説明

アミドの脱酸素によるアミンの製造方法

【課題】 アミド化合物を温和な条件下で脱酸素して、対応するアミン化合物を高い収率及び選択率で製造できる方法を提供する。
【解決手段】 本発明のアミンの製造方法は、担体表面に金ナノ粒子を固定化した表面金固定化触媒及びシラン化合物の存在下、アミドを脱酸素して対応するアミンを得ることを特徴とする。担体としてハイドロキシアパタイトを好適に使用できる。シラン化合物として、ジメチルフェニルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温和な条件下でアミドを脱酸素して、対応するアミンを高収率で得ることができるアミンの製造方法に関する。アミンは、有機化学品、医薬、農薬等の精密化学品などの原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
アミド化合物のアミン化合物への脱酸素反応は、有機合成の分野や生化学の分野で非常に重要な反応である。しかしながら、従来の方法は、量論反応であったり、触媒反応であっても活性や選択率が低い、TON(ターンオーバー数)やTOF(単位時間当たりのTON)が低い、適用範囲が狭い等の欠点があり、工業的に十分満足できる方法とは言えなかった(非特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Adv. Synth. Catal., 6, 869-883(2010)
【非特許文献2】Chem. Commun., 3154-3156(2007)
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc., 132, 1770-1771(2010)
【非特許文献4】J. Am. Chem. Soc., 130, 18-19(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、アミド化合物を温和な条件下で脱酸素して、対応するアミン化合物を高い収率及び選択率で製造できる方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、アミド化合物を触媒の存在下で脱酸素し、工業的に効率よくアミンを製造できる方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、広範囲のアミド化合物から脱酸素により対応するアミンを収率よく得ることのできる汎用性の高いアミンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、担体表面に金ナノ粒子を固定化して得られる表面金固定化触媒の存在下、還元剤としてシラン化合物を用いてアミド化合物を脱酸素すると、温和な条件下、高い収率、選択率及びTON(ターンオーバー数)で、対応するアミン化合物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、担体表面に金ナノ粒子を固定化した表面金固定化触媒及びシラン化合物の存在下、アミドを脱酸素して対応するアミンを得ることを特徴とするアミンの製造方法を提供する。
【0007】
前記担体としては、ハイドロキシアパタイトが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アミド化合物から、高い収率、選択率で、対応するアミン化合物を製造することができる。また、固体触媒を用いるため取り扱いやすく、使用した触媒は容易に回収できるとともに、反応に使用しても触媒活性、選択性が低下しないため、繰り返し使用が可能である。しかも、触媒のTON(ターンオーバー数)が著しく大きいので、アミン化合物を安価に且つ工業的に効率よく製造できる。また、本発明の製造方法は基質適応性が広く、種々のアミド化合物に適用でき、汎用性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[表面金固定化触媒]
本発明で用いる表面金固定化触媒は、担体表面に金ナノ粒子を固定化して得られる。前記担体としては、特に限定されず、例えば、ハイドロキシアパタイト(HAP)、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al23)、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO2)、セリア(CeO2)、活性炭(C)等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、担体として、ハイドロキシアパタイト(HAP)、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al23)などが好ましく、特に、目的化合物を極めて高い収率及び選択率で得られる点で、ハイドロキシアパタイト(HAP)が好ましい。従って、本発明における表面金固定化触媒としては、ハイドロキシアパタイト表面に金ナノ粒子が固定されたハイドロキシアパタイト固定化金ナノ粒子触媒(以下、「AuHAP」と称する場合がある)が好ましい。
【0010】
上記ハイドロキシアパタイトは、例えば、下記式(1)
Ca10-Z(HPO4Z(PO46-Z(OH)2-Z・nH2O (1)
(式中、Zは0≦Z≦1を満たす数である。nは0〜2.5の数である)
で表される化合物である。
【0011】
ハイドロキシアパタイトは、例えば、湿式合成法により調製することができる。前記湿式合成法は、具体的には、カルシウム溶液とリン酸溶液を10:6の割合のモル濃度比でpHを7.4以上の所定値に維持したバッファー液中に長時間にわたり順次滴下することにより、上記バッファー液中にハイドロキシアパタイトを析出させ、析出したハイドロキシアパタイトを捕集する方法である。
【0012】
本発明において好適に使用できるハイドロキシアパタイトの例としては、例えば、和光純薬工業株式会社製、商品名「リン酸三カルシウム」が挙げられる。
【0013】
担体の表面に金ナノ粒子を固定化する方法としては、特に制限されることがなく、例えば、塩化金(AuCl3)、塩化金酸(HAuCl4)等の金化合物とハイドロキシアパタイト等の担体とを溶媒中で混合し、撹拌することによりハイドロキシアパタイト等の担体表面に金イオンを固定化した後、該金イオンを適宜な方法により還元することにより行う方法等を挙げることができる。
【0014】
前記溶媒としては、使用する金化合物を溶解することができればよく、例えば、水、アセトン、アルコール類等を挙げることができる。金ナノ粒子の固定化処理を行う際の金化合物の溶液中における濃度としては、特に制限されることがなく、例えば、0.1〜100mMの範囲から適宜選択することができる。撹拌時の温度は、例えば、20〜80℃の範囲から選択することができるが、通常室温(25℃)で行われる。撹拌時間は撹拌時の温度によっても異なるが、例えば、25℃で撹拌する場合、6〜24時間程度、好ましくは、8〜12時間程度である。撹拌終了後は、必要に応じて水や有機溶媒等で洗浄し、真空乾燥等により乾燥してもよい。
【0015】
前記還元に用いる還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)等の水素化ホウ素錯化合物、ヒドラジン、水素(H2)、ジメチルフェニルシラン等のシラン化合物、ヒドロキシ化合物等を挙げることができる。ヒドロキシ化合物としては、例えば、第1級アルコール、第2級アルコール等のアルコール化合物を挙げることができる。また、ヒドロキシ化合物は、複数のヒドロキシル基を有していてもよく、1価アルコール、2価アルコール、多価アルコール等の何れであってもよい。
【0016】
本発明におけるハイドロキシアパタイト等の担体表面に金ナノ粒子の固定化処理を施す際に使用する還元剤としては、なかでも、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)等の水素化ホウ素錯化合物が好ましく、特に、水素化ホウ素カリウム(KBH4)が好ましい。水素化ホウ素カリウム(KBH4)で還元することにより得られる表面金固定化触媒は、固定化した金属粒子の平均粒径がより小さくなる傾向があり、それにより、比表面積を増大することができ、触媒活性を著しく向上させることができる。
【0017】
表面金固定化触媒中の金ナノ粒子含有率としては、例えば、ハイドロキシアパタイト等の担体1gに対して0.01〜3mmol、好ましくは0.02〜0.5mmol、特に好ましくは0.03〜0.1mmolである。表面金固定化触媒中の金ナノ粒子含有率が上記範囲を上回ると、触媒作用が低下する傾向がある。
【0018】
[シラン化合物]
本発明において、還元剤として用いられるシラン化合物としては、分子中に少なくとも1個のSi−H結合を有しているシラン化合物であれば特に限定されず、例えば、芳香族シラン化合物、脂肪族シラン化合物、ポリシロキサンなどが挙げられる。
【0019】
前記芳香族シラン化合物としては、例えば、ジメチルフェニルシラン、ジメチル−p−クロロフェニルシラン、ジメチル−p−メトキシフェニルシラン、メチルジフェニルシラン、ジエチルフェニルシラン、エチルジフェニルシラン、ジフェニルシラン、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0020】
脂肪族シラン化合物としては、例えば、t−ブチルジメチルシラン、トリ(n−ブチル)シラン、トリ(イソプロピル)シラン、トリエチルシラン、ジメチルオクタデカノイルシランなどが挙げられる。
【0021】
ポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3,−テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,−テトラエチルジシロキサン、1,1,3,3,−テトラフェニルジシロキサン、ヘキサメチルトリシロキサン、オクタメチルテトラシロキサン、デカメチルペンタシロキサンなどのポリアルキル及び/又はアリールヒドロシロキサン(ポリメチルヒドロシロキサン、ポリエチルヒドロシロキサン、ポリフェニルヒドロシロキサン、ポリメチルフェニルヒドロシロキサン等)などが挙げられる。
【0022】
[アミド]
本発明の製造方法において、基質(原料成分)として用いられるアミドとしては、例えば、下記式(2)
【化1】

(式中、R1は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよく且つ複素環を構成する炭素原子が式中に示されるカルボニル基の炭素原子に結合している複素環式基を示し、R2、R3は、同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよく且つ複素環を構成する炭素原子が式中に示される窒素原子に結合している複素環式基を示す。R1、R2、R3のうち少なくとも2つが互いに結合して、式中に示される−CON−、又は窒素原子とともに環を形成していてもよい)
で表される化合物が挙げられる。
【0023】
前記R1、R2、R3における炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの基が2以上結合した基が含まれる。
【0024】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10)程度のアルキル基;ビニル、アリル、1−ブテニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10)程度のアルケニル基;エチニル、プロピニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10)程度のアルキニル基などが挙げられる。
【0025】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル、シクロへキセニル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン−1−イル基、ノルボルニル、アダマンチル、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3−イル基などの橋かけ環式炭化水素基などが挙げられる。
【0026】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜14(好ましくは6〜10)程度の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0027】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、例えば、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル基等のシクロアルキル−アルキル基(例えば、C3-12シクロアルキル−C1-4アルキル基等)等が含まれる。
【0028】
脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)、アリール置換C2-10アルケニル基(例えば、2−フェニルビニル基)などが含まれる。
【0029】
前記炭化水素基は、種々の置換基、例えば、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基など)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)、シアノ基、ニトロ基、アシル基、置換又は無置換アミノ基(炭化水素基置換アミノ基、アシル基置換アミノ基、無置換アミノ基等)、スルホ基、複素環式基などを有していてもよい。前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。また、脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基の環には芳香族性又は非芳香属性の複素環が縮合していてもよい。
【0030】
前記R1、R2、R3における複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾール、γ−ブチロラクトン環などの5員環、4−オキソ−4H−ピラン、テトラヒドロピラン、モルホリン環などの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメン、クロマン、イソクロマン環などの縮合環、3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン環、3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン環などの橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール環などの5員環、4−オキソ−4H−チオピラン環などの6員環、ベンゾチオフェン環などの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール環などの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン環などの6員環、インドール、インドリン、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリン環などの縮合環など)などが挙げられる。上記複素環式基には、前記炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル、エチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基など)などの置換基を有していてもよい。
【0031】
前記R1、R2、R3のうち少なくとも2つは、互いに結合して、式中に示される−CON−、又は窒素原子とともに環を形成していてもよい。このような環として、ブチロラクタム環、バレロラクタム環、カプロラクタム環などの4〜15員のラクタム環;アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環などの3〜15員の含窒素非芳香族性複素環が挙げられる。例えば、R1とR2又はR3が互いに結合して、式中に示される−CON−とともに4〜15員のラクタム環を構成してもよく、R2とR3が互いに結合して、式中に示される窒素原子とともに3〜15員の含窒素非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0032】
2、R3のうち少なくとも一方は、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよく且つ複素環を構成する炭素原子が式中に示される窒素原子に結合している複素環式基であるのが好ましい。
【0033】
本発明において、基質として用いられるアミドの代表的な例として、例えば、N,N−ジメチルベンズアミド、N−メチルベンズアミド、N,N−ジメチル−4−シアノベンズアミド、N,N−ジメチル−4−メトキシベンズアミド、N,N−ジメチル−4−メトキシカルボニルベンズアミド、N−ベンゾイルピペリジン、N−ベンゾイルモルホリン等の芳香族カルボン酸アミド誘導体;N−シンナモイルピペリジン、N−(3−フェニルプロピオニル)ピペリジン等の芳香族基置換脂肪族カルボン酸アミド誘導体;N,N−ジメチルヘプタン酸アミド等の脂肪族カルボン酸アミド誘導体;N−メチル−ε−カプロラクタム等のラクタム;N−(2−フロイル)ピペリジン、N−(2−テノイル)ピペリジン等の複素環カルボン酸アミド誘導体などが挙げられる。
【0034】
[アミンの製造]
本発明では、担体表面に金ナノ粒子を固定化した表面金固定化触媒及びシラン化合物の存在下、アミドを脱酸素して対応するアミンを生成させる。アミドとして前記式(2)で表される化合物を使用した場合には、下記式(3)
【化2】

(式中、R1は、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよく且つ複素環を構成する炭素原子が式中に示されるメチレン基に結合している複素環式基を示し、R2、R3は、同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は置換基を有していてもよく且つ複素環を構成する炭素原子が式中に示される窒素原子に結合している複素環式基を示す。R1、R2、R3のうち少なくとも2つが互いに結合して、式中に示される−CH2N−、又は窒素原子とともに環を構成していてもよい)
で表される対応するアミンが得られる。R1、R2、R3は前記と同じ基である。
【0035】
反応は下記に示される反応機構に従って進行すると考えられる。なお、触媒としてAuHAPを使用した場合について説明するが、他の担体に金ナノ粒子を固定化して得られる表面金固定化触媒を使用した場合も同様である。式中、R1、R2、R3は前記と同じである。RSiHはシラン化合物を示す。
【0036】
【化3】

【0037】
表面金固定化触媒の使用量としては、例えば、基質であるアミドに対して、金(Au)として、0.0001〜50モル%程度であり、なかでも0.01〜20モル%程度、特に0.1〜5モル%程度が好ましい。
【0038】
シラン化合物の量は、基質であるアミド1モルに対して、例えば、0.8〜50モル、好ましくは0.9〜20モル、さらに好ましくは1〜10モルである。シラン化合物の使用量が少なすぎると、アミンの収率が低下しやすくなり、逆に、シラン化合物の使用量が多すぎる場合は経済的に不利となる。
【0039】
上記反応は、液相で行われることが好ましく、使用する溶媒としては、例えば、トリフルオロトルエン、フルオロベンゼン、フルオロヘキサン等のフッ素系溶媒;芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン等)や脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等)等の炭化水素;1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル;これらの混合物等を挙げることができる。これらのなかでも、溶媒としては炭化水素が好ましく、特にトルエン等の芳香族炭化水素が好ましい。また、溶媒の使用量としては、例えば、基質の濃度が2〜10重量%程度となる範囲内で使用することが好ましい。
【0040】
上記反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方法により行うことができる。
【0041】
本発明のアミンの製造方法によれば、温和な条件でも、円滑に反応を進行させることができる。反応温度としては、基質の種類や目的生成物の種類等に応じて適宜調整することができ、例えば、10〜200℃、好ましくは50〜160℃程度、特に好ましくは80〜130℃程度である。反応時間は、反応温度等に応じて適宜調整することができ、例えば10分〜120時間程度、好ましくは1時間〜90時間程度である。
【0042】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0043】
本発明のアミンの製造方法によれば、アミドの脱酸素反応を温和な条件下で行うことができる。また、表面金固定化触媒が高いTON(ターンオーバー数)を示すため、少ない触媒量で効率よく対応するアミンを製造できる。また、活性のみならず反応選択性も高く、しかも広範囲のアミドに適用できる。
【0044】
また、反応に使用した表面金固定化触媒は担体に担持されているため、担持された金ナノ粒子が反応溶液中に溶出しにくく、劣化しにくい。また、表面金固定化触媒は、反応液から濾過、遠心分離等の物理的な分離手法により容易に回収することができる。回収された表面金固定化触媒はそのままで、又は洗浄、乾燥処理を施した後、再使用できる。洗浄処理は、適宜な溶媒(例えば、水、トルエン等の有機溶媒)により数回(例えば2〜3回)洗浄する方法により行うことができる。
【0045】
回収された表面金固定化触媒は、未使用の表面金固定化触媒とほぼ同等の触媒能を示す。このように、本発明によれば、製造コストの多くの割合を占める表面金固定化触媒を回収し、繰り返し利用することができるため、製造コストを著しく低減できる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0047】
製造例1
50mLのナス型フラスコ中に塩化金酸(HAuCl4)0.1mmolとイオン交換水 50mLを加え、その溶液にハイドロキシアパタイト(HAP;リン酸三カルシウム、和光純薬工業株式会社製)1.0gを加え、室温で2分間撹拌した後、アンモニア(5mmol)を加え、更に12時間撹拌した。その後、吸引濾過し、脱イオン水(1L)で洗浄し、真空乾燥させてAu(III)HAP(Au:3価)(Au:0.083mmol/g)を得た。
50mLのナス型フラスコ中でKBH4(0.9mmol)に水(50mL)を加えて溶解し、そこに得られたAu(III)HAP 0.9gを加え、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。
撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水1Lで洗浄し、24時間真空乾燥させて赤紫色の粉末のAuHAP(Au:0価)(担体1gに対するAuの担持量:0.083mmol/g)を得た。得られた粉末の平均粒子径は3.0nm(標準偏差σ=0.9nm)であった。
【0048】
製造例2
ハイドロキシアパタイトに代えてチタニア(TiO2)を使用した以外は製造例1と同様にして、チタニア表面に金ナノ粒子が固定化された触媒(Au/TiO2)を得た。
【0049】
製造例3
ハイドロキシアパタイトに代えてアルミナ(Al23)を使用した以外は製造例1と同様にして、アルミナ表面に金ナノ粒子が固定化された触媒(Au/Al23)を得た。
【0050】
製造例4
ハイドロキシアパタイトに代えてマグネシア(MgO)を使用した以外は製造例1と同様にして、マグネシア表面に金ナノ粒子が固定化された触媒(Au/MgO)を得た。
【0051】
製造例5
ハイドロキシアパタイトに代えてシリカ(SiO2)を使用した以外は製造例1と同様にして、シリカ表面に金ナノ粒子が固定化された触媒(Au/SiO2)を得た。
【0052】
製造例6
200mLのナス型フラスコに硝酸銀(AgNO3)1mmolとイオン交換水 150mLを加え、そこにハイドロキシアパタイト(HAP;リン酸三カルシウム、和光純薬工業株式会社製)2.0gを加えて室温で6時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水1Lで洗浄し、24時間真空乾燥させて、Ag(I)HAP(Ag:1価)を得た。
さらに、200mLのナス型フラスコ中でKBH4(9mmol)に水(150mL)を加えて溶解し、そこに得られたAg(I)HAP 1.8gを加え、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過し、脱イオン水1Lで洗浄し、24時間真空乾燥させて、粉末状のAgHAP(Ag:0価)(担体1gに対するAgの担持量:0.3mmol/g)を得た。
【0053】
製造例7
塩化金酸(HAuCl4)に代えてNa2PdCl4を使用した以外は製造例1と同様にして、PdHAP(Pd:0価)(担体1gに対するPdの担持量:0.1mmol/g)を得た。
【0054】
製造例8
塩化金酸(HAuCl4)に代えてNa2PtCl4を使用した以外は製造例1と同様にして、PtHAP(Pt:0価)(担体1gに対するPtの担持量:0.1mmol/g)を得た。
【0055】
製造例9
塩化金酸(HAuCl4)に代えてRuCl3・xH2Oを使用した以外は製造例1と同様にして、RuHAP(Ru:0価)(担体1gに対するRuの担持量:0.1mmol/g)を得た。
【0056】
製造例10
塩化金酸(HAuCl4)に代えてRhCl3を使用した以外は製造例1と同様にして、RhHAP(Rh:0価)(担体1gに対するRhの担持量:0.1mmol/g)を得た。
【0057】
実施例1
ガラス製耐圧反応管に、製造例1で得られたAuHAP 0.10g(Au:0.0083mmol;N,N−ジメチルベンズアミドに対して1.6mol%)、トルエン 5mL、N,N−ジメチルベンズアミド 0.5mmol、ジメチルフェニルシラン 2.5mmolを加え、アルゴン雰囲気下(1atm(=0.10MPa))、110℃で3時間撹拌してN,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率99%以上、選択率99%以上)。なお、収率、選択率はガスクロマトグラフィー(内標:ナフタレン)により求めた。単離収率は92%であった。
【0058】
実施例2
製造例1で得られたAuHAPに代えて、実施例1の反応終了後、反応液を濾過して触媒を分離し、トルエン10mLで3回洗浄した後、室温(25℃)で減圧乾燥して得られたAuHAPを使用した以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率99%、選択率99%以上)。
【0059】
実施例3
製造例1で得られたAuHAPに代えて、実施例2の反応終了後、反応液を濾過して触媒を分離し、トルエン10mLで3回洗浄した後、室温(25℃)で減圧乾燥して得られたAuHAPを使用した以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率99%、選択率99%以上)。
【0060】
実施例4
製造例1で得られたAuHAPを0.015g使用し、基質であるN,N−ジメチルベンズアミドを2g使用し、反応時間を24時間とした以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率99%、選択率99%以上)。なお、単離収率は96%であった。TON及びTOFは、それぞれ、10000及び416hr-1であった。これらの値は、従来の触媒系と比較して2オーダー高い値である。
【0061】
実施例5〜16
基質(アミド)及び反応時間を、下記表1に記載の基質及び反応時間に変更した以外は実施例1と同様にして、対応するアミンを得た。なお、実施例16では、還元剤として、ジメチルフェニルシランの代わりに1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(1.25mmol)を用いた。実施例1〜16の結果を表1に示す。表中、収率の欄の括弧内の数字は単離収率である。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例17
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例2で得られたAu/TiO2を用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率88%、選択率99%以上)。
【0064】
実施例18
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例3で得られたAu/Al23を用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率80%、選択率99%以上)。
【0065】
実施例19
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例4で得られたAu/MgOを用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率67%、選択率99%以上)。
【0066】
実施例20
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例5で得られたAu/SiO2を用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率55%、選択率99%以上)。
【0067】
比較例1
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例6で得られたAgHAPを用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率29%、選択率99%以上)。
【0068】
比較例2
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例7で得られたPdHAPを用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率20%、選択率99%以上)。
【0069】
比較例3
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例8で得られたPtHAPを用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率7%、選択率99%以上)。
【0070】
比較例4
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例9で得られたRuHAPを用いた以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、得られたN,N−ジメチルベンジルアミンは痕跡量であった。
【0071】
比較例5
製造例1で得られたAuHAPの代わりに製造例10で得られたRhHAPを用いた以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、得られたN,N−ジメチルベンジルアミンは痕跡量であった。
【0072】
比較例6
製造例1で得られたAuHAPの代わりにHAuCl4を用いた以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、得られたN,N−ジメチルベンジルアミンは痕跡量であった。
【0073】
比較例7
製造例1で得られたAuHAPの代わりにAu23を用いた以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、N,N−ジメチルベンジルアミンは得られなかった。
【0074】
比較例8
製造例1で得られたAuHAPの代わりにHAP(ハイドロキシアパタイト)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、N,N−ジメチルベンジルアミンは得られなかった。
【0075】
実施例21
ジメチルフェニルシランの代わりにジフェニルシラン(2.5mmol)を用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率77%、選択率99%以上)。
【0076】
実施例22
トルエンの代わりに酢酸エチル(5mL)を溶媒として用いた以外は実施例1と同様にして、N,N−ジメチルベンジルアミンを得た(収率87%、選択率99%以上)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体表面に金ナノ粒子を固定化した表面金固定化触媒及びシラン化合物の存在下、アミドを脱酸素して対応するアミンを得ることを特徴とするアミンの製造方法。
【請求項2】
担体としてハイドロキシアパタイトを用いる請求項1記載のアミンの製造方法。

【公開番号】特開2012−121843(P2012−121843A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274225(P2010−274225)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】