説明

アニスノートを有する着臭剤

本発明は、芳香成分としての、式(I)のα−メチルケイ皮アルコールのパラ置換誘導体の、立体異性体の任意の1つまたはそれらの混合物の形態での使用に関し、式中、Rは、水素原子、C1〜C4−アルキルまたはアルケニル基、またはホルミルまたはアセチル基を表す; R1は、水素原子またはメチル基を表す; R2は、メチル基、エチル基またはメトキシ基を表す; 且つR3はCH2基または炭素−炭素の二重結合を表す。本発明は、前記化合物の香料産業における使用並びに前記化合物を含有する組成物または物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は香料の分野に関する。より特定には、それは、下記の式(I)によるα−メチルケイ皮アルコールのパラ置換誘導体の芳香成分としての使用に関する。
【0002】
本発明は、前記化合物の香料産業における使用並びに前記化合物を含有する組成物または物品に関する。
【0003】
先行技術
本発明の化合物のいくつかは、先行技術から公知である。例えば、(E)−1−メトキシ−4−(3−メトキシ−2−メチル−1−プロペニル)−ベンゼン (例えば、US5491233号参照)、2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オールおよびその立体配置異性体 (例えば、JACS,1931,53,1605参照)、(E)−2−[(4−メトキシフェニル)メチレン]−1−ブタノール (例えば、EP113106号参照)、3−(4−メトキシフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オールおよびその立体配置異性体 (例えば、JACS,2007,129,1996参照)が、全て、化学的中間体としてのみ報告されている。
【0004】
しかしながら、発明の化合物を報告している先行技術文献のいずれも、式(I)の化合物のいかなる官能特性も、または前記化合物の香料の分野におけるいかなる使用も、言及または示唆していない。
【0005】
最も近い化学構造を有する公知の芳香成分は、α−メチルケイ皮アルコールである (Arctander book’s n°1950)。しかしながら、この化合物は、全く異なる香気の特性を有し、且つ、式(I)の化合物のいかなる官能特性も、または香料の分野における前記化合物のいかなる使用も、示唆していない。
【0006】
発明の説明
我々は今、驚くべきことに、式
【化1】

[式中、
Rは、水素原子、C1〜C4−アルキルまたはアルケニル基またはホルミルまたはアセチル基を表す;
1は、水素原子またはメチル基を表す;
2は、メチル基、エチル基またはメトキシ基を表す; および
3は、CH2基または炭素−炭素の二重結合を表す]
の化合物を、その立体異性体の任意の1つまたはその混合物の形態において、芳香成分として、例えば、アニスタイプの香気のノートを付与するために、且つ本発明の特定の実施態様においてはアニスおよびフローラルタイプの香気のノートを付与するために、使用できることを発見した。
【0007】
本発明の特定の実施態様によれば、前記化合物(I)は、式
【化2】

[式中、
Rは、水素原子、C1〜C4−アルキルまたはアルケニル基、またはホルミルまたはアセチル基を表す;
1は、水素原子またはメチル基を表す; 且つ
2は、メチル基、エチル基またはメトキシ基を表す]
の化合物の、立体異性体の任意の1つまたはそれらの混合物の形態である。
【0008】
明確化のために、「R3は・・・炭素−炭素の二重結合を表す」という表現、またはそれに類似する表現は、当業者によって理解される通常の意味、即ち、前記R3によって接続される炭素原子間の全ての結合(実線および点線)が、炭素−炭素の二重結合であることを意味する。
【0009】
本発明の上記の実施態様の任意の1つによれば、Rは、水素原子、アリル基、メチル基、またはホルミルまたはアセチル基を表す。特にRは、水素原子またはアリル基を表す。
【0010】
本発明の上記の実施態様の任意の1つによれば、R1は水素原子を表す。
【0011】
本発明の上記の実施態様の任意の1つによれば、R2はメチル基またはメトキシ基を表す。特に、R2はメチル基を表す。
【0012】
本発明の上記の実施態様の任意の1つによれば、前記化合物(I)はC11〜C14−化合物である。
【0013】
本発明の化合物の特別な例として、限定されない例として、(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オールを挙げることができ、それは、素晴らしく且つ自然なフローラル−パウダリーノート並びにアニスノートによって特徴付けられる香気を有する。全体で、リンデンの葉または花を想起させる。このフローラルノートは、アニスの嗅覚系統の残りのもの(例えばアニスアルデヒド、2−メチル−3−(4−メトキシフェニル)プロパノールまたは3−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−2−メチルプロパノール)から、アルデヒドの香気がより少なく、より自然な香気を有することによって、且つ、たまらなくリンデンを想起させることによって、区別される。
【0014】
(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オールの香気は、さらに、香料において公知のその最も近い構造類似物の1つ、即ち、α−メチルケイ皮アルコール(Arctander n°1950)から、明らかに区別される。実際に、本発明の化合物の香気を先行技術の1つと比較する場合、本発明の化合物は、明らかなフローラル−アニスノートによって(先行技術の化合物にはない)、および、先行技術の化合物に特徴的なケイ皮/蘇合香のノートがないことによって、区別される。
【0015】
他の例として、1−[(1E)−3−(アリルオキシ)−2−メチル−1−プロペニル]−4−メチルベンゼンを挙げることができ、それは、アニス−パスティスノート並びにドイツスズラン/ヒヤシンスのフローラルノートおよびグリーンタイプを有する香気を有する。
【0016】
本発明の化合物の他の特定の、しかし限定されない例として、以下の表1内のものを挙げることができる:
【表1】

【0017】
本発明の特定の実施態様によれば、式(I)の化合物は、(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オール、(1−メチル−2−p−トリルシクロプロピル)メタノールまたは1−[(1E)−3−(アリルオキシ)−2−メチル−1−プロペニル]−4−メチルベンゼンである。
【0018】
従って、本発明の化合物は、同様の香気を有する先行技術の化合物と比較して非常に異なる構造を有するか、または、他の先行技術の化合物と類似した構造を有するが後者の香気とは全く異なる香気を有するかのいずれかである。実際に、本発明の化合物は、先行技術の構造類似物のようなケイ皮の香気のノートを付与しない。
【0019】
前記の違いは、本発明の化合物と類似の先行技術の化合物とが、それぞれ、異なる用途のために適していること、即ち、異なる官能性の印象を付与することをもたらす。
【0020】
上述の通り、本発明は式(I)の化合物の芳香成分としての使用に関する。言い換えれば、芳香組成物または着香物品の香気特性を付加し、強化し、改善または修正する方法であって、少なくとも、前記の組成物または物品に効果的な量の式(I)の化合物を添加することを含む方法に関する。「式(I)の化合物の使用」とは、ここで、化合物(I)を含有する任意の組成物の使用でもあり、且つ、香料産業において有効成分として有利に用いることができると理解されるべきである。
【0021】
実際に、芳香成分として有利に用いることができる前記の組成物も、本発明の対象である。
【0022】
従って、本発明の他の対象は、以下を含む芳香組成物である:
i) 芳香成分として、上記で定義された少なくとも1つの本発明の化合物;
ii) 香料担体および香料ベースからなる群から選択される少なくとも1つの成分; および
iii) 随意に、少なくとも1つの香料補助剤。
【0023】
「香料担体」とは、ここで、香料の観点から実質的に中性である、即ち、芳香成分の官能特性を著しく変更しない材料を意味する。前記の担体は液体または固体であってよい。
【0024】
液体担体としては、限定されない例として、乳化系、即ち、溶剤および界面活性剤系、または香料において一般的に使用される溶剤を挙げることができる。香料において一般に使用される溶剤の性質および種類の詳細な説明は、網羅できない。しかしながら、限定されない例として、溶剤、例えばジプロピレングリコール、ジエチルフタレート、イソプロピルミリステート、安息香酸ベンジル、2−(2−エトキシエトキシ)−1−エタノールまたはクエン酸エチルを挙げることができ、それらが最も一般的に使用されている。
【0025】
固体担体として、限定されない例として、吸収ゴムまたはポリマー、またはさらにカプセル化された材料を挙げることができる。かかる材料の例は、壁形成材料および可塑化材料、例えば単糖類、二糖類または三糖類、天然または化工デンプン、親水コロイド、セルロース誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、タンパク質またはペクチン、またはさらに参考文献、例えばH.Scherz, Hydrokolloids:Stabilisatoren,Dickungs− und Geliermittel in Lebensmittel,Band 2 der Schriftenreihe Lebensmittelchemie,Lebensmittelqualitaet,Behr’s Verlag GmbH & Co.,ハンブルグ,1996内に挙げられている材料を含んでよい。カプセル化は当業者によく知られた方法であり、且つ、例えば噴霧乾燥、凝塊形成またはさらに押出しなどの技術を使用して実施できるか、または、コアセルベーションおよび複合コアセルベーション技術を含む、被覆カプセル化からなる技術を使用して実施できる。
【0026】
「香料ベース」とは、ここで、少なくとも1つの芳香相互成分を含む組成物を意味する。
【0027】
前記の芳香相互成分は、式(I)のものではない。さらに、「芳香相互成分」とは、ここで、芳香調製物または組成物中で快い効果を付与するために使用される化合物を意味する。言い換えれば、芳香性のものであるとしてみなされるかかる相互成分は、当業者によって、良い方向にまたは心地よく、組成物の香気を付与または修正でき、且つ、単に香気を有するだけではないとして認識されなければならない。
【0028】
ベース中に存在する芳香相互成分の性質および種類は、ここでより詳細な説明を請け負わず、それはいずれにせよ網羅できず、当業者はその一般的な知識に基づき、且つ、意図される使用または用途および所望の官能効果によって、それらを選択できる。一般的な用語においては、これらの芳香相互成分は、アルコール、ラクトン、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アセテート、ニトリル、テルペノイド、窒素含有または硫黄含有複素環式化合物および精油にまでわたる化学的分類に属し、且つ、前記芳香相互成分は天然または合成由来であってよい。これらの相互成分の多くはいずれにせよ、参考文献、例えばS.Arctanderによる本、Perfume and Flavor Chemicals、1969、Montclair、ニュージャージー、米国、またはそのより最近の版、または同様の性質の他の文献、並びに香料分野における豊富な特許文献に列記されている。前記の相互成分は、様々な種類の芳香化合物を制御して放出することが知られている化合物であってもよいとも理解される。
【0029】
香料担体と香料ベースとの両方を含む組成物のために、先に特定されたものの他の適した香料担体は、エタノール、水/エタノール混合物、リモネンまたは他のテルペン、イソパラフィン、例えば商標Isopar(登録商標) (製造元: Exxon Chemical)の下で公知のもの、またはグリコールエーテルおよびグリコールエーテルエステル、例えば商標Dowanol(登録商標) (製造元: Dow Chemical Company)の下で公知のものであってもよい。
【0030】
「香料補助剤」とは、ここで、追加的に加えられる利益、例えば色、特定の耐光性、化学的安定性などを付与できる成分を意味する。芳香ベース中で一般に使用される補助剤の性質および種類の詳細な説明は網羅できないが、しかし、前記の成分は当業者にはよく知られていることに言及しなければならない。
【0031】
式(I)の少なくとも1つの化合物および少なくとも1つの香料担体からなる本発明の組成物は、本発明の特定の実施態様、並びに少なくとも1つの式(I)の化合物、少なくとも1つの香料担体、少なくとも1つの香料ベース、および随意に少なくとも1つの香料補助剤を含む芳香組成物を表す。
【0032】
上述の組成物において、式(I)の1つより多くの化合物を有する可能性が重要であることに言及することが有用であり、なぜなら、それは調香師が本発明の様々な化合物の香気の調性を有する調和物、香料を調製することを可能にし、従って彼らの仕事のための新規のツールを創出するからである。
【0033】
明確性のために、「芳香組成物」との表現によって、香料において使用されるために適した形態である組成物であることが理解される。従って、例えば適切な精製をしないで、化学合成から直接的に得られる任意の組成物または任意の混合物であって、その中に本発明の化合物が出発、中間または最終生成物として含まれることがあるものは、本発明による芳香成分としてみなされ得ない。同様に、本発明の化合物、並びに香料中で使用されないかまたは香料との適合性がない他の成分、例えばケロシンを含む組成物も、本発明からは除外される。
【0034】
さらには、本発明の化合物を現代の香料の全ての分野、即ち、ファイン香料または機能性香料において有利に使用して、前記の化合物(I)が添加される消費者製品の香気を良い方向に付与するかまたは修正することもできる。従って、
i) 芳香成分として、上記で定義された式(I)の少なくとも1つの化合物; および
ii) 香料消費者ベース;
を含む芳香性消費者製品も、本発明の対象である。
【0035】
本発明の化合物を、そのままで、または本発明の芳香組成物の一部として添加できる。
【0036】
明確化のために、「芳香性消費者製品」とは、少なくとも芳香効果を送達することが予想される消費者製品を意味し、言い換えれば、それは着香された消費者製品であることに言及しなければならない。明確化のために、「香料消費者ベース」とは、ここで、機能性配合物、並びに、随意の追加的な利益剤を意味し、芳香成分と適合性があり且つそれが適用される表面(例えば肌、髪、テキスタイルまたは家の表面)に快い香気を送達することが予想される消費者製品に相応する。言い換えれば、本発明による芳香性消費者製品は、機能性配合物並びに随意に追加的な利益剤(所望の消費者製品、例えば洗剤または空気清浄剤に相応)、および嗅覚的に有効な量の少なくとも1つの本発明の化合物を含む。
【0037】
香料消費者ベースの成分の性質および種類は、ここではより詳細な説明を請け負わず、いずれにせよそれは網羅できず、当業者はその一般的な知識に基づき、且つ前記の製品の性質および所望の効果によってそれらを選択できる。
【0038】
適した香料消費者ベースの限定されない例は、香水、例えばファイン香水、コロンまたはアフターシェーブローション; 布地用ケア製品、例えば液体または固体洗剤、布地用柔軟剤、布地用リフレッシャー、アイロン水、紙、または漂白剤; ボディケア製品、例えばヘアケア製品 (例えばシャンプー、染色用調製物またはヘアスプレー)、化粧品 (例えばバニシングクリームまたは消臭剤または制汗剤)、またはスキンケア製品 (例えば着香石鹸、シャワーまたはバスフォーム、オイルまたはジェル、または衛生製品); 空気ケア製品、例えばエアフレッシュナーまたは「すぐ使用できる」粉末化エアフレッシュナー; またはホームケア製品、例えばワイプ、食器用洗剤または硬質表面用洗剤であってよい。
【0039】
上述の消費者製品ベースのいくつかは、本発明の化合物にとって攻撃的な媒体を表すことがあり、従って、後者を時期尚早な分解から、例えばカプセル化によって、またはそれを、本発明の成分を適した外部刺激、例えば酵素、光、熱またはpHの変化で放出するために適した他の化学物質と化学的に結合させることによって、保護しなければならないことがある。
【0040】
様々な上述の物品または組成物中に混合できる、本発明による化合物の割合は、広範の値に及ぶ。それらの値は着香されるべき物品の性質、および所望の官能効果、並びに、本発明による化合物が当該技術分野で通常使用される芳香相互成分、溶剤または添加剤と混合される場合の、所定のベース中での相互成分の性質に依存する。
【0041】
例えば、芳香組成物の場合、典型的な濃度は、混合される組成物の質量に対して、0.1質量%〜30質量%のオーダーであるか、またはさらには本発明の化合物のオーダーである。それらの化合物が着香物品中に混合される場合、それより低い濃度、例えば0.01質量%〜10質量%のオーダーで使用でき、該パーセンテージは物品の質量に対する。
【0042】
本発明の化合物を、下記の実施例に記載される通りの方法に従って製造できる。
【0043】
実施例
本発明を、ここで以下の実施例を用いてさらに詳細に説明し、その際、省略形は当該技術分野における通常の意味を有し、温度は摂氏度(℃)で示される; NMRスペクトルのデータは(特段述べられない限り)CDCl3において、360または400MHz機を用いて1Hおよび13Cについて記録され、ケミカルシフトδは標準としてのTMSに対するppmで示され、結合定数JはHzで表される。
【0044】
実施例1
式(I)の化合物の合成
(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オール
(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペナール (320g、2mol、Tet.Let., 28,1987,1263内に記載)を、窒素下で乾燥THF(1リットル)中で溶解させた。該溶液を氷−水浴中で冷却し、且つ、固体の水素化アルミニウムリチウム(25g、0.63mol)を、小分けで、内部の温度が20℃未満に保たれるような速度で添加した。冷却浴を除去し、且つ反応物を3時間、攪拌した。その後、それを氷−水浴中で再冷却した。水(25ml)をゆっくりと反応物に添加し、次に5%の水性NaOH(75ml)、およびさらなる水(25ml)を添加した。冷却浴を除去し、且つ、該反応物を、白色のスラリーが得られるまで(30分)、攪拌した。固体の無水硫酸ナトリウム(100g)を該反応物に添加した。さらに15分間の攪拌後、固体をろ過により除去し、且つ、ジエチルエーテルを用いて徹底的に濯いだ。その後、ろ液を真空下で濃縮した。生成物を、20cmのウィドマーカラムを通じた蒸留によって精製した。304gの所望のアルコールが得られた(1.78mol、収率89%)。
【0045】
B.p.=52℃/0.001mbar

【0046】
1−メチル−4−{(1E)−2−メチル−3−[(2−メチル−2−プロペニル)オキシ]−1−プロペニル}ベンゼン
(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペノール(81.1g、0.5mol)を、乾燥THF(800ml)中に窒素下で溶解させた。溶液を氷−水浴中で冷却し、且つ、固体のカリウムtert−ブトキシド(71.6g、0.625mol)を小分けにして添加した。反応物を室温まで温め、且つ、テトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド(9.4g、0.025mol)を添加した。15分後、該反応物を氷−水浴中で冷却し、且つ、塩化メタリル(101g、1mol)を用いて、30分の時間にわたって滴下して処理した。該反応物を室温まで温め、そして終夜、攪拌した。該反応物を、塩化アンモニウムの飽和水溶液(250ml)を用いて処理した。亜硫酸水素ナトリウム(30g)を添加し、且つ、該混合物を勢いよく振り動かした。相が分離された。その有機相を、ブライン(500ml)を用いて洗浄した。各々の水相を、酢酸エチル(500ml)を用いて抽出した。混合された抽出物を硫酸ナトリウム上で乾燥させた。所望の生成物を、短工程蒸留によって精製した。110gの所望の化合物が得られた(0.5mol、100%)。
【0047】
B.p.=120℃/0.001mbar

【0048】
1−[(1E)−3−(アリルオキシ)−2−メチル−1−プロペニル]−4−メチルベンゼン
固体のカリウムtert−ブチレート(47g、0.411mol)を、E−3−(4−メチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オール(68.05g、0.420mol)の乾燥THF(800ml)中の溶液に、窒素下、室温で、小分けにして添加した(30℃に発熱)。室温でさらに1時間後、該反応物を5℃に冷却し、且つ、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(7.9g、0.021mol)を滴下し、次に臭化アリル(102.6g、0.840mol)を滴下した。該反応物を終夜、室温まで温め、且つ、水(800ml)に注いだ。該反応物を酢酸エチルを用いて2回抽出した。各有機相を水およびブラインを用いて洗浄した。混合された抽出物を固体の無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。固形物をろ過によって除去し、ジエチルエーテルを用いて濯ぎ、且つ、溶剤を真空下で除去した。その生成物を、真空下で20cmのウィドマーカラムを通じた蒸留によって精製した。79gの所望の生成物が得られた(収率=93%)。
【0049】
B.P.=82℃/0.001mbar

【0050】
3−アリール−2−アルキルプロペナールの調製のための一般的な手順
アルデヒド(280mmol)を、アリールアルデヒド(330mmol)と、メタノール(100ml)と、20%の水性のKOH(8g、28.6mmol)との混合物に室温で滴下した。その後、該混合物を40℃で1時間加熱した。該混合物を室温に冷却し、且つ、2.0gの酢酸を添加した。回転蒸発器にて、メタノールを除去した。残留物を、エチルエーテルを用いて希釈し、且つ、水を用いて洗浄した。有機相を乾燥させ(MgSO4)、ろ過し且つ濃縮した。分留(Vigreuxカラム、50mm)により、(E)−3−アリール−2−アルキルプロペナールが、パールイエローの液体として産出された。
【0051】
(E)−3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペナール

【0052】
(E)−2−エチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペナール

【0053】
(E)−2−エチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オール
LiAlH4 (1.15g、30mmol)を、−78℃の冷浴中で冷却された(E)−2−エチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペナール (5.0g、28.7mmol)のジエチルエーテル(100ml)溶液に添加した。該混合物を、冷浴から除去し、そして室温で2時間、攪拌した。該混合物を0℃の浴中に設置した後、1.5mlの水、4.5mlの3Mの水性NaOH、およびさらなる1.5mlの水を添加した。白色の沈殿物が発現し、且つ、該混合物を30分間、室温で攪拌した。ろ過の後、該溶液を乾燥させ(NaSO4)、ろ過し且つ濃縮した。残留物のクーゲルロール蒸留(110〜120℃、0.02mbar)により、無色のオイルとしての生成物が産出された。
【0054】

【0055】
(E)−2−メチル−3−(4メチルフェニル)−2−プロペニルホルメート
無水酢酸(6.3g、62mmol)とギ酸(2.84g、62mmol)との混合物を、40℃で30分間加熱し、その後、室温に冷却する。(E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オール (5g、30.9mmol)を添加し、且つ、該溶液を1日間、攪拌した。その後、それをジエチルエーテル(200ml)を用いて希釈し、そして水を用いて洗浄した(2回、100ml)。有機相を乾燥させ(MgSO4)、ろ過し且つ濃縮した。該生成物を、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc=98:2)によって精製し、次にクーゲルロール蒸留(85℃、0.02mbar)により、1.6g(8.4mmol、27%収率)の生成物が無色のオイルとして産出された。
【0056】

【0057】
(E)−3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペニルアセテート
(E)−3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オール (4.6g、26.1mmol、(E)−2−エチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オールについて記載された通り、(E)−3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペナールのLiAlH4還元によって得られる)を、無水酢酸(4.0g、39mmol)と、ピリジン(3.5g、44mmol)と、DMAP (0.46g、3.7mmol)との、50mlのジクロロメタン中の混合物に添加した。該混合物を、20時間、室温で攪拌した。ジクロロメタンを回転蒸発器にて除去し、且つ、残留物をEtOAc中に溶解させた。この溶液を水性の10%HCl、水性の10%NaOH、および飽和水性NaClを用いて洗浄した。その有機相を乾燥させ(MgSO4)、ろ過し且つ濃縮した。該生成物を、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc=80:20)によって精製し、次にクーゲルロール蒸留(140〜160℃、0.05mbar)により3.9g(17.9mmol、69%収率)の生成物が無色のオイルとして産出された。
【0058】

【0059】
(1−メチル−2−p−トリルシクロプロピル)メタノール
n−ブチルリチウム(ヘキサン中、1.6モル; 33.2ml; 53.1mmol)を、乾燥ジエチルエーテル(120ml)中の(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オール (8.61g、53.1mmol)に、0℃にて窒素下で滴下した。10分後、ジブロモメタン (46.6g、265mmol)を滴下し、次に、15分後、t−ブチルマグネシウムクロリド(ジエチルエーテル中、2モル; 133ml; 265mmol)を滴下した。その後、該反応物を室温までゆっくりと温め、そして終夜、攪拌した。その後、それを氷−水浴中に入れて冷却し、且つ、塩化アンモニウムの飽和水溶液(300ml)を添加した(滴下初期に、発熱)。室温に温めた後、ジエチルエーテル(200ml)を添加し、且つ、該混合物を勢いよく振り動かした。その有機相を水(600ml)およびブライン(300ml)を用いて洗浄した。各々の水相を、ジエチルエーテル(300ml)を用いて再抽出した。混合された抽出物を固体の無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。該生成物を、カラムクロマトグラフィーによってシリカゲル上で精製し(ヘプタン/酢酸エチル 5:1ないし2:1)、次にバルブトゥバルブ蒸留によって精製した(120℃/1mbar)。2.21gの純度90%の材料が、無色の液体(11.3mmol; 21%)として得られた。
【0060】

【0061】
実施例2
芳香組成物の調製
リンデンタイプの芳香組成物を、以下の成分を混ぜ合わせることによって調製した:
成分 質量部
酢酸オクチル 350
酢酸ドデシル 1500
ヒドロアトロパアルコール 1450
10%* ノナジエノール 20
アカシア精油 800
Hedione(登録商標)1) 650
イオノンアルファ 20
Iralia(登録商標)2) Total 40
Lilial(登録商標)3) 2500
Lyral(登録商標)4) 1000
10%* Neobutenone(登録商標)5) Alpha 30
メチルオクチンカーボネート
(Methyl octyn carbonate) 40
1%* ノナジエナール 50
2,4−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルバルデヒド6) 50
8500
*ジプロピレングリコール中
1) メチルシス−ジヒドロジャスモネート; 製造元: Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
2) メチルイオノンの異性体混合物; 製造元: Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
3) 3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチルプロパナール; 製造元: Givaudan−Roure SA、ヴェルニエ、スイス
4) 4/3−(4−ヒドロキシ−4−メチルペンチル)−3−シクロヘキセン−1−カルバルデヒド; 製造元: International Flavors & Fragrances、米国
5) 1−(5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン; 製造元: Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
6) 製造元: Firmenich SA、ジュネーブ、スイス。
【0062】
1500質量部の(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オールを上述の組成物に添加することにより、後者に、よりいっそう自然なリンデンの花の内包が付与された。
【0063】
本発明の化合物の代わりに、同量の3−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−2−メチルプロパナール (Arctander n° 2110)が使用された場合、その効果はよりいっそうのアニスおよび水のものであり、即ち、本発明のものとは異なった。
【0064】
本発明の化合物の代わりに、同量のカントキサール(3−(4−メトキシフェニル)−2−メチルプロパナール、International Flavors & Fragrances、米国)が使用された場合、その効果はよりいっそうのミモザおよびアカシアのものであり、即ち、本発明のものとは異なった。
【0065】
本発明の化合物の代わりに、同量のα−メチルケイ皮アルコール(Arctander n° 1950)が使用された場合、その効果は、決定的にフローラルではなくケイ皮のものであり、即ち、本発明のものとは異なった。
【0066】
実施例3
芳香組成物の調製
フローラル−ムスクタイプの女性用芳香組成物を、以下の成分を混ぜ合わせることによって調製した:
成分 質量部
酢酸スチラリル 10
ヘキシルシンナムアルデヒド 300
10%* ノナラクトンガンマ 30
ベルガモット精油 300
10%* 7−メチル−2H,4H−1,5
−ベンゾジオキセピン−3−オン1) 40
ショウズク精油 60
4−シクロヘキシル−2−メチル−2−ブタノール1) 200
シス−2−ペンチル−1−シクロペンタノール1) 100
ジメチルベンジルカルビニルブチレート 10
Hedione(登録商標)2) HC 600
10%* イソブチルキノリン
(Isobutylquinoleine) 20
Jasmal(登録商標)3) 200
10%* ジャスミンラクトン 25
ジャスモン酸メチル 250
10%* 2,6−ジメチル−5−ヘプタナール 20
10%* ノネノール 20
右旋性トランス−1−(2,2,6−トリメチル−1
−シクロヘキシル)−3−ヘキサノール1) 10
オリバナム(Oliban)精油 40
パチュリ精油 10
(Z)−3−ヘキセン−1−オール 5
Romandolide(登録商標)4) 600
ブルガリアローズ精油 50
サリチル酸ベンジル 320
(Z)−3−ヘキセン−1−オールサリチレート 50
(Z)−3−ヘキセン−1−オールチグレート 20
(+)−(1S,2S,3S)−2,6,6−トリメチル
−ビシクロ[3.1.1]ヘプテン−3−スピロ−2’
−シクロヘキセン−4’−オン1) 210
3500
*ジプロピレングリコール中
1) 製造元: Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
2) 高シスメチルシス−ジヒドロジャスモネート; 製造元: Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
3) 1,3−ノナンジイルジアセテートとテトラヒドロ−3−ペンチル−4(2h)−ピラニルアセテートとの混合物; 製造元: International Flavors & Fragrances、米国
4) (1S,1’R)−[1−(3’,3’−ジメチル−1’−シクロヘキシル)エトキシカルボニル]メチルプロパノエート; 製造元: Firmenich SA、ジュネーブ、スイス。
【0067】
900質量部の(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オールを上述の組成物に添加することにより、上記の女性用香水に、よりフローラル、よりパウダリーで、ドイツスズランおよびリンデンを想起させる特性が付与された。
【0068】
本発明の化合物の代わりに、同量の3−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−2−メチルプロパナールまたはカントキサールが使用された場合、その効果はよりいっそうアニスおよびバルサムのものであり、アカシアの香気を想起させ、即ち、本発明のものとは異なった。本発明の化合物の代わりに、同量のα−メチルケイ皮アルコールが使用された場合、その効果は、決定的にフローラルではなくオリエンタルタイプであり、即ち、本発明のものとは異なった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香成分としての、式(I)
【化1】

[式中、
Rは、水素原子、C1〜C4−アルキル基またはアルケニル基、またはホルミル基またはアセチル基を表す;
1は、水素原子またはメチル基を表す;
2は、メチル基、エチル基またはメトキシ基を表す; 且つ
3はCH2基または炭素−炭素の二重結合を表す]
の化合物の、立体異性体の任意の1つまたはそれらの混合物の形態での使用。
【請求項2】
前記化合物(I)が、式
【化2】

[式中、
Rは、水素原子、C1〜C4−アルキル基またはアルケニル基、またはホルミル基またはアセチル基を表す;
1は、水素原子またはメチル基を表す; 且つ
2は、メチル基、エチル基またはメトキシ基を表す]
の化合物の、立体異性体の任意の1つまたはそれらの混合物の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
Rが、水素原子、アリル基、メチル基またはホルミル基またはアセチル基を表すことを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
1が水素原子を表すことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
2がメチル基またはメトキシ基を表すことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記化合物(I)が、C11〜C14−化合物であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記化合物(I)が、(2E)−2−メチル−3−(4−メチルフェニル)−2−プロペン−1−オール、(1−メチル−2−p−トリル−シクロプロピル)メタノールまたは1−[(1E)−3−(アリルオキシ)−2−メチル−1−プロペニル]−4−メチルベンゼンであることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
以下:
i) 請求項1から6までのいずれか1項で定義された式(I)の少なくとも1つの化合物;
ii) 香料担体および香料ベースからなる群から選択される少なくとも1つの成分; および
iii) 場合により少なくとも1つの香料補助剤
を含む組成物の形態での芳香成分。
【請求項9】
以下
i) 請求項1から5までのいずれか1項で定義された式(I)の少なくとも1つの化合物; および
ii) 香料消費者ベース
を含む、芳香性消費者製品。
【請求項10】
香料消費者ベースが、香水、布地用ケア製品、ボディケア製品、空気ケア製品またはホームケア製品であることを特徴とする、請求項9に記載の芳香性消費者製品。
【請求項11】
香料消費者ベースが、ファイン香水、コロン、アフターシェーブローション、液体洗剤または固体洗剤、布地用柔軟剤、布地用リフレッシャー、アイロン水、紙、漂白剤、シャンプー、染色用調製物、ヘアスプレー、バニシングクリーム、消臭剤または制汗剤、着香石鹸、シャワーフォームまたはバスフォーム、オイルまたはジェル、衛生製品、エアフレッシュナー、「すぐ使用できる」粉末化エアフレッシュナー、ワイプ、食器用洗剤または硬質表面用洗剤であることを特徴とする、請求項9に記載の芳香性消費者製品。

【公表番号】特表2013−509492(P2013−509492A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537461(P2012−537461)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054352
【国際公開番号】WO2011/051834
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】