説明

アニオン界面活性剤組成物

【課題】起泡性と泡消え性の両方に優れた硫酸エステル塩を高濃度で含有し、且つ流動性と外観に優れたアニオン界面活性剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)下記一般式(a1)で表される硫酸エステル塩60〜80質量%、(b)下記一般式(b1)で表される化合物を0.1〜3質量%〔ただし、一般式(b1)中、n1が2である化合物の含有量及びn1が3である化合物の含有量は、それぞれ0〜2.5質量%から選択される。〕、及び(c)水を含有するアニオン界面活性剤組成物。
RO−(PO)n−SO3M (a1)
(式中、Rは炭素数8〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、POはプロピレンオキシ基、nは平均付加モル数で0<n≦1の数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
ZO−(PO)n1−SO3M (b1)
(式中、Zは水素原子又はSO3M、POはプロピレンオキシ基、n1は1〜4の整数、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸エステル塩を含有するアニオン界面活性剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高級アルコール硫酸エステル塩は、食器用洗剤、シャンプー、衣料用洗剤等の主活性剤として広く利用されている。高級アルコール硫酸エステル塩は、通常、水を含有するペースト状又は液状組成物として製造されるが、その有効成分濃度は、製造装置の効率、製品輸送のコストなどの観点から、取り扱い性、流動性などを考慮しつつできるだけ高濃度に設定するのが望ましい。
【0003】
一般に、高級アルコール硫酸エステル塩は、高級アルコールを三酸化硫黄又はクロルスルホン酸等を用いて硫酸化し、これを中和することによって得られるが、中和工程後に得られる水溶液又はスラリー中の界面活性剤の濃度が35質量%程度を超えると、溶液の粘度が急激に上昇するために取扱い上高濃度品の利用は困難であった。高級アルコール硫酸エステル塩の水溶液又はスラリーの粘度は、濃度を上げていくに従って増加するが、およそ70質量%の濃度のところで突然粘度が多少減少する領域が現れることがある。これは界面活性剤が溶液又はスラリー中でラメラ層を形成するためである。しかし、ラメラ層を形成していても作業可能な程度まで流動性を発現させるためには50℃を超える高温が必要であり、またラメラ層形成可能な高級アルコール硫酸エステル塩の濃度範囲が非常に狭いため、界面活性剤溶液の輸送や攪拌操作や作業の安定性等を考慮すると、更なる低粘度化及び濃度範囲の拡大が望まれる。
【0004】
高級アルコール硫酸エステル塩を含有する組成物の低粘度化や高濃度化のための手段が、従来、種々提案されている。特許文献1〜3には、アルキレンエーテルグリコールの硫酸エステル塩と、例えば60質量%を超える濃度の高級アルコール硫酸エステル塩とを含有する界面活性剤組成物が開示されている。
【0005】
一方、特許文献4には、プロピレンオキシ基の平均付加モル数nが0<n<1であるアルキル硫酸エステル塩誘導体を含有する界面活性剤組成物が、低温安定性や硬水中での安定性に優れ、高い起泡力、泡持続性を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−117769号公報
【特許文献2】特開昭56−65098号公報
【特許文献3】特開昭56−36596号公報
【特許文献4】特開2009−35714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、高級アルコール硫酸エステル塩は、食器用洗剤、シャンプー、衣料用洗剤等の洗浄剤に応用されているが、洗浄時には豊かな泡立ちがあり起泡性に優れる一方で、すすぎの際には速やかに泡が消失する泡消え性にも優れていることが望ましい場合がある。しかし、起泡性と泡消え性は相反する効果であり、両立は困難である。また、硫酸エステル塩を高濃度で含有する組成物も、外観に透明性があり且つ均一であることが望ましい。
【0008】
本発明の課題は、起泡性と泡消え性の両方に優れた硫酸エステル塩を高濃度で含有し、且つ流動性と外観に優れたアニオン界面活性剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(a)下記一般式(a1)で表される硫酸エステル塩〔以下、(a)成分という〕を60〜80質量%、(b)下記一般式(b1)で表される化合物〔以下、(b)成分という〕を0.1〜3質量%〔ただし、一般式(b1)中、n1が2である化合物の含有量及びn1が3である化合物の含有量は、それぞれ0〜2.5質量%から選択される。〕、及び(c)水〔以下、(c)成分という〕を含有するアニオン界面活性剤組成物に関する。
RO−(PO)n−SO3M (a1)
(式中、Rは炭素数8〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、nは平均付加モル数を示し、0<n≦1の数であり、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
ZO−(PO)n1−SO3M (b1)
(式中、Zは水素原子又はSO3Mを示し、POはプロピレンオキシ基を示し、n1は1〜4の整数であり、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、起泡性と泡消え性の両方に優れた硫酸エステル塩を高濃度で含有し、且つ流動性と外観に優れたアニオン界面活性剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例で行った泡消え性の評価方法を示す概略図
【図2】実施例の泡消え性の評価で用いたイオン交換水の導入手段(ジョウロ)の穿孔状態を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<(a)成分>
本発明の界面活性剤組成物は、下記一般式(a1)で表される硫酸エステル塩を含有する。
RO−(PO)n−SO3M (a1)
(式中、Rは炭素数8〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、nは平均付加モル数を示し、0<n≦1の数であり、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
【0013】
ここで一般式(a1)中のRは、泡消え性、高濃度での流動性の観点、また、原料の汎用性、取り扱い性の理由から、炭素数8〜12である。また、Rは、直鎖が好ましく、直鎖のアルキル基がより好ましい。
【0014】
また、一般式(a1)中のnのプロピレンオキサイドの平均付加モル数は起泡性、泡消え性の観点から、0を超えて1以下であり、好ましくは0.2以上で0.8以下である。
【0015】
また、一般式(a1)中のMは、塩を形成する陽イオン基であり、アルカリ金属又はNH4である。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム、リチウムが挙げられるが、これらの中でナトリウム、カリウムがより好ましく、ナトリウムが特に好ましい。
【0016】
<(b)成分>
本発明の(b)成分は、下記一般式(b1)で表される化合物である。
ZO−(PO)n1−SO3M (b1)
(式中、Zは水素原子又はSO3Mを示し、POはプロピレンオキシ基を示し、n1は1〜4の整数であり、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
【0017】
(b)成分は、プロピレングリコール硫酸エステルの塩及び/又はポリプロピレングリコール硫酸エステルの塩であり、(a)成分を含有する組成物の流動化剤として作用する。
【0018】
一般式(b1)において、Zは水素原子又はSO3Mを示す。Mはアルカリ金属またはNH4を示す。Mのアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどを例示することができるが、ナトリウム及びカリウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。
【0019】
一般式(b1)中、n1は、1〜4の整数であり、流動性能の点から、1〜3の整数が好ましく、2又は3がより好ましい。よって、(b)成分として、一般式(b1)のn1が2の化合物及び/又はn1が3の化合物を含むことが好ましい。
【0020】
(b)成分は、プロピレングリコールモノ硫酸エステル塩、プロピレングリコールジ硫酸エステル塩、ジプロピレングリコールモノ硫酸エステル塩、ジプロピレングリコールジ硫酸エステル塩、トリプロピレングリコールモノ硫酸エステル塩、トリプロピレングリコールジ硫酸エステル塩、テトラプロピレングリコールモノ硫酸エステル塩、及びテトラプロピレングリコールジ硫酸エステル塩、から選ばれる1種以上が好ましい。(b)成分としては、一般式(b1)中のZがSO3Mである、ジ硫酸エステル塩型の化合物が好ましい。よって、(b)成分は、プロピレングリコールジ硫酸エステル塩、ジプロピレングリコールジ硫酸エステル塩、トリプロピレングリコールジ硫酸エステル塩、及びテトラプロピレングリコールジ硫酸エステル塩、から選ばれる1種以上が好ましい。
【0021】
なお、本発明では、下記一般式(b2)で表される化合物〔以下、(b’)成分という〕を含有することもできる。
ZO−(PO)n2−SO3M (b2)
(式中、Zは水素原子又はSO3Mを示し、POはプロピレンオキシ基を示し、n2は5以上の整数であり、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
【0022】
(b’)成分を用いる場合、(b)成分と(b’)成分との総量中に占める、(b)成分の割合が80質量%以上であることが好ましい。
【0023】
本発明では、ポリプロピレングリコールの硫酸エステル化物のように、一般式(b1)中のn1や一般式(b2)中のn2に相当する付加モル数の異なる化合物の混合物を、(b)成分を含む混合物あるいは(b)成分と(b’)成分とを含む混合物として用いることができる。かかる混合物は、本発明のアニオン界面活性剤組成物中の(b)成分に相当する化合物の含有量が0.1〜3質量%〔ただし、一般式(b1)中、n1が2である化合物の含有量及びn1が3である化合物の含有量は、それぞれ0〜2.5質量%から選択される。〕となるように用いる。また、このような混合物は、(b)成分である、一般式(b1)中のn1が1、2、3、4である化合物の割合が80質量%以上であることが好ましい。比較例で用いた重量平均分子量400のポリプロピレングリコール(PPG400)や重量平均分子量700のポリプロピレングリコール(PPG700)では、得られる硫酸化物中の(b)成分含有量が低いものとなるため、組成物中の(b)成分含有量を高めるには、使用量を多くする。
【0024】
<(c)成分>
本発明のアニオン界面活性剤組成物は、(c)成分として水を含有する。
【0025】
<アニオン界面活性剤組成物>
本発明の組成物は、高級アルコール硫酸エステル塩含有組成物である。本発明は(a)成分を高濃度で含有する組成物に関するものであり、組成物中の(a)成分の含有量は60〜80質量%、好ましくは60〜75質量%である。また、本発明のアニオン界面活性剤組成物は、(b)成分を0.1〜3質量%、好ましくは0.1〜2.7質量%、より好ましくは0.4〜2.5質量%含有する。この範囲で(b)成分を含有することにより、高濃度の(a)成分を含有する組成物でありながら、50℃以下という比較的低温においても優れた流動性が得られ、また透明性が高く分離も少ない良好な外観が得られる。また、一般式(b1)中、n1が2である化合物及び/又はn1が3である化合物を含有する場合、これらの組成物中の含有量は、透明性があり且つ均一な外観を得る観点から、一般式(b1)中、n1が2である化合物の含有量及びn1が3である化合物の含有量は、それぞれ0〜2.5質量%、好ましくは0〜2.0質量%から選択される。すなわち、本発明では、組成物中の(b)成分の含有量が0.1〜3質量%であり、一般式(b1)中のn1が2である化合物の含有量が2.5質量%以下、好ましくは0〜2.5質量%、より好ましくは0〜2.0質量%であるか、又は一般式(b1)中のn1が3である化合物の含有量が2.5質量%以下、好ましくは0〜2.5質量%、より好ましくは0〜2.0質量%である。(c)成分は組成物の残部となる量で用いることができるが、組成物中、15〜39.9質量%、更に20〜38質量%の含有量とすることができる。
【0026】
本発明のアニオン界面活性剤組成物において、(a)成分と(b)成分の質量比は、(a)成分/(b)成分=20/1〜800/1、更に22/1〜750/1、より更に35/1〜86/1である。
【0027】
本発明のアニオン界面活性剤組成物は、容器からの取り出しなど、取り扱い性の点で、粘度が7.5Pa・s以下、更に1〜7.5Pa・s、より更に3〜7.5Pa・sであることが好ましい。この粘度は、株式会社トキメック製デジタル粘度計(DVL−B II型)にて、組成物の温度40℃、No.4ローターで30r/minの条件で測定されたものである。
【0028】
なお、本発明において、アニオン界面活性剤組成物についての「透明性」とは、気泡を除いた状態での目視観察により光を透過すると判断できるものをいう。
【0029】
本発明のアニオン界面活性剤組成物は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を混合することで調製できるが、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を含む混合物が得られるような製造方法により調製することができる。例えば、以下に示す方法に従えば、効率よく所望のアニオン界面活性剤組成物を製造することができる。すなわち、式(a1’):
RO−(PO)n−H (a1’)
(式中、R、PO及びnは前記と同じである。)
で表される化合物(オキシプロピレンアルキル又はアルケニルエーテル、AP)の1種以上と、式(b1’):
HO(PO)n1−H (b1’)
(式中、PO及びn1は前記と同じである。)
で表される化合物(ポリプロピレングリコール、PPG)の1種以上との混合物(AP/PPG混合物)を硫酸化し、次いで塩基性アルカリ金属化合物又はアンモニア水で中和処理することにより製造される。
【0030】
AP/PPG混合物の調製方法に特に制限はなく、目的の混合物が得られる方法であれば、いかなる方法も用いることができる。APとPPGの混合割合は、最終的に得られる組成物中の(a)成分と(b)成分との含有割合が上記した範囲になるように、適宜選定される。また、APを得るためのアルコールとプロピレンオキサイド付加反応の際、アルコールと触媒とを含む反応系の水分量を所定量に調整してからプロピレンオキサイドを付加反応させることで、AP/PPG混合物を得ることができる。
【0031】
AP/PPG混合物を硫酸化するのに用いる硫酸化剤としては三酸化硫黄ガス、クロロスルホン酸などが挙げられるが、得られるアニオン界面活性剤組成物中の塩化物量をできるだけ少なくするために、三酸化硫黄ガスを用いることが好ましい。硫酸化の方法に特に制限はなく、常法にしたがって行うことができる。例えば、薄膜式連続反応装置を用いて、空気や窒素などの不活性ガスで希釈した、好ましくは濃度1〜30容量%、より好ましくは1〜20容量%の三酸化硫黄ガスを、AP/PPG混合物に混合しAPとPPGの硫酸化を行う。三酸化硫黄の濃度が1〜30容量%の範囲であればガス容積が大きすぎることなく、また反応が過剰になるのを抑制することができる。
【0032】
三酸化硫黄の使用量は、通常、化学量論量×(0.95〜1.05)の範囲である。該三酸化硫黄の使用量が上記範囲であれば、起泡性を有しない未反応APの量が少なく、かつ副生物である有臭成分(例えば低級アルデヒド、低級ケトン、環状エーテルなど)の生成量も少ない。好ましい量は、化学量論量×(0.98〜1.02)の範囲である。(b)成分として、一般式(b1)中のZがSO3MであるPPGジ硫酸エステルが主体として得られるような使用量がより好ましい。
【0033】
反応装置に特に制限はないが、例えば槽型反応装置や薄膜式反応装置などを用いることができる。薄膜式反応装置としては、例えば流下薄膜式反応装置、上昇薄膜型反応装置及び管型気液混合相流反応装置などを用いることができる。製造効率の観点からは、薄膜式反応装置による連続式を適用することが好ましい。この薄膜式反応装置の中でも、反応効率及び着色などの観点から、流下薄膜式反応装置が好ましい。薄膜式反応装置を用いた場合の反応時間は、10〜300秒間程度である。
【0034】
硫酸化温度は、好ましくは15〜70℃、より好ましくは40〜60℃である。15℃以上であれば流動性低下による局部的な反応過剰を抑制することができ、また70℃以下にあれば生成物の分解を抑制することができる。
【0035】
上記のようにして得られた硫酸化物を含む混合物は、気/液分離を施し、次工程において中和処理される。中和処理は、例えば、塩基性アルカリ金属化合物の水溶液、好ましくは20〜50質量%水溶液、又はアンモニア水、好ましくは10〜50質量%のアンモニア水を用いて行う。前記塩基性アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどが例示され、水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムが好ましい。
【0036】
中和温度は、好ましくは20〜80℃、より好ましくは20〜60℃である。中和方式としては、例えば回分式中和、連続式中和などがあり、特に外部冷却装置を備えた連続循環中和方式が、中和温度を一定温度に保持し得る点からも好適に採用することができる。また、このようにして連続中和処理したのち、必要に応じ、回分操作又は連続操作で、さらにpHを微調整することもできる。上記のようにして得られた硫酸化物を含む混合物は、減圧条件下で気泡を取り除く。
【0037】
本発明のアニオン界面活性剤組成物は、各種洗浄剤、例えば、繊維製品用洗浄剤や硬質表面用洗浄剤の製造原料として好適に使用できる。
【実施例】
【0038】
実施例1〜2、比較例1〜8
(1)アニオン界面活性剤組成物の調製
炭素数12のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール2098)6695g、およびKOH20.1gを攪拌装置、温度制御装置、自動導入装置を備えたオートクレーブに仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。脱水後窒素置換を行い、120℃まで昇温した後、プロピレンオキサイドを1247g仕込んだ。120℃にて付加反応・熟成を行った後、80℃まで冷却し、4.0kPaで未反応のプロピレンオキサイドを除去した。未反応プロピレンオキサイド除去後、32.3gの90%乳酸をオートクレーブ内に加え、80℃で30分間攪拌した後、抜き出しを行い、平均プロピレンオキサイド付加モル数が0.6モルであるアルコキシレートを得た。表1中、「PO付加条件」はこの方法でのプロピレンオキサイド付加反応の条件であり、「脱水工程」は前記の脱水の有無、「水量」は前記脱水後の反応系中の水量(質量%)である。
【0039】
得られたアルコキシレートを、SO3ガスを用いて薄膜式硫酸化反応器にて硫酸化した。得られた硫酸化物に、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔(a)成分〕を含有する高濃度の組成物を得た。
【0040】
また同じくSO3ガスを用いて薄膜式硫酸化反応器にて、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(重量平均分子量400)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの硫酸化を行った。その際、硫酸化の対象化合物(原料)に対して、SO3が2モル倍(原料の水酸基価より求めた−OH基の数に対して当量のSO3)以上となるようにSO3ガスを加えて硫酸化を行った。よって、本例で得られる硫酸化物は、ジエステル型の化合物を主体とするものである。得られた硫酸化物に、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、各ポリオキシアルキレン硫酸エステル塩〔(b)成分及び比較の化合物〕を得た。表1中、「POA種類」は、ここで用いたポリオキシアルキレンの種類である(表2でも同様)。
【0041】
上記で得られたポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔(a)成分〕と各ポリオキシアルキレン硫酸エステル塩〔(b)成分又は比較の化合物〕とを混合して、表1に示す組成のアニオン界面活性剤組成物を得た。なお、表中には、(b)成分の比較化合物も便宜的に(b)成分の欄に示した。
【0042】
(2)評価
(2−1)粘度
アニオン界面活性剤組成物を、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔(a)成分〕が65質量%になるようイオン交換水を加えて調製した後、遠心分離機にて泡を除去した。得られたアニオン界面活性剤組成物の水溶液を用いて株式会社トキメック製デジタル粘度計(DVL−B II型)にて粘度の測定を行った。尚、測定条件は40℃、No.4ローターで30r/minとし、単位はPa・sとした。この評価では、粘度が7.5Pa・s以下であれば流動性が良好でハンドリングが容易な物性であると判断した。
【0043】
(2−2)初期泡量
アニオン界面活性剤組成物を、(a)成分及び(b)成分〔又は(b)成分の比較化合物〕の合計濃度が34mMになる様にイオン交換水で希釈し、特開2008−260852号公報の図1記載のポンプフォーマー容器に充填した。ここで、泡吐出機構には、メッシュサイズ200/インチのメッシュが1枚装着されていた。次いで、容器上部のポンプヘッド部を3プッシュ連続して押し切ることにより、3gの泡を500mlのメスシリンダー(材質:ガラス、IWAKI製)に作製した。なお、押し切るスピードは、1プッシュあたり1秒のスピードで行なった。メスシリンダーの目盛りからその容量を記録し、初期泡量とした。この評価では、泡量が20ml以上であれば十分な泡立ちであると判断した。
【0044】
(2−3)泡消え性
上記の初期泡量の測定で発生した泡に対して、メスシリンダーの上部に設置したイオン交換水の導入手段(手製のジョウロ)を通してイオン交換水を泡に100ml添加し、添加後30秒間静置する操作を2回繰り返し(100mlのイオン交換水を添加するのは計3回で、合計添加量は300mlとなる)た後の泡量を測定した。初期泡量とイオン交換水300ml(100mlを3回)添加後の泡量とから、次式で示す泡量変化率を求め、泡消え性を評価した。この評価では、泡量変化率が40%以上であれば希釈(すすぎ)による速やかな泡消え性が達成できるものと判断した。
泡量変化率(%)=[1−(イオン交換水300ml添加後の泡量/初期の泡量)]×100
【0045】
イオン交換水をメスシリンダーに添加するときの様子を図1に示す。図1中、1はメスシリンダー、2は泡、3はイオン交換水の導入手段(手製のジョウロ)、4は該導入手段の開口部であり、図2はイオン交換水の導入手段3の開口部4の穿孔状態を示す概略図である。イオン交換水の導入手段である手製のジョウロの作製方法は、以下の通りである。先ず、250mlのポリプロピレン製広口びん(アズワン製:アイボーイ広口びん)の底部から高さ約3分の1の本体部分迄を切除した。次いで、直径4cmの薄い円状のポリエチレン製板に対して、図2に示すように、9mm間隔で13個の直径2mmの穴を開けたポリエチレン製多孔板を用意した。最後に、切除した広口びん上部のフタ開口部(直径4cm)に対して、上記のポリエチレン製多孔板を開口部4として固定してイオン交換水の導入手段3(手製のジョウロ)を作製した。このようにして作製したイオン交換水の導入手段3(手製のジョウロ)を、図1のように、倒置状態に保ちながら、メスシリンダー1の開口部にはめ込んだ。イオン交換水は広口びんの切除側から投入した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1中の成分は以下のものである(表2でも同様)。また、未反応分等の微量成分は、表1では省略した(表2でも同様)。なお、実施例の組成物は、何れも、気泡を除いた状態での目視観察により光を透過し、透明性があるものと判断された。
・DPG:ジプロピレングリコール
・TPG:トリプロピレングリコール
・PPG400:ポリプロピレングリコール(重量平均分子量400)、硫酸化物は、一般式(b2)中、n2が1〜4の整数である化合物〔(b)成分〕の含有量が7質量%
・DEG:ジエチレングリコール
・TEG:トリエチレングリコール
【0048】
実施例3〜4、比較例9〜11
炭素数8のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール0898)333g、炭素数10のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール1098)333g、炭素数12のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール2098)5997g、およびKOH20.6gを攪拌装置、温度制御装置、自動導入装置を備えたオートクレーブに仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。脱水後窒素置換を行い、120℃まで昇温した後、プロピレンオキサイドを1278g仕込んだ。120℃にて付加反応・熟成を行った後、80℃まで冷却し、4.0kPaで未反応のプロピレンオキサイドを除去した。未反応プロピレンオキサイド除去後、38.1gの90%乳酸をオートクレーブ内に加え、80℃で30分間攪拌した後、抜き出しを行い、平均プロピレンオキサイド付加モル数が0.6モルであるアルコキシレートを得た。
【0049】
得られたアルコキシレートを、SO3ガスを用いて薄膜式硫酸化反応器にて硫酸化した。得られた硫酸化物に、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔(a)成分〕を含有する高濃度の組成物を得た。
【0050】
また同じくSO3ガスを用いて薄膜式硫酸化反応器にて、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(重量平均分子量400および700)の硫酸化を行った。その際、硫酸化の対象化合物(原料)に対して、SO3が2モル倍(原料の水酸基価より求めた−OH基の数に対して当量のSO3)以上となるようにSO3ガスを加えて硫酸化を行った。よって、本例で得られる硫酸化物は、ジエステル型を主体とするものである。得られた硫酸化物に、水酸化ナトリウム水溶液を加えて、各ポリオキシアルキレングリコール硫酸エステル塩〔(b)成分及び比較の化合物〕を得た。
【0051】
上記で得られたポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔(a)成分〕と各ポリオキシアルキレングリコール硫酸エステル塩〔(b)成分又は比較の化合物〕とを混合して、表2に示す組成のアニオン界面活性剤組成物を得た。得られたアニオン界面活性剤組成物について、実施例1等と同様の方法で粘度、初期泡量、泡消え性を評価した。結果を表2に示す。なお、初期泡量については、本例では、泡量が18ml以上であれば十分な泡立ちであると判断した。
【0052】
実施例5〜7
炭素数8のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール0898)332g、炭素数10のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール1098)332g、炭素数12のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール2098)5980g、および48%KOH42.8gを攪拌装置、温度制御装置、自動導入装置を備えたオートクレーブに仕込み、窒素置換を行い、120℃まで昇温した後、プロピレンオキサイドを1275g仕込んだ。120℃にて付加反応・熟成を行った後、80℃まで冷却し、4.0kPaで未反応のプロピレンオキサイドを除去した。未反応プロピレンオキサイド除去後、38.1gの90%乳酸をオートクレーブ内に加え、80℃で30分間攪拌した後、抜き出しを行い、平均プロピレンオキサイド付加モル数が0.6モルであるアルコキシレートとポリプロピレングリコール〔後述のPPG(1)〕とを含有する混合物を得た(実施例5、7)。
【0053】
また炭素数8のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール0898)330g、炭素数10のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール1098)330g、炭素数12のアルコール(花王(株)、製品名:カルコール2098)5950g、および48%KOH63.8gを用いて同様の操作にて、プロピレンオキサイドを1268g仕込んだ。その後も同様の操作にて56.1gの90%乳酸を用いて、平均プロピレンオキサイド付加モル数が0.6モルであるアルコキシレートとポリプロピレングリコール〔後述のPPG(2)〕とを含有する混合物を得た(実施例6)。
【0054】
得られたアルコキシレートとポリプロピレングリコールの混合物を、SO3ガスを用いて薄膜式硫酸化反応器にて硫酸化した。原料の水酸基価より求めた−OH基の数に対して当量のSO3以上となるようにSO3ガスを加えて硫酸化を行った。よって、本例で得られる硫酸化物は、ジエステル型の化合物を主体とするものである。得られた硫酸化物に、水酸化ナトリウム水溶液(実施例5、6)またはアンモニア水(実施例7)を加えて、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔(a)成分〕及びポリオキシプロピレングリコール硫酸エステル塩〔(b)成分〕を表2の組成で含有するアニオン界面活性剤組成物を得た。得られたアニオン界面活性剤組成物について、実施例1等と同様の方法で粘度、初期泡量、泡消え性を評価した。結果を表2に示す。なお、初期泡量については、本例では、泡量が18ml以上であれば十分な泡立ちであると判断した。
【0055】
【表2】

【0056】
表2中の成分は以下のものである。なお、実施例の組成物は、何れも、気泡を除いた状態での目視観察により光を透過し、透明性があるものと判断された。
・PPG(1):プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコールの混合物であり、該混合物から得たポリオキシプロピレングリコール硫酸エステル塩を(b)成分として組成物中に1.3質量%配合した。その内訳は、プロピレングリコール硫酸エステル塩0.3質量%、ジプロピレングリコール硫酸エステル塩0.4質量%、トリプロピレングリコール硫酸エステル塩0.4質量%、テトラプロピレングリコール硫酸エステル塩0.2質量%である。
・PPG(2):プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコールの混合物であり、該混合物から得たポリオキシプロピレングリコール硫酸エステル塩を(b)成分として組成物中に2.7質量%配合した。その内訳は、プロピレングリコール硫酸エステル塩0.6質量%、ジプロピレングリコール硫酸エステル塩0.9質量%、トリプロピレングリコール硫酸エステル塩0.8質量%、テトラプロピレングリコール硫酸エステル塩0.4質量%である。
・PPG700:ポリプロピレングリコール(重量平均分子量700)、硫酸化物は、一般式(b2)中、n2が1〜4の整数である化合物〔(b)成分〕の含有量は1質量%未満

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(a1)で表される硫酸エステル塩〔以下、(a)成分という〕を60〜80質量%、(b)下記一般式(b1)で表される化合物〔以下、(b)成分という〕を0.1〜3質量%〔ただし、一般式(b1)中、n1が2である化合物の含有量及びn1が3である化合物の含有量は、それぞれ0〜2.5質量%から選択される。〕、及び(c)水〔以下、(c)成分という〕を含有するアニオン界面活性剤組成物。
RO−(PO)n−SO3M (a1)
(式中、Rは炭素数8〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、nは平均付加モル数を示し、0<n≦1の数であり、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
ZO−(PO)n1−SO3M (b1)
(式中、Zは水素原子又はSO3Mを示し、POはプロピレンオキシ基を示し、n1は1〜4の整数であり、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
【請求項2】
(b)成分として、一般式(b1)中のn1が2の化合物及び/又はn1が3の化合物を含む、請求項1記載のアニオン界面活性剤組成物。
【請求項3】
下記一般式(b2)で表される化合物〔以下、(b’)成分という〕を含有し、(b)成分と(b’)成分との総量中に占める(b)成分の割合が80質量%以上である、請求項1又は2記載のアニオン界面活性剤組成物。
ZO−(PO)n2−SO3M (b2)
(式中、Zは水素原子又はSO3Mを示し、POはプロピレンオキシ基を示し、n2は5以上の整数であり、Mはアルカリ金属又はNH4を示す。)
【請求項4】
(a)成分と(b)成分の質量比が、(a)成分/(b)成分=35/1〜86/1である、請求項1〜3の何れか1項記載のアニオン界面活性剤組成物。
【請求項5】
前記一般式(b1)中、n1が2である化合物の含有量及びn1が3である化合物の含有量は、それぞれ0〜2.0質量%から選択される、請求項1〜4の何れか1項記載のアニオン界面活性剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−82854(P2013−82854A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225367(P2011−225367)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】