説明

アミドメチル化芳香族化合物重合体の製造方法

【課題】
本発明は、芳香族化合物重合体のアミドメチル化において反応後の芳香族化合物重合体の黄変および着色防止方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
芳香族化合物重合体のアミドメチル化時の反応温度を6℃以下、さらに望ましくは5℃以下に管理することにより生成物の黄変、着色を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミドメチル化されてなる芳香族化合物重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物重合体へのアミドメチル化反応は芳香族化合物重合体への官能基導入法として知られている。
具体的には芳香族化合物重合体にクロロアセトアミドメチル基等を導入することで芳香族化合物重合体に反応性を付与することができる。ここで用いられる芳香族化合物重合体としては、ポリユーデルスルホン、ポリスチレン、ポリエーテルイミド、ポリイミドがよく用いられる。
これらの芳香族化合物重合体のアミドメチル化反応は、試薬としてN−メチロール−α−クロロアセトアミド等が用いられる(特許文献1〜5)。また同時に芳香族化合物重合体の架橋反応を行うことを目的にパラホルムアルデヒドが添加される場合もある。(特許文献6〜9)
芳香族化合物重合体のアミドメチル化反応はニトロ化やスルホン化、ハロゲン化、フリーデルクラフツアシル化反応等と同様の芳香核の親電子置換反応である。
【0003】
芳香族化合物重合体のアミドメチル化反応においては、N−メチロール−α−クロロアセトアミドの溶媒としてニトロベンゼンまたはニトロプロパンと濃硫酸との混合溶媒が用いられる。ニトロベンゼンまたはニトロプロパンは芳香族化合物重合体の良溶媒として、芳香族化合物重合体を溶解または膨潤状態にして重合体の反応を均一に行う目的で使用される。一方の濃硫酸は芳香族化合物重合体にN−メチロール−α−クロロアセトアミドが反応する際に生ずる水の脱水剤として機能し、芳香族環のアミドメチル反応の進行において触媒的に機能する重要な役割を担っている。
芳香族化合物重合体のクロロアセトアミドメチル化においては、反応試薬としてN−メチロール−α−クロロアセトアミドが用いられ、芳香族環への親電子置換反応が進行する。
この親電子置換反応は、N−メチロール−α−クロロアセトアミドから遊離するOH基と、ベンゼン環から引き抜かれる水素基とによって生ずる水を濃硫酸が脱水することによって進行する。そのため、反応の進行に伴い濃硫酸と水の混合熱によって反応系の温度は上昇する。
濃硫酸と水の混合においては、水に対して濃硫酸を徐々に加えるのが一般的である。反対に濃硫酸に対して水を加えるとその接触面で加えた水が激しく発熱、突沸して飛散するためである。このアミドメチル化においても、反応の進行と共に生ずる水と濃硫酸の混合熱によって反応系の温度は上昇する。
アミドメチル化試薬のN−メチロール−α−クロロアセトアミドは反応液中で徐々に分解してホルムアルデヒドを生ずる。反応系の温度の上昇はこのN−メチロール−α−クロロアセトアミドの分解を促進するため、反応系の温度上昇に伴って反応系にはN−メチロール−α−クロロアセトアミドの分解によって生じたホルムアルデヒドが増加する。
一方、芳香族化合物重合体のクロロアセトアミドメチル化時、重合体を膨潤または溶解状態にて重合体内部まで均一に反応を進めるために、脱水剤の濃硫酸と共に重合体の溶媒としてニトロベンゼンやニトロプロパン等の溶媒が使用される。この際、反応中の重合体の溶解による溶出、脱離を防止するために、アミドメチル化試薬のN−メチロール−α−クロロアセトアミドに加えて架橋剤としてパラホルムアルデヒドが添加される。
特に芳香族化合物重合体内部ではアミドメチル化反応の進行に伴って温度が上昇し易く、架橋剤として添加されたパラホルムアルデヒドに加えて、アミドメチル化試薬のN−メチロール−α−クロロアセトアミドの熱分解によって生じたホルムアルデヒドによって、部分的なホルムアルデヒド濃度の上昇が起こる。その結果、過剰なホルムアルデヒドの存在下で反応された芳香族化合物重合体は黄色または黄褐色、場合によっては茶褐色を呈する。
この様にして得られたアミドメチル化芳香族化合物重合体は、黄色または黄褐色、茶褐色に着色し、その後の種々の反応を受けても元の芳香族化合物重合体の色を維持することは出来ない。そのため、用途によってはその着色が問題となってしまう。
【0004】
先に挙げた特許文献1〜9においては、アミドメチル化後の芳香族化合物重合体の黄変および着色に関する記載されておらず考慮されていない。
【特許文献1】特開平7−118387号公報
【特許文献2】特開平6−192425号広報
【特許文献3】特開2004−75943号広報
【特許文献4】特開2002−331237号広報
【特許文献5】特開2002−113097号広報
【特許文献6】特開2004−73618号公報
【特許文献7】特開2003−339854号公報
【特許文献8】特開2003−310752号広報
【特許文献9】特開2002−1113097号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アミドメチル化後の芳香族化合物重合体の黄変、着色を防止する事によって、元の芳香族化合物重合体の色を維持し、黄変、着色による問題を低減、解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.アミドメチル化反応時の温度を6℃以下で行うアミドメチル化芳香族化合物重合体の製造方法。
2.前記アミドメチル化反応に用いられる試薬がN−メチロール−α−クロロアセトアミドである前記1に記載のアミドメチル化芳香族化合物重合体の製造方法。
3.前記アミドメチル化反応に用いられる試薬がN−メチロール−α−クロロアセトアミドおよびパラホルムアルデヒドである前記1に記載のアミドメチル化芳香族化合物重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、アミドメチル化後の芳香族化合物重合体の黄変、着色を防止する事が可能となり、元の芳香族化合物重合体の色を維持することができ、黄変、着色による問題を低減、解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に使用される芳香族化合物重合体の形態としては、重合体の溶液、重合体からなる繊維、不織布、シート、など種々の形態があるが、これに限定するものではない。
【0009】
本発明における芳香族化合物重合体とはその分子構造に芳香族環を有する化合物の重合体であり、ポリユーデルスルホン、ポリスチレン、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが例としてあげられる。これらの芳香族化合物重合体にはポリプロピレン等の他の重合体によって補強された成形体も含まれる。この補強された成形体が繊維状を有する場合、中心部にポリプロピレン等の他の重合体を有する芯鞘構造を有する繊維や、複数の島部にポリプロピレン等の他の重合体を分散させた海島型複合繊維が挙げられる。すなわち、アミドメチル化反応ができるものであれば特にこれらに限定するものではない。
【0010】
以下に本発明に係るアミドメチル化芳香族化合物の製造方法の1例を示す。
【0011】
不溶性のポリプロピレンを島成分とし、ポリスチレンとポリプロピレンの混合物を海成分とする多芯海島型複合繊維を溶融紡糸法で調製し、2本合糸して筒編みを作製する。(以降、これをポリプロピレン補強ポリスチレン繊維と呼ぶ。)
ニトロベンゼンと硫酸の混合溶液にパラホルムアルデヒドを溶解させる。パラホルムアルデヒドはアミドメチル化反応と同時に架橋反応を生じさせるために添加する。溶解温度は、20℃前後が好ましい。その後、混合溶液を冷却しアミドメチル化試薬を添加する。アミドメチル化試薬はN−メチロール−α−クロロアセトアミドが好ましい。また、試薬添加時の混合溶液温度は6℃以下、好ましくは5℃以下となるように管理する。なお、試薬添加時は混合溶液の温度が若干上昇するため、目的とする温度よりも若干低めに設定する。
【0012】
これに上記で調製したポリプロピレン補強ポリスチレン繊維を浸し、反応液の温度を6℃以下、好ましくは5℃以下に維持管理し静置する。その反応時間は2時間以上が好ましい。この温度が高いと反応後に得られたアミドメチル化芳香族化合物重合体の黄変、着色が発生する。反応後、繊維をメタノールで洗浄、水洗、乾燥して、アミドメチル化されたポリスチレン繊維を得ることが可能となる。
【実施例】
【0013】
以下に実施例を用いて詳細に説明を加えるが、発明の内容が実施例に限定されるものではない。
【0014】
なお、得られたアミドメチル化芳香族化合物重合体の黄変、着色は以下のようにして実施した。20Wの白色蛍光灯下約1mの位置に、反応前の芳香族化合物重合体と得られたアミドメチル化芳香族化合物重合体を並べておき目視にて比較した。
(実施例1)
不溶性のポリプロピレン(“ノーブレン”(登録商標)J3HG)50重量部を島成分とし、ポリスチレン(“スタイロン”(登録商標)666)46重量部とポリプロピレン(“ノーブレン”(登録商標)J3HG)4重量部の混合物を海成分とする多芯海島型複合繊維(島数16、単糸繊度2.6デニール、引っ張り強度2.9g/d、伸度50%、フィラメント数42)を溶融紡糸法で調製し、2本合糸して筒編みを作製した(以降、これをポリプロピレン補強ポリスチレン繊維と呼ぶ。)
ニトロベンゼン800gと硫酸800gの混合溶液にパラホルムアルデヒド1.7gを20℃で溶解した後、0℃に冷却し、100gのN−メチロール−α−クロロアセトアミドを加えて、5℃以下で溶解した。これに上記で調製したポリプロピレン補強ポリスチレン繊維100gを浸し、反応液の温度を5℃に管理して2時間静置した。その後、繊維を取りだし、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールでよく洗った後、水洗し、乾燥して、140gのα-クロロアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維を得た。目視による観察で得られたα−クロロアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維は、反応前のポリスチレン繊維と同様に着色することなく白色を呈していた。
(比較例1)
ニトロベンゼン800gと硫酸800gの混合溶液にパラホルムアルデヒド1.7gを20℃で溶解した後、0℃に冷却し、100gのN−メチロール−α−クロロアセトアミドを加えて、5℃で溶解した。これに上記実施例1で調製したポリプロピレン補強ポリスチレン繊維100gを浸し、18〜22℃で2時間静置した。その後、繊維を取りだし、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールでよく洗った後、水洗し、乾燥して、140gのα−クロロアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維を得た。目視による観察で反応前のポリスチレン繊維は白色を呈していたが、得られたα−クロロアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維は黄色を呈していた。
(実施例2)
36島の海島型複合繊維であって、島が更に芯鞘複合によりなるものを次の成分を用いて紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の紡糸条件で得た。
【0015】
島の芯成分・・・ポリプロピレン(“ノーブレン”(登録商標)J3HG)
島の鞘成分・・・ポリスチレン(“スタイロン”(登録商標)666)90重量%、ポリプロピレン(“ノーブレン”(登録商標)J3HG)10重量%
海成分 ・・・エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3wt%含む共重合ポリエステル
複合比率 ・・・芯:鞘:海=40:40:20(重量比率)
この海成分を熱苛性ソーダ水溶液で加水分解し、芯鞘型のポリプロピレン補強繊維として直径4μmの原糸を得た。繊維径は不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−5400LV)で1000〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値の小数点以下第一位を四捨五入し算出することで求めた。以降これを原糸と呼ぶ。
【0016】
ニトロベンゼン600mLと硫酸390mLの混合溶液にパラホルムアルデヒド3gを20℃で溶解後、0℃に冷却し、75.9gのN−メチロール−α−クロロアセトアミドを加えて5℃で溶解した。これに10gの原糸を浸して5℃以下に保ちながら2時間静置した後、取り出し、大過剰の冷メタノール中に入れて洗浄した。その原糸をメタノールで更によく洗った後、水洗し乾燥して15.2gのクロロアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維を得た。
目視による観察で得られたα−クロロアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維は、反応前のポリスチレン繊維と同様に着色することなく白色を呈していた。
(比較例2)
ニトロベンゼン600mLと硫酸390mLの混合溶液にパラホルムアルデヒド3gを20℃で溶解後、0℃に冷却し、75.9gのN−メチロール−α−クロロアセトアミドを加えて5℃で溶解した。これに実施例2で用いたのと同じ10gの原糸を浸して18〜22℃で2時間静置した後、取り出し、大過剰の冷メタノール中に入れて洗浄した。その原糸をメタノールで更によく洗った後、水洗し乾燥して15.2gのクロロアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維を得た。
目視による観察で得られたα−クロロアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維は、反応前のポリスチレン繊維と比べると淡黄色を呈していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミドメチル化反応時の温度を6℃以下で行うアミドメチル化芳香族化合物重合体の製造方法。
【請求項2】
前記アミドメチル化反応に用いられる試薬がN−メチロール−α−クロロアセトアミドである請求項1に記載のアミドメチル化芳香族化合物重合体の製造方法。
【請求項3】
前記アミドメチル化反応に用いられる試薬がN−メチロール−α−クロロアセトアミドおよびパラホルムアルデヒドである請求項1に記載のアミドメチル化芳香族化合物重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−208227(P2008−208227A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46698(P2007−46698)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】