説明

アドレナリン作動薬を眼へ輸送するために徐放性デバイス及び方法

本発明はアドレナリン作動薬を用いて緑内障又はコルチコステロイドの使用に伴うような眼圧上昇の治療及び/又は予防をするためのデバイス及び方法を提供する。本発明は1種又は2種以上のアドレナリン作動薬の有効治療濃度を長期間維持するのに適合した挿入可能な徐放性デバイス、及びその使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼への持続的薬物輸送の分野に関し、特に、眼へのアドレナリン作動薬の持続的輸送による高眼圧(例えば、緑内障又はコルチコステロイドの使用に伴うもの)の治療及び/又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
1.アドレナリン作動薬
緑内障は先進国における失明の主原因の一つである。緑内障の主たる病態生理学的特徴は眼圧上昇である。眼圧を下げるための外科手術及び/又は薬物が緑内障の最も一般的な治療法である。今日用いられている主な薬物治療には、小柱網を開いて眼から流体が流れ出る速度を増加させる縮瞳薬(例えば、ピロカルピン、カルバコール及びエコチオフェート);強膜ブドウ膜流を促すPGF−2αアナログ(例えば、ウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト及びラタノプロスト);並びに、眼へ流体が流れ込む速度を減少させる炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、アセタゾラミド、メタゾラミド及びドルゾラミド)の投与がある。
【0003】
アドレナリン作動薬も眼圧上昇の治療に有用であることが分かっている。β−アドレナリン拮抗薬、並びにα1−及びα2−アドレナリン受容体作動薬は共に緑内障患者に、また、レーザー眼治療の後によく生じる眼圧の上昇を制御又は予防するために、処方される。典型的なα2−作動薬(例えば、ジピベフリン、ブリモニジン)は毛様体突起レベルで交感神経系の働きを減少させて房水産生の低下を導く。また別のα−アドレナリン受容体作動薬であるアプラクロニジンはα1及びα2−アドレナリン受容体活性を有することが報告されており、1種以上のα1−アドレナリン受容体作動薬(ブナゾシン)が眼圧上昇の治療用に開発されている。
【0004】
β−アドレナリン拮抗薬は毛様体のアデニル酸シクラーゼ活性を刺激する。眼圧低下に効果的なβ−アドレナリン拮抗薬の例にはチモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、レボブノロール、カルテオロール、イソプレナリン、フェノテロール、メチプラノロール及びクレンブテロールが包含される。選択的(β2)及び非選択的(β1及びβ2)拮抗薬が開発されている。
【0005】
局所用アドレナリン作動薬の大部分は毎日2、3回投与しなければならない比較的短期型の薬剤である。更に、点眼による自己投与ではかなりの部分がオーバーフローによって損失することが多い。次いで、眼表面に運ばれる薬剤溶液のかなりの部分が直ぐさま涙によって洗い流されてしまい、角膜を実際に貫通する薬剤部分は組織内濃度が初期にピークを迎えて徐々に低下していくことになるため、次回の点眼投与前に組織内濃度が所期の薬理的効果を奏するのに必要な濃度未満となり得る。点眼による可変的で断続的な局所的使用は、処方された投与計画を遵守する患者の気紛れと合わさって、局所的な抗緑内障薬の眼内濃度の上昇及び低下のサイクルを生じさせ、そして眼圧のサイクルを生じさせ得る。高眼圧が引き起こす視神経への損傷は蓄積し得るので、理想的な治療法は治療上有効量の薬物を眼内で常に維持することであろう。
【0006】
局所用β−アドレナリン遮断剤は全身に吸収され、心筋機能に重い欠陥のある患者において、充分な心拍出量を維持するのに必要な交感神経刺激作用を阻害し得る。更に、気管支及び細気管支でβ−アドレナリン受容体を遮断すると競争相手のいない副交感神経作用によって気道抵抗が大きく上昇し得る。そのような効果は喘息やその他の気管支痙攣異常のある患者においては危険性がある。局所的なアドレナリン作動薬の使用に関連して、喘息患者の気管支痙攣による死亡例、及び心不全に伴う死亡例が報告されている。
【0007】
2.眼への薬物輸送デバイス
眼への薬物投与に適合したいくつかの徐放性デバイス及び処方物が先行技術に記載されている。コハン(Cohan)及びダイアモンド(Diamond)に発行された米国特許第6,196,993号は、眼の涙小管へ埋植するための眼内インサートを記載している。このデバイスは薬物の内部貯蔵室を有し、薬物が通って拡散することが意図された表面開口部を特徴とする。下瞼と眼の間に設置するのに適合した徐放性システムがネス(Ness)に発行された米国特許第3,416,530号及び第3,618,604号、ザファロニ(Zaffaroni)に発行された同第3,626,940号、アブラハム(Abraham)に発行された同第3,826,258号、ハドダッド(Haddad)及びロウカス(Loucas)に発行された同第3,845,201号、チーウェス(Theeuwes)等に発行された同第3,845,770号、ミッシェル(Michaels)に発行された同第3,962,414号、ヒグチ(Higuchi)等に発行された同第3,993,071号、アーノルド(Arnold)に発行された同第4,014,335号、及びミヤタ(Miyata)に発行された同第4,164,559号に開示されている。ウォン(Wong)に発行された米国特許第5,824,072号には、例えば脈絡膜へ埋植することを意図した、貯蔵室及びポリマーマトリクスの眼内インプラントが記載されている。グウォン(Gwon)等に発行された米国特許第5,476,511号には結膜の下方に埋植するための眼内インプラントが記載されている。ヤーコビ(Yaacobi)に発行された米国特許第6,416,777号には眼の後部にある強膜の外表面に埋植するための眼内インプラントが記載されている。
【0008】
上述したもののようなデバイスは典型的に、薬物の拡散を制御する穿孔膜又は透過性膜によって取り囲まれた薬物含有貯蔵室から、或いはポリマーマトリクス中に分散した薬物から構成される。
【0009】
ナカダ(Nakada)に発行された米国特許第6,027,745号には薬物を含有し及び放出するための内部貯蔵室と共に形成されたコンタクトレンズが記載されており、グタッグ(Guttag)に発行された米国特許第6,368,615号にはレンズ材料に共有結合した放出性薬物を有するコンタクトレンズが記載されている。
【0010】
グオ(Guo)及びアシュトン(Ashton)に発行された米国特許第6,217,895号及び同第6,548,078号はコルチコステロイドの放出のために硝子体腔への徐放性デバイスの埋植について記載している。スミス(Smith)等に発行された米国特許第5,378,475号並びにチェン(Chen)及びアシュトン(Ashton)に発行された同第5,902,598号には、二つ以上の高分子被膜(その一つは部分的に薬物コアを被覆し、薬物放出を制御する不透過性層である。)をもつ薬物コアを含む徐放性デバイスが記載されている。このデバイスを硝子体腔中に埋植すると眼疾患の治療に適していると記載されている。アシュトン(Ashton)及びピアソン(Pearson)に発行された米国特許第5,773,019号及び同第6,001,386号には硝子体腔中に埋植するのに適した、低溶解性薬物コア及び単一の透過性被膜を有するデバイスが記載されている。グオ(Guo)及びアシュトン(Ashton)に発行された米国特許第6,375,972号には、薬物を含有する内部コア又は貯蔵室と、薬物の通過に対して不透過性の内部管と、該管の第一末端に配置された不透過性部材と、薬物が通って拡散する該管の第二末端に配置された透過性部材とを備えたデバイスが記載されている。’972号特許の別の一実施形態においては、内部管、不透過性部材及び透過性部材を取り囲む拡散ポートを有する不透過性の外部層が含まれる。
【0011】
薬物の持続的放出を提供するためのデバイスはまた、長期間の放出のみならず、比較的一定で治療上有効濃度の薬物を維持するために、制御された放出を提供すべきである。すなわち、時間に対して0次又は線形的な放出に接近すべきである。放出の持続はデバイスの挿入(及び非生分解性デバイスの場合は使い終わったデバイスの除去)が不都合なほどに頻繁にならないように充分に長期間とすべきである。このことは挿入及び除去が医療専門家によって実施されなければならないときにとりわけ問題である。治療する病状に応じて、上記デバイスは数週間、数ヶ月、又は更には数年にわたって制御された放出を提供することができる。
【0012】
マトリクス系においては、薬物はポリマーマトリクス中に分散しており、これが溶解すると放出されてマトリクスの外へ拡散する。マトリクスデバイスにおいては、マトリクス中に分散した薬物は溶解又は分散した形態で存在することができる。薬物が溶解しているときはデバイスからの放出はフィック(Fickian)の速度論に従う。薬物がマトリクス中に分散しているときは、薬物はマトリクス中の濃度が飽和値未満となるまでt1/2の速度論に従って放出され、この地点で放出速度が遅くなり、フィックの放出が観察される。上記理由のために、マトリクス系では0次放出の達成は困難である。
【0013】
いくつかの生分解系においては、マトリクスからの拡散が極端に遅く、薬物はマトリクスが分解するときにのみ放出されることが意図されている。この方法を用いて0次放出を達成することは困難であることが分かった。というのはモノリシックなポリマーデバイスは0次分解を受けないのが通常であり、“S”型の速度論がより一般的に観察されるからである。
【0014】
薬物貯蔵室が速度制御用透過性膜で被覆されているときは線形放出に接近させることは達成可能である。膜の透過性及び貯蔵室中の薬物の溶液濃度が一定である限りは(例えば、貯蔵室中に未溶解薬物がある限りは)、膜を通じた薬物の拡散が律速であり、これは一定(0次)である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
当該分野における多大な努力にもかかわらず、これまで製造されたデバイスは対時間0次放出、長期間放出、及び薬物を比較的一定で治療上有効濃度に維持するといった要求を、患者及び医療専門家に許容されつつ満足するという点で理想的ではない。特に、全身性副作用を引き起こさずに局所的投与に伴う薬物濃度の変動という問題を回避する方法で、アドレナリン作動薬を眼に投与することによって緑内障及び高眼圧に伴うその他の症状を治療及び/又は予防するための改良された方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、アドレナリン作動薬を用い、薬剤の局所的使用に伴う局所的濃度の変動を生じさせることなく、全身性薬剤に関連した有害な副作用を生じさせることなく、緑内障又はコルチコステロイドの使用に伴うような高眼圧を治療及び/又は予防するためのデバイス及び方法を提供する。本発明は、毛様体内で治療上有効濃度の1種又は2種以上のアドレナリン作動薬を長期間にわたって維持するのに適合した挿入可能な徐放性デバイスを提供する。
【0017】
本発明はまた、本発明のデバイスによって、1種又は2種以上のアドレナリン作動薬を眼に局所使用する方法、並びに1種又は2種以上のアドレナリン作動薬を本発明のデバイスを挿入することで眼に投与することによる眼圧の治療方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は患者の眼の毛様体に治療量の少なくとも1種のアドレナリン作動薬を長期間にわたって輸送し、及び維持するためのデバイス及び方法を提供する。本デバイスは、毛様体内に長期間にわたって治療上有効濃度のアドレナリン作動薬を維持することができる、少なくとも1種のアドレナリン作動薬を含む徐放性薬物輸送デバイスである。本方法は、アドレナリン作動薬を毛様体に輸送するために、上記デバイスを患者の眼内又はその近傍に挿入することを含む。
【0019】
本発明のデバイスは眼及び瞼(好ましくは下瞼)の間への挿入に適合することができる。代替的な実施形態においては、前眼房又は後眼房の中、網膜の下、脈絡膜の中、或いは強膜の中又は上への挿入に適合することができる。別の一実施形態においては、本デバイスは涙小管への挿入に適合することができる。更に別の実施形態においては、本デバイスはコンタクトレンズ又は眼内レンズとすることができ、或いはコンタクトレンズ又は眼内レンズ中に組み込み、又は取り付けることができる。
【0020】
本明細書においては、特に明示しなくても、“挿入する”という用語は挿入する、注射する、埋植する、又はその他の如何なる方法によって投与することを意味する。“挿入された”という用語は挿入された、注射された、埋植された、又はその他の如何なる方法によって投与されたことを意味する。“挿入”という用語は挿入、注射、埋植、又はその他の如何なる方法による投与を意味する。同様にして、“挿入可能な”という用語は挿入可能な、注射可能な、埋植可能な、又はそれ以外で投与可能なということを意味する。
【0021】
本明細書においては、“患者”という用語は、ヒト又はヒト以外の動物の何れかを指す。
【0022】
持続的にアドレナリン作動薬を輸送するためにコドラッグ(codrug)又はプロドラッグ(prodrug)を使用することができ、これらは本明細書で説明する本発明の実施形態中で使用するのに適合することができる。本明細書において、“コドラッグ”という用語は第一分子残基とそれに結合した第二分子残基を含む化合物を意味する。各残基は、分離した形態(例えば結合していない状態)では、活性な薬剤又は活性な薬剤のプロドラッグである。前記残基間の結合はイオン又は共有結合とすることができ、共有結合の場合には直接的な結合、又は結合基を介した間接的な結合とすることができる。第一分子は第二分子と同一の又は異なるものとすることができる。コドラッグは、本明細書にて使用する用語として、米国特許第6,051,576号により詳細に記載されている。
【0023】
本明細書において、“薬物”、“薬剤”又は“アドレナリン作動薬”という用語にはコドラッグ、プロドラッグ、又は薬理学的に許容されるそれらの塩の形態が包含される。薬理学的に許容される塩には、限定的ではないが、硫酸塩及び塩酸塩など(化合物が塩基性のとき)、並びにナトリウム塩(化合物が酸性のとき)が包含される。
【0024】
本明細書において、“徐放性デバイス”又は“徐放性処方物”とは制御されながら長期間にわたって薬剤を放出するデバイス又は処方物を意味する。本明細書の他のどこかでも説明するように、本発明に適した徐放性デバイス及び処方物の例は米国特許第6,375,972号、同第5,378,475号、同第5,773,019号、及び同第5,902,598号に見出すことができる。
【0025】
一実施形態において、本発明は患者の眼内又はその近傍への挿入に適合した徐放性薬物輸送デバイスを提供する。ここで、前記薬物輸送デバイスは、全体的又は部分的に、(a)少なくとも1種のアドレナリン作動薬を含む内部の薬物含有コアと(b)外部のポリマー層とを同時押出することによって形成する。この外部層は、好ましくは管状であるが、薬物に対して透過性、半透過性、又は不透過性とすることができる。いくつかの実施形態において、薬物含有コアは、デバイスの形成前に、薬物とポリマーマトリクスを混合することによって形成することができる。この場合は、ポリマーマトリクスは薬物の放出速度に大きく影響を与える場合と与えない場合がある。外部層、薬物含有コアと混合したポリマー、又はその両方を生分解性とすることができる。同時押出された生成物は複数の薬物輸送デバイスに区分することができる。これらのデバイスは被覆しないままにしてそのそれぞれの両端を開放しておくことができ、或いはこれらのデバイスは、例えば薬物に対して透過性、半透過性、又は不透過性の追加的なポリマー層で被覆することができる。
【0026】
米国仮出願第10/428,214号及びグオ(Guo)等よる2003年9月11日付け米国仮出願(発明の名称「生分解性徐放性薬物輸送システム」)に詳細に記載されているように、上で説明した同時押出の実施物はポリマー材料を第一押出装置に送り、少なくとも1種の薬物を第二押出装置に送り、このポリマー材料及び薬物を含む塊体を同時押出し、この塊体を、薬物含有コア及びポリマー材料含有外部層を備える少なくとも一つの同時押出薬物輸送デバイスへと成形することによって製作することができる。いくつかの実施形態においては、第二押出装置へ送られた薬物は少なくとも1種のポリマーとの混合物である。前記少なくとも1種のポリマーは、ポリ(酢酸ビニル)(PVAC)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレングリコール(PEG)、又はポリ(dl乳酸−グリコール酸共重合体)(PLGA)のような生分解性ポリマーとすることができる。いくつかの実施形態においては、薬物及び少なくとも1種のポリマーは粉状として混合される。
【0027】
外部層は、内部の薬物含有コア内に配置された薬物に対して不透過性、半透過性、又は透過性とすることができ、PCL、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、シアノアクリル酸ポリアルキル、ポリウレタン、ナイロン、PLGA、又はこれらの何れかの共重合体のような任意の生分解性ポリマーを含むことができる。いくつかの実施形態においては、外部層は放射線硬化型である。いくつかの実施形態においては、外部層は、内部コアに使用される薬物と同一の又は異なる少なくとも1種の薬物を含む。
【0028】
本発明に係るデバイスを形成するのに同時押出成形を利用することができるが、その他の技術も容易に使用することができる。例えば、事前に成形した本発明の特徴の一つ又は二つ以上を有する管にコアを注ぐことができる。
【0029】
いくつかの実施形態においては、(可能な任意の方法によって製作した)薬物輸送デバイスは管状であり、複数のより短い生成物へと区分することができる。いくつかの実施形態においては、この複数のより短い生成物は一つ又は二つ以上の追加的な層(アドレナリン作動薬に対して透過性の層、半透過性の層、及び生分解性の層の少なくとも一つの層を含む。)で被覆することができる。この追加的な層はPCL、EVA、シアノアクリル酸ポリアルキル、ポリウレタン、ナイロン、又はPLGA、又はこれらの何れかの共重合体のような任意の生物学的適合性ポリマーを含むことができる。
【0030】
外部層及び内部の薬物含有コアを製作するのに適した材料は、それぞれ膨大である。この点に関し、米国特許第6,375,972号には挿入可能な同時押出された薬物輸送デバイスを製作するのに適した材料が記載されており、それらの材料は外部層及び内部の薬物含有コア用の材料として使用可能なものに含まれる。好ましくは、本発明のいくつかの実施形態のための材料は材料を特定する性質に悪影響を与えることなく押出される能力で選択される。例えば、薬物に対して不透過性であるべき材料については、材料は、押出装置を通って加工されるときに、不透過性であり又は不透過性のままであるものが選択される。同様に、薬物輸送デバイスが完全に組み立てられたときに患者の生物学的組織に接触する材料については、好ましくは生物学的適合性材料が選択される。好適な材料にはPCL、EVA、PEG、ポリ(酢酸ビニル)(PVA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、PLGA、シアノアクリル酸ポリアルキル、ポリウレタン、ナイロン、又はこれらの共重合体が包含される。乳酸モノマーを含むポリマーにおいては、乳酸はD−、L−、又はD−及びL−異性体の任意の混合物とすることができる。
【0031】
内部の薬物含有コアを製作するための材料の選択は更に考慮すべき事項を必要とする。当業者は容易に理解できることだが、押出装置は典型的には一つ又は二つ以上の加熱器と、一つ又は二つ以上のスクリュー駆動装置、プランジャー、又はその他の圧力発生装置とを含む。実際には、押し出されている材料の温度、流体圧力、又はその両方を上げることが押出機の目的となり得る。押出機によって加工及び押し出されている材料中に含まれる薬理学的に活性な薬物が加熱され及び/又は高圧に曝されるときに問題が生じ得る。この問題は薬物自体がポリマーマトリクス内に保持されるとき、従って、ポリマー材料も押出機内で薬物と共に混合及び加熱及び/又は加圧されるときは一層ひどくなり得る。材料は、内部の薬物含有コア中の薬物の活性が患者に挿入されたときに所望の効果を奏するのに充分となるように選択することができる。更に、押出時にマトリクスを形成するために薬物をポリマーと混合するときは、マトリクスを形成するポリマー材料は薬物がマトリクスによって不安定化しないように選択するのが有利である。マトリクス材料は、マトリクスを通る拡散がアドレナリン作動薬のマトリクスからの放出速度に対してほとんど又は全く影響を与えないように選択するのが好ましい。
【0032】
生産物を作る材料は薬物輸送デバイスの放出期間は安定であるように選択することができる。この材料は随意的に、薬物輸送デバイスが所定期間アドレナリン作動薬を放出した後、この薬物輸送デバイスが現場(in situ)で分解(すなわち、生分解)するように選択することができる。この材料は、輸送デバイスの所望の寿命期間、材料が安定で大きく分解せず、そして材料の孔径が変化しないように選択することもできる。薬物コア含有マトリクスを用いるいくつかの実施形態においてはマトリクスは生分解性であり、別の実施形態においてはマトリクスは非生分解性である。
【0033】
内部の薬物含有コアのために選択されるマトリクス材料には少なくとも2種類の機能がある。すなわち、圧縮、押出、同時押出又はその他の方法によりコアの容易な製造を可能とすることと、生物学的分子のマトリクスへの移動によってコア内で薬物が分解するのを抑制又は防止することである。内部の薬物含有コアのマトリクス材料は、薬物がデバイスから放出される機会を得る前に、薬物を溶解するであろう酵素、タンパク質、及びその他の材料が薬物含有コア内へと進入するのを抑制し、好ましくは防止する。コアが空になると、マトリクスは弱体化して崩壊し得る。次いで、外部層は外側及び内側の両方から水及び酵素作用による分解に曝されるだろう。溶解度の高い薬物は結合して低溶解度の共役体を形成するのが好ましい。代替的に、薬物同士は結合してマトリクス中に保持されるのに充分に大きく又は充分に不溶性の分子を形成することができる。
【0034】
1種又は2種以上のアドレナリン作動薬及びマトリクス形成ポリマーに加えて、内部の薬物含有コアは脂質(長鎖脂肪酸を含む)及びワックス、抗酸化物質、及びいくつかの場合は放出改質剤(例えば水)のような任意の生体材料を含むことができる。これらの材料は生体適合性であり、製造工程中に安定であるべきである。いくつかの実施形態においては、活性な薬物、ポリマー、及び生体材料の混合物が所望の加工条件下で押出成形可能であるべきである。マトリクス形成ポリマー又は用いられる任意の生体材料は、所望の期間にわたって治療上有効作用を奏するのに充分な量の活性な1種又は複数種の薬物を担持することが可能であるべきである。薬物の担体として使用される材料はアドレナリン作動薬の作用に対して有害な影響のないことが好ましい。
【0035】
いくつかの実施形態においては、マトリクスのポリマーは、マトリクスからの薬物の放出速度が、マトリクスの性質ではなく、少なくとも部分的に薬物の物理化学的性質によって決定されるように選択することができる。マトリクスのpHが薬物の放出速度を変化させるようにpHを選択することもできる。例えば、薬物が遊離塩基の形態のときは、マトリクスは塩基性部分(例えば、薬物のpKaよりも高いpKaを有し、これによってプロトン化速度及び最終的には薬物の放出速度を遅くする。)を有することができる。マトリクスは遊離塩基の薬物のpKaよりも小さいがこれに比較的近いpKaをもつ部分を有することもできる。上記実施形態の何れにおいても、マトリクスは遊離塩基薬物のプロトン化(最終的にはデバイスからの放出)に対する緩衝剤として機能する。更に、マトリクスのpHの微環境は添加剤の添加により又はリン酸塩若しくはその他の標準的な緩衝剤の使用により変化させることができ、これにより、薬物のプロトン化及びマトリクスからの拡散を制御する。いくつかの実施形態においては、マトリクスの材料は薬物の持続的放出が遊離塩基薬物のプロトン化速度によって制御されるように、薬物のマトリクスを通した拡散がマトリクスからの薬物の放出速度にほとんど又は全く影響を与えないように選択される。
【0036】
いくつかの実施形態においては、薬物は外部層に含まれていてもよい。これによって、上記システムが体内に最初に設置されるときに放出される薬物全体の大部分が外部層から放出されるような、初期崩壊のある二相性放出を提供することができる。次いで、更なる薬物が内部の薬物含有コアから放出される。外部層に含まれる薬物は1種又は2種以上のアドレナリン作動薬を含む内部コアと同じ薬物とすることができる。代替的に、外部層に含まれる薬物はコアに含まれる薬物と異なるものとすることができる。
【0037】
本明細書に記載の同時押出の実施形態のいくつかの例にて指摘したように、外部層に様々な材料を使用して種々の放出速度プロファイルを達成できることが理解されよう。例えば、前述した’972号特許の中で説明されているように、外部層は透過性又は不透過性の追加的な層によって取り囲まれても良く、或いはそれ自体を透過性又は半透過性の材料で形成してもよい。従って、本発明の同時押出デバイスは’972号特許に詳細に記載された技法及び材料を使用する一つ又は二つ以上の外部層を用いて提供することができる。透過性又は半透過性の材料を使用することで、コア内の薬物を様々な速度で放出することができる。更に、不透過性であると考えられる材料でさえ、いくつかの状況下ではコア内の薬物又はその他の活性な薬剤の放出を許容する場合がある。従って、外部層の透過性は時間に対する薬物の放出速度の一因となることができ、採用したデバイスの時間に対する放出速度を制御するパラメータとして用いることができる。
【0038】
いくつかの実施形態においては、薬剤は外部層において約1×10-10cm/s未満の透過係数を有する。他の実施形態においては、外部層における透過係数は1×10-10cm/sより大きく、更には1×10-7cm/sよりも大きい。いくつかの実施形態においては、透過係数は少なくとも1×10-5cm/sであり、更には少なくとも1×10-3cm/sであり、又は少なくとも1×10-2cm/sである。
【0039】
更に、デバイスは例えば、内部の薬物含有コアを取り囲む不透過性の外部層をもつデバイスへ区分けすることができる(露出した両端を通る放出速度を制御するために各区分は随意的に更に半透過性又は透過性の層によって被覆されている。)。同様に、外部層又はデバイスを取り囲む一つ若しくは二つ以上の追加的な層は公知の速度で生分解し得るので、コア材料は一定期間後に管の長さに沿って部分若しくは全体、又は管の一端若しくは両端が露出する。従って、外部層及び同時押出のデバイスを取り囲む一つ若しくは二つ以上の追加的な層のための様々な材料を使用することで、採用したデバイスの輸送速度を制御して種々の放出速度プロファイルを達成できることが理解されよう。
【0040】
米国仮出願第60/483,316号により詳細に記載されているように、いくつかの実施形態では治療上有効量の薬剤を含有する内部コア又は貯蔵室(“内部コア”)と、薬剤に対して不透過性、極僅かに若しくは部分的に透過性である第一被覆層と、随意的に、薬剤に対して透過性又は半透過性である第二被覆層とを備えるポリマー薬物輸送システム(“ポリマーシステム”)を提供する。追加的な層も随意的に使用することができる。
【0041】
いくつかの実施形態においては、内部の薬物含有コアは生体適合性流体及び生体適合性固体成分を有する(ここで、生体適合性固体は生体適合性流体中よりも生理流体中において溶解度が低い。)。この生体適合性流体は親水性、疎水性又は両親媒性とすることができ、ポリマー又は非ポリマーとすることができる。上記流体は生体適合性油としてもよい。いくつかの実施形態においては、生体適合性固体(例えば、生分解性ポリマー)は生体適合性流体中に溶解、懸濁、又は分散する(そして“生体適合性コア成分”を形成する)。アドレナリン作動薬のような少なくとも1種の薬剤も生体適合性コア成分中に分散、懸濁、又は溶解する。
【0042】
第一被覆層は内部コアを取り囲み、不透過性、極僅かに若しくは部分的に透過性のポリマーであり、薬物がコアから拡散してシステムを出て行くことを更に可能にするための一つ若しくは二つ以上の拡散ポート又は孔(“ポート”)を特徴とする。上記システムからの薬物の放出速度は(以下に記載するように)内部コア中の薬物マトリクスの透過性、生体適合性コア成分中の薬剤の溶解度、生体適合性コア成分中の薬剤の熱力学的活性、内部コアから生体液までの薬剤のポテンシャル勾配、拡散ポートの大きさ、及び/又は第一若しくは第二被覆層の透過度によって制御することができる。
【0043】
第一被覆層は少なくとも1種のポリマーを含み、好ましくは生体分解性であるが、代替的に非生体分解性としてもよい。第一被覆層は薬剤が通って拡散する拡散ポートとして少なくとも一つの開口部を残しながら、内部コア表面の少なくとも一部(すべてではないのが好ましい)を覆う。第二被覆層を使用するならば、それは第一被覆層及び内部コアの部分又は本質的に全体を覆うことができ、薬剤に対するその透過度は薬剤が周囲流体へと拡散することを許容するような透過度である。第一被覆は、一つ若しくは二つ以上の拡散ポートを提供するのに加えて又はそれに代えて、埋植後に第一被覆自体が活性な薬剤の拡散を許容する放出ポートを形成可能なように、生体中(in vivo)で分解する非ポリマー成分を更に含むことができ、或いは2種又は3種以上の異なるポリマー(例えば、異なるモノマー単位、異なる分子量、異なる架橋度、及び/又は異なるモノマー単位のモル比)を含むことができる(そのうちの少なくとも1種は生体中(in vivo)で分解する。)。
【0044】
様々な材料が本発明の上記実施形態の被覆層を形成するのに適している。好ましいポリマーの大体は生理流体中で不溶性である。好適なポリマーには天然又は合成のポリマーが包含される。ポリマーのいくつかの例には、限定的ではないが、PVA、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリビニルブチレート、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、可塑化エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体、ポリビニルエステル、ポリビニルブチレート、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、可塑化ポリ塩化ビニル、可塑化ナイロン、可塑化ソフトナイロン、可塑化ポリエチレンテレフタレート、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、架橋ポリビニルピロリドン、ポリトリフルオロクロロエチレン塩素化ポリエチレン、ポリ(1,4−イソプロピリデンジフェニレンカーボネート)、塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−ジエチルフマレート共重合体、シリコンゴム、医療グレードのポリジメチルシロキサン、エチレン−プロピレンゴム、シリコン−カーボネート共重合体、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体及び塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体が包含される。
【0045】
上で指摘したように、利用するときは、生体適合性コア成分は生体適合性のポリマー若しくは非ポリマー流体又は生体適合性油中に少なくとも部分的に溶解、懸濁、又は分散した少なくとも1種の生体適合性固体(例えば、生分解性ポリマー)を含む。更に、デバイスが生理流体に接触すると生体適合性コア成分が析出し又は相転移を受けるように、生体適合性固体は生理流体中よりも生体適合性流体中で溶解度が高い。内部コアをゲルとして輸送することができる。内部コアは水又は生理流体に接触するとゲルに転換する微粒子又は液体として輸送されるのが好ましい。いくつかの実施形態では非ポリマー流体は遊離塩基の形態の薬物を含むことができる。
【0046】
いくつかの実施形態においては、生体適合性コア成分の生体適合性流体は親水性(例えば、PEG、クレモフォア、ポリプロピレングリコール、グリセロールモノオレエート等)、疎水性、又は両親媒性である。いくつかの実施形態においては、前記流体はモノマー、ポリマー又はこれらの混合物とすることができる。使用するときは、生体適合性油はゴマ油、ミグリオル(miglyol)等とすることができる。
【0047】
いくつかの実施形態においては、注射すると相転移を受けて現場(in situ)でゲル輸送手段へと転換する注射可能な流体を使用することができる。いくつかの実施形態においては、内部コア中の少なくとも1種のポリマーは生理流体へ曝されたときに薬物含有液相から薬物含有ゲル相へ転化することができる。現場でゲル化する組成物に基礎を置く技術は米国特許第4,938,763号、同第5,077,049号、同第5,278,202号、同第5,324,519号及び同第5,780,044号に記載されており、これらのすべてが本発明の上記実施形態に適合し得る。いくつかの実施形態においては、生体適合性コア成分の生体適合性固体は、例えば、限定的ではないが、PLGAとすることができる。いくつかの実施形態においては、内部コアは少なくとも10%の薬剤、又は好ましくは50%を超える薬剤、又はより好ましくは75%を超える薬剤を含有する粘性のあるペーストである。
【0048】
いくつかの実施形態においては、内部コアは現場でゲル化する薬物輸送処方物(これは(a)1種以上のアドレナリン作動薬、(b)液状、半液状、又はワックスPEG、及び(c)PEG中に溶解、分散又は懸濁した生体適合性又は生分解性ポリマーを含む。)を含む。この処方物は随意的に孔形成剤(例えば、糖、塩、及び水溶性ポリマー)や放出速度改質剤(例えば、ステロール、脂肪酸、グリセロールエステル等)のような添加剤を含有しても良い。米国仮出願第60/482,677号により詳細に記載されているように、上記処方物は、水又は体液と接触すると、PEGが水へ交換されてポリマー及び薬物の両方が析出し、次いで薬物が組み込まれるゲル相が形成される。薬物はその後、長期間にわたってゲルから拡散する。
【0049】
“液状”PEGは20〜30℃及び雰囲気圧で液体のポリエチレングリコールである。いくつかの好ましい実施形態においては、液状PEGの平均分子量は約200〜約400g/molである。PEGは線状とすることができ、又は生体吸収性の分枝状PEGとすることができる(例えば米国特許出願第2002/0032298号に開示されている。)。いくつかの代替的な実施形態においては、PEGは半固体又はワックスとすることができ、この場合は分子量はより高く(例えば3,000〜6,000amu)なるだろう。半固体及びワックスPEGを含む組成物は注射できないので、別の手段によって埋植されることが理解される。
【0050】
いくつかの実施形態においては、アドレナリン作動薬はPEG中に溶解しており、他の実施形態においては、薬物は固体粒子の形態でPEG中に分散又は懸濁している。更に他の実施形態においては、薬物はカプセルに包まれ、又はミクロスフィア、ナノスフィア、リポソーム、リポスフィア、ミセル等のような粒子内に組み込まれていてもよい。或いは薬物はポリマー担体に結合してもよい。上記の粒子は何れも直径約500μm未満であるのが好ましく、約150μm未満であるのがより好ましい。
【0051】
上で説明した処方物のPEG中に溶解、分散又は懸濁したポリマーは、PEGに溶解又は混和し、水への溶解度の方が低い、任意の生体適合性PLGAポリマーとすることができる。これは好ましくは水不溶性であり、好ましくは生分解性ポリマーである。ラクチド−及びグリコリド含有ポリマーのカルボキシル末端は随意的に例えばエステル化によって覆われていても良く、ヒドロキシル末端は随意的に例えばエーテル化又はエステル化によって覆われていても良い。好ましくは、このポリマーはラクチド:グリコリドのモル比が20:80〜90:10、より好ましくは50:50〜85:15のPLGAである。
【0052】
“生分解性(bioerodible)”という用語は“生体分解性(biodegradable)”と同意語であり、当業者に理解されている。これには本明細書に記載のもののようなポリマー、組成物及び処方物が含まれ、使用中に分解する。生分解性ポリマーと非生分解性ポリマーは典型的には前者が使用中に分解し得るという点で異なる。いくつかの実施形態においては、上記使用は生体内治療のような生体中(in vivo)での使用を伴い、他のいくつかの実施形態においては、上記使用は試験管中(in vitro)での使用を伴う。一般的に、生体分解性に起因する分解は生体分解性ポリマーの成分サブユニットへの分解、或いはポリマーのより小さい非ポリマーサブユニットへの(例えば生化学的プロセスによる)消化を伴う。いくつかの実施形態においては、生体分解は酵素の仲介、水及び/又は体内のその他の化学種の存在下での分解、或いはその両方によって生じる。
【0053】
本明細書において、“生体適合性の”及び“生体適合性”という用語は当業者に認識されており、対象物それ自体は受容者(例えば動物又はヒト)に対して有毒ではなく、(分解するときは)受容者中で有毒な濃度の副産物(例えば、モノマー若しくはオリゴマーのサブユニット又はその他の副産物)を生成する速度で分解せず、炎症や刺激を起こさず、又は免疫反応を誘発しないことを意味する。生体適合性であるとみなされるために、如何なる主題の組成物も100%の純度を必要としない。従って、主題の組成物は99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、80%、75%又は更に少ない量の生体適合性薬剤(例えば、本明細書に記載のポリマー及びその他の材料及び賦形剤が含まれる。)を含むことができ、なお生体適合性としてよい。
【0054】
いくつかの実施形態においては、ポリマーシステムは生理系(例えば患者)に注射又は他の方法で挿入される。注射又はその他の挿入が行われると、ポリマーシステムは水やその他のすぐ周りの生理流体に接触し、これらはポリマーシステムに進入して内部コアに接触する。いくつかの実施形態においては、コア材料はポリマーシステムからの薬剤の放出速度を減少する(これによってその制御が可能となる)マトリクスを作るように選択することができる。
【0055】
好ましい実施形態においては、ポリマーシステムからの薬剤の放出速度はマトリクス中の薬剤の透過度又は溶解度によって主として制限される。しかしながら、放出速度はその他の種々の性質や要因によって制御することができる。例えば、限定的ではないが、放出速度は拡散ポートの大きさ、ポリマーシステムの第二被覆層の透過度、内部コアの物理的性質、内部コア又は前記コア成分の溶解速度、又はポリマーシステムのすぐ周りを取り囲む生理流体中における薬剤の溶解度によって制御され得る。
【0056】
いくつかの実施形態においては、薬剤の放出速度は前述した性質の何れによっても主として制限され得る。例えば、いくつかの実施形態においては、薬剤の放出速度は拡散ポートの大きさによって制御され、又は更には主として制限され得る。所望の薬剤輸送速度に応じて、第一被覆層は薬剤の速い放出速度のために内部コアの表面積の小部分しか被覆しないようにすることができ(すなわち、拡散ポートは比較的大きい。)、或いは薬剤の遅い放出速度のために内部コアの表面積の大部分を被覆することができる(すなわち、拡散ポートは比較的小さい。)。
【0057】
放出速度を速くするために、第一被覆層は内部コアの表面積の約10%までを被覆することができる。いくつかの実施形態においては、放出速度を速くするために内部コアの表面積の約5〜10%が第一被覆層で被覆される。
【0058】
第一被覆層が内部コアの表面積の少なくとも25%、好ましくは表面積の少なくとも50%、より好ましくは75%、更により好ましくは表面積の85%又は95%を被覆するとき、いくつかの実施形態において所望の持続的放出を達成することができる。いくつかの実施形態においては、とりわけ生体適合性コア成分と生体液の両方に容易に溶解する薬剤の場合は、第一被覆層が内部コアの少なくとも98%又は99%を被覆するときに最適な持続的放出を達成することができる。従って、所望の薬剤放出速度を達成するために内部コアの表面積の何れの部分(100%を除く)も第一被覆層で被覆することができる。
【0059】
第一被覆層は、限定的ではないが、内部コアの上部、底部、又は何れの側部を含めて、内部コアのどこに位置しても良い。更に、上部と一側部、又は底部と一側部、又は上部と底部、又は両側部、又は上部、底部若しくは側部の任意の組合せで配置することができる。本明細書に記載のように、被覆層は内部コアのすべての側部を被覆し、比較的小さい未被覆部をポートとして残すこともできる。
【0060】
第一被覆層の組成は上述した制御放出を可能とするように選択される。第一層の好ましい組成は活性な薬剤、所望の薬剤放出速度及び投与方法のような要因に依存して変化し得る。活性な薬剤の特性は重要である。なぜならば(使用されるときは)その分子サイズが少なくとも部分的に第二被覆層への放出速度を決定し得るからである。
【0061】
上記実施形態のいくつかでは、内部コアからの薬剤放出速度は第二被覆層の透過度によって減少し得る。いくつかの実施形態においては、第二被覆層は薬剤を自由に透過させる。いくつかの実施形態においては、第二被覆層は薬剤に対して半透過性である。いくつかの実施形態においては、薬剤は第二被覆層中で約1×10-10cm/s未満の透過係数を有する。他の実施形態においては、第二被覆層中での透過係数は1×10-10cm/sを超え、更には1×10-7cm/sを超える。いくつかの実施形態においては、第二層中での透過係数は少なくとも1×10-5cm/sであり、又は更には少なくとも1×10-3cm/sであり、又は少なくとも1×10-2cm/sである。
【0062】
いくつかの実施形態においては、ポリマーシステムを生理系に挿入すると内部コアは相変化を受けてゲルへ転化する。この相変化は内部コアからの薬剤放出速度を減少させ得る。例えば、内部コアの少なくとも部分が最初に液体として与えられてゲルへ転化する場合、生体適合性コア成分のゲル相は液相よりも薬剤に対して透過性が低くなり得る。いくつかの実施形態においては、ゲル相中の生体適合性コア成分は液相中よりも薬剤に対する透過性が少なくとも10%、又は更には少なくとも25%低い。他の実施形態においては、析出した生体適合性固体は生体適合性流体よりも薬剤に対する透過性が少なくとも50%、又は更には少なくとも75%低い。いくつかの実施形態においては、内部コアと生理流体の相互作用が該コア中の薬剤の溶解度を変化させ得る。例えば、内部コアは生理流体との相互作用前に比べて薬剤に対する溶解度が少なくとも10%又は更には少なくとも25%低い。他の実施形態においては、ゲル相は溶解度が少なくとも50%、又は更には少なくとも75%低い。
【0063】
いくつかの実施形態においては、内部コアの生体適合性固体及び/又は流体成分が溶解する速度は薬剤放出速度に影響を与え得る。いくつかの実施形態においては、生体適合性成分が分解又は溶解するにつれて、薬剤放出速度は増大し得る。例えば、生体適合性コア成分の約10%未満が約6時間かけて分解し得る。これによって薬剤放出速度が約10%未満だけこの時間に増加し得る。いくつかの実施形態においては、生体適合性コア成分はよりゆっくりと(例えば、約24時間かけて、又は更には数日、数週、又は更には数ヶ月かけて約10%未満である。)分解又は溶解し得る。いくつかの実施形態においては、上記分解はより迅速に(例えば、約6時間かけて約10%より多く、いくつかの実施形態においては約6時間かけて25%より多い。)生じ得る。
【0064】
いくつかの実施形態においては、内部コアからの薬剤放出速度は薬剤と該コアの生体適合性固体成分との比(“薬物充填量”ともいう)によって制御することができる。薬物充填量を変化させることによって、異なった速度プロファイルを得ることができる。薬物充填量を増加すると放出速度が増加し得る。遅い放出プロファイルのために、薬物充填量を10%未満、好ましくは5%未満とすることができる。速い放出プロファイルのために、薬物充填量は10%超、好ましくは20%超、又は更には50%超とすることができる。
【0065】
従って、本発明における薬剤放出速度は上述した何れの性質又は何れのその他の要因によっても主として制限することができる。例えば、限定的ではないが、放出速度は拡散ポートの大きさ及び/又は位置、ポリマーシステム中の第一又は第二被覆層の透過度又はその他の性質、内部コアの物理的性質、生体適合性コア成分の溶解速度、内部コア中の薬剤の溶解度、ポリマーシステムのすぐ周りを取り囲む生理流体中における薬剤の溶解度等によって制御することができる。
【0066】
“〜によって(も)主として制限”という語句は本明細書にて使用されるときは本発明のシステムからの薬剤放出速度における律速段階に関連した要因を指す。例えば、限定的ではないが、放出速度(例えば、律速段階)がマトリクスの性質(例えば、拡散ポートの大きさ)の結果である場合は、放出速度はその性質に“よって主として制限”されると言える。いくつかの実施形態においては、本発明のデバイスは治療上有効量の少なくとも1種のアドレナリン作動薬を含有する徐放性処方物を利用する。そのような処方物は米国仮出願第60/442,499号に詳細に記載されている。そのような実施形態においては、アドレナリン作動薬は、例えば疎水性の粘性油として提供される、遊離塩基であるのが好ましい。本明細書では、“遊離塩基”という用語は、薬剤が水中に溶解すると主としてプロトン化した(塩の)形態で存在する塩基性窒素部分をもつ薬剤を意味する。この遊離塩基はpKaが約4より大きくて約14より小さい、好ましくは約5より大きくて約12より小さい共役酸を有する。限定的ではないが、塩基性窒素を典型的に含む部分としてはアミン、ヒドラジン、アニリン、ピリジン、アミジン、及びグアニジンが挙げられる。
【0067】
そのような実施形態のその他の処方物においては、治療剤はプロトン酸である。本明細書においては、“プロトン酸”という用語は、水溶液中で脱プロトン化して塩を形成することのできる部分(該部分のpKaは約4より大きく約14より小さい、好ましくは約5より大きくて約12より小さい。)を有する薬剤を意味する。限定的ではないが、酸性部分としてはカルボキシレート、ホスフェート、スルホンアミド、チオール、イミダゾール、及びイミドが挙げられる。
【0068】
塩の形態(例えば、プロトン酸の非プロトン化した形態及び遊離塩基のプロトン化した形態)にあるアドレナリン作動薬は好ましくは水への溶解度が高く、一方で、薬剤自体(例えば、プロトン酸又は遊離塩基)は好ましくは水への溶解度が低い。
【0069】
本明細書にて説明したように、遊離塩基の形態にある薬剤は“非荷電”又は“電荷的中性”の形態であると呼ばれ、プロトン化すると、上記薬剤は“荷電”“プロトン化”又は“塩”の形態であると呼ばれる。同様に、プロトン酸は“非荷電”又は“電荷的中性”の形態であると呼ばれ、脱プロトン化すると、この薬剤は“荷電”、“脱プロトン化”又は“塩”の形態であると呼ばれる。
【0070】
特定の機構によって縛られることを望まないが、遊離塩基が本発明の徐放性デバイスの内部コアから拡散して生理流体中でプロトン化すると所与の生理的部位で遊離塩基の薬剤の放出が生じることが予想される。プロトン化すると、薬剤は周囲の流体中に溶解する。プロトン酸を利用する実施形態においては、内部コアから酸が拡散して生理流体中で脱プロトン化すると薬剤の放出が生じ、脱プロトン化すると薬剤は迅速に流体中へ溶解することが予想される。何れの実施形態においても、薬剤放出速度は内部コアからの薬剤の拡散速度や荷電薬剤のすぐ周りの流体への溶解速度よりも薬剤のイオン化速度(例えば、遊離塩基のプロトン化速度又はプロトン酸の脱プロトン化速度)によって制御される。
【0071】
いくつかの実施形態においては、1種若しくは2種以上の好適なモノマーを薬剤と混合し、次いでモノマーを重合してポリマーシステムを形成することによって、被覆層はアドレナリン作動薬を有する実質的に均質系として形成することができる。このようにして、薬剤はポリマー中に溶解又は分散する。他の実施形態においては、薬剤は液状ポリマー又はポリマー分散体中に混合し、次いでこのポリマーを更に加工して本発明の被覆を形成する。更なる加工の好適なものとしては好適な架橋剤を用いた架橋、液状ポリマー又はポリマー分散体の更なる重合、好適なモノマーとの共重合、好適なポリマーブロックとのブロック共重合等が挙げられる。この更なる加工は、薬剤がポリマーシステム中に懸濁又は分散するように薬剤をポリマー中に閉じこめる。
【0072】
いくつかの実施形態においては、非電荷形態の薬剤の水への溶解度は10mg/mL未満であり、又は更には1.0mg/mL、0.1mg/mL、0.01mg/ml、又は0.001mg/ml未満である。いくつかの実施形態においては、塩の形態の薬剤は非荷電形態の薬剤に比べて水への溶解度が少なくとも10倍高く、又は更には少なくとも100倍、1,000倍又は好ましくは10,000倍高い。
【0073】
好適なアドレナリン作動薬には限定的ではないがブリモニジン、アプラクロニジン、ブナゾシン、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、レボブノロール、カルテオロール、イソプレナリン、フェノテロール、メチプラノロール、クレンブテロール、エピネフリン、及びジピベフリンが包含される。
【化1】

【0074】
好適なアドレナリン作動薬の更なる例にはプロプラノロール、イソプロテレノール、アテノロール、カルベジオール、メトプロロール、ナドロール、ソタロール、ベフノロール、ペンブトロール、ラベタロール、及びニプラドロールがある。心臓や肺のβ遮断剤、プロプラノロール、ラベタロール、及びイソプロテレノールもここで使用することができる。
【0075】
本発明の別の一実施形態では、患者の眼内又はその近傍への挿入に適合した徐放性薬物輸送デバイスを提供する。ここで、前記薬物輸送デバイスは:
(i) 少なくとも1種のアドレナリン作動薬を含む内部の薬物コアと;
(ii) 前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬の通過に対して不透過性であり、前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬が通って拡散することのできる一つ若しくは二つ以上の開口部を有し、体液中にて実質的に不溶性及び不活性であり、体組織に適合可能である第一被覆層と;
(iii)前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬の通過に対して透過性であり、体液中にて実質的に不溶性及び不活性であり、体組織に適合可能である一つ又は二つ以上の追加的な被覆層と;
を備える。
ここで、前記不透過性被覆層及び透過性被覆層は、挿入されたときに、前記デバイスからの前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬の放出速度が一定となるように内部コアの周囲に配置される。そのような徐放性デバイスは米国特許第5,378,475号に開示されている。
【0076】
’475号特許に記載されているデバイスの実施形態は薬物輸送に関連した多くの問題を解決するが、内部コアの被覆に適したポリマーは比較的柔らかいことが多く、均一なフィルムの製造において技術的な困難が生じる。このことは、円筒形のもののような角のある非球形体を被覆しようとするときに特に当てはまる。そのような場合は、連続した均一な被覆を達成するために比較的厚いフィルムを適用しなければならいが、これはデバイスに著しい嵩を加える。代替的に、フィルム被覆のこの加えられた嵩に対してはデバイスの内部容積を制限することによって順応可能であるが、これは輸送可能な薬物量を制限し、潜在的に効力と持続性の双方を制限する。
【0077】
デバイスの大きさの問題は眼内又はその近傍に挿入するためのデバイスの設計において極めて重要である。デバイスが大きくなれば挿入及び除去するのにより複雑な手順を必要とし、合併症、治癒又は回復期間の長期化、及び潜在的な副作用の危険性の増大を伴う。
【0078】
前述した米国特許第5,902,598号は、薬物コアを被覆しようとするのではなく、薬物組成物を予め作った殻の中に充填することにより、眼内又はその近傍に挿入するのに充分に小さいデバイスを製造する課題の解決策を提示している。しかしながら、この方法だと製造困難性の問題が生じる。とりわけ、薬物貯蔵室をすぐ取り囲む不透過性の内部被覆層は典型的に薄いので殻は自重を支えることができない。デバイスの大きさを小さくする観点、更には薬物貯蔵室を密封するというからは利益があるが、この内部層の相対的な軟弱性が貯蔵室に薬物を充填することを困難にする。この内部層は形状を変化させることなく薬物コアの導入を受け入れるための寸法安定性又は構造的強度を有していないので、デバイスを製造するために比較的固い薬物又は薬物含有混合物を使用しなければならない。自身の形状を保持しない内部層に薬物スラリーを充填すると、薬物スラリー及び内部層の組合せは製造中に損傷を与えずに取り扱うことが極度に難くなる結果になる。というのは内部層が崩壊して薬物含有混合物が流れ出るからである。水を入れたビニール袋の任務に例えることができる。
【0079】
米国特許第6,375,972号により詳細に記載されているが、本発明の更に別の実施形態は、少なくとも1種のアドレナリン作動薬を含む薬物コアを含有する内部貯蔵室と、薬物の通過に対して実質的に不透過性で前記薬物コアの少なくとも一部を被覆する内部管状被覆層とを備える徐放性薬物輸送システムを提供することによって上記問題に取り組む。本明細書において、“実質的に不透過性”という用語は、前記層が完全に薬物コアを被覆するならば、眼圧に影響を与えるのに充分な速度では前記層がアドレナリン作動薬を通過させないことを意味する。
【0080】
逆に、透過性の層はデバイスからアドレナリン作動薬を眼圧に影響を与えるのに充分な速度で通過させることになる。本発明は透過性の層を通じた拡散が実質的に不透過性の層を通じた拡散よりも速いという前提で機能することが理解されよう。
【0081】
内部管状被覆層は自重を支えることができるような大きさ及び材料でできており、第一及び第二末端を有する。こうして管状被覆層及びこの二つの末端が薬物貯蔵室を含有するための内部空間を形成する。実質的に不透過性の部材が第一末端に位置し、前記不透過性の部材はアドレナリン作動薬が第一末端を通って貯蔵室から出て行くのを防止し、透過性の部材が第二末端に位置し、これはアドレナリン作動薬が第二末端を通って貯蔵室から拡散するのを許容する。
【0082】
上記実施形態の薬物貯蔵室はデバイスの管状壁及びその末端によって形成された空間を占める。貯蔵室は1種又は2種以上の流体薬物コア組成物(例えば、限定的ではないが、アドレナリン作動薬を含有する溶液、懸濁液、スラリー、ペースト、又はその他の固形薬物処方物)で満たすことができる。貯蔵室は少なくとも1種のアドレナリン作動薬を含む非流体(例えば、ガム、ゲル又は固体)薬物コアで満たすこともできる。
【0083】
いずれにしても、アドレナリン作動薬が時間とともにデバイスから放出されると、薬物が溶解するにつれて物理的に崩壊する非流体薬物コアは貯蔵室の容積を完全に占めることをし続けなくなることが理解されよう。本発明者は、寸法安定性があり、自重を支えることのできる管は形状を変化させることなくその中に薬物コアを受け入れ、そして薬物が放出されるときに構造的完全性を保持できることを見出した。貯蔵室は比較的堅い管状の殻によって形成されるので、貯蔵室は形状及び大きさを維持し、そのため、薬物の拡散が起きるデバイスの領域の面積は変化しない。後記の式に記載するように、一定の拡散面積は一定の薬物放出に好都合である。
【0084】
製造中に薬物貯蔵室を保持するのに充分に堅い管材料を使用することは管及び貯蔵室の取り扱いをずっと容易にすることにも役立つ。というのは、貯蔵室が堅くなくてもこの管は充分に自重及び貯蔵室の重量を支えるからである。本発明にて使用する予め形成した管は単純な被覆層ではない、なぜならば被覆層は典型的には予め形成されず、自重を支えることができないからである。また、この実施形態の硬質構造は薬物スラリーを管内に引き込んで使用することを可能にし、より長い円筒形デバイスの製作が容易となる。更に、このような実施形態に従うデバイスの相対的な製造容易性によって、随意的に2種以上の薬物を含有する、二つ以上の貯蔵室を単一デバイスに組み込むことができる。
【0085】
本発明の使用中は、薬物コアの大きさ及び/又は形状は薬物が溶解してデバイスから拡散して出て行くと変化し得るけれども、薬物貯蔵室の容積を規定する管は実質的に一定の拡散面積を維持するのに充分に強く又は堅いので、デバイスからの拡散速度は薬物コアの寸法変化にかかわらず実質的に変化しない。例示的には、限定的ではないが、管が充分に堅いかどうかを確認する方法の例には本発明に係るデバイスを形成し、デバイスからの薬物の拡散速度を時間とともに計測することである。任意の特定時間にて、拡散速度がデバイスを横断する化学ポテンシャル勾配に基づいて予想される拡散速度から50%を超えて変化するときは、管は形状が変化して充分に堅くない。別の試験例は薬物が時間とともに拡散するときに、管が部分的に又は全体的に崩壊したことの形跡を探してデバイスを視覚的に検査することである。
【0086】
本発明に係る透過性又は不透過性の管の使用は逆流(すなわち、デバイスに戻り流れること)に対する抵抗力を与える。この一つ又は複数の管はアドレナリン作動薬が貯蔵室から出て行く前に大きなタンパク質がアドレナリン作動薬を結合、可溶化、又は分解するのを防止することを手伝う。また、この一つ又は複数の管は酸化及びタンパク分解を防止すること、並びにその他の生物剤が貯蔵室に進入して内容物を分解するのを防止することを手伝う。
【0087】
“貯蔵室”は、これが容器として働く意味でデバイスの内部容積を一般に指すこと、並びに“コア”は容器の内容物を一般に指すことが理解されよう。しかしながら、“コア”及び“貯蔵室”という用語は本発明のデバイスを記述する上で時として交換可能に使用される。なぜならば、最初に製造されたときは薬物コアとそれを含有する薬物貯蔵室は実質的に同一の広がりをもつからである。デバイスが使用中にアドレナリン作動薬を輸送するにつれて、固形の薬物コアは徐々に分解し、これを含有する薬物貯蔵室とは同一の広がりをもはや有しないことになろう。
【0088】
好ましい実施形態においては、主題の発明は病気又はその他の生理状態(例えば緑内障)を治療し又はその危険性を減少させるための方法及び組成物を提供する。本発明はとりわけ、塩の形態にて水溶性の高い治療剤を全身輸送するための徐放性組成物を企図する。好ましい実施形態においては、そのような水溶性の高い薬剤には塩酸ベタキソロールやマレイン酸チモロールのような抗緑内障剤が含まれる。
【0089】
さて、図面を参照するに、図1は本発明に係る薬物輸送デバイス100の縦断面図を示す。デバイス100は外部層110、内部管112、貯蔵室又は薬物コア114、及び内部キャップ116を含む。外部層110は好ましくは透過性の層であり、すなわち、外部層は貯蔵室114内に含有されているアドレナリン作動薬に対して透過性である。キャップ116は管112の一端に位置する。キャップ116は好ましくは実質的に不透過性の材料で形成される、すなわち、このキャップは貯蔵室114内に含有されているアドレナリン作動薬に対して不透過性である。キャップ116は内部管112の端118、120に連結され、このため、キャップ及び内部管は共に、貯蔵室114が位置する管内空間を閉じる。内部管112及びキャップ116は別々に作り、組み立てて一緒にすることができ、或いは内部管及びキャップは単一で一体型のモノリシックな要素として作ることができる。
【0090】
図1に示すように、外部層110は少なくとも部分的に、好ましくは完全に、管112及びキャップ116を取り囲む。外部層110は管112及びキャップ116、とりわけデバイス100の両端、を部分的に被覆するだけで充分だが、デバイスに構造的完全性を与え、製造及び取り扱いを更に容易にするために外部層は管及びキャップの双方を完全に包むように作るのが好ましい。デバイスが崩壊や分解し難くなるからである。図1は内部管112の外径と同じ外径のキャップ116を示しているが、キャップは、本発明のこの実施形態の精神及び範囲内で、内部管の外径よりも幾分小さく又は大きくすることができる。
【0091】
上述したように、貯蔵室114は内部管112の内側に位置する。第一末端122はキャップ116に接し、第一末端を通じて薬物が拡散しないようにキャップによって効果的に密閉される。キャップ116とは反対の貯蔵室114の末端で、貯蔵室は外部層110と直接接触するのが好ましい。当業者には容易に理解されることだが、貯蔵室114内に含有される非流体コアから炭酸脱水酵素抑制剤が放出されると、コアが収縮又は変形して、キャップ116とは反対の貯蔵室の末端で外部層110に完全又は直接に接触しないであろう。外部層110は貯蔵室114内のアドレナリン作動薬に透過性であるので、薬物は貯蔵室から該貯蔵室の開口末端にすぐ隣接する外部層110の部分内へと第一流路124に沿って自由に拡散する。外部層110から、薬物は流路126に沿って自由に拡散して外部層から出て行き、デバイス100が挿入された組織又はその他の解剖学的構造内へ入っていく。随意的に、貯蔵室114と透過性外部層110の間に追加的な流路126を加えるために内部層112を通る穴を形成することができる。
【0092】
図1は、デバイス100のいくつかの構成部品の相対的な位置のみを示しており、そして図示の簡単のために、外部層110及び内部管112は概ね同じ壁厚を有するものとして示している。この層及び壁の厚さは図示の簡単のために誇張されており、正しい比率で描かれていない。外部層110及び内部管112の壁は概ね同じ厚さとすることができるが、内部管の壁厚は、本発明の精神及び範囲内で、外部層に比べてかなり薄く又は厚くすることができる。更に、デバイス100は円筒形であるのが好ましく、横断面(図示せず)は円形の断面を示すだろう。デバイス100は円形断面をもつ円筒形として製造するのが好ましいが、キャップ116、アドレナリン作動薬貯蔵室114、内部管112、及び/又は外部層110にその他の断面(例えば、長円形、楕円形、長方形(正方形を含む)、三角形、並びにその他の正多角形又は不規則な形状)を与えるのも本発明の範囲内にある。更に、デバイス100は随意的に、更にキャップ116とは反対の末端にある第二キャップ(図示せず)を含むことができる。そのような第二キャップは製作中にデバイスの取り扱いを容易にするために使用することができ、貯蔵室114からのアドレナリン作動薬がデバイスから出て行くことを可能にする少なくとも一つの貫通穴を含む。代替的に、第二キャップは透過性材料で作ることができる。
【0093】
デバイスを涙小管への挿入に適合させる場合、内部管112、212、又は312は涙小管内に適した大きさとなろう。そして、キャップ116、242、又は316とは反対の末端に、涙点の外側に静止するような大きさとしたカラレットを設けて形成するのが好ましいであろう。薬物放出は好ましくは涙小管の外側に残ることが意図されたデバイスの領域に制限されるので、この実施形態では透過性外部層110、210又は310はデバイス全体を被覆する必要のないことが理解されよう。
【0094】
図2は本発明の上記実施形態の第二例に従うデバイス200を示す。デバイス200は不透過性の内部管212、アドレナリン作動薬コア214、及び透過性プラグ216を含む。デバイス200は随意的に、機械的完全性及び寸法安定性をデバイスに付し、且つ、デバイスの製造性及び取り扱い性を高める不透過性の外部層210含むのが好ましい。図2に示すように、薬物コア214は、上述したコア114及び内部管112と同様に、内部管212の内部に位置する。プラグ216は内部管212の一端に位置し、内部管の端218、220のところで内部管に連結する。プラグ216は、図2に示すように、半径方向に内部管212を超えて拡張することができ、プラグは代替的に内部管と実質的に同じ、又は若干短い半径方向の広がりを有することができ、これらは本発明の範囲内である。プラグ216は貯蔵室中に含有されるアドレナリン作動薬に対して透過性であるので、アドレナリン作動薬は貯蔵室からプラグを通って自由に拡散する。プラグ216は従って、貯蔵室からの主たる拡散通路230がプラグを通って行われるように、貯蔵室214の半径方向の広がりと少なくとも同じ大きさの半径方向の広がりを有していなければならい。下記するように、プラグ216とは反対の内部管212の端で、内部管は外部層210のみによって閉じられ又は密封される。随意的に、ディスク状とすることのできる実質的に不透過性のキャップ242をプラグ216とは反対の貯蔵室末端に配置することができる。設けられるときは、キャップ242及び内部管212は別々に作り、組み立てて一緒にすることができ、或いは内部管及びキャップは単一で一体型のモノリシックな要素として作ることができる。
【0095】
外部の管又は層210が設けられるときは、少なくとも部分的に、好ましくは完全に、内部管212、アドレナリン作動薬貯蔵室214、プラグ216、及び随意的なキャップ242を取り囲み又は包む(ポート224を定めるプラグにすぐ隣接する領域を除く。)。ポート224は、好ましい実施形態では、デバイスの外部からプラグ216へと繋がる穴又は出口のない穴である。外部層210は貯蔵室214内のアドレナリン作動薬に対して不透過性の材料でできているので、プラグ216とは反対の内部管212及び貯蔵室214の末端は効果的に密封され、貯蔵室からアドレナリン作動薬が流れる拡散通路を有しない。好ましい実施形態によれば、ポート224は、貯蔵室214の端222とは反対側のプラグの端238に、プラグ216にすぐ隣接して形成される。従って、プラグ216及びポート224はそれぞれプラグを通ってデバイス200から出て行く拡散通路230,232を有する。
【0096】
図2に示された実施形態におけるポート224は内部管212と概ね同じ半径方向の広がりをもつが、当業者には容易に理解できるように、このポートはより大きく又はより小さくすることができる。例えば、外部層210の部分228、230の間に放射状にポート224を形成する代わりに、ポート224の領域を増加させるために上記部分228、230を線226まで除去することができる。プラグ216の放射状外表面240の被覆(従って密封)を一部のみ行う又は全く行わないように伸びる外部層210を形成し、これによってプラグの外部表面積の一部又は全部を含むようにポート224の全表面積を増加させることによってポート224を更に拡大することができる。
【0097】
本発明の更に別の実施形態においては、プラグの端238にすぐ隣接して形成するのに加えて、又はそれに換えて、デバイス200のポート224はプラグ216の放射状外表面240にすぐ隣接して形成することができる。図4に示すように、ポート224はプラグ216から離れて放射状に広がる部分234、236を含むことができる。上記部分は、図4の下半分に示すように、外部層210によって包まれていない大きい、連続的な、円周方向の及び/又は長軸方向のプラグ216の部分236を有することができ、及び/又は、図4の上半分に示すように、多数の小さい、円周方向に間隔の空いた部分234を有することができる。有利には、プラグ216の放射状外表面240にすぐ隣接したポート224をプラグに対する多数の小さな開口部234として設けることによって、ポートが部分的に閉塞したときにアドレナリン作動薬がデバイス200から拡散するための多数の代替的な通路が与えられる。しかしながら、より大きな開口部236は、ポート224を形成するのにプラグ216の単一領域のみが露出すればよいので相対的に製造容易性の恩恵を受ける。
【0098】
本発明の更に別の実施形態においては、プラグ216は実質的に不透過性の材料で作り、外部層210を透過性の材料で作る。内部層212、キャップ242、及びプラグ216の一つ又は二つ以上を貫通する一つ又は複数の穴を例えばドリルによって形成する。これによってアドレナリン作動薬が貯蔵室214から外部層210を通って放出されることが許容される。別の実施形態においては、プラグ216を切り離して排除し、透過性の外部層210が内部管212及び(もし設けられれば)キャップ242を完全に包む。従って、拡散通路230、232は外部層210を通り、ポート224のような個別のポートは不要となる。外部の層又は管210で他の構造を完全に包むことによって、システム200は更なる寸法安定性が与えられる。更に、随意的にプラグ216をそのまま置いておくことができ、外部層210はこのプラグも包むことができる。
【0099】
本発明の更に別の実施形態においては、内部管212は透過性の材料で作り、外部層210は不透過性の材料で作り、そしてキャップ242は透過性又は不透過性の材料で作る。随意的に、キャップ242は排除することができる。上述したように、外部層210は貯蔵室214内のアドレナリン作動薬に対して不透過性であるため、デバイス200からアドレナリン作動薬が通過するための通路はプラグ216、ポート224、及び随意的なポート234、236のみである。
【0100】
デバイス200の形状は、デバイス100に関して上述したのと同様に、多数の形及び幾何学的形状の何れかとすることができる。更に、デバイス100及びデバイス200は共に、複数の内部管112、212の中に包含される複数の貯蔵室114、214をそれぞれ有することができ、この複数の貯蔵室はデバイスから拡散させるための異なるアドレナリン作動薬、又はアドレナリン作動薬に加えて縮瞳薬のような眼用薬物を含むことができる。デバイス200においては、複数の貯蔵室214は単一のプラグ216のみに対して接するように位置することができ、或いは各貯蔵室214は各貯蔵室専用のプラグを有することができる。当業者には容易に理解できるように、上記複数の貯蔵室は単一の外部層110、210内に包まれることができる。
【0101】
図3に移ると、図3は本発明の第三の例示的な実施形態に係るデバイス300を示す。デバイス300は透過性の外部層310、実質的に不透過性の内部管312、貯蔵室314、実質的に不透過性のキャップ316、及び透過性のプラグ318を含む。ポート224及びプラグ216に関して上述したように、ポート320はデバイスの外部と共にプラグ318に連通する。内部管312及びキャップ316は別々に作り、組み立てて一緒にすることができ、或いは内部管及びキャップは単一で一体型のモノリシックな要素として作ることができる。透過性の外部層310とすることによって貯蔵室又は薬物コア314内のアドレナリン作動薬がポート320に加えて外部層を通って流れることができ、こうして全体の輸送速度を上昇させるのを手伝う。もちろん、当業者には容易に理解できるように、プラグ318の透過度が薬物輸送速度を主として調節するものであり、しかるべく選択される。更に、外部層310を形成する材料は内部構造たるキャップ316、管312、及びプラグ318に接着し、且つ、全体の構造をまとめて保持する能力を求めて具体的に選択することができる。随意的に、貯蔵室314からのアドレナリン作動薬の流速を増加させるために内部管312を貫通する一つ又は複数の穴322を設けることができる。
【0102】
デバイスの耐用寿命を最大限にするために、好ましい処方物は効果的な拡散速度を保持しつつできるだけ多量の活性な薬剤を含有するものであろう。例示的に、非塩の形態のアドレナリン作動薬を少なくとも90%含有する稠密な圧縮された固体が好ましい薬物コア処方物であろう。
【0103】
多数の材料が本発明のデバイスを組み立てるのに用いることができる。本明細書にて記載のように、これらは不活性で、非免疫原性で、所望の透過度を有することのみが要求される。
【0104】
別の一実施形態では、単一の外部層のみの使用が必要である。図6はそのような実施形態を示しており、徐放性デバイス(プロダクト612)は外部の層又は膜614及び内部コア616を含む。
【0105】
デバイス100、200、300、及び712を製作するのに好適な材料には体液及び/又は眼の組織に対して生体適合性があり、材料が接触することになる体液中で本質的に非溶解性である天然又は合成の材料が包含される。外部層110,210、310の溶解は薬物放出の定常性、並びにシステムが長期間適所に留まる能力に影響を与えるので溶解の速い材料又は眼液に高溶解性の材料の使用は避けるべきである。
【0106】
体液及び眼の組織に対して生体適合性があり、材料が接触することになる体液中で本質的に非溶解性である天然又は合成の材料には、限定的ではないが:エチル酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリビニルブチレート、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、可塑化エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン・塩化ビニル共重合体、ポリビニルエステル、ポリビニルブチレート、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、可塑化ポリ塩化ビニル、可塑化ナイロン、可塑化ソフトナイロン、可塑化ポリエチレンテレフタレート、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、架橋ポリビニルピロリドン、ポリトリフルオロクロロエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリ(1,4’−イソプロピリデンジフェニレンカーボネート)、塩化ビニル−ジエチルフマレート共重合体、シリコンゴム、特に医療グレードのポリジメチルシロキサン、エチレン−プロピレンゴム、シリコン−カーボネート共重合体、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、金、白金、及び(外科用)ステンレススチールが挙げられる。
【0107】
具体的には、デバイス200の外部層210は、上述したポリマーの何れか、或いは体液及び眼の組織に対して生体適合性があり、材料が接触することになる体液中で本質的に非溶解性であり、アドレナリン作動薬の通過に対して透過性であるその他の何れのポリマーで作ることができる。
【0108】
内部管112、212、312が、上述したように、内部コア又は貯蔵室からデバイスの隣接部分へのアドレナリン作動薬の通過に対して実質的に不透過性であるように選択されるとき、その目的はデバイスの上記部分を通じたアドレナリン作動薬の通過を遮断し、これによりデバイスからのアドレナリン作動薬の放出を外部層とプラグ216及び318の選択された領域に制限することである。
【0109】
外部層110の組成(例えばポリマー)は好ましくは上述した制御放出が可能となるように選択される。外部層110及びプラグ216の好ましい組成はアドレナリン作動薬の特性、所望の放出速度、及び埋植若しくは挿入方法といった因子に応じて変化するだろう。活性な薬剤の特性は重要である。これが所望の治療濃度を決定するからであり、分子の物理化学的性質は外部層110及びプラグ216へ入って通過する薬剤の放出速度へ影響を与える因子の一つだからである。
【0110】
キャップ116、242、316はアドレナリン作動薬の通過に対して実質的に不透過であり、外部層によって被覆されていない内部管の部分を被覆する。キャップに用いられる材料(好ましくはポリマー)の物理的性質は、デバイスを変形することなく後の処理工程(例えば熱硬化)に耐える能力に基づいて選択することができる。実質的に不透過性の外部層210用の材料(例えばポリマー)は内部管212を被覆する容易さに基づいて選択することができる。キャップ116及び内部管112、212、312は独立に、PTFE、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリエレート、ポリエチレンアルコール、高グレードエチレン酢酸ビニル(9%のビニル量)、及びポリビニルアルコール(PVA)を含む多くの材料の何れで作ることもできる。プラグ216、318は、以下に示すように、架橋PVAを含む多くの材料の何れで作ることもできる。
【0111】
デバイスの外部層110、210、310、及びプラグ216、318は体液及び組織に生体適合性であり、材料が接触することになる体液中で本質的に非溶解性でなければならず、外部層110及びプラグ216、318はアドレナリン作動薬の通過に対して透過性でなければならない。
【0112】
アドレナリン作動薬は化学ポテンシャルの低い方、すなわちデバイスの外部表面へ拡散する。デバイスの外部表面のところで、平衡が再び成立する。外部層110又はプラグ216、318の両側面における条件が一定に維持されるとき、フィックの拡散則に従ってアドレナリン作動薬の定常状態の流束が確立するだろう。拡散によって材料を通る薬物の通過速度は一般には薬物の材料への溶解度、並びに壁厚に依存する。このことは、外部層110及びプラグ216の製作するための適切な材料の選択は、用いられる特定のアドレナリン作動薬に依存することを意味する。
【0113】
本発明のポリマー層を通過するアドレナリン作動薬の拡散速度はシンク条件下で行う拡散セル試験により決定することができる。シンク条件下で行われる拡散セル試験では、供与体コンパートメント内の高濃度に比べて受容体コンパートメント内の薬物濃度は本質的にゼロである。この条件下にて、薬物放出速度は:
Q/t = (D・K・A・DC)/h
(式中、Qは薬物の放出量、tは時間、Dは拡散係数、Kは分配係数、Aは表面積、DCは膜間の薬物濃度差、及びhは膜厚である。)
によって与えられる。
【0114】
薬剤が水で満たされた孔を通って層中を拡散する場合は、分配現象はない。従って、Kは式から除外することができる。シンク条件下では、供与体側からの放出が非常に遅いとき、DC値は本質的に一定で供与体コンパートメントの濃度に等しい。それ故、放出速度は膜の表面積(A)、厚さ(h)、及び拡散係数(D)に依存するようになる。表面積は特定のデバイスの大きさの関数であり、この大きさはアドレナリン作動薬の薬物コア又は貯蔵室の所望の大きさに依存する。
【0115】
従って、透過度値はQ対時間のプロットの傾きから得ることができる。透過度Pは拡散係数Dに:
P = (K・D)/h
によって関係付けることができる。
【0116】
薬剤の通過に対して透過性の材料に対して透過度がいったん確立すると、薬剤の通過に対して不透過性の材料で被覆しなければならない薬剤の表面積を決定することができる。所望の放出速度が得られるまで利用可能な表面積318を漸次減少させることによって行うことができる。
【0117】
外部層110及びプラグ216、318として使用するのに適した微細多孔性の材料の例は例えば、米国特許第4,014,335号に記載されている。これらの材料には限定的ではないが架橋ポリビニルアルコール、ポリオレフィン又はポリ塩化ビニル又は架橋ゼラチン;再生、不溶性、非分解性セルロース、アクリル化セルロース、エステル化セルロース、酢酸セルロースプロピオナート、酢酸セルロースブチレート、酢酸セルロースフタレート、酢酸セルロースジエチルアミノアセタート;ポリウレタン、ポリカーボネート、及び、ポリカチオン及びポリアニオン改質不溶性コラーゲンの共沈によって生成した微細多孔性ポリマーが包含される。外部層110及びプラグ216、318の両方に対して架橋ポリビニルアルコールが好ましい。デバイスの不透過性部分(例えば、キャップ116及び内部管112、212)はPTFE又はエチルビニルアルコールで作られるのが好ましい。
【0118】
本発明の薬物輸送システムは、眼用インプラント及びデバイスに関して当業者に知られた任意の方法によって眼内又はその近傍に挿入することができる。一つ又は複数のデバイスを一度に投与することができ、或いは複数種の薬剤を内部コア又は貯蔵室内に含めることができ、或いは複数の貯蔵室を単一デバイス内に設けることができる。
【0119】
眼内(例えば、硝子体眼房)への挿入が意図されたデバイスは治療が完了した後に硝子体に永久に残しても良い。そのようなデバイスは数日から5年間にわたるアドレナリン作動薬の持続的放出を与えることができる。幾つかの実施形態においては、少なくとも1種の薬剤の持続的放出が1ヶ月間以上、更には1年間以上生じ得る。
【0120】
上記デバイスが眼の硝子体内に挿入するように作製されるときは、デバイスは何れの方向にも約7ミリメートルを超えないのが好ましい。従って、図1及び2に示した円筒形デバイスは高さが3ミリメートル、直径が3ミリメートルを超えないのが好ましく、より好ましくは直径が1mm未満、より好ましくは直径が0.5mm未満である。内部管112、212の好ましい壁厚は約0.01mm〜約1.0mmの範囲である。外部層110の好ましい壁厚は約0.01mm〜約1.0mmの範囲である。外部層210の好ましい壁厚は約0.01mm〜約1.0mmの範囲である。デバイスに含有される薬物量を最大化し、薬物放出の持続期間を最大化するために、本発明の種々の実施形態の内部の薬物含有コアは好ましくは高い比率のアドレナリン作動薬を含有する。従って、いくつかの実施形態においては、薬物コアは、結晶又は非晶質の形態の1種又は2種以上のアドレナリン作動薬で完全に構成されることができる。
【0121】
上で指摘したように、アドレナリン作動薬は中性の形態で存在することができ、或いは薬理学的に許容される塩、コドラッグ、又はプロロラッグの形態とすることができる。アドレナリン作動薬がコアの100%未満を占める場合に、存在可能な好適な添加剤には限定的ではないが、ポリマーマトリクス(例えば、溶解速度を制御し又は使用中にコアの形状を維持するため)、結合剤(例えば、デバイスの製造中にコアの完全性を維持するため)、及び追加的な薬剤(例えば、縮瞳薬又はPGF−2αアナログ)が包含される。
【0122】
いくつかの実施形態においては、薬物の含有量をやはり最大化するために、内部コアは固体であり、実現可能な最高密度まで圧縮される。代替的な実施形態では、薬物コアは固体としなくてもよい。非固体の形態には、限定的ではないがガム、ペースト、スラリー、ゲル、溶液、及び縣濁液が挙げられる。薬物コアは貯蔵室に一つの物理的状態で導入され、その後にその他の状態を呈し得ること(例えば、固体薬物コアを溶融状態で導入することができ、流動状又はゼラチン状の薬物コアを凍結状態で導入することができる。)が理解されよう。
【0123】
所与のアドレナリン作動薬の好ましい放出速度は当然ながら特定の薬剤の潜在力のみならず、デバイスの場所及び眼から薬剤が除去される速度にも依存する。眼の中に設置されたデバイスはアドレナリン作動薬が涙で流されて損失することによる影響を受けにくく、薬剤が角膜を貫通する速度によって制限されることはないだろう。結果として、該デバイスは、眼の外部に埋植されたデバイスよりも遅い放出速度で、毛様体突起内で効果的な薬物濃度を維持することができる。また、長期作用のアドレナリン作動薬は治療上有効濃度を維持するためにより遅い放出速度を必要とするだろう。
【0124】
また、本発明は、患者の眼内又はその近傍に上述した徐放性薬物デバイスを埋植することを含む、患者にアドレナリン作動薬を投与する方法を提供する。
【0125】
本発明の上述した実施形態は有効な薬剤量、好ましい層の厚さ、及びデバイスの寸法の好ましい範囲の観点で記載したが、これらの好ましい範囲は決して本発明を限定することを意味するものではない。当業者には容易に理解できることだが、好ましい量、材料及び寸法は投与方法、使用される有効な薬剤、使用されるポリマー、所望の放出速度等に依存する。同様に、実際の放出速度及び放出持続期間は上記に加えて、治療する病状、患者の年齢及び状態、投与経路、並びに当業者に容易に理解できるその他の要因といった種々の要因に依存する。
【0126】
これまでの記載から、当業者であれば容易に本発明の本質的な特徴を突き止めることができ、本発明の精神の範囲から逸脱することなく、種々の使用法や条件に適合するように本発明の様々な変形及び/又は改良を行うことができる。従って、これらの変形及び/又は改良は適切に、衡平に以下の特許請求の範囲の均等の全範囲にあり、それが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明に係る徐放性薬物輸送デバイスの一実施形態の拡大断面図である。
【図2】本発明に係る徐放性薬物輸送デバイスの第二の実施形態の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る徐放性薬物輸送デバイスの第三の実施形態の拡大断面図である。
【図4】図2の実施形態を線4−4で切り取った断面図である。
【図5】涙管内に挿入するのに適合した、本発明に係る徐放性薬物輸送デバイスの断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) アドレナリン作動薬を含む内部の薬物コアと;
(ii) 前記アドレナリン作動薬の通過に対して実質的に不透過性であり、前記アドレナリン作動薬の拡散を許容する一つ若しくは二つ以上の開口部を有し、体液中にて実質的に不溶性及び不活性であり、体組織に適合可能である、前記薬物コアの表面上の第一被覆層と;
(iii)前記アドレナリン作動薬の通過に対して透過性であり、体液中にて実質的に不溶性及び不活性であり、体組織に適合可能である、一つ又は二つ以上の追加的な被覆層と;
を備える患者の眼内又はその近傍への埋植に適合した徐放性薬物輸送デバイス
(ここで、第一及び追加的な被覆層は、埋植されたときに、前記デバイスからの前記アドレナリン作動薬の放出速度を実質的に一定とするために前記内部の薬物コアの周囲に配置される。)。
【請求項2】
(i) アドレナリン作動薬を含む内部の薬物コアと;
(ii) 前記アドレナリン作動薬の通過に対して実質的に不透過性であり、前記アドレナリン作動薬の拡散を許容する一つ若しくは二つ以上の開口部を有し、体液中にて実質的に不溶性及び不活性であり、体組織に適合可能である、前記薬物コアの表面上の第一被覆層と;
(iii)前記アドレナリン作動薬の通過に対して透過性であり、体液中にて実質的に不溶性及び不活性であり、体組織に適合可能である、一つ又は二つ以上の追加的な被覆層と;
を備える患者の眼内又はその近傍への埋植に適合した徐放性薬物輸送デバイス
(ここで、前記不透過性の被覆層はその形状を変化させずにアドレナリン作動薬のコアで満たされるのに充分な寸法安定性を有する。)。
【請求項3】
前記不透過性の被覆層はその形状を変化させずにアドレナリン作動薬のコアで満たされるのに充分な寸法安定性を有する請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
眼の毛様体にアドレナリン作動薬を投与する方法であって、眼内又はその近傍に徐放性デバイスを埋植することを含み、これによって前記デバイスはアドレナリン作動薬を眼の毛様体に輸送し、毛様体内での前記アドレナリン作動薬の濃度は少なくとも30日間は治療上有効な濃度に維持される方法。
【請求項5】
眼の毛様体にアドレナリン作動薬を投与する方法であって、眼内又はその近傍に請求項1〜3又は14の何れか一項に記載の徐放性デバイスを埋植することを含み、これによって前記デバイスはアドレナリン作動薬を眼の毛様体に輸送し、毛様体内での前記アドレナリン作動薬の濃度は少なくとも30日間は治療上有効な濃度に維持される方法。
【請求項6】
毛様体内のアドレナリン作動薬の濃度が少なくとも180日間は治療上有効な濃度に維持される請求項4に記載の方法。
【請求項7】
毛様体内のアドレナリン作動薬の濃度が少なくとも180日間は治療上有効な濃度に維持される請求項5に記載の方法。
【請求項8】
毛様体内のアドレナリン作動薬の濃度が少なくとも360日間は治療上有効な濃度に維持される請求項4に記載の方法。
【請求項9】
毛様体内のアドレナリン作動薬の濃度が少なくとも360日間は治療上有効な濃度に維持される請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記アドレナリン作動薬がブリモニジン、アプラクロニジン、ブナゾシン、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、レボブノロール、カルテオロール、イソプレナリン、フェノテロール、メチプラノロール、クレンブテロール、エピネフリン、及びジピベフリンよりなる群から選択される請求項1〜4、6及び8の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記アドレナリン作動薬がブリモニジン、アプラクロニジン、ブナゾシン、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、レボブノロール、カルテオロール、イソプレナリン、フェノテロール、メチプラノロール、クレンブテロール、エピネフリン、及びジピベフリンよりなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記アドレナリン作動薬がブリモニジン、アプラクロニジン、ブナゾシン、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、レボブノロール、カルテオロール、イソプレナリン、フェノテロール、メチプラノロール、クレンブテロール、エピネフリン、及びジピベフリンよりなる群から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記アドレナリン作動薬がブリモニジン、アプラクロニジン、ブナゾシン、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、レボブノロール、カルテオロール、イソプレナリン、フェノテロール、メチプラノロール、クレンブテロール、エピネフリン、及びジピベフリンよりなる群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項14】
(i) 少なくとも1種のアドレナリン作動薬を含む内部の薬物コアと;
(ii) 前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬の通過に対して実質的に不透過性であり、前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬の拡散を許容する一つ若しくは二つ以上の開口部を有し、体液中にて実質的に不溶性及び不活性であり、体組織に適合可能である、前記薬物コアの表面上の被覆層と;
を備える患者の眼内又はその近傍への挿入に適合した徐放性薬物輸送デバイス
(ここで、前記被覆層は、挿入されたときに、前記デバイスからの前記アドレナリン作動薬の放出速度を実質的に一定とするために前記内部の薬物コアの周囲に配置される。)。
【請求項15】
前記内部の薬物コアはポリマーマトリクスと混合される請求項14に記載の徐放性薬物輸送デバイス。
【請求項16】
前記ポリマーマトリクスは生分解性である請求項15に記載の徐放性薬物輸送デバイス。
【請求項17】
前記デバイスが前記内部の薬物コアと前記被覆層を同時押出することによって形成される請求項14に記載の徐放性薬物輸送デバイス。
【請求項18】
(i) 少なくとも1種のアドレナリン作動薬を含む内部の薬物コアと;
(ii) 前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬の通過に対して部分的に又は実質的に透過性であり、前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬の拡散を助ける一つ若しくは二つ以上の開口部を有し、体液中にて実質的に不溶性及び不活性であり、体組織に適合可能である、前記薬物コアの表面上の被覆層と;
を備える患者の眼内又はその近傍への挿入に適合した徐放性薬物輸送デバイス
(ここで、前記被覆層は、挿入されたときに、前記デバイスからの前記少なくとも1種のアドレナリン作動薬の放出速度を実質的に一定とするために前記内部の薬物コアの周囲に配置される。)。
【請求項19】
前記内部の薬物コアがポリマーマトリクスと混合される請求項18に記載の徐放性薬物輸送デバイス。
【請求項20】
前記ポリマーマトリクスが生分解性である請求項19に記載の徐放性薬物輸送デバイス。
【請求項21】
前記デバイスが前記内部の薬物コアと前記被覆層を同時押出することによって形成される請求項20に記載の徐放性薬物輸送デバイス。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−516618(P2006−516618A)
【公表日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502933(P2006−502933)
【出願日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/001718
【国際公開番号】WO2004/066979
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(501224877)コントロール・デリバリー・システムズ・インコーポレイテッド (15)
【Fターム(参考)】