説明

アポトーシス誘導剤およびこれを含む医薬

【課題】癌などの病原性細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導しうる新規なアポトーシス誘導剤およびこれを含む医薬を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示される化合物、あるいは下記式(2)で示される化合物を有効成分として含有するアポトーシス誘導剤:


(式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。また、式(2)中、YはOR1又はSR1を表し、R1は水素原子又は炭素原子数1〜6のア
ルキル基を、mは1〜3の整数を表す。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポトーシス誘導剤およびこれを含む医薬に関する。より詳しくは、生体のアポトーシスシステムの減少または増加が病気の発症や病状進行に関与すると考えられる疾病の治療および/または改善に好適なアポトーシス誘導剤、およびこれを含む医薬に関
する。
【背景技術】
【0002】
アポトーシスとは、「細胞の自然死」、すなわち、予めプログラムされた能動的な細胞死のことであり、受動的な細胞死であるネクローシス(壊死)とは異なる現象である。
一旦、アポトーシスのシグナルが作動すると、細胞内では複雑で多様な生化学反応が起こり、種々の蛋白質やDNA分解酵素が産生され、これが自身の細胞に作用して細胞死をも
たらす。つまり、アポトーシスは単なる細胞の崩壊現象ではなく、個体の生命維持のために不可欠な生理的細胞死であり、発生過程における体の形づくりだけでなく、成熟個体においても細胞社会の統制を図るために重要な役割を担っている。
【0003】
近年、生命科学の進歩により、アポトーシスが様々な疾病の発症や進行に関与していることが明らかになってきている(非特許文献1、非特許文献2参照)。
具体的には、アポトーシスの減少に起因する疾病として、悪性腫瘍(濾胞性リンパ腫、p53変異を伴う癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌など)、自己免疫性疾患(全身性エリテマトーデス、ある種の糸球体腎炎、慢性関節リュウマチ、インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、乾癬など)、ウイルス感染症(ヘルペスウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルスなどによる感染症)が挙げられる。また、一方、アポトーシスの増加に起因する疾病としては、エイズ、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、色素性網膜炎、小脳変性、ポリグルタミン病、プリオン病など)、虚血性疾患(心筋梗塞、脳卒中など)等が挙げられる。
【0004】
これら疾病におけるアポトーシス現象を分子レベルで解析し、その本質を捉える事によって、新しい薬剤や治療法を開発、確立しようとする研究が近年、世界中で盛んに行われている。
【0005】
しかしながら、上述のアポトーシス関連疾病の多くは、未だ有効な薬剤や治療・予防法がないのが現状である。
特に、悪性腫瘍(以下、単に癌ともいう。)においては、その克服に向け、予防や検診方法を含めて、多面的な取り組みが行われているものの、1981年以降、現在に至るまで、日本人の死因の第一位を占めている。癌の治療法としては、外科療法、放射線療法、化学療法、免疫療法およびこれらの組み合わせが行われている。
【0006】
これらのうち、化学療法に用いられる抗腫瘍剤(以下、抗癌剤ともいう。)は、メカニズムや由来などにより、「細胞障害性抗癌剤」と「分子標的治療薬」に分類される。
しかしながら、これらの「細胞障害性抗癌剤」は癌細胞に確実に作用するが、同時に正常細胞をも障害して副作用を引き起こすため、投薬に制限があり、予期した効果が引き出せないという問題がある。また、最近では、「分子標的治療薬」(癌に特異性の高い標的分子に作用する薬)が一部用いられているが、副作用も散見され、いまだ充分とは言い難い。
【0007】
さらに、これら抗癌剤の多くはアポトーシス誘導活性を有するものの、場合によっては、アポトーシスに抵抗性を示す癌細胞集団が現れて、増殖を許すこともある。これに対処
するためには、アポトーシスのメカニズムをより詳しく解析し、標的分子を探索する方法があるが、未知の部分が多い。
【0008】
したがって、現時点で、薬物有害反応がより少なく、効果の高い抗癌剤を開発するためには、正常細胞を障害せず、癌細胞に対するアポトーシス活性が高く、アポトーシス誘導剤の有効成分として好適な化合物の探索が有効であると考えられる。
【非特許文献1】編集;辻本賀英、三浦正幸、「アポトーシス研究の新たな挑戦」、実験医学vol. 19、No.13(増刊)、羊土社、2001年、p.1764-1787
【非特許文献2】編集;須磨春樹、「アポトーシス実験プロトコール」、細胞工学別冊、秀潤社、1994年、p.26-30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、癌などの病原性細胞に対して、選択的にアポトーシスを誘導しうる新規なアポトーシス誘導剤およびこれを含む医薬を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、特定の構造を有するラクトン誘導体、環状ケトン誘導体が、癌細胞に対して選択的かつ強力なアポトーシス誘導活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明はたとえば、以下の事項に関する。
本発明に係る第1のアポトーシス誘導剤は、下記式(1)で示される化合物を有効成分として含有することを特徴としている:
【0012】
【化3】

【0013】
(式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。)。
本発明では、上記アポトーシス誘導剤は、前記式(1)において、nが1または3である化合物を有効成分として含有することが好ましい。
【0014】
さらに本発明では、前記式(1)で示される化合物は、(11E,13R)-10-オキソ-11-オク
タデセン-13-オリド、(11E,13S)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド、(13E,15R)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド、(13E,15S)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド
からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る第2のアポトーシス誘導剤は、下記式(2)で示される化合物を有効成分として含有することを特徴としている:
【0016】
【化4】

【0017】
(式(2)中、YはOR1又はSR1を表し、R1は水素原子又は炭素原子数1〜6のアル
キル基を、mは1〜3の整数を表す。)
本発明のアポトーシス誘導剤は、前記式(2)において、YがOR1であり、R1が水素原子である化合物を有効成分として含有することが好ましい。
【0018】
さらに本発明では、前記式(2)で示される化合物は、(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカノール、(S)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る医薬は、前記アポトーシス誘導剤を含有することを特徴としている。本発明では、上記医薬は抗腫瘍剤として好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアポトーシス誘導剤によれば、癌などの病原性細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導し、該病原性細胞の増殖を抑制できるため、当該細胞に起因する疾患の治療及び/又は予防効果が期待できる。したがって、該アポトーシス誘導剤を含有する、本発明
の医薬は、病原性細胞のアポトーシスシステムの異常減少または正常細胞のアポトーシスシステムの異常増加が病気の発症や病状進行に関与すると考えられている疾病(癌、白血病、自己免疫疾患、ウイルス感染症、神経変性疾患など)の治療・改善剤として有用であり、なかでも抗腫瘍剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の第1のアポトーシス誘導剤は、下記式(1)で示される化合物を有効成分として含有している。
【0022】
したがって、まず下記式(1)で示される化合物について説明する。
【0023】
【化5】

【0024】
式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。該アルキル基としては、具体的には、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基
、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2―ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基などの直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。これらのうち、該化合物の脂溶性向上の点からは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数1〜6の直鎖アルキル
基が好ましく、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基などの炭素原子数3〜5の直鎖アルキル基がより好ましく、n−プロピル基またはn−ペンチル基がさらに好ましい。
【0025】
さらに、式(1)中、nは1〜3の整数を表し、1または3であることが好ましい。
上記式(1)の定義から明らかなように、該化合物は不斉炭素原子を有する。したがって、該化合物にはR体、S体、ラセミ体(以下、(+/−)と表記することもある。)と
いった光学異性体が存在するが、本発明では該化合物はその光学異性体の種類を問わず、これらのいずれであってもよい。またこれらの光学異性体は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
上記式(1)で示される化合物(ラクトン誘導体)としては、具体的には、たとえば、nが1、Rがn−プロピル基である化合物;(11E,13R)-10-オキソ-11-ヘキサデセン-13-
オリド、(11E,13S)-10-オキソ-11-ヘキサデセン-13-オリド:
nが1、Rがn−ペンチル基である化合物;(11E,13R)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド、(11E,13S)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド:
nが3、Rがn−プロピル基である化合物;(13E,15R)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド、(13E,15S)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド:
nが3、Rがn−ペンチル基である化合物;(11E,13R)-10-オキソ-11-ドデセン-13-オ
リド、(11E,13S)-10-オキソ-11-ドデセン-13-オリド:などが挙げられる。なお、上記に
例示した具体的な化合物のラセミ化合物も同様に挙げられる。
【0027】
これらのうち、癌細胞、とくにヒト白血病細胞株HL-60に対する増殖抑制活性およびア
ポトーシス誘導活性が優れる点からは、(11E,13R)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリ
ド、(11E,13S)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド、(13E,15R)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド、(13E,15S)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリドなどがより好まし
い。
【0028】
上述した化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、上記式(1)で示される化合物は公知の化合物であり、その製造方法も公知である。具体的な例を挙げて説明すると、たとえば、式(1)中、nが1、Rがn−ペンチル基である化合物は、トウモロコシの水性抽出物から単離できるほか、Matsushita et al.,
"Enantioselective syntheses of 10-oxo-11(E)0ctadecen-13-olide and related fatty
acid", Tetrahedron Lett.,38 (1997) p.6055-6058 に記載された方法でリノール酸から合成できる。また、下記の合成スキームに従い合成することもできる。以下の合成スキーム中、Phはフェニル基、MEMは2-メトキシエトキシメチル基、OTHPはテトラヒドロピラニ
ルオキシ基、Acはアセチル基、DMAPは4−ジメチルアミノピリジン、Etはエチル基、PPTS
はピリジニウムp-トルエンスルホネートをそれぞれ表す。
【0029】
【化6】

【0030】
また同様に、式(1)中、nが3、Rがn−プロピル基である化合物は、下記の合成スキームに従い合成できる。
【0031】
【化7】

【0032】
本発明の第2のアポトーシス誘導剤は、下記式(2)で示される化合物を有効成分として含有している。なお、下記式(2)の定義から明らかなように、該化合物は不斉炭素原子を有するため、該化合物にはR体、S体、ラセミ体といった光学異性体が存在するが、光学異性体の種類を問わず、これらのいずれであってもよい。またこれらの光学異性体は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
以下、下記式(2)の化合物(環状ケトン誘導体)を具体的に説明する。
【0034】
【化8】

【0035】
式(2)中、YはOR1又はSR1を表し、R1は水素原子又は炭素原子数1〜6のアル
キル基を表す。該炭素原子数1〜6のアルキル基としては、具体的には、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec
−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2―ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基などの直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。
【0036】
これらのうち、該化合物の脂溶性向上の点から、R1はメチル基、エチル基、n−プロ
ピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などの炭素原子数1〜6の直鎖アルキル基又は水素原子であることが好ましく、なかでも水素原子であることがより好ましい。さらに上記式(2)中、mは1〜3の整数を表し、好ましくは3である。
【0037】
上記式(2)中、YがOHまたはSHを表す場合の上記式(2)で示される化合物の具体的かつ好ましい例としては、たとえば、YがOH、mが1である化合物;(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-オクタノール、(S)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-オクタノール:
YがOH、mが2である化合物;(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-ノナノー
ル、(S)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-ノナノール:
YがOH、mが3である化合物;(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカノー
ル、(S)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカノール:
YがSH、mが1である化合物;(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-オクタン
チオール、(S)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-オクタンチオール:
YがSH、mが2である化合物;(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-ノナンチ
オール、(S)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-ノナンチオール:
YがSH、mが3である化合物;(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカンチ
オール、(S)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカンチオール:などが挙げられる
。なお、上記に例示した具体的な化合物のラセミ化合物も同様に挙げられる。
【0038】
これらのうち、癌細胞、とくにヒト白血病細胞株HL-60に対する増殖抑制活性およびア
ポトーシス誘導活性が優れる点からは、(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカ
ノール、(S)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカノールがより好ましい。
【0039】
上述した化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記式(2)で示される化合物は、公知の化合物であり、その製造方法も公知である。
具体的な例を挙げて説明すると、たとえば、式(2)中、YがOH、mが1〜3の整数を表す化合物は、Ryozo Irye et al., "Synthesis of 2-(2-hydroxyalkylidene)
cyclopentanones and their bio-antimutagenic activity", Biosci.Biotech.Biochem., 59(3),1995, p.401-407に記載された方法により合成できる。また、下記の合成スキーム
に従い合成することもできる。
【0040】
【化9】

【0041】
本発明の第1のアポトーシス誘導剤に含まれる前記式(1)で示される化合物の量、ならびに、本発明の第2のアポトーシス誘導剤に含まれる前記式(2)で示される化合物の量は、それぞれアポトーシス誘導を目的とする病原性細胞に対して、アポトーシス誘導活性を得られる量であればよく、とくに限定されないが、通常は、アポトーシス誘導剤全量中、10〜100質量%の量である。
【0042】
すなわち、本発明では、前記式(1)で示される化合物、あるいは前記式(2)で示される化合物をそれぞれ、そのもの自体をアポトーシス誘導剤として用いてもよく、あるいは目的とする剤形に合わせて、上記化合物の他に、通常の製剤化に用いられる公知の添加剤や公知の溶剤などを含んだ組成物をアポトーシス誘導剤として用いてもよい。
【0043】
また、上述したアポトーシス誘導剤は、前記式(1)で示される化合物、あるいは前記式(2)で示される化合物を、有効成分として含有する医薬として使用することができる。
【0044】
前記化合物は、病原性細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導し、当該細胞に起因する疾患を治療及び/又は予防するためのアポトーシス誘導剤として好適であるため、前記
化合物を有効成分として含有する医薬、すなわち、前記アポトーシス誘導剤を含有する医薬は、病原性細胞のアポトーシスシステムの異常減少または正常細胞のアポトーシスシステムの異常増加が病気の発症や病状進行に関与すると考えられている疾病(癌、白血病、自己免疫疾患、ウイルス感染症、神経変性疾患など)の治療・改善剤として有用であり、なかでも抗腫瘍剤として好ましく用いられる。
【0045】
前記アポトーシス誘導剤を医薬として用いる場合には、経口投与剤または非経口投与剤のいずれでもよく、剤形もとくに限定されないが、通常は一般的な医薬製剤の形態で用いられる。かかる製剤は、有効成分のほかに、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤を用いて調製され、必要に
応じて担体、安定化剤、吸収促進剤等を添加し、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤等として経口的に投与してもよいし、また坐剤、注射剤、外用剤、点滴剤等として非経口的に投与してもよい。さらに本発明のアポトーシス誘導剤および医薬には、必要に応じて、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を含有せしめてもよい。
【0046】
本発明の医薬に含有されるアポトーシス誘導体の量は、とくに限定されず、該アポトーシス誘導体に有効成分として含まれる前記式(1)で示される化合物あるいは前記式(2)で示される化合物の量として、後述する1日当たりの投与量を管理するのに好適な量であればよい。
【0047】
本発明の医薬の投与量は、投与する患者の体重、年齢、病状などによって異なるが、前記の有効成分の量として、通常は1日あたり2〜5,000mgを、1〜数回に分けて投与するとよい。
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の例中、NMRスペクトルはBruker社DRX-500 spectrometer (500.15 MHz for 1H, and 125.75 MHz for 13C)でTMS(テトラメチルシラン)を内部標準として、Bruker社のパルスプログラムとデータ処理システムを用いて測定した。また、MSスペクトルは日本電子(株)JMS 700 spectrometerを用いて、日本電子(株) JEOLデータ処理システムを
用いて測定した。
【実施例】
【0049】
[合成例1]
<(11E,13R)-(+)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド、(11E,13S)-(-)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド、およびラセミ型(11E)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリ
ド(化合物(10-R)、(10-S) 及び ((+/-)-10)の合成)>
(i)(13R)-12-ヒドロキシ-13-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ-1-テトラヒドロピラ
ニルオキシ]-10-オクタデカノン(3-R)、(13S)-12-ヒドロキシ-13-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ-1-テトラヒドロピラニルオキシ]-10-オクタデカノン(3-S)の合成
【0050】
【化10】

【0051】
(i-a)(13R)-12-ヒドロキシ-13-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ-1-テトラヒドロピラニルオキシ]-10-オクタデカノン(3-R)の合成
N-イソプロピルシクロへキシルアミン(1.03g (7.3mmol))をTHF(2ml)中に加え、n-
ブチルリチウム(n-BuLi) (0.468g, 7.3 mmol)と反応させて調製したリチウムN-イソプロ
ピルシクロヘキシルアミド(LICA)溶液に、1-テトラヒドロピラニルオキシ-10-ウンデカノン((2), 0.986g, 3.65 mmol)をTHF (3 ml)に溶解した液を、-78℃で滴下し、そのまま1時間撹拌した。
【0052】
ついで、(R)-2-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ]-ヘプタナール((1-R), 1.28g, 3.65 m
mol)をTHF (3 ml)に溶解し、ゆっくりと滴下した。そのまま-78℃で30分間撹拌し、酢酸
(1ml)を加えて反応を停止した。反応物を酢酸エチルと飽和食塩水で抽出し、酢酸エチ
ル層を2N塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水の順序で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。
【0053】
その後、溶媒を溜去して、(13R)-12-ヒドロキシ-13-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ]-1-テトラヒドロピラニルオキシ-10-オクタデカノン((3-R)、1.22g, 2.0 mmol, 収率94%
)を得た。
【0054】
(1-R): 1H NMR (CDCl3) δ : 0.87 (3H, t, J=6.8 Hz, H7), 1.20-1.33 (6H, m, H4-H6), 1.71 (1H, bhex, J=7.5 Hz, H3), 1.81 (1H, m, H3), 3.37 (3H, s, H6'), 3.51-3.55 (2H, m, H5'), 3.69 (1H, ddd, J=10.4, 5.6, 3.9 Hz, H4'), 3.81 (1H, ddd, J=10.5, 5.4, 4.0 Hz, H4'), 4.82 (1H, d, J=7.1 Hz, H3'), 4.91 (1H, d, J=7.1 Hz, H3'), 5.00 (1H, dd, J=7.1, 3.0 Hz, H2), 5.34 (1H, s, H2'), 7.38 (3H, dt, H9'-H11'), 7.49 (2H, d, J=6.7 Hz, H7'&H12'), 9.31 (1H, s, H1) 13C NMR (CDCl3) δ : 13.88 (C7), 22.31 (C6), 24.39 (C4), 28.71 (C5), 31.29 (C3), 58.97 (C6'), 67.62 (C4'), 71.64 (C5'), 76.71 (C2'), 78.89 (C2), 94.23 (C3'), 127.45 (C9'&C11'), 128.72 (C8'&C12'), 128.94 (C10'), 135.89 (C7'), 170.59 (C1'), 197.90 (C1) [α]D = -26.7°( c 0.25, EtOH )
(3-R):NMR (CDCl3) δH: 0.75 (3H, t, J=7.0Hz, 18), 0.88-1.4 (18H, 2, 3, 4, 5, 6, 14, 15, 16, 17), 1.4-1.6 (8H, 7, THP), 1.69, 1.83 (1H, m, 8), 2.38 (2H, t, J=7.4 Hz, 9), 2.45-2.55 (2H, m, 11), 3.35 (3H, s, MEM), 3.38, 3.73 (1H, dt, 1), 3.45-3.52 (3H, m, MEM), 3.68 (1H, ddd, J=11.2, 5.9 & 3.4 Hz, MEM), 3.77 (1H, ddd, J=10.8, 6.0 & 3.3 Hz, MEM), 3.87 (1H, m, THP), 4.1 (1H, qint, J=5.4 Hz, 12), 4.57 (t, J=4.1 Hz, THP), 4.79, 4.86 (1H, AB type, J=7.1 Hz, MEM), 4.79-4.86 (m, 13), 5.23 (1H, s, mandelyl), 7.25-7.4 (3H, m, madelyl), 7.45 (2H, dd, J=8 & 1.4 Hz,
mandelyl). δC: 13.86 (18), 19.70(THP), 22.31(17), 23.48(8/3), 24.34(3/8), 25.54 (THP), 26.23(14), 29.13, 29.33, 29.39, 29.42, 29.76, 29.89(2, 4, 5, 6, 7, 15), 30.81(THP), 31.40(16), 43.72(9), 44.66(11), 58.91(OMe), 62.29(THP), 67.52(1), 67.63(MEM), 68.79(12), 71.69(MEM), 76.77(13), 76.94(mandelyl), 94.07(MEM), 98.84(THP), 127.44(x2), 128.51(x2), 128.73(mandelyl), 136.33 (mandelyl), 170.57(mandelyl), 211.18(mandelyl). HR-MS m/z: C35H58O9 : Calcd. for 622.4081; Measured, 622.4125.
(i-b)(13S)-12-ヒドロキシ-13-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ-1-テトラヒドロピラニルオキシ]-10-オクタデカノン(3-S)の合成
LICA溶液(1.48mmol)と化合物(2)200mg(0.74mmol)を使用し、さらに(S)-2-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ]ヘプタナール((1-S), 260 mg, 0.74 mmol)を用いた他は上記(i-a)と同様にして、アルドール反応させ、 (13S)-12-ヒドロキシ-13-[(R)-O-MEM-マンデリル
オキシ]-1-テトラヒドロピラニルオキシ-10-オクタデカノン((3-S)、429 mg, 0.69 mmol,収率93%)を得た。
【0055】
(1-S): 1H NMR (CDCl3) δ : 0.79 (3H, t, J=7.0 Hz, H7), 1.02-1.20 (6H, m, H4-H6), 1.58-1.67 (1H, m, H3), 1.67-1.78 (1H, m, H3), 3.37 (3H, s, H6'), 3.51 (2H, dt, J=3.9, 5.5 Hz, H5'), 3.68 (1H, ddd, J=11.0, 5.7, 3.6 Hz, H4'), 3.81 (1H, ddd, J=10.8, 5.6, 3.5 Hz, H4'), 4.82 (1H, d, J=7.1 Hz, H3'), 4.89 (1H, d, J=7.1 Hz,
H3'), 4.99 (1H, dd, J=4.4 Hz, H2), 5.36 (1H, s, H2'), 7.36 (3H, m, H9'-H11'), 7.47 (2H, d, J=6.4 Hz, H7'&H12'), 9.52 (1H, s, H1) 13C NMR (CDCl3) δ : 13.79 (C7), 22.22 (C6), 24.13 (C4), 28.56 (C5), 31.07 (C3), 58.97 (C6'), 67.64 (C4'), 71.64 (C5'), 76.57 (C2'), 78.74 (C2), 94.19 (C3'), 127.47 (C9'&C11'), 128.69 (C8'&C12'), 128.91 (C10'), 135.97 (C7'), 170.54 (C1'), 197.97 (C1) [α]D = -53.0°( c 0.17, EtOH )
(ii)(R)-13-アセトキシ-10-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-trans-11-オクタデセン(5-R)、(S)-13-アセトキシ-10-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-trans-11-
オクタデセン(5-S)の合成
【0056】
【化11】

【0057】
(ii-a)(R)-13-アセトキシ-10-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-trans-11-オクタデセン(5-R)の合成
化合物(3-R) 1.26g (2.02mmol)を混合溶媒(ジメチルホルムアミド(DMF)30 ml−ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)10 ml)に溶解し、酢酸ナトリウム(1.66g, 20.2 mmol)を加え、55℃で16時間撹拌した。反応液を酢酸エチルと飽和食塩水で抽出し、酢酸エチ
ル層を2N塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。
【0058】
その後、溶媒を溜去して油状物質を得た。
この油状物質をシリカゲルクロマトグラフィー(シリカゲル4g、溶離液 ヘキサン:EtOAc=7:3)を用いて精製し、純粋な (R)-13-ヒドロキシ-10-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ -trans-11-オクタデセン((4-R), 770 mg, 2.02 mmol, 収率100%)を得た。
【0059】
[α]D=-6.25°(c=0.70, EtOH). NMR (CDCl3+Pyr.-d5) δH: 2.53 (2H, t, J=7.4Hz, 9), 3.37 (1H, dt, J=9.6 & 6.7Hz, 1), 3.73 (1H, dt, J=9.6 & 6.7Hz, 1), 4.32 (1H, q, J=6.1 Hz, 13), 4.54 (1H, t, J=4.1Hz, THP), 6.32 (1H, dd, J=15.9 & 1.5Hz, 11), 6.82 (1H, dd, J=15.9 & 5.0Hz, 12); δC: 40.77 (9), 67.68 (1), 71.02 (13), 127.97 (11), 148.46 (12), 200.87 (10). HR-MS: Calcd. for C23H40O3 (M+-H2O),
364.2977; Measured, 364.2971.
化合物(4-R)の光学純度はMTPA(α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニル酢酸)エステル((R)-(-)-MTPA クロライドを用いて調製した)のNMRスペクトル(δH 6.05 (0.4124H, d, J=15.8Hz, H-11 of (R)-form), 6.22 (0.0396H, d, J=15.8Hz, H-11 of
(S)-form), 6.48 (0.4153H, dd, J=15.9 & 5.5 Hz, H-12 of (R)-form),6.68 (0.0356H, dd, J=15.9 & 6.0 Hz, H-12 of (S)-form)から測定した。その結果、R-型の光学純度は83.34%であった。
【0060】
化合物(4-R)225 mg(0.59 mmol)を無水酢酸(2 ml)とピリジン(5 ml)でアセチル化して(R)-13-アセトキシ-10-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-trans-11-オクタデセン((5-R)、250 mg, 0.59 mmol,収率100%)を得た。
【0061】
NMR (CDCl3+Pyr.-d5) δH: 2.22 (3H, s, OAc), 5.40 (1H, q, J=5.5 Hz, 13). δC: 21.05 (OAc), 72.70 (13), 170.15 (COO), 200.23 (CO). HR-MS: Calcd. for C25H4
3O5 (M+-H), 423.3110; Measured, 423.3093.
(ii-b)(S)-13-アセトキシ-10-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-trans-11-オクタデセン(5-S)の合成
化合物(3-S) 429 mg(0.69 mmol)を用いた他は上記(ii-a)と同様にして、(S)-13-ヒドロキシ-10-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-trans-11-オクタデセン((4-S), 255
mg, 0.668 mmol, 収率97%, [α]D=+6.5° (c=2.0, EtOH))を得た。なお、精製はシリカ
ゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル4g、溶離液 ヘキサン:EtOAc=7:3)にて行った。
【0062】
化合物(4-S)のNMRスペクトルは、化合物(4-R)のNMRスペクトルと一致した。
化合物(4-S)の光学純度は (R)-(+)-MTPA クロライドから調製したMTPAエステルのNMR測定から85.6%であった。
【0063】
ついで、化合物(4-S)315 mg(0.82 mmol)のアセチル化によって、(S)-13-アセトキ
シ-10-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-trans-11-オクタデセン((5-S)、348 mg, 0.82 mmol, 収率100%)を得た。
【0064】
(iii)(R)-13-アセトキシ-10-オキソ-trans-11-オクタデセン酸(6-R)、(S)-13-アセトキシ-10-オキソ-trans-11-オクタデセン酸(6-S)の合成
【0065】
【化12】

【0066】
(iii-a)(R)-13-アセトキシ-10-オキソ-trans-11-オクタデセン酸(6-R)の合成
化合物(5-R)225 mg(0.53 mmol)をアセトン(5ml)中、室温でJones酸化した(40分間)。ついで、反応液に2-プロパノールを加えて反応を停止し、反応物を酢酸エチルと飽和食塩水で抽出した。有機層を2N硫酸、飽和食塩水の順序で洗浄した。溶媒を溜去して、(R)-13-アセトキシ-10-オキソ- trans-11-オクタデセン酸 ((6-R),188 mg, 0.53 mmol,
収率100%)を得た。
【0067】
[α]D=-16.2°(c=0.30, EtOH) NMR (CDCl3+Pyr.-d5) δH: 2.03 (2H, q, J=7.3 & 3.9Hz, 14), 2.10 (3H, s, Ac), 2.35 (2H, t, J=7.6Hz, 2), 2.51 (2H, dt, J=14.1 & 7.3Hz, 9), 5.39 (1H, q, J=9.2 & 5.5Hz, 13), 6.19 (1H, dd, J=16.0 & 1.4Hz, 11), 6.68 (1H, dd, 16.0 & 5.4Hz, 12); δC: 20.36 (Ac), 33.64 (14), 34.41 (2), 40.73 (9),
72.72 (13), 129.26 (11), 143.01 (12), 170.20 (Ac), 177.32 (1), 191.04 (10).
HR-MS: Calcd. for C20H35O4 ( M+-H ), 339.2535; Measured, 339.2545.
(iii-b)(S)-13-アセトキシ-10-オキソ-trans-11-オクタデセン酸(6-S)の合成
化合物 (5-S)(315 mg, 0.743 mmol)を使用したほかは、(iii-a)と同様にして、(S)-13-アセトキシ-10-オキソ-trans-11-オクタデセン酸((6-S),262 mg, 0.74 mmol,収率100%, [α]D=+13.0°(c=0.33, EtOH))を得た。
【0068】
化合物(6-S)のNMRスペクトルは化合物(6-R)のNMRスペクトルと一致した。
(iv)(R)-13-アセトキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸(7-R)、(S)-13-アセトキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸(7-S)の合成
【0069】
【化13】

【0070】
(iv-a)(R)-13-アセトキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸(7-R)の
合成
ベンゼン(8 ml)に、化合物(6-R) 188 mg(0.53 mmol)を溶解し、エチレングリコール(0.3 ml)とピリジニウムp-トルエンスルホネート(PPTS, 150 mg)を加え、8時間還流した。反応液を酢酸エチルと飽和食塩水で抽出し、飽和食塩水で洗浄した。次いで硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を溜去して (R)-13-アセトキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸(7-R)と未反応物92:8の混合物(186 mg, 収率88%)を得た。
【0071】
NMR (CDCl3+Pyr.-d5) δH: 2.05 (3H, s, Ac), 2.34 (2H, t, J=7.6Hz, 2), 3.60〜3.97 (4H, m, 1', 2'), 5.25, (1H, q, J=12.9 & 6.5Hz, 13), 5.53 (1H, d, J=15.7Hz, 11), 5.75 (1H, dd, J=15.6 & 6.2Hz, 12); δC: 20.34 (OAc), 34.56 (2), 64.47, 64.58 (1', 2'), 73.61 (13), 108.84 (10), 129.63 (11), 131.75 (12), 170.27 (Ac), 190.88 (1). HR-MS: Calcd. for C20H34O4 ( M+-C2H4O2 ), 338.2457; Measured, 338.2456.
(iv-b)(S)-13-アセトキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸(7-S)の
合成
化合物(6-S)273mg(0.77 mmol)とエチレングリコール (0.43 ml)を用いた他は、上記(iv-a)と同様にして、(S)-13-アセトキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセ
ン酸((7-S)、251 mg, 0.72 mmol, 収率94%)を得た。
【0072】
化合物(7-S)のNMRスペクトルは化合物(7-R)のNMRスペクトルと一致した。
(v)(R)-13-ヒドロキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸 (8-R)、(S)-13-ヒドロキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸 (8-S)の合成
【0073】
【化14】

【0074】
(v-a)(R)-13-ヒドロキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸 (8-R)の
合成
化合物(7-R)186 mg(0.47 mmol)を5%NaOH-65% EtOH 混合溶液(3 ml)に溶解し、2.5時
間室温で撹拌した。これに、酢酸エチルを加え、水層を2N硫酸でpH3に0℃で調整した。
反応物を素早く抽出し、飽和食塩水で洗浄した。ついで、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を溜去して、(R)-13-ヒドロキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸
((8-R), 157 mg, 0.437 mmol,収率94%、)を得た。
【0075】
[α]D=-4.4°(c=0.59, EtOH) NMR (CDCl3+Pyr.-d5) δH: 3.82〜3.96 (4H, m, 1'
, 2'), 4.15 (1H, q, J=12.5 & 6.4Hz, 13), 5.56 (1H, d, J=15.6Hz, 11), 5.83 (1H, dd, J=15.6 & 6.2Hz, 12);δC : 64.50 (1', C2'), 71.83 (13), 108.99 (10), 129.78 (11), 134.31 (12), 177.00 (1). HR-MS: Calcd. for C18H32O2 ( M+-C2H2O2 ), 280.2402; Measured, 280.2412.
(v-b)(S)-13-ヒドロキシ-10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸 (8-S)の
合成
化合物(7-S) 251 mg(0.63 mmol)を5% NaOH-65%EtOH (3 ml)で2.5時間加水分解したほかは上記(v-a)と同様にして、(S)-13-ヒドロキシ -10,10-エチレンジオキシ-trans-11-オクタデセン酸((8-S), 214 mg, 0.63 mmol, 収率100%)を得た。
【0076】
[α]D=+5.6°(c=0.67, EtOH)
化合物(8-S)のNMRスペクトルは化合物(8-R)のNMRスペクトルと一致した。
(vi)(11E,13R)-(+)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド(10-R)、(11E,13S)-(-)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド(10-S)、ラセミ型 (11E)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド((+/-)-10)の合成
【0077】
【化15】

【0078】
(vi-a)(11E,13R)-(+)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド(10-R)の合成
窒素気流下、化合物(8-R) 34.1 mg(0.096 mmol)のTHF (7 ml)溶液(Et3N (22 mg, 0.21 mmol)を含む)を撹拌しながら、2,4,6-トリクロロベンゾイルクロライド (47 mg, 1.9
mmol)をこれに加え、更に室温で2時間撹拌した。これに、乾燥ベンゼン(10 ml)を加えて撹拌し、上層を集めて乾燥ベンゼン(15ml)に添加した。
【0079】
さらにDMAP(116.9 mg, 0.96 mmol)の乾燥ベンゼン溶液(15 ml)を撹拌しながら、これに、上記ベンゼン層をゆっくりと70℃で3時間かけて添加した。添加後、更に1時間撹拌した。ついで、反応液を飽和クエン酸溶液、飽和重曹水、飽和食塩水の順序で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、溶媒を溜去して油状生成物(36.1 mg)を得た。
【0080】
得られた油状生成物をシリカゲル分取用薄層クロマトグラフィー(TLC)(EtOAc:ヘキサン=1:30)により精製し、純粋な (11E,13R)-(+)-10,10-エチレンジオキシ-11-オクタデセン-13-オリド((9-R),17.0 mg, 0.050 mmol, 収率52.5 %)を得た。
【0081】
[α]18D= +36.3°(c 0.31, EtOH) IR νmax(film)cm-1: 2925, 2860, 1816, 1728, 1627, 1456, 1360, 1050, 976. NMR (CDCl3) δH: 0.88 (3H, t, J=6.7 Hz, H18), 1.19-1.35 (16H, m, H4-H8&H15-H16), 1.55-1.77 (6H, m, H3,H9&H14), 2.28 (1H, ddd, J=3.9, 8.0, 14.6 Hz, H2), 2.36 (1H, ddd, J=3.9, 9.0, 14.7 Hz, H2), 3.77-3.97 (4H, m, H1'&H2'), 5.34 (1H, dt, J=7.1, 7.9 Hz, H13), 5.63 (1H, d, J=15.5 Hz, H11), 5.74 (1H, dd, J=8.2, 15.5 Hz, H12). δC: 13.96, 22.09, 22.52, 24.59, 24.95, 25.72, 25.75, 26.47, 26.51, 31.50, 33.89, 33.97, 37.27, 63.88, 64.73, 73.47, 108.55, 130.28, 133.60, 173.15. HR-MS m/z: Calcd. for C20H34O4 (M+) 338.2457, Found 338.2491.
ついで、化合物 (9-R) 17.0 mg(0.050 mmol)を80% EtOH (5 ml)に溶解し、PPTS(10 mg)を加え、50℃で8時間撹拌した。反応液を酢酸エチルと飽和食塩水で抽出し、飽和食
塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を溜去して、粗生成物(17.0 mg)を得
た。
【0082】
得られた粗生成物をTLC(EtOAc:ヘキサン=1:8)により精製して、純粋な(11E,13R)-(+)-10-オキソ -11-オクタデセン-13-オリド((10-R), 13.0 mg, 0.044 mmol, 収率88.3 %)を結晶として得た。化合物(10-R)のNMRスペクトルは文献値のそれと一致した。
【0083】
mp. 63.0-64.0℃ (ヘキサン)
[α]20D= +37.3°(c 0.72, EtOH). IR νmax(nujol)cm-1: 2925, 2850, 1724, 1682, 1662, 1617, 1456, 1337, 1249, 985. NMR (CDCl3) δH: 0.88 (3H, t, J=6.5 Hz, H18), 1.19-1.43 (8H, m, H4-H7), 1.60-1.74 (6H, m, H3, H8&H14), 2.30 (1H, ddd, J=4.6, 8.3, 14.5 Hz H2), 2.39 (1H, ddd, J=4.8, 8.1, 13.5 Hz, H9), 2.45 (1H, ddd, J=4.4, 8.1, 14.0 Hz, H2), 2.58 (1H, ddd, J=4.8, 8.2, 13.4 Hz, H9), 5.48 (1H, q, J=6.9 Hz, H13), 6.43 (1H, dd, J=1.0, 15.7 Hz, H11), 6.71 (1H, dd, J=6.2, 15.7
Hz, H12). δC: 13.96, 22.46, 24.47, 24.81, 25.33, 25.43, 25.87, 26.23, 26.42, 31.48, 33.53, 34.44, 41.29, 72.16, 128.82, 143.29, 172.99, 201.74. HR-MS m/z: Calcd. for C18H30O3 294.2195, Found 294.2185.
(vi-b)(11E,13S)-(-)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド(10-S)の合成
化合物(8-S)を使用したほかは、上記(vi-a)と同様にして(11E,13S)-(-)-10,10-エチ
レンジオキシ-11-オクタデセン-13-オリド((9-S),収率45.9 %)を得た。[α]19D= -35.8°(c 2.83, EtOH)
化合物(9-S)のNMRスペクトルは化合物(9-R)のNMRスペクトルと一致した。
【0084】
さらに該化合物(9-S)を用いた他は、上記(vi-a)と同様にして、(11E,13S)-(-)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド(10-S)を定量的に得た。[α]19D= -41.2°(c 0.60, EtOH), m.p. 60.5-63.0℃(ヘキサン)
化合物(10-S)のNMRスペクトルは化合物(10-R)のNMRスペクトルと一致した。
【0085】
(vi-c)ラセミ型 (11E)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド((+/-)-10)の合成
(11E)-13-ヒドロキシ-10,10-エチレンジオキシ-11-オクタデセン酸(化合物(8))を
用いた他は、上記(vi-a)と同様にして、ラセミ型10,10-エチレンジオキシ-11-オクタデセン-13-オリド((+/-)-9),収率56.5 %)を得た。
【0086】
さらに、ラセミ型10,10-エチレンジオキシ-11-オクタデセン-13-オリド((+/-)-9)
を用いた他は上記(vi-a)と同様にして、ラセミ型 (11E)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド((+/-)-10),収率94.5 %)を得た。
【0087】
ラセミ化合物((+/-)-10)のNMRスペクトルは、化合物(10-R)のスペクトルと一致し
た。m.p. 48.0-49.5℃ (ヘキサン, 文献値52℃)
[合成例2]
<(13E,15R)-(+)-12-オキソ-13−オクタデセン-15-オリド、(13E,15S)-(-)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド(化合物(20-R)、(20-S)の合成)>
(i)(13E,15R)-15-ヒドロキシ-12-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-13-オクタデセン(14-R)、(13E,15S)-15-ヒドロキシ-12-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-13-オクタデセン(14-S)の合成
【0088】
【化16】

【0089】
(i-a)(13E,15R)-15-ヒドロキシ-12-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-13-オクタ
デセン(14-R)の合成
窒素気流下、THF4ml中にジイソプロピルアミン(0.351ml,d=0.722,2.51mmol,1.5eq.)を加えて-78℃に冷却し、これにn-BuLi 10% ヘキサン溶液(1.77ml,2.76mmol,1.32eq.)を滴
下し5分間撹拌後、0℃で30分撹拌して調製した、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)
溶液(2.5mmol)を-78℃に冷却後、THF3mlに溶解した13-テトラヒドロピラニルオキシ-2-トリデカノン ((12), 500 mg、1.68mmol)を滴下し、エノール化した。
【0090】
30分撹拌後、THF3mlに溶解した(2R)-(-)-2-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ]ペンタナー
ル (11-R)(532mg、1.64mmol,0.98eq.)を滴下し、30分撹拌してアルドール反応を行った。
【0091】
その後、酢酸0.5mlを加えて反応を停止させ、室温に戻した後、飽和食塩水50mlを加え
て酢酸エチルで抽出した。有機層を2N HCl、飽和NaHCO3水、飽和食塩水で順次洗浄後、乾燥(MgSO4)、濃縮して淡黄色油状物のアルドール反応物((13-R)、928mg、1.57mmol、96%)を得た。
【0092】
次いで、該アルドール反応物(13-R)を精製せずにDMF(20ml)、HMPA(10ml)に溶解し、酢
酸ナトリウム(9.7g)を加え、50℃で3時間撹拌した後、70℃で17時間撹拌した。反応液に
飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出(3回)した。得られた有機層を合わせ、2N HCl、
飽和NaHCO3水、飽和食塩水で順次洗浄した後、乾燥(MgSO4)、濃縮して褐色油状物を得
た。これをシリカゲルカラム(7g)で精製し、(13E,15R)-15-ヒドロキシ-12-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-13-オクタデセン((14-R),160 mg)を得た。
【0093】
IR νmax(film)cm-1: 3580, 2925, 2850, 1724, 1670, 1626, 1460, 1437, 1408, 1130,1075, 978. NMR (CDCl3) δH: 0.95 (3H, t, J=7.3 Hz, H18), 1.24-1.37 (16H, m, H3-H9&THP), 1.37-1.64 (10H, m, H2, H10, H16-H17&THP), 1.68-1.74 (1H, m, THP), 1.79-1.86 (1H, m, THP), 2.22-2.36 (1H, br, -OH), 2.54 (2H, t, J=7.5 Hz, H11), 3.38 (1H, dt, J=6.7, 9.6 Hz, THP), 3.47-3.51 (1H, m, H1), 3.72 (1H, dt, J=6.9, 9.6
Hz, THP), 3.84-3.89 (1H, m, H1), 4.32 (1H, dt, J=5.3, 6.1 Hz, H15), 4.57 (1H, t, J=4.2 Hz, THP), 6.30 (1H, dd, J=1.5, 15.9 Hz, H13), 6.79 (1H, dd, J=5.0, 15.9 Hz, H14). δC: 13.61, 18.52, 19.71, 24.20, 25.54, 26.25, 29.29, 29.40, 29.45, 29.47, 29.53, 29.56, 29.77, 30.82, 38.92, 40.84, 62.35, 67.71, 71.05, 98.87, 128.04, 147.87, 200.77. HR-MS m/z: Calcd. for C23H40O3 (M+-H2O) 364.2977, Found
364.2954.
光学純度:90.4 %ee((S)-(+)-MTPA クロライドを用いてエステル化しNMR分析(C13-H
)によって測定)
(i-b)(13E,15S)-15-ヒドロキシ-12-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-13-オクタ
デセン(14-S)の合成
(2S)-(-)-2-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ]ペンタナール(11-S)を用いた他は、上記(i-a)と同様にして、化合物(11-S)と(12)のアルドール反応、引き続いて酢酸ナトリウム処理とシリカゲルカラムによる精製によって(S)-異性体である(13E,15S)-15-ヒドロキシ-12-オキソ-1- テトラヒドロピラニルオキシ-13-オクタデセン(14-S)を得た(収率21.1 %)

【0094】
なお、化合物(14-S)のNMRスペクトルは化合物(14-R)のスペクトルと一致した。
(ii)(13E,15R)-15-アセトキシ-12-オキソ-13-オクタデセン酸(16-R)、(13E,15S)-15-アセトキシ-12-オキソ-13-オクタデセン酸(16-S)の合成
【0095】
【化17】

【0096】
(ii-a)(13E,15R)-15-アセトキシ-12-オキソ-13-オクタデセン酸(16-R)の合成
化合物 (14-R) 476mg(1.24mmol)に無水ピリジン(15ml)、無水酢酸(7ml)を加え、室温で16時間撹拌した。氷片を加えて過剰の無水酢酸を分解後、飽和食塩水を加えて酢酸エチルで抽出した。有機層を2N HCl(3回)、飽和NaHCO3水、飽和食塩水で順次洗浄後、MgSO4で乾燥、減圧下濃縮して、褐色油状物(678mg)を得た。
【0097】
得られた褐色油状物をシリカゲルカラム(6g)で精製して無色油状の(13E,15R)-15-アセ
トキシ-12-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-13-オクタデセン((15-R)、512mg、97.3%)を純粋に得た。
【0098】
HR-MS m/z: Calcd. for C25H44O5 (M+) 424.3189, Found 424.3196
ついで、該化合物(15-R) (512mg,1.205mmol)のアセトン(10ml)溶液に、室温でJones試
薬を褐色が保持されるまで滴下した後、1.5時間撹拌した。これに2-プロパノールを数滴
加えて過剰の試薬を分解後、減圧下でアセトンを除去し、得られた水溶液に飽和食塩水を加えて酢酸エチルで抽出(2回)した。有機層を2N 硫酸(3回)、飽和食塩水で順次洗浄
後、MgSO4で乾燥、減圧下濃縮して、無色油状の(13E,15R)-15-アセトキシ-12-オキソ-13-オクタデセン酸((16-R),457mg,粗収率107%)を得た。得られた化合物(16-R)は精製
せずに次の反応に用いた。
【0099】
[α]18D=+17.4°(C 1.00,EtOH). IR νmax(film)cm-1: 3300, 2925, 2850, 1738, 1704, 1667, 1628, 1455, 1410, 1370, 1229. NMR (CDCl3) δH: 0.93 (3H, t, J
=7.4 Hz, H18), 1.24-1.41 (14H, m, H4-H9&H17), 1.55-1.64 (6H, m, H3, H10&H16), 2.09 (3H, s, OAc), 2.34 (2H, t, J=7.5 Hz, H2), 2.53 (2H, t, J=7.5 Hz, H11), 5.40 (1H, q, J=5.8 Hz, H15), 6.19 (1H, dd, J=16.0, 1.1 Hz, H13), 6.67 (1H, dd, J=16.0,
5.1 Hz, H14). δC: 13.77, 18.31, 21.03, 23.99, 24.68, 29.01, 29.16, 29.21, 29.32, 29.33, 33.87, 35.98, 40.78, 72.53, 129.30, 142.99, 170.21, 178.98, 200.30.
HR-MS m/z: Calcd. for C20H34O5 (M+-C2H2O) 312.2301, Found 312.2286.
(ii-b)(13E,15S)-15-アセトキシ-12-オキソ-13-オクタデセン酸(16-S)の合成
化合物(14-S) 500mg(1.30mmol)をピリジン(15ml)と無水酢酸(7ml)に溶解したほかは、上記(ii-a)と同様の操作で(13E,15S)-15-アセトキシ-12-オキソ-1-テトラヒドロピラニルオキシ-13-オクタデセン(15-S)(523mg、1.27mmol、收率97.7%)を得た。
【0100】
得られた化合物(15-S)(502mg、1.19mmol)をアセトン(10ml)に溶解し、Jones試薬を褐色が保持されるまで滴下し、1.2時間室温で撹拌したほかは、上記(ii-a)と同様の操
作によって油状の(13E,15S)-15-アセトキシ-12-オキソ-13-オクタデセン酸((16-S)、459mg)を定量的に得た。
【0101】
[α]18D = -19.5°(c 1.00, EtOH).
なお、化合物(16-S)と(16-R)のNMRスペクトルは一致した。
(iii)(13E,15R)-15-ヒドロキシ-12,12-エチレンジオキシ-13-オクタデセン酸 (18-R)、(13E,15S)- 15-ヒドロキシ-12,12-エチレンジオキシ-13-オクタデセン酸 (18-S)の合成
【0102】
【化18】

【0103】
(iii-a)(13E,15R)-15-ヒドロキシ-12,12-エチレンジオキシ-13-オクタデセン酸 (18-R)の合成
化合物(16-R) 455 mgをベンゼン中(20 ml)、エチレングリコール (670 mg)とPPTS(300 mg)の存在下、48時間還流し、生成物を酢酸エチルと飽和食塩水で抽出し、有機層を飽
和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を溜去し、粗生成物((17-R)、515 mg)を得た。粗生成物(17-R)を5% 水酸化ナトリウム-65% エタノール溶液に溶解し、室温で2時間放置した後、2Nクエン酸でpH5に調整した。反応物を再度、酢酸エチルと飽和食塩水で抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、溶媒を溜去し、(13E,15R)-15-ヒドロキシ-12,12-エチレンジオキシ-13-オクタデセン酸
((18-R)、403 mg)を得た。
【0104】
IR νmax(film)cm-1: 3580, 3300, 2925, 2850, 1706, 1645, 1460, 1408, 1039.
NMR (CDCl3) δH: 0.93 (3H, t, J=7.2 Hz, H18), 1.24-1.41 (14H, m, H4-H9&H17), 1.44-1.71 (8H, m, H3, H10, H11&H16), 2.33 (2H, t, J=7.4 Hz, H2), 3.85-3.98 (4H, m,
H1'&H2'), 4.16 (1H, q, J=6.4 Hz, H15), 5.56 (1H, d, J=15.5 Hz, H13), 5.82 (1H,
dd, J=6.1, 15.5 Hz, H14). δC: 13.98, 18.57, 23.42, 24.69, 28.98, 29.13, 29.31,
29.34, 29.45, 29.70, 33.94, 38.45, 39.43, 64.55, 71.78, 109.00, 130.04, 134.00,
178.96. HR-MS m/z: Calcd. for C20H36O5 (M+) 356.2563, Found 356.2572.
(iii-b)(13E,15S)- 15-ヒドロキシ-12,12-エチレンジオキシ-13-オクタデセン酸 (18-S)の合成
化合物(16-S)を使用したほかは上記(iii-a)と同様の操作を経て、粗生成物((17-S
)、517mg)を得た。この粗生成物(17-S)517mgを5% 水酸化ナトリウム-65% エタノール溶液に溶解し2時間室温で撹拌したほかは、上記(iii-a)と同様の後処理によって、(13E,15S)- 15-ヒドロキシ-12,12-エチレンジオキシ-13-オクタデセン酸((18-S)、400mg)を得た。
【0105】
化合物(18-S)のNMRスペクトルは化合物(18-R)と一致した。
(iv)(13E,15R)-(+)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド(20-R)、(13E,15S)-(-)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド(20-S)の合成
【0106】
【化19】

【0107】
(iv-a)(13E,15R)-(+)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド(20-R)の合成
化合物(18-R)250 mgを、山口法を適用して、12,12-エチレンジオキシ-15-オリド (19-R)に変換した。すなわち、先の反応により得た化合物(18-R)250mg(0.701mmol)の無
水THF(7ml)溶液に、窒素気流下でEt3N(215μl, d=0.73, 1.54mmol, 2.2eq.)及び2,4,6-
トリクロロベンゾイルクロライド(219μl, d=1.56, 1.40mmol, 2.0eq.)を加え、室温で
3時間撹拌した。乾燥ベンゼン(20ml)を加えて静置後、上清を集め、これを窒素気流中、ベンゼン(250ml)を入れた滴下ロートに移して希釈した。
【0108】
この溶液を、4-DMAP(856mg,7.01mmol,10eq.)を溶解させ70℃に加温した乾燥ベンゼン(50ml)溶液に5時間かけてゆっくり滴下し、滴下終了後、更に1時間撹拌した。反応液を飽
和クエン酸水(2回)、飽和食塩水、飽和NaHCO3水(2回)、飽和食塩水(2回)で順次洗浄後、MgSO4で乾燥、減圧下濃縮して黄色油状物(329mg,粗収率138%)を得た。シリカ
ゲルカラム(3.5g)で精製して無色油状のラクトン化合物(19-R)(126mg、收率53.2%)を純粋に得た。
【0109】
Rf:0.54(5:1); [α]22D= +21.3°(c 2.00, EtOH) HR-MS m/z: Calcd. for C20H34O4 (M+) 338.2457, Found 338.2424]
ついで、化合物(19-R)116mg(0.342mmol)を0.7% PPTSを含有した75%エタノール
に溶解し、50℃ で8時間攪拌し、(13E,15R)-(+)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド
((20-R)、78 mg、收率70.3%)を得た。
【0110】
[α]22D= +31.4°(c 2.00, CHCl3) mp. 56.5-58.0℃ (ヘキサン) IR νmax(nujol)cm-1: 2925, 2852, 1733, 1692, 1670, 1627, 1458, 1350, 1243. NMR (CDCl3) δH: 0.93 (3H, t, J=7.4 Hz, H18), 1.20-1.42 (14H, m, H4-H9&H17), 1.60-1.76 (6H, m, H3, H10&H16), 2.32-2.44 (3H, m, H2&H11), 2.61 (1H, dt, J=13.2, 7.4 Hz, H11
), 5.47 (1H, dt, J=6.1, 6.9 Hz, H15), 6.28 (1H, dd, J=1.0, 16.0 Hz, H13), 6.69 (1H, dd, J=5.8, 16.0 Hz, H14). δC: 13.76, 18.34, 24.67, 25.10, 26.47, 26.64, 27.19, 27.40, 27.50, 27.92, 34.39, 35.89, 39.81, 72.36, 129.26, 143.71, 172.97, 201.53. HR-MS m/z: Calcd. for C18H30O3 (M+) 294.2195, Found 294.2178.
(iv-b) (13E,15S)-(-)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド(20-S)の合成
化合物(18-S)を用いたほかは、上記(iv-a)と同様の操作によって、(13E,15S)-12,12-エチレンジオキシ-13-オクタデセン-15-オリド(19-S)を得た(収率54.2%)。
【0111】
[α]19D= -21.8°(c 2.00, EtOH)
さらに化合物(19-S)を用いた他は上記(iv-a)と同様の方法により、(13E,15S)-(-)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド(20-S)を得た(収率78.4%)。
【0112】
[α]20D= -33.3°(c 2.00, CHCl3) mp. 56.0-58.0℃ (ヘキサン)
なお、化合物(20-S)のNMRスペクトルは、化合物(20-R)と一致した。
[合成例3]
<(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカノール、(S)-1-(2-オキシシクロペン
チリデン)-2-デカノール((23-R)、(23-S))の合成>
(i)2-ブロモデカナール(25)の合成
【0113】
【化20】

【0114】
デカナール(24)5gをエーテル500mlに溶解し、室温で臭素1.1当量を加え約1時間撹拌
した(臭素が残っているときは撹拌に1.5〜2.0時間を要した。反応が進まないときはHBr
液1mlを加えた。)。大量の水を反応液に加えエーテル層を洗浄した後、亜硫酸水素ナト
リウム、飽和食塩水の順序で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。エーテルを減圧溜去してブロモデカナール(25)を得た。
【0115】
(ii)(R)-2-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ]デカナール(26-R)、(S)-2-[(R)-O-MEM-マン
デリルオキシ]デカナール(26-S)の合成
【0116】
【化21】

【0117】
(R)-O-MEM-マンデル酸ナトリウム塩(1.1当量)をDMF-HMPA混合溶液(3:2)に加え、55
℃で1.5時間、窒素気流中で撹拌し、該塩のほぼ2/3が溶解した懸濁液とし、2-ブロモデカナール(25)1当量を一度に加えて1時間加温した。反応物を、エーテルと飽和食塩水の混合系に加えて抽出し、エーテル層を2N塩酸、重曹水、食塩水の順序で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥した後、エーテルを溜去して粗生成物を得た(収率99%)。この粗生成物
に対し、約20倍量のシリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶媒ヘキサン:酢酸エチル=3:1、続いて2:1)を用いて分離精製し、(R)-(-)-2-[(R)-O-MEM-マンデ
ロイロキシ]デカナール ((26-R)、収率36.1%、92%ee)と(S)-(-)-2-[(R)-O-MEM-マン
デロイロキシ]デカナール((26-S)、収率38.4%、96%ee)を得た。これらの光学純度はNMRスペクトル上のアルデヒド基水素の面積比に基づいて測定した。
【0118】
(26-R): 1HNMR (CDCl3) δ : 0.88 (3H, t, J=7.1 Hz, H10), 1.24-1.34 (12H, m, H4-H9), 1.72 (1H, bhex, J=7.7 Hz, H3), 1.79 (1H, m, H3), 3.37 (3H, s, H6'), 3.51 (2H, m, H5'), 3.70 (1H, ddd, J=11.0, 5.4, 3.9 Hz, H4'), 3.80 (1H, ddd, J=11.0, 5.5, 3.8 Hz, H4'), 4.82 (1H, d, J=7.1 Hz, H3'), 4.91 (1H, d, J=7.1 Hz, H3'), 5.00
(1H, dd, J=8.2, 4.8 Hz, H2), 5.34 (1H, s, H2'), 7.33-7.42 (3H, m, H9'-H11'), 7.49 (2H, dd, J=7.8, 1.6 Hz, H8'&H12'), 9.31 (1H, d, J=0.5 Hz, H1) 13C NMR (CDCl3) δ : 14.08 (C10), 22.3 (C9), 24.73 (C4), 28.77 (C7), 29.12 (C6), 29.17 (C5), 29.24 (C3), 31.81 (C8), 58.97 (C6'), 67.63 (C4'), 71.66 (C5'), 76.73 (C2'), 78.90 (C2), 94.24 (C3'), 127.45 (C9'&C11'), 128.71 (C8'&C12'), 128.93 (C10'), 135.92 (C7'), 170.59 (C1'), 197.89 (C1) [α]D = -15.3°(c 0.60, EtOH ) HR-MS m/z : Calcd. for C22H34O6 (M+) 394.2356, measured 394.2386
(26-S): 1H NMR (CDCl3) δ : 0.88 (3H, t, J=7.2 Hz, H10), 1.07-1.23 (10H, m, H5-H9), 1.27 (2H, quint, J=6.8 Hz, H4), 1.64 (1H, m, H3), 1.70 (1H, m, H3), 3.37
(3H, s, H6'), 3.51 (2H, m, H5'), 3.69 (1H, ddd, J=11.0, 5.8, 3.6 Hz, H4'), 3.81
(1H, ddd, J=11.0, 5.0, 3.5 Hz, H4'), 4.82 (1H, d, J=7.1 Hz, H3'), 4.89 (1H, d, J=7.1 Hz, H3'), 4.99 (1H, dd, J=8.9, 4.4 Hz, H2), 5.36 (1H, s, H2'), 7.32-7.40 (3H, m, H9'-H11'), 7.48 (2H, dd, J=7.7, 1.6 Hz, H8'&H12'), 9.52 (1H, d, J=0.5 Hz,
H1) 13C NMR (CDCl3) δ : 14.10 (C10), 22.63 (C9), 24.47 (C4), 28.61 (C7), 28.95 (C6), 29.04 (C5), 29.17 (C3), 31.81 (C8), 58.98 (C6'), 67.65 (C4'), 71.65 (C5'), 76.58 (C2'), 78.75 (C2), 94.21 (C3'), 127.49 (C9'&C11'), 128.70 (C8'&C12'), 128.92 (C10'), 136.00 (C7'), 170.54 (C1'), 197.97 (C1)
[α]D = -61.7°( c 0.60, EtOH ) HR-MS m/z : Calcd. for C21H26O5 (M+- CH3OH−2H2) 358.1780, measured 3581788
(iii)シクロペンタノンと(R)-2-[(R)-O-MEM-マンデリルオキシ]デカナール、(S)-2-[(R)-O-MEM-マンデリロキシ]デカナール((26-R)、(26-S))との反応
【0119】
【化22】

【0120】
シクロペンタノン((21)、0.583mmol、49mg)をTHF(1ml)中でLDA(ジイソプロピルア
ミン0.76mmol(76.5mg)とn-BuLi 0.76mmol(48.6mg)とからTHF 1ml中で調製) 0.76mmolを用いてエノール化した(-78℃、20min)。この液に、(S)-2-[(R)-O-MEM-マンデリロキ
シ]デカナール((26-R), 0.641 mmol, 235mg)をTHF(2ml)溶液とし-78℃に冷却して加
えた。そのまま30分間放置し、酢酸(1ml)を加えて反応を停止し、酢酸エチルで反応物
を抽出した。酢酸エチル層を2N塩酸、重曹水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を溜去してアルドール反応物(22-R)を定量的に得た。
【0121】
また、(S)-2-[(R)-O-MEM-マンデリロキシ]デカナール(26-S)を使用したほかは上記と同様の操作によりアルドール反応物(22-S)を定量的に得た。
(22-R): NMR (CDCl3+D2O) δHC]: 3.61 (1H, dd, J1-1'=8.1 Hz, J1-2=3.6 Hz, 1), 4.91 (1H, brdt, J1'-2'=3.6, J2'-3'=9.8 & 2.6 Hz, 2). δC: 50.773(2), 72.862(1), 76.512(2), 170.528(COO), 222.615(CO). Precise MS m/z: Calcd for C24H34O5 (M+-CH3OCH2CH2OH): 402.2406; Measured, 402.2408.
(22-S): NMR (CDCl3) δH : 3.868(1H, dd, J1-1'=8.3, J1-2=3.0 Hz, 1), 4.808 (1H, dt, J2-3=10.1 & 2.7 Hz, J1-2=3.0 Hz, 2). δC: 73.10 (1), 76.35 (2), 170.81 (COO), 222.87 (CO). Precise MS m/z: Calcd. for C24H34O5 (M+-CH3OCH2CH2OH): 402.2408; Measured, 402.2406.
(iv)(R)-1-(2-オキシシクロペンチリデン)-2-デカノール、(S)-1-(2-オキシシクロ
ペンチリデン)-2-デカノール((23-R)、(23-S))の合成
【0122】
【化23】

【0123】
上記アルドール反応物((22-R), 284mg, 0.63 mmol)を混合溶媒(DMF 12 ml+HMPA 8 ml)中で、酢酸ナトリウム(5g)と窒素気流中、65〜70℃で24時間撹拌した。反応液を酢酸エチルと飽和食塩水の混合系中に入れ、反応物を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を2N塩
酸、重曹水、飽和食塩水の順序で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を溜去し、油状反応物(128mg、NMR分析で88%純度)を得た。得られた油状反応物を分取用薄層クロ
マトグラフィーで精製し(ヘキサン:酢酸エチル=3:1、3回展開)、純粋な(R)-1-(2-オキ
ソシクロペンチリデン)-2-デカノール((23-R)、68.3 mg, 収率44%)を得た。
【0124】
[α]D=-19.3°(c=0.88, EtOH)
また、アルドール反応物(22-S)を使用したほかは、上記と同様の操作により、(S)-1-(2-オキソシクロペンチリデン)-2-デカノール((23-S)、83 mg, 収率51%)を得た。
【0125】
[α]D=+20.7°(c=1.76, EtOH)
化合物(23-R)および(23-S)をMTPAエステルとして光学純度を測定したところそれぞれ、89% eeと94% eeであった。
【0126】
23-R MTPAエステル;
δH 6.24 (dt, J=8.9, 2.8 Hz, H1 : enantiomer), 6.35 (dt, J=9.0, 2.7 Hz, H1)。6.24ppmに出現するシグナルはS-異性体に基づくシグナルであり、6.35ppmのシグナルとの積分比から光学純度は89%であった。
【0127】
23-S MTPAエステル:
6.24ppmに出現するシグナルと6.35ppmに出現するシグナル(enantiomer)との積分比から、光学純度は94%であった。
【0128】
MTPAエステルの調製:
茄子型フラスコに化合物 (23-R) (10 mg, 1.0 eq., 0.042 mmol)、ピリジン (0.2 ml) を入れよく溶解し、(S)-(+)-α-メトキシ-α-(トリフルオロエチル)フェニルアセチル-クロライド [(S)-(+)-MTPA-Cl] (119.4 mg, 7.0 eq., 0.4 mmol, d=1.35) を加え密栓を
し、室温で一晩撹拌した。反応溶液に氷水を加え反応を停止し、酢酸エチルと飽和食塩水とで抽出した。酢酸エチル層を 2N 塩酸,飽和炭酸水素ナトリウム溶液,飽和食塩水で順次洗浄した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、減圧濃縮し、(R)-2-[(R)-O-MTPA]-1-(2-オキソシクロペンチリデン)-2-デカノール (15.0 mg, 0.033 mmol,
粗収率78.0 %) を得た。
【0129】
1H NMR (CDCl3) d : 0.88 (3H, t, J=7.0 Hz, H10), 1.13-1.38 (12H, m, H4-H9), 1.59 (1H, m, H3), 1.76 (1H, m, H3), 1.99 (2H, m, H4'), 2.36 (2H, dt, J=8.1, 7.9 Hz,
H3'), 2.61 (1H, dt, J=7.8, 2.7, 17.2 Hz, H5'), 2.90 (1H, m, H5'), 3.52 (3H, s, H9'), 5.53 (1H, ddd, J=8.7, 8.0, 6.3, 5.5 Hz, H2), 6.24 (0.12H, dt, J=8.9 Hz, H1
: enantiomer), 6.34 (1H, dt, J=9.0, 2.7 Hz, H1), 7.29-7.42 (3H, m, H12'-H14'), 7.42-7.54 (2H, m, H11'&H15')
13C NMR (CDCl3) d : 14.08 (C10), 19.73 (C4'), 22.63 (C9), 24.64 (C7), 27.08 (C5'), 29.11 (C6), 29.14 (C5), 29.31 (C4), 31.80 (C8), 33.53 (C3), 38.26 (C3'), 55.53 (C9'), 74.51 (C2), 125.91 (C8'), 127.22 (C13'), 128.43 (C12'&C14'), 129.64 (C11'&C15'), 129.66 (C1), 132.30 (C10'), 139.95 (C1'), 166.12 (C6'), 207.08 (C2')
23-S MTPAエステル 粗収率 81%:NMR
1H NMR (CDCl3) d : 0.88 (3H, t, J=7.0 Hz, H10), 1.11-1.26 (11H, m, H4&H5-H9), 1.26-1.38 (1H, m, H4), 1.61 (1H, m, H3), 1.80 (1H, m, H3), 1.96 (2H, m, H4'), 2.35 (2H, q, J=8.2 Hz, H3'), 2.54 (1H, dt, J=7.8, 2.8, 16.1 Hz, H5'), 2.87 (1H, m,
H5'), 3.53 (3H, s, H9'), 5.51 (1H, dt, J=14.5, 6.8 Hz, H2), 6.24 (1H, dt, J=8.9, 2.8 Hz, H1), 6.35 (0.06H, dt, J=9.0, 2.8 Hz, H1 : enantiomer), 7.28-7.42 (3H, m, H12'-H14'), 7.46-7.67 (2H, m, H11'&H15')
13C NMR (CDCl3) d: 14.07 (C10), 19.74 (C4'), 22.63 (C9), 24.90 (C7), 27.08 (C5')
, 29.15 (C6), 29.24 (C5), 29.36 (C4), 31.80 (C8), 33.51 (C3), 38.22 (C3'), 55.50
(C9'), 74.71 (C2), 84.60 (C7'), 124.41 (C8'), 127.32 (C13'), 128.42 (C12'&C14'), 129.68 (C11'&C15'), 129.70 (C1), 132.12 (C10'), 139.97 (C1'), 166.19 (C6'), 206.97 (C2')
[実施例1]
<アポトーシス誘導活性試験>
ヒト白血病細胞株HL-60を10%ウシ胎児血清添加RPMI1640培地に加え、1×105個/mlの細胞懸濁液を調製し、これを100μLずつ、96ウエル培養用マイクロプレートの各ウエルに注入し、37℃の炭酸ガス培養器中で4時間培養後、合成例1〜3で合成した化合物1〜6の
溶液を10.0μΜ(但し、化合物3(20-S)と化合物4(20-R)は10.5μM)濃度になるようにそれぞれ個別のウエルに添加し、さらに2時間または4時間培養した。なお、上記化合物1〜6の溶液としては、化合物1〜6をそれぞれ予めジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解後、RPMI1640培地を加えて調製した、1mM溶液(90%DMSO)を使用した。
【0130】
また、上記化合物1〜6の溶液にかえて、陽性対照としてカンプトテシン((S)-(+)-Camptothecin、Mw348.4、Sigma-Aldrich)を使用し、10μg/mLとなるようにウエルに添加した他は上記と同様にして、2時間または4時間培養したものを準備し、また、陰性対照として溶媒(DMSO)のみをウエルに添加し他は上記と同様にして、2時間または4時間培養したものを準備した。
【0131】
培養後、細胞を回収し、回収した細胞に2%グルタールアルデヒド溶液を100μL加え、4
℃で一晩固定後、PBS(-)溶液20μLに浮遊させ、10μg/mLの4', 6-ジアミニジン-2-フェニルインドール ジヒドロクロライド(DAPI、ベーリンガーマンハイム)溶液を2μL添加し
、蛍光染色された核の形態を蛍光顕微鏡により観察した。
【0132】
103個の細胞を観察し、クロマチンが凝集を引き起こしている細胞を計数し、観察した
細胞個数(103個)に占めるクロマチン凝集細胞の割合(%)をアポトーシス誘導活性(
%)とした。
【0133】
その結果を表1に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
表1より、化合物1〜6添加群のアポトーシス誘導活性は2時間接触培養の場合で19.9〜32.4%、4時間接触培養の場合で40.7〜52.2%であり、陰性対照と比較して強力なアポトーシス活性を有することが認められた。また、陽性対照のカンプトテシン(10μg/mL)添加群の場合には、アポトーシス誘導活性は、2時間接触培養で23.7%(実験I
)および29.5%(実験II)、4時間接触培養で59.5%(実験I)および60.0%(実験II
)であり、化合物1〜6添加群は陽性対照群に比し、やや低めないしはほぼ同等の活性を
有することが認められた。
【0136】
次に、正常細胞である健常ヒト末梢血由来単核球(PBMC)のアポトーシス誘導に及ぼす作用を検討した。
すなわち、へパリン入り真空採血管を用いて、健常ヒト男子の静脈から、末梢血液20mLを採取し、試験管に分注、遠心分離(1300 rpm、10分、25℃)によりBuffy coat画分(血漿層と細胞層の中間層)を分離した。
【0137】
この画分に培地(10%ウシ胎児血清添加RPMI1640培地)を加えて、予めFicoll-Paque液(アマシャムバイオサイエンス、東京)4mLを入れた試験管の液表面上に層を形成するよ
うに静かに注ぎ入れ、遠心分離(1300 rpm、30分、25℃)した。
【0138】
生成した細胞層(培地層とFicoll-Paque層との中間層)を回収し、この細胞に培地を加えて遠心分離し、細胞洗浄した。
この洗浄操作を3回繰り返すことにより、PBMCを得た。
【0139】
得られたPBMCに10%ウシ胎児血清添加RPMI1640培地を加え、2×105個/mlの細胞懸濁液
を調製し、これを200μLずつ、96ウエル培養用マイクロプレートの各ウエルに注入し、37℃の炭酸ガス培養器中で4時間培養後、合成例1〜3で合成した化合物1〜6の溶液を10.
0μM(但し、化合物3(20-S)と化合物4(20-R)は10.5μΜ)濃度になるようにそれ
ぞれ個別のウエルに添加し、さらに2時間培養した。
【0140】
使用した各化合物溶液および陽性対照のカンプトテシン溶液の調製方法、培養方法およびアポトーシス評価方法は、HL-60の場合と同じである。
その結果を表2に示す。
【0141】
【表2】

【0142】
表2より、PBMCに対する化合物1〜6添加群のアポトーシス誘導活性は2.0〜3.4%であり、陽性対照カンプトテシンの17.5%に比べ、明らかに低値であった。
したがって、表1のHL-60の場合との比較で、化合物1〜6は癌細胞に選択的に作用し
てアポトーシスを誘導することが示された。
【0143】
[実施例2]
<HL-60細胞に対する72時間接触培養時の増殖抑制活性試験>
ヒト白血病細胞株HL-60を10%ウシ胎児血清添加RPMI1640培地に加え、1×105個/mlの細胞懸濁液を調製し、これを100μLずつ、96ウエル培養用マイクロプレートの各ウエルに注入し(n=3)、37℃の炭酸ガス培養器中で4時間培養後、実施例1と同様にして予め調製
した化合物1〜6の溶液100μLをそれぞれ個別のウエルに添加し(最終濃度10.0μM、但し、化合物3(20-S)と化合物4(20-R)は10.5μM)、37℃の炭酸ガス培養器中で更に72時間培養した。
【0144】
また陰性対照として、溶媒(DMSO)のみをウエルに添加し他は上記と同様にして培養したものを準備した。なお、DMSO濃度は上記すべてのウエルで1%になるように調整した。
また、これとは別に、対照として何も添加しないほかは上記と同様にして培養したものを準備した。
【0145】
次いで、細胞増殖検出試薬WST-1(同仁化学研究所)を20μL/200μL加え、更に3時間培養の後、プレートリーダーを用いて吸光度(450nm-630nm)を測定した。
その結果を表3に示す。
【0146】
【表3】

【0147】
表3より、化合物1〜6添加群の吸光度は0〜0.02であり、HL-60細胞の増殖を明らかに抑制したことが認められた。
[実施例3]
<HL-60細胞に対する24時間接触培養時の増殖抑制活性試験>
実施例1と同様にして調製した化合物1〜6の溶液を90%DMSO溶液で段階希釈し、実施
例2と同様の方法にて、細胞懸濁液2×105個/mlを200μLずつ加えたマイクロプレートの
各ウエルに添加し(n=3)、37℃の炭酸ガス培養器で24時間培養した後、吸光度(450nm-630nm)を測定し、増殖抑制率(%)および50%増殖阻止濃度(IC50)を算出した。
【0148】
なお、増殖抑制率(%)は、化合物濃度0のときの吸光度0.53を増殖抑制率0%として、これを基準にして求めた。また、50%増殖阻止濃度(IC50)は、増殖抑制率が50%となるときの化合物濃度として算出した。
【0149】
結果を表4、表5に示す。
【0150】
【表4】

【0151】
【表5】

【0152】
[実施例4]
<PBMCに対する48時間接触培養時の増殖抑制試験>
実施例1と同様にして調製した化合物1〜6の溶液を90%DMSO溶液で段階希釈し、実施
例1と同様の方法にて、PBMC懸濁液2×105個/200μLを、マイクロプレートの各ウエルに
添加し(n=3)、37℃の炭酸ガス培養器で48時間培養した。
【0153】
比較のため、前記実施例と同様の方法で調製したHL-60 細胞2×104 cells/200μLを、PBMCの代わりに用いた実験群を設けた。
培養終了8時間前に、3H-チミジン(アマシャムバイオサイエンス)1μCiを各ウエルに加えた。
【0154】
培養終了後、細胞をグラスフィルター上に回収し、PBSで洗浄した。
フィルターを乾燥した後、細胞に取り込まれた放射能を、液体シンチレーションカウンターを用いて測定した。
【0155】
さらに、放射能を指標に、抑制率(%)および50%阻止濃度(IC50)を算出した。なお、抑制率(%)は、化合物濃度0のときの放射能43,490dpmおよび46,407dpmを抑制率0%として、これを基準にして求めた。また、IC50は、抑制率が50%となるときの化合物濃度として算出した。
【0156】
結果を表6、表7に示す。なお、表6の上段の数値はPBMCの、下段のそれはHL-60の放
射能取り込みを示す(n=3の平均値)。
【0157】
【表6】

【0158】
【表7】

【0159】
表6に示すように、PBMCの3H-チミジン取り込み量に及ぼす添加化合物群の抑制作用は
、白血病細胞HL-60よりも明らかに低く、また、表7に示すように、添加化合物群のPBMC
に対するIC50はHL-60に対するそれよりも高値を示した。
【0160】
したがって、これらの結果は、化合物1〜6が、正常細胞よりも、癌細胞に選択的に作用していることを支持するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物を有効成分として含有することを特徴とするアポトーシス誘導剤:
【化1】

(式(1)中、Rは炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。)。
【請求項2】
下記式(2)で示される化合物を有効成分として含有することを特徴とするアポトーシス誘導剤:
【化2】

(式(2)中、YはOR1又はSR1を表し、R1は水素原子又は炭素原子数1〜6のアル
キル基を、mは1〜3の整数を表す。)。
【請求項3】
前記式(1)において、nが1または3であることを特徴とする請求項1に記載のアポトーシス誘導剤。
【請求項4】
前記式(1)で示される化合物が、(11E,13R)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド
、(11E,13S)-10-オキソ-11-オクタデセン-13-オリド、(13E,15R)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリド、(13E,15S)-12-オキソ-13-オクタデセン-15-オリドからなる群より選ば
れる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載のアポトーシス誘導剤。
【請求項5】
前記式(2)において、YがOR1であり、R1が水素原子であることを特徴とする請求項2に記載のアポトーシス誘導剤。
【請求項6】
前記式(2)で示される化合物が、(R)-1-(2-オキソシクロペンチリデン)-2-デカノ
ール、(S)-1-(2-オキソシクロペンチリデン)-2-デカノールからなる群より選ばれる少
なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項2に記載のアポトーシス誘導剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載されたアポトーシス誘導剤を含有することを特徴とする医薬。
【請求項8】
抗腫瘍剤であることを特徴とする請求項7に記載の医薬。


【公開番号】特開2007−314449(P2007−314449A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144668(P2006−144668)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(395000555)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】