アニオンセンサー及びそれを用いたアニオン検出キット
【課題】優れたアニオンセンサーとして機能する金属錯体を提供すること。
【解決手段】周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、下記一般式(I);
【化4】
(式中、X、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、A1及びA2は明細書に定義されるとおりである。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサーによって上記課題を解決する。
【解決手段】周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、下記一般式(I);
【化4】
(式中、X、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、A1及びA2は明細書に定義されるとおりである。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサーによって上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアニオンセンサー及びそれを用いたアニオン検出キットに関する。さらに詳しくは、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な特定の有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサ−に関する。本発明のアニオンセンサーは、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、硝酸イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオンまたは塩化物イオンなどを検出するアニオンセンサーとして好ましい。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理分野で種々の有害アニオン除去材が開発されており、最近ではより高い除去性能を与える材料として、特殊な陰イオン交換樹脂やイオン交換炭が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
有害アニオンの例として、花火やロケットなどの固体燃料、エアバッグのインフレーターなどに利用される過塩素酸イオンが挙げられる。過塩素酸イオンは、成人の代謝機能を司り小児の身体発育を促進する甲状腺に障害を及ぼす物質である。近年、土壌・水中において高濃度の過塩素酸イオンが検出された事例が相次いで報告されている。また、過塩素酸イオンは、水に対して高い溶解度を示し、全ての陰イオンの中で最も陽イオンと相互作用しにくい陰イオンのひとつである。除去方法としては、過塩素酸イオンにより汚染された廃液を濃縮し、塩化カリウムを加えることにより過塩素酸カリウムを生成させ、冷却して結晶化させる方法が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
他の有害アニオンの例として、半導体製造工程やメッキ工程等の廃液に含まれるテトラフルオロホウ酸イオンが挙げられる。ホウ素及びフッ素は動物や植物にとって必須微量元素であるが、過剰の摂取は植物の成長阻害、動物の生殖阻害毒性、神経及び消化器系の障害などが懸念される。そこで、2001年に水質汚濁防止法施行令の一部が改正され、河川、湖沼など海域以外の公共用水域におけるホウ素及びその化合物の排水基準が10mg/L以下、フッ素の排水基準が8mg/L以下に定められた。テトラフルオロホウ酸に代表されるホウフッ化物は、ホウ素とフッ素とが強力に結合した非常に安定な物質であるため、従来の除去方法では除去性能が低かった。近年では、ホウフッ化物を含む廃水にアルミニウム化合物、塩化第二鉄及び鉄粉を添加し反応させ、該反応物に水酸化カルシウムを添加して中和し、フッ素をカルシウム塩として除去する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、処理後の残存アニオン量を簡便に知る術はなく、その手法の開発が求められていた。
【0006】
残存アニオン量を簡便に知る方法として、硫酸銅と1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン含む溶液に過塩素酸を含む溶液を添加し、呈色させる方法が知られている(特許文献4参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは水−アセトニトリル混合溶媒であり、本発明者らが特許文献4に開示されている方法を水中で評価したところ、水単独溶媒中では沈殿が析出するためこの手法には定量性がないことが判明した。
【0007】
また、銅イオンと、硫酸イオンと、3,5−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルフェノールとからなる金属錯体を用いる、過塩素酸イオンの呈色方法が知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、本発明者らが、非特許文献1に開示されている金属錯体について、塩基性条件下で評価したところ、性能が発現しないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−346299号公報
【特許文献2】特表平9−504472号公報
【特許文献3】特開平7−16577号公報
【特許文献4】WO2008/029804公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】半田絢子、近藤満、第7回ホスト・ゲスト化学シンポジウム、1P−01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、従来よりも優れたアニオンセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討し、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な特定の有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサーを用いることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、下記一般式(I);
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Xは水素原子或いは活性プロトンを有さない置換基である。R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子である。A1及びA2はそれぞれ同一または異なって該金属イオンに配位可能なヘテロ原子を有する5員環または6員環を含む置換基である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサ−。
(2)二座配位可能な有機配位子(I)のA1及びA2がピロ−ル−1−イル基を除いたピロリル基、2H−ピロ−ル−1−イル基を除いた2H−ピロリル基、イミダゾリル基、インド−ル−1−イル基を除いたインドリル基、3H−インド−ル−1−イル基を除いた3H−インドリル基、1H−イソインド−ル−2−イル基を除いた1H−イソインドリル基、ベンズイミダゾ−ル−3−イル基を除いたベンズイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾ−ル−1−イル基を除いたチアゾリル基、イソチアゾ−ル−1−イル基を除いたイソチアゾリル基、オキサゾ−ル−1−イル基を除いたオキサゾリル基、イソオキサゾ−ル−1−イル基を除いたイソオキサゾリル基、ピロリジン−1−イル基を除いたピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピリジン−1−イル基を除いたピリジル基、ピラジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピペリジン−1−イル基を除いたピペリジニル基、ピペラジニル基、またはモルホリン−4−イル基を除いたモルホリニル基である(1)に記載のアニオンセンサー。
(3)水中に、少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを加えて(1)または(2)に記載の金属錯体を形成させる工程を含むアニオン検出方法。
(4)金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子との比率が10:1〜1:20である(3)に記載のアニオン検出方法。
(5)該金属錯体と被検出アニオンを接触させる装置と色調変化を検知する装置を含むことを特徴とするアニオン検出キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な特定の有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサ−を提供することができる。
【0016】
本発明のアニオンセンサーは、各種アニオンの検出性能に優れているので、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオンまたは塩化物イオンなどを検出するためのセンサーとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図2】比較合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図3】合成例1で得た金属錯体の水溶液にテトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図4】合成例1で得た金属錯体の水溶液に硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図5】合成例1で得た金属錯体の水溶液にヨウ化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図6】合成例1で得た金属錯体の水溶液と1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼンと硫酸銅の水溶液の吸収スペクトルの比較である。
【図7】実施例5のテトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図8】実施例6のテトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図9】実施例7のテトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図10】実施例8の硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図11】実施例9の硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図12】実施例10の硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図13】実施例12の臭化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図14】実施例13の臭化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図15】実施例14のヨウ化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図16】実施例15のヨウ化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図17】実施例16のヨウ化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図18】実施例17のヘキサフルオロリン酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図19】実施例18の硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図20】実施例19のヘキサフルオロリン酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のアニオンセンサーは、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体からなる。本発明のアニオンセンサーのカウンターアニオンは硫酸イオンであるので、硫酸イオン以外のアニオンを検出することができる。
【0019】
金属錯体の製造に用いる金属イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン及びカドミウムイオンを使用することができ、中でもマンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン及び亜鉛イオンが好ましく、銅イオンがより好ましい。金属イオンは、単一の金属イオンを使用することが好ましいが、2種以上の金属イオンを含む混合金属錯体であってもよい。また、本発明の金属錯体は、単一の金属錯体からなる金属錯体を2種以上混合して使用することもできる。
【0020】
金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な特定の有機配位子(I)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、硫酸イオン及び二座配位可能な有機配位子(I)を含有する水溶液または有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0021】
金属錯体の製造に用いる周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩などを使用することができ、中でも銅塩が好ましい。金属塩は単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0022】
本発明に用いられる硫酸イオンは、金属塩(硫酸塩)のカウンターアニオンをそのまま使用することが好ましい。硫酸塩以外の金属塩を用いた場合、アニオン交換樹脂などによりアニオン交換を行ってカウンターアニオンを硫酸イオンにすることができる。
【0023】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(I)は、下記一般式(I);
【0024】
【化2】
【0025】
で表される。式中、Xは水素原子或いは活性プロトンを有さない置換基である。R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子である。A1及びA2はそれぞれ同一または異なって該金属イオンに配位可能なヘテロ原子を有する5員環または6員環を含む置換基である。
【0026】
二座配位可能な有機配位子(I)は、1個又は複数個の不斉炭素を有し得る。本発明で使用する二座配位可能な有機配位子(I)は、光学異性体、ラセミ体またはいずれかの光学異性体が多い異性体混合物、ジアステレオ異性体など任意の異性体のいずれを使用してもよい。R1及びR2、R4及びR5は、各々同一であれば不斉炭素ではなくなるので好ましく、R1、R2、R4、R5が全て同一であるのが好ましい。
【0027】
本明細書において、活性プロトンを有さない置換基とは、pKaが10以上の置換基を意味する。活性プロトンを有さない置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメチル基、スルホン基及びフェニル基などが挙げられる。
【0028】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7を構成することのできる置換基の内、アルキル基またはアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、シアノ基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0029】
上記A1及びA2を構成することができる金属イオンに配位可能なヘテロ原子を有する5員環または6員環を含む置換基の例としては、ピロ−ル−1−イル基を除いたピロリル基、2H−ピロ−ル−1−イル基を除いた2H−ピロリル基、イミダゾリル基、インド−ル−1−イル基を除いたインドリル基、3H−インド−ル−1−イル基を除いた3H−インドリル基、1H−イソインド−ル−2−イル基を除いた1H−イソインドリル基、ベンズイミダゾ−ル−3−イル基を除いたベンズイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾ−ル−1−イル基を除いたチアゾリル基、イソチアゾ−ル−1−イル基を除いたイソチアゾリル基、オキサゾ−ル−1−イル基を除いたオキサゾリル基、イソオキサゾ−ル−1−イル基を除いたイソオキサゾリル基、ピロリジン−1−イル基を除いたピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピリジン−1−イル基を除いたピリジル基、ピラジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピペリジン−1−イル基を除いたピペリジニル基、ピペラジニル基またはモルホリン−4−イル基を除いたモルホリニル基などが挙げられる。
【0030】
二座配位可能な有機配位子(I)としては、例えば、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,5,6−テトラメチルベンゼン、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン及び1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ニトロ−2,4,6−トリメチルベンゼンなどを使用することができ、中でも1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼンが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属イオンに対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0031】
金属錯体を製造するときの二座配位可能な有機配位子(I)と金属塩の混合比率は、1:20〜10:1のモル比の範囲内が好ましく、1:5〜4:1のモル比の範囲がより好ましく、1:1〜3:1のモル比がさらに好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、また、未反応の原料が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0032】
金属錯体を製造するための溶媒における二座配位可能な有機配位子(I)の濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度では、反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0033】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。また、pHとしては、1〜13の範囲であることが好ましく、2〜11の範囲であることがさらに好ましい。
【0034】
反応が終了したことは、ガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引ろ過に付して沈殿物を集め、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒による洗浄後、空気中で風乾することにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0035】
以上のようにして得られる本発明に用いる金属錯体は、二座配位可能な有機配位子(I)と金属イオン(例えば、銅イオン)とからなる二次元シートが集積することにより、三次元構造をとる。
【0036】
本発明の好ましい金属錯体は、金属イオン1モルに対し二座配位可能な有機配位子(I)が2モル配位した錯体であり、硫酸イオンは金属イオンの電荷を中和するのに必要な量だけ存在する。例えば金属イオンが銅イオン(Cu2+)の場合、モル比で銅イオン:有機配位子(I):硫酸イオン=1:2:1の錯体が得られる。
【0037】
本発明におけるアニオン検出キットは、形態は特に限定されず、該金属錯体と被検出アニオンを接触させる装置と色調変化を検知する装置を含んでもよい。例えば、被検出アニオンを接触させる装置が石英セルであってもよく、色調変化を検知する装置が紫外可視吸収スペクトル測定装置であってもよい。
【0038】
色調変化を検知する装置は、スペクトルの波形を検出し、それによりアニオンの濃度を測定することができる。アニオン濃度は、各アニオン濃度について検量線を作成して求めてもよく、色調変化を検知する装置からのデータをコンピュータに送り、計算して求めてもよい。
【0039】
アニオンの検出は、測定されるアニオン1モルに対し金属錯体1〜3モル程度溶解した溶液を準備し、その錯体溶液にアニオンを含む検体を一定量加え、色調変化を検知する装置により吸光度などのスペクトルを測定することにより実施できる。金属錯体に対しアニオンの量が少なすぎるとスペクトルの変化が小さく、アニオンの量を正確に測定することが難しくなる。
【0040】
本発明のアニオンセンサーは、被検出アニオンとの接触により金属錯体の構造が変化し、それに伴い中心金属イオン周辺の配位子場が変化することで、d−d遷移のエネルギーが変化し、吸収波長がシフトすることを利用してアニオンを検出するものである。
【0041】
前記のアニオン検出メカニズムは推定であるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明を規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
本発明のセンサーは、各種アニオンの検出性能に優れているので、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオンまたは塩化物イオンなどを検出するためのセンサーとして好ましい。
【0043】
本発明のセンサーは、硫酸以外のアニオンの総和を検出することができる。
【0044】
本発明のアニオンセンサーは、金属錯体の形態であってもよく、その溶液(例えば水溶液)の形態であってもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例、比較例における分析及び評価は次のようにして行った。
【0046】
(1)単結晶X線結晶構造解析
得られた単結晶をキャピラリーに封入し、ゴニオヘッドにマウントした。単結晶X線回折装置を用いて測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:Rigaku Mercury CCD system
X線源:MoKα(λ=0.71073Å)50kV 40mA
検出器:CCD
コリメータ:Φ0.50mm
測定温度:20℃
解析ソフト:SHELXL97
【0047】
(2)可視紫外吸収スペクトル測定
得られた溶液を1cmの石英セルに充填し、可視紫外吸収スペクトルを測定した。測定条件を以下に示す。なお、アニオンの定量は、可視光領域(400〜760nm)における金属イオンのd−d遷移由来の吸収の吸光度に基づいて行なった。
<分析条件>
装置:日本分光(株)製V570 UV−Vis.NIR Spectrometer
【0048】
<合成例1>
硫酸銅0.074g(0.02mmol)を水20mLに溶かし、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン0.168g(0.4mmol)をメタノ−ル20mLに溶かした溶液に加え、数日間静置することにより目的物を青色のブロック結晶として目的の金属錯体を得た。析出した結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図1に示す。銅イオン、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン及び硫酸イオンの比率は1:2:1であった。
Monoclinic(P21)
a=8.975(8)Å
b=15.878(14)Å
c=13.603(12)Å
α=90.0000°
β=90.509(13)°
γ=90.0000°
V=1938(3)Å3
Z=2
R=0.0831
Rw=0.1446
【0049】
<比較合成例1>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン73.6mg(0.25mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド25mLに、硫酸銅5水和物31.2mg(0.13mmol)を水25mLにそれぞれ溶解させ、これらの溶液を混合し数日間静置することで青色の板状結晶として目的の金属錯体を得た。析出した結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図2に示す。銅イオン、1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン及び硫酸イオンの比率は1:2:1であった。
Monoclinic(C2/m)
a=12.3507(17)Å
b=27.263(3)Å
c=14.377(3)Å
α=90.0000°
β=118.774(5)°
γ=90.0000°
V=4243.4(10)Å3
Z=2
R=0.0644
Rw=0.0722
【0050】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)を水1.5mLに溶解させ、2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、テトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液の添加前後での最大吸収波長が588nmから564nmに変化した(図3)。このときのテトラフルオロホウ酸イオンの濃度は1mMであった。
【0051】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)に水15mLを加えたが、完全に溶解しなかった。2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えても完全には溶解しなかった。
【0052】
実施例1及び比較例1より、本発明の金属錯体がテトラフルオロホウ酸のセンサーとして優れていることは明らかである。
【0053】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)を水1.5mLに溶解させ、2mM硝酸ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液の添加前後での最大吸収波長が588nmから563nmに変化した(図4)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0054】
<比較例2>
比較合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)に水15mLを加えたが、完全に溶解しなかった。2mM硝酸ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えても完全には溶解しなかった。
【0055】
実施例2及び比較例2より、本発明の金属錯体が硝酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0056】
<実施例3>
合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)を水1.5mLに溶解させ、2mMヨウ化ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヨウ化ナトリウム水溶液の添加前後での最大吸収波長が588nmから563nmに変化した(図5)。このときのヨウ化物イオンの濃度は1mMであった。
【0057】
<比較例3>
比較合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)に水15mLを加えたが、完全に溶解しなかった。2mMヨウ化ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えても完全には溶解しなかった。
【0058】
実施例3及び比較例3より、本発明の金属錯体がヨウ化物イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0059】
<実施例4>
合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)を水3mLに溶解させた溶液と、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(0.006mmol)に溶解させ水1.5mLで希釈した溶液について、それぞれの可視紫外吸収スペクトルを測定した。前述と後述の溶液の最大吸収波長はそれぞれ、588nmと587nmでほぼ一致しており、両溶液中で同じ錯体が形成されている(図6)。
【0060】
<実施例5>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、テトラホウ酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから558nmに変化した(図7)。このときのテトラフルオロホウ酸イオンの濃度は1mMであった。
【0061】
<実施例6>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、テトラホウ酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が581nmから575nmに変化した(図8)。このときのテトラフルオロホウ酸イオンの濃度は1mMであった。
【0062】
<実施例7>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン4.3mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、テトラホウ酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから564nmに変化した(図9)。このときのテトラフルオロホウ酸イオンの濃度は1mMであった。
【0063】
<比較例4>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0064】
実施例5〜7及び比較例4より、本発明の金属錯体がテトラフルオロホウ酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0065】
<実施例8>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから563nmに変化した(図10)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0066】
<実施例9>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が581nmから563nmに変化した(図11)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0067】
<実施例10>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン4.3mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから563nmに変化した(図12)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0068】
<比較例5>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mM硝酸ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0069】
実施例8〜10及び比較例5より、本発明の金属錯体が硝酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0070】
<実施例11>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM臭化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、臭化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が581nmから576nmに変化した(図13)。このときの臭化物イオンの濃度は1mMであった。
【0071】
<実施例12>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン4.3mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM臭化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、臭化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから563nmに変化した(図14)。このときの臭化物イオンの濃度は1mMであった。
【0072】
<比較例6>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mM臭化ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0073】
実施例11〜12及び比較例6より、本発明の金属錯体が臭化物イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0074】
<実施例13>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol)に溶解させた溶液に2mMヨウ化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヨウ化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから567nmに変化した(図15)。このときのヨウ化物イオンの濃度は1mMであった。
【0075】
<実施例14>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMヨウ化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヨウ化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が581nmから563nmに変化した(図16)。このときのヨウ化物イオンの濃度は1mMであった。
【0076】
<実施例15>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン4.3mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMヨウ化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヨウ化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから565nmに変化した(図17)。このときのヨウ化物イオンの濃度は1mMであった。
【0077】
<比較例7>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mMヨウ化ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0078】
実施例13〜15及び比較例7より、本発明の金属錯体がヨウ化物イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0079】
<実施例16>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMヘキサフルオロリン酸酸ナトリウム水溶液3mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから578nmに変化した(図19)。このときのヘキサフルオロリン酸イオンの濃度は1mMであった。
【0080】
<比較例8>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mMヘキサフルオロリン酸ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0081】
実施例16及び比較例8より、本発明の金属錯体がヘキサフルオロリン酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0082】
<実施例17>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に塩基性(pH=11)2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから558nmに変化した(図19)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0083】
<比較例9>
3,5−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルフェノール3.6g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に塩基性(pH=11)2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えてところ、沈殿が生じたため可視紫外吸収スペクトルが測定できなかった。
【0084】
実施例17及び比較例9より、本発明の金属錯体が硝酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0085】
<実施例18>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に酸性(pH=2)2mMヘキサフルオロリン酸酸ナトリウム水溶液3mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから570nmに変化した(図20)。このときのヘキサフルオロリン酸イオンの濃度は1mMであった。
【0086】
<比較例10>
3,5−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルフェノール3.6g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に酸性(pH=2)2mMヘキサフルオロリン酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えたところ、沈殿が生じたため可視紫外吸収スペクトルが測定できなかった。
【0087】
実施例18及び比較例10より、本発明の金属錯体がヘキサフルオロリン酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
本発明はアニオンセンサー及びそれを用いたアニオン検出キットに関する。さらに詳しくは、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な特定の有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサ−に関する。本発明のアニオンセンサーは、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、硝酸イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオンまたは塩化物イオンなどを検出するアニオンセンサーとして好ましい。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理分野で種々の有害アニオン除去材が開発されており、最近ではより高い除去性能を与える材料として、特殊な陰イオン交換樹脂やイオン交換炭が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
有害アニオンの例として、花火やロケットなどの固体燃料、エアバッグのインフレーターなどに利用される過塩素酸イオンが挙げられる。過塩素酸イオンは、成人の代謝機能を司り小児の身体発育を促進する甲状腺に障害を及ぼす物質である。近年、土壌・水中において高濃度の過塩素酸イオンが検出された事例が相次いで報告されている。また、過塩素酸イオンは、水に対して高い溶解度を示し、全ての陰イオンの中で最も陽イオンと相互作用しにくい陰イオンのひとつである。除去方法としては、過塩素酸イオンにより汚染された廃液を濃縮し、塩化カリウムを加えることにより過塩素酸カリウムを生成させ、冷却して結晶化させる方法が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
他の有害アニオンの例として、半導体製造工程やメッキ工程等の廃液に含まれるテトラフルオロホウ酸イオンが挙げられる。ホウ素及びフッ素は動物や植物にとって必須微量元素であるが、過剰の摂取は植物の成長阻害、動物の生殖阻害毒性、神経及び消化器系の障害などが懸念される。そこで、2001年に水質汚濁防止法施行令の一部が改正され、河川、湖沼など海域以外の公共用水域におけるホウ素及びその化合物の排水基準が10mg/L以下、フッ素の排水基準が8mg/L以下に定められた。テトラフルオロホウ酸に代表されるホウフッ化物は、ホウ素とフッ素とが強力に結合した非常に安定な物質であるため、従来の除去方法では除去性能が低かった。近年では、ホウフッ化物を含む廃水にアルミニウム化合物、塩化第二鉄及び鉄粉を添加し反応させ、該反応物に水酸化カルシウムを添加して中和し、フッ素をカルシウム塩として除去する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、処理後の残存アニオン量を簡便に知る術はなく、その手法の開発が求められていた。
【0006】
残存アニオン量を簡便に知る方法として、硫酸銅と1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン含む溶液に過塩素酸を含む溶液を添加し、呈色させる方法が知られている(特許文献4参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは水−アセトニトリル混合溶媒であり、本発明者らが特許文献4に開示されている方法を水中で評価したところ、水単独溶媒中では沈殿が析出するためこの手法には定量性がないことが判明した。
【0007】
また、銅イオンと、硫酸イオンと、3,5−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルフェノールとからなる金属錯体を用いる、過塩素酸イオンの呈色方法が知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、本発明者らが、非特許文献1に開示されている金属錯体について、塩基性条件下で評価したところ、性能が発現しないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−346299号公報
【特許文献2】特表平9−504472号公報
【特許文献3】特開平7−16577号公報
【特許文献4】WO2008/029804公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】半田絢子、近藤満、第7回ホスト・ゲスト化学シンポジウム、1P−01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、従来よりも優れたアニオンセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討し、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な特定の有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサーを用いることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、下記一般式(I);
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Xは水素原子或いは活性プロトンを有さない置換基である。R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子である。A1及びA2はそれぞれ同一または異なって該金属イオンに配位可能なヘテロ原子を有する5員環または6員環を含む置換基である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサ−。
(2)二座配位可能な有機配位子(I)のA1及びA2がピロ−ル−1−イル基を除いたピロリル基、2H−ピロ−ル−1−イル基を除いた2H−ピロリル基、イミダゾリル基、インド−ル−1−イル基を除いたインドリル基、3H−インド−ル−1−イル基を除いた3H−インドリル基、1H−イソインド−ル−2−イル基を除いた1H−イソインドリル基、ベンズイミダゾ−ル−3−イル基を除いたベンズイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾ−ル−1−イル基を除いたチアゾリル基、イソチアゾ−ル−1−イル基を除いたイソチアゾリル基、オキサゾ−ル−1−イル基を除いたオキサゾリル基、イソオキサゾ−ル−1−イル基を除いたイソオキサゾリル基、ピロリジン−1−イル基を除いたピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピリジン−1−イル基を除いたピリジル基、ピラジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピペリジン−1−イル基を除いたピペリジニル基、ピペラジニル基、またはモルホリン−4−イル基を除いたモルホリニル基である(1)に記載のアニオンセンサー。
(3)水中に、少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを加えて(1)または(2)に記載の金属錯体を形成させる工程を含むアニオン検出方法。
(4)金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子との比率が10:1〜1:20である(3)に記載のアニオン検出方法。
(5)該金属錯体と被検出アニオンを接触させる装置と色調変化を検知する装置を含むことを特徴とするアニオン検出キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な特定の有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサ−を提供することができる。
【0016】
本発明のアニオンセンサーは、各種アニオンの検出性能に優れているので、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオンまたは塩化物イオンなどを検出するためのセンサーとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図2】比較合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図3】合成例1で得た金属錯体の水溶液にテトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図4】合成例1で得た金属錯体の水溶液に硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図5】合成例1で得た金属錯体の水溶液にヨウ化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図6】合成例1で得た金属錯体の水溶液と1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼンと硫酸銅の水溶液の吸収スペクトルの比較である。
【図7】実施例5のテトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図8】実施例6のテトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図9】実施例7のテトラフルオロホウ酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図10】実施例8の硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図11】実施例9の硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図12】実施例10の硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図13】実施例12の臭化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図14】実施例13の臭化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図15】実施例14のヨウ化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図16】実施例15のヨウ化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図17】実施例16のヨウ化ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図18】実施例17のヘキサフルオロリン酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図19】実施例18の硝酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【図20】実施例19のヘキサフルオロリン酸ナトリウムを添加した前後の吸収スペクトルの変化である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のアニオンセンサーは、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体からなる。本発明のアニオンセンサーのカウンターアニオンは硫酸イオンであるので、硫酸イオン以外のアニオンを検出することができる。
【0019】
金属錯体の製造に用いる金属イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン及びカドミウムイオンを使用することができ、中でもマンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン及び亜鉛イオンが好ましく、銅イオンがより好ましい。金属イオンは、単一の金属イオンを使用することが好ましいが、2種以上の金属イオンを含む混合金属錯体であってもよい。また、本発明の金属錯体は、単一の金属錯体からなる金属錯体を2種以上混合して使用することもできる。
【0020】
金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な特定の有機配位子(I)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、硫酸イオン及び二座配位可能な有機配位子(I)を含有する水溶液または有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0021】
金属錯体の製造に用いる周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩などを使用することができ、中でも銅塩が好ましい。金属塩は単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0022】
本発明に用いられる硫酸イオンは、金属塩(硫酸塩)のカウンターアニオンをそのまま使用することが好ましい。硫酸塩以外の金属塩を用いた場合、アニオン交換樹脂などによりアニオン交換を行ってカウンターアニオンを硫酸イオンにすることができる。
【0023】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(I)は、下記一般式(I);
【0024】
【化2】
【0025】
で表される。式中、Xは水素原子或いは活性プロトンを有さない置換基である。R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子である。A1及びA2はそれぞれ同一または異なって該金属イオンに配位可能なヘテロ原子を有する5員環または6員環を含む置換基である。
【0026】
二座配位可能な有機配位子(I)は、1個又は複数個の不斉炭素を有し得る。本発明で使用する二座配位可能な有機配位子(I)は、光学異性体、ラセミ体またはいずれかの光学異性体が多い異性体混合物、ジアステレオ異性体など任意の異性体のいずれを使用してもよい。R1及びR2、R4及びR5は、各々同一であれば不斉炭素ではなくなるので好ましく、R1、R2、R4、R5が全て同一であるのが好ましい。
【0027】
本明細書において、活性プロトンを有さない置換基とは、pKaが10以上の置換基を意味する。活性プロトンを有さない置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメチル基、スルホン基及びフェニル基などが挙げられる。
【0028】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7を構成することのできる置換基の内、アルキル基またはアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、シアノ基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0029】
上記A1及びA2を構成することができる金属イオンに配位可能なヘテロ原子を有する5員環または6員環を含む置換基の例としては、ピロ−ル−1−イル基を除いたピロリル基、2H−ピロ−ル−1−イル基を除いた2H−ピロリル基、イミダゾリル基、インド−ル−1−イル基を除いたインドリル基、3H−インド−ル−1−イル基を除いた3H−インドリル基、1H−イソインド−ル−2−イル基を除いた1H−イソインドリル基、ベンズイミダゾ−ル−3−イル基を除いたベンズイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾ−ル−1−イル基を除いたチアゾリル基、イソチアゾ−ル−1−イル基を除いたイソチアゾリル基、オキサゾ−ル−1−イル基を除いたオキサゾリル基、イソオキサゾ−ル−1−イル基を除いたイソオキサゾリル基、ピロリジン−1−イル基を除いたピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピリジン−1−イル基を除いたピリジル基、ピラジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピペリジン−1−イル基を除いたピペリジニル基、ピペラジニル基またはモルホリン−4−イル基を除いたモルホリニル基などが挙げられる。
【0030】
二座配位可能な有機配位子(I)としては、例えば、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,5,6−テトラメチルベンゼン、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン及び1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ニトロ−2,4,6−トリメチルベンゼンなどを使用することができ、中でも1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼンが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属イオンに対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0031】
金属錯体を製造するときの二座配位可能な有機配位子(I)と金属塩の混合比率は、1:20〜10:1のモル比の範囲内が好ましく、1:5〜4:1のモル比の範囲がより好ましく、1:1〜3:1のモル比がさらに好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、また、未反応の原料が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0032】
金属錯体を製造するための溶媒における二座配位可能な有機配位子(I)の濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度では、反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0033】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。また、pHとしては、1〜13の範囲であることが好ましく、2〜11の範囲であることがさらに好ましい。
【0034】
反応が終了したことは、ガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引ろ過に付して沈殿物を集め、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒による洗浄後、空気中で風乾することにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0035】
以上のようにして得られる本発明に用いる金属錯体は、二座配位可能な有機配位子(I)と金属イオン(例えば、銅イオン)とからなる二次元シートが集積することにより、三次元構造をとる。
【0036】
本発明の好ましい金属錯体は、金属イオン1モルに対し二座配位可能な有機配位子(I)が2モル配位した錯体であり、硫酸イオンは金属イオンの電荷を中和するのに必要な量だけ存在する。例えば金属イオンが銅イオン(Cu2+)の場合、モル比で銅イオン:有機配位子(I):硫酸イオン=1:2:1の錯体が得られる。
【0037】
本発明におけるアニオン検出キットは、形態は特に限定されず、該金属錯体と被検出アニオンを接触させる装置と色調変化を検知する装置を含んでもよい。例えば、被検出アニオンを接触させる装置が石英セルであってもよく、色調変化を検知する装置が紫外可視吸収スペクトル測定装置であってもよい。
【0038】
色調変化を検知する装置は、スペクトルの波形を検出し、それによりアニオンの濃度を測定することができる。アニオン濃度は、各アニオン濃度について検量線を作成して求めてもよく、色調変化を検知する装置からのデータをコンピュータに送り、計算して求めてもよい。
【0039】
アニオンの検出は、測定されるアニオン1モルに対し金属錯体1〜3モル程度溶解した溶液を準備し、その錯体溶液にアニオンを含む検体を一定量加え、色調変化を検知する装置により吸光度などのスペクトルを測定することにより実施できる。金属錯体に対しアニオンの量が少なすぎるとスペクトルの変化が小さく、アニオンの量を正確に測定することが難しくなる。
【0040】
本発明のアニオンセンサーは、被検出アニオンとの接触により金属錯体の構造が変化し、それに伴い中心金属イオン周辺の配位子場が変化することで、d−d遷移のエネルギーが変化し、吸収波長がシフトすることを利用してアニオンを検出するものである。
【0041】
前記のアニオン検出メカニズムは推定であるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明を規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
本発明のセンサーは、各種アニオンの検出性能に優れているので、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオンまたは塩化物イオンなどを検出するためのセンサーとして好ましい。
【0043】
本発明のセンサーは、硫酸以外のアニオンの総和を検出することができる。
【0044】
本発明のアニオンセンサーは、金属錯体の形態であってもよく、その溶液(例えば水溶液)の形態であってもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例、比較例における分析及び評価は次のようにして行った。
【0046】
(1)単結晶X線結晶構造解析
得られた単結晶をキャピラリーに封入し、ゴニオヘッドにマウントした。単結晶X線回折装置を用いて測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:Rigaku Mercury CCD system
X線源:MoKα(λ=0.71073Å)50kV 40mA
検出器:CCD
コリメータ:Φ0.50mm
測定温度:20℃
解析ソフト:SHELXL97
【0047】
(2)可視紫外吸収スペクトル測定
得られた溶液を1cmの石英セルに充填し、可視紫外吸収スペクトルを測定した。測定条件を以下に示す。なお、アニオンの定量は、可視光領域(400〜760nm)における金属イオンのd−d遷移由来の吸収の吸光度に基づいて行なった。
<分析条件>
装置:日本分光(株)製V570 UV−Vis.NIR Spectrometer
【0048】
<合成例1>
硫酸銅0.074g(0.02mmol)を水20mLに溶かし、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン0.168g(0.4mmol)をメタノ−ル20mLに溶かした溶液に加え、数日間静置することにより目的物を青色のブロック結晶として目的の金属錯体を得た。析出した結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図1に示す。銅イオン、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン及び硫酸イオンの比率は1:2:1であった。
Monoclinic(P21)
a=8.975(8)Å
b=15.878(14)Å
c=13.603(12)Å
α=90.0000°
β=90.509(13)°
γ=90.0000°
V=1938(3)Å3
Z=2
R=0.0831
Rw=0.1446
【0049】
<比較合成例1>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン73.6mg(0.25mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド25mLに、硫酸銅5水和物31.2mg(0.13mmol)を水25mLにそれぞれ溶解させ、これらの溶液を混合し数日間静置することで青色の板状結晶として目的の金属錯体を得た。析出した結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図2に示す。銅イオン、1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン及び硫酸イオンの比率は1:2:1であった。
Monoclinic(C2/m)
a=12.3507(17)Å
b=27.263(3)Å
c=14.377(3)Å
α=90.0000°
β=118.774(5)°
γ=90.0000°
V=4243.4(10)Å3
Z=2
R=0.0644
Rw=0.0722
【0050】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)を水1.5mLに溶解させ、2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、テトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液の添加前後での最大吸収波長が588nmから564nmに変化した(図3)。このときのテトラフルオロホウ酸イオンの濃度は1mMであった。
【0051】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)に水15mLを加えたが、完全に溶解しなかった。2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えても完全には溶解しなかった。
【0052】
実施例1及び比較例1より、本発明の金属錯体がテトラフルオロホウ酸のセンサーとして優れていることは明らかである。
【0053】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)を水1.5mLに溶解させ、2mM硝酸ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液の添加前後での最大吸収波長が588nmから563nmに変化した(図4)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0054】
<比較例2>
比較合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)に水15mLを加えたが、完全に溶解しなかった。2mM硝酸ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えても完全には溶解しなかった。
【0055】
実施例2及び比較例2より、本発明の金属錯体が硝酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0056】
<実施例3>
合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)を水1.5mLに溶解させ、2mMヨウ化ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヨウ化ナトリウム水溶液の添加前後での最大吸収波長が588nmから563nmに変化した(図5)。このときのヨウ化物イオンの濃度は1mMであった。
【0057】
<比較例3>
比較合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)に水15mLを加えたが、完全に溶解しなかった。2mMヨウ化ナトリウム1.5mL(0.003mmol)を加えても完全には溶解しなかった。
【0058】
実施例3及び比較例3より、本発明の金属錯体がヨウ化物イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0059】
<実施例4>
合成例1で得た金属錯体5.0mg(0.006mmol)を水3mLに溶解させた溶液と、1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(0.006mmol)に溶解させ水1.5mLで希釈した溶液について、それぞれの可視紫外吸収スペクトルを測定した。前述と後述の溶液の最大吸収波長はそれぞれ、588nmと587nmでほぼ一致しており、両溶液中で同じ錯体が形成されている(図6)。
【0060】
<実施例5>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、テトラホウ酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから558nmに変化した(図7)。このときのテトラフルオロホウ酸イオンの濃度は1mMであった。
【0061】
<実施例6>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、テトラホウ酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が581nmから575nmに変化した(図8)。このときのテトラフルオロホウ酸イオンの濃度は1mMであった。
【0062】
<実施例7>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン4.3mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、テトラホウ酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから564nmに変化した(図9)。このときのテトラフルオロホウ酸イオンの濃度は1mMであった。
【0063】
<比較例4>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mMテトラフルオロホウ酸ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0064】
実施例5〜7及び比較例4より、本発明の金属錯体がテトラフルオロホウ酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0065】
<実施例8>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから563nmに変化した(図10)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0066】
<実施例9>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が581nmから563nmに変化した(図11)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0067】
<実施例10>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン4.3mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから563nmに変化した(図12)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0068】
<比較例5>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mM硝酸ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0069】
実施例8〜10及び比較例5より、本発明の金属錯体が硝酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0070】
<実施例11>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM臭化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、臭化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が581nmから576nmに変化した(図13)。このときの臭化物イオンの濃度は1mMであった。
【0071】
<実施例12>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン4.3mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mM臭化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、臭化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから563nmに変化した(図14)。このときの臭化物イオンの濃度は1mMであった。
【0072】
<比較例6>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mM臭化ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0073】
実施例11〜12及び比較例6より、本発明の金属錯体が臭化物イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0074】
<実施例13>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol)に溶解させた溶液に2mMヨウ化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヨウ化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから567nmに変化した(図15)。このときのヨウ化物イオンの濃度は1mMであった。
【0075】
<実施例14>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMヨウ化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヨウ化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が581nmから563nmに変化した(図16)。このときのヨウ化物イオンの濃度は1mMであった。
【0076】
<実施例15>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン4.3mg(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMヨウ化ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヨウ化ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから565nmに変化した(図17)。このときのヨウ化物イオンの濃度は1mMであった。
【0077】
<比較例7>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mMヨウ化ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0078】
実施例13〜15及び比較例7より、本発明の金属錯体がヨウ化物イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0079】
<実施例16>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−5−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に2mMヘキサフルオロリン酸酸ナトリウム水溶液3mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が611nmから578nmに変化した(図19)。このときのヘキサフルオロリン酸イオンの濃度は1mMであった。
【0080】
<比較例8>
1,4−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン3.5mg(0.012mmol)に4mM硫酸銅水溶液1.5mLを加え、2mMヘキサフルオロリン酸ナトリウムを加えた。その結果、沈殿が析出したため溶液の呈色を利用したアニオンセンサーとして不適であることは明らかである。
【0081】
実施例16及び比較例8より、本発明の金属錯体がヘキサフルオロリン酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0082】
<実施例17>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に塩基性(pH=11)2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、硝酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから558nmに変化した(図19)。このときの硝酸イオンの濃度は1mMであった。
【0083】
<比較例9>
3,5−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルフェノール3.6g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に塩基性(pH=11)2mM硝酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えてところ、沈殿が生じたため可視紫外吸収スペクトルが測定できなかった。
【0084】
実施例17及び比較例9より、本発明の金属錯体が硝酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【0085】
<実施例18>
1,3−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン3.4g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に酸性(pH=2)2mMヘキサフルオロリン酸酸ナトリウム水溶液3mL(0.003mmol)を加えた。可視紫外吸収スペクトルを測定した結果、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム水溶液を加えることにより、最大吸収波長が587nmから570nmに変化した(図20)。このときのヘキサフルオロリン酸イオンの濃度は1mMであった。
【0086】
<比較例10>
3,5−ビス(イミダゾール−1−イルメチル)−2,4,6−トリメチルフェノール3.6g(0.012mmol)を4mM硫酸銅水溶液1.5mL(硫酸銅0.006mmol相当)に溶解させた溶液に酸性(pH=2)2mMヘキサフルオロリン酸ナトリウム水溶液1.5mL(0.003mmol)を加えたところ、沈殿が生じたため可視紫外吸収スペクトルが測定できなかった。
【0087】
実施例18及び比較例10より、本発明の金属錯体がヘキサフルオロリン酸イオンのセンサーとして優れていることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、下記一般式(I);
【化3】
(式中、Xは水素原子或いは活性プロトンを有さない置換基である。R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子である。A1及びA2はそれぞれ同一または異なって該金属イオンに配位可能なヘテロ原子を有する5員環または6員環を含む置換基である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサー。
【請求項2】
二座配位可能な有機配位子(I)のA1及びA2がピロ−ル−1−イル基を除いたピロリル基、2H−ピロ−ル−1−イル基を除いた2H−ピロリル基、イミダゾリル基、インド−ル−1−イル基を除いたインドリル基、3H−インド−ル−1−イル基を除いた3H−インドリル基、1H−イソインド−ル−2−イル基を除いた1H−イソインドリル基、ベンズイミダゾ−ル−3−イル基を除いたベンズイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾ−ル−1−イル基を除いたチアゾリル基、イソチアゾ−ル−1−イル基を除いたイソチアゾリル基、オキサゾ−ル−1−イル基を除いたオキサゾリル基、イソオキサゾ−ル−1−イル基を除いたイソオキサゾリル基、ピロリジン−1−イル基を除いたピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピリジン−1−イル基を除いたピリジル基、ピラジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピペリジン−1−イル基を除いたピペリジニル基、ピペラジニル基、またはモルホリン−4−イル基を除いたモルホリニル基である請求項1に記載のアニオンセンサ−。
【請求項3】
水中に、少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを加えて請求項1または2に記載の金属錯体を形成させる工程を含むアニオン検出方法。
【請求項4】
金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子の比率が10:1〜1:20である請求項3に記載のアニオン検出方法。
【請求項5】
該金属錯体と被検出アニオンを接触させる装置と色調変化を検知する装置を含むことを特徴とするアニオン検出キット。
【請求項1】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、下記一般式(I);
【化3】
(式中、Xは水素原子或いは活性プロトンを有さない置換基である。R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子である。A1及びA2はそれぞれ同一または異なって該金属イオンに配位可能なヘテロ原子を有する5員環または6員環を含む置換基である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体からなるアニオンセンサー。
【請求項2】
二座配位可能な有機配位子(I)のA1及びA2がピロ−ル−1−イル基を除いたピロリル基、2H−ピロ−ル−1−イル基を除いた2H−ピロリル基、イミダゾリル基、インド−ル−1−イル基を除いたインドリル基、3H−インド−ル−1−イル基を除いた3H−インドリル基、1H−イソインド−ル−2−イル基を除いた1H−イソインドリル基、ベンズイミダゾ−ル−3−イル基を除いたベンズイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾ−ル−1−イル基を除いたチアゾリル基、イソチアゾ−ル−1−イル基を除いたイソチアゾリル基、オキサゾ−ル−1−イル基を除いたオキサゾリル基、イソオキサゾ−ル−1−イル基を除いたイソオキサゾリル基、ピロリジン−1−イル基を除いたピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピリジン−1−イル基を除いたピリジル基、ピラジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピペリジン−1−イル基を除いたピペリジニル基、ピペラジニル基、またはモルホリン−4−イル基を除いたモルホリニル基である請求項1に記載のアニオンセンサ−。
【請求項3】
水中に、少なくとも1種の金属イオンと、硫酸イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを加えて請求項1または2に記載の金属錯体を形成させる工程を含むアニオン検出方法。
【請求項4】
金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子の比率が10:1〜1:20である請求項3に記載のアニオン検出方法。
【請求項5】
該金属錯体と被検出アニオンを接触させる装置と色調変化を検知する装置を含むことを特徴とするアニオン検出キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−36924(P2013−36924A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174834(P2011−174834)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
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