説明

アデノウイルスベクター産生のための方法および組成物

本発明は、細胞培養系で成長した場合のアデノウイルスの収率を改善する必要性に取り組む。特に、アデノウイルスについて、細胞培養系における37℃未満の感染温度の使用により、アデノウイルスの収率が改善されることを証明した。さらに、宿主細胞がバイオリアクター中で成長した場合、新鮮な培地およびアデノウイルスでの宿主細胞の希釈によるアデノウイルス感染の開始によって、アデノウイルスの収率が改善されることを証明した。37℃未満の感染温度を使用したアデノウイルスの産生および精製方法を開示する。宿主細胞をバイオリアクター中で成長させ、宿主細胞を新鮮な培地およびアデノウイルスで希釈することによってアデノウイルス感染を開始させるアデノウイルスの産生および精製方法も開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、一般に、細胞培養およびウイルス産生分野に関する。より詳細には、哺乳動物細胞の培養方法、これらの細胞のアデノウイルスでの感染、ならびにこれら由来の感染性アデノウイルス粒子の産生および精製に関する。なお、本出願は、2003年3月15日提出のU. S. Patent Application Serial No. 10/439, 278の出願日の恩典を主張する。上記引用の開示全体が、権利放棄することなく参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
2.関連分野の説明
種々の癌および遺伝病は、現在、遺伝子治療によって取り組まれている。ウイルスはしばしば感染した宿主の免疫系による検出を回避するが、特定の細胞種への核酸伝達で非常に有効である。これらの特徴は、一定のウイルスを遺伝子治療で使用するための遺伝子送達媒体としての魅力的な候補にしている(Robbins and Ghivizzani, 1998; Cristiano et al., 1998)。複製能力がなく、それにより非病原性を示す修飾アデノウイルスは、多数の代謝障害および腫瘍障害のための治療遺伝子を送達するための媒体として使用される。これらのアデノウイルスベクターは、特に、DNAが宿主ゲノムに組み込まれず、且つ導入遺伝子発現が制限されるので、一過性治療遺伝子発現によって最良に治療される癌などの障害に適切であり得る。アデノウイルスベクターはまた、遺伝子置換療法で特に有益であり、遺伝子または代謝の欠陥または欠失を、欠陥または欠失を修復する産物をコードする置換遺伝子の発現の提供によって修復する。
【0003】
アデノウイルスを、治療導入遺伝子またはレポーター導入遺伝子が種々の細胞種へ有効に送達されるように修飾することができる。ヒトの呼吸器疾患の原因である組換えアデノウイルス2型および5型(それぞれ、Ad2およびAdV5)は、アデノウイルスのうちで現在遺伝子治療用として開発されている。Ad2およびAdV5両方は、ヒト悪性疾患に関連しないアデノウイルスのサブクラスに属する。最近、ハイブリッドアデノウイルスベクターAdV5/F35が開発され、遺伝子治療および関連する研究で非常に興味深いものであることがわかっている(Yotnda et al., 2001)。
【0004】
組換えアデノウイルスは、非常に高レベルで導入遺伝子を送達させることができる。遺伝子不均衡を補完するインビボでの治療導入遺伝子の送達におけるこの系の有効性は、種々の障害の動物モデルで証明されている(Watanabe, 1986 ; Tanzawa et al., 1980; Golasten et al., 1983; Ishibashi et al., 1993; and Ishibashi et al., 1994)。実際、嚢胞性線維症膜貫通レギュレーター(CFTR)のcDNAをコードする組換え複製欠陥アデノウイルスは、少なくとも2つのヒトCF臨床試験での使用が承認されている(Wilson, 1993)。Hurwitz,et al.(1999)は、癌(網膜芽細胞腫)のマウスモデルにおけるアデノウイルス媒介遺伝子治療の治療有効性を示している。
【0005】
臨床試験が進行するにつれて、臨床グレードのアデノウイルスベクターの要求が劇的に増加している。300人の患者規模の臨床試験のための推定年間必要数は、約6×1014PFUに達し得る。
【0006】
伝統的には、アデノウイルスは、市販の組織培養フラスコまたは「Cellfactories」において産生される。一般に、アデノウイルスベクター産生は、T-フラスコなどのHEK293細胞が付着するための培養表面を供給する培養装置中で行われる。細胞に感染したウイルスは採集され、そして凍結融解されて、粗細胞溶解物の形態の細胞からウイルスを放出する。次いで、産生した粗細胞溶解物(CCL)は、二重CsCl勾配超遠心分離によって精製される。典型的に報告される100シングルトレイCellfactoriesから得られるウイルスは、約6×1012PFUである。明らかに、この伝統的なプロセスを用いて、必要量のウイルスを産生することは不可能となる。拡大縮小可能ならびに検証可能な新規の産生および精製プロセスが、増加する需要に見合うように開発されなければならない。
【0007】
CsCl勾配超遠心分離の精製処理能力は限られているので、遺伝子治療適用のためのアデノウイルスベクターの要求を満たすことができない。それゆえ、大規模アデノウイルスベクター産生を達成するために、CsCl勾配超遠心分離以外の精製方法が開発されなければならない。ウイルスのクロマトグラフィー精製の報告は、組換えタンパク質の精製のためのクロマトグラフィーの幅広い適用にもかかわらず、非常に限られている。サイズ排除、イオン交換、およびアフィニティークロマトグラフィーは、レトロウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、および植物ウイルスの精製について、成功の程度に変動はあるが、評価されている(Crooksら、1990;Aboudら、1982;McGrathら、1978;Smith and Lee,1978;O'NeilおよびBalkovic,1993)。アデノウイルスのクロマトグラフィー精製について行われた研究はさらに少ない。この研究活動の不足は、アデノウイルスのための有効な(拡大縮小不可能にもかかわらず)CsCl勾配超遠心分離精製法の存在に部分的に起因し得る。
【0008】
近年、Huygheら(1996)は、金属キレートアフィニティクロマトグラフィーと組み合わせてイオン交換クロマトグラフィーを用いる、アデノウイルスベクター精製を報告した。CsCl勾配超遠心分離と同様のウイルス純度が報告された。不運なことに、二重カラム精製プロセスの後には23%のウイルスしか回収されなかった。この低いウイルス回収に寄与するプロセス因子は、細胞からウイルスを放出するために著者らが利用した、細胞を溶解する凍結/融解工程、および2つのカラム精製手順である。
【0009】
ほとんどのE1欠失初代アデノウイルスベクターでは、アデノウイルスベクターのE1欠失をイントランス(in trans)で補完するHEK293細胞を使用して産生する。HEK293細胞の足場依存性のために、アデノウイルスベクターは、Tフラスコ、多層Cellfactories(商標)、および大規模CellCube(商標)バイオリアクターシステムなどの、HEK293細胞の付着のための培養表面を供給する培養装置中で産生させる。最近、HEK293細胞は、懸濁バイオリアクター中でアデノウイルスベクターを産生させる種々の無血清培地中の懸濁培養に適合している。遠心分離を使用したウイルス感染時の完全な培地交換は大規模の場合に実施が困難である。さらに、外部濾過デバイスに必要な培地の再循環に関連する剪断応力は、無タンパク質培地中の宿主細胞に悪影響を及ぼす可能性が高い。
【0010】
明らかに、このような産物の増え続ける要求を満たすために産物を高収率で回収するアデノウイルスベクター産生の改良方法が要求されている。アデノウイルスベクター産生の改良方法には、より有効に産生するための改良技術またはアデノウイルスベクター産生を増加させるための条件操作の至適化が含まれ得る。
【0011】
アデノウイルスの産生および精製における条件操作の研究は極めて少ない。1つの研究(Jardon and Garnier, 2003)は、E1およびE3欠失Ad5産生における一定の操作条件(温度、pH、およびpCO2が含まれる)の効果を考察している。
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本発明は、アデノウイルスを培地中で成長した宿主細胞の感染によって産生した場合、アデノウイルス産生は37℃をわずかに下回る感染温度で最大となるという発見に基づく。アデノウイルス感染のための最適な感染温度範囲の同定により、遺伝子治療のためのアデノウイルスベクターの産生技術が有意に改良される。
【0013】
さらに、本発明は、宿主細胞がバイオリアクター中で成長する場合、新鮮な培地を交換する希釈工程を、アデノウイルス感染工程と組み合わせることができるという発見に基づく。より詳細には、個別の培地交換工程を必要としない。したがって、2工程の単一工程への組み合わせによってアデノウイルスの大量産生技術をより効率的に実施することができる。この希釈/感染方法を使用して、感染前に遠心分離して完全に培地交換する標準的方法と比較してほぼ等価なウイルス産生性が達成された。
【0014】
したがって、アデノウイルスの産生および精製に関連する改良技術を提供することにより、新規に発見された改良を活用するように本発明をデザインする。したがって、本発明は、アデノウイルスの産生および精製に関する方法ならびにこれらの新規の発見にしたがって産生および精製されたアデノウイルスの組成物に関する。
【0015】
本発明の方法は、(1)培地中で宿主細胞を成長させる工程;および37℃未満の成長許容温度で宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程を含むアデノウイルス調製物を調製する工程;および(2)前記アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する工程を含むアデノウイルスの産生方法を含む。一定の態様では、宿主細胞のアデノウイルスへの感染を、31℃を超えるが37℃未満の温度で行う。例えば、宿主細胞のアデノウイルスへの感染を、32℃〜36℃、33℃〜36℃、34℃〜36℃、35℃〜36℃の温度範囲内もしくは任意の温度範囲内の温度または誘導可能な温度に上昇させて行うことができる。他の態様では、宿主細胞のアデノウイルスへの感染を、32℃〜37℃未満、33℃〜37℃未満、34℃〜37℃未満、35℃〜37℃未満、36℃〜37℃未満の温度範囲内もしくは任意の温度範囲内の温度または誘導可能な温度に上昇させて行う。他の態様では、宿主細胞のアデノウイルスへの感染を、約36℃、約35℃、約34℃、約33℃、約32℃の温度もしくは任意の温度範囲の温度または誘導可能な温度に上昇させて行うことができる。
【0016】
アデノウイルス産生方法に関連する本発明の開示の態様では、培地が宿主細胞の成長を補助することができる限り、宿主細胞の任意の成長培地を意図する。本発明の一定の態様では、培地はDMEM+2%FBSである。本発明はまた、宿主細胞の成長を補助するために培地に他の物質を添加することができることを意図する。当業者は、細胞成長を促進するために使用することができる物質および添加物の範囲に精通している。例えば、いくつかの態様では、培地中のグルコース濃度を約0.5gグルコース/リットル〜約3.0 gグルコース/リットルの間に維持する。
【0017】
本発明の他の態様は、(1)バイオリアクター中の培地中で宿主細胞を成長させ、宿主細胞の新鮮な培地およびアデノウイルスでの希釈によってウイルス感染を開始する工程を含む、アデノウイルス調製物を調製する工程;および(2)アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する工程を含む、アデノウイルスの産生方法に関連する。宿主細胞の成長を補助することができる当業者に公知の任意のバイオリアクターを、本発明で使用することを意図する。種々のバイオリアクター型の詳細な考察を、本明細書の以下の他の部分に示す。
【0018】
バイオリアクターを必要とする本発明の種々の態様は、培地がバイオリアクターでの細胞成長を補助することができる限り、バイオリアクターと組み合わせて任意の培地型を使用することができることが意図される。例えば、培地は、無血清培地であり得る。他の態様では、培地は無タンパク質培地であり得る。いくつかの態様では、培地はCD293培地である。本発明の態様では、宿主細胞を、足場依存性培養または非足場依存性(懸濁)培養で成長させることができる。
【0019】
バイオリアクターを必要とするアデノウイルスの産生方法に関する本発明の態様では、当業者に公知の任意のバイオリアクターが本発明で意図される。一定の態様では、例えば、バイオリアクターは、平面プラットフォームの軸揺動(axial rocking)を使用してバイオリアクターの内側で波動を誘導するバイオリアクターを含む。いくつかの態様では、宿主細胞が存在する滅菌ポリエチレンバッグの内側で波動を誘導する。さらなる態様では、バイオリアクターは使い捨てのバイオリアクターである。バイオリアクターの任意のサイズが本発明で意図される。例えば、バイオリアクターは10Lのバイオリアクターであり得る。さらに、バイオリアクターは、市販のバイオリアクターであり得る。例えば、バイオリアクターは、Waveバイオリアクター(登録商標)(Wave Biotech, LLC, Bedminster, NJ)であり得る。
【0020】
アデノウイルス産生方法に関連する本発明の開示の態様では、細胞培養の操作条件を、当業者に公知の任意の技術によってモニタリングまたは測定することができることを意図する。モニタリングすることができるこのような条件の例には、培地のpHおよび培地の溶存酸素圧が含まれる。
【0021】
アデノウイルス産生方法に関連する本発明のいくつかの態様はまた、当業者に公知の任意の方法による培地の処理および処置を含む。例えば、本発明の一定の態様では、アデノウイルスの産生方法は、フィルターを介した培地の灌流を含む。フィルターは、バイオリアクターシステムの内部のフィルターであり得るか、フィルターをバイオリアクターに対して外部になるように組み込むことができる。一定の態様では、フィルターは浮遊平面フィルター(floating flat filter)である。浮遊平面フィルターを使用して、バイオリアクターから使用済みの培地を除去することができる。当業者に公知の任意の方法を使用して、培地体積をモニタリングおよび維持することができる。いくつかの態様では、培養液量を、新鮮な培地の添加を開始させるために使用したロードセルによって維持する。
【0022】
本発明の態様では、培地を、宿主細胞の培養物に灌流しても灌流しなくてもよい。本発明のいくつかの態様では、培地の灌流を宿主細胞成長の3日目から開始する。当業者は、細胞培養系への培地の灌流に利用可能な広範な技術および装置に精通している。
【0023】
アデノウイルスの産生方法に関連する本発明の態様では、新鮮な培地での宿主細胞の希釈工程を、アデノウイルス感染工程と組み合わせることができる。これは、アデノウイルスベクターの優れた収率を得るためにこれらの2つの工程を効率的に組み合わせることができるという本発明者らの発見に基づく。本発明は、当業者に公知の任意の希釈方法の使用を意図する。一定の態様では、宿主細胞を、新鮮な培地およびアデノウイルスで2倍〜50倍に希釈する。他の態様では、宿主細胞を、新鮮な培地およびアデノウイルスで10倍に希釈する。
【0024】
アデノウイルスの産生方法に関連する本発明の態様では、宿主細胞のウイルス感染の開始を、当業者に公知の任意の方法によって行うことができる。例えば、バイオリアクターの使用を含む本発明の態様では、第2のバイオリアクターでウイルス感染が起こり得る。例えば、宿主細胞のウイルス感染を、20〜100vp/宿主細胞の添加によって行うことができる。一定の他の態様では、ウイルス感染は、約50vp/宿主細胞の添加を含む。ウイルス感染を、任意の持続時間で進行させることができる。当業者は、ウイルス感染の進行のモニタリングに関連する技術に精通している。本発明の一定の態様では、ウイルス感染を約4日間進行させる。本発明の一定の他の態様では、ウイルス感染完了から約4日後にアデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する。
【0025】
アデノウイルス産生を含む本発明の態様では、宿主細胞の使用を意図する。細胞がアデノウイルスの複製を補助することができる限り、任意の細胞型を使用することができる。当業者は、宿主細胞由来のアデノウイルスの産生で使用することができる宿主細胞の範囲に精通している。例えば、本発明のいくつかの態様では、宿主細胞は、複製欠損アデノウイルスを意図する。複製欠損アデノウイルスは、E1領域の少なくとも一部を欠くアデノウイルスであり得るか、E1Aおよび/またはE1B領域の少なくとも一部を欠くアデノウイルスであり得る。例えば、宿主細胞は、293細胞、HEK293細胞、PER.C6細胞、911細胞、およびIT293SF細胞であり得る。本発明の一定の態様では、宿主細胞はHEK293細胞である。
【0026】
本発明のいくつかの態様では、アデノウイルスは組換えアデノウイルスである。例えば、組換えアデノウイルスは、プロモーターに作動可能に連結された組換え遺伝子をコードすることができる。プロモーターがプロモーターとして機能することができる限り、当業者に公知の任意のプロモーターを使用することができる。例えば、一定の態様では、SV40 EI、RSV LTR、β-アクチン、CMV-IE、アデノウイルス主要後期、ポリオーマF9-1、またはチロシナーゼプロモーターである。
【0027】
アデノウイルスが組換え遺伝子をコードするアデノウイルスである本発明の態様では、任意の組換え遺伝子(特に、治療遺伝子)が本発明で意図される。例えば、組換え遺伝子は、アンチセンスras、アンチセンスmyc、アンチセンスraf、アンチセンスerb、アンチセンスsrc、アンチセンスfms、アンチセンスjun、アンチセンスtrk、アンチセンスret、アンチセンスgsp、アンチセンスhst、アンチセンスbcl、アンチセンスabl、Rb、CFTR、p16、p21、p27、p57、p73、C-CAM、APC、CTS-1、zac1、scFV ras、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、BRCA1、VHL、MMAC1、FCC、MCC、BRCA2、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、GM-CSF、G-CSF、チミジンキナーゼ、mda7、fus、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、ADP(アデノウイルス死滅タンパク質)、またはp53からなる群より選択され得る。いくつかの態様では、組換え遺伝子は、p53遺伝子である。他の態様では、組換え遺伝子は、mda-7遺伝子である。
【0028】
本発明のいくつかの態様では、組換え遺伝子は、アンチセンスras、アンチセンスmyc、アンチセンスraf、アンチセンスerb、アンチセンスsrc、アンチセンスfms、アンチセンスjun、アンチセンスtrk、アンチセンスret、アンチセンスgsp、アンチセンスhst、アンチセンスbcl、アンチセンスabl、Rb、CFTR、p16、p21、p27、p57、p73、C-CAM、APC、CTS-1、zac1、scFV ras、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、BRCA1、VHL、MMAC1、FCC、MCC、BRCA2、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、GM-CSF、G-CSF、チミジンキナーゼ、mda7、fus、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、ADP、p53、ABLI、BLC1、BLC6、CBFA1、CBL、CSFIR、ERBA、ERBB、EBRB2、ETS1、ETS2、ETV6、FGR、FOX、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TAL1、TCL3、YES、MADH4、RB1、TP53、WT1、TNF、BDNF、CNTF、NGF、IGF、GMF、aFGF、bFGF、NT3、NT5、ApoAI、ApoAIV、ApoE、Rap1A、シトシンデアミナーゼ、Fab、ScFv、BRCA2、zac1、ATM、HIC-1、DPC-4、FHIT、PTEN、ING1、NOEY1、NOEY2、OVCA1、MADR2、53BP2、IRF-1、Rb、zac1、DBCCR-1、rks-3、COX-1、TFPI、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、VEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはMCCである。
【0029】
本発明のさらなる態様では、組換え遺伝子は、ACP デサチュラーゼ、ACPヒドロキシラーゼ、ADP-グルコースピロホリラーゼ、ATPアーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、シクロオキシゲナーゼ、デカルボキシラーゼ、デキストリナーゼ、エステラーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、ヒアルロンシンターゼ、ガラクトシダーゼ、グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、GTPアーゼ、ヘリカーゼ、ヘミセルラーゼ、ヒアルロニダーゼ、インテグラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、ラクターゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、リアーゼ、リゾチーム、ペクチンエステラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテイナーゼ、ペプチデアーゼ(peptidease)、プルラナーゼ、リコンビナーゼ、逆転写酵素、トポイソメラーゼ、キシラナーゼ、レポーター遺伝子、インターロイキン、またはサイトカインをコードする遺伝子である。
【0030】
本発明の他の態様では、組換え遺伝子が、カルバモイルシンテターゼI、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギノスクシネートシンテターゼ、アルギノスクシネートリアーゼ、アルギナーゼ、フマリルアセトアセテートヒドロラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、α-1 アンチトリプシン、グルコース-6-ホスファターゼ、低密度リポタンパク質受容体、ポルホビリノゲンデアミナーゼ、第VIII因子、第IX因子、シスタチオンβ-シンターゼ、分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼ、アルブミン、イソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、メチルマロニルCoAムターゼ、グルタリルCoA デヒドロゲナーゼ、インスリン、β-グルコシダーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、肝臓ホスホリラーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グリシンデカルボキシラーゼ、H-タンパク質、T-タンパク質、メンケス病銅輸送ATPアーゼ、ウィルソン病銅輸送ATPアーゼ、シトシンデアミナーゼ、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、α-L-イズロニダーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、HSVチミジンキナーゼ、またはヒトチミジンキナーゼをコードする遺伝子である。または、組換え遺伝子は、成長ホルモン、プロラクチン、胎盤性ラクトゲン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、絨毛性ゴナドトロピン、甲状腺刺激ホルモン、レプチン、アドレノコルチコトロピン、アンギオテンシンI、アンギオテンシンII、β-エンドルフィン、β-メラニン細胞刺激ホルモン、コレシストキニン、エンドセリンI、ガラニン、胃抑制ペプチド、グルカゴン、インスリン、リポトロピン、ニューロフィシン、ソマトスタチン、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、β-カルシトニン遺伝子関連ペプチド、悪性腫瘍因子の高カルシウム血症、副甲状腺ホルモン関連タンパク質、副甲状腺ホルモン関連タンパク質、グルカゴン様ペプチド、パンクレアスタチン、膵臓ペプチド、ペプチドYY、PHM、セクレチン、血管活性腸管ペプチド、オキシトシン、バソプレシン、バソトシン、エンケファリンアミド、メトロフィンアミド、αメラニン細胞刺激ホルモン、心房性ナトリウム利尿因子、アミリン、アミロイドP成分、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出因子、黄体形成ホルモン放出ホルモン、神経ペプチドY、サブスタンスK、サブスタンスP、または甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンをコードすることができる。
【0031】
本発明の一定の態様は、アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する工程を含むアデノウイルスの産生方法に関する。当業者に公知のアデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する任意の方法が本発明で意図される。本発明の一定の態様では、宿主細胞を感染後であるがアデノウイルスによる溶解前に回収し、凍結融解、自己溶解、または界面活性剤溶解によって宿主細胞を溶解する。本発明の一定の他の態様では、アデノウイルスの産生方法は、アデノウイルス調製物中の夾雑核酸の濃度を減少させる工程を含む。
【0032】
本発明のいくつかの態様では、単離されたアデノウイルスを、薬学的に許容される組成物中に配置する。当業者は、薬学的に許容される組成物の調製で使用される多数の方法および技術に精通している。アデノウイルスを製剤化することができる任意の薬学的組成物が本発明で意図される。例えば、本発明の一定の態様は、経口投与、局所投与、または静脈内投与のためのアデノウイルスの薬学的調製物に関連する。
【0033】
本発明の一定の態様は、アデノウイルス調製物から単離されたアデノウイルスの精製方法を含む。当業者は、アデノウイルス精製に利用可能な広範な技術に精通している。例えば、アデノウイルスの精製は、クロマトグラフィ工程を含み得る。本発明のいくつかの態様では、クロマトグラフィ工程はアデノウイルスを複数のクロマトグラフィ分離に供する工程を含むのに対して、他の態様では、クロマトグラフィ工程はアデノウイルスをただ1つのクロマトグラフィ分離に供する工程を含む。他の態様では、クロマトグラフィ分離はイオン交換クロマトグラフィを含む。
【0034】
本発明のいくつかの態様は、ウイルス産生の分析を含む。例えば、ウイルス産生をHPLCを使用して分析することができる。当業者に公知のウイルス産生を分析するための任意の技術が本発明で意図される。
【0035】
本発明のいくつかの態様では、上記および本明細書の他の場所に開示のアデノウイルスの産生方法は、一つまたは複数の以下の性質:(1) ウイルス力価が1×109pfu/ml〜約1×1013pfu/ml;(2) ウイルス粒子濃度が約1×1010粒子/ml〜約2×1013粒子/ml;(3) 粒子:pfu比が約10〜約60;(4) 1×1012ウイルス粒子あたりのBSAが50ng未満;(5)1×1012ウイルス粒子あたりの夾雑ヒトDNAが約50pg〜1ng;(6)本質的にピーク下面積の97%〜99%からなる単一のHPLC溶離ピーク;を有する精製アデノウイルス組成物を得る工程を含む、アデノウイルスの単離および精製方法に関する。一定の態様では、上記考察の工程によって調製されたアデノウイルス組成物は、5×1014個〜1×1018個のウイルス粒子を含む。他の態様では、組成物は、薬学的に許容される組成物である。
【0036】
本発明のいくつかの態様では、上記および本明細書の他の場所に考察したアデノウイルスの産生方法は、(1)アデノウイルス調製物を第1のクロマトグラフィ媒体(medium)によるクロマトグラフィに供し、それによりアデノウイルス粒子が前記第1のクロマトグラフィ媒体上に保持される工程;(2)前記第1のクロマトグラフィ媒体から前記アデノウイルス粒子を溶離して、前記アデノウイルス粒子の溶離物を産生する工程;(3)前記溶離物由来のアデノウイルス粒子を前記第2のクロマトグラフィ媒体によるクロマトグラフィに供し、第2のクロマトグラフィ媒体が前記溶離物由来の一つまたは複数の夾雑物を保持する工程であって、前記第2のクロマトグラフィ媒体がサイズ排除担体のみではない、工程;および(4)前記溶離物から前記アデノウイルス粒子を回収する工程;を含む、アデノウイルス調製物からのアデノウイルスの単離を含む。一定の態様では、第1のクロマトグラフィ媒体は、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティ媒体、硫酸化アフィニティ媒体、免疫アフィニティ媒体、ヘパリンアフィニティ媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、およびハイドロフォビン相互作用担体からなる群より選択される。他の態様では、第2のクロマトグラフィ媒体は、陽イオン交換媒体、陰イオン交換媒体、固定化金属アフィニティ媒体、硫酸化アフィニティ媒体、色素アフィニティ媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、免疫アフィニティ媒体、ヘパリンアフィニティ媒体、および疎水性相互作用媒体からなる群より選択される。
【0037】
本発明の他の態様では、上記および本明細書の他の場所に考察したアデノウイルスの産生方法は、(1) アデノウイルス調製物を第1のクロマトグラフィ媒体によるクロマトグラフィに供し、それによりアデノウイルス調製物由来の夾雑物が前記第1のクロマトグラフィ媒体上に保持される工程;(2)溶離物中に残存するアデノウイルス粒子を第2のクロマトグラフィ媒体によるクロマトグラフィに供し、それにより前記溶離物由来の前記アデノウイルス粒子が前記第2のクロマトグラフィ媒体上に保持される工程であって、前記第2のクロマトグラフィ媒体が陰イオン交換媒体である場合、前記第1のクロマトグラフィ媒体がスルホン化ポリサッカリドアフィニティ担体以外の担体である、工程;および(3)前記第2のクロマトグラフィ媒体からアデノウイルス粒子を溶離する工程;を含む、アデノウイルス調製物からのアデノウイルスの単離を含む。一定の態様では、第1のクロマトグラフィ媒体は、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティ媒体、硫酸化アフィニティ媒体、免疫アフィニティ媒体、ヘパリンアフィニティ媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、およびハイドロフォビン相互作用担体からなる群より選択される。他の態様では、第2のクロマトグラフィ媒体は、陽イオン交換媒体、陰イオン交換媒体、固定化金属アフィニティ媒体、硫酸化アフィニティ媒体、色素アフィニティ媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、免疫アフィニティ媒体、ヘパリンアフィニティ媒体、および疎水性相互作用媒体からなる群より選択される。当業者に公知の任意のクロマトグラフィ媒体が本発明で意図される。当業者は、特許請求の範囲に記載の発明の実施に利用可能な培地範囲に精通している。
【0038】
本発明の1つの方法に関して本明細書で考察した態様は本発明の他の方法に関して実施されうることが意図される。
【0039】
特許請求の範囲および/または本明細書中で「comprising」と組み合わせて使用される場合、用語「a」または「an」の使用は、「1つ」を意味し得るが、「一つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは1つより多く」の意味とも一致する。
【0040】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなる。しかし、この詳細な説明から本発明の精神および範囲内の種々の変更形態および修正形態が当業者に明らかとなるので、詳細な説明および特定の実施例は本発明の特定の態様を示すが、例示のみを目的として記載すると理解すべきである。
【0041】
例示的態様の説明
真核遺伝子発現およびワクチン開発においてアデノウイルスベクターを首尾よく使用することができることが示されている。アデノウイルスを遺伝子治療に使用することができるという証拠が増加している。組換えアデノウイルスの異なる組織への投与における研究の成功は、遺伝子治療におけるアデノウイルスベクターの有効性を証明している。この成功により、ヒト臨床試験においてこのようなベクターが使用されている。現在、種々の治療で使用すべきアデノウイルスベクターの産生の要求が増加している。現在利用可能な技術は、このような要求を満たすには不十分である。本発明は、このような治療で使用するための大量のアデノウイルスの産生および精製方法を提供する。
【0042】
本発明者らは、アデノウイルス産生は37℃をわずかに下回る温度で最大となるという驚くべき発見をした。アデノウイルス感染のための最適な感染温度範囲の同定により、遺伝子治療のためのアデノウイルスベクターの産生技術が有意に改良される。
【0043】
さらに、本発明は、宿主細胞がバイオリアクター中で成長する場合、新鮮な培地を交換する希釈工程を、ウイルス産生を損なうことなくアデノウイルス感染工程と組み合わせることができるという発見に基づく。より詳細には、個別の培地交換工程を必要としない。したがって、2工程の1工程への組み合わせによってアデノウイルスの大量産生技術をより効率的に実施することができる。
【0044】
したがって、本発明を、アデノウイルスベクターの産生および精製の目的のための大量培養系および精製におけるこれらの改良を活用するようにデザインする。本発明の新規の知見を使用したアデノウイルスの産生および精製方法を、以下に詳細に記載する。
【0045】
A.アデノウイルス
アデノウイルスは、30kb〜35kbのサイズ範囲のゲノムを有する線状二本鎖DNAを含む(Reddy et al., 1998; Morrison et al., 1997; Chillonet al., 1999)。ヒトアデノウイルスは50を超える血清型が存在し、免疫学的、分子的、および機能的基準に基づいて6つのファミリーに分類される80を超える関連形態が存在する(Wadell et al., 1980)。物理的には、アデノウイルスは、例えば、5型では35,935塩基対である二本鎖線状DNAゲノムを含む中型で20面体のウイルスである(Chroboczek et al., 1992)。アデノウイルスは、宿主細胞に侵入し、細胞の感染およびウイルスの複製のために核にウイルスゲノムを送達する。アデノウイルスゲノムの顕著な特徴は、初期領域(E1、E2、E3、およびE4遺伝子)、中期領域(pIX遺伝子、Iva2遺伝子)、後期領域(Ll、L2、L3、L4、およびL5遺伝子)、主要後期プロモーター(MLP)、逆方向末端反復(ITR)、およびΨ配列(Zheng, et al., 1999; Robbins et al., 1998; Graham and Prevec, 1995)である。感染後にウイルスから初期遺伝子E1、E2、E3、およびE4が発現し、これらは、ウイルス遺伝子発現、細胞遺伝子発現、ウイルス複製、および細胞アポトーシスの阻害を調節するポリペプチドをコードする。さらに、ウイルス感染時に、MLPが活性化されて、アデノウイルスキャプシド形成に必要なポリペプチドをコードする後期(L)遺伝子を発現する。中期領域は、アデノウイルスキャプシド成分をコードする。アデノウイルス逆方向末端反復(ITR;100〜200bp長)はcisエレメントであり、複製起点として機能し、ウイルスDNA複製に必要である。Ψ配列は、アデノウイルスゲノムのパッケージングに必要である。
【0046】
アデノウイルス(特に、アデノウイルス血清型2および5)による感染機構が広範に研究されている。CAR(Coxsackie Adenoviral Receptor)と呼ばれる宿主細胞表面タンパク質は、これらのアデノウイルスの一次結合受容体として同定された。CARの内因性細胞機能は、依然として解明されていない。ファイバーノブとCARとの間の相互作用は、細胞表面へのアデノウイルスの結合に十分である。しかし、その後のペントンベースとさらなる細胞表面タンパク質(αvインテグリンファミリーのメンバー)との間の相互作用が十分なウイルス内在化に必要である。内在化時にアデノウイルスの分解が開始され;線維タンパク質はCAR上に結合した細胞表面上にとどまる。アデノウイルスの残りは、ウイルス粒子が細胞質を介して核膜で孔複合体に輸送されるにつれて段階的様式で分解される。ウイルスDNAは、ウイルスDNAが複製される核へと核膜を介して押し出され、ウイルスタンパク質が発現し、新規のウイルス粒子がアセンブリされる。このアデノウイルス感染機構の特定の工程は、ウイルス感染および遺伝子発現を調節するための潜在的な標的であり得る。
【0047】
本発明の一定の態様では、アデノウイルスの産生方法で使用されるアデノウイルスは、複製欠損アデノウイルスであり得る。例えば、アデノウイルスは、E1領域の少なくとも一部を欠く複製欠損アデノウイルスであり得る。一定の態様では、アデノウイルスは、E1Aおよび/またはE1B領域の少なくとも一部を欠き得る。他の態様では、アデノウイルスは組換えアデノウイルスである(以下でさらに考察する)。
【0048】
B.宿主細胞
本発明の種々の態様は、アデノウイルスの産生方法を含む。「宿主細胞」は、アデノウイルスの複製を補助することができる細胞と定義される。細胞がアデノウイルスの複製を補助することができる限り、宿主細胞として使用するための任意の細胞型が本発明で意図される。例えば、宿主細胞は、HEK293細胞、PER.C6細胞、911細胞、またはIT293SF細胞であり得る。当業者は、アデノウイルスの産生方法での使用で利用可能な広範な宿主細胞に精通している。
【0049】
一定の態様では、アデノウイルスベクターの生成および増殖は、アデノウイルス血清型5(Ad5)DNAフラグメントによってヒト胚腎細胞から形質転換され、E1タンパク質を構成性に発現する、293と呼ばれる固有のヘルパー細胞株に依存する(Graham et al., 1997)。E3領域はAdゲノムから欠失可能であるので(Jones and Shenk, 1978)、293細胞を用いた現在のAdベクターは、E1もしくはE3のいずれかまたは両方の領域で外来DNAを保有する(Graham and Prevec, 1991; Bett et al., 1994)。
【0050】
本発明の種々の態様で使用される宿主細胞は、例えば、ヒト胚腎細胞または霊長類細胞などの哺乳動物細胞に由来し得る。他の細胞型には、Vero細胞、CHO細胞、または細胞がアデノウイルス許容性である細胞である限り細胞培養技術が確立されている任意の真核生物細胞が含まれ得るが、これらに限定されない。用語「アデノウイルス許容性」は、アデノウイルスあたはアデノウイルスベクターが、細胞環境内で細胞内ウイルス生存周期を全て完了し得ることを意味する。
【0051】
宿主細胞は、現存の細胞株(例えば、293細胞株)に由来し得るか、または新規に開発され得る。このような宿主細胞は、アデノウイルスゲノムにおけるイントランス(in trans)欠損を補完するのに必要な、または別の欠損アデノウイルスベクターの複製を支持するアデノウイルス遺伝子(例えば、E1、E2、E4、E5、および後期機能)を発現する。アデノウイルスゲノムの特定の部分(E1領域)は、補完する細胞株を作製するのに既に使用されている。組み込まれているかまたはエピソームのいずれにせよ、ウイルス複製起点を欠くアデノウイルスゲノムの部分は、細胞株に導入された場合、細胞を野生型アデノウイルスで重感染させた場合であっても、複製しない。さらに、主要後期ユニットの転写は、ウイルスDNA複製の後であるので、アデノウイルスの後期機能は、細胞株から有意に発現することができない。従って、E2領域(これは、後期機能(L1〜5)と重複する)が、細胞株によってではなくヘルパーウイルスによって提供される。典型的には、本発明の細胞株は、E1および/またはE4を発現する。
【0052】
アデノウイルスゲノムの一部を発現する宿主細胞である組換え宿主細胞も、本発明における宿主細胞としての用途が企図される。本明細書中で使用されるように、用語「組換え」細胞は、遺伝子(例えば、アデノウイルスゲノムまたは別の細胞からの遺伝子)が導入されている細胞を指すことが意図される。それゆえ、組換え細胞は、組換えにより導入された遺伝子を含まない天然に存在する細胞と区別可能である。従って、組換え細胞は、「人の手」を介して導入された遺伝子を有する細胞である。
【0053】
組換え宿主細胞株は、アデノウイルス組換えベクターの複製を補助することができ、一定のアデノウイルス遺伝子を欠失したヘルパーウイルスは、すなわち、これらのウイルスおよびベクターの成長について「許容性」である。複製不能アデノウイルスの欠失を補完し、複製を補助する能力から、組換え細胞をヘルパー細胞ともいう。
【0054】
複製可能なウイルスとともに使用される得るか、または複製欠損ウイルスとともに使用する補完宿主細胞に変換され得る、他の有用な哺乳動物細胞株の例は、VeroおよびHeLa細胞、ならびにチャイニーズハムスター卵巣細胞株、W138、BHK、COS-7、HepG2、3T3、RIN、およびMDCK細胞である。
【0055】
特定の実施態様において、所望でない細胞の増殖を防止する選択系を使用することが有用であり得る。これは、細胞株を選択可能マーカーで永久的に形質転換することによって、または選択可能マーカーをコードするウイルスベクターを細胞株に形質導入または感染させることによって達成され得る。いずれの場合でも、適切な薬物または選択的化合物で形質転換/形質導入した細胞の培養は、細胞集団において、マーカーを保有するこれらの細胞の増強を生じる。
【0056】
マーカーの例としては、それぞれ、tk-、hgprt-、またはaprt-細胞における、HSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。また、抗代謝産物耐性は、dhfr(メトトレキサートへの耐性を付与する);gpt(ミコフェノール酸への耐性を付与する);neo(アミノグリコシドG4l8への耐性を付与する);およびhygro(ハイグロマイシンへの耐性を付与する)についての選択の基準として使用され得る。
【0057】
足場依存性細胞の無血清懸濁培養への血清離脱順応は、組換えタンパク質(Berg,1993)およびウイルスワクチン(Perrin,1995)の産生のために使用されている。293A細胞の無血清懸濁培養への順応は、近年までほとんど報告されていなかった。Gilbertは、アデノウイルスおよび組換えタンパク質産生のための、293A細胞の無血清懸濁培養への順応を報告した(Gilbert,1996)。同様の順応方法は、アデノウイルス産生のためのA549細胞の無血清懸濁培養への順応のために使用されていた(Morrisら、1996)。しかし、順応した懸濁細胞における細胞特異的ウイルスの収量は、親付着細胞において達成されたものより約5〜10倍低い。
【0058】
2つの方法を使用して、懸濁培養に293細胞を適合させた。Grahamは、ヌードマウスの3連続継代によって293A細胞を懸濁培地(293N3S細胞)に適合させた(Graham, 1987)。懸濁293N3S細胞は、E1-アデノウイルスベクターを補助することができることが見出された。しかし、Garnier et al.(1994)は、293N35細胞は、懸濁液における比較的長い初期遅滞期、低成長速度、および強い凝集傾向を有することを認めた。
【0059】
使用した第2の方法は、293A細胞の懸濁成長への段階的適合である(Cold Spring Harbor Laboratories, 293S細胞)。Garnier et al. (1994)は、アデノウイルスベクター由来の組換えタンパク質の産生のための293S細胞の使用を報告した。著者は、293S細胞が無カルシウム培地中での凝集がより少なく、ウイルス感染時の新鮮な培地交換によってタンパク質産生を有意に増加させることができることを見出した。グルコースが培地交換を行わない培養における限定因子であることが見出された。
【0060】
C. 細胞培養系
感染性ウイルスベクターを産生する能力は、製薬産業、特に遺伝子治療の状況において、ますます重要である。この十年にわたって、バイオテクノロジーにおける進歩は、治療法、ワクチン、およびタンパク質産生機として使用可能な多数の重要なウイルスベクターの産生をもたらした。哺乳動物培養におけるウイルスベクターの使用は、ジスルフィド依存性折り畳みおよびグリコシル化のような複雑なタンパク質構造を転写後プロセスするそれらの能力の点で、細菌または他の下等生命体宿主において産生されるタンパク質を越える利点を有する。
【0061】
ウイルスベクター産生のための細胞培養の開発には、分子生物学における、哺乳動物細胞培養に非常に有効なべクター系の設計および構築技術、一連の有用な選択マーカー、遺伝子増幅スキームの開発、および導入したベクターからの最終生物活性分子の獲得に関与する生化学的および細胞機構のより総合的な理解が、大きな助けとなってきた。
【0062】
ウイルス産生方法を記載したPCT国際公開公報第98/00524号、米国特許第6,194, 191号、 米国公開特許出願第US-2002-0182723-A1号、および米国仮特許出願第60/406,591号 (2002年8月28日出願)は、組換えウイルス粒子の培養、産生、および精製のための技術の記載について、参照として具体的に本明細書に組み入れられる。
【0063】
本発明の一定の態様は、バイオリアクターの使用を必要とするアデノウイルスの産生方法に関連する。本明細書で使用される、「バイオリアクター」は、細胞培養の目的のために使用することができる任意の装置をいう。バイオリアクター中の本発明の増殖細胞は、本発明のアデノウイルスベクターによって感染され得る完全に生物学的に活性な細胞の大規模産生を可能にする。
【0064】
バイオリアクターは、懸濁および足場依存性細胞培養の両方からの生物学的産物の産生のために、広範に使用されている。アデノウイルスベクター産生のために最も広範に使用される産生細胞は、足場依存性ヒト胎児性腎臓細胞(293細胞)である。アデノウイルスベクター産生のために開発されるバイオリアクターは、高い産生細胞密度および高いウイルス収率を達成するために、高い体積比培養表面積(high volume-specific culture surface area)の特徴を有さなければならない。滅菌したタンクバイオリアクターにおけるマイクロキャリア細胞培養は、非常に高い体積比培養表面積を提供し、ウイルスワクチンの産生のために使用されてきた(Griffiths,1986)。さらに、滅菌したタンクバイオリアクターは、拡大縮小可能であることが工業的に証明されている。また、Corning-Costar製のマルチプレートCellcube(商標)細胞培養系は、非常に高い体積比培養表面積を提供する。細胞は、小型の立方体の形状に密閉された培養プレートの両側で増殖する。滅菌したバイオリアクターとは異なり、Cellcube(商標)培養ユニットは、使い捨てである。これは、使い捨て系に伴う資本的支出の削減、品質管理および品質保証費用の削減のために、臨床用製品の初期段階の製造において非常に望しい。異なる系によって提供される利点を考慮し、滅菌タンクバイオリアクターおよびCellcube(商標)系の両方を、アデノウイルスの産生について評価した。
【0065】
本発明の一定の態様は、特に、無血清懸濁培養でアデノウイルスを生成する方法で使用するためのWaveバイオリアクター(登録商標)の使用を必要とする。Waveバイオリアクター(登録商標)は、高価なCIPおよびSIP処理設備を必要とせずに種々の無菌室構成でを容易に改良することができる滅菌済みの使い捨てバイオリアクターシステムである。Waveバイオリアクター(登録商標)は、Wave Biotech(登録商標)モデル20/50EHであり得る。バイオリアクターは、任意の体積の培地を保持することができるが、一定の態様では、バイオリアクターは、10L(作業体積は5L)のバイオリアクターである。一定の態様では、バイオリアクターを、特定の速度および角度で振動するように調整することができる。一定の他の態様では、バイオリアクターは、使い捨ての溶存酸素圧(DOT)プローブなどの溶存酸素圧をモニタリングするためのデバイスを含み得る。バイオリアクターはまた、培地の温度をモニタリングするデバイスも含み得る。他の態様は、培地に送達させるCO2ガス比率を調整することができるガスミキサーなどの培養pHの測定および調整のためのデバイスを含む。バイオリアクターは、使い捨てのバイオリアクターであっても、そうでなくてもよい。
【0066】
本明細書中で使用される「培地」は、細胞の成長を促進することができる任意の物質をいう。当業者は、細胞培養系で使用することができる利用可能な培地種の範囲に精通している。本発明の一定の態様では、宿主細胞を、無血清培地である培地で成長させる。本発明の他の態様では、宿主細胞を、無タンパク質培地である培地で成長させる。無タンパク質培地の1つの例は、CD293である。本発明の特定の態様で宿主細胞成長を補助することができる培地の他の例は、DMEM+2%FBSである。当業者は、細胞成長を促進および調節するために培地に種々の成分および薬剤を添加することができることを理解している。例えば、培地のグルコース濃度を、一定のレベルに維持することができる。本発明のアデノウイルス産生方法の1つの態様では、グルコース濃度を約0.5gグルコース/リットル〜約3.0 gグルコース/リットルに維持する。
【0067】
1.足場依存性培養対非足場依存性培養
本発明のいくつかの態様では、アデノウイルスの産生方法は、足場依存性培養における宿主細胞の成長が必要である一方で、他の態様は非足場依存性培養におけるアデノウイルスの産生方法に関する。動物細胞およびヒト細胞を、以下の2つの様式:培養物全体の懸濁液中で自由に成長する非足場依存性細胞として;または増殖のために固体基質への付着が必要な足場依存性細胞(すなわち、単層型の細胞成長)として増殖させることができる。
【0068】
連続的に確立された細胞株由来の非足場依存性培養または懸濁培養は、最も広範に使用されている細胞および細胞産物の大量産生手段である。バイオリアクターを、しばしば懸濁培養系中で使用する。しかし、本発明の文脈では、バイオリアクターを、足場依存性培養で使用することもできる。大量懸濁培養は、ウイルスベクター産生で有利であり得る。例えば、プロセスの操作は比較的単純であり、スケールアップが容易である。上記考察のように、溶存酸素およびpHなどの培養条件を正確にモニタリングおよび調節可能なバイオリアクターで、均一な条件を得ることができる。
【0069】
2.バイオリアクターおよび懸濁プロセス
本発明の選択された態様の状況で使用されるバイオリアクターは、撹拌タンクバイオリアクターであり得る。攪拌タンク中の哺乳動物培養の大量懸濁培養を¥が記載されている。バイオリアクターの計装制御設備を、発酵槽のデザインと共に、関連する微生物の適用から適合させた。しかし、成長がより遅い哺乳動物培養における夾雑物管理の要求の増加が認められたので、改良された無菌デザインを迅速に実施し、これらのリアクターの信頼性を改善した。計装制御設備は、他の発酵槽で見出されるものと基本的に同一であり、撹拌、温度、溶存酸素、およびpHの調節を含む。濁度(存在粒子の関数)、キャパシタンス(存在生細胞の関数)、グルコース/乳酸、炭酸/重炭酸、および二酸化炭素のオンラインおよびオフライン測定のためのより高度なプローブおよび自動分析装置を利用可能である。本発明の1つの態様では、自動分析装置は、YSI-2700 SELECT(商標)分析器である。
【0070】
2つの懸濁培養バイオリアクターデザインは、その操作の簡素さおよび堅牢性によって産業で広く使用されている(撹拌バイオリアクターおよびエアリフトバイオリアクター)。撹拌バイオリアクターデザインは、インターフェロン製造のために8000リットルの容量スケールで首尾よく使用されている(Phillips et al., 1985; Mizrahi,1983)。細胞を、高さ:直径比が1:1〜3:1のステンレススチールタンクで成長させる。培養物を、通常、ブレード付きのディスクまたは船用プロペラパターンに基づく一つまたは複数の撹拌機で混合する。ブレードよりも剪断力の低い撹拌システムが記載されている。直接または磁気的に結合した駆動装置によって間接的に撹拌を駆動することができる。間接的駆動蔵置は、撹拌シャフト上のシールを介した微生物の夾雑リスクを軽減する。
【0071】
本発明の一定の態様では、バイオリアクターは、バイオリアクターの内側で波動を誘導するための平面プラットフォームの軸揺動を含む。他の態様では、ポリエチレンビニルアセテートおよびエチルビニルアルコールの層から作製された滅菌バッグの内側で波動を誘導する。
【0072】
エアリフトバイオリアクター(微生物発酵のために最初に記載され、後に哺乳動物培養に適合された)は、気流によって培養物を混合かつ酸素添加する。気体流は、バイオリアクターの上昇部に入り、循環を駆動する。気体は培養表面で離散し、気泡の無い密な液体をバイオリアクターの下降部中で下向きに移動させる。この設計の主な利点は、単純性、および機械的混合が不要なことである。典型的には、高さ-直径比は、10:1である。エアリフトリアクターは、比較的容易にスケールアップし、気体の良好な物質移動を有し、そして比較的低い剪断力を生じる。
【0073】
最も大規模な懸濁培養は、バッチまたはフェッドバッチプロセスとして操作される。なぜなら、それらは操作およびスケールアップするのが最も簡単であるからである。しかし、ケモスタットまたは灌流方式に基づく連続プロセスが入手可能である。
【0074】
バッチプロセスは、典型的な増殖プロフィールが見られる閉鎖系である。遅滞期の後、指数期、定常期、および減衰期に続く。このような系において、環境は、栄養素が枯渇し、代謝産物が蓄積するにつれて連続的に変化する。これは、細胞増殖および産生性に影響する要因の分析、およびそれによりプロセスの至適化を複雑の作業にする。バッチプロセスの生産性は、増殖周期を延長させるために、鍵となる栄養素の供給を制御することによって増加し得る。このようなフェッドバッチプロセスは、細胞、産物、および老廃物が除去されないので、依然として閉鎖系である。
【0075】
依然として閉鎖系において、培養物を通じた新鮮な培地の灌流は、細胞を種々の装置(例えば、微細メッシュ回転フィルター、中空繊維または平厚板膜フィルター、沈澱管)で維持することによって達成され得る。真の開放系および最も単純な灌流プロセスは、培地の流入ならびに細胞および産物の流出が存在するケモスタットである。培養培地は、細胞の最大比増殖速度より低い値で培養の希釈率を維持する(リアクターからの細胞集団の洗い出しを防ぐため)所定の一定速度で、リアクターに供給される。細胞および細胞産物および副産物を含む培養液は、同じ速度で除去される。
【0076】
本発明のアデノウイルスの産生方法の一定の態様では、培地交換を可能にするためのシステムを含むようにバイオリアクターシステムを組み立てる。例えば、培地交換を容易にするために使用済みの培地から細胞を分離させるためのフィルターをバイオリアクターシステムに組み込むことができる。本発明のアデノウイルスの産生方法のいくつかの態様では、一定の細胞成長日数で開始する培地の交換および灌流を行う。例えば、培地の交換および灌流は、細胞成長3日目から開始することができる。フィルターは、バイオリアクターの外部に存在するか、バイオリアクターの内部に存在し得る。
【0077】
本発明の1つの態様では、フィルターは、バイオリアクターの内部に存在する浮遊平面フィルターである。フィルターにより、細胞と使用済みの培地が分離される。一定の態様では、使用済みの培地を、浮遊フィルターによって回収する。本発明の種々の態様では、培地の再循環は必要であっても必要でなくてもよい。1つの態様では、波動を使用して、培地灌流時のフィルターの詰まりを最小にする。新鮮な培地添加を引き起こすために使用されるロードセルによって培養体積を維持することができる。当業者は、培地の灌流に使用することができる種々のフィルターおよびバイオリアクターへのフィルターの付着および細胞成長プロセスへのその組み込みに使用することができる種々の方法に精通している。
【0078】
3. 非灌流付着系
伝統的に、足場依存性細胞培養物は、小さなガラスまたはプラスチック容器の底部で増殖する。研究室規模に適切な、古典的で伝統的な技術によって提供される制限された表面-容量比は、大規模な細胞および細胞産物の産生において障害を生じる。小さな培養体積における細胞増殖のための大きな利用可能表面を提供する系を提供するために、多数の技術が報告されている:ローラーボトル系、積層プレート増殖器(stack plate propagator)、らせんフィルムボトル、中空繊維系、充填べッド(packed bed)、プレート交換系(plate exchanger system)、および膜チューブリール(membrane tubing reel)。これらの系は、性質が不均一であり、時々複数のプロセスに基づくので、以下の短所に悩まされる−スケールアップのための限定された能力、細胞サンプルを得ることにおける困難、鍵となるプロセスパラメーターを測定および制御するための限定された能力、および培養を通して均一な環境条件を維持することの困難。
【0079】
これらの欠点にもかかわらず、大規模な足場依存性細胞産生に一般的に使用されたプロセスは、ローラーボトルである。大きな異なる形状のTフラスコより小さいので、系の単純性が、非常に信頼でき、従って魅力的なものとする。1日あたり何千ものローラーボトルを操作し得る、完全な自動化ロボットが入手可能であり、従って、過度な人的操作を要する他の方法に伴う夾雑および矛盾の危険を排除する。頻繁な培地交換で、ローラーボトル培養は、0.5×106細胞/cm2に近い細胞密度を達成し得る(約109細胞/ボトルまたはおよそ107細胞/ml培養培地)。
【0080】
4. マイクロキャリアでの培養
伝統的な足場依存性培養プロセスの短所を克服するための努力の結果、van Wezel(1967)は、マイクロキャリア培養系の概念を開発した。この系において、細胞は、増殖培地に懸濁された小さな固体粒子の表面で、遅い撹拌によって増殖される。細胞はマイクロキャリアに付着し、そしてマイクロキャリアの表面でコンフルエンシーまで徐々に増殖する。実際、この大規模培養系は、付着依存性培養を、単一ディスクプロセスから、単層および懸濁培養の両方がともにもたらされたユニットプロセスにアップグレードする。従って、細胞の増殖に必要な表面と、均一な懸濁培養の利点との組み合わせにより、産生が増加する。
【0081】
多くの他の足場依存性大規模培養法に対し、マイクロキャリア培養は数倍有利である。第1に、マイクロキャリア培養は、高い表面-容量比(キャリア濃度を変化させることによって変動する)を提供し、これは、高い細胞密度収率、および高度に濃縮した細胞産物を得るための能力をもたらす。細胞収率は、培養物が灌流リアクター態様において増殖する場合、1〜2×107細胞/mlまでである。第2に、細胞は、多くの小さな低産生性容器(すなわち、フラスコまたは皿)を用いるかわりに、1ユニットのプロセス容器において増殖され得る。これは、さらに良好な栄養素利用、および培養培地の相当な節約を生じる。さらに、単一リアクターにおける増殖は、設備空間の必要性、および1細胞あたりに必要な操作工程数の減少をもたらし、従って、労働コストおよび夾雑の危険性を低減する。第3に、よく混合されそして均一なマイクロキャリア懸濁培養は、環境条件(例えば、pH、pO2、および培地成分の濃度)をモニターおよび制御することを可能にし、従ってより再現性のある細胞増殖および産物回収性をもたらす。第4に、顕微鏡観察、化学試験、または列挙のための代表的なサンプルを得ることが可能である。第5に、マイクロキャリアは迅速に懸濁物から沈澱するので、フェッドバッチプロセスの使用または細胞の採集が、比較的容易になされ得る。第6に、マイクロキャリアにおける足場依存性培養増殖の態様は、他の細胞操作(例えば、タンパク質分解酵素の使用を伴わない細胞移動、細胞の同時培養、動物への移植、およびデカンター、カラム、流動床、またはマイクロキャリア維持のための中空繊維を使用する培養物の灌流)のためにこの系を使用するのを可能にする。第7に、マイクロキャリア培養は、懸濁物における微生物および動物細胞の培養のために使用された従来の装置を用いて、比較的容易にスケールアップされる。
【0082】
5. 哺乳動物細胞のマイクロカプセル化
哺乳動物細胞を培養するのに特に有用であることが示されている1つの方法は、マイクロカプセル化である。哺乳動物細胞は、半透性ヒドロゲル膜内に保持される。多孔性膜は細胞を囲んで形成され、栄養素、気体、および代謝産物の、カプセルの周りの大量の培地との交換を許容する。穏和で、迅速な、そして非毒性のいくつかの方法が開発されており、ここで得られる膜は、培養の期間を通じて増殖する細胞塊を維持するのに、十分多孔性かつ強力である。これらの方法は全て、カルシウム含有溶液との液滴接触によってゲル化された可溶性アルギン酸に基づいている。Lim(1982,米国特許第4,352,883号、本明細書中に参照として組み入れられる)は、細胞を約1%アルギン酸ナトリウム溶液に濃縮し、小さな開口部を介して液滴を形成させ、約1%塩化カルシウム溶液に拡散させることを記載している。次いで、液滴はアルギン酸の表面にイオン結合するポリアミノ酸の層に注入される。最後にアルギン酸は、キレート試薬中で液滴を処理してカルシウムイオンを除去することによって、再液化される。他の方法は、アルギン酸溶液に滴下されることにより中空アルギン酸球を作製する、カルシウム溶液中の細胞を使用する。同様のアプローチは、アルギン酸に滴下され中空球を作製するキトサン溶液中の細胞を含む。
【0083】
マイクロカプセル化細胞は、撹拌タンクリアクターにおいて、容易に増殖され、そして、150〜1500μmの直径の範囲のビーズサイズを有して、微細メッシュスクリーンを用いて灌流リアクターに容易に保持される。カプセル容量の全培地容量に対する比は、l:2〜l:10の密度で維持され得る。カプセル内細胞密度は最大108であるが、培養において有効な細胞密度は、1〜5×107である。
【0084】
マイクロカプセル化の他のプロセスを越える利点としては、散布および撹拌から生じる剪断応力の有害な効果からの保護、灌流系を用いる目的のためにビーズを容易に保持する能力、スケールアップが比較的簡単なこと、および移植のためにそのビーズを使用する能力が挙げられる。
【0085】
本発明のいくつかの態様は、足場依存性である細胞を含む。293細胞は、例えば、足場依存性であり、懸濁液中で増殖する場合、細胞は互いに接着し、凝集塊において増殖し、最終的には中心の細胞が培養条件によって維持不可能となるサイズに達して各凝集塊の内部中心の細胞を窒息させる。それゆえ、足場依存性細胞を有効に利用して大量のアデノウイルスを作製するために、これらの細胞を大規模培養する有効な手段が必要とされる。
【0086】
6. 灌流付着系
本発明のある態様は、灌流付着系の使用を伴うアデノウイルスの産生方法を伴う。灌流とは、(生理学的栄養溶液の)細胞集団中または細胞集団上の、一定速度で連続する流れを意味する。細胞を回収された培地で洗い流す連続フロー培養(例えば、ケモスタット)とは反対に、培養ユニット内の細胞の保持を意味する。灌流の考え方は、今世紀初め以来公知であり、そして長期の顕微鏡観察の間組織片を生存させておくために適用されている。この技術は、血液、リンパ、または他の体液が連続的に細胞に供給される、インビボでの細胞環境を模倣することを開始した。灌流なしでは、培養物中の細胞は、流加(fed)および飢餓の交互段階を受けるため、それらの増殖および代謝能力の完全な発現を制限する。
【0087】
灌流培養の現在の使用は、高密度(すなわち、0.1〜5×108細胞/ml)で細胞を増殖させる課題に対するものである。2〜4×106細胞/mlを越えて密度を増加させるため、培地は、栄養欠乏を補い毒性産物を除去するために、絶え間なく新鮮な培地で置換されなければならない。灌流は、培養環境(pH、pO2、栄養レベルなど)のよりよい制御を可能にし、細胞付着のために、培養内の表面積の利用を有意に増加させる手段である。
【0088】
不織布のべッドマトリックスを用いる灌流充填ベッドリアクターの開発は、108細胞/mlのベッド容積を越える密度で灌流培養を維持するための手段を提供している(CelliGen(商標))New Brunswick Scientific,Edison,NJ;Wangら、1992;Wangら、1993;Wangら、1994)。簡潔に記載すると、このリアクターは、足場依存性および非足場依存性細胞の両方の培養のために改良されたリアクターを含む。リアクターは、内部循環を提供するための手段で充填されたベッドとして設計される。好ましくは、繊維マトリックスキャリアが、リアクター容器内のバスケットに配置される。バスケットの頂部および底部は孔を有し、培地がバスケットを介して流れるのを可能にする。特別に設計された羽根(impeller)は、栄養分の均一供給および消耗物の除去を確実にするため、繊維マトリックスによって占有される空間を介した培地の再循環を提供する。これは同時に、全細胞塊のごく少量が培地に懸濁されることを確実にする。バスケットおよび再循環の組合せはまた、繊維マトリックスを介した酸素添加培地の泡の無い流れを提供する。繊維マトリックスは、10μm〜100μmの「孔」直径を有する不織布であり、これは、個々の細胞の容量の1〜20倍に相当する孔容量を有する高い内部容量を提供する。
【0089】
他の培養系と比較して、このアプローチは、いくつかの有意な利点を提供する。繊維マトリックスキャリアを用いると、細胞は、撹拌および起泡からの機械的ストレスに対して保護される。バスケットを介する自由な培地の流れは、至適に調節されたレベルの酸素、pH、および栄養素を細胞に提供する。産物は、培養から連続的に除去することができ、採集した産物は細胞を含まず、後の精製工程を容易にする低タンパク質培地で産生することができる。また、このリアクター系の固有のデザインは、リアクターをスケールアップするより簡単な方法を提供する。現在、30リットルまでのサイズが利用可能である。100リットルから300リットルのバージョンは開発中であり、理論的な計算は、1000リットルまでのリアクターを支持する。この技術は、WO 94/17178(Freedmanら)に詳細に説明され、これは、本明細書中に全体が参照として組み入れられる。
【0090】
Cellcube(商標)(Corning-Costar)モジュールは、基質に接着した細胞の固定化および増殖のための、大きなスチレン(styrenic)表面領域を提供する。それは、一連の平行培養プレートが連結されて隣接するプレート間に薄い密閉された層状の流動空間が作られた、一体的にカプセル化された滅菌使い捨てデバイスである。
【0091】
Cellcube(商標)モジュールは、互いに対角線上の反対にあって培地の流れを調節するのを助ける注入口および放出口を有する。最初の数日の増殖の間、培養は一般的に、最初の播種の後に系内に含まれている培地によって満たされる。最初の播種と培地灌流の開始との間の時間は、播種接種物における細胞密度および細胞増殖速度に依存する。循環する培地中の栄養素濃度の測定は、培養状態の良い指標である。手順が確立された場合、栄養素組成を、種々の異なる灌流速度でモニターして、最も経済的かつ生産性の高い操作パラメーターを決定することが必要であり得る。
【0092】
この系内の細胞は、伝統的な培養系におけるものより高い溶液密度(細胞/ml)に達する。多くの代表的に使用される基本培地は、1〜2×106細胞/ml/日を支持するように設計される。典型的なCellcube(商標)(85,000cm2表面で実行)は、モジュール内に約6Lの培地を含む。細胞密度はしばしば、培養容器において107細胞/mLを越える。コンフルエンスでは、リアクター2〜4つ分の容量の培地が、1日あたりに必要である。
【0093】
培養の産生期のタイミングおよびパラメーターは、特定の細胞株の型および使用に依存する。多くの培養物は、培養の増殖相で必要とされる培地とは異なる培地を産生のために必要とする。1つの期から他の期への移行は、伝統的培養においては複数の洗浄工程を必要としうる。しかし、Cellcube(商標)系は、灌流系を用いる。このような系の利点の1つは、種々の操作期の間で穏やかな移行を提供可能なことである。灌流系は、増殖培地中の血清成分を除去しようとする伝統的洗浄工程の必要性がない。
【0094】
7.無血清懸濁培養
特定の態様では、宿主細胞(例えば、HEK293細胞)の足場依存性培養からアデノウイルスを産生する。アデノウイルスベクター産生のスケールアップは、293A細胞の足場依存性に制限される。スケールアップを容易にしてアデノウイルスベクターに対するさらなる要求を満たすために、スケールアップ可能な別の産生プロセスを開発するために非常に努力した。方法は、バイオリアクター中でのHEK293の成長および宿主細胞の懸濁培養への適合を含む。
【0095】
本発明の一定の態様では、アデノウイルス産生のための方法で使用した培地は無血清培地である。本発明の他の態様では、培地は無タンパク質培地である。当業者は、細胞の成長が可能である限り、任意の培地が意図されることを理解している。以前に考察したように、本発明の一定の態様は、バイオリアクターの使用を含む。バイオリアクターを、細胞の無血清懸濁培養に適合させることができる。培地交換を使用した培地の濾過を、システムに含んでも含まなくてもよい。
【0096】
D.ウイルス感染
本発明は、アデノウイルスでの宿主細胞の感染を含むアデノウイルスの産生方法に関する。典型的には、ウイルス取り込みを可能にする生理学的条件下で、ウイルスを適切な宿主細胞に簡単に曝露する。当業者は、ウイルス感染の開始に利用可能な技術範囲に精通している。
【0097】
本発明の一定の態様では、宿主細胞の感染を行う温度は37℃である。しかし、他の態様では、感染温度は、37℃未満の温度である。これは、37℃未満の感染温度によってアデノウイルス産生が最適になるという本発明者らの発見に基づく。したがって、例えば、温度は、

ならびに任意の温度範囲またはその誘導可能な温度増加であり得る。当業者に公知の任意の方法を使用して、細胞培養培地の温度を測定することができる。当業者は、培養培地の温度測定に利用可能な広範な方法に精通している。
【0098】
例えば、1つの都合のよい温度測定方法は、インキュベーター内の温度を測定するための実時間デジタルデバイスを使用することである。手順の前に、デジタルデバイスの正確さを検証するための追跡可能な温度較正装置を使用して、デジタルデバイスを較正することができる。
【0099】
本発明の一定の態様では、アデノウイルスの産生方法は、新鮮な培地およびアデノウイルスでの宿主細胞の希釈によってウイルス感染を開始する工程を含み得る。これにより、感染前に個別の培地交換の必要性が回避される。本発明は、宿主細胞の任意の希釈量が本発明で意図されることを意図する。一定の態様では、宿主細胞を新鮮な培地で10倍希釈する。本発明はまた、感染を開始させるために添加される任意のウイルス量を意図する。しかし、本発明の一定の態様では、ウイルス感染を、50vp/宿主細胞の添加によって開始させる。
【0100】
本発明の態様は、ウイルス感染を任意の時間進行させることができることを意図する。しかし、一定の態様では、ウイルス感染を4日間進行させる。本発明の別の態様では、宿主細胞を1つのバイオリアクターで成長させ、宿主細胞の感染を第2のバイオリアクターで行う。
【0101】
用語「アデノウイルス調製物」は、アデノウイルス感染開始後の反応混合物を説明するために本明細書中で使用する。アデノウイルス調製物は、溶解した宿主細胞、細胞断片化、アデノウイルス、培地、および感染時の反応混合物中に存在する任意の他の成分を含み得る。アデノウイルス調製物は、どのくらい感染を進行させたかに応じて無処置の(intact)宿主細胞を含み得る。宿主細胞のいくつかまたは全てを細胞溶解することができ、周囲の培地にウイルス粒子を放出する。本発明は、アデノウイルスの産生方法の態様において、感染後の任意の時期および当業者に公知の任意の手段によってアデノウイルスを単離することを意図する。例えば、本発明の1つの態様では、アデノウイルス調製物からのアデノウイルスの単離を、ウイルス感染完了から約4日後に行う。
【0102】
E.ウイルスベクターの操作
1.ウイルスベクター
特定の態様では、発現構築物の送達のための組換えアデノウイルスを意図する。「組換えアデノウイルス」、「アデノウイルスベクター」、または「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築物のパッケージングの補助、および(b)クローン化した組織または細胞特異的構築物の最終的な発現に十分なアデノウイルス配列を含む構築物を含むことを意味する。組換えアデノウイルスは、組換え遺伝子をコードすることができる。したがって、組換えアデノウイルスには、アデノウイルス配列を含む任意の操作ベクターが含まれ得る。
【0103】
本発明のアデノウイルス発現ベクターは、遺伝子操作された形態のアデノウイルスを含む。アデノウイルスベクターの性質は、本発明の首尾のよい実施に重要でないと考えられる。アデノウイルスは、任意の公知の血清型および/またはサブグループA〜Fであり得る。サブグループCのアデノウイルス5型は、本発明で使用するための1つのアデノウイルスベクターを得るための好ましい出発材料である。これは、アデノウイルス5型は多数の生化学的情報および遺伝情報が公知であり、ベクターとしてアデノウイルスを使用したほとんどの構築物で歴史的に使用されてきたヒトアデノウイルスであるためである。
【0104】
アデノウイルス遺伝子導入の利点には、広範な種々の細胞型への感染能力(非分裂細胞が含まれる)、中型のゲノム、操作のし易さ、感染性の高さ、および高力価で成長することができることが含まれる(Wilson, 1996)。さらに、アデノウイルスDNAは他のウイルスベクターに付随する潜在的な遺伝毒性を伴わずにエピソーム様式で複製することができるので、宿主細胞のアデノウイルス感染では染色体に組み込まれない。アデノウイルスはまた、構造的に安定であり(Marienfeld et al., 1999)、広範な増幅後にゲノム再配置は検出されていない(Parks et al., 1997; Bett et al., 1993)。
【0105】
アデノウイルスの成長および操作は、当業者に公知であり、インビトロおよびインビボで広範な宿主が示されている(米国特許第5,670,488号; 第5,932,210号;および第5,824,544号)。このウイルス群は、高力価で(例えば、109〜1011プラーク形成単位/ml)得ることができ、感染性が高い。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞ゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達された外来遺伝子は、エピソーム性(episomal)であるので、宿主細胞に対して遺伝毒性が低い。
【0106】
アデノウイルスベースのベクターは他のベクター系を超えるいくつかの固有の利点を提供するにもかかわらず、これらは、ベクターの免疫原性、組換え遺伝子挿入におけるサイズ制限、低複製レベル、および低導入遺伝子発現レベルによってしばしば制限される。アデノウイルスベクター使用における主な懸念は、パッケージング細胞株でのベクター産生時または個体の遺伝子治療時の複製コンピテントウイルスの生成である。複製コンピテントウイルスの生成は、意図しないウイルス感染および患者の病理学的結果に深刻な脅威となり得る。
【0107】
本発明の一定の態様は、複製欠損アデノウイルスを含むアデノウイルスの産生方法に関する。Armentano et al.は、複製コンピテントアデノウイルスが偶然産生する可能性を排除することを主張した複製欠損アデノウイルスベクターの調製を記載する(米国特許第5,824,544号)。複製欠損アデノウイルス法は、ベクターが異種哺乳動物遺伝子を発現する、欠失E1領域および再配置タンパク質IX遺伝子を含む。
【0108】
遺伝子導入ベクターとして使用するためのアデノウイルスの一般的な生成アプローチは、E2、E3、およびE4プロモーターの誘導に関与するE1遺伝子の欠失(E1-)である(Graham and Prevec, 1995)。その後、E1遺伝子の代わりに治療遺伝子を組換え的に挿入することができ、治療遺伝子の発現がE1プロモーターまたは異種プロモーターによって駆動される。次いで、E1-(複製欠損ウイルス)を、イントランスでE1ポリペプチドを提供する「ヘルパー」細胞株(例えば、ヒト胚性腎細胞株293)で増殖させる。または、E3領域、E4領域の一部、または両方を欠失することができ、遺伝子導入で使用するために、真核細胞で作動可能なプロモーターの調節下で、異種核酸配列をアデノウイルスゲノムに挿入する(米国特許第5,670,488号および第5,932,210号)。
【0109】
2.治療遺伝子をコードするウイルスベクター
一定の態様では、本発明は、アデノウイルスが組換え遺伝子をコードする組換えアデノウイルスである、アデノウイルスの産生方法を含み得る。組換え遺伝子は、プロモーターに作動可能に連結することができる。一定の他の態様では、組換え遺伝子は、治療遺伝子である。本発明は、疾患または遺伝子障害の治療における治療または潜在的治療価値のある任意の遺伝子の使用を意図する。当業者は、同定されているこのような広範囲の遺伝子に精通している。
【0110】
遺伝子治療は、一般に、その発現によって疾患または遺伝子障害が改善または治療される導入遺伝子としても公知の治療遺伝子の細胞への移入を含む。関与する治療遺伝子は、タンパク質、構造もしくは酵素RNA、アンチセンスRNAもしくはDNAなどの阻害産物、または任意の他の遺伝子産物をコードするものであり得る。発現は、このような遺伝子産物の生成またはこのような遺伝子産物の生成から得られた結果である。したがって、発現の増強は任意の治療遺伝子のより高い産生または細胞、組織、器官、もしくは生物の条件の決定における産物の役割の増加を含む。アデノウイルスベクターによる治療遺伝子の送達は、細胞の形質導入と呼ぶことができるものを含む。本明細書中で使用される、「形質導入」は、アデノウイルスまたは関連ベクターによる治療遺伝子、導入遺伝子、または導入遺伝子構築物の細胞への移入と定義される。
【0111】
現在、多数の実験、開発、前臨床試験、および臨床試験が、遺伝子送達ベクターとしてのアデノウイルスの使用について調査中である。例えば、アデノウイルス遺伝子送達ベースの遺伝子治療は、肝臓疾患(Han et al., 1999)、精神病(Lesch, 1999)、神経疾患(Hermens and Verhaagen, 1998)、冠動脈疾患(Feldman et al., 1996)、筋疾患(Petrof, 1998)、ならびに結腸直腸癌(Dorai et aL, 1999)、膀胱癌(Irie et al., 1999)、前立腺癌 (Mincheff et al., 2000)、頭頸部癌(Blackwell et al., 1999)、乳癌(Stewart et al., 1999)、肺癌(Batra et al., 1999)、および卵巣癌(Vanderkwaak et al., 1999) などの種々の癌のために開発中である。
【0112】
アデノウイルスベクターによってコードされる特定の治療遺伝子は制限されず、種々の治療および研究目的で有用なもの、レポーター遺伝子およびレポーター遺伝子系、ならびに導入遺伝子の発現、アデノウイルスおよびアデノウイルスベクター形質導入の有効性の追跡に有用な構築物が含まれる。したがって、例として、以下は、本発明の組成物および方法の使用によってその発現を増強することができる可能な遺伝子のクラスである。発生遺伝子(例えば、接着分子、サイクリンキナーゼインヒビター、Wntファミリーメンバー、Paxファミリーメンバー、Wingedヘリックスファミリーメンバー、Hoxファミリーメンバー、サイトカイン/リンホカインおよびその受容体、成長因子または分化因子およびその受容体、神経伝達物質およびその受容体)、癌遺伝子(例えば、ABLI、BLC1、BCL6、CBFA1、CBL、CSFIR、ERBA、ERBB、EBRB2、ETS1、ETS1、ETV6、FGR、FOX、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TAL1、TCL3、およびYES)、腫瘍抑制遺伝子(例えば、APC、BRCA1、BRCA2、MADH4、MCC、NF1、NF2、RB1、TP53、およびWT1)、酵素(例えば、ACP デサチュラーゼおよびヒドロキシラーゼ、ADP-グルコースピロホリラーゼ、ATPアーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、シクロオキシゲナーゼ、デカルボキシラーゼ、デキストリナーゼ、エステラーゼ、DNAおよびRNAポリメラーゼ、ヒアルロンシンターゼ、ガラクトシダーゼ、グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、GTPアーゼ、ヘリカーゼ、ヘミセルラーゼ、ヒアルロニダーゼ、インテグラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、ラクターゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、リアーゼ、リゾチーム、ペクチンエステラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテイナーゼおよびペプチデアーゼ、プルラナーゼ、リコンビナーゼ、逆転写酵素、トポイソメラーゼ、キシラナーゼ)、レポーター遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質およびその多くの色変種、ルシフェラーゼ、CATレポーター系、β−ガラクトシダーゼなど)、血液誘導体、ホルモン、リンホカイン(インターロイキンを含む)、インターフェロン、TNF、成長因子、神経伝達物質もしくはその前駆体もしくは合成酵素、栄養因子(BDNF、CNTF、NGF、IGF、GMF、aFGF、bFGF、NT3、およびNT5など)、アポリポタンパク質(ApoAI、ApoAIV、およびApoEなど)、ジストロフィンもしくはミニジストロフィー、腫瘍抑制遺伝子(p53、Rb、RaplA、DCC、およびk-revなど)、凝固に関連する因子をコードする遺伝子(第VII因子、第VIII因子、および第IX因子など)、自殺遺伝子(チミジンキナーゼなど)、シトシンデアミナーゼ、または天然もしくは人工の免疫グロブリンの全てもしくは一部(FabおよびScFvなど)。治療遺伝子の他の例には、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、ADP(アデノウイルス死滅タンパク質)が含まれる。
【0113】
治療遺伝子はまた、標的細胞中でのその発現により細胞遺伝子の発現または細胞mRNAの転写を調節することができるアンチセンス遺伝子または配列であり得る(例えば、リボザイム)。このような配列を、例えば、標的細胞内で細胞mRNAに相補的なRNAに転写することができる。治療遺伝子はまた、ヒトの免疫応答を生じることができる抗原ペプチドをコードする遺伝子であり得る。この特定の態様では、本発明により、特に、微生物およびウイルスに対してヒトを免疫化することができるワクチンを産生することが可能となる。
【0114】
腫瘍抑制癌遺伝子は、過剰な細胞増殖を阻害するように機能する。これらの遺伝子の不活化により、その阻害活性が破壊されて、無秩序に増殖する。腫瘍抑制因子であるp53、p16、およびC-CAMを以下に記載する。
【0115】
現在、p53は腫瘍サプレッサー遺伝子として認識されている。高レベルの変異体p53が、化学的発癌、紫外線照射、およびいくつかのウイルス(SV40を含む)によって形質転換した多くの細胞中に見出されている。p53遺伝子は、広範な種々のヒトの腫瘍において変異性不活化の頻繁な標的であり、一般的なヒトの癌において最も頻繁に変異する遺伝子であることがすでに報告されている。これは、50%を超えるヒトのNSCLCにおいて変異しており(Hollsteinら、1991)、広範な範囲の他の腫瘍において変異している。
【0116】
p53遺伝子は、ラージT抗原およびE1Bのような宿主タンパク質と複合体を形成し得る393アミノ酸のリンタンパク質をコードする。このタンパク質は、正常な組織および細胞中で見出されているが、その濃度は形質転換された細胞または腫瘍組織と比較して少ない。興味深いことに、野生型p53は、細胞の増殖および分裂を制御するために重要と思われる。野生型のp53の過剰発現は、いくつかの場合、ヒト腫瘍細胞株において抗増殖性であることが示されている。したがって、p53は、細胞増殖のネガティブレギュレーターとして作用し得(Weinberg、1991)、制御されていない細胞の増殖を直接抑制し得るか、またはこの増殖を抑制する遺伝子を間接的に活性化する。したがって、野生型p53の欠損または不活化は、形質転換に寄与し得る。しかし、いくつかの研究は、変異体p53の存在が遺伝子の形質転換能力の完全な発現に必要であり得ることを示している。
【0117】
野生型のp53は、多くの細胞型において重要な増殖レギュレーターとして認識されている。ミスセンス変異がp53遺伝子について一般的であり、癌遺伝子の形質転換能力に必須である。点変異により促される単一の遺伝的変化は、発癌性p53を生じうる。しかしながら、他の癌遺伝子と異なり、p53の点変異は少なくとも30個の異なるコドン中に生じることが公知であり、しばしば、ホモ接合性への減退(reduction to homozygosity)なく細胞の表現型のシフトを生じる優性の対立遺伝子を生じる。さらに、これらの優性のネガティブ対立遺伝子の多くが、生物中で寛容であるようであり、そして生殖系を通じて継代される。種々の変異対立遺伝子は、最小限の機能不全をもたらすものから強力に浸透するものまでの、優性ネガティブ対立遺伝子の範囲にわたるようである(Weinberg,1991)。
【0118】
本発明で使用することができる他の腫瘍抑制因子には、BRCA1、BRCA2、zacl、p73、MMAC-1、ATM、HIC-1、DPC-4、FHIT、NF2、APC、DCC、PTEN、ING1、NOEY1、NOEY2、PML、OVCA1、MADR2、WT1、53BP2、およびIRF-1が含まれる。本発明で使用することができる他の遺伝子には、Rb、APC、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、zac1、p73、VHL、MMAC1/PTEN、DBCCR-1、FCC、rsk-3、p27、p27/pl6融合物、p21/p27融合物、抗血栓遺伝子(例えば、COX-1、TFPI)、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、血管形成に関与する遺伝子(例えば、VEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはその受容体)、およびMCCが含まれる。
【0119】
一定の態様では、アデノウイルスは、mda-7遺伝子である外因性遺伝子構築物を含む。MDA-7は、p53野生型、p53ヌル、およびp53変異体である癌細胞の成長を抑制することが示された別の推定腫瘍抑制因子である。また、p53ヌル細胞で認められたアポトーシス関連Bax遺伝子の上方制御は、MDA-7が癌細胞の破壊を誘導するためにp53非依存機構を使用することができることを示す。
【0120】
研究は、MDA-7発現の上昇により、インビトロでの癌細胞成長が抑制され、ヒト乳癌細胞においてアポトーシスが選択的に誘導され、ならびにヌードマウスにおいて腫瘍成長が阻害される(Jiang et al., 1996およびSu et al., 1998)ことが示された。Jiang et al. (1996)は、MDA-7が種々の起源の癌細胞(乳房、中枢神経系、子宮頸部、結腸、前立腺、および結合組織が含まれる)における強力な成長抑制遺伝子であるという所見を報告している。コロニー阻害アッセイを使用して、MDA-7発現の上昇により、ヒト子宮頸癌(HeLa)、ヒト乳癌(MCF-7およびT47D)、結腸癌(LS174TおよびSW480)、鼻咽頭癌(HONE-1)、前立腺癌(DU-145)、黒色腫(HO-1およびC8161)、多形性膠芽腫(GBM-18およびT98G)、および骨肉種(Saos-2)の成長阻害が増強されることを証明した。正常細胞(HMECs、HBL-100、およびCREF-Trans6)におけるMDA-7の過剰発現では成長阻害の制限は示されず、MDA-7導入遺伝子効果は正常な細胞では出現しないことを示す。まとめると、データは、MDA-7発現の上昇による成長阻害がインビトロで正常な細胞よりも癌細胞でより有効であることを示す。Su et al. (1998)は、MDA-7が癌細胞の成長を抑制する機構の調査を報告している。この研究では、乳癌細胞株MCF-7およびT47DにおけるMDA-7の異所性発現により、細胞周期分析およびTUNELアッセイによって検出したところ、正常なHBL-100細胞に影響を与えることなくアポトーシスが誘導されると報告している。アデノウイルスMDA-7(「Ad-MDA-7」)を感染させた細胞由来の細胞溶解物のウェスタンブロット分析は、アポトーシス刺激タンパク質BAXの上方制御を示した。Ad-MDA-7感染により、MCF-7およびT47D細胞のみでBAXタンパク質レベルが上昇し、正常なHBL-100またはHMEC細胞では上昇しなかった。これらのデータにより、研究者らは、MCF-7腫瘍細胞の異種移植片腫瘍形成に対するエクスビボAd-MDA-7形質導入の効果を評価する。エクスビボ形質導入により、腫瘍異種移植片モデルの腫瘍の形成および進行が阻害された。これらの特長は、MDA-7は、PKRのインデューサー、したがって、誘導された免疫応答のエンハンサーとして広範な治療、予後、および診断可能性を有することを示す。
【0121】
種々の酵素遺伝子も治療遺伝子と見なされる。特に、適切な発現遺伝子には、被験体哺乳動物の標的細胞における正常よりも低いレベルで発現すると考えられる遺伝子が含まれる。特に有用な遺伝子産物の例には、カルバモイルシンテターゼI、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギノスクシネートシンテターゼ、アルギノスクシネートリアーゼ、およびアルギナーゼが含まれる。他の望ましい遺伝子産物には、フマリルアセトアセテートヒドロラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、α-1 アンチトリプシン、グルコース-6-ホスファターゼ、低密度リポタンパク質受容体、ポルホビリノゲンデアミナーゼ、第VIII因子、第IX因子、シスタチオンβ-シンターゼ、分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼ、アルブミン、イソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、メチルマロニルCoAムターゼ、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ、インスリン、β-グルコシダーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、肝臓ホスホリラーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グリシンデカルボキシラーゼ(P-タンパク質ともいう)、H-タンパク質、T-タンパク質、メンケス病銅輸送ATPアーゼ、およびウィルソン病銅輸送ATPアーゼが含まれる。遺伝子産物の他の例には、シトシンデアミナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、α-L-イズロニダーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、HSVチミジンキナーゼおよびヒトチミジンキナーゼが挙げられる。ホルモンは、本明細書中で記載されるベクター中で使用され得る遺伝子の別の群である。以下が含まれる:成長ホルモン、プロラクチン、胎盤性ラクトゲン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモシ、絨毛性ゴナドトロピン、甲状腺刺激ホルモン、レプチン、アドレノコルチコトロピン(ACTH)、アンギオテンシンIおよびII、β-エンドルフィン、β-メラニン細胞刺激ホルモン(β-MSH)、コレシストキニン、エンドセリンI、ガラニン、胃抑制ペプチド(GIP)、グルカゴン、インスリン、リポトロフィン、ニューロフィシン、ソマトスタチン、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、β-カルシトニン遺伝子関連ペプチド、悪性腫瘍因子の高カルシウム血症(1-40)、副甲状腺ホルモン関連タンパク質(107-139)(PTH-rP)、副甲状腺ホルモン関連タンパク質(107-111)(PTH-rP)、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、パンクレアスタチン、膵臓ペプチド、ペプチドYY、PHM、セクレチン、血管活性腸管ペプチド(VIP)、オキシトシン、バソプレシン(AVP)、バソトシン、エンケファリンアミド、メトロフィンアミド、αメラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)、心房性ナトリウム利尿因子(5-28)(ANF)、アミリン、アミロイドP成分(SAP-1)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)、成長ホルモン放出因子(GHRH)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、神経ペプチドY、サブスタンスK(ニューロキニンA)、サブスタンスPおよび甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)。本発明のベクターへの挿入が意図される他の遺伝子のクラスとして、インターロイキンおよびサイトカインが挙げられる。インターロイキン1(IL−1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、GM-CSF、およびG-CSF。
【0122】
本発明のウイルスベクターが有用である疾患の例として、以下が挙げられるが、これらに限定されない:アデノシンデアミナーゼ欠損症、血友病Bにおけるヒト血液凝固第IX因子欠損症、および嚢胞性繊維症膜貫通レセプター遺伝子の置換に関与する嚢胞性繊維症。本発明で具体化されるベクターはまた、リウマチ様関節炎または再狭窄のような過増殖性障害の処置に、血管形成インヒビターまたは細胞周期インヒビターをコードする遺伝子の移入によって、使用され得る。HSV-TK遺伝子のようなプロドラッグ活性化因子の導入もまた、癌を含む過増殖性障害の処置で使用され得る。
【0123】
3.アンチセンス構築物
ras、myc、neu、raf、erb、src、fms、jun、trk、ret、gsp、hst、bcl、およびablのような癌遺伝子もまた、適切な標的である。しかし、治療上の利点のため、これらの癌遺伝子は、アンチセンス核酸として発現され、その結果癌遺伝子の発現を阻害する。用語「アンチセンス核酸」は、癌遺伝子をコードするDNAおよびRNAの塩基配列に相補的なオリゴヌクレオチドを意味することが意図される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的細胞に導入された場合、それらの標的核酸に特異的に結合し、そして転写、RNAのプロセシング、輸送、および/または翻訳を妨害する。オリゴヌクレオチドでの二本鎖(ds)DNAの標的化は、三重ヘリックスの形成を導き;RNAの標的化は二本鎖ヘリックスの形成を導く。
【0124】
アンチセンス構築物は、プロモーターおよび他の制御領域、エキソン、イントロン、またはさらに遺伝子のエキソン−イントロンの境界に結合するように設計され得る。アンチセンスRNA構築物、またはこのようなアンチセンスRNAをコードするDNAは、インビトロまたはインビボのいずれにおいても、宿主(例えば、ヒト被験体を含む宿主動物)細胞内で、遺伝子の転写もしくは翻訳、または両方を阻害するために使用され得る。「相補的なヌクレオチド」を含む核酸配列は、標準Watson-Crick相補規則に従って塩基対を形成し得るヌクレオチドである。すなわち、より大きなプリンがより小さいピリミジンと塩基対合し、シトシンと対合したグアニン(G:C)の組み合わせ、およびDNAの場合にはチミンと対合したアデニン(A:T)、またはRNAの場合にはウラシルと対合したアデニン(A:U)の組合せのみを形成する。
【0125】
本明細書中で使用される用語「相補的」または「アンチセンス配列」は、それらの全長にわたって実質的に相補的であり、そして非常にわずかな塩基ミスマッチを有する核酸配列を意味する。例えば、15塩基長の核酸配列は、それらが、わずかに1つまたは2つのみのミスマッチを有する、13または14個の位置で相補的核酸を有する場合、相補的と称してもよい。本来は、「完全に相補的」である核酸配列は、その全長にわたって完全に相補的であり、塩基ミスマッチを有さない核酸配列である。
【0126】
遺伝子配列の全てまたは一部がアンチセンス構築の状況において使用され得るが、統計学的に、17塩基長の任意の配列がヒトゲノムにおいて一度だけ生じるはずなので、固有の標的配列を特定するのに十分である。より短いオリゴマーは作製が容易であり、そしてインビボでの接触可能性が増大するが、多数の他の因子がハイブリダイゼーションの特異性の決定に関与する。相補的標的に対するオリゴヌクレオチドの結合親和性および配列特異性の両方が、長さの増大にしたがって増大する。8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、またはそれ以上の塩基対が使用されることが意図される。所定のアンチセンス核酸が、対応する宿主遺伝子の標的化に有効であるかどうかは、内因性の遺伝子の機能が影響を受けるかどうか、または相補的な配列を有する関連する遺伝子の発現が影響を受けるかどうかを決定するために、インビトロで構築物を単に試験することによって容易に決定され得る。
【0127】
特定の実施態様において、他のエレメント(例えば、C-5プロピンピリミジンを含むエレメント)を含むアンチセンス構築物を使用することを所望し得る。ウリジンおよびシチジンのC-5プロピンアナログを含むオリゴヌクレオチドが、高い親和性でRNAに結合し、そして遺伝子発現の強力なアンチセンスインヒビターとなることが示されている(Wagnerら、1993)。
【0128】
標的化アンチセンス送達の代替として、標的化リボザイムが使用され得る。用語「リボザイム」は、癌遺伝子DNAおよびRNA中の特定の塩基配列を標的化して切断し得る、RNAに基づく酵素をいう。リボザイムは、リボザイム配列を組み込んだRNAオリゴヌクレオチドの形態で、細胞に対して直接標的化され得るか、または所望のリボザイムRNAをコードする発現構築物として細胞中に導入され得るかのいずれかである。リボザイムは、アンチセンス核酸について記載されているものとほとんど同じ方法で使用され、そして適用され得る。
【0129】
4.ワクチンのための抗原
他の治療用遺伝子は、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、または寄生虫抗原のような抗原をコードする遺伝子を含み得る。ウイルスは以下を含む:ピコルナウイルス、コロナウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、ラブドウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、ブンヤウイルス、アレナウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、パポバウイルス、パルボウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス、およびスポンジ型ウイルス。好ましいウイルス標的として、インフルエンザ、単純ヘルペスウイルス1および2、麻疹、小痘、ポリオ、またはHIVが挙げられる。病原体として、トリパノソーマ、サナダムシ、回虫、ぜん虫が挙げられる。胎児抗原または前立腺特異的抗原のような腫瘍マーカーもまた、この様式で標的化され得る。好ましい例として、HIVエンベロープタンパク質およびB型肝炎表面抗原が挙げられる。ワクチンのための本発明のベクターの投与は、ベクター関連抗原が、導入遺伝子の長期間の発現を可能にするために十分に非免疫原性であることを必要とする。このために、強力な免疫応答が所望される。好ましくは、個々のワクチン接種は、まれに(例えば、1年ごとまたは2年ごと)しか必要とされず、感染要因に対する長期間の免疫学的保護を提供する。
【0130】
5. 制御領域
ウイルスベクターが治療用遺伝子をコードする転写の発現に影響を及ぼすために、治療用遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、プロモーターおよびポリアデニル化シグナルの転写制御下にある。したがって、本発明の特定の態様は、プロモーターに作動可能に連結された外来遺伝子構築物をコードするアデノウイルスベクターを含むアデノウイルスの産生方法を伴う。「プロモーター」は、宿主細胞の合成機構によって認識されるDNA配列、または遺伝子の特異的な転写を開始するために必要とされる導入された合成機構をいう。ポリアデニル化シグナルは、宿主細胞の合成機構によって認識されるDNA配列、または翻訳のための細胞質への細胞核の転写後の適切なプロセシングおよび輸送のために、mRNA転写物の末端への一連のヌクレオチドの付加を導入することに必要とされる、導入された合成機構をいう。「作動可能に連結された」、「制御下」、および「転写制御下」という語は、プロモーターがRNAポリメラーゼの開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するためにポリヌクレオチドに関して適切な位置に存在することを意味する。
【0131】
プロモーターという用語は、本明細書中で、RNAポリメラーゼIIの開始部位の周辺に集まる転写制御モジュールの群をいうために使用される。プロモーターが組織化される方法についてのほとんどの考察は、いくつかのウイルスプロモーター(HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写ユニットのプロモーターを含む)の分析に由来する。さらに最近の研究によって増強されたこれらの研究は、各々約7〜20bpのDNAからなり、かつ転写活性化因子または抑制タンパク質の1つ以上の認識部位を含む、個別の機能的モジュールからプロモーターが構成されることを示している。
【0132】
各プロモーターの少なくとも1つのモジュールは、RNA合成の開始部位を位置づけるために機能する。最も良い公知の例はTATAボックスであるが、例えば哺乳動物末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター、およびSV40後期遺伝子のプロモーター、それ自体が開始位置を固定することを補助する開始部位に重なる別々のエレメントのようないくつかのプロモーターは、TATAボックスを欠いている。
【0133】
さらなるプロモーターエレメントは、転写開始の頻度を調節する。典型的に、これらは開始部位の領域30〜110bp上流に存在するが、最近になって多数のプロモーターが開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが示されている。プロモーターエレメント間の間隔はしばしば柔軟であり、その結果、プロモーター機能は、エレメントが逆転または互いに相対的に移動している場合に、保存される。tkプロモーターにおいて、プロモーターエレメント間の間隔は、活性が減少し始める前は、50bp離れるまで増大し得る。プロモーターに依存して、個々のエレメントは、協同的または独立的のいずれかで機能し、転写を活性化し得ると思われる。
【0134】
治療用遺伝子の発現を制御するために使用される特定のプロモーターは、それが標的化された細胞中でポリヌクレオチドを発現し得る限りは、重要でないと考えられている。プロモーターは、組織特異的プロモーターまたは誘導性プロモーターであり得る。使用することができるプロモーターの例には、SV40 EI、RSV LTR、β-アクチン、CMV-IE、アデノウイルス主要後期、ポリオーマF9-1、α-胎児タンパク質プロモーター、egr-1、またはチロシナーゼプロモーターが含まれる。当業者は、治療遺伝子の発現を調節するために使用することができるプロモーターに利用可能である選択肢の範囲に精通している。したがって、ヒト細胞がターゲティングされた場合、ヒト細胞中で発現することができるプロモーターに隣接するかその調節下でポリヌクレオチドコード領域を配置することが好ましい。一般的に言えば、このようなプロモーターには、ヒトまたはウイルスのプロモーターのいずれかが含まれ得る。表1にプロモーターのリストを示す。
【0135】
(表1)


【0136】
プロモーターは、構成性プロモーター、誘導性プロモーター、または組織特異的プロモーターであり得る。誘導性プロモーターは、インデューサー物質の存在下以外は不活性であるか低活性を示すプロモーターである。本発明の一部として含むことができるプロモーターのいくつかの例には、MT II、MMTV、コラゲナーゼ、ストロメリシン、SV40、マウスMX遺伝子、α-2-マクログロブリン、MHCクラスI遺伝子h-2kb、HSP70、プロリフェリン、腫瘍壊死因子、または甲状腺刺激ホルモンα遺伝子が含まれるが、それに限定されるわけではない。関連するインデューサーを、表2に示す。任意の誘導性プロモーターを本発明の実施で使用することができ、全てのこのようなプロモーターが特許請求の範囲に記載の発明の精神および範囲の範囲内に含まれると理解される。「内因性」または「構成性」であるプロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に存在する5'非コード配列の単離によって得ることができるので、天然で遺伝子または配列に付随しているプロモーターである。
【0137】
(表2)

【0138】
種々の実施態様において、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、およびラウス肉腫ウイルス末端反復配列が、目的のポリヌクレオチドの高レベルの発現を得るために使用され得る。当技術分野で周知の、ポリヌクレオチドの発現を達成するための他のウイルスプロモーターまたは哺乳動物細胞のプロモーターまたはバクテリオファージプロモーターの使用が、発現のレベルが増殖阻害効果を生じるために十分であるという条件で、十分に意図される。
【0139】
周知の特性を有するプロモーターを使用することによって、トランスフェクション後のポリヌクレオチドの発現のレベルおよびパターンを最適化し得る。例えば、特定の細胞中で活性である(例えば、チロシナーゼ(黒色腫)、α-フェトプロテインおよびアルブミン(肝腫瘍)、CC10(肺腫瘍)、および前立腺特異的抗原(前立腺腫瘍)プロモーターの選択により、治療用遺伝子の組織特異的発現が可能である。
【0140】
エンハンサーは、DNAの同じ分子上の離れた位置に配置されたプロモーターによる転写を増大する遺伝子エレメントとして、最初に検出された。広い範囲にわたって作用するこの能力は、原核生物の転写の調節の伝統的な研究においてほとんど前例がなかった。その後の研究により、エンハンサー活性を有するDNAの領域が、ほとんどプロモーターのように構成されていることを示した。すなわち、これらは、多くの個々のエレメント(そのそれぞれが1つ以上の転写タンパク質に結合する)からなる。
【0141】
エンハンサーとプロモーターとの間の基本的な区別は、作動可能(operational)である。エンハンサー領域は全体として一定の距離で転写を刺激できなければならない;これは、プロモーター領域またはその相補エレメントにはあてはまる必要はない。一方、プロモーターは、RNA合成の開始を導く1つ以上のエレメントを特定の部位および特定の方向で有さなければならないが、エンハンサーはこれらの特異性を欠いている。プロモーターおよびエンハンサーはしばしば、重複し、かつ連続的であり、しばしば、非常に類似した調節機構を有するようである。
【0142】
さらに、任意のプロモーター/エシハンサーの組み合わせ(真核生物プロモーターデータベース(EPDB)のとおり)もまた、特定の構築物の発現を駆動するために使用され得る。T3、T7、またはSP6細胞質発現系の使用は、別の可能な実施態様である。真核生物細胞は、適切なバクテリオファージポリメラーゼが、送達複合体の一部として、またはさらなる遺伝子発現ベクターとして提供される場合、特定のバクテリオファージプロモーターからの細胞質の転写を支持し得る。
【0143】
cDNAインサートが用いられる場合、典型的には、遺伝子転写物の適切なポリアデニル化をもたらすためにポリアデニル化シグナルを含むことが所望される。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の首尾よい実施に重要ではないと考えられ、そしてこのような任意の配列が用いられ得る。SV40、ウシ成長ホルモン、および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子などからのポリアデニル化シグナルは、多くの標的細胞において十分に機能することが見いだされている。
【0144】
F.アデノウイルスの単離方法
アデノウイルス感染により、感染された細胞が溶解する。アデノウイルス感染の溶解特性により、ウイルスの単離および産生には2つの異なる様式が可能である。一方は細胞溶解前にの感染細胞の回収である。他方の様式は、産生されたウイルスによる完全な細胞溶解後のウイルス上清の回収である。後者の様式のために、完全な細胞溶解を達成するために、より長いインキュベーション時間が必要である。ウイルス感染後のこの長いインキュベーション時間により、特に、現在の初代アデノウイルスベクター(E1欠失ベクター)についての複製コンピテントアデノウイルス(RCA)の生成可能性の増大が深刻に懸念される。したがって、本発明の一定の態様では、アデノウイルスの産生方法は、宿主細胞を回収し、その後宿主細胞を溶解する工程を含む。表3は、細胞回収後の細胞溶解に使用されている最も一般的な方法を列挙する。
【0145】
(表3)細胞溶解物のために使用される方法

【0146】
1.界面活性剤
本発明の一定の態様では、アデノウイルスの産生方法は、界面活性剤での宿主細胞の溶解によってアデノウイルスを単離する工程を含む。細胞は、膜によって結合している。細胞成分を放出させるために、細胞を破壊して開口する必要がある。本発明によれば、これを達成することができる最も有利な方法は、界面活性剤の使用で膜を可溶化することである。界面活性剤は、脂肪族または芳香族の性質を有する無極性末端および荷電していても荷電していなくてもよい極性末端を有する両親媒性分子である。界面活性剤は、脂質よりも親水性が高いので、脂質よりも水溶性が高い。これらは、水不溶性化合物を水媒体に分散させ、天然形態のタンパク質を単離および精製するために使用する。
【0147】
宿主細胞を溶解することができる任意の界面活性剤が本主張された発明で意図される。当業者は、細胞の溶解に利用可能な広範な界面活性剤に精通している。
【0148】
界面活性剤は、変性または非変性であり得る。前者は、ドデシル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性であるか、エチルトリメチルアンモニウムブロミドなどの陽イオン性であり得る。これらの界面活性剤は、膜を完全に破壊し、タンパク質−タンパク質相互作用の破壊によってタンパク質を変性させる。非変性界面活性を、Triton(登録商標)X-100などの非陰イオン性界面活性剤、コール酸塩などの胆汁塩、およびCHAPSなどの双性イオン性界面活性剤に分類することができる。双性イオンは、同一分子中に陽イオン基および陰イオン基の両方を含み、正電荷が同一分子または隣接分子上の負電荷によって中和されている。
【0149】
SDSなどの変性剤は、単量体としてタンパク質に結合し、反応は飽和するまで平衡駆動性(equilibrium driven)である。したがって、遊離濃度の単量体により、必要な界面活性剤の濃度が決定される。SDS結合は、協同的である(すなわち、1分子のSDSの結合により、このタンパク質への別の分子の結合の確立が増加し、タンパク質をその分子量に比例する長さの棒状(rod)に変化させる)。
【0150】
Triton(登録商標)X-100などの非変性剤は、天然の高次構造に結合せず、協力的結合機構も持たない。これらの界面活性剤は、水溶性タンパク質に浸透しない強固でかさ高い無極性部分を有する。これらは、タンパク質疎水性部分に結合する。Triton(登録商標)X100および他のポリオキシエチレン非陰イオン性界面活性剤は、タンパク質−タンパク質相互作用を破壊する効率が悪く、タンパク質の人為的凝集が起こり得る。しかし、これらの界面活性剤は、タンパク質−脂質相互作用を破壊するが、はるかに穏やかであり、タンパク質の天然の形態および機能的能力を維持することができる。
【0151】
多数の方法で界面活性剤の除去を試みることができる。単量体として存在する界面活性剤を使用して透析を十分に行う。ミセルは大きすぎて透析膜を通過できないので、容易に凝集してミセルを形成する界面活性剤を使用した場合、透析はあまり効果がない。イオン交換クロマトグラフィを使用して、この問題を回避することができる。この破壊されたタンパク質溶液を、イオン交換クロマトグラフィカラムに適用し、次いで、カラムを界面活性剤を差し引いた緩衝液で洗浄する。界面活性剤溶液での緩衝液の平衡化の結果として界面活性剤が除去される。または、タンパク質溶液を、密度勾配に通過させることができる。タンパク質は勾配を介して沈殿するので、化学ポテンシャルによって界面活性剤が除去される。
【0152】
しばしば、単一の界面活性剤は、可溶化および細胞中で見出されたタンパク質の環境の分析にあまり多目的ではない。タンパク質を1つの界面活性剤に可溶化し、その後タンパク質分析のための別の適切な界面活性剤中に入れることができる。第1の工程で形成されたタンパク質界面活性剤ミセルを、純粋な界面活性剤のミセルから分離する。分析のためにこれらを過剰な界面活性剤に添加した場合、タンパク質は両界面活性剤と共にミセル内で見出される。イオン交換またはゲル濾過クロマトグラフィ、透析、または浮遊密度型分離を使用して、界面活性剤−タンパク質ミセルを分離することができる。
【0153】
a. Triton(登録商標)X界面活性剤
この界面活性剤ファミリー(Triton(登録商標)X-100、X114、およびNP-40)は、同一の基本的特徴を有するが、その特定の疎水性−親水性が異なる。これらの全異種界面活性剤は、芳香環に結合した分岐8炭素鎖を有する。分子のこの部分は、界面活性剤の疎水性のほとんどに寄与する。Triton(登録商標)X界面活性剤を使用して、非変性条件下で膜タンパク質を可溶化する。タンパク質を可溶化するための界面活性剤の選択は、可溶化すべきタンパク質の疎水性に依存する。疎水性タンパク質は、これらを効率的に可溶化するための疎水性界面活性剤が必要である。
【0154】
Triton(登録商標)X-100およびNP-40は、構造および疎水性が非常に類似しており、ほとんどの適用(細胞溶解、脱脂タンパク質の解離、ならびに膜タンパク質および脂質の可溶化が含まれる)で交換可能である。一般に、2mgの界面活性剤を使用して、1mg膜タンパク質または10mg界面活性剤/1mg脂質膜を可溶化する。Triton(登録商標)X-114は、親水性タンパク質からの疎水性タンパク質の分離に有用である。
【0155】
b. Brij(登録商標)界面活性剤
これらは、疎水性鎖に結合した種々の長さのポリオキシエチレン鎖を有するという点で、Triton(登録商標)界面活性剤の構造と類似している。しかし、Triton(登録商標)界面活性剤と異なり、Brij(登録商標)界面活性剤は芳香環を持たず、炭素鎖の長さも変化し得る。Brij(登録商標)界面活性剤は、透析を使用して溶液から除去することが困難であるが、界面活性剤除去ゲルによって除去することができる。Brij(登録商標)58は、その疎水性/親水性特性がTriton(登録商標)X100と最も類似している。Brij(登録商標)-35は、一般に使用されているHPLC適用における界面活性剤である。
【0156】
c.透析可能な非イオン性界面活性剤
η-オクチル-β-グルコシド(オクチルグルコピラノシド)およびη-オクチル-β-D-チオグルコシド(オクチルチオグルコピラノシド、OTG)は、溶液から容易に透析される非変性非イオン性界面活性剤である。これらの界面活性剤は、膜タンパク質の可溶化に有用であり、280nmでのUV吸収は低い。オクチルグルコシドは、23〜25mMの高CMCを有し、膜タンパク質を可溶化するために1.1〜1.2%の濃度で使用されている。
【0157】
オクチルグルコシドの代替物としてオクチルチオグルコシドが最初に合成された。オクチルグルコシドは製造費が高く、β−グルコシダーゼによって加水分解され得るので、生体系においていくつかの固有の問題が存在する。
【0158】
d.Tween(登録商標)界面活性剤
Tween(登録商標)界面活性剤は、非変性非イオン性界面活性剤である。これらは、脂肪酸のポリオキシエチレンソルビタンエステルである。Tween(登録商標)20およびTween(登録商標)80界面活性剤は生化学的適用におけるブロッキング剤として使用され、通常、プラスチックまたはニトロセルロースなどの疎水性材料への非特異的結合を防止するためにタンパク質溶液に添加する。これらを、ELISAおよびブロッティングへの適用におけるブロッキング剤として使用されている。一般に、これらの界面活性剤を、疎水性材料への非特異的結合を防止するために0.01〜1.0%の濃度で使用する。
【0159】
Tween(登録商標)20および他の非イオン性界面活性剤は、ニトロセルロース表面からいくつかのタンパク質を除去することが示されている。Tween(登録商標)80は、膜タンパク質を可溶化し、タンパク質のマルチウェルプラスチック組織培養プレートへの非特異的結合を防止し、ELISAにおける血清タンパク質およびビオチン化タンパク質Aによるポリスチレンプレートへの非特異的結合を減少させるために使用されている。
【0160】
これらの界面活性剤の間の相違は、脂肪酸鎖の長さである。Tween(登録商標)80はC18鎖を有するオレイン酸に由来し、Tween(登録商標)20はC12鎖を有するラウリン酸に由来する。より長い脂肪酸鎖は、Tween(登録商標)80界面活性剤の親水性をTween(登録商標)20界面活性剤よりも低くする。両方の界面活性剤は水に非常に可溶性である。
【0161】
Tween(登録商標)界面活性剤は、透析による溶液からの除去は困難であるが、界面活性剤除去ゲルによってTween(登録商標)20を除去することができる。Triton(登録商標)XおよびBrij(登録商標)シリーズの界面活性剤に当てはまるように、これらの界面活性剤中に見出されるポリオキシエチレン鎖により、被験体を酸化させる(過酸化物形成)。
【0162】
e.双性イオン界面活性剤
双性イオン界面活性剤(CHAPS)は、コール酸のスルホベタイン誘導体である。この双性イオン界面活性剤は、タンパク質活性が重要である場合、膜タンパク質可溶化に有用である。この界面活性剤は、広いpH範囲(pH2〜12)にわたって有用であり、高CMC(8〜10mM)のために、透析によって溶液から容易に除去される。この界面活性剤は280nmでの吸光度が低く、この波長でのタンパク質モニタリングが必要である場合に有用になる。CHAPSは、BCAタンパク質アッセイに適合し、界面活性剤除去ゲルによって溶液から除去することができる。タンパク質は、CHAPSの存在下でヨウ素化される。
【0163】
内在性の膜タンパク質および受容体を可溶化してタンパク質の機能を維持するために、CHAPSは首尾よく使用される。シトクロムP-450がTriton(登録商標)X-100またはコール酸ナトリウムのいずれかに可溶化する場合、凝集が形成される。
【0164】
2.非界面活性剤法
本発明の他の有利な局面と組み合わせて、好ましくはないが、種々の非界面活性剤法を使用することができる。
【0165】
a.凍結融解
これは、穏やか且つ有効な様式での細胞溶解のために広範に使用されている技術である。一般に、細胞を、例えば、ドライアイス/エタノール浴中で完全に凍結するまで急速凍結し、その後完全に解凍するまで37℃浴に移す。完全な細胞溶解を達成するために、このサイクルを何回も繰り返す。
【0166】
b.超音波処理
高周波数の超音波振動は、細胞破壊に有用であることが見出されている。超音波が細胞を破壊する方法は、完全に理解されていないが、懸濁液が超音波振動に供されると、高過渡圧力が生成することが公知である。この技術の主な欠点は、大量の熱を発生することである。熱の影響をを最小にするために、特別にデザインしたガラス容器を使用して細胞懸濁液を保持する。このようなデザインにより懸濁液を超音波プローブからフラスコが氷中で懸濁されるように冷却した容器の外側へ循環させる。
【0167】
c.高圧押し出し
これは、頻繁に使用されている微生物細胞の破壊方法である。フレンチプレスは、細胞を破壊するために10.4×107Pa(16,000p.s.i)の圧力を使用する。これらの装置は、ニードル弁によって外側に開くステンレススチール室からなる。細胞懸濁液を、ニードル弁が閉じた状態で室中にいれる。室の反転後、弁を開き、ピストンを押し下げて室中の任意の空気を強制的に押し出す。弁を閉じた位置にし、室を元の位置に戻し、固い基台上におき、ピストンで水圧によって必要な圧力をかける。圧力が到達した場合、ニードル弁を少し開けて圧力をわずかに放出させ、細胞が拡大するにつれて細胞が破壊される。回収されうる破裂細胞の滴が存在するように、圧力を維持しながら弁を開けたままにする。
【0168】
d.固体剪断法
直径500nmのガラスビーズの存在下で懸濁液を強く(300〜3000回/分)振動させるMickleシェーカー中で研磨剤を使用した機械的剪断を行うことができる。この方法により、オルガネラが損傷し得る。より制御された方法は、研磨剤と共に多くの細胞を、または細胞の冷凍ペーストを圧力室中の直径0.25mmのスロットを通過するようにピストンで押し進めるHughesプレスを使用することである。5.5×107Pa(8000p.s.i.)までの圧力を使用して、細菌調製物を溶解することができる。
【0169】
e.液体剪断法
これらの方法は、高速往復または回転ブレードを使用するブレンダー、プランジャおよびボールの上下動およびマイクロフルイダイザーを使用するホモジナイザー、または小直径チューブの高速通過もしくは2つの流動物の流れの高速衝突を使用する衝突噴流を使用する。効率よく混合するために、ブレンダーのブレードを異なる角度に傾ける。ホモジナイザーは、通常、局所発熱を最小にするために、数秒間の短時間高速破裂で操作する。これらの技術は、一般に、微生物細胞で適切ではないが、非常に穏やかな液体剪断は、通常、動物細胞の破壊に適切である。
【0170】
f.低張/高張法
細胞を、はるかに低い(低張)または高い(高張)溶質濃度の溶液に曝露する。溶質濃度の相違によって、浸透圧勾配が得られる。低張環境における細胞内への得られた水流により、細胞が膨張して破裂する。高張環境における細胞外への水流により、細胞が縮んでその後破裂する。
【0171】
G.濃縮および濾過方法
本発明は、アデノウイルスを単離する工程を含むアデノウイルスの産生方法を含む。宿主細胞からのアデノウイルスの単離方法は、当業者に公知の任意の方法を含む。例えば、これらの方法には、清澄化、濃縮、およびダイアフィルトレーションが含まれ得る。精製プロセス中の1つの工程には、細胞溶解物から巨大な粒子(特に、細胞成分)を除去するための細胞溶解物の清澄化が含まれ得る。デプスフィルターを使用するかクロスフロー濾過によって、溶解物を清澄化することができる。本発明の1つの態様では、細胞溶解物を濃縮する。粗細胞溶解物の濃縮は、当業者に公知の任意の工程を含み得る。例えば、粗細胞溶解物を、比較的非吸着性の材料(例えば、ポリエステル樹脂、砂、珪藻土、コロイド、およびゲルなど)のパックカラムからなるデプスフィルターを通過させることができる。クロスフロー濾過(TFF)では、溶解物溶液は、膜表面を通過して流れ、膜表面から大量の溶液への溶質の逆拡散を容易にする。膜は、一般に、種々のフィルター装置型(オープンチャネルプレートおよびフレーム、中空糸、ならびに細管が含まれる)内で配置する。
【0172】
細胞溶解物の清澄化および予備濾過(prefiltration)後、得られたウイルス上清を濃縮し、緩衝液をダイアフィルトレーションによって交換することができる。ウイルス上清を、公称の分子量カットオフが100〜300Kの限外濾過メンブレンを通過するクロスフロー濾過によって濃縮することができる。限外濾過は、分子量サイズ、形状、および/または荷電によって種を分離するための半透膜を使用する圧力改変対流プロセス(pressure-modified convective process)である。これは、溶質の分子サイズと無関係に種々のサイズの溶質から溶媒を分離する。限外濾過は、穏やか且つ効率的であり、溶質を同時に濃縮および脱塩するために使用することができる。限外濾過メンブレンは、一般に、以下の2つの異なる層を有する。孔の直径が10〜400Åの薄く(0.1〜1.5μm)緻密な膜および限外濾過装置の浸透側に大きく開いた段階的に大きくなる間隙の開放構造。したがって、膜の孔を通過することができる任意の種は、メンブレンを自由に通過することができる。溶質の最大保持のために、保持される種よりも十分に低い公称分子量カットオフを有するメンブレンを選択する。高分子濃縮において、メンブレンは所望の生物学的種の含有量を濃縮し、保持された物質を除去した濾過物が得られる。微小溶質(microsolute)を溶媒に対流させて除去する。保持された溶質の濃度が増加するにつれて、限外濾過速度が減少する。
【0173】
本発明のいくつかの態様は、粗細胞溶解物の緩衝液交換の使用を含む。緩衝液交換(すなわち、ダイアフィルトレーション)は、塩、糖の除去、結合種の無い非水性溶媒の分離、低分子量の物質の除去、またはイオンおよびpH環境の急速な変更のためのの理想的な方法である、限外濾過の使用を含む。限外濾過速度と等しい速度で限外濾過される溶液への溶媒の添加によって微小溶質を最も効率的に除去する。これにより、一定体積で溶液由来の小種(microspecies)が洗浄され、保持された種が精製される。
【0174】
H.核酸夾雑物の除去
アデノウイルス産生方法の一定の態様は、粗細胞溶解物中の核酸の夾雑濃度の減少を含む。本発明は、夾雑核酸を除去するためにヌクレアーゼを使用する。例示的ヌクレアーゼには、当技術分野内で一般的に使用されているBenzonase(登録商標)、Pulmozyme(登録商標)、または任意の他のDNアーゼもしくはRNアーゼが含まれる。
【0175】
Benzonaze(登録商標)などの酵素は、核酸を分解し、タンパク質分解活性を有さない。Benzonase(登録商標)が迅速に核酸を加水分解する能力が、この酵素を細胞溶解物の粘度の減少に理想的にしている。核酸がウイルスのような細胞由来粒子に接着できることは周知である。接着は、凝集、粒子サイズの変化、または粒子電荷の変化によって分離を妨害し、所与の精製スキームによって回収したとしても生成物がほとんど得られない。Benzonase(登録商標)は、精製時の核酸負荷の減少、それによる妨害の消失および収率の改善に十分に適切である。
【0176】
エンドヌクレアーゼと同様に、Benzonase(登録商標)は、特定のヌクレオチド間の内部ホスホジエステル結合を加水分解する。完全な消化後、溶液中に存在する全ての遊離核酸は、2〜4塩基長のオリゴヌクレオチドに減少する。
【0177】
I.精製技術
本発明の一定の態様は、アデノウイルスの精製を含むアデノウイルスの産生方法を含む。特許請求の範囲に記載の方法で作製されたアデノウイルスを、当業者に公知の任意の方法によって精製することができる。一定の態様では、特定の精製技術を使用する。これらの技術を、以下に示す。
【0178】
1. 密度勾配遠心分離
密度勾配遠心分離の2つの方法(速度帯技術(rate zonal technique)および等密度(等しい密度)技術)があり、両方とも粒子の混合物のすべての成分の定量的分離が必要とされる場合に使用され得る。これらは、浮遊密度の決定のためおよび沈降係数の評価のためにも使用される。
【0179】
速度帯技術による粒子分離は、サイズまたは沈降速度の差に基づく。この技術は、予め形成された液体密度勾配の上に試料溶液を注意深く積層する工程を包含し、この最高密度は、分離されるべき最も密度の高い粒子の密度を越える。次いで、試料を、所望の程度の分離がもたらされるまで、すなわち、粒子が、勾配を通って動いて粒子の相対速度に従って間隔をあけられた分離した帯またはバンドを形成するのに十分な時間、遠心分離する。この技術は時間依存的であるので、遠心分離は、分離された帯のいずれかがチューブの底部でペレットになる前に終了されなければならない。この方法は、酵素、ホルモン、RNA-DNAハイブリッド、リボソームサブユニット、細胞内オルガネラの分離のため、ポリソームの試料のサイズ分布の分析のため、およびリポタンパク質分画のために使用されている。
【0180】
試料は、分離されるべき粒子密度の全範囲にわたる連続的密度勾配の上部に積層される。それゆえ、勾配の最大密度は、最も密な粒子の密度をいつも超えなければならない。遠心分離中、粒子の沈降は、粒子の浮遊密度と勾配の密度とが等しくなるまで生じる(すなわち、ここでは等式2.12においてpp=pm)。この時点で、粒子はそれ自体の密度よりも大きな密度を有する物質のクッションに浮かんでいるので、遠心分離をどんなに長く続けたとしても、さらなる沈降は生じない。
【0181】
速度帯技術とは対照的に、等密度遠心分離は、平衡化方法であり、粒子は、バンドを形成して、それ自体の特徴的浮遊密度でそれぞれ帯を形成する。おそらく、粒子の混合物中のすべての成分が必要とされるとは限らない場合、混合物の望ましくない成分は遠心チューブの底に沈降するが、目的の粒子がそれぞれの等密度位置に沈降する勾配範囲が選択され得る。このような技術は、速度帯および等密度アプローチの両方の組み合わせを包含する。
【0182】
等密度遠心分離は、粒子の浮遊密度にのみ依存し、そしてその形状またはサイズには依存せず、そして時間とは関係ない。したがって、非常に類似の密度(例えば、スクロース溶液においてp=1.3g cm-3)を有する可溶性タンパク質は、通常はこの方法によって分離され得ないが、細胞内オルガネラ(例えば、スクロース溶液において、ゴルジ装置、p=1.11g cm-3、ミトコンドリア、p=1.19g cm-3、およびペルオキシソーム、p=1.23g cm-3)は、効果的に分離され得る。
【0183】
予め形成された勾配上で分離されるべき粒子混合物を積層することの代わりとして、試料は、最初に、均一密度の溶液を得るために勾配媒体と混合され、遠心分離中に沈降平衡化によって、勾配が「自己形成する」。この方法(平衡化等密度方法という)では、一般的に、重金属(例えば、セシウムまたはルビジウム)の塩、スクロース、コロイド状シリカ、またはMetrizamideが使用される。
【0184】
試料(例えば、DNA)は、例えば、塩化セシウムの濃縮された溶液と均質に混合される。濃縮された塩化セシウム溶液の遠心分離は、CsCl分子の沈降を生じて、濃度勾配、従って密度勾配を形成する。チューブ全体を通して最初は均一に分布した試料分子(DNA)は、ここで、溶液密度がそれ自体の浮遊密度に等しい領域、すなわち、その等密度位置に達するまで上昇するかまたは沈降し、この位置で試料分子はバンド形成して帯になる。この技術はしばしば、平衡を確立するために非常に長い遠心分離時間(例えば、36〜48時間)が必要とされるという不利益がある。しかし、これは、粒子の浮遊密度、二本鎖DNAの塩基組成を決定するために、および環状形態のDNAから線状形態のDNAを分離するための分析遠心分離で普通に使用される。
【0185】
分離の多くは、生合成の間に重い同位元素(例えば、15N)の組込みによりDNAの異なる形態間の密度の差を増加させること(Escherichia coliにおけるDNA複製のメカニズムを解明するためにLeselsonおよびStahlによって使用された技術)によって、あるいは重金属イオンまたはエチジウムブロミドのような染料の結合によって改良され得る。等密度勾配はまた、ウイルスを分離および精製するため、およびヒト血漿リポタンパク質を分析するために使用されている。
【0186】
2. クロマトグラフィー
本発明のある実施態様では、アデノウイルスをクロマトグラフィーを用いて精製する。アデノウイルスを一つまたは複数のクロマトグラフィー工程に供してもよい。精製技術は、当技術分野で周知である。これらの技術は、混合物の他の成分からアデノウイルス粒子を分離するための細胞環境の分画化を包含する傾向がある。他の成分からアデノウイルス粒子が分離されると、アデノウイルスは、完全な精製を達成するために、クロマトグラフィーおよび電気泳動技術を使用して精製され得る。本発明の純粋なアデノウイルス粒子の調製に特に適切な分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー;およびポリアクリルアミドゲル電気泳動である。本発明に関連して用いられるべき特に効率的な精製方法は、HPLCである。
【0187】
本発明のある局面は、アデノウイルス粒子の精製に関し、そして特定の実施態様では、その実質的な精製に関する。本明細書で使用される用語「精製された」は、他の成分から単離可能な組成物をいうことが意図され、ここで、アデノウイルス粒子は、天然に入手可能な形態に対して任意の程度まで精製される。したがって、精製されたアデノウイルス粒子はまた、その粒子が天然に存在し得た環境にないアデノウイルス成分をいう。
【0188】
一般的に、「精製された」とは、種々の他の成分を除去するための分画化を受けたアデノウイルス粒子をいい、そしてこの組成物は、その発現された生物学的活性を実質的に保持する。用語「実質的に精製された」が使用される場合、この名称は、粒子、タンパク質、またはペプチドが、組成物中の約50%以上の構成成分を構成するような、組成物の主要成分を形成する組成物をいう。
【0189】
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量するための種々の方法は、本明細書の開示を考慮すれば当業者に公知である。これらには、例えば、活性画分の比活性を決定すること、またはSDS/PAGE分析によって画分内のポリペプチドの量を評価することが包含される。画分の純度を評価するために好ましい方法は、画分の比活性を算出すること、これを最初の抽出物の比活性と比較すること、および純度の程度を算出することであり、ここでは「〜倍精製数(-fold purification number)」によって評価される。活性の量を表すために使用される実際の単位は、もちろん、精製に続いて選択される特定のアッセイ技術、ならびに、発現されたタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すかどうかに依存する。
【0190】
アデノウイルスが、常に最も精製された状態で提供されるという一般要件はない。実際、実質的にあまり精製されていない産物が、ある実施態様で有用性を有することが予想される。部分精製は、少数の精製工程を組み合わせて使用することによって、または同じ一般的精製スキームの種々の形態を利用することによって、達成され得る。例えば、HPLC装置を利用して行われる陽イオン交換カラムクロマトグラフィーが、一般的に、低圧クロマトグラフィーシステムを利用する同じ技法よりも大きな倍率の精製を生じることが理解される。より低い程度の相対精製を示す方法は、タンパク質産物の総回収に、または発現されたタンパク質の活性を維持することに利点を有し得る。
【0191】
もちろん、当業者に公知のクロマトグラフィー技法および他の精製技法もまた、本発明のアデノウイルスベクターによって発現されるタンパク質を精製するために用いられ得ることが理解される。イオン交換クロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーは、アデノウイルス粒子の精製に用いられる代表的精製技法であり、そして本明細書で以下にさらに詳細に記載される。
【0192】
イオン交換クロマトグラフィー
イオン交換クロマトグラフィーの基本原理は、交換体に対する物質の親和性が、材料の電気的特性および溶媒中の他の荷電物質の相対親和性の両方に依存する。したがって、結合した材料は、pHを変化させること、そのため材料の電荷を変化させることによって、あるいは競合する材料(その塩は1例にすぎない)を添加することによって、溶出され得る。異なる物質は異なる電気的特性を有するので、遊離についての条件は、各結合した分子種で変化する。一般的に、良好な分離を得るために、選択方法は、連続的イオン強度勾配溶出または段階的溶出のいずれかである。(イオン強度を同時に増加させることなくpH勾配を設定することは困難であるので、pHのみの勾配は使用されないことが多い。)陰イオン交換体については、pHおよびイオン強度が徐々に増加するか、またはイオン強度のみが増加するかのいずれかである。陽イオン交換体については、pHおよびイオン強度の両方とも増加する。溶出手順の実際の選択は、通常、試行錯誤、および安定性の考慮の結果である。例えば、不安定な材料については、かなり一定のpHを維持することが最良である。
【0193】
イオン交換体は、イオンが静電的に結合する、化学的に結合した荷電基を有する固体であり;水性溶液中のイオンに対してこれらのイオンを交換し得る。イオン交換体は、電荷に従って分子を分離するためにカラムクロマトグラフィーで使用され得;実際には、分子の他の特徴は、通常、クロマトグラフの挙動が、分子の電荷密度、電荷分布、およびサイズに感受性であるために重要である。
【0194】
イオン交換クロマトグラフィーの原理は、荷電分子が可逆的にイオン交換体に吸着し、その結果、分子がイオン環境を変化させることによって結合または溶出され得ることである。イオン交換体における分離は、通常、2つの段階で達成される:第1は、分離されるべき物質が、安定で強固な結合を与える条件を使用して、交換体に結合される;次いで、カラムが、異なるpH、イオン強度、または組成の緩衝液で溶出され、そして緩衝液の成分が、結合した材料と結合部位について競合する。
【0195】
イオン交換体は、通常、共有結合した荷電基を含む三次元ネットワークまたはマトリクスである。基は、負に荷電している場合、陽イオンを交換しかつ陽イオン交換体である。陽イオン交換体で使用される代表的な基は、スルホン基SO3-である。H+がこの基に結合されるならば、交換体は、酸形態であるといい;例えば、1つのNa+に対して1つのH+を、または1つのCa2+に対して2つのH+を交換し得る。スルホン酸基は、強酸性陽イオン交換体と呼ばれる。他の通常使用される基は、フェノール性ヒドロキシルおよびカルボキシルであり、両方とも弱酸性陽イオン交換体である。荷電基が正、例えば、4級アミノ基であるならば、これは強塩基性陰イオン交換体である。最も通常の弱塩基性陰イオン交換体は、芳香族または脂肪族アミノ基である。
【0196】
マトリクスは、種々の材料から作製され得る。普通に使用される材料は、デキストラン、セルロース、アガロース、ならびにスチレンとビニルベンゼンとのコポリマーであり、ここでジビニルベンゼンはポリスチレン鎖を架橋し、しかも荷電基を含む。表4は、多くのイオン交換体の組成を示す。
【0197】
イオン交換体の総容量が、乾燥重量のミリグラム当たりの交換可能な基を取り込む能力の尺度となる。この数は、製造者によって提供され、そして容量を超過してしまうと、イオンが結合せずにカラムを通過するので、重要である。
【0198】
(表4)

【0199】
利用可能な容量は、特定の実験条件(すなわち、pH、イオン強度)下の容量である。例えば、イオン交換体が荷電する程度は、pHに依存する(pHの効果は、強イオン交換体では、より小さい)。荷電基の近くの小イオンがこれらの基について試料分子と競合するので、別の因子はイオン強度である。小イオンのより高い拡散係数はより大きな回数の遭遇を意味するので、この競合は、試料が巨大分子であるならば、非常に効果的である。明らかに、緩衝液濃度が上昇するにつれて、競合はより激しくなる。
【0200】
マトリクスの多孔性は、荷電基がマトリクスの内側および外側の両方にあるので、そしてマトリクスがまた分子ふるいとして作用するので、重要な特徴である。大きな分子は、孔を通過することができない可能性があり;そのため、容量は分子の大きさの増加とともに減少する。ポリスチレンベースの樹脂の多孔性は、ジビニルベンゼンによる架橋の量によって決定される(多孔性は、ジビニルベンゼンの量の増加とともに減少する)。DowexおよびAGシリーズでは、ジビニルベンゼンの割合は、Xの後の数字によって示され、したがって、Dowex 50-X8は、8%ジビニルベンゼンである。
【0201】
イオン交換体は、メッシュサイズと呼ばれる、種々の粒子サイズにはいる。より細かいメッシュは、増加した表面対容量比(ration)、したがって交換体の所定の容量について生じる交換についての容量の増加および時間の減少を意味する。一方、細かいメッシュは、拡散的な広がりを増加し得るゆっくりとした流速を意味する。非常に細かい(約10μm直径の)粒子および適切な流れを維持するための高圧の使用は、高速または高圧液体クロマトグラフィー、または単にHPLCと呼ばれる。このような異なる特性−電荷、容量、多孔性、メッシュ−を有する交換体のこのようなコレクションは、特定の分離を達成するのに適切な交換体の選択を困難にする。
【0202】
技法としてイオン交換クロマトグラフィーを用いる場合、行われるべき多くの選択がある。行われるべき第1の選択は、交換体を陰イオン性または陽イオン性のどちらにするべきかである。カラムに結合されるべき材料が単一電荷(すなわち、正または負のいずれか)を有するならば、選択は明らかである。しかし、多くの物質(例えば、タンパク質、ウイルス)は、負電荷および正電荷の両方を有し、そして正味の電荷はpHに依存する。このような場合、主要な因子は、種々のpH値での物質の安定性である。ほとんどのタンパク質は、正または負のいずれかに荷電する安定性のpH範囲(すなわち、この範囲でタンパク質は変性しない)を有する。したがって、タンパク質が等電点より上のpH値で安定であるならば、陰イオン交換体が使用されるべきであり;等電点以下の値で安定ならば、陽イオン交換体が必要とされる。
【0203】
強イオン交換体と弱イオン交換体との間の選択はまた、電荷および安定性に対するpHの効果に基づく。例えば、イオン化のために非常に低いまたは高いpHを必要とする弱くイオン化された物質がクロマトグラフされる(chromatographed)ならば、全pH範囲にわたり機能するので、強イオン交換体が要求される。しかし、物質が不安定であるならば、強交換体はしばしば分子をゆがめて変性し得るので、弱イオン交換体が好ましい。物質が安定であるpHは、もちろん、特定の弱交換体が荷電されるpHの狭い範囲にマッチさせなければならない。弱く荷電したイオンは通常結合しないので、弱イオン交換体はまた、小さな電荷を有する分子からの高い電荷を有する分子の分離に関して優れている。弱交換体はまた、電荷の差が非常に小さいならば、物質のより大きな分解能を示す。巨大分子が非常に強い電荷を有するならば、強交換体から溶出することが不可能であり得、弱交換体がまた好ましい可能性がある。一般に、弱交換体は、強交換体よりも有用である。
【0204】
SephadexおよびBio-gel交換体は、低イオン強度で不安定である巨大分子について特に利点を提供する。これらの材料における架橋は、たとえマトリクスが非常に極性であっても、マトリクスの不溶性を維持するので、イオン化可能な基の密度は、セルロースイオン交換体で可能であるよりも数倍大きくさせ得る。増加した電荷密度は、増加した親和性を意味し、その結果、より高いイオン強度で吸着が行われ得る。一方、これらの交換体は、分子ふるい特性をいくつか保持し、そのため、ときどき、分子量の差は、電荷の差によって引き起こされる分配を無効にする。分子ふるい効果はまた、分離を増強し得る。
【0205】
小分子は、利用可能容量が大きいので、小さい孔サイズ(高い程度の架橋)のマトリクスで最良に分離されるが、巨大分子は大きな孔サイズを必要とする。しかし、Sephadexタイプを除いて、ほとんどのイオン交換体は、多孔性を分子量とマッチさせる機会を提供しない。
【0206】
セルロースイオン交換体は、タンパク質およびポリヌクレオチドのような大きな分子を精製するために最良であることが証明されている。これは、マトリクスが繊維状であり、したがって、すべての官能基は表面上にあり、そして最大の分子であっても利用可能であるからである。しかし、多くの場合には、DEAE-SephacelおよびDEAE-Biogel Pのようなビーズ形態が、より良好な流速および分子ふるい効果が分離を補助するため、より有用である。
【0207】
メッシュサイズを選択することは常に難しい。小さいメッシュサイズは、分解能を改良するが、流速を減少させ、これはゾーンの広がりを増加させ、分解能を減少させる。したがって、適切なメッシュサイズは、通常、経験的に決定される。
【0208】
緩衝液自体はイオンからなるので、これらも交換可能であり、そしてpH平衡が影響され得る。これらの問題を避けるために、陰イオン交換体には陽イオン緩衝液を使用し、そして陽イオン交換体には陰イオン緩衝液を使用せよという、緩衝液の規則が採用される。イオン強度は結合における因子であるので、そのイオン強度が高すぎる必要がないように、高い緩衝能を有する緩衝液を選択すべきである。さらに、最良の分解能のため、一般的に、カラムに試料を適用するために使用されるイオン条件(いわゆる開始条件)は、カラムを溶出するために使用される条件に近くあるべきである。
【0209】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、ピークの顕著な分解能を有する非常に迅速な分離によって特徴づけられる。これは、非常に細かい粒子および適切な流速を維持するための高圧の使用によって達成される。分離は、数分またはせいぜい1時間で達成され得る。さらに、粒子が非常に小さくそして密にパックされ、空隙容量がベッド容量より非常に小さいので、非常に小さな容量の試料のみが必要とされる。また、バンドが狭く試料はほとんど希釈されないので、試料の濃度はあまり大きくする必要はない。
【0210】
本発明の一定の態様では、アデノウイルスの産生方法はウイルス産生を分析する方法を含む。当業者に公知の任意の方法を使用して、ウイルス産生を分析することができる。一定の態様では、HPLCを使用してウイルス産生を分析する。
【0211】
J.薬学的製剤
一定の態様では、本発明は、アデノウイルスを薬学的に許容される組成物中に配置する工程を含む、アデノウイルスの産生方法を含む。本発明はまた、薬学的に許容される組成物である、本明細書に開示の方法の1つによって調製したアデノウイルスの組成物を含む。
【0212】
「薬学的に許容される組成物」という語は、動物(または適切にはヒト)に投与した場合に副作用、アレルギー反応、または他の有害な作用を起こすことがない分子および組成物をいう。本明細書中で使用される「薬学的に許容される組成物」には、任意および全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤、ならびに吸収遅延薬などが含まれる。薬学的活性物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が有効成分と適合しない範囲を除いて、治療組成物でのその使用を意図する。補足的有効成分を、組成物に組み込むこともできる。さらに、組成物は、補足的不活性成分を含み得る。例えば、うがい薬として使用するための組成物は、香味物質を含んでもよく、または、組成物は製剤を持続放出させるための補足的成分を含んでもよい。
【0213】
本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散された有効量の発現カセットを含む。このような組成物を、接種材料ともいう。水性組成物の例には、静脈内投与用の製剤または局所投与用の製剤が含まれる。
【0214】
遊離塩基または薬学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合した水中で調製することができる。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、その混合物、および油中で分散物を調製することもできる。通常の保存および使用条件下で、これらの調製物は、微生物の成長を防止するための防腐剤を含む。
【0215】
本発明のアデノウイルス調製物には、古典的な薬学的調製物が含まれる。本発明の治療組成物の投与は、標的組織がその経路を介して利用可能である限り、任意の一般的経路を介する。このような組成物を、通常、生理学的に許容される担体、緩衝液、または他の賦形剤を含む薬学的に許容される組成物として投与する。
【0216】
本発明の治療組成物および予防組成物を、有利には、溶液または懸濁液の形態で投与し、局所使用前の液体中の溶液、または懸濁液に適切な固体形態を調製することもできる。このような目的のための典型的な組成物は、薬学的に許容される担体を含む。例えば、組成物は、10mg、25mg、50mg、または約100mgまでのヒト血清アルブミン/mlリン酸緩衝生理食塩水を含み得る。他の薬学的に許容される担体には、水溶液、非毒性賦形剤(塩、防腐剤、および緩衝液などが含まれる)が含まれる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体には、水、アルコール溶液/水溶液、生理食塩水、塩化ナトリウムなどの非経口賦形剤、リンゲルデキストロースなどが含まれる。防腐剤には、抗菌薬、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスが含まれる。周知のパラメーターにしたがって、薬学的組成物の種々の成分のpHおよび正確な濃度を調整する。
【0217】
経口製剤には、このような通常使用される賦形剤(例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、および/または炭酸マグネシウムなど)が含まれる。これらの組成物は、うがい薬および洗口剤などの溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放製剤、および/または粉末の形態を取る。一定の定義された態様では、経口薬学的組成物は、不活性希釈物および/または吸収性食用担体を含み、かつ/または薬学的組成物を硬および/または軟ゼラチンカプセルに封入することができ、かつ/または打錠することができ、かつ/または食事の食品を直接組み込むことができる。経口治療投与のために、活性化合物を、賦形剤に組み込み、かつ/または摂取錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、および/またはウェハなどの形態で使用することができる。このような組成物および/または調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含む。組成物および/または調製物の比率を、勿論、変化させることができ、かつ/または単位重量の約2%〜約75%、および/または好ましくは25〜60%であることが都合がよい。このような治療有用組成物中の活性化合物の量は、適切な投薬量が得られるような量である。
【0218】
錠剤、トローチ、丸薬、および/またはカプセルなどはまた、以下を含み得る。トラガカント、アカシア、トウモロコシデンプン、および/またはゼラチンなどの結合剤;第二リン酸カルシウムなどの賦形剤;トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、および/またはアルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;および/またはスクロース、ラクトース、および/またはサッカリンなどの甘味料;そして/またはペパーミント、ウィンターグリーン油、および/またはチェリーフレーバーなどの香味物質を添加することができる。単位投薬形態がカプセルである場合、上記型の材料に加えて、液体担体を含むことができる。種々の他の材料がコーティング剤として存在することができ、そして/または投薬単位の物理的形態を改変することができる。例えば、錠剤、丸薬、および/またはカプセルを、シェラック、糖、および/またはその両方でコーティングすることができる。エリキシルのシロップは、活性化合物、甘味料としてのスクロース、防腐剤としてのメチルおよび/またはプロピルパラベン、色素、および/またはチェリーおよび/またはオレンジフレーバーなどの香味物質を含み得る。
【0219】
経口投与のために、本発明の発現カセットを賦形剤で組み込み、非摂取うがい薬および歯磨き剤の形態で使用する。ホウ酸ナトリウム溶液(Dobell液)などの必要量の適切な溶剤で有効成分を組み込んでうがい薬を調製することができる。または、有効成分を、ホウ酸ナトリウム、グリセリン、および重炭酸カリウムを含む消毒洗浄剤(antiseptic wash)に組み込むことができる。有効成分を、歯磨き剤(ゲル、ペースト、粉末、およびスラリーが含まれる)に分散させることができる。有効成分を、ペースト歯磨き(水、結合剤、研磨剤、香味物質、発泡剤、および保湿剤)に治療有効量で添加することができる。
【0220】
本発明の組成物を、中性または塩の形態で製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基を使用して形成)および無機酸(例えば、塩酸またはリン酸など)または有機酸(酢酸、シュウ酸、酒石酸、およびマンデル酸など)を使用して形成された酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基を使用して形成された塩はまた、無機塩基(例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄など)および有機塩基(イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、およびプロカインなど)に由来し得る。
【0221】
本発明での投与のために、溶液および/またはスプレー、皮下噴射器、エアゾール、および/または吸入器を使用することもできる。1つの例は、気道消化管投与のためのスプレーである。スプレーは、pH5.5〜6.5を維持するために、等張であり、そして/またはわずかに緩衝化されている。さらに、眼科用調製物で使用されるものに類似の抗細菌防腐剤および/または適切な薬物安定剤(必要な場合)を製剤に含めることができる。他の投与様式に適切なさらなる製剤には、膣または直腸の坐剤および/またはペッサリーが含まれる。局所である他の投与型のための製剤には、例えば、クリーム、坐剤、軟膏、または軟膏剤(salve)が含まれる。
【0222】
K.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を証明するために含まれる。本発明の実施で十分に機能させるために本発明者らによって発見された本技術に従った実施例に技術を開示し、それにより、その実施のための好ましい様式を構成すると考えることができることが当業者に認識されるはずである。しかし、当業者は、本開示に照らして、開示した特定の態様を多数の変更形態を得ることができ、依然として本発明の精神および範囲から逸脱することなく同等または類似の結果を得ることができることを認識するはずである。
【0223】
実施例1
例示的手順
アデノウイルス産生に対する感染温度の効果を評価するための研究を、2つのアデノウイルスベクター(Adp53およびAdmda7)を使用して行った。
【0224】
以下の4つの温度を評価した:32℃、35℃、37℃、および39℃。使用したアデノウイルスベクターはAdp53およびAdmda7であった。細胞は、HEK293細胞(細胞継代数は54回)であった。インキュベーター(Forma Scientific, Inc., model#; Steri-Cult 200)を使用してT-150フラスコ(Corning)中で成長させた293細胞において実験を行った。感染培地は、DMEM+2% FBSであった。感染多重度(MOI)は150vp/細胞であった。
【0225】
9つのT-150フラスコに、10%FBS-DMEM培地中5.8×104細胞/cm2の播種密度で293細胞(細胞継代数は54回)を播種した。全フラスコを、10%CO2、95%の相対湿度の37℃インキュベーター内においた。播種から72時間後、1つのフラスコをトリプシン処理して計数し、細胞密度は1.6×105細胞/cm2であった。残りの8つのフラスコ由来の使用済みの培地を吸引し、新鮮な2%FBS-DMEMを添加した。フラスコに、上記のトリプシン処理フラスコの細胞数に基づいて150vp/細胞のMOIでAdp53またはAdmda7を感染させた。2つのフラスコを、それぞれ以下の温度でインキュベーター内に置いた:39℃、37℃、35℃、および32℃。全インキュベーターを、10%CO2および95%相対湿度の環境に設定した。異なる温度の正確さを確実にするために、使用前に全インキュベーターの温度を温度較正装置(Kaye Instruments)を使用して較正した。感染から96時間後、全フラスコを回収した。各フラスコに1%(v/v)の最終濃度のTween-20を添加し、フラスコを37℃で30分間インキュベートした。次いで、100μ/mlのBenzonase(EMD Chemicals)を、37℃で1時間添加した。ウイルス濃度のHPLC分析のために、各フラスコからサンプルを採取した。
【0226】
Adp53およびAdmda7の結果を、それぞれ図1Aおよび図1Bに示す。
【0227】
ウイルス産生は、37℃と比較して39℃で有意に減少した(図1Aおよび図1B)。37℃の感染温度では、Admda7ウイルスの収量は、2.6E10 vp/mlまたは26,000 vp/細胞であった。35℃の感染温度では、Ad-mda7ウイルスの収量は、4.1E10 vp/mlまたは41,000 vp/細胞であった。37℃および35℃でほぼ等しいウイルス産生が達成された。32℃でのウイルス産生は、37℃よりもはるかに低かった。Adp53およびAdmda7ベクターの両方について同一の一般的結論が明らかとなった。
【0228】
アデノウイルス産生のための至適感染温度は、32℃を超えるが37℃未満の範囲である。結果はまた、アデノウイルス産生に対する高感染温度(39℃)の有害な影響も示した。
【0229】
使用材料
バイオリアクターのモデル:20/50EH (Wave Biotech, LLC)
培養培地: CD293無タンパク質培地(Invitrogen(商標))
HEK293懸濁細胞:Introgen Therapeutics, Inc.で無血清懸濁培養に適合させる
アデノウイルスベクター: Introgen Therapeutics, Inc. 製
YSI生化学分析器: YSI-2700 SELECT(商標)
【0230】
実施例2
培地灌流を使用しない細胞成長およびアデノウイルスベクターの産生
アデノウイルスベクターの産生を、10L(作業体積は5L)Waveバイオリアクター(登録商標)で行った。HEK293懸濁細胞を、4.8E5細胞/mlで播種し、無タンパク質CD293培地中で1.2E6細胞/mlまで成長させた。ロッキング速度を10に設定し、ロッキング角度を11に設定した。ガスミキサーによって送達されたCO2ガス比率の調整によって培地pHを維持した。Wave Biotech(商標)から供給されている使い捨てのDOTプローブを使用して、培養培地中の溶存酸素圧(DOT)をモニタリングした。
【0231】
細胞濃度が1.2E6細胞/mlに達した時点で、培養物をバイオリアクターから移し、遠心分離し、得られた細胞ペレットを、新鮮なCD293培地に再懸濁した。細胞懸濁液を、バイオリアクターに戻し、細胞に50vp/細胞のMOIでアデノウイルスベクターを感染させた。感染を4日間進行させた。感染4日後に培養を採取した。細胞成長データを、図2に示す。図2は、細胞濃度は4日目にピークに達し、生存度は一定のままであるが、5日目に減少が認められることを証明する。図3は、栄養/代謝産物データを示す。ウイルス感染後、グルコース濃度は経時的に減少し、乳酸塩濃度は経時的に増加した。
【0232】
陰イオン交換HPLC法を使用して、アデノウイルスベクター産生を測定した。バイオリアクター中のアデノウイルスベクター濃度は、4.5E10vp/mlであり、細胞特異的ベクターの産生性は37,000vp/細胞であった。ベクター産生性は、血清含有培地での親足場依存性HEK293細胞を使用して認められたものと非常に一致する。
【0233】
実施例3
細胞成長期に灌流を使用した細胞成長およびアデノウイルスベクター産生
固有にデザインした灌流Waveバイオリアクターを、図4に記載のように設定した。図4に示すシステムは、細胞と使用済み培地とを分離するための内部平面フィルターを使用する。使用済み培養培地を、浮遊フィルターを介して回収する。培地の再循環が必要ないので、この培地灌流様式は培養細胞に非常に穏やかである。波動は、灌流中のフィルターの目詰りを最小にする。灌流時の培養体積を、新鮮な培地の添加を開始するために使用したロードセルによって維持する。
【0234】
1L(作業体積)灌流Waveバイオリアクターを使用して、ウイルス感染前の成長期の細胞濃度を増加させた。培養時の細胞成長および栄養/代謝産物濃度を、図5および図6に示す。
【0235】
HEK293懸濁細胞を、5E5細胞/mlの細胞濃度で播種した。培養3日目に、1.7E6細胞/mlの細胞濃度で培地の灌流を開始した。細胞濃度は、6日目で1E7細胞/mlまでほぼ指数関数的に増加し、細胞生存度は90%超に維持された。栄養素を補足し、有毒代謝産物を希釈するために、培養物を新鮮なCD293培地で10倍に希釈した。培養物を直ちに灌流フィルターを使用せずにより大きなWaveバイオリアクター(商標)中においてMOIが50vp/細胞でアデノウイルスベクターに感染させた。ウイルス感染後、培地灌流を再開しなかった。感染を4日間進行させた。ウイルス感染4日目に培養物を採取した。
【0236】
陰イオン交換HPLC法を使用して、アデノウイルスベクター産生を測定した。Waveバイオリアクター(登録商標)中でのアデノウイルスベクター濃度は、3.5E10vp/mlであり、細胞特異的ベクターの産生性は35,000vp/細胞であった。
【0237】
これらの結果は、Waveバイオリアクターにおける無タンパク質CD293培地中で成長させたHEK293細胞の懸濁液中での満足なアデノウイルスベクター産生を証明する。有効且つ拡大縮小可能な灌流−希釈法により、懸濁培養についてのウイルス感染時の培地交換に関連する困難が克服される。遠心分離による完全な培地交換感染法と比較して灌流−希釈感染法はほぼ等価なウイルス産生性を達成した。灌流−希釈感染法の操作の容易さにより、大量無血清懸濁培養における好ましいアデノウイルスベクター産生法となる。
【0238】
本明細書に開示および特許請求の範囲に記載の全ての方法および組成物を、本発明の開示に照らして過度に試験することなく作製および実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記載しているが、本発明の概念、精神、および範囲を逸脱することなく、変形形態を本明細書に記載の方法および組成物ならびに方法の工程または一連の工程に適用することができることが当業者に明らかである。より詳細には、化学的および生理学的の両方に関連する一定の薬剤を本明細書に記載の薬剤と置換し、同一または類似の結果が達成されることが明らかである。当業者に明らかな全てのこのような類似の置換形態および修正形態は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨、範囲、および概念の範囲内と見なされる。
【0239】
参考文献
以下の参考文献は、これらが例示的手順または他の詳細を補助的に本明細書に提供する範囲で、参照により本明細書に組み入れられる。
【0240】
米国特許第4,352,883号
米国特許第5,670,488号
米国特許第5.932,210号
米国特許第5,824,544号
米国特許出願第60/026,667号
米国特許出願第60/203,078号



【図面の簡単な説明】
【0241】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の一定の態様をさらに証明するために含まれる。本明細書に記載の特定の態様の詳細な説明と組み合わせて、一つまたは複数のこれらの図面の参照によって、本発明をより深く理解することができる。
【図1】図1Aは、Adp53産生(vp/フラスコ)に対する温度の効果を示す研究の結果である。図1Bは、Admda7産生(vp/フラスコ)に対する温度の効果を示す研究の結果である。
【図2】バイオリアクター中での細胞成長および生存度を示す図である。
【図3】培地対培養日数におけるグルコースおよび乳酸塩濃度(g/L)を示す図である。
【図4】灌流バイオリアクターシステムの図である。
【図5】灌流培養対培養日数における細胞成長および生存度を示す図である。
【図6】灌流培養対培養日数におけるグルコースおよび乳酸塩濃度(g/L)を示す図である。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)(i)培地中で宿主細胞を成長させる工程;および
(ii)37℃未満の成長許容温度で宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程;
を含む、アデノウイルス調製物を調製する工程;ならびに
b)該アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する工程;
を含む、アデノウイルスの産生方法。
【請求項2】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、31℃を超えるが37℃未満の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、32℃〜36℃の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、33℃〜36℃の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、34℃〜36℃の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、35℃〜36℃の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、32℃〜37℃未満の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、33℃〜37℃未満の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、34℃〜37℃未満の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、35℃〜37℃未満の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、36℃〜37℃未満の範囲内の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、約36℃の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、約35℃の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、約34℃の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、約33℃の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項16】
宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程が、約32℃の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項17】
培地がDMEM+2% FBSである、請求項1記載の方法。
【請求項18】
培地中のグルコース濃度を約0.5g〜約3.0gグルコース/リットルに維持する、請求項1記載の方法。
【請求項19】
a)(i)バイオリアクター中の培地中で宿主細胞を成長させる工程;
(ii)宿主細胞を新鮮な培地およびアデノウイルスで希釈することによってウイルス感染を開始する工程;
を含む、アデノウイルス調製物を調製する工程;ならびに
b)アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する工程;
を含む、アデノウイルスの産生方法。
【請求項20】
培地が無血清培地である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
培地が無タンパク質培地である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
無タンパク質培地がCD293である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
バイオリアクターが、平面プラットフォームの軸揺動(axial rocking)を使用してバイオリアクターの内側で波動を誘導するバイオリアクターを含む、請求項19記載の方法。
【請求項24】
ポリエチレンビニルアセテートおよびエチルビニルアルコールの層から作製された滅菌バッグの内側で波動を誘導する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
バイオリアクターが使い捨てのバイオリアクターである、請求項19記載の方法。
【請求項26】
バイオリアクターが10Lのバイオリアクターである、請求項19記載の方法。
【請求項27】
バイオリアクターが市販のバイオリアクターである、請求項19記載の方法。
【請求項28】
アデノウイルス調製物を調製する工程が培地のpHをモニタリングする工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項29】
アデノウイルス調製物の調製が培地中の溶存酸素圧をモニタリングする工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項30】
アデノウイルス調製物を調製する工程が培地の温度をモニタリングする工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項31】
アデノウイルス調製物を調製する工程がフィルターを介して培地を灌流する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項32】
フィルターがバイオリアクターの内部に存在する、請求項31記載の方法。
【請求項33】
フィルターがバイオリアクターの外部に存在する、請求項31記載の方法。
【請求項34】
フィルターが浮遊平面フィルター(floating flat filter)である、請求項31記載の方法。
【請求項35】
アデノウイルス調製物を調製する工程がフィルターを介してバイオリアクターから使用済み培地を除去する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項36】
アデノウイルス調製物を調製する工程が、新鮮な培地の添加を引き起こすために使用したロードセルによって培養物体積を維持する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項37】
アデノウイルス調製物を調製する工程が宿主細胞成長の3日目から開始される培地の灌流工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項38】
培地で宿主細胞を希釈する工程が、新鮮な培地およびアデノウイルスで宿主細胞を2倍〜50倍に希釈することによって行われる、請求項19記載の方法。
【請求項39】
宿主細胞を新鮮な培地およびアデノウイルスで10倍に希釈する、請求項38記載の方法。
【請求項40】
第2のバイオリアクター中でウイルス感染を開始する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項41】
ウイルス感染の開始が、20〜100vp/宿主細胞を添加する工程を含む、請求項19記載の方法。
【請求項42】
ウイルス感染の開始が、約50vp/宿主細胞を添加する工程を含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
アデノウイルス調製物を調製する工程が、ウイルス感染を約4日間続行する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項44】
アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する工程を、ウイルス感染完了から約4日後に行う、請求項19記載の方法。
【請求項45】
宿主細胞が複製欠損アデノウイルスの成長を補完する、請求項1または19記載の方法。
【請求項46】
アデノウイルスが複製欠損アデノウイルスである、請求項1または19記載の方法。
【請求項47】
アデノウイルスがE1領域の少なくとも一部を欠く、請求項46記載の方法。
【請求項48】
アデノウイルスがE1Aおよび/またはE1B領域の少なくとも一部を欠く、請求項46記載の方法。
【請求項49】
宿主細胞が、293細胞、HEK293細胞、PER.C6細胞、911細胞、およびIT293SF細胞からなる群より選択される、請求項1または19記載の方法。
【請求項50】
宿主細胞がHEK293細胞である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
アデノウイルスが組換えアデノウイルスである、請求項1または19記載の方法。
【請求項52】
組換えアデノウイルスがプロモーターに作動可能に連結された組換え遺伝子をコードする、請求項51記載の方法。
【請求項53】
プロモーターが組織特異的プロモーターまたは誘導性プロモーターである、請求項52記載の方法。
【請求項54】
プロモーターがSV40 EI、RSV LTR、β-アクチン、CMV-IE、アデノウイルス主要後期、ポリオーマF9-1、チロシナーゼプロモーター、α-胎児性タンパク質プロモーター、またはegr-1である、請求項52記載の方法。
【請求項55】
組換え遺伝子が、アンチセンスras、アンチセンスmyc、アンチセンスraf、アンチセンスerb、アンチセンスsrc、アンチセンスfms、アンチセンスjun、アンチセンスtrk、アンチセンスret、アンチセンスgsp、アンチセンスhst、アンチセンスbcl、アンチセンスabl、Rb、CFTR、p16、p21、p27、p57、p73、C-CAM、APC、CTS-1、zac1、scFV ras、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、BRCA1、VHL、MMAC1、FCC、MCC、BRCA2、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、GM-CSF、G-CSF、チミジンキナーゼ、mda7、fus、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、ADP、p53、ABLI、BLC1、BLC6、CBFA1、CBL、CSFIR、ERBA、ERBB、EBRB2、ETS1、ETS2、ETV6、FGR、FOX、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TAL1、TCL3、YES、MADH4、RB1、TP53、WT1、TNF、BDNF、CNTF、NGF、IGF、GMF、aFGF、bFGF、NT3、NT5、ApoAI、ApoAIV、ApoE、Rap1A、シトシンデアミナーゼ、Fab、ScFv、BRCA2、zac1、ATM、HIC-1、DPC-4、FHIT、PTEN、ING1、NOEY1、NOEY2、OVCA1、MADR2、53BP2、IRF-1、Rb、zac1、DBCCR-1、rks-3、COX-1、TFPI、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、VEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはMCCである、請求項52記載の方法。
【請求項56】
組換え遺伝子が、ACP デサチュラーゼ、ACPヒドロキシラーゼ、ADP-グルコースピロホリラーゼ、ATPアーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、シクロオキシゲナーゼ、デカルボキシラーゼ、デキストリナーゼ、エステラーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、ヒアルロンシンターゼ、ガラクトシダーゼ、グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、GTPアーゼ、ヘリカーゼ、ヘミセルラーゼ、ヒアルロニダーゼ、インテグラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、ラクターゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、リアーゼ、リゾチーム、ペクチンエステラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテイナーゼ、ペプチデアーゼ(peptidease)、プルラナーゼ、リコンビナーゼ、逆転写酵素、トポイソメラーゼ、キシラナーゼ、レポーター遺伝子、インターロイキン、またはサイトカインをコードする遺伝子である、請求項52記載の方法。
【請求項57】
組換え遺伝子が、カルバモイルシンテターゼI、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギノスクシネートシンテターゼ、アルギノスクシネートリアーゼ、アルギナーゼ、フマリルアセトアセテートヒドロラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、α-1 アンチトリプシン、グルコース-6-ホスファターゼ、低密度リポタンパク質受容体、ポルホビリノゲンデアミナーゼ、第VIII因子、第IX因子、シスタチオンβ-シンターゼ、分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼ、アルブミン、イソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、メチルマロニルCoAムターゼ、グルタリルCoA デヒドロゲナーゼ、インスリン、β-グルコシダーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、肝臓ホスホリラーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グリシンデカルボキシラーゼ、H-タンパク質、T-タンパク質、メンケス病銅輸送ATPアーゼ、ウィルソン病銅輸送ATPアーゼ、シトシンデアミナーゼ、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、α-L-イズロニダーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、HSVチミジンキナーゼ、またはヒトチミジンキナーゼをコードする遺伝子である、請求項52記載の方法。
【請求項58】
組換え遺伝子が、成長ホルモン、プロラクチン、胎盤性ラクトゲン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、絨毛性ゴナドトロピン、甲状腺刺激ホルモン、レプチン、アドレノコルチコトロピン、アンギオテンシンI、アンギオテンシンII、β-エンドルフィン、β-メラニン細胞刺激ホルモン、コレシストキニン、エンドセリンI、ガラニン、胃抑制ペプチド、グルカゴン、インスリン、リポトロピン、ニューロフィシン、ソマトスタチン、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、β-カルシトニン遺伝子関連ペプチド、悪性腫瘍因子の高カルシウム血症、副甲状腺ホルモン関連タンパク質、副甲状腺ホルモン関連タンパク質、グルカゴン様ペプチド、パンクレアスタチン、膵臓ペプチド、ペプチドYY、PHM、セクレチン、血管活性腸管ペプチド、オキシトシン、バソプレシン、バソトシン、エンケファリンアミド、メトロフィンアミド、αメラニン細胞刺激ホルモン、心房性ナトリウム利尿因子、アミリン、アミロイドP成分、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出因子、黄体形成ホルモン放出ホルモン、神経ペプチドY、サブスタンスK、サブスタンスP、または甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンをコードする、請求項52記載の方法。
【請求項59】
組換え遺伝子がp53遺伝子である、請求項52記載の方法。
【請求項60】
組換え遺伝子がmda7遺伝子である、請求項52記載の方法。
【請求項61】
アデノウイルスを単離する工程が、宿主細胞を溶解する工程を含む、請求項1または請求項19記載の方法。
【請求項62】
宿主細胞を溶解する工程が、凍結融解、自己溶解、または界面活性剤溶解によるものである、請求項61記載の方法。
【請求項63】
アデノウイルスを単離する工程が、アデノウイルス調製物中の夾雑核酸の濃度を減少させる工程をさらに含む、請求項1または19記載の方法。
【請求項64】
アデノウイルスを単離する工程が、アデノウイルスを薬学的に許容される組成物中に配置する工程をさらに含む、請求項1または19記載の方法。
【請求項65】
アデノウイルスを単離する工程が、アデノウイルスを精製する工程をさらに含む、請求項1または19記載の方法。
【請求項66】
アデノウイルスの精製がクロマトグラフィ工程を含む、請求項65記載の方法。
【請求項67】
クロマトグラフィ工程が、アデノウイルスを複数のクロマトグラフィ分離に供する工程を含む、請求項66記載の方法。
【請求項68】
クロマトグラフィ工程が、アデノウイルスをただ1つのクロマトグラフィ分離に供する工程を含む、請求項66記載の方法。
【請求項69】
クロマトグラフィ分離が、イオン交換クロマトグラフィを含む、請求項68記載の方法。
【請求項70】
ウイルス産生を分析する工程をさらに含む、請求項1または19記載の方法。
【請求項71】
ウイルス産生をHPLCを使用して分析する、請求項70記載の方法。
【請求項72】
アデノウイルスを単離する工程が、一つまたは複数の以下の性質:
(a)ウイルス力価が1×109pfu/ml〜約1×1013pfu/ml;
(b)ウイルス粒子濃度が約1×1010粒子/ml〜約2×1013粒子/ml;
(c)粒子:pfu比が約10〜約60;
(d)1×1012ウイルス粒子あたりのBSAが50ng未満;
(e)1×1012ウイルス粒子あたりの夾雑ヒトDNAが約50pg〜1ng;
(f)本質的にピーク下面積の97%〜99%からなる単一のHPLC溶離ピーク;
を有する精製アデノウイルス組成物を得る工程をさらに含む、請求項1または19記載の方法。
【請求項73】
請求項1または19記載の方法によって調製された5×1014〜1×1018個のウイルス粒子を含むアデノウイルス組成物。
【請求項74】
薬学的に許容される組成物である、請求項73記載のアデノウイルス組成物。
【請求項75】
アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する工程が、
(a)アデノウイルス調製物を第1のクロマトグラフィ媒体上のクロマトグラフィに供し、それによりアデノウイルス粒子が該第1のクロマトグラフィ媒体上に保持される工程;
(b)第1のクロマトグラフィ媒体からアデノウイルス粒子を溶離して、アデノウイルス粒子の溶離物を産生する工程;
(c)溶離物由来のアデノウイルス粒子を第2のクロマトグラフィ媒体上のクロマトグラフィに供し、第2のクロマトグラフィ媒体が溶離物由来の一つまたは複数の夾雑物を保持する工程であって、第2のクロマトグラフィ媒体が単にサイズ排除担体ではない、工程;および
(d)溶離物からアデノウイルス粒子を回収する工程;
を含む、請求項1または19記載の方法。
【請求項76】
第1のクロマトグラフィ媒体が、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティ媒体、硫酸化アフィニティ媒体、免疫アフィニティ媒体、ヘパリンアフィニティ媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、およびハイドロフォビン相互作用担体からなる群より選択される、請求項75記載の方法。
【請求項77】
第2のクロマトグラフィ媒体が、陽イオン交換媒体、陰イオン交換媒体、固定化金属アフィニティ媒体、硫酸化アフィニティ媒体、色素アフィニティ媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、免疫アフィニティ媒体、ヘパリンアフィニティ媒体、および疎水性相互作用媒体からなる群より選択される、請求項75記載の方法。
【請求項78】
アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離する工程が、
(a)アデノウイルス調製物を第1のクロマトグラフィ媒体上のクロマトグラフィに供し、それによりアデノウイルス調製物由来の夾雑物が第1のクロマトグラフィ媒体上に保持される工程;
(b)溶離物中に残存するアデノウイルス粒子を第2のクロマトグラフィ媒体上のクロマトグラフィに供し、それにより溶離物由来のアデノウイルス粒子が第2のクロマトグラフィ媒体上に保持される工程であって、第2のクロマトグラフィ媒体が陰イオン交換媒体である場合、第1のクロマトグラフィ媒体がスルホン化ポリサッカリドアフィニティ媒体以外の媒体である、工程;および
(c)該第2のクロマトグラフィ媒体からアデノウイルス粒子を溶離する工程
を含む、請求項1または19記載の方法。
【請求項79】
第1のクロマトグラフィ媒体が、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティ媒体、硫酸化アフィニティ媒体、免疫アフィニティ媒体、ヘパリンアフィニティ媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、およびハイドロフォビン相互作用担体からなる群より選択される、請求項78記載の方法。
【請求項80】
第2のクロマトグラフィ媒体が、陽イオン交換媒体、陰イオン交換媒体、固定化金属アフィニティ媒体、硫酸化アフィニティ媒体、色素アフィニティ媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、免疫アフィニティ媒体、ヘパリンアフィニティ媒体、および疎水性相互作用媒体からなる群より選択される、請求項78記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−500015(P2007−500015A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533032(P2006−533032)
【出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/015009
【国際公開番号】WO2004/104190
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(500435001)イントロジェン・セラピューティクス,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】