説明

アニリンブラック及び該アニリンブラックを用いた樹脂組成物ならびに水系、溶剤系分散体

【課題】 本発明に係るアニリンブラックは、製品中にクロムや銅などの有害物質を含まないアニリンブラックとして、黒色度に優れるとともに、抵抗値の高いアニリンブラックを提供し、並びに該アニリンブラックによって着色した分散性に優れる黒色樹脂組成物、水系および溶剤系分散体を提供するものである。
【解決手段】
硫黄含有量が0.2wt%〜6.0wt%の範囲であり、且つ一次粒子の平均長軸径が0.05〜0.80μmの範囲であるアニリンブラック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン基由来の硫黄を含有してなる黒色度に優れるアニリンブラックを提供するものである。
【0002】
また、本発明は、前記アニリンブラックによって着色した分散性に優れる樹脂組成物ならびに水系、溶剤系分散体を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
アニリンブラックは、アニリン、トルイジン、フェニレンジアミンなどの芳香族アミンの酸化縮合によって得られる黒色の染料、顔料で、カーボンブラックに無い青みの黒色を呈するものであり、漆黒性を有する特長を生かして、塗料、印刷インキ、絵の具、ポスターカラー、プラスチック、熱転写インキ等、各種用途に使用されている。アニリンブラックの製造に用いられる酸化剤としては、重クロム酸塩を用いる方法が最適とされている。
【0004】
しかしながら、重クロム酸塩に含まれる、クロムイオンは人体に極めて有害な公害物質であり(現在アニリンブラックに含まれるクロムは色素に配位結合し、有害な六価クロムは含まれず安全性が認められてはいるが、)、また、触媒として用いられる銅塩に由来する銅イオンもまた有害物質である。従って、これら有害物質を製造時に使用せず、これら有害物質が混入する恐れの全くないアニリンブラックが求められている。
【0005】
従来、クロムや銅などの有害物質を含まないアニリンブラックとして、アニリンを酸の水溶液とし、過硫酸塩で酸化することを特徴とするアニリンブラックの製造方法(特許文献1)、過酸化水素と、それの分解触媒となりうる金属又は金属塩を用い、発生するOHラジカルを酸化剤としてアニリンを酸化させてなる、アニリンブラックの製造方法(特許文献2、特許文献3)が知られている。
【0006】
また、黒色度が高く粒子径を高度に制御したπ共役系重合体として、水溶性高分子化合物、遷移金属化合物およびプロトン酸の存在下に、酸化剤により酸化重合することにより得られる黒色顔料(特許文献4)が知られている。
【0007】
一方で、導電性ポリマーとして良く知られているポリアニリンは、近年ドープ剤を添加することなく導電性を発現する水可溶性のスルホン化ポリアニリンとその合成法が提案されている。例えば、ポリアニリンを発煙硫酸でスルホン化する方法(引用文献1)、アニリンとアミノベンゼンスルホン酸およびその誘導体の共重合物をスルホン化する方法(特許文献5)などが知られている。
【0008】
さらに、電子写真用非磁性現像剤や液晶用ブラックマトリックスなどの黒色の着色剤は、ほとんどが安価で着色力に優れるカーボンブラックが使用されている。近年、電子写真画像の高画質化や、ブラックマトリックスの高遮光率化が求められており、着色剤の添加量を増やすなどの高濃度化が検討されている。しかしながら、カーボンブラックはバインダー樹脂中での分散が難しく、体積抵抗値も低いために前者の場合は現像剤の帯電性能が阻害(帯電保持能力低下)されるという課題が残る。また、後者の場合は分散液中でカーボンブラックの分散安定性を付与することが難しいため流動性が悪くなり、レジスト薄膜としての体積抵抗値も低くなるという課題が残る。
【0009】
一般に、アニリンブラックはカーボンブラックなどの無機の黒色顔料に比べて体積抵抗値が高いことが知られており、前述の課題を克服するためにアニリンブラックの適用検討が行われている。電子写真用非磁性現像剤の黒色の着色剤としては高温・高湿時においても電荷のリークが少ない、帯電保持性能に優れる現像剤としての適用が検討されている。(特許文献6、特許文献7)
【0010】
また、液晶用ブラックマトリックスの着色剤としては、カーボンブラックに樹脂被覆を施して分散液中での分散安定性や流動性を付与することが知られている。(特許文献8)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−261989号公報
【特許文献2】特開平10−245497号公報
【特許文献3】特開2000−72974号公報
【特許文献4】特開平9−31353号公報
【特許文献5】特開平5−178989号公報
【特許文献6】特開2010−19970号公報
【特許文献7】特開2005−195693号公報
【特許文献8】特開2001−106938号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,1996,vol.118,p2545
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
クロムや銅などの有害物質を含まないアニリンブラックであって、黒色度に優れるとともに、体積固有抵抗値(以下、「抵抗値」とする)が高く、該アニリンブラックによって着色した分散性に優れる樹脂組成物および水系、溶剤系分散体が現在、要求されているところであるが、このような諸特性を有するアニリンブラックはいまだ得られていない。
【0014】
前出文献1記載のアニリンブラックは後出比較例に示す通り硫黄含有量が低く、分散性が低いため黒色度が十分とは言い難いものである。また、抵抗値は10Ω・cmと比較的低抵抗である。
【0015】
前出特許文献2および3記載のアニリンブラックは後出比較例に示す通り硫黄含有量が低く、分散性が低いため黒色度が十分とは言い難いものである。
【0016】
前出特許文献4記載の黒色顔料は後出比較例に示す通り硫黄含有量が高いものの、色相は緑みを有しており分散性が低いため黒色度が十分とは言い難いものである。また、抵抗値は10Ω・cmと比較的低抵抗である。
【0017】
前出引用文献1および前出特許文献5記載のスルホン化ポリアニリンは硫黄含有量が高いものの、色相は緑みを有しており、黒色度が十分とは言い難い。また、ポリアニリン特有の導電性を発現するため高抵抗とは言い難いものである。
【0018】
そこで、本発明は、黒色度に優れるとともに、抵抗値の高いアニリンブラックを提供し、並びに該アニリンブラックによって着色した分散性に優れる黒色樹脂組成物、水系および溶剤系分散体を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0020】
即ち、本発明は、硫黄含有量が0.2wt%〜6.0wt%の範囲であり、且つ一次粒子の平均長軸径が0.05〜0.80μmの範囲であるアニリンブラックである(本発明1)。
【0021】
また、本発明は、一次粒子の軸比(平均長軸径/平均短軸径)が1.0〜1.7の範囲である本発明1記載のアニリンブラックである(本発明2)。
【0022】
また、本発明は、粉体pHが3.0〜8.0の範囲である本発明1又は2に記載のアニリンブラックである(本発明3)。
【0023】
また、本発明は、体積固有抵抗が10Ω・cm以上である本発明1〜3のいずれかに記載のアニリンブラックである(本発明4)。
【0024】
また、本発明は、本発明1〜4のいずれかに記載のアニリンブラックを含んでなる樹脂組成物である(本発明5)。
【0025】
また、本発明は、本発明1〜4のいずれかに記載のアニリンブラックを含んでなる水系分散体である(本発明6)。
【0026】
また、本発明は、本発明1〜4のいずれかに記載のアニリンブラックを含んでなる溶剤系分散体である(本発明7)。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るアニリンブラックは、黒色度に優れるとともに、抵抗値が高いので、黒色顔料として好適である。
【0028】
本発明に係るアニリンブラックは樹脂中又は各種溶媒中の分散性に優れるので、樹脂組成物、水系および溶剤系分散体の着色顔料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0030】
先ず、本発明に係るアニリンブラックについて述べる。
【0031】
本発明に係るアニリンブラックの硫黄含有量は0.2wt%〜6.0wt%の範囲である。硫黄含有量が0.2wt%未満の場合には分散性が低いため、黒色度が劣る場合がある。また、6.0wt%を超える場合には工業的に製造することができない。好ましい硫黄含有量は0.5wt%〜5.0wt%の範囲である。
【0032】
本発明に係るアニリンブラックの一次粒子の平均長軸径は0.05μm〜0.80μmの範囲である。一次粒子の平均長軸径が0.05μm未満の場合には分散性が低いため、黒色度が劣る。また、0.80μmを超える場合には着色力が低いため、黒色度が劣る。より好ましい平均長軸径は0.10〜0.50μmである。
【0033】
本発明に係るアニリンブラックの一次粒子の軸比(平均長軸径/平均短軸径)は1.0〜1.7の範囲であることが好ましい。軸比が1.7を越える場合には、分散性が低いため黒色度が劣る。より好ましい軸比は1.0〜1.5である。
【0034】
本発明に係るアニリンブラックの粉体pHは3.0〜8.0の範囲にあるのが好ましい。より好ましくは粉体pHが3.5〜7.5である。
【0035】
本発明に係るアニリンブラックの抵抗値(体積固有抵抗値)は10Ω・cm以上であることが好ましい。抵抗値が10Ω・cm未満の場合には、樹脂組成物とした際の抵抗値も比較的低抵抗となる。より好ましい抵抗値は10Ω・cm以上、更により好ましくは5×10〜1×1012Ω・cmである。
【0036】
本発明に係るアニリンブラックの色相のうち、黒色度に優れるとは、後述する評価方法によって測定した明度(L値)が10.5以下のことをいう。L値が10.5を越える場合には、黒色度に優れるとは言い難い。より好ましくは10.0以下、更により好ましくは3〜9.5である。
【0037】
次に、本発明に係るアニリンブラックの製造法について述べる。
【0038】
本発明に係るアニリンブラックは、酸により水可溶性にしたアニリン塩の酸性水溶液を作製し、該アニリン塩の酸性水溶液中へ酸化剤の分解触媒となりうる金属または金属塩を添加して混合溶液とし、混合溶液を攪拌しながら、酸化剤を滴下して酸化重合してアニリンブラックを生成させ、次いで、反応溶液をアルカリ剤により中和して、濾過、水洗、乾燥を行った後、粉砕する製造方法において、アニリン塩の酸性水溶液に下記一般式(I)で示されるスルホニル化合物を存在させることによって、硫黄を含有するアニリンブラックを得ることができる。なお、分解触媒となりうる金属または金属塩は予め均一な水溶液にした後、酸化剤と同時に滴下してもよい。
【0039】
Ar−SOH (I)
式中、Arはアリール基(例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、ビフェニル基、等)を表す。アリール基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の置換基で置換されていても良い。
【0040】
酸の水溶液としては、例えば塩酸、硫酸、テトラフルオロホウ酸、過塩素酸、過沃素酸等であり、単独または混合物として使用してもよい。なお、酸の水溶液の濃度は、酸の種類にもよるが、通常、1〜20%、好ましくは、2〜15%程度である。
【0041】
一般式(I)で示されるスルホニル化合物としては、具体的には、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等であり、単独または混合物として使用してもよい。前記スルホン酸化合物の添加量は、酸に対して、1〜50%が好ましい。
【0042】
一般式(I)で示されるスルホニル化合物の添加時期は特に限定されるものではないが、酸化剤を添加するまでに反応溶液に存在させればよく、たとえば、無機酸と同時に添加する方法、アニリンを無機酸で溶解した後に添加する方法などのいずれの方法であってもよい。
【0043】
酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素などがあげられ、単独または混合物として使用してもよい。酸化剤の使用量はアニリン1モルに対して0.1〜10モル、好ましくは0.5〜5モルである。
【0044】
本発明における酸化剤は、反応溶液に対して徐々に添加することが好ましい。時間を掛けて添加することによって、酸化重合速度の制御が可能となるため、粒子径制御の点で好ましい。
【0045】
酸化剤の分解触媒となりうる金属または金属塩として、鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄、塩化プラチナ塩化金、硝酸銀などがあげられ、単独または混合物として使用してもよい。触媒の使用量は、通常、アニリン1モルに対し、0.01〜1モル程度、好ましくは0.02〜0.5モル程度が用いられる。
【0046】
本発明における酸化剤の分解触媒となりうる金属又は金属塩は、反応溶液に対して徐々に添加することが好ましい。時間を掛けて添加することによって、酸化剤の分解速度の制御が可能となるため、軸比制御の点で好ましい。
【0047】
本発明においては、酸化剤を通常10分から10時間、好ましくは20分から5時間を要して添加すればよい。
【0048】
本発明においては、酸化重合過程で、酸化剤の分解触媒と酸化剤を同時に滴下することによって、酸化剤の分解速度をより容易に制御することが可能となるためより好ましい。
【0049】
本発明における反応温度は、特に限定されるものではないが、通常10〜70℃、好ましくは20〜60℃で反応させればよい。
【0050】
本発明においては、酸化剤を添加した後、通常、10分から10時間、好ましくは20分から5時間の間、反応溶液を撹拌することが好ましい。
【0051】
酸化重合して得たスラリーは強酸性になっているためアルカリ剤によりpHを5〜10の範囲に調整される。好ましくはpHを6〜9の範囲で調整される。要すれば20〜95℃で30分〜1時間加熱撹拌してもよい。
【0052】
アルカリ剤としては、無機化合物および有機化合物のいずれでもよい。無機化合物としては水酸化ナトリムや水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属や炭酸ナトリウム等の炭酸塩などがあげられ、有機化合物としては、トリエタノールアミンやトリイソプロパノールアミンなどのトリアルカノールアミンなどがあげられる。
【0053】
アルカリ剤で中和した後、常法によって濾取、水洗し、乾燥すれば目的のアニリンブラックが得られる。
【0054】
次に、本発明に係る樹脂組成物について述べる。
【0055】
本発明に係る樹脂組成物の明度(L値)は、後述する評価方法によって測定した表色指数の明度(L値)が10.5以下であり、公知のアニリンブラックを用いた場合に比べ、黒色度が優れるものである。黒色度を考慮すれば、L値は10.0以下が好ましい。また、分散性の目視観察の結果は、後述する評価方法のうち4〜5の範囲である。
【0056】
次に、本発明に係る樹脂組成物の製造法について述べる。
【0057】
本発明に係る樹脂組成物中におけるアニリンブラックの配合割合は、構成基材100重量部に対し0.01〜200重量部の範囲で使用することができ、樹脂組成物のハンドリングを考慮すれば、好ましくは0.05〜100重量部、更に好ましくは0.1〜50重量部である。
【0058】
本発明に係る樹脂組成物における構成基材としては、アニリンブラックと周知の熱可塑性樹脂とともに、必要により、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種安定剤等の添加剤が配合される。
【0059】
添加剤の量は、アニリンブラックと熱可塑性樹脂との総和に対して50重量%以下であればよい。添加物の含有量が50重量%を越える場合には、成形性が低下する。
【0060】
本発明に係る樹脂組成物は、樹脂原料とアニリンブラックとをあらかじめよく混合し、次に、混練機もしくは押出機を用いて加熱下で強いせん断作用を加えて、アニリンブラックの凝集体を破壊し、ゴム又は樹脂中にアニリンブラックを均一に分散させた後、目的に応じた形状に粉砕したり、成形加工して使用する。
【0061】
次に、本発明に係る水系分散体ならびに溶剤系分散体について述べる。
【0062】
本発明に係る水系分散体の分散粒径は、個数換算分布の累積90%粒径(d90と以下記す)が400nm以下に調整される。好ましくは300nm以下である。また、個数換算分布の累積50%粒径(d50と以下記す)が300nm以下に調整される。好ましくは200nm以下である。
【0063】
本発明に係る水系分散体の粘度は、12.0mPa・s以下に調整される。好ましくは、10.0mPa・s以下である。12mPa・sを越える場合には、黒色度が劣る。下限値は1.0mPa・s程度である。
【0064】
本発明に係る水系分散体の保存安定性評価は、後述する評価方法によって測定した粘度変化率において±10%未満が好ましく、より好ましくは±6%以下、更により好ましくは±5%以下である。
【0065】
溶剤系分散体の粘度は、15.0mPa・s以下に調整される。好ましくは、12.0mPa・s以下である。15.0mPa・sを越える場合には、黒色度が劣る。下限値は2.0mPa・s程度である。
【0066】
本発明に係る溶剤系分散体の分散粒径は、個数換算分布の累積90%粒径(d90と以下記す)が600nm以下に調整される。好ましくは500nm以下である。また、個数換算分布の累積50%粒径(d50と以下記す)が400nm以下に調整される。好ましくは300nm以下である。
【0067】
本発明に係る溶剤系分散体の保存安定性評価は、後述する評価方法によって測定した粘度変化率において±15%未満が好ましく、より好ましくは±12%以下、更により好ましくは±10%以下である。
【0068】
次に、本発明に係る水系分散体および溶剤系分散体の製造方法について述べる。
【0069】
本発明に係る水系分散体におけるアニリンブラックの配合割合は、分散体構成基材100重量部に対し0.1〜200重量部の範囲で使用することができ、分散体のハンドリングを考慮すれば、好ましくは0.1〜100重量部、更に好ましくは0.1〜50重量部である。
【0070】
本発明における分散体構成基材としては、樹脂、溶剤及び必要に応じて体質顔料、乾燥促進剤、界面活性剤、硬化促進剤、助剤等が配合される。
【0071】
樹脂としては、溶剤系分散体として通常使用されるアクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂等を用いることができる。水系分散体としては、通常使用される水溶性アルキッド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ウレタンエマルジョン樹脂を用いることができる。
【0072】
溶剤としては、溶剤系分散体として通常使用されるトルエン、キシレン、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルアルコール、脂肪族炭化水素等を用いることができる。
【0073】
水系分散体としては、水に加えて通常使用されるブチルセロソルブ、ブチルアルコール等を使用することができる。
【0074】
消泡剤としては、ノプコ8034(商品名)、SNデフォーマー477(商品名)、SNデフォーマー5013(商品名)、SNデフォーマー247(商品名)、SNデフォーマー382(商品名)(以上、いずれもサンノプコ株式会社製)、アンチホーム08(商品名)、エマルゲン903(商品名)(以上、いずれも花王株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0075】
<作用>
本発明においては、アニリンブラックの黒色度および分散性と硫黄含有量との間に密接な相関があることを見出した。
【0076】
本発明に係るアニリンブラックが硫黄を含有するのは、酸化重合反応過程でアニリンとスルホニル化合物が共重合反応することによりスルホン基を含有する粒子が生成したことによるものと本発明者は推定している。
【0077】
また、酸化重合反応過程で触媒を酸化剤と同時に滴下することで、酸化剤の分解速度を任意に制御することを可能とし、酸化重合速度が制御されたことでアニリンブラックの一次粒子の平均長軸径の平均短軸径に対する軸比が小さくなることにより、更にアニリンブラックの分散性が向上したため黒色度に優れると本発明者は推定している。
【0078】
本発明に係るアニリンブラックは、黒色度および分散性に優れるとともに、抵抗値が高いため、電子写真トナー用着色剤、ブラックマトリック用着色剤として好適であり、該アニリンブラックを含んでなる樹脂組成物ならびに水系、溶剤系分散体として有用である。
【実施例】
【0079】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0080】
アニリンブラックに含有されている硫黄含有量は、「堀場金属炭素・硫黄分析装置E MIA−2200型」(株式会社堀場製作所製)を用いて硫黄量を測定することにより求めた。
【0081】
一次粒子径の平均長軸径と平均短軸径は、いずれも電子顕微鏡写真に示される粒子350個の粒子径の長軸径と短軸径をそれぞれ測定し、その平均値で示した。
【0082】
軸比は前出の平均長軸径の平均短軸径に対する軸比の平均値として示した。
【0083】
粉体pH値は、試料5gを300mlの三角フラスコには秤取り、煮沸した純水100mlを加え、加熱して煮沸状態を約5分間保持した後、栓をして常温まで放冷し、減量に相当する水を加えて再び栓をして1分間振り混ぜ、5分間静置した後、得られた上澄み液のpHをJIS Z8802−7に従って測定し、得られた値を粉体pH値とした。
【0084】
アニリンブラックの体積固有抵抗値は、まず、粒子粉末0.5gを測り取り、KBr錠剤成形器(株式会社島津製作所)用いて、1.372×10Pa(140Kg/cm)の圧力で加圧成形を行い、円柱状の被測定試料を作製した。
【0085】
次いで、この被測定試料をステンレス電極の間にセットし、電気抵抗測定装置(model 4329A 横河北辰電気株式会社製)で15Vの電圧を印加して抵抗値R(Ω)を測定した。
【0086】
次いで、被測定(円柱状)試料の上面の面積A(cm)と厚みt0(cm)を測定し、下記数1にそれぞれの測定値を挿入して、体積固有抵抗値(Ω・cm)を求めた。
【0087】
<数1>
体積固有抵抗値(Ω・cm)=R×(A/t0)
【0088】
本発明に係るアニリンブラックの分散性は、後述実施例13で作製した分散液をキャストコート紙上にWET膜厚24μmのバーコーターを用いて塗布した塗布片(塗膜厚み:約6μm)を作製し、該塗布片について塗布面の光沢度により調べた。
【0089】
光沢度はグロスメーターUGV−5D(スガ試験機株式会社製)を用いて45°の光沢度を測定して求めた。光沢度の値が高い程分散性が良いことを示す。
【0090】
本発明に係るアニリンブラックの明度(L値)は、後述実施例13で作製した分散液をキャストコート紙上にWET膜厚24μmのバーコーターを用いて塗布した塗布片(塗膜厚み:約6μm)を作製し、該塗布片について、分光測色計X−Rite939(X−Rite製)を用いてJIS Z8729に定めるところに従って表色指数の明度(L値)を測定した値で示した。
【0091】
本発明に係るアニリンブラックの樹脂組成物の明度(L値)については、後述組成からなる樹脂プレートを、分光測色計X−Rite939(X−Rite製)を用いてJIS Z8729に定めるところに従って表色指数の明度(L値)を測定した値で示した。
【0092】
樹脂組成物への分散性は、得られた樹脂組成物表面における未分散の凝集粒子の個数を目視により判定し、5段階で評価した。5が最も分散状態が良いことを示す。
5:未分散物が認められない。
4:1cm当たりに1〜4個認められる。
3:1cm当たりに5〜9個認められる。
2:1cm当たりに10〜49個認められる。
1:1cm当たりに50個以上認められる。
【0093】
水系分散体の分散粒径は、大塚電子製濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000により測定し、個数換算分布の累積50%粒径(d50)、および累積90%粒径(d90)で表示した。
【0094】
水系分散体の保存安定性評価は、初期粘度と、25℃で1週間後の経時粘度をE型粘度計TV−30(東機産業社製)を用いて測定した。この初期粘度から経時粘度への変化率は下記数2で算出し、下記5段階で評価した。
【0095】
<数2>
[粘度変化率]=([経時初期粘度]−[初期粘度])/[初期粘度]×100
【0096】
◎:粘度変化率が±5%未満
○:粘度変化率が±5%以上±10%未満
△:粘度変化率が±10%以上±30%未満
×:粘度変化率が±30%以上±50%未満
××:粘度変化率が50%以上
【0097】
溶剤系分散体の保存安定性評価は、初期粘度と、25℃で1週間後の経時粘度をE型粘度計TV−30(東機産業社製)を用いて測定した。この初期粘度から経時粘度への変化率は下記数3で算出し、下記4段階で評価した。
【0098】
<数3>
[粘度変化率]=([経時初期粘度]−[初期粘度])/[初期粘度]×100
【0099】
◎:粘度変化率が±10%未満
○:粘度変化率が±10%以上±15%未満
△:粘度変化率が±15%以上±30%未満
×:粘度変化率が±30%以上±50%未満
【0100】
<アニリンブラックの製造>
実施例1
35%塩酸33.8g(0.33mol)と水1250mlに、アニリン30g(0.32mol)を入れ、液温60℃で攪拌混合しながら、4ヒドロキシベンゼンスルホン酸15.0g(0.086mol)を添加し均一に溶解させた後、塩化第一鉄4.6g(0.0363mol)を水70mlに溶解したものと、30%過酸化水素78.0g(0.69mol)とを2時間かけて滴下し、その後、液温60℃にて1時間攪拌混合を行い反応終了とする。反応終了後、反応液を濾過、水洗し得られたケーキを1000mlの水を用い再分散させ、10%カセイソーダにてPH6.5に中和し、PHが安定した後、濾過、水洗しペーストを60℃で乾燥してアニリンブラックを得た。(黒色顔料−1)
【0101】
得られたアニリンブラックについて、KBr錠剤法にてFT−IR測定したところ、1070〜1030cm−1付近にピークがあり、スルホン基が存在することが確認された。
【0102】
実施例2〜4
水量、酸の種類および添加量、触媒の種類および添加量と添加方法、酸化剤の種類および添加量と添加方法、反応温度と熟成時間、中和pHを種々変化させた以外は前記実施例1と同様にしてアニリンブラックを得た。
【0103】
このときの製造条件を表1に、得られたアニリンブラックの諸特性を表2に示す。
【0104】
実施例2〜4で得られたアニリンブラックについて、KBr錠剤法にてFT−IR測定したところ、1070〜1030cm−1付近にピークがあり、スルホン基が存在することが確認された。
【0105】
比較例1
71%硫酸15.8g(0.11mol)と35%塩酸31.8g(0.32mol)と水200mlに、アニリン30g(0.32mol)を入れ、攪拌溶解した後、硫酸第二鉄9.6g(0.0240mol)を水90mlに溶解したものを一度に添加する。液温30℃で攪拌混合しながら、30%過酸化水素78.0g(0.69mol)を2時間かけて滴下し、その後液温30℃にて4時間攪拌混合を行い反応終了とする。反応終了後、反応液を濾過、水洗し得られたケーキを1000mlの水を用い再分散させ、10%カセイソーダにてPH9.0に中和し、PHが安定した後濾過、水洗しペーストを60℃で乾燥すると、アニリンブラックを得た。(黒色顔料−5)
【0106】
このときの製造条件を表1に、得られたアニリンブラックの諸特性を表2に示す。
【0107】
比較例2(特開2001−261989号公報の実施例5の追試実験)
アニリン30g(0.32mol)を5.1%硫酸水溶液600ml(0.31mol)に溶解し、これに塩化第二鉄6水和物7.8g(0.0289mol)を一度に加え、40℃で過硫酸アンモニウム144g(0.63mol)を水600mlに溶解した溶液を15分間で滴下した後、70〜75℃に加熱して1時間撹拌した。反応後、不溶物を濾取、水洗し、得られたケーキを900mlの水に再スラリー化し、10%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整した後、90℃で30分間加熱撹拌した。不溶物を濾取、水洗、乾燥して、アニリンブラックを得た。(黒色顔料−6)
【0108】
このときの製造条件を表1に、得られたアニリンブラックの諸特性を表2に示す。
【0109】
比較例3(特開2000−72974号公報の実施例1の追試実験)
62%硫酸18.0g(0.11mol)と35%塩酸31.8g(0.32mol)と水300mlに、アニリン30g(0.32mol)を入れ、攪拌溶解した後、硫酸第一鉄13.2g(0.0869mol)を水60mlに溶解したものを一度に添加する。液温15℃で攪拌混合しながら、30%過酸化水素90.0g(0.79mol)を4時間にて添加し、その後液温15℃にて4時間攪拌混合を行い反応終了とする。 反応終了後、反応液を濾過、水洗し得られたケーキを960mlの水を用い再分散させ、10%カセイソーダにてPH7に中和し、PHが安定した後濾過、水洗しペーストを60℃で乾燥して、アニリンブラックを得た。(黒色顔料−7)
【0110】
このときの製造条件を表1に、得られたアニリンブラックの諸特性を表2に示す。
【0111】
比較例4(特開平9−31353号公報の実施例4の追試実験)
イオン交換水540g、4メチルベンゼンスルホン酸30g(0.170mol)、1%濃度の硫酸第二鉄15g(0.0004mol)、あらかじめ溶解させておいたポリイソプレンスルホン酸ナトリウム(分子量=3万)10%濃度の水溶液350gを反応容器に仕込み、よく攪拌し、ついで35%塩酸33.8g(0.33mol)とアニリン30g(0.32mol)を仕込んだ。反応温度を20℃に保ちながら、5%濃度の過酸化水素水360部(0.53mol)を2時間かけて連続的に添加し、さらに2時間攪拌した後、濾過、水洗しペーストを60℃で乾燥して、黒色顔料を得た。(黒色顔料−8)
【0112】
このときの製造条件を表1に、得られた黒色顔料の諸特性を表2に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
<樹脂組成物の製造>
実施例5
実施例1で得たアニリンブラック1.5gとポリ塩化ビニル樹脂粉末103EP8D(日本ゼオン株式会社製)48.5gとを秤量し、これらを100ccポリビーカーに入れ、スパチュラでよく混合して混合粉末を得た。
【0116】
得られた混合粉末にステアリン酸カルシウムを0.5g加えて混合し、160℃に加熱した熱間ロールのクリアランスを0.2mmに設定し、上記混合粉末を少しずつロールに練り込んで樹脂組成物が一体となるまで混練を続けた後、樹脂組成物をロールから剥離して着色樹脂プレート原料をとして用いた。
【0117】
次に、表面研磨されたステンレス板の間に上記樹脂組成物を挟んで180℃に加熱したホットプレス内に入れ、1トン/cmの圧力で加圧成形して厚さ1mmの着色樹脂プレートを得た。
【0118】
得られた着色樹脂プレートのL*値は7.2で、分散状態は5であった。
【0119】
実施例6〜8、比較例5〜8
アニリンブラックの種類を種々変化させた以外は、前記実施例5と同様にして樹脂組成物を得た。
【0120】
このときに得られた樹脂組成物の諸特性を表3に示す。
【0121】
【表3】

【0122】
<水系分散体の製造>
実施例9
140mlのガラスビンに、実施例1で得たアニリンブラック粉末7.50gを用い、塗料組成を下記割合で配合して1.5mmφガラスビーズ50gとともにペイントシェーカーで60分間混合分散し黒色塗料を作製した。
【0123】
得られた水系分散体の組成は、下記の通りであった。
アニリンブラック 7.50重量部、
アニオン系界面活性剤 1.30重量部、
(ハイテノールNF−08 :第一工業製薬社製)
スチレンーアクリル共重合体 10.00重量部、
(JONCRYL63J :BASF製)
消泡剤 0.20重量部、
(エンバイロジェムAD−01 :日信化学工業社製)
水 31.00重量部。
【0124】
得られた水系分散体の分散粒子径(d50)は123nmで、分散粒子径(d90)は175nmで、粘度は5.6mPa・sであった。保存安定性は◎であった。
【0125】
実施例10〜12、比較例8〜12
アニリンブラックの種類を種々変化させた以外は、前記実施例9と同様にして水系分散体を得た。
【0126】
このときに得られた水系分散体の諸特性を表4に示す。
【0127】
【表4】

【0128】
<溶剤系分散体の製造>
実施例13
140mlのガラスビンに、実施例1で得たアニリンブラック粉末7.50gを用い、溶剤系分散体組成を下記割合で配合して1.5mmφガラスビーズ50gとともにペイントシェーカーで60分間混合分散し溶剤系分散体を作製した。
【0129】
溶剤系分散体は、下記の組成で配合した。
アニリンブラック 7.50重量部、
高分子分散剤 2.00重量部、
(PB822:味の素ファインテクノ製)
スチレンーアクリル共重合体 3.00重量部、
(JONCRYL680 :BASF製)
プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセタート 37.50重量部。
【0130】
得られた溶剤系分散体の分散粒子径(d50)は269nmで、分散粒子径(d90)は344nmで、粘度は7.6mPa・sであった。保存安定性は◎であった。
【0131】
実施例14〜16、比較例13〜16
アニリンブラックの種類を種々変化させた以外は、前記実施例13と同様にして溶剤系分散体を得た。
【0132】
このときに得られた溶剤系分散体の諸特性を表5に示す。
【0133】
比較例13〜16の溶剤系分散体は分散安定性不良のため、散乱強度が安定しないので、分散粒子径を測定することができなかった。
【0134】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明に係るアニリンブラックは、黒色度に優れるとともに、抵抗値が高く分散性に優れるので、樹脂組成物、水系および溶剤系分散体としても好適であり、塗料、インキ、インクジェットインク、トナー、レジスト等を使用する化学、電子機器等の分野において有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有量が0.2wt%〜6.0wt%の範囲であり、且つ一次粒子の平均長軸径が0.05〜0.80μmの範囲であることを特徴とするアニリンブラック。
【請求項2】
一次粒子の軸比(平均長軸径/平均短軸径)が1.0〜1.7の範囲であることを特徴とする請求項1記載のアニリンブラック。
【請求項3】
粉体pHが3.0〜8.0の範囲にある請求項1又は2に記載のアニリンブラック。
【請求項4】
体積固有抵抗が10Ω・cm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のアニリンブラック。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアニリンブラックを含んでなる樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のアニリンブラックを含んでなる水系分散体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のアニリンブラックを含んでなる溶剤系分散体。

【公開番号】特開2012−153745(P2012−153745A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11309(P2011−11309)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】