アフラトキシン検知方法、アフラトキシン検知装置、および、プログラム
【課題】蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるアフラトキシン検知方法、アフラトキシン検知装置、および、プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、測定対象物の蛍光強度を測定して、測定対象物の蛍光指紋情報を取得し、取得した蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する。
【解決手段】本発明は、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、測定対象物の蛍光強度を測定して、測定対象物の蛍光指紋情報を取得し、取得した蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフラトキシン検知方法、アフラトキシン検知装置、および、プログラム
に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野においては、アフラトキシン(Aflatoxin)が世界的に大きな問題となっている。ここで、アフラトキシンとは、穀物やナッツ類や香辛料などの農産物に含まれる、人間や動物に急性毒性と発癌性を誘因するカビ毒であり、現在約70カ国以上で規制されている。アフラトキシンの汚染地域は、熱帯地域が中心であり、汚染の拡散防止のためにも、輸出入時における検査が重要となる。
【0003】
これに対し、従来から、アフラトキシン検出法として、例えば、非特許文献1に示すように、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速液体クロマトグラフ質量分析法(HPLS−MAS)、および、ELISA法などの化学分析的手法が用いられていた。
【0004】
しかし、上述の化学分析的手法では、煩雑な前処理を行う必要があるという問題があった。更に、上述の化学分析的手法では、専用の試薬やキットを必要とし、装置が高価であり、また、装置の操作者に対して専門技能が必要とされるため、現場での迅速かつ容易な判定が困難であるという問題があった。更に、検知対象となるアフラトキシンの量は、非常に低濃度(例えば、ppbオーダーの濃度)であるため、上述の化学分析的手法では、濃縮や精製等の前処理なくしてはアフラトキシンを検知できず、そのため、煩雑な前処理を省略できないという問題があった。
【0005】
そこで、近年、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易に測定対象物を分析する手法の開発が望まれていた。
【0006】
例えば、本出願人による特許文献1に記載の穀粉の判別方法では、測定対象物に対して照射する励起波長、および、測定対象物から観測する蛍光波長を段階的に変化させながら蛍光強度を測定することにより蛍光指紋(別名:励起蛍光マトリクス)を取得し、取得した蛍光指紋を解析することにより、穀粉の品種や種別を判別している。また、同出願人による特許文献2に記載の成分分布可視化方法では、蛍光指紋を画素単位で計測して、蛍光指紋イメージングを行っている。また、同出願人による特許文献3に記載の成分分布可視化方法では、更に、測定対象物とサンプル間における溶媒含有率(または可視化対象の特定成分に対する外乱要因)の影響を除去し、測定対象物の特定の成分をより明確に分析している。
【0007】
ここで、上記特許文献1〜3に記載される「蛍光指紋」は、励起蛍光マトリクス(Excitation−Emission Matrix: EEM)ともよばれ、試料に照射する励起光の波長を連続的に変化させながら蛍光スペクトルを測定することによって得られる3次元データを意味する。蛍光指紋の形状が指紋のように成分特異的に決まるため、測定者は、通常の単一波長での蛍光測定だけでは判別できない微妙な成分の差異を検出できる。更に、測定者は、この蛍光指紋情報に加えて、位置情報(すなわち、画像における各画素の位置を示す空間情報)を伴って、各画素ごとあるいは画素ブロックごとに蛍光指紋を測定する蛍光指紋イメージングを用いることで、測定対象物中の特定成分の分布を可視化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−185719号公報
【特許文献2】特許第3706914号公報
【特許文献3】特開2010−266380号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】厚生労働省医薬食品局食品安全部、食安監発第0728004号“カビ毒(アフラトキシン)を含有する食品の取り扱いについて”、平成20年7月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の穀粉の判別方法(特許文献1等)および成分分布可視化方法(特許文献2と特許文献3等)においては、蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にすることができるものの、蛍光指紋からアフラトキシンを検知することについては考慮していないという問題点を有していた。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるアフラトキシン検知方法、アフラトキシン検知装置、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するため、本発明のアフラトキシン検知方法は、測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知方法であって、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得工程、および、前記蛍光指紋情報取得工程にて取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知工程、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のアフラトキシン検知方法は、上記記載のアフラトキシン検知方法において、前記アフラトキシン検知工程にて、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0014】
また、本発明のアフラトキシン検知方法は、上記記載のアフラトキシン検知方法において、前記アフラトキシン検知工程にて、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0015】
また、本発明のアフラトキシン検知方法は、上記記載のアフラトキシン検知方法において、前記アフラトキシンは、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0016】
また、本発明のアフラトキシン検知方法は、上記記載のアフラトキシン検知方法において、前記測定対象物は、穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、測定対象物に所定の励起波長を照射する分光照明装置と、所定の蛍光波長で前記測定対象物を計測する分光検出装置とを備えた、前記測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知装置であって、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得部、および、前記蛍光指紋情報取得部により取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知部、を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、上記記載のアフラトキシン検知装置において、前記アフラトキシン検知部は、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0019】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、上記記載のアフラトキシン検知装置において、前記アフラトキシン検知部は、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0020】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、上記記載のアフラトキシン検知装置において、前記アフラトキシンは、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0021】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、上記記載のアフラトキシン検知装置において、前記測定対象物は、穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0022】
また、本発明のプログラムは、測定対象物に所定の励起波長を照射する分光照明装置と、所定の蛍光波長で前記測定対象物を計測する分光検出装置とを備えた、前記測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知装置に実行させるためのプログラムであって、前記アフラトキシン検知装置において、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得工程、および、前記蛍光指紋情報取得工程にて取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知工程、を実行させることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、前記アフラトキシン検知工程にて、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0024】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、前記アフラトキシン検知工程にて、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0025】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、前記アフラトキシンは、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0026】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、前記測定対象物は、穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、測定対象物の蛍光強度を測定して、測定対象物の蛍光指紋情報を取得し、取得した蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知するので、蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるという効果を奏する。これにより、本発明は、この蛍光指紋を利用して、膨大なデータから目的とするアフラトキシンの蛍光情報のみを非破壊で計測して抽出し、アフラトキシンの量の定量や有無の判別まで行うことができるという効果を奏する。
【0028】
また、この発明によれば、アフラトキシンの検知において、蛍光指紋情報に対して多変量解析としてPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、当該推定されたアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知するので、蛍光指紋から迅速かつ容易にアフラトキシンの量を定量することができるという効果を奏する。
【0029】
また、この発明によれば、アフラトキシンの検知において、蛍光指紋情報に対して多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られたアフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知するので、蛍光指紋から迅速かつ容易にアフラトキシンの有無を判別することができるという効果を奏する。
【0030】
また、この発明によれば、アフラトキシンは、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであるので、蛍光指紋から迅速かつ容易にアフラトキシンのうち特に有害な4種のアフラトキシンの個別量または総量を正確に検知することができるという効果を奏する。
【0031】
また、この発明によれば、測定対象物は、穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであるので、アフラトキシンの汚染対象となる穀物、ナッツ類、香辛料などの農作物を測定対象物として、蛍光指紋から迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、蛍光指紋の一例を3次元データの等高線状のグラフにて示す図である。
【図2】図2は、図1の蛍光指紋の一例を平面的に表した俯瞰図である。
【図3】図3は、本実施形態におけるアフラトキシン検知方法の処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、4種類のアフラトキシンの化学構造式を示す図である。
【図5】図5は、測定対象物の蛍光指紋の一例を示す図である。
【図6】図6は、多変量解析前に蛍光指紋に対して行われるデータ前処理の一例を示す図である。
【図7】図7は、多変量解析の一例としてPLS回帰分析の概要を示す図である。
【図8】図8は、本実施形態のアフラトキシン検知装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図9】図9は、蛍光指紋取得装置の一例を示すブロック図である。
【図10】図10は、アフラトキシン標準溶液(15ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図11】図11は、アフラトキシン標準溶液(60ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図12】図12は、アフラトキシン標準溶液(150ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図13】図13は、アフラトキシン標準溶液(600ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図14】図14は、PLS回帰分析によるアフラトキシン標準溶液のアフラトキシン濃度の定量結果を示す図である。
【図15】図15は、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図16】図16は、アフラトキシン擬似汚染サンプル(10ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図17】図17は、アフラトキシン擬似汚染サンプル(30ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図18】図18は、PLS回帰分析によるアフラトキシン擬似汚染サンプルのアフラトキシン濃度の定量結果を示す図である。
【図19】図19は、判別分析による異なる濃度のアフラトキシンB1の判別スコアの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の実施の形態にかかる〔I〕アフラトキシン検知方法および〔II〕アフラトキシン検知装置およびプログラムの好適な実施の形態の例を、図1〜図9を参照し詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0034】
〔I〕アフラトキシン検知方法
まず、図1および図2を参照し、蛍光指紋について説明する。ここで、図1は、蛍光指紋の一例を3次元データの等高線状のグラフにて示す図である。また、図2は、図1の蛍光指紋の一例を平面的に表した俯瞰図である。
【0035】
本実施形態において、「蛍光指紋」とは、図1に示すように、測定対象物に照射する励起波長λEx、測定対象物から発する発光の蛍光波長λEm、測定対象物の蛍光強度IEx,Emの3軸からなる3次元データの等高線状のグラフである。
【0036】
また、図2に示すように、「蛍光指紋」は、横軸を蛍光波長、縦軸を励起波長として各ポイントの蛍光強度を等高線プロットすることにより平面的に表すことができる。蛍光指紋は、測定対象物に対し蛍光染色等の前処理をせずにキャラクタリゼーションが可能であること、操作が容易で短時間で測定できること、さらに吸光度に比べ感度が高いなどの長所を有することから、食品等の内部構造の分析や、大気中の浮遊物の測定や、染料の原料特定などに汎用されている手法である。このように、「蛍光指紋」は、3次元の膨大な情報を有する成分固有の蛍光情報であるため、測定者は、蛍光指紋を利用することで、成分の識別が可能であり、かつ、非破壊での計測が可能である。
【0037】
以下、本アフラトキシン検知方法の処理の一例について、図3のフローチャートに沿って適宜図4〜図7を参照しつつ説明する。ここで、図3は、本実施形態におけるアフラトキシン検知方法の処理の一例を示すフローチャートである。
【0038】
図3に示すように、本アフラトキシン検知方法において、まず前提としてアフラトキシンの検知対象となる測定対象物が測定者により準備される(ステップS1)。
【0039】
ここで、本実施形態において、「測定対象物」とは、蛍光指紋を用いてアフラトキシンを検知する際の測定対象である試料を意味する。一例として、測定対象物は、例えば、穀物(例えば、はと麦、とうもろこし、そば、製餡原料用雑豆)、ナッツ類(例えば、ピーナッツ、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ等)、および、香辛料(例えば、ナツメグ、白コショウ、唐辛子、パプリカ等)のうち少なくとも1つであってもよい。なお、本実施形態において、測定対象物は、これらに限定されず、蛍光指紋を用いてアフラトキシンを検知可能なその他の試料であってもよい。
【0040】
ここで、図4を参照し、本実施形態において検知対象とするアフラトキシンの種類について説明する。図4は、4種類のアフラトキシンの化学構造式を示す図である。
【0041】
図4に示すように、本実施形態において検知対象とするアフラトキシンの種類は、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、アフラトキシンG2の4種類である。なお、アフラトキシンの規制値は、食品では0〜50ppb、飼料では5〜1000ppbである。また、アフラトキシンの規制値は、国ごとに異なっており、例えば、アメリカでは4種類の合計に対して20ppbであり、日本ではアフラトキシンB1に対して10ppbである。
【0042】
図3に戻り、本アフラトキシン検知方法では、次に蛍光指紋情報取得工程において、ステップS1にて測定者により準備された測定対象物の蛍光指紋を測定する(ステップS2)。すなわち、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、測定対象物における蛍光強度を測定して、蛍光指紋情報を取得する。すなわち、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、既存の分光蛍光光度計により、励起波長(例えば、200〜900nmの計測波長範囲内で10nmのデータ取得間隔ごとのm個の波長)と、蛍光波長(例えば、200〜900nmの計測波長範囲で10nmのデータ取得間隔ごとのn個の波長)の組み合わせを変えながら、合計m×n通りの波長条件で、測定対象物の蛍光強度を取得する。ここで、測定者は、計測回数(例えば、各試料につき3回)を調整してもよい。ここで、図5は、測定対象物の蛍光指紋の一例を示す図である。
【0043】
このように、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、測定対象物について、照射する励起波長および観測する蛍光波長の組み合わせが異なるm×n波長条件で蛍光強度を取得し、測定対象物の蛍光指紋情報を取得する。
【0044】
更に、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、次のステップS3のアフラトキシン検知工程にて行われる多変量解析前に、取得された蛍光指紋に対してデータ前処理を行う。
【0045】
以下、図5および図6を参照し、多変量解析前に蛍光指紋に対して行われるデータ前処理について説明する。ここで、図6は、多変量解析前に蛍光指紋に対して行われるデータ前処理の一例を示す図である。
【0046】
図5に示すように、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において取得された蛍光指紋は、合計m×nの波長条件(例えば、5041波長条件)のパラメータからなる高次元の蛍光強度データを含んでおり、更に、ノイズ情報(例えば、励起光の散乱光、その2次光、3次光等)を含んでいる。そのため、次のステップS3のアフラトキシン検知工程において行われる多変量解析前に、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、ノイズ情報を除去するとともに、取得した高次元(例えば、5041波長条件)の蛍光強度データから、目的とする蛍光指紋以外の情報を除去した低次元(例えば、2063波長条件)の蛍光強度データにすることが望ましい。
【0047】
そこで、図6に示すように、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、ノイズ情報となる励起光の錯乱光およびその2次光、3次光のデータ(例えば、図6(i)が示すデータ)を削除する。更に、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、蛍光波長が励起波長よりも短い範囲のデータ(例えば、図6(ii)が示すデータ)を除去する。これは、測定対象物が発する蛍光波長は励起波長より長波長であるので、励起波長より長波長の蛍光波長の蛍光強度データのみを解析するための処理である。なお、図示しないが、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、励起光源の輝度値が低い領域(例えば、励起波長240nm以下)のデータと、蛍光と検出器の感度が低い領域(例えば、蛍光波長800nm以上)のデータを削除してもよい。このように、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、測定対象物に含まれるアフラトキシンの特徴を表す蛍光指紋情報のみを抽出する。
【0048】
そして、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、図6に示すような蛍光指紋情報から得られる行列データを並び替えて、連続した1次元ベクトルに変更する。この1次元ベクトルに変更された蛍光指紋情報(例えば、2063個の蛍光強度データ)は、次のステップS3のアフラトキシン検知工程において、多変量解析に用いられる。
【0049】
図3に戻り、本アフラトキシン検知方法では、次にアフラトキシン検知工程において、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程にて取得した測定対象物の蛍光指紋情報に対して多変量解析(例えば、PLS回帰分析、判別分析等)を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する(ステップS3)。
【0050】
具体的には、ステップS3のアフラトキシン検知工程において、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程にて取得した蛍光指紋情報に対して多変量解析としてPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、当該推定されたアフラトキシンの定量結果(例えば、図14および図18)に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する。また、ステップS3のアフラトキシン検知工程において、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程にて取得した蛍光指紋情報に対して多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られたアフラトキシンの判別スコアの分布(例えば、図19)に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知してもよい。なお、本ステップS3のアフラトキシン検知工程にて、多変量解析の結果として得られたアフラトキシンの定量結果(例えば、図14および図18)およびアフラトキシンの判別スコアの分布(例えば、図19)の一例については、後述の実施例において詳細に説明する。
【0051】
ここで、図7を参照して、ステップS3のアフラトキシン検知工程において行われる多変量解析の一例として、PLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定する処理について説明する。図7は、多変量解析の一例としてPLS回帰分析の概要を示す図である。
【0052】
図7に示すように、ステップS3のアフラトキシン検知工程において、まず、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程にて取得した蛍光指紋情報(図7において、m×n個の蛍光強度データ)を説明変数とし、PLS(Partial Least Squares)のアルゴリズムに基づき、当該説明変数を潜在変数(図7において、T1〜Tk)に変換し、当該潜在変数を回帰式に代入することで、目的変数のアフラトキシン濃度(すなわち、アフラトキシンの量)を推定する。そして、ステップS3のアフラトキシン検知工程において、濃度未知の測定対象物の蛍光指紋情報を、既知または予め実測されたアフラトキシン濃度に基づいて作成された検量線に当てはめて、測定対象物に含まれるアフラトキシンの濃度を定量する。このように、本アフラトキシン検知工程において、蛍光指紋情報(図7において、m×n個の蛍光強度データ)に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、当該推定されたアフラトキシンの定量結果(例えば、図14および図18)に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する。
【0053】
なお、本実施形態において、S3のアフラトキシン検知工程において行われる多変量解析の一例としてPLS回帰分析および判別分析を挙げたが、これらに限定されず、あらゆる統計解析処理を行ってもよい。
【0054】
例えば、S3のアフラトキシン検知工程において、統計解析処理を、多変量解析またはデータマイニングにより行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、多変量解析またはデータマイニングを、データ構造分析、判別分析、パターン分類、多次元データ解析、回帰分析および学習機械のうち少なくとも1つの手法を用いて行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、データ構造分析を、主成分分析、因子分析、対応分析および独立成分分析のうち少なくとも1つの手法を用いて行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、判別分析を、線形判別分析または非線形判別分析の手法を用いて行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、パターン分類を、クラスター分析または多次元尺度法で行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、回帰分析を、線形回帰、非線形回帰または重回帰分析の手法を用いて行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、学習機械は、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、自己組織化マップ、集団学習および遺伝的アルゴリズムのうち少なくとも1つの手法を用いて行ってよい。
【0055】
その他、本実施形態において、測定対象物、蛍光指紋の測定条件、統計解析方法等の各種条件については、本発明の目的を逸脱しない範囲で適宜選択できる。
【0056】
〔II〕アフラトキシン検知装置
次に、本発明のアフラトキシン検知装置の構成について図8および図9を参照し実施形態を例に挙げて説明する。なお、本発明の実施の形態におけるアフラトキシン検知装置は、前述の本アフラトキシン検知方法に好適に使用できるものであるが、本アフラトキシン検知方法に用いる測定装置はこれに限定されるものではない。
【0057】
ここで、図8は、本実施形態のアフラトキシン検知装置の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0058】
図8に示すように、アフラトキシン検知装置20は、少なくとも蛍光指紋取得装置10を備えている。蛍光指紋取得装置10は、蛍光指紋情報を取得する装置であり、分光照明装置11および分光検出装置12を備えている。また、アフラトキシン検知装置20は、蛍光指紋取得装置10で取得した蛍光指紋情報から、測定対象物13のアフラトキシンを検知する装置であり、メモリ21、制御部23、計算処理部24を備えており、測定者はキーボード・マウス22により、アフラトキシン検知装置20に測定条件等を入力する。なお、図示しないが、アフラトキシン検知装置20は、測定対象物13を微粉砕に均一化する粉砕装置を備えていてもよい。ここで、粉砕装置は、例えば、粗粉砕装置、ハンマーミル粉砕装置、ジェットミル粉砕装置、サイクロンミル粉砕装置であってもよい。
【0059】
ここで、図9は、蛍光指紋取得装置10の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0060】
図9に示すように、蛍光指紋取得装置10は、分光照明装置11および分光検出装置12を備えている。分光照明装置11は、測定対象物13に、所定の波長の励起光を照射して測定対象物13の成分から蛍光を生じさせる装置である。分光照明装置11は、照射する励起波長を任意に変える励起波長可変手段を有する。
【0061】
分光検出装置12は、所定の蛍光波長において、測定対象物13の蛍光強度を取得し、蛍光強度情報をアフラトキシン検知装置20に送信する装置である。分光検出装置12は、測定対象物13が発した蛍光のうち、特定の蛍光波長を選択的に捕えて、蛍光強度を計測する。分光検出装置12は、観測する蛍光波長を任意に変える蛍光波長可変手段を有する。
【0062】
ここで、図8に戻り、アフラトキシン検知装置20について説明する。
【0063】
図8に示すように、アフラトキシン検知装置20は、分光検出装置12の指紋検出装置124によって検出された蛍光指紋情報を取得し、図5および図6に示したデータ前処理により、解析に必要な蛍光指紋情報のみを抽出する(図8において、蛍光指紋情報取得部24−1による処理)。次いで、取得した測定対象物13の蛍光指紋情報に対して多変量解析(例えば、PLS回帰分析、判別分析等)を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物13からアフラトキシンを検知する(図8において、アフラトキシン検知部24−2による処理)。
【0064】
メモリ21は、指紋検出装置124からアフラトキシン検知装置20へ転送され、計算処理部24の蛍光指紋情報取得部24−1により取得された蛍光指紋情報や、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2により多変量解析を行う際に用いられる回帰式や判別式、多変量解析結果のコントロール(比較対照)として参照される予め実測されたアフラトキシンの濃度データ等を格納する。
【0065】
制御部23は、測定者の入力した励起波長範囲、蛍光波長範囲、波長ピッチで測定対象物13の蛍光指紋を取得するように、分光照明装置11が照射する励起波長、および、分光検出装置12が観測する蛍光波長を調整する指示を行い、また、計算処理部24に処理を行うよう命令する。
【0066】
蛍光指紋取得装置10から転送された蛍光指紋情報は、アフラトキシン検知装置20のメモリ21に格納される。測定者がキーボード・マウス22を通じて、計算処理部24に対して処理を行うよう命令すると、まず、計算処理部24の蛍光指紋情報取得部24−1が、メモリ21に格納された蛍光指紋情報から、データ前処理により解析に必要な蛍光指紋情報を抽出する。次に、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2は、抽出された蛍光指紋情報に対して、多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する。
【0067】
本実施形態において、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2は、蛍光指紋情報に対して多変量解析としてPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、当該推定されたアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知してもよい。また、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2は、蛍光指紋情報に対して多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られたアフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知してもよい。更に、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2は、多変量解析の結果を、メモリ21に格納してもよく、ディスプレイ30上に出力してもよく、また、プリンタ(図示せず)を介して印刷してもよい。
【実施例】
【0068】
以下、図10〜図19を参照して本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
本実施例1において、測定対象物としてアフラトキシン標準試薬を用いた。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報を取得した。そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、推定したアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知した。以下、図10〜図14を参照して実施例1の詳細について説明する。
【0070】
(1−1.測定対象物の準備)
本実施例1において、測定対象物としてSIGMA社製のアフラトキシン標準試薬(アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、アフラトキシンG2)を用いた。そして、アフラトキシン標準試薬を、希釈溶媒(アセトニトリル・水(9:1))を用いて、15ppb,60ppb,150ppb,600ppbの4種類の濃度に調製した。また、ネガティブコントロールとして希釈溶媒のみ(すなわち、アフラトキシン0ppb)のサンプルも準備した。そして、各アフラトキシン標準試薬の試料溶液400μLを、光路長3mmのミクロセル内に注入した。
【0071】
(1−2.蛍光指紋情報の取得)
続いて、各アフラトキシン標準試薬の試料溶液400μLを注入したミクロセルを、蛍光指紋取得装置10(日立分光蛍光光度計F−7000)にセットした。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報を取得した。ここで、測定条件は、以下の通りである。
・計測波長範囲:励起波長(Ex)200〜900nm/蛍光波長(Em)200〜900nm
・データ取得間隔:10nm
・計測回数:各試料3回
【0072】
具体的には、蛍光指紋情報取得部24−1の処理により、図10〜図13に示すアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報を取得した(但し、図10〜図13に表示された蛍光指紋情報は、データ前処理を行う前のものである)。ここで、図10は、アフラトキシン標準溶液(15ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図11は、アフラトキシン標準溶液(60ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図12は、アフラトキシン標準溶液(150ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図13は、アフラトキシン標準溶液(600ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【0073】
ここで、図10〜図13中の丸で囲った部分に注目すると、蛍光強度はアフラトキシンの濃度と相関が有ることが示された。なお、図10〜図13中の丸で囲った部分は、励起波長(Ex)365nm/蛍光波長(Em)450nmの計測波長範囲に該当し、この計測波長範囲は、従来のHPLC法でアフラトキシンを検出可能な計測波長範囲と一致する。したがって、図10〜図13が示すアフラトキシン標準溶液(すなわち、夾雑物が存在しない試料)の蛍光指紋から、アフラトキシンの有無を定性的に確認できることが示された。
【0074】
(1−3.アフラトキシンの検知)
続いて、取得した図10〜図13の蛍光指紋は、蛍光指紋によるアフラトキシン濃度の定量の可能性を示したため、PLS回帰分析を適用してアフラトキシン標準溶液(15サンプル)に含まれるアフラトキシンの濃度推定を行った。ここで、PLS回帰分析を適用した15サンプル(5×3サンプル)は、0ppb,15ppb,60ppb,150ppb,600ppbの5濃度のサンプルそれぞれについて、3回計測を行ったものである。
【0075】
すなわち、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図10〜図13のアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定した。具体的には、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図10〜図13のアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報(すなわち、蛍光指紋をデータ前処理することで得られた2063個の蛍光指紋の輝度値)を説明変数とし、当該説明変数を潜在変数に変換し、当該潜在変数を回帰式に代入することで、目的変数のアフラトキシン濃度(すなわち、図14に示す「アフラトキシン推定値(ppb)」)を推定した。
【0076】
そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図14に示すように、推定したアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物(本実施例1において、アフラトキシン標準試薬)からアフラトキシンを検知した。ここで、図14は、PLS回帰分析によるアフラトキシン標準溶液のアフラトキシン濃度の定量結果を示す図である。
【0077】
具体的には、図14に示すように、アフラトキシン検知部24−2の処理により推定したアフラトキシンの濃度(図14において、「アフラトキシン推定値(ppb)」)は、予め調製された真のアフラトキシン濃度(図14において、「アフラトキシン濃度(ppb)」)とよく一致しており(図14において、菱形のプロット)、測定対象物に含まれるアフラトキシンの濃度を定量できることを示している。
【0078】
図14に示すように、アフラトキシン推定値(ppb)(図14において、菱形のプロット)の決定係数(R2)は、0.999となった。ここで、決定係数は、1に近いほど精度が高いことを表す。よって、アフラトキシン検知部24−2の処理により推定したアフラトキシン推定値(ppb)の精度が非常に高いことが示された。したがって、本実施例1により、夾雑物がないアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋から、PLS回帰分析により迅速かつ容易にアフラトキシンを計測可能であることが示された。なお、本実施例1では、蛍光指紋を3.7分で計測した。
【0079】
このように、本実施例1では、測定対象物はアフラトキシン標準試薬と溶媒のみなので、アフラトキシンのピーク(励起波長(Ex)365nm/蛍光波長(Em)450nm)のみでも、ある程度の定量は期待できる。しかし、実際の測定対象物(試料)には、様々な夾雑物が含まれているため、従来技術(非特許文献1等)では、このピークのみで定量することは不可能であった。そのため、従来技術(非特許文献1等)においては、これらの夾雑物を除く煩雑な前処理を必要としていた。一方、本発明のアフラトキシン検知方法およびアフラトキシン検知装置においては、その他の波長条件における蛍光指紋から得られた蛍光強度の情報を利用することにより、次の実施例2に示すように、夾雑物が存在したままであっても最適化を施し定量性を実現したことに大きな特徴がある。
【0080】
[実施例2]
本実施例2では、実施例1の図14が示す定量結果が、夾雑物を多く含む香辛料抽出溶液中のアフラトキシン濃度も蛍光指紋から定量できる可能性を示すため、香辛料のナツメグを測定対象物としたアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルを用いた。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した。そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、推定したアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知した。以下、図15〜図18を参照して実施例2の詳細について説明する。
【0081】
(2−1.測定対象物の準備)
本実施例2において、香辛料の一例であるナツメグを測定対象物として想定し、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルを準備した。
【0082】
まず、アフラトキシン非汚染サンプルを、非特許文献1に記載された、香辛料類のアフラトキシン分析用のイムノアフィニティーカラム(IAC)法の前処理にしたがって準備した。
【0083】
具体的には、採取したナツメグ検体を粉砕均一化して得たナツメグ試料50gを、ブレンダー容器または共栓付きナスフラスコ等に量り採り、これにアセトニトリル・水(9:1)400mLを加えた。そして、5分間撹拌抽出または30分間振とう抽出後、濾紙で濾過または遠心分離して、ナツメグ抽出濾液を準備した。なお、このナツメグ抽出濾液は、非常に着色が強いため、更に希釈溶媒としてアセトニトリル・水(9:1)を加えて10倍希釈した。そして、この10倍希釈後のサンプルを、蛍光指紋取得(EEM計測)時に用いるアフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)とした。そして、アフラトキシン非汚染サンプルの試料溶液400μLをミクロセル内に注入した。
【0084】
次に、アフラトキシン擬似汚染サンプルとして、上述のように準備したナツメグ抽出濾液に、溶液の5%分のアフラトキシン溶液(実施例1で用いたSIGMA社製のアフラトキシン標準試薬)を添加して準備した。更に、アフラトキシン擬似汚染サンプルを、希釈溶媒(アセトニトリル:水=9:1)を用いて、2.5ppb,5ppb,10ppb,20ppb,30ppb,60ppbの6種類の濃度に調製した。そして、希釈溶媒としてアセトニトリル・水(9:1)を加えて10倍希釈した。そして、この10倍希釈後のサンプルを、蛍光指紋取得時に用いるアフラトキシン擬似汚染サンプル(すなわち、0.25ppb,0.5ppb,1ppb,2ppb,3ppb,6ppbの6種類の濃度のサンプル)とした。そして、各アフラトキシン擬似汚染サンプルの試料溶液400μLをミクロセル内に注入した。
【0085】
(2−2.蛍光指紋情報の取得)
続いて、アフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの試料溶液400μLを注入したミクロセルを、実施例1と同様に蛍光指紋取得装置10(日立分光蛍光光度計F−7000)にセットした。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した。なお、測定条件は、実施例1と同様である。
【0086】
具体的には、蛍光指紋情報取得部24−1の処理により、図15に示すアフラトキシン非汚染サンプルの蛍光指紋情報と、図16および図17に示すアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した(但し、図15〜図17に表示された蛍光指紋情報は、データ前処理を行う前のものである)。ここで、図15は、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図16は、アフラトキシン擬似汚染サンプル(10ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図17は、アフラトキシン擬似汚染サンプル(30ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【0087】
ここで、アフラトキシンを含まないアフラトキシン非汚染サンプルの蛍光指紋(図15)と、アフラトキシンを含むアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋(図16および図17)を比較したところ、実施例1と同様に、アフラトキシンの有無が蛍光指紋情報に反映されていることが示された。
【0088】
(2−3.アフラトキシンの検知)
続いて、取得したアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を適用して、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプル(21サンプル)に含まれるアフラトキシンの濃度推定を行った。ここで、PLS回帰分析を適用した21サンプル(7×3サンプル)は、0ppb,2.5ppb,5ppb,10ppb,20ppb,30ppb,60ppbの7濃度のサンプルそれぞれについて、3回計測を行ったものである。なお、実測時には各サンプルを10倍希釈するため、各サンプルの実測溶液中のアフラトキシン濃度は、0ppb,0.25ppb,0.5ppb,1ppb,2ppb,3ppb,6ppbの7濃度となる。
【0089】
すなわち、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)とアフラトキシン擬似汚染サンプル(2.5ppb,5ppb,10ppb,20ppb,30ppb,60ppb)の蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定した。具体的には、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報(すなわち、蛍光指紋をデータ前処理することで得られた2063個の蛍光指紋の輝度値)を説明変数とし、当該説明変数を潜在変数に変換し、当該潜在変数を回帰式に代入することで、目的変数のアフラトキシン濃度(すなわち、図18に示す「アフラトキシン推定値(ppb)」)を推定した。
【0090】
そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図18に示すように、推定したアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物(本実施例2において、アフラトキシン擬似汚染サンプル)からアフラトキシンを検知した。ここで、図18は、PLS回帰分析によるアフラトキシン擬似汚染サンプルのアフラトキシン濃度の定量結果を示す図である。
【0091】
具体的には、図18に示すように、アフラトキシン検知部24−2の処理により推定したアフラトキシンの濃度(図18において、「アフラトキシン推定値(ppb)」)は、予め調製された真のアフラトキシン濃度(図18において、「アフラトキシン濃度(ppb)」)とよく一致しており(図18において、菱形のプロット)、測定対象物に含まれるアフラトキシンの濃度を定量できることを示している。
【0092】
図18に示すように、アフラトキシン推定値(ppb)(図18において、菱形のプロット)の決定係数(R2)は、0.999となった。ここで、決定係数は1に近いほど精度が高いことを表す。また、標準誤差(SEC:Standard Error of Calibration)は、0.068ppbとなった。ここで、標準誤差は小さいほど精度が高いことを表す。よって、アフラトキシン検知部24−2の処理により推定したアフラトキシン推定値(ppb)の精度が非常に高いことが示された。したがって、本実施例2により、夾雑物が多く含まれるナツメグ抽出濾液(すなわち、アフラトキシン擬似汚染サンプル)の蛍光指紋から、PLS回帰分析により迅速かつ容易に低濃度のアフラトキシンを定量的に計測可能であることが示された。
【0093】
[実施例3]
本実施例3では、実施例2と同様に、測定対象物としてアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルを用いた。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した。そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報に対して判別分析を行い、当該判別分析により得られたアフラトキシンのスコア分布に基づいて、測定対象物からアフラトキシンの有無を判別した。以下、図19を参照して実施例3の詳細について説明する。
【0094】
(3−1.測定対象物の準備)
本実施例3において、実施例2と同様に、香辛料の一例であるナツメグを測定対象物として想定し、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルを準備した。なお、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの調製法については、アフラトキシン擬似汚染サンプルを10種類(0.2ppb,0.4ppb,0.6ppb,0.8ppb,1.0ppb,1.2ppb,1.5ppb,2.0ppb,2.5ppb,3.0ppb)のアフラトキシンB1の濃度に調製した以外、実施例2と同様であるため説明を省略する。そして、アフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの試料溶液400μLをミクロセル内に注入した。
【0095】
(3−2.蛍光指紋情報の取得)
続いて、実施例2と同様に、アフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの試料溶液400μLを注入したミクロセルを、蛍光指紋取得装置10(日立分光蛍光光度計F−7000)にセットした。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した。なお、測定条件は、計測波長範囲を、励起波長(Ex)240〜800nm/蛍光波長(Em)240〜800nmに調節した以外、実施例1および2と同様である。
【0096】
(3−3.アフラトキシンの検知)
続いて、取得したアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプル(39サンプル)の蛍光指紋情報に対して判別分析を行った。ここで、判別分析した39サンプル(1×9+10×3サンプル)は、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)について9回計測を行い、10濃度の各アフラトキシン擬似汚染サンプル(0.2ppb〜3.0ppb)について、3回計測を行ったものである。
【0097】
具体的には、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報(例えば、x1:励起波長(Ex)310/蛍光波長(Em)770〜x6:励起波長(Ex)670/蛍光波長(Em)760等の6個の蛍光指紋の輝度値)をパラメータとして、予め作成した以下の判別式に代入することで判別分析を行った。
【0098】
・判別式(正準1)
Y=−3.81x1+9.80x2+35.74x3−6.94x4−13.25x5+10.47x6
(x1:Ex310/Em770,x2:Ex380/Em450,x3:Ex460/Em710,x4:Ex500/Em730,x5:Ex600/Em760,x6:Ex670/Em760)
【0099】
そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図19に示すように、得られたアフラトキシンの判別スコアの分布(図19に示す各プロット)に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知した。ここで、図19は、判別分析による異なる濃度のアフラトキシンB1の判別スコアの分布を示す図である。
【0100】
図19に示すように、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)からなる群(図19の左側部分に分布する9個のプロット群)と、各アフラトキシン擬似汚染サンプル(0.2ppb〜2.5ppb)からなる群(図19の右側部分に分布する30個のプロット群)との2つのプロット群が明確に分かれて分布することが示された。ここで、図19に示す判別分析による予測結果(すなわち、アフラトキシンB1が有ること示す30個のプロット群と、アフラトキシンB1が無いことを示す9個のプロット群の予測結果)は、予め調製された真の値(アフラトキシンB1有り:30個、アフラトキシンB1無し:9個)と一致した。したがって、本実施例3により、夾雑物が多く含まれるナツメグ抽出液の蛍光指紋から、判別分析によりアフラトキシンB1の有無を判別可能であることが示された。
【0101】
[他の実施の形態]
さて、これまで本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。
【0102】
また、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0103】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0104】
また、アフラトキシン検知装置20に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0105】
例えば、アフラトキシン検知装置20の各装置が備える処理機能、特に計算処理部24にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、後述する記録媒体に記録されており、必要に応じてアフラトキシン検知装置20に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDなどのメモリ21などは、OS(Operating System)として協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0106】
また、このコンピュータプログラムは、アフラトキシン検知装置20に対して任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0107】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD、および、Blu−ray Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0108】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施の形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0109】
メモリ21に格納される各種のデータベース等は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラムやテーブルやデータベースやウェブページ用ファイル等を格納する。
【0110】
また、アフラトキシン検知装置20は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、該情報処理装置に任意の周辺装置を接続して構成してもよい。また、アフラトキシン検知装置20は、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0111】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上詳述に説明したように、本発明によれば、蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるアフラトキシン検知方法、アフラトキシン検知装置、および、プログラムを提供することができるので、食品分野などの様々な分野において極めて有用である。
【0113】
このように、本発明は、非破壊、非接触での計測にも関わらず、低濃度のアフラトキシンを正確に計測することができ、また、様々のアフラトキシン(例えば、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、アフラトキシンG2、および、それらの混在物の総量等)も計測することができるので、基礎研究領域や食品製造現場における検査などの様々な分野において広く使用することができる、非常に汎用性の高い手法である。また、本発明は、測定条件の絞込みにより測定時間短縮を行うことで、工場等での全数検査やリアルタイムモニタリングに応用することも可能である。
【符号の説明】
【0114】
10 蛍光指紋取得装置
11 分光照明装置
110 光源
112 分光装置
12 分光検出装置
122 分光装置
124 指紋検出装置
13 測定対象物
20 アフラトキシン検知装置
21 メモリ
22 キーボード・マウス
23 制御部
24 計算処理部
24−1 蛍光指紋情報取得部
24−2 アフラトキシン検知部
30 ディスプレイ
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフラトキシン検知方法、アフラトキシン検知装置、および、プログラム
に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野においては、アフラトキシン(Aflatoxin)が世界的に大きな問題となっている。ここで、アフラトキシンとは、穀物やナッツ類や香辛料などの農産物に含まれる、人間や動物に急性毒性と発癌性を誘因するカビ毒であり、現在約70カ国以上で規制されている。アフラトキシンの汚染地域は、熱帯地域が中心であり、汚染の拡散防止のためにも、輸出入時における検査が重要となる。
【0003】
これに対し、従来から、アフラトキシン検出法として、例えば、非特許文献1に示すように、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速液体クロマトグラフ質量分析法(HPLS−MAS)、および、ELISA法などの化学分析的手法が用いられていた。
【0004】
しかし、上述の化学分析的手法では、煩雑な前処理を行う必要があるという問題があった。更に、上述の化学分析的手法では、専用の試薬やキットを必要とし、装置が高価であり、また、装置の操作者に対して専門技能が必要とされるため、現場での迅速かつ容易な判定が困難であるという問題があった。更に、検知対象となるアフラトキシンの量は、非常に低濃度(例えば、ppbオーダーの濃度)であるため、上述の化学分析的手法では、濃縮や精製等の前処理なくしてはアフラトキシンを検知できず、そのため、煩雑な前処理を省略できないという問題があった。
【0005】
そこで、近年、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易に測定対象物を分析する手法の開発が望まれていた。
【0006】
例えば、本出願人による特許文献1に記載の穀粉の判別方法では、測定対象物に対して照射する励起波長、および、測定対象物から観測する蛍光波長を段階的に変化させながら蛍光強度を測定することにより蛍光指紋(別名:励起蛍光マトリクス)を取得し、取得した蛍光指紋を解析することにより、穀粉の品種や種別を判別している。また、同出願人による特許文献2に記載の成分分布可視化方法では、蛍光指紋を画素単位で計測して、蛍光指紋イメージングを行っている。また、同出願人による特許文献3に記載の成分分布可視化方法では、更に、測定対象物とサンプル間における溶媒含有率(または可視化対象の特定成分に対する外乱要因)の影響を除去し、測定対象物の特定の成分をより明確に分析している。
【0007】
ここで、上記特許文献1〜3に記載される「蛍光指紋」は、励起蛍光マトリクス(Excitation−Emission Matrix: EEM)ともよばれ、試料に照射する励起光の波長を連続的に変化させながら蛍光スペクトルを測定することによって得られる3次元データを意味する。蛍光指紋の形状が指紋のように成分特異的に決まるため、測定者は、通常の単一波長での蛍光測定だけでは判別できない微妙な成分の差異を検出できる。更に、測定者は、この蛍光指紋情報に加えて、位置情報(すなわち、画像における各画素の位置を示す空間情報)を伴って、各画素ごとあるいは画素ブロックごとに蛍光指紋を測定する蛍光指紋イメージングを用いることで、測定対象物中の特定成分の分布を可視化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−185719号公報
【特許文献2】特許第3706914号公報
【特許文献3】特開2010−266380号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】厚生労働省医薬食品局食品安全部、食安監発第0728004号“カビ毒(アフラトキシン)を含有する食品の取り扱いについて”、平成20年7月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の穀粉の判別方法(特許文献1等)および成分分布可視化方法(特許文献2と特許文献3等)においては、蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にすることができるものの、蛍光指紋からアフラトキシンを検知することについては考慮していないという問題点を有していた。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるアフラトキシン検知方法、アフラトキシン検知装置、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するため、本発明のアフラトキシン検知方法は、測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知方法であって、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得工程、および、前記蛍光指紋情報取得工程にて取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知工程、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のアフラトキシン検知方法は、上記記載のアフラトキシン検知方法において、前記アフラトキシン検知工程にて、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0014】
また、本発明のアフラトキシン検知方法は、上記記載のアフラトキシン検知方法において、前記アフラトキシン検知工程にて、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0015】
また、本発明のアフラトキシン検知方法は、上記記載のアフラトキシン検知方法において、前記アフラトキシンは、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0016】
また、本発明のアフラトキシン検知方法は、上記記載のアフラトキシン検知方法において、前記測定対象物は、穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、測定対象物に所定の励起波長を照射する分光照明装置と、所定の蛍光波長で前記測定対象物を計測する分光検出装置とを備えた、前記測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知装置であって、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得部、および、前記蛍光指紋情報取得部により取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知部、を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、上記記載のアフラトキシン検知装置において、前記アフラトキシン検知部は、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0019】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、上記記載のアフラトキシン検知装置において、前記アフラトキシン検知部は、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0020】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、上記記載のアフラトキシン検知装置において、前記アフラトキシンは、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0021】
また、本発明のアフラトキシン検知装置は、上記記載のアフラトキシン検知装置において、前記測定対象物は、穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0022】
また、本発明のプログラムは、測定対象物に所定の励起波長を照射する分光照明装置と、所定の蛍光波長で前記測定対象物を計測する分光検出装置とを備えた、前記測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知装置に実行させるためのプログラムであって、前記アフラトキシン検知装置において、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得工程、および、前記蛍光指紋情報取得工程にて取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知工程、を実行させることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、前記アフラトキシン検知工程にて、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0024】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、前記アフラトキシン検知工程にて、前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、を特徴とする。
【0025】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、前記アフラトキシンは、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【0026】
また、本発明のプログラムは、上記記載のプログラムにおいて、前記測定対象物は、穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、測定対象物の蛍光強度を測定して、測定対象物の蛍光指紋情報を取得し、取得した蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知するので、蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるという効果を奏する。これにより、本発明は、この蛍光指紋を利用して、膨大なデータから目的とするアフラトキシンの蛍光情報のみを非破壊で計測して抽出し、アフラトキシンの量の定量や有無の判別まで行うことができるという効果を奏する。
【0028】
また、この発明によれば、アフラトキシンの検知において、蛍光指紋情報に対して多変量解析としてPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、当該推定されたアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知するので、蛍光指紋から迅速かつ容易にアフラトキシンの量を定量することができるという効果を奏する。
【0029】
また、この発明によれば、アフラトキシンの検知において、蛍光指紋情報に対して多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られたアフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知するので、蛍光指紋から迅速かつ容易にアフラトキシンの有無を判別することができるという効果を奏する。
【0030】
また、この発明によれば、アフラトキシンは、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであるので、蛍光指紋から迅速かつ容易にアフラトキシンのうち特に有害な4種のアフラトキシンの個別量または総量を正確に検知することができるという効果を奏する。
【0031】
また、この発明によれば、測定対象物は、穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであるので、アフラトキシンの汚染対象となる穀物、ナッツ類、香辛料などの農作物を測定対象物として、蛍光指紋から迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、蛍光指紋の一例を3次元データの等高線状のグラフにて示す図である。
【図2】図2は、図1の蛍光指紋の一例を平面的に表した俯瞰図である。
【図3】図3は、本実施形態におけるアフラトキシン検知方法の処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、4種類のアフラトキシンの化学構造式を示す図である。
【図5】図5は、測定対象物の蛍光指紋の一例を示す図である。
【図6】図6は、多変量解析前に蛍光指紋に対して行われるデータ前処理の一例を示す図である。
【図7】図7は、多変量解析の一例としてPLS回帰分析の概要を示す図である。
【図8】図8は、本実施形態のアフラトキシン検知装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図9】図9は、蛍光指紋取得装置の一例を示すブロック図である。
【図10】図10は、アフラトキシン標準溶液(15ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図11】図11は、アフラトキシン標準溶液(60ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図12】図12は、アフラトキシン標準溶液(150ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図13】図13は、アフラトキシン標準溶液(600ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図14】図14は、PLS回帰分析によるアフラトキシン標準溶液のアフラトキシン濃度の定量結果を示す図である。
【図15】図15は、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図16】図16は、アフラトキシン擬似汚染サンプル(10ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図17】図17は、アフラトキシン擬似汚染サンプル(30ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【図18】図18は、PLS回帰分析によるアフラトキシン擬似汚染サンプルのアフラトキシン濃度の定量結果を示す図である。
【図19】図19は、判別分析による異なる濃度のアフラトキシンB1の判別スコアの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の実施の形態にかかる〔I〕アフラトキシン検知方法および〔II〕アフラトキシン検知装置およびプログラムの好適な実施の形態の例を、図1〜図9を参照し詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0034】
〔I〕アフラトキシン検知方法
まず、図1および図2を参照し、蛍光指紋について説明する。ここで、図1は、蛍光指紋の一例を3次元データの等高線状のグラフにて示す図である。また、図2は、図1の蛍光指紋の一例を平面的に表した俯瞰図である。
【0035】
本実施形態において、「蛍光指紋」とは、図1に示すように、測定対象物に照射する励起波長λEx、測定対象物から発する発光の蛍光波長λEm、測定対象物の蛍光強度IEx,Emの3軸からなる3次元データの等高線状のグラフである。
【0036】
また、図2に示すように、「蛍光指紋」は、横軸を蛍光波長、縦軸を励起波長として各ポイントの蛍光強度を等高線プロットすることにより平面的に表すことができる。蛍光指紋は、測定対象物に対し蛍光染色等の前処理をせずにキャラクタリゼーションが可能であること、操作が容易で短時間で測定できること、さらに吸光度に比べ感度が高いなどの長所を有することから、食品等の内部構造の分析や、大気中の浮遊物の測定や、染料の原料特定などに汎用されている手法である。このように、「蛍光指紋」は、3次元の膨大な情報を有する成分固有の蛍光情報であるため、測定者は、蛍光指紋を利用することで、成分の識別が可能であり、かつ、非破壊での計測が可能である。
【0037】
以下、本アフラトキシン検知方法の処理の一例について、図3のフローチャートに沿って適宜図4〜図7を参照しつつ説明する。ここで、図3は、本実施形態におけるアフラトキシン検知方法の処理の一例を示すフローチャートである。
【0038】
図3に示すように、本アフラトキシン検知方法において、まず前提としてアフラトキシンの検知対象となる測定対象物が測定者により準備される(ステップS1)。
【0039】
ここで、本実施形態において、「測定対象物」とは、蛍光指紋を用いてアフラトキシンを検知する際の測定対象である試料を意味する。一例として、測定対象物は、例えば、穀物(例えば、はと麦、とうもろこし、そば、製餡原料用雑豆)、ナッツ類(例えば、ピーナッツ、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ等)、および、香辛料(例えば、ナツメグ、白コショウ、唐辛子、パプリカ等)のうち少なくとも1つであってもよい。なお、本実施形態において、測定対象物は、これらに限定されず、蛍光指紋を用いてアフラトキシンを検知可能なその他の試料であってもよい。
【0040】
ここで、図4を参照し、本実施形態において検知対象とするアフラトキシンの種類について説明する。図4は、4種類のアフラトキシンの化学構造式を示す図である。
【0041】
図4に示すように、本実施形態において検知対象とするアフラトキシンの種類は、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、アフラトキシンG2の4種類である。なお、アフラトキシンの規制値は、食品では0〜50ppb、飼料では5〜1000ppbである。また、アフラトキシンの規制値は、国ごとに異なっており、例えば、アメリカでは4種類の合計に対して20ppbであり、日本ではアフラトキシンB1に対して10ppbである。
【0042】
図3に戻り、本アフラトキシン検知方法では、次に蛍光指紋情報取得工程において、ステップS1にて測定者により準備された測定対象物の蛍光指紋を測定する(ステップS2)。すなわち、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、測定対象物における蛍光強度を測定して、蛍光指紋情報を取得する。すなわち、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、既存の分光蛍光光度計により、励起波長(例えば、200〜900nmの計測波長範囲内で10nmのデータ取得間隔ごとのm個の波長)と、蛍光波長(例えば、200〜900nmの計測波長範囲で10nmのデータ取得間隔ごとのn個の波長)の組み合わせを変えながら、合計m×n通りの波長条件で、測定対象物の蛍光強度を取得する。ここで、測定者は、計測回数(例えば、各試料につき3回)を調整してもよい。ここで、図5は、測定対象物の蛍光指紋の一例を示す図である。
【0043】
このように、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、測定対象物について、照射する励起波長および観測する蛍光波長の組み合わせが異なるm×n波長条件で蛍光強度を取得し、測定対象物の蛍光指紋情報を取得する。
【0044】
更に、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、次のステップS3のアフラトキシン検知工程にて行われる多変量解析前に、取得された蛍光指紋に対してデータ前処理を行う。
【0045】
以下、図5および図6を参照し、多変量解析前に蛍光指紋に対して行われるデータ前処理について説明する。ここで、図6は、多変量解析前に蛍光指紋に対して行われるデータ前処理の一例を示す図である。
【0046】
図5に示すように、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において取得された蛍光指紋は、合計m×nの波長条件(例えば、5041波長条件)のパラメータからなる高次元の蛍光強度データを含んでおり、更に、ノイズ情報(例えば、励起光の散乱光、その2次光、3次光等)を含んでいる。そのため、次のステップS3のアフラトキシン検知工程において行われる多変量解析前に、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、ノイズ情報を除去するとともに、取得した高次元(例えば、5041波長条件)の蛍光強度データから、目的とする蛍光指紋以外の情報を除去した低次元(例えば、2063波長条件)の蛍光強度データにすることが望ましい。
【0047】
そこで、図6に示すように、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、ノイズ情報となる励起光の錯乱光およびその2次光、3次光のデータ(例えば、図6(i)が示すデータ)を削除する。更に、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、蛍光波長が励起波長よりも短い範囲のデータ(例えば、図6(ii)が示すデータ)を除去する。これは、測定対象物が発する蛍光波長は励起波長より長波長であるので、励起波長より長波長の蛍光波長の蛍光強度データのみを解析するための処理である。なお、図示しないが、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、励起光源の輝度値が低い領域(例えば、励起波長240nm以下)のデータと、蛍光と検出器の感度が低い領域(例えば、蛍光波長800nm以上)のデータを削除してもよい。このように、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、測定対象物に含まれるアフラトキシンの特徴を表す蛍光指紋情報のみを抽出する。
【0048】
そして、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程において、図6に示すような蛍光指紋情報から得られる行列データを並び替えて、連続した1次元ベクトルに変更する。この1次元ベクトルに変更された蛍光指紋情報(例えば、2063個の蛍光強度データ)は、次のステップS3のアフラトキシン検知工程において、多変量解析に用いられる。
【0049】
図3に戻り、本アフラトキシン検知方法では、次にアフラトキシン検知工程において、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程にて取得した測定対象物の蛍光指紋情報に対して多変量解析(例えば、PLS回帰分析、判別分析等)を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する(ステップS3)。
【0050】
具体的には、ステップS3のアフラトキシン検知工程において、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程にて取得した蛍光指紋情報に対して多変量解析としてPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、当該推定されたアフラトキシンの定量結果(例えば、図14および図18)に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する。また、ステップS3のアフラトキシン検知工程において、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程にて取得した蛍光指紋情報に対して多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られたアフラトキシンの判別スコアの分布(例えば、図19)に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知してもよい。なお、本ステップS3のアフラトキシン検知工程にて、多変量解析の結果として得られたアフラトキシンの定量結果(例えば、図14および図18)およびアフラトキシンの判別スコアの分布(例えば、図19)の一例については、後述の実施例において詳細に説明する。
【0051】
ここで、図7を参照して、ステップS3のアフラトキシン検知工程において行われる多変量解析の一例として、PLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定する処理について説明する。図7は、多変量解析の一例としてPLS回帰分析の概要を示す図である。
【0052】
図7に示すように、ステップS3のアフラトキシン検知工程において、まず、ステップS2の蛍光指紋情報取得工程にて取得した蛍光指紋情報(図7において、m×n個の蛍光強度データ)を説明変数とし、PLS(Partial Least Squares)のアルゴリズムに基づき、当該説明変数を潜在変数(図7において、T1〜Tk)に変換し、当該潜在変数を回帰式に代入することで、目的変数のアフラトキシン濃度(すなわち、アフラトキシンの量)を推定する。そして、ステップS3のアフラトキシン検知工程において、濃度未知の測定対象物の蛍光指紋情報を、既知または予め実測されたアフラトキシン濃度に基づいて作成された検量線に当てはめて、測定対象物に含まれるアフラトキシンの濃度を定量する。このように、本アフラトキシン検知工程において、蛍光指紋情報(図7において、m×n個の蛍光強度データ)に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、当該推定されたアフラトキシンの定量結果(例えば、図14および図18)に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する。
【0053】
なお、本実施形態において、S3のアフラトキシン検知工程において行われる多変量解析の一例としてPLS回帰分析および判別分析を挙げたが、これらに限定されず、あらゆる統計解析処理を行ってもよい。
【0054】
例えば、S3のアフラトキシン検知工程において、統計解析処理を、多変量解析またはデータマイニングにより行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、多変量解析またはデータマイニングを、データ構造分析、判別分析、パターン分類、多次元データ解析、回帰分析および学習機械のうち少なくとも1つの手法を用いて行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、データ構造分析を、主成分分析、因子分析、対応分析および独立成分分析のうち少なくとも1つの手法を用いて行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、判別分析を、線形判別分析または非線形判別分析の手法を用いて行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、パターン分類を、クラスター分析または多次元尺度法で行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、回帰分析を、線形回帰、非線形回帰または重回帰分析の手法を用いて行ってもよい。また、S3のアフラトキシン検知工程において、学習機械は、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、自己組織化マップ、集団学習および遺伝的アルゴリズムのうち少なくとも1つの手法を用いて行ってよい。
【0055】
その他、本実施形態において、測定対象物、蛍光指紋の測定条件、統計解析方法等の各種条件については、本発明の目的を逸脱しない範囲で適宜選択できる。
【0056】
〔II〕アフラトキシン検知装置
次に、本発明のアフラトキシン検知装置の構成について図8および図9を参照し実施形態を例に挙げて説明する。なお、本発明の実施の形態におけるアフラトキシン検知装置は、前述の本アフラトキシン検知方法に好適に使用できるものであるが、本アフラトキシン検知方法に用いる測定装置はこれに限定されるものではない。
【0057】
ここで、図8は、本実施形態のアフラトキシン検知装置の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0058】
図8に示すように、アフラトキシン検知装置20は、少なくとも蛍光指紋取得装置10を備えている。蛍光指紋取得装置10は、蛍光指紋情報を取得する装置であり、分光照明装置11および分光検出装置12を備えている。また、アフラトキシン検知装置20は、蛍光指紋取得装置10で取得した蛍光指紋情報から、測定対象物13のアフラトキシンを検知する装置であり、メモリ21、制御部23、計算処理部24を備えており、測定者はキーボード・マウス22により、アフラトキシン検知装置20に測定条件等を入力する。なお、図示しないが、アフラトキシン検知装置20は、測定対象物13を微粉砕に均一化する粉砕装置を備えていてもよい。ここで、粉砕装置は、例えば、粗粉砕装置、ハンマーミル粉砕装置、ジェットミル粉砕装置、サイクロンミル粉砕装置であってもよい。
【0059】
ここで、図9は、蛍光指紋取得装置10の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0060】
図9に示すように、蛍光指紋取得装置10は、分光照明装置11および分光検出装置12を備えている。分光照明装置11は、測定対象物13に、所定の波長の励起光を照射して測定対象物13の成分から蛍光を生じさせる装置である。分光照明装置11は、照射する励起波長を任意に変える励起波長可変手段を有する。
【0061】
分光検出装置12は、所定の蛍光波長において、測定対象物13の蛍光強度を取得し、蛍光強度情報をアフラトキシン検知装置20に送信する装置である。分光検出装置12は、測定対象物13が発した蛍光のうち、特定の蛍光波長を選択的に捕えて、蛍光強度を計測する。分光検出装置12は、観測する蛍光波長を任意に変える蛍光波長可変手段を有する。
【0062】
ここで、図8に戻り、アフラトキシン検知装置20について説明する。
【0063】
図8に示すように、アフラトキシン検知装置20は、分光検出装置12の指紋検出装置124によって検出された蛍光指紋情報を取得し、図5および図6に示したデータ前処理により、解析に必要な蛍光指紋情報のみを抽出する(図8において、蛍光指紋情報取得部24−1による処理)。次いで、取得した測定対象物13の蛍光指紋情報に対して多変量解析(例えば、PLS回帰分析、判別分析等)を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物13からアフラトキシンを検知する(図8において、アフラトキシン検知部24−2による処理)。
【0064】
メモリ21は、指紋検出装置124からアフラトキシン検知装置20へ転送され、計算処理部24の蛍光指紋情報取得部24−1により取得された蛍光指紋情報や、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2により多変量解析を行う際に用いられる回帰式や判別式、多変量解析結果のコントロール(比較対照)として参照される予め実測されたアフラトキシンの濃度データ等を格納する。
【0065】
制御部23は、測定者の入力した励起波長範囲、蛍光波長範囲、波長ピッチで測定対象物13の蛍光指紋を取得するように、分光照明装置11が照射する励起波長、および、分光検出装置12が観測する蛍光波長を調整する指示を行い、また、計算処理部24に処理を行うよう命令する。
【0066】
蛍光指紋取得装置10から転送された蛍光指紋情報は、アフラトキシン検知装置20のメモリ21に格納される。測定者がキーボード・マウス22を通じて、計算処理部24に対して処理を行うよう命令すると、まず、計算処理部24の蛍光指紋情報取得部24−1が、メモリ21に格納された蛍光指紋情報から、データ前処理により解析に必要な蛍光指紋情報を抽出する。次に、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2は、抽出された蛍光指紋情報に対して、多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知する。
【0067】
本実施形態において、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2は、蛍光指紋情報に対して多変量解析としてPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、当該推定されたアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知してもよい。また、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2は、蛍光指紋情報に対して多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られたアフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知してもよい。更に、計算処理部24のアフラトキシン検知部24−2は、多変量解析の結果を、メモリ21に格納してもよく、ディスプレイ30上に出力してもよく、また、プリンタ(図示せず)を介して印刷してもよい。
【実施例】
【0068】
以下、図10〜図19を参照して本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
本実施例1において、測定対象物としてアフラトキシン標準試薬を用いた。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報を取得した。そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、推定したアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知した。以下、図10〜図14を参照して実施例1の詳細について説明する。
【0070】
(1−1.測定対象物の準備)
本実施例1において、測定対象物としてSIGMA社製のアフラトキシン標準試薬(アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、アフラトキシンG2)を用いた。そして、アフラトキシン標準試薬を、希釈溶媒(アセトニトリル・水(9:1))を用いて、15ppb,60ppb,150ppb,600ppbの4種類の濃度に調製した。また、ネガティブコントロールとして希釈溶媒のみ(すなわち、アフラトキシン0ppb)のサンプルも準備した。そして、各アフラトキシン標準試薬の試料溶液400μLを、光路長3mmのミクロセル内に注入した。
【0071】
(1−2.蛍光指紋情報の取得)
続いて、各アフラトキシン標準試薬の試料溶液400μLを注入したミクロセルを、蛍光指紋取得装置10(日立分光蛍光光度計F−7000)にセットした。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報を取得した。ここで、測定条件は、以下の通りである。
・計測波長範囲:励起波長(Ex)200〜900nm/蛍光波長(Em)200〜900nm
・データ取得間隔:10nm
・計測回数:各試料3回
【0072】
具体的には、蛍光指紋情報取得部24−1の処理により、図10〜図13に示すアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報を取得した(但し、図10〜図13に表示された蛍光指紋情報は、データ前処理を行う前のものである)。ここで、図10は、アフラトキシン標準溶液(15ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図11は、アフラトキシン標準溶液(60ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図12は、アフラトキシン標準溶液(150ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図13は、アフラトキシン標準溶液(600ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【0073】
ここで、図10〜図13中の丸で囲った部分に注目すると、蛍光強度はアフラトキシンの濃度と相関が有ることが示された。なお、図10〜図13中の丸で囲った部分は、励起波長(Ex)365nm/蛍光波長(Em)450nmの計測波長範囲に該当し、この計測波長範囲は、従来のHPLC法でアフラトキシンを検出可能な計測波長範囲と一致する。したがって、図10〜図13が示すアフラトキシン標準溶液(すなわち、夾雑物が存在しない試料)の蛍光指紋から、アフラトキシンの有無を定性的に確認できることが示された。
【0074】
(1−3.アフラトキシンの検知)
続いて、取得した図10〜図13の蛍光指紋は、蛍光指紋によるアフラトキシン濃度の定量の可能性を示したため、PLS回帰分析を適用してアフラトキシン標準溶液(15サンプル)に含まれるアフラトキシンの濃度推定を行った。ここで、PLS回帰分析を適用した15サンプル(5×3サンプル)は、0ppb,15ppb,60ppb,150ppb,600ppbの5濃度のサンプルそれぞれについて、3回計測を行ったものである。
【0075】
すなわち、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図10〜図13のアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定した。具体的には、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図10〜図13のアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋情報(すなわち、蛍光指紋をデータ前処理することで得られた2063個の蛍光指紋の輝度値)を説明変数とし、当該説明変数を潜在変数に変換し、当該潜在変数を回帰式に代入することで、目的変数のアフラトキシン濃度(すなわち、図14に示す「アフラトキシン推定値(ppb)」)を推定した。
【0076】
そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図14に示すように、推定したアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物(本実施例1において、アフラトキシン標準試薬)からアフラトキシンを検知した。ここで、図14は、PLS回帰分析によるアフラトキシン標準溶液のアフラトキシン濃度の定量結果を示す図である。
【0077】
具体的には、図14に示すように、アフラトキシン検知部24−2の処理により推定したアフラトキシンの濃度(図14において、「アフラトキシン推定値(ppb)」)は、予め調製された真のアフラトキシン濃度(図14において、「アフラトキシン濃度(ppb)」)とよく一致しており(図14において、菱形のプロット)、測定対象物に含まれるアフラトキシンの濃度を定量できることを示している。
【0078】
図14に示すように、アフラトキシン推定値(ppb)(図14において、菱形のプロット)の決定係数(R2)は、0.999となった。ここで、決定係数は、1に近いほど精度が高いことを表す。よって、アフラトキシン検知部24−2の処理により推定したアフラトキシン推定値(ppb)の精度が非常に高いことが示された。したがって、本実施例1により、夾雑物がないアフラトキシン標準試薬の蛍光指紋から、PLS回帰分析により迅速かつ容易にアフラトキシンを計測可能であることが示された。なお、本実施例1では、蛍光指紋を3.7分で計測した。
【0079】
このように、本実施例1では、測定対象物はアフラトキシン標準試薬と溶媒のみなので、アフラトキシンのピーク(励起波長(Ex)365nm/蛍光波長(Em)450nm)のみでも、ある程度の定量は期待できる。しかし、実際の測定対象物(試料)には、様々な夾雑物が含まれているため、従来技術(非特許文献1等)では、このピークのみで定量することは不可能であった。そのため、従来技術(非特許文献1等)においては、これらの夾雑物を除く煩雑な前処理を必要としていた。一方、本発明のアフラトキシン検知方法およびアフラトキシン検知装置においては、その他の波長条件における蛍光指紋から得られた蛍光強度の情報を利用することにより、次の実施例2に示すように、夾雑物が存在したままであっても最適化を施し定量性を実現したことに大きな特徴がある。
【0080】
[実施例2]
本実施例2では、実施例1の図14が示す定量結果が、夾雑物を多く含む香辛料抽出溶液中のアフラトキシン濃度も蛍光指紋から定量できる可能性を示すため、香辛料のナツメグを測定対象物としたアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルを用いた。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した。そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定し、推定したアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知した。以下、図15〜図18を参照して実施例2の詳細について説明する。
【0081】
(2−1.測定対象物の準備)
本実施例2において、香辛料の一例であるナツメグを測定対象物として想定し、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルを準備した。
【0082】
まず、アフラトキシン非汚染サンプルを、非特許文献1に記載された、香辛料類のアフラトキシン分析用のイムノアフィニティーカラム(IAC)法の前処理にしたがって準備した。
【0083】
具体的には、採取したナツメグ検体を粉砕均一化して得たナツメグ試料50gを、ブレンダー容器または共栓付きナスフラスコ等に量り採り、これにアセトニトリル・水(9:1)400mLを加えた。そして、5分間撹拌抽出または30分間振とう抽出後、濾紙で濾過または遠心分離して、ナツメグ抽出濾液を準備した。なお、このナツメグ抽出濾液は、非常に着色が強いため、更に希釈溶媒としてアセトニトリル・水(9:1)を加えて10倍希釈した。そして、この10倍希釈後のサンプルを、蛍光指紋取得(EEM計測)時に用いるアフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)とした。そして、アフラトキシン非汚染サンプルの試料溶液400μLをミクロセル内に注入した。
【0084】
次に、アフラトキシン擬似汚染サンプルとして、上述のように準備したナツメグ抽出濾液に、溶液の5%分のアフラトキシン溶液(実施例1で用いたSIGMA社製のアフラトキシン標準試薬)を添加して準備した。更に、アフラトキシン擬似汚染サンプルを、希釈溶媒(アセトニトリル:水=9:1)を用いて、2.5ppb,5ppb,10ppb,20ppb,30ppb,60ppbの6種類の濃度に調製した。そして、希釈溶媒としてアセトニトリル・水(9:1)を加えて10倍希釈した。そして、この10倍希釈後のサンプルを、蛍光指紋取得時に用いるアフラトキシン擬似汚染サンプル(すなわち、0.25ppb,0.5ppb,1ppb,2ppb,3ppb,6ppbの6種類の濃度のサンプル)とした。そして、各アフラトキシン擬似汚染サンプルの試料溶液400μLをミクロセル内に注入した。
【0085】
(2−2.蛍光指紋情報の取得)
続いて、アフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの試料溶液400μLを注入したミクロセルを、実施例1と同様に蛍光指紋取得装置10(日立分光蛍光光度計F−7000)にセットした。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した。なお、測定条件は、実施例1と同様である。
【0086】
具体的には、蛍光指紋情報取得部24−1の処理により、図15に示すアフラトキシン非汚染サンプルの蛍光指紋情報と、図16および図17に示すアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した(但し、図15〜図17に表示された蛍光指紋情報は、データ前処理を行う前のものである)。ここで、図15は、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図16は、アフラトキシン擬似汚染サンプル(10ppb)の蛍光指紋を示す図である。また、図17は、アフラトキシン擬似汚染サンプル(30ppb)の蛍光指紋を示す図である。
【0087】
ここで、アフラトキシンを含まないアフラトキシン非汚染サンプルの蛍光指紋(図15)と、アフラトキシンを含むアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋(図16および図17)を比較したところ、実施例1と同様に、アフラトキシンの有無が蛍光指紋情報に反映されていることが示された。
【0088】
(2−3.アフラトキシンの検知)
続いて、取得したアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を適用して、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプル(21サンプル)に含まれるアフラトキシンの濃度推定を行った。ここで、PLS回帰分析を適用した21サンプル(7×3サンプル)は、0ppb,2.5ppb,5ppb,10ppb,20ppb,30ppb,60ppbの7濃度のサンプルそれぞれについて、3回計測を行ったものである。なお、実測時には各サンプルを10倍希釈するため、各サンプルの実測溶液中のアフラトキシン濃度は、0ppb,0.25ppb,0.5ppb,1ppb,2ppb,3ppb,6ppbの7濃度となる。
【0089】
すなわち、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)とアフラトキシン擬似汚染サンプル(2.5ppb,5ppb,10ppb,20ppb,30ppb,60ppb)の蛍光指紋情報に対してPLS回帰分析を行うことでアフラトキシンの量を推定した。具体的には、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報(すなわち、蛍光指紋をデータ前処理することで得られた2063個の蛍光指紋の輝度値)を説明変数とし、当該説明変数を潜在変数に変換し、当該潜在変数を回帰式に代入することで、目的変数のアフラトキシン濃度(すなわち、図18に示す「アフラトキシン推定値(ppb)」)を推定した。
【0090】
そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図18に示すように、推定したアフラトキシンの定量結果に基づいて、測定対象物(本実施例2において、アフラトキシン擬似汚染サンプル)からアフラトキシンを検知した。ここで、図18は、PLS回帰分析によるアフラトキシン擬似汚染サンプルのアフラトキシン濃度の定量結果を示す図である。
【0091】
具体的には、図18に示すように、アフラトキシン検知部24−2の処理により推定したアフラトキシンの濃度(図18において、「アフラトキシン推定値(ppb)」)は、予め調製された真のアフラトキシン濃度(図18において、「アフラトキシン濃度(ppb)」)とよく一致しており(図18において、菱形のプロット)、測定対象物に含まれるアフラトキシンの濃度を定量できることを示している。
【0092】
図18に示すように、アフラトキシン推定値(ppb)(図18において、菱形のプロット)の決定係数(R2)は、0.999となった。ここで、決定係数は1に近いほど精度が高いことを表す。また、標準誤差(SEC:Standard Error of Calibration)は、0.068ppbとなった。ここで、標準誤差は小さいほど精度が高いことを表す。よって、アフラトキシン検知部24−2の処理により推定したアフラトキシン推定値(ppb)の精度が非常に高いことが示された。したがって、本実施例2により、夾雑物が多く含まれるナツメグ抽出濾液(すなわち、アフラトキシン擬似汚染サンプル)の蛍光指紋から、PLS回帰分析により迅速かつ容易に低濃度のアフラトキシンを定量的に計測可能であることが示された。
【0093】
[実施例3]
本実施例3では、実施例2と同様に、測定対象物としてアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルを用いた。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した。そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報に対して判別分析を行い、当該判別分析により得られたアフラトキシンのスコア分布に基づいて、測定対象物からアフラトキシンの有無を判別した。以下、図19を参照して実施例3の詳細について説明する。
【0094】
(3−1.測定対象物の準備)
本実施例3において、実施例2と同様に、香辛料の一例であるナツメグを測定対象物として想定し、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルを準備した。なお、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの調製法については、アフラトキシン擬似汚染サンプルを10種類(0.2ppb,0.4ppb,0.6ppb,0.8ppb,1.0ppb,1.2ppb,1.5ppb,2.0ppb,2.5ppb,3.0ppb)のアフラトキシンB1の濃度に調製した以外、実施例2と同様であるため説明を省略する。そして、アフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの試料溶液400μLをミクロセル内に注入した。
【0095】
(3−2.蛍光指紋情報の取得)
続いて、実施例2と同様に、アフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの試料溶液400μLを注入したミクロセルを、蛍光指紋取得装置10(日立分光蛍光光度計F−7000)にセットした。そして、蛍光指紋情報取得部24−1の処理によりアフラトキシン非汚染サンプルと各アフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報を取得した。なお、測定条件は、計測波長範囲を、励起波長(Ex)240〜800nm/蛍光波長(Em)240〜800nmに調節した以外、実施例1および2と同様である。
【0096】
(3−3.アフラトキシンの検知)
続いて、取得したアフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプル(39サンプル)の蛍光指紋情報に対して判別分析を行った。ここで、判別分析した39サンプル(1×9+10×3サンプル)は、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)について9回計測を行い、10濃度の各アフラトキシン擬似汚染サンプル(0.2ppb〜3.0ppb)について、3回計測を行ったものである。
【0097】
具体的には、アフラトキシン検知部24−2の処理により、アフラトキシン非汚染サンプルとアフラトキシン擬似汚染サンプルの蛍光指紋情報(例えば、x1:励起波長(Ex)310/蛍光波長(Em)770〜x6:励起波長(Ex)670/蛍光波長(Em)760等の6個の蛍光指紋の輝度値)をパラメータとして、予め作成した以下の判別式に代入することで判別分析を行った。
【0098】
・判別式(正準1)
Y=−3.81x1+9.80x2+35.74x3−6.94x4−13.25x5+10.47x6
(x1:Ex310/Em770,x2:Ex380/Em450,x3:Ex460/Em710,x4:Ex500/Em730,x5:Ex600/Em760,x6:Ex670/Em760)
【0099】
そして、アフラトキシン検知部24−2の処理により、図19に示すように、得られたアフラトキシンの判別スコアの分布(図19に示す各プロット)に基づいて、測定対象物からアフラトキシンを検知した。ここで、図19は、判別分析による異なる濃度のアフラトキシンB1の判別スコアの分布を示す図である。
【0100】
図19に示すように、アフラトキシン非汚染サンプル(0ppb)からなる群(図19の左側部分に分布する9個のプロット群)と、各アフラトキシン擬似汚染サンプル(0.2ppb〜2.5ppb)からなる群(図19の右側部分に分布する30個のプロット群)との2つのプロット群が明確に分かれて分布することが示された。ここで、図19に示す判別分析による予測結果(すなわち、アフラトキシンB1が有ること示す30個のプロット群と、アフラトキシンB1が無いことを示す9個のプロット群の予測結果)は、予め調製された真の値(アフラトキシンB1有り:30個、アフラトキシンB1無し:9個)と一致した。したがって、本実施例3により、夾雑物が多く含まれるナツメグ抽出液の蛍光指紋から、判別分析によりアフラトキシンB1の有無を判別可能であることが示された。
【0101】
[他の実施の形態]
さて、これまで本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。
【0102】
また、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0103】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0104】
また、アフラトキシン検知装置20に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0105】
例えば、アフラトキシン検知装置20の各装置が備える処理機能、特に計算処理部24にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、後述する記録媒体に記録されており、必要に応じてアフラトキシン検知装置20に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDなどのメモリ21などは、OS(Operating System)として協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0106】
また、このコンピュータプログラムは、アフラトキシン検知装置20に対して任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0107】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD、および、Blu−ray Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0108】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施の形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0109】
メモリ21に格納される各種のデータベース等は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラムやテーブルやデータベースやウェブページ用ファイル等を格納する。
【0110】
また、アフラトキシン検知装置20は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、該情報処理装置に任意の周辺装置を接続して構成してもよい。また、アフラトキシン検知装置20は、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0111】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上詳述に説明したように、本発明によれば、蛍光指紋を測定し解析することにより、煩雑な前処理を不要にし、迅速かつ容易にアフラトキシンを検知することができるアフラトキシン検知方法、アフラトキシン検知装置、および、プログラムを提供することができるので、食品分野などの様々な分野において極めて有用である。
【0113】
このように、本発明は、非破壊、非接触での計測にも関わらず、低濃度のアフラトキシンを正確に計測することができ、また、様々のアフラトキシン(例えば、アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、アフラトキシンG2、および、それらの混在物の総量等)も計測することができるので、基礎研究領域や食品製造現場における検査などの様々な分野において広く使用することができる、非常に汎用性の高い手法である。また、本発明は、測定条件の絞込みにより測定時間短縮を行うことで、工場等での全数検査やリアルタイムモニタリングに応用することも可能である。
【符号の説明】
【0114】
10 蛍光指紋取得装置
11 分光照明装置
110 光源
112 分光装置
12 分光検出装置
122 分光装置
124 指紋検出装置
13 測定対象物
20 アフラトキシン検知装置
21 メモリ
22 キーボード・マウス
23 制御部
24 計算処理部
24−1 蛍光指紋情報取得部
24−2 アフラトキシン検知部
30 ディスプレイ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知方法であって、
所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得工程、および、
前記蛍光指紋情報取得工程にて取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知工程、
を含むことを特徴とする、アフラトキシン検知方法。
【請求項2】
前記アフラトキシン検知工程にて、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項1に記載のアフラトキシン検知方法。
【請求項3】
前記アフラトキシン検知工程にて、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項1に記載のアフラトキシン検知方法。
【請求項4】
前記アフラトキシンは、
アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項1から3のうちいずれか一つに記載のアフラトキシン検知方法。
【請求項5】
前記測定対象物は、
穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項1から4のうちいずれか一つに記載のアフラトキシン検知方法。
【請求項6】
測定対象物に所定の励起波長を照射する分光照明装置と、所定の蛍光波長で前記測定対象物を計測する分光検出装置とを備えた、前記測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知装置であって、
所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得部、および、
前記蛍光指紋情報取得部により取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知部、
を備えたことを特徴とする、アフラトキシン検知装置。
【請求項7】
前記アフラトキシン検知部は、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項6に記載のアフラトキシン検知装置。
【請求項8】
前記アフラトキシン検知部は、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項6に記載のアフラトキシン検知装置。
【請求項9】
前記アフラトキシンは、
アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項6から8のうちいずれか一つに記載のアフラトキシン検知装置。
【請求項10】
前記測定対象物は、
穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項6から9のうちいずれか一つに記載のアフラトキシン検知装置。
【請求項11】
測定対象物に所定の励起波長を照射する分光照明装置と、所定の蛍光波長で前記測定対象物を計測する分光検出装置とを備えた、前記測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知装置に実行させるためのプログラムであって、
前記アフラトキシン検知装置において、
所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得工程、および、
前記蛍光指紋情報取得工程にて取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知工程、
を実行させるためのプログラム。
【請求項12】
前記アフラトキシン検知工程にて、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項11に記載のプログラム。
【請求項13】
前記アフラトキシン検知工程にて、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項11に記載のプログラム。
【請求項14】
前記アフラトキシンは、
アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項11から13のうちいずれか一つに記載のプログラム。
【請求項15】
前記測定対象物は、
穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項11から14のうちいずれか一つに記載のプログラム。
【請求項1】
測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知方法であって、
所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得工程、および、
前記蛍光指紋情報取得工程にて取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知工程、
を含むことを特徴とする、アフラトキシン検知方法。
【請求項2】
前記アフラトキシン検知工程にて、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項1に記載のアフラトキシン検知方法。
【請求項3】
前記アフラトキシン検知工程にて、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項1に記載のアフラトキシン検知方法。
【請求項4】
前記アフラトキシンは、
アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項1から3のうちいずれか一つに記載のアフラトキシン検知方法。
【請求項5】
前記測定対象物は、
穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項1から4のうちいずれか一つに記載のアフラトキシン検知方法。
【請求項6】
測定対象物に所定の励起波長を照射する分光照明装置と、所定の蛍光波長で前記測定対象物を計測する分光検出装置とを備えた、前記測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知装置であって、
所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得部、および、
前記蛍光指紋情報取得部により取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知部、
を備えたことを特徴とする、アフラトキシン検知装置。
【請求項7】
前記アフラトキシン検知部は、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項6に記載のアフラトキシン検知装置。
【請求項8】
前記アフラトキシン検知部は、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項6に記載のアフラトキシン検知装置。
【請求項9】
前記アフラトキシンは、
アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項6から8のうちいずれか一つに記載のアフラトキシン検知装置。
【請求項10】
前記測定対象物は、
穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項6から9のうちいずれか一つに記載のアフラトキシン検知装置。
【請求項11】
測定対象物に所定の励起波長を照射する分光照明装置と、所定の蛍光波長で前記測定対象物を計測する分光検出装置とを備えた、前記測定対象物からアフラトキシンを検知するアフラトキシン検知装置に実行させるためのプログラムであって、
前記アフラトキシン検知装置において、
所定の励起波長範囲および所定の蛍光波長範囲で、照射する励起波長および観測する蛍光波長を段階的に変化させながら、前記測定対象物の蛍光強度を測定して、前記測定対象物の蛍光指紋情報を取得する蛍光指紋情報取得工程、および、
前記蛍光指紋情報取得工程にて取得した前記蛍光指紋情報に対して多変量解析を行い、当該多変量解析の結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知するアフラトキシン検知工程、
を実行させるためのプログラム。
【請求項12】
前記アフラトキシン検知工程にて、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析としてPLS回帰分析を行うことで前記アフラトキシンの量を推定し、当該推定された前記アフラトキシンの定量結果に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項11に記載のプログラム。
【請求項13】
前記アフラトキシン検知工程にて、
前記蛍光指紋情報に対して前記多変量解析として判別分析を行い、当該判別分析により得られた前記アフラトキシンの判別スコアの分布に基づいて、前記測定対象物から前記アフラトキシンを検知すること、
を特徴とする、請求項11に記載のプログラム。
【請求項14】
前記アフラトキシンは、
アフラトキシンB1、アフラトキシンB2、アフラトキシンG1、および、アフラトキシンG2のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項11から13のうちいずれか一つに記載のプログラム。
【請求項15】
前記測定対象物は、
穀物、ナッツ類、および、香辛料のうち少なくとも1つであること、
を特徴とする、請求項11から14のうちいずれか一つに記載のプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−177607(P2012−177607A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40403(P2011−40403)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会 第57回大会講演集,発行日 平成22年9月1日
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000116297)ヱスビー食品株式会社 (40)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会 第57回大会講演集,発行日 平成22年9月1日
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000116297)ヱスビー食品株式会社 (40)
【Fターム(参考)】
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