説明

アナプラズマ科の細菌種を培養する方法

本発明は、哺乳動物胚性または胎児性細胞におけるアナプラズマ(Anaplasmataceae)科に属する細菌生物の培養方法に関する。特に、本発明は、アナプラズマ(Anaplasma)属、エーリキア(Ehrlichia)属及びネオリケッチア(Neorickettsia)属に属する生物を含めたアナプラズマ科に属する細菌生物の増殖に関する。細菌生物はネコ胚性宿主細胞を含めた哺乳動物胚性または胎児性宿主細胞中で培養され得る。本明細書中に記載されている方法に従って培養した細菌材料は、アナプラズマ科細菌に関連する疾患に対するワクチンの基礎として、またはアナプラズマ科細菌に関連する疾患を診断するために有用な診断用途の基礎として使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物胚性または胎児性細胞(例えば、ネコ胚性または胎児性細胞)におけるアナプラズマ(Anaplasmataceae)科に属する細菌生物の培養方法に関する。特に、本発明は、アナプラズマ(Anaplasma)属、エーリキア(Ehrlichia)属、ネオリケッチア(Neorickettsia)属及びウルバキア(Wolbachieae)属に属する生物を含めたアナプラズマ科に属する細菌生物の増殖に関する。前記細菌生物は哺乳動物胚性または胎児性細胞(例えば、ネコ胚性または胎児性宿主細胞)中で培養され得る。本明細書中に記載されている方法に従って培養した細菌材料はアナプラズマ科細菌に関連する疾患用ワクチンの基礎として使用され得る。
【背景技術】
【0002】
アナプラズマ科の細菌は絶対的細胞内寄生体である。よって、これらの微生物はしばしば増殖させにくく、これらの微生物に起因する疾患を診断することは困難である。これらの微生物の増殖が困難であるために、ワクチン抗原を大規模に作成するには費用がかかり、時には不可能である。アナプラズマ科の細菌はヒト及び動物のベクター伝染性疾患の病原菌である。これらは大抵マダニのような無脊椎ベクターにより伝染している。アナプラズマ科の中で、アナプラズマ属、エーリキア属、ネオリケッチア属及びウルバキア属の微生物がベクター伝染性疾患の原因菌であり、増殖、特に大規模に増殖させるのが困難である。リケッチア(Rickettsieae)属に属する細菌種はアナプラズマ科の範囲に含まれない。
【0003】
アナプラズマ症は米国に固有のウシの主要なマダニ媒介性疾患である。原因菌であるアナプラズマ・マジナーレ(Anaplasma marginale)はウシの赤血球に侵入し、繁殖し、中程度〜重度の貧血を生じさせる。ウシの群れに影響を与えるアナプラズマ症による年間の死亡率及び罹患率により、例えば急性感染中の体重減少及び増える獣医コストのために何百万ドル分の損害が生じている。例えば、Palmer in Veterinary Protozoan and Hemoparasite Vaccines,J.G.Wright(編),フロリダ州ボカ・ラトンに所在のCRC Press Inc.,1989を参照されたい。
【0004】
アナプラズマ・ファゴサイトフィルム(Anaplasma phagocytophilum)は、ヒツジ、ウシ及びバイソンにおいてマダニ媒介性性発熱を引き起こし、イヌダニ(I.ricinis)により媒介される。例えば、参照により本明細書に組み入れる米国特許第6,284,238号を参照されたい。赤血球細胞を侵すアナプラズマ・マジナーレと対照的に、アナプラズマ・ファゴサイトフィルムは顆粒球を侵す。
【0005】
エーリキア細菌はアナプラズマ種に密接に関連している。その生物学的ベクターが公知であるエーリキア細菌、例えばエーリキア・カニス(E.canis)はマダニにより伝染する。アナプラズマ・ファゴサイトフィルムは哺乳動物宿主においてむしろ顆粒球を侵すが、エーリキア・カニスはむしろ単核白血球を侵す。典型的には、アナプラズマ及びエーリキアはそれぞれの宿主細胞の膜結合液胞内に含まれている。
【0006】
最初に認められたエーリキア種はエーリキア・カニスであった。エーリキア・カニスは、ベクターのマダニ、すなわちリピセファルス・サングイネウス(Rhipicephalus sanguineus)(褐色犬ダニ)が生息している世界中のすべての地域で発生している。エーリキア・カニスが引き起こす疾患は時にイヌ熱帯性汎血球減少症と称されている。世界のすべての温暖地域、例えば南米、中央及び南アフリカ、地中海及び南アジアで特に問題である。エーリキア・カニスはイヌ細胞株DH82及びヒト−イヌハイブリッド細胞株中で培養され得る(例えば、Rikihisa,Y.,1991,Clinical Microbiology Reviews,4:286を参照されたい)。エーリキア・カニスのいろいろな株が全文参照により本明細書に組み入れる米国特許出願第2006/0188524号にリストされている。エーリキア・シャフェンシスはヒトエーリキア症に関連している。Maeda,K.ら,1987,N.Eng.J.Med.,316:853;Dawson,J.E.ら,1991,J.Clin.Microbiol.29:2741を参照されたい。エーリキア・シャフェンシスはDH82細胞中でも培養され得る。
【0007】
ネオリケッチア細菌はエーリキア細菌及びアナプラズマ細菌に密接に関連している。ネオリケッチア種にはネオリケッチア・リスチシ(N.risticii)及びネオリケッチア・センネツ(両方とも以前はエーリキア属に分類されていた)が含まれる。ネオリケッチア・リスチシはポトマック馬熱の原因菌である。この疾患が北米、フランス及びインドで発生していることは公知である。ネオリケッチア・リスチシはマクロファージ−単球細胞株(例えば、P388D、T−84及びU937)中で増殖され得る。ネオリケッチア・センネツはヒトのセンネツリケッチア症の原因菌である。ネオリケッチア・センネツはネズミ及びヒト細胞株(例えば、P388D、L929及びHeLa)中で増殖する。
【0008】
アナプラズマ科の細菌生物の感染は直接顕微鏡検査及び/または血清診断により診断され得る。抗体を用いる治療が有効であり得る。ネオリケッチア・リスチシから防御するためのウマワクチンは市販されている。Compendium of Veterinary Products,第6版,Aurora Arrioja編,ミシガン州ポートヒュロンに所在のNorth American Compendiums,Ltd.(2001)を参照されたい。アナプラズマ症から防御するためのウシワクチンも少なくとも1つ市販されている。上記を参照されたい。しかしながら、エーリキア・カニスのような細菌生物に起因する他の疾患を大規模に予防するためのワクチンは製造も市販もされていない。現在、エーリキア・カニス用ワクチンは市販されていないと認められる。
【0009】
特定のリケッチア生物を各種宿主細胞中で増殖させる努力がなされている。全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,192,679号は、イヌ単球マクロファージ細胞株DH82中のDH82細胞の増殖を支えるインビトロ培地を用いるエーリキア・カニスの連続増殖に関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国公開出願第2005/0202046号は、エーリキア・カニスをDH82細胞中で培養したエーリキア・カニスワクチンに関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,401,656号は、不死化ヒト内皮細胞株中でのエーリキア・シャフェンシス及びエーリキア・カニスの増殖に関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,869,335号は、イクソデス・スカプラリス(Ixodes scapularis)細胞株中での特定のリケッチア細菌の培養に関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,989,848号は、特定のエーリキア種の不死化ヒト内皮細胞株での増殖に関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第3,616,202号は、アナプラズマ・マジナーレの家兎骨髄組織培養物中での増殖に関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国公開特許出願第2006/0057699号は、特定のアナプラズマ種の哺乳動物細胞中での増殖に関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国公開特許出願第2003/0003508号は、リケッチア・プリシス(Rickettsia pulicis)細菌のアメリカツメガエル(Xenopus laevis)細胞株での培養に関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,955,359号及び同第5,976,860号は、リケッチア目に属する特定の細菌種の特定の哺乳動物細胞株中での培養に関する。全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,877,159号は、動物細胞に遺伝子を特定の生浸潤性細菌ベクターを用いて導入し、発現させる方法に関する。
【0010】
不活化エーリキア・カニス生物を用いるイヌエーリキア症に対するイヌの免疫化を検討した論文が提出されている。ジンバブエ大学の獣医学科に(1997年5月)提出されたSunita Mahanの論文“Immunisation of German shepherd dogs against canine ehrlichiosis using inactivated Ehrlichia canis organisms”。この論文はβ−プロピオラクトン不活化エーリキア・カニス生物とQuill Aの併用を検討している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,284,238号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0188524号明細書
【特許文献3】米国特許第5,192,679号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0202046号明細書
【特許文献5】米国特許第5,401,656号明細書
【特許文献6】米国特許第5,869,335号明細書
【特許文献7】米国特許第5,989,848号明細書
【特許文献8】米国特許第3,616,202号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2006/0057699号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0003508号明細書
【特許文献11】米国特許第5,955,359号明細書
【特許文献12】米国特許第5,976,860号明細書
【特許文献13】米国特許第5,877,159号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Palmer in Veterinary Protozoan and Hemoparasite Vaccines,J.G.Wright(編),CRC Press Inc.,Boca Raton,Fla.,1989
【非特許文献2】Rikihisa,Y.,1991,Clinical Microbiology Reviews,4:286
【非特許文献3】Maeda,K.ら,1987,N.Eng.J.Med.,316:853
【非特許文献4】Dawson,J.E.ら,1991,J.Clin.Microbiol.29:2741
【非特許文献5】Compendium of Veterinary Products,第6版,Aurora Arrioja編,North American Compendiums,Ltd.,Port Huron,MI(2001)
【非特許文献6】ジンバブエ大学の獣医学科に(1997年5月)提出されたSunita Mahanの論文“Immunisation of German shepherd dogs against canine ehrlichiosis using inactivated Ehrlichia canis organisms”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
アナプラズマ科に属する細菌種を宿主細胞中で増殖させてもまずまずの成功しか収めず、明らかにワクチンの大量供給に移されないので、これらの病原性微生物の研究を助けるべく細菌種を増殖するため及びこれらの微生物に起因する疾患から防御するためのワクチンを開発するための培養システムを開発するための一般的要望が残っている。診断及びワクチンに使用するために微生物から大量の抗原を作成するための大規模培養システムの開発も要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、包括的にはアナプラズマ科に属する細菌生物の哺乳動物胚性または胎児性宿主細胞中での培養に関する。培養した細菌生物は該細菌生物に起因する疾患用ワクチンとして使用され得る。ワクチン中に使用される抗原は哺乳動物宿主細胞から単離した細菌生物から作成され得る。或いは、ワクチン中に使用される抗原は細菌生物に感染した哺乳動物宿主細胞の培養物から作成され得る。細菌生物(または、存在するなら宿主細胞)は不活化されていてもよい。或いは、細菌生物は、細菌生物の非弱毒化病原体形態に典型的な病的状態を引き起こすことなく1回以上投与された動物内で複製するように弱毒化生であり得る。
【0015】
より具体的には、本発明は、アナプラズマ科の細菌生物の胚性哺乳動物細胞である宿主細胞中での培養に関する。本発明の1つの実施形態では、細菌を非ヒト胚性哺乳動物細胞中で培養する。宿主細胞は非ヒト動物胚または胎児の一部から得ることができる。宿主細胞は分化されていても分化されていなくてもよい。胚性宿主細胞はネコ、イヌ、ネズミ、ブタ、ウシ、ヒツジ、サルまたはウマ胚性または胎児性に由来し得る。本発明の1つの実施形態では、胚性宿主細胞はネコ胚または胎児に由来する。
【0016】
本発明の1つの実施形態では、アナプラズマ科の細菌生物はアナプラズマ属、エーリキア属またはネオリケッチア属に属する。アナプラズマ科に属する細菌生物にはリケッチア科に属する細菌生物は含まれない。(リケッチア科はリケッチア属を含み、この中にはオリエンティア・ツツガムシ(R.orientia)及びリケッチア・リケッチア(R.rickettsia)の種が含まれる。)アナプラズマ属に属する具体的細菌生物はアナプラズマ・ボビス(A.bovis)、アナプラズマ・センツラレ、アナプラズマ・マジナーレ及びアナプラズマ・ファゴサイトフィルムであり得る。エーリキア属に属する具体的な細菌生物はエーリキア・カニスであり得る。ネオリケッチア属に属する具体的細菌生物はネオリケッチア・リスチシであり得る。
【0017】
本発明は、i)アナプラズマ科の細菌種を入手し、ii)非ヒト哺乳動物胚性細胞に前記細菌種を感染させ、iii)前記非ヒト哺乳動物胚性細胞を非ヒト哺乳動物胚性細胞の増殖を促す条件下で培養して、細菌種を培養することを含むアナプラズマ科の細菌種の培養方法に関する。この細菌種は、宿主細胞を含まない精製された状態で、宿主細胞中に存在する状態で、または感染動物組織のホモジネート中に存在する状態で得られ得る。1つの実施形態では、アナプラズマ科生物を感染させた動物から単離した哺乳動物細胞のホモジネートを非ヒト哺乳動物胚性細胞に感染させる。別の実施形態では、胚性細胞をアナプラズマ科生物に露出させることにより非ヒト哺乳動物胚性細胞を感染させる。アナプラズマ科細菌種はアナプラズマ属、エーリキア属またはネオリケッチア属由来であり得る。アナプラズマ科細菌種はアナプラズマ・ボビス、エーリキア・カニスまたはネオリケッチア・リスチシであり得る。1つの実施形態では、非ヒト哺乳動物胚性細胞はネコ細胞である。ネコ細胞はネコ胚性線維芽細胞、FEAネコ胚性細胞またはイエネコ全胎児性細胞であり得る。非ヒト哺乳動物胚性細胞は分化されていなくても及び/または不死化されていてもよい。別の実施形態では、非ヒト哺乳動物胚性細胞はサル胚性腎上皮細胞である。
【0018】
本発明はまた、アナプラズマ科の細菌種を感染させた非ヒト哺乳動物胚性細胞を含む組成物に関する。細菌種はアナプラズマ属、エーリキア属またはネオリケッチア属由来であり得る。アナプラズマ科細菌種は当業者に公知であり得、その中には非限定的にアナプラズマ・ボビス、アナプラズマ・ファゴサイトフィルム、エーリキア・カニスまたはネオリケッチア・リスチシが含まれる。非ヒト胚性哺乳動物細胞はネコ胚性線維芽(FEF)細胞、FEAネコ胚性細胞またはイエネコ全胎児性細胞であり得る。非ヒト哺乳動物胚性細胞は分化されていなくても及び/または不死化されていてもよい。非ヒト胚性哺乳動物細胞はサル胚性腎上皮細胞であってもよい。
【0019】
本発明はまた、哺乳動物に対して本明細書中に記載されている方法に従って培養した材料を基にしたワクチンを投与することによる前記哺乳動物における感染の予防方法に関する。本発明はまた、哺乳動物に対して本明細書中に記載されている方法に従って培養した材料を基にしたワクチンを投与することによる前記哺乳動物の防御方法に関する。本発明はまた、哺乳動物に対して本明細書中に記載されている方法に従って培養した材料を基にしたワクチンを投与することによる前記哺乳動物の治療方法に関する。特に、本発明は、哺乳動物に対して治療有効量のアナプラズマ科細菌抗原を与えることによる前記哺乳動物のアナプラズマ科に属する生物に起因する疾患からの防御に関する。哺乳動物はヒト、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジまたはヤギであり得る。本発明の1つの実施形態では、動物はイヌである。
【0020】
本発明はまた、哺乳動物に対する免疫防御量の本明細書中に記載されている方法に従って培養した材料の投与、または免疫応答を生じさせるための哺乳動物に対する有効量の本明細書中に記載されている方法に従って培養した材料の投与に関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
別段の記載がない限り、本明細書中で使用されている用語はすべて当業者が理解している通常の意味を有している。明確な定義が以下に示されている用語は、その明確な意味に加えて当業者が典型的に考えている意味を有している。
【0022】
本発明は微生物の培養方法に関する。より具体的には、本発明はアナプラズマ科に属する細菌生物の増殖方法に関する。より具体的には、本発明はアナプラズマ属、エーリキア属またはネオリケッチア属に属する生物の連続増殖方法に関する。
【0023】
本発明に従って使用され得るアナプラズマ属に属する種の非限定例には、アナプラズマ・ボビス(A.bovis)、アナプラズマ・センツラレ(A.centrale)、アナプラズマ・マジナーレ(A.marginale)、アナプラズマ・オビス(A.ovis)、アナプラズマ・プラチス(A.platys)及びアナプラズマ・ファゴサイトフィルム(A.phagocytophilum)(以前は、エーリキア・ファゴサイトフィラ(Ehrlichia phagocytophila)、エーリキア・エクイ(Ehrlichia equi)、ヒト顆粒球エーリキア症物質またはHGE物質と称されていた)が含まれる。本発明に従って使用され得るエーリキア属に属する種の非限定例には、エーリキア・カニス、エーリキア・シャフェンシス(E.chaffeensis)及びエーリキア・ムリス(E.muris)が含まれる。本発明に従って使用され得るネオリケッチア属に属する種の非限定例には、ネオリケッチア・ヘルミンテカ(N.helminthoeca)、ネオリケッチア・リスチシ(N.risticii)(ポトマック馬熱、以前はエーリキア・リスチシ(E.risticii)と呼ばれていた)及びネオリケッチア・センネツ(N.sennetsu)が含まれる。
【0024】
本発明によれば、アナプラズマ科の細菌生物を哺乳動物胚性または胎児性宿主細胞中で増殖させる。本明細書中で使用されている「宿主細胞」は、アナプラズマ科の細菌生物が侵入し得、その中で細菌生物が増殖し得る細胞である。哺乳動物胚性または胎児性宿主細胞の非限定例には、ヒト、ネコ、イヌ、ネズミ、ブタ、ウシ、ヒツジ、サルまたはウマの胚性または胎児性細胞が含まれる。本明細書中で使用されている「感染宿主細胞」は、1つ以上のアナプラズマ科細菌を含んでいる宿主細胞を指す。
【0025】
宿主細胞は、哺乳動物胚性または胎児性組織から単離した単細胞に由来し得る。例えば、細胞は胚性ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ネズミ、ブタ、サルまたはヒト組織に由来し得る。
【0026】
本発明の1つの実施形態では、アナプラズマ科に属する細菌種を非ヒト哺乳動物胚性または胎児性組織に由来し得る宿主細胞中で培養する。本発明に従って使用され得るネコ胚性または胎児性細胞の非限定例には、ネコ胚性線維芽(FEF)細胞、FEAネコ胚性細胞(スコットランドのグラスゴーに所在のグラスゴー大学;Jarrett,O.ら,J.gen.Virol.,20:169−175(1973)に記載されている)、及びイエネコ全胎児性細胞(FCWF−4,P.O.Box 1549,米国バージニア州マナサスに所在のアメリカン・タイプ、カルチャー・コレクション(以後、“ATCC”)寄託CRL−2787)が含まれる。
【0027】
本発明に従って培養した細菌生物は、例えば単離及び研究のための大量の生体分子の産生を含めたワクチン、診断または更なる研究のために使用され得る。従って、本発明に従って培養した細菌は、細菌生物に起因する感染を予防したり、疾患を回復するために哺乳動物に対して投与するためのワクチン中に処方され得る。例えば、宿主細胞中で培養した細菌は、イヌエーリキア症を予防または回復するためにイヌに投与しようとするワクチン中に使用するためのエーリキア・カニスであり得る。
【0028】
よって、本発明はまた、本発明に従って培養した材料を基にする免疫原性組成物またはワクチンに関する。ワクチンの基礎として役立ち得る治療薬(抗原、活性物質または免疫原性組成物とも称される)は、
a)アナプラズマ科細菌を感染させた宿主細胞の収集培養物;
b)感染宿主細胞内に含まれているアナプラズマ科細菌の濃度に関して濃縮されている(a)の抽出物または画分;
c)宿主細胞の残遺物を含んでいる(a)のアナプラズマ科細菌濃縮抽出物;
d)宿主細胞の残遺物を含んでいない(a)のアナプラズマ科細菌の抽出物;または
e)単離したアナプラズマ科細菌性免疫原;
の1つ以上であり得る。
【0029】
本明細書中で使用している場合、「単離した」は自然環境から除去されていることを意味する。よって、単離アナプラズマ科細菌細胞は広くは自然環境から除去されたものを含み、自然環境には節足動物、昆虫、或いはすべての生存しているまたは死滅した感染哺乳動物が含まれ得る。単離アナプラズマ科細菌細胞には、アナプラズマ科細菌感染哺乳動物から除去された哺乳動物組織内に含まれるものが含まれる。単離アナプラズマ科細菌細胞には、アナプラズマ科細菌感染哺乳動物から、例えば宿主細胞を溶解して完全にまたは部分的に分離されたものも含まれる。単離アナプラズマ科細菌細胞には、本明細書中に記載されている宿主細胞内に含まれているもの、或いはそこから部分的にまたは完全に分離したものも含まれる。単離アナプラズマ科細菌細胞には、例えば培養物中に他の微生物を実質的に含んでいないものも含まれる。
【0030】
「単離アナプラズマ科細菌性免疫原」中に使用されている「単離」は、それぞれの源のアナプラズマ科細菌から完全にまたは部分的に分離した細菌性免疫原を指す。単離アナプラズマ科細菌性免疫原の組成物には、幾つかの全完全アナプラズマ科細菌、アナプラズマ科細菌の一部または成分、全完全宿主細胞、及び/または宿主細胞の一部または成分が含まれ得る。単離アナプラズマ科細菌性免疫原には、1つ以上のアナプラズマ科細菌生体分子に関して濃縮されている組成物も含まれる。
【0031】
本明細書中で使用される「アナプラズマ科細菌性免疫原」には、不活化または修飾されている生細菌である全アナプラズマ科細菌が含まれる。本明細書中で使用されるアナプラズマ科細菌性免疫原には、アナプラズマ科細菌に由来するタンパク質(リポタンパク質、膜タンパク質、細胞質ゾルタンパク質)、前記タンパク質の免疫原性断片、核酸、脂質、糖、リポ多糖または他の生体分子も含まれ得る。アナプラズマ科細菌性免疫原は、宿主細胞中に存在している全アナプラズマ科細菌細胞またはその一部であり得、これらの細菌及び宿主細胞は死滅または不活化されている。アナプラズマ科細菌性免疫原は、宿主細胞中に存在している全アナプラズマ科細菌細胞またはその一部でもあり得、これらの細菌及び宿主細胞は死滅または不活化されている。
【0032】
当業者は、通常細菌または宿主細胞を死滅または不活化させ得る技術を周知している。その技術には、物理的、化学的または生物学的手段が含まれる。不活化技術の非限定例には、音波処理、凍結−融解技術、圧力、熱、化学物質または酵素を用いる処理が含まれる。化学的不活化剤の非限定例には、バイナリーエチレンアミン(BEA)及びホルマリン(ホルムアルデヒド溶液)を用いる処理が含まれる。
【0033】
上記したように、本発明に従って培養した材料はワクチンのための抗原を作成するために使用され得る。本明細書中で使用されている用語「ワクチン」は、1つ以上の感染性疾患を予防及び/または重症度を低下させ得る免疫応答を引き出すことを意図して投与される生成物を意味し、指す。ワクチンは、動物の免疫系を刺激するように作用する本発明に従って培養した材料であり得る抗原(または、“活性物質”、“免疫原”、“治療薬”または“免疫原性組成物”)を含み、前記材料にはアナプラズマ科細菌を感染させた宿主細胞、全完全アナプラズマ科細菌、或いはアナプラズマ科細菌の細菌画分、一部または生体分子が含まれる。抗原は、アナプラズマ科細菌感染宿主細胞の生弱毒化または死滅調製物、生弱毒化または死滅アナプラズマ科細菌、生きている照射細胞、粗な画分または精製アナプラズマ科細菌性免疫原であり得る。よって、ワクチンは濃縮、単離または精製させた抗原を含み得る。ワクチンはアナプラズマ科感染宿主細胞の不活化または死滅培養物、或いは不活化または死滅アナプラズマ科細菌から作成され得る。
【0034】
ワクチンは、1つ以上のアナプラズマ科細菌種または以下に詳記する他の病原体(例えば、ウイルス性、細菌性、寄生性または細菌性)由来の抗原の組合せをも含み得る。
【0035】
本発明に従って培養した材料から作成したワクチンは治療有効量の抗原を含む。本明細書中、「治療有効量」は、病原性アナプラズマ科細菌の感染に起因する健康に対する悪影響またはその合併症を含めた疾患の兆候または症状を予防または回復するのに十分な抗原またはワクチンを投与された哺乳動物において免疫応答を誘発する抗原またはワクチンの量を指す。体液性免疫及び/または細胞性免疫が誘導され得る。動物のワクチンに対する免疫原性応答は、例えば抗体力価を測定することにより間接的に、顕微鏡分析により、または野生型株を攻撃した後の兆候及び症状をモニターすることにより直接評価され得る。ワクチンにより付与される防御免疫は、例えば臨床兆候(例えば、被験者の死亡率、罹患率、体温及び全体的身体状態、並びに全体的健康及び性能)の低下を調べることにより評価され得る。治療上有効なワクチンの量は使用する特定ウイルスまたは被験者の状態に依存して変更され得、当業者により決定され得る。
【0036】
本発明に従って培養した材料は、組成物を投与された被験者哺乳動物において免疫応答を刺激する免疫原性組成物を作成するためにも使用され得る。前記組成物は、ワクチンの基礎として役立ち得る抗原を同定するために使用され得る。よって、例えば、本発明に従って培養した材料を含む免疫原性組成物を被験者哺乳動物に対して投与してもよい。その後、被験者哺乳動物の抗体力価をモニターし、候補アナプラズマ科細菌抗原をワクチン中に使用したり、更に研究するために選択し得る。本発明の免疫活性組成物には、ワクチンを投与した被験者において体液性免疫応答及び/または細胞性免疫応答を刺激する組成物が含まれる。
【0037】
本明細書中で使用されている「免疫応答」は、本明細書中に記載されている方法に従って培養した材料を基にした1つ以上のワクチンを投与されたことによる被験者哺乳動物の能動免疫を指す。免疫応答には、ワクチン中に存在する抗原または免疫原に応答した1つ以上の抗体の産生が含まれ得る。被験者における「免疫応答」は、抗原に対する体液性免疫応答及び/または細胞性免疫応答の発現を指す。免疫応答は当業界で公知の標準のイムノアッセイ及び中和アッセイを用いて調べられ得る。
【0038】
本発明に従って培養した材料から作成したワクチンは、被験者哺乳動物内での感染を予防するため、被験者哺乳動物を防御するため、または被験者哺乳動物を治療するために使用され得る。
【0039】
「感染の予防」及び類似の用語は、問題の疾患の原因である細菌の複製を予防または抑制すること、細菌またはウイルスの伝染を抑制すること、宿主動物において細菌が樹立することを予防すること、または感染により引き起こされる疾患の症状を回復させることを意味する。細菌量が減少したなら、治療は成功と見なされる。
【0040】
細菌に対して本明細書中で使用されている「防御」、「防御する」等は、ワクチン中に使用されている抗原の由来源である生物に起因する疾患の症状をワクチンが予防または減少させることを意味する。用語「防御」、「防御する」等は、ワクチンを被験者において既に生じている疾患または疾患の1つ以上の症状を治療するために使用され得ることを意味する。
【0041】
「治療する」は、この用語が適用される障害、状態または疾患の後退、回復、その進行の抑制、または予防、或いは前記障害、状態または疾患の1つ以上の症状の予防を指す。治療するは、1つ以上のアナプラズマ科生物の感染からの回復を促進させることも指す。「治療」は治療する行為を指す。
【0042】
よって、本発明に従って培養した材料から作成したワクチンは、被験者哺乳動物においてアナプラズマ科細菌感染を予防するため、被験者哺乳動物をアナプラズマ科細菌から防御するため、及び被験者哺乳動物のアナプラズマ科細菌感染を治療するために使用され得る。前記した予防、防御または治療には、例えば非限定的に例えば病原性アナプラズマ科生物による感染のリスクの軽減または解消、アナプラズマ科生物による感染の症状の回復または軽減、アナプラズマ科細菌量の減少、アナプラズマ科感染の頻度または期間の低下、アナプラズマ科細菌の急性相血清タンパク質レベルの低下、直腸温の低下、及び/または食物摂取及び/または成長の増加が含まれ得る。
【0043】
本明細書中で使用されている「医薬的に許容され得る」は、健全な医学的判断の範囲に入り、過度の毒性、刺激、アレルギー応答等を呈することなく被験者の皮膚と接触させて使用するのに適しており、妥当な便益/リスク比で釣り合い、意図する使用のために有効である物質(例えば、アジュバント、免疫賦活薬、担体、希釈剤、乳化または安定化剤)を指す。医薬的に許容され得る物質は治療薬の有効性を妨げず、投与を受ける被験者にとって有毒でない。
【0044】
「被験者」または「被験者哺乳動物」は免疫系を有する動物を指し、この中にはヒト、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ及びイヌのような哺乳動物が含まれる。
【0045】
本発明に従って培養した材料は、アナプラズマ科細菌に起因する疾患または病気の存在を診断するための診断用途においても使用され得る。前記診断用途の非限定例には、抗体結合アッセイにおける細菌画分、タンパク質または他の生体分子の使用が含まれる。細菌画分、タンパク質または他の生体分子は前記アッセイ用ポリクローナルまたはモノクローナル抗体を作成するためにも使用され得る。
【0046】
宿主細胞増殖
本発明に従って細菌生物を培養するための宿主細胞をまず作成した後、所望の細菌生物を感染させる。単離したネコ胚性細胞株のサンプルを懸濁または接着増殖のために培地に接種する。本明細書中で使用されている場合、接着増殖条件では細胞層が細胞を培養する小胞中に含まれている表面を覆っている。その表面には、小胞それ自体の内表面、または表面積を増大させるために小胞内に含めたガラスまたはポリマービーズの表面が含まれる。表面積及び宿主細胞増殖を増大させるためにマイクロキャリアを使用することもできる。接着増殖とは対照的に、宿主細胞を培養小胞内で表面に結合させずに、宿主細胞を懸濁状に増殖させることができる。
【0047】
当業者は通常宿主細胞を増殖させるために使用され得る各種培地を周知している。宿主細胞増殖培地は動物に由来し得る。或いは、宿主細胞増殖培地は植物または酵母を主成分とし得、動物タンパク質を含有していなくてもよい。増殖培地は大豆抽出物由来、または例えばマメを含めた他のタンパク質を多く含有する植物または植物性食品由来であってもよい。宿主細胞を増殖するために有用な具体的培地の非限定例には、イーグルの最少必須培地(MEM)、グラスゴー最少必須培地、RPMI1640、OptiMEM、AIM Vが含まれる。
【0048】
増殖培地がウシ胎児血清(FBS)、トリプトース溶液、ラクトアルブミン水解物溶液、L−グルタミン、炭酸水素ナトリウム、ラクトアルブミン水解物、Polymyxin B、ピルビン酸ナトリウム、グルコース、硫酸マンガンを含んでいてもよく、または補充してもよい。
【0049】
新鮮な増殖培地を宿主細胞に再供給または補充した後またはその前に、宿主細胞をアナプラズマ科細菌に感染または露出させてもよい。
【0050】
細胞を36〜38℃及び5% COで2〜9日間増殖し得る。
【0051】
宿主細胞の感染
宿主細胞をアナプラズマ科の細菌生物に感染させることが公知の他の真核細胞と接触させることにより宿主細胞に前記細菌生物を露出または感染させることができる。当業者は、例えば哺乳動物由来の他の真核細胞が前記細菌生物に感染するかを調べることを周知している。感染哺乳動物細胞は、脾臓、肝臓、膵臓、肺、心臓または他の筋肉組織、脳、胆嚢、血液、腎臓、リンパ節または胃を含めた組織に由来し得る。感染哺乳動物細胞は、適切な等張性溶液中でブレンダーを用いてホモジナイズすることにより組織抽出物から調製され得る。その後、ホモジネートは、宿主細胞上に層として適用したり、または単に宿主細胞と接触させて宿主細胞の培養物を接種(すなわち、感染)するために使用され得る。
【0052】
或いは、宿主細胞をアナプラズマ科の単離細菌生物に露出または感染させてもよい。当業者は前記細菌生物を単離する技術を周知しており、または単離細菌生物のストックを生物寄託機関から入手することができる。
【0053】
アナプラズマ科細菌と接触させる前に宿主細胞を作成するために使用される増殖培地は、当該接触後宿主細胞を増殖させるために使用される培地と同じであってもよい。アナプラズマ科細菌に露出させた(または、感染させた)宿主細胞を>l×l0TCID50(組織培養感染量)に達するまで最長95日間、最長35日間、または約5〜10日間培養し、その後培養物を収集し、処理してもよい。
【0054】
収集
アナプラズマ科細菌感染宿主細胞は組織細胞培養液及び/または細胞を回収することにより収集され得る。宿主細胞は、宿主細胞の壁と一緒に含まれているアナプラズマ科細菌細胞と培地(及び、培養小胞)から収集され得る。或いは、収集中、アナプラズマ科細菌の濃度を増殖基質からの感染性細菌細胞の遊離を改善する技術、例えば音波処理、凍結融解、加熱、或いは真核宿主細胞の化学的または選択的酵素溶解により濃縮させることができる。アナプラズマ科細菌の濃縮収集物には宿主細胞も宿主細胞材料も含んでいない材料が含まれ得る。或いは、アナプラズマ科細菌の濃縮収集物には宿主細胞または宿主細胞材料を含んでいる材料が含まれ得る。
【0055】
不活化
当業者は通常細菌または宿主細胞を死滅または不活化させ得る技術を周知している。その技術には物理的、化学的または生物学的手段が含まれる。不活化技術の非限定例には、音波処理、凍結−融解技術、圧力、熱、化学薬品または酵素を用いる処理が含まれる。化学的不活化剤の非限定例には、バイナリーエチレンイミン(BEI)、ホルマリン(ホルムアルデヒド溶液)、β−プロピオラクトン、メルチオラート、グルタルアルデヒド、ドデシル硫酸ナトリウム等、またはその混合物を用いる処理が含まれる。宿主細胞を紫外光の存在下で熱またはソラーレンにより不活化させてもよい。これらの化学的不活化剤または物理的不活化手段は、宿主細胞からアナプラズマ科細菌細胞を抽出または分離した後にアナプラズマ科細菌細胞を不活化させるためにも使用され得る。
【0056】
製剤化
不活化した感染宿主細胞または濃縮アナプラズマ科細菌細胞は抗原として役立ち得、懸濁液として製剤化しても、またはアナプラズマ科生物に起因する疾患に対するワクチンを作成する際に使用するために凍結乾燥してもよい。本発明に従って培養した材料は任意の医薬的に許容され得るアジュバント、免疫賦活薬、担体、希釈剤、乳化または安定化剤と一緒に製剤化され得、これらの非限定例は以下に検討されている。しかしながら、当業者は他のアジュバント、免疫賦活薬、担体、希釈剤、乳化または安定化剤が本発明に従って培養した材料を基にしたワクチンを製剤化する際に使用され得ることを認識している。
【0057】
アジュバント及び免疫賦活薬
通常、アジュバントは標的の免疫応答を非特異的にブーストする物質である。多くの各種アジュバントが当業界で公知である。本発明に従って培養した材料を用いて作成したワクチンの製剤中に使用され得るアジュバントの非限定例には、アルミニウム塩(例えば、明礬、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム)、コレステロール、モノホスホリル脂質Aアジュバント、アンフィゲン、トコフェノール、モノホスフェニル脂質A、ムラミルジペプチド、オイルエマルジョン、グルカン、カルボマー、ブロックコポリマー、アブリジン脂質−アミンアジュバント、大腸菌(組換え体またはその他)由来の熱不安定性エンテロトキシン、コレラ毒素またはムラミルジペプチド、フロイント完全及び不完全アジュバント、ビタミンE、ノニオン性ブロックポリマー及びポリアミン(例えば、デキストランサルフェート)、カルボポール、ピラン、サポニン及びサポニン誘導体、ブロックコポリマー、並びに全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第4,578,269号明細書、同第4,744,983号明細書、同第5,254,339号明細書に開示されているようなアジュバントが含まれる。アジュバントとして役立ち得るペプチドの非限定例には、ムラミルジペプチド、ジメチルグリシンまたはタフトシンが含まれる。アジュバントとして役立ち得る油の非限定例には、鉱油、植物油またはそのエマルジョンが含まれる。
【0058】
本発明に従って培養した材料から作成したワクチンは水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョンとして製剤化され得る。水中油型エマルジョンの非限定例には、水中にパラフィン油を含むエマルジョン、或いは1つ以上のスクワレン、エチレンオキシドとプロピレンエキシドのブロックコポリマー、ポリソルベート界面活性剤及び/またはムラミルジペプチドのスレオニルアナログから調製されるエマルジョンが含まれる。
【0059】
アジュバントとして使用される植物油または動物油のような油はワクチンを受ける被験者により代謝され得る。典型的には、前記油は大部分トリグリセリドまたは天然脂肪としても公知のトリアシルグリセロールの混合物から構成されている。グリセロールの脂肪酸トリエステルは非極性で水不溶性の物質である。トリアシルグリセロールは3つの脂肪酸残基の種類及び位置に応じて異なる。
【0060】
アジュバントは、エマルジョンを投与された動物被験者の身体により代謝され得ない成分から構成される非代謝物でもあり得る。本発明のエマルジョン中に使用するのに適した非代謝性油には、アルカン、アルケン、アルキン及びそれらの対応する酸及びアルコール、そのエーテル及びエステル、並びにその混合物が含まれる。油の個々の化合物は軽質炭化水素化合物、例えば6〜30個の炭素原子を有する化合物であり得る。油は合成しても、石油製品から精製してもよい。本発明に従って培養した材料を基にしたワクチンを作成する際に使用するための非代謝性油の非限定例には、鉱油、パラフィン油及びシクロパラフィンが含まれる。用語「鉱油」は、石油から蒸留技術により得た液体炭化水素の混合物である非代謝性アジュバント油を指す。この用語は「液化パラフィン」、「液体ペトロラタム」及び「ホワイトミネラルオイル」と同義語である。この用語は「軽質鉱油」、すなわち石油の蒸留により得られるが、ホワイトミネラルオイルよりも僅かに低い比重を有している油を含むと意図される。
【0061】
本発明に従って培養した材料を基にしたワクチンの製剤中に使用され得る体液性免疫応答を強化し得る他の化合物には、非限定的にエチレン−無水マレイン酸(EMA)コポリマー、スチレンとアクリル酸及びメタクリル酸の混合物のコポリマーのラテックスエマルジョンが含まれる。
【0062】
アジュバントに加えて、本発明に従って培養した材料を基にしたワクチンは免疫調節薬、例えばインターロイキン、インターフェロン、または他のサイトカイン(例えば、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−18(IL−18)、またはγ−インフーフェロンのようなTh1関連サイトカイン)を含み得る。
【0063】
本発明に従って培養した材料を基にしたワクチン製剤中に添加されるアジュバントまたは免疫賦活薬の量はアジュバントまたは免疫賦活薬それ自身の種類に依存する。当業者はアナプラズマ科細菌免疫化剤に対する免疫応答を強化するのに十分な量を選択することができる。
【0064】
担体
本発明に従って培養した材料を基にして製剤化したワクチン中に使用するのに適した医薬的に許容され得る担体は、組織培地中に使用するのに適しているような平衡塩類溶液を含めた動物薬組成物のために適した慣用の液体担体であり得る。医薬的に許容され得る担体は、ワクチン接種しようとする動物の健康に対して少なくとも動物にワクチン接種していないときに見られる影響よりも悪い程度まで悪影響を及ぼさない化合物と理解される。適当な担体には、滅菌水、食塩水、水性緩衝液(例えば、PBS)、溶媒、希釈剤、等張剤、緩衝剤、デキストロース、エタノール、マンニトール、ソルビトール、ラクトース及びグリセロール等も含まれる。
【0065】
ビヒクル
本発明に従って培養した材料から製剤化したワクチンはビヒクルをも含み得る。ビヒクルは、宿主細胞、アナプラズマ科細菌細胞、或いはタンパク質、タンパク質断片、核酸またはその一部に共有結合することなく付着する化合物である。ビヒクルの非限定例には、バイオマイクロカプセル、ミクロアルギネート、リポソーム及びマクロゾールが含まれる。アジュバントとして働く幾つかの材料、例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムまたは酸化アルミニウム、シリカ、カオリン及びベントナイトもビヒクルとして役立ち得、これらはすべて当業界で公知である。
【0066】
安定化剤
多くの場合、ワクチンは、例えば分解しやすい成分が分解するのを保護するため、ワクチンの貯蔵寿命を延ばすため、または凍結乾燥効率を向上させるために安定化剤と混合されている。本発明に従って培養した材料を基にしたワクチン製剤に添加され得る安定化剤の非限定例には、SPGA(Bovarnikら,1950,J.Bacteriology,vol.59,p.509)、脱脂乳、ゼラチン、ウシ血清アルブミン、炭水化物(例えば、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、デンプン、スクロース、デキストランまたはグルコース)、タンパク質(例えば、アルブミン、カゼインまたはその分解産物)、非動物起源の安定化剤及び緩衝剤(例えば、アルカリ金属リン酸塩)が含まれる。凍結乾燥したワクチン組成物中には1つ以上の安定化剤が添加され得る。
【0067】
多価ワクチン
本発明に従って培養した材料から収集した免疫原が1つ以上の追加免疫原を含むワクチン中に処方され得る。追加の免疫活性成分は全寄生生物、細菌またはウイルス(不活化または修飾されている生)、或いはその分画化部分または抽出物(例えば、タンパク質、脂質、リポ多糖、炭水化物または核酸)であり得る。
【0068】
本発明に従って培養した材料から収集した免疫原をイヌワクチン中に使用する場合、他のイヌ病原体に対する抗原を製剤中に添加してもよい。添加し得る追加抗原の他の病原体の非限定例には、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、イヌジステンパーウイルス(CDV)、イヌアデノウイルス1型及び2型(CAV−1、CAV−2)、イヌパラインフルエンザ(CPI)ウイルス、イヌコロナウイルス(CCV)、イヌパルボウイルス(CPV)、イヌレプトスピラ(Leptospira interrogans serovar canicola)、黄疸出血性レプトスピラ(Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・インターロガンス血清型ブラティスラバ(Leptospira interrogans serovar bratislava)、レプトスピラ・インターロガンス血清型ポモナ(Leptospira interrogans serovar pomona)、レプトスピラ・キルシュネリ血清型グリポティフォーサ(Leptospira kirschneri serovar grippotyphosa)、狂犬病ウイルス、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、イヌロタウイルス(CRV)、イヌヘルペスウイルス(CHV)及びイヌ微小ウイルス(MVC)、バベシア・カニス(Babesia canis)、ジアルジア及びリーシューマニア(Leishmania)が含まれる。
【0069】
或いは、本発明に従って培養した材料を基にしたワクチンを他の生または不活化ワクチンと一緒に同時にまたは付随して投与してもよい。
【0070】
凍結乾燥/再構成
安定性または経済の理由で、本発明に従って培養した材料を基にしたワクチンを凍結乾燥してもよい。通常、こうすると、0℃を超える温度(例えば、4℃)で長期間貯蔵することができる。凍結乾燥手順は当業者に公知である。いろいろな規模で凍結乾燥するための装置が市販されている。凍結乾燥したワクチンを再構成するためには、生理的に許容され得る希釈剤中に懸濁させ得る。前記希釈剤は単なる滅菌水であっても、先に検討した生理食塩液または他の担体であってもよい。
【0071】
用量
本発明に従って培養した材料を基にしたワクチンは投与を促進し、用量の均一性を確保するために単位投与形態で製剤化され得る。本明細書中、ワクチン組成物に関する投与単位は、動物に対する単位投与として適当な物理的にバラバラの単位を指し、各単位は所望の免疫原性効果を生ずるように計算した所定量のアナプラズマ科細菌性免疫原及び必要なアジュバント系及び担体またはビヒクルを含んでいる。
【0072】
アナプラズマ科細菌性免疫原の有効免疫化量は選択した菌株に応じて異なり得、防御免疫応答を得るのに十分な量であり得る。例えば、投与単位が少なくとも約1×10TCID50不活化アナプラズマ科細菌を含む量が適当である。
【0073】
投与
ワクチンを被験者に投与すると、この被験者哺乳動物において免疫応答が刺激される。本発明に従って培養した材料を基にしたワクチンの投与ルートは当業界で公知の方法に従った哺乳動物標的への投与であり得る。前記方法には、皮内、筋肉内、眼内、腹腔内、静脈内、経口、口鼻内及び皮下、並びに吸入、座剤または皮内が含まれるが、これらに限定されない。投与ルートには、皮内、筋肉内、腹腔内、口鼻内及び皮下注射が含まれる。ワクチンは任意の手段で投与され得、その手段には注射器、ネブライザー、ミスター、無針注射デバイス、またはマイクロプロジェクティル照射遺伝子銃(バイオリスティック照射)が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
実行可能な別の投与ルートは、液滴、スプレー、ゲルまたは軟膏としての眼、鼻、口、肛門または膣の粘膜上皮または身体の任意の部分の外皮の上皮への局所適用によるか、エアゾールとしてのスプレーまたは散剤による。或いは、食物、餌または飲料水と組み合わせることにより例えば粉末、液体または錠剤として栄養ルートを介して投与したり、または口に液体、ゲル、錠剤またはカプセル剤として直接投与したり、または肛門に座剤として直接投与し得る。好ましい投与ルートは筋肉内または皮下注射による。
【0075】
本発明のワクチンは標的への所望する適用方法に応じて幾つかの形態、例えば液体、ゲル、軟膏、粉末、錠剤またはカプセル剤の形態をとり得る。
【0076】
本発明のワクチンを標的哺乳動物へ適用するスキームは用量及び製剤と適合し得る方法で、免疫学的に有効な量での1回または複数回投与であってもよく、複数回投与は同時であっても、順次であってもよい。
【0077】
攻撃モデル
アナプラズマ科細菌の病原性メカニズム及び宿主哺乳動物の防御メカニズムを効果的に研究し、評価して、ワクチン業界を発展させ、ワクチン製品を改善するために、有効な攻撃モデルを使用しなければならない。
【0078】
イヌエーリキア症のための攻撃モデルは、例えばイヌエーリキア症に通常関連している持続的な重症の臨床症状(例えば、発熱、血小板減少、粘液膿性眼漏、脱水等)を示す試験動物の%に基づいている。或いは、全文参照により本明細書に組み入れる米国特許出願公開第2006/0188524号明細書に記載されている攻撃モデルを使用し得る。このエーリキア・カニス攻撃は、試験動物に対して生エーリキア・カニス細菌の毒性培養物を含む末梢血単核細胞(PBMC)の攻撃ストックを投与することにより前記試験動物においてなされ得る。毒性エーリキア・カニス培養物は、エーリキア・カニス微生物(例えば、エーリキア・カニスEbony、エーリキア・カニスBroadfoot等)を宿主において繰り返し継代し、宿主血液サンプルからPBMCを分離し、分離したPBMCを20% ウシ胎児血清及び10% ジメチルスルホキシドと混合することにより作成される。
【0079】
試験動物において臨床的イヌエーリキア症を誘発させるための方法は、前記動物に対して、本質的に末梢血単核細胞中の毒性エーリキア・カニス微生物からなるエーリキア・カニス攻撃ストックを有効量投与することを含む。エーリキア・カニスBroadfoot(時に、エーリキア・カニスBFまたはBroadfootと称されている)及びエーリキア・カニスEbony(時に、Ebonyと称されている)の各々の生存可能な培養物は米国バージニア州マナサスに所在のBoulevard大学のATCCに寄託されており(2004年2月11日)、Broadfoot菌株にはPTA−5811、Ebony菌株にはPTA−5812のATCC受託番号が付与されている。
【0080】
感染の存在を調べるために幾つかの他の細胞診断方法がある。例えば、感染の存在は直接免疫蛍光法により調べられ得る。感染を検出するための他の方法には染色、例えばGiemsa、Wright/Giemsaが含まれる。アクリジンオレンジも生物を染色するために使用され得る。
【0081】
別段の定義がない限り、本明細書中で使用されている技術用語及び科学用語はすべて本発明が属する当業界の当業者が通常理解しているのと同じ意味を有している。本明細書中に挙げられている刊行物はすべて全文参照により本明細書に組み入れる。
【0082】
本発明をより明確に理解するために、下記実施例を提示する。これらの実施例は単に例示であって、本発明の範囲または基礎をなす原則を限定するものと決して理解されない。実際、本明細書中に示し、記載されているものに加えて、本発明の各種の修飾は下記実施例及び以下の記載から当業者には自明である。前記修飾も添付した特許請求の範囲の範疇に入ると意図される。
【実施例1】
【0083】
エーリキア・カニス(E.canis)のDH82細胞の存在下でのFEF細胞での増殖
(1)非感染DH82細胞の増殖
非感染DH82細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)受託番号CRL−10389,P.O.Box 1549 バージニア州マナサスに所在)の1つの凍結バイアルを融解し、純化し、DH82増殖培地を収容している75cm細胞培養フラスコを接種するために使用し、37℃及び5% COで温置した。DH82増殖培地は10% ウシ胎児血清(FBS)及び1% HEPESを補充したダルベッコのMEM基礎培地から構成されている。単層が形成されたら、細胞を増殖培地にこすげ落とし、収集し、1,500rpmで10分間遠心した。細胞ペレットを新鮮なDH82増殖培地(5ml)中に再懸濁し、1:3〜1:5の範囲の比で分割した。
【0084】
(2)非感染DH82細胞のエーリキア・カニス感染DH82細胞での感染
エーリキア・カニス感染DH82細胞(ATCC受託番号CRL−10390)の1つの凍結バイアルを融解し、純化し、DH82増殖培地中に約10個の非感染DH82細胞を有する単層(80〜90% コンフルエント)を収容している175cm細胞培養フラスコを接種するために使用した。再供給により、すなわち上記したように消費した培地の50%を新鮮なDH82増殖培地で交換することによりエーリキア・カニス感染DH82培養物を維持した。製造業者(#47733−150 ペンシルバニア州ウェストチェスターに所在のVWR)の指示に従ってアセトン固定した細胞を収容しているスライド上でDiff−Quik染色方法を使用するか、または標準の免疫蛍光抗体(IFA)技術を用いてエーリキア・カニス感染培養物をモニターした。簡単に説明すると、エーリキア・カニス感染及び非感染DH82培養物由来のアセトン固定した細胞を含むプレートをポリクローナルエーリキア・カニスイヌ血清と温置し、PBSで洗浄し、フルオレセイン標識ヤギ抗イヌIgGガンマ(Kirkegaard and Perry #02−19−02)と温置し、PBSで洗浄し、蛍光顕微鏡を用いて調べた。
【0085】
(3)非感染FEF細胞の増殖
凍結しているネコ胚性線維芽細胞(FEF)細胞の1バイアルを融解し、純化し、FEF増殖培地を収容している175cm細胞培養フラスコを接種するために使用し、37℃及び5% COで温置した。FEF増殖培地は、M6B8培地(MEM基礎培地、Glasgow−MEM基礎培地、トリプトースホスフェート、トリプトース、ラクトアルブミン水解物、L−グルタミン及び炭酸水素ナトリウム)及び5% FBSから構成されている。4〜5日間温置した後、単層が90〜95%コンフルエントになったとき培養物は継代の準備ができた。0.25% トリプシンで処理した後、細胞を1:5〜1:10の比で分割させた。
【0086】
(4)非感染FEF細胞のエーリキア・カニス感染DH82細胞での感染
エーリキア・カニス感染DH82細胞を培地にこすり落とすことにより収集し、1,500rpmで10分間遠心し、新鮮なDH82増殖培地中に1×10細胞/mlで再懸濁させた。FEF増殖培地中に175cm細胞培養フラスコあたり6×10細胞を接種し、37℃及び5% COで18〜24時間温置した非感染FEF培養物を培地中に懸濁し、75cm細胞培養フラスコ中に1:3の分割比で置いた。次いで、6mlの再懸濁エーリキア・カニスDH82細胞を用いて非感染FEF細胞を懸濁状態で収容している各75cm細胞培養フラスコを感染させ、37℃及び5% COで温置した。消費した培地を新鮮なFEF増殖培地で交換することによりエーリキア・カニス感染DH82/FEF混合培養物を3日毎に供給した。感染から14日目に、混合培養物を1:2に分割し、細胞懸濁液を1ml/ウェルで24ウェル細胞培養プレートのウェルに移した。37℃及び5% COで16時間温置した後、ウェルからの培養上清をスライドに移し、アセトンで固定し、上記したIFAを用いてエーリキア・カニス感染の存在について評価した。
【実施例2】
【0087】
エーリキア・カニス(E.canis)のFEF細胞の均質集団での増殖
イヌに上記したATCCから入手した細胞から増大させたエーリキア・カニス感染DH82細胞(0.5〜2mL)を静脈内感染させた。エーリキア・カニス感染DH82細胞は全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,192,679号明細書に記載されている。脾臓及び血液DNAのPCRによりイヌがエーリキア・カニスに感染していることをポジティブに同定した。DNAは、血液及び組織サンプルからQIAamp DNAミニキット(カリフォルニア州バレンシアに所在のQiagen)を製造業者の指示に従って使用して精製した。PCRはRoboCycler(登録商標)ロボットサーモサイクラー(テキサス州シダークリークに所在のStratagene)を用い、2.5μlの10×反応緩衝液(ニュージャージ州ピスカタウェイに所在のGenscript Corporation)、0.2μlの100mM dNTPs(カリフォルニア州カールスバッドに所在のInvitrogen Corp.)、1μlの10μM オリゴヌクレオチドプライマー1(5’−AGA ACG AAC GCT GGC GGC AAG C−3”)及びオリゴヌクレオチドプライマー2(5’−CGT ATT ACC GCG GCT GCT GGC A−3’)、及び0.2μlの5U/μl Taqポリメラーゼ(Genscript Corp.)から構成されている25μlの反応物を用い、94℃で5分間の予備変性ステップ後、94℃で1分間、60℃で1分間及び72℃で1分間のサイクルを35回、最後に72℃で10分間の最終伸長ステップから構成されている熱サイクルプロトコルで実施した。新鮮増殖培地中のホモジネートは、エーリキア・カニス感染イヌから得た脾臓、リンパ節または末梢血単核細胞(PBMC)のサンプルから作成し、FEF細胞を感染させるためのオーバーレイとして使用した。
【0088】
1:10〜1:100の最終希釈度としたエーリキア・カニス感染脾臓ホモジネートを、フラスコあたり2×10細胞/mlで接種したFEF細胞懸濁液(30ml)を収容している2つの別々の75cm細胞培養フラスコ中の非感染FEF細胞に接種した。37℃及び5% COで18〜24時間温置した後、培地を新鮮なFEF増殖培地(30mL)と交換した。5〜7日間温置した後、細胞単層をトリプシ処理し、新鮮なFEF増殖培地(5〜10ml)中に再懸濁させた。次いで、5mLのこの懸濁液をのFEF増殖培地(50mL)を収容している2つの175cm細胞培養フラスコの各々に接種した。次いで、細胞を37℃及び5% COで7〜10日間温置した。生存率を維持するために、培地は供給を必要とし、このために消費した培地の50%を新鮮なFEF培地で交換した。37℃及び5% COで10〜14日またはそれ以上インュベートした後、細胞を上記したようにトリプシン処理し、再懸濁した。連続増殖を維持するために、1〜2mLの感染FEF細胞懸濁液を非感染FEF細胞で継代させ、37℃及び5% COで温置した。感染培養物を4〜14日間の範囲の温置時間を用いて7〜13回継代させた。培養FEF細胞中のエーリキア・カニスの存在を上記したIFA及びPCRを用いて確認した。
【実施例3】
【0089】
エーリキア・カニス(E.canis)のFCWF−4細胞の均質集団での増殖
(1)非感染FCWF−4細胞(ATCC #CRL−2787)の増殖
非感染イエネコ全胎児性−4(FCWF−4)細胞(ATCC受託番号CRL−2787)の1つの凍結バイアルを融解し、純化し、FCWF増殖培地を収容している75cm細胞培養フラスコを接種するために使用し、37℃及び5% COで温置した。FCWF増殖培地はE−MEM(Earleの平衡塩類溶液及び2mM L−グルタミンを加えたイーグル最少必須培地)、1.0mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 非必須アミノ酸、1.5g/l 炭酸水素ナトリウム及び10% FBSから構成されている。4〜5日間温置した後、90〜95% コンフルエントな単層を0.25% トリプシンで処理し、1:4〜1:6の比で分割した。
【0090】
(2)エーリキア・カニス感染FCWF−4細胞の均質集団の作成
エーリキア・カニスで感染させる前に、非感染FCWF−4細胞を175cmフラスコに6×10細胞/フラスコで接種し、18〜24時間温置した。エーリキア・カニス感染脾臓ホモジネートを使用して、FEF細胞について上記したようにFCWF−4細胞を感染させた。ただし、FEF増殖培地の代わりにFCWF増殖培地を使用した。培養FCWF−4細胞中のエーリキア・カニスの存在を上記したIFA及びPCRを用いて確認した。
【実施例4】
【0091】
エーリキア・ムリス(E.muris)のFEA細胞の均質集団での増殖
(1)非感染FEAネコ胚性細胞の増殖
凍結している非感染FEAネコ胚性細胞の1バイアルを融解し、純化し、FEA増殖培地を収容している75cmフラスコを接種するために使用し、37℃及び5% COで温置した。FEA増殖培地はダルベッコMEM、2mM L−グルタミン、1.0mM ピルビン酸ナトリウム及び10% FBSから構成されている。7日間温置した後、コンフルエントな単層を0.25% トリプシンで処理し、1:2の分割比で継代させた。
【0092】
(2)エーリキア・ムリス感染FEAネコ胚性細胞の均質集団の作成
非感染DH82細胞を上記したように増殖させ、エーリキア・ムリス感染DH82細胞(ATCC受託番号VR−1411−Asuke菌株)を用いてエーリキア・ムリスを感染させた。材料の作成及び感染のためのプロトコルは本質的にエーリキア・カニス感染DH82細胞について上記したプロトコルに従った。ただし、エーリキア・カニス感染DH82細胞の代わりにエーリキア・ムリス感染DH82細胞を使用した。マウスに0.5mLのエーリキア・ムリス感染DH82細胞を腹腔内感染させた。
【0093】
脾臓及び血液DNAのPCRによりマウスがエーリキア・ムリスに感染していることをポジティブに同定した。DNAを血液及び組織サンプルからQiagen QIAamp DNAミニキットを製造業者の指示に従って使用して精製した。PCRは、RoboCycler(登録商標)ロボットサーモサイクラー(Stratagene)を用い、2.5μlの10×反応緩衝剤(Genscript)、0.2μlの100mM dNTPs(Invitrogen)、1μlの10μM オリゴヌクレオチドプライマー1(5’−AGA ACG AAC GCT GGC GGC AAG C−3”)及びオリゴヌクレオチドプライマー2(5’−CGT ATT ACC GCG GCT GCT GGC A−3’)、及び0.2μlの5U/μl Taqポリメラーゼ(Genscript)から構成されている25μlの反応物を用い、94℃で5分間の予備変性ステップ後、94℃で1分間、60℃で1分間及び72℃で1分間のサイクルを35回、最後に72℃で10分間の最終伸長ステップから構成されている熱サイクルプロトコルで実施した。
【0094】
新鮮増殖培地中のホモジネートは、エーリキア・ムリス感染マウスから得た脾臓サンプルから作成し、FEAネコ胚性細胞中で使用した。24時間FEAネコ胚性細胞単層(〜80% コンフルエンシーで)及びFEA増殖培地(8ml)を収容している25cm細胞培養フラスコ中の非感染FEAネコ胚性細胞にエーリキア・ムリス感染マウス脾臓ホモジネート(1ml)を1:9の最終ホモジネート希釈度で接種した。37℃及び5% COで5〜24時間温置した後、培地を新鮮FEA増殖培地(8ml)と交換した。5〜7日間温置した後、細胞単層をトリブシン処理し、新鮮なFEA増殖培地(2ml)中に再懸濁させた。このエーリキア・ムリス感染細胞懸濁液(1ml)を24時間FEAネコ胚性細胞単層及びFEA増殖培地(30ml)を収容している75cm細胞培養フラスコに接種した。細胞を37℃及び5% COで4〜7日間温置した。感染させた培養物を37℃及び5% COで4〜9日間の温置時間を用いて5回継代させた。更に継代させるために、1〜2mlのトリプシン処理し、増殖培地(4〜8ml)中に再懸濁させた感染細胞を用いて別の非感染FEAネコ胚性を感染させた。感染させた細胞を24時間齢FEAネコ胚性細胞単層を収容しているフラスコに接種し、37℃及び5% COで5〜48時間温置し、新鮮な増殖培地を再供給し、37℃及び5% COで更に4〜9日間温置した。FEAネコ胚性細胞の培養物中のエーリキア・ムリスの存在を上記したIFA及びPCRを用いて確認した。
【実施例5】
【0095】
エーリキア・ムリス(E.muris)のFEF細胞の均質集団での増殖
増殖培地中のホモジネートを上記したエーリキア・ムリス感染マウスから得た脾臓サンプルから作成し、FEF細胞を感染させるために使用し、上記したように培養した。各々の非感染細胞株に、24時間単層及び増殖培地(8ml)を収容している25cm細胞培養フラスコあたり0.5mlのエーリキア・ムリス感染脾臓ホモジネートを接種した。これは1:17の最終ホモジネート希釈度である。37℃及び5% COで24時間温置した後、培地を適切な新鮮培地(8ml)と交換した。7日間温置した後、細胞単層をトリプシン処理し、25cmフラスコの全感染細胞内容物を新鮮培地(30ml)を収容している75cmフラスコに接種した(これは1:3.75の分割である)。感染させた培養物を37℃及び5% COで7〜8日間の範囲の温置時間を用いて2回継代した。細胞の培養物中のエーリキア・ムリスの存在を上記したIFA及びPCRを用いて確認した。
【実施例6】
【0096】
エーリキア・ムリス(E.muris)のFCWF−4細胞の均質集団での増殖
増殖培地中のホモジネートを上記したエーリキア・ムリス感染マウスから得た脾臓サンプルから作成し、FCWF−4細胞を感染させるために使用し、上記したように培養した。各々の未感染細胞株に、24時間単層及び増殖培地(8ml)を収容している25cm細胞培養フラスコあたり0.5mlのエーリキア・ムリス感染脾臓ホモジネートを接種した。これは1:17の最終ホモジネート希釈度である。37℃及び5% COで24時間温置した後、培地を適切な新鮮培地(8ml)と交換した。7日間温置した後、単層をトリプシン処理し、25cmフラスコの全感染細胞内容物を新鮮培地(30ml)を収容している75cmフラスコに接種した(これは1:3.75の分割である)。感染培養物を37℃、5% COで7〜8日間の範囲の温置時間を用いて2回継代した。細胞の培養物中のエーリキア・ムリスの存在を上記したIFA及びPCRを用いて確認した。
【実施例7】
【0097】
FEF細胞のネオリケッチア・リスチシ(N.risticii)感染P388D1細胞での感染
FEF細胞にネオリケッチア・リスチシ感染P388D1細胞由来のネオリケッチア・リスチシを感染させるための材料は上記したように、またはVemulapalli R.S.,J.Clin.Micro.,33(11):2987−2993(1995)に既に記載されているように、または全文参照により本明細書に組み入れる米国特許第4,759,927号明細書に既に記載されているように作成され得る。
【0098】
90〜12株のネオリケッチア・リスチシを感染させたP388D1細胞(ATCC受託番号CCl−46)を3〜4日齢のFEF細胞の単層を収容している850cmローラーボトル中に0.0006〜0.0028の感染多重度(MOI)で添加した。感染させる前に、ローラーボトル中の消費した培地を感染のために使用される培地(300ml)と交換した。特定のMOIで接種した後、ローラーボトルをCOなしで37℃で温置した。試験した培地にはD−MEM、MEM Earles及びM6B8が含まれたが、これらに限定されない。0〜5% FBSを使用した。細胞変性効果(CPE)が75〜85%に達したときに感染培地を収集した。これは使用したMOIに応じて8〜16日間の範囲であった。観察されたCPEには、感染細胞の膨潤、円形化及び脱着が含まれた。ローラーボトルの側面を軽くたたいて細胞を培地中に除去することにより培養物を収集した。感染の存在を、96ウェルプレート中で70% アセトン及び30% メタノールで固定した細胞に対してネオリケッチア・リスチシモノクローナル抗体及びフルオレセイン標識ヤギ抗マウスIgG(テキサス州モンゴメリーに所在のBethyl Laboratories,Inc.)を用いる標準IFAプロトコルを用いて確認した。
【実施例8】
【0099】
MA−104細胞のエーリキア・ムリス(E.muris)での感染
(1)非感染MA−104細胞の増殖
凍結MA−104細胞(サル胚性腎上皮細胞,ATCC受託番号CRL−2378.1)の1バイアルを融解し、純化し、MA−104増殖培地を収容している75cm細胞培養フラスコに接種するために使用し、37℃及び5% COで温置した。MA−104増殖培地はEarles BSS及び2mM L−グルタミン(EMEM)を加えたイーグル最少必須培地から構成され、ここに1.0mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 非必須アミノ酸、1.5g/1 炭酸ナトリウム、追加の1% L−グルタミン及び10% FBSが補充されている。5〜7日間温置した後、単層が90〜95%コンフルエントになったときに培養物は継代の準備ができた。0.25%トリプシンで処理した後、細胞を1:5〜1:10の分割比で継代させた。
【0100】
(2)エーリキア・ムリス感染MA−104細胞の均質集団の作成
ホモジネートをエーリキア・ムリス感染マウスから得た脾臓サンプルから作成し、MA−104細胞を感染させるために使用した。25cm細胞培養フラスコにおいてMA−104細胞の上に置くためにエーリキア・ムリス感染マウス脾臓ホモジネートを使用した。〜85%コンフルエンシーの24時間齢MA−104単層に脾臓ホモジネートの1:91希釈物(9mlの既存24時間フラスコ培地中に0.1ml脾臓ホモジネート)を接種した。
【0101】
MA−104増殖培地はEarles BSS 及び2mM L−グルタミン(EMEM)を加えたイーグル最少必須培地から構成され、ここに1.0mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 非必須アミノ酸、1.5g/1 炭酸ナトリウム、追加の1% L−グルタミン及び10% FBSが補充されている。37℃及び5% COで5日間温置した後、細胞をトリプシンで処理し、すべての細胞を新鮮なMA−104増殖培地(30ml)中に再懸濁させた。次いで、この30mlを75cm細胞培養フラスコ中に分配した。37℃及び5% COで8日間温置した後、細胞をトリプシンで処理し、すべての細胞を新鮮なMA−104増殖培地(50ml)中に再懸濁させた。次いで、この50mlを175cm細胞培養フラスコ中に分配した。更に継代するために、トリプシン処理し、増殖培地(9〜10ml)中に再懸濁させた3mLの感染細胞を175cm細胞培養フラスコ中の新鮮な増殖培地(50ml)中に接種した。継代中感染細胞中に細胞変性効果が進んだと見られたときに非感染MA−104細胞を添加し、感染細胞はまばらであったり、感染細胞は弱く見えた。感染細胞の温置時間は37℃及び5% COで5〜8日間であった。培養MA−104細胞中のエーリキア・ムリスの存在をIFAを用いて確認した。
【0102】
すべての特許明細書、特許出願公開明細書及び他の刊行物はすべて全文参照により本明細書に組み入れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)アナプラズマ(Anaplasmataceae)科由来の細菌種を入手し、
ii)非ヒト哺乳動物胚性細胞に前記細菌種を感染させ、ならびに
iii)前記非ヒト哺乳動物胚性細胞を非ヒト哺乳動物胚性細胞の増殖を促す条件下で培養して、細菌種を培養する
ことを含むアナプラズマ科由来の細菌種を培養する方法。
【請求項2】
前記細菌種はアナプラズマ(Anaplasma)属由来である請求項1の方法。
【請求項3】
前記細菌種はアナプラズマ・ファゴサイトフィルム(Anaplasma phagocytophilum)種である請求項2の方法。
【請求項4】
前記細菌種はエーリキア(Ehrlichia)種由来である請求項1の方法。
【請求項5】
前記細菌種はエーリキア・カニス(Ehrlichia canis)種である請求項4の方法。
【請求項6】
前記細菌種はネオリケッチア(Neorickettsia)種由来である請求項1の方法。
【請求項7】
前記細菌種はネオリケッチア・リスチシ(Neorickettsia risticii)種である請求項6の方法。
【請求項8】
前記細菌種はポトマック馬熱を引き起こす感染菌である請求項1の方法。
【請求項9】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞はネコ細胞である請求項1の方法。
【請求項10】
前記ネコ細胞はネコ胚性線維芽細胞細胞である請求項9の方法。
【請求項11】
前記ネコ細胞はFEAネコ胚性細胞である請求項9の方法。
【請求項12】
前記ネコ細胞はイエネコ全胎児性細胞である請求項9の方法。
【請求項13】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞は分化されていない請求項1の方法。
【請求項14】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞は不死化されている請求項1の方法。
【請求項15】
アナプラズマ科由来の細菌種を感染させた非ヒト哺乳動物胚性細胞を含む組成物。
【請求項16】
前記細菌種はアナプラズマ属由来である請求項15の組成物。
【請求項17】
前記細菌種はアナプラズマ・ボビス(Anaplasma bovis)種である請求項16の組成物。
【請求項18】
前記細菌種はエーリキア種由来である請求項15の組成物。
【請求項19】
前記細菌種はエーリキア・カニス分類種である請求項18の組成物。
【請求項20】
前記細菌種はネオリケッチア種由来である請求項15の組成物。
【請求項21】
前記細菌種はネオリケッチア・リスチシ種である請求項20の組成物。
【請求項22】
前記細菌種はポトマック馬熱を引き起こす感染菌である請求項15の組成物。
【請求項23】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞はネコ胚性線維芽細胞である請求項15の組成物。
【請求項24】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞はFEAネコ胚性細胞である請求項15の組成物。
【請求項25】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞はイエネコ全胎児性細胞である請求項15の組成物。
【請求項26】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞は分化されていない請求項15の組成物。
【請求項27】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞は不死化されている請求項15の組成物。
【請求項28】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞はサル胚性腎上皮細胞である請求項1の方法。
【請求項29】
前記非ヒト哺乳動物胚性細胞はサル胚性腎上皮細胞である請求項15の組成物。

【公表番号】特表2010−538650(P2010−538650A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524986(P2010−524986)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/076025
【国際公開番号】WO2009/036177
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】