説明

アミジノフェノール誘導体およびその誘導体を有効成分として含有する薬剤

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアミジノフェノール誘導体に関する。さらに詳しくは、ホスホリパーゼA2 (PLA2 )阻害活性および蛋白分解酵素阻害活性、とりわけトリプシン阻害活性を有するi)式(I)
【0002】
【化2】


【0003】で示されるアミジノフェノール誘導体およびそれらの酸付加塩、ii)その製造方法、およびiii)それを含有する薬剤に関する。
【0004】
【発明の背景】ホスホリパーゼA2 (PLA2 )は細胞膜リン脂質の2位のエステル結合を加水分解する酵素であり、膜結合性PLA2 と膵性PLA2 の2種類存在することが知られている。膜結合性PLA2 はリン脂質からアラキドン酸(AA)を遊離させる。このAAからは、種々の炎症性疾患やアレルギー疾患等を引き起こす生理活性物質であるプロスタグランジン類、トロンボキサン類、ロイコトリエン類が生成される。
【0005】一方、膵性PLA2 はリン脂質を分解して細胞膜を破壊し、強い細胞毒性を有するリゾレシチンを生成させる。最近、この細胞膜障害作用による膵炎、その重症化および多臓器障害が重要視され、注目されている。また、これらの疾患には膜結合性PLA2 も関与しているという報告もある。従って、PLA2 を阻害することにより種々の生理活性物質の前駆体であるAAの遊離を抑制できるため、種々の炎症性疾患やアレルギー疾患等の予防および/または治療に有用であると考えられる。また、細胞膜障害作用を抑制できるため、膵炎、その重症化および多臓器障害の予防および/または治療に有用であると考えられる。
【0006】
【従来の技術】PLA2 阻害作用を有する化合物は多数知られている。そのうち、グアニジノ基を含有するものとしては、例えば式(X)
【0007】
【化3】


【0008】で示されるメシル酸カモスタット(コード番号:FOY−305)または式(Y)
【0009】
【化4】


【0010】で示されるメシル酸ナファモスタット(コード番号:FUT−175)等のグアニジノ安息香酸誘導体が挙げられる(日本臨床,48(1), 165-172, 1990)。また、本発明化合物と部分的に構造が近いものとして、式(Z)
【0011】
【化5】


【0012】(式中、R1zは(i) C1〜4のアルキル基、(ii) C1〜4のアルコキシ基、(iii) カルボキシル基、(iv) COOR4z基(基中、R4zはC1〜4のアルキル基を表わす。)、(v) ハロゲン原子、(vi) ニトロ基、(vii) スルホ基、(viii)ベンゾイル基、または(ix)
【0013】
【化6】


【0014】(基中、R5zは水素原子またはグアニジノ基を表わす。)を表わし;
2zおよびR3zは、それぞれ独立して(i) NHCO−R6z基(基中、R6zはC1〜4のアルキル基を表わす。)、または(ii)
【0015】
【化7】


【0016】(基中、Az は単結合、メチレン基、またはエチレン基を表わし;
7zおよびR8zは、それぞれ独立して(1) 水素原子、(2) C1〜4のアルキル基、または(3) アミノ保護基
【0017】(ただし、アミノ保護基は■COOR9z基(基中、R9zはt−ブチル基またはベンジル基を表わす。)、■アセチル基、■ベンゾイル基、■トシル基、または■ニトロ基を表わす。)を表わす。)
(ただし、上記式および基中の記号は、必要な部分だけ抜粋した。)で示される化合物(特開昭58-41855号)がある。この化合物は、トリプシン、プラスミン等の蛋白分解酵素の阻害作用および抗補体作用を有することが開示されているが、PLA2 阻害作用を有することはまったく知られていない。
【0018】
【発明の目的】本発明者らは、PLA2 阻害作用を有する新規なアミジノフェノール誘導体を見出すべく研究を行ない、式(I)で示されるアミジノフェノール誘導体が目的を達成することを見出した。さらに、本発明化合物が強力な蛋白分解酵素(例えば、トリプシン、プラスミン、トロンビン、カリクレイン、とりわけトリプシン)阻害作用を併せ有することも見出した。
【0019】
【従来技術との比較】本発明のアミジノフェノール誘導体は、これまでまったく知られていない新規化合物である。詳しく説明すると、前記一般式(Z)で示される化合物中のR2z基およびR3z基はNHCO−R6zで示される基をとりうるが、その結合様式は該基中の窒素原子が直接ベンゼン環に結合した形をとっており、さらにR6z基はアルキル基しか表わさない。一方、本発明化合物の相当する基は式
【0020】
【化8】


【0021】で示される基を表わすが、その結合様式は、その基中の炭素原子が式:
【化9】


で示される基を介してベンゼン環に結合する形をとっている。以上の点から、本発明化合物は、式(Z)で示される化合物とは著しく異なる化学構造を有する化合物であるといえる。
【0022】さらに、従来、一部のグアニジノ安息香酸誘導体(前記、式(X)および(Y)で示される化合物)ではPLA2 阻害作用を有することが知られていたが、アミジノフェノール誘導体(前記、式(Z)で示される化合物)ではその作用を有することは知られていなかった。従って、これらの従来技術から本発明のアミジノフェノール誘導体がPLA2阻害作用を有していることはまったく予測できないことである。
【0023】
【本発明の開示】本発明は、1)式(I)
【0024】
【化10】


で示される化合物またはそれらの酸付加塩、2)その製造方法、および3)それを有効成分として含有する薬剤に関する。
【0025】本発明においては、特に指示のない限り、異性体はこれをすべて包含する。例えば、アルケニレン基中の二重結合は、E、ZおよびEZ混合物であるものが含まれる。
【0026】
【酸付加塩】式(I)で示される本発明化合物は、公知の方法で相当する酸付加塩に変換される。塩は毒性のない、水溶性のものが好ましい。適当な酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩のような無機酸塩、または酢酸塩、トルフルオロ酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩のような有機酸塩が挙げられる。
【0027】
【本発明化合物の製造方法】式(I)で示される本発明化合物は、式(II)
【0028】
【化11】


【0029】で示される化合物と、式(III)
【0030】
【化12】


【0031】で示される化合物をエステル化反応に付すことにより製造される。エステル化反応は公知であり、例えば(1)酸ハライドを用いる方法、(2)混合酸無水物を用いる方法、(3)縮合剤を用いる方法等が挙げられる。
【0032】これらの方法を具体的に説明すると、(1)酸ハライドを用いる方法は、例えば、カルボン酸を不活性有機溶媒(クロロホルム、塩化メチレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)中または無溶媒で、酸ハライド(オキサリルクロライド、チオニルクロライド等)と−20℃〜還流温度で反応させ、得られた酸ハライドを三級アミン(ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ジメチルアミノピリジン等)の存在下、アルコールと不活性有機溶媒(クロロホルム、塩化メチレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)中、0〜40℃で反応させることにより行なわれる。
【0033】(2)混合酸無水物を用いる方法は、例えば、カルボン酸を不活性有機溶媒(クロロホルム、塩化メチレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)中または無溶媒で、三級アミン(ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ジメチルアミノピリジン等)の存在下、酸ハライド(ピバロイルクロライド、トシルクロライド、メシルクロライド等)、または酸誘導体(クロロギ酸エチル、クロロギ酸イソブチル等)と、0〜40℃で反応させ、得られた混合酸無水物を不活性有機溶媒(クロロホルム、塩化メチレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)中、相当するアルコールと0〜40℃で反応させることにより行なわれる。
【0034】(3)縮合剤(1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)、2−クロロ−1−メチルピリジニウムヨウ素等)を用いる方法は、例えば、カルボン酸とアルコールを、不活性有機溶媒(クロロホルム、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル等)中または無溶媒で、三級アミン(ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ジメチルアミノピリジン等)を用いるかまたは用いないで、縮合剤を用いて、0〜40℃で反応させることにより行なわれる。
【0035】これら(1)、(2)および(3)の反応は、いずれも不活性ガス(アルゴン、窒素等)雰囲気下、無水条件で行なうことが望ましい。式(II)で示される化合物は、公知の方法、例えば、次に示される反応工程式Aによって製造することができる。
【0036】
【化13】


【0037】前記反応工程式中の各反応はそれぞれ公知の方法により行なわれる。前記工程式において、出発物質として用いる式(IV)および(V)で示される化合物は、それ自体公知であるか、あるいは公知の方法により容易に製造することができる。式(IV)および(V)で示される出発物質として、E体、Z体またはEZ混合物を用いることにより、式(I)で示される化合物を各々E体、Z体またはEZ混合物として得ることができる。本明細書中の各反応において、反応生成物は通常の精製手段、例えば、常圧下または減圧下における蒸留、シリカゲルまたはケイ酸マグネシウムを用いた高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、あるいはカラムクロマトグラフィーまたは洗浄、再結晶等の方法により精製することができる。精製は各反応ごとに行なってもよいし、いくつかの反応終了後に行なってもよい。本発明におけるその他の出発物質および各試薬は、それ自体公知であるか、または公知の方法により製造することができる。
【0038】
【薬理活性】式(I)で示される本発明化合物がPLA2 阻害活性および種々の蛋白分解酵素(例えば、トリプシン、プラスミン、トロンビン、カリクレイン)阻害活性を有することは、種々の実験で確認されている。例えば、実験室の実験では、次に示されるような結果を得た。
【0039】
【実験方法】(1)PLA2 阻害活性50mM トリス・塩酸緩衝液(pH7.5 ,874μl;100mM 塩化ナトリウム,1mM EDTAを含む。)、1M 塩化カルシウム(6μl)、1%ウシ血清アルブミン(10μl)および2.5 mM 10PY−PC(10μl)を含む反応液を調製した。反応液に、種々の濃度の被検化合物あるいは水(50μl)と、10mU/ml PLA2 (ブタ膵臓由来)溶液(50μl)を加えて、Ex=345nm、Em=396nmとで蛍光強度を測定した。被検化合物非存在下での蛍光強度を100%とし、被検化合物存在下での百分率(%)を求め、IC50値を算出した。その結果、実施例3で製造した本発明化合物のIC50値は28μMであった。
【0040】(2)トリプシン阻害活性0.2 M HEPES・水酸化ナトリウム緩衝液(pH8.0 ,100μl)および蒸留水(640μl)中に、種々の濃度の被検化合物あるいは水(10μl)と、80mU/ml トリプシン(ウシ膵臓由来)溶液(50μl)を加えて、30℃で1分間プレインキュベーションした。その反応液に2.5 mM BAPNA(200μl)を加え、30℃でインキュベーションし、405nmでの吸光度を測定した。被検化合物の非存在下での吸光度を100%とし、被検化合物存在下での百分率(%)を求め、IC50値を算出した。その結果、実施例3で製造した本発明化合物のIC50値は0.13μMであった。
【0041】なお、上記実験方法中、10PY−PCは3′−パルミトイル−2−(1−ピレンデカノイル)−L−α−ホスファチジルコリン、HEPESは4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸、およびBAPNAはα−N−ベンゾイル−DL−アルギニン−p−ニトロアニリド塩酸塩を表わす。
【0042】
【毒性】一方、本発明化合物の毒性は非常に低いものであり、実施例2で製造した化合物のCD系雄性ラットにおける急性毒性の値(LD50)は経口投与で2000mg/kg動物体重以上であった。これにより医薬として使用するために十分安全であると判断できる。
【0043】
【医薬品への適用】ヒトを含めた動物、特にヒトにおいて、PLA2 および種々の蛋白分解酵素(例えば、トリプシン、プラスミン、トロンビン、カリクレイン、とりわけトリプシン)を阻害することで、種々の炎症性疾患、アレルギー疾患、汎発性血管内血液凝固症、膵炎、その重症化および多臓器障害の予防および/または治療に有用である。式(I)で示される本発明化合物、その非毒性の酸付加塩、またはその水和物を上記の目的で用いるには、通常、全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与される。投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人一人あたり、1回につき、1mgから1000mgの範囲で、1日1回から数回経口投与されるか、または成人一人あたり、1回につき、1mgから100mgの範囲で、1日1回から数回非経口投与(好ましくは、静脈内投与)されるか、または1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。もちろん前記したように、投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。
【0044】本発明化合物を投与する際には、経口投与のための固体組成物、液体組成物およびその他の組成物および非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤等として用いられる。経口投与のための固体組成物には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。このような固体組成物においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、少なくともひとつの不活性な希釈剤、例えばラクトース、マンニトール、マンニット、グルコース、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと混合される。組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、繊維素グリコール酸カルシウムのような崩壊剤、グルタミン酸またはアスパラギン酸のような溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤または丸剤は必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの胃溶性あるいは腸溶性物質のフィルムで被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
【0045】経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。このような液体組成物においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、一般的に用いられる不活性な希釈剤(例えば精製水、エタノール)に含有される。この組成物は、不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、防腐剤を含有していてもよい。経口投与のためのその他の組成物としては、ひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、それ自体公知の方法により処方されるスプレー剤が含まれる。この組成物は不活性な希釈剤以外に亜硫酸水素ナトリウムのような安定剤と等張性を与えるような安定化剤、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムあるいはクエン酸のような等張剤を含有していてもよい。スプレー剤の製造方法は、例えば米国特許第2,868,691 号および同第3,095,355 号に詳しく記載されている。
【0046】本発明による非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を包含する。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば注射用蒸留水および生理食塩水が含まれる。非水溶性の溶液剤、懸濁剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(登録商標)等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)のような補助剤を含んでいてもよい。これらはバクテリア保留フィルターを通すろ過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することもできる。非経口投与のためのその他の組成物としては、ひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される外溶液剤、軟膏、塗布剤、直腸内投与のための坐剤および膣内投与のためのペッサリー等が含まれる。
【0047】
【実施例】以下、参考例および実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。クロマトグラフィーによる分離の箇所に示されているカッコ内の溶媒は、使用した溶出溶媒または展開溶媒を示し、割合は体積比を表わす。特別な記載がない場合、NMRは重メタノール中で測定している。
【0048】参考例1p−ベンジルオキシカルボニル−α−メチル−桂皮酸 t−ブチルエステル
【0049】
【化14】


【0050】水素化ナトリウム(0.8g,60%オイルを含む)のテトラヒドロフラン(25ml)懸濁液に2−(ジエチルホスホノ)プロピオン酸 t−ブチルエステル(4.8g)のテトラヒドロフラン(6ml)溶液を氷冷下でゆっくり滴下し、室温で30分間撹拌した。この反応混合物を氷冷下に冷却し、p−ベンジルオキシカルボニルベンズアルデヒド(4.0g)のテトラヒドロフラン(15ml)溶液をゆっくり滴下した。反応混合物を室温で30分間撹拌後、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1→15:1)で精製し、次の物性値を有する標題化合物(5.2g)を得た。
TLC:Rf 0.34 (ヘキサン:酢酸エチル=10:1)。
【0051】参考例2p−ベンジルオキシカルボニル−α−メチル−桂皮酸
【0052】
【化15】


【0053】参考例1で製造した化合物(56.0g)のアニソール(40ml)溶液にトリフルオロ酢酸(75ml)を氷冷下で加えた。反応混合物を室温で2時間撹拌した後濃縮した。得られた白色固体をイソプロピルエーテルで洗浄し、ろ過し、減圧乾燥し、次の物性値を有する標題化合物(39.57g)を白色結晶として得た。
TLC:Rf 0.26 (ヘキサン:酢酸エチル:酢酸=12:4:1)。
【0054】参考例3p−ベンジルオキシカルボニル−α−メチル−桂皮酸 N−エトキシカルボニルメチル−N−アリルアミド
【0055】
【化16】


【0056】参考例2で製造した化合物(30g)の塩化メチレン(100ml)の懸濁液に、オキザリルクロライド(200ml)を室温で加えた。反応混合物を室温で1時間撹拌した後、減圧濃縮した。得られた酸クロライドの塩化メチレン(100ml)溶液を、N−エトキシカルボニルメチル−N−アリルアミン(16g)の塩化メチレン(100ml)とピリジン(100ml)の溶液に氷冷下でゆっくり滴下した。反応混合物を室温で30分間撹拌後、水を加えてエーテル抽出した。抽出液を1N−塩酸水溶液、1N−水酸化ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)によって精製し、次の物性値を有する標題化合物(38g)を得た。
TLC:Rf 0.35(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)。
【0057】参考例4p−カルボキシ−α−メチル−桂皮酸 N−エトキシカルボニルメチル−N−アリルアミド
【0058】
【化17】


【0059】参考例3で製造した化合物(5.5g)のアニソール(28ml)溶液に、メタンスルホン酸(14ml)を氷冷下で加えた。反応混合物を室温で2時間撹拌した後減圧濃縮した。残渣に氷水とエーテルを加え、有機層を分離した。得られた有機層を水洗し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で抽出した。すべての水層は氷冷下で1N−塩酸水溶液を酸性になるまで加え、この水層を酢酸エチルで抽出した。抽出液は水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒留去した後、次の物性値を有する標題化合物(2.9g)を得た。TLC:Rf 0.19(ヘキサン:酢酸エチル=3:2)。
【0060】実施例1p−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル−桂皮酸 N−エトキシカルボニルメチル−N−アリルアミド・塩酸塩
【0061】
【化18】


【0062】参考例4で製造した化合物(60g)のピリジン(200ml)溶液にp−アミジノフェノール・塩酸塩(32g)と1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(44g)を加えた。反応混合物を室温で一晩撹拌した後ろ過し、ろ液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:酢酸=50:2:1)によって精製し、次の物性値を有する白色粉末の標題化合物(56g)を得た。
【0063】TLC:Rf 0.55(クロロホルム:メタノール:酢酸=10:2:1);
NMR:δ 8.22(2H,d,J=9.0Hz), 7.95(2H,d,J=9.0Hz), 7.53-7.58(4H,m), 6.67-6.74(1H,m), 5.90(1H,br), 5.26-5.33(2H,m), 4.22(2H,q,J=7.0Hz), 4.14-4.19(4H,m), 2.17(3H,s), 1.29(3H,t,J=7.0Hz)。
【0064】実施例2p−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル−桂皮酸 N−エトキシカルボニルメチル−N−アリルアミド・メタンスルホン酸塩
【0065】
【化19】


【0066】実施例1で製造した化合物(48g)のクロロホルム(500ml)溶液にメタンスルホン酸(6.5ml)を加えた。1時間室温で撹拌後、濃縮を繰り返した。残渣にエーテルを加え結晶化させ、ろ過し、乾燥し、次の物性値を有する標題化合物(53g)を得た。
【0067】TLC:Rf 0.55(クロロホルム:メタノール:酢酸=10:2:1);
NMR:δ 8.22(2H,d,J=9.0Hz), 7.93(2H,d,J=9.0Hz), 7.50-7.60(4H,m), 6.68-6.74(1H,m), 5.82-6.02(1H,m), 5.23-5.34(2H,m), 4.22(2H,q,J=7.0Hz), 4.12-4.17(4H,m), 2.71(3H,s,MeSO3H), 2.15(3H,s), 1.30(3H,t,J=7.0Hz)。
【0068】実施例3p−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル−桂皮酸 N−エトキシカルボニルメチル−N−アリルアミド・酢酸塩
【0069】
【化20】


【0070】実施例1で製造した化合物(50g)のクロロホルム(500ml)溶液に酢酸を加えた。1時間室温で撹拌後、濃縮を繰り返した。残渣にエーテルを加え結晶化させ、ろ過し、乾燥し、次の物性値を有する標題化合物(54g)を得た。
【0071】TLC:Rf 0.55(クロロホルム:メタノール:酢酸=10:2:1);
NMR:δ 1.30(3H,t,J=7.0Hz), 2.15(3H,s), 4.14-4.26(6H,m), 5.27及び5.33(2H,br), 5.90(1H,br), 6.74(1H,br), 7.49-7.57(4H,m), 7.94(2H,d,J=7.0Hz), 8.22(2H,d,J=7.0Hz)。
【0072】
【製剤例】製剤例1以下の各成分を常法により混合した後打錠して、一錠中に50mgの活性成分を含有する錠剤100錠を得た。
・p−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル−桂皮酸 N−エトキシカルボニルメチル−N−アリルアミド・メタンスルホン酸塩…… 5.0 g・カルボキシメチルセルロースカルシウム(崩壊剤) …… 0.2 g・ステアリン酸マグネシウム(潤滑剤) …… 0.1 g・微結晶セルロース …… 4.7 g
【0073】製剤例2以下の各成分を常法により混合した後、溶液を常法により滅菌し、5mlずつアンプルに充填し、常法により凍結乾燥し、1アンプル中20mgの活性成分を含有するアンプル100本を得た。
・p−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル−桂皮酸 N−エトキシカルボニルメチル−N−アリルアミド・メタンスルホン酸塩…… 2g・無水クエン酸 ……200 mg・蒸留水 ……500 ml

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(I)
【化1】


で示されるp−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル桂皮酸 N−アリル−N−エトキシカルボニルメチルアミドまたはその酸付加塩。
【請求項2】 p−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル桂皮酸 N−アリル−N−エトキシカルボニルメチルアミド・メタンスルホン酸塩である請求項第1項記載の化合物。
【請求項3】 p−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル桂皮酸 N−アリル−N−エトキシカルボニルメチルアミド・塩酸塩である請求項第1項記載の化合物。
【請求項4】 p−(p−アミジノフェノキシカルボニル)−α−メチル桂皮酸 N−アリル−N−エトキシカルボニルメチルアミド・酢酸塩である請求項第1項記載の化合物。
【請求項5】 請求項第1項記載の式(I)で示される化合物またはその酸付加塩を有効成分として含有する蛋白分解酵素および/またはホスホリパーゼA2 阻害剤。

【特許番号】第2736952号
【登録日】平成10年(1998)1月16日
【発行日】平成10年(1998)4月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−252178
【出願日】平成5年(1993)9月16日
【公開番号】特開平8−109164
【公開日】平成8年(1996)4月30日
【審査請求日】平成8年(1996)1月12日
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)