説明

アナライトの検出

【課題】サンプルを処理する方法であって、a)アナライトに結合することができる結合相と前記サンプルとを媒体の存在下で接触させる工程と、b)複数のパルスで構成され、第1の周波数、第1のパルス持続期間、及び第1のパルス立ち上がり時間を有する第1の交番電場を前記媒体に印加する工程と、c)任意的に第2の交番電場を前記媒体に印加する工程と、d)それにより前記媒体中の前記サンプル及び前記結合相の少なくともいずれかに影響を及ぼす工程と、を含む方法を提供する。
【解決手段】サンプルを処理する方法であって、a)アナライトに結合することができる結合相と前記サンプルとを媒体の存在下で接触させる工程と、b)複数のパルスで構成され、第1の周波数、第1のパルス持続期間、及び第1のパルス立ち上がり時間を有する第1の交番電場を前記媒体に印加する工程と、c)任意的に第2の交番電場を前記媒体に印加する工程と、d)それにより前記媒体中の前記サンプル及び前記結合相の少なくともいずれかに影響を及ぼす工程と、を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電泳動を用いてアナライトを検出しアナライトに関するデータを得る方法に関する。該方法は、既知のアッセイ方法に比べて速度及び感度を高めることができるため有利である。
【背景技術】
【0002】
不均一捕捉プローブに基づくアッセイは、生物学的アナライト検出の分野で長年用いられている。例えば標的核酸とプローブ核酸とのハイブリダイゼーションにより標的核酸を検出することができる。近年では基材上に固定化された複数のプローブ核酸を提示するDNAチップ及びマイクロアレイを用いて標的核酸が検出されている。
【0003】
捕捉プローブ或いは固体表面に対する標的アナライトの結合効率を改善するために多くの様々なアプローチが試みられている。例えば反応空間における混合条件を最適化してもよく、或いは固相としてビーズを用いることにより捕捉プローブ及び固体表面のいずれかを媒体に固定化してもよい。しかしこれら方法の速度及び効率は、混合或いは対流により除去することができない拡散境界層により制限を受ける。したがって標的アナライトを捕捉プローブ或いは固体表面に結合させる方法の改善、特にDNAハイブリダイゼーション法の改善は、磁場(非特許文献1)、或いは静水圧(非特許文献2)などの更なる力の使用に主眼が置かれている。
【0004】
電場を用いてDNAの移動及びハイブリダイゼーションを制御できることが知られているため、マイクロチップに基づく核酸アレイには電場が用いられている(非特許文献3、非特許文献4)。
【0005】
DNAは分極性が高く、電場に曝露されたときDNA骨格に沿って双極子が誘起されるので、交流電場を用いてDNAを操作できることも知られている(非特許文献5)。交流を誘電泳動で用い、その印加周波数に依存して微小電極上にDNAを集めることができることも知られている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Amaral;Graham,D.L.;Ferreira,H.A.;Feliciano,N.;Freitas,P.P.;Clarke,L.A.;Amaral,M.D. Magnetic field−assisted DNA hybridization and simultaneous detection using micron−sized spin−valve sensors and magnetic nanoparticles.Sensors and Actuators,B:Chemical(2005),B107(2),936−944
【非特許文献2】Pressure Biosciences;Green DJ,Litt GJ,Laugharn JA Jr.Use of high pressure to accelerate antibody:antigen binding kinetics demonstrated in an HIV−1 p24:anti−HIV−1 p24 assay.Clin Chem.1998 Feb;44(2):341−2
【非特許文献3】Nanogen;Edman CF,Raymond DE,Wu DJ,Tu E,Sosnowski RG,Butler WF,Nerenberg M,Heller MJ.,Electric field directed nucleic acid hybridization on microchips.Nucleic Acids Res.1997 Dec 15;25(24):4907−14
【非特許文献4】Georgiadis;Heaton RJ,Peterson AW,Georgiadis RM.Electrostatic surface plasmon resonance:direct electric field−induced hybridization and denaturation in monolayer nucleic acid films and label−free discrimination of base mismatches.Proc Natl Acad Sci USA.2001 Mar 27;98(7):3701−4
【非特許文献5】C Waelti et al AC electrokinetic manipulation of DNA,2007 J.Phys.D:Appl.Phys.40 114−118
【非特許文献6】Bakewell DJ,Morgan H.Dielectrophoresis of DNA:time− and frequency−dependent collections on microelectrodes.IEEE Trans Nanobioscience.2006 Mar;5(1):1−8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし不均一捕捉プローブに基づくアッセイのアッセイ時間が短縮され感度が改善された改良法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって本発明は、サンプルの処理方法であって、
a)アナライトに結合することができる結合相と前記サンプルとを媒体の存在下で接触させる工程と、
b)複数のパルスで構成され、第1の周波数、第1のパルス持続期間、及び第1のパルス立ち上がり時間を有する第1の交番電場を前記媒体に印加する工程と、
c)任意的に第2の交番電場を前記媒体に印加する工程と、
d)それにより前記媒体中の前記サンプル及び前記結合相の少なくともいずれかに影響を及ぼす工程と、
を含む方法を提供する。
【0009】
他の実施形態では、本発明はまたサンプルの処理方法であって、
a)アナライトに結合することができる結合相と前記サンプルとを媒体の存在下で接触させる工程と、
b)第1の周波数を有する第1の交番電場を前記媒体に印加する工程と、
c)第2の交番電場を前記媒体に印加する工程と、
d)それにより前記媒体中の前記サンプル及び前記結合相の少なくともいずれかに影響を及ぼす工程と、
を含む方法を提供する。
【0010】
この実施形態では第1の交番電場は、複数のパルスで構成され、第1のパルス持続期間及び第1のパルス立ち上がり時間を有することが好ましい。この実施形態の第2の交番電場は、複数のパルスで構成され、第1のパルス持続期間及び第1のパルス立ち上がり時間を有することが更に好ましい。
【0011】
本発明はまた、アナライトを任意的に含むサンプル処理装置であって、媒体と、前記アナライトを捕捉することができる結合相と、複数の電極と、少なくとも2つの交番電場を前記媒体に印加するための電場源とを備え、複数のパルスで構成されている少なくとも1つの交番電場に印加することができる装置を提供する。各交番電場は複数のパルスを含み、周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間から選択されるパラメータの独自の組み合わせを有することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、櫛型電極構造の例を示す。
【図2】図2は、金櫛型微小電極構造の完全マスクレイアウトを示す。
【図3】図3は、チップの個々のレイアウトを示す。
【図4】図4は、マスクデザインを示す。
【図5】図5は、誘電泳動(DEP)測定に用いられる金櫛型電極のナイキストプロットを示す。
【図6】図6は、ポリスチレンビーズ溶液中の金電極(IDE)を示す。
【図7】図7は、ポリスチレンビーズ溶液中の金IDE電極を示す。
【図8】図8は、ポリスチレンビーズ溶液中の金IDE電極を示す。
【図9】図9は、ポリスチレンビーズ溶液中の金IDE電極を示す。
【図10】図10は、ポリスチレンビーズ溶液中の金IDE電極を示す。
【図11】図11は、1nMのQdots蒸留水溶液中の金IDE電極を示す。
【図12】図12は、1nMのQdots蒸留水溶液中の3つの金IDE電極を示す。
【図13】図13は、損傷を受けたIDEの透過像を示す。
【図14】図14は、Qdots−3mM HEPESバッファの1nM溶液(pH6.9)中において相補的プローブが固定化されている金IDE電極を示す。
【図15】図15は、10分間100kHzで2.5Vの交流電場に接続され、相補的プローブが固定化されている2つの金IDE電極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明をより詳細を説明する。
【0014】
「交番電場」という用語は、例えば1対の電極に交番電流(交流)或いは交番電圧を印加することにより生じ得る不定値を有する電場を意味する。
【0015】
「複数のパルスで構成されている交番電場」という用語は、例えば印加電場のオンとオフを切り換えることにより、或いは前記電場を低下させ次いで上昇させることにより(逆の場合も同様である)、典型的には立て続けに交番電場が1超印加されることを意味する。
【0016】
「第2の交番電場を印加する」及び「1以上の更なる交番電場を印加する」という用語は、第1の交番電場と同時に第2の交番電場或いは1以上の更なる交番電場が印加されることを意味し得る。例えば2以上の交番電場は、一連の重畳電場であってもよく、該電場は異なる周波数及び正弦波或いは矩形波などの異なる形状の少なくともいずれかを各々有する。例えば高周波数正弦波交番電場及び低周波数正弦波交番電場は、重畳され且つ同時に印加されてもよい。或いは第2の交番電場或いは1以上の更なる交番電場は、第1の交番電場後連続して印加されてもよい。
【0017】
本発明に係る方法の工程(d)においてサンプル及び結合相の少なくともいずれかは、第1の交番電場の印加により、また任意的に第2の任意交番電場により影響を受ける。1つの実施形態では、サンプルが影響を受けて、アナライトが媒体を介して結合相へ移動する。これに代えて或いはこれに加えて、サンプル及び結合相の少なくともいずれかが影響を受け、アナライトの結合相への結合を促進する。この実施形態では、サンプルが影響を受け、アナライトの結合相への結合が促進され、例えば結合相に濃縮される。結合相は、例えばある方向に配向されることにより影響を受ける場合があり、これによってアナライトの結合が促進される。結合相が捕捉プローブを備える1つの実施形態では、捕捉プローブの位置及び配向の少なくともいずれかが影響を受け、アナライトの捕捉プローブへの結合を促進することができる。結合相が複数の電極であるこの実施形態では、アナライト及びキャプチャーの少なくともいずれかが影響を受け、電極及び電極間の少なくともいずれかに結合することができる。
【0018】
好ましい実施形態では、第1の交番電場は媒体を介する結合相へのアナライトの移動を制御し、第2の交番電場はアナライトの結合相への結合を促進する。
【0019】
本方法は、生体分子であるアナライトを対象とすることが好ましいが、任意の荷電アナライト或いは分極性アナライトを必要に応じてアッセイすることもできる。好ましい実施形態では、アナライトは細胞、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片、アミノ酸、炭水化物、脂質、合成化学物質、或いはDNA及びRNAのいずれかなどの核酸から選択される1以上の化合物を含む。
【0020】
本発明に係る方法は、その電気的性質に起因して、交番電場の存在下で強い誘電泳動活性を示すアナライトのアッセイに特に有利である。したがって交番電場において有効な分極性を示すアナライトが、本方法に特に適している。これに関連してアッセイ方法は、交番電場を用いて容易に操作することができるDNA或いはRNAの検出に特に有用である。
【0021】
サンプルは、細胞サンプルなどの生体サンプルを典型的に含む。生体サンプルは、構造によって前処理する必要がある場合もあるし、その必要がない場合もある。
【0022】
本発明者らは驚くべきことに、サンプルを含む媒体に第1の交番電場及び第2の交番電場を印加すると、サンプルを処理する方法に要する時間が短縮されると共に、該方法の感度が高まることを見出した。
【0023】
また本発明者らは驚くべきことに、サンプルを含む媒体に複数のパルスで構成されている第1の交番電場及び任意的に第2の交番電場を印加すると、サンプルを処理する方法にかかる時間が短縮されると共に、該方法の感度が高まることを見出した。
【0024】
第2の交番電場は複数のパルスで構成され、第2の周波数、第2のパルス持続期間、及び第2のパルス立ち上がり時間を有することが好ましい。
【0025】
好ましい実施形態では、第1の交番電場及び第2の交番電場が媒体に印加され、第1の交番電場及び第2の交番電場は異なる。この実施形態では、第1の交番電場及び第2の交番電場は、周波数、パルス持続期間、パルス立ち上がり時間、及び振幅の少なくともいずれかが異なっていてもよい。
【0026】
本発明者らは、パルス状であってもよく、好ましくは異なる電場である1超の交番電場を用いてアナライト及び結合相の少なくともいずれかを操作し、サンプルの処理方法の速度及び効率を改善できることを予想外にも見出した。交番電場は、媒体を通じた結合相へのアナライトの移動などのバルク事象、及びアナライトの結合相への結合などの表面に限定された事象を含む、本方法の実施中に生じる様々な事象を制御することができる。したがって第1の交番電場を用いて、媒体を通じた結合相へのアナライトの移動、例えば媒体を通じた結合相へのDNAの移動を制御することができる。第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかを用いて、アナライトの結合相への結合、例えばDNAハイブリダイゼーションを制御することができる。1つの実施形態では、第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかを用いて、結合相に取り付けられている捕捉プローブの位置合わせ及び配向の少なくともいずれかを例えば伸長により行い(Waelti C.et al 2007に記載)、ハイブリダイゼーション効率を上昇させることができる。第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかはまた、アナライトが結合相に結合した後に印加され、非特異的結合アナライト及び任意の吸着アナライトを除去し、洗浄効率を改善することもできる。例えば交番電場は、バッファによる洗浄中に印加されてもよい。洗浄に用いられるバッファが高いイオン強度を有している場合、該バッファは負の誘電泳動を誘導し、DNAなどの非特異的結合アナライトを電極から低電場領域にドライブさせる。この方法は、電極から非特異的結合アナライトを除去することが容易であるため、電極が結合相として作用するとき特に有用である。
【0027】
本発明者らは、印加される交番電場が複数のパルスを含む場合、アナライト及び結合相の少なくともいずれかの操作性が改善されるため、サンプルの処理方法の速度及び効率が改善されることも見出した。
【0028】
交番電場の周波数及び振幅は、処理されるアナライトの極性を最適化することにより、標的アナライト及び結合相の少なくともいずれかを選択的に操作及び移動させるのに好適なレベルに設定される。各交番電場に必要な特定の周波数及び振幅は、処理されるサンプルの種類、電気特性、密度、標的アナライトの形状、及び標的アナライトの大きさに依存する。各交番電場に必要な特定の周波数及び振幅はまた、方法で用いられる媒体にも依存する。例えばアナライトがDNAであり、電極が結合相として作用する場合、DNAの電極への結合は媒体のイオン強度(媒体の分極性)に強く依存する。したがって媒体の伝導性は、必要な交番電場の周波数及び振幅に影響を及ぼす。
【0029】
交番電場が複数のパルスを含む実施形態では、交番電場のパルス立ち上がり時間及び周波数は、媒体を通じたアナライトの加速を最適化させる好適なレベルに設定される。複数のパルスで構成されている各交番電場に必要な特定のパルス立ち上がり時間及び周波数は、処理されるサンプルの種類、電気特性、密度、標的アナライトの形状、標的アナライトの大きさ、及び方法で用いられる媒体に依存する。理論に縛られるものではないが、アナライトを移動させるのに十分な時間十分な力を印加するために、より大きなアナライトにはより長いパルス立ち上がり時間及び低周波数が必要とされる場合がある。
【0030】
交番電場が複数のパルスを含む実施形態では、交番電場のパルス持続期間は、媒体を通じたアナライトの移動速度及び移動距離を最適化させるのに好適なレベルに設定される。複数のパルスで構成されている各交番電場に必要な特定のパルス持続期間は、処理されるサンプルの種類、電気特性、密度、標的アナライトの形状、標的アナライトの大きさ、及び方法で用いられる媒体に依存する。理論に縛られるものではないが、より大きなアナライトを移動させるのに十分な力を与えるため、或いはアナライトをより長い距離移動させるために、より長いパルス持続期間が必要とされる場合がある。
【0031】
第1の交番電場及び第2の交番電場は、アッセイ装置において制御される事象の種類に応じて同時に印加されてもよく、連続して印加されてもよい。1つの実施形態では、第1の交番電場及び第2の交番電場は複数のパルスで構成されている。第1の交番電場及び第2の交番電場が連続して印加される実施形態では、第2のパルス状交番電場を生じさせるために、第1の交番電場の電圧、周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の少なくともいずれかを変化させてもよい。第1の交番電場及び第2の交番電場は同時に印加されることが好ましい。
【0032】
第1の交番電場及び第2の交番電場は、周波数、振幅、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の少なくともいずれかが異なっていてもよい。
【0033】
交番電場(1或いは複数)が複数のパルスで構成されている実施形態では、印加されるパルスの数は特に限定されず、1から交番電場印加期間において可能な総サイクル数までの範囲であってもよい。
【0034】
各交番電場は、好ましくは1分間〜20分間、好ましくは5分間〜20分間、より好ましくは10分間〜20分間印加される。
【0035】
第1の交番電場を用いて媒体を通じた結合相へのアナライトの移動を制御する好ましい実施形態では、第1の交番電場は好ましくは1Hz〜10Hz、より好ましくは10Hz〜10Hzの周波数を有する。この周波数範囲は、特にDNAの場合、媒体全体に亘ってアナライト上で双極性電荷を誘起することによりアナライトの移動を改善することができる。10Hzより高い周波数を用いるとき、アナライトの移動に対する効果が減少する場合があるが、これは誘起された双極子が形成される時間、及び輸送が生じる時間が徐々に短くなるためである。
【0036】
パルス状であってもよい第1の交番電場は、10kV/m〜1,000MV/mの電場強度を有することが好ましい。
【0037】
パルス状であってもよい第1の交番電場は、30Hzの周波数及び350mVの電圧を有することが好ましい。
【0038】
パルス状であってもよい第2の交番電場は、10Hz〜10Hzの周波数を有することが好ましい。
【0039】
パルス状であってもよい第2の交番電場は、10mV〜5Vの電圧を有することが好ましい。
【0040】
第2の交番電場が複数のパルスで構成されており、アナライトの結合相への結合を促進するために用いられる好ましい実施形態では、第2のパルス状交番電場は10−2s〜10−8sのパルス持続期間を有することが好ましい。第2のパルス状交番電場はまた10−8s〜10−10sのパルス立ち上がり時間を有することが好ましい。このパルス持続期間及びパルス立ち上がり時間は、特にDNAハイブリダイゼーションの場合、表面に限定された事象を改善することができる。
【0041】
第1の交番電場及び第2の交番電場は、正弦波、矩形波、鋸歯状波、及び三角波から独立に選択される波形を有することが好ましい。
【0042】
本発明に係るアッセイ方法は、1以上の更なる交番電場を印加する1以上の工程を更に含んでいてもよい。更なる交番電場を用いて、第1交番電場及び第2の交番電場から生じる異なるアッセイ事象を制御することができ、該事象は上述のように捕捉プローブを伸長させてアナライトの捕捉プローブへのハイブリダイゼーションを助長し、非特異的結合アナライトを除去することを含む。この実施形態では、各更なる交番電場が他の全ての交番電場の周波数に対して独自の周波数を有することが好ましい。各更なる交番電場が複数のパルスで構成されている実施形態では、各更なる交番電場が他の全ての交番電場の周波数、パルス持続期間及びパルス立ち上がり時間の組み合わせに対して周波数、パルス持続期間及びパルス立ち上がり時間の独自の組み合わせを有することが好ましい。したがって印加される第1の交番電場、第2の交番電場、及び各更なる交番電場は、これらパラメータの独自の組み合わせを各々有する。
【0043】
更なる交番電場は10Hz〜10Hzの周波数を有することが好ましい。更なる交番電場は、10mV〜5Vの電圧範囲を有することが好ましい。更なる交番電場は、10−2s〜10−8sのパルス持続期間を有することが好ましい。更なる交番電場は、10−8s〜10−10sのパルス立ち上がり時間を有することが好ましい。
【0044】
第1の交番電場、並びに任意の第2の交番電場及び更なる交番電場は、複数の電極を用いて媒体に印加されることが好ましい。複数の電極は、櫛型電極構造の形態であることが好ましい。櫛型電極構造の例を図1に示す。図1は、金櫛型微小電極構造の完全マスクレイアウトを示し、4つのデバイスチップと、アラインメントマスクと、リフトオフ処理の速度を上げるためのダミー金属線とを備える。各電極のディジット数(N)は5〜10であることが好ましい。各ディジットの長さ(L)は75μm〜150μmであることが好ましい。各ディジットの幅(W)及び各ディジット間のギャップ幅(G)は、それぞれ1.5μm〜10μmであることが好ましく、WとGとは同じであることが好ましい。
【0045】
本発明で用いることができる電極構造の例を図2、図3、及び図4にも示す。
【0046】
図2は、金櫛型微小電極構造の完全マスクレイアウトを示し、4つのデバイスチップと、アラインメントマスクと、リフトオフ処理の速度を上げるためのダミー金属線とを備える。
【0047】
図3は、チップの個々のレイアウトを示し、該チップは4つとも同一であり、10μmの櫛型電極対装置構造と、相互接続と、接着パッドと、フレームアラインメントマーカーとを備える。各電極は、ディジットの幅及びディジット間の間隔が10μmであり、ディジットの長さが150μmである5つのディジットを有する。
【0048】
図4は、マスクデザインを示し、チップのラベル及び1.5μmの櫛型構造部分の拡大図を示す。
【0049】
図5は、誘電泳動(DEP)測定に用いられる金櫛型電極のナイキストプロットを示す。
【0050】
図6は、ポリスチレンビーズ溶液中の金電極(IDE)を示す。IDEは50MHzにおいて7Vの交流電場に接続されていた。
【0051】
図7は、ポリスチレンビーズ溶液中の金IDE電極を示す。周波数100kHzで様々な電圧を印加した場合の画像を記録した。(a)2V、(b)4V、(c)6V、及び(d)8V。
【0052】
図8は、ポリスチレンビーズ溶液中の金IDE電極を示す。様々な時間間隔にて周波数100kVで8Vの電圧を印加した場合の画像を記録した。(a)Field OFFリファレンス時間、(b)Field ON(15秒)、(c)Field ON(45秒)、及び(d)Field ON(2分)。
【0053】
図9は、ポリスチレンビーズ溶液中の金IDE電極を示す。様々な時間間隔にて周波数20kVで5Vの電圧を印加した場合の画像を記録した。(a)Field OFFリファレンス時間、(b)Field ON(15秒)、(c)Field ON(45秒)、及び(d)Field ON(2分)。
【0054】
図10は、ポリスチレンビーズ溶液中の金IDE電極を示す。様々な時間間隔にて周波数20kVで8Vの電圧を印加した場合の画像を記録した。(a)Field OFFリファレンス時間、(b)Field ON(12秒)、(c)Field ON(15秒)、(d)Field ON(1分5秒)、(e)Field ON(2分)、(f)Field ON(10分)、及び(g)Field ON(30分)。
【0055】
図11は、1nMのQdots蒸留水溶液中の金IDE電極を示す。(a)Field OFF、(b)IDEを6分間1MHzで2Vの交流電場に接続した、(c)分極が逆であること以外(b)と同様である、(d)電場なしに蒸留水中に12時間放置した後に電極を測定した。
【0056】
図12は、1nMのQdots蒸留水溶液中の3つの金IDE電極を示す。各電極は、(a)20kHz、(b)100kHz、及び(c)1MHzで2Vの交流電場に6分間接続された。
【0057】
図13は、損傷を受けたIDEの透過像を示す。該像は20kHzで5Vの交流電場を印加した後記録した。
【0058】
図14は、Qdots−3mM HEPESバッファの1nM溶液(pH6.9)中において相補的プローブが固定されている金IDE電極を示す。(a)Field off、(b)IDEを6分間100kHzで2Vの交流電場に接続した、(c)IDEを更に6分間100kHzで2.5Vの交流電場に接続した。
【0059】
図15は、10分間100kHzで2.5Vの交流電場に接続され、相補的プローブが固定化されている2つの金IDE電極を示す。(a)1nMのQdots及び1nMの標的、(b)1nMのQdots及び10nMの標的を含有している3mM HEPESバッファに電極を浸漬した。(c)はSSC+SDS溶液で洗浄した後の(b)を示す。
【0060】
本発明に係る方法を用いてアナライトを精製する、アナライトを単離する、或いはアナライトを選別することができる。本発明に係る方法は、サンプル中のアナライトの存在或いは非存在を検出するアッセイ方法であることが好ましい。この実施形態では、アッセイ方法はサンプルの定量を含んでもよい。
【0061】
1つの実施形態では、本発明に係る方法は、アナライトを結合相に結合させた後に1以上の洗浄工程を更に含む。この実施形態では、上述のように非結合アナライト及び非特異的結合アナライトの少なくともいずれかを除去するために交番電場を印加してもよい。
【0062】
サンプル中のアナライトを精製、単離、選別、及び定量する技術は当業者に周知であり、したがって本発明に係る方法は、必要なアナライトに特定の処理を施すために容易に適合させることができる。
【0063】
交番電場を印加するために用いられる複数の電極が結合相である1つの実施形態では、光学的に或いは電気化学的に(例えば電気化学インピーダンス分光法、EISにより)電極においてDNAなどの結合アナライトを検出することができる。
【0064】
本発明に係る方法を用いてアナライトを単離する場合、方法はアナライトが結合している結合相を媒体から分離する工程を更に含んでいてもよい。結合相を媒体から分離する方法として当業者に知られている従来の分離工程のいずれも適用可能である。本方法はまた、アナライトを結合相から溶出させる工程を更に含んでいてもよい。
【0065】
本発明に係る方法は、大規模環境或いは微小規模環境で用いることができる。方法を大規模環境で用いる場合、洗浄工程後結合相にアナライトが結合したときにアナライトを検出することができる。方法を微小規模環境で用いる場合、更に下流の処理及び分析のために結合相及び媒体からアナライトを分離する必要がある場合がある。典型的には本方法は、マイクロ流体装置或いはナノ流体装置などの流体装置で用いることができる。
【0066】
本発明に係る方法は、サンプルを電気化学的条件或いは化学的条件に供しサンプルを溶解させることを含む溶解工程を更に含んでいてもよい。本発明に係る方法はまた、サンプルが細胞を含むときトランスフェクション工程を更に含んでいてもよく、例えばエレクトロポレーションと呼ばれる技術を本方法で用いることができる。
【0067】
結合相はアナライトに結合することができなければならないが、いずれかの特定の物質に限定されるものではない。当業者は検出されるアナライトに応じて本方法で用いるのに好適な結合相を容易に選択することができる。様々な物質がアナライトに結合することが知られており、例えば核酸に結合する固相としては、シリカ系物質、ポリマー物質、及びガラスなどの他の物質が挙げられる。固相の形態としては、シート、濾紙、篩、焼結物、ウェブ、及び繊維が挙げられる。磁性粒子或いは磁性ビーズを含む粒子或いはビーズが特に有用である。その理由は該粒子或いはビーズをカラムに充填する、或いは懸濁液に用いることができ、該粒子或いはビーズが高結合能を有するためである。
【0068】
アナライトが結合相に直接結合してもよく、或いは検出されるアナライトに対して特異的であり、固相上にアナライトを捕捉するためにアナライトと反応することができる捕捉プローブを固相が含んでいてもよい。例えばDNAプローブを用いてハイブリダイゼーションにより特異的DNA標的配列を捕捉することができる。当業者は検出されるアナライトに応じて好適な捕捉プローブを容易に使用することができる。
【0069】
1つの実施形態では、結合相は交番電場を印加する1以上の電極である。この実施形態はアナライトがDNAであるときに特に好適であり、この場合DNAは電極の高電場領域に集積する。
【0070】
この実施形態では、アナライトが結合相に直接結合してもよく、或いはアナライトに対して特異的であり、アナライトと反応することができる捕捉プローブを電極に固定化してアナライトを捕捉させてもよい。
【0071】
本発明の方法で用いられる媒体は、液体、ゲル、及び緩衝溶液を含む任意の好適な媒体であり、アナライトは媒体を通して移動し、結合相に結合することが可能になる。媒体はまた、交番電場の流れを促進する電解質を含んでいてもよく、正の誘電泳動を得るために媒体の分極性がアナライトの分極性より低いことが好ましい。
【0072】
当業者は検出されるアナライトの種類に応じて好適な媒体を選択することができる。
【0073】
本発明に係るアッセイ装置は、上記のように本発明の方法を実施するのに好適である。媒体及び結合相は本発明の方法に関して上記の通りである。
【0074】
電場源は2つの交番電場を同時に或いは連続して印加できることが好ましく、該交番電場は周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の少なくともいずれかを含むパラメータの独自の組み合わせを各々有する。交番電場の少なくとも1つは複数のパルスで構成されている。1つの実施形態では、各交番電場は複数のパルスで構成されている。交番電場は同時に或いは連続して印加され得る。1つの実施形態では、電場源は1以上の更なる交番電場を印加することもでき、各交番電場が複数のパルスで構成されており、周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の少なくともいずれかを含むパラメータの独自の組み合わせを有することが好ましい。
【0075】
アッセイ装置における電場源は複数の電極を備えることが好ましい。この実施形態では、複数の電極は図1〜4に示すような櫛型電極構造の形態であってもよく、本発明の方法に関して上で論じた通りであってもよい。
【0076】
1つの実施形態では、本発明に係る装置は、結合相を形成するマイクロスポットのマイクロアレイを含むマイクロチップの形態であってもよく、固定化オリゴヌクレオチドなどのプローブ分子及び微小電極配置を備えることが好ましい。マイクロチップ及びマイクロアレイは当業者に周知である。
【0077】
典型的には本装置は、マイクロ流体装置或いはナノ流体装置などの流体装置であってもよい。
【0078】
本発明はまた、サンプルに影響を与えるための2以上の交番電場、及びアナライトに結合することができる結合相の少なくともいずれかの使用を提供する。各交番電場は複数のパルスで構成されていることが好ましい。好ましい実施形態では、各交番電場は、他の全ての交番電場の周波数、パルス持続期間及びパルス立ち上がり時間の組み合わせに対して、周波数、パルス持続期間及びパルス立ち上がり時間の独自の組み合わせを有することが好ましい。アナライトの結合相への移動、及びアナライトの結合相への結合の少なくともいずれかを制御するように、サンプル及び結合相の少なくともいずれかが影響を受けることが好ましい。
【0079】
本発明はまた、1以上の交番電場の使用であって、各交番電場が複数のパルスで構成されており、サンプル及びアナライトに結合することができる結合相に影響を及ぼす使用を提供する。
【0080】
上述のように本発明は、2つの交番電場の印加或いは1以上のパルス状交番電場の印加を用いて、サンプルを処理するときの特定の事象を制御できることに基づいて行われ、該事象としてはバルク溶液から検出器の結合相への標的アナライトの輸送、及びアナライトの結合相への結合が挙げられる。したがって処理方法は迅速且つ高感度である。本発明は核酸(例えばDNA)アッセイに対して特に有用であり、その理由はDNAが分極可能であるため交番電場において移動するからである。しかし本発明は、当業者に周知である様々なアナライトに対する多くの様々な種類のアッセイに使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下の実施例では、電気化学インピーダンス分光法(EIS)及び蛍光検出により、本発明で用いられる交流電場印加のハイブリダイゼーション効率に対する効果を調べた。
【0082】
プロトコル
2種のサンプル:蛍光標識されている1μmのポリスチレンビーズ及びQdot605−ストレプトアビジンコンジュゲートについて調べた。直径1μmのポリスチレンビーズをInvitrogenから入手した。100μLの2%ビーズ溶液を4.9mLの蒸留水で希釈した。Qdotの1nM溶液も蒸留水を用いて調製した。
【0083】
櫛型電極(IDE)のインピーダンスを測定することにより実験前に電極制御を実施した。1MHz〜0.1Hzの周波数において10mVのrms振幅電圧を定電位で電極に印加することにより、10mMの[Fe(CN)6]3−/4−溶液において電極制御を実施した。観察された特徴的な半円(図5)により、IDE電極及び接続が両方共適切に機能していることが確認された。
【0084】
フローセルを空にし、蒸留水で電極を十分洗浄した後、ポリスチレンビーズ溶液をフローセルに注入し、50MHzパルス発生器(HP8112A)により定電位を置換した。470nmのパルス状レーザーダイオードを用いてサンプルを励起させ、10倍の対物レンズを通して蛍光を補集し、535nm40nm帯域通過フィルタを介して冷却EMCCDカメラ(−70℃)に送信した。
【0085】
ミクロスフィアの誘電泳動(DEP)
50MHz〜20kHzに亘る周波数範囲、及び最高8Vの印加ピーク電圧において観察されるDEPに対する、印加される交流電圧(延いては電場)の大きさ及びIDEに印加される周波数の効果を実験的に研究した。
【0086】
最高周波数では、比較的高電圧が印加されたときでさえも、ビーズが視野内で均一に分布することが観察された。これは7V、50MHzで明らかに観察された(図6)。
【0087】
周波数を100kHzに低下させると、ビーズの再編成を観察することができるようになった。図7は、様々な印加電圧に対応する一連の画像を示す。6V(図7(c))では、上方の電極の頂上部が明るくなることが観察できる。8Vでは、IDE全体に電場形状を示す暗領域が現れ始める。IDEにおけるビーズ濃縮は、図示されるように(図8)最初の1分で明らかになるが、この周波数においては反応が依然として比較的弱い。
【0088】
5Vの印加ピーク電圧で周波数を20kHzに低下させたとき、図示されるように(図9)シグナルは著しく明るくなる。図10は8Vの電圧を印加したときに記録した一連の画像を示す。電極間の間隔が10μmであるとき、電極全体の実効値(rms)電場は約5.7×10V/mであり、局所増強により電極の先端部では更に高い。図10に示される時系列は、ビーズは先ず櫛先端部(電極の頂上部)に凝縮され始め、徐々に電極の指状部(finger)の長さ全体を広がることを示す。
【0089】
量子ドット及び結合標的DNAと結合している量子ドットのDEP
金IDEにおけるQdotのトラップについて調べるために一連の実験を実施した。比較的小さいDNA断片(10kbp未満)のトラップは、10V rms m−1の桁の極めて高い電場強度を必要とする。しかし比較的大きいQdotの反応はこれよりも大きいはずである。本アプローチではDEPベクターとしてQdot標識を用い、電極におけるストレプトアビジン−ビオチン相互作用を介してQdotに結合している標的DNAをトラップし、その結果より低電場強度を用いて局在化DNA濃縮を達成する。以下の溶液を用いて3種の実験を実施した:Qdotの蒸留水溶液、QdotのHEPESバッファ溶液(ハイブリダイゼーションに必要)、及び最後にQdot標識されている標的のHEPESバッファ溶液。
【0090】
図11は、蒸留水に溶解させた1nMのQdotに浸漬されている電極を示す。数分間交流電場を印加したとき(ここでは1MHz、2Vピーク電圧)、Qdotが電極の指状部周辺に濃縮しているのが見られ、これによってIDE対において誘引されている(attractive)電極の形状を明らかに示す(図11(b))。極性を逆にしたとき、予想された通り、また図11(c)に図示されているように、反対側の電極に誘引される。一旦Qdotが電極に濃縮されると、Qdotは図11(d)に示すように電極に留まる傾向があり、電極は蒸留水中に12時間放置した後でさえも強いシグナルを発している。これは高濃度Qdot凝集及び電極吸着と一致する。
【0091】
次いで広範囲に亘る周波数について上記実験を繰り返した。図12は、20kHz、100kHz、及び1MHzにおいて2Vの交流電場を印加したときに得られる結果を示す。最低周波数では(図12(a))、電場強度が最も高い電極指状部の先端にQdotの大部分が誘引される。高周波数では(図12(b)及び図12(c))、ナノ粒子がより均一に誘引されているのが観察された。典型的に2ボルト〜3ボルト(2×10V rms m−1の桁の)のピーク電圧を印加した場合100kHzで最良の結果が得られた。より高電圧にすると、気泡が形成され、図13に示すように最終的には電極の損傷が観察された(この写真は電極が1つのみ存在し、他の電極は完全に切り離されていることを示す)。
【0092】
ハイブリダイゼーションは、SSCなどのバッファ溶液中で通常実施される。しかしかかる溶液は、これらDEP実験と組み合わせて用いられるときそれ程好ましい結果をもたらさないことが示されている。この作用を避けるために、伝導率約20μS cm−1の代替ハイブリダイゼーションバッファであるHEPES(3mM、1mMのNaOHを含む、pH6.9)中においてQdotのDEPを調べた。提示された結果(図14)は、6分及び12分後DEPにより誘引された電極においてQdotが成功裏に増加することを示す。
【0093】
最後に1nM及び10nMの標的濃度についてQdot標識標的DNAのDEPを示す(図15)。図15(a)及び15(b)は、Qdot標識のDEPを介して電極にこの標識DNAが効率的に濃縮され得ることを示す。Qdotとは異なり、Qdot標識DNAは電極表面に不可逆的に吸着されないように見えることは興味深い(図15(c))。
【0094】
結論
上記結果は、正のDEPを用いてポリスチレンビーズ及びナノクリスタルQdotの両方を電極表面に誘引し、濃縮させ得ることを示す。ビーズ及びQdotは官能化され、標識としてDNAに結合することができるため、これら種のDEPを用いて、ハイブリダイゼーション適合性溶液中で患者に近い環境に必要なタイムスケールにて電極における特異的標識標的の濃縮を検出することができる。これは蛍光検出及びDEP輸送に対してDNAのQdot標識を用いるという可能性を開き、ハイブリダイゼーションプロセスを高速化する可能性がある。
【0095】
より詳細にはプローブで改質された櫛型金微小電極に対する標的DNAのハイブリダイゼーション中に交流電場を印加することによりハイブリダイゼーション効率が実質的に上昇し、該ハイブリダイゼーション効率の上昇により非相補的DNAの非特異的結合を明らかに区別することができる。
【0096】
交流電場印加後の反応は、交流電場無しのハイブリダイゼーションと比べて1桁高かった。また標的DNAの非存在下における交流電場印加の5分以内に電子移動抵抗の増加が観察された。該増加は、電子を標的分子に対してより接近可能にする表面結合プローブ層の再配向で説明することができる。
【0097】
要約すると、理論に縛られるものではないが、交流電場印加中のハイブリダイゼーション効率上昇は、プローブ層の再配向により、標的オリゴヌクレオチドの交流電場誘導性誘電泳動トラップによる局所標的濃縮の増加により、或いはこれら現象の両方の組み合わせにより惹起された可能性がある。
【0098】
櫛型電極の部位にアナライトを濃縮させられる可能性を更に調べるために、1μmの大きさの蛍光ミクロスフィアの誘電泳動性トラップ、及び複合検出の設定におけるストレプトアビジン/量子ドット−コンジュゲートに対する広範囲に亘る周波数及び振幅電圧の効果を試験し、その結果をTIRFにより分析した。これら実験は、振幅5V〜8Vで20kHzの交流電場を印加した櫛型電極の表面上にビーズ及びQdotが濃縮されたことを示した。表面に固定化されているプローブの部位にQdot−ストレプトアビジンコンジュゲートを濃縮させられる可能性は、ビオチン化検出プローブ或いはビオチン化二次抗体を介して任意の種類の標的を濃縮させられる可能性に関連していると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを処理する方法であって、
a)アナライトに結合することができる結合相と前記サンプルとを媒体の存在下で接触させる工程と、
b)複数のパルスで構成され、第1の周波数、第1のパルス持続期間、及び第1のパルス立ち上がり時間を有する第1の交番電場を前記媒体に印加する工程と、
c)任意的に第2の交番電場を前記媒体に印加する工程と、
d)それにより前記媒体中の前記サンプル及び前記結合相の少なくともいずれかに影響を及ぼす工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
第2の交番電場が複数のパルスで構成されており、第2の周波数、第2のパルス持続期間、及び第2のパルス立ち上がり時間を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルに対する影響が、媒体を通じて結合相にアナライトを移動させることを含む請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
サンプル及び結合相の少なくともいずれかに対する影響が、アナライトの結合相への結合を促進することを含む請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第1の交番電場及び第2の交番電場が異なる周波数を有する請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
第1の交番電場及び第2の交番電場が異なるパルス持続期間及び異なるパルス立ち上がり時間の少なくともいずれかを有する請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
第1の交番電場が媒体を通じて結合相にアナライトを移動させることができる請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかが0.1Hz〜1010Hz、好ましくは30Hz〜10Hzの周波数を有する請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかが10kV/m〜100MV/mの電場強度を有する請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第2の交番電場がアナライトの結合相への結合を促進することができる請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかが10−2s〜10−8sのパルス持続期間を有する請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかが10−8s〜10−10sのパルス立ち上がり時間を有する請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかが10Hz〜10Hzの周波数を有する請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
第1の交番電場及び第2の交番電場の少なくともいずれかが1mV〜10V、好ましくは10mV〜5Vの電圧を有する請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
第1の交番電場及び第2の交番電場がそれぞれ独立して正弦波、矩形波、鋸歯状波、及び三角波から選択される波形を有する請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
第1の交番電場及び第2の交番電場が同時に或いは連続して印加される請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
更なる交番電場を印加する1以上の工程を更に含む請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
更なる交番電場のそれぞれの周波数が、他の全ての交番電場の周波数のいずれとも異なる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
更なる交番電場のそれぞれが複数のパルスで構成されている請求項17から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
更なる交番電場のそれぞれの周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の組み合わせが、他の全ての交番電場の周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の組み合わせのいずれとも異なる請求項19に記載の方法。
【請求項21】
方法が、サンプル中にアナライトが存在するか否かを検出するアッセイ方法、サンプル中のアナライトを精製するアッセイ方法、サンプル中のアナライトを単離するアッセイ方法、或いはサンプル中のアナライトを選別するアッセイ方法である請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
方法がサンプル中のアナライトの存在を検出する方法であって、前記方法が前記アナライトを定量することを含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
サンプルを溶解させる条件にサンプルを供することを含む溶解工程を更に含む請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
アナライトが細胞、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片、アミノ酸、或いはDNA及びRNAのいずれかなどの核酸から選択される1以上の化合物を含む請求項1から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
結合相が捕捉プローブを備え、前記捕捉プローブがアナライトと反応して前記結合相上に前記アナライトを捕捉することができる請求項1から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
捕捉プローブの位置及び配向の少なくともいずれかが影響を受け、アナライトの捕捉プローブへの結合を促進する請求項25に記載の方法。
【請求項27】
結合相が複数の電極である請求項1から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
サンプルを処理する装置であって、媒体と、アナライトを捕捉することができる結合相と、少なくとも2つの交番電場を前記媒体に印加するための電場源とを備え、各交番電場が複数のパルスで構成されていることを特徴とする装置。
【請求項29】
交番電場のそれぞれが複数のパルスで構成されており、該交番電場のそれぞれの周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の組み合わせが、他の全ての交番電場の周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の組み合わせのいずれとも異なる請求項28に記載の装置。
【請求項30】
少なくとも2つの交番電場が同時に印加され得る請求項28から29のいずれかに記載の装置。
【請求項31】
電場源が複数の電極を備える請求項28から30のいずれかに記載の装置。
【請求項32】
複数の電極が櫛型電極構造の形態である請求項31に記載の装置。
【請求項33】
複数の電極が結合相である請求項31から32のいずれかに記載の装置。
【請求項34】
結合相が捕捉プローブを備え、前記捕捉プローブがアナライトと反応して前記結合相上に前記アナライトを捕捉することができる請求項28から33のいずれかに記載の装置。
【請求項35】
装置が、サンプル中にアナライトが存在するか否かの検出、サンプル中のアナライトの精製、サンプル中のアナライトの単離、或いはサンプル中のアナライトの選別に好適である請求項28から34のいずれかに記載の装置。
【請求項36】
装置がサンプル中のアナライトの存在の検出及びアナライトの定量に好適である請求項35に記載の装置。
【請求項37】
サンプルとアナライトに結合することができる結合相との少なくともいずれかに影響を及ぼす2以上の交番電場の使用。
【請求項38】
交番電場のそれぞれが複数のパルスで構成されている請求項37に記載の使用。
【請求項39】
交番電場のそれぞれの周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の組み合わせが、他の全ての交番電場の周波数、パルス持続期間、及びパルス立ち上がり時間の組み合わせのいずれとも異なる請求項38に記載の使用。
【請求項40】
各交番電場が複数のパルスで構成されており、サンプルとアナライトに結合することができる結合相との少なくともいずれかに影響を及ぼす1以上の交番電場の使用。
【請求項41】
アナライトの結合相への移動、及びアナライトの結合相への結合の少なくともいずれかを制御するように、サンプル及び結合相の少なくともいずれかが影響を受ける請求項37から40のいずれかに記載の使用。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−519018(P2011−519018A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550197(P2010−550197)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/052884
【国際公開番号】WO2009/112537
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(507194084)アイティーアイ・スコットランド・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】