説明

アニオン性ポリマーから調製されるナノ粒子系

本発明は、平均粒径が1μm未満のナノ粒子を含んでなり、かつ(a)少なくとも1種類のアニオン性ポリマー、(b)カチオン性架橋剤、および必要に応じて(c)カチオン性ポリマーを含んでなる活性成分を投与する系であって、ナノ粒子が静電型相互作用によって架橋されていることを特徴とする系に関する。更に、本発明は、前記ナノ粒子系を含んでなる医薬、化粧、個人衛生および栄養組成物、並びにそれらの調製方法および使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、活性成分の投与に有用なナノ粒子系の開発に関する。更に具体的には、本発明は、負電荷を有するポリマーまたはポリマーの混合物と、上記ポリマーと化学結合を形成することなくこれらのポリマーのイオン性架橋剤として作用することができる正電荷を有する分子または低分子量分子の混合物とを含んでなるナノ粒子系に関する。本発明は、更にそれらを含んでなる医薬、化粧用および栄養組成物、並びにそれらの調製方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
一般的にはナノテクノロジー、そして一層具体的にはナノ粒子系は、幾つかの分野で明確に認識されている大きな潜在能力を提示し(「ユネスコ、ナノテクノロジーの倫理学と政治学、科学技術の倫理学の部門(UNESCO, The ethics and politics of nanotechnology, Division of Ethics of Science and Technology)」, UNESCO Ed., パリ,2006年)、とりわけ生物医学分野に大きな関心を喚起した(「合衆国食品医薬品局、ナノテクノロジー、合衆国食品医薬品局ナノテクノロジー特別調査団報告(U.S. Food and Drug Administration. Nanotechnology, A Report of the U.S. Food and Drug Administration Nanotechnology Task Force)」, FDA Ed.,ロックビル,メリーランド,2007年7月)、(「WHO、免疫化、ワクチンおよび生物製剤部門のワクチン研究の推進(WHO, Initiative for Vaccine Research of the Department of Immunization, Vaccines and Biologicals), WHO/IVB/06.03」,WHO Ed.,ジュネーヴ,スイス,2006年4月)。上記の事柄にも拘わらず、今日までに開発されたナノ粒子系は、それらに対し当初抱いた予想に回答を与えるものではなかった。従って、それらの認められた潜在能力を好適に使用するという努力目標に見合うことができる新たな系を開発する必要があると一般に考えられている(M. Friede and M.T. Waterdo, Advanced Drug Delivery Reviews, 57, 2005, 325-31); (T.G. Park, J.H. Jeong, S.W. Kim, Advanced Drug Delivery Reviews, 58, 2006, 467-486)。
【0003】
上記の制限には、様々な原因がある。イオン性架橋によるナノ粒子の形成に欠くことができないものとして文献に広く記載されているポリマーであるキトサンを基剤とするナノ粒子の具体的な場合を考察することによって、より簡単な処方物と比較してこの種の系に加えられる価値が見られないことが今日までそれとなく言及されてきた。具体的には、生物活性分子と前記ポリマーの単純な溶液と比較するときには有意差は見られないので、幾つかの研究によって提示された結果は、キトサンナノ粒子の仮定上の汎用性および潜在能力に疑問を呈している(A. M. Dyer, M. HincHCliffe, P. Watts, J. Castile, I. Jabbal-Gill, R. Nankervis, A. Smith, and L. Illum, Pharm. Res., 19, 2002, 998-1008)。更に、これらの系の表面電荷に直接関係している前記キトサンナノ粒子と関連している細胞毒性が、最近指摘されている(B. Loretz and A. Bernkop-Schnuerch, Nanotoxicology, 1, 2007, 139-148)。この種の毒性の結果は、特に、幾つかのナノ粒子系と関係している重要な正電荷のような側面を見失わないようにするのに重要であると考えられているFDAのような規制機関に関係している(「合衆国食品医薬品局、ナノテクノロジー、合衆国食品医薬品局ナノテクノロジー特別調査団報告(U.S. Food and Drug Administration. Nanotechnology, A Report of the U.S. Food and Drug Administration Nanotechnology Task Force)」, FDA Ed.,ロックビル,メリーランド,2007年7月)。しかしながら、ナノ粒子系の利点または制限は、もっぱらその表面電荷のような単一特性に由来するものではなく、むしろ表面電荷の他に前記ナノ粒子の調製に用いられる成分の実際の性質も考慮されなければならない一連の特徴に由来することは明らかである。実例として、キトサンのようなポリマーから調製したナノ粒子の粘膜付着性および粘膜表面と相互作用する能力は、もっぱらこのポリマーのカチオン性およびその使用に基づく系の正の表面電荷に関係している。しかしながら、他の同様なカチオン性ポリマーを用いるときには同程度までそれらは観察されないので、表面電荷はそのような挙動または特性に関与する唯一の要因として考えることはできない。実際に、以前の研究は、どのようにしてポリリシンおよびキトサンのようなカチオン性ポリマーでコートされたナノ粒子系が、同様な正味の表面電荷を有するにも拘わらずそれらをインビボで投与した後に劇的に異なる挙動を示すのかを説明することができた(Calvo P, Vila-Jato JL and Alonso MJ; Int J Pharm., 153, 1997, 41-50)。従って、この種のナノ粒子系の実際の性質が、それらの物理化学的特徴と共にそれらの挙動を決定し、従って、最近指摘されているようなそれらの潜在能力を決定する、と考えることは必然的なことと思われる(Moreau et al., Journal of Drug Targeting, 10, 2002, 161-173)。
【0004】
上記のような研究は、最近ナノテクノロジーの新たな材料への適用およびひいては新たなナノ粒子系の開発に関心を起こさせるようになった(「合衆国食品医薬品局、FDA消費者雑誌(U.S. Food and Drug Administration, FDA Consumer magazine)」, FDA Ed., 2005年11〜12月発行,2005年)。この関心は、全身投与を目的とするナノ系であって、表面電荷に関連した毒性の問題および/または有害作用または好ましくない効果、またはそれらの開発にこれまで用いられてきた材料の実際の特徴が特に重要である場合に一層強くなる。実際に、正の正味電荷を有する系は局所投与のキャリヤーとして極めて興味深いものであるが、その正電荷は、疑いなく血球凝集および生物の天然成分との相互作用に関する他の有害作用を生じるので、それを全身経路によって投与するときには問題となることもある(Kainthan et al., Biomaterials 27, 2006, 5377-5390)。あるいは、そのために、遺伝子療法の分野における多くの専門家達は、新たなキャリヤーの開発は更に35年間長引く研究分野であることさえ予測しており(N. Blow, Nature, 450, 2007, 1117-1120)、全身投与用のキャリヤーの開発について言及されてきた限界を特に挙げている。
【0005】
今日まで、様々な材料がナノ粒子系の処方に用いられてきており、それらの多くは薬剤または遺伝子材料を投与するためのキャリヤーとして作用することができるものであった。しかしながら、ナノ粒子系は多くの場合に記載されているが、このような名称は、調製手法、構造、分子を結合および解放する能力、汎用性および潜在能力に関して明らかに異なる2タイプ系を包含することがあることを記憶しておく必要がある。これらの系は、文献では明らかに区別されており(J.K. Vasir and V. Labhasetwar, Expert Opinion on Drug Delivery, 3, 2006, 325-344) (Q. Gana, T. Wang, C. Cochrane, P. McCarron, Colloids and Surfaces B: Biointerfaces 44, 2005, 65-73)、下記の通りである:
正に帯電した材料と核酸誘導体のような負の正味電荷を有する生物活性分子との間に確立されたナノ粒子複合体であって、例えば、キトサン骨格に含まれる高密度のアミノ基が負電荷を有し、自発的であるが無統制に両成分の間で自己集合複合体を形成するプラスミドDNAを複合体形成することができる。これらの複合体は、この種の粒子の形成は単に反対の電荷を有する2分子の間に生じる向性(tropism)によるものであるので、それらの粒径または表面電荷ほど重要な特性を制御できることなしに得られる。実際に、負の正味電荷を有する生物活性分子がなければ、このようなナノ系を得ることはできないであろう。従って、ブランクであったりまたは前記分子が装填されていないこの種のナノ粒子を開発することはできない。
架橋ポリマーから調製されるナノ粒子。架橋は、所定の粒径および表面電荷を有する均質で、調整可能かつ再生可能なナノ粒子を得ることができる制御された工程である。架橋工程は、化学的またはイオン性であることができる。前記工程の最初のものは、それらの毒性およびヒトでの使用について承認されていないことを特徴とするアルデヒド基由来の薬剤の使用による安定化共有結合の形成に基づいている。更に、この種の薬剤は、特にそれらがペプチドおよびタンパク質の場合におけるようなアミノ基を有する分子であるときには、系と会合する生物活性分子自身を架橋および不活性化することもある。アルデヒドおよび化学的架橋剤のこれらすべての問題は、文献に記載されている。
【0006】
対照的に、イオン性または向イオン性ゲル化としても知られているイオン性架橋の手法は、ゆるやかでありかつ可逆的であることを特徴としている。この手法は、従来的にはカチオン性高分子とポリアニオンとの間で開発されたものであり、複合体とは異なり、会合した生物活性分子がその構成ポリマーマトリックス内部に完全にまたは部分的に閉じ込められており、向イオン性架橋工程で生成するマトリックス構造であることを特徴とする系を形成する。このポリマーマトリックスは、ポリアニオンとナノ粒子形態のもと自発的にゲル化するカチオン性分子との間の分子間および分子内イオン結合の結果として得られる。この形成機構は、複合体に関して付け加えられる価値として、複合体は同程度には提供することができない外部媒質に対する生物活性分子の保護を提供する。従って、迅速で、経済的であり、容易に再生可能で、しかも大規模に実現可能な手法であって、極めて単純な技術を要するものであり、産業界にとって疑いもなく関心のある様相であるものすべてが提供される。
【0007】
イオン性架橋の手法は、キトサンがトリポリリン酸ポリアニオンと架橋するカチオン性分子である、キトサンナノ粒子の形成について記載されている。しかしながら、その組成にキトサンを含むこの種の系に対する上記限界は、多くの発明者らをキトサンがヒアルロン酸のような異なるアニオン性高分子と結合している系の開発へと駆り立てたが、その形成にはキトサンの存在が常に必要とされてきた。
【0008】
ナノ粒子系を得るために当該技術分野でも用いられてきた他の材料は、デキストラン、カラギーナンおよびポリアルギニンを含んでなる。
【0009】
従って、国際公開第2005021044号およびUS20077155658号明細書の文書には、第一相において会合する遺伝子材料と複合体形成することができる炭水化物の使用の後にポリアルギニンの追加を必要とする200nmより小さな系が記載されている。
【0010】
US6,565,873号明細書およびUS7,053,034号明細書の文書には、脂肪性材料の使用を必要とするナノ粒子の形成が記載されている。
【0011】
US2005/0266090A1号明細書およびUS2005/0008572A1号明細書の文書には、2つの異なる部分、すなわちコアポリマーと前記コアを取り巻く異なる組成を有するコロナポリマーによって形成されるコア−シェル(コア−コートまたはタマネギ様)系の形成が記載されている。前記構造体は、構成ポリマーを逐次的に添加し、とりわけ溶液を噴霧する段階を用いる必要がある手法を適用した結果である(Propok et al., 2001; Prokop et al., 2002)。
【0012】
更に、ナノ粒子およびナノ粒子系の形成に用いたこの手法は、一般に複雑でありかつそれらの特性および特徴に影響を及ぼす限定された組成物を必要とする。国際公開第2001/9620698A1号の文書には、必要な有機溶媒を使用する乳化法によって得られるナノ粒子が記載されている。前記溶媒の使用は、規制機関が特別懸念を示す産業界によって完全に知られている一連のリスクを必然的に伴っている。
【0013】
ある種のデキストラン(ポリアルデヒドデキストラン)を含むUS2005/0008572A1号明細書の文書に記載されたナノ粒子は、その形成のために、前記成分と共有結合を確立し、デキストランを形成して、最後に異なる化合物を形成するようにする必要がある。
【0014】
US6,383,478B1号明細書の文書は、1種類以上の小さなカチオンの他に少なくとも2種類のポリアニオンの強制的な組込みがそれらの調製に必要であるナノ粒子に関する。究極的には、それらは、それらの組成に関してかなりの程度の複雑さを有する系である。
【0015】
US7,045,356号明細書の文書には、多層ナノ粒子であって、その形成にはポリマー間で分子間結合を形成することができるような条件を確立することが必要であるものが記載されている。
【0016】
US6,916,490号明細書の文書は、微粒子コアセルベート系であって、その形成にはポリマー間に化学的架橋が必要であるものに関する。
【0017】
US6,919,091号明細書および7,098,032号明細書の文書には、ナノ粒子系であって、ナノ粒子が100nmより小さく、その形成には(1)会合する遺伝子材料の複合体形成、(2)第二のポリマーの複合体形成、(3)最終的なイオン性架橋による系の完全性の確保の3段階を行う必要があるものが記載されている。
【0018】
US6,475,995号明細書および7,344,887号明細書の文書には、電着またはコアセルベーションによって生成したナノ構造体であって、提案されたポリカチオンがゼラチンまたはキトサンであるものが記載されている。
【0019】
当該技術分野の文書および最新のナノ粒子系を得るための組成、毒性および方法に関してそれらの系によって提示される欠陥を考慮すれば、そのため、ナノ粒子の物理化学的特性を一層大きく制御しかつ簡単な手法かつ効果的な方法によって得ることができる低毒性の生体適合性材料および試薬からナノ粒子系を開発する必要がある。
【発明の開示】
【0020】
発明の簡単な説明
本発明者らは、ナノ粒子がカチオン性架橋剤の存在下にて架橋したアニオン性ポリマーを含んでなるイオン性ゲル化法によって容易に得られるナノ粒子系は、生物活性分子を効果的に会合した後適当な媒質中に放出することができ、その放出がナノ粒子の成分を選択する手法による制御放出の可能性があることを見出した。前記ナノ粒子は、生物学的媒質において毒性を示さず、安定であり、更にそれらと会合した分子の分解を防止する付加的な特徴を有する。
【0021】
従って、第一の態様では、本発明は、平均粒径が1μm未満のナノ粒子を含んでなり、
a) 少なくとも1種類のアニオン性ポリマー、
b) カチオン性架橋剤、および
c) 必要に応じて、カチオン性ポリマー
を含んでなる生物活性分子を投与するための系であって、
ナノ粒子が静電型相互作用によって架橋していることを特徴とする、系に関する。
【0022】
もう一つの態様では、本発明は、上記で定義された系を含んでなる医薬組成物に関する。
【0023】
追加態様では、本発明は、上記で定義された系を含んでなる化粧用組成物に関する。
【0024】
もう一つの態様では、本発明は、個人衛生(personal hygiene)組成物に関する。
【0025】
もう一つの態様では、本発明は、上記で定義された系を含んでなる栄養組成物に関する。
【0026】
もう一つの態様では、本発明は、上記で定義された系を含んでなる診断を目的とする組成物に関する。
【0027】
もう一つの態様では、本発明は、上記で定義された系の調製方法であって、
a) 少なくとも1種類のアニオン性ポリマーの水溶液を調製し、
b) カチオン性架橋剤の水溶液を調製し、必要に応じてそれにカチオン性ポリマーを添加し、
c) a)およびb)で得られた溶液を攪拌下にて混合し、ナノ粒子を自発的に形成する
ことを含んでなる方法に関する。
【0028】
特定実施形態では、任意のカチオン性ポリマーを一旦形成したナノ粒子に添加する。
【0029】
本発明は、医薬品の調製における上記で定義された系の使用にも関する。特定実施形態では、前記医薬品は、遺伝子療法、遺伝子サイレンシングまたは遺伝的干渉、または遺伝子ワクチン接種における適用を目的とする。
【0030】
追加態様では、本発明は、自己細胞、同種細胞、異種細胞または細胞培養物などの生細胞の生物学的特徴を操作しまたは改変するための、次いで前記細胞または細胞群を用いて治療効果、診断効果、予防効果を得るための、または再生目的のための、または前記細胞による化合物の産生を変更するための、上記で定義された系の使用に関する。
【0031】
もう一つの追加態様では、本発明は、官能特性を変更し、修正しまたは導入し、または医薬品におけるまたは化粧用生成物における安定性を向上させるための、上記で定義された系の使用に関する。
【0032】
本発明の最終的態様は、水、食物または栄養補助食品の特徴を改良し、変更しまたは回復させ、並びに新規な官能特性を変更し、修正しまたは導入し、またはそれらの安定性を向上させ、および食物または栄養物の生体への投与を促進しまたは可能にするための、上記で定義された系の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、生物活性分子と効果的に会合し、規則的な球形と均一なナノメートル粒径を有するコロミン酸から調製したナノ粒子を示す:遺伝子材料(DNAプラスミド)と会合しているコロミン酸から調製したナノ粒子系のTEM画像。
【図2】図2は、siRNAと効果的に会合しているナノ粒子を示す:遊離siGAPDH、コンドロイチン硫酸から調製したナノ粒子と会合したsiGAPDH(A)またはヒアルロン酸から調製したナノ粒子と会合したsiGAPDH(B)を装填した1%アガロースゲル電気泳動の画像。
【図3】図3は、規則的な球形とナノメートル粒径を有する生物活性分子と会合しているヒアルロン酸から調製されるナノ粒子を示す。干渉RNAsiGAPDHを会合するヒアルロン酸から調製したナノ粒子系のTEM画像。
【図4】図4は、規則的な球形とナノメートル粒径を有する化粧使用のための生物活性分子を会合するヒアルロン酸から調製されるナノ粒子を示す。カイネチンを会合するヒアルロン酸から調製されるナノ粒子系のTEM画像。
【図5】図5は、規則的な球形とナノメートル粒径を有する化粧使用の生物活性分子を会合するコンドロイチン硫酸から調製されるナノ粒子を示す。カイネチンを会合するコンドロイチン硫酸から調製されたナノ粒子系のTEM画像。
【図6】図6は、開発したナノ粒子は、関連した化粧使用のための生物活性分子を放出し、前記ナノ粒子の成分を好都合に選択することによって前記放出を制御することができることを示す:ヒアルロン酸(A)またはコンドロイチン硫酸(B)を用いて調製したナノ粒子からのカイネチン放出の検討。
【図7】図7は、ナノ粒子を改変させずにそれらを凍結乾燥または再懸濁することが可能であることを示す:凍結乾燥工程を行ったナノ粒子の粒径変動指数は、ナノ粒子を5%グルコースの存在下にて0.5mg/mlの濃度で凍結乾燥するときには、変化しない(5%トレハロースの存在下での凍結乾燥:白ブロック; 5%グルコースの存在下での凍結乾燥:黒ブロック)(Df/Di=凍結乾燥前の処方物の平均粒径と凍結乾燥続いてmilliQ水に処方物を再懸濁した後の平均粒径の間の比)、(n=3)。
【図8】図8は、カイネチンを会合するコンドロイチン硫酸を基剤とするナノ粒子系は繊維芽細胞で細胞毒性を示さないことを示す:未処理細胞をネガティブコントロール(0%細胞死)として用いるXTT試験法によって得られた細胞生存力の値。
【図9】図9は、カイネチンを会合するコンドロイチン硫酸を基剤とするナノ粒子系は、繊維芽細胞で効果的にインターナライズすることを示す:フルオレセインアミン(緑色光)で標識したナノ粒子の蛍光共焦顕微鏡法による画像は、繊維芽細胞でインターナライズし、その細胞骨格はBodipy(赤色光)で染色されている。x−y軸における断面は中央のボックスに示され、対応するx−z軸における断面は側面画像に示される。
【図10】図10は、干渉RNA(siGAPDH)を会合するコンドロイチン硫酸から調製され、カチオン性ポリマーを加える手法によって調節された表面電荷を有するナノ粒子を用いることによるヒト角膜細胞における効果的な生物学的応答(GAPDHサイレンシング)を示す。使用したネガティブコントロール:未処理細胞および非特異的siRNAを会合するナノ粒子で処理した細胞。
【発明の具体的説明】
【0034】
発明の詳細な説明
本発明は、とりわけ平均粒径が1μm未満のナノ粒子を含んでなり、系前記ナノ粒子が少なくとも1種類のアニオン性ポリマー、カチオン性架橋剤、および、必要に応じてカチオン性ポリマーを含んでなる生物活性分子を投与するためのナノ粒子系の調製方法であって、ナノ粒子が静電型相互作用によって架橋していることを特徴とする、方法に関する。
【0035】
本発明において、「ナノ粒子」という用語は、均一で再生可能であり調節可能な特徴を有する安定な構造体であって、カチオン性架橋剤によって媒介されるその構成アニオン性ポリマーの制御された向イオン性架橋工程の結果として形成される自己集合系とは完全に区別することができるものを表す。架橋工程においてナノ粒子の様々な成分の間で起こる静電的相互作用は、独立しており観察可能であり、平均粒径が1mm未満、すなわち平均粒径が1〜999nmである特徴的な物理的実在物を生じる。
【0036】
「平均粒径」という用語は、水性媒質中を一緒に移動する架橋ポリマー構造体を含んでなるナノ粒子群の平均直径と理解される。これらの系の平均粒径は、当業者に知られている標準的方法を用いて測定することができる。
【0037】
本発明の系のナノ粒子は、平均粒径が1mm未満であり、すなわち、平均粒径が1〜999nm、好ましくは50〜800nmである。平均粒径は、主として組成および粒子形成の条件によって影響される。
【0038】
更に、ナノ粒子は、電荷(Z電位によって測定)を有してもよく、その大きさは系の様々な成分の特性によって正または負の値を有してもよい。本発明の特定実施形態では、ナノ粒子は、−1mV〜−40mVの負電荷を有する。
【0039】
本発明の系の粒子のζ電位は、例えば、本明細書の実験の部に記載の当業者に知られている標準的方法を用いて測定することができる。
【0040】
「アニオン性ポリマー」という用語は、前記定義において酵素的または化学的断片化または誘導体形成のような修飾を行ったアニオン性ポリマーなどの任意のポリマー、好ましくは負の正味電荷を有する天然起源の任意のポリマーであると理解される。特定実施形態では、アニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸またはその塩、コロミン酸または誘導体、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン、カラギーナン、グルコマンナン、並びにそれらの断片または誘導体から選択される。
【0041】
ヒアルロン酸
ヒアルロン酸またはヒアルロナンは、結合、上皮および神経組織に広く分布しているグリコサミノグリカンである。これは、細胞外マトリックスの主成分の1つであり、一般に細胞増殖および移動に有意に寄与する。
【0042】
ヒアルロナンは、下式に示されるように交互β−1,4およびβ−1,3グリコシド結合によって結合されたD−グルクロン酸およびD−N−アセチルグルコサミンの交互付加によって形成される二糖構造体の反復を含んでなる直鎖状ポリマーである:
【化1】

(上記式中、整数nは、重合度、すなわち、ヒアルロナン鎖における二糖単位の数を表す)。
【0043】
広い分子量の範囲を有するヒアルロン酸を、本発明に関して用いることができる。高分子量ヒアルロン酸は市販されているが、低分子量ヒアルロン酸は、例えば、ヒアルロニダーゼ酵素を用いて高分子量ヒアルロン酸を断片化することによって得ることができる。
【0044】
本明細書で用いられる「ヒアルロニック(hyaluronic)、ヒアルロン酸、ヒアルロナン」という用語は、ヒアルロン酸またはその共役塩基(ヒアルロネート)を包含する。この共役塩基は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩およびリチウム塩のような無機塩、中性pHにおける塩基性アミノ酸塩のような有機塩などのヒアルロン酸のアルカリ性塩であることができ、前記塩は好ましくは薬学上許容可能なものである。本発明の好ましい実施形態では、アルカリ性塩は、ヒアルロン酸のナトリウム塩である。
【0045】
コロミン酸
コロミン酸は、ポリシアル酸のファミリーに属する細菌性の天然ポリマーである。これは、グリコシドα−(2→8)結合によって結合した細胞および組織の天然成分であるN−アセチルノイラミン酸残基(Neu5Ac;シアル酸としても知られる)によって形成される直鎖状ポリマーである。それぞれのN−アセチルノイラミン酸残基は、下式に示されるように、コロミン酸の負電荷に関与するカルボキシル基を有する:
【化2】

【0046】
これは、生体適合性、生物分解性、かつ非免疫原性であり、その分解生成物は毒性を持たないので、疑いなく製薬および化粧品分野において関心のある材料である(Gregoriadis G et al. Cell. Mol. Life Sci. 2000, 57, 1964-1969)。更に、ポリシアル酸は、他の特性の中でも、血漿中半減期が極めて長く、従って、血漿中におけるリポソームのような生物活性分子についての薬剤および放出系の滞留時間を長くするためのポリエチレングリコール誘導体の代替物として提案されている。実際に、「国際公開第2008/033253号の医薬品を含むリポソーム複合体および方法(Liposome complexes containing pharmaceutical agents and methods)」という特許は、予備形成したリポソームを表面的に修飾するのに、それらを用いることに頼っている。最後に、その構造上の特徴を考慮すると、この材料は、例えばアミノ基の導入および生成物のカチオン化によって修飾する可能性を提供する。
【0047】
デキストラン硫酸
デキストラン硫酸は、下式に示されるように、それぞれ約2個の硫酸基を含むグルコース分子の単位によって形成される複合体グルカン(多糖)である:
【化3】

【0048】
デキストラン硫酸は、デキストランの硫酸化の後、当業者に周知の方法によって精製することによって調製される。
【0049】
ヘパリン
ヘパリンは、化学構造が下記の2−O−硫酸化−α−L−イズロン酸と2−デオキシ−2−スルファミド−α−D−グルコピラノシル−6−O−スルフェート二糖モノマーの繰り返し単位を含んでなるグリコサミノグリカンのファミリー由来の天然に存在する物質である:
【化4】

(上記式中、nは整数であり、重合度、すなわちヘパリン鎖におけるモノマー単位の数を表す)。
【0050】
本発明に関しては、断片化および非断片化ヘパリンをいずれも用いることができる。従来のまたは非断片化ヘパリンは、断片化または低分子量ヘパリンとは明確に区別される。それらの最初のものは、すべての脊椎動物に存在する天然物質である。いずれの種類のヘパリンも、遊離塩基の形態でまたは、例えばそのナトリウムまたはカルシウム塩のような塩の形態で用いることができる。
【0051】
断片化または低分子量ヘパリンは、通常のヘパリンの化学的または酵素的脱重合によって製造される。この種のヘパリンの例は、エノキサパリン、パルナパリン、ダルテパリンおよびナドロパリン、並びにナトリウムおよびカルシウム塩のようなそれらの塩である。
【0052】
ヘパリン誘導体は、本発明のナノ粒子の組成物に用いることもできる。これらの誘導体は、当該技術分野の状態において知られており、分子に存在する様々な官能基の反応性の結果として生じる。従って、N−アセチル化ヘパリン、O−脱カルボキシル化ヘパリン、酸化ヘパリンまたは還元ヘパリンが、広く知られている。
【0053】
コンドロイチン硫酸
コンドロイチン硫酸は、交互に並ぶ糖の鎖からなる硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)である。これは、通常はプロテオグリカンの一部としてタンパク質に結合している。これは、下記の構造によって表される。:
【化5】

(上記式中、nは整数であり、重合度、すなわちコンドロイチン硫酸鎖における二糖単位の数を表し、ここで、R、RおよびRは独立して水素またはSOH基である)。それぞれの単糖は、硫酸化しないまま、1回硫酸化、または2回硫酸化することもできる。硫酸化は、特異的なスルホトランスフェラーゼによって介在される。
【0054】
本発明に関して、「コンドロイチン硫酸」という用語は、すべてのその異なる異性体および誘導体、並びにそれらの組合せを包含する。
【0055】
特定実施形態では、コンドロイチン硫酸は、下記の物質およびそれらの組合せから選択される:
コンドロイチン−4−硫酸(R=H、R=SOHおよびR=H)としても知られているコンドロイチン硫酸Aは、主としてN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)糖の4位の炭素上で硫酸化される。
デルマタン硫酸としても知られているコンドロイチン硫酸B。この物質は、N−アセチルガラクトサミンとL−イズロン酸またはグルクロン酸を含む直鎖状の繰り返し単位からなり、それぞれの二糖は、1回または2回硫酸化することができる。
コンドロイチン−6−硫酸(R=SOH、R=HおよびR=H)としても知られているコンドロイチン硫酸Cは、主としてGalNAc糖の6位の炭素で硫酸化される。
コンドロイチン−2,6−硫酸(R=SOH、R=HおよびR=SOH)としても知られているコンドロイチン硫酸Dは、主としてグルクロン酸の2位の炭素およびGalNAc糖の6位の炭素上で硫酸化される。
コンドロイチン−4,6−硫酸(R=SOH、R=SOHおよびR=H)としても知られているコンドロイチン硫酸Eは、主としてGalNAc糖の4位の炭素および6位の炭素上で硫酸化される。
【0056】
「コンドロイチン硫酸」という用語は、その有機および無機塩も包含する。このような塩は、一般的には例えば、この化合物の塩基形態を、水または有機溶媒またはこれら2つの混合物中で、適当な酸の化学量論的量と反応させることによって調製される。一般的には、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルのような非水性媒質が好ましい。無機塩の例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩およびリチウム塩が挙げられ、有機塩としては、例えばエチレンジアミン、エタノールアミン、N,N−ジアルキル−エタノールアミン、トリエタノールアミン、グルカミンおよび塩基性アミノ酸の塩が挙げられる。これらの塩は、好ましくは薬学上許容可能なものである。
【0057】
コンドロイチンの機能は、その一部であるプロテオグリカンの特性によって大きく変化する。これらの機能は、調節および構造上の役割に大きく分けることができる。しかしながら、この区分は絶対的なものではなく、プロテオグリカンによっては構造上および調節上の役割を両方とも有してもよい。
【0058】
その構造上の役割に関して、コンドロイチン硫酸は細胞外マトリックスの主成分であり、組織の構造的完全性を保持する上で重要である。アグレカンの一部であることによって、コンドロイチン硫酸は軟骨の主成分である。コンドロイチン硫酸の高電荷でかつ密に充填された硫酸基は、静電反発力を生じて圧縮に対する軟骨耐性の多くを提供する。
【0059】
ケラタン硫酸は、硫酸基がグルクロン酸中にあるコンドロイチン硫酸と類似の硫酸化グリコサミノグリカンである。
【0060】
カラギーナン
カラギーナンまたはカラゲーニンは、交互α−1,3およびβ−1,4結合によって結合した硫酸化または非硫酸化ガラクトースおよび/またはアンヒドロガラクトース単位によって形成される。硫酸化硫酸基の位置の硫酸化度およびアンヒドロガラクトース基の存在によっては、明らかに異なるハイドロコロイドのような特性を有する様々な種類のカラゲーニンが識別される。硫酸基の比率が大きくなれば、溶解度が高くなり、アンヒドロガラクトース基の比率が大きくなれば、溶解度は低くなる。すべての種類のカラギーナンが、本発明に関して包含される。これらの幾つかとしては、例えばカッパ、イオタおよびラムダ(k,iおよびl)カラギーナンが挙げられる。
【0061】
グルコマンナン
グルコマンナンは、天然に存在する水溶性の多糖類である。この化合物の化学構造は、小さな分岐度を有する直鎖状ポリマー鎖からなっている。具体的には、これは、それぞれ1.6:1の比率でβ−1,4結合によって結合したD−マンノースとD−グルコース単位によって形成される。
【0062】
本発明の特定実施形態では、用いられるグルコマンナンは、リン酸化誘導体、カルボキシメチルおよびジカルボキシ−グルコマンナンから選択される負電荷を有するグルコマンナン誘導体である。
【0063】
架橋剤
本発明のナノ粒子は、正電荷を有する架橋剤の添加の結果としてナノクラスターの形態の前記ナノ粒子の成分を全部沈澱させるイオン性相互作用機構を介して形成されることを特徴とする。これは、簡単な方法であることに加えて、有機溶媒または毒性の補助物質を使用する必要がない。カチオン性架橋剤の存在により、アニオン性ポリマーを架橋することができ、適当な場合には、イオン性ゲル化工程による後者と任意のカチオン性ポリマーとの架橋により、ナノ粒子が自発的に形成される。このようにして、活性分子を投与する系として好適な粒径、表面電荷および構造的特徴を有するナノ粒子が得られる。
【0064】
特定実施形態では、架橋剤は、式HN−[(CH−NH−(CH−NH(前記式中、x、yおよびzは、独立して1〜66の値を有する)のアミンである。好ましくは、x、yおよびzは、独立して1〜10の値を有する。
【0065】
更に好ましくは、アミンは、スペルミン、スペルミジンおよびそれらの塩から選択される。これらのアミンは、細胞および体液の天然成分であり、細胞増殖および分化工程および生体高分子合成工程において重要な役割を演じている。生体において酸化的ストレスを阻害し生体の長命を促進するそれら能力も、最近報告されている(Eisenberg et al., Nature Cell Biology, 4 October 2009, doi:10.1038/ncb1975)。細胞は細胞成長工程に要するアミンを合成することができるが、これらのアミンを血流から得ることができる細胞インターナリゼーション機構が報告されている。これらの機構は、コンドロイチン硫酸およびヒアルロン酸のようなプロテオグリカンによって影響を受ける(Belting M. et al. Biochem J 1999, 338, 317-323)。従って、本発明の目的であるナノ粒子の成分とそれらの調製に用いられる架橋剤との間に相乗効果を呈することは、論理的であると思われる。
【0066】
特定実施形態では、架橋剤/アニオン性ポリマーの重量比は、0.1/1〜0.5/1、好ましくは0.2/1〜0.4/1であり、これは多分散性の低い処方物を提供する。
【0067】
カチオン性ポリマー
本発明の特定実施形態では、系を形成するナノ粒子は、必要に応じて、粒径、表面電荷および組成のような生物学的媒質とのそれらの相互作用において一層重要なナノ粒子系の特徴を調節し、このようにしてそれらに一層大きな汎用性(versatility)を提供する目的で、正電荷を有するポリマーを含んでなることができる。
【0068】
本発明に関して、「カチオン性ポリマー」とは、正の正味電荷を有する任意のポリマー、好ましくは天然起源の任意のポリマーと理解される。特定実施形態では、カチオン性ポリマーは、カチオン化デキストラン、ポリリシンまたはポリアルギニンのようなポリアミノ酸、ゼラチン、コラーゲンおよびアテロコラーゲンのような修飾タンパク質、またはそれらのカチオン化誘導体から選択される。
【0069】
「カチオン化デキストラン」および「カチオン化ゼラチン、コラーゲンまたはアテロコラーゲンのような修飾タンパク質」とは、修飾なしで有することができるよりも大きなカチオン性を付与するアミン基を導入するような、修飾する以前の分子と理解される。
【0070】
本発明のナノ粒子は、生物活性分子と会合している高い能力を有する系を提供する。従って、追加態様では、本発明は、更に生物活性分子を含んでなる上記で定義されたような系に関する。生物活性分子の放出は、ナノ粒子の成分を選択することによって制御することができ、これは、会合分子の放出の制御ができない従来の生薬処方物と比較して明確な利益を伴っている。
【0071】
「生物活性分子」という用語は、疾患の処置、治療、予防または診断に用いられるまたはヒトおよび動物の肉体的および精神的安寧の向上に用いられる任意の物質、並びに任意の有害な生物の破壊、作用の防止、相殺または中和を目的とするその化合物、または化粧品として用いられる任意の物質、並びに組織再生を目的とするまたは組織工学におけるその化合物に関する。本発明の目的であるナノ粒子は、その溶解度の特徴とは関係なく生物活性分子の会合に適している。会合の能力は、対応する分子によって変化するが、一般的には親水性分子および顕著な疎水性を有する分子のいずれでも高くなる。特定実施形態では、生物活性分子は、ペプチド、タンパク質、脂質または親油性化合物、糖化合物、核酸化合物、またはオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドのようなヌクレオチド、または上記分子の組合せから選択される。
【0072】
本発明の好ましい実施形態では、生物活性分子は、ペプチド、タンパク質、またはカイネチンのような化粧および再生上重要な生物活性分子、またはDNAプラスミド、オリゴヌクレオチド、干渉RNAまたはポリヌクレオチドのような核酸誘導体である。DNAプラスミドは、細胞に導入してタンパク質を発現する遺伝子材料を細胞にくみこむものであるか、またはRNA前駆体として作用するものである。
【0073】
カイネチンは、一種のサイトカイニンであり、細胞分裂と分化を促進する植物ホルモンのクラスの1つである。
【化6】

【0074】
その構造は、6位のアミン基に結合した側鎖を有するアデニンに由来し、N−フルフリルアデニンに相当する。
【0075】
カイネチンは酸化防止および老化防止特性を有し、これらの理由により老化防止治療に用いられる。
【0076】
ナノ粒子と会合した生物活性分子の比率は、ナノ粒子の成分の総重量に関して95重量%にまで達することができる。しかしながら、適当な比率は、組込まれる生物活性分子、それを用いる適応症、およびそれぞれの場合における投与効率によって変化する。特定実施形態では、生物活性分子の比率は、1〜10重量%である。
【0077】
活性成分としてDNAプラスミドまたは干渉RNAのようなポリヌクレオチドを組込む特定の場合では、前記系におけるその比率は、1%〜95重量%であり、好ましくは1〜30%、更に好ましくは1%〜5%であり、更に一層好ましくは1%、2.5%および5%である。
【0078】
もう一つの特定実施形態では、本発明のナノ粒子系は、前記ナノ粒子を生体に適用した後にそれらの追跡を促進することができる少なくとも1種類の化合物を更に含んでなる。好ましくは、前記化合物は、膜抗原のようなマーカー、または例えばフルオレセインまたはTexasRedのような染色剤である。
【0079】
もう一つの特定実施形態では、本発明のナノ粒子系は、例えばアジュバントまたは免疫調節剤(免疫抑制剤または免疫刺激剤)のような生物活性分子の効果を促進しまたは強化することができる少なくとも1種類の化合物を更に含んでなる。ナノ粒子系は、抗体、アプタマーのような生物学的成分または生体の受容体に対する親和性を有する化合物と相互作用することができる化合物と会合させることもできる。
【0080】
もう一つの特定実施形態では、本発明のナノ粒子系は、脂質、脂肪または油性型、糖型の安定化化合物、アミノ酸またはタンパク質誘導体、エチレンオキシド誘導体またはモルホリン型化合物を更に含んでなる。
【0081】
本発明のナノ粒子系と会合することができるすべての上記化合物は、ナノ粒子の形成前にその成分ポリマーの溶液に加えることができ、または一旦形成したナノ粒子に加えることもできる。
【0082】
追加態様では、本発明は、上記のナノ粒子系を含んでなる医薬組成物に関する。
【0083】
本発明による医薬組成物としては、経口経路、口腔経路、舌下経路、局所経路、眼経路、鼻経路、肺経路、耳経路、膣経路、子宮内経路、直腸経路、腸経路または非経口経路を介する適用のための任意の液体組成物(すなわち、本発明のナノ粒子の懸濁液または分散液)、または局所経路、眼経路、鼻経路、膣経路または直腸経路を介する投与のためのゲル、軟膏、クリームまたはバームの形態の任意の組成物が挙げられる。
【0084】
特定実施形態では、組成物を、経口経路を介して投与する。この場合には、ナノ粒子は消化液中で安定であるという付加的利点を有するので、全く分解を受けずに腸の上皮組織に到達して、そこに活性成分を放出することができる。
【0085】
皮膚上のまたは皮膚を介する投与のためのそれらの良好な特性および持続する安定性により、本発明のナノ粒子系は、化粧品への適用にも適している。従って、もう一つの態様では、本発明は、上記ナノ粒子系を含んでなる化粧用組成物に関する。
【0086】
本発明による化粧用組成物としては、任意の液体組成物(ナノ粒子の懸濁液または分散液)、または本発明の系を含んでなり、局所経路を介する投与のためのゲル、クリーム、軟膏またはバームの形態である任意の組成物が挙げられる。
【0087】
前記の化粧用組成物は、皮膚、軟毛および毛細管系、爪、唇および外部生殖器官のようなヒトまたは動物体の様々な表面およびヒトまたは動物体の歯または粘膜に適用することができる。
【0088】
本発明の特定実施形態では、本発明の系を含んでなる組成物は、個人衛生(personal hygiene)目的を有し、または付香し、体表面の外観を変更し、および/または体臭を修正し、および/またはそれを良好な状態に保護または保持する目的を有する。
【0089】
本発明の別態様では、化粧用または個人衛生組成物は、治療効果を全く持たないが、化粧用または個人衛生剤としての特性を有する親油性または親水性の活性分子を組込むこともできる。特に、皮膚軟化剤、防腐剤、芳香物質、ざ瘡防止剤、抗真菌薬、酸化防止剤、脱臭剤、発汗抑制剤、ふけ防止薬、脱色素剤、抗脂漏薬、色素、日焼けローション、紫外線吸収剤、酵素は、ナノ粒子に組込むことができる活性分子である。
【0090】
もう一つの態様では、本発明は、上記ナノ粒子系を含んでなる栄養組成物に関する。前記栄養組成物は、食品、栄養補助食品または栄養補給物であることができる。栄養組成物としては、牛乳、ヨーグルト、フルーツおよび野菜ジュース、デザート、乳児用製品または脱水製品を挙げることができる。ナノ粒子は、それぞれの製品を調製するための技術的方法に準じて混合して均質にすることによって栄養組成物に添加される。ビタミンのような他の成分を、栄養組成物に追加として加えることもできる。これらの化合物の例は、グループA、グループB、グループC、グループD、グループEのビタミン、葉酸グループ、またはそれらの混合物である。
【0091】
もう一つの態様では、本発明は、上記で定義されたように、
a) 少なくとも1種類のアニオン性ポリマーの水溶液を調製し、
b) カチオン性架橋剤の水溶液を調製し、必要に応じて、前記水溶液にカチオン性ポリマーを添加し、
c) a)およびb)で得た溶液を攪拌混合して、ナノ粒子を自発的に形成する
ことを含んでなる、ナノ粒子の調製方法に関する。
【0092】
この方法の別態様では、カチオン性ポリマーを、架橋剤溶液に組込む代わりに、既に形成したナノ粒子に加える。
【0093】
アニオン性ポリマーは、0.1〜6mg/ml、更に好ましくは0.1〜5mg/ml、更に一層好ましくは0.1〜3mg/mlの濃度のそれらの水性溶液によって組込まれる。
【0094】
もう一つの特定実施形態によれば、カチオン性架橋剤は、0.0625〜2mg/ml、好ましくは0.25〜2mg/mlの濃度で水中に溶解される。
【0095】
本発明の目的であるナノ粒子の形成は、反対の電荷を有する成分の制御された向イオン性架橋工程の結果である。イオン性または向イオン性架橋工程として知られている前記制御工程の結果として、所定の粒径および表面電荷を有する均一で調整可能かつ再生可能なナノ粒子が、任意の生物活性分子が会合しているまたはいないに関わらずかつ存在する電荷に関わらず得られる。
【0096】
生物活性分子、および/または生体にそれらを適用した後にナノ粒子の追跡を促進することができる化合物、および/または生物活性分子の効果を促進または強化することができる化合物、および/または生物学的成分または生体の受容体に対する親和性と相互作用することができる化合物、および/または安定化化合物、または化粧用剤として作用する生物活性分子を、その電荷によって、溶液a)またはb)の一方に溶解させ、すなわち、それが負電荷を有するときには、これを溶液a)に溶解し、反対に、それが正電荷を有するときには、これを溶液b)に溶解させる。この方法の別態様では、前記分子を、一旦形成しているナノ粒子に加える。
【0097】
親油性分子の場合には、それらを最初に少量の有機溶媒、油または脂質または親油性化合物、または水と上記化合物の混合物に溶解し、次にこれを上記の水性溶液の1つに加え、最終溶液における有機溶媒の重量濃度が常に95%未満となるようにすることができる。このような場合には、有機溶媒が薬学上許容可能なものでなければ、これを系から抽出しなければならない。
【0098】
上記ナノ粒子の調製方法は、その保管中に、それらの最初の特徴が保存され、扱う生成物の容積が減少するようにそれらを保存する目的で、追加凍結乾燥段階を包含することができる。更に、ポリマー架橋度の増加並びに架橋剤の効果の強化を促進するポリマー鎖の接近が起こる可能性があるため、ナノ粒子の架橋度をこの工程で増加させることができる。ナノ粒子の凍結乾燥には、グルコース、スクロースまたはトレハロースのような糖を1〜5%の濃度で、または凍結防止剤および/または凍結乾燥剤として作用する他の分子を少量添加する必要だけでよい。本発明のナノ粒子は、凍結乾燥の前後の粒径は有意に変更されないという付加的利点を有する。換言すれば、ナノ粒子は、その特徴を全く変更することなく凍結乾燥し、再懸濁することができるという利点を有する。
【0099】
生物医学分野における本発明のナノ粒子系の高い潜在能力のため、前記系は、ヒトおよび動物の疾患を治療しまたは予防するため、薬理学的、免疫学的、代謝または遺伝子発現の調節作用を発揮することによって生理機能を回復、修正または変更するため、または医学または獣医学的診断法を確立する目的のために好適である。
【0100】
従って、本発明の追加態様は、医薬品の調製における、上記で定義したナノ粒子系の、使用に関する。
【0101】
特定実施形態では、本発明の系は、核酸断片または干渉RNAのような診断または治療のための予防遺伝子を、インビボまたはエクスビボでヒト/動物細胞または初代または改良細胞培養物に導入するのに適している。従って、本発明のナノ粒子系は、遺伝子療法、遺伝子サイレンシングまたは遺伝的干渉、または遺伝子ワクチン接種を目的とする、医薬品の調製に有用である。
【0102】
もう一つの特定実施形態では、本発明のナノ粒子系は、自己細胞、同種細胞、異種細胞または細胞培養物などの生細胞の生物学的特徴を利用しまたは改変し、次いで前記細胞または細胞群を用いて治療効果、診断効果、予防効果を得て、または再生目的のための、またはバイオテクノロジー生産の目的で前記細胞による化合物の産生を調節することができる。特定実施形態では、前記操作は、細胞個体群をエクスビボで拡張または活性化し、生物分解性または非生物分解性の固有の微粒子またはマイクロカプセル、アレイおよび骨格のようなエクスビボまたはインビボで用いられる健康生成物に効果的に会合するように細胞を適合させることを包含する。
【0103】
追加態様では、本発明のナノ粒子系は、官能特性を変更し、修正しまたは導入し、または医薬品におけるまたは化粧用生成物における安定性を向上させることができる。
【0104】
もう一つの追加態様では、本発明のナノ粒子系は、水、食物または栄養補助食品の特徴を処理し、改良し、変更しまたは回復させ、並びに新規な官能特性を変更し、修正しまたは導入し、またはそれらの安定性を向上させ、および食物または栄養物の生体への投与を促進しまたは可能にすることができる。
【0105】
本発明の特徴および利点を一層良好に理解するため、上記説明を説明的および非制限的方法で、下記の完成している一連の実施例を参照する。
【実施例】
【0106】
下記の例の共通な方法として、ナノ粒子は、粒径、ゼータ電位(または表面電荷)、形態学およびカプセル化効果の観点から特徴決定している。
【0107】
下記の例の幾つかの説明の際に、下記の手法によって得られた結果を参照する:
【0108】
粒径は、光子相関分光法(PCS)により、およびそのための平均個体群粒径およびその多分散指数を得るZeta Sizer(Zeta Sizer,Nano series,Nano-ZS,Malvern Instruments,英国)を用いることによって測定している。そのために、試料を、milli−Q水で好都合に希釈した。
【0109】
粒子のゼータ電位は、レーザードップラー流速計法(LDA)法の手法により、そのためのZeta Sizer(Zeta Sizer,Nano series,Nano-ZS,Malvern Instruments,英国)を用いて測定している。そのために、試料を、KClの1ミリモル溶液で好都合に希釈した。
【0110】
ナノ粒子に対する遺伝子材料の会合効果は、アガロースゲル電気泳動法の手法によって測定している。そのため、TAE緩衝液(Tris−Acetate−EDTA、40mMトリス、1%酢酸、1mMEDTA)pH8中、1%アガロースゲルを、臭化エチジウム(10mg/ml、5μl)および装填緩衝液を用いて調製し、およびグリセリン(30%)、ブロモフェノールブルー(0.25%)およびキシレンシアノール(0.25%)からなる移動マーカーを用いた。100mVの電位差を30分間加え、遊離の遺伝子材料をコントロールとして用いた。
【0111】
カイネチンのナノ粒子に対する会合効果を、分光光度法の手法によって測定している。そのために、遊離カイネチンのナノ粒子と会合したカイネチンを、遠心分離機(Beckman CR412, Beckman Coulter,米国)(11,000rcf(相対遠心加速度)、30分間)中で限外濾過膜(AmiconUltra 5000 MWCO, Milipore,アイルランド)の手法によって様々な処方物に分離した。遊離カイネチンを、対応する較正曲線(y=0.0706x+0.0012)に対してλ=265nmで定量し、比較のため、遊離カイネチンのナノ粒子に対する会合効果を測定した。
【0112】
ナノ粒子と会合したカイネチンについてカイネチン放出の研究を行うため、これらを、様々な培地(HEPES緩衝液 pH7.4、アセテート緩衝液 pH5.5、0.01NHCl pH2)で37℃にてインキュベーションした。様々な時間に放出されたカイネチンを、上記の方法によって測定した。
【0113】
細胞培養物を用いる実験のため、Universidad de Santiago de Compostela(USC)の生理学部のAnxo Vidal教授によって作成されたマウス由来のW3T3不死化繊維芽細胞(形質転換せず)を用いた。繊維芽細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)、ストレプトマイシン(0.1mg/ml)およびペニシリン(100U/ml)およびL−グルタミン2mM(Invitrogen,スペイン)を補足した高グルコースDMEM培地で培養した。細胞を、37℃で5%COの加湿雰囲気下に保持した。
【0114】
下記の例で用いられるような下記のポリマーは、様々な商事会社から入手した:ヒアルロン酸またはヒアルロニック(hyaluronic)(Bioiberica,スペイン)、コロミン酸(Sigma,スペイン)、コンドロイチン硫酸(Calbiochem,米国)、デキストラン硫酸(Sigma,スペイン)、ヘパリン(Sigma,スペイン)、グルコマンナン(Shimizu Chemical,日本)、およびカラギーナン(FMC Biopolymer,ME,米国)、ポリ−L−アルギニン(Sigma,スペイン)。
【0115】
分子量が238kDaのA型ゼラチンは、Kerala Chemicals and Proteins(Cochim,インド)から入手した。
【0116】
カイネチンは、Sigma(スペイン)から入手した。
【0117】
活性成分としてのナノ系の幾つかと会合したアルブミンは、Sigma(スペイン)から入手したウシ血清アルブミン(BSA)であった。
【0118】
ナノ粒子を形成する生体材料として用いられるアルブミンは、Novozymes Biopharma(Nothingham,英国)によって製造された後、カチオン化工程を施したヒト組換えアルブミンであった。
【0119】
スペルミンまたはエチレンジアミンでカチオン化したタンパク質(様々な分子量のアルブミンおよびゼラチン)は、Seki et al.によって報告された方法によって合成している(Journal of Pharmaceutical Sciences 2006, 95 (6), 1393-1401)。このために、対応するタンパク質の1%w/v溶液(10ml0.1Mリン酸緩衝液、pH5.3中タンパク質100mg)を調製して、スペルミン1620mgまたはエチレンジアミン574mgと、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチル−カルボジイミド塩酸塩(EDC)267.5mgをそれに加えた。次いで、pH(pH=4.5)をNaOHでpH=5の値に調整し、混合物を37±1℃の恒温水槽で18時間反応させた。次いで、混合物を透析して、凍結乾燥することによって、対応する例に記載の実験で用いたスペルミンまたはエチレンジアミンでカチオン化したタンパク質を得た。
【0120】
等イオンまたは等電点の測定は、イオン交換樹脂と接触させることによって脱塩しているポリマー溶液の水素イオンの濃度を測定することからなる(Commission on Methods for Testing Photographic Gelatin. PAGI METHOD 10th Ed. 2006)。この工程は、カチオン化タンパク質の1%溶液を、酸カチオン樹脂と、塩基性アニオン樹脂の1:2の比率の混合物とを接触させることからなる。これらの交換樹脂を最初に35℃のmilliQ水で洗浄することによって処理した後、35℃にて30分間攪拌下で修飾タンパク質溶液と接触させた。次いで、溶液を乾燥し、pHを35℃で測定した。得られた値は、タンパク質の等イオンまたは等電点を示している。それぞれNitta Gelatin(Ontario,カナダ)およびKerala Chemicals and Protein(Cochim,インド)から入手した等電点が9および5の市販ゼラチン、またはヒト組換えアルブミンを、コントロールとして用いた。
【0121】
DNAプラスミドpEGFPは、Elim Biopharmaceuticals(CA,米国)から入手した。
【0122】
干渉RNA(siRNA)siGAPDHおよびsiEGFPは、それぞれAmbion(米国)およびInvitrogen(米国)から入手した。
【0123】
スペルミンおよびスペルミジンは、Sigma Aldrich(スペイン)から入手した。
【0124】
例1:生物活性分子(DNAプラスミド)と会合するデキストラン硫酸を基剤とするナノ粒子の調製
ナノ粒子は、上記の方法に準じてデキストラン硫酸から調製した。生物活性親水性高分子を、この目的のための遺伝子材料、具体的にはプラスミド、pEGFPを選択して、その組成物に組み込んだ。これは負に帯電した高分子であるので、同様に負電荷を有するデキストラン硫酸と一緒に組込み、粒子を形成する前に相互作用が生じるのを防止した。カチオン性スペルミン分子を、架橋剤として用いた。
【0125】
そのために、デキストラン硫酸(2mg/ml)をmilli−Q水に溶解した水性溶液を調製した。スペルミン(0.6〜0.8mg/ml)をmilli−Q水に溶解した水性溶液を、架橋剤として用いた。対応する遺伝子材料を、2.5質量%の比率で組込んだ。生物活性分子をデキストラン硫酸の溶液に組込み、生成する溶液を架橋溶液と磁気攪拌下で混合し、これを30分間保持し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。ポリマーと架橋剤の比を、表1に示す。前記表には、得られた系の平均直径および表面電荷(ゼータ電位)も示されている。
【0126】
【表1】

【0127】
例2:別種のアニオン性ポリマーと組み合わせることによって生物活性分子と会合するデキストラン硫酸から調製したナノ粒子の表面電荷の調節:デキストラン硫酸とコンドロイチン硫酸との組合せおよび生物活性分子(タンパク質)の会合
デキストラン硫酸ナノ粒子は、ナノ粒子の特徴、特に表面電荷を調節するためにアニオン性ポリマー賦形剤であるコンドロイチン硫酸を加えることを除き、上記方法に準じて調製した。生物活性分子を、この目的のためのタンパク質、具体的にはアルブミンを選択して、更に組成物に組込んだ。これは負に帯電した高分子であるので、同様に負電荷を有するデキストラン硫酸と一緒に組込み、粒子を形成する前に相互作用が生じるのを防止した。カチオン性スペルミジンを、架橋剤として用いた。
【0128】
そのために、デキストラン硫酸(5mg/ml)とコンドロイチン硫酸(6mg/ml)の溶液、およびスペルミジン(2mg/ml)およびアルブミン(5mg/ml)の溶液を100mMHEPES緩衝液pH7.4中で調製した。負電荷を有するすべての成分を混合し、生物活性分子アルブミンを組込み、デキストラン硫酸:アルブミン:コンドロイチン硫酸の質量比1:1:0.72を生じさせた。生成する溶液をスペルミジン溶液0.6mlと磁気攪拌下にて混合し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。このようにして、平均粒径が189±27nm(多分散指数0.202)であり、負の表面電荷が−38.1±2.4mVであるナノ粒子を調製した。
【0129】
例3:ヘパリンを基剤とするナノ粒子の調製および活性成分へのそれらの会合
ヘパリンナノ粒子を、上記方法に準じて調製した。
【0130】
生物活性親水性高分子を、この目的のための遺伝子材料、具体的にはプラスミド、pEGFPまたは干渉RNA(siRNA)、siGAPDHを選択して、その組成物に組込んだ。それらは、いずれの場合も負に帯電した高分子であるので、同様に負電荷を有するヘパリンと一緒に組込み、粒子を形成する前に相互作用が生じるのを防止した。そのために、ヘパリン(1mg/ml)のmilli−Q水中での水溶液を調製した。スペルミン(0.75mg/ml)のmilli−Q水中での水溶液を、架橋剤として用いた。対応する遺伝子材料を、5質量%の比率で組込んだ。生物活性分子をヘパリンの溶液に組込み、生成する溶液を架橋剤溶液と磁気攪拌下にて混合し、これを30分間保持し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。表2には、得られた系の平均直径および表面電荷(ゼータ電位)が示されている。
【0131】
【表2】

【0132】
例4:カラギーナンを基剤とするナノ粒子の調製および活性成分とのそれらの会合
カラギーナンナノ粒子を、上記方法に準じて調製した。生物活性親水性高分子を、この目的のための遺伝子材料、具体的にはプラスミド、pEGFPを選択して、その組成物に組込んだ。それは、負に帯電した高分子であるので、同様に負電荷を有するカラギーナンと一緒に組込み、粒子を形成する前に相互作用が生じるのを防止した。カチオン性スペルミン分子を、架橋剤として用いた。そのために、λ−カラギーナン(0.5mg/ml)のmilli−Q水中での水溶液を調製した。スペルミン(0.25mg/ml)のmilli−Q水中での水溶液を、架橋剤として用いた。対応する遺伝子材料を、5質量%の比率で組込んだ。生物活性分子をカラギーナン溶液に組込み、生成する溶液を架橋剤溶液と磁気攪拌下にて混合し、これを30分間保持し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。得られたナノ粒子の平均直径は136±0.3nm(多分散指数0.23)であり、それらの表面電荷(ゼータ電位)は−28.1±1.9mVである。
【0133】
例5:コロミン酸を基剤とするナノ粒子の調製および活性成分とのそれらの会合
コロミン酸ナノ粒子を、上記方法に準じて調製した。親水性高分子を、この目的のための遺伝子材料、具体的にはプラスミド、pEGFPを選択して、その組成物中でそれらと会合させた。それは、負に帯電した生物活性高分子であるので、コロミン酸と一緒に組込み、粒子を形成する前に相互作用が生じるのを防止した。
【0134】
そのために、コロミン酸(1mg/ml)のmilli−Q水中での水溶液を調製した。スペルミン(1.5mg/ml)のmilli−Q水中での水溶液を、架橋剤として用いた。対応する遺伝子材料を、コロミン酸の溶液に上記分子に関して5重量%の比率で組込んだ。上記溶液を混合した後、平均粒径が702±20nm(多分散指数0.30)でありかつ負の表面電荷が−11.0±0.3mVであるナノ粒子を得た。
【0135】
例6:活性成分を含むコロミン酸から調製したナノ粒子は規則的な球形と均一なナノメートルの粒径を有する:DNAプラスミドと会合するコロミン酸から調製したナノ粒子の形態の特徴決定
プラスミドpEGFPの形態の遺伝子材料を含むナノ粒子(2.5%装填量)を、上記方法に準じてコロミン酸から調製した。この系を、透過型顕微鏡(TEM)(CM12,Philips,Eindhoven,オランダ)によって、1%ホスホタングステン酸をコントラスト剤として用いて、形態を特徴決定した。図1に、対応する画像を示す。前記画像から、ナノ粒子系は規則的な球形と均一なナノメートルの粒径とを有することが分かる。
【0136】
例7:生物活性分子(DNAプラスミド)と会合しているヒアルロン酸を基剤とするナノ粒子の調製
ヒアルロン酸ナノ粒子は、スペルミンをイオン性架橋剤として用いる上記方法に準じて調製した。親水性の生物活性高分子を、この目的のための遺伝子材料、具体的にはプラスミドpEGFPを選択して、その組成物中で会合させた。それは、負に帯電した高分子であるので、ヒアルロニック(hyaluronic)と一緒に組込み、粒子を形成する前に相互作用が生じるのを防止した。カチオン性スペルミン分子を、架橋剤として用いた。そのために、ヒアルロン酸(2mg/ml)と溶解したスペルミン(0.75mg/ml)とのmilli−Q水の水溶液を調製した。対応する遺伝子材料を、上記成分に関して2.5重量%の比率で組込んだ。生物活性分子をヒアルロニックの溶液に組込み、生成する溶液をスペルミン溶液と磁気攪拌下にて混合し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。このようにして、平均粒径が532±21nm(多分散指数0.34)であり、負の表面電荷が−21.1±0.1mVであるナノ粒子を得た。
【0137】
例8:生物活性分子(siRNA)と効果的に会合するヒアルロン酸から調製されたナノ粒子は、規則的な球形と均一なナノメートル粒径を有する
干渉RNA、siGAPDHと会合しているヒアルロン酸ナノ粒子は、スペルミンを架橋剤として用いかつ遺伝子材料の含量(成分に関して5重量%の比率)以外は上記例に記載の処方条件を用いる上記方法に準じて調製した。開発したナノ粒子との遺伝子材料の会合は、アガロースゲル電気泳動法によって測定した。図2−Bに示されるように、遊離siRNAコントロールとは異なり、ナノ粒子の調製において組込まれたsiRNAに相当するバンドはゲル中で移動せず、ナノ粒子と効果的に会合していることを示している。
【0138】
更に、この系の形態を、透過型顕微鏡法(TEM)(CM12,Philips,Eindhoven,オランダ)によって1%リンタングステン酸をコントラスト剤として用いて特徴決定した。図3に対応する画像を示す。前記画像から、ナノ粒子系は、規則的な球形と均一なナノメートル粒径とを有することが分かる。
【0139】
例9:化粧使用のための生物活性分子と会合しているヒアルロン酸を基剤とするナノ粒子の調製
ヒアルロン酸ナノ粒子は、スペルミンをイオン性架橋剤として用いる上記方法に準じて調製した。生物活性分子を、この目的のための化粧使用のためのサイトカイニン、具体的にはN−フルフリルアデニン(カイネチン)を選択して、その組成物中で会合させた。これは、ナノ粒子の形成条件では正に帯電した分子であり、イオン性架橋剤であるので、同様に正電荷を有するスペルミンと一緒に組込み、粒子を形成する前に相互作用が生じるのを防止した。そのために、ヒアルロン酸のアセテート緩衝液(15mM、pH5.5)中での水溶液を、4.5mg/mlの濃度で調製した。1.125mg/mlの濃度でmilli−Q水中に溶解したスペルミンを、架橋剤として用いた。カイネチンを上記成分に関して5および10重量%の比率で組込み、この目的のため、これを最初に0.1NHClに溶解し、架橋剤溶液に組込んだ。生成する溶液を、ヒアルロン酸溶液と磁気攪拌下にて混合し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。表3に、得られた系の平均直径、表面電荷(ゼータ電位)および会合効率を示す。
【0140】
【表3】

【0141】
例10:化粧使用のための生物活性分子と会合させるヒアルロン酸から調製したナノ粒子は規則的な球形とナノメートル粒径を有する
カイネチン(上記成分に関して5重量%の比率)と会合させるナノ粒子を、スペルミンを架橋剤として用いる上記方法に準じてヒアルロン酸から調製した。系の形態を、透過型顕微鏡法(TEM)(CM12,Philips,Eindhoven,オランダ)によって1%リンタングステン酸をコントラスト剤として用いて特徴決定した。図4に、対応する画像を示す。前記画像から、ナノ粒子系は、規則的な球形とナノメートル粒径とを有することが分かる。
【0142】
例11:化粧使用のための生物活性分子と会合させるコンドロイチン硫酸を基剤とするナノ粒子の調製
コンドロイチン硫酸ナノ粒子を、スペルミンをイオン性架橋剤として用いる上記方法に準じて調製した。生物活性分子を、この目的のための化粧使用のためのサイトカイニン、具体的にはカイネチンを選択して、その組成物中で会合させた。これは、ナノ粒子の形成条件では正に帯電した分子であるので、イオン性架橋剤であり、同様に正電荷を有するスペルミンと一緒に組込み、粒子の形成前に相互作用が生じるのを防止した。
【0143】
このために、コンドロイチン硫酸をアセテート緩衝液(15mM、pH5.5)に溶解した水溶液を、1.5mg/mlの濃度で調製した。0.375mg/mlの濃度でスペルミンをmilli−Q水に溶解したものを、架橋剤として用いた。カイネチンを、上記成分に関して2.5および5重量%の比率で組込み、その目的のため、これを最初に0.1NHClに溶解し、架橋剤溶液に組込んだ。生成する溶液を、コンドロイチン硫酸溶液と磁気攪拌下にて混合し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。表4に、得られた系の平均直径、表面電荷(ゼータ電位)および会合効率を示す。
【0144】
【表4】

【0145】
例12:化粧使用のための生物活性分子と会合しているコンドロイチン硫酸から調製したナノ粒子は規則的な球形とナノメートル粒径を有する
カイネチン(上記成分に関して2.5重量%の比率)と会合しているナノ粒子は、コンドロイチン硫酸から、スペルミンを架橋剤として用いる上記方法に準じて調製した。系の形態は、透過型顕微鏡法(TEM)(CM12,Philips,Eindhoven,オランダ)によって1%リンタングステン酸をコントラスト剤として用いて特徴決定した。図5に、対応する画像を示す。この画像から、ナノ粒子系は規則的な球形とナノメートル粒径とを有することが分かる。
【0146】
例13:開発したナノ粒子は会合した生物活性分子を放出し、前記ナノ粒子の成分を好都合に選択することによって前記放出を制御することができる
カイネチン(ナノ粒子の成分に関して5重量%の比率)と会合している様々なナノ粒子を、上記方法に準じて調製した。得られたナノ粒子系を、様々な放出媒質(HEPES緩衝液 pH7.4、アセテート緩衝液 pH5.5または0.01NHCl pH2)でインビトロの放出を検討した。図6に、対応する放出プロフィールを示す。図から分かるように、開発したナノ粒子は会合した生物活性分子を放出し、前記ナノ粒子の成分を好都合に選択することによって前記放出を制御することができる。
【0147】
例14:細胞培地で化粧使用のための生物活性分子と会合するコンドロイチン硫酸を基剤とするナノ粒子の調製
コンドロイチン硫酸ナノ粒子を、スペルミンをイオン性架橋剤として用いる上記方法に準じて調製した。生物活性分子を、この目的のための化粧使用のためのサイトカイニン、具体的にはカイネチンを選択して、その組成物中で会合させた。これは、ナノ粒子の形成条件では正に帯電した分子であるので、同様に正電荷を有するイオン性架橋剤であるスペルミンと一緒に組込み、粒子の形成前に相互作用が生じるのを防止した。
【0148】
そのために、コンドロイチン硫酸を20mMHEPES緩衝液 pH7.4中に溶解したものを、1.0〜3.0mg/mlの濃度で調製した。スペルミンを0.75〜2.0mg/mlの濃度で20mMpH7.4 HEPES緩衝液に溶解したものを、架橋剤として用いた。カイネチンを、上記成分に関して0.78〜1.12重量%の比率で組込み、その目的のため、これを最初に0.1NHCl(0.25mg/ml)に溶解し、架橋剤溶液に組込んだ。生成する溶液を、コンドロイチン硫酸溶液と磁気攪拌下にて混合し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。
【0149】
必要に応じて、ポリ−L−アルギニン(PA)カチオン性ポリマー、カチオン化ヒト組換えアルブミン(cHSA)または様々な種類のカチオン化ゼラチンであって、それらはいずれも20mMHEPES緩衝液 pH7.4の溶液中で0.3mg/mlの濃度で調製してカチオン性架橋剤溶液に組込んだものを、ナノ粒子の形成前に加えた。表5〜10に、得られた様々なナノ粒子系の平均直径を示す。これから分かるように、上記カチオン性ポリマーの組込みによって、ナノ粒子の特性を調節することができる。しかしながら、同一条件下では、1つのポリマーを別のものに代えると、ナノ粒子の特徴が有意に改変されるだけでなく、ナノ粒子が形成されなかったりまたは凝集したりする可能性を引き起こす。従って、ナノ粒子系において一方のまたは別のカチオン性ポリマーを任意成分として用いることは普通のことではないと結論することができる。
【0150】
【表5】

【0151】
【表6】

【0152】
【表7】

【0153】
【表8】

【0154】
【表9】

【0155】
【表10】

【0156】
例15:化粧使用のための生物活性分子と会合し、それらを変更することなく再懸濁することによって、コンドロイチン硫酸を基剤とするナノ粒子を効果的に単離することができる
ナノ粒子を、スペルミンをイオン性架橋剤として用いかつカイネチンと会合している上記方法に準じて、培養培地中のコンドロイチン硫酸およびスペルミンでカチオン化したゼラチン(GCspm)から調製した。平均粒径が263±7nm(多分散指数0.15)であり負の表面電荷が−28±1mVであるナノ粒子が、このようにして得られた。形成媒質からナノ粒子を単離する目的のため、これを4℃にて5,000rcfで40分間遠心分離した(Beckman CR412,Beckman Coulter,米国)。ナノ粒子を単離した後、それを20mM pH7.4 HEPES培養培地に再懸濁し、物理化学的に特徴決定した。得られた結果は、平均粒径が279±4nm(多分散指数0.19)であり、表面負電荷が−25±2mVであった。これから分かるように、ナノ粒子の単離工程と次の再構築工程では、その物理化学的特徴は変化しない。
【0157】
例16:化粧使用のための生物活性分子と会合しているコンドロイチン硫酸を基剤としたナノ粒子を凍結乾燥し、それらを変更することなくそれらを再構成することが可能である
ナノ粒子を、一層安定な投薬形態に開発する目的で、凍結乾燥した。ナノ粒子を、このために、スペルミンをイオン性架橋剤として用いかつカイネチンと会合している上記方法に準じて、培養培地中のコンドロイチン硫酸およびスペルミンでカチオン化したゼラチン(GCspm)から調製した。様々な濃度のナノ粒子の懸濁液(0.125〜0.5mg/ml)を、最終濃度5%(w/v)のグルコースまたはトレハロースの存在下にて凍結乾燥した。そのため、懸濁液(3ml)に、−35℃で凍結工程、次いで凍結乾燥を施した(Virtis Genesis Freeze dryer, 25ES, Virtis, NY,米国)。凍結乾燥の後、ナノ粒子系にmQ水3mlを加えることによって容易に再懸濁し、ナノ粒子の懸濁液を生じた後、ナノ粒子の平均粒径を測定した。図7に、粒径変動指数(Df/Di=凍結乾燥前の処方物の平均粒径と凍結乾燥およびその後の処方物のmilliQ水への再懸濁後の平均粒径の比)を示す。これから分かるように、ナノ粒子を5%グルコースの存在下にて0.5mg/mlの濃度で凍結乾燥したときには、それらは凍結乾燥工程を施されているので、その粒径は変更されない。
【0158】
例17:化粧使用のための生物活性分子を会合するコンドロイチン硫酸を基剤とするナノ粒子系は、繊維芽細胞で細胞毒性を示さない
ナノ粒子を、スペルミンをイオン性架橋剤として用いかつカイネチンと会合している上記方法に準じて培地中のコンドロイチン硫酸およびスペルミンでカチオン化したゼラチン(GCspm)から調製した。カチオン化したゼラチンと結合したコンドロイチン硫酸から調製したナノ粒子と接触している細胞の生存力を、繊維芽細胞で評価した。そのために、細胞をCostar(商標)(Corning,米国)96穴プレートに10,000個/ウェルのコンフルエンスで播種し、24時間増殖させた後、分析した。細胞を、DMEM/F−12培地(それぞれのウェルの最終容積は200μlである)中で様々な濃度のナノ粒子を用いて3時間インキュベーションした。その後、細胞を洗浄し、完全培養培地200μlを加えた。次いで、細胞を、フェノールレッドを含まずXTT(0.2mg/ml)を含むRPMI培地200μlで15時間インキュベーションした。結果を、未処理コントロール(ネガティブコントロール)に対する細胞生存の百分率として表した。図8から分かるように、系は繊維芽細胞において有意な毒性を示さない。
【0159】
例18:化粧使用のための生物活性分子と会合しているコンドロイチン硫酸を基剤とするナノ粒子系は、繊維芽細胞で効果的にインターナリゼーションする
ナノ粒子を、スペルミンをイオン性架橋剤として用いかつカイネチンと会合している上記方法に準じて培地中のコンドロイチン硫酸およびスペルミンでカチオン化したゼラチン(GCspm)から調製した。ナノ粒子の細胞インターナリゼーション能力を、繊維芽細胞で評価した。そのために、コンドロイチン硫酸を、最初にDe la Fuente et al.(Gene therapy, 15, 9, 2008, 668-76)によって報告された方法に準じてフルオレセインアミンで標識した(ChS−fl)。具体的には、DMSO20mlをCS水溶液(1.25mg/ml)40mlに加えた後、フルオレセインアミン(50mg/ml DMSO中)0.5ml、シクロヘキシルイソシアニド25μlおよびアセトアルデヒド25μlを上記溶液に加えた。混合物を磁気攪拌下にて5時間暗所に保持した。このようにしてフルオレセインアミンで標識したコンドロイチン硫酸(ChS−fl)を、塩析法によって精製するため、NaClの飽和溶液と冷エタノールを加えた。CS−fl沈殿物をmilli−Q水に再懸濁した後、凍結乾燥した。このポリマーを、スペルミンでカチオン化したゼラチンと一緒に上記方法に準じてカイネチンと会合しているナノ粒子の調製に用いた。
【0160】
繊維芽細胞を、マルチ−チャンバースライド(Nunc,デンマーク)中で50,000個/チャンバーの細胞密度で播種した。24時間後に、ナノ粒子懸濁液50μlを、細胞と共に1時間インキュベーションした。その後、細胞をパラホルムアルデヒド(PBS中3.5% pH7.4)で固定し、細胞骨格を赤色bodipy650/665ファロイジン(Molecular probes,米国)で染色した。インターナリゼーションを、Leica TCS SP2蛍光共焦点顕微鏡(Leica Microsystems,ドイツ)で観察し、図9に示されるようにフルオレセインアミンで標識したナノ粒子(緑色光)および繊維芽細胞(赤色光)が見られた。
【0161】
例19:生物活性分子(遺伝子材料)と会合しているコンドロイチン硫酸から調製したナノ粒子の調製
コンドロイチン硫酸ナノ粒子を、スペルミンをイオン性架橋剤として用いる上記方法に準じて調製した。親水性の生物活性高分子を、この目的のために遺伝子材料、具体的にはプラスミド、pEGFPまたは干渉RNA(siRNA)、siGAPDHを選択して、その組成物中で会合させた。それらはどちらの場合にも負に帯電した高分子であるので、同様に負電荷を有するコンドロイチン硫酸と一緒に組込み、粒子を形成する前に相互作用が生じるのを防止した。カチオン性スペルミン分子を、架橋剤として用いた。そのために、コンドロイチン硫酸(1mg/ml)とスペルミン(0.5mg/ml)をmilli−Q水に溶解した水溶液を調製した。対応する遺伝子材料を、上記成分に関して5重量%の比率で組込んだ。生物活性分子をコンドロイチン硫酸の溶液に組込み、生成する溶液をスペルミン架橋剤溶液と磁気攪拌下で混合し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。表11は、得られた系の平均直径および表面電荷(ゼータ電位)を示している。
【0162】
【表11】

【0163】
例20:カチオン性ポリマーを加えることによって生物活性分子(干渉RNA)と会合しているコンドロイチン硫酸から調製したナノ粒子の表面電荷の調節
ナノ粒子を、スペルミンをイオン性架橋剤として用いて、ポリマー賦形剤、およびナノ粒子の特徴、具体的には表面電荷、を調節する目的のためにコンドロイチン硫酸と反対の電荷を有するエチレンジアミンで予めカチオン化したゼラチンを加えて、上記方法に準じてコンドロイチン硫酸から調製した。生物活性親水性高分子を、この目的のために遺伝子材料、具体的には干渉RNA(siRNA)、siGAPDHを選択して、その組成物に更に組込んだ。これは負に帯電した高分子であるので、コンドロイチン硫酸と一緒に組込み、粒子の形成前に相互作用が生じるのを防止した。カチオン性スペルミン分子を、架橋剤として用いた。そのために、コンドロイチン硫酸(0.5mg/ml)およびポリマー、表面電荷を調節する目的で予めエチレンジアミン(2mg/ml)でカチオン化したゼラチンおよびスペルミン(0.6mg/ml)の溶液を、100mM pH7.4 HEPES緩衝液で調製した。対応する遺伝子材料を、上記成分に関して5重量%の比率で組込んだ。生物活性分子をコンドロイチン硫酸溶液に組込み、生成する溶液をカチオン化ゼラチンおよび架橋剤スペルミンの溶液と磁気攪拌下にて混合し、安定なナノ粒子形態への系開発を完成させた。得られたナノ粒子の平均直径は268+/−14nm(多分散指数0.18)であり、その表面電荷(ゼータ電位)は+34+/−1mVである。遺伝子材料と開発したナノ粒子の会合は、アガロースゲル電気泳動法によって測定した。図2−Aから分かるように、遊離siRNAコントロールとは異なり、ナノ粒子の調製物に組込まれたsiRNAに相当するバンドはゲル中を移動せず、これはナノ粒子と効果的に会合していることを示している。
【0164】
例21:干渉RNAと会合している、かつカチオン性ポリマーを加えることによって調節した表面電荷を有するコンドロイチン硫酸から調製したナノ粒子を用いて、ヒト細胞における効果的な生物学的応答を得ることができる
干渉RNAと会合している、かつ上記例に記載のカチオン性ポリマーを加えることによって調節された表面電荷を有するコンドロイチン硫酸から調製したナノ粒子に、生物学的評価を行った。そのために、ヒト角膜HCE(Human Corneal Epithelial)細胞を用い、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対する特異的siRNA(si GAPDH)と会合しているナノ粒子によってこのタンパク質に対応するサイレンシング能を、ネガティブコントロールとしてのGAPGHの発現に対する非特異的siRNA(siEGFP)と会合しているナノ粒子を用いて測定した。細胞を、実験の24時間前にCostar(商標)96穴プレート(Corning,米国)に7,000個/ウェルの細胞密度で、15%ウシ胎児血清(FBS)、ストレプトマイシン(0.1mg/ml)、ペニシリン(100U/ml)、上皮増殖因子(EGF)(10ng/ml)、ヒトインスリン(5μg/ml)(Invitrogen,スペイン)、0.5% DMSO(Sigma,スペイン)、およびコレラ菌(Vivrio Cholerae)のコレラ毒素(0.1μg/ml)(Gentaurus,米国)を補足したDMEM/F12+グルタマックス培養培地200μlに播種した。細胞を、この方法で5%COの加湿雰囲気下37℃に保持した。次いで、細胞を、1xHBSS100μl中でsiRNAと会合しているナノ粒子の懸濁液と共に3時間インキュベーションし、siRNA濃度を(104および140ngの用量に対応して)75nMおよび150nMに到達させた。発現したGAPDHの量を、48時間後にPerkin Elmer Luminescence Spectrometer LS50B(Perkin Elmer,米国)蛍光計で動的蛍光法によって、およびこの目的のために特に作成された市販キット(KDalertTM GAPDH Assay Kit, Ambion,米国)を用いて定量した。siRNAと会合しているナノ粒子によって提供されたサイレンシング値を前記定量から測定し、そのために、特異的siRNA(siGAPDH)で処理した細胞およびネガティブコントロールとしての非特異的siRNA(siEGFP)で処理した細胞によって発現されるタンパク質の量を関係づけた。用いた数学的表現は、下記の通りである:
GAPDH発現のサイレンシング率(%)=[100−(siGAPDHと会合しているナノ粒子のδ蛍光/siEGFPと会合しているナノ粒子のδ蛍光)]*100
【0165】
得られたサイレンシング値は、図10に示されており、55%のタンパク質発現の平均サイレンシングを観察することができる。ネガティブコントロール(非特異的siRNA(siEGFP)で処理した細胞)の値と比較して見出された差により、干渉RNAと会合しているコンドロイチン硫酸から調製され、カチオン性ポリマーを加えることによって調節された表面電荷を有するナノ粒子を用いて、ヒト細胞において効果的な生物学的応答を得ることができると結論することができる。siRNAと会合して、起こり得る分解工程からそれを保護し、遺伝子材料を細胞に輸送し、および生物活性を保持する細胞の作用の部位においてそれを放出するために開発された系の効果は、そこから導き出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1μm未満のナノ粒子を含んでなり、
(a) 少なくとも1種類のアニオン性ポリマー、
(b) カチオン性架橋剤、および
(c) 必要に応じて、カチオン性ポリマー
を含んでなる生物活性分子を投与するための系であって、
前記ナノ粒子が静電型相互作用によって架橋している、系。
【請求項2】
アニオン性ポリマーが、ヒアルロン酸またはその塩、コロミン酸または誘導体、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン、カラギーナンおよびグルコマンナンまたはそれらの誘導体から選択される、請求項1に記載の系。
【請求項3】
カチオン性架橋剤が、スペルミンおよびスペルミジン、またはそれらの塩から選択されるアミンである、請求項1または2に記載の系。
【請求項4】
カチオン性ポリマーが、カチオン化デキストラン、ポリアミノ酸、および修飾タンパク質から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の系。
【請求項5】
平均粒径が1〜999nm、好ましくは50〜600nm、更に好ましくは100〜400nmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
少なくとも1種類の生物活性分子を更に含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の系。
【請求項7】
生物活性分子が、ナノ粒子の成分の総重量に関して95重量%以下の比率である、請求項6に記載の系。
【請求項8】
生物活性分子が、ペプチド、タンパク質、脂質または親油性化合物、糖化合物、核酸またはヌクレオチド化合物、およびそれらの混合物から選択される、請求項6または7に記載の系。
【請求項9】
生物活性分子が、DNAプラスミド、オリゴヌクレオチド、干渉RNAおよびポリヌクレオチドから選択される、請求項8に記載の系。
【請求項10】
ナノ粒子を生体へ適用した後にそれらの追跡を促進することができる少なくとも1種類の化合物を更に含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の系。
【請求項11】
化合物が、マーカー、追跡剤または染色剤である、請求項10に記載の系。
【請求項12】
生物活性分子の効果を促進しまたは強化することができる化合物を更に含んでなる、請求項6〜11のいずれか一項に記載の系。
【請求項13】
化合物が、アジュバントまたは免疫調節剤である、請求項12に記載の系。
【請求項14】
生物学的成分または生体の受容体に対する親和性を有する成分と相互作用することができる化合物を更に含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の系。
【請求項15】
化合物が、抗体またはアプタマーである、請求項14に記載の系。
【請求項16】
脂質、脂肪または油性型、糖型の安定化化合物、アミノ酸またはタンパク質誘導体、エチレンオキシド誘導体またはモルホリン型化合物を更に含んでなる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の系。
【請求項17】
ナノ粒子が凍結乾燥形態である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の系。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の系を含んでなる、医薬組成物。
【請求項19】
経口経路、口腔経路、舌下経路、局所経路、眼経路、鼻経路、肺経路、耳経路、膣経路、子宮内経路、直腸経路、腸経路または非経口経路を介する投与のための、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の系を含んでなる、化粧用または個人衛生組成物。
【請求項21】
皮膚、軟毛および毛細管系、爪、唇、外部生殖器官、歯、または粘膜に投与するための、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
皮膚軟化剤、防腐剤、芳香物質、ざ瘡防止剤、抗真菌薬、酸化防止剤、脱臭剤、発汗抑制剤、ふけ防止剤、脱色素剤、白化剤、抗脂漏薬、色素、日焼けローション、紫外線吸収剤、または酵素を更に含んでなる、請求項20または21に記載の組成物。
【請求項23】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の系を含んでなる、栄養組成物。
【請求項24】
a) 少なくとも1種類のアニオン性ポリマーの水溶液を調製し、
b) カチオン性架橋剤の水溶液を調製し、必要に応じて、そこにカチオン性ポリマーを添加し、
c) a)およびb)で得た溶液を攪拌混合して、ナノ粒子を自発的に形成する
ことを含んでなる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の系の、調製方法。
【請求項25】
カチオン性ポリマーを、既に形成したナノ粒子に添加する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
生物活性分子、および/またはナノ粒子を生体に適用した後にナノ粒子の追跡を促進することができる化合物、および/または生物活性分子の効果を促進しまたは強化することができる化合物、および/または生物学的成分または生体の受容体に対する親和性を有する成分と相互作用することができる化合物、および/または安定化化合物を、それがアニオン性であるときには溶液a)に、またはそれがカチオン性であるときには溶液b)に添加することを更に含んでなる、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
段階c)の後にナノ粒子に凍結乾燥工程を施す追加段階を含んでなる、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
凍結乾燥したナノ粒子を再生する追加段階を含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
医薬品の調製における、請求項1〜17のいずれか一項に記載の系の、使用。
【請求項30】
医薬品が、遺伝子療法、遺伝子サイレンシングまたは遺伝的干渉、または遺伝子ワクチン接種を目的とする、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
自己細胞、同種細胞、異種細胞または細胞培養物などの生細胞の生物学的特徴を操作しまたは改変するための、次いで前記細胞または細胞群を用いて治療効果、診断効果、予防効果を得るための、または再生目的のための、または前記細胞による化合物の産生を変更するための、または細胞個体群の拡張または活性化を生じるための、またはそれらを微粒子またはマイクロカプセル、マトリックスおよび骨格に効果的に適合させかつ会合させるための、請求項1〜17のいずれか一項に記載の系の使用。
【請求項32】
官能特性を変更し、修正しまたは導入するための、または医薬品におけるまたは化粧用または個人衛生生成物における安定性を向上させるための、請求項1〜17のいずれか一項に記載の系の使用。
【請求項33】
水、食物または栄養補助食品の特徴を改良し、変更しまたは回復させるための、並びに新規な官能特性を変更し、修正しまたは導入するためのまたはそれらの安定性を向上させるための、および食物または栄養物の生体への投与を促進しまたは可能にするための、請求項1〜17のいずれか一項に記載の系の使用。
【請求項34】
衛生または審美的目的のための、外部寄生生物を中和しまたは除去するための、付香のための、体表面の外観を変更するためのおよび/または体臭を修正するためのおよび/またはそれを良好な状態に保護しまたは保持するための、請求項20〜22のいずれか一項に記載の化粧用または個人衛生組成物の使用。
【請求項35】
診断目的のための、1〜17のいずれか一項に記載の系の使用。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−506900(P2012−506900A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533777(P2011−533777)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070461
【国際公開番号】WO2010/049562
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(506026140)ウニベルシダーデ デ サンティアゴ デ コンポステラ (6)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DE SANTIAGO DE COMPOSTELA
【Fターム(参考)】