説明

アポトーシス誘導物質

【課題】腫瘍細胞にアポトーシスを誘導する天然物由来のアポトーシス誘導物質の提供。
【解決手段】アスコフィラム ノドサム抽出物を使用する。この抽出物はキシロースとフコースを構成成分とする水溶性多糖、ポリフェノール、クロロフィルCなどからなる。本アポトーシス誘導物質はアポトーシス誘導能を有する食品の製造、更に、医薬の分野においても利用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍細胞にアポトーシスを誘導する天然物由来のアポトーシス誘導物質、より詳しくはアスコフィラム ノドサム(Ascophyllum nodosum)由来のアポトーシス誘導物質に関するものである。本発明のアポトーシス誘導物質はアポトーシス誘導能を有する食品の製造に使用し得る。更に、本発明のアポトーシス誘導物質は医薬の分野においても利用し得る。
【背景技術】
【0002】
現在、日本人の死亡の三分の一近くは癌が原因となっており、癌による死亡者数は年々増加している。病院で行われている癌治療は、手術、化学療法、放射線治療を中心にしたものであるが、化学療法により抗癌剤を使用した場合、正常な細胞にも損傷を与えてしまうという問題点があった。
【0003】
そもそも、癌細胞では、正常細胞とは異なり、増殖の抑制が行われなくなり、無秩序な異常増殖が行われる。癌は、いわば、アポトーシスの誘導ができないために発生する疾患であり、アポトーシスを誘導することにより治療できる疾患であると考えられている。
【0004】
このような背景から、日常食べている食品中から安全性が高く、癌細胞に対して効果的にアポトーシスを誘導する天然物由来の成分を得ることが望まれている。
【0005】
海藻由来のアポトーシス誘導物質として、特開2002-20403号公報には海藻の水抽出物を分子量の差に基づいて分画して得られる多糖が記載されている。しかしながら、同公報に記載される多糖はこれを構成する糖の比率が後記するごとき本発明のアポトーシス誘導物質を構成する多糖と明らかに相違する。また、特開2001-31585号公報には海藻を有機溶媒で抽出した画分がアポトーシス誘導能を有することが記載されている。しかしながら、同公報には本発明のアポトーシス誘導物質を構成する褐藻類特有の色素クロロフィルCにアポトーシス誘導活性があることは記載されていない。
【特許文献1】特開2002-20403号公報
【特許文献2】特開2001-31585号公報
【非特許文献1】Seaweed Resources of the word 205-209 1998
【非特許文献2】Proc Int Seaweed Symp 5th, Larsen B, 287-294, 1965
【非特許文献3】Acta Chemica Scandinavia, 20, 219-230, Larsen B,1966
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した通り、癌治療は、手術、化学療法、放射線治療を中心にしたものが主であり、抗癌剤を用いた治療では、癌細胞のみならず正常細胞にも損傷を与えてしまうという問題点があった。そのような背景から、安全性が高くしかも癌細胞に効果的なアポトーシス誘導物質が望まれている。
【0007】
本発明は、海藻からアポトーシス誘導能が高く、且つ安全性の高い成分を見出し、癌の予防および治療に利用し得るアポトーシス誘導物質を提供することを目的とするものである。また、本発明のアポトーシス誘導物質は、前記した通り、健康食品の製造にも利用し得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、天然物からアポトーシス誘導活性があり、且つほとんど毒性のない化合物の探索を行ってきた。その結果、天然物の中でも海藻類はアポトーシス誘導能が強いことが明らかになった。
【0009】
更に、本発明者らは、海藻の中でも、アスコフィラム ノドサムの抽出物はアポトーシス誘導能が特に高いことを見出した。更に、ヒトリンパ球を用いた安全性試験で安全性を確認し、本発明を完成させた。
【0010】
従って、本発明によれば、アスコフィラム ノドサムの抽出物からなるアポトーシス誘導物質が提供される。
【0011】
アスコフィラム ノドサムは、北欧の海岸一帯に繁殖する褐藻類の海藻であり、2mの長さにまで成長する大型の海藻である。この海藻は、従来、主な用途として、家畜の飼料に用いられ、又、アルギン酸の抽出原料として用いられてきたものである(Seaweed Resources of the word 205-209 1998参照)。
【0012】
このアスコフィラム ノドサムには特有の多糖アスコフィラン(ascophyllan)が存在し、その部分加水分解物の構造が3-O-キシリシル-フコースであることが示されている。また、電気泳動においてフコイダンとは異なることが示されている(Proc Int Seaweed Symp 5th, Larsen B, 287-294, 1965参照)。また、アスコフィラム ノドサムの多糖の分画中に、280nm付近に強い吸収を持つ茶色の色素の存在が示されている(Acta Chemica Scandinavia, 20, 219-230, Larsen B,1966参照)。しかしながら、これら2種類の物質については生化学的な評価はほとんど行われておらず、これらの物質を含有するアスコフィラム ノドサム抽出物が優れたアポトーシス誘導活性を有するということは、本発明者の新知見によるものである。以下においては、本発明について更に詳述する。
【0013】
本発明は、前記した通り、アスコフィラム・ノドサムの抽出物からなるアポトーシス誘導物質に関する。
【0014】
アスコフィラム ノドサムの抽出物は、キシロースとフコースの比が1:1〜2.5である水溶性多糖を含有し得る。
【0015】
また、アスコフィラム ノドサムの抽出物はポリフェノールを含有し得る。
【0016】
更に、アスコフィラム ノドサムの抽出物はクロロフィルCを含有し得る。
【0017】
更に、アスコフィラム ノドサムの抽出物は上記した物質の2種又はそれ以上を含有し得る。
【0018】
ここで抽出物とは、水を用いて得られた抽出物であることが好ましいが、熱水抽出物でもよい。熱水抽出物のように自然に近い状態であれば、安全性においても問題がなく使用できる。また、精製・単離の操作等が省かれる。このように、アスコフィラム ノドサムから抽出された熱水抽出物は、アポトーシス誘導活性を有する。
【0019】
前記した水溶性多糖は、粗抽出物でもよいが、アルギン酸が低減されたものが好ましい。この水溶性多糖の構成糖の特徴はキシロースとフコースの比が1:1〜2.5であり、アスコフィラム ノドサムに特有の多糖アスコフィラン(ascophyllan)を包含しているものと考えられる。この水溶性多糖はアポトーシス誘導活性を有する。
【0020】
前記したポリフェノールはアスコフィラム ノドサムを熱水抽出することにより多糖類と共に得られる褐色物質である。このポリフェノールは有機溶媒を使用しても取り除かれることはなく、また、透析等の操作を行っても除かれることは無い。このポリフェノールもアポトーシス誘導活性を有する。
【0021】
前記したクロロフィルCは、単離してもよいが、安定した形で存在する状態が好ましい。このクロロフィルCもアポトーシス誘導活性を有する。
【0022】
発明の実施の形態
本発明のアポトーシス誘導物質を製造するに当たっては、アスコフィラム ノドサムの藻体を乾燥し、粉末化したものを原料として使用できる。その組成は、蛋白質5〜10%、炭水化物45〜60%、灰分17〜20%、脂質2〜4%、水分10〜12%というのが平均的なものである。
【0023】
アポトーシス誘導活性を示すアスコフィラム ノドサム抽出物の抽出は次のように行われる。アスコフィラム ノドサム乾燥粉末に、水を加えて加熱しながら一定時間撹拌する。続いて、遠心分離、ろ過を行い上清を得る。得られた上清を減圧濃縮を行い濃縮する。得られた濃縮液は、凍結乾燥を行い凍結乾燥粉末にしてもよい。また、透析、限外濾過等の工程を含ませ、脱塩操作を行ってもよい。
【0024】
アポトーシス誘導活性を示すアスコフィラム ノドサム抽出物の水溶性多糖は、エタノールを用いて沈殿させることにより得られる。すなわち、アスコフィラム ノドサム熱水抽出物を水に溶解し、エタノールを滴下することにより多糖を沈殿させる。このとき、塩化ナトリウムのような塩を加えることにより沈殿が形成しやすくなる。このようにして得られる水溶性多糖は、アルギン酸を含有しているが、この物質は公知の方法で取り除くことができる。すなわち、得られたアスコフィラム ノドサム抽出物を塩化カルシウム溶液と混合することにより、カルシウム塩となったアルギン酸を除くことができる。得られた上清を透析することにより、アルギン酸を除去した水溶性多糖画分を得ることができる。
【0025】
アポトーシス誘導活性を示すアスコフィラム ノドサム抽出物のポリフェノールは、次のようにして分離される。すなわち、アスコフィラム ノドサム熱水抽出物をゲルろ過クロマトグラフィーにより分離する。使用する担体は特に限定はないが、ファルマシア社製のセファデックス(sephadex)シリーズ、特にG200が適当である。ゲルろ過クロマトグラフィーを行うことにより、高分子である水溶性多糖と、低分子であるポリフェノール成分を分離できる。
【0026】
アポトーシス誘導活性を示すアスコフィラム ノドサム抽出物のクロロフィルCの分離は次のようにして行われる。すなわち、アスコフィラム ノドサム有機溶媒抽出物をシリカゲルカラムに注入し、エーテル溶出、メタノール溶出を行う。得られた溶出物を薄層クロマトグラフィで分離する。分離した各画分を単離し、薄層クロマトグラフィーにより定性試験を行い、クロロフィルCを得ることができる。
【0027】
本発明のアスコフィラム ノドサム抽出物は、食品に添加するか又はカプセル、錠剤等の形態にすることにより、容易に摂取することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明はアスコフィラム ノドサムの抽出物からなるアポトーシス誘導物質に関するものであり、この抽出物は、安全性が高くしかも効果的なアポトーシス誘導活性を有する。このアポトーシス誘導物質はアポトーシス誘導能を有する食品の製造に利用し得る。
【実施例】
【0029】
以下においては、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
実施例1
熱水抽出物の作成
アスコフィラム ノドサム乾燥粉末10gに200mlの水を加え、90℃で60分間、抽出を行った。抽出後、この溶液を濾過し、得られた上清を濃縮し、凍結乾燥を行って3.07gの抽出物を得た。この抽出物をアスコフィラム ノドサム熱水抽出物とした。
【0031】
アポトーシス誘導能の評価
培養細胞としてヒト組織球性リンパ腫U937を用いた。培地として10%FBS(ウシ胎児血清)を含むRPMI1640(インビトロジェン社製培地)を使用し、ペニシリン及びストレプトマイシンを、それぞれ、100 units/ml、100μg/mlになるよう添加し、培養を行った。
【0032】
対数増殖期に入った細胞を、4.0×105cells/mlに調製し、細胞溶液を24ウエルプレートの1ウエルに1.0mlずつ分注し、上記で調製したアスコフィラム ノドサム抽出物を最終濃度が1,10,100μg/mlになるように添加した。37℃、5% CO2存在下で培養を行い、4日間培養を行った。
【0033】
細胞の生死判定はトリパンブルー細胞分染法によって行った。即ち、100μlの細胞溶液と、等量の0.4%トリパンブルーを混合し、カバーグラスを密着させた血球計算盤の間に染み込ませた。顕微鏡を用いて1mm2の区画に含まれる細胞をカウンターを用いて測定した。その際、トリパンブルーで染色されない細胞を生細胞、トリパンブルーで染色された細胞を死細胞とした。増殖阻害率(%)は、コントロール細胞(被験物無添加)の増殖生細胞数に対する、被験物を添加した細胞の増殖生細胞数の百分率で表した。
【0034】
結果を表1に示した。この結果より、アスコフィラム ノドサム抽出物は癌細胞に対し、増殖阻害作用があることが確認され、その作用は添加濃度に依存し、ED50値(50%阻害率に必要な量)も34.6μg/mlと非常に低い値となった。
【表1】

【0035】
DNA断片化の検出
培養
培養細胞としてヒト組織球性リンパ腫U937を用いた。培地として10%FBSを含むRPMI1640を使用し、ペニシリン及びストレプトマイシンを、それぞれ、100 units/ml、100μg/mlになるよう添加し、培養を行った。対数増殖期に入った細胞を、3.0×105cells/mlに調整し、細胞溶液を24ウエルプレートの1ウエルに1.0mlずつ分注し、前記で調製したアスコフィラム ノドサム抽出物を最終濃度が1mg/mlになるように添加した。37℃、5% CO2存在下で培養を行った。
【0036】
DNAの抽出
2,3日間培養した細胞溶液を2mlチューブに移し、400gで5分間遠心分離し、上清を取り除いた。細胞溶解バッファー(50mM Tris-HCl pH7.8、10mM EDTA・4Na、0.5% ナトリウム-N-ラウロイルサルコシネート)を加えて、よく撹拌した。1μlのRNase溶液を加え、よく混和し50℃、30分間インキュベートした。1μlのプロテイナーゼ K溶液を加え、よく混和し、50℃、60分間インキュベートした。軽く遠心することによりチューブの壁面についた水滴を落とした後、アガロースゲル電気泳動のサンプルとした。
【0037】
アガロースゲル電気泳動
マイクロピペッターを用いて、2%アガロースゲルのウェルに試料を流し込み、100Vで泳動を行った。電気泳動終了後、UVトランスイルミネーター上でポラロイド写真を撮った。
【0038】
その結果を図1に示した。
【0039】
この結果から、アスコフィラム ノドサム抽出物を添加して培養した細胞は、DNAの断片化が起きていることが認められた。このことから、アスコフィラム ノドサム抽出物の癌細胞増殖阻害作用はアポトーシス誘導作用であることが確認された。
【0040】
正常リンパ球の採取
ペパリン溶液で処理した2.5mlシリンジで2ml採血を行った。採血した血液2mlを15mlチューブに入れ、PBSを2ml加えて計4mlにし、ピペッティングしてよく混合した。新しい15mlチューブにフィコール (ficoll-paque:
(Pharmacia社製、リンパ球分離溶液)を3ml入れ、前記で調製した血液溶液4mlを静かに重層した。20℃、400G、30分間の条件で遠心分離を行った。血漿層を取り除いた後、リンパ球層を取り、新しいチューブに移した。RPMI1640を入れ、8mlまでメスアップした。ピペッティングを行い、洗浄し、20℃、100G、10分間の条件で遠心分離を行った。この操作を2回繰り返すことにより、リンパ球を分離した。
【0041】
正常リンパ球を用いた安全性試験
培養細胞U937と、分離したリンパ球を1.5×106cells/mlに調製し、1mlずつ24ウエルプレートに移した。培地として10%FBSを含むRPMI1640を使用し、ペニシリン及びストレプトマイシンを、それぞれ、100 units/ml、100μg/mlになるよう添加した。また、アスコフィラム ノドサム熱水抽出物を、50、100、250μg/mlになるように添加した。37℃、5%CO2下において培養を行い、4日後にトリパンブルー染色法により細胞数を測定した。リンパ球の増殖阻害活性(%)は、コントロール細胞(被験物無添加)の増殖生細胞数に対する、被験物を添加した細胞の増殖生細胞数の百分率で表した。また、U937に対しても同様の算出法を用いており、U937についての表記はapoptosis activity(%)とした。
【0042】
結果を表2に示した。アスコフィラム ノドサム抽出物はU937に対してはアポトーシス誘導活性を示したが、正常リンパ球には影響を与えなかった。以上より、アスコフィラム ノドサム抽出物は、正常リンパ球にはほとんど影響を与えず、癌細胞にのみアポトーシスを誘導することが確認された。
【表2】

【0043】
実施例2
水溶性多糖の分離
アスコフィラム ノドサム乾燥粉末10gに500mlの水を加え、90℃で60分間抽出を行った。抽出後、この溶液を濾過し、得られた上清を濃縮し1%溶液に調整した。この1%溶液にエタノール濃度が80%(v/v)になるまでエタノールを添加し、多糖の沈殿を形成させた。沈殿は、遠心分離を行うことにより回収し、真空乾燥を行った。得られた沈殿は1.6gであった。
【0044】
水溶性多糖の構成糖分析
水溶性多糖の構成糖の解析を行った。方法は、得られた多糖を加水分解し、HPLCにより解析を行った。得られた糖はフコース、キシロース、マンノース、ガラクトース、グルコースであり、そのモル比は2.37:1:0.34:0.28:0.23であった。この結果より、フコースとキシロースが多糖の主な構成糖であることが判った。
【0045】
水溶性多糖のアポトーシス誘導能の評価
上記の方法によって得られた水溶性多糖のアポトーシス誘導能の評価を行った。
【0046】
培養細胞としてヒト組織球性リンパ腫U937を用いた。培地として、10%FBSを含むRPMI1640を使用し、ペニシリン及びストレプトマイシンを、それぞれ、100 units/ml、100μg/mlになるよう添加し、培養を行った。対数増殖期に入った細胞を、4.0×105cells/mlに調製し、細胞溶液を24ウエルプレートの1ウエルに1mlずつ分注し、水溶性多糖の最終濃度が10,50,100,250μg/mlになるように添加した。37℃、5% CO2存在下で培養を行い、4日間培養を行った。
【0047】
細胞の生死判定は前記したトリパンブルー細胞分染法によって行った。また、アポトーシス誘導活性(%)は、コントロール細胞(被験物無添加)の増殖生細胞数に対する、被験物を添加した細胞の増殖生細胞数の百分率で表した。結果を表3に示した。
【0048】
水溶性多糖は高いアポトーシス誘導活性を示した。ED50値は68.0μg/mlとなった。
【表3】

【0049】
実施例3
ポリフェノールの分離
アスコフィラム ノドサム抽出物に含まれる水溶性多糖とポリフェノール成分を分離するため、ゲルろ過クラマトグラフィーを行った。使用した担体はセファデックス G200(Pharmacia製品)であり、カラムは2.8×40cmのものを使用した。流速20ml/h、各分画量4.5mlで分画を行った。多糖はフェノール-硫酸法を行い、480nmの吸収を、蛋白質は280nmの吸収を測定した。その結果を図2に示す。
【0050】
図2より、fr12〜30までの高分子画分の多糖を主としたものと、fr35〜47までの低分子画分の蛋白質を主としたものに分離することができた。
【0051】
得られた低分子画分は、茶色の色を帯びていた。このことから、ポリフェノールの可能性が示唆されたため、Folin-Denis法によりポリフェノール濃度の測定を行った。この低分子画分のポリフェノール含量は18%で、もとの熱水抽出物の4.8%と比較するとポリフェノールが濃縮されていた。
【0052】
ポリフェノールの活性測定
上記のゲルろ過クロマトグラフィーによって分けられたポリフェノール画分のアポトーシス誘導活性の測定を行った。
【0053】
培養細胞としてヒト組織球性リンパ腫U937を用いた。培地として10%FBSを含むRPMI1640を使用し、ペニシリン及びストレプトマイシンを、それぞれ、100 units/ml、100μg/mlになるよう添加し、培養を行った。対数増殖期に入った細胞を、4.0×105cells/mlに調整し、細胞溶液を24ウエルプレーの1ウエルに1mlずつ分注し、ポリフェノールの最終濃度が10,50,100μg/mlになるように添加した。37℃、5% CO2存在下で培養を行い、4日間培養を行った。
【0054】
細胞の生死判定はトリパンブルー細胞分染法によって行った。また、アポトーシス誘導活性(%)は、コントロール細胞(被験物無添加)の増殖生細胞数に対する、被験物を添加した細胞の増殖生細胞数の百分率で表した。結果を表4に示した。
【0055】
ポリフェノール画分は高いアポトーシス誘導活性を示した。ED50値は59.8μg/mlとなった。
【表4】

【0056】
実施例4
有機溶媒抽出物の作成
アスコフィラム ノドサム乾燥粉末100gに500mlのクロロホルム/メタノール=2:1を500ml加えた。溶液をろ過し、残渣を同様の溶液で洗浄した。得られた溶液に水を加えた後、攪拌し、洗浄を行い分液ロートを用いてクロロホルム層を回収した。このクロロホルム層を濃縮乾固することにより5.6gの抽出物を得た。この抽出物をアスコフィラム ノドサム有機溶媒抽出物とした。
【0057】
薄層クロマトグラフィーによる分離
得られた有機溶媒抽出物は、シリカカラム(2×8cm)を通すことにより二つの溶出画分に分けた。即ち、シリカカラムに有機溶媒抽出物を供与し、まずエーテルで溶出させ、その後、メタノールを使用して溶出した。得られたエーテル溶出画分は4.51g、メタノール溶出画分は0.95gであった。
【0058】
メタノール溶出画分をシリカゲルプレートを用いて、ヘキサン:エーテル=
1:1、、クロロホルム:メタノール=1:1を展開溶媒とする二段階の薄層クロマトグラフィーで展開した。検出は、ヨウ素を用いる方法で行った。また、カッパー-アセテート(cupper-acetate)試薬を用い、脂質も検出した。その結果、計8つのスポットを得ることができた。その中にカッパー-アセテート試薬で反応しない緑色の色素画分があった。
【0059】
色素の活性測定
薄層クロマトグラフィーにより得られた緑色の画分を薄層から分離し、アポトーシス誘導活性の測定を行った。
【0060】
培養細胞としてヒト組織球性リンパ腫U937を用いた。培地として10%FBSを含むRPMI1640を使用し、ペニシリン及びストレプトマイシンを、それぞれ、100 units/ml、100μg/mlになるよう添加し、培養を行った。対数増殖期に入った細胞を、4.0×105cells/mlに調整し、細胞溶液を24ウエルプレートの1ウエルに1mlずつ分注し、被験物の最終濃度が10,50,100μg/mlになるように添加した。37℃、5% CO2存在下で培養を行い、4日間培養を行った。
【0061】
細胞の生死判定はトリパンブルー細胞分染法によって行った。その結果、この緑色スポットはED50値=12.9μg/mlという非常に強いアポトーシス誘導活性があることが分かった。
【0062】
クロロフィルCの定性
色素が緑色を帯びていることから、海藻のもつ光合成色素であることが示唆された。このことから、クロロフィルa、フェオフォルバイトa、クロロフィルcの標準物質を使用し、薄層クロマトグラフィーによる定性を行った。シリカゲルプレートに標準物質とアスコフィラム ノドサムから分離した緑色物質をスポットし、ジイソブチルケトン:酢酸:水=8:5:1(v/v/v)を展開溶媒として薄層クロマトグラフィーを行った。その結果、緑色物質はクロロフィルCと同様のRfを示し、緑色物質がクロロフィルCであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】DNA断片化の検出を示す図面である。
【図2】アスコフィラム ノドサム抽出物のゲルろ過クロマトグラフで ある。
【図3】クロロフィルCの定性結果を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコフィラム ノドサムの抽出物からなるアポトーシス誘導物質。
【請求項2】
アスコフィラム ノドサムの抽出物が、キシロースとフコースの比が1:1〜2.5である水溶性多糖である、請求項1に記載のアポトーシス誘導物質。
【請求項3】
アスコフィラム ノドサムの抽出物がポリフェノールである、請求項1に記載のアポトーシス誘導物質。
【請求項4】
アスコフィラム ノドサムの抽出物がクロロフィルCである、請求項1に記載のアポトーシス誘導物質。
【請求項5】
請求項2、3及び4に記載のアスコフィラム ノドサムの抽出物を、2種又はそれ以上含有している、請求項1に記載のアポトーシス誘導物質。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−327968(P2006−327968A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151847(P2005−151847)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポラロイド
【出願人】(000251130)林兼産業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】