説明

アマモ類移植ユニットおよびアマモ類の移植方法

【課題】 アマモ移植技術の従来法のうち、プラグ法では、安定した移植効果を得にくい状況であった。また、ネット法などの手法は作業が複雑で効率が悪く、アマモの健全な生長を阻害することが考えられた。
【解決手段】 本発明者は、前述の課題を解決するため、草丈10〜150cmのアマモ類の地下茎を、海水中の重量で5〜50gのナットや金属の部品など環状金属塊の穴に通し、一体化したことを特徴とするアマモ類移植用ユニットおよび、本ユニットの船上からの直接投入と、人手を用いてユニットの大きさに見合った幅と深さを有する切れ込みを移植ゴテなどで入れ、そこに請求項1記載のアマモ類移植用ユニットを挟み込むことを特徴とする手法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アマモの移植技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アマモ場造成に関する研究は、瀬戸内海関係県を中心に昭和50年代頃から実施され、香川県も昭和58年から燧灘海域でアマモ場造成試験に取り組んできた。しかしながら、全国的に見てもほとんどの海域で事業実施には至っていないのが現状であり、その技術開発は急務である。
【0003】
アマモは、海草に分類される植物で、海藻とは異なり、花を咲かせて種子を形成する植物である。また、アマモは、海底上に露出する葉(葉状部)と、海底下を匍匐する根(地下茎)によって構成され、地下茎から伸長する「ヒゲ根」により、自身の草体を海底に固定している(図1)。このため、従来からアマモ場を回復させるための技術(手法)としては、アマモ草体を直接海底面に移植する方法(株移植)と種子を海底面に播く方法(播種)が行われてきた。
【0004】
現在までに考案されたアマモの株移植技術は、地下茎とヒゲ根によるアマモ草体の固定機能を各種固定具で補完するものである。これらの技術は、一般的にパイプ、石、粘土、モルタルブロック、ワイヤメッシュ、竹串、ピンセット等を用い、固定具の自重やアンカー的な機能によってアマモを固定するものである。このような固定具を船上や水中でアマモ草体に装着し、船上からの投入や、ダイバーによる手植えによってアマモ株移植が行われている(図2〜5)。
【0005】
しかし、従来の技術では、問題点も多くアマモ場を造成する技術(手法)の確立までには至っていないものも多い。
パイプへの結着や石、ワイヤメッシュ等で固定する手法の場合、作業が複雑かつ船上で長時間にわたり行われるため、空中での曝露時間が長くなり、よほどアマモを慎重に扱わないとアマモ自体を弱らせたり、傷つけてしまう恐れがある。また、固定具全体を海底下に埋設しないと、強い波浪等が発生した場合、固定具自体がアマモ草体を傷つけ、アマモ草体を流失させてしまう可能性が高いこと、露出したパイプやワイヤメッシュ自体が、根を張りながら海底表面を移動するアマモの生育を阻害する可能性が高い。
【0006】
竹串やピンセット等でアマモを押さえ込んで固定する手法(プラグ法と称す)は、比較的簡単で手間はかからないが、底質が軟弱な場合は固定機能が発現せず、底質が硬い場合は固定具が刺さりにくいのでアマモ草体が固定できず、作業効率が極端に低下する。また、固定部分が点であるので、波浪等の外力によりアマモ草体や地下茎が折れてしまい、流失する可能性が高い。
【0007】
従来の技術の中で、本発明に関連する技術では、サンゴなどアマモと共生する材料を活用した手法(例えば、特許文献1参照)、縦穴を施したモルタルブロックにアマモを通し、ブロックの自重によってアマモを押さえる手法(例えば、特許文献2参照)、アマモの地下茎にセルローススポンジなどのマットで包み込んでネットを金属棒などに固定し、海底に移植する手法(例えば、特許文献3参照)、アマモを粘土で固定する手法(例えば、特許文献4参照)などがある。
【0008】
これらの技術は、それぞれアマモ移植技術として有効なものであるが、以下のような課題を有すると考えられる。特許文献1のサンゴなどアマモと共生する材料を活用する技術は、プラグ法の一種であることから、底質の性状が礫質混入の場合埋設が困難な場合があると考えられる。
【0009】
特許文献2のモルタルブロックの自重によってアマモを押さえる技術は、アマモの地下茎全体を上部から押さえ、葉条部を囲うため、アマモの生長に伴う海底移動を阻害する。
【0010】
特許文献3のアマモの地下茎にセルローススポンジなどのマットで包み込んでネットを金属棒などに固定し、海底に移植する手法では、アマモ地下茎をマットやネットで包み込み、さらに金属棒などで固定するという2重の作業が必要となり、作業効率が悪い。また、アマモの生長点の存在する葉条部下部と地下茎を適度な深度に埋設させるためには、地下茎をマットなどで包み込むため、海底に平行に走るべき地下茎を斜めあるいは垂直に配置することとなり、アマモの地下茎の自然な成長を阻害する可能性がある。
【0011】
特許文献4のアマモを粘土で固定する手法では、地下茎に取り付ける粘土の配合が必要で作業効率、簡易性などの面で課題があること、上記特許文献3のように埋設の際の地下茎への負担が考えられる。
【0012】
【特許文献1】特開2005−245208
【特許文献2】特開2004−88260
【特許文献3】特開H08−242717
【特許文献4】特開H05−56726
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、プラグ法では底質の違いによる固定機能のばらつきが認められ、安定した移植効果を得にくい状況であった。また、ネット法などの手法は作業が複雑で効率が悪く、露出したネットなどが海底表面で生長するアマモの健全な生長を阻害することが考えられた。また、特許文献4の粘土を地下茎に結着させる方法は、粘土の配合などの作業が発生することから、より簡易的な手法が求められていた。
そこで本発明は、準備等に時間がかからず、作業も船上、水中のどちらでも短時間で行うことができ、かつ成功率の高い手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前述の課題を解決するため、草丈10〜150cmのアマモ類の地下茎を、海水中の重量で5〜50gの環状金属塊の穴に通し、一体化したことを特徴とするアマモ類移植用ユニットを提案する。
これにより、特別な材料を必要としないアマモの移植が可能となる。
【0015】
また、第二の課題解決手段は、アマモ類移植用ユニットを、船上より直接海中に投入しアマモ類移植用ユニットの自重によって海底に着床させることを特徴とするアマモ類の移植方法を提案する。
これにより、潜水士などが潜水して海底で作業することなく、アマモを移植することが可能となる。
【0016】
さらに、アマモ類移植用ユニットの大きさに見合った幅と深さを有する切れ込みを移植ゴテを用いて海底に作り、そこに請求項1記載のアマモ類移植用ユニットを挟み込むことを特徴とするアマモ類の移植方法を提案する。
これにより、第二の解決手段で対応できない硬い海底における移植が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、船上もしくは水中で、アマモ地下茎をナットや金属の部品など環状金属塊の穴に通し、ナットや金属の部品など環状金属塊と、アマモ草体(含む地下茎)を一体化した状態(図6)にして、海底下5cmに埋め込み、あるいは海底が泥質であれば船上から投げ込むことで、アマモを株移植する手法である。
アマモは、地先海域により生育状況(形態や大きさ)が異なることが知られるが、移植しようとするアマモの地下茎が5cm以上の長さであれば、本手法での株移植は対応可能である。
【0018】
また、静穏海域や強流海域等の環境条件が異なる場所であっても、株移植するアマモ草丈の長さや地下茎の太さ、海底の底質の状態によっても、ナット形状の金属の大きさや個数、形状等を選別、調整することが可能である(表1)。特に瀬戸内海では、底質が軟弱な地先が多く、竹串やピンセット等で固定する手法ではアンカー機能が発現しにくいが、本手法はナット形状の金属の自重によってもアマモ草体を固定するため、株移植したアマモ草体が抜け落ちることがほとんどない特徴を持つ。
【表1】

【0019】
また、天然海域ではナット形状の金属の材質を鉄にすることで、鉄分の酸化に伴う底質の硫化物の吸着等、酸化作用による底質改善効果が期待されるとともに、材質をステンレスにすることで、底質の化学成分に影響を及ぼすことなく、閉鎖的な水域である水槽内での展示や水槽内や恒温室内での試験研究の分野への活用が可能である。
【実施例】
【0020】
葉の長さ50cm、地下茎を5節程度(約5cm)に切りそろえたアマモ(Zosteramarina Linnaeus)を用い、1株当たり海水中の重量で25グラムの市販ナットを使用して、移植用ユニットを作り、実海域において移植試験を行った。天然のアマモ場に試験区を設定し、本発明であるユニットを設置し、天然アマモ場を比較対象として生育状況のモニタリングを実施した。その結果、移植後の単位面積当たり生育株数の推移は、(図7)のとおりであった。
また、アマモの健全な生育を判断する指標としてアマモの引き抜き強度試験を実施した結果を(図8)に示す。
【0021】
移植したアマモは、周辺天然アマモ場の単位面積あたり株数とほぼ同数で試験を開始し、1年間の調査では天然アマモ場と同等の生育状況を示した。
特に、移植技術で最も対象となるアマモ自体の根で固定されるまでの期間と考えられる1ヶ月未満での脱落などが認められなかったことは、本発明の有効性を実証した結果となっている。
【0022】
さらに、移植したアマモの引き抜き強度を測定した結果、(図8)に示すようにナット法による強度のほうが高い結果を得た。
これは、地中に埋設したナットにアマモの根が絡まり、抜けにくくなった結果であると考えられた。
以上のようにナット形状の金属塊によるアマモの移植技術が、実海域において有効であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】アマモの各部位名称を示した図である
【図2】パイプ、ロッド、テープ等による移植方法を示した図である
【図3】レンガ、石、粘土等による移植方法を示した図である
【図4】(ワイヤ)メッシュ、細網等による移植方法を示した図である
【図5】釘、竹製ピンセット、箸等による移植方法(プラグ法)を示した図である
【図6】ナット状金属塊による移植ユニットを示す図である
【図7】天然アマモ場と本発明の移植後の株数比較を示したグラフである
【図8】天然アマモと移植ユニットの引き抜き試験結果を示すグラフである

【特許請求の範囲】
【請求項1】
草丈10〜150cmのアマモ類の地下茎を、海水中の重量で5〜50gの環状金属塊の穴に通し、一体化したことを特徴とするアマモ類移植用ユニット。
【請求項2】
請求項1記載のアマモ類移植用ユニットを、船上より直接海中に投入しアマモ類移植用ユニットの自重によって海底に着床させることを特徴とするアマモ類の移植方法。
【請求項3】
請求項1記載のアマモ類移植用ユニットの大きさに見合った幅と深さを有する切れ込みを移植ゴテを用いて海底に作り、そこに請求項1記載のアマモ類移植用ユニットを挟み込むことを特徴とするアマモ類の移植方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−301804(P2008−301804A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180337(P2007−180337)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(507231389)
【出願人】(507231390)
【出願人】(507231404)
【Fターム(参考)】