬化病変の進展が抑制されること(例えば、非特許文献3参照)や、血中アディポネクチン濃度が野生型にくらべ低値を示す肥満・2型糖尿病マウスであるKKAおよびdb/dbマウスに生理的濃度のアディポネクチンを補充することによりインスリン抵抗性が改善することが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。このように、アディポネクチンは、2型糖尿病のインスリン抵抗性、高血圧、脂質代謝といったMSの構成要因への改善作用や抗動脈硬化、抗炎症作用などが見出されていたが、さらに近年の研究で肝繊維化抑制、正常肝細胞増殖促進効果を有することも確認された(例えば、非特許文献5参照)。
【0007】
これらのことから、アディポネクチンはMSによるリスクの低減を考える上で最も重要な因子であるといえ、特異的な発現組織である脂肪細胞におけるアディポネクチン産生・分泌の増強・促進はMSの本質的な予防・治療法として有用であるといえる。
【0008】
これまでに脂肪細胞におけるアディポネクチン産生・分泌の増強・促進効果を有する組成物・化合物として公知のものに2型糖尿病の治療薬として用いられているチアゾリジン誘導体があるが、副作用として肝毒性を示すといった安全上の問題点がある他、医薬品であることから医師のコントロール下かつ2型糖尿病患者に処方が限定されており、比較的軽度のリスク集積状態であるMS有病者・予備軍のMS予防・改善には利用できないという問題点がある。したがって、天然物由来であって高い安全性を有し、かつアディポネクチン産生・分泌を増強・促進する効果のある飲食品の開発が求められている。
【0009】
これまでに天然物由来のアディポネクチン調節作用を持つ物質として、ホップ由来のキサントフモールが血中のアディポネクチンを増加させることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これとは異なる構造を有するカルコン類がアディポネクチン産生の場である脂肪細胞において、細胞傷害などの副作用を示すことなく、安全にアディポネクチンの産生を増強・促進することについては明らかでない。
【0010】
【特許文献1】特開2006−306800号公報
【非特許文献1】松田ら(M Matsuda,et al.)著,「Role of adiponectin in preventing vascular stenosis. The missing link of adipo‐vascular axis.」,The Journal of Biological Chemistry,(米国),米国生化学・分子生物学会(The American Society for Biochemistry and Molecular Biology),2002年,277(40),p.37487−37491
【非特許文献2】近藤ら(H Kondo,et al.)著,「Association of adiponectin mutation with type 2 diabetes: a candidate gene for the insulin resistance syndrome.」,Diabetes、(米国),米国糖尿病協会(American Diabetes Association),2002年,51(7),p.2325−2328
【非特許文献3】岡本ら(Y Okamoto, et al.)著,「Adiponectin Reduces Atherosclerosis in Apolipoprotein E‐Deficient Mice.」Circulation,(米国),米国心臓病協会(American Heart Association),2002年,106(22),p.2767−2770
【非特許文献4】山内ら(T Yamauchi, et al.)著,「The fat‐derived hormone adiponectin reverses insulin resistance associated with both lipoatrophy and obesity.」Nature Medecine,(英国),ネイチャーパブリッシンググループ(Nature Publishing Group),2001年,7(8),p.941−946
【非特許文献5】ジンら(X Ding, et al.)著,「The roles of leptin and adiponectin: a novel paradigm in adipocytokine regulation of liver fibrosis and stellate cell biology.」The American Journal of Pathology,(米国),米国病理学学会(American Society for Investigative Pathology),2005年,166,p.1655−1669
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、天然物由来で安全性が高い、従来とは異なる構造を有するアディポネクチン産生増強・促進剤、及びそれらを含有する医薬品、飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、ナリンゲニンカルコン又はその誘導体にアディポネクチンの産生を増強・促進する作用があることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、
1)ナリンゲニンカルコン又はその誘導体を有効成分とする、アディポネクチン産生増強・促進剤。
2)ナリンゲニンカルコン又はその誘導体がトマト抽出物に含まれるものである、上記1)記載のアディポネクチン産生増強・促進剤。
3)上記1)または2)に記載の剤を含有する、医薬品又は飲食品。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のナリンゲニンカルコン又はその誘導体を有効成分とするアディポネクチン産生増強・促進剤は安全性が高く、脂肪細胞におけるアディポネクチンの産生を増強・促進する。その結果、アディポネクチン分泌不全に起因する動脈硬化症又は糖尿病、あるいはメタボリックシンドロームの予防又は改善が可能となる。なお、「アディポネクチン分泌不全に起因する」とは、例えばアディポネクチンの発現・産生の異常など何らかの原因で、アディポネクチンの血中への分泌が正常でなくなることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤は、ナリンゲニンカルコン又はその誘導体を有効成分とする。ナリンゲニンカルコン(2’4’6’4-Tetrahydroxychalcone)は、下記構造式(II)で示される物質である。
構造式(II)
【0016】
【化1】

【0017】
ナリンゲニンカルコンは、アディポネクチン産生増強・促進作用を有する限り、その構造の一部が改変あるいは修飾されている誘導体であっても良い。ナリンゲニンカルコンの誘導体としては、例えば、薬理上許容される塩、エステルあるいはプロドラックなどが挙げられる。
【0018】
ナリンゲニンカルコンの誘導体のうち、薬理上許容される塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)、これらの水酸化物又は炭酸塩、アルカリ金属アルコキサイド(ナトリウムメトキサイド、カリウムt−プトキサイドなど)との塩が挙げられる。また、塩としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸など)や有機酸(マレイン酸、クエン酸、フマル酸など)を付加した酸付加塩、さらにはアミンの付加塩、アミノ酸の付加塩などが挙げられる。なお、上記の塩の水和物もここでいう塩に含まれる。
【0019】
ナリンゲニンカルコンの誘導体のうち、エステルは、アルコール又はカルボン酸とのエステル化反応で生じるエステルであれば特に限定されない。アルコールとしてはメタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノールなどが挙げられ、またはカルボン酸としてはギ酸、酢酸、乳酸などが挙げられる。
【0020】
ナリンゲニンカルコンの誘導体のうち、プロドラックとは、生体に投与された後にナリンゲニンカルコンに変化して、アディポネクチン産生増強・促進剤としての作用を発現する化合物を意味する。安定性や吸収性の改善、副作用の低減などを目的としてプロドラック化されたナリンゲニンカルコンも本発明でいう誘導体に含まれる。
【0021】
本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤の有効成分であるナリンゲニンカルコンは、どのような方法で製造されたものであってもよく、ナリンゲニンカルコンを含有する生物から精製する方法、化学合成法、半合成法などが広く採用できる。
【0022】
ナリンゲニンカルコンは植物、例えば柑橘類、野菜類、具体的にはトマトより抽出することができる。トマトよりナリンゲニンカルコンを精製する方法は特に限定しないが、例えば、トマト果皮あるいは搾汁粕に、10〜15倍量の50〜90%エタノールを加え、40〜80℃で1〜5時間抽出を行う。ナリンゲニンカルコンを含む抽出物が得られるので、これを、酢酸エチル、n‐ヘキサンなどの有機溶剤を溶出液としたシリカゲル、水‐アセトニトリル溶剤を溶出液としたODS逆相系樹脂に供することによりナリンゲニンカルコンを精製することができる。なお、本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤は精製されたナリンゲニンカルコンのみを含むものに限定されず、ナリンゲニンカルコンを含む粗精製物であっても良い。
【0023】
また、ナリンゲニンカルコンの誘導体のうち、薬理上許容される塩は、ナリンゲニンカルコンに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属アルコキサイド、無機酸あるいは有機酸を作用させることにより製造できる。さらに、ナリンゲニンカルコンの誘導体のうち、エステルは、酸触媒の存在下で、ナリンゲニンカルコンにアルコール又はカルボン酸を作用させることにより製造できる。
【0024】
本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤は脂肪細胞におけるアディポネクチン産生増強・促進活性を示す。従って、アディポネクチン分泌不全に起因する動脈硬化症、糖尿病及びメタボリックシンドロームの予防、治療に有用である。該アディポネクチン産生増強・促進剤は、アディポネクチン生産増強・促進活性を有する医薬品、飲食品又は化粧品として、そのままであるいはこれらの製品に添加して使用できる。本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤は単独で医薬品、飲食品又は化粧品として使用してもよく、また、他のアディポネクチン産生増強・促進剤などと併用しても良い。
【0025】
<医薬品>
本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤は、そのまま、もしくはこれを公知の医薬用担体と共に製剤化することにより医薬品として使用できる。本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤は、例えば、錠剤、顆粒剤、粉剤、シロップ剤などの経口剤、坐剤、外用剤などの非経口剤として製剤化できる。医薬用担体としては、特に制限はなく、例えば、固形担体(デンプン、乳糖、カルボキシメチルセルロースなど)、液体担体(蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール、プロピレングリコールなど)、油性担体(各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィンなど)が挙げられる。
【0026】
上記医薬品は、人及び人以外の動物(ペット、家畜)用として使用できる。上記医薬の服用量は、それを使用する患者などの症状、性別、年齢に応じて適宜設定すればよいが、例えば、成人一人当たり一日に一回又は数回投与され、一回0.1〜1000mg程度摂取できるよう服用すればよい。
【0027】
<飲食品>
本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤を飲食品に添加することにより、その飲食品に、アディポネクチン産生増強・促進活性を付与することができる。添加されるべき飲食品は特に限定されないが、肉製品、加工野菜、惣菜類、乳製品、菓子、パン、清涼飲料水、果実飲料、酒類などが挙げられる。食品に対する本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤の配合率も特に限定されない。
【0028】
また、本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤とその他の食品素材を混合して、顆粒状・粉末状・錠剤状あるいはブロック状などに成形し、食品素材や健康食品などとしてもよい。その他の食品素材とは、例えば、糖類、食用タンパク質、アルコール、ビタミン、増粘多糖類、アミノ酸、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤などである。
【0029】
<化粧品>
本発明のアディポネクチン産生増強・促進剤は、化粧品に添加し、その化粧品にアディポネクチン産生増強・促進活性を付与することができる。化粧品とは、特に限定されないが、例えば、化粧水、化粧クリーム、乳液、ファンデーション、口紅、整髪料、ヘアトニック、育毛料、歯磨き、洗口料、シャンプー、リンスなどである。化粧品を調製する場合には、植物油などの油脂類、ラノリンやミツロウなどのロウ類、炭化水素類、脂肪酸、高級アルコール類、種々の界面活性剤、色素、香料、ビタミン類、植物・動物抽出成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、保存剤など、通常の化粧品原料として使用されているものを適宜配合して製造することができる。
【0030】
以下、実施例に即して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によってなんら制限されるものではない。
【実施例1】
【0031】
<ナリンゲニンカルコンの精製>
乾燥トマト果皮20kgを240lの水で50℃、2時間洗浄し、夾雑物を抽出除去した。ついで、抽出滓を回収し、溶剤として70%エタノール240lを加えて、70℃で加熱しながら2時間抽出した。得られた抽出溶液を濾別したのちに、濾液を減圧濃縮した。その濃縮物を、酢酸エチル、n‐ヘキサンといった有機溶剤を溶出液としたシリカゲルによる精製、及び水‐アセトニトリル溶剤を溶出液としたODSの逆相系樹脂による精製を行い、ナリンゲニンカルコンを得た。
【実施例2】
【0032】
<培養脂肪細胞によるアディポネクチン分泌促進効果の評価>
マウス3T3−L1脂肪細胞における各種カルコン類のアディポネクチン産生、分泌促進作用をELISA法にて確認した。マウス3T3−L1前駆脂肪細胞を1wellあたり5×10cellsになるようにあらかじめコラーゲンコートした24wellプレートに播種し、10%牛血清を含むDMEMで培養した。前駆脂肪細胞がコンフルエントになった後さらに2日間培養し、0.5mMイソブチルメチルキサンチン、1μMデキサメタゾン、10μg/mlインスリン、10%牛胎児血清を含むDMEMにて2日間培養し、脂肪細胞への分化誘導を行った。その後、5μg/mlインスリン、10%牛胎児血清を含むDMEMに交換し、各種カルコンのDMSO溶液をDMSO濃度が0.1%になるように添加した。各種カルコンの処理濃度は以下の通りである:A.control群(DMSO 0.1%のみ);B.実施例1で得た、ナリンゲニンカルコン処理群;C.4−メチルカルコン処理群;D.4’−メチルカルコン処理群;E.トランス−カルコン処理群;F.トランス−4,4’−ジフルオロカルコン処理群;G.2−ハイドロキシカルコン処理群(すべて30μg/mlにて処理)。この培地を2日ごとに新しく交換し、分化誘導開始から7日から10日後まで培養した後、培養上清を回収した。この培養上清中のアディポネクチン量をアディポネクチンELISAキット(大塚製薬)にて測定した。結果を図1に示す。ナリンゲニンカルコン以外のカルコン処理群では、処理開始24時間後に細胞傷害による細胞死が確認されたため(顕微鏡写真を図2に示す。)、アディポネクチンの測定は行っていない。この結果から、各種カルコン類のなかでも、ナリンゲニンカルコンのみが、細胞傷害の副作用を起こすことなく、安全にアディポネクチンの分泌を促進している事がわかる。
【実施例3】
【0033】
<培養脂肪細胞によるアディポネクチン遺伝子発現増強の評価>
実施例2と同様にして培養・分化させたマウス3T3−L1脂肪細胞におけるアディポネクチン遺伝子発現増強効果を定量RT−PCR法にて確認した。実施例2にて培養上清を回収したマウス3T3−L1脂肪細胞をPBSで2回洗浄した後、1wellあたり0.4mlのトリゾール(インビトロジェン)にて回収し、RNAを抽出した。添付の説明書に従いDNA、タンパク質を除去しトータルRNAをイソプロピルアルコール沈殿にて回収後、70%エタノールにて洗浄・風乾させた。このRNAをExScript RT reagent Kit(TAKARA)により逆転写反応を行うことでcDNAとし、これをテンプレートとして定量PCR法を行い、アディポネクチン遺伝子発現量を測定した。用いたプライマーは以下の通りである:マウスアディポネクチン;5’−GATGGCAGAGATGGCACTCC−3’(配列番号1)及び5’−CTTGCCAGTGCTGCCGTCAT−3’(配列番号2)、対照としてマウスcyclophilin;5’−CAGACGCCACTGTCGCTTT−3’(配列番号3)及び5’−TGTCTTTGGAACTTTGTCTGCAA−3’(配列番号4)。定量PCR反応はMX3000P(STRATAGENE)及びSYBR Premix Ex Taqキット(TAKARA)を用い、添付の説明書に従って行った。結果を図3に示す。ナリンゲニンカルコン添加によりアディポネクチン遺伝子発現が増強されていることがわかり、実施例2とあわせてナリンゲニンカルコンがアディポネクチン分泌及び遺伝子発現を増強・促進していることがわかる。
【実施例4】
【0034】
<肥満・糖尿病モデル動物における血中アディポネクチン分泌量促進効果の評価>
肥満、2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(日本クレア)を用いて生体内におけるアディポネクチン分泌促進効果について確認した。5週齢雄性マウスを1週間MF飼料(オリエンタル酵母)にて予備飼育後、血糖、体重に群間で差が生じないように群分けした。1群5匹とし、群分けは以下のように行った:A.control群(MF飼料)、B.0.02%NGC群(ナリンゲニンカルコン0.02%となるようMF飼料に混餌)、C.0.1%NGC群(ナリンゲニンカルコン0.1%となるようMF飼料に混餌)。動物は個体ごとに飼育し、水、餌ともに自由に摂取させた。体重、摂餌量は2日に1度、定刻に記録を行った。試験期間中、各群間で体重および摂餌量に差は認められなかった。4週間飼育後、麻酔下で心臓から採血を行い、得られた血清中のアディポネクチン量をアディポネクチンELISAキット(大塚製薬)にて測定した。結果を図4に示す。ナリンゲニンカルコンの摂取量依存的に血中アディポネクチン濃度が上昇していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明で得られるアディポネクチン産生増強・促進剤は、優れたアディポネクチン産生増強・促進作用を有する。従って、これらを使用することによって、アディポネクチン分泌不全に起因する動脈硬化症又は糖尿病、及びメタボリックシンドロームの予防・改善剤を提供することが可能となる。さらに、これらを含む医薬品、飲食品又は化粧品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】細胞培養上清のアディポネクチン濃度をELISA法により測定したものである。(実施例2)
【図2】サンプル処理開始24時間後の細胞の様子を顕微鏡で写真撮影したものである。(実施例2)
【図3】細胞のアディポネクチン遺伝子発現を定量PCR法により測定したものである。(実施例3)
【図4】肥満・2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウスの血中アディポネクチン料をELISA法により測定したものである。(実施例4)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナリンゲニンカルコン又はその誘導体を有効成分とする、アディポネクチン産生増強・促進剤。
【請求項2】
ナリンゲニンカルコン又はその誘導体がトマト抽出物に含まれるものである、請求項1記載のアディポネクチン産生増強・促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の剤を含有する、医薬品又は飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−115163(P2008−115163A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260194(P2007−260194)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】