説明

アトピー性皮膚炎治療剤

【課題】アトピー性皮膚炎の新たな治療剤、特に痒みに対する抑制効果に優れたアトピー性皮膚炎治療剤を提供する。
【解決手段】サイコ、チョウトウコウ、ソウジュツ、ブクリョウ、トウキ、センキュウ及びカンゾウを有効成分とするアトピー性皮膚炎治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎治療剤、特にアトピー性皮膚炎の主症状である痒み抑制作用に優れたアトピー性皮膚炎治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、アトピー型気管支喘息、アレルギー性鼻炎、皮膚炎の蕁麻疹を起しやすいアレルギー体質(アトピー素因)の上に、様々な刺激が加わって生じる痒みを伴う慢性の皮膚疾患である。その症状は、湿疹(皮膚の炎症)と強い痒みが主なものである。アトピー性皮膚炎の患者は、近々増加している。
【0003】
アトピー性皮膚炎の治療手段としては、ステロイド、免疫抑制剤、保湿剤、非ステロイド系抗炎症剤等の薬物療法、アレルゲンの除去、食事制限、皮膚や環境を清潔に保つ等の生活指導等が行なわれている(非特許文献1)。しかしながら、ステロイドや免疫抑制剤等は副作用の問題があり、安全で効果の高い治療手段が望まれている。
【0004】
アトピー性皮膚炎の主症状の一つである痒みは、QOLを侵す不快な感覚であるばかりか、痒みによって惹起される掻破行為が皮膚疾患をさらに悪化させたり、二次的な皮膚疾患を生んだりする。その意味では治療医学上きわめて重要な課題であるが、これまであまり関心を示されていなかった。そのため、痒みのメカニズムに関してもほとんど解明されておらず、慢性掻痒に有効な鎮痒薬もほとんどないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アトピー性皮膚炎の新たな治療剤、特に痒みに対する抑制効果に優れたアトピー性皮膚炎治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、アトピー性皮膚炎のモデル動物を用い、特に掻痒回数等の痒み症状の改善効果について検討した結果、神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症等に有効とされる抑肝散が、アトピー性皮膚炎の皮膚症状及び痒みを顕著に改善する効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、サイコ又はその抽出物、チョウトウコウ又はその抽出物、ソウジュツ又はその抽出物、ブクリョウ又はその抽出物、トウキ又はその抽出物、センキュウ又はその抽出物、及びカンゾウ又はその抽出物を有効成分とするアトピー性皮膚炎治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤を用いれば、アトピー性皮膚炎の皮膚炎症状(湿疹)だけでなく、痒みを顕著に改善することができる。痒みを改善すれば掻破行動が抑制される結果、皮膚症状の悪化が防止でき、ひいてはその症状も改善される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】皮膚症状に対する抑肝散の効果を示す図である。
【図2】掻破回数に対する抑肝散の効果を示す図である。
【図3】角層水分量に対する抑肝散の効果を示す図である。
【図4】毛繕い行動に対する抑肝散の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤の有効成分は、サイコ又はその抽出物、チョウトウコウ又はその抽出物、ソウジュツ又はその抽出物、ブクリョウ又はその抽出物、トウキ又はその抽出物、センキュウ又はその抽出物、及びカンゾウ又はその抽出物の組み合わせである。これらの生薬の組み合わせは、抑肝散として漢方剤として用いられているが、アトピー性皮膚炎に対する作用は全く知られていない。
【0012】
サイコ(柴胡)は、セリ科ミシマサイコなどの根であり、中枢抑制作用、抗消化性潰瘍作用などを有することが知られている。チョウトウコウはアカネ科カギカズラなどの釣棘であり、小児のひきつけなどに用いられる。ソウジュツは、キク科のホソバオケラなどの根であり、抗消化清潰瘍作用、利胆作用などに用いられる。ブクリョウは、松の根に生じるサルノコシカケ科のマツホドの菌核を乾燥したものであり、利尿作用などを有する。トウキは、セリ科トウキの根であり、鎮静、鎮痛、強壮作用などを有する。センキュウはセリ科センキュウの根茎を湯通ししたものであり、中枢抑制作用、末梢血管拡張作用などを有する。カンゾウはマメ科カンゾウなどの根であり、鎮静・鎮痙作用、鎮咳作用などを有する。
【0013】
これらの生薬はそのまま用いてもよいが、それぞれの抽出物を混合して用いることもできる。これらの生薬の抽出物としては、アトピー性皮膚炎治療効果を損なわない条件で抽出されたものであればよく、例えば水;メチルアルコール、エチルアルコールなどの低級アルコール;プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール;アセトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステルなどのエステル類;キシレン、ベンゼン、クロロホルムなどによる抽出物が挙げられる。これら溶媒は単独であるいは2種以上の混合溶媒を用いて抽出することもできる。これらのうち、水、低級アルコール又はこれらの混合溶媒により抽出したものが特に好ましい。
【0014】
また抽出方法も特に限定されず、浸漬法や向流抽出法を採用することができる。また抽出物は、濃縮物、乾燥品などをそのまま用いてもよく、さらに各種の精製法により精製して用いてもよい。
【0015】
前記7種の生薬の配合割合は、原生薬重量換算で1〜50:1〜50:1〜50:1〜50:1〜50:1〜50:1〜50の範囲、特に1〜10:1〜10:1〜10:1〜10:1〜10:1〜10:1〜10の範囲が好ましい。また、抑肝散として処方されている配合割合であってもよい。
【0016】
後述の実施例に示すように、前記7種の生薬の混合物、例えば抑肝散は、アトピー性皮膚炎モデルに対して、皮膚症状の改善作用だけでなく、優れた痒み抑制作用を示す。また、これらの生薬の組み合わせは、漢方剤として長期間使用されており、安全性も確認されている。従って、前記7種の生薬を含有する医薬は、アトピー性皮膚炎治療剤、特にその痒み抑制用のアトピー性皮膚炎治療剤として有用である。
【0017】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤は、経口及び外用のいずれの投与形態でも使用することができる。従って、これらの作用を目的とする医薬、医薬部外品、化粧料、機能性食品、特定保健用食品等として有用である。
【0018】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤の経口投与用の形態としては、錠剤、顆粒、粉末、カプセル等の固形剤、ゲル剤、液剤、シロップ剤等の液剤等が挙げられる。また外用の形態としては、クリーム、軟膏、乳液、ローション、オイル、パックなどの形態が挙げられる。
【0019】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤中の前記生薬又はその抽出物の含有量は特に制限されないが、原生薬重量換算で0.001〜100質量%、さらに0.1〜50質量%、特に0.1〜30質量%が好ましい。その投与量は1日あたり、原生薬重量換算で0.1〜10g、特に0.5〜10gとするのが好ましい。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0021】
実施例1
(1)方法
10週齢の雄性NC/Ngaマウス(日本SLC,浜松)を用い、抑肝散投与前に、掻痒回数、皮膚症状を観察し、皮膚炎が発症しているマウスを実験に供した。抑肝散(株式会社ツムラ製)はMF飼料(オリエンタル酵母工業株式会社、東京)に0.5%、1.0%になるように配合し、自由摂取で12週間投与した。コントロール群はMF飼料で飼育した。12週間後、抑肝散1%群とコントロール群をクロスオーバーによる投与により効果を調べた。アトピー性皮膚炎に対する作用は、掻痒回数、皮膚症状を観察し、ストレスに対する作用は、毛繕い行動(Grooming)を指標に測定した。痒み回数(掻破行動)は、マウスを観察用ケージ(30分間放置)に入れ、掻破行動を30分間目視により測定した。掻破行動は、後肢による背部掻破と規定した。測定は14:00〜17:00の間に行なった。皮膚症状は、紅斑、浮腫、糜爛・出血、乾燥・脱毛各項目についてスコア化(著しいもの:3、中等度:2、軽症:1、ないもの:0)し、判定した。皮膚の状態は、投与前、12週後に背部の角層水分量をSkicon−200Exにより測定した。抑肝散の生薬配合割合(重量比)は、ソウジュツ2.7、ブクリョウ2.7、センキュウ2、チョウトウコウ2、トウキ2、サイコ1.3、カンゾウ1である。合計投与量は約1.4g/kgである。
【0022】
(2)結果
抑肝散は、NC/Ngaマウスの皮膚炎(図1)の悪化及び掻破行動(図2)を投与3週目より用量依存的に抑制し、角層水分量(図3)の低下を改善した。クロスオーバーにおいて、抑肝散投与中止により、掻破行動の増加、皮膚症状の悪化がみられ、抑肝散投与により掻破行動の抑制、皮膚症状の改善がみられた。NC/Ngaマウスの毛繕い行動(Grooming)を用量依存的に減少させた(図4)。
以上の結果から、抑肝散は,NC/Ngaマウスの掻破行動を抑制することにより皮膚病変の悪化を抑制したと考えられた。また、掻痒に伴うストレスを改善すると考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイコ又はその抽出物、チョウトウコウ又はその抽出物、ソウジュツ又はその抽出物、ブクリョウ又はその抽出物、トウキ又はその抽出物、センキュウ又はその抽出物、及びカンゾウ又はその抽出物を有効成分とするアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項2】
有効成分が、抑肝散である請求項1記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項3】
痒みを抑制するものである請求項1又は2記載のアトピー性皮膚炎治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−155813(P2010−155813A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185(P2009−185)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(502285457)学校法人順天堂 (64)
【Fターム(参考)】