説明

アニオン交換繊維、流体処理装置、および流体処理システム

【課題】アニオン交換基(4級アンモニウム基)の安定性が高く、流体に対する接触効率の高いアニオン交換繊維と、このアニオン交換繊維を用いた流体処理装置及び流体処理システムを提供する。
【解決手段】アニオン交換基を有するポリマーを含む、繊維径が50nm〜2μmのアニオン交換繊維において、該アニオン交換基がトリアルキルアンモニウム基であり、該トリアルキルアンモニウム基の3個のアルキル基の炭素数の合計が6〜15であることを特徴とするアニオン交換繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン交換繊維と、このアニオン交換繊維の繊維集積体を有する流体処理装置と、この流体処理装置を有する流体処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
純水、超純水の製造において、水中に含まれる有機物を低減、除去するため、UV、触媒、酸化薬剤(次亜塩素酸、次亜臭素酸、過酸化水素、オゾン、過硫酸、過炭酸、過酢酸、重クロム酸、過マンガン酸、他)等により、酸化処理する方法があるが、酸化処理後、炭酸や硝酸、有機酸などのアニオンが生成し、電導度が上昇する。酸化処理後の電導度を下げ、TOC値をさらに下げるためにはアニオン除去を行う必要がある。
【0003】
脱イオン操作に使用するイオン交換体として、粒状のイオン交換樹脂が用いられるが、圧力損失が大きく、ショートパスが生じると処理水質が悪化するという課題がある。
【0004】
圧力損失が小さく、ショートパスが生じにくいフィルター材として、繊維径がナノメーターオーダーである極細のナノファイバーの集積体が公知である。このナノファイバの製造方法として電界紡糸法(静電紡糸法)が公知であり、この方法により製造されたアニオン交換ナノファイバも公知である(下記特許文献1,2等)。この電界紡糸法では、ノズルとターゲットとの間に電界を形成しておき、該ノズルから液状原料を細繊維状に吐出させて紡糸が行われる。細繊維は、ターゲット上に集積されて繊維体となる。
【0005】
ところで、アニオン交換基を4級アンモニウム基としたアニオン交換樹脂の場合、4級アンモニウム基の安定性が課題となる。即ち、イオン交換樹脂の4級アンモニウム基はベースポリマーを構成するポリスチレン-ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチル基を導入し、このクロロメチル基の塩素とトリメチルアミンを置換することにより導入される。ところが、このトリメチルアミンは少しずつ脱離する。(アニオン交換樹脂の保管場所でアミン臭がするのはこのためである。)トリメチルアミンの脱離は、水温が高くなるとさらに起こり易くなる。なお、半導体洗浄工程では80℃程度の温純水が用いられることがある。
【0006】
また、食品プロセス等において、有機酸や無機イオンの除去、調整を行う際にアニオン交換樹脂が用いられるが、アニオン交換樹脂からのトリメチルアミンの脱離の低減が課題となっている。トリエチルアミンは、樹脂をOH型に再生する際に脱離し易く、殺菌のために高温水に接触させた場合も脱離が加速される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−219952
【特許文献2】特開2010−158606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アニオン交換基(4級アンモニウム基)の安定性が高く、また、流体に対する接触効率の高いアニオン交換繊維と、このアニオン交換繊維を用いた流体処理装置及び流体処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のアニオン交換繊維は、アニオン交換基を有するポリマーを含む、繊維径が50nm〜2μmのアニオン交換繊維において、該アニオン交換基がトリアルキルアンモニウム基であり、該トリアルキルアンモニウム基の3個のアルキル基の炭素数の合計が6〜15であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2のアニオン交換繊維は、請求項1において、前記ポリマーは、イオウ、酸素、又はベンゼン環を有するベースポリマーを有し、このイオウ、酸素、又はベンゼン環に前記アニオン交換基が直接に又は連結基を介して結合していることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3のアニオン交換繊維は、請求項2において、ベンゼン環とアニオン交換基が炭素数3以上の連結基を介して連結していることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4のアニオン交換繊維は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記アニオン交換基を有するポリマーと、非電解質のポリマーとを含むことを特徴とするものである。
【0013】
請求項5のアニオン交換繊維は、請求項4において、非電解質のポリマーがフッ素系ポリマーであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6のアニオン交換繊維は、請求項1ないし5のいずれか1項において、電界紡糸法で製造されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の流体処理装置は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアニオン交換繊維を集積させた繊維集積体を含み、該繊維集積体と流体とを接触させることを特徴とするものである。
【0016】
請求項8の流体処理システムは、請求項7に記載の流体処理装置と、その前段に設置された逆浸透膜装置又はイオン交換樹脂装置とを有するものである。
【0017】
請求項9の流体処理システムは、請求項7又は8において、前記流体処理装置の前段に、流体中の有機物を酸化処理する酸化手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
請求項10の流体処理システムは、請求項7ないし9のいずれか1項において、前記流体処理装置の前段に流体の加温手段が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、アニオン交換基としてトリアルキルアンモニウム基(−NR)を導入したものであり、3個のアルキル基R、R、Rの炭素数の合計が6〜15である。従来のアニオン交換樹脂にアニオン交換基として用いられているトリアルキルアンモニウム基のアルキル基はすべてメチル基であり、アニオン交換基はトリメチルアンモニウム基(−N(CH)であった。このトリメチルアンモニウム基は、前述の通り、トリメチルアミンとなって脱離し易い。本発明で用いるアニオン交換基は、トリエチルアンモニウム基など、従来よりも炭素数が多いアルキル基を窒素原子に結合させたものとなっている。トリメチルアミンに代えてトリエチルアミンを使用したアニオン交換基を導入すると、アニオン交換基は安定化される。従来、アニオン交換樹脂のトリアルキルアンモニウム基導入にトリエチルアミンを使用しない理由として、トリエチルアミンの立体障害性が高く、官能基を樹脂に導入し難いことが挙げられる。本発明では、樹脂ではなく繊維を担体としたため、立体障害が小さく、炭素数の多いトリアルキルアミンの導入が容易である。
【0020】
本発明のアニオン交換繊維の繊維径は50nm〜2μmであり、一般的な粒状アニオン交換樹脂の粒径(約500μm)と比較して1/250以下であり、一般的なスパンボンド法で紡糸される繊維に対しても1/10以下である。従って、これらと比較して10倍以上の比表面積を与えることができる。同じ比表面積で比較した場合、アニオン交換繊維は粒状アニオン交換樹脂よりも圧力損失を小さくすることができる。
【0021】
本発明では、アニオン交換基がポリマーのイオウ、酸素、又はベンゼン環に直接又は連結基を介して結合していることが好ましい。例えばベンゼン環にアニオン交換基を導入する場合であれば、ベースポリマーのベンゼン環の水素をクロロメチルメチルエーテル基に置換し、クロロメチルメチルエーテル基の塩素とトリアルキルアミンとを置換し、4級アンモニウム基をベースポリマーに導入する。
【0022】
イオウもしくは酸素を有する高分子は、耐熱性が高いものが多く、80℃以上においてもトリアルキルアミンが脱離しにくいものとなる。このような耐熱性の高いポリマーとしては、例えば、ポリスルホン(熱変形温度174℃)、ポリフェニレンスルファイド(136℃以上)、ポリフェニレンオキシド(100℃以上)、ポリエーテルスルホン(202℃)、ポリエーテルイミド(200℃以上)などを挙げることができる。なお、従来アニオン交換繊維の製造にベースポリマーとして用いられてきたビニル系の高分子は、一般的に耐熱性が低く、スチレン系で熱変形温度100℃前後、塩ビ系で50〜80℃である。繊維化後にアニオン交換基を導入する場合、溶媒に対する耐性も重要であり、スチレン系の高分子は炭化水素系の溶剤に溶解し易い。
【0023】
本発明では、ベンゼン環とアニオン交換基とを、炭素数3以上(例えば3〜6)の連結基を介して結合してもよい。このようにすることにより、アニオン交換基の安定性が向上する。このような連結基としては、プロピレン基などのアルキレン基、ブトキシメチレン基などのアルコキシアルキレン基、ポリエトキシメチレン基などのポリアルコキシアルキレン基、ドデシルシリルメトキシレン基などのアルキルシリルアルコキシレン基等が挙げられる。
【0024】
本発明では、アニオン交換繊維の強度を高めるために、アニオン交換繊維中に非電解質の高分子(ポリマー)を含有させてもよい。非電解質の高分子としては、フッ素系高分子、例えばポリビニリデンフロライドが例示される。
【0025】
一般に、アニオン交換基を導入した高分子は、ベースの高分子と比較して、水に対する溶解性も高くなり、繊維としての構造安定性が低下する。そこで、非電解質の高分子を複合することにより、強度を向上させることができる。フッ素系の高分子は、耐水性に優れるため、安定性の向上に大きく寄与する。また、非電解質高分子を混合することにより、アニオン性高分子のみの場合よりも、電界紡糸を容易にするメリットがある。また、非電解質高分子の結晶性を高めることにより、全体の強度を高くすることも可能となる。非電解質高分子との混合は紡糸を容易にする効果もある。
【0026】
本発明のアニオン交換繊維は、好ましくは電界紡糸によって製造される。電界紡糸法では、高分子を溶媒に溶解させ、常温で紡糸することができ、繊維化後の高分子の結晶性制御が容易となる。結晶性は、繊維の内部へのイオンの拡散性に影響を与え、結晶性が低いとアニオンが繊維内部に拡散し易くなる。ただし、その反面、物理的、化学的耐久性が低下する。従って、繊維に含まれるアニオン交換基を有効に活用するためには、強度を大きく落とさない程度に結晶性を制御することが必要となり、そのため、電界紡糸法による繊維化が有効となる。
【0027】
本発明の流体処理装置は、このアニオン交換繊維の集積体と流体を接触させるよう構成したものである。この流体処理装置は、低圧損でしかもショートパスが防止され、効率よくアニオン交換処理することが可能である。なお、流体処理装置にアルカリ性水溶液を通水してOH型とすることが好ましい。
【0028】
この流体処理装置の前段に逆浸透膜装置、酸化処理手段を設けてもよい。
【0029】
本発明によって提供される流体処理装置は、上記アニオン交換繊維集積体を用いているので、アミンの溶出が少なく、臭気が抑制された、低圧損のアニオン交換装置となる。この流体処理装置は、逆浸透膜装置やイオン交換樹脂装置の処理水を通水することによる更なる水の純化に用いることができる。また、逆浸透膜装置やイオン交換樹脂装置の後段の配管、装置から発生するアニオン成分の除去、微生物の抑制に用いることができる。あるいは、加温処理工程の後段に配して、加温された流体中のアニオンの除去や加温処理によって発生、増加するアニオンの除去を行うことができる。さらに、酸化処理工程の後段に配して、イオン化した有機物の除去に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】電界紡糸法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のアニオン交換繊維は、アニオン交換基を有するポリマーを含む、繊維径が50nm〜2μmのアニオン交換繊維であって、該アニオン交換基がトリアルキルアンモニウム基であり、該トリアルキルアンモニウム基の3個のアルキル基の炭素数の合計が6〜15である。
【0032】
<アニオン交換基を有するポリマー>
本発明では、アニオン交換基はトリアルキルアンモニウム基であり、3個のアルキル基の炭素数の合計が6〜15である。即ち、このアニオン交換基を−N(C2k+1)(C2m+1)(C2n+1)と表わした場合、k+m+nが6〜15好ましくは6〜12である。通常はk=m=n=2(すべてのアルキル基をエチル基)とすればよい。
【0033】
このアニオン交換基を有するポリマーは、例えば、以下の合成法1又は2により合成することができる。
【0034】
<合成法1>
1)ベンゼン環を有する高分子にクロロメチルメチルエーテルを60℃で反応させて、クロロメチル化を行う。溶媒はテトラクロロエタンを用いる。
2)クロロメチル化した高分子にトリエチルアミンを60℃で反応させて、4級アンモニウム化を行う。
【0035】
<合成法2>
1)ベンゼン環を有する高分子にクロロメチルメチルエーテルを60℃で反応させて、クロロメチル化を行う。溶媒はテトラクロロエタンを用いる。
2)水酸化ナトリウム水溶液に1,4−ブタンジオールとクロロメチル化した高分子を添加し、60℃で反応させ、4−ヒドロキシブトキシメチル化高分子を得る。
3)4−ヒドロキシブトキシメチル化高分子と臭素を80℃で反応させて、4−ブロモブトキシメチル化高分子を得る。
4)4−ブロモブトキシメチル化高分子にトリエチルアミンを60℃で反応させて、4級アンモニウム化を行う。
【0036】
ベンゼン環を有する高分子(ポリマー)としては、ポリスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどを挙げることができる。これらは、イオウ、もしくは酸素を骨格に有する高分子である。また、ポリスチレンも、上記の方法でカチオン性高分子とすることができる。このポリマーの分子量は1万〜100万程度が好ましい。
【0037】
アニオン交換繊維を製造する方法として、電界紡糸法や溶融紡糸法を挙げることができる。特に、本発明のアニオン交換繊維の製造方法としては、電界紡糸法が好適である。電界紡糸法では、原料とするポリマーの組成、濃度、分子量、紡糸環境(温度、湿度)を変化させることにより、繊維径や繊維の結晶性を変化させることができる。溶融紡糸では、吐出口のサイズ、紡糸環境、延伸、熱処理条件等により、繊維径を変化させることができる。
【0038】
図1は、この電界紡糸法の一例を説明する概略的な斜視図である。
【0039】
図1の方法では、吐出口1とターゲット(対向面部)3との間に、吐出口1側が正、ターゲット3側が負となるように電圧を印加しておき、吐出口1からカチオン性高分子を溶解させた溶液をターゲット3に向けて吐出させ、ターゲット3上に繊維を集積(堆積)させ、繊維体2を製造する。
【0040】
吐出口1とターゲット3との距離は5〜500mm特に7〜300mm程度が好適である。両者の間の印加電圧は、電位勾配が1〜20kV/cm程度となるようにするのが好ましい。
【0041】
アニオン交換繊維を紡糸する際、そのターゲットに薄膜や不織布を設置して紡糸し、紡糸後、薄膜や不織布をはがすことにより、アニオン交換繊維集積体を得ることができる。薄膜や不織布の素材としては、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリスルホン、セルロース誘導体、アルミニウム箔などを使用することができる。
【0042】
電界紡糸では、繊維径が50nm〜2000nmの繊維を紡糸することができる。繊維の長さは、5cm以上の長繊維とすることができる。
【0043】
アニオン交換繊維の基となる、電解質ポリマーは、単独で紡糸することが難しい場合があり、紡糸出来ても繊維同士の荷電反発により、かさ(嵩)が高くなって収まりが悪くなり(即ち、嵩密度が低くなり)、集積体化に適さないことがある。そこで、上記のアニオン交換基を有するポリマーと共に非電解質ポリマーを併用してもよい。非電解質ポリマーは、単独で紡糸することが容易なものを選定することが可能で、紡糸後、繊維同士の反発がないため、集積体化し易い。そのため、電解質ポリマーと非電解質ポリマーを混合して紡糸することにより、両者の優れた特徴を有する繊維集積体を得ることができる。
【0044】
また、電界紡糸の際、高分子溶液にカチオン性高分子と非電解質高分子を溶解させたものを用いると、電界紡糸が容易となり、構造的に安定な繊維体を得ることができる。
【0045】
非電解質高分子は、カチオン性高分子と同じ溶液に溶解させることが可能であり、紡糸性、耐熱性、化学的安定性等を向上させるものであれば特に限定されない。
【0046】
非電解質高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシカルボン酸などのポリエステル、PTFE、CTFE、PFA、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルニトリル、およびこれらの共重合体などの素材が使用できるが、この限りではない。特に1種類の素材に限定されることはなく、必要に応じて種々の素材を選択できる。
【0047】
高分子を溶解する溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ケトン、エーテル類、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ホルムアミド、ジメチルスルホオキサイド、塩素系溶媒、フッ素系溶媒などから上記ポリマーが可溶なものを選択して用いるのが好ましく、2種以上の溶剤を適切な割合で混合しても良い。
【0048】
電界紡糸を行う場合には、高分子溶液中のカチオン性高分子及び非電解質高分子を合計した高分子濃度は5〜40重量%程度が好ましい。
【0049】
本発明のアニオン交換繊維、およびアニオン交換繊維集積体は、粒状のアニオン交換樹脂と比較して、アニオン交換基が安定であり、比表面積が大きく、低圧力損失である。
【0050】
繊維集積体と粒子充填体の通水性能の比較を表1に示す。充填体厚さ(膜厚)、比表面積を同じにした時、繊維集積体では、小さい細孔径で、高い純水透過流束が得られることが分かる。これは、純水透過流束が同じ場合、圧力損失を低く抑えることができることを意味する。
【0051】
【表1】

【0052】
従って、アニオン交換繊維を使用することにより、圧力損失を抑え、高い比表面積、すなわち、アニオン交換容量が大きく接触効率の高いアニオン交換体が得られる。アニオン交換繊維の繊維径は、50nm〜2μm、好ましくは100nm〜1000nmとすることが望ましい。ここで、繊維径は、電子顕微鏡写真で観察される繊維の径の平均値を用いることもできるが、繊維の相当直径として定義することができる。「相当直径」とは、1本の繊維(ファイバ)の断面積と断面積の外周長さとから、(相当直径)=4×(断面積)/(断面の外周長さ)によって算出される値である。
【0053】
<流体処理装置>
アニオン交換繊維の集積体をシート状に加工し、ロール上に巻き回すことで、アニオン交換能を有する充填体を製造し、流体処理装置とすることができる。その際、アニオン交換膜と複合させて使用することもできる。また、糸状のアニオン交換繊維を心材に巻き回して、アニオン交換充填体を製造することもできる。
【0054】
アニオン性物質を効果的に除去するためには、アニオン交換繊維をアルカリ性水溶液と接触させてOH型とする必要がある。アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを選択することができる。濃度は、0.0001〜10N、好ましくは0.01〜1Nとする。その後、アルカリ剤を除くため、純水でリンスする。比抵抗10MΩ・cm以上の超純水でリンスを行うと清浄度を向上させることができる。
【0055】
流体が液体の場合、流体処理装置のSVは500〜15000hr−1程度、圧力損失は、0.01〜0.3MPaが好適である。
【0056】
<流体処理システム>
本発明の流体処理装置は、逆浸透膜装置やイオン交換樹脂装置の後段に配置して、残存するアニオンの除去や、微生物の繁殖抑制に有効である。
【0057】
本発明の流体処理装置は、UV酸化などの酸化処理工程と組み合わせて、TOC濃度1〜10μg/Lの水を処理し、TOC濃度を1μg/L以下にする場合に用いるのに好適である。
【0058】
本発明の流体処理装置は、流体の加温装置の後段に配置して、加温装置から排出されるアニオン成分(有機酸化物、水酸化物配位金属)の除去や微生物増殖リスクの低減に有効である。
【0059】
本発明の流体処理装置は、余剰の純水を循環させるラインに配置することで、アニオン成分の除去や微生物の増殖抑制に役立てることができる。
また、本発明の流体処理装置は、電子部材の洗浄工程の後段に配置し、洗浄に使用した流体を被処理水とし、増加したアニオンを排除すると共に、微生物の増殖を抑制することで、処理水の後段の洗浄工程への使用に役立てることができる。
【0060】
本発明の流体処理は、前後で濾過、膜濾過(精密濾過、限外濾過)等の濁質を除去する装置、工程を配することができる。また、酸化処理に使用した酸化剤を中和する工程も配することができる。酸化剤を中和する工程としては、活性炭処理や、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を添加する工程等を挙げることができる。
【実施例】
【0061】
以下、比較例及び実施例について説明する。
【0062】
実施例1
[アニオン交換繊維体の製造]
シリンジ径30Gのシリンジに、非電解質ポリマーと電解質ポリマーとを含む溶液として、前記<合成法1>の方法により、トリエチルアミンで4級アンモニウム化を行ったポリスルホン10重量%、PVDF10重量%、DMAc80重量%の溶液を入れ、シリンジ側をプラス、繊維を捕集するターゲット側にマイナスの35kVの電圧(4kV/cmの電位勾配)をかけることにより、アニオン交換繊維を紡糸し、それを積層させてアニオン交換繊維体の製造を試みた。その結果、200nmの繊維を紡糸でき、この繊維からなる厚さ50μmのポリマー繊維体(アニオン交換繊維体)が製造された。
【0063】
[アニオン交換繊維充填体]
<繊維充填体1>
このアニオン交換繊維体を厚さ0.63mmのポリプロピレン製のネットスペーサと重ね、直径2mmの心材に巻き回して、直径2cm、長さ5cmの円筒容器に挿入した。円筒容器の両端に流入口と流出口を設けてネットスペーサの間隙をアニオン交換繊維体に接触するように被処理水が流れるようにした。
<繊維充填体2>
上記のアニオン交換繊維体を厚さ0.63mmのポリプロピレン製のネットスペーサと重ね、直径5mmの心材に巻き回して、直径8cm、長さ20cmの円筒容器に挿入した。円筒容器の両端に流入口と流出口を設けてネットスペーサの間隙をアニオン交換繊維体に接触するように被処理水が流れるようにした。
【0064】
[アニオン交換繊維充填体の洗浄]
上記アニオン交換繊維体充填体に、1重量%の水酸化ナトリウム水溶液を循環通水し、十分に洗浄した後、比抵抗18MΩ・cmの超純水で水酸化ナトリウムを洗い流した。
【0065】
比較例1
[イオン交換樹脂充填体]
<アニオン交換樹脂充填体A>
アニオン交換樹脂(三菱化学製・PA312)10mL(樹脂体積6.5mL)を、直径2cm、長さ5cmの円筒容器に充填した。円筒容器の両端に流入口と流出口を設けてネットスペーサの間隙をアニオン交換繊維体に接触するように被処理水が流れるようにした。
<アニオン交換樹脂充填体B>
アニオン交換樹脂(三菱化学製・PA312)500mL(樹脂体積325mL)を、直径8cm、長さ20cmの円筒容器に充填した。円筒容器の両端に流入口と流出口を設けてネットスペーサの間隙をアニオン交換繊維体に接触するように被処理水が流れるようにした。
【0066】
[アニオン交換樹脂充填体の洗浄]
上記の各アニオン交換樹脂充填体A,Bに、1重量%の水酸化ナトリウム水溶液を循環通水し、十分に洗浄した後、比抵抗18MΩ・cmの超純水で水酸化ナトリウムを洗い流した。
【0067】
[臭気発生試験]
実施例1の繊維充填体1の両端を封鎖して1ヶ月間5℃で静置した。両端を開放した際、特に臭気は認められなかった。一方、比較例1の樹脂充填体Aの両端を封鎖して1ヶ月間5℃で静置した。両端を開放した際、強いアミン臭が認められた。
【0068】
[微生物抑制効果測定試験]
上記実施例1の繊維充填体1と比較例1のアニオン交換樹脂充填体Aに以下の水質の被処理水を3mL/minでそれぞれ通水し、被処理水と処理水の生菌数を測定した。
被処理水の水質
ナトリウムイオン:25mg/L
カルシウムイオン:20mg/L
マグネシウムイオン:5mg/L
塩化物イオン:80mg/L
生菌:表2の通り
【0069】
表2に被処理水と処理水中の生菌数を示す。比較例1では生菌数は50〜80%程度の減少であるが、実施例1では98%以上減少しており、微生物の抑制効果が高いことが分かる。
【0070】
【表2】

【0071】
[アニオン除去能・圧損の試験]
上記実施例1の繊維充填体2と比較例1の樹脂充填体Bに以下に示す水質の被処理水を20L/minでそれぞれ通水し、圧力損失と処理水の水質を測定した。
被処理水の水質
塩化物イオン:10mg/L
硫酸イオン:5mg/L
【0072】
表3に被処理水の水質と圧力損失を示す。実施例1、比較例1ともにイオン濃度は1/10以下に低減しているが、圧力損失は実施例の方が1/2程度になっている。また、ΔTOCも実施例の方が低く、官能基の脱離が少ないことが分かる。
【0073】
【表3】

【0074】
なお、TOCの測定は、IONICS社製、SIEVERS Ultrapure PPTで行った。
【符号の説明】
【0075】
1 吐出口
2 繊維体
3 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換基を有するポリマーを含む、繊維径が50nm〜2μmのアニオン交換繊維において、該アニオン交換基がトリアルキルアンモニウム基であり、該トリアルキルアンモニウム基の3個のアルキル基の炭素数の合計が6〜15であることを特徴とするアニオン交換繊維。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリマーは、イオウ、酸素、又はベンゼン環を有するベースポリマーを有し、このイオウ、酸素、又はベンゼン環に前記アニオン交換基が直接に又は連結基を介して結合していることを特徴とするアニオン交換繊維。
【請求項3】
請求項2において、ベンゼン環とアニオン交換基が炭素数3以上の連結基を介して連結していることを特徴とするアニオン交換繊維。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記アニオン交換基を有するポリマーと、非電解質のポリマーとを含むことを特徴とするアニオン交換繊維。
【請求項5】
請求項4において、非電解質のポリマーがフッ素系ポリマーであることを特徴とするアニオン交換繊維。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、電界紡糸法で製造されていることを特徴とするアニオン交換繊維。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアニオン交換繊維を集積させた繊維集積体を含み、該繊維集積体と流体とを接触させることを特徴とする流体処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の流体処理装置と、その前段に設置された逆浸透膜装置又はイオン交換樹脂装置とを有する流体処理システム。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記流体処理装置の前段に、流体中の有機物を酸化処理する酸化手段が設けられていることを特徴とする流体処理システム。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、前記流体処理装置の前段に流体の加温手段が設けられていることを特徴とする流体処理システム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−196627(P2012−196627A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62805(P2011−62805)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】