説明

アボカドの果肉練砕加工品の変色防止方法及び変色防止剤

【課題】アボカドパルプやペースト、ピューレ等の果肉練砕加工品につき、少ない製剤使用量でその変色防止時間を飛躍的に向上させ、喫食の際に異味の残らないものを提供すること。
【解決手段】アボカドの果肉練砕加工品に対し、0.001〜0.1重量%のα−リポ酸又はその包接体と、0.1〜5.0重量%のL−アスコルビン酸又はその塩類と、添加量0.001〜1.0重量%のキレート剤を添加混合するか、L−アスコルビン酸類に代え0.1〜5.0重量%のエリソルビン酸またはその塩類を添加混合するか、あるいは、L−アスコルビン酸類とエリソルビン酸類の2剤を同量で添加混合すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アボカドのパルプやペースト、ピューレ等の果肉練砕加工品の経時的な変色による劣化を抑制する処理方法及び処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、流通の技術が発達し、現地で練砕加工処理したアボカド果肉を冷凍にて世界各地に提供できるようになってきた。アボカドの需要は年々増加し、日本に限らず欧米でもその需要は目覚しい。用途としては、ディップやサラダ、サンドウィッチやハンバーガーあるいは巻き寿司の具材など多種多様である。また、アボカドを提供する形態としても飲食店に留まらず、ファーストフード店やコンビニエンスストアーなどで販売されるが、商品化してから喫食するまで時間を置くケースが増えてきた。
通常、アボカドは、アメリカ、カナダ、メキシコ、ニュージーランド、ブラジルその他の南米諸国で加工されている。原料のアボカドを剥皮し、スクーピングしたものを容器に充填し高圧殺菌処理を経て冷凍されている。その冷凍品を世界各地へと輸送し、各食品メーカーにて解凍し商品化されている。
【0003】
しかし、スクーピングしただけのアボカドは変色による劣化が著しく、それに伴いそのアボカドを使用した商品は時間が経過することにより価値が損なわれてしまい商品化できないのが現状である。一般的にアボカドの変色は、主にポリフェノール類がポルフェノールオキシダーゼにより酸化されてキノン型となり、さらに自動的に酸化・重合して褐色の色素を生じて起こることが知られている。そしてその変色の防止には、L−アスコルビン酸やその塩類、エリソルビン酸などの還元剤と酸味料を組み合わせることで変色をある程度は抑えることができるが十分ではなく、また変色を抑える程度にまで量的添加をすると、酸味・塩味が強調されアボカド本来の味が損なわれてしまう。
【0004】
アボカドを含むカットした生鮮野菜等の変色防止技術に関しては、本出願人により特開2007−29071(特許文献1)ですでに提案されている。この技術は、α−リポ酸とL−アスコルビン酸またはL−アスコルビン酸塩を併用した溶液にアボカドカット品を接触させることで、その経時的変色を防止することができるというものである。
【先行技術文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2007−29071
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1の技術による変色防止効果は、アボカドカット品には認められるものの、アボカド果肉の練砕加工品への適用には言及していない。また、その効果にしても、色調的には商品性はあるが、α−リポ酸やL−アスコルビン酸類の添加量が比較的多いため、喫食の際に異味が残り、商品としては不十分であった。
【0007】
本発明は、アボカドペーストやピューレ等の果肉練砕加工品につき、少ない製剤使用量で変色防止時間を飛躍的に向上させ、喫食の際に異味の残らないものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、添加量を抑えたα−リポ酸とL−アスコルビン酸またはL−アスコルビン酸塩との併用に加え、これにさらにキレート剤を併用することにより、あるいはL−アスコルビン酸類に代えてエリソルビン酸又はその塩類を併用するか、L−アスコルビン酸類とエリソルビン酸類との2剤の併用により、少ない製剤使用量で変色防止時間を飛躍的に向上させることができるとともに、異味の感じられないアボカドペーストやピューレを得ることに成功した。
【0009】
すなわち本発明は、アボカドの果肉練砕加工品に対し、0.001〜0.1重量%のα−リポ酸又はその包接体と0.1〜5.0重量%のL−アスコルビン酸又はその塩類と0.001〜1.0重量%のキレート剤を添加混合することを特徴とするアボカドの果肉練砕加工品の変色防止方法である。また、本発明は、L−アスコルビン酸類に代え、またはL−アスコルビン酸類とともに、0.1〜5.0重量%のエリソルビン酸又はその塩類を添加混合することを特徴とする。さらに本発明は、上記各製剤を有効成分として含有するアボカドの果肉練砕加工品の変色防止剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ここで、アボカドの果肉練砕加工品とは、パルプ、ペースト、ピューレ、スプレッド、ディップ、ジュース、ドレッシング、ケチャップ、ジャム等をいうものとする。ここでいうパルプとは、アボカドの皮を剥き、種取りをして得た果肉をチョッパー及びパルパーに通したものをいう。また、ペーストは、パルプを裏ごししたものを指し、ピューレは、ペーストを真空加熱濃縮したものを指す。
各成分の添加量としては、食味の面も考慮すると、α−リポ酸又はその包接体は0.001〜0.1重量%好ましくは0.005〜0.05重量%、L−アスコルビン酸類は0.1〜5.0重量%好ましくは0.5〜2.0重量%、エリソルビン酸類は0.1〜5.0重量%好ましくは0.5〜2.0重量%、キレート剤は0.001〜1.0重量%好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0011】
キレート剤は、ポリフェノールオキシダーゼ等の酵素の活性中心にある金属イオンに作用し、その金属イオンを不活性化することにより酸化型であるキノンを生成する反応を抑制する働きがある。キレート剤としては、クエン酸、フィチン酸、リンゴ酸、リン酸、グルコン酸、EDTA(エデト酸)、これらの塩類があるが、特に限定されるものではない。また、キレート剤は、特に酸味に影響しやすいので二種以上の組み合わせを用いた方が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
アボカドの果肉練砕加工品に本発明を適用することで、少ない製剤使用量により変色防止時間が飛躍的に向上し、喫食の際に異味も残ることがなかった。
【実施例1】
【0013】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによってその内容が限定されることはない。
アボカドを剥皮し、中から種を取り出しスクーピングし、ペーストを作成した。以下の試験区はスクリーピングする工程で添加した。それを実際の流通形態に則して一度凍結をかけ、解凍したものをサンプルとした。
【0014】
これらのサンプルを冷蔵(8℃)と常温(20℃)で保管し、変色の度合いを目視にて観察した。結果を以下の表1及び表2に示す。なお、変色度合い評価は、−:変色のない状態、±:僅かに変色、+〜++++:変色の程度が進行(多いほど変色が顕著)とした。
【0015】
L−アスコルビン酸ナトリウム単品の試験区やL−アスコルビン酸ナトリウムとクエン酸、リンゴ酸の併用の試験区は経時的に変色が進み72時間後には完全に褐変してしまった。L−アスコルビン酸ナトリウムとα−リポ酸の試験区も同様であった。これに対し、L−アスコルビン酸ナトリウムとα−リポ酸とクエン酸、リンゴ酸を組み合わせた本製剤区1は、8℃保管では72時間後でも変色が認められず、20℃で72時間保管後でも僅かに変色した程度であったことから顕著な変色防止効果の向上が認められたと言える。なお、αリポ酸に代え、αリポ酸の包接体を使用した本製剤区1(包接体)でも同様の効果が得られた。
また、いずれの製剤使用量も極めて少ないため、食味に関しても、異味の感じられないアボカドペーストそのものであった。
【0016】
L−アスコルビン酸ナトリウムに代え、エリソルビン酸ナトリウムを使用した本製剤区2(表3及び表4参照。)でも色調、食味ともに本製剤区1と同様の良好な効果が得られた。また、L−アスコルビン酸ナトリウムとエリソルビン酸ナトリウムの2剤を併用した本製剤区3(表5及び表6参照。)でも色調、食味ともに効果は良好であった。さらに、αリポ酸に代え、αリポ酸の包接体を使用した本製剤区2(包接体)及び本製剤区3(包接体)でも同様の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
皮むき及びカットした生鮮野菜や果物に本発明方法を適用することも可能である。
【0018】
【表1】


【0019】
【表2】

【0020】
【表3】


【0021】
【表4】

【0022】
【表5】


【0023】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アボカドの果肉練砕加工品に対し、0.001〜0.1重量%のα−リポ酸又はその包接体と、0.1〜5.0重量%のL−アスコルビン酸又はその塩類と、0.001〜1.0重量%のキレート剤を添加混合することを特徴とするアボカドの果肉練砕加工品の変色防止方法。
【請求項2】
アボカドの果肉練砕加工品に対し、0.001〜0.1重量%のα−リポ酸又はその包接体と、0.1〜5.0重量%のエリソルビン酸又はその塩類と、0.001〜1.0重量%のキレート剤を添加混合することを特徴とするアボカドの果肉練砕加工品の変色防止方法。
【請求項3】
アボカドの果肉練砕加工品に対し、0.001〜0.1重量%のα−リポ酸又はその包接体と、0.1〜5.0%重量のL−アスコルビン酸またはその塩類と、0.1〜5.0重量%のエリソルビン酸又はその塩類と、0.001〜1.0重量%のキレート剤を添加混合することを特徴とするアボカドの果肉練砕加工品の変色防止方法。
【請求項4】
α−リポ酸又はその包接体と、L−アスコルビン酸又はその塩類と、キレート剤を有効成分として含有することを特徴とするアボカドの果肉練砕加工品の変色防止剤。
【請求項5】
α−リポ酸又はその包接体と、エリソルビン酸又はその塩類と、キレート剤を有効成分として含有することを特徴とするアボカドの果肉練砕加工品の変色防止剤。
【請求項6】
α−リポ酸又はその包接体と、L−アスコルビン酸又はその塩類と、エリソルビン酸又はその塩類と、キレート剤を有効成分として含有することを特徴とするアボカドの果肉練砕加工品の変色防止剤。

【公開番号】特開2011−250776(P2011−250776A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138720(P2010−138720)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000194745)株式会社セイワテクニクス (6)
【Fターム(参考)】