説明

アポトーシスを阻害する組成物、その組成物の精製方法およびその使用

【課題】抗アポトーシス活性を有する因子を含有する組成物を得ること。
【解決手段】抗アポトーシス活性を有する因子を含有する組成物を得る方法であって、以下の工程: a)脱脂剤を用いて植物性粉末を脱脂する工程;
b)該植物性粉末を該脱脂剤から分離する工程;
c)水溶液を用いて該脱脂粉末を抽出する工程;および d)該水溶液を該脱脂粉末から分離し、水性保持物質を得る工程を包含する、方法。植物性粉末は、アセトン、四塩化炭素、エーテル、ヘキサンおよびクロロホルムからなる群から選択される有機溶媒を用いる該粉末の抽出により脱脂される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許出願第08/320,155号の一部継続出願である。米国特許出願第08/320,155号は、米国特許出願第08/158,980号の一部継続出願であり、1993年11月30日に提出され、そして本明細書中で参考として援用されている。
【0002】
(発明の分野)
本発明はアポトーシス細胞死の阻害に効果的な組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
アポトーシスは個々の細胞死を導く正常な生理学的プロセスである。プログラムされた細胞死であるこのプロセスは、正常および病原性の様々な生物学的現象に関与し、多くの関連のない刺激により誘導され得る。アポトーシスの生物学的調節の変化はまた老化中に起こり、そして老化に関連する多くの状態および疾患を引き起こす。アポトーシスの最近の研究は、細胞死を導く通常の代謝経路が、ホルモン、血清増殖因子涸渇(deprivation)、化学療法剤、電離放射線およびヒト免疫不全性ウイルス(HIV)による感染を包含する広範囲の種々のシグナルにより開始され得ることを示唆した。非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;および非特許文献5;非特許文献6;および非特許文献7。アポトーシスの生物学的制御に影響を与える薬剤は、従って、多くの臨床的徴候において治療的有用性を有する。
【0004】
アポトーシス細胞死は、細胞収縮、クロマチン凝縮、細胞質小庖形成(blebbing)、膜透過性の上昇、およびヌクレオソーム内DNAの切断により特徴付けられる。非特許文献8;および非特許文献9。
【0005】
本明細書中で引用されたすべての文献は、前出後出の両方を本明細書で参考として援用する。
【0006】
部分的に処理した植物性抽出物を一部含有する様々な食物補給物は、しばしば化学療法、放射線照射およびエイズに伴って起こる胃腸の疾患を回復させるために使用されてきた。補給物は、一般に炭水化物、脂肪および植物性タンパク質加水分解物を含有する。例えば非特許文献10を参照されたい。
【0007】
植物性抽出物由来のいくつかのプロテナーゼインヒビターは抗発癌性活性を有する。非特許文献11。ボーマン・バーク(Bowman-Birk)インヒビターはこれらのインヒビター中で最も多く記載されている。非特許文献12。ボーマン・バークインヒビターは、細胞の形質転換を抑制する分子量約8kDのジスルフィド結合タンパク質のファミリーとして記載されている。非特許文献13;非特許文献14;および非特許文献15。ボーマン・バークインヒビターを含有するダイズ粗抽出物が記載されている。特許文献1、Kennedyら;特許文献2;および非特許文献16。ボーマン・バークインヒビターはまた免疫学的にも記載されている。特許文献3;および特許文献4;および特許文献5。ボーマン・バークインヒビターはまた、マクロファージの脱顆粒に活性を有することも知られている。特許文献6。
【0008】
リゾホスファチジン酸(LPA)は、種々のリン脂質と同様に種々の植物生産物中に見い出される。LPAは有糸分裂誘発、成長因子を含む種々の生理学的活性を有すること、および抗リンクル剤として知られている。特許文献7;特許文献8;特許文献9;および特許文献10。LPAは、非特許文献17;および非特許文献18により詳細に概説されている。
【特許文献1】米国特許第4,793,996号明細書
【特許文献2】国際公開第94/20121号パンフレット
【特許文献3】国際公開第90/03574号パンフレット
【特許文献4】米国特許第4,959,310号明細書
【特許文献5】米国特許第5,053,327号明細書
【特許文献6】日本国特許第63051335号
【特許文献7】米国特許第4,263,286号明細書
【特許文献8】米国特許第4,746,652号号明細書
【特許文献9】米国特許第5,326,690号号明細書
【特許文献10】米国特許第5,340,568号明細書
【非特許文献1】Wyllie(1980)Nature284:555-556
【非特許文献2】Kanterら、(1984)Biochem.Biophys.Res.Commun.118:392-399
【非特許文献3】DukeおよびCohen(1986)LymphokineRes. 5:289-299
【非特許文献4】Tomeiら、(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.155:324-331
【非特許文献5】Krumanら、(1991)J.Cell.Physiol.148:267-273
【非特許文献6】AmeisenおよびCapron(1991)Immunol.Today12:102-105
【非特許文献7】SheppardおよびAscher(1992)J.AIDS5:143-147
【非特許文献8】Gerschensonら、(1992)FASEBJ. 6:2450-2455
【非特許文献9】CohenおよびDuke(1992)Ann.Rev.Immunol.10:267-293
【非特許文献10】TomeiおよびCopeら、Apoptosis The Molecular Basis of Cell Death(1991)ColdSpring Harbor Laboratory Press
【非特許文献11】Trollら、(1987)Adv.Cancer Res. 49:265-283
【非特許文献12】Birk(1985)Int.J.Pep.Pro.Res. 25:113-131
【非特許文献13】Chouら、(1974)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 71:1748-1752
【非特許文献14】Yavelowら、(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5395-5399
【非特許文献15】Yavelowら(1983)Cancer Res.(Suppl.) 43:2454s-2459s
【非特許文献16】Kennedy,A.R.(1994)Cancer Res.(Suppl)54:1999s -2005s
【非特許文献17】Moolenaar(1994)TICB 4:213-219
【非特許文献18】Eichholtzら、(1990)Biochem.J. 291:677-680
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、アポトーシスを阻害する組成物を得る方法、およびそれにより得られる組成物を包含する。この組成物は植物性アポトーシスインヒビター(PAI)と呼ばれる。本発明は、アポトーシスを調整するのに十分な量でPAIを投与するのに適切な生理学的に受容可能な組成物を包含する。本発明はさらにPAIの使用方法を包含する。
【0010】
具体的には、本発明は、以下を提供する:
項目1.抗アポトーシス活性を有する因子を含有する組成物を得る方法であって、以下の工程:
a)脱脂剤を用いて植物性粉末を脱脂する工程;
b)該植物性粉末を該脱脂剤から分離する工程;
c)水溶液を用いて該脱脂粉末を抽出する工程;およびd)該水溶液を該脱脂粉末から分離し、水性保持物質を得る工程を包含する、方法。
項目2.前記植物性粉末が、アセトン、四塩化炭素、エーテル、ヘキサンおよびクロロホルムからなる群から選択される有機溶媒を用いる該粉末の抽出により脱脂される、項目1に記載の方法。
項目3.前記植物性粉末が任意の植物の部分から得られる、項目1に記載の方法。
項目4.前記植物の部分が貯蔵器官である、項目3に記載の方法。
項目5.前記貯蔵器官が塊茎、種子および球根からなる群から選択される、項目4に記載の方法。
項目6.前記植物性粉末がleguminosae、solanumおよびalliumの植物ファミリー由来である、項目1に記載の方法。
項目7.前記植物性粉末がエンドウまたはダイズの種子由来である、項目6に記載の方法。
項目8.前記植物性粉末がジャガイモの塊茎由来である、項目6に記載の方法。
項目9.前記水溶液が、1以上の水混和性有機溶媒を該溶液の80%までの濃度で含有する、項目1に記載の方法。
項目10.前記水溶液が緩衝化塩溶液である、項目1に記載の方法。
項目11.前記水溶液がリン酸緩衝生理食塩水である、項目10に記載の方法。
項目12.前記水混和性有機溶媒が、アセトニトリル、低級アルカノール、特にC1-C4アルカノール、低級アルカンジオール、C2-C4アルカンジオール、および低級アルカンジオールのポリマーからなる群から選択される、項目9に記載の方法。
項目13.前記水混和性有機溶媒がエタノールである、項目12に記載の方法。
項目14.前記エタノールが50%の濃度で存在する、項目13に記載の方法。
項目15.残留する水混和性有機溶媒を除去する工程をさらに包含する、項目9に記載の方法。
項目16.残留する水混和性有機溶媒を除去する前記工程が、透析、限外濾過、または凍結乾燥による、項目15に記載の方法。
項目17.前記水性保持物質の混入物を沈殿させる工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
項目18.前記水溶液をサイズ排除ゲル濾過クロマトグラフィーにかけることにより該水溶液中の他の成分から前記組成物を分離する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
項目19.前記使用されるクロマトグラフィー物質がSepharoseおよびBioGelからなる群から選択される、項目18に記載に方法。
項目20.前記使用されるクロマトグラフィー物質がSepharose S100HRである、項目19に記載の方法。
項目21.クロマトグラフィー緩衝液が使用され、そして0.1〜0.3M重炭酸アンモニウムまたは0.1〜0.3M塩化ナトリウム、および中性pHの10〜50mMリン酸からなる群から選択される、項目18に記載の方法。
項目22.前記クロマトグラフィー緩衝液が0.1M重炭酸アンモニウムを含有する、項目21に記載の方法。
項目23.画分が前記ゲル濾過クロマトグラフィーから回収され、そして280nmで最大吸光度を有する該画分が回収され、プールされる、項目18に記載の方法。
項目24.画分が前記ゲル濾過クロマトグラフィーから回収され、そして見かけの分子量が80kDより大きい該画分が回収され、プールされる、項目18に記載の方法。
項目25.画分が前記ゲル濾過クロマトグラフィーから回収され、前記組成物を含有する画分が精製され、そして透析および凍結乾燥により濃縮される、項目24に記載の方法。
項目26.前記水性保持物質を有機溶媒と水との単一相混合物で抽出し、前記組成物を含有する水相および有機相を得る工程をさらに包含する、項目25に記載の方法。
項目27.前記水性保持物質を凍結乾燥する工程をさらに包含する、項目26に記載の方法。
項目28.以下の工程:
a)前記凍結乾燥物を有機溶媒と水との単一相混合物で抽出する工程;および
b)該抽出混合物から不溶性物質を分離することにより糖脂質およびリン脂質を含有する画分を単離する工程、をさらに包含する、項目27に記載の方法。
項目29.前記有機溶媒と水との単一相混合物が、クロロホルム、メタノール、および水を含有する、項目28に記載の方法。
項目30.前記クロロホルム、メタノールおよび水が4:8:3の割合で存在する、項目29に記載の方法。
項目31.前記工程b)の分離が、濾過または遠心分離よりなる群から選択される方法により達成される、項目28に記載の方法。
項目32.クロロホルム:メタノール混合物中のシリカクロマトグラフィーによる分離工程をさらに包含する、項目30に記載の方法。
項目33.ジオールカラムでの分離工程をさらに包含する、項目32に記載の方法。
項目34.シリカカラムでのHPLC分離を行い、素通り画分および5つの画分を得る工程をさらに包含する、項目33に記載の方法。
項目35.項目34に記載の方法により得られる前記素通り画分を含有する、組成物。
項目36.項目34に記載の方法により得られる前記素通り画分および画分2を含有する、組成物。
項目37.項目34に記載の方法により得られる画分3を含有する、組成物。
項目38.項目34に記載の方法により得られる前記素通り画分および画分4を含有する、組成物。
項目39.項目34に記載の方法により得られる画分5を含有する、組成物。
項目40.抗アポトーシス活性を有する組成物を得る方法であって、以下の工程:
a)乾燥エンドウの粉末を得る工程;
b)70%のアセトンを含有する有機相で該粉末を脱脂する工程、ここて該有機相は該粉末の重量とほぼ等しい容量である;
c)該脱脂粉末から該アセトンを分離する工程;
d)エタノールおよび水を含有する水相で該脱脂粉末を抽出する工程、ここで該水相は該脱脂粉末の重量とほぼ等しい容量である;
e)抽出した該植物性粉末から該水相を分離し、水性保持物質を得る工程;
f)濾過により該水性保持物質から該エタノールを除去する工程;および
g)工程f)の生産物を凍結乾燥させる工程を包含する、方法。
項目41.クロロホルム、エタノール、および水が4:8:3の割合で存在する単一相混合物を用いて前記凍結乾燥した工程g)の生産物を抽出する工程;および遠心分離により該抽出混合物から不溶性物質を分離し、脂肪/糖脂質/リン脂質を含有する画分を単離する工程をさらに包含する、項目40に記載の方法。
項目42.項目1に記載の方法で調製される、組成物。
項目43.項目15に記載の方法で調製される、組成物。
項目44.項目17に記載の方法で調製される、組成物。
項目45.項目18に記載の方法で調製される、組成物。
項目46.項目32に記載の方法で調製される、組成物。
項目47.項目33に記載の方法で調製される、組成物。
項目48.室温で50%エタノール/50%水の溶液に可溶性で、70%アセトン/30%水の溶液に実質的に不溶性の植物または植物生産物由来のアポトーシスインヒビターを含有する、組成物。
項目49.室温で60%硫酸アンモニウム水溶液に可溶性であり、50mM MgCl2水溶液に可溶性である植物または植物生産物由来のアポトーシスインヒビターを含有する、組成物。
項目50.pHレベルが2.5〜11の範囲で安定な、項目49に記載の組成物。
項目51.アポトーシスの処置方法であって、このような処置が必要な患者に、項目1に記載の組成物を含む治療的有効量の薬学的に受容可能な組成物を投与する工程を包含する、方法。
項目52.前記患者が胃腸不調を患っている、項目51に記載の方法。
項目53.前記胃腸不調が、ヒト免疫不全ウイルス、化学療法剤および放射線照射よりなる群から選択される刺激により引き起こされる、項目52に記載の方法。
項目54.前記処置が、免疫抑制ウイルス、化学療法剤、または放射線照射に関連する免疫不全を低下させる、項目52に記載の方法。
項目55.前記ウイルスがヒト免疫不全ウイルスである、項目54に記載の方法。
項目56.前記処置がヒト免疫不全ウイルスに関連するT細胞のアポトーシス細胞死を減少させる、項目55に記載の方法。
項目57.前記患者が再灌流に関係するアポトーシスを受けている、項目51に記載の方法。
項目58.前記再灌流が、冠状動脈閉塞;脳梗塞;脊髄/頭部損傷およびそれにともなう重篤な麻痺;凍傷;ならびにスーパーオキシドジスムターゼにより処置可能であると以前に考えられていた任意の徴候に関連する、項目57に記載の方法。
項目59.前記処置が、スーパーオキシドジスムターゼにより処置可能であると以前に考えられていた任意の徴候に対する処置である、項目58に記載の方法。
項目60.組織培養培地および少なくとも1つの有効量のPAIを含有する、組成物。
項目61.前記組織培養培地が、Basal Eagle's培地、Fischer's培地、McCoy's培地、Media 199、RPMI培地 1630および1640、F-10& F-12 Nutrient Mixturesベースの培地、Leibovitz's L-15培地、Glasgow最少必須培地、およびDulbecco's改変Eagle培地よりなる群から選択される、項目60に記載の組成物。
項目62.前記組織培養培地が血清を含まない、項目60に記載の組成物。
項目63.前記血清を含まない組織培養培地が、AIM V(登録商標)培地、Neuman and Tytell’s無血清培地、Trowell's T8培地、Waymouth's MB752/1および705/1培地、およびWilliams'培地 Eよりなる群から選択される、項目62に記載の組成物。
項目64.項目60に記載の組成物を用いて細胞を処置する工程を包含する、培養細胞てのアポトーシスを予防する方法。
項目65.前記細胞が哺乳動物である、項目64に記載の方法。
項目66.前記細胞がヒトである、項目65に記載の方法。
項目67.前記細胞が組織の一部である、項目64に記載の方法。
項目68.前記細胞が器官の一部である、項目64に記載の方法。
項目69.後の移植のために器官の保存状態を高める方法であって、少なくとも1つの有効量のPAIを該器官が貯蔵されている溶液へ添加する工程を包含する、方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の実施態様)
現在、種々の植物組成が、少なくとも部分的に精製されるか、または精製される場合には、アポトーシスを阻害する能力を示す成分を含有することが見出されている。これらの組成物は、ボーマン・バークインヒビターから容易に分離可能であり、そして他の公知の治療上効果的な植物の産物と区別される。これら組成物は、それらの由来した供給源および植物生育条件に依存して化学組成がわずかに変化する。本発明は、本明細書中に記載の方法で作られたが、異なる植物源から得られた関連組成物を包含し、本明細書中ではこれら組成物を「PAI」と呼ぶ。これら組成物はまた、脂質合成分野で公知の方法により合成により調製され得る。いくつかの比較的精製された組成物が提供され、そして以下で論ずるような異なる精製程度を表すためにL/G、AcE、MAcE、およびFAcEと表す。比較的純粋な画分もまた提供し、以下で論するように「D」および「L」と表す。これらは、どちらもリン脂質の混合物である。2つの別の比較的純粋な組成物を提供する。これらはどちらもリゾホスファチジン酸(LPA);LPAおよびタンパク質キャリア;そしてLPAおよびその他の不活性画分「B」を含有する。
【0012】
PAIは種々の植物および植物器官から単離され得る。好ましくは、植物はマメ科(leguminosae)(インゲンおよびエンドウなど)のファミリーであるが、しかし他の植物(例えば、ナス属(solanum)(例えば、ジャガイモ)およびネギ属(allium)(例えばニンニク)のファミリー)からもPAIは単離され得る。PAIはまた、一部精製した植物抽出物(糖蜜、レシチン、一部精製したタンパク質濃縮物、および一部精製したタンパク質加水分解物を包含するが、それに限定されない)から単離され得る。本明細書中に記載された方法を利用して、PAIを特定の植物種、植物抽出物、または植物内の器官から単離し得るかどうか決定するのは当業者の範囲内である。
【0013】
上記組成物を生じる任意の植物抽出物またはその一部が、本発明の使用に適切である。利用され得る植物器官は、茎、葉、根、花、根茎、そして好ましくは貯蔵器官(例えば、種子、塊根、および球根(bulb))を包含するが、それに限定されない。好ましくは、利用される植物部分は、ジャガイモ、ニンニクを包含するが、それに限定されない貯蔵器官である。最も好ましくは、ダイズおよびエンドウを包含するかそれに限定されないマメ科乾燥種子が、プロセスを容易にするために使用される。用語「種子」および「複数の種子」が本明細書中で使用されているが、これらの用語は、任意の植物部分(これは少なくとも1つの治療的に活性なPAIまたは細胞培養に活性なPAIを生じる)を包含することを理解すべきである。
【0014】
本発明は、実質的なPAIの精製方法を包含する。種々の程度の純度を達成され得る。種子は、粉砕されるかまたは粉末化され、好ましくは粉末(powder)または粉(flour)となる。本明細書中で用いられるように、用語粉末は、粉砕して乾燥した植物部分をいう。粉末粒子は、実質的表面積が、それらの曝されている種々の液体に曝され得るように十分に小さくあるべきである。任意の粉砕方法または粉末化方法が、本明細書中で使用するために適切であり、代表的には、種子の粉砕は、市販の製粉機で達成される。PAIは著しく熱に安定であり、よって粉砕は多くのタンパク質が変性する温度で行われ得る。商業的に購入した種子粉末もまた使用され得る。例えば、ダイズ粉および種々の黄エンドウ粉および青エンドウ粉が活性なPAIを含有することが見出された。
【0015】
次いで、種子粉末を当該分野で公知の任意の方法により脱脂する。不活性な環境(例えば、無酸素窒素または無酸素アルゴン)で粉を脱脂すること、または活性を増進し、または酸化性質の変化を最小にするために、手順の間、抗酸化剤(例えば、BHTまたはBHA)を包含することが必要であり得る。脱脂は、一般に、粉末を有機溶媒を含有する溶液で抽出することにより達成される。適切な有機溶媒は、アセトン、四塩化炭素、エーテル、ヘキサン、およびクロロホルムを包含するが、これらに限定されない。代表的には、溶液中の有機溶媒の濃度は50〜100%てある。好ましくは、有機溶媒はアセトンである。使用される有機溶液の濃度は、特定の溶液および種子のタイプにより変化する;効果的な濃度の決定は、当業者による。好ましくは、アセトンの場合、濃度は約70%である。多数回の有機抽出も行い得る。粉末に対する有機溶液の割合(重量/容量)もまた変化し得る。以下の範囲に限定しないが、代表的な割合は、約2:1から1:20(粉末重量/有機溶液量)を用いる。アセトンの場合は、割合は1:5が好ましい。
【0016】
PAIの安定性により、その下で脱脂が行われる温度および大気圧は、用いる有機溶液それぞれの凝固点および沸点によってのみ大きく制限される。代表的には、使用を容易にするために、脱脂は室温および大気圧で行われ得る。抽出時間もストリンジェントでなく、そして有機溶液に対する粉末の割合に大きく依存する。1:5の割合の70%アセトン抽出の場合では、脱脂は、代表的には定常的に撹拌しながら30分間行う。
【0017】
次に、有機溶液を、当該分野で公知の任意の方法により粉末から分離する。好ましくは、粉末は、遠心分離および有機層の除去により有機層から取り出される。分離の任意の適切な形態もまた、濾過または重力による分離を包含するがそれに限定されず用いられ得る。PAIは抽出された粉末内に残存する。
【0018】
次に脱脂粉末を水溶液で抽出し、PAIを含有する水性保持物質(aqueous retentate)を得た。水溶液は緩衝化溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS))であり得、そしてまた最大約80%の水混和性有機溶媒を含有し得る。適切な水混和性有機溶媒は、アセトニトリル、低級アルカノール、特にC1〜C4アルカノール(例えばエタノール、メタノール、およびプロパノール)、低級アルカンジオール、特にC2〜C4アルカンジオール(例えば、エチレングリコール)、および低級アルカンジオールのポリマー、特にポリエチレングリコールを包含するが、これに限定されない。好ましくは、エタノールが使用され、最も好ましくは濃度50%で使用される。
【0019】
粉末に対する水溶液の割合もまた変化し得る。抽出の割合は、約1:1から少なくとも1:20(粉末重量/水溶液容量)であり得る。一般に、50%エタノールの1:10の割合が使用される。抽出時間もまた変化し、そして使用した水溶液容量および水混和性有機溶媒の割合に依存する。50%エタノールの1:10の容量の場合、一定に混和または撹拌(または振動)しながら抽出を1時間行う。
【0020】
水溶液のpH範囲は、一般に無関係であることが見出された(2.5〜11の範囲を試験した);よって、より広い範囲でも効果的であるようである。代表的には、使用を容易にするためにpH範囲は7〜8である。
【0021】
水性抽出物の温度および大気条件は、広範囲に変化し得、そして水溶液の凝固点および沸点に大きく依存し得る。代表的には、抽出物は、室温および大気圧で行われる。一旦水性抽出を行ったら、さらなるプロセスのために水性保持物質を回収する。当該分野で公知の任意の回収方法(遠心分離および濾過を包含するがこれに限定されない)が適切である。
【0022】
次に、水性保持物質をさらに精製してPAIを生じさせる。任意の水混和有機溶媒を、当該分野で公知の任意の除去方法(限外濾過、乾燥および透析を包含するがこれに限定されない)により除去する。10kDの分子量カットオフを使用して限外濾過を行い、低分子量タンパク質(例えば、ボーマンバークインヒビターの単量体および有機溶媒)を除去し得る。透析チューブによる分子量カットオフもまた、10kDであり得る。
【0023】
残存有機溶媒を、限外濾過後のダイアフィルトレーションにより、または透析液を多数回変えること(例えば、純水による)により除去し得る。この水性保持物質を、溶液中で数日間まで、そして凍結乾燥した固体として無期限に貯蔵し得る。好ましくは、水性保持物質を凍結乾燥する。凍結乾燥した固体は、出発物質がダイズ粉である場合、ACEである。水性保持物質および凍結乾燥残存物の両方が、さらなるプロセス工程の対象であり得る;さらなるプロセスの前に、凍結乾燥残存物を適切な水溶液に再懸濁する。
【0024】
得られた物質を、水性緩衝液中で任意の分子量サイズ排除クロマトグラフィー(例えば、Sepharose S100HR(Pharmacia Biotechnology Piscataway NJ.USA)またはBioGelP-100(BioRad Laboratories Inc、Hercules CA.USA)を含むがこれに限定されない)を通すことによりさらに分離し得る。適切な緩衝液は、中性pHの10〜50mMリン酸中の0.1〜0.3M重炭酸アンモニウムまたは0.1〜0.3M NaClを包含するが、それに限定されない。
【0025】
サイズ排除クロマトグラフィーにより得られるPAIは、ボイドボリューム中に見出され、そして80kDより大きな見かけの分子量を有する。この画分に見出される物質は、還元条件下でドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分解され得、そしていくつかのタンパク質を含有する。クーマシーブルーでの染色は、18〜68kDの分子量範囲の6〜8のタンパク質の存在を示す。薄層クロマトグラフィーによる解析は、いくつかの脂質型成分の存在を示す。
【0026】
クロマトグラフィーから溶出した280nmでの最大吸収の画分は、最大の生物学的活性を含有する画分と一致する。生物学的活性は低分子量の物質から分離し、そして80kD以上の分子量または集合体と矛盾しない位置のボイドボリュームに溶出する。この物質を、濃縮し、透析し、凍結乾燥し、そして凍結乾燥した形態で無期限に貯蔵する。凍結乾燥した固体は、出発物質がダイズ粉である場合、FAcEである。
【0027】
可溶化PAIを、70%以上の濃度のアセトンで沈殿させ得る。しかし、強酸を含む種々の薬剤て処理すると、それらの活性は損なわれる。例えば、トリフルオロ酢酸、塩酸、トリクロロ酢酸、およびフェノールは、それらの活性を損なう。しかし、2.5という低いpHレベルでも活性を損なわず、1%酢酸はPAIの活性に影響しない。
【0028】
PAIはさらに、脱脂し、そしてクロロホルム:メタノール:水(4:8:3)の単層混合物にエタノール抽出した種子粉末から得られ、凍結乾燥させた高分子量画分の抽出により単離され得る。これは、乾燥物質を水画分に溶解し、次にメタノールを、続いてクロロホルムを加えて混合し、そして沈殿を取り出すことにより最も簡便に行われる。この抽出は、PAI活性を保持する糖脂質/脂質/リン脂質画分を生じる。
【0029】
例えば、高分子量画分(FAcE)の0.1g EQ(0.1gの出発物質に由来する量)を7.5mlの水に溶解し、そして一定に混和しながら、20mlのメタノール、続いて10mlのクロロホルムを加えた。不溶性物質を遠心分離(8,000×g、10分間)により除去し、そしてPAIを有機溶媒を除去するためにロータリーエバポレートし、そして水除去のために凍結乾燥して溶液中から再回収した、得られた画分を、L/G画分と名付けた。L/G画分の炭水化物組成は、フコース、ラムノース、グルコサミン、グルコース、およびマンノースが全て微量成分として存在する3:2の割合のアラビソースおよびガラクトースからなる。
【0030】
L/G画分はさらに、クロロホルム:メタノール混合物中での不溶性に基づいて分離され得、そしてクロマトグラフィーカラムで、または薄層クロマトグラフィー(TCL)板形によるいずれかのシリカクロマトグラフィーにより分解され得る。
【0031】
次いでこの物質を、珪酸(すなわち、Mallinckrodt SiO2・xH2O 100メッシュパウダー)の予備クロマトグラフィー工程の対象とする。活性物質をクロロホルムでロードし、そしてクロロホルム、またはクロロホルム:メタノール(90:10あるいは80:20)混合物で洗浄し、そしてメタノールまたはCHCl3:MeOH(10:90または20:80)で溶出する。
【0032】
活性物質を、ジオールカラム(例えば、Diol SepPakカートリッジ(Waters、Millipore)でのクロマトグラフィーによりさらに精製し得る。例えば、シリカ精製したL/G、市販の粗レシチン、またはクロロホルム中で可溶性の他のダイズリン脂質調製物を出発物質として使用し得る。例えば、約100〜1000mgのサンプルをクロロホルムに約100mg/mlの濃度で溶解し、そして予め平衡化した10gのジオールカラムにロードする。カラムを2〜5倍容量のクロロホルムで洗浄し、2〜5倍容量のイソプロパノールで溶出し、2〜5倍容量のエタノールで溶出し、そして、最後に2〜5倍容量のメタノールで溶出する。活性の大部分は、メタノール画分に溶出するが、いくらかの活性はまたエタノール画分にも見出される。活性を乾燥させることによりメタノールから単離し得る。乾燥に適切な方法は、ロータリーエバポレーションまたは真空下を包含するが、これに限定されない。いくつかのサンプルは−20℃にて一晩貯蔵すると沈殿を生じた;しかしこの沈殿を、活性を損なうことなく遠心分離により除去した。
【0033】
活性物質を、シリカカラム(Rainin Instrument Co.,IncのDynamax 60A Siカラム)でのHPLCクロマトグラフィーにより、さらに分離し得る。活性物質の溶出に使用した勾配は、95:3:2:0.05のアセトニトリル:メタノール:水:水酸化アンモニウムから65:21:14:0.35のアセトニトリル:メタノール:水:水酸化アンモニウムである。溶出プロフィルを、205nmでモニターする。以下に示す実施例に記載のように、精製のこの段階は、画分1〜5と名付けた5つの別々の産物を生産する。これらの産物を単離し、そして別々にそれらの組成および抗アポトーシス活性を分析した。いくつかの画分を組換え、そしてそれらの抗アポトーシス活性をアッセイした。フロースルーは主にリゾホスファチジン酸(LPA)(これは、以下に記載のように化合物の1クラスである)を含むことが見出された。活性をアッセイした場合、市販のLPA、L-a-リゾホスファチジン酸、オレオイル(C18:1、(シス)-9)は、抗アポトーシス活性を示さなかった。LPAが特異的に結合するタンパク質または複数のタンパク質の存在下で、この画分に見出されたLPA、および市販のLPAは、抗アポトーシス活性を有する。それゆえ、本発明の1つの実施態様は、LPAおよび有効量の特異的結合タンパク質を含有する組成物である。好ましくは、結合タンパク質は血清アルブミンである。ボーマン・バークインヒビターの存在は、LPAに抗アポトーシス活性を与えなかったことに注目されたい。「B」と名付けられた画分の存在下では、LPAもまた抗アポトーシス活性を有するということも見出された。主にホスファチジルイノシトールである画分「B」は、抗アポトーシス活性を有さない。従って、本発明の別の実施態様は、LPAおよび有効量の画分Bまたはその活性な構成要素を含有する組成物である。画分Bがタンパク質を含まず、従ってLPAに抗アポトーシス活性を誘導する能力は、リン脂質の存在のみによることに注目されたい。いかなる理論にも束縛されないが、画分Bの効果は、LPAを防御する、および/または細胞へのLPAの正確な呈示を可能にするミセルまたはリポソームの形成により得る。
【0034】
画分「D」もまた得られ、そして抗アポトーシス活性を有することが見出された。この画分は、実施例8のピーク3に対応する。従って、本発明の別の実施態様は、画分Dを含有する組成物である。
【0035】
画分「L」もまた得られ、そして抗アポトーシス活性を有することが見出された。この画分は、実施例8のピーク5に対応する。よって、本発明の別の実施態様は、画分Lを含有する組成物である。画分DおよびLは、それらの抗アポトーシス活性に付加的であり得る。よって、本発明の別の実施態様は、画分DおよびLを含有する組成物である。
【0036】
従って、上記の実施例はまた、用語PAIに包含され、そして本明細書中に記載の徴候および組成物への使用に適切である。LPAは以下の構造を有する:

【0037】
ここで、Rは、11〜約23の炭素原子を有する、非置換のまたは置換された飽和または不飽和の、直鎖または分枝鎖アルキルである。
【0038】
また、本明細書で使用されるようにLPAは、以下の構造を有する2-デオキシ-または2-デオキシ-2-ハロ-リゾホスファチジン酸の種々の分子を包含するがそれに限定されない:

【0039】
または、薬学的に受容可能なその塩、ここで、Rは、11〜約23の炭素原子を有する、非置換のまたは置換された、飽和または不飽和の、直鎖または分枝鎖アルキルであり;それぞれのXは、独立にOまたはSであり;Yは、OまたはCH2であり;そしてZは、H、ハロ、NH2、SH、OH、またはOPO3H2である。
【0040】
ラウリル、ミリスチル、パルミチル、ステアリル、パルミトレイル、オレイル、またはリノレイルであるRC(O)O-もまた包含され;さらに特定すると、オレイル、パルミトレイル、ミリスチル、パルミチル、またはラウリルであり;特に、ミリスチルまたはラウリルである。
【0041】
薬学的に受容可能なLPAの塩は、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウムおよびカリウム);アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウムおよびマグネシウム);非毒性の重金属塩;アンモニウム塩;トリアルキルアンモニウム塩(例えば、トリメチルアンモニウムおよびトリエチルアンモニウム);およびアルコキシアンモニウム塩(例えばトリエタノールアンモニウム、トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、およびトロメタミン(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)である。特に好ましくはカルシウム塩である。
【0042】
特異的結合タンパク質または画分Bと組み合わせてLPAとして有用な好ましい組成物は、LおよびD 1-ミリストイル-2-フルオロ-2-デオキシグリセロール-3-リン酸、LおよびD 1-ラウロイル-2-フルオロ-2-デオキシグリセロール-3-リン酸、LおよびD 1-オレオイル-2-フルオロ-2-デオキシグリセロール-3-リン酸、LおよびD 1-パルミトレオイル-2-フルオロ-2-デオキシグリセロール-3-リン酸、LおよびD ミリストイル-2-デオキシグリセロール-3-リン酸、LおよびD 1-ラウロイル-2-クロロ-2-デオキシグリセロール-3-リン酸、LおよびD 1-ミリストイル-2-クロロ-2-デオキシグリセロール-3-リン酸、およびそれらのカルシウム塩である。
【0043】
これらの組成物の活性に影響する他の因子は、LPA鎖の長さ、コレステロールの存在、ミセル、リポソーム、変性剤、および乳化剤の存在、およびLPA内の鎖の位置(すなわち、グリセロールの第1炭素または第2炭素)である。ミセル、リポソーム、および変性剤の場合、ミセルおよびリポソームは活性の増強を引き起こし得るが、変性剤または変性剤様分子は活性の減少を引き起こし得る。
【0044】
HPLCシリカクロマトグラフィーから得られた活性画分は、それらの疎水性に基づいてさらに分離され得、例えば、800mg/l酢酸アンモニウム含有100%メタノール;1mMリン酸ナトリウムpH7.4含有99%メタノール;および90%メタノール、10%リン酸ナトリウム pH7.4を包含するがそれに限定されない、種々のメタノール含有緩衝液中のC18カラムでのHPLCによる。この物質を、メタノール:5mM NaPO4pH7.4(90:10)中でイソクラティックに溶出する。
【0045】
脂質の精製および分析のための種々の方法が当該分野で公知である。当該分野で公知の任意の方法を本発明の実施に使用し得、その結果、活性画分の精製が提供される。総説としては、BlighおよびDyer(1959)Can.J.Biochem.Physiol. 37:911-917;Pattonら(1982)J.Lipid Res. 23:190 -196;Jungalwala(1985)Recent Developments in Techniquesfor Phospholipid Analysis、Phospholipids in Nervous Tissues(Eichberg編)John Wileyand Sons,pp.1-44;Hamiltonら(1992)A Practical Approachシリーズ(Richwoodら編)IRL Pressat Oxford University Press;およびKates(1986)Techniques of Lipidology: Isolation,Analysisand Identification in Laboratory Techniques in Biochemistry and MolecularBiology(Burdonら編)Elsevier参照のこと。
【0046】
代表的には、ダイズ粉またはその画分を水(粉の場合は、容量あたり20重量%)に懸濁して抽出し、そして2倍容量のメタノールおよび1倍容量のクロロホルムを添加する。これは1層であり、そして室温で30分から1時間撹拌/混合する。この混合物に1倍容量のクロロホルムを添加し、混合し、そして1倍容量の水を添加する。これは2層を形成し、最初に全ての固体を除去した後これらの層を遠心分離により、または分液ロートにより分離する(粉を出発物質として用いた場合)。活性は、有機(下)層に存在する。
【0047】
PAIのインビトロでのアポトーシス阻害活性は、主に活発に増殖する細胞に限られる;静止細胞は比較的影響されないようである。
【0048】
PAIの活性成分は、プロテアーゼ存在下で高度に安定である。例えば、PAIをタンパク質分解に適切な条件下でトリプシン、キモトリプシン、パパイン、エラスターゼ、サブチリシン、およびプロテイナーゼKで処理したが、プロテアーゼはそれらの活性に全く影響を与えなかった。
【0049】
本発明はさらに、実質的に精製されたPAIを含有する治療用組成物を包含する。この組成物に必要な精製レベルは、当業者により経験的に決定され得る。組成物は、下記の種々の疾患、ならびにヒトおよび家畜への適用に使用するのに適切である。
【0050】
精製方法の間に得られたPAIおよびその活性画分の活性は、当該分野で公知の任意の抗アポトーシスアッセイで測定し得る。これらは共有にかかるPCT公開番号第WO9425621号に詳細に記載したCH3 10T1/2細胞血清涸渇アッセイ(これは、好ましいアッセイ方法である)、ならびに実施例3および4に記載した方法を包含するがそれに限定されない。さらに、インビボのアポトーシス阻害を、当該分野で公知の任意の方法により測定し得る。
【0051】
一般に、PAIは、治療的用量の範囲内では毒性が低いこと、安定性、および多くの投薬経路のために非常に多くの種々の賦形剤に取り込まれる能力により薬学的に受容可能である。PAIは単独または他の薬学的に有効な薬剤(抗生物質、創傷治癒剤、抗酸化剤および他の治療用薬剤を包含するがそれに限定されない)と組み合わせて投与され得る。適切な抗生物質は、アンピシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、およびペニシリンを包含するがそれに限定されない。適切な創傷治癒剤は、トランスフォーミング成長因子(TGF-β)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDF)を包含するがそれに限定されない。適切な抗酸化剤は、ビタミンCおよびビタミンEを包含するがそれに限定されない。
【0052】
組成物は、少なくとも1つのPAIの、少なくとも治療有効量を含有し、そして少なくとも1つの生理学的に受容可能なキャリアを包含し得る。生理学的に受容可能なキャリアは、投与の際に不都合な身体反応を引き起こさないキャリアであり、そして化合物の治療有効量を送達するために、PAIが十分に溶解されるキャリアである。治療有効量のPAIは、導入方法および処置される徴候および当業者にとっては明らかな他の特徴に部分的に依存する。代表的には、治療的有効量は、処置される状態においてアポトーシスを調整するために十分な量であり、症状の改善によって証明される。代表的には、治療有効量は、少なくとも1つのPAIが約0.5〜100重量%である。特定の徴候に有用な投与経路を、以下で論じ、そしてそれは当業者に周知である。
【0053】
投与経路は、局所投与、経皮投与、非経口投与、胃腸内投与、気管支内投与、および経歯槽投与を包含するがこれに限定されない。局所投与は、治療有効量のPAIを含有するクリーム、ゲル、リンスなどを局所的に適用することにより達成される。経皮投与は、PAIが皮膚に浸透して血流に入ることを可能にするクリーム、ゲル、リンスなどを局所的に適用することにより達成される。投与の非経口経路は、直接的な注射(例えば、静脈注射、筋肉注射、腹腔内注射、および皮下注射)を包含するが、これに限定されない。投与の胃腸内経路は、経口摂取および直腸経路を包含するが、これに限定されない。投与の気管支内および経歯槽経路は、口または鼻のいずれかからの吸入、および気道への直接注入(たとえば、気管切開管を通して)を包含するが、これに限定されない。
【0054】
PAIを単独で局所投与し得るが、それらを局所用の薬学的にまたは化粧用に受容可能なキャリアと混合して投与することを所望し得る。
【0055】
本明細書中で使用する「局所用の薬学的に受容可能なキャリア」とは、従来から、医薬の局所投与に使用可能である任意の実質的に非毒性のキャリアである。
直接皮膚または粘膜表面に付与した場合、そのキャリア中でPAIは、安定で、生物学的に利用可能に維持され得る。例えば、PAIを従来の方法で液体に溶解し、媒質に分散または乳濁させて液体調製物を形成し、あるいは半固体(ゲル)または固体のキャリアと混合してペースト、粉末、軟膏、クリーム、ローションなどを形成し得る。
【0056】
適切な局所用の薬学的に受容可能なキャリアは、水、ペトロラタムゼリー(ワセリン)、ペトロラタム、鉱油、植物油、動物油、有機ワックスまたは無機ワックス(例えば、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、およびオゾケライトワックス)、天然ポリマー(例えば、キサン、ゼラチン、セルロース、コラーゲン、デンプン、またはアラビアゴム)、以下に論ずる合成ポリマー、アルコール、ポリオールなどを包含する。キャリアは、実質的に水に混和し得る水混和性キャリア組成物であり得る。これらの水混和性の局所用の薬学的に受容可能なキャリア組成物は、上記の1以上の適切な材料で作られるキャリアを包含するが、水含有、水分散性、または水可溶性組成物(例えば、リポソーム、マイクロスポンジ、マイクロスフェア、またはマイクロカプセル、水性塩基性軟膏、油中水型乳剤、水中油型乳剤、ゲルなど)を包含する持続放出キャリアまたは遅延放出キャリアもまた包含する。
【0057】
本発明の1つの実施態様では、局所用の薬学的に受容可能なキャリアは、持続放出キャリアまたは遅延放出キャリアを包含する。キャリアは、持続してまたは遅延してPAIを放出し得る任意の物質であり、1回以上頻度を少なくし、および/またはPAIの用量を減少させ、扱い易く、そして皮膚状態への効果の延長または遅延を生じることになる、より効果的な投与を提供する。キャリアは、PAIの放出を得るためにキャリアにロードしたPAIの程度に依存して処置される領域上で任意の油性、脂肪性、ワックス性、または湿性環境に曝された場合、あるいは拡散または放出により、PAIを放出し得る。これらのキャリアの限定しない例は、天然または合成ポリマーなどのリポソーム、マイクロスポンジ、マイクロスフェア、またはマイクロカプセルを包含する。湿性環境における持続放出または遅延放出に適切なキャリアの例は、ゼラチン、アラビアゴム、キサンポリマーを包含する;これらのキャリアは、ロードする程度によってリグニンポリマーなどを包含し;油性、脂肪性、またはワックス性環境によって熱可塑性または可撓性熱硬化樹脂、またはエラストマーを包含し、それらには、熱可塑性樹脂(例えば、ポリビニルハロゲン化物、ポリビニルエステル、ポリビニリデンハロゲン化合物、およびハロゲン化ポリオレフィン)、エラストマー(例えば、ブラシリエンシス、ポリジエン、およびハロゲン化天然ゴムおよびハロゲン化合成ゴム)、および可撓性熱硬化樹脂(例えば、ポリウレタン)、エポキシ樹脂などが包含される。好ましくは、持続放出キャリアまたは遅延放出キャリアは、リポソーム、マイクロスポンジ、マイクロスフェア、またはゲルである。
【0058】
本発明の皮膚科学的状態を処置する方法において使用される組成物は、処置される領域に直接付与される。必要ではないが、局所用の組成物は所望の位置で約24〜48時間PAIを維持することが望ましい。
【0059】
望まれるのであれば、局所用薬学的組成物または化粧品組成物に従来見出される1以上の付加成分が、キャリアとともに含まれ得る:保湿剤、湿潤剤(humectant)、芳香緩和剤、緩衝液、顔料、保存剤、A、C,およびEなどのビタミン、乳化剤、分散剤、湿潤剤(wettingagent)、芳香修飾剤、ゲル化剤、安定剤、推進剤、抗菌剤、日焼け止め剤、酵素など。局所用製剤の当業者は、適切な特定の付加成分およびその量を容易に選択し得る。適切な限定されない付加成分の例は、スーパーオキシドジスムターゼ、ステアリルアルコール、イソプロピルミリスチン酸、ソルビタンモノオレアート、ポリオキシエチレンステアリン酸、プロピレングリコール、水、アルカリまたはアルカリ土類ラウリル硫酸塩、メチルパラベン、オクチルジメチル-p-アミノ安息香酸(PadimateO)、尿酸、レチクリン、ポリムコ多糖、ヒアルロン酸、真正アロエ、レシチン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ビタミンAまたはC、トコフェロール(ビタミンE)、ピルビン酸、乳酸またはグリコール酸などのアルファ-ヒドロキシ酸またはアルファ-ケト酸、または米国特許第4,340,586号、第4,695,590号、第4,959,353号または第5,130,298号および第5,140,043号に開示される任意の局所用成分を包含する。
【0060】
処置される皮膚科学的状態は可視的であるので、局所用のキャリアはまた、局所用の化粧品に受容可能なキャリアであり得る。本明細書で使用されるように「局所用の化粧品に受容可能なキャリア」は、化粧品の局所塗布のために従来使用可能な任意の実質的に非毒性のキャリアが意味される(この化粧品では皮膚表面に直接付与された場合、PAIの安定性および生物学的利用能が残存する)。適切な化粧品に受容可能なキャリアは当業者に公知であり、化粧品に受容可能な液体、クリーム、オイル、ローション、軟膏、ジェル、または固形物を包含するが、限定されない。例えば、従来の化粧品ナイトクリーム、ファンデーションクリーム、日焼けローション、サンスクリーン、ハンドローション、メークアップおよびメークアップベース、マスクなどが挙げられる。従って、同一ではなくとも、実質的な程度で局所用の化粧品に受容可能なキャリアおよび薬学的に受容可能なキャリアは類似しているため、薬学的に受容可能なキャリアについての初期の議論の大部分はまた、化粧品に受容可能なキャリアにも適用され得る。組成物は、化粧品において従来的な、香料、エストロゲン、ビタミンA、CまたはE、ピルビン酸、乳酸またはグリコール酸などのアルファ-ヒドロキシ酸またはアルファ-ケト酸、ラノリン、ワセリン、真正アロエ、メチルパラベンまたはプロピルパラベン、顔料などを含む他の成分を含み得る。
【0061】
皮膚科学的状態または疾患を処置するために使用される組成物におけるPAIの有効量は、皮膚の状態、皮膚の年齢、特定のPAIまたは使用するPAIの純度、処方のタイプおよび使用されるキャリア成分、投与の頻度、処置しようとする個体の全体的な健康度などの要素に依存して多様であり得る。任意の特定の患者の使用のための正確な量は、これらの要素および現在の開示を考慮に入れて当業者によって決定され得る。好ましくは、組成物は1日当たり、少なくとも2回であり、かつ約6回を越えないで投与され、あるいは持続放出形態または遅延放出形態が用いられるときより少ない回数で投与される。
【0062】
局所投与のための組成物は、通常組成物の全重量に比べて約0.0001重量%から約90重量%のPAI、好ましくは、組成物に対して約0.5重量%から約20重量%のPAI、そして特に組成物に対して約2重量%から約5重量%のPAIを含む。
【0063】
局所用組成物は、処置が所望される皮膚または粘膜領域にコーティングまたは層を付与することによって投与される。実施の便宜上、付与される物質はその領域内にすり込まれる。付与物は皮膚内にすり込む必要はなく、そして層またはコーティングは皮膚上に一晩放置され得る。
【0064】
本発明は、経皮投与に適切な組成物を提供する。これは薬学的に受容可能なローション、懸濁液、オイル、クリーム、軟膏、リンス、ジェル、および適切なビヒクルに懸濁されるリポソームキャリアを包含するが、それらに限定されない。ここでは治療有効量のPAIが混合されている。このような組成物は皮膚に直接付与されるか、または経皮デバイス(いわゆる「パッチ」)のような保護キャリアに取り込まれる。適切なクリーム、軟膏などの例は、例えば、Physician'sDesk Referenceに見出され得る。適切な経皮デバイスの例は、例えば、米国特許第4,818,540号(Chienら)に記載される。
【0065】
本発明は、非経口投与に適切なPAIの組成物を包含し、これは、薬学的に受容可能な滅菌等張液を含むが、それに限定されない。このような溶液は、PAIの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、または皮下注射のための生理的食塩水およびリン酸緩衝生理的食塩水を包含するが、これらに限定されない。
【0066】
本発明は、胃腸内投与に適切なPAIの組成物を包含し、これは薬学的に受容可能な、摂取用の散剤、錠剤、または液体あるいは直腸投与用の座薬を包含するが、それらに限定されない。
【0067】
本発明は、気管支投与および肺胞投与に適切なPAIの組成物を包含し、これは、種々のタイプの薬学的に受容可能な吸入用エアロゾルを包含するが、それらに限定されない。エアロゾルの形態で投与される薬物の例は、Pneumocystiscarniiによって引き起こされる肺炎を妨げるために吸入によってAIDS患者に投与されるペンタミジンである。
【0068】
本発明はさらに、PAIの気管支投与および肺胞投与に適切なデバイスを包含する。このようなデバイスは、噴霧器および加湿器を包含するが、それらに限定されない。本発明はまた、電気的注入または直接注入のためのデバイスを包含する。電気的注入、またはイオン導入は、皮膚を破壊せずに治療用化合物を局部組織または全身に送達する目的で、電荷を帯びた要素、化合物および薬物を皮膚に通すために小さな電流を使用するプロセスである。
【0069】
本発明はさらに、移植前の器官の貯蔵に適切な液体を包含する。適切な液体はChienら、(1993)「Hibernation Induction Trigger for Organ Preservation」MedicalIntelligence Unit,R.G.Landes Co.Austin,TXに記載される。PAIは、例えば、現在使用中のかなりより純度の低いダイズ調製物(例えば、Soyacal)代替物として使用され得る。
【0070】
上記の組成物は、本発明のPAIを投与するのに適切な組成物を記載するが、それに限定されないことが意図される。種々の組成物を生産する方法は、当業者の能力の範囲内であり、従って本明細書中では詳細には記載されない。
【0071】
注射、局所付与に適切なデバイス、噴霧器、および加湿器を生産する方法は、当業者に公知であり、詳細には記載されない。
【0072】
本発明はさらに、アポトーシスの処置方法を提供し、この方法はアポトーシスを阻害するために有効量のPAIを投与する工程を包含する。様々なアポトーシス関連兆候は、老化、障害、および疾患の皮膚科学的影響、免疫抑制、胃腸内不調、心血管障害、組織移植拒絶、およびアルツハイマー病を包含するが、それらに限定されない。
【0073】
今回、PAIが、様々な皮膚科学的状態を処置するために皮膚に局所的に付与され得ることが見出された。これらの状態は、年齢に起因する皺または弛み、および/または光損傷、乾癬を包含するが、それらに限定されない。従って、本発明は皮膚科学的状態を処置する方法を含む。さらに、脱毛症は、毛包の細胞のアポトーシスによって引き起こされ得る。従って、PAIは継続的な脱毛を防ぐための皮膚の局所処置における使用に適切であり得る。
【0074】
上記のように、これらの状態は、好ましくは有効量のPAIを含む組成物の局所付与によって処置される。有効量のPAIは、皮膚科学的状態の症状を改善しまたは減少させる量である。好ましくは、処置によって、皮膚科学的状態を解決しまたは正常な皮膚機能を回復させる;しかし、症状の任意の改善または減少は、本発明に包含される。
【0075】
免疫抑制関連障害は、種々の刺激によって引き起こされる。この刺激は、ウイルス(HIVを含むが、それに限定されない)、化学療法剤、および放射線照射を包含するが、それらに限定されない。これらの刺激は、種々の障害(消化管組織の障害または関連する胃腸内不調を包含するが、それらに限定されない)におけるアポトーシスを誘発する。
【0076】
胃腸内不調は、消化管内層の損傷、重度の慢性潰瘍、大腸炎、放射線誘導損傷、化学療法誘導損傷、および寄生物によって引き起こされる胃腸管不調、任意の他の原因に起因する下痢を包含するが、それらに限定されない。種々のウイルス感染および細菌感染は胃腸内不調を引き起こすことが知られており;PAIはまた、これらの感染に関連する副作用の処置における使用に適切である。PAIは、化学療法に関連する胃腸内不調の改善における使用に特に適切である。下記に示す実施例において示されるように、メトトレキセートおよび様々なPAIで処理したラットは、食餌上の問題が減少し、およびコントロール動物において見出された下痢を全く生じなかった。従って、PAIは化学療法に関連する下痢のみでなく、吐き気を防ぐ使用にも適切である。
【0077】
PAIは、動物(特にウシ)における種々の胃腸内状態の処置に特に合わせられる。このような状態(特に下痢)は多くの仔牛の死亡の原因である。胃腸内状態の処置は、好ましくは胃腸内投与による。ウシの場合において、有効量のPAIは、好都合に餌と混合され得る。ヒトにおいて、投与は、胃腸内投与の分野において公知の任意の方法によってなされ得る。
【0078】
さらに、PAIは、免疫不全患者、特にHIV陽性患者に投与されて、状態に関連したT細胞のアポトーシス死(これは、AIDSが発病した患者に見られるように免疫不全の悪化を引き起こす)を防ぎ得るかまたは、少なくとも緩和し得る。好ましくは、このような患者へのPAIの投与は、非経口的であるが、経皮的または胃腸的であり得る。
【0079】
PAIはまた、種々の状態に関わる再灌流損傷と関連したアポトーシスの処置のために投与され得る。これらの状態は、冠状動脈閉塞;脳梗塞;脊髄/頭部外傷およびそれに伴う重篤な麻痺;凍傷のような他の傷害に起因する再灌流損傷;およびスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)によって処置可能であると以前に考えられていた任意の兆候を包含するが、それらに限定されない。心臓疾患における酸素ラジカルの効果の見解は、Singal(1988)「OxygenRadicals in the Pathophysiology of Heart Disease」Kluwer AcademicPublishers,MA,USAを参照のこと。
【0080】
心筋梗塞および脳梗塞は、一般的に、塞栓、血栓、または壊死の巨眼的領域を生成する圧力に起因する動脈または静脈血液供給の突然の不全によって引き起こされる;心臓、脳、脾臓、腎臓、腸管、肺、および精巣が罹患すると思われる。
アポトーシスは、血液のその領域へ再灌流の際に梗塞部周辺の組織に生じる;従って、PAIは、梗塞の発症時、再灌流の間、またはその直後に投与されれば、効果的である。
【0081】
従って、本発明は、再灌流に関連したアポトーシスを処置する方法を包含し、この方法は治療有効量で少なくとも1つのPAIをこのような治療を必要とする患者に投与する工程を包含する。
【0082】
本発明はさらに、心臓発作および卒中の危険度の高い患者のために、治療有効量の少なくとも1つのPAIをこのような治療を必要とする患者に投与することによって、心筋梗塞および脳梗塞に関連したアポトーシスおよび再灌流損傷を減少させる方法を包含する。
【0083】
好ましくは、再灌流損傷の処置は、本発明の組成物の非経口投与による。しかし、任意の他の適切な方法が使用され得、例えば、心筋梗塞の場合、直接心臓注射が用いられ得る。このような注射のためのデバイスは、当該分野において公知であり、例えば、Aboject心臓シリンジが公知である。
【0084】
本発明はさらに、哺乳動物の器官、組織、および細胞を培養または維持する当該分野において使用される任意の培地または溶液に、有効量のPAIを添加することによって、哺乳動物の器官、組織、および細胞の培養または維持の間、細胞におけるアポトーシスを制限し、および防ぐ方法を提供する。
【0085】
本発明はさらに、哺乳動物の器官、組織、および細胞を培養または維持する当該分野において公知の培地および溶液を包含し、これは、培養において細胞のアポトーシスを制限し、または防ぐに有効な量の少なくとも1つのPAIを含む。
【0086】
本発明のこれらの局面は、有効量の少なくとも1つのPAIを含む哺乳動物細胞培養培地、および哺乳動物細胞培養におけるアポトーシスを制限しまたは防ぐためのこのような培地の使用を包含する。PAIは、細胞が軽い外傷(これは通常アポトーシスを刺激する)を受ける環境下で、アポトーシスを制限し、または妨げることが見出された。このような外傷は、低レベルの放射線照射、凍結保存細胞の溶解、温度、pH、浸透圧、または培養培地のイオン濃度の急速な変化、非至適温度、pH、浸透圧、または培養培地のイオン濃度への長時間の曝露、細胞毒への曝露、初代細胞培養の調製における完全な組織からの細胞解離、血清涸渇(または無血清培地における増殖)を包含するが、それらに限定されない。
【0087】
従って、本発明は、組織培養培地および有効量の少なくとも1つのPAIを含む組成物を包含する。PAIが抗アポトーシス培地補成分として添加され得る無血清培養培地は、AIM V(登録商標)培地、Neuman and Tytell’s無血清培地、Trowell's T8培地、Waymouth's MB752/1および705/1培地、およびWilliams 培地 Eを包含するが、それらに限定されない。無血清培地に加えて、PAIが抗アポトーシス培地補成分として添加され得る適切な哺乳動物細胞培養培地は、Eagle's基本培地、Fischer's 培地、McCoy's培地、Media199、RPMI 培地 1630および1640、F-10 & F-12Nutrient Mixturesベースの培地、Leibovitz's L-15 培地、Glasgow 最少必須培地、およびDulbecco's改変Eagle培地を包含するが、それらに限定されない。PAIが添加され得る哺乳動物細胞培養培地は、当該分野において公知の任意の培地補成分をさらに含み、この補成分は、糖、ビタミン、ホルモン、金属タンパク質、抗生物質、抗菌物質、成長因子、リポタンパク質、および血清を包含するが、それらに限定されない。
【0088】
本発明は、移植の前に哺乳動物器官を維持するための溶液、および移植前の外科的な除去および取り扱いの間、このような哺乳動物器官におけるアポトーシスを制限し、防ぐためのこのような溶液の使用をさらに包含する。この溶液は有効量の少なくとも1つのPAIを含む。全ての場合において、アポトーシスを制限しおよび防ぐために要求されるPAIの濃度は、実施例2、3、および4において見出されるような方法によって、ならびに当該分野において公知の他の方法によって、経験的に当業者により決定され得る。
【0089】
一定濃度を上回るPAI画分が、溶液中でミセルを形成し得ることもまた見出された。従って、本発明はミセルを含む組成物を包含する。
【0090】
以下の実施例は、例示のために提供されるが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0091】
(実施例1:PAIの単離および精製)
市販のダイズ粉約100g(SigmaChemical Co.St.Louis,MO.USAおよびCentral Soya,Archer Daniel Midlands)を500mlの70%アセトン中で懸濁し、そして室温で30分間撹拌した。この脱脂されたダイズ粉を1,500gで10分間遠心分離することにより回収した。この物質を1リットルの50%エタノール中で再懸濁し、そして室温で30分間撹拌した。水性保持物質である上清を1,500gで10分間遠心分離することによって、再生した。
【0092】
水性保持物質を限外濾過によって濃縮し、そしてエタノールを10kDメンブレン(Amicon Beverly MA.USA)でのダイアフィルトレーションによって除去した。次いで、この物質を10mM重炭酸アンモニウム中で平衡化したSepharoseS100HR(Pharmacia Biotechnology,Inc.Piscataway,N.J.,USA)に直接ロードした。A280吸収物質のピークがボイドボリュームに溶出し、これをプールし、そして凍結乾燥した。凍結乾燥された高分子量の物質は、クロロホルム:メタノール:水(3:8:4)の単相混合液を乾燥した物質に添加し、そして室温で30分間混ぜることにより、この単相混合液中に抽出した。次いで、この混合液を遠心分離して、不溶性物質を取り出した。不溶性物質はPAI活性を保持する脂質/糖脂質画分を生成した。この画分を、L/G画分と称した。L/G画分の炭水化物組成は、3:2の割合でアラビノースおよびガラクトースからなり、そしてフコース、ラムノース、グルコサミン、グルコースおよびマンノース(全て少数の組成として存在する)を有した。この炭水化物組成は、実施例5に記載されるように決定した。
【0093】
L/G画分は、クロロホルム:メタノール(80:20)の混合溶液におけるその溶解度およびシリカ(SilicicAcid 100 mesh,Mallinckrodt Chemical,Inc.KY)上のクロマトグラフィーに基づいて、さらに分離され得る。シリカクロマトグラフィーはメタノール中で分解され、活性な画分が得られる(SiMe)。
【0094】
種々の精製段階でのダイズ粉抽出物の物理的および化学的特徴の詳細なまとめは、表1を参照のこと。ここでNDは「検出せず」を表す。
【0095】
表1において、4段階の精製における産物の活性および物理的特徴が決定された。これらの4段階は:水性保持物質;70%アセトン抽出;70%アセトンペレットの50% エタノール抽出;および50%エタノール画分からのサイズ排除ゲル濾過クロマトグラフィーによって精製された高分子量画分である。タンパク質収量は、Bradfordアッセイ手順(BioRadLaboratories)によって測定されるように、出発物質の1グラム乾燥重量当たりの回収されたタンパク質として表す。抗アポトーシス活性は、実施例2に記載のように、無血清処理で遊離された細胞の50%を救済するために要求される物質の算定濃度(μg/ml培地)として表す。トリプシン阻害は、サンプル中のタンパク質のμg当たりの相対的単位で表す。相対的単位(U)は、全量1mlにおいて、2μgトリプシンによる100μM基質の加水分解の初期速度を50%減少させる阻害活性の量として定義される。260nmおよび280nmての吸光度値は、1ml細胞における出発物質1グラム当たりで表す。これにより、存在するタンパク質および核酸の相対的な濃度の表示が与えられる。260/280の割合は、Dawsonら、Datafor Biochemical Research、第3版、1990 Oxford Science Pubulication出版に記載のように、存在する核酸の量を評価するために使用した。
【0096】
【表1−1】

【0097】
【表1−2】

【0098】
(実施例2:C3H10T1/2細胞でのアポトーシスアッセイ)
PAIのアポトーシス活性を決定するために、以下の実験を実施した。細胞アッセイは、PCT公開第WO9425621号に記載される。簡単に述べると、細胞(C3H10T1/2クローン8)を指数増殖期の間、集密させてアッセイした(図1)。この指数増殖期は、細胞周期の位置が不規則に分布しており、G0期(図2および図3)および静止期(図4)で停止した細胞がない。指数増殖期を、実験を開始する5日前に1ml当たり2000細胞(60mm培養プレートでは5m1)で播くことによって確実に得た。T=0で、培養物を無血清培地に移し、アポトーシスの刺激として、種子抽出物を添加した。コントロールは10-7M12-0-テトラデカノイルホルボール-13-酢酸(TPA)を含み、細胞培養の応答性を確実にした。エタノール抽出によって調製されたPAIサンプルおよびゲル濾過によって調製されたPAIサンプルは、無血清培地に0.1g乾燥重量等価で添加し、そして培養物に添加する前に滅菌濾過した。分析は、3部構成または4部構成で実施した。細胞応答の分析は、血清涸渇および/またはダイズ粉由来PAIでの処置の22時間と28時間との間の後に行った。2つのアッセイは、異なる細胞数からなる各細胞培養プレート上で実施した。
【0099】
1.全ての非接着または緩く接着した細胞を培養皿から取り出し、そして適切な技術により計数した。代表的には電気粒子計測機器による計数が用いられる。これらは、無血清培地における培養作用によって遊離されたアポトーシスな細胞(血清涸渇遊離細胞(SDR))である。これらの遊離された細胞の約95%は、超微細構造分析およびDNA断片化分析の両方によって示されるようにアポトーシスである。
【0100】
2.残りの接着細胞(ADH)を、代表的にpH7.3で緩衝された平衡化塩溶液(例えば、カルシウム塩およびマグネシウム塩を含まず、0.05%トリプシンおよび0.53mMエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含むハンクス平衡化塩溶液)に曝露する。
各培養物を室温または37℃のいずれかで浸透台上でインキュベートし、培養物の表面上にトリプシン試薬を均一に分布させた。標準化期間の時間(代表的には10分間)後、遊離した細胞を各培養皿から取り出し、そして上記と同様の方法によって、代表的には電気粒子測定によって、測定した。このADH細胞数は、PCT公開第WO9425621号に記載のようにトリプシン耐性細胞およびトリプシン感受性細胞の両方で構成される。
【0101】
アポトーシス細胞アッセイから得られた結果を、図1、2、3および4に示す。図1では、アポトーシスを受けた細胞(SDR)および接着細胞(ADH)のパーセンテージを別々に示す。図1のデータは、PAIが、集密した細胞中でアポトーシスを減少するにおいて、無血清コントロールのEagle基本培地(BME)に比べて効果的であることを実証する。
【0102】
図2では、結果を、PAIのない無血清コントロールサンプルにおける接着細胞数に対するPAIで処理したサンプル中の正常化された接着細胞のパーセンテージとして示す。言い換えれば、PAIでの処理によってアポトーシスから救済された細胞のパーセンテージである。図2で示されるデータは、ダイズPAIが指数増殖期においてC310T1/2細胞に濃度依存的抗アポトーシス効果を有することを実証する。
【0103】
図3では、50%エタノール抽出後のPAI(右側)、およびサイズ排除ゲル濾過クロマトグラフィーによってさらに精製したPAI(左側)の抗アポトーシス活性を示す。図3における結果を、PAIを含まない無血清コントロールサンプルと比較した、PAIでの処理によってアポトーシスから救済された細胞(SDR細胞がADH細胞に変換される)のパーセンテージとして表し、その全てをトリプシン阻害単位の関数として表す。図3で示されるデータは、ボーマン・バークインヒビターの濃度(トリプシン阻害によって測定)がサイズ排除ゲル濾過クロマトグラフィーによって減少した場合、PAIの抗アポトーシス活性が維持されることを実証する。従って、PAI調製物の抗アポトーシス活性は、ボーマン・バークインヒビターの存在に起因しない。
【0104】
図4では、シクロヘキシミドで処理した静止C3H 10T1/2細胞における、種々の濃度のダイズPAIの抗アポトーシス活性を示す。静止細胞は、アポトーシスになることによって、もはや血清涸渇に応答しない細胞である。むしろ、アポトーシスは、C3H10T1/2において10μg/mlのシクロヘキシミドの添加によってこれらの細胞中で刺激される。代表的には、これらの細胞は、培養約1週間後に集密になり、培養約2週間後に静止する。図4の結果を、所定の処理後残存している生存細胞(ADH)として表す。図4のデータは、ダイズPAIが、静止C3H10T1/2細胞において小さいが有意である抗アポトーシス効果を有することを実証する。
【0105】
(実施例3:新生児ラット心筋細胞を用いるアポトーシスアッセイ)
筋細胞を、Ciruculation Research 56:884 -894,1985に記載のようにして、1日齢ラットの心臓から調製した。手短には、個々の細胞を、室温トリプシン処理と機械的分解との短期の交代性サイクルにより得た。この細胞を収集し、洗浄し、そしてMEM、5%ウシ胎児血清、および50U/mlペニシリン-G中に再懸濁した。非筋細胞の混入を縮小するために、この細胞を30分間予備プレートした。非接着心筋細胞を培養皿から取り出し、血球計測器で計数し、そして600,000生存細胞/mlの濃度に培地中に再懸濁した。細胞懸濁物を異なる培養皿に分配し、そして37℃、5%CO2インキュベーターで16〜24時間インキュベートした。収量は、3〜5×106細胞/心臓であり、生存細胞は、トリパンブルー染色から>90%であった。
【0106】
培養の第1日目に、細胞を、Eagle最少培地(MEM)で数回リンスし、細片および非接着細胞を除去した。この筋細胞に、上記のような血清補充培地を補充した。翌日、この筋細胞に、RPMI1640培地において異なる条件を与えた。得られた結果を表2に示す。ここでPAI 1×は、0.1gのダイズ粉出発物質から得られた物質を表す。
【0107】
【表2】



【0108】
得られた結果は、PAI画分が、アポトーシス誘導傷害の存在下で細胞の良好な状態を保護する能力があることを示す。
【0109】
(実施例4:PAIの炭水化物組成の測定)
PAIが炭水化物を含有するか否かを決定するために、PAIのL/G画分を種々の条件に曝し、そして生じる炭水化物残基をアッセイした。PAIを得るために実施例1に記載のように処理したSigma Soy flour Lot No.103H0820からPAIを得た。未処理PAI中の遊離型単糖類を、Dionex Document No.034441に記載の方法に従い、16mM NaOH中のDionex CarbopacTM PA1でHPLCにより決定した。得られた結果を表3に示す。次いでこのサンプルを、HardyおよびTownsend(1994)Meth.Enzymol.230:208 -225に記載のように、4時間100℃で、2N TFAを用いて加水分解した。得られた結果を表4に示す。このサンプルを、HardyおよびTownsend(1994)に記載の方法により決定されたように、6時間100℃で、6NHClを用いてさらに加水分解した。得られた結果を図5に描写する。
【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【0112】
(実施例5:化学療法誘導胃腸障害を防止するためのPAIの使用)
PAIのインビボ活性を測定するために、以下の動物実験を実施した。実施例6および実施例7において、動物試験は、本質的にFunkおよびBaker(1991)J.Nutr.121:1684-1692;ならびにFunkおよびBaker(1991)J.Nutr. 121:1673 -1683に記載のように実施した。手短には、雄Sprague-Daw1eyラットを用いて、実施例1に記載のようにダイズ粉から得た単離したAcEおよびL/Gが、メトトレキセート(MTX)毒性を軽減するか否かを測定した。ラットを、個別に底網ステンレス鋼ケージ内で飼育し、そしてMTXの注射前7日間、それぞれの食餌に適応させ、そして注射後7日間、同一の食餌を与え続けた。摂食させた食餌は、以下の添加物を有する半精製したラットフードであった:
1.カゼイン
2.カゼインおよびダイズ濃縮物(10gおよび10g)
3.カゼインおよびダイズ粉(10gおよび10g)
4.カゼインおよびAcE
5.カゼインおよびL/G。
【0113】
AcEおよびL/Gを、ダイズ出発物質からの抽出物の濃度と同一の濃度で用いた。
【0114】
ラットの体重および食物摂取量の記録を注射前期間の間継続した。ラットに20mg/kg MTXを腹腔内注射した。注射後7日間の間、ラット体重、食物摂取量および、下痢の発生率を記録した。ラット体重および食物摂取量データを、ノンパラメトリックなKruskal-Wallis検定およびpost-hoc比較を用いて分析した。P値を、複数の比較のために、0.05を行われる比較の数(10)で割ることにより調整した。ノンパラメトリック検定を用いたのは、群の間の分散が均一でなく、従って分散分析について推定が立たなかったためである。MTX注射以降の食物摂取量を各々の動物に対する注射の前3日間の平均摂取量のパーセンテージで表した。従って、各々の動物を、それ自身のコントロールとして供した。MTX注射後3日目、4日目、5日目、および6日目のみを統計学的に分析した。この理由は、3日目および4日目が、毒性が最も重篤な時であり、5日目および6日目が、回復が開始する時であるためである。下痢データを、Fisher'sExact Testおよび対数直線分析を用いて分析した。
【0115】
結果は、ダイズ濃縮物およびダイズ粉出発物質ならびにAcEおよびL/Gの両方が、MTX注射後の食物摂取量を好転し得ることを示した(表5および図7)。3日目では、ダイズ粉およびダイズ濃縮物を食するラットについての食物摂取量は、カゼイン単独、またはカゼインおよびL/Gを食するラットについての食物摂取量よりも統計学的に多い。カゼインおよびAcEを食するラットは、3日目では食物摂取量が中間程度であり、ダイズ粉を食するラット群以外の全ての群と統計学的に類似していた。4日目は、L/Gを食するラットについて食物摂取量が3日目と比較してわずかに上昇したので、数値的な食物摂取量は実質的により低いままであったが、これらのラットはダイズ濃縮物を食するラットともはや統計学的には差異がなかったこと以外は、同一のパターンを示した。回復は、5日目および6日目に明白に観察され、そして食物摂取量は、全ての群の間で統計学的に類似していた。体重変化(表6)は、予期される食物摂取量において観察されたパターンを反映した。ダイズ濃縮物を食するラットおよびダイズ粉を食するラットは、MTX注射以降の最初の4日間に、かなり体重か増加した。AcE、L/G、またはカゼイン単独を食するラットは、体重増加がやや少なく、そしてカゼインを食するラットは、ダイズ濃縮物またはダイズ粉を食するラットよりも体重増加が統計学的により少なかった。下痢の発生率における差異は、統計学的には異なっていなかったが、下痢のパターンは、食物摂取量および体重変化に一致していた(表6)。ダイズ濃縮物またはダイズ粉を食するラットは下痢をしなかったが、AcEを食するラットでは、わずかな量で下痢を起こしており(10%)、L/Gまたはカゼイン単独を食するラットでは、中程度の量で下痢を起こしていた(30〜40%)。
【0116】
結論として、この実験は、ダイズ濃縮物およびダイズ粉が、試験した成分の中で最良の保護を提供することを示した。AcEを伴うカゼインは中間程度であり、そして、食物摂取量および体重がより良好に維持されたこと、ならびに下痢の発生率がより低いことにより明示されたように、カゼイン単独またはL/Gより優位であるようであった。この結果は、ダイズから単離された化合物が、MTX毒性に対する保護を提供し得ることを示す。この実験では、この濃度でのL/G画分は、保護を提供しないようであった。しかし、実施例7は、増加した濃度のL/Gが効果的であることを示す。
【0117】
【表5】

【0118】
【表6】



【0119】
(実施例6:化学療法誘導胃腸障害を防止するためのPAIの使用)
雄Sprague-Dawleyラットを用いて、段階的なレベルの単離されたダイズ両分(AcE、L/G、およびMAcE)がメトトレキセート(MTX)毒性を軽減させるか否かを決定した。動物を、個別に底網ステンレス鋼ケージで飼育した。ラットはMTXの注射前7日間、それぞれの食餌に適応させ、そして注射後7日間、同一の食餌を与え続けた。摂食させた食餌は、半精製されており、そして以下の添加物を有するカゼインであった:
1.添加物なし
2.AcE(100mg/20gカゼイン;1×)
3.AcE(300mg/20gカゼイン;3×)
4.AcE(1000mg/20gカゼイン;10×)
5.L/G(10mg/20gカゼイン;1×)
6.L/G(30mg/20gカゼイン;3×)
7.L/G(100mg/20gカゼイン;10×)
8.MAcE(100mg/20gカゼイン;1×)
9.MAcE(300mg/20gカゼイン;3×)
10.MAcE(1000mg/20gカゼイン;10×)
11.MAcE(3000mg/20gカゼイン;30×)。
【0120】
MAcEは、AcEを得るためのダイズ粉と同様にして抽出されたダイズ糖蜜であることに留意のこと。10匹のラットを含有する添加化合物なしのカゼインを受ける群を除いて、それぞれの食餌群は、8匹のラットを含む。ラット体重および食物摂取量の記録を注射前期間の間継続した。ラットに20mg/kgMTXを腹腔内注射した。注射後7日間の間、ラット体重、食物摂取量、および下痢の発生率を記録した。種々の群についての食物摂取量を図8〜10に描写する。下痢の発生率を図11に描写する。全体の群についてのラット食物摂取量を図12に描写する。ラット体重および食物摂取量データを、処理の要因配列を用いてANOVAにより分析し、化合物および投与量の主効果、ならびに化合物と投与量との間の考えられ得る相互作用を検定した。要因分析を、1×、3×、および10×の投与量のそれぞれの化合物を有する処理群のみを用いて行った。さらに、t検定を用いて、10×レベルのそれぞれの化合物とカゼインのみを含有する食餌との間の差異を決定した。MTX注射以降の食物摂取量を各々の動物に対する注射の前3日間の平均摂取量のパーセンテージで表した。従って、各々の動物を、それ自身のコントロールとして供した。MTX注射後3日目、4日目、5日目、および6日目のみを統計学的に分析した。この理由は、3日目および4日目が、毒性が最も重篤な時であり、5日目および6日目が、回復が開始する時であるためである。下痢データを、Fisher'sExact Testを用いて分析した。それぞれの化合物について10×レベルのみを、カゼインに対して、下痢発生率における差異について統計学的に分析した。図12。この理由は、Fisherの検定が保存的な(conservative)試験であるためである。複数の比較を行う場合、誤差の割合は調整されねばならない。統計学的な有意性の機会を増加させるために、食物摂取量および体重変化データにより明示されるように、それぞれの化合物について最良の応答がなされた場合にのみ比較を行った。
【0121】
食物摂取量および体重変化の要因分析の結果を表7および表8に示す。この結果は、AcE化合物がMTX毒性を軽減させる点について最も効果的であったことを示した。組み合わされた全てのAcE群についての食物摂取量は、MTX投与後3日目では他の群の両方についての食物摂取量よりも多く、そして4日目ではMAcEを食する群の食物摂取量よりも多いままであった(P<0.05)。MAcEを食するラットと比較してAcEを食するラットにおいて毒性が減少したことは、AcEを食するラットが、投与後の最初の4日間に、MAcEを食するラットよりも多くの体重を得た(P<0.05)という体重のパターンにおいても反映された。摂取量および体重維持の好転は、MAcEの30×レベルを除いて、それぞれの化合物のレベルの増加と共に見られるが、これは統計学的に有意ではない。応答が最も良好であったそれぞれの化合物のレベルは、10×であった。カゼイン単独に対するそれぞれの化合物の10×レベルの比較において、AcEは、投与後3日目、4日目、および5日目において、統計学的により多かった(P〈0.05)。下痢のパターンは、食物摂取量の結果と一致した。カゼインを食する動物の50%が、下痢を発生した。化合物の10×レベルを食する動物は、下痢を発生せず、発生率は、カゼイン単独を食するラットよりも統計学的に少なかった(P=0.088)。3×レベルのAcEを食するラットを除いて、他の群全ては、ある程度の下痢を経験した。
【0122】
結論として、試験した化合物について、AcEが、MTX毒性を軽減する点において最も優れていた。L/GおよびMAcEは、カゼイン単独と比較して減少した下痢の発生率ならびに食物摂取量および体重維持における統計学的に有意ではない好転により明示されるように、ポジティブにMTX毒性に影響した。より高いレベルのAcEおよびL/Gは、さらなる保護を提供し得ると考えられる。30×レベルのMAcEは、効果がないことが分かり、そしてカゼイン単独に非常に類似していた。それゆえ、いったん閾値が達成されると、より高いレベルは有毒であるようてある。MAcEは、この実験で試験した10×と30×レベルとの間のいくらかの投与量でより効果的であり得ると考えられる。
【0123】
【表7−1】

【0124】
【表7−2】

【0125】
【表8−1】

【0126】
【表8−2】

【0127】
(実施例7:HIV感染患者から得られたリンパ球におけるアポトーシスを阻害するためのPAIの使用)
ダイズ粉から単離したPAIのL/G画分を、HIV感染患者由来のリンパ球におけるアポトーシスを阻害する能力について試験した。
【0128】
末梢血単球(PBMC)を患者から得、そして標準的な方法に従い単離した。PBMCを2×106/ウェルで、72時間、37℃および5%CO2で、抗生物質および10% hABを有するRPMI 1640 2ml/ウェルを含む24ウェルプレート(Costar-Cambridge,MA)中で培養した。いくつかの培養物は、10μg/ml Pokeweed Mitogen(PWM)(Sigma,St.Louis,MO)を含有した。胸腺細胞の懸濁物を、取り出した直後、あるいは5μMデキサメタゾン(DEX)(Sigma-St.Louis,MO)を加えたRPMI+10%ウシ胎児血清中で18時間培養後、あるいは除去後ただちに使用した。この細胞を、0.5gEQが0.5gの粉の出発重量に由来する画分である、以下に示した濃度で、3日間L/G画分に曝した。
【0129】
【表A】



【0130】
Sambrookら、MolecularCloning - Laboratory Manuals,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY pp.134-135,E3-E4およびEI0-11に記載のように、DNAを抽出し、そしてゲル電気泳動を実施した。手短には、採取した細胞を遠心分離によりペレット化し、そして400μlの50mMKCl,10mM Tris-HCl(pH 8),1% NP-40,1% Tween-20,および0.5mg/ml プロテイナーゼK(BoehringerMannheim, Indianapolis,IN)中で、60℃1時間溶解させた。フェノール/クロロホルムを用いる抽出およびエタノールを用いる回収の後、このDNAを、90mMTris-Borate,2.5mM EDTA,pH 8.3中で、30〜50Vで約4時間、1.5%アガロースゲル(SeaKem,Rockland,ME)を通して泳動した。123塩基対のラダー(GIBCOBRL,Gaithersburg,MD)をDNA標準(DS)マーカーとして用いた。ゲルを1μg/mlエチジウムブロマイド(Molecular Probes,Eugene,OR)で染色し、そして蒸留水中で脱染した。
【0131】
この結果を図13に示す。ここでレーンは上記の通りである。
【0132】
得られた結果は、十分なDNA断片化がPWM刺激の非存在下で観測され(レーン1)、そしてこの断片化は、0.5gEQのL/Gを含有する培養物中ではほとんど完全に阻害される(レーン2)ことを示す。より低い濃度のL/G(0.05gEQおよび0.005gEQ)は、PWMの非存在下(レーン3および4)、またはPWMの存在下(レーン7および8)でDNA断片化を阻害しなかった。PWMの存在下でのDNA断片化(レーン5)は、PWMを含まない培養物(レーン1)と比較して増加した。PWM存在下でのDNA断片化のわずかな阻害が、レーン5と比較して、0.5gEQL/Gの存在下で観測された(レーン6)。ネガティブおよびポジティブコントロール(レーン10および11)は期待されるように機能した。
【0133】
(実施例8:PAIのさらなる精製および特徴付け)
サンプルを、実施例1に記載のような抽出により精製し、次いでシリカ、ジオールおよびHPLCシリカクロマトグラフィーを実施し、そして産物を化学組成、分子量、および構造について分析した。シリカHPLCから、素通り画分および5つの主要ピークが観察された。
【0134】
素通り画分は、NMRプロトンおよびカーボン13分析により測定されたように、リゾホスファチジン酸を含有していた。脂肪酸分析は、ダイズ出発物質に依存して60:40から50:50の割合のC16:0およびC18:2(ヘキサデカン酸および9,12-オクタデカジエン酸)の混合物を示した。
【0135】
ピーク2は、質量分析、NMR、およびTLC分析における信頼標準との共移動により、ホスファチジルイノシトールとして同定された。さらに、脂肪酸分析は、2つの考えられ得る位置のそれぞれにおける同様の割合のC16:0およびC18:2(ヘキサデカン酸および9,12-オクタデカジエン酸)を実証した。ピークにおけるサンプルの位置(すなわち、リーディングエッジまたはテイリングエッジ)に依存して60:40(これが大部分であり、そしてダイズホスファチジルイノシトールについて代表的である)から50:50の割合である。
【0136】
ピーク3は、40:5:10:45の割合で、最も活性なものは、40:5:5:45の割合で含有される、C16:0、C18:0、C18:1、およびC18:2変種(すなわち、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、シス-9-オクタデセン酸、および9,12-オクタデカジエン酸)の4つの同定可能な脂肪酸を含有する。さらに、このピークは、16.2〜16.3分の溶出時間(16:0(10.8分)ならびに13.2分と14.1分との間で溶出する18:0、18:1、および18:2よりもはるかに遅い)で移動する未確認の脂肪酸成分を含む。この未確認成分は、存在する総脂肪酸の50〜68%を占める。質量分析を用いて、16:0および18:2の脂肪酸変種の両方を有するリゾホスファチジルイノシトールが同定された。このピークはまた、R1およびR2の位置に16:0および18:2脂肪酸を有するホスファチジルイノシトールを含有する。861、864、および939〜940の分子量を有する3つの未確認種もまた見出された。
【0137】
ピーク3は、「D」と命名され、これは、ダイズ粉抽出物中で主として見出された。「B」と命名されたピーク4は、抗アポトーシス活性を有していない。
【0138】
ピーク5は、「L」と命名され、そしてレシチン由来物質中で主として見出される。ピーク5は、75:25の割合でC16:0、C18:0変種(すなわち、ヘキサデカン酸およびオクタデカン酸)の2つの同定可能な脂肪酸を含有する。さらに、このピークは、19〜22分の溶出時間で移動する未確認の脂肪酸成分を含む。未確認の成分は、存在する総脂肪酸の66%を含む。質量分析を用いて、ホスファチジルイノシトールが16:0および18:0脂肪酸変種において同定された。113および191の分子量を有する2つの未確認種もまた、観測された。
【0139】
脂肪酸を脂肪酸メチルエステルとして分析した。エステル交換反応試薬は、Christie「HPLC and Lipids」(1987)に記載のように調製された無水HCl/MeOHであった。そしてChristie「GasChromatography and Lipids: a practical guide」(1989)に記載のように分析した。両方とも、Oily PressLtd.Dundee Scotlandにより出版されている。それぞれのサンプルに、300μLのCH2Cl2および700μLのHCl/MeOHを加えた。誘導体化を、窒素下で室温で18時間行った。その後、1mLの水を添加し、そしてサンプルを3×2mLのヘキサンを用いて抽出した。合わせた抽出物を、窒素流下で乾燥させ、100μLのヘキサン中に再溶解し、そしてGC-MSバイアルに移した。サンプルの分析を、vanden Bergら、(1993)J.Lipid Res.34:2005-2012に記載のように、Hewlett-Packard5971シリーズ質量分離検出器を備えたHewlett-Packard 5890ガスクロマトグラフで実施した。
【0140】
エレクトロスプレー質量分析(MS)を、VG BloQ Triple四極子質量分析計においてネガティブモードでエレクトロスプレーイオン化を用いて実施した。ソース温度は80℃であり、溶媒は、メタノールまたは0.05%の酢酸アンモニウムを含むメタノールであり(5uL/分)、そしてキャピラリー電圧は4.7kVであった。質量分析法は、一般的に「Christie'sGas Chromatography and Lipids」(1989)に記載される。
【0141】
(実施例9:公知のリン脂質の抗アポトーシス活性)
公知のリン脂質化合物を、実施例2に記載のように血清涸渇10T1/2細胞における抗アポトーシス活性についてアッセイした。全ての市販サンプルを、10mM(100×試験濃度)の濃度で、1%ウシ胎児血清(BSA)、0.5mM塩化カルシウム、0.5mM塩化マグネシウムに、室温で溶解させた。全ての化合物を1%BSA中でのプレインキュベーション後に試験した。アポトーシスにおけるBSAの最終濃度は、≦0.01%であった。BSAまたは画分「B」(主にPIである)とのプレインキュベーションは、LPAの抗アポトーシス活性を増強した(図14)。試験した化合物の全てを、Sigmaから得た。BSAをBoehringerMannheimから得た。得られた結果を表9および図15に示す。
【0142】
【表9】



【0143】
前述の発明は、理解を明確にする目的で説明および実施例によってある程度詳細に記載されているが、所定の変化および改変が実施され得ることは当業者に明白である。それゆえ、記述および実施例は、本発明の範囲を制限するように解釈されるべきではない。本発明は、添付の請求項により外延が定められる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、集密的C3H 10T1/2細胞に対するPAIの抗アポトーシス効果を表す。
【図2】図2は、指数増殖期におけるC3H 10T1/2細胞に対するPAIの濃度依存的抗アポトーシス効果を表す。
【図3】図3は、エタノール抽出により精製されたPAIおよびサイズ排除ゲル濾過クロマトグラフィーによりさらに精製されたPAIのC3H 10T1/2細胞に対する抗アポトーシス活性の比較を表す。データはトリプシン阻害活性の関数として表す。
【図4】図4は、シクロヘキシミドで処理したC3H 10T1/2休止細胞に対する様々な濃度のダイズPAIの抗アポトーシス活性を表す。
【図5】図5は、PAIに存在する単糖類の成分分析を表す。
【図6】図6は、ラット心筋細胞で得た結果を表す。
【図7】図7は、メトトレキセート処理したラットに対するダイズ粉の抽出物の効果を示すグラフである。
【図8】図8は、メトトレキセート処理したラットに対するダイズ粉の抽出物の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、メトトレキセート処理したラットに対するダイズAcEの効果を示すグラフである。
【図10】図10は、メトトレキセート処理したラットに対するダイズ粉の抽出物の効果を示すグラフである。
【図11】図11は、メトトレキセートおよび種々の食餌て処理した後、下痢を起こすラットの発生率を表す棒グラフである。
【図12】図12は、メトトレキセートおよび種々の食餌で処理したラットにおける下痢の発生率および体重増加をまとめた棒グラフである。
【図13】図13は、HIV感染個体から得たリンパ球細胞におけるアポトーシスの尺度としてのDNAラダリングを表す写真である。
【図14】図14は、BSAまたは画分Bとのプレインキュベーションにより促進された場合のリゾホスファチジン酸の抗アポトーシス活性を表す棒グラフである。使用した略語は:LPA、L-α-リゾホスファチジン酸、オレオイル(C18:1,[cis]-9);BSA、ウシ血清アルブミン、画分V、エタノール抽出物;そして「B」、ダイズ粉からの画分B、主にホスファチジルイノシトールである。
【図15】図15は、インビトロでの血清涸渇C3H10T1/2細胞に対するリゾホスファチジン酸、オレオイル(C18:1,[cis]-9)の抗アポトーシス効果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アポトーシス活性を有する因子を含有する組成物を得る方法であって、以下の工程:
a)脱脂剤を用いて植物性粉末を脱脂する工程;
b)該植物性粉末を該脱脂剤から分離する工程;
c)水溶液を用いて該脱脂粉末を抽出する工程;および
d)該水溶液を該脱脂粉末から分離し、水性保持物質を得る工程を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−84573(P2007−84573A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340608(P2006−340608)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【分割の表示】特願平7−515698の分割
【原出願日】平成6年11月30日(1994.11.30)
【出願人】(506419342)エルエックスアール バイオテクノロジー インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】