説明

アブソリュートエンコーダ

【課題】アドレス判定を正確に行うことができ、精度が高く低コストなエンコーダを提供する。さらに、アドレス切り換え位置近傍の識別を容易にする。
【解決手段】第1波長(λ)で等間隔の第1目盛が形成され、nλ(nは拡張数、λは第1波長)で第1アドレス区間を規定するように構成されているメイントラックと、前記第1アドレス区間と同じアドレス区間が(n+1)λa(λaは第2波長)となるように等間隔で第2目盛が形成された第1アドレストラックと、前記第1アドレス区間と同じアドレス区間が、n(λa+(n−1)λ)+λaの第3目盛が形成された第2アドレストラックとを少なくとも有するスケール部(20)を有し、前記スケールから位相差を検出し、前記検出した複数の位相差に基づいてアドレス判定を行ない、被測定対象の位置または角度を算出する処理手段(30、40、50、60、70、80)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、測定対象の移動距離、長さまたは角度の測定に用いるエンコーダに関する。
本発明は特に、それぞれ異なる波長で区分された複数の区間が規定された少なくとも3つのスケール(トラック)が隣接して形成され、複数のトラックから検出された位相変調信号の位相差を利用して、測定対象の移動距離、長さ、角度などを絶対値として出力する、アブソリュートエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、半導体製造装置、ロボットなどにおいて、高精度化、高速化、高信頼性化、安全性が求められている。
【0003】
長さ計測や角度計測における高精度化、高速化、高信頼性化の実現のためには、いわゆるインクリメンタル型の長さ(あるいは角度)計測装置よりも、アブソリュート型の計測装置が適切であると考えられているが、価格や要求仕様の面からインクリメンタル型の位置(角度)計測装置で代用しているのが大部分である。
【0004】
近年、長さや角度のアブソリュート型計測装置においても、M系列コードなどを用いた高分解能かつ高精度なエンコーダが実用化されているが、極めて高価である。
【0005】
コスト要求の厳しい分野に向けては、例えば、コード板を用いた回転式のエンコーダや、差動トランスや磁歪式の直線型エンコーダが市販されているが、いずれも精度や測定範囲の面で市場のニーズを十分に満たすことができない。
【0006】
そこで、特許文献1〜3に開示されるように、インクリメンタル計測用のメイントラックの波長λとは異なる波長λaを持つ第2のトラック(以下、アドレストラック)を設け、波長λと波長λaとを適切な関係に設定することにより、インクリメンタルトラック波長のn 倍区間に亘ってアブソリュートに検出するための方法が提案されている。
これらの方法は、メイントラック波長λとアドレストラック波長λaを、整数nに対し、nλ=(n−1)λaもしくはnλ=(n+1)λaなる関係に設定することにより、メイントラック波長λ内の位置x に対応して出力される位相変調信号の位相と、アドレストラック内の位置xに対応して出力される位相変調信号の位相差が、波長λのn 倍区間毎に2π(rad)変化することを利用する。すなわち、この位相差を2π=n(rad)で除したときの商はnλ区間内のλ単位の位置(以下、アドレス)に対応し、そのときの剰余は、波長λ内の位置に対応していることを利用し、該剰余が0もしくは2π=nに近い時には、アドレス切り換え近傍に属しているものと判断し、メイントラック波長λ内の所定の位置と比較することにより、正しいアドレスを得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−83766号公報
【特許文献2】特開2003−83767号公報
【特許文献3】特開2003−83768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術にはいくつかの課題がある。
まず、剰余が0もしくは2π/nにどの程度近い領域までを、アドレスの切り換え位置近傍と判断すべきかについての明確な解決策が示されていなかったため、正しいアドレスを得るための補正作業が適切に実施されない可能性があった。即ち、現実のシステムにおいては、スケールやヘッドの不完全さや回路系の性能の限界、さらには、走行系の不完全さ等に伴う内挿誤差を有しているため、該位相差が0もしくは2π/nの時でも、メイントラック波長λ単位の切り換え位置と一致しない。エンコーダ毎に異なる内挿誤差等の影響を回避するためには、該剰余が0もしくは2π/nに近い領域を拡大しなければならず、結果として該位相差を2π/nで除した時の商を用いてnλ区間内のアドレスを無条件に確定できる領域が狭まり、アドレス補正の際に判定の基準となる波長λ内の中央位置と重なってしまい、アドレスの補正作業そのものが不可能になるという技術的な課題を抱えていた。
そして、この課題をエンコーダの生産段階で対処しようとすると、エンコーダ固有の内挿誤差に応じてこの領域を設定しなければならず、nλ区間内の全てのアドレス切り換え部における内挿誤差を測定し、その影響を受けない最適な領域を設定後、正しく動作することを再検証する必要があるなど、生産コストの上昇を招く可能性がある。
【0009】
また、アブソリュートに計測可能な領域を拡大することが困難なことである。従来技術においてアブソリュートに計測可能な領域を拡大する方法としては、これら2つのトラックの波長を関係づける整数n(以下、拡張数n)を出来るだけ大きく選べば良い。しかしながら、拡張数nを大きく選べば選ぶ程、メイントラック波長λとアドレストラック波長λaとの差が小さくなり、結果としてメイントラックとアドレストラックとの位相差が減少し、アドレス切り替え部を正確に検出することが困難になるだけでなく、メイントラックとアドレストラックとのわずかな位置ずれがメイントラック波長λ単位のアドレス検出ミスにつながるという課題である。
【0010】
さらに、拡張数nを小さく選び、アドレストラックの数を増やしてアブソリュートに計測可能な範囲を拡大するという方法も考えられるが、この方法においても同様な課題を抱えている。
【0011】
したがって、上述した課題を解決するアブリリュートエンコーダを提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては、各々のトラックにおける内挿誤差の大きさと拡張数nとの関係を適切に設定するとともに、波長λ単位のアドレス切り換え部におけるこれら2つのトラック間の内挿誤差の振る舞いを適切に利用する。
即ち、波長λ単位のアドレス判別は、これら2つのトラックにおける位相差を利用しており、該位相差は各々のトラックにおける内挿誤差の組み合わせによって影響を受けるものの、波長λ単位のアドレス切り換部において出力される位相差は、メイントラック波長λ毎の一定の位置(または長さ)を基準として第1のアドレストラック波長λa内の内挿誤差を含む位置が参照され、該参照された位置に対応する位相差であることを利用している。
【0013】
換言するならば、メイントラック波長λ単位の長さは内挿誤差の有無に拘わらず常に一定であり、アドレス切り換え部においては、第1のアドレストラック波長λa内の内挿誤差のみが反映されること、そして、アドレス切り換え位置の変化に対応して参照される波長内の位置が変化し、n倍に拡大された区間内の移動に対応して参照位置が一巡する。
【0014】
そこで、本発明においては、複数のトラックのなかで最大の内挿誤差を持つトラックの内挿誤差の振幅をIe、複数のアドレストラックによる拡張数をn としたとき2Ie<λ/2nなる関係を満足させるように管理する。さらに、いずれの要因における内挿誤差も波長λに対して1 周期もしくは2周期で繰り返す正弦状に繰り返す信号であり、理論値からのずれがアドレス切り換え部の前後に重畳されることから、該内挿誤差の振幅相当分、即ちIeに相当する幅と、これらの処理に伴う量子化誤差の影響を加えた領域がアドレス判定に不確実さを生み出す領域とすることによって課題を解決する。
【0015】
また、本発明においては、メイントラックの他、少なくとも2本以上のアドレストラックを設け、メイントラック波長λとは異なる波長λaが形成された第1のアドレストラック(以下、アドレストラック1)では拡張係数をnとして、nλ=(n+1)λaなる関係を有する目盛りを構成するとともに、第2のアドレストラック(以下、アドレストラック2)には、メイントラック波長λを単位としてn倍に拡大したnλ区間(以下、第1アドレス区間)のn倍のnλ区間(以下、第2アドレス区間)の内、nλ区間を(n+1)λaに置き換え、アドレストラック1の波長λaを1波長とメイントラック波長λの(n−1)波長とを一組としてn組配置した後、さらにアドレストラック1の波長λaを1波長を形成するようにしている。
【0016】
同様に、第3のアドレストラック(以下、アドレストラック3)には、第2アドレス区間を単位としてさらにn倍に拡大したnλ区間(以下、第3アドレス区間)の内nλ区間を(n+1)λaに置き換え、アドレストラック1の波長λaを1波長とメイントラック波長λの(n−1)波長を一組としてn組配置した後、さらにアドレストラック1の波長λaを1波長を形成する。以下、同様の規則に従ってアドレストラックを拡張してアブソリュートに計測できる範囲を拡大できるように構成している。
【0017】
そして、メイントラックとアドレストラック1との波長内の位置の差(以下、位相差と称する。)を比較して第1アドレス区間において連続的に変化する位相差信号を得、該位相差信号とメイントラックの位相差を用いて第1アドレス区間をメイントラック波長λを単位としてn通りのアドレス(以下、第1アドレス)として識別する手段と、メイントラックとアドレストラック2との位相差を比較して、第2アドレス区間内のnλを単位とするn通りのアドレス(以下、第2アドレス)を仮決定した後、アドレストラック1とアドレストラック2との位相差を比較して、nλのアドレス切り換え位置においては2π/n(rad)ずつ位相の異なる信号と、既に決定している第1アドレスとを用いて、第2アドレス区間内のn通りの第2アドレスとして識別する手段と、以下、同様の手段で第3および第4アドレスを識別するように構成する手段と、該識別されたアドレスと、メイントラック内の波長内の位置に対応する位相差を基にして検出された波長λ内の位置とを重みを考慮して合成し、アドレスの構成数に応じて、メイントラック波長λの(n×n×・・・)区間をアブソリュートな位置情報に変換することにより、課題を解決するように構成している。
【0018】
すなわち、本発明のアブソリュートエンコーダは、第1波長(λ)で等間隔の第1目盛が形成されたメイントラックと、第1波長λのn倍の第1アドレス区間(nλ、ただしnは拡張数)を第2波長(λa)でnλ=(n+1)λaとなる等間隔の第2目盛が形成された第1アドレストラックと、これらのトラックに隣接して配置され、前記第1アドレス区間をn倍単位で拡張したアドレス区間のうち、nλ区間分を(n+1)λaで置き換えた第1波長と第2波長との組合せによって形成された拡張目盛を有する拡張アドレストラックを少なくとも1本以上有するスケール部と、
前記複数のトラックの目盛を検出する検出部と、前記検出部で検出した前記複数のトラックの目盛を示す信号それぞれの位相差を検出する位相差検出手段と、前記位相差検出手段で検出した複数の位相差に基づいてアドレス判定を行ない、前記被測定対象の位置または角度を算出する処理手段とを有する。
【0019】
また、本発明は、第1波長(λ)で等間隔の第1目盛が形成されたメイントラックと、第1波長λのn倍の第1アドレス区間(nλ、ただしnは拡張数)を第2波長(λa)でnλ=(n+1)λaとなる等間隔の第2目盛が形成された第1アドレストラックを有し、もしくは、これらのトラックに加えて、前記第1アドレス区間をn倍単位で拡張したアドレス区間のうち、nλ区間分を(n+1)λaで置き換えた第1波長と第2波長との組合せによって形成された少なくとも1本以上の拡張目盛で形成された拡張アドレストラックを有するスケール部と、前記複数のトラックの目盛を検出する検出部と、前記検出部で検出した前記複数のトラックの目盛を示す信号それぞれの位相差を検出する位相差検出手段と、前記位相差検出手段で検出した複数の位相差に基づいてアドレス判定を行ない、前記被測定対象の位置または角度を算出する処理手段とを有し、これらトラックから検出される2相の正弦波信号の不完全さに伴う内挿誤差の最も大きなトラックの内挿誤差の振幅をIeとしたとき、各々のアドレストラックにおける拡張数nと第1波長λとの関係を2Ie<λ/2nとなるように設定し、前記位相差検出手段は、第1波長(λ)内の位置と、第2波長(λa)内の位置の差を位相差として検出し、前記第1波長λのn倍区間において0〜2π(rad)まで連続的に変化する位相差信号を得、前記処理手段は、時刻(t)において検出された位相差を、2π/nで除し、その商を用いてnλ区間内における第1波長λ単位のアドレスを仮決定した後、該演算における剰余を0もしくは最大値近傍と中央部の3つのゾーンに区分けし、前記0もしくは最大値近傍における領域の大きさをλ/2nに相当する位相差に前記演算の過程で生ずる量子化誤差に相当する位相差を加えた領域として設定し、前記剰余が中央部のゾーンに属するときは前記仮決定したアドレスを無条件に、前記剰余が0もしくは最大値近傍のゾーンに属するときは、前記第1波長(λ)内の所定の位置との比較によってλ単位のアドレスを決定するよう構成されている。
【0020】
本発明によれば、第1トラック波長λ内の位置と第2トラック波長λa内の位置とを位相差として検出し、第1トラック波長λのnλ倍に拡大された区間内の移動に対応して0〜2π(rad)まで連続的に変化する位相差信号をλ/2n(rad)で除したときの商は、前記nλ区間内において一意に定まる。そして、λ波長単位の第1アドレス切り換え部において発生する内挿誤差の影響を、生産上の所定の管理水準に基づいて、一義的かつ定量的に設定可能となる。
【0021】
よって、第1アドレスの判定にかかる不確実さを確実に回避でき、エンコーダの品質の安定と生産コストの低減を実現できる。
本発明によれば、第2トラックにおいては等しい波長λaのみで形成された目盛りを持つのに対し、第3トラックおよびそれ以降のトラックにおいては、第1トラック波長λと第2トラック波長λaを所定の関係で組み合わせ形成することを特徴としている。
【0022】
そして、第1トラック波長λ内の位置と第3トラック波長内の位置の差を検出して出力される位相差信号は、第2トラック波長λaが形成されたnλ単位の第2アドレスの切り換え位置と略等しい位置においては急峻に変化し、第1トラック波長λが形成された中央部においては平坦な位相差信号が得られる。これらの位置において生ずる位相差は第2トラックの時とほぼ同様の変化率を持っており、アドレス切り換え位置近傍の識別が極めて容易となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アドレス判定を正確に行うことができ、精度が高いエンコーダを提供することができる。
本発明によれば、アドレス切り換え位置近傍の識別が容易になる。
また本発明によれば、小型で安価なエンコーダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施の形態のアブソリュートエンコーダの構成図である。
【図2】図1に図解したトラックの構成図である。
【図3】図1に図解したエンコーダの詳細構成図である。
【図4】メイントラックとアドレストラック1の位相関係を示す図である。
【図5】内挿誤差を示す図である。
【図6】アドレストラック1の内挿誤差の振幅がIeで波長λaと同一の周期を持つと仮定し、この内挿誤差が第1アドレス区間に拡大して反映される様子を示した図である。
【図7】第1アドレスの確定処理を示すフローチャートである。
【図8】理想的な状態における位相変調信号epm(M)とepm(A)との位相差の関係を第2アドレス区間に亘って示した図である。
【図9】第2アドレス確定のためのゾーン判別の処理を示すフローチャートである。
【図10】(A)はepm(A)信号とepm(A)信号との位相差を示す図である。(B)は第2アドレス区間の両端部における位相変化を示す図である。
【図11】第2アドレスの確定に関する処理を示すフローチャートである。
【図12】第2実施の形態のエンコーダの構成図である。
【図13】第3アドレストラックの構成図である。
【図14】図12の詳細図である。
【図15】epm(M)とepm(A)信号との位相差を示す図である。
【図16】第3アドレスを確定する処理を示すフローチャートである。
【図17】位相検出型の変位量検出回路の構成図である。
【図18】座標変換型変位量検出回路の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付図面を参照して本発明のアブソリュートエンコーダ(以下、エンコーダと略す)の実施の形態を述べる。
【第1実施の形態】
【0026】
図1〜図11を参照して第1実施の形態を述べる。
【0027】
全体構成
図1(A)は、本発明を回転型エンコーダに適用した場合の全体構成を図解した図である。エンコーダは、回転軸(1)に固定されたスケール部(20)と、検出回路(30)と、信号処理部(100)とを有する。
【0028】
スケール部(20)には、図1(B)に図解したように、同心円状に外周から内周に向って、環状のメイントラック(201)、アドレストラック1(202)、アドレストラック2(203)が形成されている。これらトラック(201〜203)には、スケール部(20)の円周に沿って複数の目盛が設けられている。複数の目盛は、たとえば、交番磁界が形成された磁気目盛として設けられている。
【0029】
図3に図示のように、スケール部(20)は、メイントラック(201)とその目盛を示す磁気信号を検出するための2チャンネルの検出ヘッド(211)、アドレストラック1(202)とその目盛を示す磁気信号を検出するための2チャンネルの検出ヘッド(212)および、アドレストラック2(203)とその目盛を示す磁気信号を検出する2チャンネルの検出ヘッド(213)で構成されている。
【0030】
図2(A)〜(C)は、それぞれ円環状に形成されたトラック201、202、203を便宜的に、直線状に展開した図である。図2(D)は、メイントラックの波長λの1つの目盛に記録された磁気信号の強度を拡大して示したものである。波長λの1つの目盛内において、正弦波状の強度分布を示す磁気信号が記録されている。アドレストラック1の波長λaの1つの目盛も、図2(D)と同様に磁気信号が記録されている(但し、λ>λa)。
【0031】
スケール部(20)は回転軸1の回転と共に回転し、トラック201〜203が回転位置に応じた信号、たとえば、磁気信号を出力する。トラック201〜203の近傍に設置された検出ヘッド、たとえば、MRセンサ(211)〜(213)が磁界を検出する。
【0032】
検出回路(30)は、図3に図解した第1〜第3の変位量検出回路(301〜303)で構成されている。これらの検出回路(301〜303)から、MRセンサ(211〜213)の検出信号に応じた位相変調信号が、epm(M),epm(A)信号の,epm(A)として出力される。図4(A)および(B)は、変位nλに対するepm(M)信号およびepm(A)信号の位相の変化を、図4(C)は、epm(M)信号とepm(A)信号との位相差の変化を示したものである。
【0033】
信号処理部(100)は、検出回路(301〜303)の検出信号epm(M),epm(A),epm(A)にもとづいて、回転板(10)(回転軸1)の回転位置または角度を絶対値として出力する。
【0034】
信号処理部(100)は、図3に図解した、第1〜第3の位相比較回路(401〜403)から成る位相比較回路40、判定信号生成部50、アドレス判定回路60、絶対位置合成回路70、基準信号生成回路80を有する。
【0035】
各トラックの構成
図2に図解のごとく、メイントラック201には、波長λとして、たとえば、256μmの一定ピッチの信号が出力されるような目盛が形成されている。アドレストラック1(202)には、17×λa=16×λを満たすλa=254.9μmの信号が出力されるような目盛が形成されている。
【0036】
アドレストラック2には、たとえば、拡張数n=16とし、16λについて、波長λの256倍区間において次に示す関係を満たすように、波長λaの1波長と波長λの15波長を一組として16組形成した後、波長λaの1波長が出力されるような目盛が形成されている。
【0037】
16λ=16×(16−1)λ+16λ
=16×15λ+17λa=16×15λ+(16λa+λa)
=16×(λa+15λ)+λa
【0038】
制約条件の検証
本発明においては、複数のトラックのうち最大の内挿誤差を持つトラックの内挿誤差の振幅Ieとメイントラック波長λと、拡張数nとの間に2Ie<λ/2nなる関係を満足させるだけでなく、アドレストラック2以降は、メイントラック波長λと第1アドレストラック波長λaとが所定の組み合わせで形成された目盛りからの信号を単一の検出ヘッドで再生しなければならないという制約を有する。
【0039】
各々のスケールトラックの信号を検出する検出ヘッド(211〜213)は、図3に図解したように、トラックの波長に対して電気的に90°の位相差を持つように2チャンネルのヘッドで構成されており、2種類の波長が形成されたスケールトラックの信号を検出する場合には、理想状態の90°に対するずれを生じ、このずれに伴う内挿誤差が発生する。
【0040】
単一の波長λが形成されたスケールトラックの信号を波長λに合わせて正しく設定された理想的なヘッドで検出した場合について説明する。便宜上、プラス方向の変位x が発生したときsin x 信号を出力する検出ヘッドをチャネル1(CH1)、cosx信号を出力する検出ヘッドをチャネル2(CH2)とする。スケール(20)と検出ヘッドとの相対移動量をxとし、CH1の検出ヘッドから出力される平衡変調波信号をe、CH2ヘッドから出力される平衡変調波信号をeとし、各々の信号の振幅を1になるように調整して得られる平衡変調信号は次のように表すことができる。
【0041】
【数1】

【0042】
とeとを加算すると、波長内の位置x に応じて位相が変化する位相変調信号epmが得られる。
【0043】
【数2】

【0044】
ここで、epmと同一の周波数f を持つ基準信号erefは次のように表すことができる。
【0045】
【数3】

【0046】
よって、波長内の位置x は、epmとeref信号との位相差φ(x) として検出できる。
【0047】
【数4】

【0048】
ωt=T、2πx/λ=Xと置き換えると、位相変調信号epmは、次式で表わすことができる。
【0049】
【数5】

【0050】
式(5)に示す理想的な状態における位相変調信号epmは、直交する2つの正弦波を合成したときの位相をΦとすると次のように表すこともできる。
【0051】
【数6】

【0052】
ここで、偏角Φは次のように表すことができるので、位相変調信号epmは、下式となる。
【0053】
【数7】

【0054】
従って、式(5)および式(7)より、位相Xは次のように与えられる。
【0055】
【数8】

【0056】
次に、1つの検出ヘッドで異なる波長の信号を検出する場合について考える。上式は、波長をλとし、その波長に合わせて設計された検出ヘッドを用いた時のものであり、メイントラック波長λに合わせて製作された検出ヘッドを用いて波長λの信号を検出する場合は、いずれかのヘッド、例えばCH2側のcos出力に位相のずれΔZを生じ、位置Xを(X+ΔZ)として検出されたと考え、CH2側の出力e′は次のように表すことができる。
【0057】
【数9】

【0058】
この時の位相変調信号e′pmは次のように表すことができる。
【0059】
【数10】

【0060】
さらに、上式を単項式の形に変形し、位相成分をX′とおけば、下式となる。
【0061】
【数11】

【0062】
従って、式(11)より、この時の位相X′は次のように表すことができる。
【0063】
【数12】

【0064】
これより、1つのヘッドで異なる波長の信号を検出したときの位相誤差ΔXは、式(12)で示される位相X′と、式(8)で示される位相Xとの差として次のように表すことができる。
【0065】
【数13】

【0066】
正接の加法定理を適用すると、下式となる。
【0067】
【数14】

【0068】
上式において、ΔZが十分に小さいことを考慮するとcosΔZ=1と近似でき下式が得られる。
【0069】
【数15】

【0070】
さらにΔZが十分に小さいときはtanΔX=ΔXなのでΔXは次のように近似できる。
【0071】
【数16】

【0072】
倍角の公式(1−cosΔZ)=2×sin(ΔZ/2)を適用し、ΔZ≪1のとき、sinΔZ/=ΔZであることを考慮すると、上式は次のように近似できる。
【0073】
【数17】

【0074】
従って、位相誤差ΔXを波長で正規化した内挿誤差ΔIErに変換すると下式になる。
【0075】
【数18】

【0076】
式(18)からも明らかなように、単一のヘッドで異なる波長の信号検出したときの位相誤差ΔIErは、振幅がずれの大きさsinΔZの1/4πで、位相Xの2倍の周期で繰り返す誤差パターンを持つことがわかる。
【0077】
これは、例えば拡張数n=16、メイントラック波長λ=256μmとすると、単一のヘッドで波長256μmの信号と波長240.94μm(以下、240.9μmと略記)の信号を検出する必要があることを示しており、256μm用の検出ヘッドを基準としたときのずれΔZは約5.9%のずれ、および、240.9μm用の検出ヘッドを基準としたときのずれvは約6.3%の、そしてこれらの中間的な波長、たとえば、248μm用の検出ヘッドを基準とした場合のずれΔZは波長に対して約3%に相当する。
【0078】
図5は、ずれΔZを、1%ごと、3%〜7%まで変化させた時の、式(18)で与えられる波長で正規化された内挿誤差ΔIErを示したものである。最大の7%までずらした時においても、内挿誤差の全振幅2I=0.018λであり、拡張数n=16とした時に許容される内挿誤差の全振幅0.031λ(=λ/2×16)を超えていない。そして、この影響を低減するために中間的な波長248μmを基準とした時の内挿誤差の全振幅2I=0.0075λであり、設定した拡張数に対して許容される誤差の約1/4に相当する。
【0079】
これは、拡張数n=32としても同様であり、単一のヘッドで異なる波長の信号を検出したときの内挿誤差の影響が本発明の制約にならないだけでなく、検出ヘッドの波長を最適化することにより、拡張数nを大きく選べる可能性があることを示している。
【0080】
具体的な回路構成
第1実施の形態においては、各トラックにおける波長内の位置を位相変調信号の形で取り出す変位量検出装置を用いて構成している。
【0081】
信号生成回路(80)は、位相変調信号のキャリア周波数fと同一の周波数を持つ基準信号(以下、REF信号)や、波長λ内を1/256に分割して1μmの分解能を得るためにキャリア周波数fの256倍の周波数を持つ矩形波のクロック信号(以下、CKI信号)を生成する。
【0082】
ここで、基準信号REFは、式(3)に示す周波数がfで位相が0の正弦波信号erefに対応する矩形波信号であり、位相比較回路(401)における位相検出における基準信号として用いられる。
【0083】
変位量検出回路1(301)はメイントラック(201)と検出ヘッド(211)との相対変位量xに応じて位相が変位する式(2)に示す位相変調信号epmを矩形波に変換した位相変調信号(以下、epm(M)信号)を出力する。
変位量検出回路2(302)は、アドレストラック1(202)と検出ヘッド(212)との相対変位量に応じて位相が変化する矩形波の位相変調信号(以下、epm(A)信号)を出力する。
変位量検出回路3(303)は、アドレストラック2(203)と検出ヘッド(213)との相対移動量に応じて位相が変化する矩形波の位相変調信号(以下、epm(A)信号)を出力する。
【0084】
位相比較回路1(401)は、epm(M)信号とREF信号との位相を比較し、式(3)に示す位相差2πx=λ、即ちメイントラック波長λ内の位置xに対応したパルス幅の信号(以下、PW(M))を出力する。
位相比較回路2(402)は、epm(M)信号とepm(A)との位相を比較し、その位相差に対応するパルス幅の信号(以下、PW(MA)を出力する。
位相比較回路3(403)は、epm(M)信号とepm(A)信号との位相を比較し、その位相差に対応したパルス幅の信号(以下、PW(MA))を出力する。
【0085】
判定信号生成回路(50)は、epm(A)信号とepm(A)信号との位相を比較し、その位相差に応じたパルス幅の信号(以下、PW(A))を出力する。
【0086】
アドレス判定回路(60)は、これら3つの位相比較回路(401〜403)および判定信号生成回路(50)から出力される位相差に対応したパルス幅の信号PW(M)、PW(MA)、PW(MA)およびPW(A)と、信号生成回路(80)から出力されるCKI信号とREF信号を用いて第1アドレス区間内の16通りの第1アドレスA1と、第2アドレス区間内の16通りの第2アドレスA2を確定する。
【0087】
絶対位置合成回路(70)は、メイントラック波長λ内の位置と、確定されたアドレスAおよびAを重みを考慮して加算し分解能1μmの絶対位置に変換する。
【0088】
第1アドレス確定処理
第1アドレス区間内におけるλ単位の第1アドレスAを確定する方法について説明する。
【0089】
位相比較回路1(401)から出力されるメイントラック波長λ内の位置に対応するパルス幅の信号PW(M)と、位相比較回路2(402)から出力されるepm(M)信号とepm(A)信号との位相差に対応するパルス幅の信号PW(MA)は、アドレス判定回路(60)において、キャリア周波数fの256倍の周波数を持つCKI信号が内挿され、波長λ内の位置に対応してパルス数が0〜255まで変化する、図示せぬ、パルス列信号PS(M)と、epm(M)とepm(A)の位相差に応じてパルス数が0〜255まで変化する、図示せぬ、パルス列信号PS(MA)を生成する。
【0090】
図4に示すように、第1アドレス区間内の移動に対し、epm(M)信号は16×2π(rad)の位相変化を生じ、epm(A)信号は17×2π(rad)の位相変化を生ずるので、パルス列信号PS(MA)は、位相差2π(rad)に対応してパルス数が0〜255まで変化するパルス列であり、第1アドレス区間内の1アドレス毎に16パルスずつ変化する。
従って、パルス数16は、第1アドレス区間内のλ単位のアドレスAを識別するパルス数と考えて良い。今、位相変調信号のキャリア周波数fの逆数、即ち周期T=1/f毎に計測される第1アドレスをA(t)と表すことにすれば、時刻tにおいて、パルス列信号PS(MA)を計数して得られるデータ(以下、D(MA))を該パルス数、即ち16を法とする合同演算を行った時の商は第1アドレス区間内における16通りのアドレスA(t)に対応し、剰余はアドレスA(t)内の位置に対応している。
【0091】
従来、該剰余が最小値の0に近い領域と最大値の15に近い領域では隣接するアドレスA(t)と誤判定する可能性があるため、該剰余の値によって3つの領域に分け、該剰余が0に近い領域では1つ手前のアドレスと、該剰余が15に近い領域においては次のアドレスに属している可能性があると領域と考え、これら2つの領域に属すると判定されたときは、波長λ内の所定の位置、具体的には、波長λ内の中央値と比較していずれ側にいるかを判断することより、該商を元に仮決定されたアドレスA(t)を補正し、正しいアドレスを得る方法が提案されていた。
【0092】
しかしながら、実際のシステムでは、epm(M)信号およびepm(A)信号に含まれる内挿誤差は互いに独立であり、加算方向にも減算方向のいずれにも影響しうる。従って、拡張数nと各トラックにおける内挿誤差Iの影響を適切に評価して上記のゾーン設定に反映しないと、第1アドレス区間内の移動に対応する位相差を波長λ単位の移動に対応する位相2π/nで除したときに一意の商が得られない可能性があるだけでなく、本来は補正が必要な領域であるにも関わらず補正を行わなかったために隣接するアドレスA(t)と誤判定してしまう可能性がある。
【0093】
さらに、補正が必要な領域に対してマージンを持たせようとすると、剰余が0に近い領域の最大値と、剰余が15に近い領域の最小値とが競合し、波長λの中央値と比較していずれの側に属するかを判定し、該判定結果をもとに正しいアドレスA1を確定するという補正動作そのものが破綻してしまうという課題を抱えていた。
【0094】
そこで、第1実施の形態においては、システムを構成する全てのトラックにおける内挿誤差の振幅Ieと拡張数nとの間に、2I<λ/2nなる条件を満たすように管理することにより、内挿誤差の組み合わせによる最大の変動幅が2Ieを超えないことを保証し、上記合同演算において一意の商が得られることを保証している。
【0095】
そして、アドレス判別のための位相差情報は、メイントラック波長λを基準としたときのアドレストラック1波長λa内の位置を参照することによって得られること、また、内挿誤差を有する現実のシステムにおいても、メイントラック波長λの目盛りピッチは常に一定であることと内挿誤差の対称性を考慮して、内挿誤差の振幅Iに相当する4パルス分(=I<λ/4n=256/64)がパルス列信号PS(MA)を基準パルス数で除した時の剰余に対して加算的もしくは減算的に影響すること、そして、一連の判定作業において発生する量子化誤差の影響を加えた5パルス分を、アドレス判定にかかる補正が必要な剰余が0に近い領域と15に近い2ヶ所の領域に設定するように構成している。
【0096】
図6は、アドレストラック1の内挿誤差の振幅がIで波長λaと同一の周期を持つものと仮定し、この内挿誤差が、第1アドレス区間内に拡大して反映される様子を示した図である。第1アドレス区間内のアドレスラック1波長λaの1/16位置の内挿誤差IEr(1)が、次のアドレス切り換え部においては波長λaの2/16位置の内挿誤差IEr(2)が、以下同様にして波長λa内の内挿誤差の振幅Iに伴うずれが加算的もしくは減算的に重畳することがわかる。
【0097】
即ち、上記パルス列PS(MA)を時刻tにおいて計数して得られたデータD(MA)を、基準パルス数16を法とする除算を行ったときの剰余が0〜4および11〜15となったときは、アドレス判定に対して不確実さを生ずる領域であると判断し、時刻tにおけるパルス列信号PS(M)を計数して得られるデータ(以下、D(M))の所定の値と照合して仮決定された第1アドレスA(t)を補正することを特徴としている。そして、前記剰余が0〜4および11〜15となったときに、波長λの中心位置に対して小さい側にいるか大きい側にいるかを判別できれば良いので、波長λの中心値、すなわち、D(M)=128を判定値として用いるようにしている。
【0098】
図7は、アドレス判定回路(40)がこの判定条件を適用して第1アドレスの確定にかかる処理プロセスをフローチャートで示したものである。
【0099】
第2アドレス確定処理
次に、第1アドレス区間を単位として16倍に拡大した第2アドレス区間内における16とおりの第2アドレスAを確定する方法について説明する。
【0100】
図8は、理想的な状態における変位量検出回路301から出力される位相変調信号epm(M)と変位量検出回路303から出力されるepm(A)信号との位相差の関係を第2アドレス区間に亘って示した図である。第2アドレス区間は、メイントラック(201)においては波長λが256波長分、アドレストラック2(203)においてはメイントラック波長λと第1アドレストラック波長λaとが合計で257波長分形成されているので、第2アドレス区間全体では波数の差1に対応する2π(rad)の位相差を生ずる。そして、その変化はメイントラック波長λとは異なる波長λaが形成された17ヶ所では位相2π/17(rad)ずつ急峻に変化する領域と、第1アドレス区間と略等しい16ヶ所の15λ区間においては位相が平坦な領域があることが分かる。
【0101】
位相比較回路3(303)は、上記位相差に対応したパルス幅の信号を生成する回路であり、epm(M)信号とepm(A)信号との位相差を比較し、上記17ヶ所のλaの区間ではパルス幅が急峻に変化し、上記16ヶ所の15λ区間においては一定のパルス幅を有するPW(MA)信号に変換する。
【0102】
このPW(MA2)信号はアドレス判定回路(60)に導かれ、CKI信号が内挿されて上記17ヶ所のλa区間でパルス数が0〜256/17ずつ急峻に変化し、16ヶ所の15λ区間においては、その位置に対応してパルス数256/17のn倍のパルス数n×256/17(n=1〜16)をもつ、図示せぬパルス列信号PS(MA)に変換される。
【0103】
そこで、第1実施の形態においては、第2アドレス区間を、下記に分割する。
(a)一定のパルス数が得られる上記16ヶ所の15λ区間の前後にλa区間内において変化するパルス数256/17の1/2幅に相当するパルス数を相互に重複しないように減算および加算して得られる16ヶ所のゾーン{(n+1)×256/17−(128/17)≦Z(A)<(n+1)×256/17+(128/17))(ただしn=0〜15)。
(b)上記第2アドレス区間の原点側位置で出力されるパルス数0に上記256/17の1/2幅に相当するパルス数を加算して得られるゾーン{0≦Z(A)<128/17}と最大計測位置側にで出力されるパルス数256から上記パルス数256/17の1/2幅に相当するパルス数を減算して得られる{256−16(128/17)≦Z(A)<256}の2ヶ所を加えた合計18ヶ所のゾーン。
そして、時刻tにおいて上記PS(MA)を計数して得られるデータD(MA2)と上記パルス数256/17との関係を用いて、第2アドレス区間内の上記18ヶ所のゾーンを判別する。
【0104】
ここで、上記18ヶ所のゾーンのうち、原点位置側のゾーンZ(A)においては{0≦D(MA)<128/17}の判定で、最大計測位置側のゾーンZ(A)においては{256−16(128/17)≦D(MA)<256}の条件によって判定でき、それ以外のゾーンについても、データD(MA)をパルス数256/17で広義の合同演算を行ったときの商、具体的にはデータD(MA)から上記パルス数256/17を何回減算できるかを用いてゾーンZ(A)〜Z15(A)を判別できること、そして、図8からも明らかなように、このゾーンZ(A)〜Z15(A)は、両端部を除いてほぼ第2アドレスA=0(H)〜F(H)と一致している。
【0105】
しかしながら、上記パルス数256/17は整数ではないので上記合同演算による判定は現実的ではない。そこで、ゾーンZ(A)〜Z15(A)と最大計測位置側のゾーンZ(A)の開始部におけるパルス数を整数に丸めたパルス数P(A)=(n+1)×256/17(n=0〜16)を設定し、このパルス数を基準にゾーンZ(A)を判定するのが好都合である。
【0106】
表1は各ゾーンに対応するパルス数P(A)(ただし、n=0〜16)と該ゾーンの判別に依って仮決定された第2アドレスA(t)の関係を、図9は、パルス数P(A)を用いて上記18ヶ所のゾーン判別にかかる手順をフローチャートで示したものである。
【0107】
【表1】

【0108】
次に、判別された上記18ヶ所のゾーンと仮決定されたアドレスA(t)を用いて、第2アドレスAを確定する手順について説明する。
【0109】
表2は、理想的な状態における上記18ヶ所のゾーンZ(A)、Z(A)〜Z15(A)、およびZ(A)におけるゾーン切り換位置、即ち、各ゾーンの開始部と終了部に対応するメイントラック波長λ内の位置を本実施例における分解能の1μm単位に丸めた値と、上記位置が属する理論的なアドレスを4ビットの第2アドレスAと4ビットの第1アドレスAを重みを考慮して連結した8ビットのアドレスAを16進数2桁(00(H)〜FF(H)、ただし、(H)は16進数であることを示す)で示したものである。
【0110】
【表2】

【0111】
表2からも明らかなように、原点位置側のゾーンZ(A)では開始部および終了部ともA=00(H)に、最大計測位置側のゾーンZ(A)においても開始部および終了部ともA=FF(H)と正しいアドレスに対応している。また、中央部のゾーンZ(A)およびZ(A)でも開始部においてはA=70(H)およびA=80(H)に、終了部においてもA=7F(H)およびA=8F(H)と正しいアドレスに対応している。また、Z(A)〜Z(A)では、開始部はA=00(H)〜A=60(H)と正しいアドレスに対応しているのに対し、終了部はA=10(H)〜A=70(H)と隣接する次の第2アドレスに属する。Z(A)〜Z15(A)では、終了部においてはA=9F(H)およびA=FF(H)と正しいアドレスに対応しているのに対し、開始部はA=8F(H)およびA=EF(H)と隣接する1つ手前の第2アドレスに属している。
【0112】
換言するならば、ゾーンZ(A)〜Z(A)と判定され、かつ、既に確定した第1アドレスがA=0(H)の時は、そのゾーンから仮決定した第2アドレスがA(t)=0(H)〜6(H)の終了部において隣接する次の第2アドレスに属している可能性があること、そして、ゾーンZ(A)〜Z15(A)と判定され、かつ、第1アドレスがA=F(H)の時は、該ゾーンから仮決定した第2アドレスがA(t)=9(H)〜F(H)の開始部において隣接する手前の第2アドレスに属している可能性があることを示している。
【0113】
しかしながら、実際のシステムにおいてはシステムの管理水準に応じた内挿誤差を有しており、ゾーン切り換え部とメイントラック波長λ内の位置にずれが生じ、その結果として、第1アドレスAおよび第2アドレスAにずれを生ずることになる。既に述べたように、第1実施の形態においては、各々のトラックにおける内挿誤差を2Ie<λ/2n(ただし、Ieは内挿誤差の振幅、nは拡張数)となるように管理しているので、2つのトラックの内挿誤差の組み合わせによって定まる内挿誤差の振れ幅は最大でもλ/2nを超えることは無い。また、内挿誤差が波長λに対して一定の周期をもって正弦波状に変化することを考慮すると、内挿誤差を有する実際のシステムにおいては、ゾーン切り換え部におけるメイントラック波長λ内の位置が原点側もしくは最大計測位置側に上記振れ幅の範囲で平行移動したものとして考えることができる。
【0114】
表3は、上記振れ幅λ/2nに対応するパルス数256/32を超えないことを考慮し、その1/2に相当する4パルス分ずつ原点側および最大計測位置側にずれたときの上記18ヶ所のゾーンZ(A)〜Z15(A)の開始部と終了部に対応するメイントラック波長λ内の位置と、該位置が属する8ビットのアドレスAを16進数2桁(00(H)〜FF(H))で示したものである。
【0115】
【表3】

【0116】
表3からも明らかなように、第2アドレス区間の両端部のゾーンZ(A)およびZ(A)においては、第2アドレス区間内の前後関係が反転すること、また、中央部のZ(A)においては終了部で隣接する次の第2アドレスA=80(H)を含み、Z(A)においても開始部では隣接する1つ手前の第2アドレスA=7F(H)を含む可能性があることが分かる。
【0117】
これらを整理すると、所定のレベルに管理された内挿誤差を有する現実のシステムにおいては、既に決定している第1アドレスがA=F(H)で、かつ、ゾーン開始側のZ(A)と判定され、その判定結果からA(t)=0(H)と仮決定された時と、既に決定している第1アドレスがA=0(H)で、かつ、ゾーン終了側のZ(A)と判定され、その判定結果からA=F(H)と仮決定された時は第2アドレス区間を逸脱していると判断すれば良いこと、そして、既に確定した第1アドレスがA=F(H)で、かつ、判定されたゾーンZ(A)〜Z(A)から、第2アドレスA=0(H)〜7(H)と仮決定した時は、終了部のアドレスが隣接する次の第2アドレスに属しているか否かを判別するという課題を、また、既に決定している第1アドレスがA=F(H)で、かつ、判定されたゾーンZ(A)〜Z15(A)から第2アドレスA=8(H)〜F(H)と仮決定したときは、開始部のアドレスが隣接する1つ手前の第2アドレス区間内に属しているか否かを判別するという課題を解決できれば、正しく第2アドレスを確定できることがわかる。
【0118】
そこで、第1の実施形態においては、アドレストラック1(202)の信号を検出して出力される位相変調信号epm(A)とアドレストラック2(203)の信号を検出して出力される位相変調信号epm(A)との位相差を用いて上記の課題を解決するように構成している。
【0119】
本例示においては、第2アドレス区間内には、波長λaが272(=17×16)波長分形成されており、アドレストラック2には、波長λが240波長とλaが17波長の、合計257波長分が形成されているので、第2アドレス区間内の移動に対しては、波数の差272−257=15に対応する2π×15(rad)の位相変化が生じる。
【0120】
また、第2アドレス区間内における第2アドレスの1区間は、λa+15λ+λa/16=(17/16)λa+15λに対応しているので、第2アドレス区間内の1アドレス毎にλ/16に対応する2π/16(rad)の位相差が生ずる。換言するならば、第2アドレス区間内の開始側の第1アドレスA=0(H)または終了側の第1アドレスA=F(H)同士で比較したときはλ/16に対応する2π/16(rad)の位相差が異なることを利用して上記の課題を解決している。
【0121】
図10(A)は、アドレストラック2における17ヶ所のλa区間ではアドレストラック1から出力されるepm(A)とアドレストラック2から出力されるepm(A)との位相差が平坦であることを無視して、第2アドレス区間内の移動におけるepm(A)信号とepm(A)との位相差の概要を示す。図10(B)は、第2アドレス区間の両端部、即ちA=0(H)およびA=0(H)近傍におけるλa間での変化を含めた詳細な位相変化の様子を示したものである。
【0122】
表4は、パルス列信号PS(MA)によって決定したゾーンと、該ゾーンに対応して仮決定される第2アドレスA(t)および第2アドレスを正しく判定するための判定値CPn(A)との関係を示したものである。
また、表4は、第2アドレス区間における第2アドレス切り換え位置における上記位相差の理論値に対応したパルス幅の信号PW(A)と、該信号にキャリア周波数fの256倍のCKI信号を内挿して得られるパルス列信号PS(A)のパルス数の関係を示したものであり、PS(A)信号から出力されるパルス数は、第2アドレスが増加する毎に16パルスずつ増加していることが分かる。
【0123】
【表4】

【0124】
上記アドレス切り換え位置に対応するパルス数は、対応する第2アドレスの終了位置と次の第2アドレスの開始位置に対応していることを考慮すれば、パルス列信号PS(MA)によって仮決定された第2アドレスA(t)の前半のA(t)=0(H)〜A=7(H)においては、既に決定した第1アドレスがA=0(H)で、かつそのパルス数が上記の値を超えるときは次の第2アドレスに属しているものと、そして第2アドレス区間後半のA(t)=8(H)〜A=FH)においては、既に決定した第1アドレスがA=F(H)で、かつそのパルス数が上記の値以下であれば、仮決定した第2アドレスA(t)が正しいものと判断することができる。
【0125】
しかしながら、現実のシステムにおいては内挿誤差の影響をうけ、第2アドレス区間の開始部および終了部のλa区間おいては、この内挿誤差によって理論値(位相差=0)に対して一定のオフセットを持った位相差出力が得られる。そして、複数のトラックの内挿誤差が加算的に重畳した場合の最大の位相変動幅は2π/32(=2π/2×n)となる可能性がある。この時のPS(A)の最大の変化量は8(=256/32)に対応するが、第2アドレスの切り換え部、即ち、A=0(H)およびA=F(H)は、アドレストラック波長λaの17波長毎に発生することを考慮すると、アドレストラック1の内挿誤差の影響は無視できるので、パルス列信号PS(A)の最大の変化量は4パルス分程度と見積もることができ、パルス化等にかかる量子化誤差の影響を考慮しても振れ幅として5パルス分を超えることはなく、かつ、第2アドレス区間の1アドレス毎に16パルスずつの差異が生じることを考慮すると、そのアドレスの略中間位置に対応する8パルス分を減算した値を、第2アドレス確定のための判定値CPn(A)として用いることができる。
【0126】
【表5】

【0127】
これらを整理すると、第2アドレス区間の開始部のA(t)=0(H)と仮判定された時は、そのアドレス内の開始部A=0(H)において第2アドレス区間を、同様に第2アドレス区間の終了部のA(t)=F(H)と仮判定された時は、そのアドレス内の終了部A=F(H)において第2アドレス区間内を逸脱する可能性があることを考慮した判定を、上記を除く第2アドレス区間前半のA(t)=0(H)〜A(t)=7(H)と仮決定されたときは、そのアドレス内の開始部、即ち、既に決定している第1アドレスA=0(H)の時のパルス列信号PS(A)を上記判定値CPn(A)と比較することにより、隣接する次の第2アドレスに属さないことを、後半のA(t)=8(H)〜A(t)=F(H)と仮決定されたときは、そのアドレス内の終了部、即ち、既に確定している第1アドレスA=F(H)の時のパルス列信号PS(A)を前記の判定値CPn(A)と比較し、隣接する前のアドレスに属していないこと判定すれば良い。
【0128】
図11は、第2アドレス区間内を18ヶ所のゾーンZ(A)〜Z17(A)として判定した後、第2アドレスAの確定に至る迄の手順の一例をフローとして示したものである。アドレス判定回路(60)は、時刻tにおけるパルス列信号PS(MA)を計数したデータD(MA)を所定のパルス数Pn(A)と比較して第2アドレス区間を18ヶ所のゾーンとして判別し、判別されたゾーンをもとに第2アドレスA(t)を仮決定して所定の領域に保存すると同時に、そのゾーンに対応する判定値CPn(A)と、時刻tにおけるパルス列信号PS(A)を計数したデータD(A)を所定の領域に保存した後、第2アドレス区間内の判定されたゾーンに応じ、保存されたデータと既に決定している第1 アドレスAを用いて第2アドレスを判定するように構成されている。以下、各々の判定条件について簡単に補足する。
【0129】
第2アドレス区間内の開始位置側に対応するゾーンZ(A)と最大位置側に対応するゾーンZ(A)においては、そのゾーンが第2アドレス区間の切り換え位置となっている。内挿誤差の無い理想的な状態ではゾーンZo(A)はA=0(H)に、ゾーンZu(A)はA=F(H)となるが、現実のシステムにおいては当該ゾーンを逸脱し、Zo(A)はA=F(H)に、Z(A)はA=0(H)と判定する必要が生ずる。従って、このゾーンにおいては、既に決定している第1アドレスAの状態によって仮決定された第2アドレスA(t)を補正し、正しい第2アドレスAを決定すれば良い。
【0130】
次に、第2アドレス区間の両端に近いゾーンZo(A)およびZ15(A)における第2アドレス確定の手順について説明する。この領域は、前者においては既に決定した第1アドレスがA=0(H)のときは隣接する次の第2アドレスに属する可能性があり、後者においてはA=F(H)のときに隣接する一つ手前のアドレスに属する可能性がある。また、この領域は、図10にも示したように、波長λaの信号が形成されているため位相変化が平坦な領域が存在する。そして、理想的な状態におけるパルス列信号PS(A)は0であるが、現実のシステムでは0近傍で変化し、前述のように0±5パルス程度の変動を生ずる。
【0131】
従って、ゾーンZo(A)においては、既に決定した第1アドレスA=0(H)のとき、パルス列信号PS(A)を計数して得られるデータD(A)が、そのゾーンZo(A)に対応した判定パルス数CPo(A)=8以上で、かつ次のゾーンZ(A)における判定パル数CP(A)=24未満の条件を満たすときは次の第2アドレスに属するものと判断して仮決定した第2アドレスA(t)を補正し、その条件を満たさないときは仮決定した第2アドレスA(t)が正しい第2アドレスに属しているものと判断すればよい。
【0132】
そして、ゾーンZ15(A)においては、既に決定した第1アドレスA=F(H)のとき、データD(A)が、該ゾーンに対応する判定パルス数CP15(A)=248未満で、かつ1つ手前のゾーンに対応するゾーンZ14(A)における判定パルス数CP14(A2)=232以上の条件を満たすときは1つ手前の第2アドレスに属するものと判断して仮決定した第2アドレスA(t)を補正し、その条件を満たさないときは、仮決定した第2アドレスA(t)が正しい第2アドレスに属しているものと判断すればよい。
【0133】
そして、第2アドレス区間前半のZ(A2)〜Z(A2)においては、既に決定した第1アドレスがA=0(H)のとき隣接する次の第2アドレスの属する可能性があること、後半のZ(A2)〜Z14(A2)においてはA=F(H)のとき隣接する前の第2アドレスに属する可能性がある。しかしながら、これらの領域内においては、アドレス切り換え位置において出力されるパルス列信号PS(A)が、アドレスの増加とともに単調に増加する信号なので、前者においては、A=0(H)のときにデータD(A)が該ゾーンに対応する判定値CP(A)を超えた場合は隣接する次の第2アドレスに属するものとして、後者においては、A=F(H)のときにデータD(A)が該ゾーンする判定値CP(A)を超えなかった場合は隣接する前のアドレスに属するものとして仮決定した第2アドレスA(t)を補正すれば良い。
【0134】
絶対位置の合成
次に、これらの結果より、メイントラック波長λのn倍に拡大された区間を、分解能1μm単位の絶対値データに変換する手順について説明する。絶対位置合成回路(70)は、時刻tにおいて出力される図示せぬパルス列PS(M)を計数し、1μm単位のデータD(M)として最大256μm、即ち、8ビットのアブソリュートデータと、アドレストラック1およびアドレストラック2を用いて識別された16通りの第1アドレスAと16通りの第2アドレスAとを用い、次式に基づいてメイントラック波長λのn(=256)倍区間の分解能1μmの絶対値データDT(AB)を合成する。
【0135】
【数19】

【0136】
以上例示したように、メイントラック波長λ=256μmとし、メイントラックに加えて、2つのアドレストラックを用い、拡張数n=16としたとき、1μm分解能で16ビットのエンコーダが実現可能であることを示した。これは、たとえば、回転型のエンコーダに適用した場合、直径約21mmの小型のロータリーエンコーダを実現可能なことを示している。コード板などを使用した従来のアブソリュート型の同サイズのエンコーダが8〜10ビット程度の分解能が一般的であるのに対し、本実施の形態によれば小型で高分解能の回転型エンコーダを実現できる。また、回転式のエンコーダにおいては、走行系の再現性に優れるため、拡張数をn=32=32〜64と大きく選ぶことが可能となる。例えば、メイントラック波長λa=64μmとして1/256分割し拡張数n=32とすれば、直径20mmの円板で、18ビットの分解能を持つ回転型のエンコーダを実現可能となり、より高精度が要求される分野にも利用可能である。
【0137】
第2実施の形態
第2実施の形態におけるエンコーダの全体構成を図12に示す。測定範囲の広いエンコーダを想定し、第1実施の形態の構成に、図12、図13に図解したように、第3のアドレストラック(以下、アドレストラック3)を追加し、メイントラック波長λを256μm、拡張数n=16としてメイントラック波長λの16=4,096倍の区間を分解能1μmで検出する20ビットのエンコーダを実現する。
【0138】
各トラックの構成
図13は、第2実施の形態において追加されたアドレストラック3の構成を示したもので、メイントラック波長λの16×256=4,096倍区間において、拡張数n=16として、次の関係を満たすようにアドレストラック3を追加し、アドレストラック1の波長λaの1波長とメイントラック波長λの255波長を一組として16組形成した後、アドレストラック1波長λaの1波長分が出力されるような目盛が形成されている。
【0139】
16λ=16×(16−1)λ+16λ
=16×255λ+17λa
=16×(λa+255λ)+λa
【0140】
回路構成
図14は、第2実施の形態における具体的な回路構成の一例を示したものである。アドレストラック3の拡張にかかる部分が追加されたほか、各々のトラックから出力される位相変調信号の位相を比較する回路部分において第1実施の形態における場合と相違がある。ここでは、第1実施の形態に対して変更および追加された部分についてのみ説明することとする。
【0141】
スケール部(20A)には、λ=256μmの信号とλa=240.9μmの信号が所定の関係を持って形成されているアドレストラック3(204)と該信号を検出する2チャンネルの検出ヘッド(214)が追加され、さらに、検出信号を矩形波の位相変調信号epm(A)として出力する変位量検出回路4(404)も追加されている。
【0142】
位相比較回路2(401)はepm(A)信号とREF信号とを比較して位相差2πx/λa、即ち、アドレストラック1波長λa内の位置x に対応したパルス幅をもつPW(A)信号を、同様に位相比較回路3(402)はepm(A2)信号とREF信号とを比較して位相差、即ち、アドレストラック2内の位置に対応したパルス幅のPW(A)信号を、そして位相比較回路4(403)は、epm(A)信号とREF信号とを比較して位相差、即ち、アドレストラック3内の位置に対応したパルス幅のPW(A)信号を出力するように構成されている。
【0143】
第1実施の形態においてはepm(M)信号とepm(A)信号との位相差を、位相比較回路3においてはepm(M)信号とepm(A)信号との位相差を直接比較していたのに対し、第2実施の形態では、位相変調信号と同一の周波数fを持ち、位相が0の基準信号REFとの比較に変更され、第2アドレスAの最終判定のための信号を生成していた判定信号生成回路(50)が省略されている。
【0144】
そして、アドレス判定回路(60A)は、位相比較回路(401〜404)から出力されるPW(M)信号、PW(A)信号、PW(A)信号およびPW(A)信号と信号生成回路(80)からのCKI信号およびREF信号からアドレスA〜Aを確定し、メイントラック波長λ内の位置とを重みを考慮して加算し、分解能1μmで20ビットの絶対位置に変換する回路である。
【0145】
第3アドレスの判定処理
まず、アドレス判定回路(60A)が位相比較回路1(401)から出力されるPW(M)信号、位相比較回路2(402)から出力されるPW(A)信号、位相比較回路3から出力されるPW(A)信号および位相比較回路4から出力されるPW(A)信号と信号生成回路から出力されるCKI信号およびREF信号とを用いて、第1実施の形態におけると同様の信号群を生成する手順について説明する。
【0146】
アドレス判定回路(60A)は、位相比較回路1から出力されるPW(M)信号にCKI信号を内挿し、位相変調信号epm(M)と基準信号REFとの位相差2πx/λ、即ち、メイントラック波長λ内の位置xに対応するパルス数を持つ図示せぬパルス列信号PS(M)にCKI信号を内挿し、そして、位相比較回路2から出力されるPW(A)信号にCKI信号を内挿し、位相変調信号epm(A)と基準信号REFとの位相差、即ち、アドレス1トラック波長λa内の位置に対応したパルス数をもつ図示せぬPS(A)信号に変換する。その後、パルス列の演算(具体的には引き算)を行うことにより、epm(M)信号とepm(A)信号との位相差に対応したパルス列をもつ図示せぬパルス列信号PS(MA)に変換する。
【0147】
同様に、アドレス判定回路(60)は、PW(A)信号とPW(A)信号とを図示せぬパルス列信号PS(A)およびPS(A)に変換後、PS(M)とPS(A)との演算によりその位相差に対応したパルス列を持つ図示せぬパルス列信号PS(MA)に、そして、PS(M)信号とPS(A)信号との演算により図示せぬパルス列信号PS(MA)に、さらにPS(A)信号とPS(A)信号との演算により、その位相差に対応したパルス列信号PS(A)に変換する。
【0148】
第2実施の形態においては、第3アドレス区間内のメイントラックには、メイントラック波長λが4,096波長分、アドレストラック3には、メイントラック波長λが4,080波長分と、アドレストラック1波長λaが17波長分の合計4,097波長が形成されているので第3アドレス区間内の移動に対し、1波長分に対応する位相差2πが発生する。
【0149】
図15は、epm(M)信号とepm(A)信号との位相差の関係を示したもので、第1実施の形態におけるepm(M)信号とepm(A)信号との位相差の関係に比べ、ゾーン切り換え部の間隔がλa+15λからλa+255λへとメイントラック波長の240λ分長くなったことを除き、同様の形態を有していることがわかる。
【0150】
即ち、第2実施の形態において新たに生成されたPS(MA)は、第1実施の形態におけるパルス列信号PS(MA)と同様に、第3アドレス区間の17ヶ所のλa区間においてはパルス数が0〜256/17ずつ急峻に変化し、16ヶ所の255λ区間では、その位置に対応した一定のパルス数n×256/17(ただし、n=1〜16)を持つパルス列信号であり、第1実施の形態と同じ値を持つ図示せぬパルス数P(A)を用いて、第3アドレス区間内を、開始位置側のゾーンZ(A)および、終了側のゾーンZ(A)と、中央部の16ヶ所のゾーンZ(A)〜Z16(A)として判別し、その判定結果に基づいて第3アドレスA(t)=0(H)〜F(H)を仮決定できる。
【0151】
表6は、第1実施の形態にならって理想的な状態における第3アドレス区間内の上記18ヶ所のゾーンの開始点と終了点におけるメイントラック波長λ内の位置と、12ビットに拡大されたアドレスA(H)の関係を示した表である。アドレスがA(H)と桁数が増加していることを除き、第1実施の形態と同様のアドレスとなることがわかる。
【0152】
【表6】

【0153】
即ち、第3アドレス区間の両端部Z(A)とZ(A)および略中間部のZ(A)同一の第3アドレスを持つのに対し、他のゾーンではゾーン開始部とゾーン終了部では異なる第3アドレスAを持つこと、さらに、異なる第3アドレスAを持つゾーンにおける下位のアドレスはA=00(H)またはFF(H)であることがわかる。
【0154】
さらに、PS(MA)信号とPS(MA)信号ともパルス数が変化する領域がアドレストラック1波長λaの1区間にて変化すること、現実のシステムにおけるアドレストラック2とアドレストラック3の内挿誤差は同様の傾向を有することを考慮すれば、内挿誤差を有する現実のシステムにおいても、第1実施の形態におけると同様に、ゾーン開始部のZ(A)と判定され、かつ、既に決定しているアドレスがA=FF(H)の時と、ゾーン終了側のZ(A)と判定され、かつ、既に決定しているアドレスがA=00(H)の時は第2アドレス区間を逸脱する可能性があり、既に決定した第アドレスAの状態によって判定する必要がある。
【0155】
そして、Z(A)〜Z17(A)と判定され、かつ、既に決定したアドレスがA=00(H)の時は隣接する次の第3アドレスに属する可能性があることを、Z(A)〜Z15(A)と判定され、かつ、既に決定したアドレスがA=FF(H)の時は、隣接1つ手前の第3アドレスに属する可能性があること、つまり、第1実施の形態と同様にA=00(H)またはA=FF(H)の時、隣接する第3アドレスのいずれ側に属するかという課題を解決すれば良いことがわかる。
【0156】
そこで、第2実施の形態においても、位相変調信号epm(A)とepm(A)信号との位相差を用いて上記課題を解決するように構成している。前述のように、第3アドレス区間には、アドレストラック1の波長λaが4,352(=17×16)波長分、アドレストラック3には、メイントラック波長とアドレストラック1波長を合わせた4,097波長分の目盛りが形成されているので、上記位相差は、第3アドレス区間の移動に対して波数の差に対応する2π×255(rad)分変化する。そして、第3アドレス区間内の1アドレス区間は、λa+255λ+λa/16に対応しているので、第3アドレス区間内の1アドレス毎に発生する位相差は、λa/16に対応する2π/16(rad)となり、第1実施の形態におけると同様に、第3アドレス区間内の隣接する第3アドレスの切り換え部の位置同士で比較すると2π/16(rad)の位相差が異なる。
【0157】
従って、第3アドレスの確定においても、第1実施の形態における第2アドレス確定と同様に、時刻tにおけるパルス列PS(MA)を計数して得られたデータD(MA)を上記パルス数Pn(A)と比較して18ヶ所のゾーンZ(A)、Z(A)およびZ(A)〜Z15(A)を判別し、該判別されたゾーンを基に第3アドレスA(t)を仮決定したのち、決定されたゾーンに応じて判別条件を選択し、同じく時刻tにおいてパルス列PS(A)を計数して得られたデータD(A)を、第1実施の形態と同じ値を持つ第3アドレス判定用のパルス数CP(A)と比較して仮決定したアドレスA(t)を補正し、正しい第3アドレスAを確定することができる。
【0158】
図16は、上記18ヶ所のゾーンZ〜Z17が検出された結果を利用して第3アドレス区間における第3アドレスAを確定するまでの手順をフローチャートで示したものである。
【0159】
絶対位置の合成
絶対値の合成に関しても、第1実施の形態と同様である。絶対位置生成回路(70A)は、確定したアドレスA〜Aと、時刻tにおいて読み込んだメイントラック波長λ内の位置に対応するデータD(M)とを重みを考慮して合成し、20ビット1μm単位の絶対値データDT(AB)を合成する。
【0160】
【数20】

【0161】
第2実施の形態においては、アドレストラックを3本として、20ビットの分解能を持つエンコーダが実現可能なことを示した。これは、メイントラック波長λの4,096倍の区間をアブソリュートに検出可能なことを示しており、直線型のエンコーダに適用した場合は1,048mmの区間をアブソリュートに検出可能であり、例えば、駆動機構を持つリニアスライドなどと組み合わせて直線型のアブソリュート位置決め装置として利用できる。
また、本発明においては、内挿数をあげメイントラック波長をより細かく分割して高分解能を実現することも容易であり、必要に応じてアドレストラックの拡張も可能である。また、走行系が安定で再現性に優れたシステムにおいては拡張数nをより大きな値とすることも可能であり、高分解能の回転型エンコーダや測定範囲の長い直線型のエンコーダを実現できる。
【0162】
第3実施の形態(測定範囲の拡大)
第1実施の形態によりアドレストラックを2本に拡大して16ビットの分解能を有する1μm分解能のエンコーダを、第2実施の形態によりアドレストラックを3本に拡大して20ビットの分解能を有する1μm分解能のエンコーダへの適用例について説明した。そして、アドレス拡張においては、メイントラックとアドレストラック2およびアドレストラック3との位相比較によってアドレストラック1波長λaの1区間内で発生する急崚な位相差2π/(n+1)を利用して、拡張されたアドレス区間と略等しいゾーンを判定したのち、アドレストラック1とアドレストラック2およびアドレストラック3との位相比較により、アドレス切り換え区間毎に位相が2π/nずつ変化することを利用し、第2アドレスおよび第3アドレスを正しく判定することを示した。
【0163】
本実施の形態によれば、アドレストラック4を拡張した場合においても、急崚な位相が得られる区間はλaの波長が形成されている(n+1)区間であり、アドレストラック1とアドレストラック4との位相比較によって得られる信号は、隣接するアドレス区間においては2π/nずつ変化するという基本的な性質は変わらない。つまり、アドレストラックは必要に応じていくらでも拡大し、アブソリュートに計測できる範囲を拡大できる。また、第1実施の形態および第2実施の形態においては、拡張数nを2進数系列の値としたが、10進系列の値やM進系列(ただしMは自然数)を選択しても良い。
【0164】
第4実施の形態(トラック位置のズレ補正)
第1実施の形態および第2実施の形態においては、複数のメイントラックと複数のアドレストラックにおける目盛の開始位置が理想的な状態で形成され、かつスケールとヘッドとの位相関係が理想的な状態で配設されていることを前提として説明した。しかしながら、現実のシステムにおいては、スケール上の各トラックにおける目盛の開始位置を一致させることが出来たとしても、スケールトラックと対向する検出ヘッドとの位置関係のズレが生ずることは避けられず、結果としてメイントラック波長λ単位のアドレスのズレを生じ、エンコーダとしてのスケール上の意図した原点位置にズレを生ずる可能性がある。
【0165】
また、エンコーダ相互間の互換性を維持するためにエンコーダとしての原点位置を一致させたい場合がある。そこで、アドレス判定回路の中に図示せぬ不揮発性記憶部のメモリ領域を確保し、このメモリ内に第1実施の形態に対しては、メイントラック波長λ内の位置の差とアドレストラック波長λaとの差に対応するパルス列信号PS(MA)にオフセットを与える補正量と、メイントラック波長λ内の位置とアドレストラック2の波長内の位置の差に対応するパルス列信号PS(MA)にオフセットを与える補正量と、アドレストラック2の波長λa内の位置とアドレストラック2の波長内の位置の差に対応するパルス列信号PS(A)にオフセットを与える補正量とを与える。さらに第2実施の形態に対しては、メイントラック波長λ内の位置とアドレストラック3の波長内の位置に対応するパルス列信号PS(MA)にオフセットを与える補正量とアドレストラック1の波長λa内の位置とアドレストラック3の波長内の位置の差に対応するパルス列信号PS(A)にオフセットを与える補正量を各々不揮発性記憶部に格納し、時刻tにおいて計数したデータからこの補正量を加算もしくは減算するように構成すれば、複数のトラックから再生される波長内の位置に所定のオフセットを与え、個々のエンコーダにおける意図せぬトラック間のズレに伴うメイントラック波長λ単位のズレを補正、もしくは、スケール上の原点位置を意図的にずらすことによってエンコーダ相互間の互換性を維持することが出来る。
【0166】
また、本実施の形態においては、各トラック間の位置の差に伴うパルス列信号にオフセットを与える補正量を格納するようにしたが、メイントラックと複数のアドレストラックそれぞれの波長内位置にオフセットを与えるように構成しても同一の効果を得られる。
【0167】
第5実施の形態(変位量検出回路の選択)
本発明においては、各々のトラック内の位置を位相として検出し、これらトラック間の位相差を用いることによって、メイントラック波長λの複数倍の区間をアブソリュートに検出するようにしている。従って、変位検出回路(301〜304)としては、図17に図解したように、位相検出型の変位量検出回路が好適である。
【0168】
また、本発明においては、メイントラックには波長λの等間隔の目盛を、アドレストラックに1は拡張数をnとした時、nλ=(n+1)λaの関係を持つ、等間隔の波長λを、それ以降のアドレストラックに対しては、メイントラック波長λとアドレストラック1波長λaとを所定の組み合わせで形成する必要がある。従って、さまざまな応用に対応するためには、磁気記録方式を採用するのが好適であり、第1実施の形態および実施の形態における変位量検出回路としては、図17に示すように、検出ヘッドとして磁気抵抗効果素子を用い、2つのチャンネルから得られる直交信号を、キャリア周波数fの直交する信号で変調し、これらの信号を加算して位置変調信号を出力するように構成するのが好適である。
【0169】
近年におけるミックスド・シグナル技術の進展は、アナログ信号をデジタル信号に変換して処理した方が好都合な場合も多く、本発明における波長内の位置を検出する場合においては必ずしも位相変位型の変位量検出装置である必要はない。図18は、CH1側検出ヘッドから出力される信号e、CH2側検出ヘッドから出力される信号eの直交信号を極座標変換によって波長内の位置(位相)に変換するように構成した「座標変換型変位量検出回路」の構成例を示したものである。
【0170】
図18に示す回路において、変位量をxとすれば、CH1検出ヘッドからの出力信号eおよびCH2検出ヘッドから出力信号eは、次のように表すことができる。
【0171】
【数21】

【0172】
また、波長内の位置に対応する位相をX(=2πx/λ)とすれば、eおよびeは次のように書き換えることができる。
【0173】
【数22】

【0174】
A/D変換回路は、CH1側検出ヘッドの出力eおよびCH2側検出ヘッドの出力eをデジタルデータに変換する回路で、メイントラック波長を内挿して所定の分解能を得るために必要な分解能を有するA/D変換器を使用する必要があり、例えば、メイントラック波長内を1/256分割するのであれば、12ビット程度の分解能をもつA/D変換器を用いるのが好適である。
【0175】
これらの信号は絶対値生成回路と座標変換回路に導かれ、波長内の位置に対応する位相X(=2πx/λ)を得るように構成されている。位相Xは、正接の逆演算(アークタンジェント)により偏角を求めることもできるが、この演算では一部の領域において分母が0となり不定な演算が発生する。そこで、図18に示す構成例においては、2組の検出ヘッド出力からされる出力から絶対値|R|を生成する絶対値生成回路を設け、該絶対値を用いて波長内の位置に対応する位相Xを得るように構成している。
【0176】
実際の演算はデジタル信号として処理されるが、便宜的にアナログ信号のままで説明すると、絶対値|R|および波長内の位置Xは次式による演算で求めることができる。
【0177】
【数23】

【0178】
次に、座標変換型変位量検出回路を用いて異なる波長の信号が形成されたトラックを再生したときの影響について説明する。
CH2側検出ヘッドが理想状態からΔZずれていた時のCH2側出力をe′とすると、e′は次のように表すことができる。
【0179】
【数24】

【0180】
従って、この時の波長内の位置をX′とすると、
【0181】
【数25】

【0182】
また、理想状態での位相Xは正接の逆関数を用いて次のように表すこともできる。
【0183】
【数26】

【0184】
これより、この時の位相誤差ΔX(X′−X)は、近似的に、
【0185】
【数27】

【0186】
さらに、sinΔZ≪1+cosΔZであり、微少角ではtanX=Xなので、
【0187】
【数28】

【0188】
となり、位相変調信号を用いた時と全く同じ結果が得られる。本発明における変位量検出回路については、位相検出型変位量検出回路だけでなく、直交する2相信号から座標変換により波長内の位置を生成するタイプの変位量検出装置を使用できる。
【0189】
また、本発明においては、内挿数をあげメイントラック波長をより細かく分割して高分解能を実現することも容易であり、必要に応じてアドレストラックの拡張も可能である。
また、走行系が安定で再現性に優れたシステムにおいては拡張数nをより大きな値とすることも可能であり、高分解能の回転型エンコーダや、測定範囲の長い直線型のエンコーダを実現できる。
【0190】
本発明のアブソリュートエンコーダは、工作機械やロボット等の他、精密部品加工のために精密な位置計測が必要な製造加工業や、液面レベル計測やストローク計測などが必要とされる産業機械分野など、高速、高精度、高信頼性を要求されるあらゆる産業分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0191】
1・・・回転軸、20・・・スケール部、201〜203・・・トラック、211〜213・・・検出ヘッド、30、301〜303・・・変位量検出回路、40、401〜403・・・位相比較回路、50・・・判定信号生成回路、60、60A・・・アドレス判定回路、70、70A・・・絶対位置合成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長(λ)で等間隔の第1目盛が形成されたメイントラックと、第1波長λのn倍の第1アドレス区間(nλ、ただしnは拡張数)を第2波長(λa)でnλ=(n+1)λaとなる等間隔の第2目盛が形成された第1アドレストラックと、これらのトラックに隣接して配置され、前記第1アドレス区間をn倍単位で拡張したアドレス区間のうち、nλ区間分を(n+1)λaで置き換えた第1波長と第2波長との組合せによって形成された拡張目盛を有する拡張アドレストラックを少なくとも1本以上有するスケール部と、
前記複数のトラックの目盛を検出する検出部と、
前記検出部で検出した前記複数のトラックの目盛を示す信号それぞれの位相差を検出する位相差検出手段と、
前記位相差検出手段で検出した複数の位相差に基づいてアドレス判定を行ない、前記被測定対象の位置または角度を算出する処理手段と
を有する、アブソリュートエンコーダ。
【請求項2】
第1波長(λ)で等間隔の第1目盛が形成されたメイントラックと、第1波長λのn倍の第1アドレス区間(nλ、ただしnは拡張数)を第2波長(λa)でnλ=(n+1)λaとなる等間隔の第2目盛が形成された第1アドレストラックを有し、もしくは、これらのトラックに加えて、前記第1アドレス区間をn倍単位で拡張したアドレス区間のうち、nλ区間分を(n+1)λaで置き換えた第1波長と第2波長との組合せによって形成された少なくとも1本以上の拡張目盛で形成された拡張アドレストラックを有するスケール部と、
前記複数のトラックの目盛を検出する検出部と、
前記検出部で検出した前記複数のトラックの目盛を示す信号それぞれの位相差を検出する位相差検出手段と、
前記位相差検出手段で検出した複数の位相差に基づいてアドレス判定を行ない、前記被測定対象の位置または角度を算出する処理手段と
を有し、
これらトラックから検出される2相の正弦波信号の不完全さに伴う内挿誤差の最も大きなトラックの内挿誤差の振幅をIeとしたとき、各々のアドレストラックにおける拡張数nと第1波長λとの関係を2Ie<λ/2nとなるように設定し、
前記位相差検出手段は、第1波長(λ)内の位置と、第2波長(λa)内の位置の差を位相差として検出し、前記第1波長λのn倍区間において0〜2π(rad)まで連続的に変化する位相差信号を得、
前記処理手段は、
時刻(t)において検出された位相差を、2π/nで除し、その商を用いてnλ区間内における第1波長λ単位のアドレスを仮決定した後、
該演算における剰余を0もしくは最大値近傍と中央部の3つのゾーンに区分けし、
前記0もしくは最大値近傍における領域の大きさをλ/2nに相当する位相差に前記演算の過程で生ずる量子化誤差に相当する位相差を加えた領域として設定し、
前記剰余が中央部のゾーンに属するときは前記仮決定したアドレスを無条件に、前記剰余が0もしくは最大値近傍のゾーンに属するときは、前記第1波長(λ)内の所定の位置との比較によってλ単位のアドレスを決定するよう構成されている
アブソリュートエンコーダ。
【請求項3】
前記拡張アドレストラックのうち最初に適用される第2アドレストラックは、前記メイントラックまたは第1アドレストラックに隣接して形成され、前記第1アドレス区間(nλ)のn倍の第2アドレス区間(nλ)において、nλ=n(λa+(n−1)λ)+λaなる第3目盛が形成され、次に適用される第3アドレストラックは、前記第2アドレス区間のn倍の第3アドレス区間(n3λ)において、n3λ=n(λa+(n2−1)λ)+λaなる第4目盛が形成され、以下同様の規則に従って拡大された第4アドレストラック、第5アドレストラックとして形成されている、請求項1または2に記載のアブソリュートエンコーダ。
【請求項4】
前記位相差検出手段は、前記第1アドレス区間(nλ)のn倍の第2アドレス区間(nλ)区間において、前記メイントラックの第1目盛内の位置と前記第2アドレストラックの第3目盛内の位置の差と、前記第1アドレストラックの第2目盛内の位置と前記第2アドレストラックの第3目盛内の位置の差を位相差として検出し、
前記処理手段は、前記第1アドレス区間(nλ)と略等しい区間毎に第2波長(λa)が形成された(n+1)ヶ所の位置においては急崚な位相変化が、第1波長λが(n−1)波長分形成されたnヶ所の区間では平坦な位相差を有する信号を用いて第1アドレス区間(nλ)単位のアドレス切り換え領域を除く領域では正しいアドレスを得るとともに、前記第1アドレス区間(nλ)単位のアドレス切り換え位置において2π/n(rad)ずつ位相が異なることと、既に決定されたλ単位のアドレスとを用いてnλ単位のn通りのアドレスを識別するように構成されている、
請求項1〜3のいずれかに記載のアブソリュートエンコーダ。
【請求項5】
前記位相差検出手段は、前記第2アドレス区間(nλ)のn倍の第3アドレス区間(n3λ)区間において、前記メイントラックの第1目盛内の位置と前記第3アドレストラックの第4目盛内の位置の差と、前記第1アドレストラックの第2目盛内の位置と前記第3アドレストラックの第4目盛内の位置の差を位相差として検出し、
前記処理手段は、前記第2アドレス区間(nλ)と略等しい区間毎に第2波長(λa)が形成された(n+1)ヶ所の位置においては急峻な位相変化が、第1波長λが(n−1)波長分形成されたnヶ所の区間では平坦な位相差を有する信号を用いて第2アドレス区間(nλ)単位のアドレス切り替え位置を除く領域では正しいアドレスを得るとともに、前記第2アドレス区間(nλ)単位のアドレス切り替え位置において2π/n(rad)ずつ位相が異なることと、該決定されたλ単位のアドレスと、nλ単位のアドレスとを用いて、nλ単位のn通りのアドレスを識別できるように構成されており、
以下、第4アドレストラックおよび第5アドレストラックについても上記同様の位相差信号を得、該位相差と既識別されたアドレスとを用いて、該拡大された区間を単位とするさらに上位のアドレスを識別できるように構成されている、
請求項1〜4に記載のアブソリュートエンコーダ。
【請求項6】
複数のトラックの波長内の位置の差を用いて第1波長λ単位のアドレスを判定する手段と、前記複数のトラック間の波長内の位置の差に所定のオフセットを与える補正量もしくは前記複数のトラック間の波長内の位置の差に所定のオフセットを与える補正量を格納する不揮発性記憶手段とを有し、
時刻(t)において計測される前記複数のトラックの波長内の位置もしくは波長内の位置の差に対応するデータと、前記不揮発性記憶手段に格納された該対応する補正量との演算を行うように構成し、前記複数のトラック間における意図せぬ位置ズレに伴う第1波長(λ)単位の位置ズレを補正、もしくは、スケール上の原点位置を意図的に調整可能とした、
請求項1〜5記載のアブソリュートエンコーダ。
【請求項7】
前記位相差検出手段は、前記複数のトラック内の位置に対応する位相を、位相変調信号として出力する位相検出型の変位量検出回路もしくは、各々のトラックから出力される直交する2相の正弦波信号を、座標変換により波長内の位置に対応する位相として取り出すように構成した座標変換型の変位量検出回路によって構成されている、
請求項1〜6のいずれかに記載のアブソリュートエンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−96813(P2013−96813A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239247(P2011−239247)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【特許番号】特許第4917185号(P4917185)
【特許公報発行日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【出願人】(511264755)
【Fターム(参考)】