説明

アマモ場の造成方法

【課題】現場海域の環境に対する負荷が小さく、且つ低コストで行ない得るアマモ場の造成方法を提供すること。
【解決手段】浚渫土に対して製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤を混合して、反応・形成されたフロックを、脱水して得られる浚渫土固形物と、この浚渫土固形物の100重量部に対して0.1〜10重量部の割合のポリビニルアルコールを混合し、造粒して得られる多孔質状の浚渫土ペレットとを、アマモの種子と共に混合せしめて、アマモ育成基盤を形成し、所定の造成海域の海底に敷設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アマモ場の造成方法に係り、特に、現場海域の環境に対する負荷が小さく、且つ低コストで実現し得るアマモ場の造成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オモダカ目アマモ科アマモ属に属する海産顕花植物であるアマモ(Zostera marina Linne)は、一般に、比較的静穏な砂泥質の海域に、アマモ場と呼ばれる大きな群落を形成して、多種多様な魚介類の生育場、保育場、産卵場等としての機能を果たすと共に、富栄養化の原因となる窒素やリン等の栄養塩を吸収し、光合成により酸素の供給を行なう等、水質浄化の面においても重要な役割を果たすこと、またその地下茎により海底底質基盤の安定化等の機能を果たすことが、知られている。しかしながら、近年、埋立て工事等によりアマモ場が埋め立てられてしまったり、水質汚染や水質汚濁、及びそれによる日照不足等の生育環境の悪化によって、全国的にアマモ場が減少して来ており、そして、そのようなアマモ場の減少は、更なる海域環境の悪化をもたらしているのである。
【0003】
かかる状況下、アマモ場の修復・再生を図るために、種々のアマモの増殖方法が、従来より提案されて来ており、それは、次の二つの方法に大別することができる。即ち、アマモは、栄養繁殖と有性繁殖の二種類の繁殖形態にて増殖することが出来、そのうち、栄養繁殖によるアマモの増殖を利用した方法として株移植法があり、また有性繁殖によるアマモの増殖を利用した方法として播種法がある。
【0004】
そして、かかる増殖方法のうち、株移植法には、陸上においてアマモを種子から育成して、その苗を造成海域に移植する苗移植法と、他海域のアマモ場から採取したアマモの栄養株を造成海域に移植する栄養株移植法とがある。しかしながら、前者にあっては、苗の育成及び移植にコストがかかるという問題や発芽率・定着率が低いという問題を有するものであり、また後者にあっては、栄養株の採取・移植が高コストとなることや株の定着率が低いことに加えて、アマモの栄養株の採取地におけるアマモ場の破壊等による環境破壊の問題や他海域からの株の移入による遺伝子撹乱の問題等、種々の問題を有するものであった。
【0005】
一方、播種法によるものとしては、アマモの種子を直接海底に播き、自然発芽させる直接播種法があり、コスト的・環境保全的にも有利であるが、アマモの種子の比重が底質よりも小さく、海流によって容易に流されてしまうために、発芽率・定着率が低いという問題を有するものであった。
【0006】
そこで、近年、そのような直接播種法の問題点を改善した播種法として、アマモの種子を何等かの方法で海底に留めておく間接播種法が、種々提案されて来ている。例えば、特許第2024597号公報においては、アマモ場の造成方法として、早期腐食性の繊維と難腐食性又は非腐食性の繊維とで交織されたネット状の布帛によって袋体を形成し、この袋体にアマモの種子を含む生育基盤材を充填して播種基体を形成し、この播種基体を水底に沈降敷設する方法(特許文献1参照)が、また特許第3183829号公報においては、生分解性樹脂からなる布状、網状若しくは多孔の膜状のシート部材に種子を固着したものを水底に敷設する方法(特許文献2参照)が、更に、特許第1629680号公報においては、砂と海水とコロイダルシリカとアマモ種子群を混合した培養砂嚢を造成予定域の海底に敷設してなるアマモ場の造成方法(特許文献3参照)が、加えて、特開2004−159512号公報においては、根や草体が通り抜けるための穴を有する自然に分解する材料からなるマットと、種子を混入した砂泥を伸展したマットと、基材とを順次載置して固定具により固定して、水中種子植物の造成基盤を作製し、かかる造成基盤をロープで連結して、順次敷設船の船尾から繰出して海中に降し、杭等により海底に固定するアマモ場の造成方法(特許文献4参照)が、それぞれ提案されているのであるが、それら上記した何れの方法にあっても、播種基体等の作製が煩雑であったり、またその形成材料が高価である等、コスト的に不利なものであって、大規模なアマモ場の造成には適さないという問題があり、また海域に通常は存在しない繊維や樹脂等の異物を持ち込むものであり、環境に対する負荷の大きいものであったのである。
【0007】
【特許文献1】特許第2024597号公報
【特許文献2】特許第3183829号公報
【特許文献3】特許第1629680号公報
【特許文献4】特開2004−159512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来から、閉鎖性の内湾や港湾にあっては、周辺からの負荷や魚介類養殖業等による負荷に伴ない、海底に多量の有機物が沈降し、堆積していることは、よく知られているところであるが、近年、そのような堆積物(所謂ヘドロ)による海域の汚染対策として、全国各地において、浚渫事業が展開されて来ている。本発明者等にあっても、先に、そのような浚渫作業によって発生した大量の浚渫土を有効利用するための技術の一つとして、浚渫土から、取扱いの容易な且つ海域で再利用可能な固形物を取り出し得る装置を提案し、そこで得られる浚渫土固形物は、アマモの育成基盤(培地)として有利に用いられることを明らかにした(特開2006−334518号公報参照)。
【0009】
そして、本発明者等は、かかる知見を基に、更に鋭意研究を重ねた結果、浚渫土から得られる浚渫土固形物と、かかる浚渫土固形物から得られる浚渫土ペレットとを組み合わせて用いることにより、アマモ場の造成が有利に行なわれ得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、現場海域の環境に対する負荷が小さく、且つ低コストで行ない得るアマモ場の造成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、浚渫土に対して製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤を混合して、反応・形成されたフロックを、脱水して得られる浚渫土固形物と、この浚渫土固形物の100重量部に対して0.1〜10重量部の割合のポリビニルアルコールを混合し、造粒して得られる多孔質状の浚渫土ペレットとを、アマモの種子と共に混合せしめて、アマモ育成基盤を形成し、所定の造成海域の海底に敷設することを特徴とするアマモ場の造成方法を、その要旨とするものである。
【0012】
なお、かかる本発明に従うアマモ場の造成方法の望ましい態様の一つによれば、前記浚渫土固形物と前記浚渫土ペレットとは、重量比で、3:7乃至7:3の割合で混合せしめられることとなる。
【0013】
また、本発明に従うアマモ場の造成方法の他の望ましい態様の一つによれば、前記浚渫土ペレットは、直径:5〜15mm、長さ:10〜40mmの棒状形態を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に従うアマモ場の造成方法にあっては、浚渫事業によって大量に発生する浚渫土を利用するものであるところから、アマモ場の造成を有利に低コストで行ない得ると共に、そのような浚渫土を有効に利用(処理)し得るものであるという利点を有している。また、そのような浚渫土は、元々海域に存在するものであるため、環境に対する負荷が極めて低く抑えられ得るのである。
【0015】
しかも、本発明に従うアマモ場の造成方法にあっては、アマモ育成基盤の形成及びその敷設が、比較的簡便に行なわれ得るものであるところから、大規模なアマモ場の造成が、短期間に且つ低コストで実現され得ることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ところで、本発明に従うアマモ場の造成方法にあっては、先ず、浚渫土から得られる浚渫土固形物と、かかる浚渫土固形物から得られる浚渫土ペレットとを、アマモの種子と共に混合せしめて、アマモ育成基盤が形成されることとなるのであるが、そこにおいて、先ず浚渫土固形物は、浚渫土に対して製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤を混合して、反応・形成されたフロックを、脱水して得られるものである。
【0017】
より具体的には、浚渫土に対して混合せしめられる前記製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤としては、一般に、従来からよく知られているものを用いることが出来、例えば、特許第3274376号公報に明らかにされているような、製紙スラッジ焼却灰を主成分とし、それに、石膏、シリカヒューム、アルミナ・ケイ酸塩を主体とする天然鉱物、アルカリ金属炭酸塩及び陰イオン界面活性剤を均一に配合して、Si成分がSiO2 換算量で45〜55重量%、Al成分がAl23換算量で20〜30重量%、Ca成分がCaO換算量で5〜15重量%、及びMg成分がMgO換算量で5〜15重量%含有されているものや、特開2002−363560号公報に明らかにされている如き、製紙スラッジの焼却灰100重量部に対して、ポルトランドセメント7〜30重量部、硫酸バンド3〜10重量部、無水石膏0.7〜10重量部、メタクリル酸エステル0.3〜5重量部、リグニンスルホン酸塩類0.08〜0.53重量部、ステアリン酸塩類0.07〜0.40重量部、トリポリリン酸ソーダ0.04〜0.27重量部、水酸化ナトリウム0.01〜0.068重量部を混合してなるもの、更には、本発明者等が特願2003−372824号において提案した、製紙スラッジの焼却灰:粉状のポルトランドセメント;並びにpH調節剤、凝集剤、界面活性剤、吸水性強化剤及び分散剤から選択される少なくとも1種の機能性剤からなる粉状の中性無機固化剤とポリビニルアルコール系樹脂とを有効成分とする固化用組成物等を例示することが出来る。また、そのような凝集固化剤は、「アクアリファイン」(株式会社片山化学工業研究所)等の商品名において、市販されており、本発明にあっては、そのような凝集固化剤が、何れも、採用可能である。
【0018】
なお、上記凝集固化剤の主成分を構成する前記製紙スラッジ焼却灰とは、製紙工場や再生紙工場等で産業廃棄物として発生する製紙スラッジが、減容化のために焼却処理されて、焼却灰とされたものであって、全国各地の製紙工場や再生紙工場等で安価に且つ安定的に入手することが可能なものであり、本発明は、そのような安価に且つ安定的に入手可能な製紙スラッジ焼却灰を、凝集固化剤の主成分として用いるものであるところから、本発明に従うアマモ育成基盤の形成、ひいてはアマモ場の造成が、有利に安価に行われ得ることとなるのである。
【0019】
また、上記したような凝集固化物が混合せしめられる前記浚渫土とは、内湾、港湾等の海底に堆積した堆積物である底質を、浚渫作業によって、陸上に揚上することにより得られるものであって、全国各地の浚渫事業において大量に発生するものである。そして、本発明にあっては、そのような浚渫土を、前記浚渫土固形物及び後述する浚渫土ペレットの主原料として用いるものであるところから、アマモ場の造成を、有利に安価に行い得るのであって、またかかる浚渫土の有効利用(処理)も同時に達成し得るのである。また、本発明は、そのような元々海域に存在している浚渫土を主な原料として用いて、アマモ場の造成を行なうものであるところから、本来海域には存在しない異物により作製された基盤等を持ち込んでアマモ場の造成を行なう従来の技術に比して、環境に対する負荷を極めて低く抑えることが可能となるのである。なお、本発明にあっては、そのような浚渫土の中でも、特に、目的とする造成海域やその付近の海域から得られるものが望ましい。かかる現場海域周辺の浚渫土を用いることによって、現場海域の環境に対する負荷を、より一層有利に低減し得ることとなる。加えて、かかる浚渫土は、通常、15〜16%程度の有機物を含むものであるところから、本発明に従って造成されたアマモ場においては、アマモの発芽や生育が有利に促進せしめられることとなる。
【0020】
そして、本発明にあっては、上記したような浚渫土及び凝集固化剤を混合して、反応・形成されたフロックを、脱水することにより、浚渫土固形物を得ることとなるのであるが、かかる浚渫土固形物の形成に際しては、例えば、図1及び図2に示される如き構成の処理装置が、好適に用いられるのである。具体的には、図1から明らかなように、本発明において好適に用いられる浚渫土の処理装置は、原泥貯留槽2と濾過液槽4とが、互いに独立した形態において併設されており、かかる濾過液槽4上に、楕円形状の回転板の多数を用いた固液分離装置6が、設置されている。一方、この固液分離装置6に対して、原泥から生じた反応処理物を交互に供給する二基の反応槽8,8が設けられ、更に、それぞれの反応槽8に凝集固化剤の所定量を供給する凝集固化剤供給機10が、それぞれ設けられている。
【0021】
より詳細には、原泥貯留槽2に対しては、浚渫土(泥)が、供給ポンプ12によって供給されて、貯留されるようになっている。そして、この原泥貯留槽2には、原泥撹拌機14が設けられており、その撹拌作用によって、供給された浚渫土が均一化されて、原泥が調整されるようになっており、かかる調整された原泥が、原泥送出ポンプ16によって、何れかの反応槽8に送出せしめられるようになっている。
【0022】
そして、本発明にあっては、かかる原泥貯留槽2において、そのような原泥(浚渫土)の含水率が、有利には、85〜95%、特に87〜93%となるように調整される。なお、原泥中の水分量が多くなり過ぎると、反応槽8内において形成されるフロックが小さくなり過ぎて、固液分離装置6における固液分離が困難となるからであり、また、原泥中の水分量が余りにも少なくなると、形成されるフロックが全体的に軟らかくなったり、或いはフロックが成長しない等、フロックの形成状況が悪く、この場合においても、固液分離装置6でのフロックの分離を有効に行ない得なくなる問題を惹起する。なお、例示の装置においては、固液分離装置6にて分離された濾過液が、濾過液槽4内に設けられた返送ポンプ18によって、原泥貯留槽2内に供給されるようになっており、これにより、原泥の含水率が、効果的に調整され、また最終的な排水量が有利に削減され得るようになっている。
【0023】
また、原泥送出ポンプ16によって原泥貯留槽2から送出された原泥は、バルブの切換えによって、二基の反応槽8,8の何れかに導かれる一方、それぞれの反応槽8に対して、対応する凝集固化剤供給機10から、所定量の凝集固化剤がそれぞれ供給され、反応槽8に設けられた撹拌機20によって、原泥と凝集固化剤とが均一に撹拌・混合されて、反応せしめられることにより、フロックが形成されることとなる。
【0024】
なお、かかる凝集固化剤の供給に際して、その供給量は、供給される原泥の供給量に応じて、適宜に決定されることとなるが、一般に、原泥の1リットル当り、5〜50g、好ましくは10〜30g程度とされることとなる。この凝集固化剤の供給量が少なくなり過ぎると、フロックの形成が充分に行なわれ難くなる問題があり、また多くなり過ぎると、薬剤コストがかかり過ぎることに加えて、逆にフロックが形成され難くなる等の問題も内在しているのである。
【0025】
そして、そのようにして形成されたフロックが、それぞれの反応槽8の下部に設けられたストップバルブ22の切換えによって、流量調整弁24を通じて、固液分離装置6に連続的に供給されて、脱水されることにより、目的とする浚渫土固形物が得られることとなる。
【0026】
すなわち、かかる反応槽8から供給される、フロック(固相)と水分(液相)とからなる反応処理物を固液分離する固液分離装置6は、図2から明らかなように、装置本体のフレーム28に対して、複数の回転軸30を水平面内において互いに平行に配列して、回転自在に軸支する一方、かかる回転軸30には、多数の楕円形状の回転板26が、所定間隔を隔てて軸装されていると共に、隣接する回転板26,26間には、図2において左右方向となるガイド面としての上面を有する案内部材32が、配置されてなる構造とされている。
【0027】
そして、それぞれの回転軸30を同一方向に回転させることにより、各軸に取り付けた回転板26の上部周面によって形成される送り面側に投入された前記フロックの生成した処理液は、各列の回転板26の周面に下方から持ち上げられながら、案内部材32の上面に沿って、図2において右方向に搬送されることとなる。そして、前記フロックの生成した反応処理物は、案内部材32及び回転板26の上面を移動する過程で、回転板26,26間の間隙内の回転板26と案内部材32との間の隙間及び隣接する回転板26同士の周面間の間隙から、水、その他の液体成分を、下方に流出濾過せしめて、外部に放流する一方、案内部材32上に捕集されるフロックは、回転板26の周面にて送られながら、順次濾過脱水されて、含水率の減少された浚渫土固形物として、固液分離装置6から取り出され得るようになっているのである。
【0028】
かくして、固液分離装置6から取り出された浚渫土固形物は、含水率が70%以下、50%程度まで低減されたものとなるのであり、その取扱いも容易であって、アマモ育成基盤として海底に敷設された際にも、潮の流れによって容易に崩壊・分散するようなことのないものとなるのである。そして、かかる浚渫土固形物は、後述するようにして得られる浚渫土ペレットと共に、アマモの種子と混合されて、アマモ育成基盤として海底に敷設されることとなるのであるが、そこにおいて、浚渫土固形物は、アマモの種子を覆土して、アマモの発芽環境を整える働きを為すのであり、以て、本発明に従うアマモ場の造成方法にあっては、アマモの発芽率が極めて良好なものとなるのである。
【0029】
一方、上述のようにして得られる浚渫土固形物と共にアマモ育成基盤を形成する、もう一つの材料である前記浚渫土ペレットは、上述のようにして得られる浚渫土固形物に対して、所定割合のポリビニルアルコールを混合せしめて、造粒することにより得られる多孔質状のものである。
【0030】
そこにおいて、かかる浚渫土ペレット中に配合される所定割合のポリビニルアルコールは、得られる浚渫土ペレットに対して、固体強度及び形状保持性を付与するためのものであって、一般に市販されているものが、何れも採用可能であり、その中から目的に応じて適宜に選択されるものである。そして、かかるポリビニルアルコールは、浚渫土固形物の100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内において配合されるのであるが、特に好ましくは、3重量部以下の割合で配合されることとなる。なお、その配合割合が少なくなり過ぎると、その配合効果を充分に享受することが出来ず、また配合割合が多くなり過ぎた場合には、粘性が高くなって、成形性に劣る等の問題を惹起するようになる。
【0031】
また、かかるポリビニルアルコールは、浚渫土固形物中の凝集固化剤に対しては、その100重量部に対して、1〜20重量部の割合となるように配合することが好ましく、これにより、得られる浚渫土ペレットの形状安定性がより一層有利に高められるのである。
【0032】
さらに、本発明に従う浚渫土ペレットにあっては、上記したポリビニルアルコールの他にも、本発明の目的を損わない範囲において、適宜に、添加剤や助剤等を混合せしめることも可能である。
【0033】
そして、上記したような所定割合のポリビニルアルコールを浚渫土固形物と混合して、造粒するに際しては、従来と同様な造粒機が適宜に選定して用いられるのであり、それにより、容易に且つ有利に、目的とする浚渫土ペレットが形成されることとなる。そして、かかる浚渫土ペレットは、その成形が、常温下において可能なものであり、高いエネルギーコストが必要な焼成処理や乾燥等を何等必要とせず、自然養生にて成形することが可能なものであるところから、自然に優しく且つコスト的にも安価であるという利点を有している。
【0034】
このようにして得られる浚渫土ペレットは、優れた固体強度及び形状安定性を有するものであるところから、後述するようにして、浚渫土固形物及びアマモの種子と共に混合されて、アマモ育成基盤として海底に敷設された際に、潮の流れによって、容易に崩壊・分散せしめられるようなことがなく、また浚渫土固形物に対しても、その崩壊・分散を効果的に防止して、以て、潮の流れによってアマモの種子が流出してしまったりするようなことが、有利に防止され得るのである。また、アマモの発芽後、その幼苗時においては、かかる浚渫土ペレットの存在によって、アマモがしっかりと根を張ることが可能となるために、アマモの定着率が極めて良好なものとなるのである。
【0035】
なお、本発明において、かかる浚渫土ペレットの形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、適宜に決定されることとなるのであるが、上述した浚渫土固形物の崩壊防止や、アマモの発芽・生育環境等の観点から、一般に、直径:5〜15mm、長さ:10〜40mmの棒状形態を有するものが、好ましく採用されることとなる。
【0036】
さらに、本発明に従って得られる浚渫土ペレットは、多孔質状のものであるところから、微生物等の住居として有効な単体となり、それが適用された現場海域の底質改善の効果をも奏するものである。
【0037】
そして、本発明にあっては、かくの如き浚渫土ペレットが、前述のようにして得られる浚渫土固形物と組み合わされて、アマモ育成基盤が形成されることとなる。このように、本発明にあっては、アマモ育成基盤中に、比較的軟らかい浚渫土固形物と比較的硬い浚渫土ペレットとが混在せしめられているものであるところから、上述したように、アマモの発芽率及び定着率が、有利に高い割合において確保されることとなるのである。そして、本発明においては、そのような効果を有利に発揮させる上において、浚渫土固形物と浚渫土ペレットとは、望ましくは、重量比で、3:7乃至7:3の割合で混合せしめられることとなる。
【0038】
また、前記アマモ育成基盤の形成に際して、上述したような浚渫土固形物及び浚渫土ペレットと共に混合せしめられるアマモの種子としては、特に限定されるものではないが、本発明においては、特に、目的とする造成海域やその付近の海域に自生するアマモから得られるものを用いることが、望ましい。そのような現場海域周辺のアマモの種子を用いることによって、他海域からの移入による遺伝子撹乱等の問題が有利に回避され得るのである。
【0039】
次いで、上述せる如き浚渫土固形物及び浚渫土ペレットが、アマモの種子と共に混合せしめられて、本発明に従うアマモ育成基盤が形成されるのであるが、そこにおいて、それらの混合方法は、浚渫土固形物や浚渫土ペレットを崩壊させたり、アマモの種子を傷付けたりするものでなければ、特に限定されるものではなく、目的とする造成規模等に応じて、公知の手法が適宜に採用され得るものである。
【0040】
そして、上述のようにして形成されたアマモ育成基盤が、所定の造成海域に敷設されることによって、本発明の目的とするアマモ場の造成が行なわれることとなる。そこにおいて、かかるアマモ育成基盤の敷設方法は、何等限定されるものではなく、従来から公知の各種の手法の中から、目的とする造成の規模等に応じて適宜に選択されることとなるのであるが、そのような敷設方法としては、具体的には、上述のようにして得られたアマモ育成基盤を鉄籠等に収容し、それをダイバーの潜水により或いは生分解性ロープ等で繋いで、船上から連続的に投入することにより海底に敷設する方法や、アマモ育成基盤を、トレミー式砂撒船等で直接海底面に連続的に敷設する方法等を挙げることが出来る。そして、それらの中でも、特に、トレミー式砂撒船等を用いて直接海底に敷設する方法にあっては、海中におけるアマモ育成基盤の崩壊・分散や、海底の砂の巻上げ等による現場海域の環境破壊が、有利に防止乃至は回避され得ることから、好ましく採用されるのである。
【0041】
以上のようにして、本発明に従うアマモ場の造成方法によって造成されたアマモ場にあっては、上述のように、アマモの発芽率及び定着率が良好であるところから、アマモ場の修復・再生及び保全が有利に行なわれ得ることとなる。そして、修復・再生されたアマモ場においては、アマモが、魚介類等の生育場等としての機能や、栄養塩の吸収、酸素の供給等の水質浄化機能等を果たし、以て、かかる造成海域の生物生体系の再構築、海域環境の浄化、ひいては漁業資源の再生が可能となるのである。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例を含む幾つかの実験例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実験例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実験例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0043】
先ず、三重県英虞湾の立神浦において浚渫された浚渫土を採取し、これに、図1に示される処理装置を用いて、製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤(株式会社片山化学工業研究所製、アクアリファイン)を反応せしめ、そしてそれによって生じたフロックを固液分離して、脱水することにより、含水比が900%の浚渫泥水から、含水比が150%の浚渫土固形物を得た。なお、凝集固化剤は、泥水体積に対して、外掛けにて1.5%の割合において混合せしめて、反応させた。
【0044】
次いで、かかる得られた浚渫土固形物の一部を用い、その100重量部に対して、1重量部となる割合のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製)を混合した後、通常の造粒機を用いて、ペレット状に加工することにより、直径:1cm×長さ:2〜3cmのサイズのペレットを得た。
【0045】
かくして得られた浚渫土固形物と浚渫土ペレットとを、それぞれ、重量比で5:5の割合となるように混合した。そして、その混合物を、鉄かご(メッシュ:5mm×5mm×0.7mm、かごサイズ:L35cm×W35cm×H10cm)内に、底から5〜10mm程度の厚さで敷き、その上に、英虞湾立神浦に自生のアマモから採取したアマモの種子を撒布した。更にその上に、上記で得られた浚渫土固形物を5cm程度の厚さで敷き、これにより、アマモの種子を浚渫土固形物にて覆土した。なお、種子密度は、約8000粒/m2 とした。そして、このようにして、アマモ育成基盤の70基を作製した。
【0046】
また、浚渫土固形物と浚渫土ペレットとを、重量比で2:8の割合において混合した混合物を用いること以外は、上記と同様にして、アマモ育成基盤の30基を作製した。
【0047】
次いで、このようにして作製されたアマモ育成基盤の計100基を、ダイバーの潜水作業によって、英虞湾内の干潟全面海域[水深:約2m(DL−1m)]に載置して敷設することにより、アマモ場の造成を行なった。なお、総敷設面積は、約12m2 であった。
【0048】
その後、かかる敷設されたアマモ育成基盤におけるアマモの株密度、草丈及び発芽率について、1ヶ月おきに、ダイバーの潜水作業による目視観察を行なった。また、アマモ基盤の敷設場所から約10m離れた場所に自生する天然のアマモの株密度及び草丈についても、同様にして目視観察を行なった。それらの結果を、図3及び図4に示す。
【0049】
ところで、天然のアマモの有性生殖における生活史は、11月頃に発芽が始まり、春先にかけて成長が盛んとなって、夏頃に繁茂・成熟して最大期を迎え、その後草体は枯死する。本実験例においては、図3から明らかなように、造成されたアマモ場のアマモは、1平方メートル当たりの株数(株密度)については、造成開始の2ヶ月後(1月)から上昇し始め、造成開始後4ヶ月目(3月)に最大値に達した後、減少し、また平均草丈については、造成開始後7ヶ月目(6月)に最大値を示した。この本実験例におけるアマモの株密度及び草丈の推移は、上述したようなアマモの生活史に基づくものであって、造成されたアマモ場において、アマモが正常に発芽・生育したことを表している。
【0050】
また、図3から明らかなように、本実験例において造成されたアマモ場におけるアマモの株密度は、天然のアマモ場の株密度に比して大きな値となった。天然のアマモの株密度は、水温や塩分、波の強さ等の諸条件によって、場所により大きく異なるが、本実験例においては、環境のよく似た近接した場所に自生するアマモ場の株密度と比較して、大きな株密度が得られたことから、単に、直接種子を播種する場合に比して、より効果的にアマモの増殖が行なわれ得ることが認められた。
【0051】
さらに、アマモ育成基盤における浚渫土固形物と浚渫土ペレットとの混合割合については、浚渫土固形物:5割、浚渫土ペレット:5割の割合で混合したものを用いて造成したものの方が、浚渫土固形物:2割、浚渫土ペレット:8割の割合において混合したものを用いて造成したものに比して、アマモの株密度及び平均草丈が良好となる傾向が認められた。
【0052】
加えて、本実験例においては、アマモの発芽率は約10%程度と(図4参照)、従来のアマモ場の造成技術(約3〜10%)と比しても充分に良好な値を示し、アマモ場の造成が有利に効果的に行なわれ得るものであることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に従う浚渫土の処理装置の一例を示す概略説明図である。
【図2】図1に用いられている固液分離装置の概略説明図である。
【図3】実験例において得られた一ヵ月毎のアマモの株密度及び平均草丈の結果を示すグラフである。
【図4】実験例において得られた一ヵ月毎のアマモの発芽率及び平均草丈の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
2 原泥貯留槽 4 濾過液槽
6 固液分離装置 8 反応槽
10 凝集固化剤供給機 12 供給ポンプ
14 原泥撹拌機 16 原泥送出ポンプ
18 返送ポンプ 20 撹拌機
22 ストップバルブ 24 流量調整弁
26 回転板 28 フレーム
30 回転軸 32 案内部材
34 ウェイト 36 アーム
38 軸 40 圧搾装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
浚渫土に対して製紙スラッジ焼却灰を主成分とする凝集固化剤を混合して、反応・形成されたフロックを、脱水して得られる浚渫土固形物と、この浚渫土固形物の100重量部に対して0.1〜10重量部の割合のポリビニルアルコールを混合し、造粒して得られる多孔質状の浚渫土ペレットとを、アマモの種子と共に混合せしめて、アマモ育成基盤を形成し、所定の造成海域の海底に敷設することを特徴とするアマモ場の造成方法。
【請求項2】
前記浚渫土固形物と前記浚渫土ペレットとが、重量比で、3:7乃至7:3の割合で混合せしめられることを特徴とする請求項1に記載のアマモ場の造成方法。
【請求項3】
前記浚渫土ペレットが、直径:5〜15mm、長さ:10〜40mmの棒状形態を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアマモ場の造成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−253163(P2008−253163A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96636(P2007−96636)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】