説明

アブソリュートエンコーダ装置及びモータ

【課題】組み付けが容易であり高分解能を達成する小型のアブソリュートエンコーダ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、第1の磁気パターン14(2極)と第2の磁気パターン16(多極)とを有する永久磁石4と、第1の磁気パターン14の磁界を検出する第1の磁気センサ5と、第2の磁気パターン16の磁界を検出する第2の磁気センサ6と、第1及び第2の磁気センサ5,6の出力信号から、回転軸2の絶対的な回転角度を算出する信号処理回路7とを備えるエンコーダ装置1であり、第1及び第2の磁気センサ5,6と信号処理回路7は単一基板8に固定され、第1の磁気パターン14は永久磁石4の内側において軸方向と交わる方向に延びる面上に形成され、第2の磁気パターン16は永久磁石4の外周面に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブソリュートエンコーダ装置及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータの回転を制御する装置として、アブソリュートエンコーダ装置が挙げられる。アブソリュートエンコーダ装置は、モータの回転方向、回転数、回転位置の検出等に用いることができる。このアブソリュートエンコーダ装置には、磁気式と光学式がある。磁気式は、光学式に比べて安価であり、耐環境性に優れている。
【0003】
磁気式アブソリュートエンコーダ装置は、一例として、回転軸に固定した2極の永久磁石に磁気センサを対向設置して構成する。磁気センサとしては、磁気抵抗効果素子であるスピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子(SV−GMR)を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。SV−GMR型磁気センサは、固定層と自由層を有し、固定層磁化方向が固定されており、自由層磁化方向が外部磁界方向に応じ変化をする。自由層と固定層からなる抵抗変化で、回転軸が1回転したとき互いに位相の異なる正弦波信号を出力する。しかしながらSV−GMR型磁気センサを回転検出に利用した場合、自由層磁化方向は外部磁界に応じて回転するため、参照方向として使用される固定層の磁化の方向や、各層の結合(静磁結合等)に影響を与えることなく、自由層の磁界を完全に飽和させることは、不可能である。したがって、飽和磁界以下の外部磁界での動作となり、抵抗変化率が制限される。
【0004】
また、他の磁気センサとして、磁気抵抗効果素子である異方性磁気抵抗効果素子(AMR)にバイアス磁石を具備したものがある(例えば、特許文献2参照)。このAMR型磁気センサは、参照方向の磁化の方向は安定な永久磁石の磁界であり、単層であるため各層の結合に影響を及ぼすことがない。しかしながら、SV−GMR型磁気センサに比べ,抵抗変化率が低い等の問題がある。したがって、2極の永久磁石のみを用いたアブソリュートエンコーダ装置では、磁気センサのタイプに関わらず、高分解能、高精度を得ることが難しい。
【0005】
このような技術背景を踏まえて、センサの種類ではなく、永久磁石等の構成によって、エンコーダ装置の高分解能化、高精度化を達成しようとする装置も知られている(例えば、特許文献3及び4)。特許文献3のエンコーダ装置では、円板状に形成された回転基板の外周面に回転位置検出用マグネット(PGマグネット)が設けられ、この回転基板の上面には磁極位置検出用マグネット(ポールマグネット)が設けられている。また、特許文献4のエンコーダ装置では、円板状回転体の外周面に多極着磁された第1のトラックが形成され、この円板状回転体の下面には、単極着磁された第2のトラックが形成されている。このように、特許文献3及び4の装置では、2種類の磁気パターンを組み合わせることによって、2極の永久磁石のみを用いたアブソリュートエンコーダ装置よりも、高分解能、高精度を得ることを意図している。
【0006】
しかしながら、特許文献3の装置では、磁極位置検出用マグネットからの磁界を検出する磁極位置検出素子(ホール素子)を支持する基板とは別に、回転位置検出用マグネットからの磁界を検出する位置検出素子(MR素子)を支持するための基板又は支持部材が必要である。また、強い磁場を発生する磁極位置検出用マグネットが回転基板の上面に設けられているため、磁極位置検出用マグネットからの磁界が回転位置検出用マグネットの磁界及びこのマグネットからの磁界を検出する位置検出素子に影響を与えてしまう。これに対応するため、特許文献3では、磁極位置検出用マグネットと回転位置検出用マグネットの間に、別部材として磁気シールド板を設置している。
【0007】
特許文献4のエンコーダ装置でも、強い磁場を発生する第2のトラックが円板状回転体の下面に設けられているため、第2のトラックからの磁界が第1のトラックの磁界及びこの第1のトラックからの磁界を検出する磁気検出素子に影響を与えてしまう構造となっている。加えて、第2のトラックからの磁界を検出する磁気検出素子を支持する基板とは別に、第1のトラックからの磁界を検出する磁気検出素子を支持する支持部材が必要である。
【0008】
このように、特許文献3及び4の装置では、2個の磁気センサを支持するために、それぞれ別部材が必要であり、磁石との距離及び互いのセンサ間の距離を考慮してこの別部材を組み付けなければならないため、組み付け時の調整が必要になると共に、コストもかかる。さらに、一方の磁気パターンを円板状回転体の外周面に設け、他方の磁気パターンを円板状回転体の上面又は下面に設けているため、磁気パターン同士の漏洩磁界による干渉の問題がある。これを解消するために磁気シールド板を設けた場合、さらに部品点数が増加し、組み付けの困難性及びコストが増加する。
【0009】
また、特許文献3の装置では、磁極位置検出用マグネットからの磁界から、磁極位置検出素子がモータの駆動用コイルへの通電位置を1回転あたり数パルス程度で検出するように構成され、特許文献4の装置では、第2のトラックからの磁界を検出する磁気検出素子が、1回転に1回のインデックス信号、すなわちZ相信号を出力するように構成されている。このような出力信号を用いて、特許文献3及び4の装置をアブソリュートエンコーダ装置として機能させるためには、回転位置検出用マグネットからの磁界を検出する位置検出素子(特許文献3)及び第1のトラックからの磁界を検出する磁気検出素子(特許文献4)から取得したインクリメンタルな出力信号に対する複雑な演算処理が必要であり、この演算処理のための構成部材を別途設けなければならない。例えば特許文献4の装置では、アブソリュート仕様において、必要な多回転情報を保持するために、カウンタとバッテリーを設けている。また、特許文献4の装置を一回転以内の絶対位置を検出するアブソリュートエンコーダ装置として機能させるためにも、カウンタとバッテリーが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−70325号公報
【特許文献2】特開2006−208025号公報
【特許文献3】特開2001−4405号公報
【特許文献4】特開2004−144497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記に鑑みて、本発明は、高分解能及び高精度を維持しながら、組み付けが容易であり安価に実現可能なアブソリュートエンコーダ装置及びモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、2極から構成される第1の磁気パターンと多極から構成される第2の磁気パターンとを有し、回転軸に固定された永久磁石と、前記第1の磁気パターンの磁界を検出する第1の磁気センサと、前記第2の磁気パターンの磁界を検出する第2の磁気センサと、前記第1の磁気センサの出力信号から、前記回転軸の絶対角度位置を示す絶対角度信号を取得し、前記第2の磁気センサの出力信号から前記回転軸の相対角度位置を示す相対角度信号を取得し、前記絶対角度信号と前記相対角度信号から、前記回転軸の絶対的な回転角度を算出する信号処理回路と、前記永久磁石に対向して配置され、前記第1及び第2の磁気センサと前記信号処理回路とを固定する単一基板とを備えるアブソリュートエンコーダ装置であり、前記第1の磁気パターンは前記永久磁石の前記基板と対向する面に形成された凹部内側において軸方向と交わる方向に延びる面上に回転方向に沿って異なる極性を着磁して形成され、前記第2の磁気パターンは前記永久磁石の外周面に円周方向に沿って異なる極性を交互に着磁して形成される。なお、明細書及び特許請求の範囲の記載において「多極」とは4極以上を意味する。
【0013】
例えば、前記第1の磁気センサは、NS極を判別できる周期で位相の異なる信号を出力するように構成され、前記第2の磁気センサは、NS極を判別しない周期で位相の異なる信号を出力するように構成され、前記第1及び第2の磁気センサの特性に応じて、前記永久磁石と前記単一基板との間の距離と、前記永久磁石の厚さを選択する。一例として、前記第1及び第2の磁気センサは、複数の磁気抵抗効果素子によって構成されたブリッジ回路を備える。他の例として、前記第1の磁気センサは、複数のホール素子によって構成される。
【0014】
前記単一基板は一方向に延びる面一の平面を有し、前記第1及び第2のセンサは、同一の前記平面上に直接実装、すなわち、基板と各センサとの間に他の支持部材を介することなく実装されても良い。
【0015】
一例として、前記第1の磁気パターンは円形状に形成され、前記第1の磁気センサは前記回転軸の軸線上に配置されている。他の例として、前記第1の磁気パターンはリング状に形成され、前記第1の磁気センサは前記回転軸の軸線上からオフセットされた位置に配置されている。なお、明細書及び特許請求の範囲の記載において、円形状とは、半円形状のN極部分と半円形状のS極部分との間に所定の隙間を有する略円形状も含む。同様に、リング形状とは、半リング形状のN極部分と半リング形状のS極部分との間に所定の隙間を有する略リング形状も含む。
【0016】
前記永久磁石の内側にリング状の磁性体を備えるように構成してもよい。本発明の他の態様は、前述のアブソリュートエンコーダ装置を備えるモータであり、前記回転軸はモータの駆動機構である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明では、2極から構成される第1の磁気パターンの磁界と多極から構成される第2の磁気パターンの磁界を検出して、第1の磁気パターンから得られる絶対角度信号に加えて、第2の磁気パターンから得られる相対角度信号を用いることによって、エンコーダ装置の高分解能化及び高精度化を実現している。また、第1の磁気パターンを永久磁石の凹部内側において軸方向と交わる方向に延びる面上に形成し、第2の磁気パターンを永久磁石の外周面に形成しているため、磁気パターン同士の漏洩磁界による干渉の問題が軽減され、磁気シールドのような別部材を設置する必要がなくなる。したがって、組み付けの容易化及びコスト低減を図ることが可能となっている。加えて、請求項1の発明では、第1及び第2の磁気センサと信号処理回路を単一基板に固定している。したがって、第1及び第2の磁気センサと信号処理回路を支持するために複数の基板又は他の支持部材を使用する場合と比較して、組み付けの容易化及びコスト低減にさらに寄与することができる。このように、請求項1に係る発明によって、高分解能及び高精度を維持しながら、組み付けが容易であり安価に製造可能なアブソリュートエンコーダ装置を実現することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、第1の磁気センサから、NS極を判別できる周期で位相の異なる信号を出力し、第2の磁気センサから、NS極を判別しない周期で位相の異なる信号を出力するように構成している。したがって、第1の磁気センサの位相の異なる信号から絶対角度信号を取得でき、第2の磁気センサの前記位相の異なる信号から相対角度信号を取得できるため、複雑な演算処理を必要とすることなく、回転軸の絶対的な回転角度を得ることができる。また、複雑な演算処理のための構成部材を別途設ける必要がなくなるため、装置全体の小型化及びコストの削減にも寄与する。
【0019】
そして、永久磁石と単一基板との間の距離と、永久磁石の厚さは、第1及び第2の磁気センサの特性に応じて選択できるため、第1及び第2の磁気センサの単一基板における固定位置を変更することなく、永久磁石と単一基板との間の距離を調整するか、永久磁石の厚さを調整するか、又はこの両者を調整することによって、各センサと永久磁石との位置関係を調整し、各センサに適した磁界強度を得ることができる。よって、エンコーダ装置の製造過程において組み付け作業の一層の容易化が実現する。
【0020】
請求項3に係る発明では、第1及び第2の磁気センサを、単一基板の同一平面上に直接実装している。したがって、第1及び第2の磁気センサを単一基板に固定する際に、例えば、実装機(マウンタ)による機械的な組み付けが可能であり、組み付けのさらなる容易化を図ることができる。
【0021】
請求項4に係る発明は、回転軸の先端に永久磁石を固定する構造のアブソリュートエンコーダ装置に適用できる。請求項5に係る発明は、回転軸貫通型構造のアブソリュートエンコーダ装置に適用できる。
【0022】
請求項6に係る発明では、外部からの浮遊磁界に強い構造を実現することができる。請求項7に係る発明では、請求項1〜6に係る発明を適用したアブソリュートエンコーダ装置付きモータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態に係るアブソリュートエンコーダ装置の断面図である。
【図2】図1に示すアブソリュートエンコーダ装置の平面図である。
【図3】(a)第1の実施形態に係る第1の磁気パターンを示すための永久磁石の斜視図である。(b)第1の実施形態に係る第2の磁気パターンを示すための永久磁石の斜視図である。
【図4】磁石内部の反磁界を示すための永久磁石の斜視図である。
【図5】(a)第1の実施形態に係る第1の磁気センサの構造図である。(b)(a)図に示す構造の等価回路図である。
【図6】(a)第1の磁気センサの出力信号を回転角に対して示す波形図である。(b)第1の磁気センサの出力信号のリサージュ波形である。(c)第1の磁気センサの出力信号から逆正接によって得た角度値を示すグラフである。
【図7】(a)第2の磁気センサを構成するエレメントの構造図である。(b)(a)図に示す構造の等価回路図である。
【図8】第2の磁気センサが検出する磁界を示すための永久磁石の斜視図である。
【図9】(a)第2の磁気センサの検出原理を説明するための永久磁石の平面図である。(b)(a)図に示す各エレメントの出力信号を示す波形図である。
【図10】第1の実施形態に係る第2の磁気センサの構造図である。
【図11】(a)第2の磁気パターンからの磁界と第2の磁気センサとの位置関係を示すアブソリュートエンコーダ装置の斜視図である。(b)(a)図に示す永久磁石が回転軸の軸方向にずれた場合における、第2の磁気パターンからの磁界と第2の磁気センサとの位置関係を示すアブソリュートエンコーダ装置の斜視図である。
【図12】第1の実施形態に係る信号処理回路の構成図である。
【図13】(a)第2の磁気センサからの出力信号を示す波形図である。(b)(a)図に示す出力信号から取得した相対角度信号を示す波形図である。(c)第1の磁気センサからの出力信号を示す波形図である。(d)(c)図に示す出力信号から取得した絶対角度信号を示す波形図である。
【図14】角度データθ1と角度データθ2との関係を示す波形図である。
【図15】第1の実施形態に係るアブソリュートエンコーダ装置を取り付けたモータの構成図である。
【図16】第2の実施形態に係るアブソリュートエンコーダ装置の断面図である。
【図17】図16に示すアブソリュートエンコーダ装置の平面図である。
【図18】第2の実施形態における第1の磁気パターンを示すための永久磁石の斜視図である。
【図19】(a)第1の磁気パターンが円形状の場合の磁界を示す斜視図である。(b)第2の磁気パターンがリング形状の場合の磁界を示す斜視図である。
【図20】(a)他の実施形態に係る第2の磁気センサのエレメントの構造図である。(b)(a)図に示す構造の等価回路図である。
【図21】他の実施形態に係る第2の磁気センサの構造図である。
【図22】(a)さらなる他の実施形態に係る第2の磁気センサの構造図である。(b)(a)図に示す構造の等価回路図である。
【図23】(a)他の実施形態に係る第1の磁気センサの構造図である。(b)(a)図に示す構造の等価回路図である。
【図24】(a)さらなる他の実施形態に係る第1の磁気センサの構造図である。(b)(a)図に示すセンサの回路図である。
【図25】他の実施形態に係る永久磁石の斜視図である。
【図26】回転軸と永久磁石との他の固定方法を示すための永久磁石の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の実施形態]
以下、本発明の実施の形態を添付の図により説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るアブソリュートエンコーダ装置の断面図であり、図2は図1に示すエンコーダ装置を上から見た平面図である。エンコーダ装置1は、回転軸2に固定された永久磁石4と、第1の磁気センサ5と第2の磁気センサ6と信号処理回路7とを支持する基板8を備えている。永久磁石4は周縁に沿って下部側に突条部を形成したカップ形状を有する円板状の本体部11と本体部11上面中央部から回転軸2の側に段差部を形成して突出する回転軸固定部12を有している。本実施形態においては、回転軸2の先端を永久磁石4の回転軸固定部12の中心軸に設けられた凹部に挿入して、圧着又は接着することにより、永久磁石4を回転軸2に固定している。
【0025】
基板8は単一基板であり、面一に一方向に延びる平面8aを有する基板である。第1及び第2の磁気センサ5,6は、基板8の同一平面8a上に固定されている。図1に示すように、基板8は永久磁石本体部11のカップ形状の凹部13を覆うように永久磁石4の下面側に対向して配置される。
【0026】
永久磁石4の本体部11の内側上面11aには下面側に向けて回転軸の回転方向に沿って第1の磁気パターン14が形成され、本体部11の外周面には円周方向に沿って第2の磁気パターン16が形成されている。第1の磁気センサ5は第1の磁気パターン14からの磁界を検出するように第1の磁気パターン14に対向して基板8の一方の面8a上に設置され、第2の磁気センサ6は第2の磁気パターン16からの磁界を検出するように第2の磁気パターン16に対向し、永久磁石4の外周側に一定間隔を有して、基板8の前記一方の面8a上に設置されている。基板8の他方の面には、信号処理回路7が固定されている。
【0027】
図3は、永久磁石4の斜視図である。説明のため、(a)図では第1の磁気パターン14のみを示し、(b)図では第2の磁気パターン16のみを示している。永久磁石4の本体部11は、図1に示す位置関係において、円板の下面内側に凹部13を形成したカップ形状に構成されている。永久磁石4の内側において軸方向と交わる方向に延びる面11a(図1に示す位置関係においては、基板8に対向する凹部内側上面11a、すなわち、図3(a)に示す位置関係においては、カップ形状の内側底面11a)に回転方向に沿って2極から構成される第1の磁気パターン14が形成され(図3(a)参照)、外周面11bに円周方向に沿って交互にN極とS極を順次着磁した多極から構成される第2の磁気パターン16が形成されている(図3(b)参照)。この実施形態においては、樹脂磁石から永久磁石4を成形している。よって本体部11のカップ形状と回転軸固定部12の構造を容易に形成することができる。第1の磁気パターン14と第2の磁気パターン16は面着磁によって形成される。面着磁とは、着磁を施す面にのみヨークを近接し着磁する方法である。
【0028】
第2の磁気パターン16は永久磁石4の本体部外周面11bにS極、N極を円周方向に交互に多極着磁して形成する。本実施形態の着磁方法は、表裏に着磁する両面着磁ではなく片面だけを着磁する面着磁によって行う。すなわち、本体部外周面11bにのみ面着磁し、凹部13の側面を画定する本体部内周面には着磁しない。本体部外周面11bのみへの面着磁によって、本体部外周面11bのみから磁界が発生し、本体部内周面からは磁界は発生しない。また、本体部外周面11bに面着磁した第2の磁気パターン16からの磁界は、本体部11の凹部13へ漏洩しにくい。この点について、本体部外周面11bへの面着磁によって生じる樹脂磁石内部の反磁界を、図4に曲線で示す。第2の磁気パターン16の反磁界が図4に示すように永久磁石4の内部に発生するため、外周面11bに着磁された第2の磁気パターン16の磁界が、本体部11のカップ形状の内側へ漏洩することを軽減できる。また、第1の磁気パターン14は、永久磁石4の下面又は上面ではなく、永久磁石4に形成された凹部13の内側において、軸方向と交わる方向に延びる面11a上に面着磁によって形成されている。この面着磁も、第2の磁気パターン16の面着磁と同様に、片面だけを着磁する面着磁であり、第1の磁気パターン14は、面11a上にのみ着磁される。したがって、第1の磁気パターン14から本体部11の外側への漏洩磁界が軽減される。よって、第1の磁気パターン14の漏洩磁界が第2の磁気センサ6に干渉せず、第2の磁気パターン16の漏洩磁界が第1の磁気センサ5に干渉しない構造となっている。
【0029】
永久磁石4の厚さは、第1及び第2の磁気センサ5,6の特性に応じて、調整することができる。例えば、第1の磁気センサ5がより強い磁力を必要とする場合には、永久磁石4の厚さを薄く形成することによって、第1の磁気センサ5と永久磁石4の凹部内側に形成した第1の磁気パターン14との距離を近接させることができ、第2の磁気センサ6がより強い磁力を必要とする場合には、永久磁石4の厚さを厚く形成することによって、永久磁石4の第2の磁気パターン16の着磁面積を増加させることができる。
【0030】
次に各磁気センサ5,6について説明する。第1の磁気センサ5は、NS極を判別できる周期で位相の異なる信号を出力する磁気センサである。本実施形態では、一例として、第1の磁気センサ5にSV−GMR型磁気センサを用いている。図5(a)は第1の磁気センサ5を構成するSV−GMRの感磁面エリア(e1〜e8)と固定層の磁化方向(m1〜m8)を示す構造図であり、図5(b)はその等価回路を示す図である。感磁面エリアe1及びe2から構成される群と、感磁面エリアe5及びe6から構成される群と、感磁面エリアe3及びe4から構成される群と、感磁面エリアe7及びe8から構成される群とは、図5(a)に示すように、同一円周上に90度間隔で配置されている。
【0031】
感磁面エリアの抵抗値変化は、下記(1)式によって求められる。
R=R0−ΔRcos(θ−θpin)・・・(1)
R0:SV−GMRに外部磁界が印加されていない時の抵抗値
ΔR:抵抗値変化
θ:外部磁界の磁化方向(自由層の磁界方向)
θpin:固定層の磁化方向
上記(1)式の抵抗変化を有する感磁エリアを図5(a)に示すように配置することで、磁界周期と同じ周期で、NS極が判別でき且つ位相の異なる信号が得られる。
【0032】
この第1の磁気センサ5は、第1の磁気パターン14の磁界を検出し、1回転で、互いに90度位相の異なる2相の正弦波信号を1周期分出力する。この出力は複雑な演算処理を要することなく絶対角度信号(アブソリュート信号)となる。第1の磁気センサ5は、外部磁界の強度に応じて図6に示す出力特性を有する。図6(a)は第1の磁気センサ5の出力を回転角に対して示し、図6(b)は第1の磁気センサ5の出力のリサージュ波形を示し、図6(c)は、第1の磁気センサ5から得た位置情報を逆正接(Arctan)によって角度に変換した絶対角度信号を示している。図6(a)及び(b)では、第1の磁気センサ5と第1の磁気パターン14が互いに近づいた場合の出力信号を点線で示し、第1の磁気センサ5と第1の磁気パターン14が離れた場合の出力信号を実線で示している。第1の磁気センサ5と永久磁石4が近づくと、第1の磁気センサ5に印加される磁界強度が増加し2相の正弦波信号のピークトゥピーク出力(A1,B1)が同時に増加する。第1の磁気センサ5と永久磁石4が離れると、2相の正弦波信号のピークトゥピーク出力(A2,B2)が同時に減少する。したがって、図6(c)に示すように、回転軸2が回転軸方向にずれても、逆正接(Arctan)等の演算処理で得られる絶対角度信号に影響を及ぼさない。
【0033】
次いで第2の磁気センサ6について説明する。図7(a)は第2の磁気センサ6を構成するエレメントの構造図であり、図7(b)は図7(a)に示す構造の等価回路図である。第2の磁気センサ6は、後述するように、図7(a)に示すエレメントを複数個備えている。このエレメントは、縦方向の格子状に形成されてR1の抵抗を有する磁気抵抗効果素子21と、横方向の格子状に形成されてR2の抵抗を有する磁気抵抗効果素子22が直列に結線した形状を有し、磁気抵抗効果素子22の端部は電極23に接続している。このように、磁気抵抗効果素子21の延伸方向に対して、磁気抵抗効果素子22の延伸方向は略垂直方向となっているため、磁気抵抗効果素子21に対して最も大きな抵抗値変化を与える垂直方向の磁界は、磁気抵抗効果素子22に対し最小の抵抗値変化を与える磁界となる。ここで、磁気抵抗効果素子21,22の抵抗値R1,R2は次式で与えられる。
R1=R0−ΔRsin θ …(2)
R2=R0−ΔRcos θ …(3)
等価回路からの出力Voutは次式で与えられる
【数1】

(4)式に(2)、(3)式を代入し整理すると
【数2】

の(5)式が成立する。
【0034】
第2の磁気センサ6が検出する磁界を図8において矢印で示す。図8では永久磁石4に形成された第2の磁気パターン16から外部に出る磁界を矢印で示している。図9(a)は図8に示す第2の磁気パターン16と磁界の関係を永久磁石4の上面から見た図であり、第2の磁気センサ6の検出原理を説明するため、永久磁石4と共に図7(a)に示すエレメントを5個(エレメント6a〜6e)並べて図示している。図9(a)において、第2の磁気パターン16から円弧状に延びる細い矢印は図7に示した第2の磁気パターンから外部へ出る磁界を示し、各エレメント6a〜6e上に図示した太い矢印は各エレメント6a〜6eに印加される磁界を示す。
【0035】
エレメント6a〜6eは、図9(a)に示すように、第2の磁気パターン16に沿って横一列に配置されている。エレメント6aの位置をa、エレメント6bの位置をb、エレメント6cの位置をc、エレメント6dの位置をd、エレメント6eの位置をeとし、磁気パターン1ピッチをPとすると、位置b〜eの位置aからの距離は、それぞれ、位置b=P/4、位置c=P/2、位置d=3P/4、位置e=4P/4となっている。永久磁石4が図9(a)において左に回転すると仮定すると各エレメント6a〜6eの出力信号は、磁気パターン1ピッチで1周期の出力となる。図9(a)に示すエレメント6a〜6eと第2の磁気パターン16との位置関係において、エレメント6a〜6eから出力される信号波形を図9(b)に示す(なお、説明のため各エレメント6a〜6eから出力される2相の出力信号のうち、一方の出力信号の波形のみを図示している)。
【0036】
したがって、図10に示すように、第2の磁気センサ6を、位置a〜位置dに配置した4個のエレメント6a〜6dを備える磁気センサとすることによって、エレメント6aからはcos、エレメント6bからは−sin、エレメント6cからは−cos、エレメント6dからはsin波形の信号を得ることができる。各エレメント6a〜6dは、図7(a)を参照して説明したように、互いの延伸方向が約90度異なる2個の磁気抵抗効果素子から成るため、第2の磁気パターン16が回転すると、第2の磁気センサ6からは、NS極を判別しない周期で90度位相の異なる2相の正弦波信号が出力される。
【0037】
次に第2の磁気センサ6と第2の磁気パターン16の位置関係について説明する。図11は、エンコーダ装置1の側面から見た永久磁石4と第2の磁気センサ6の位置関係を図示している。永久磁石4は回転軸2と共に回転するため、第2のセンサ6を支持する基板8との距離が変化することがある。例えば、図11(a)において基板8との距離g1を有する永久磁石4が、基板8から離れる方向へずれて図11(b)に示すように、基板8に対して、距離g1より大きい距離g2を有する位置に移動してしまう場合が想定される。この場合、基板8は、磁気センサ6を支持しているため、永久磁石4と磁気センサ6との距離が変動する。しかしながら、第2の磁気パターン16からの磁界は図11(a),(b)に示すように、垂直以外の下向きに発生しているため、永久磁石4と磁気センサ6との距離の変動は、第2の磁気センサ6の出力にはあまり影響しない。
【0038】
また、永久磁石4と基板8との間の距離は、第1及び第2の磁気センサ5,6の特性に応じて、調整することができる。例えば、第1の磁気センサ5,6がより強い磁力を必要とする場合には、永久磁石4と基板8との間の距離を短く設定すれば良い。
【0039】
本実施形態において、第1の磁気センサ5,6は実装機(マウンタ)によって基板8の同一平面8a上に機械的に実装される(図1参照)。第1の磁気センサ5,6の取り付けに際して、基板8と第1の磁気センサ5,6の間に他の支持部材は不要である。
【0040】
次いで信号処理回路7について説明する。1回転内の細かい間隔(角度)を測定するには、磁気センサ5,6から出力される正弦波状信号の位相変化を用いて、その空間周期をさらに細かくする内挿処理が必要である。この内挿処理を実行する信号処理回路7の構成を図12に示す。信号処理回路7は、一例としてCPUを用いて実現される。信号処理回路7には第1の磁気センサ5の出力と第2の磁気センサ6の出力が入力される。図13(a)に第2の磁気センサ6の出力A2,B2の波形を示し、図13(c)に第1の磁気センサ5からの出力A1,B1を示す。図13(a),(c)に示す90度位相を有するA相、B相信号を、それぞれ、所定の周期でサンプリングし、信号処理回路7のA/D変換部7aによってデジタル信号へ変換する。本実施形態では、一例として、10ビット(210)のA/D変換を行なっている。
【0041】
逆正接演算部7bは、得られたデジタル信号から、逆正接(arctan)を求めることによって、第1のセンサ5からの出力に基づく角度データθ1と第2のセンサ6からの出力に基づく角度データθ2を算出する。θ2の出力信号波形を図13(b)に示し、θ1の出力波形信号を図13(d)に示す。絶対角度算出部7cは、角度データθ1と角度データθ2から、回転軸2の絶対的な回転角度を算出して絶対角度データθを算出する。角度データθ1と角度データθ2の関係を図14に示す。仮に、第2の磁気パターン16が32極(2極)の場合、図14に示すように、第1の磁気センサ5からの1周期分の出力に対して、第2の磁気センサ6からは32周期分の出力が得られる。本実施形態では10ビットの内挿処理を実行しているため、角度データθ2の1周期は1024ビットに対応する。したがって、絶対角度データθは、下記(6)式から求められる。
θ=1024×(n−1)+θ2・・・(6)
n:第2の磁気センサ6からの出力信号の周期
なお、周期nは、第2の磁気センサ6からの出力信号の周期が何番目であるかを示すものであり、本実施形態では、n=1〜32の整数値をとる。例えば、図14に示すように、角度データθ2が2周期目の値800である場合、1024×(2−1)+800=1824となり、1824の値が得られる。角度データθ2の周期nは、第1の磁気センサ角度、すなわち、角度データθ1を32で割った値に基づいて算出することができる。このように、本実施形態では、32極(2極)の第2の磁気パターン16を用いて、10ビットの内挿処理を行うことにより、2×210=215の絶対角度信号を得ることが出来る。
【0042】
前述のように、本実施形態におけるアブソリュートエンコーダ装置1は、2極から構成される第1の磁気パターン14の磁界と、多極から構成される第2の磁気パターン16の磁界を検出して、第1の磁気パターン14から得られる絶対角度信号に加えて、第2の磁気パターン16から得られる相対角度信号を用いることにより、高分解能を実現し、全体として高精度のエンコーダ装置となっている。
【0043】
そして、第1及び第2の磁気センサ5,6と信号処理回路7を単一基板8に固定しているので、磁気センサ5,6と信号処理回路7を支持するために複数の基板又は他の支持部材を使用する場合と比較して、組み付けが容易になると共にコストも低減される。加えて、永久磁石4をカップ形状とし、永久磁石4の内側に第1の磁気パターン14を形成し、永久磁石4の外周面に第2の磁気パターン16を形成しているため、磁気パターン同士の漏洩磁界による干渉の問題が軽減され、磁気シールドのような別部材を設置する必要がない。したがって、この永久磁石4における2種類の磁気パターン14,16の配置関係によっても、組み付けの容易化及びコスト低減を図ることができる。さらに、上記のような永久磁石における2種類の磁気パターン14,16の配置関係を採用することによって、例えば、第1の磁気パターン14及び第2の磁気パターン16を共に永久磁石4の外周面に形成する場合等と比較して、薄型の永久磁石とすることができ、エンコーダ装置1全体の小型化を実現できる。また、第1の磁気パターン14と対向して配置された第1の磁気センサ5が、永久磁石4と基板8が近接したときに、永久磁石4の凹部13に収納される位置関係にあることも、エンコーダ装置1の小型化に寄与している。
【0044】
また、前述のように、回転軸2に固定された永久磁石4が軸方向にずれても、第1及び第2の磁気センサ5,6の出力に大きな影響はでない。したがって、永久磁石4と第1及び第2の磁気センサ5,6との位置合わせを厳密にする必要がない。加えて、第1及び第2の磁気センサ5,6と永久磁石4との位置関係の調整は、永久磁石4と各センサ5,6を固定した単一基板8aとの間の距離を調整するか、永久磁石4の厚さを調整するか、又はこの両者を調整することによって、可能である。したがって、前記位置関係の調整のために、第1及び第2の磁気センサ5,6の単一基板8aにおける固定位置を変更する必要がなく、組み付け作業がさらに容易になる。
【0045】
さらに、第1及び第2の磁気センサ5,6の単一基板8への取り付けに際して、基板8と磁気センサ5,6の間に他の支持部材を設ける等して各磁気センサの位置を調整する必要はない。第1及び第2の磁気センサ5,6と永久磁石4との位置関係を調整する場合には、前述のように、永久磁石4と単一基板8との間の距離や、永久磁石4の厚さを調整すれば良い。このように、磁気センサ5,6は、他の部材を介することなく直接基板8に固定すれば良いため、SOP(Small Outline Package)やリードレスパッケージなどの表面実装部品を実装機(マウンタ)によって基板8の同一平面8a上に機械的に実装することができる。
このように、エンコーダ装置1は、高分解能及び高精度を維持しながら、組み付けが容易であり安価に製造可能なアブソリュートエンコーダ装置となっている。
【0046】
上記第1の実施形態における回転軸2がモータの駆動機構である場合のモータ及びエンコーダ装置1の構成を図15に示す。図15に示すように、エンコーダ装置1をモータ30の回転軸2に組み付けることによって、モータの回転速度および回転軸位置を検出可能な小型のアブソリュートエンコーダ装置付モータを実現できる。
【0047】
[第2の実施形態]
図16は、本発明の第2の実施形態に係るアブソリュートエンコーダ装置の断面図であり、図17は図16に示すエンコーダ装置を上から見た平面図である。図16及び17に示すエンコーダ装置31において、第1の実施形態におけるエンコーダ装置1の構成要素と対応する構成要素には、第1の実施形態における符号と同様の符号を付している。第2の実施形態に係るエンコーダ装置31は、第1の実施形態に係るエンコーダ装置1と異なり、回転軸2が基板8を貫通する構造を有している。回転軸2の先端は、基板8の中心に形成された貫通孔8bを通って永久磁石4の内側から、回転軸固定部12に形成された貫通孔12aに挿入され、ネジ32によって永久磁石4に固定される。
【0048】
エンコーダ装置31における第1の磁気パターン14の構成を図18に示す。第1の磁気パターン14は、回転軸2が挿入される貫通孔12aに沿ってリング状に形成されている。第1の磁気センサ5は図16及び図17に示すように、貫通孔12aを避けて回転軸2の軸線上からオフセットした位置に配置されている。図19(a)に第1の磁気パターンの着磁面が円形状の場合の磁界を示し、図19(b)に第1の磁気パターンの着磁面がリング形状の場合の磁界を示す。図19に示すように、第1の磁気センサ5が感磁に必要とする水平磁界は、着磁パターンの外側まで広がっている。したがって、第1の磁気センサ5を回転軸2の軸線上からオフセットした位置に配置しても、第1の磁気センサ5の出力に大きな影響はない。
【0049】
第2の実施形態に係るエンコーダ装置31は、回転軸2が基板8及び永久磁石4の内側を貫通する構成以外、第1の実施形態に係るエンコーダ装置1と同様の構成を有している。したがって、第1の実施形態に係るエンコーダ装置1の前述した利点と同様の利点を有している。
【0050】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、第2の磁気センサ6を構成するエレメント6a〜6d(図10参照)の各エレメントにおける磁気抵抗効果素子21,22(図7参照)の延伸方向を図20(a)に示すように形成しても良い。図20(a)に示すエレメントにおいて、磁気抵抗効果素子41(抵抗値R1)と磁気抵抗効果素子42(抵抗値R2)は仮想中心線CLに対してそれぞれ、約45度の角度を有して延伸し、磁気抵抗効果素子42の端部は電極43と接続している。図20(a)に示すエレメントの構成に対応する等価回路を図20(b)に示す。磁気抵抗効果素子41と磁気抵抗効果素子42の延伸方向は、約90度異なっているため、図20(a)に示すエレメントからも図7(a)に示すエレメントと同様に、90度位相の異なる正弦波信号が出力される。図21に図20に示すエレメント4個(46a〜46d)からなる第2の磁気センサ46の構成を示す。各エレメント46a〜46dの配置位置は図10に示す各エレメント6a〜6dの配置位置と同じである。
【0051】
また、第2の磁気センサとして図22に示す第2の磁気センサ56を採用しても良い。第2の磁気センサ56の構造を図22(a)に示し、その等価回路を22(b)に示す。第2の磁気センサ56は、図22(a)に示すように、位相の異なる出力をする磁気抵抗効果素子8個を互いに45度回転して配置し、図22(b)に示すように、それぞれ4個の磁気抵抗効果素子を有する2個のフルブリッジ回路を有している。図22(a)に示す奇数番号によって特定したエレメントにおいて、その延伸方向が互いに90度異なる3番と5番のエレメントからはcosの出力が得られ、同様に延伸方向が互いに90度異なる1番と7番のエレメントからは−cosの出力が得られる。偶数番のエレメント4個のセンサ群は、奇数番のエレメント4個のセンサ群に対して全体を45度回転させた位置にある。したがって、その延伸方向が互いに90度異なる6番と8番のエレメントからsinの出力を得られ、同様に延伸方向が互いに90度異なる2番と4番のエレメントから−sinの出力を得ることができる。よって、図22(b)に示す2番,4番,6番,8番の偶数番号を付して特定したエレメントから構成される第1のフルブリッジ回路の出力と、1番,3番,5番,7番の奇数番号のエレメントから構成される第2のフルブリッジ回路の出力は90度位相が異なるため、第2の磁気パターン16が回転すると、第2の磁気センサ56からは、第2の磁気センサ6と同様に、互いに90度位相の異なる2相の正弦波信号が出力されることになる。
【0052】
第2の磁気センサ56では、第2の磁気パターン16のピッチ(P)とは無関係に各磁気抵抗効果素子を配置するため、ピッチ(P)の異なる第2の磁気パターン16に対しても適用できるという利点を有している。
【0053】
次に、第1の磁気センサ5の他の実施形態について説明する。第1の磁気センサ5は、図5(a)に示す磁化方向m5〜m8が、図5(a)に示す方向と180度異なるものであっても良く、磁化方向m1〜m4が図5(a)に示す方向と180度異なるものであっても良く、すべての磁化方向m1〜m8が図5(a)に示す方向と180度異なるものであっても良い。
【0054】
また、第1の磁気センサとしてバイアス磁石付きAMR型磁気センサ25を用いても良い。図23(a)はAMRの感磁面エリア(e1〜e8)とバイアス磁石の磁化方向(m1〜m4)を示すAMR型磁気センサ25の構造図であり、図23(b)はその等価回路を示す図である。感磁面エリアe1及びe2から構成される群と、感磁面エリアe5及びe6から構成される群と、感磁面エリアe3及びe4から構成される群と、感磁面エリアe7及びe8から構成される群とは、図23(a)に示すように、同一円周上に90度間隔で配置されている。このAMR型磁気センサ25は、1個のバイアス磁石の磁極面の中心から放射状に出ている異なる磁化方向を利用したものである。第1の磁気センサ5と同様に、第1の磁気センサ25からも磁界周期と同じ周期で、NS極が判別でき且つ位相の異なる信号が得られる。
【0055】
前述した第1の磁気センサ5,25は磁気抵抗効果素子によって構成したものであるが、第1の磁気センサをホール素子によって構成しても良い。例えば、図24(a)に示すように、4個のホール素子h1〜h4を同一円周上に90度間隔で配置することによって第1の磁気センサ35を構成する。図24(b)は、図24(a)に示す第1の磁気センサ35の回路図である。第1の磁気センサ35からも磁界周期と同じ周期で、NS極が判別でき且つ位相の異なる信号が得られる。
【0056】
次に、永久磁石4の他の実施形態を図25に示す。図25に示す永久磁石4は、そのカップ形状の内側面に固定されたリング状の磁性体50を備えている。この磁性体50を備えることによって、永久磁石4は外部からの浮遊磁界に強い構造となっている。
【0057】
また、永久磁石4と回転軸2の他の固定方法を図26に示す。図26に示すように、第1の実施形態に係る永久磁石4において、その中心にネジ穴を形成し、永久磁石4のカップ形状の内側からネジ52によって回転軸2を固定しても良い。
【符号の説明】
【0058】
1,31 アブソリュートエンコーダ装置
2 回転軸
4 永久磁石
5,25,35 第1の磁気センサ
6,46,56 第2の磁気センサ
7 信号処理回路
8 基板
11 永久磁石の本体部
11a 本体部の内側底面
11b 本体部の外周面
12 永久磁石の回転軸固定部
14 第1の磁気パターン
16 第2の磁気パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2極から構成される第1の磁気パターンと多極から構成される第2の磁気パターンとを有し、回転軸に固定された永久磁石と、
前記第1の磁気パターンの磁界を検出する第1の磁気センサと、
前記第2の磁気パターンの磁界を検出する第2の磁気センサと、
前記第1の磁気センサの出力信号から、前記回転軸の絶対角度位置を示す絶対角度信号を取得し、前記第2の磁気センサの出力信号から前記回転軸の相対角度位置を示す相対角度信号を取得し、前記絶対角度信号と前記相対角度信号から、前記回転軸の絶対的な回転角度を算出する信号処理回路と、
前記永久磁石に対向して配置され、前記第1及び第2の磁気センサと前記信号処理回路とを固定する単一基板と
を備え、
前記第1の磁気パターンは前記永久磁石の前記基板と対向する面に形成された凹部内側において軸方向と交わる方向に延びる面上に回転方向に沿って異なる極性を着磁して形成され、前記第2の磁気パターンは前記永久磁石の外周面に円周方向に沿って異なる極性を交互に着磁して形成されるアブソリュートエンコーダ装置。
【請求項2】
前記第1の磁気センサは、NS極を判別できる周期で位相の異なる信号を出力するように構成され、前記第2の磁気センサは、NS極を判別しない周期で位相の異なる信号を出力するように構成され、
前記第1及び第2の磁気センサの特性に応じて、前記永久磁石と前記単一基板との間の距離と、前記永久磁石の厚さを選択したことを特徴とする請求項1に記載のアブソリュートエンコーダ装置。
【請求項3】
前記単一基板は一方向に延びる面一の平面を有し、前記第1及び第2の磁気センサは、同一の前記平面上に直接実装されることを特徴とする請求項1又は2に記載のアブソリュートエンコーダ装置。
【請求項4】
前記第1の磁気パターンは円形状に形成され、前記第1の磁気センサは前記回転軸の軸線上に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアブソリュートエンコーダ装置。
【請求項5】
前記第1の磁気パターンはリング状に形成され、前記第1の磁気センサは前記回転軸の軸線上からオフセットされた位置に配置されていることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載のアブソリュートエンコーダ装置。
【請求項6】
前記永久磁石の内側にリング状の磁性体を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアブソリュートエンコーダ装置。
【請求項7】
前記回転軸はモータの駆動機構であり、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアブソリュートエンコーダ装置を備えることを特徴とするモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−215415(P2012−215415A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79530(P2011−79530)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【出願人】(000236447)浜松光電株式会社 (20)
【Fターム(参考)】