説明

アニリン系導電性ポリマーとその製造方法

【目的】 本発明は、高い導電性を発現させると共に水および有機溶剤に対する溶解性と塗布性を向上させ、しかも酸廃棄物を大量に発生させるスルホン化操作を省略するアニリン系導電性ポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【構成】 アニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類よりなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物(A)と、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類(B)とを(A):(B)の重量比が8:2〜1:9で共重合させたたことにより得られた分子量が300〜500,000の水溶性および有機溶剤可溶性アニリン系導電性ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、溶剤に可溶なアニリン系導電性ポリマーの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ドープされたポリアニリンは、導電性ポリマーとして良く知られているが、ほとんど全ての溶剤に不溶であり、成形、加工に難点があった。そこで、近年ドープ剤を添加することなく導電性を発現する水可溶性のスルホン化ポリアニリンとその合成法が提案されている。例えば、スルホン化ポリアニリンの合成法としては、アニリンとm−アミノベンゼンスルホン酸を電気化学的に重合してスルホン化ポリアニリンを合成する方法(日本化学会誌,1985,1124、特開平02−166165号公報)、アニリンとo−、m−アミノベンゼンスルホン酸を化学的に重合してスルホン化ポリアニリンを合成する方法(特開平01−301714号公報)、化学的にあるいは電気化学的に重合して得られたエメラルディンタイプの重合体(ポリアニリン)を濃硫酸でスルホン化する方法(特開昭58−210902)、無水硫酸/リン酸トリエチル錯体を用いてスルホン化する方法(特開昭61−197633号公報)、発煙硫酸でスルホン化する方法(J.Am.Chem.Soc.,1991,113,2665〜2671、J.Am.Chem.Soc.,1990,112,2800、WO91−06887)などが知られている。
【0003】
【従来技術の課題】アニリンとm−アミノベンゼンスルホン酸を電気化学的に重合してスルホン化ポリアニリンを合成する方法(日本化学会誌,1985,1124、特開平02−166165号公報)は、生成物が電極上に形成されるため、単離操作が煩雑になること及び大量合成が困難であるという問題がある。特開平01−301714号公報で記載されているアニリンとm−アミノベンゼンスルホン酸を過硫酸アンモニウムで化学的に重合する方法を本発明者らが追試したところ、芳香環5個に約1個のスルホン酸基が導入されるのみであった。また、特開昭61−197633号公報の方法でスルホン化した場合も同公報7頁に記載されているように、スルホン化溶媒に対するポリアニリンの溶解性が充分でなく分散状態で反応させているため、芳香環5個に約1個のスルホン酸基しか導入されない。かくして得られるスルホン酸基導入割合の小さいスルホン化ポリアニリンは、導電性及び溶解性が充分でないという問題がある。また、J.Am.Chem.Soc.,1991,113,2665〜2671、J.Am.Chem.Soc.,1990,112,2800によると、ポリアニリンを発煙硫酸でスルホン化した場合、芳香環2個に約1個のスルホン酸基が導入されると記されてる。しかし、本方法でポリアニリンを充分にスルホン化しようとした場合、発煙硫酸に対するポリアニリンの溶解性が充分でないため、発煙硫酸が大過剰必要とされる。また、発煙硫酸にポリアニリンを添加する際もポリマーが固化し易いという問題がある。従って、ポリマーにドープ剤を添加することなく導電性を発現させ、溶解性を向上させるためには、より多くのスルホン酸基を芳香環に導入する方法を見い出す必要がある。また、塗布による成膜等の成形性を考えた場合、特に親水性、疎水性いずれの基材にも塗布可能とするためには、水及び有機溶剤に対する溶解性のあることが望まれる。ところが、ポリアニリンのスルホン化物は、水に対する溶解性はあるが、有機溶剤に対する溶解性が十分ではない。これら諸々の問題を解決する方法として、本発明者らはアニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類よりなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物(A)と、アミノベンゼンスルホン酸(B)とを共重合させ、更にスルホン化剤によりスルホン化することを特徴とするアニリン系共重合体スルホン化物の製造方法を提案(特願平3−360226)した。しかし、該方法においても濃硫酸中でスルホン化する操作を必要とし、廃酸の処理が大きな問題として残る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高い導電性を発現させると共に水および有機溶剤に対する溶解性と塗布性を向上させ、しかも酸廃棄物を大量に発生させるスルホン化操作を省略するアニリン系導電性ポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、高い導電性と溶解性を有するポリアニリンとして芳香環に対するスルホン酸基の導入割合の大きいスルホン化ポリアニリンとその製造方法を鋭意検討した結果、モノマーとしてアミノベンゼンスルホン酸(前記特願平3−360226で提案)の芳香環上にアルコキシ基を有する化合物、すなわちアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類を用いると特段に反応性が向上しポリマー中のスルホン酸基の導入割合が向上し、従来提案されていた種々のスルホン化操作が省略できることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。本発明の第一は、アニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類から選ばれた少なくとも1種の化合物(A)と、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類(B)とを(A):(B)の重量比が8:2〜1:9で共重合させたことにより得られた水溶性および有機溶剤可溶性アニリン系導電性ポリマーに関する。前記導電性は、表面抵抗値が5×109Ω/□以下、とくに8.0×107Ω/□以下であることが好ましい。本発明の第二は、アニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類から選ばれた少なくとも1種の化合物(A)と、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類(B)とを(A):(B)の重量比が8:2〜1:9で、温度−5〜70℃において溶液中で酸化剤により共重合させることを特徴とする水溶性および有機溶剤可溶性アニリン系導電性ポリマーの製造方法に関する。
【0006】可溶性とは、室温下で、水溶性でありかつ有機溶剤可溶性のことであり、前記水溶性とは、アニリン系導電性ポリマーを0.3Nアンモニウム水溶液に室温下で溶解させたときの溶解性が20mg/ml以上、好ましくは30mg/ml以上であることを意味し、有機溶剤可溶性とは、アニリン系導電性ポリマーを0.3Nアンモニウムアルコール溶液に室温下で溶解させたときの溶解性が5mg/ml以上、好ましくは10mg/ml以上であることを意味する。
【0007】前記N−アルキルアニリンとしては、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、N−nプロピルアニリン、N−isoプロピルアニリン、N−ブチルアニリン等を挙げることができ、フェニレンジアミン類としては、フェニレンジアミン、N−フェニルフェニレンジアミン、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、N−アミノフェニル−N’−フェニルフェニレンジアミン等を挙げることができる。アニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類は、それぞれ単独で用いられるか、混合して用いられる。
【0008】N−アルキルアニリンのアニリン及び/又はフェニレンジアミン類に対して用いられる割合(重量)は、アニリン及び/又はフェニレンジアミン類の合計量100に対してN−アルキルアニリン0〜30が好都合である。N−アルキルアニリンの割合が多すぎる場合は、水に対する溶解性が低下し、また導電性が劣る傾向が認められる。アニリンとフェニレンジアミン類は、それぞれ単独で用いられるか、任意の割合で混合して用いられる。一般的にアニリンのみを用いてアミノアニソールスルホン酸類と共重合させた場合、フェニレンジアミン、N−フェニルフェニレンジアミン等のフェニレンジアミン類を用いた場合に比較して、スルホン基の導入割合が低くなるが、導電性は良い傾向がある。
【0009】アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類としては、もっとも代表的なのがアミノアニソールスルホン酸類であり、アミノアニソールスルホン酸類は、2−アミノアニソール−3−スルホン酸、2−アミノアニソール−4−スルホン酸、2−アミノアニソール−5−スルホン酸、2−アミノアニソール−6−スルホン酸、3−アミノアニソール−2−スルホン酸、3−アミノアニソール−4−スルホン酸、3−アミノアニソール−5−スルホン酸、3−アミノアニソール−6−スルホン酸、4−アミノアニソール−2−スルホン酸、4−アミノアニソール−3−スルホン酸などを挙げることができる。また、アニソールのメトキシ基が、エトキシ基、プロポキシ基などの他のアルコキシ基に置換されたものも用いることができる。しかしながら、2−アミノアニソール−3−スルホン酸、2−アミノアニソール−4−スルホン酸、2−アミノアニソール−6−スルホン酸、3−アミノアニソール−2−スルホン酸、3−アミノアニソール−4−スルホン酸、3−アミノアニソール−5−スルホン酸が特に好ましく用いられる。
【0010】重合に用いるアニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類よりなる(A)グループモノマーとアミノアニソールスルホン酸類で代表されるアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類よりなる(B)グループモノマーとの重量比は、A:B=8:2〜1:9、好ましくはA:B=7:3〜2:8が用いられる。アミノアニソールスルホン酸類で代表されるアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類はそれぞれ単独で用いるか、異性体を任意の割合で混合して用いても良い。ここでアミノアニソールスルホン酸類で代表されるアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類の割合が少ない場合は、アミノアニソールスルホン酸類で代表されるアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類の導入割合が低くなり、溶剤に対する溶解性が低下する傾向があり、多い場合は、アミノアニソールスルホン酸類で代表されるアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類の導入割合が高くなり導電性の低下する傾向がある。
【0011】共重合は、中性ないし酸性溶媒中、酸化剤で酸化重合することにより行うことができる。重合操作は、−5〜70℃の温度範囲で行うのが好ましく、更に好ましくは0〜60℃の範囲が適用される。ここで、−5℃以下では、共重合体の溶剤に対する溶解性が低下する傾向があり、70℃以上では、導電性が低下する傾向がある。なお、従来、ポリアニリン類の重合は酸性溶媒中でしか充分反応が進行しないと考えられていたが、本発明方法によれば、必ずしも酸性の溶媒ではなく、水だけのような中性の溶媒中でも反応が充分進行することが判った。
【0012】反応に使用する溶媒は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが好ましく用いられる。
【0013】また、酸化剤は、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素等が用いられ、モノマー1モルに対して0.1〜5モル、好ましくは0.5〜5モル用いられる。酸は、硫酸、塩酸及び、p−トルエンスルホン酸等又はそれらの混合物が用いられ、酸の濃度は0.1〜3mol/l、好ましくは0.2〜2mol/lの範囲で用いられる。またこの際、触媒として鉄、銅などの遷移金属を添加することも有効である。
【0014】ここで、アニリン及び/又はN−アルキルアニリンとアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類との共重合体は、スルホン酸基の導入割合が芳香環に対して25〜40%であり、一方、フェニレンジアミン類とアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類との共重合体は、スルホン基の導入割合が芳香環に対して25〜50%と高く、溶解性が良い傾向がある。かくして得られた同一芳香環にアルコキシ基とスルホン酸基を有するアニリン系導電性ポリマーの分子量は、300〜500,000である。また、アルコキシ基及びスルホン酸基は全芳香環に対し25〜50%の含有量であり、更にスルホン化操作を施すことなくアンモニア及びアルキルアミン等の塩基を含む水又は有機溶剤もしくはそれらの混合物に溶解することができる。
【0015】
【実施例】以下実施例を挙げて説明する。
実施例1〜10アニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類から選ばれた少なくとも1種の化合物とアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類を溶媒に添加(表1〜2参照)し、酸化剤の溶液を滴下した。滴下終了後、更に所定時間撹拌したのち、反応生成物を濾別洗浄、乾燥し、共重合体の粉末を得た(表3参照)。得られた共重合体の物性は表5に示すとおりである。
比較例1〜2アニリン又はフェニレンジアミン類とアミノベンゼンスルホン酸類を酸性溶媒に添加(表1〜2参照)し、酸化剤の酸性溶液を滴下した。滴下終了後、更に所定時間撹拌したのち、反応生成物を濾別洗浄、乾燥し、共重合体の粉末を得た(表4参照)。得られた共重合体の物性は表6に示すとおりである。
【0016】
【表1】


【0017】
【表2】


〈略号〉PPDA:N−フェニルフェニレンジアミンDPPDA:N,N′−ジフェニルフェニレンジアミン(n,m)AAS:n−アミノアニソール−m−スルホン酸AS:アミノベンゼンスルホン酸
【0018】
【表3】


APS:ペルオキソ二硫酸アンモニウムPTS:p−トルエンスルホン酸
【0019】
【表4】


【0020】
【表5】


【0021】
【表6】


【0022】
【物性値測定法の説明】
(1)成膜後の表面抵抗得られた生成物1gを0.1Nアンモニウム溶液100gに溶解した。ガラス基板上に薄膜(200〜500A)を形成したのち、膜の表面抵抗を測定した。
(2)スルホン化率の測定法スルホン化率は、燃焼フラスコにより試料を分解後、イオンクロマト法により硫黄含有率を測定し求めた。
(3)溶解性水またはメタノールにアンモニアを0.3モル/リットルの濃度で含有させたアルカリ溶液10mlにポリマーを少量づつ加え溶解しなくなったところで濾過し溶解量を求めた。
【0023】
【効果】
(1)本発明は、ドーピングを行う必要性がなく、またスルホン化工程を設ける必要もなく、高導電性を持つポリマーを得ることができる。
(2)本発明の重合系は、必ずしも酸性溶液中で行う必要はなく、中性溶液中でも進行する。
(3)本発明のポリマーは、水溶性であり、かつ有機溶剤にも可溶性であるため、溶液の形で塗布、スプレーディッピング等の作業が容易であり、帯電防止、電子回路、コンデンサー、電池等の種々の用途に利用することができる。
(4)本出願人の先発明にかかる特願平3−360226号の発明で得られたポリマーと類似した性質を示すが、先発明のポリマーがアミノベンゼンスルホン酸単位を構成成分とするのに対し、本発明はこの種のポリマーにおいてはじめて使用されたアミノアニソールスルホン酸で代表されるアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸単位を構成成分とする新規導電性ポリマーを提供することに成功したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類よりなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物(A)と、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類(B)とを(A):(B)の重量比が8:2〜1:9で共重合させたたことにより得られた分子量が300〜500,000の水溶性および有機溶剤可溶性アニリン系導電性ポリマー。
【請求項2】 アルコキシ基およびスルホン酸基の含有量が全芳香族環に対し、25〜50%である請求項1記載の水溶性および有機溶剤可溶性アニリン系導電性ポリマー。
【請求項3】 表面抵抗値が5×109Ω/□以下であり、かつ水に対する溶解性が20mg/ml以上、アルコールに対する溶解性が5mg/ml以上である請求項1記載の水溶性および有機溶剤可溶性アニリン系導電性ポリマー。
【請求項4】 アニリン、N−アルキルアニリン及びフェニレンジアミン類よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物(A)と、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類(B)とを(A):(B)の重量比が8:2〜1:9で温度−5〜70℃において、溶液中で酸化剤により共重合させることを特徴とする水溶性および有機溶剤可溶性アニリン系導電性ポリマーの製造方法。