説明

アデノシンN1−オキシドを有効成分として含有する炎症性疾患治療剤

【課題】 効果的で、且つ、安全な敗血症、肝炎又は炎症性腸疾患などの炎症性疾患治療剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 有効成分としてアデノシンN1−オキシド又はその誘導体を含有してなる炎症性疾患治療剤を提供することにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敗血症や肝炎などの炎症性疾患を治療するための薬剤に関するものであり、とりわけ、アデノシンN1−オキシドを有効成分として含有してなる炎症性疾患治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、敗血症や肝炎などの炎症性疾患に対し満足できる結果を奏する化学療法剤は、未だ開発されておらず、ステロイド剤、抗炎症剤、血小板凝集抑制剤、血管拡張剤、抗生物質等が対症療法的に適用されているに過ぎない。斯かる炎症性疾患は重篤な症状を呈する場合が多く、その治療のために効果的で、且つ、副作用がない乃至少ない安全な治療剤の開発が望まれている。
【0003】
生体の炎症反応には数多くのサイトカインが関与することが知られている。斯かる炎症性サイトカインとしては、腫瘍壊死因子(TNF−α)、IL−1、IL−6やIL−12等のインターロイキン類、インターフェロン(IFN)−γ等多数知られており、炎症に関与する以外にも各種薬理作用を有している。中でもTNF−αは抗腫瘍活性を有するサイトカインとして発見され、抗癌剤として期待されたが、その後、悪液質誘発因子であるカケクチンと同一であることが判明した。さらに、TNF−αはIL−1等の他のサイトカインの産生刺激作用や、線維芽細胞に対する増殖作用、エンドトキシンショック誘発作用、軟骨破壊作用等の関節炎の成因作用などを有し、炎症性疾患がTNF−αの異常産生と因果関係を持つことが示唆されている(例えば特許文献1乃至4参照)。
【0004】
TNF−αの異常産生が関与するとされる炎症性疾患の中には、例えば、細菌感染症に伴う敗血症によるエンドトキシンショックのように急性循環不全状態となり心停止・死亡などの最悪の結果に至る重篤なものもある。また、慢性関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis;RA)、急性呼吸促迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrom、以下、「ARDS」と略記する。)、自己免疫性やウイルス性肝炎の劇症化、炎症性腸疾患などのような急性で且つ重篤な病態の発生や増悪にもTNF−αの関与が示唆されている。
【0005】
近年、炎症性疾患の治療剤としてTNF−αの異常産生を抑制する目的で、抗TNF−α抗体(例えば特許文献1及び2参照)、やTNF−α産生抑制剤も提案され(例えば特許文献3及び4参照)、斯かる炎症性疾患治療への適用も試みられつつあるが、これらも依然として満足な結果を得られるには至っておらず、長期投与では副作用が問題となる場合もある。
【0006】
また、内因性のプリンヌクレオシドであるアデノシンは、細胞表面の受容体へ結合して様々な生体反応の調節に関与している。アデノシンが抗炎症作用や虚血障害抑制作用を有するとの知見はあるものの全身性の副作用が強い。しかも、アデノシンは血液中では速やかに血球や血管内皮細胞に取り込まれ代謝、分解されその作用は短時間で消失するため臨床応用は限定されている。このアデノシンの欠点を補うため炎症部位でのアデノシンの濃度上昇と全身性副作用発現低減の目的で、アデノシンの細胞内への取り込み阻害剤の開発も行われている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−25251号公報
【特許文献2】特表平9−505812号公報
【特許文献3】特開平10−130149号公報
【特許文献4】国際公開WO03/007974号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】『日本薬理学雑誌』、122巻、121乃至134頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効果的で、且つ、安全な炎症性疾患の治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アデノシンN1−オキシドやその誘導体が敗血症、肝炎、炎症性腸疾患などの炎症性疾患治療剤として有用であることを見出した。
【0011】
さらに、本発明者は、アデノシンN1−オキシド又はその誘導体を有効成分として含有する炎症性疾患治療剤が、炎症性疾患の発症乃至増悪のエフェクター分子とされている炎症性サイトカインのTNF−α、IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8又はIL−12等の炎症性サイトカイン類の産生を抑制する作用を有すること、及び、炎症性疾患の抑制に寄与するとされている抗炎症性サイトカインのIL−10の産生を増強する作用を有することを見出し、炎症性疾患治療用のTNF−α産生抑制剤、IL−1産生抑制剤、IL−4産生抑制剤、IL−5産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−8産生抑制剤又はIL−12産生抑制剤、或いは、IL−10産生増強剤の製造に用いることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、アデノシンN1−オキシドまたはその誘導体を有効成分として含有する炎症性疾患治療剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0013】
さらに、本発明は、TNF−α、IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8又はIL−12の産生抑制剤、或いは、IL−10の産生増強剤の製造に用いることのできるアデノシンN1−オキシド又はその誘導体を有効成分として含有する炎症性疾患治療用剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0014】
好ましい一態様において、本発明のアデノシンN1−オキシド又はその誘導体を有効成分として含有する炎症性疾患治療剤は、化学物質、紫外線、酸化ストレス、毒素、などの物理化学的刺激、細菌感染などに起因する皮膚の炎症、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎などの皮膚の炎症の改善や、斯かる炎症にともない発生するシミや色素沈着、シワの発生などの皮膚の異常、肌荒れや皮膚の老化の抑制、改善を目的とする皮膚外用剤に配合した形態で、化粧品、医薬部外品或いは医薬品の分野で用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアデノシンN1−オキシド又はその誘導体を有効成分として含有する製剤は、敗血症、リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患などの炎症性疾患を効果的に予防乃至治療することができる。さらに、本発明のアデノシンN1−オキシド又はその誘導体を有効成分として含有する製剤はTNF−α、IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8又はIL−12等の炎症性サイトカイン類の産生を効果的に抑制することができる。さらに、本発明のアデノシンN1−オキシド又はその誘導体を有効成分として含有する製剤はIL−10の産生を効果的に増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の炎症性疾患治療剤について具体的に説明する。
【0017】
本発明でいう炎症性疾患とは、その発症や増悪に炎症反応が関与している疾患をいい、とりわけ、TNF−αやIL−6などの炎症性サイトカインの異常産生が関与する炎症性疾患をいう。具体的には、敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患、膵炎、関節炎、動脈硬化、虚血再潅流障害、ブドウ膜炎、エンドトキシンショック、熱傷、ウイルス性心筋炎の急性期、特発性拡張型心筋症、SIRS(全身性炎症反応症候群)からの臓器不全への移行、多臓器不全、溶血性尿毒症症候群や出血性大腸炎をはじめとする血管内皮細胞障害に起因する疾患、高γ−グロブリン血症、全身性エリトマトーデス(SLE)、多発性硬化症、モノクローナルB細胞異常症、ポリクローナルB細胞異常症、心房粘液腫、カストルマン症候群、原発性糸球体腎炎、メサンギュウム増殖性腎炎、糖尿病性腎炎などの腎炎、閉経後骨粗鬆症、歯肉炎、日焼け、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎などの皮膚の炎症などをいう。ちなみに、本発明でいう肝炎としてはアルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、薬剤性肝炎、非アルコール性脂肪肝、自己免疫性肝炎、肝線維化、肝硬変及び劇症肝炎などを例示することができ、心筋梗塞や脳梗塞などの血管内皮の炎症に起因する疾患も含む。また、炎症性腸疾患としては潰瘍性大腸炎、クローン病などを例示することができる。
【0018】
本発明でいうTNF−αの異常産生とは、微生物の感染や自己免疫を含む免疫反応などにより生体内のTNF−αの産生が亢進し、生体に発熱、炎症の発生・増悪、ショック症状或いは臓器不全などを引き起こす濃度にまで上昇することをいう。
【0019】
本発明の炎症性疾患治療剤は、有効成分としてアデノシンN1−オキシド(CAS No.146−92−9)又はその誘導体を含有してなる。斯かるアデノシンN1−オキシドはその由来を問わず、化学的に合成したものであってもよい。また、本発明でいうアデノシンN1−オキシドの誘導体とは、アデノシンN1−オキシドと同程度の抗炎症作用を有するアデノシンN1−オキシド分子内のリボースの3位又は5位の水酸基にグルコースなどの糖類やリン酸などが1分子以上結合した物質(以下、「アデノシンN1−オキシド類」という場合がある。)をいう。具体的には、例えば、グルコースが1分子又は2分子以上結合した3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドや5´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドなどのα−グルコシルアデノシンN1−オキシドや、リン酸1分子又は2分子以上が結合したアデノシンN1−オキシド5´−リン酸などのアデノシンN1−オキシドリン酸、アデノシンN1−オキシド5´−二リン酸などのアデノシンN1−オキシド二リン酸、アデノシンN1−オキシド5´−三リン酸などのアデノシンN1−オキシド三リン酸などを挙げることができる。作用効果の点では、アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸が望ましく、アデノシンN1−オキシド及びα−グルコシルアデノシンN1−オキシドがより望ましく、アデノシンN1−オキシドが特に望ましい。α−グルコシルアデノシンN1−オキシドとしては、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドの方が5´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドよりも抗炎症作用が強いので望ましい。また、これらの化合物は、安全性、炎症性疾患の治療効果、TNF−αやIL−6をはじめとする炎症性サイトカイン類の産生抑制作用に影響がないのであれば、製造原料由来の成分や合成過程で生じる副生成物を含んでいてもよいが、血管内に投与する製剤とする場合はできるだけ高純度のものを用いるのが望ましく、通常は、固形物換算で、純度95質量%以上が望ましく、98質量%以上がより望ましく、99質量%(以下、特にことわらない限り本明細書では質量%を「%」と表記する)以上が特に望ましい。また、注射投与、とりわけ血管内投与に用いる場合は、当然、微生物や発熱原(パイロジェン)を実質的に含まないものが用いられる。
【0020】
本発明の炎症性疾患治療剤は、一般的な注射用又は経口用医薬製剤の形態で提供される。注射剤を調製する場合、有効成分であるアデノシンN1−オキシド類を含有する液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、発熱原(パイロジェン)を実質的に含まず、且つ、血液と等張であるものが好ましい。これらの形態に成形するに際しては、溶媒としてこの分野において慣用されているものを用いればよく、例えば精製水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、乳酸配合リンゲル液などを例示することができ、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール等を用いることもできる。
【0021】
本発明の注射剤形態の炎症性疾患治療剤は、通常、有効成分であるアデノシンN1−オキシド類と共に製剤学的に許容される1種以上の添加剤を配合した製剤として提供される。本発明の炎症性疾患治療剤では当技術分野で通常用いる添加剤を適宜用いることができる。斯かる製剤用添加剤としては一般の注射剤に通常用いる等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、希釈剤などを例示することができる。
【0022】
等張化剤としては、例えば、グルコース、マルトース、α,α−トレハロース、ソルビトール、マンニトール等の糖類や糖アルコール類、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウムなどの電解質などを例示することができる。
【0023】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤などを例示することができる。
【0024】
pH調節剤としては、注射剤に通常用いられるpH調節剤を用いればよい。具体的には、例えば、酢酸、乳酸、リン酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、塩酸、グルコン酸、硫酸などの酸性物質や、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなど塩基性物質を例示することができる。また、グリシンやヒスチジンなどのアミノ酸類を用いてもよい。
【0025】
上記添加剤以外にも、抗菌剤、血管拡張剤、抗生物質、非ステロイド系抗炎症剤、ステロイド系抗炎症剤、昇圧剤、血液凝固阻害剤、無痛化剤、抗TNF−α抗体、アデニン取り込み阻害剤(例えば非特許文献1参照)、ビタミンなどのTNF−αが発症乃至増悪に関与するとされる疾患の臨床症状の改善に有効な医薬成分を配合することもできる。
【0026】
本発明の注射剤形態の炎症性疾患治療剤は、常法により製造すればよい。具体的には、例えば、まず、パイロジェンを含まない溶媒に、有効成分のアデノシンN1−オキシド類と添加剤成分とを溶解させる。これらの成分の混合順序は特に問わず、全ての含有成分を同時に混合すればよく、一部の成分のみを先に溶解し、その後、残りの成分を溶解させてもよい。次に、得られた溶液を滅菌する。滅菌法に特に制限はなく、通常、濾過滅菌、加圧熱滅菌、加熱滅菌などの方法が用いられる。滅菌した製剤は、例えば、アンプルなどの容器に充填し封入すればよい。
【0027】
さらに、本発明の炎症性疾患治療剤は、用時に溶解して用いる固形製剤の形態で提供することもできる。斯かる固形製剤は、上記の溶液状態の注射用製剤を凍結乾燥又は減圧乾燥など公知の乾燥方法により乾燥し、粉末状又は顆粒状にし、アンプルなどの容器に封入して調製すればよく、用時に滅菌水、生理食塩水や輸液等で溶解し、アデノシンN1−オキシド類の濃度が、例えば、アデノシンN1−オキシドとして0.1乃至10%となるように用時溶解し投与すればよい。
【0028】
本発明の炎症性疾患治療剤は、注射剤の場合、通常、例えば、静脈内、動脈内、腹腔内などに投与すればよく、症状に応じ筋肉内、皮下、皮内などに投与してもよく、輸液と混合し静脈内投与することもできる。本発明の炎症性疾患治療剤と混合する輸液については特に限定はなく、市販の輸液を使用すればよい。具体的には、例えば、ブドウ糖注射液、キシリトール注射液、D−マンニトール注射液、果糖注射液、生理食塩水、リンゲル液、ビタミン液、アミノ酸注射液、電解質液などを例示することができる。また、本発明の炎症性疾患治療剤の投与対象となる疾患やその症状に応じ、点眼、点鼻、経鼻、経肺などの投与経路を選択することも随意である。
【0029】
さらに、本発明の炎症性疾患治療剤は、後述の実験で示すように、各種の炎症性疾患に対し、経口投与により、注射投与と同様の効果をえることができるので、一般的な経口用の医薬製剤形態で提供することもできる。斯かる製剤は通常医薬品の製造に用いる充填剤、増量剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、賦形剤等を用いて調製される。この医薬製剤としては各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等が挙げられる。錠剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来よりよく知られている各種のものを広く用いることができる。その例としては、例えば乳糖、白糖、ブドウ糖、トレハロース、マルトースなどの糖類、デンプン、塩化ナトリウム、尿素、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を用いることも随意である。さらに錠剤は必要に応じ通常のコーティングを施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠或いは二重錠、多層錠とすることができる。丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを用いてもよい。具体的には、例えばブドウ糖、乳糖、トレハロース、マルトースなどの糖類、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、プルラン、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を例示できる。坐剤の形態に成形するに際しては、担体として従来公知のものを用いればよい。その例としては、例えばポリエチレングリコール、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を挙げることができる。カプセル剤は常法に従い通常有効成分化合物と上記で例示した各種の担体とを混合し硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填し調製される。さらに必要に応じ着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の注射剤の場合と同様に医薬成分を医薬製剤中に含有させることも随意である。
【0030】
さらに、本発明の炎症性疾患治療剤は、健康補助食品などに配合し飲食品の形態で提供される。斯かる飲食品は、アデノシンN1−オキシド類と食品及び食品添加物とを用いて調製される。その場合の形態はその目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等が挙げられる。また、菓子・パン、穀類や畜肉等の加工品、甘味料・調味料、清涼飲料、アルコール飲料、乳飲料などの一般の飲食品の形態とすることも随意である。
【0031】
さらに、本発明の炎症性疾患治療剤は、化粧品、医薬部外品や医薬品などの皮膚外用剤に配合した形態で提供される。斯かる皮膚外用剤は通常、化粧品、医薬部外品或いは医用の皮膚外用剤の基剤成分に配合して用いればよい。具体的には、例えば、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、紫外線反射剤、界面活性剤、抗菌剤、増粘剤、緩衝剤、pH調整剤、糖類、糖アルコール類、粉末成分、色剤、香料、水性成分、水やアルコール類などの溶媒、各種皮膚栄養剤、動植物抽出物等の基剤成分を必要に応じて適宜配合することができる。本発明の炎症性疾患治療剤に配合し皮膚外用剤として用いる場合の形態としては、皮膚において抗炎症効果を発揮できる形態であれば得に制限はなく、例えば、クリーム、軟膏、乳液、ローション、化粧水、ジェル、ムース、パック、シャンプー、リンス、育毛剤、浴用剤、歯磨き等であればいずれでもよい。
【0032】
本発明の炎症性疾患治療剤は、目的とする薬効を奏するに有効量のアデノシンN1−オキシド類を少なくとも含有すべきことは当然のことであり、通常、注射剤の場合、アデノシンN1−オキシド類の含有量は、アデノシンN1−オキシドとして0.01乃至10%であり、0.1乃至2%が望ましい。経口用剤の場合1乃至90%であり、10乃至90%が望ましい。錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等の形態の飲食品の場合は1乃至90%が望ましく、10乃至90%がより望ましく、一般の飲食品形態の場合は0.1乃至90%が望ましく、1乃至10%がより望ましい。また、皮膚外用剤に配合する場合、0.001乃至10%が望ましく、0.01乃至×1%がより望ましい。
【0033】
本発明の炎症性疾患治療剤の投与量は、対象とする患者の症状や年齢等にもよるが、通常、注射投与の場合、1日体重1kgあたり、アデノシンN1−オキシドとして1乃至500mg、好ましくは10乃至300mgの範囲で投与すればよい。また、経口摂取の場合、1日体重1kgあたり、アデノシンN1−オキシドとして1乃至1,000mg、好ましくは30乃至1,000mg、より好ましくは100乃至800mgの範囲で摂取すればよい。また、皮膚外用剤の形態とする場合は、アデノシンN1−オキシドとして0.0005乃至5mg/cm、好ましくは0.005乃至0.5mg/cmの範囲で投与すればよい。
【0034】
さらに、本発明の炎症性疾患治療剤は、投薬単位形態の薬剤をも包含する。斯かる投薬形態の薬剤とは、本発明の有効成分であるアデノシンN1−オキシド類の、例えば、1日あたりの用量又はその整数倍(4倍まで)又は約数(1/4まで)に相当する量を含有し、投与に適する物理的に分離可能な剤形を意味する。
【0035】
本発明のアデノシンN1−オキシド類を有効成分として含有してなる炎症性疾患治療剤は、炎症反応を亢進させる作用を有する炎症性サイトカイン類のTNF−α、IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−12及びIFN−γの産生を抑制することができるので、斯かる治療剤は、TNF−α産生抑制剤、IL−1産生抑制剤、IL−4産生抑制剤、IL−5産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−8産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIFN−γ産生抑制剤として炎症性疾患の治療に用いることができる。さらに、本発明の炎症性疾患治療剤は炎症反応を抑制する作用を有するIL−10の産生を増強することができるので、IL−10産生増強剤として炎症性疾患の治療に用いることができる。さらに、本発明の炎症性疾患治療剤は、血管内皮細胞障害を抑制し、血管内皮細胞の組織因子や細胞接着因子の細胞表面への発現を抑制し、血栓形成を阻害することができるので、血管内皮細胞障害抑制剤、組織因子発現抑制剤、細胞接着因子発現抑制剤、或いは、血栓形成阻害剤として炎症性疾患の治療に用いることができる。
【0036】
本発明のアデノシンN1−オキシド類を有効成分として含有してなる炎症性疾患治療剤は、炎症反応を亢進させる作用を有するTNF−α、IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−12及びIFN−γの産生を抑制し、炎症反応を抑制する作用を有するIL−10の産生を増強することができるので、敗血症、肝炎、炎症性腸疾患のみでなく、これら炎症性サイトカインが発症や増悪に関与するとされる慢性関節リウマチ、ARDS、膵炎、関節炎、動脈硬化、虚血再潅流障害、ブドウ膜炎、熱傷、ウイルス性心筋炎の急性期、特発性拡張型心筋症、DIC(播種性血管内凝固症候群)、SIRS(全身性炎症反応症候群)からの臓器不全への移行、多臓器不全、溶血性尿毒症症候群や出血性大腸炎をはじめとする血管内皮細胞障害に起因する疾患、高γグロブリン血症、全身性エリトマトーデス(SLE)、多発性硬化症、モノクローナルB細胞異常症、ポリクローナルB細胞異常症、心房粘液腫、カストルマン症候群、原発性糸球体腎炎、メサンギュウム増殖性腎炎、糖尿病性の腎炎などの腎炎、化学物質、紫外線、酸化ストレスなどの物理化学的刺激、細菌感染などに起因する皮膚の炎症、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎などの皮膚の炎症、閉経後骨粗鬆症、糖尿病、歯周病などの炎症性疾患や斯かる疾患に伴う臨床症状の治療剤、改善剤としても有利に利用することができる。さらには、例えば、『医学のあゆみ』、236巻、4号、243〜248頁(2011年)に記載のように、メタボリックシンドロームの患者やその予備軍の脂肪組織や血管内皮などで認められる全身性の軽度の炎症により、組織が障害を受けたときに放出される内在性リガンドにより病原体センサー刺激を介して誘導され、メタボリックシンドロームの増悪や、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などの血管系の疾患の病態形成の基盤病態である全身性の慢性炎症反応などにも有利に利用できる。
【0037】
本発明の炎症性疾患治療剤は、進行中の炎症性疾患の軽減や増悪の抑制の目的で用いられるだけでなく、炎症性疾患の発生を抑制するための予防剤として用いることもできる。
【0038】
以下、本発明につき実験により説明する。
【0039】
<実験1:細菌性ショックに及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響1>
敗血症に対するアデノシンN1−オキシド投与の影響を、ヒト敗血症に伴う細菌性ショックのモデルとして汎用されているリポポリサッカライド(LPS)誘発エンドトキシンショックマウス(例えば、『Circulation』、111巻、97乃至105頁(2005年)参照)を用いて調べた。すなわち、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、9週齢、雌)15匹を、無作為に5匹ずつ3群に分け(実験群1乃至3)、全てのマウスに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した大腸菌(055:B5)由来のLPS(シグマ社販売)を15mg/kg体重腹腔内投与した(実験群1乃至3)。そのうちの1群5匹にはLPS投与と同時にPBSに溶解したアデノシンN1−オキシド(株式会社林原生物化学研究所調製、以下、「ANO」と略記する場合がある。)を15mg/kg体重となるように静脈内(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群2)。1群5匹にはLPS投与と同時にPBSに溶解したアデノシンN1−オキシドを45mg/kg体重となるように静脈内(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群3)。残りの1群5匹にはLPS投与と同時にPBSを0.2mL/匹静脈内投与した(実験群1)。各群につき、LPS投与後7乃至43時間までのマウスの生存数を肉眼により確認し、各群の生存率(%)を求めた。結果を表1に示す。なお、マウスの生存率(%)は、各観察時間におけるマウスの生存数を実験開始時のマウスの生存数で除し、100倍することにより求めた。ちなみに、以下の実験で用いたアデノシンN1−オキシドは、何れも下記方法により株式会社林原生物化学研究所で調製したものを用いた。
【0040】
<アデノシンN1−オキシドの調製>
アデノシン(アルドリッチ社販売(商品コード:A9251−25G))20gを酢酸1Lに分散し、過酸化水素水100mLを加え、室温で5日間撹拌した。5%パラジュームカーボン(川研ファィンケミカル社販売)5gを加え、余剰の過酸化水素を分解した後、パラジュームカーボンを濾別し、減圧乾固し、エタノールを加え、結晶をほぐし、濾取することによりアデノシンN1−オキシドの粗結晶を得た。この粗結晶をエタノール2Lに加熱溶解し、濾過した後、氷冷し、再結晶する工程を2回繰り返し、純度99.5%のアデノシンN1−オキシド8gを調製した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、LPSを15mg/kg体重腹腔内投与と同時にPBSを投与した群(実験群1)では、投与後19時間以後経時的にマウスの生存率が低下し43時間では40%に低下した。これに対して、LPSを15mg/kg体重腹腔内投与と同時にアデノシンN1−オキシドを15mg/kg体重投与した群(実験群2)又は45mg/kg体重投与した群(実験群3)では、LPS投与と同時にPBSを投与した群(実験群1)に比べ、アデノシンN1−オキシドの投与量に依存した生存率低下の抑制が認められた。この結果はアデノシンN1−オキシドが敗血症における細菌性ショックを効果的に抑制する敗血症の予防剤又は治療剤として有用であることを物語っている。ちなみに、この実験系においては、アデノシンN1−オキシドの投与量に依存し、LPSを投与し、細菌性ショックを誘導後、死亡する個体が発生するまでの時間に遅延が認められた。敗血症の場合、細菌性ショックにより死に至る直接の要因は、急速な多臓器不全の進行によるとされている。本実験において、アデノシンN1−オキシドの投与により、LPS投与から死亡個体が発生するまでの時間が遅延したことは、多臓器不全の進行が抑制されているものと推測されるので、アデノシンN1−オキシドの投与は、敗血症の治療に用いられる既存の対症療法剤が多臓器不全に対して治療効果を発揮するために必要な時間的余裕を得るためにも有効であると考えられる。
【0043】
<実験2:マウス腹腔内マクロファージのTNF−α産生に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響1>
実験1においてアデノシンN1−オキシドの投与によりLPS投与マウスの細菌性ショックが抑制されることが確認されたので、本実験ではアデノシンN1−オキシドによる細菌性ショック抑制のメカニズムについて調べた。すなわち、ヒト敗血症における細菌性ショックでは、細菌のLPSにより産生が誘導されるTNF−αがエフェクター分子であることが知られている(例えば、『Journal of Immunology』、187巻、3−5号、346−356頁(1993年)参照)。そこで、ヒト敗血症における細菌性ショックのin vitroモデルとして用いられているマウス腹腔内マクロファージ(例えば、『The Journal of Immunology』、164巻、9号、1013乃至1019頁(2000年)参照)を用い、アデノシンN1−オキシドのTNF−α産生に及ぼす影響を調べた。マウス腹腔内マクロファージはLPSに反応しTNF−αを産生し、このTNF−αの産生はIFN−γの共存下でさらに増強されることが知られている。細菌性ショックではTNF−αのみでなく、IFN−γなどの他の炎症性サイトカイン類も誘導されていると推測されるので、本実験では細菌性ショックの病態に近いと考えられるIFN−γ共存下で実験を行うこととした。アデノシンN1−オキシドは水に対する溶解性がアデノシンよりも高いのでPBSに溶解し用いた。
【0044】
常法により、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、7乃至10週齢、雌)の腹腔内に2mLの4%チオグリコレート培地を投与した3日後に、10容積%ウシ胎児血清(FCS)含有RPMI−1640培地(シグマ社販売、商品名『RPMI−1640 Medium』)(以下、「10%FCS含有RPMI−1640培地」という。)5mLにて腹腔内を洗浄する操作を4回繰り返し腹腔内浸潤細胞を採取した。この細胞を10%FCS含有RPMI−1640培地にて2回洗浄し、同じ培地に懸濁した。細胞懸濁液を組織培養用ディッシュ(BDファルコン社販売、製品コード「353003」)に添加し、5容積%COインキュベーター内において、37℃、1.5時間インキュベートし腹腔内浸潤マクロファージをディッシュに付着させた。培養液を除去後10%FCS含有RPMI−1640培地でディッシュを2回洗浄し付着していない細胞を除去した後、セルスクレイパーにてディッシュに付着した細胞を回収した。回収した細胞を10%FCS含有RPMI−1640培地にて洗浄した後、50μMメルカプトエタノール含有10%FCS含有RPMI−1640培地に懸濁しマウス腹腔内マクロファージを調製した。マウス腹腔内マクロファージを10%FCS含有RPMI−1640培地で1×10個/mLに懸濁し、96マイクロウエルプレート(ベクトンデッキンソン社販売、商品名『96 well 組織培養用マイクロプレート 353075』)に5×10個/50μL/ウエル播種した。LPS(2μg/mL)とマウスIFN−γ(10IU/mL)共存下で、各ウエルに表2に示す終濃度となるようPBSで希釈したアデノシンN1−オキシドを50μL/ウエル添加し1日間培養を継続した後、培養上清を採取した。
【0045】
固相酵素抗体法(ELISA)により採取した培養上清中のTNF−α量を測定した(実験群2乃至5)。対照としてLPSとマウスIFN−γとの共存下で、10%FCS含有RPMI−1640培地のみを50μL/ウエル添加し2日間培養を継続した後、培養上清を採取し同様にTNF−α量を測定した(実験群1)。また、各ウエルの生細胞数をアラマーブルー法により測定し、対照の生細胞数を100(%)としたときの相対値を計算し細胞生存率(%)とした。結果を表2に併せて示す。なお、試験は各実験群につき3ウエルを用いた。TNF−αの測定は市販のラット抗マウスTNF−α抗体(BD ファミジーン社販売、商品名『ラット抗マウス/ラットTNF抗体(商品コード:551225)』)を固相抗体とし、市販のビオチン標識ラット抗マウスTNF−α抗体(BD ファミジーン社販売、商品名『ビオチン標識ラット抗マウスTNF抗体(商品コード:554415)』)を二次抗体とし、HRPO標識ストレプトアビジンにより測定するELISAを用いた。
【0046】
【表2】

【0047】
表2から明らかなように、LPSとIFN−γとの共存下で、10%FCS含有RPMI−1640培地のみを加え培養したマウス腹腔内マクロファージではTNF−αの産生が誘導された(実験群1)。これに対しLPSとIFN−γの共存下で、アデノシンN1−オキシドを添加した場合(実験群2乃至5)、アデノシンN1−オキシド濃度が0.063μM以上ではアデノシンN1−オキシドの添加量に依存しTNF−αの産生が有意に抑制された(実験群4及び5)。本実験で用いたアデノシンN1−オキシド濃度では細胞の生存率に対する影響は認められなかった。
【0048】
<実験3:マウス腹腔内マクロファージのTNF−α及びIL−6産生に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響2>
マクロファージは、外来の病原性微生物の認識に(Toll like receptor、以下「TLR」という場合がある。)と呼ばれる受容体を用いていることが知られており、LPSはTLR4と呼ばれる受容体で認識されることが知られている。実験2において、細菌性ショックの原因物質とされるグラム陰性菌由来のLPS刺激により、マウス腹腔内マクロファージからのTNF−α産生がアデノシンN1−オキシドにより効果的に抑制されることが確認された。そこで、本実験では、TLR4以外の受容体で認識されるグラム陰性菌以外で炎症性疾患の病因となるとされている微生物由来成分の刺激により誘発されるマウス腹腔内マクロファージからのTNF−α産生に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響を調べた。すなわち、実験2においてマクロファージの刺激に用いたLPSに替えて、TLR1/2により認識されるグラム陽性菌由来のリポ蛋白であるPam3CSK4((Palmitoyl−Cys((RS)−2,3−di(palmitoyloxy)−propyl)−Ser−Lys−Lys−Lys−OH)、Bachem社販売)を終濃度2.5μg/mL、TLR2により認識される酵母細胞壁成分のZymosan A(シグマ社販売)を終濃度100μg/mL、TLR3により認識されるウイルス由来成分の代替として汎用されているPoly I:C(CALBIOCHEM社販売)を終濃度50μg/mL、又は、出血性大腸菌や赤痢菌が産生する出血性大腸炎の原因物質の一つであり細胞表面のグロボトリオシルセラミド(Gb3;globotriosyl ceramide)受容体を介して結合し細胞内に取り込まれる炎症性サイトカインの産生を誘発するベロ毒素I(ナカライテック株式会社販売)を添加し、マクロファージを刺激した以外は、実験2と同じ方法でマクロファージを、5容積%COインキュベーター内において、37℃で24時間培養後、培養上清中のIL−6含量をELISAにて測定した。また、IL−6の測定は市販のラット抗マウスIL−6抗体(BD ファミジーン社販売、商品名『ラット抗マウスIL−6抗体(商品コード:554400)』)を固相抗体とし、市販のビオチン標識ラット抗マウスIL−6抗体(BD ファミジーン社販売、商品名『ビオチン標識ラット抗マウスIL−6抗体(商品コード:554402)』)を二次抗体とし、HRPO標識ストレプトアビジンにより測定するELISAを用いた。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3から明らかなように、濃度0.5及び1μMのアデノシンN1−オキシド共存
下で、LPSにより刺激したマクロファージは、アデノシンN1−オキシド非共存下で培養しLPSで刺激したマクロファージに比べ、IL−6及びTNF−αの産生が抑制された。濃度0.5及び1μMのアデノシンN1−オキシド共存下で、Pam3CSK4、Zymosan A、又は、Poly I:Cにより刺激したマクロファージも、LPSにより刺激したマクロファージと同様に、アデノシンN1−オキシド非共存下で各々の刺激物質で刺激したマクロファージに比べ、IL−6の産生が抑制された。Zymosan Aで刺激した場合には、アデノシンN1−オキシドの濃度が0.2μMの場合にも、IL−6の産生が抑制される傾向が認められた。これらの物質で刺激した場合には、マクロファージからのTNF−αの産生は認められなかった。さらに、濃度0.0.5又は1μMのアデノシンN1−オキシド共存下で、ベロ毒素Iにより刺激したマクロファージも、LPSにより刺激したマクロファージと同様に、アデノシンN1−オキシド非共存下でベロ毒素Iで刺激したマクロファージに比べ、IL−6及びTNF−αの産生が抑制された。TNF−αは濃度0.2μMのアデノシンN1−オキシド共存下でも産生が抑制された。この結果は、アデノシンN1−オキシドが、グラム陰性菌に由来するLPS刺激のようなTLR4受容体を介するマクロファージからのIL−6及びTNF−αの産生を抑制するだけで無く、他のTLR4以外の受容体を介するマクロファージからのIL−6及びTNF−αの産生も抑制することから、グラム陽性菌、酵母やウイルスなどの病原性微生物の感染に起因するTLR4以外の受容体を介して炎症がおきる炎症性疾患の治療剤、予防剤としも有用であることを物語っている。また、アデノシンN1−オキシドが、溶血性尿毒症症候群や出血性大腸炎などの炎症性疾患の治療剤、予防剤としても有用であることを物語っている。
【0051】
<実験4:マウスマクロファージ様細胞株のTNF−α産生に及ぼすアデノシンN1−オキシド及びアデノシン添加の影響>
マウス腹腔内マクロファージと同様にヒト敗血症におけるエンドトキシンショックのin vitroモデルとして用いられるマウスマクロファージ様細胞株(大日本住友製薬社販売、細胞名『RAW264.7』)(以下、「RAW264.7細胞」という。)を用い、アデノシンN1−オキシドのTNF−α産生に及ぼす影響を調べた。また、アデノシンN1−オキシドは、アデノシン(以下、「AN」と略記する場合がある。)を経てイノシン(以下、「IN」と略記する場合がある。)となるか、アデノシンリン酸を経て代謝されることが考えられるので、アデノシンについてもRAW264.7細胞におけるTNF−α産生に及ぼす影響を調べた。さらに、細菌性ショックの発症には、TNF−α以外にも、IL−6やIL−12の炎症性サイトカインが関与していることが知られているので、本実験ではIL−6の産生に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響についても調べた。RAW264.7細胞は10%FCS含有RPMI−1640培地(シグマ社販売、商品名『RPMI−1640 Medium』)で継代培養し試験に用いた。RAW264.7細胞を回収し10%FCS含有RPMI−1640培地にて1×10個/mLに懸濁し、96マイクロウエルプレート(ベクトンデッキンソン社販売、商品名『96 well 組織培養用マイクロプレート 353075』)に5×10個/50μL/ウエル播種した。LPS(2μg/mL)共存下で、各ウエルに表3に示す終濃度となるようPBSで希釈したアデノシンN1−オキシドを添加し1日間培養を継続した後、培養上清を採取した。
【0052】
ELISAにより採取した培養上清中のTNF−αを測定した(実験群2乃至8)。併せて、培養上清中のIL−6を測定した。さらに、アデノシンN1−オキシドに換えてアデノシンを表4示す濃度となるように添加することによりRAW264.7細胞を培養しTNF−α及びIL−6の測定を行った(実験群9乃至15)。対照としてLPSの共存下で10%FCS含有RPMI−1640培地のみを加え培養を行い(実験群1)、上清中のTNF−α及びIL−6量を測定した。さらに、各ウエルの生細胞数をアラマーブルー法により測定し、対照の生細胞数を100(%)としたときの相対値を求め細胞生存率(%)とした。これらの結果を表4に併せて示す。なお、TNF−αの測定は実験2と同じ方法を用いた。また、IL−6の測定は実験3と同じ方法を用いた。
【0053】
【表4】

【0054】
表4から明らかなように、LPSの共存下で培養したRAW264.7細胞ではTNF−α及びIL−6の産生が認められた(対照、実験群1)。これに対しLPSと共にアデノシンN1−オキシドを添加して培養した場合、アデノシンN1−オキシドの濃度に依存したTNF−α及びIL−6の産生の抑制が認められた(実験群2乃至8)。また、LPSと共にアデノシンを添加した場合、アデノシンN1−オキシドを添加した場合よりは弱いもののアデノシンの濃度に依存したTNF−α及びIL−6の産生の抑制が認められた(実験群9乃至15)。表4に示す測定値から、対照におけるTNF−α濃度を50%抑制するために必要なアデノシンN1−オキシド或いはアデノシンの濃度(IC50)を求めたところ、アデノシンN1−オキシドは1.2μM、アデノシンは22μMとなった。試験に用いた濃度ではアデノシンN1−オキシドの添加によるRAW264.7細胞の細胞生存率の低下は認められなかった。また、アデノシンを添加した場合には添加量に依存して細胞生存率が低下した。
【0055】
実験2乃至4の結果は、実験1で確認されたアデノシンN1−オキシド投与による細菌性ショック抑制メカニズムの一つが炎症性サイトカインであるTNF−αのマクロファージからの産生の抑制による可能性を示唆している。さらに、アデノシンN1−オキシドによる細菌性ショック抑制には、IL−6の産生の抑制作用が関与している可能性が示唆される。さらに、これらの結果は、アデノシンN1−オキシドがLPSにより誘導されるマクロファージからのTNF−α及びIL−6産生の抑制剤として有用であることを物語っている。ちなみに、上記IC50を比較するとアデノシンN1−オキシドはアデノシンに比しTNF−α及びIL−6産生抑制作用が数倍強いと結論される。
【0056】
<実験5:アデノシンN1−オキシドによるマクロファージ系細胞からのTNF−α産生抑制のメカニズムの解析>
実験2乃至4よりアデノシンN1−オキシドがLPSにより誘導されるマクロファージからのTNF−α及びIL−6産生を抑制することが明らかとなったので、本実験ではアデノシンN1−オキシドによるマクロファージ系細胞におけるTNF−α産生抑制のメカニズムをさらに詳しく解析するために、アデノシンN1−オキシドのアデノシンレセプターAR、A2AR、A2BR及びARに対する反応性を調べた。すなわち、ヒト単球系細胞株THP−1(株式会社林原生物化学研究所所有)を、10%FCS含有RPMI−1640培地で1×10個/mLに懸濁し、96マイクロウエルプレート(ベクトンデッキンソン社販売、商品名『96 well 組織培養用マイクロプレート 353075』)に1×10個/100μL/ウエル播種した。その後、アデノシンアンタゴニストであるDPCPX(シグマ社販売)、ZM241385(TOCRISバイオサイエンス社販売)、MRS1754(シグマ社販売)及びMRS1220(TOCRISバイオサイエンス社販売)、の何れかを、表5に示す濃度となるように10%FCS含有RPMI−1640培地で希釈し、50μL/ウエル添加し、5容積%COインキュベーター内において、37℃で30分間インキュベートした。次に、表5に示す終濃度となるようにPBSで希釈したアデノシンN1−オキシドを50μl/ウエル添加し、次いで各ウエルにLPS(25μg/mL)とヒトIFN−γ(500IU/mL)を、100μl/ウエル添加し、5容積%COインキュベーター内において、37℃で20時間培養した後、培養上清を採取し、ELISAにより培養上清中のTNF−α量を測定した。結果を表5に併せて示す。なお、DPCPXは、アデノシンレセプターARに対する特異的アンタゴニストで、8−Cyclopentyl−1,3−dipropylxanthineで表される化合物である。ZM241385は、アデノシンレセプターA2ARに対する特異的アンタゴニストで、4−(2−[7−Amino−2−(2−furyl)[1,2,4]Triazolo−[2,3−a][1,3,5]−Triazin−5−ylamino]ethyl)phenolで表される化合物である。MRS1754はアデノシンレセプターA2BRに対する特異的アンタゴニストで、8−[4−[((4−cyanophenyl)carbamylethyl)−oyl]phenyl]−1,3−di(n−propyl)xanthineで表される化合物である。また、MRS1220は、アデノシンレセプターARに対する特異的アンタゴニストで、N−[9−Chloro−2−(2−furanyl)[1,2,4]Triazolo−[1,5−c]quinazolin−5−yl]benzeneで表される化合物である。
【0057】
【表5】

【0058】
表5から明らかなように、LPS及びヒトIFN−γの共存下でTHP−1が産生するTNF−α(実験群1)は、アデノシンN1−オキシドの添加により産生が有意に抑制された(実験群2)。アデノシンN1−オキシド添加によるTNF−α産生抑制は、アデノシンレセプターARに対する特異的アンタゴニストであるDPCX、アデノシンレセプターA2ARに対する特異的アンタゴニストであるZM241385及びアデノシンレセプターA2BRに対する特異的アンタゴニストであるMRS1754の前処理によりほぼ完全に回復した(実験群3乃至14)。アデノシンレセプターARに対する特異的アンタゴニストであるMRS1220の前処理では、アデノシンN1−オキシド添加によるTNF−α産生抑制の回復は認められなかった。また、本実験の条件下では、THP−1細胞の増殖には何ら影響は認められなかった(実験群15乃至18)。この結果は、アデノシンN1−オキシドによるTNF−αの産生抑制にはPKA(cAMP依存性蛋白質リン酸化酵素)を介したシグナル伝達系が関与していることを示唆している。ちなみに、アデノシンレセプターにはアデノシンに対する親和性の程度や細胞内のサイクリックAMP増減作用の違いによりAR、A2AR、A2BR及びARの4種類の存在が確認されており、アデノシンによる抗炎症作用には主にA2ARとA2BRが関与し、ARが関与する場合もあることが知られている。また、アデノシンN1−オキシドのモノリン酸化合物はA2ARを介したシグナル伝達系により細胞に作用することが知られているが(例えば、『Evid. Based Complement Alternat Med.』、1乃至6頁(2007年))、本発明のアデノシンN1−オキシドによるTNF−α産生抑制は、アデノシンと同じシグナル伝達系が関与していると結論される。本実験で用いたMRS1220では、アデノシンN1−オキシドの抗炎症作用へのアデノシンレセプターARの関与は確認できなかった。具体的なデータは示さないが、別の実験において、アデノシンN1−オキシドのもつヒト正常皮膚ケラチノサイ(NHEK細胞)に対する増殖抑制作用には、アデノシンレセプターARの関与することが確認されたので、アデノシンN1−オキシドの抗炎症作用の発現にはアデノシンレセプターARも関与している可能性がある。
【0059】
<実験6:ヒト血管内皮細胞の炎症反応に及ぼすアデノシンN1−オキシド及びアデノシン添加の影響2>
実験4で用いたマウス由来のRAW264.7細胞に替えて、本実験ではIL−1β及びIFN−γ共存下で、LPSを添加し培養するとTNF−α産生が誘導されることが知られている、ヒト敗血症におけるエンドトキシンショックのin vitroモデルとして用いられるヒト臍帯静脈内皮細胞(クラボウ株式会社販売、Human umbilical vein endothelial cell、以下「HUVEC細胞」という。)を用い、TNF−α産生に及ぼすアデノシンN1−オキシド及びアデノシン添加の影響を調べた。さらに、炎症反応において症状増悪の一因とされている血栓形成に関与するとされている組織因子(Tissue Factor)及び細胞接着因子(VCAM−1)の発現に及ぼす影響についても調べた。すなわち、アテロコラーゲン(KOKEN社販売、(商品コード IPC−50))をコートした75cm培養フラスコ(CORNING社販売)を用いて培養したHUVEC細胞を、0.05%トリプシン/EDTA(GIBCO社販売)を用いてフラスコから剥がした後、常法により、10%FCS含有RPMI−1640培地で3回洗浄後、血管内皮細胞増殖用培地(クラボウ社販売、商品名『HuMedia EG2 medium』、商品番号KE−2150S)を用いて4×10細胞/mLに懸濁し、ゼラチンコートした96ウエルマルチプレート(IWAKI SCITECH社販売、商品名『ゼラチンコートマイクロプレート96ウエル フタ付』)に200μL/ウエルで播種し、コンフルエント(confluent)になるまで、5容積%COインキュベーター内において、37℃で培養し、以下の実験に供した。
【0060】
<実験6−1:TNF−α、IL−6の産生に及ぼす影響>
コンフルエントに達したHUVEC細胞に対し、終濃度が、表6に示す濃度になるよう血管内皮細胞増殖用培地に溶解したアデノシン(和光純薬工業株式会社販売、試薬級)あるいはアデノシンN1−オキシド溶液と、血管内皮細胞増殖用培地にて、終濃度がLPS(10μg/mL)/ヒトIL−1b(2ng/mL)/ヒトIFN−γ(500IU/mL)となるように溶解した溶液とを、各々50μL/ウエル添加し、5容積%COインキュベーター内において、37℃で24時間培養後、ELISAを用いて培養上清中のTNF−αの測定を行った。対照として、アデノシンあるいはアデノシンN1−オキシド溶液に替えて血管内皮細胞増殖用培地を50μL/ウエル添加した以外は同じ条件で培養後、培養上清を回収し、ELISA法により上清中のTNF−αの測定を行った。結果を表6に併せて示す。
【0061】
【表6】

【0062】
表6の結果から明らかなように、HUVEC細胞をIL−1β及びIFN−γ共存下で、LPSを添加し培養した場合、アデノシン及びアデノシンN1−オキシドの濃度に依存したTNF−αの産生抑制が認められた。斯かる結果に基づき、両化合物のTNF−α産生抑制に対するIC50を比較すると、アデノシンN1−オキシドが0.97μMであったのに対し、アデノシンは15.2μMとなり、そのTNF−α産生抑制作用はアデノシンN1−オキシドの方がアデノシンよりも約16倍強い結果となった。
【0063】
<実験6−2:組織因子の発現に及ぼす影響>
コンフルエントに達したHUVEC細胞に対し、終濃度が、表6に示す濃度になるよう血管内皮細胞増殖用培地に溶解したアデノシン(和光純薬工業株式会社販売、試薬級)あるいはアデノシンN1−オキシドを50μL/ウエル添加し、5容積%COインキュベーター内において、37℃で30分間培養した。その後、血管内皮細胞増殖用培地にて、終濃度が、LPS(10μg/mL)/IL−1β(2ng/mL)/IFN−γ(500IU/mL)となるように調製後50μL/ウエル添加し、5容積%COインキュベーター内において、37℃で5.5時間培養した。培養後、PBSにて細胞を2回洗浄し、PBSを50μL/ウエル添加した。このプレートを−80℃で3回凍結融解を繰り返し、その後100mM NaClおよび0.2%Triton X−100含有50mM Tris緩衝液(pH7.4)を50μL/ウエル添加して4℃で一晩培養し、細胞溶解液を調製した。この細胞溶解液中の組織因子の含量を、ELISA(AssayPro社販売、商品名『AssayMax Human Tissue Factor ELISA kit』)にて測定した。結果を表6に併せて示す。
【0064】
表6の結果から明らかなように、LPS、IL−1β及びIFN−γ存在下で誘導される組織因子の発現量は、アデノシンN1−オキシド或いはアデノシンにより濃度依存的に抑制された。両者の抑制の強さについてみると、アデノシンN1−オキシド又はアデノシン無添加の場合に比べて組織因子の発現を有意に抑制する濃度は、アデノシンN1−オキシドが0.5μM以上であったのに対し、アデノシンでは5μM以上の添加を要したので、アデノシンN1−オキシドはアデノシンに比べ10倍以上強いと考えられる。血管内皮細胞は、細菌、酵母、ウイルスなどの微生物感染や、TNF−αをはじめとする炎症性サイトカインにより活性化されると、細胞表面に組織因子や細胞接着因子を発現し、血栓形成が起こりやすくなるといわれている。従って、この結果は、アデノシンN1−オキシドが、血栓形成に関与する組織因子や細胞接着因子の産生を抑制することで血栓形成を阻害できることを示すものであり、播種性血管内凝固症候群(DIC)、全身性炎症反応症候群(SIRS)などの血栓形成が症状増悪の主因の一つとされる感染症の治療剤、予防剤として有用であることを物語っている。
【0065】
<実験6−3:細胞接着因子の発現に及ぼす影響>
コンフルエントに達したHUVEC細胞の培養ウエルに対し、終濃度が、表6に示す濃度になるよう血管内皮細胞増殖用培地に溶解したアデノシン(和光純薬工業株式会社販売、試薬級)あるいはアデノシンN1−オキシド溶液と、血管内皮細胞増殖用培地にて、終濃度がLPS(10μg/mL)/IL−1β(2ng/mL)/IFN−γ(500IU/mL)となるように溶解した溶液とを、各々50μL/ウエル添加し、5容積%COインキュベーター内において、37℃で5.5時間培養した。その後、培養上清を吸引除去し、PBSにて2回洗浄後4%パラホルムアルデヒドを添加し、室温で1時間静置して細胞を固定した。固定後、細胞をPBSにて3回洗浄し、1%BSAおよび0.05%NaN含有PBSを150μL/ウエル添加して4℃で一晩ブロッキングした。ブロッキング後、ウエル内の液を除去し、3%BSA含有PBSにて0.4μg/mLの濃度に調製したビオチン標識ヒツジ抗ヒトVCAM−1ポリクローナル抗体(R&D社販売、商品名『ヒト VCAM−1/CD106ビオチン化アフィニティ精製ポリクローナル抗体 ヒツジIgG』)を100μL/ウエル添加し、室温で1.5時間静置した。次にPBSにて細胞を4回洗浄した後、3%BSA含有PBSにて1000倍希釈したHRPO標識ストレプトアビジン(Invitrogen社販売、商品名『ストレプトアビジン HRPコンジュゲイト』)を100μL/ウエル添加し、室温で1時間静置した。最後に、PBSにて細胞を4回洗浄した後、QuantaBlueTM Fluorogeneic Peroxidase Substrate(PIERCE社製)にて10分間発色させ、325−420nmにて蛍光強度を測定した。対照として、アデノシンあるいはアデノシンN1−オキシド溶液に替えて血管内皮細胞増殖用培地を50μL/ウエル添加した以外は同じ条件で培養、蛍光強度の測定を行った。結果を表6に併せて示す。
【0066】
表6の結果から明らかなように、LPS、IL−1β及びIFN−γ存在下で誘導される細胞接着因子の発現量は、アデノシンN1−オキシド或いはアデノシンにより濃度依存的に抑制された。両者の抑制の強さについてみると、発現量の抑制傾向は、何れの場合も5μM濃度以上で認められることから、差はないと考えられる。
【0067】
<実験6−4:ベロ毒素Iによる細胞障害に及ぼす影響>
さらに、実験3において、アデノシンN1−オキシドは、ベロ毒素刺激によるマクロファージからの炎症性サイトカインの産生を抑制することが明らかになったので、斯かる毒素刺激による血管内皮細胞からの炎症性サイトカイン産生に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響を調べた。すなわち、LPS/IL−1β/IFN−γ刺激にかえて、表6に示す濃度となるようにベロ毒素I(ナカライテックス販売)を添加した以外は、実験6−1と同じ方法により、HUVEC細胞からのTNF−α産生量を測定した。結果を表6に併せて示す。
【0068】
表6から明らかなよう、アデノシンN1−オキシドは、HUVEC細胞からのTNF−α産生量を効果的に抑制した。
【0069】
実験6の結果を総合すると、実験1で確認されたアデノシンN1−オキシド投与による細菌性ショック抑制メカニズムの一つが炎症性サイトカインであるTNF−αの血管内皮細胞からの産生の抑制、並びに、血管内皮細胞の組織因子及び細胞接着因子の発現抑制による可能性を示唆している。また、その抑制の程度はアデノシンよりも10倍以上強く、マクロファージを用いた実験2結果とよく一致している。さらに、ベロ毒素は、血管内皮細胞に作用し、炎症サイトカインを産生させるなどして、血管内皮細胞を障害し、出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群を引き起こすとされているので、この結果は、アデノシンN1−オキシドが、ベロ毒素による血管内皮細胞の障害を抑制し、出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群の予防剤、治療剤としても有用であることを物語っている。
【0070】
<実験7:LPS投与により誘導されるサイトカイン類の産生に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響>
<試験方法>
実験1においてアデノシンN1−オキシド投与によりLPS投与による細菌性ショックが抑制されることが確認され、その抑制メカニズムとして、アデノシンN1−オキシドがLPSによるマクロファージ及び血管内皮細胞からのTNF−αの産生を抑制する作用によることが実験2乃至6において示唆されたので、本実験では、実際にマウスに対しLPSを投与し細菌性ショックを誘導した場合、誘導される炎症性サイトカインの産生が、アデノシンN1−オキシド投与により抑制されることを確認するための試験を行った。さらに、アデノシンN1−オキシドはTNF−α以外の炎症性サイトカインの産生にも影響を及ぼす可能性が示唆されたので、本実験では、アデノシンN1−オキシド投与の炎症性サイトカインであるIL−6及びIL−12、抗炎症性サイトカインであるIL−10の産生に及ぼす影響について調べた。すなわち、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、9週齢、雌)18匹を、無作為に6匹ずつ3群に分けた。大腸菌(055:B5)由来のLPS(シグマ社販売)を生理食塩水に溶解し、この3群各6匹全てのマウスのマウスにLPSを18mg/kg体重腹腔内投与した(実験群1乃至3)。この3群のマウスのうち、1群6匹にはLPS投与と同時にPBSに溶解したアデノシンN1−オキシド(ANO)を68mg/kg体重となるように静脈内(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群2)。1群6匹にはLPS投与と同時にPBSに溶解したアデノシンN1−オキシドを135mg/kg体重となるように静脈内(液量:0.2mL/匹)に投与した(実験群3)。残りの1群6匹はLPS投与と同時にPBSを0.2mL/匹静脈内投与した(実験群1)。
【0071】
各群のマウスにつき、LPS投与2時間後に採血し、血清中のTNF−α、IL−6、IL−10及びIL−12を測定し、各群の平均値を求めた。結果を表7に示す。なお、TNF−α量の測定は実験2と同じELISA法を用い、IL−6量の測定は実験3と同じELISA法を用いた。また、IL−10の測定は市販のラット抗マウスIL−10抗体(BD ファミジーン社販売、商品名『ラット抗マウスIL−10抗体(商品コード:554421)』)を固相抗体とし、市販のビオチン標識ラット抗マウスIL−10抗体(BD ファミジーン社販売、商品名『ビオチン標識ラット抗マウスIL−10抗体(商品コード:554423)』)を二次抗体とし、HRPO標識ストレプトアビジンにより測定する酵素抗体法(ELISA)を用いた。IL−12の測定は市販のラット抗マウスIL−12抗体(BD ファミジーン社販売、商品名『ラット抗マウスIL−12p70抗体(商品コード:554658)』)を固相抗体とし、市販のビオチン標識ラット抗マウスIL−12抗体(BD ファミジーン社販売、商品名『ビオチン標識ラット抗マウスIL−12p70抗体(商品コード:51−26192E)』)を二次抗体とし、HRPO標識ストレプトアビジンにより測定する酵素抗体法(ELISA)を用いた。
【0072】
【表7】

【0073】
表7から明らかなように、LPS投与2時間後のマウス血清中には、TNF−α、IL−6、IL−12が検出され、IL−10は検出されなかった(実験群1)。これに対し、LPSと同時にアデノシンN1−オキシドを68mg/kg体重又は135mg/kg体重投与したマウスの血清中では、アデノシンN1−オキシドを投与しなかった場合と比べて、TNF−αの産生がアデノシンN1−オキシド投与量に依存して有意に抑制された(実験群2及び3)。また、TNF−αと同様に、IL−6及びIL−12はアデノシンN1−オキシドの投与量に依存して有意に生成が抑制されたのに対し、抗炎症性サイトカインであるIL−10はアデノシンN1−オキシドの投与量に依存して生成が増強された。TNF−α、IL−6及びIL−12は細菌性ショックの病態形成に関わるエフェクター分子といわれているので、この結果と実験2、実験3の結果とから、LPS投与による細菌性ショックは、アデノシンN1−オキシドの投与により、LPSにより誘導される炎症性サイトカインであるTNF−αに加え、炎症性サイトカインであるIL−6及びIL−12の産生が抑制されることによりマウスの生存率の低下が抑制されたと結論される。さらに、アデノシンN1−オキシドの投与により、抗炎症性サイトカインであるIL−10の産生が増強されることも、マウスの生存率の低下の抑制に寄与していると推測される。
【0074】
<実験8:細菌性ショックに及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響2>
実験1において、LPSの投与と同時にアデノシンN1−オキシドを投与することにより細菌性ショックの発症が抑制できることが確認された。一方、細菌性ショックは急速に進行することから、その治療剤は、病態が進行し、増悪した時期に使用される可能性があるので、本実験では既に細菌性ショックを発症し、敗血症が増悪したマウスに対するアデノシンN1−オキシド投与の及ぼす影響を調べた。すなわち、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、9週齢、雌)14匹を、無作為に7匹ずつ2群に分けた(実験群1及び2)。大腸菌(055:BB)由来のLPS(シグマ社販売)をPBSに溶解し、この2群各7匹全てのマウスにLPSを18mg/kg体重腹腔内投与した。LPS投与1時間後に、1群7匹にはPBSに溶解したアデノシンN1−オキシド(ANO)を135mg/kg体重となるように静脈内(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群2)。残りの1群7匹にはPBSを0.2mL/匹静脈内投与した(実験群1)。各群につき、LPS投与後7乃至27時間までのマウスの生存数を確認し、各群の生存率(%)を求めた。結果を表8に示す。
【0075】
【表8】

【0076】
表8から明らかなように、LPSのみを投与したマウスはLPS投与22時間後には既に生存率が14%に低下した(実験群1)。これに対し、LPS投与1時間後にアデノシンN1−オキシドを投与したマウスではLPS投与27時間後でも生存率は57%となり(実験群2)、LPS投与により死亡するマウスの割合が有意に(P<0.05)減少した。実験7の結果は、アデノシンN1−オキシドは細菌性ショックを発症し、敗血症が増悪した場合の治療剤として利用できることを示している。
【0077】
<実験9:細菌性ショックに及ぼすアデノシン或いはイノシン投与の影響>
アデノシンN1−オキシドは生体内ではアデノシンを経てイノシンに変換され代謝されることが知られている。実験1乃至8の結果からアデノシンN1−オキシドが敗血症の予防剤又は治療剤として有用であることが確認されたので、その代謝産物のアデノシンやイノシンに同様の効果があるかどうかを確認する試験を行った。すなわち、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、9週齢、雌)28匹を、無作為に7匹ずつ4群に分けた(実験群1乃至4)。大腸菌(055:B5)由来のLPS(シグマ社販売)をPBSに溶解し、この4群各7匹の全てのマウスにLPSを18mg/kg体重腹腔内投与した。1群7匹にはLPS投与と同時にPBSに溶解したアデノシンN1−オキシド(ANO)を135mg/kg体重となるように静脈内(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群2)。2群各7匹にはLPS投与と同時にPBSに溶解したアデノシン(AN)又はイノシン(IN)の何れかを127mg/kg体重となるように静脈内(液量:0.2mL/匹)に投与した(実験群3及び4)。残りの1群7匹は、対照としてPBSを0.2mL/匹静脈内投与した(実験群1)。各群につき、LPS投与後7乃至43時間までのマウスの生存数を確認し、各群の生存率(%)を求めた。結果を表9に示す。
【0078】
【表9】

【0079】
表9から明らかなようにLPSの投与と同時にアデノシンを投与したマウス(実験群3)の生存率は、LPSの投与と同時にPBSを投与(実験群1)したマウスの場合と同様に経時的に低下した。また、LPSの投与と同時にイノシンを投与したマウス(実験群4)の生存率は、LPSの投与と同時にPBSを投与(実験群1)したマウスよりも高めに推移した。これに対しLPSの投与と同時にアデノシンN1−オキシドを投与したマウス(実験群2)の生存率は、実験群1、3及び4のマウスに比して有意な(P<0.05)生存率の改善が認められた。この結果から、アデノシンN1−オキシドはアデノシンやイノシンよりも優れた敗血症の予防又は治療効果を有すると結論される。
【0080】
<実験10:細菌性ショックに及ぼすアデノシンN1−オキシドの経口投与の影響>
実験1において、アデノシンN1−オキシドの静脈内投与により、効果的にエンドトキシンショックが抑制されることが判明したので、本実験では、アデノシンN1−オキシドを経口投与した場合にも、静注した場合と同様の効果があることを確認するための試験を行った。すなわち、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、9週齢、雌)32匹を、無作為に8匹ずつ4群に分けた(実験群1乃至4)。全てのマウスに、PBSに溶解した大腸菌(055:B5)由来のLPS(シグマ社販売)を18mg/kg体重/匹腹腔内投与した(実験群1乃至3)。そのうちの1群8匹には、LPS投与1時間前及び1時間後に、PBSに溶解したアデノシンN1−オキシドを200mg/kg体重/回となるように、胃ゾンデを用いて経口(液量:0.2mL/匹/回)投与した(実験群2)。1群8匹には、LPS投与1時間前、1時間後及び7時間後に、PBSに溶解したアデノシンN1−オキシドを、200mg/kg体重/回となるように、胃ゾンデを用いて経口(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群2)。残りの1群8匹は、LPS投与1時間前及び1時間後に、PBSを胃ゾンデを用いて経口(液量:0.2mL/匹/回)投与した(実験群1)。各群につき、LPS投与後7乃至46時間までのマウスの生存数を肉眼により確認し、各群の生存率(%)を求めた。結果を表10に示す。なお、マウスの生存率(%)は、実験1と同様に求めた。
【0081】
さらに、実験群3で用いたアデノシンN1−オキシドに代えて、αグルコシル−アデノシンN1−オキシドを用いた以外は、実験群3と同一条件で細菌性ショックに及ぼす影響を調べた(実験群4)。結果を併せて表10に示す。ちなみに、α−グルコシル−アデノシンN1−オキシドは、株式会社林原生物化学研究所にて、アデノシンとデキストリンとを含む溶液に、ジオバチラスステアロサーモフィラス Tc−91株(茨城県つくば市東1−1−1中央第6所在、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、受託番号FERM BP−11273として寄託されている)由来のシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させ、次いで、グルコアミラーゼ剤(ナガセケムテックス株式会社販売、商品名『グルコチーム#20000』、20,000単位/g)を作用させた反応液から、クロマト分離法を含む精製工程を経て、純度98%以上に精製した3´−グルコシルアデノシン及び5´−グルコシルアデノシンを各々調製し(特願2011−20233)、これらを実験1と同じ方法により過酸化水素水を用いて酸化した後、逆相カラム(YMC社販売、商品名『YMC−Pack R&D ODS−Aカラム』)を用いたカラムクロマトグラフィーにより純度98%以上に精製した3´−グルコシルアデノシンN1−オキシド及び5´−グルコシルアデノシンN1−オキシドを用いた。
【0082】
【表10】

【0083】
表10から明らかなように、アデノシンN1−オキシドを200mg/kg体重/回を2回投与したマウスのLPS投与79時間後の生存率は50%であった(実験群2)。アデノシンN1−オキシドを200mg/kg体重/回を3回投与したマウスのLPS投与79時間後の生存率は75%であった(実験群3)。これに対し、PBSのみを投与したマウスのLPS投与79時間後の生存率は12.5%にまで低下した(実験群1)。この結果は、アデノシンN1−オキシドを経口投与することにより、その静脈内投与の場合と同様に、エンドトキシンショックの抑制効果を得ることができることを物語っている。また、3´−グルコシル−アデノシンN1−オキシドを200mg/kg体重/回を3回投与したマウスのLPS投与79時間後の生存率は50%となった(実験群5)。5´−グルコシル−アデノシンN1−オキシド投与群(実験群6)は対照(実験群1)とほぼ同じ生存率の低下を示した、この結果は、α−グルコシル−アデノシンN1−オキシドを経口摂取した場合、腸内で加水分解によりアデノシンN1−オキシド生成し、アデノシンN1−オキシドを摂取した場合と同様に、エンドトキシンショックを抑制したものと考えられ、3´−グルコシル−アデノシンN1−オキシドも、アデノシンN1−オキシド敗血症の治療として有用であることを物語っている。経時的な生存率の推移及び投与量で比較すると、アデノシンN1−オキシドの方が3´−グルコシル−アデノシンN1−オキシドよりもエンドトキシンショックの抑制作用がより強いと考えられる。
【0084】
<実験11:LPS投与マウスのサイトカイン産生に及ぼすアデノシンN1−オキシド経口投与の影響>
実験10において、LPS投与によるエンドトキシンショックがアデノシンN1−オキシドの経口投与により抑制されたことから、LPS投与により誘導される炎症性サイトカインの産生が、アデノシンN1−オキシドの経口投与により抑制されることを確認するための試験を行った。すなわち、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、11週齢、雌)28匹を、無作為に7匹ずつ4群に分けた(実験群1乃至4)。そのうちの1群7匹にはPBSに溶解したアデノシンN1−オキシドを100mg/kg体重なるように、胃ゾンデを用いて経口(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群2)。1群7匹には、PBSに溶解したアデノシンN1−オキシドを200mg/kg体重/となるように、胃ゾンデを用いて経口(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群3)。1群7匹には、PBSに溶解した3´−グルコシルアデノシンN1−オキシドを200mg/kg体重/となるように、胃ゾンデを用いて経口(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群4)。残りの1群7匹はPBSを胃ゾンデを用いて経口(液量:0.2mL/匹)投与した(実験群1)。次いで、アデノシンN1−オキシド或いはPBS投与50分後に、全てのマウスに、PBSに溶解した大腸菌(055:B5)由来のLPS(シグマ社販売)を18mg/kg体重/匹腹腔内投与した(実験群1乃至4)。各群につき、LPS投与後90分後に、尾静脈から採血し、血清中に含まれるTNF−α、IL−6、IL−10の濃度を、実験11と同じ方法で測定した。結果を表11に示す。
【0085】
【表11】

【0086】
表11から明らかなように、アデノシンN1−オキシド又は3´−グルコシルアデノシンN1−オキシドを200mg/kg体重投与したマウス(実験群3及び4)では、PBSを経口投与したマウス(実験群1)に比べ、血清中のTNF−α濃度及びIL−6濃度が有意に低下し、IL−10の濃度が有意に上昇した。アデノシンN1−オキシドを100mg/kg体重投与したマウス(実験群2)では、PBSを経口投与したマウス(実験群1)に比べ、血清中のTNF−α濃度及びIL−6濃度が低下傾向を示し、IL−10の濃度が有意に上昇した。この結果は、アデノシンN1−オキシド及び3´−グルコシルアデノシンN1−オキシドの経口投与によるエンドトキシンショック抑制の作用メカニズムの一つが、静脈内投与の場合と同様、炎症性サイトカインであるTNF−αやIL−6の産生を抑制すると共に、抗炎症性サイトカインであるIL−10の産生を増強する作用によることを物語っている。
【0087】
<実験12:肝炎に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響>
本実験ではTNF−αが関与するとされる肝障害に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響をヒトの自己免疫性肝炎及びウイルス性肝炎モデル動物として汎用されているコンカナバリンA(ConA)誘発肝障害マウスを用いて調べた(例えば、『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』、97巻、10号、5498乃至5503頁(2000年)参照)。すなわち、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、9週齢、雌)30匹を、無作為に5匹ずつ6群に分けた(実験群1乃至6)。ConA(シグマ社販売、タイプIV)を生理食塩水に溶解し、この6群各5匹の全てのマウスに15mg/0.2mLを静脈内投与した。3群各5匹のマウスにはConA投与と同時に、生理食塩水に溶解したアデノシンN1−オキシドを45mg、75mg又は135mg/kg体重の何れかの量を静脈内投与した(実験群2乃至4)。2群各5匹のマウスにはConA投与と同時に、生理食塩水に溶解したアデノシン(AN)(実験群5)又はイノシン(IN)(実験群6)の何れかを127mg/kg体重静脈内投与した。残りの1群5匹には、対照としてConAの投与と同時に生理食塩水を0.2mL/匹静脈内投与した(実験群1)。
【0088】
各群のマウスにつき、ConA投与20時間後に採血し、血清中のGPT及びGOT活性を市販の測定キット(和光純薬株式会社販売、商品名『トランスアミナーゼCII−テストワコー』)により測定し、肝炎による肝障害の指標とした。結果を表12に示す。併せて、対照(実験群1)、アデノシンN1−オキシドを45mg/kg体重(実験群2)又は135mg/kg体重投与(実験群4)、及び、アデノシン又はイノシンを127mg/kg体重投与したマウス(実験群5及び6)については、採血後、解剖し、肝臓を採取し、常法により組織標本を作製した。組織標本をヘマトキシリン−エオシン染色し、顕微鏡観察により肝臓組織の壊死の状態を判定したスコアの平均値計算し、肝障害の指標とした。結果を表12に併せて示す。なお、肝臓組織の壊死の状態は、顕微鏡観察により、壊死が少ない(1)、中程度(2)、多い(3)の三段階で評価し、スコア化することにより各群の平均値を求めた。
【0089】
【表12】

【0090】
表12から明らかなよう、ConA投与により誘発される肝炎に伴う肝機能障害(GOT、GPT値上昇)は、ConAのみを投与した対照のマウス(実験群1)に比し、アデノシンN1−オキシドの投与量に依存して有意に抑制された(実験群2乃至4)。また、肝臓組織の壊死もアデノシンN1−オキシドの投与量に依存して抑制された。アデノシンを投与したマウス(実験群5)及びイノシンを投与したマウス(実験群6)では、アデノシンN1−オキシドを投与した場合よりは弱いものの、肝組織の状態及び肝機能障害の改善傾向が認められ、アデノシンを投与した場合、ConAのみを投与した対照のマウス(実験群1)に比しGOTが有意の低下を示した。この結果は、アデノシンN1−オキシドはアデノシンやイノシンよりも肝炎による肝障害の予防剤乃至治療剤として有用であることを物語っている。
【0091】
<実験13:炎症性腸疾患に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響>
本実験ではTNF−αが関与するとされる炎症性腸疾患に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響をヒト炎症性腸疾患モデル動物として汎用されているマウスのデキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎を用いて調べた(例えば、『American Journal of Physiology』、274巻、G544乃至G551頁(1998年)参照)。すなわち、C57BL/6マウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、9週齢、雌)45匹を、無作為に8匹ずつ5群(実験群2乃至5)と1群5匹(実験群1)とに分けた。デキストラン硫酸ナトリウム(MP Biomedicals社販売、分子量36,000〜50,000)を水道水に溶解し、このうち5群各8匹の全てのマウスに5日間飲水として自由に摂取させた(実験群2乃至5)。このデキストラン硫酸ナトリウムを摂取させたマウスのうち2群各8匹のマウスには、デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始日(摂取0日)から11日間(摂取10日)、アデノシンN1−オキシドを33又は100mg/kg体重となるようにPBSに溶解し、胃ゾンデにて1日1回、0.2mL/匹投与した(実験群3、4)。2群各8匹のマウスには、デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始日(摂取0日)から11日間(摂取10日)、アデノシン(AN)又はイノシン(IN)の何れかを94mg/kg体重となるようにPBSに溶解し、胃ゾンデにて1日1回、0.2mL/匹投与した(実験群5、6)。残りの1群8匹のマウスには、デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始日から11日間、PBSを胃ゾンデにて1日1回、0.2mL/匹投与した(実験群2)。デキストラン硫酸ナトリウムを摂取させなかった1群5匹のマウスはそのまま通常食、水道水自由摂取で11日間飼育した(実験群1)。
【0092】
デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始日から11日間、毎日、マウスの体重測定と、下痢及び血便の程度を肉眼観察した。デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始後11日目のマウスの体重をデキストラン硫酸ナトリウム摂取開始時のマウスの体重で除し100倍し、100から減じ体重減少率(%)を求めた。各々のマウスの下痢及び血便スコア及び体重減少率を表13に示す基準に従いスコア化した。デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始日(摂取0日)から11日目(摂取10日)の下痢及び血便のスコアの合計の平均を各群毎に求め表14に示す。デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始11日目(摂取10日)の各々のマウスの下痢、血便及び体重減少率のスコアの合計を計算し大腸炎の程度の指標として用いられるDisease Activity Index(DAI)とし、その平均を各群毎に求め表14に示す。さらに、デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始日から11日目に、各々のマウスの血液を採取し、炎症の指標とされる急性期蛋白のハプトグロビンを市販のELISAキット(Life Diagonostics社販売)を用いて測定し、各群毎の平均値を求めた。結果を表14に併せて示す。なお、デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始11日目にデキストラン硫酸ナトリウムのみを摂取させた実験群2のマウス1匹が死亡したため、デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始日から11日目(摂取10日)の実験群2の結果は7匹のマウスの平均値を示す。
【0093】
【表13】

【0094】
【表14】

【0095】
表14から明らかなように、デキストラン硫酸ナトリウム摂取により誘発される大腸炎の下痢便スコアと血便スコアの合計は、デキストラン硫酸ナトリウムのみを摂取させたマウス(実験群2)に比しアデノシンN1−オキシドの投与量に依存して低下し、硫酸デキストラン摂取開始日から6日目(摂取5日)以降有意(P<0.05)な低下が認められた(実験群3及び4)。また、これらの実験群では、デキストラン硫酸ナトリウム摂取開始日から11日目(摂取10日)の下痢及び血便のスコアに体重減少スコアを加えたDAI及びハプトグロビン量も、デキストラン硫酸ナトリウムのみを摂取させたマウス(実験群2)に比して有意(P<0.05)の低下が認められた。アデノシン投与群(実験群5)では下痢便スコアと血便スコアの合計、DAI及びハプトグロビン量の何れも、デキストラン硫酸ナトリウムのみを摂取させたマウス(実験群2)と差は認められなかった。イノシン投与群(実験群6)では、下痢便スコアと血便スコアの合計、DAI及びハプトグロビン量の何れも、デキストラン硫酸ナトリウムのみを摂取させたマウス(実験群2)と比し、低下傾向は認められたものの有意な差は認められなかった。この結果は、アデノシンN1−オキシドはアデノシンやイノシンよりも炎症性腸疾患の予防剤乃至治療剤として有用であることを物語っている。
【0096】
<実験14:腎炎に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響>
腎炎は種々の原因で発症し、症状の進行に伴い腎糸球体の変性が進行することが知られている。本実験では腎炎に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響をII型糖尿病のモデル動物として汎用されている、II型糖尿病を自然発症するKK−Ayマウスを用いて調べた(例えば、『Experimental Animals』、51巻、2号、191乃至196頁(2002年)参照)。
<試験方法>
KK−Ayマウス(日本クレア株式会社販売、5週齢、雄)50匹を、CE−2飼料(日本クレア株式会社販売)で1週間予備飼育した後、体重と尾静脈から採血した血液中の血糖値とを測定し、各々の測定値が均等になるように、無作為に10匹ずつ5群に分けた。5群のうち1群は、対照として、飲水を自由摂取させつつ、10週間飼育した(実験群1)。残り4群のうちの2群のマウスは、飲水に溶解したアデノシンN1−オキシドを、毎日、30mg/kg/日又は100mg/kg/日の何れか一方の用量で、自由摂取させつつ、それぞれ10週間飼育した(実験群2及び実験3)。残りの2群のマウスには、飲水に溶解したアデノシン又はイノシンの何れか一方を、毎日、94mg/kg/日で、自由摂取させつつ、それぞれ10週間飼育した(実験4及び実験5)。マウスは、予備飼育及び試験期間を通じ、CE−2飼料を自由摂取させつつ、22±2℃、12時間の明暗サイクル(点灯 7:00〜19:00)で飼育した。試験終了時の体重、腎臓質量比、血糖値、ヘモグロビンA1c値(HbA1c)、剖検による腎障害の病理所見により評価し、各群において、腎糸球体の硬化が全糸球体の、50%以上で認められる(++)マウスの占める割合を表15に示す。腎臓質量比は、腎臓質量を体重で除して求めた。また、血糖値、HbA1c値、及び、腎糸球体の変性スコアは下記の方法により求めた。
<臨床検査値の測定方法及び病理所見のスコア化の方法>
<血糖値>
試験終了時、剖検前に16時間絶食後、後大静脈から採血して空腹時血糖値を測定した。血糖値は、市販の血糖値測定試薬(和光純薬工業株式会社販売、商品名「グルコースCIIテストワコー」)を用いて測定した。
<HbA1c値>
試験終了時、剖検前に16時間絶食後、後大静脈から採血して、空腹時のHbA1c値を測定した。測定は、民間の臨床検査機関(株式会社ファルコバイオシステムズ)に依頼した。
<病理組織評価>
剖検時、各マウスの腎臓を採取し、中性緩衝ホルマリン固定後、常法により病理組織切片を作製し、ヘマトキシリン−エオシン染色(H−E染色)及びPAS染色を施した。染色した各マウスの病理組織切片について、対照群と比較の上、顕微鏡観察による病理所見を以下の基準により判定し、スコア化して、腎炎による腎障害の変性の指標とした。
<腎臓の病理所見のスコア化方法>
腎障害の程度は腎糸球体の硬化の程度で判定した。腎糸球体の硬化が全糸球体の、50%以上で認められる(++)、25%以上50%未満で認められる(+)、25%未満にしか認められない(±)、認められない(−)の四段階で判定した。なお、腎臓の病理所見は、病理組織評価基準(例えば、アンドレア ハートナー(Andrea Hartner)ら、『アメリカン ジャーナル オブ パソロジー(American Journal of Pathology)』、160巻、3号、861乃至867頁(2002年)の862頁右欄12乃至21行参照)に基づき判定した。
【0097】
【表15】

【0098】
表15から明らかなよう、マウスでは腎糸球体の硬化が50%以上を示すマウスの割合が、アデノシンN1−オキシドを、毎日30mg/kg体重投与した群(実験群2)では50%、毎日100mg/kg体重投与した群では(実験群3)30%を示し、CE−2飼料のみを投与した群(実験群1)では100%であったのに比べ、有意に低下した。アデノシンを毎日94mg/kg体重投与した群では(実験群4)では、腎糸球体の硬化が50%以上を示すマウスの割合が100%であり、CE−2飼料のみを与えた群(実験群1)と差は認められなかった。イノシンを毎日94mg/kg体重投与した群では(実験群5)では、腎糸球体の硬化が50%以上を示すマウスの割合が80%に低下した。体重、腎臓質量比、血糖値は、何れの実験群間でも差は認められなかった。この結果は、アデノシンN1−オキシドが腎炎による腎糸球体の硬化(変性)を抑制する腎炎の治療剤として有用であることを物語っている。また、アデノシンN1−オキシドを毎日100mg/kg体重投与した群では(実験群3)、HbA1c値が5.40%を示し、CE−2飼料のみを与えた実験群(実験群1)の6.75%に対し有意に低下したこと、及び、アデノシンN1−オキシド投与群(実験群2及び3)では、他の実験群に比して、血糖値も低下傾向を示したことから、アデノシンN1−オキシドは糖尿病の治療剤としても有用であることを物語っている。
【0099】
<実験15:膵炎に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響>
本実験ではTNF−αが関与するとされる膵臓障害に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響を、ヒトの膵炎モデル動物として汎用されているコリン欠乏エチオニン添加食誘発重症急性膵炎マウスを用いて調べた(例えば、『Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics』、328巻、1号、256乃至262頁(2009年)参照)。すなわち、CD1(ICR)マウス(日本チャールス・リバー株式会社社販売、雌、3週齢)、40匹を無作為に8匹ずつ5群に分けた。7日間予備飼育後、1日絶食させ、翌日からコリン欠乏エチオニン添加食(オリエンタル酵母工業株式会社製造)を3日間自由摂取させた。その後、通常食に戻し、コリン欠乏エチオニン添加食摂取させた。1群8匹には、絶食時より、毎日、朝、夕の2回、蒸留水に溶解したアデノシンN1−オキシドを46mg/kg体重/回となるように、胃ゾンデを用いて経口投与(液量:0.2mL/匹/回)した。1群8匹には、絶食時より、毎日、朝、夕の2回、蒸留水に溶解したアデノシンN1−オキシドを139mg/kg体重/回となるように、胃ゾンデを用いて経口投与(液量:0.2mL/匹/回)した。2群8匹には、絶食時より、毎日、朝、夕の2回、蒸留水に溶解したアデノシン又はイノシンを124mg/kg体重/回となるように、胃ゾンデを用いて経口投与(液量:0.2mL/匹/回)した。残りの1群8匹には、対照として、絶食時より、毎日、朝、夕の2回、蒸留水を胃ゾンデを用いて経口投与(液量:0.2mL/匹/回)した(実験群1)。コリン欠乏エチオニン添加食摂取開始から7日間目までのマウスの生存数を肉眼により確認し、各群の生存率(%)を求めた。結果を表16に示す。なお、マウスの生存率(%)は、実験1と同様に求めた。
【0100】
【表16】

【0101】
表16から明らかなよう、毎日、朝、夕の2回、蒸留水に溶解したアデノシンN1−オキシドを139mg/kg体重/回となるように、胃ゾンデを用いて経口投与(液量:0.2mL/匹/回)した場合、コリン欠乏エチオニン添加食摂取により誘発される急性膵炎を発症したマウスの生存率の低下は、蒸留水のみを投与した対照のマウス(実験群1)に比べて、有意に抑制され、78時間以降144時間までの死亡は確認されなかった。また、アデノシンN1−オキシドを46mg/kg体重/回、或いは、アデノシンを124mg/kg体重/回、となるように、胃ゾンデを用いて経口投与(液量:0.2mL/匹/回)したマウスの生存率は、蒸留水のみを投与した対照のマウス(実験群1)と同様、経時的に低下した。イノシンを124mg/kg体重/回、となるように、胃ゾンデを用いて経口投与(液量:0.2mL/匹/回)したマウスの生存率は、蒸留水のみを投与したマウス(実験群1)よりは低下が抑制される傾向がみとめられたものの、コリン欠乏エチオニン添加食摂取開始144時間後では、蒸留水のみを投与したマウスと同じ生存率にまで低下した。この結果は、アデノシンN1−オキシドは膵臓炎に対する予防剤乃至治療剤として有用であり、その治療効果はイノシンよりも優れていることを物語っている。
【0102】
<実験16:アトピー性皮膚炎に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響>
本実験ではアトピー性皮膚炎に及ぼすアデノシンN1−オキシド投与の影響を、ヒトのアトピー性皮膚炎のモデル動物として汎用されているピクリルクロライド感作マウスを用いて調べた。皮膚炎症状の惹起は、日本チャールス・リバー株式会社のプロトコールに従って行なった。ちなみに、ピクリルクロライドは、市販品(東京化成株式会社販売)を購入し、日本チャールス・リバー株式会社のプロトコールに従い、エタノールに溶解し再結晶化したものを用いた。
<試験方法>
NC/Ngaマウス(日本チャールス・リバー株式社販売、雌、6週齢)48匹の腹部を、バリカンを用いて剃毛した後、無作為に8匹ずつ6群に分けた。5群各8匹のマウスにつき、エタノールとアセトンとを4:1の容積比で混合した溶液にピクリルクロライド(東京化成株式会社)を5%の濃度に溶解した溶液を、剃毛した腹部皮膚、及び、4個のフットパッドに合計で150μL/マウスとなるように滴下し、ピペットのチップの腹部を用いて拡げて塗布することによりピクリルクロライドに感作(以下、単に「感作」という場合がある。)させた。感作4日後に、オリーブ油(和光純薬工業株式会社販売)に1%濃度に溶解したピクリルクロライドを150μL/マウスとなるように、マイクロピペットを用い同様にして、塗布前日にバリカンを用いて剃毛しておいた背部皮膚に塗布し、皮膚炎を惹起し、以後、1週間おきに同様の操作を5回繰り返し、皮膚炎の惹起(以下、単に「惹起」という場合がある。)を合計6回おこなった。1群8匹のマウスには、ピクリルクロライドによる感作の3日前から、アデノシンN1−オキシドの2.2%溶液と水溶性カルボキシビニルポリマー(和光純薬工業株式会社販売、商品名『ハイビスワコー』)とを混合し調製したゲル(アデノシンN1−オキシド含量14mg/mLゲル)を、マイクロピペットを用いて同様に100μL/マウスで、1日に朝夕2回、5日間連続塗布、2日間連続塗布休止のサイクルで、6回目の惹起の4日後まで皮膚炎を惹起した背部皮膚部位に塗布した(実験群2)。アデノシンN1−オキシドを含むゲルの塗布は月曜日の朝開始した。2群各8匹のマウスには、アデノシン又はイノシンの2.1%溶液と前記水溶性カルボキシビニルポリマーとを混合して調製したゲル(アデノシン又はイノシン含量13mg/mLゲル)を、アデノシンN1−オキシドと同じ塗布スケジュールで皮膚炎を惹起した背部皮膚部位に塗布した(実験群3及び4)。ピクリルクロライドで感作した残りの1群8匹には、陽性対照として、プレドニゾロン21−リン酸二ナトリウム(東京化成工業株式会社販売、以下、単に「プレドニゾロン」という。)溶液と前記水溶性カルボキシビニルポリマーとを混合して調製したゲル(プレドニゾロン含量6.7mg/mLゲル)を、3回目の惹起の週の月曜日(塗布開始17日目)の朝から、1日に朝夕の2回、5日間連続塗布、2日間連続塗布休止のサイクルで、6回目の惹起の4日後まで、皮膚炎を惹起した背部皮膚部位に塗布した(実験群5)。ピクリルクロライドを塗布した残りの1群は、対照として、前記カルボキシビニルポリマーに精製水を加えて調製したゲルを、アデノシンN1−オキシドと同じスケジュールで塗布した(実験群1)。残りの1群8匹は、正常群として、試験開始時に腹部及び背部をバリカンで剃毛した後、ピクリルクロライドやゲルの塗布をすることなく飼育した(実験群6)。
【0103】
6回目の惹起を行った週の金曜日(塗布開始46日目)に、全てのマウスをsacrificeして脾臓を摘出し、常法により脾細胞を採取した。脾細胞は10%FCS含有RPMI−1640培地に懸濁し、24穴プレートに5×10細胞/0.5mL/ウエルとなるように播種した。各ウエルに、2μg/mLの抗CD3抗体(コスモバイオ社販売、商品名『精製マウスCD3ε モノクローナル抗体』)を添加し、5容積%COインキュベーター内において、37℃で3日間培養し、その培養上清中のサイトカイン量を測定した。
【0104】
<評価方法>
実験期間を通して、マウスの体重を週1回測定した。皮膚の炎症の状態の判定は、惹起3回目の週より火曜日と金曜日の週2回、発赤・出血、浮腫(耳介のむくみ)、擦傷・組織欠損、痂皮(かさぶた)形成・乾燥の程度の4項目各々について、表17に示す判定基準により0(無症状)、1(軽度)、2(中程度)、3(重度)の4段階でスコア化した。各群における各評価項目のスコアの合計の平均値を求め皮膚スコアとした。ピクリルクロライドにより感作した実験群1乃至5の皮膚スコアを表18に示す。各々のマウスの脾細胞の抗CD3抗体刺激培養上清中のIL−4,IL−5、IL−6及びIFN−γ濃度を、各々のサイトカインに特異的なELISAにて測定し、各群のマウスの脾細胞における各々のサイトカインの産生量の平均を求めた。結果を表19に併せて示す。
【0105】
【表17】

【0106】
【表18】

【0107】
【表19】

【0108】
表18から明らかなように、アデノシンN1−オキシドを含むゲルを塗布したマウス(実験群2)の皮膚のスコアは、ピクリルクロライド感作21日より経時的に増加し、皮膚の炎症が進行する傾向を示したものの、精製水を加えて調製したゲルを塗布したマウス(実験群1)の皮膚のスコアの増加に比べて、感作39日以降は、有意に皮膚の炎症が抑制された。また、炎症惹起部位の一部の皮膚では発毛が観察され、炎症による創傷の治癒・改善が認められた。アデノシン或いはイノシンを含むゲルを塗布したマウス(実験群3及び4)の皮膚スコアは、精製水を加えて調製したゲルを塗布したマウス(実験群1)の皮膚のスコアの増加と同程度であり、これらの物質の塗布による皮膚スコアの改善は認められなかった。抗炎症剤として用いられているプレドニゾロンを含むゲルを塗布したマウス(実験群5)の皮膚のスコアは、感作28日以降、精製水を加えて調製したゲルを塗布したマウス(実験群1)の皮膚のスコアの増加に比べ、優位に低く抑制されたものの、アデノシンN1−オキシドの塗布で認められた炎症惹起部位の皮膚の創傷の回復は認められなかった。ちなみに、マウスの体重についてみると、アデノシンN1−オキシドを含むゲルを塗布したマウスでは、試験期間を通じ、精製水を加えて調製したゲルを塗布した対照群のマウス(実験群1)と同様の体重増加率を示し、炎症の惹起に伴う影響は認められなかった。これに対し、アデノシン或いはイノシンを含むゲルを塗布したマウス(実験群3及び4)では、2回目の惹起の週(塗布開始12日目)以降、剃毛のみを行った正常群(実験群6)に比べ、惹起した炎症部位の掻痒感によるストレスに起因すると思われる体重の増加率の減少が認められた。また、プレドニゾロンを塗布した陽性対照群のマウス(実験群5)では、惹起5回目の週から、腹部及び背部皮膚の剃毛のみを行った正常群のマウス(実験群6)に比べ、プレドニゾロンの塗布の副作用とみられる体重の有意の減少が認められた。この結果は、アデノシンN1−オキシドは皮膚炎に対する予防剤乃至治療剤、或いは、炎症の惹起に伴う創傷の予防・治療剤として有用であることを物語っている。
【0109】
表19から明らかなように、アデノシンN1−オキシド加えて調製したゲルを塗布したマウス(実験群2)の脾細胞を、抗CD3抗体により刺激した場合のIL−4,IL−5、IL−6及びIFN−γの産生は、何れも、精製水を加えて調製したゲルを塗布したマウス(実験群1)の脾細胞を、抗CD3抗体により刺激した場合のIL−4、IL−6及びIFN−γの産生量に比べ有意に低く、IL−5も低下傾向にあった。アデノシン或いはイノシンを含むゲルを塗布したマウス(実験群3及び4)の脾細胞を、抗CD3抗体により刺激した場合のIL−4、IL−5、IL−6及びIFN−γの産生は、何れも、精製水を加えて調製したゲルを塗布したマウス(実験群1)の脾細胞を、抗CD3抗体により刺激した場合の産生量と差は認められなかった。また、剃毛のみをおこなっただけの正常群のマウス(実験群6)と、ピクリルクロライド感作後、精製水を加えて調製したゲルを塗布したマウス(実験群1)とから調製し、抗CD3抗体により刺激した脾細胞からのIL−4/IFN−γの産生量の比を比較すると、ピクリルクロライド感作マウスの方が高値を示し、アトピー性の疾患で特徴的なTh2優位の状態になっていることが確認された。アデノシンN1−オキシドを塗布したマウス(実験群2)の脾細胞を、抗CD3抗体により刺激したとき産生されるIL−4/IFN−γの産生量の比は、剃毛のみをおこなっただけの正常群のマウス(実験群6)の比率に近づいているので、アデノシンN1−オキシドの塗布は、Th2優位の免疫担当細胞の構成を正常に戻す作用を有していることを物語っている。さらに、アデノシンN1−オキシドを塗布したマウス(実験群2)の脾細胞では、IFN−γの産生も精製水を加えて調製したゲルを塗布したマウス(実験群1)に比べ減少していることから、アデノシンN1−オキシドにはTh1細胞の産生する炎症性サイカインの産生抑制作用もあることが確認された。従って、アデノシンN1−オキシドの塗布による皮膚のアトピー性炎症の抑制は、これらのメカニズムが組み合わされているものと判断される。
【0110】
<実験17:ケラチノサイトの炎症反応に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響>
実験11において、アデノシンN1−オキシドがアトピー性皮膚炎に対し治療効果のあることが確認されたので、本実験では、表皮細胞の炎症反応に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響を調べた。表皮細胞は紫外線などの刺激をうけるとTNF−αやIL−1などの炎症性サイトカインを産生して皮膚に炎症を引き起こし、その結果、シミやシワなどの皮膚のトラブルを誘発、増悪させる。そこで、ヒトの皮膚のモデルとして汎用されているヒト正常ケラチノサイトを用い、紫外線で刺激した場合の炎症性サイトカイン産生に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響を検討した。
<実験方法1>
予め、35mmシャーレ(ベクトンデッキンソン社販売、商品名『Falcon 35−3001』)に対し、PBS(K−)で10倍希釈した組織培養用コラーゲン(新田ゼラチン社販売、商品名『Cellmatrix Type IV』)を、1ml/plateで添加し、室温、10分間静置した後、Cellmatrixを除去し、風乾させ、PBS(K−)で3回洗浄した。このシャーレに、正常ヒト表皮角化細胞用増殖添加剤(クラボウ株式会社販売、商品名『EDGS』、終濃度30μg/mlウシ血清アルブミン、5μg/mlウシ由来トランスフェリン、11ng/mlハイドロコーチゾン、10ng/mlヒト組み換え型インスリン様成長因子I型、1ng/mlヒト組み換え型上皮成長因子、18ng/mlプロスタグランジンE含有)(以下、「EDGS」という。)を含む表皮角化細胞・角膜上皮細胞基礎培地(クラボウ株式会社販売、商品名『EpiLife』)(以下、「EpiLife培地」という。)に懸濁した正常ヒト表皮角化細胞NHEK細胞(クラボウ株式会社販売、細胞名「NHEK」)(以下、「NHEK細胞」という。)を、5×10個/1.5ml/シャーレで播種した。5容積%COインキュベーターにて、37℃で培養した。播種後2日目および4日目に、EDGSを含まないEpiLife培地(1ml/plate)に交換した。細胞播種後5日目に、培養上清を除去し、ハンクス平衡塩緩衝液(以下、「HBSS(−)緩衝液」という。)を1ml/シャーレで添加し、2回洗浄した。さらに、HBSS(−)緩衝液を2ml/シャーレ添加した後、紫外線光源からおよそ15cmの位置に静置し、40mJ/cmのB波紫外線を照射した。照射後直ちに、HBSS(−)緩衝液を除去し、表20に示す濃度となるようにEDGSを含まないEpiLife培地に溶解したアデノシンN1−オキシドを1.5ml/シャーレで添加し、再度、5容積%COインキュベーター内において、37℃で培養した。アデノシンN1−オキシド含有培地添加4時間後及び6時間後に培養上清をサンプリングし、4時間後の上清については市販の細胞障害性検出キット(ロシュ・ダイアグノスティック株式会社販売、商品名『細胞障害性検出キット(LDH)』)により乳酸脱水素酵素(以下、「LDH」という。)の細胞外への放出量を指標とする細胞障害性を、6時間後の上清についてはELISA法により炎症性サイトカインとしてTNF−α、IL−1α及びIL−8量を測定した。結果を表20に示す。対照として、アデノシンN1−オキシドを含まないEpiLife培地(EDGS無含有)に溶解した以外は、同様にB波紫外線(UVB)を照射し、同様に細胞障害性及びサイトカイン類の産生量を測定した。なお、紫外線光源として、実用光源装置(株式会社三和メディカル社販売、NS−8F型)にB波紫外線ランプを装着したものを使用し、線量は紫外線強度計(株式会社トプコン販売、UVR−305/365D(II))により測定した。また、TNF−αは実験2と同じ方法で測定した。その他のサイトカインは、それぞれ、市販のIL−1α測定キット(R&D SYSTEMS社販売)及びIL−8測定キット(BioLegend社販売)を用い測定した。
【0111】
【表20】

【0112】
表20から明らかなように、アデノシンN1−オキシドは、紫外線刺激により誘導されたNHEK細胞からのTNF−α及びIL−8の産生を、濃度依存的に抑制した。また、アデノシンN1−オキシドは、紫外線刺激により増強されたNHEK細胞からのIL−1αの産生を、濃度依存的に抑制した(実験群3乃至5)。これに対し、アデノシン及びイノシンは、この実験に用いた濃度では、紫外線により誘導乃至増強されるNHEK細胞からのこれら炎症性サイトカインの産生に影響を与えることは無かった(実験群6乃至10)。この結果は、アデノシンN1−オキシドの皮膚の炎症に対する抑制作用のメカニズムの一つが、紫外線刺激による表皮細胞からの炎症性サイトカイン類の抑制によることを示している。また、アデノシンN1−オキシドは、アデノシンやイノシンとは異なり、紫外線刺激によりNHEK細胞から放出されるLDHを濃度依存的に抑制したことから、アデノシンN1−オキシドは、紫外線によりもたらされる細胞の障害そのものに対する保護作用もあることが明らかとなった。なお、紫外線刺激により、NHEK細胞は細胞の増殖が抑制されたものの、アデノシンN1−オキシド、アデノシン又はイノシンの添加による細胞増殖への影響は認められなかった。
【0113】
<実験18:線維芽細胞に対する酸化ストレスに及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響>
実験17において、アデノシンN1−オキシドが、皮膚の上皮細胞に対する紫外線の細胞障害性を低減し、炎症性サイトカインの産生を抑制していることが明らかになったので、本実験では紫外線照射による炎症反応の影響を受ける線維芽細胞に対する細胞障害に及ぼすアデノシンN1−オキシドの影響を調べる実験を行った。紫外線を受けた細胞は、過剰のフリーラジカルを生成し、周囲の細胞に酸化ストレスを与えることで、炎症反応はさらに増強されると考えられているので、細胞に障害を与える酸化ストレスとして過酸化水素を用いた。
<実験方法>
10%FCS含有D−MEM培地にて6×10個/mLの濃度に調製した正常ヒト繊維芽細胞(クラボウ株式会社販売)(以下、「NHDF細胞」という。)を、96穴マイクロプレート(ベクトンデッキンソン社販売)に100μL/ウエル添加し、COインキュベーター内において、37℃で72時間培養した。培養後、ハンクス液にて400μMの濃度に希釈した過酸化水素(和光純薬工業株式会社販売)を100μL/ウエル添加し(過酸化水素終濃度:200μM)、COインキュベーターにて、37℃で2時間培養した。なお過酸化水素無処理のところはハンクス液を100μL/ウエル添加した。培養後、培養上清を全量吸引除去し、10%FCS含有D−MEM培地にて、終濃度が表21に示す濃度になるように希釈したアデノシンN1−オキシドを100μL/ウエル添加して24時間培養した。その後、培養上清全量を吸引除去し、10%FCS含有D−MEM培地にて20倍希釈した市販の生細胞数計測用試薬溶液(同仁化学株式会社販売、商品名『Cell Counting kit−8』)を100μL/ウエル添加し、さらに、5容積%COインキュベーター内において、37℃で2時間反応させた。最後に、プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。培地のみを加えて培養したNHDF細胞の吸光度を100としたときの吸光度の相対値を求め、細胞の生存率(%)として表21に示す。
【0114】
【表21】

【0115】
表21から明らかなように、過酸化水素の添加により(実験群2)NHDF細胞は障害を受けその生存率は、無添加の場合(実験群1)に比べ30%にまで低下した。これに対し、過酸化水素添加後、アデノシンN1−オキシドを含む培地で培養した細胞では(実験群3乃至6)、アデノシンN1−オキシドの濃度依存的生存率が上昇し、25μM濃度では、その生存率が89%にまで回復した。また、この実験で用いたアデノシンN1−オキシドの濃度ではNHDF細胞の生存率への影響は認められなかった(実験群7乃至10)。この結果は、アデノシンN1−オキシドが、炎症に伴い発生する酸化ストレスから細胞を保護する作用を有し、炎症の増悪を抑制でき、紫外線による皮膚の炎症の予防剤、治療剤としてのみでなく、心筋梗塞や脳梗塞などの血管系の炎症反応の増悪に起因する種々の疾患の予防剤、治療剤として有用であることを物語っている。
【0116】
<実験19:マクロファージによる炎症性サイトカイン産生に及ぼす核酸、核酸誘導体の影響>
実験1乃至118において、アデノシンN1−オキシドが、アデノシンやイノシンなどに比べて、優れた抗炎症作用を示し、そのメカニズムの一つとして、炎症部位における細胞からのTNF−αをはじめとする炎症性サイトカインの産生の抑制にあることが判明した。そこで、本実験では、各種のアデニン誘導体の炎症性サイトカイン産生の抑制作用の強さについて検討をおこなった。比較のため、医薬部外品の抗炎症成分として汎用されるグリチルリチン類の炎症性サイトカイン類産生に及ぼす影響も検討した。
<試験方法及び被験試料>
実験2と同じ方法で調製したマウスマクロファージを用い、実験2と同様にLPS(2μg/mL)とマウスIFN−γ(10IU/mL)との共存下で、核酸誘導体としては、アデノシン類として用いたアデノシンN1−オキシド、アデニン、アデノシン、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド、5´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド、アデノシンN1−オキシド5´−リン酸(CAS No.4061−78−3)、アデノシン、アデノシン5´−リン酸、アデニンN1−オキシド(MP Biomedical社販売)、イノシン、グアニン類として用いたグアニン、グアノシン、グアノシン5´−リン酸、8−OH−デオキシグアニン、或いは8−OH−グアノシンを、各々PBSで、終濃度が0.05乃至200μMとなるように希釈して、50μL/ウエル添加し、5容積%COインキュベーターにて、37℃で、20時間培養した。また、アデニンの誘導体として臨床開発が進んでいるIB−MECA(1−Deoxy−1−[6−[[(3−iodophenyl−)methyl]amino]−9H−purin−9−yl]−N−methyl−β−D−ribofuranuronamide、シグマ社販売)及び医薬部外品の抗炎症成分として汎用されているグリチルリチン類として用いたグリチルリチン酸ジカリウムと18β−グリチルレチン酸は、10%FCS含有RPMI−1640培地を用い、終濃度が0.05乃至200μMとなるように希釈して、50μL/ウエル添加し、5容積%COインキュベーターにて、37℃で20時間培養した。培養終了後、各ウエルの培養上清を回収し、ELISA法を用いて、サイトカイン及びプラスタグランジンE2(以下、「PGE2」という)を測定した結果に基づき、LPSとマウスIFN−γ共存下で、核酸誘導体を添加せずに培養したときの各サイトカイン産生量を50%抑制する核誘導体或いは抗炎症剤の濃度(以下、「IC50濃度」という。)を求め表22に示す。なお、IC50の決定に用いた核酸誘導体の濃度は、実験18で用いたと同じ市販の生細胞数計測用試薬溶液による測定で求めた、LPSとマウスIFN−γ共存下で、核酸誘導体を添加せずに培養したときの細胞の生存率を100%としたとき、生存率が90%を下回らない場合を採用した。結果を表22に示す。
【0117】
【表22】

【0118】
表22から明らかなように、LPSとマウスIFN−γで刺激したマウス腹腔内マクロファージからのTNF−α産生に対する抑制は、実験に用いた核酸誘導体中ではアデノシンN1−オキシド及びIB−MECAが最も低濃度でIC50を示し、次いで、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸がこれに次ぐ強いTNF−α産生抑制効果を示した。これら以外のアデニン誘導体やグアニン類やグリチルリチン類は弱いTNF−α産生抑制しか示さなかった。また、アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸は、IL−6の産生も強く抑制したのに対し、IB−MECAではIL−6の産生抑制は認められなかった。さらに、アデノシンN1−オキシド及び3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドは、炎症性メディエーターであるPGE2及びIL−12の産生に対し抑制作用を示した。この結果は、アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸が、炎症性疾患の予防剤、治療剤として有用であることを示しており、アデノシンN1−オキシドがより好ましいことを示している。また、アデニン類のなかでも、アデニンやアデノシン、アデノシン5´−リン酸、アデニンN1−オキシドなどは弱い、炎症性サイトカイン産生抑制作用しか有していないことから、アデノシンN1−オキシド部分に強い抗炎症作用があることを示している。ちなみに、5´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドの方が、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドよりも作用効果が弱い理由は、生体内に存在するα−グルコシルアデノシンN1−オキシドをアデノシンN1−オキシドとグルコースに分解するグルコシダーゼの作用を受けにくいためと推測される。
【0119】
<実験20:急性毒性試験>
アデノシンN1−オキシド2g、3´−α−グルコシルN1−オキシド2g又はアデノシンN1−オキシド5´−リン酸2gを、各々100mLのPBSに溶解し、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、6週齢、雌、平均体重20g)10匹の腹腔内に、1mL/匹投与し、その経過を24時間観察した。対照として、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、6週齢、雌、平均体重20g)10匹の腹腔内に、PBSのみを1mL/匹投与し、その経過を24時間観察した。アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルN1−オキシド、アデノシンN1−オキシド5´−リン酸又はPBSのみ投与24時間後、血液及び尿を採取し、腎機能及び肝機能の指標となる臨床検査を行った。アデノシンN1−オキシド又はその誘導体を投与したマウスは、何れも投与直後から観察終了まで、外観的な変化は認められず、腎機能及び肝機能の指標となる臨床検査値についても、対照のマウスと差は認められなかった。この結果は、アデノシンN1−オキシド又はその誘導体のLD50は1,000mg/kg以上でありヒトに投与しても安全性が高いことを示している。なお、アデノシンN1−オキシドのPBSへの溶解度は20mg/mL程度のため、マウスにアデノシンN1−オキシドを1,000mg/kg以上投与するためには、その溶液の投与量が1mLを越え、投与量が多くなり過ぎるためマウスに負荷がかかると判断し、1,000mg/kg以上の投与試験は実施しなかった。
【0120】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。ちなみに、以下の実施例では何れも実験1に記載の方法に準じ株式会社林原生物化学研究所で製造したアデノシンN1−オキシド(アデノシンN1−オキシド純度約99.5%、パイロジェンフリー)を用いた。
【実施例1】
【0121】
<注射用剤>
アデノシンN1−オキシド3.5gを適量の注射用精製水に溶解した。このアデノシンN1−オキシド溶液に塩化カルシウム0.1g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム3.0g及び乳酸ナトリウム1.55g、α,α−トレハロース25gを溶解し、注射用水を加え全量を500mLとした。これを、濾過滅菌後100mLずつプラスチックバッグに充填、密封し、パイロジェンフリーの注射用の炎症性疾患治療剤を調製した。本品は敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として利用することができる。また、本品はTNF−α産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIL−10産生増強剤として用いてもよい。
【0122】
上記で調製した注射剤の安定性を評価した。対照としてアデノシンN1−オキシドに換えてアデノシン3.5gを用いた以外は上記と同様に調製した標品を使用した。すなわち、上記で調製した製剤を、ヒト血清不含有D−MEM培地(実験群1)又は10%(v/v)ヒト血清含有D−MEM培地(実験群2)を用い、アデノシンN1−オキシドの濃度が100μMとなるように溶解し、37℃で7又は24時間インキュベーションした。インキュベーション終了後、両培地中に残存するアデノシンN1−オキシド量を下記条件によるHPLCによりピーク面積を測定し、血清を含まない培地で希釈した直後(0時間)のアデノシンN1−オキシドのピーク面積を100とした相対値(%)を求め、アデノシンN1−オキシドの残存率として表23に示す。対照標品も同様にヒト血清不含有D−MEM培地(実験群3)又は10%(v/v)ヒト血清含有D−MEM培地(実験群4)を用いて、アデノシンの濃度が100μMとなるように溶解し、37℃で24時間インキュベーションした。インキュベーション終了後の培地中に残存するアデノシン量を下記条件によるHPLCにより測定した。HPLCの溶出ピーク面積を測定し、血清を含まない培地で希釈した直後(0時間)のアデノシンのピーク面積を100とした相対値(%)を求め、アデノシンN1−オキシド或いはアデノシンの残存率として表23に併せて示す。なお、アデノシンについては、インキュベーション開始7時間で培地の一部を採取し、含まれるアデノシン量を測定した。結果を表23に併せて示す。
<HPLC条件>
HPLC装置:SHIMADZU UV−VIS DETECTOR SPD−10AV
LC−10AT(ポンプ)
C−R8A(記録計)
SIL−20AC(オートサンプラー)
分析用カラム:ODSカラム(YMC社製、製品名『YMC−Pack ODS−A』
4.6×250mm)
移動相:0.1%酢酸水溶液:メタノール=96:4
検出感度(AUFS):0.01
検出波長:260 nm
流速:1mL/分
測定用サンプル注入量:20μL
カラム温度:40℃
【0123】
【表23】

【0124】
表23から明らかなように、アデノシン(AN)及びアデノシンN1−オキシド(ANO)はヒト血清の非存在下では24時間インキュベーション後も100%残存していた(実験群1及び実験群3)。これに対し、アデノシンはヒト血清の存在下では7時間のインキュベーションにより完全に消失する(実験群4)のに対し、アデノシンN1−オキシドはヒト血清の存在下で24時間インキュベート後も100%残存していた(実験群2)。この結果は、ヒト血液中では速やかに分解されるアデノシン(例えば、『The European Journal of Pharmacology』、93巻、21頁(1983年)参照)とは異なり、アデノシンN1−オキシドはヒトに投与した場合、血清中でも分解を受けにくく長期間炎症性疾患治療剤としての効果を発揮できることを示している。
【実施例2】
【0125】
<注射用剤>
アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸を、各々2gPBS100mLに溶解した。これら、各々を無菌濾過後5mLずつガラス製バイアル瓶に充填し、凍結乾燥により粉末状にし、密封することにより用時溶解型のパイロジェンフリーの注射用炎症性疾患治療剤とした。本品は敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として利用することができる。また、本品はTNF−α産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIL−10産生増強剤として用いてもよい。
【0126】
上記で調製した製剤の安全性を評価した。すなわち、上記で調製した製剤各々に注射用精製水5mLを加え溶解し、BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社販売、9週齢、雌)各10匹に、0.3mL/匹で、1日1回、毎日7日間静脈内投与した。投与開始から2週間、毎日体重を測定しながら、経過を観察したところ、10匹のBALB/cマウスに、PBS溶液を、0.3mL/匹で、1日1回、毎日7日間静脈内投与し、経過を観察した場合と比べて、何れの製剤を投与した場合にも、体重に有意な変化は認められず、他に外観的な変化は認められなかった。さらに、投与開始2週間後に血液と尿を採取し、腎機能及び肝機能の指標となる臨床検査値の測定を行ったところPBSのみを投与した場合と差は認められなかった。この結果は、アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド又はアデノシンN1−オキシド5´−リン酸を含有する製剤は、何れもヒトに投与しても安全性が高いことを示している。
【実施例3】
【0127】
<注射用剤>
アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸を、各々2g注射用生理食塩水100mLに溶解し、これを濾過滅菌後、凍結乾燥し粉末化した。これらを、各々下室に精製水100mLが充填されたプラスチック製複室容器の上室に充填しパイロジェンフリーの炎症性疾患治療剤を調製した。本品は敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として利用することができる。また、本品はTNF−α産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIL−10産生増強剤として用いてもよい。
【0128】
上記で調製した各々の製剤の溶血性の有無を評価した。すなわち、BALB/cマウスの心臓からヘパリン存在下で採血した血液を、PBSで3回洗浄後、PBSに懸濁して5×1010個/mLの赤血球懸濁液とした。この赤血球懸濁液と上記で調製した各々の製剤を下室の生理食塩水に溶解した溶液とを等量混合し、37℃で30分間処理後、遠心し、上清の580nmにおける吸光度を測定した。同じ赤血球懸濁液と注射用生理食塩水とを等量混合し、37℃で30分間処理後、遠心し、上清の580nmにおける吸光度を測定し、両者を比較した。両者の吸光度に差は認められなかったことから、これらの製剤は何れも赤血球溶血作用を示さないと判断した。
【実施例4】
【0129】
<注射用剤>
アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸の何れか2gに、各々塩化カルシウム0.02g、塩化カリウム0.03g及び塩化ナトリウム0.6g、α,α−トレハロース1gを注射用水85mLに溶解し、注射用水を加えて全量を100mLとした。これらを、濾過滅菌後プラスチックバッグに充填、密封することによりパイロジェンフリーの炎症性疾患治療剤を調製した。本品は炎症性疾患治療剤を調製した。本品は敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として利用することができる。また、本品はTNF−α産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIL−10産生増強剤として用いてもよい。
【実施例5】
【0130】
<注射用剤>
アデノシンN1−オキシド3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸を、各々2gリン酸緩衝生理食塩水100mLに溶解した。無菌濾過後凍結乾燥により乾燥して粉末状にし、これらを、各々2mLずつガラス製バイアル瓶に充填、密封することにより用時溶解型の注射用炎症性疾患治療剤を調製した。本品は敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として利用することができる。また、本品はTNF−α産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIL−10産生増強剤として用いてもよい。
【実施例6】
【0131】
<経口用剤>
アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸の何れか10質量部と、α,α−トレハロース90質量部、ステアリン酸マグネシウム0.2質量部とを混合し、常法により、各々0.5gずつ打錠して、経口用炎症性疾患治療剤を調製した。本品は敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として利用することができる。また、本品はTNF−α産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIL−10産生増強剤として用いてもよい。
【実施例7】
【0132】
<経口用剤>
アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド及びアデノシンN1−オキシド5´−リン酸の何れか1質量部と、無水結晶マルトース(林原商事販売、商品名「ファイントース」)30質量部、硫酸マグネシウム0.4質量部とを均一になるまで撹拌混合した。これらの混合物を、各々常法により0.2gずつ打錠し、経口摂取用炎症性疾患治療剤を調製した。本品は、敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として利用することができる。また、本品はTNF−α産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIL−10産生増強剤として用いてもよい。
【実施例8】
【0133】
<粉末剤>
精製水20質量部に対し、アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド又はアデノシンN1−オキシド5´−リン酸の何れか1質量部に、各々α−グルコシルヘスペリジン又はα−グルコシルルチン2質量部、シクロニゲロシルニゲロース(環状四糖:株式会社林原生物化学研究所製造)1質量部を添加し、各々撹拌溶解した後、常法により噴霧乾燥することにより3種類の抗炎症性疾患治療剤を調製した。本品は、そのままで、或いは、他の食品、化粧品、医薬部外品及び・又は医薬品用の経口摂取可能な添加剤等を加えた組成物の形態で経口摂取することにより、敗血症、慢性関節リウマチ、ARDS、肝炎、炎症性腸疾患等の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として利用することができる。また、本品はTNF−α産生抑制剤、IL−6産生抑制剤、IL−12産生抑制剤或いはIL−10産生増強剤として用いてもよい。また、本品を、水に溶解するか、化粧品や医薬品用の添加剤を加えた皮膚外用剤の形態で皮膚に塗布することにより、アトピー性皮膚炎や日やけにより皮膚炎をはじめとする皮膚の炎症を改善し、皮膚の状態を良好に維持するとともに、皮膚へのメラニンの沈着を軽減することができる。
【0134】
<配合例1:炎症性疾患治療のクリーム形態の組成物への配合例>
配合成分 (質量%)
(1)プロピレングリコール 5
(2)ミツロウ 5
(3)セチルアルコール 4
(4)還元ラノリン 5
(5)スクワラン 35
(6)ステアリン酸グリセライド 2
(7)ポリオキシエチレン(20モル)
ソルビタンモノラウリン酸エステル 2
(8)アデノシンN1−オキシド又は3´−α−グルコシル
アデノシンN1−オキシド 1
(9)防腐剤 適量
(10)香料 適量
精製水を加え全量を100質量%とする。
【0135】
アデノシンN1−オキシドを含有せしめた皮膚改善剤の有効性を確認するため、上記配合組成のクリームを用い、ボランティアによる試験を実施した。すなわち、問診により慢性的な肌荒れに悩む30乃至50歳代の女性40名を被験者として選択し、無作為に10名ずつ4群に分けた。1群10名には上記クリーム(アデノシンN1−オキシド配合:クリーム1)を、肌荒れ部分に、1日3回(朝、昼、晩)、1ヶ月間毎日塗布させた。1群10名には上記クリーム(3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド配合:クリーム2)を、肌荒れ部分に、1日3回(朝、昼、晩)、1ヶ月間毎日塗布させた。1群10名にはアデノシンN1−オキシド又は3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドに代えて1質量%のアデノシンを添加した以外は上記と同じ配合のクリーム(アデノシン配合:クリーム3)を、肌荒れ部分に、1日3回(朝、昼、晩)、1ヶ月間毎日塗布させた。残りの1群10名には、本発明の皮膚改善剤又はアデノシンを含まない以外は上記と同じ配合のクリーム(クリーム4)を、肌荒れ部分に、1日3回(朝、昼、晩)、1ヶ月間毎日塗布させた。下記方法により、皮膚の水分量を測定すると共に、シワの状態をシワスコアとして評価し、肌荒れの状態を判定した。なお、この方法によれば、肌荒れの状態は、被験試料を塗布する前に比べ、塗布後の皮膚の水分量が高くなり、シワスコアが低くなるほど改善したことを意味する。
<肌の水分量の測定方法>
クリームの塗前日及び布終了翌日に、クリーム塗布部位の皮膚の水分含量及びシワスコアを測定した。皮膚の水分含量は水分含量測定装置(IBS社販売、商品名『SKICON−200EX』)を用いて測定し、各クリームを塗布した被験者10名の水分含量の平均値を表24に示す。
<シワスコアの判定方法>
シワスコアの判定は、各被験者につき、判定者5名の目視により、化粧品機能評価ガイドライン(『日本香粧品学会誌』、30巻、4号、316乃至332頁(2006年)参照)に基づき、表25に示す8段階のシワスコア(0乃至7グレード)で評価した。各被験者に対する判定者5名の平均値を、その被験者のシワスコアとし、各クリームを塗布した被験者10名のシワスコアの平均値を表24に併せて示す。
【0136】
【表24】

【0137】
【表25】

【0138】
表24から明らかなようにアデノシンN1−オキシドを配合したクリーム(クリーム1)及び、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドを配合したクリーム(クリーム2)を塗布した場合には、塗布前と比較し、塗布後の皮膚の水分量及びシワスコアが有意に改善、肌荒れが改善した。改善効果の強さの点では、アデノシンN1−オキシドを配合したクリームの方が強い傾向にあった。これに対し、アデノシンN1−オキシド又は3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドに代えてアデノシンを配合したクリーム(クリーム3)、及び、アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシド或いはアデノシンを配合していないクリーム(クリーム4)では、皮膚の水分量及びシワスコアに塗布の後も、塗布前と比較し有意の改善は認められず、肌荒れは改善しなかった。アデノシンN1−オキシドを配合したクリーム(クリーム1)及び、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドを配合したクリーム(クリーム2)を塗布した期間中及び試験終了後に、被験者にクリーム塗布に起因する異常は何ら認められなかったので、アデノシンN1−オキシドは安全性に優れていると判断した。
【0139】
さらに、上記クリームを用い、日焼け(紫外線)により誘発される炎症及びメラニン生成に及ぼす影響をボランティアにより評価した。
【0140】
<被験者>
年齢が22乃至45歳の男女性合計20名(男性10名、女10名)を対象とした。被験者は、予め、問診により、夏、戸外で30乃至45分程度日光を浴びたとき、非常に日焼けし易い(赤くなる)が、決して黒くならないヒト、及び、決して日焼けせず(赤くならない)、非常に黒くなるヒトは除外した。
<紫外線照射装置>
光源装置(三和メディカル社販売、NS−8F型)
紫外線蛍光灯(東芝社販売、FL−20SE) 5本
【0141】
<最小紅斑線量の測定>
各被験者の右上腕内側部のシミや傷がなく、ほぼ均一な皮膚色をしていることを予め確認した部位に、25、50、75、100、125及び150mJ/cmの何れかの紫外線(UVB)を、各々1×1cmの範囲に照射した。照射24時間後に照射部位を目視にて観察し、紅斑の確認された紫外線の最小の量の照射量をもって被験者の最小紅斑線量とした。
<炎反応症の程度の測定>
各被験者の紫外線照射部位の紅斑が、目視及びデジタルカメラの画像により確認できなくなる迄及び色素沈着が始まる迄の期間を記録した。
<メラニンインデックス測定>
分光測色計(コニカミノルタ社販売、CM−700d)によりメラニンインデックスを測定した。
【0142】
<試験方法>
被験者の左上腕内側部にシミや傷がないことを確認した。試験開始日に、各被験者の被験部位4箇所に、それぞれ最小紅斑線量の1.5倍量の紫外線(UVB)を照射した。照射部位は各被験試料塗布部位につき1×1cmの範囲とした。最初のUVB照射直後より、1日3回(朝、昼、夜)、毎日28日間、クリーム1乃至4の何れかを、それぞれ約0.3g/被験試料/回を指先に取り、被験部位に塗布した。この際、クリームが他のクリームと混ざり合わないように注意した。試験期間中、クリーム塗布後30分間は塗布部位を洗わないようにした。日常の生活では被験試料塗布部位やその周辺を日光などの強い紫外線に暴露しないようにした。なお、試験はダブルブラインドで実施した。
【0143】
<評価方法>
紫外線照射開始日から照射開始7日目まで、毎日、被験部位の目視による観察及びデジタルカメラによる撮影を行い、紫外線照射部位の紅斑が認められなくなった日を確認し、各クリームにつき、紅斑が確認できなくなった日の平均値を求め表26に示す。また、紫外線照射24時間後に、各クリームを塗布した部位の紅斑の程度が、クリーム3を塗布した部位と比較して、強い(2)、差なし(0)、弱い(−2)の3段階でスコア化し、各クリームにつき、スコアを合計し、平均を求めた。目視による効果の判定は5名で実施し、そのスコアの平均を求めた。確認できなった日の平均値を求め表26に併せて示す。さらに、紫外線照射開始日から28日目に、紫外線照射部位の目視による判定とメラニンインデックスの測定を行い、色素沈着の程度を確認した。各クリームを塗布した部位の20名の結果の平均を表26に併せて示す。なお、目視による色素沈着の程度は、クリーム塗布部位に比べ被験試料1、2又は3塗布部位の色素沈着が、明らかに多い(−2)、少し多い(−1)、差なし(0)、少し少ない(1)、明らかに少ない(2)の5段階でスコア化し、各クリームにつき、スコアを合計し、平均を求めた。目視による効果の判定は5名で実施し、そのスコアの平均を求めた。また、メラニンインデックスはクリーム4の測定値を100(%)とし、他のクリーム塗布部位の相対値を求め、その平均値を求めた。本試験では目視によるスコアが高いほど色素沈着抑制(メラニン生成抑制)効果が高く、メラニンインデックスの割合(%)が低いほど色素沈着抑制(メラニン生成抑制)効果が高いことを意味する。
【0144】
【表26】

【0145】
表26に示すように、アデノシンN1−オキシドを含有するクリーム(クリーム1)及び、3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドを配合したクリーム(クリーム2)を塗布した部位は、これら化合物を含まないクリーム基剤(クリーム4)を塗布した部位に比較し、目視によるスコア及びメラニンインデックスの何れでみても、色素沈着が顕著に抑制された。抑制の強さの点では、アデノシンN1−オキシドを配合したクリームの方が強い傾向にあった。アデノシンを含有するクリーム(クリーム3)を塗布した部位は、クリーム4を塗布した部位と色素沈着の程度に差は認められなかった。この結果、及び、前記水分量及びシワの結果は、アデノシンN1−オキシド又は3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドが皮膚の状態を改善する作用に優れていることを物語っている。また、上記実験の結果と併せると、アデノシンN1−オキシド又は3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドによる斯かる皮膚の状態の改善効果は、老化や紫外線照射などにより発生する皮膚の炎症を、効果的に抑制する作用によるものと推測される。さらに、被験者の被験試料塗布部位に、紫外線照射による紅斑及び色素沈着が認められた以外、発赤や湿疹等の異常の発生は認められず、また、被験者の健康状態にも何ら問題は認められなかったことから、アデノシンN1−オキシド又は3´−α−グルコシルアデノシンN1−オキシドは、皮膚に塗布しても安全性に問題はないと推測される。
【0146】
<配合例2:本発明の炎症性疾患治療剤の溶液形態の組成物への配合例>
配合成分 (質量%)
(1)グリセリン 3
(2)プロピレングリコール 4
(3)エタノール 8
(4)ポリオキシエチレン(20モル)オレインアルコール 0.5
(5)アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシル
アデノシンN1−オキシド又はアデノシンN1−
オキシド5´−リン酸の何れか1種 1
又は実施例5乃至8に記載の皮膚改善剤の何れか1種 3
(6)藍草抽出液 2
(7)クエン酸 0.01
(8)クエン酸ナトリウム 0.1
(9)香料 0.05
精製水を加え全量を100質量%とする。
【0147】
本配合例の組成物は、その典型的な使用態様により、皮膚の炎症を改善し、皮膚の状態を良好に維持することができる。また、本配合例の皮膚外用剤は、美白効果にも優れている。
【0148】
<配合例3:本発明の炎症性疾患治療剤のパック形態の皮膚外用剤への配合例>
配合成分 (質量%)
(1)ポリビニルアルコール 15
(2)ポリエチレングリコール 3
(3)プロピレングリコール 7
(4)エタノール 10
(5)ローヤルゼリーエキス 1
(6)アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシル
アデノシンN1−オキシド又はアデノシンN1−
オキシド5´−リン酸の何れか1種 0.5
(7)防腐剤 適量
(8)香料 適量
精製水を加え全量を100質量%とする。
【0149】
本配合例の組成物は、その典型的な使用態様により、皮膚の炎症を改善し、皮膚の状態を良好に維持することができる。また、本配合例の皮膚外用剤は、美白効果にも優れている。
【0150】
<配合例4:本発明の炎症性疾患治療剤の練り歯磨き形態の皮膚外用剤への配合例>
配合成分 (質量%)
(1)炭酸カルシウム 50
(2)グリセリン 20
(3)カルボオキシメチルセルロース 2
(4)ラウリル硫酸ナトリウム 2
(5)アデノシンN1−オキシド、3´−α−グルコシル
アデノシンN1−オキシド又はアデノシンN1−
オキシド5´−リン酸の何れか1種 1
(6)サッカリン 0.1
(7)クロルヘキシジン 0.01
(8)香料 適量
精製水を加え全量を100質量%とする。
【0151】
本配合例の組成物は、その典型的な使用態様により、歯周病などによる歯茎や口腔内の炎症を改善し、口腔内の状態を良好に維持することができる。また、本配合例の皮膚外用剤は、歯茎のくすみ改善効果にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明のアデノシンN1−オキシド類を有効成分として含有する炎症性疾患治療剤は、敗血症、肝炎、炎症性腸疾患、溶血性尿毒症、膵炎、腎炎、皮膚炎をはじめとする各種の炎症性疾患の予防剤又は治療剤として、医薬品、食品、化粧品、医薬部外品の分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてアデノシンN−1オキシド又はその誘導体を含み、前記有効成分がアデノシンN−1オキシド、5´−α−グルコシル−アデノシンN−1オキシド、3´−α−グルコシル−アデノシンN−1オキシド、アデノシンN−1オキシド5´−リン酸、アデノシンN−1オキシド5´−二リン酸及びアデノシンN−1オキシド5´−三リン酸から選ばれる1種又は2種以上からなる敗血症治療剤。
【請求項2】
さらに水性媒体、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、希釈剤から選ばれる成分を含んでなる請求項1記載の敗血症治療剤。
【請求項3】
容器に封入した液状、粉状又は顆粒状の形態にある請求項1又は2記載の敗血症治療剤。
【請求項4】
1日当たりの投与量がアデノシンN−1オキシドとして1乃至500mg/kg−体重である請求項1乃至3のいずれかに記載の敗血症治療剤。
【請求項5】
注射剤としての請求項1乃至4のいずれかに記載の敗血症治療剤。


【公開番号】特開2012−211191(P2012−211191A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−169724(P2012−169724)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【分割の表示】特願2012−520494(P2012−520494)の分割
【原出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(397077760)株式会社林原 (10)
【Fターム(参考)】