説明

アトピー性皮膚炎の治療のためのラクトバチルス・ヘルベティカス菌組成物

ヒトにおけるアトピー性皮膚炎の治療のためのラクトバチルス・ヘルベティカス菌組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明はヒトのアトピー性皮膚炎の治療のためのラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)菌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
技術背景及び先行技術:
アトピー性皮膚炎(AD)は工業先進国における多数の子供及び大人に影響する慢性炎症性皮癬皮膚疾患である。
【0003】
ADは抗ヒスタミン、局所的又は全身性ステロイド剤の使用などといった様々な方法で治療される。例えば、“Allergy 2006:61:969−987”中の2006年レビュー論文を参照のこと。
【0004】
ADの如き種々のアレルギー問題の治療のために種々の乳酸菌(LAB)を使用することもまた示されている。
【0005】
US2006/0088513A1はこれに関する技術の要約を提供する。
【0006】
US2006/0088513A1の明細書の関連部分を以下に説明する。
【0007】
L.ラムノサス(L. rhamnosus)GG株が抗アレルギー性乳酸菌であることは公知であり、そしてそれを妊婦に投与することにより、その子供のアトピー性皮膚炎の発症が抑制されることが報告される。
【0008】
抗アレルギー薬としての乳酸菌の使用はいくつかの先行技術文書中に開示されている。開示の例として、アレルギー性気管支喘息、慢性アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎等の如きI型アレルギーの阻害剤としてのL.アシドフィルス(L. acidophilus)、L.ブレビス(L. brevis)、L.ブッフネル(L. buchnerii)、L.カゼイ(L. casei)及びラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus leuteri)の如き乳酸菌の使用が挙げられうる。
【0009】
最近、特別な食物/飲料製品によりアレルギーを抑制しようとする方向に向けて多くの研究が行われている。その結果、抗アレルギー効果がシソ油、魚油、特定の茶ポリフェノール等の如きさまざまな食物又は飲料の特別な成分に関して発表/公開されている。いくつかの乳酸菌発酵ヨーグルト又は乳酸菌飲料は抗アレルギー効果を有すると言われる食物又は飲料として実際に使用されている。
【0010】
US2006/0088513A1中の如き先行技術において、LABは好ましくは陽性の対応の抗アレルギー効果を得るために生きた/生存可能なLAB細胞として投与されるべきことが一般に記載されている。
【0011】
しかしながら、WO02/28402(Nestle)中で、LABは死んだ/不活性化された細胞としても又はいわゆる[関連の代謝産物(単数又は複数)を含む]LAB「培養上清」としてもまた与えられることができ、それでも例えば、アトピー性皮膚炎の如き皮膚関連アレルギー反応のいくらかの改善を与えることが示されている。
【0012】
US2006/0088513A1の節[0006]中で説明されるように、全てのLABが関連の抗アレルギー効果を有すると言うことは適切でなく、及びそれゆえ新規有用LAB株を同定する/選択することはやはり重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明の要約:
本発明により解決されるべき問題はアトピー性皮膚炎(AD)の治療のための食物/飼料製品又は医薬を作出するために使用されうる代替の乳酸菌(LAB)を同定することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記解決は本発明者がWO2004/015125及びWO2006/125441(両方とも出願人としてChr. Hansen A/Sを有する)中に示される登録/入手番号DSM 14998を有する特別なラクトバチルス・ヘルベティカス菌をさらに分析したことに基づく。登録番号DSM 14998を有するこのLABは本明細書中で「Cardi−04(商標)」又は「CHCC5951」とも呼ばれうる。
【0015】
WO2004/015125及びWO2006/125441中で、Cardi−04(商標)は優れた血圧降下特性を有することが示されるが、Cardi−04(商標)のアトピー性皮膚炎の効果については示されておらず、何も示唆されてもいない。
【発明の効果】
【0016】
本明細書中の実施例1中に見られうるように、本発明者はヒト成人のアトピー性皮膚炎(AD)が、Cardi−04(商標)発酵乳組成物を経口で摂取した後に事実上消失したことを同定した。実施例1中に見られうるように、上記人物は長期間ADを患っており、そしてより初期には全ての種類の医薬、天然薬草又は種々のローションでADの治療を試みた。
【0017】
実施例1において、Cardi−04(商標)で発酵された乳が使用された。理論に限定されることなく、いくつかのCardi−04(商標)代謝産物/ペプチドは抗AD効果を有すると信じられている。上記ペプチドは、例えば、LABのタンパク質分解活性による乳中のカゼインからのペプチドの遊離に由来するペプチドでありうる。
【0018】
しかしながら、Cardi−04(商標)は優れたAD治療を得るためにヒトにそのまま、すなわち、生きた/生存可能な細胞として投与されることができないと信じられる理由は具体的にない。上記に示されるように、ADを治療するために生きた/生存可能なLABを与えることは先行技術中に広く示されている。
【0019】
上記に示されるように、Cardi−04(商標)はラクトバチルス・ヘルベティカス菌である。
【0020】
したがって、本発明の第一の局面はヒトにおけるアトピー性皮膚炎(AD)の治療のための製品の製造のためのラクトバチルス・ヘルベティカス菌の使用に関し、ここで上記製品は:
(i):生きた/生存可能な又は死んだラクトバチルス・ヘルベティカス菌;
(ii):ラクトバチルス・ヘルベティカス菌発酵乳;又は
(iii):(i)及び(ii)両方の混合物
を含む。
定義:
本発明の詳細な態様の議論の前に、本発明の主要な局面に関連する特定の用語の定義が提供される。
【0021】
用語「アトピー性皮膚炎」は当業者に周知の用語であり、そして医師はある人物がアトピー性皮膚炎を患うかどうかを同定するための診断に精通している。MedlinePlus(NIH,USA)の周知のMedical Encyclopediaによると、アトピー性皮膚炎はアレルゲン又は刺激物との接触、日光への曝露により又は血行不良、ときにはストレスにより引き起こされる皮膚の炎症反応に関連する。アトピー性皮膚炎の例はアトピー性湿疹、赤みを発生させるかゆい発疹、水疱及び鱗屑状剥離である。
【0022】
発疹をかくことは炎症を広げ;感染を引き起こし、及び傷跡を残しうる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の態様は例示のためにのみ、以下に示される。
本発明の詳細な開示:
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)
特に好ましいラクトバチルス・ヘルベティカス株CHCC5951/Cardi−04(商標)のサンプルを2002年5月15日の寄託日付で入手番号DSM 14998の下でDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen GmbH, Mascheroder Weg 1b, 38124 Braunschweig, Germany)に寄託した。上記寄託は特許手順の目的のための微生物の寄託の国際認識に関するブダペスト条約の条件下で行われた。
【0024】
したがって、好ましい態様において、上記ラクトバチルス・ヘルベティカス菌は登録番号DSM 14998のラクトバチルス・ヘルベティカス菌である。
製品
上記製品は経口又は局所適用のためのどんな食物若しくは医薬製品又は化粧品でもありうる。食物又は医薬製品の例は乳、ヨーグルト、カード(凝乳)、チーズ、発酵乳、乳性発酵製品、アイスクリーム、発酵シリアル性製品、乳性粉末、幼児用調合乳、ペットフード、錠剤、液体菌懸濁物、乾燥経口サプリメント、湿潤経口サプリメント、乾燥管給餌又は湿潤管給餌である。化粧品については、ローション、シャンプー、保湿クリームの如きクリーム、日焼け止め、日焼け後クリーム又はアンチエイジングクリーム、及び/又は軟膏が構想され、ここで上記菌は生きた形態で、半活性又は不活性化された形態で、例えば、凍結乾燥粉末として含まれうる。
生きた/生存可能な又は死んだラクトバチルス・ヘルベティカス菌を含む−製品
上記のとおり、上記製品は第一の局面の項目(i)にしたがって生きた/生存可能な又は死んだラクトバチルス・ヘルベティカス菌を含む製品でありうる。
【0025】
当業者に知られるように(例えば、WO02/28402を参照のこと)、菌として個々のヒトに投与されるときプロバイオティックの(共生の)バランス活性は用量依存的であろう。したがって、上記菌が生きた状態でも又は死んだ状態であろうとも、製品1g当り105〜1012もの多くの菌を含むことが構想される。好ましくは、それらは生きている/生存可能である。
ラクトバチルス・ヘルベティカス菌発酵乳を含む−製品
上記のとおり、上記製品は第一の局面の項目(ii)にしたがってラクトバチルス・ヘルベティカス菌発酵乳を含む製品でありうる。
【0026】
当業者は乳のLAB発酵を作出する方法を知っている。引用は例えば、LAB乳発酵を詳細に示すWO2004/015125を参照のこと。
【0027】
本明細書中に示される乳酸菌の使用は発酵後に直接的に優れたAD減少特性を有する有用な量のペプチド又は他の活性成分を提供する。その結果、上記発酵乳から上記ペプチド又は他の活性成分をさらに精製する又はそれらの濃度を上げることが必要ない場合がある。上記発酵食物乳は例えば、凍結乾燥形態で、直接的に包装され、及び例えば、食品、好ましくは機能性食品又は食品添加物として市場に提供されうる。
【0028】
さらに、凍結乾燥された発酵乳は中性乳中に懸濁され、そしてそれにより好適な食品を与えうる。上記凍結乾燥された発酵乳はそれゆえ好適な食品添加製品としてみなされうる。
【0029】
用語「機能性食品」は本明細書中で、消費者がある方法でそれがAD減少特性に関連する有用な機能を有することを知らされる食品をいう。
【0030】
いくつかの状況において、上記発酵食物乳から上記ペプチド又は他の活性成分の次なる精製を行うことは好まれうる。これは例えば、上記ペプチド又は他の活性成分が非常に高い濃度のAD減少ペプチド又は他の活性成分を必要とする医薬錠剤の如き医薬において使用される予定であるときでありうる。したがって、本発明の態様において、上記製品は医薬である。
【0031】
本発明の態様は、上記発酵乳をAD減少特性を有する上記ペプチド又は他の活性成分を精製する又はそれらの濃度を上げるようにさらに処理することが本明細書中に示される使用に関連する。
【0032】
濃度上昇を作出する好適な方法はAD減少特性を有するペプチド又は他の活性成分を含む上記発酵乳を遠心分離し、そして上記ペプチド又は他の活性成分を含む生じた上清を回収することである。
【0033】
乳を発酵させるとき、そのような上清組成物はホエー(乳清)と呼ばれる。実施例1中に見られうるように、ホエーは優れたAD減少特性を有する製品である。したがって、好ましい態様において、上記製品/組成物はホエーである。
【0034】
上記遠心分離は好ましくは例えば、2,000〜20,000rpmで1〜20分間行われうる。上記遠心分離はまた遠心機内で行われる。
【0035】
生じた上清は心拍減少特性を有する上記ペプチド又は他の活性成分の内容量が増加したサンプルを得るために、逆相樹脂でのさらなる精製処理にかけられうる。逆相樹脂での精製処理は逆相樹脂での上記ペプチド又は他の活性成分の吸着及び溶離により、及び/又は逆相クロマトグラフィーにより行われ、それにより上記ペプチド又は他の活性成分の純度を増加させうる。
【0036】
本明細書中の実施例1中に示されるように、ヒト成人のアトピー性皮膚炎(AD)はCardi−04(商標)発酵乳組成物を摂取した後事実上消失した。実施例1中で説明されるように、上記発酵乳製品を上記成人男性に150ml/日の容量で8週間与えた。
【0037】
当業者に知られるように、所望される医薬効果を得るための医薬として関連する用量は人により変化し、また治療されるべき実際の疾患の重篤さにしたがって変化しうる。
【0038】
したがって、本発明の態様において、上記発酵乳は5ml/日〜1000ml/日、より好ましくは25ml/日〜500ml/日の容量でヒトに与えられる。好ましくは、それは1日〜1年、より好ましくは1週間〜25週間の期間与えられる。
ヒト
上記ヒトは子供又は大人でありうる。好ましい態様において、それは大人である。
実施例:
実施例1:発酵乳でADについて治療されるヒト
乳を発酵させるために使用されたラクトバチルス・ヘルベティカス菌はCardi−04(商標)であった。上記発酵乳及びホエーを得るための次なる遠心分離はWO2004/015125の実施例中に示されるようになされた。
【0039】
この発酵乳製品をある成人男性に150ml/日の容量で8週間与えた。
結果は本特許出願の発明者への手紙中で被験者により要約された。全体として、上記手紙には以下のように書いてあった:
私はあなたのCardi−04(商標)研究プロジェクトに参加しており、そしてある非常に特別なことに気付いた。子供の頃から、私はアトピー性湿疹を患っており−そしてそれを全ての種類の医薬、天然薬草、種々のローション等で治療しようとしてきた。しかし−この数週間、私は湿疹の問題がほとんどなかった。私はライフスタイル又は食習慣における変化を全く経験しなかった−あなたの研究プロジェクトへの参加を除いては。
結論:
この結果は、Cardi−04(商標)は非常に優れた抗アレルギー効果を有し、それによりアトピー性湿疹の効果的な治療を作出することを示した。
引用文献:
1:Allergy 2006:61:969−987
2:US2006/0088513A1
3:WO02/28402(Nestle)
4:WO2004/015125(Chr. Hansen A/S)
5:WO2006/125441(Chr. Hansen A/S)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおけるアトピー性皮膚炎(AD)の治療のための製品の製造のためのラクトバチルス・ヘルベティカス菌の使用であって、上記製品は:
(i):生きた/生存可能な又は死んだラクトバチルス・ヘルベティカス菌;
(ii):ラクトバチルス・ヘルベティカス菌発酵乳;又は
(iii):(i)及び(ii)両方の混合物
を含む、使用。
【請求項2】
上記アトピー性皮膚炎(AD)はアトピー性湿疹である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上記ラクトバチルス・ヘルベティカス菌は登録番号DSM 14998を有するラクトバチルス・ヘルベティカス菌(本明細書中で「Cardi−04(商標)」とも呼ばれる)である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
上記製品は経口又は局所適用のための食品、医薬品又は化粧品である、前記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
−上記食品又は医薬品が乳、ヨーグルト、カード(凝乳)、チーズ、発酵乳、乳性発酵製品、アイスクリーム、発酵シリアル性製品、乳性粉末、幼児用調合乳又はペットフード又は錠剤、液体菌懸濁物、乾燥経口サプリメント、湿潤経口サプリメント、乾燥管給餌又は湿潤管給餌である;又は
−上記化粧品がローション、シャンプー、クリームである、
請求項4に記載の使用。
【請求項6】
上記製品は食品(例えば、ヨーグルト)であり、及びそれはラクトバチルス・ヘルベティカス菌発酵乳を含む、前記請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
上記発酵乳がホエー(乳清)である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
上記発酵乳は凍結乾燥される、及び上記製品は食品添加製品である、請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
上記製品は105〜1012の生きた/生存可能な菌/g製品を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
上記ヒトは子供又は大人であり、好ましくは上記ヒトは大人である、前記請求項のいずれかに記載の使用。

【公表番号】特表2010−531840(P2010−531840A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513916(P2010−513916)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058134
【国際公開番号】WO2009/000875
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(503260310)セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ (23)
【Fターム(参考)】