説明

アミド化合物の製造方法

【課題】ニトリルヒドラターゼを利用した反応により、ニトリル化合物から対応するアミド化合物を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】ニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒の存在下、水性媒体中でニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法において、水性媒体中のベンゼン濃度が4.0ppm以下であることを特徴とする。たとえばニトリルヒドラターゼはシュードノカルディア属由来、またはロドコッカス属由来ニトリルヒドラターゼである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド化合物の製造方法に関する。
本発明(第一の発明)は、より詳しくは、アミド化合物、およびアミド系重合体を製造する方法に関し、さらに詳しくは、ニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒を用いて、効率的に水性媒体中でニトリル化合物より対応するアミド化合物を製造する方法、およびこのアミド化合物により高品位なアミド系重合体を製造する方法に関する。また、本発明(第二の発明)は、より詳しくは、アクリルアミド、およびアクリルアミド系重合体を製造する方法に関し、さらに詳しくは、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体等によりアクリロニトリルを水和して、高品位なアクリルアミドを製造する方法、およびこのアクリルアミドにより高品位なアクリルアミド系重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に有用なアミド化合物については、以下に述べるように、種々の製造方法が開示されている。
近年ニトリル基を水和してアミド基に変換するニトリル水和活性を有するニトリルヒドラターゼが発見され、該酵素または該酵素を有する微生物菌体等を用いてニトリル化合物より対応するアミド化合物を製造する方法が既に開示されている。この製造方法は従来の科学的な方法と比べて、ニトリル化合物からの対応するアミド化合物への転化率及び選択率が高いなどのメリットが知られている。
【0003】
これらのニトリルヒドラターゼを利用してアミド化合物を工業的に製造する際には、触媒となるニトリルヒドラターゼのアミド化合物生産性(1分子のニトリルヒドラターゼが生産するアミド化合物の分子数)を最大化することが重要である。そのため、酵素活性の維持や向上、活性低下の抑制、低下した酵素の活性向上などを目的とした提案が多数報告されている。例えば、細胞の増殖を伴わない条件下で、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体またはその菌体処理物を酸化剤と接触させることにより酵素活性を維持または向上させることが公知である(特許文献1参照)。また、含有される青酸濃度を低減させたニトリル化合物を使用することにより、ニトリルヒドラターゼの活性低下が抑制されることも公知である(特許文献2参照)。その他にも、グルタルアルデヒドで架橋処理した菌体を用いて反応を行う方法(特許文献3参照)、高級不飽和脂肪酸もしくはその塩類の存在下で反応を行う方法(特許文献4参照)、有機溶媒で処理した菌体、または処理物を用いて反応を行う方法(特許文献5参照)等が知られている。以上が第一の発明の背景技術である。
【0004】
また、上述したように、アクリルアミドの主要な製造方法の一つとして、アクリロニトリルを水和反応する方法が挙げられ、例えば、ラネー銅等の金属銅触媒により水和反応する方法、あるいはニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体およびその菌体処理物等を触媒として水和反応する方法が知られている。
【0005】
これらの中でも、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体等を触媒とするアクリルアミドの製造方法では、従来の金属銅触媒等により水和反応する方法に比べて、アクリロニトリルの転化率、および選択率が高いことから工業的製造方法としても注目を浴びている。
【0006】
このニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体等を触媒として、より高品質なアクリルアミドを効率よく製造するためには、微生物菌体等の触媒作用を阻害する不純物をできる限り除去する必要がある。
【0007】
またこのような反応により得られるアクリルアミドは、主としてアクリルアミド系重合体の原料として用いられるが、近年、このアクリルアミド系重合体にはより一層の高品質化が求められている。例えば、アクリルアミド系重合体の用途には凝集剤があるが、凝集剤として用いられるアクリルアミド系重合体は、近年、性能向上の要求に伴い、水溶性を維持しながらより一層の高分子量化が求められている。またアクリルアミド系重合体には、製紙用添加剤等の用途があるが、この製紙用添加剤としては、得られる紙の品質をさらに向上させるために、より色相の優れた重合体が求められている。
【0008】
ニトリルヒドラターゼを含む菌体触媒等により得られるアクリルアミドの品質、あるいはポリアクリルアミドの品質を改善する方法として、上述したように、ニトリル化合物中の青酸濃度を化学的方法により低減させた後、ニトリル化合物にニトリルヒドラターゼを作用させるアミド化合物の製造方法(例えば、特許文献2参照。)、アクリロニトリル中に不純物として含まれるオキサゾールおよび青酸を低減して、アクリロニトリルをアクリルアミドに変換し、このアクリルアミドからアクリルアミド系ポリマーを製造する方法(例えば、特許文献6)が知られている。以上が第二の発明の背景技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−350573号公報
【特許文献2】特開11−123098号公報
【特許文献3】特開平7−265091号公報
【特許文献4】特開平7−265090号公報
【特許文献5】特開平5−308980号公報
【特許文献6】国際公開第二004/090148号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ニトリルヒドラターゼを利用してアミド化合物を効率的に製造するにあたって、第一の発明の背景技術で述べた従来技術では解決できない別の要因によってもニトリルヒドラターゼのアミド化合物生産性低下の現象が存在しており、その要因の解決も望まれていた。
【0011】
したがって、第一の発明の目的は、ニトリルヒドラターゼを利用した反応において、ニトリル化合物から対応するアミド化合物を効率的に製造する方法を提供することにある。また、上述の方法により製造されたアミド化合物を用いて、高品質なアミド系重合体を製造する方法を提供することにある。
【0012】
また、第二の発明の背景技術で述べた方法では、ニトリルヒドラターゼを含む微生物菌体等の触媒作用を阻害する因子を排除して効率よくアクリロニトリルの水和反応をするという観点からは、必ずしも十分な効果が得られない。またアクリルアミド、およびアクリルアミド系重合体の品質向上という観点からもいまだ改善の余地があった。
【0013】
したがって、第二の発明の目的は、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒等により、より効率よく、しかもより高品位なアクリルアミドを製造する方法、およびこのアクリルアミドを用いて、色相に優れ、水溶性と高分子量化が両立した、品質に優れたアクリルアミド系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記第一の発明の課題を解決するために、本発明者らはアミド化合物の製造方法について鋭意検討を行ったところ、ニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒を用いて水性媒体中でニトリル化合物から対応するアミド化合物を製造する方法において、水性媒体中のベンゼン濃度を特定濃度以下に低減することにより、ニトリルヒドラターゼの反応速度を低下させることなくアミド化合物を効率的に製造できることを見出した。なお、水性媒体中のベンゼンは、一般的には原料であるニトリル化合物に由来しているが、他の要因により混入した場合にも、同様の濃度条件に低減することにより、アミド化合物は効率的に製造される。また、上述の方法によりベンゼン濃度を抑制した反応条件下で製造されたアミド化合物を用いて、アミド系重合体を製造することにより、色相に優れたアミド系重合体を得ることができる。
【0015】
すなわち、第一の発明は、以下の通りである。
[1]ニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒の存在下、水性媒体中でニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法において、水性媒体中のベンゼン濃度が4.0ppm以下であることを特徴とするアミド化合物の製造方法。
【0016】
[2]ニトリルヒドラターゼがシュードノカルディア属由来ニトリルヒドラターゼまたはロドコッカス属由来ニトリルヒドラターゼを産生する微生物である[1]記載のアミド化合物の製造方法。
【0017】
[3]ニトリル化合物がアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルである[1]または[2]に記載のアミド化合物の製造方法。
[4][1]に記載のアミド化合物を単独重合、または上記アミド化合物を、アミド化合物と共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合して、アミド系重合体を製造する方法。
【0018】
[5]上記アミド化合物がアクリルアミドまたはメタクリルアミドである[4]に記載のアミド系重合体を製造する方法。
また、本発明者らは上記第二の発明の課題を検討し、アクリロニトリル中に含まれるアクロレイン濃度を低減することで、ニトリルヒドラターゼの触媒活性を維持することができ、しかも高品位なアクリルアミドを得ることができ、さらにはこのアクリルアミドにより、色相に優れ、水溶性と高分子量化の両立が可能なアクリルアミド系重合体を得ることができることを見出し、第二の発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、第二の発明のアクリルアミドの製造方法は、
アクロレインの濃度が1ppm以下であるアクリルニトリルを、水性媒体中で、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体、またはその菌体処理物により水和反応させることに特徴がある。
【0020】
上記アクリロニトリル中に含まれる青酸の濃度は5ppm以下であることが好ましい。
また、上記アクリロニトリル中に含まれるオキサゾールの濃度が10ppm以下であることも好ましい。
【0021】
さらに、上記アクリロニトリル中に含まれる青酸の濃度が5ppm以下であり、かつオキサゾールの濃度が10ppm以下であることも好ましい。
第二の発明のアクリルアミド系重合体の製造方法は上記アクリルアミドを単独重合、または上記アクリルアミドを、アクリルアミドと共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合することに特徴がある。
【発明の効果】
【0022】
第一の発明によれば、ニトリルヒドラターゼを利用した反応において、ニトリル化合物含有水性媒体中のベンゼン濃度を特定濃度以下に低減することにより、ニトリル化合物から対応するアミド化合物を効率的に製造することができる。また、上述の方法によりベンゼン濃度を抑制した反応条件下で製造されたアミド化合物を用いてアミド系重合体を製造することにより、色相に優れたアミド系重合体を得ることができる。
【0023】
また、第二の発明によれば、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒等により、より効率よく、しかもより高品位なアクリルアミドを製造できる。また第二の発明によれば、色相に優れ、水溶性と高分子量化が両立した、品質の優れたアクリルアミド系重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.第一の発明
以下、第一の発明について詳細に説明する。
第一の発明において使用されるニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒とは、ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の菌体またはその菌体処理物である。ここでいうニトリルヒドラターゼとはニトリル化合物を水和する能力を有するたんぱく質である。ニトリルヒドラターゼを産生する微生物としてはノカルディア(Nocardia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス(Bacillus)属、好熱性のバチルス属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドクロウス(rhodochrous)種に代表されるロドコッッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属またはサーモフィラ(thermophila)種に代表されるシュードノカルディア(Pseudonocardia)属、バイテリジューム(Bacteridium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)に属する微生物などが挙げられる。好ましくは、シュードノカルディア属やロドコッカス属に属する微生物が挙げられ、特にシュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardiathermophila)JCM3095、または、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J−1が好ましい。
【0025】
また、該微生物よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で発現させた形質転換体も第一の発明でいうニトリルヒドラターゼを産生する微生物に含まれる。尚、ここでいう任意の宿主には、後述の実施例のように大腸菌(Escherichia coli)が代表例として挙げられるが、とくに大腸菌に限定されるのものではなく枯草菌(Bacillussubtilis)等のバチルス属菌、酵母や放線菌等の他の微生物菌株も含まれる。その様なものの例として、MT−10822(本菌株は、1996年2月7日に茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−5785として、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。)が挙げられる。また、組換えDNA技術を用いて該酵素の構成アミノ酸の1個または2個以上を他のアミノ酸で置換、欠失、削除もしくは挿入することにより、アミド化合物耐性やニトリル化合物耐性、温度耐性を更に向上させた変異型のニトリルヒドラターゼを発現させた形質転換体も第一の発明でいうニトリルヒドラターゼを産生する微生物に含まれる。
【0026】
上述のニトリルヒドラターゼを産生する微生物を第一の発明の製造方法に使用するに際しては、該微生物の菌体あるいは菌体処理物を用いる。菌体は、分子生物学・生物工学・遺伝子工学の分野において公知の一般的な方法を利用して調製すればよい。たとえば、LB培地やM9培地等の通常液体培地に該微生物を植菌した後、適当な培養温度(一般的には、20℃〜50℃であるが、好熱菌の場合は50℃以上でもよい。)で生育させ、続いて、該微生物を遠心分離によって培養液より分離・回収して得る方法が挙げられる。
【0027】
また、微生物の菌体処理物とは、その形状に特に制限はなく、上記微生物菌体の抽出物や磨砕物、該抽出物や磨砕物のニトリルヒドラターゼ活性画分を分離精製して得られる後分離物、該微生物菌体や該菌体の抽出物・磨砕物・後分離物を適当な担体を用いて固定化した固定化物等を指し、これらはニトリルヒドラターゼの活性を有している限りは第一の発明でいう菌体処理物に相当する。
【0028】
これらニトリルヒドラターゼを産生する微生物の菌体またはその菌体処理物は、製造直後に反応に用いることは勿論、製造後に保管し、必要に応じて使用することもできる。
第一の発明におけるニトリルヒドラターゼを産生する微生物の菌体またはその菌体処理物は、回分反応に供することもできるし、連続反応に供することもできる。また、反応形式は、懸濁床、固定床、流動床など、微生物の菌体または菌体処理物の形態に応じた、適切な形式を選択すればよい。その際の反応液中での該触媒濃度は、水性媒体とニトリル化合物の混合に支障をきたさない限り特に制限はされるものではない。
【0029】
第一の発明における水性媒体とは、水、または、リン酸塩等の緩衝剤、硫酸塩や炭酸塩等の無機塩、アルカリ金属の水酸化物、アミド化合物、ニトリル化合物、ニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒等を適当な濃度で溶解させた水溶液(反応液全体)を指す。第一の発明では、ニトリル化合物が水溶液に対し飽和濃度内である均一系であっても、飽和濃度以上でニトリル相と水相の二相系であっても、その溶液全体を水性媒体と定義する。なお、本明細書において、第一の発明における水性媒体を「水性媒体(I)」ともいう。二相系の場合は、回転翼やラインミキサーなどの適当な混合装置を使用して、静置下において二相に分離する水相とニトリル相を十分に混和させることも重要である。
【0030】
第一の発明において、反応時の水性媒体(I)中のニトリル化合物濃度は、水性媒体(I)中のベンゼン濃度によって反応速度の低下を招かない範囲またはニトリル化合物によってニトリルヒドラターゼが失活しない範囲であれば、特に限定されない。好ましくはニトリル化合物の重量%が50重量%以下である。
【0031】
第一の発明で使用されるニトリル化合物とは、水性媒体(I)中でニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒によりアミド化合物へ変換される化合物であれば特に限定されない。好ましくは、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、n−ブチロニトリル、イソブチロニトリル、クロトノニトリル、α−ヒドロキシイソブチロニトリル等の炭素数2〜4のニトリル化合物がその代表例として挙げられる。より好ましくは、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが用いられる。
【0032】
これらニトリル化合物は精製工程を経て市販製品となるが、微量の不純物が含まれている。不純物の一つとしてベンゼンが挙げられ、例えばアクリロニトリルでは、プロピレンのアンモオキシデーション法によって工業的に製造されているが、プロピレンに含有される微量のベンゼンがアクリロニトリル製品中に持ち込まれるなどの理由により、市販のアクリロニトリル製品中にベンゼンが含まれている。
【0033】
水性媒体(I)中に含まれるベンゼン濃度は反応速度の低下が抑制される濃度であればよく、通常4.0ppm以下、好ましくは2.2ppm以下である。ここで、反応速度の低下が抑制される範囲とは、水性媒体(I)中に含まれるベンゼン濃度が2.2ppm以下の反応で得られる反応速度を100%として、相対反応速度が80%以上となる範囲である。また、水性媒体(I)中に含まれるベンゼン濃度が4.0ppm以下とは水性媒体(I)の1kg中に含まれるベンゼンの量が4mg以下であることを意味している。ニトリル化合物からベンゼンを除去する方法、又は、水性媒体(I)中からベンゼンを除去する方法は、如何なる方法でもよく、例えば、蒸留、活性炭による吸着処理、超強酸であるヘテロポリ酸など固体酸による吸着処理、カラムクロマトグラフィーによる処理、スルホランでの抽出、ベンゼンの資化が可能な微生物による生物的分解、ベンゼンの揮発性を利用したばっ気処理などが挙げられる。
【0034】
第一の発明における反応は、一般的には常圧下で行われるが、水性媒体(I)中へのアクリル化合物の溶解度を高めるために加圧下で行うこともできる。また、反応温度に関しては特に限定されないが、好ましくは該ニトリルヒドラターゼが失活しない温度範囲であり、さらに好ましくは、0〜50℃である。一方、pHはニトリルヒドラターゼ活性が維持されている限りは特に制限はないが、好ましくはpH5からpH10の範囲内である。
【0035】
第一の発明のアミド系重合体は、上述のようにして得られたアミド化合物を単独重合、またはアミド化合物を、アミド化合物と共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合することにより、製造できる。ここで、アミド化合物は、第一の発明のアミド化合物の製造方法によって得られたアクリルアミドまたはメタクリルアミドであることが好ましい。
【0036】
アミド化合物と共重合可能な不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩;
ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸およびそれらの塩;
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルアミノアルキルエステル、またはそれらの第4級アンモニウム誘導体;
N−N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのN−N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、またはそれらの4級アンモニウム誘導体;
アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミドなどの親水性アクリルアミド;
N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン;
ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート;
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン;メタクリルアミド;
N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ヘキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、N−n−オクチルアクリルアミド、N−n−オクチルメタクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−n−ドデシルメタクリルアミドなどのN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体;
N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルメタクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)アクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)メタクリルアミド、N−(5−グリシドキシペンチル)アクリルアミド、N−(6−グリシドキシヘキシル)アクリルアミドなどのN−(ω−グリシドキシアルキル)(メタ)アクリルアミド誘導体;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート誘導体;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、スチレン、α−メチルスチレン、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。
【0037】
これら単量体は、1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。
これら単量体の重合方法としては、例えば、水溶液重合、乳化重合などがある。
これらの中でも水溶液重合の場合は、通常、アミド化合物と必要に応じて添加する不飽和単量体との合計濃度が5〜90重量%である。
【0038】
重合開始剤としては例えば、ラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2・2'−アゾビス(4−アミジノプロパン)2塩酸塩、4・4'−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)などのアゾ系遊離基開始剤;上記過酸化物と重亜硫酸ナトリウム、トリエタノールアミン、硫酸第一鉄アンモニウム等の還元剤を併用するいわゆるレドックス系触媒が挙げられる。
【0039】
上記した重合開始剤は1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。重合開始剤の量は、通常、単量体の総重量に対し、0.001〜5重量%の範囲である。
重合温度は単一重合開始剤の場合には、通常0〜120℃の範囲であり、より好ましくは5〜90℃の範囲である。また、重合温度は常に一定の温度に保つ必要はなく、重合の進行に伴い適宜変更してもよいが、通常は重合の進行に伴い、重合熱が発生して重合温度が上昇する傾向にあるため、必要に応じ、冷却する場合もある。
【0040】
重合時の雰囲気は特に限定はないが、重合を速やかに進行する観点からは、例えば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で重合することが好ましい。
重合時間は特に限定はないが、通常1〜20時間の範囲である。
【0041】
また重合時の水溶液のpHも特に限定はないが、必要に応じpHを調整して重合してもよい。その場合使用可能なpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアルカリ;リン酸、硫酸、塩酸などの鉱酸;蟻酸、酢酸等の有機酸などが挙げられる。
【0042】
第一の発明により得られる重合体の分子量は特に制限はないが、通常10万〜5000万の範囲であり、好ましくは50万〜3000万の範囲である。
この様にして得られた第一の発明のアミド系重合体は、水溶性と高分子量化が両立された重合体であり、しかも色相に優れたものであり、凝集剤、製紙用添加剤、石油回収剤、などとして好適に使用することができる。
【0043】
2.第二の発明
以下、第二の発明について詳細に説明する。
まず第二の発明のアクリルアミドの製造方法に用いる原料について説明する。
【0044】
〔アクリロニトリル〕
第二の発明では、アクロレインの濃度が1ppm以下のアクリロニトリルを用いる。ここで、アクロレインの濃度が1ppm以下のアクリロニトリルとは、第二の発明の原料として用いるアクリロニトリルの1kg中に含まれるアクロレインの量が1mg以下であることを意味している。
【0045】
アクリロニトリル中に含まれている、アクロレインの濃度を1ppm以下とする方法については、アセチルアセトン等とアクリロニトリル中のアクロレインとを反応させ、蒸留等により、その反応生成物とアクリロニトリルを分離する方法、1級および/または2級アミノ基を交換基として有するポーラス形イオン交換樹脂と接触させることによりアクリロニトリル中のアクロレインを除去する方法、1級および/または2級アミノ官能基を有するゲル型の弱塩基性イオン交換樹脂と接触させることによりアクリロニトリル中のアルデヒド類、実質的にアクロレインを低減させる方法が挙げられる。
【0046】
アクリロニトリル中に含まれるアクロレインの濃度は、ガスクロマトグラフ法、高速液体クロマトグラフ法などで定量することができる。
第二の発明において、原料アクリロニトリル中のアクロレインの濃度は1ppm以下であるが、0.5ppm以下がより好ましい。
【0047】
アクロレインの濃度が上記範囲内にあると、ニトリルヒドラターゼによる触媒作用に対して、アクロレインの反応阻害が起こらず、かつ、得られたアクリルアミドを用いて、色相に優れ、水溶性と高分子量化が両立した、品質に優れたアクリルアミド系重合体の製造が可能となる。
【0048】
第二の発明で用いるアクリロニトリルに含まれるアクロレインの濃度は1ppm以下であるが、さらにこのアクリロニトリルニトリル中に含まれる青酸の濃度が5ppm以下であることが好ましい。
【0049】
ここで、アクリロニトリル中に含まれる青酸の濃度が5ppm以下とは、第二の発明の原料として用いるアクリロニトリルの1kg中に含まれる青酸の量が5mg以下であることを意味している。
【0050】
アクリロニトリル中に含まれている、青酸の濃度を1ppm以下とする方法については、例えば特開平11−123098号公報に記載されているように、青酸を金属錯体として除く方法、イオン交換樹脂を用いる方法、アルカリ条件下でアクリロニトリルに青酸を付加する方法などが挙げられる。
【0051】
また、アクリロニトリル中に含まれる青酸の濃度は、アルカリ溶液で抽出したあと硝酸銀を用いた滴定法により求めることができる。
第二の発明において、アクリロニトリル中の青酸の濃度は5ppm以下が好ましいが、3ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。
【0052】
さらに第二の発明においては、アクリロニトリルに含まれるアクロレインの濃度は1ppm以下であることに加えて、アクリロニトリルニトリル中に含まれるオキサゾールの濃度が10ppm以下であることも好ましい。
【0053】
ここで、アクリロニトリル中に含まれるオキサゾールの濃度が10ppm以下とは、第二の発明の原料として用いるアクリロニトリルの1kg中に含まれるオキサゾールの量が10mg以下であることを意味している。
【0054】
アクリロニトリル中に含まれている、オキサゾールの濃度を10ppm以下とする方法については、例えば、特開昭63−118305号公報記載の、アクリロニトリル中のオキサゾールを、H型のカチオン交換樹脂と接触させる方法を挙げることができる。
【0055】
またアクリロニトリル中に含まれるオキサゾールの濃度は、ガスクロマトグラフ法、高速液体クロマトグラフ法などで定量することができる。
第二の発明において、アクリロニトリル中のオキサゾールの濃度は10ppm以下が好ましいが、5ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。
【0056】
また第二の発明においては、第二の発明で用いるアクリロニトリルに含まれるアクロレインの濃度が上記範囲内であり、青酸の濃度が5ppm以下、好ましくは3ppm以下、より好ましくは1ppm以下、かつ、オキサゾールの濃度が10ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは1ppm以下であることが好ましい。
【0057】
〔ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体等〕
第二の発明では上記アクリロニトリルを原料とし、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体およびその菌体処理物等を触媒として水和反応することで、第二の発明のアクリルアミドを得ることができる。
【0058】
第二の発明でニトリルヒドラターゼとは、ニトリル化合物を加水分解して対応するアミド化合物を生成する能力をもつ酵素をいう。ここで、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物としては、ニトリル化合物を加水分解して対応するアミド化合物を生成する能力を有するニトリルヒドラターゼを産生し、かつアクリルアミド水溶液中でニトリルヒドラターゼの活性を保持している微生物であれば、特に制限されるものではない。
【0059】
具体的には、ノカルディア(Nocardia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス(Bacillus)属、好熱性のバチルス属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドクロウス(rhodochrous)種に代表されるロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アグロバクテリウム( Agrobacterium)属またはサーモフィラ(thermophila)種に代表されるシュードノカルディア(Pseudonocardia)属に属する微生物を好適な例として挙げることができる。
【0060】
また、該微生物よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で発現させた形質転換体も第二の発明でいう微生物に含まれる。なお、ここでいう任意の宿主には、後述の実施例のように大腸菌(Escherichia coli)が代表例として挙げられるが、特に大腸菌に限定されるのものではなく、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属菌、酵母や放線菌等の他の微生物菌株も含まれる。その様なものの例として、MT−10822(本菌株は、1996年2月7日に茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−5785として、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。)が挙げられる。また、組換えDNA技術を用いて該酵素の構成アミノ酸の1個または2個以上を他のアミノ酸で置換、欠失、削除もしくは挿入することにより、アクリルアミド耐性やアクリロニトリル耐性、温度耐性をさらに向上させた変異型のニトリルヒドラターゼを発現させた形質転換体も、第二の発明でいう微生物に含まれる。
【0061】
上記したような微生物を用い、アミド化合物を製造するに際しては通常、該微生物の菌体あるいは菌体処理物を用いる。菌体は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において公知の一般的な方法を利用して調製すればよい。例えば、LB培地やM9培地等の通常液体培地に該微生物を植菌した後、適当な培養温度(一般的には、20℃〜50℃であるが、好熱菌の場合は50℃以上でもよい)で生育させ、続いて、該微生物を遠心分離によって培養液より分離、回収して得る方法が挙げられる。
【0062】
また、第二の発明における微生物の菌体処理物は、上記微生物菌体の抽出物や磨砕物、該抽出物や磨砕物のニトリルヒドラターゼ活性画分を分離精製して得られる後分離物、該微生物菌体や該菌体の抽出物、磨砕物、後分離物を適当な担体を用いて固定化した固定化物等を指し、これらはニトリルヒドラターゼの活性を有している限りは第二の発明の菌体処理物に相当するものである。これらは、単一の種類を用いてもよいし、2種類以上の異なる形態のものを同時あるいは交互に用いてもよい。
【0063】
〔水性媒体〕
また、第二の発明における水性媒体とは、水、またはリン酸塩等の緩衝剤、硫酸塩や炭酸塩等の無機塩、アルカリ金属の水酸化物、もしくはアミド化合物等を適当な濃度で溶解させた水溶液をいう。なお、本明細書において、第二の発明における水性媒体を「水性媒体(II)」ともいう。
【0064】
〔反応条件〕
第二の発明において、水性媒体(II)中のアクリロニトリルの濃度は、反応開始時において該ニトリル化合物の飽和濃度以上の濃度である。その濃度の上限は特に制限されるものではないが、あまりに大過剰のニトリル化合物の供給は、反応を完結させるために多くの触媒量および過大な容積をもつ反応器、および除熱のための過大な熱交換器等が必要となり、設備面での経済的負担が大きくなる。このため、アクリロニトリルの供給濃度としては、それが全て対応するアクリルアミドに転化したときにその理論的な生成液濃度が、アクリルアミドの場合は40〜80重量%の範囲となるように、より具体的には水1重量部に対しアクリロニトリル0.4〜1.5重量部の範囲で供給することが好ましい。
【0065】
また、上記反応での反応時間は触媒使用量や温度等の条件にも左右され得るが、通常は1〜80時間の範囲であり、好ましくは2〜40時間の範囲である。
反応形式については、特に限定するものではなく、回分式、半回分式でもよいし、連続式の反応を行ってもよい。また、懸濁床、固定床、移動床などいずれでもよいが、通常は撹拌機を備えた槽型反応器、プラグフロー反応器での反応がより好ましく、また、複数の形式の反応器を組み合わせてもよい。
【0066】
触媒の使用量については、反応条件や触媒の種類、およびその形態にも依存するが、通常は該微生物乾燥菌体重量換算で、反応液の重量に対し、10〜50000ppm、好ましくは50〜30000ppmである。
【0067】
また、水和反応は通常は常圧あるいは常圧近辺で行われるが、水性媒体(II)中へのニトリル化合物の溶解度を高めるために加圧下で行うこともできる。また、反応温度に関しては、水性媒体(II)の氷点以上であれば特に制限されるものではないが、通常は0〜50℃の範囲で行うのが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲である。また、生成物が反応液中に晶出したスラリー状態でも反応を行うことができる。また、上記水和反応時における反応液のpHは、ニトリルヒドラターゼ活性が維持されている限りは特に制限されるものではないが、好ましくはpH6〜10の範囲であり、より好ましくはpH7〜9の範囲である。
【0068】
また、ニトリルヒドラターゼ活性を保持したアミノ酸置換体の取得を部位特異的な変異によって行うことも可能であるが、特定の変異点と置換される塩基の種類に基づいて、部位特異的な変異以外の方法で組替えプラスミドを構築し、それを宿主細胞に導入することでも、同様の結果を得ることが可能である。
【0069】
例えば、変異点に相当する領域のDNAの塩基配列がアミノ酸置換後の配列となるような塩基配列を有するDNAフラグメントをDNAシンセサイザー等で合成し、得られたフラグメントと別途分離しておいたpPT−DB1の該フラグメントに相当する領域とを置換することにより、目的とする組替えプラスミドを取得することができる。
【0070】
〔アクリルアミド系重合体の製造〕
第二の発明のアクリルアミド系重合体は、上述のようにして得られたアクリルアミドを単独重合、またはアクリルアミドを、アクリルアミドと共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合することにより、製造できる。
【0071】
アクリルアミドと共重合可能な不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩;
ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸およびそれらの塩;
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルアミノアルキルエステル、またはそれらの第4級アンモニウム誘導体;
N−N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのN−N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、またはそれらの4級アンモニウム誘導体;
アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミドなどの親水性アクリルアミド;
N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン;
ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート;
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン;メタクリルアミド;
N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ヘキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、N−n−オクチルアクリルアミド、N−n−オクチルメタクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−n−ドデシルメタクリルアミドなどのN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体;
N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルメタクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)アクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)メタクリルアミド、N−(5−グリシドキシペンチル)アクリルアミド、N−(6−グリシドキシヘキシル)アクリルアミドなどのN−(ω−グリシドキシアルキル)(メタ)アクリルアミド誘導体;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート誘導体;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、スチレン、α−メチルスチレン、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。
【0072】
これら単量体は、1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。
これら単量体の重合方法としては、例えば、水溶液重合、乳化重合などがある。
これらの中でも水溶液重合の場合は、通常、アクリルアミドと必要に応じて添加する不飽和単量体との合計濃度が5〜90重量%である。
【0073】
重合開始剤としては例えば、ラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2・2'−アゾビス(4−アミジノプロパン)2塩酸塩、4・4'−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)などのアゾ系遊離基開始剤;上記過酸化物と重亜硫酸ナトリウム、トリエタノールアミン、硫酸第一鉄アンモニウム等の還元剤を併用するいわゆるレドックス系触媒が挙げられる。
【0074】
上記した重合開始剤は1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。重合開始剤の量は、通常、単量体の総重量に対し、0.001〜5重量%の範囲である。
重合温度は単一重合開始剤の場合には、通常0〜120℃の範囲であり、より好ましくは5〜90℃の範囲である。また、重合温度は常に一定の温度に保つ必要はなく、重合の進行に伴い適宜変更してもよいが、通常は重合の進行に伴い、重合熱が発生して重合温度が上昇する傾向にあるため、必要に応じ、冷却する場合もある。
【0075】
重合時の雰囲気は特に限定はないが、重合を速やかに進行する観点からは、例えば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で重合することが好ましい。
重合時間は特に限定はないが、通常1〜20時間の範囲である。
【0076】
また重合時の水溶液のpHも特に限定はないが、必要に応じpHを調整して重合してもよい。その場合使用可能なpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアルカリ;リン酸、硫酸、塩酸などの鉱酸;蟻酸、酢酸等の有機酸などが挙げられる。
【0077】
第二の発明により得られる重合体の分子量は特に制限はないが、通常10万〜5000万の範囲であり、好ましくは50万〜3000万の範囲である。
この様にして得られた第二の発明のアクリルアミド系重合体は、水溶性と高分子量化が両立された重合体であり、しかも色相に優れたものであり、凝集剤、製紙用添加剤、石油回収剤、などとして好適に使用することができる。
【0078】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
1.第一の発明の実施例
なお、ベンゼン濃度の測定は、ガスクロ分析に拠った。ガスクロ分析の測定カラムは化学物質評価研究機構 G−950 1.2mm×40m(25μm)を用い、キャリヤガスとしてHeを使用、FID検出器により検出した。
【0080】
また、各実施例及び比較例におけるHPLC分析は、カラムとして日本分光製のFinepak SIL C18−5(250×4.6φmm)を用い、4体積%のアセトニトリルを含む10mMリン酸水溶液を展開液として使用した。また、アクリルアミド、メタクリルアミドは220nmの吸光度により検出した。
【0081】
[製造例1−1]
反応容器に活性炭(内部表面積1000m2/kg)1kgを有する活性炭固定床吸着剤を装入した。ベンゼン濃度が26ppmのアクリロニトリルaを温度10℃、および流速200m/hrで下方から上方へポンプで送って吸着剤を通過させた。通過後の該アクリロニトリル中のベンゼン濃度を測定した結果、ベンゼン濃度は4.0ppmであった。以後、活性炭吸着処理後のアクリロニトリルをアクリロニトリルbと呼ぶ。
[製造例1−2]
含有するベンゼン濃度が11ppmであるアクリロニトリルcをそのまま用いた。
[製造例1−3]
含有するベンゼン濃度が8ppmであるメタクリロニトリルをそのまま用いた。
【0082】
菌体の調製
[調製例1−1]
シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095由来ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の培養
500mlのバッフル付三角フラスコに培地組成1−1に示す組成の培地100mlを調製し、121℃・20分間のオートクレーブにより滅菌後、終濃度が50μg/mlとなるようにアンピシリンを添加したものを30本用意した。各々のバッフル付三角フラスコにMT−10822株(FERM BP−5785)を一白菌耳ずつ植菌し、37℃・130rpmにて20時間培養した。各バッフル付三角フラスコ中の培養液を一まとめにしたのち、遠心分離(15000G×15分間)により菌体のみを培養液より分離し、続いて、50mlの生理食塩水に該菌体を再懸濁した後に、再度遠心分離を行って湿菌体を得た。
【0083】
[培地組成1−1]
5.0g/L 酵母エキストラクト
10.0g/L ポリペプトン
5.0g/L NaCl
10.0mg/L 塩化コバルト・六水和物
40.0mg/L 硫酸第二鉄・七水和物
pH7.5
【0084】
[調製例1−2]
ロドコッカス・ロドクロウスJ−1株由来ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の培養
特公平06−55148号記載のロドコッカス・ロドクロウスJ−1株(FERM BP−1478として、前記の寄託機関に特許手続き上の微生物寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されており、万人に対し請求により分譲される)を用いて、湿菌体を得た。
【0085】
500mlのバッフル付三角フラスコに培地組成1−2に示す組成の培地100mlを調製し、121℃・20分間のオートクレーブにより滅菌した。この培地に特公平06−55148号記載のロドコッカス・ロドクロウスJ−1株(FERM BP−1478として、前記の寄託機関に特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されており、万人に対し請求により分譲される)を一白菌耳植菌し、30℃・130rpmにて72時間培養した。遠心分離(15000G×15分)により菌体のみを培養液より分離し、続いて、50mlの生理食塩水に該菌体を再懸濁した後に、再度遠心分離を行って湿菌体を得た。
【0086】
[培地組成1−2]
10.0g/L グルコース
0.5g/L リン酸二水素一カリウム
0.5g/L リン酸一水素二カリウム
0.5g/L 硫酸マグネシウム・七水和物
1.0g/L 酵母エキストラクト
7.5g/L ペプトン
7.5g/L 尿素
10.0mg/L 塩化コバルト・六水和物
pH7.2
【0087】
[実施例1−1]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(1)
調製例1−1で得られた湿菌体を20mM−Tris・HCl緩衝液(pH7.5)により適当に希釈し、これに製造例1−1に記載したアクリロニトリルbを、反応液全体のアクリロニトリル濃度が20重量%となるよう添加し、20℃で10分間反応させた。このとき、水性媒体(I)(反応液全体)中のベンゼン濃度は、0.8ppmである。反応後、反応液にこれと等量の1Mリン酸水溶液を添加して反応を停止させ、生成したアクリルアミド濃度をHPLC分析により測定した。続いて、単位湿菌体及び単位反応時間あたりのアクリルアミドの生成速度(=反応速度)を算出した。結果を表1−1に示す。得られた反応速度を100%として、実施例1−2及び実施例1−3、比較例1−1、比較例1−2と比較した。
【0088】
[実施例1−2]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(2)
調製例1−1で得られた湿菌体を20mM−Tris・HCl緩衝液(pH7.5)により適当に希釈し、これに製造例1−2に記載したアクリロニトリルcを20重量%となるよう添加して20℃で10分間反応させた。このとき、水性媒体(I)中のベンゼン濃度は、2.2ppmであった。以下実施例1−1と同様に操作した。結果を表1−1に示す。
【0089】
[実施例1−3]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(3)
製造例1−1記載のアクリロニトリルbにベンゼンを添加し、アクリロニトリル中のベンゼン濃度が20ppmとなるよう調製した。使用するアクリロニトリルを該アクリロニトリルへ代えて、実施例1−1と同様に操作した。このとき、水性媒体(I)中のベンゼン濃度は、4.0ppmである。結果を表1−1に示す。
【0090】
[比較例1−1]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(1)
使用するアクリロニトリルを製造例1−1記載のアクリロニトリルaへ代えて、実施例1−1と同様に操作した。このとき、水性媒体(I)中のベンゼン濃度は、5.2ppmであった。結果を表1−1に示す。
【0091】
[比較例1−2]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(2)
製造例1−1記載のアクリロニトリルbにベンゼンを添加し、アクリロニトリル中のベンゼン濃度が26ppmとなるよう調製した。使用するアクリロニトリルを該アクリロニトリルへ代えて、実施例1−1と同様に操作した。このとき、水性媒体(I)中のベンゼン濃度は、5.2ppmである。結果を表1−1に示す。
【0092】
表1−1より、水性媒体(I)中のベンゼン濃度を4.0ppm以下にすることによって反応速度の低下を抑制でき、かつ、反応速度の低下を招く原因物質がベンゼンであることがわかる。
【0093】
[実施例1−4]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(4)
使用する湿菌体を調製例1−2で得られた湿菌体へ代えて、実施例1−1と同様に操作した。結果を表1−2に示す。得られた反応速度を100%として、実施例1−5、比較例1−3と比較した。
【0094】
[実施例1−5]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(5)
使用する湿菌体を調製例1−2で得られた湿菌体へ代えて、実施例1−3と同様に操作した。結果を表1−2に示す。
【0095】
[比較例1−3]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(3)
使用する湿菌体を調製例1−2で得られた湿菌体へ代えて、比較例1−1と同様に操作した。結果を表1−2に示す。
【0096】
[実施例1−6]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(6)
調製例1−1で得られた湿菌体を20mM−Tris・HCl緩衝液(pH7.5)により適当に希釈し、これに製造例1−3に記載したメタクリロニトリルを20重量%となるよう添加して20℃で10分間反応させた。この際、水性媒体(I)中のベンゼン濃度は、1.6ppmである。反応液にこれと等量の1Mリン酸水溶液を添加して反応を停止させ、生成したメタクリルアミド濃度をHPLC分析により測定した。続いて、単位湿菌体及び単位反応時間あたりのメタクリルアミドの生成速度(=反応速度)を算出した。結果を表1−3に示す。得られた反応速度を100%として、実施例1−7、比較例1−4と比較した。
【0097】
[実施例1−7]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(7)
製造例1−3で記載したメタクリロニトリルにベンゼンを添加し、メタクリロニトリル中のベンゼン濃度が20ppmとなるよう調製した。使用するメタクリロニトリルを該メタクリロニトリルへ代えて、実施例1−6と同様に操作した。このときの水性媒体(I)中のベンゼン濃度は、4.0ppmである。結果を表1−3に示す。
【0098】
[比較例1−4]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(4)
製造例1−3で記載したメタクリロニトリルにベンゼンを添加し、メタクリロニトリル中のベンゼン濃度が25ppmとなるよう調製した。使用するメタクリロニトリルを該メタクリロニトリルへ代えて、実施例1−6と同様に操作した。このときの水性媒体(I)中のベンゼン濃度は、5.0ppmである。結果を表1−3に示す。
【0099】
[実施例1−8]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(8)
使用する湿菌体を調製例1−2で得られた湿菌体へ代えて、実施例1−6と同様に操作した。結果を表1−4に示す。得られた反応速度を100%として、実施例1−9、比較例1−5と比較した。
【0100】
[実施例1−9]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(9)
使用する湿菌体を調製例1−2で得られた湿菌体へ代えて、実施例1−7と同様に操作した。結果を表1−4に示す。
【0101】
[比較例1−5]
ニトリル化合物のアミド化合物への変換(5)
使用する湿菌体を調製例1−2で得られた湿菌体へ代えて、比較例1−4と同様に操作した。結果を表1−4に示す。
【0102】
【表1−1】

【0103】
使用ニトリル化合物:アクリロニトリル
使用菌体:シュードノカルディア・サーモフィラ由来ニトリルヒドラターゼ含有微生物菌体
【0104】
【表1−2】

【0105】
使用ニトリル化合物:アクリロニトリル
使用菌体:ロドコッカス・ロドクロウス由来ニトリルヒドラターゼ含有微生物菌体
【0106】
【表1−3】

【0107】
使用ニトリル化合物:メタクリロニトリル
使用菌体:シュードノカルディア・サーモフィラ由来ニトリルヒドラターゼ含有微生物菌

【0108】
【表1−4】

【0109】
使用ニトリル化合物:メタクリロニトリル
使用菌体:ロドコッカス・ロドクロウス由来ニトリルヒドラターゼ含有微生物菌体
【0110】
[実施例1−10]
アクリルアミドの製造
第1反応器として攪拌器を備えた1Lガラス製フラスコ、第二反応器として内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブ20mを準備した。第一反応器には、予め400gの水を仕込んだ。
【0111】
特開2001−340091号に記載の方法に従い、ニトロリルヒドラターゼを含む菌体の培養を行い、得られた湿菌体を0.3mM−NaOH水溶液に懸濁した。この懸濁液とアクリロニトリルbとを、おのおの49g/h、31g/hの速度で、攪拌を行いながら、第1反応器に連続的にフィードした。さらに、第1反応器の液面レベルを一定に保つように、反応液を第1反応器から80g/hの速度で連続的に抜き出した。この抜き出した液を80g/hの速度で第2反応器に連続的にフィードして、第2反応器内でさらに反応を進行させた。
【0112】
第1反応器および第2反応器とも10〜20℃の温度の水浴中に浸漬し、各反応器内部の液温が15℃となるように温度制御を行った。
湿菌体の0.3mM−NaOH水溶液に対する添加量を、第1反応器出口でのアクリルアミドへの転化率が90%以上となり、かつ第二反応器出口でのアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100ppm以下)となるように調整した。アクリルアミドへの転化率はHPLCの分析結果から求めた。
その結果、0.3mM−NaOH水溶液に対し、湿菌体2.5重量%で、目的の転化率を達成できた。
【0113】
〔比較例1−6〕
使用するアクリロニトリルをアクリロニトリルaへ代えて、実施例1−10と同様の操作を行った。その結果、目的の転化率を達成するために必要な湿菌体の添加量は、0.3mM−NaOH水溶液に対し、湿菌体3.0重量%であった。湿菌体の添加量は実施例1−10よりも多く、ベンゼンの反応阻害が確認された。
【0114】
〔比較例1−7〕
アクリロニトリルbにベンゼンを添加し、アクリロニトリル中のベンゼン濃度が26ppmとなるよう調整した。使用するアクリロニトリルを該アクリロニトリルへ代えて、実施例1−10と同様の操作を行った。その結果、目的の転化率を達成するために必要な湿菌体の添加量は、0.3mM−NaOH水溶液に対し、湿菌体3.0重量%であった。湿菌体の添加量は実施例1−10よりも多く、ベンゼンの反応阻害が確認された。
【0115】
〔実施例1−11〕
実施例1−10の反応液を、酸性下(PH=5)で活性炭により処理してから湿菌体を除去し、さらに、1N−NaOHにより中和して50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0116】
得られたアクリルアミド水溶液に水を加えて濃度20重量%のアクリルアミド水溶液とした。この20重量%アクリルアミド水溶液500gを1lポリエチレン容器に入れ、18℃に保ちながら、窒素を通じて液中の溶存酸素を除き、直ちに、発泡スチロール製の保温用ブロックの中に入れた。
【0117】
ついで、200×10-6mpm(アクリルアミドに対するモル比)の4,4'−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)、200×10-6mpmのジメチルアミノプロピオニトリル、および80×10-6mpmの過硫酸アンモニウムを各々小量の水に溶解して、この順序に1lポリエチレン容器中に素早く注入した。これらの試薬には、予め窒素ガスを通じておき、また、注入およびその前後には、上記ポリエチレン容器にも少量の窒素ガスを通じ、酸素ガスの混入を防止した。
【0118】
試薬を注入すると、数分間の誘導期の後、ポリエチレン容器の内部の温度が上昇するのが認められたので窒素ガスの供給をとめた。約100分間、保温用ブロック中で、そのままの状態でポリエチレン容器を保持したところ、ポリエチレン容器の内部の温度が約70℃に達した。そこで、ポリエチレン容器を保温用ブロックから取りだし、97℃の水に2時間浸漬しさらに重合反応を進めた。その後冷水に浸漬して冷却し、重合反応を停止した。
【0119】
このようにして得られたアクリルアミドポリマーの含水ゲルをポリエチレン容器から取り出し、小塊にわけ、肉挽器ですりつぶした。このすりつぶしたアクリルアミドポリマーの含水ゲルを、100℃の熱風で2時間乾燥し、さらに、高速回転刃粉砕器で粉砕して乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを得た。得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取し、以後の試験に供するポリマーサンプルとした。
【0120】
〔比較例1−8〕
実施例1−11と同様にして、比較例1−6で得られた反応液から20重量%アクリルアミド水溶液を得て、さらに、このアクリルアミド水溶液を重合してポリマ−サンプルを得た。
【0121】
〔比較例1−9〕
実施例1−11と同様にして、比較例1−7で得られた反応液から20重量%アクリルアミド水溶液を得て、さらに、このアクリルアミド水溶液を重合してポリマ−サンプルを得た。
【0122】
<アクリルアミドポリマーの試験法>
上記実施例1−11、比較例1−8、比較例1−9で得られたポリマーサンプルの色調の評価を以下の方法で行った。
水溶性:水溶性は、1 lビーカーに水600mlを入れ、定められた形状の攪拌羽根を用いて25℃で攪拌しながらポリマーサンプル0.66g(純分0.6g)を添加し、400rpmで2時間攪拌を行い、得られた溶液を150メッシュの金網で濾過し、不溶解分の多少と濾過性から、水溶性を判断した。即ち、完溶のものを◎、完溶に近いものを○、不溶解分があるが、それを濾別する事ができるものを△、濾液の通過が遅く、不溶解分の濾過が事実上出来ないものを×とした。
色調:ポリマーの色調についてはポリマ−粉体を目視で評価した。
評価結果を表1−5に示した。
【0123】
【表1−5】

【0124】
2.第二の発明の実施例
以下、特に断りのない限り、%、ppmは重量基準である。
【0125】
〔実施例2−1〕
[ニトロリルヒドラターゼを含む菌体の培養]
特開2001−340091号に記載の方法に従い、ニトロリルヒドラターゼを含む菌体の培養を行い、湿菌体を得た。
【0126】
[アクリロニトリルの精製]
1級および/または2級アミノ基を有する樹脂ダイヤイオンWA−20(商品名、三菱化成社製)0.3lを水洗したのち、内径40mm、長さ400mmのSUS−304製カラムに充填した。このカラムにアクロレイン2ppmを含むアクリロニトリルを6 l/hrの流量で通液した。カラム通液後の精製アクリロニトリルのアクロレイン濃度を、下記の高速液体クロマトグラフ法(検出下限0.1ppm)にて測定したところ、0.9ppmであった。
【0127】
分析条件:
高速液体クロマトグラフ装置:LC−6Aシステム(株式会社島津製作所製)
(UV検出器波長210nm、カラム温度40℃)
分離カラム :L−Column ODS Type-Waters
((財)化学品検査協会製)
(カラムサイズ:4.6mm×250mm)
溶離液 :20%(容積基準)−アセトニトリル水溶液
(リン酸にてpH2.5に調整)
【0128】
[アクリルアミドの製造]
第1反応器として攪拌器を備えた1Lガラス製フラスコ、第二反応器として内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブ20mを準備した。第一反応器には、予め400gの水を仕込んだ。
【0129】
上記の培養方法で得られた湿菌体を0.3mM−NaOH水溶液に懸濁した。この懸濁液とアクリロニトリルとを、おのおの49g/h、31g/hの速度で、攪拌を行いながら、第1反応器に連続的にフィードした。さらに、第1反応器の液面レベルを一定に保つように、反応液を第1反応器から80g/hの速度で連続的に抜き出した。この抜き出した液を80g/hの速度で第2反応器に連続的にフィードして、第2反応器内でさらに反応を進行させた。
【0130】
第1反応器および第2反応器とも10〜20℃の温度の水浴中に浸漬し、各反応器内部の液温が15℃となるように温度制御を行った。
湿菌体の0.3mM−NaOH水溶液に対する添加量を、第1反応器出口でのアクリルアミドへの転化率が90%以上となり、かつ第二反応器出口でのアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100ppm以下)となるように調整した。アクリルアミドへの転化率はHPLCの分析結果から求めた。
その結果、0.3mM−NaOH水溶液に対し、湿菌体2.5重量%で、目的の転化率を達成できた。
【0131】
〔比較例2−1〕
原料アクリロニトリルをイオン交換処理しないで用いた以外は、実施例2−1と同様の操作を行った。その結果、目的の転化率を達成するために必要な湿菌体の添加量は、0.3mM−NaOH水溶液に対し、湿菌体2.8重量%であった。湿菌体の添加量は実施例2−1よりも多く、アクロレインの反応阻害が確認された。
【0132】
〔比較例2−2〕
実施例2−1で得られた精製アクリロニトリルにアクロレインを添加し、アクリロニトリル中のアクロレイン濃度が2ppmとなるよう調整した。このアクリロニトリルを使用して、実施例2−1と同様にアクリルアミドの製造を実施した。その結果、目的の転化率を達成するために必要な湿菌体の添加量は、0.3mM−NaOH水溶液に対し、湿菌体2.8重量%であった。湿菌体の添加量は実施例2−1よりも多く、アクロレインの反応阻害が確認された。
【0133】
〔実施例2−2〕
実施例2−1の反応液を、酸性下(PH=5)で活性炭により処理してから湿菌体を除去し、さらに、1N−NaOHにより中和して50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0134】
得られたアクリルアミド水溶液に水を加えて濃度20重量%のアクリルアミド水溶液とした。この20重量%アクリルアミド水溶液500gを1Lポリエチレン容器に入れ、18℃に保ちながら、窒素を通じて液中の溶存酸素を除き、直ちに、発泡スチロール製の保温用ブロックの中に入れた。
【0135】
ついで、200×10-6mpm(アクリルアミドに対するモル比)の4,4'−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)、200×10-6mpmのジメチルアミノプロピオニトリル、および80×10-6mpmの過硫酸アンモニウムを各々小量の水に溶解して、この順序に1lポリエチレン容器中に素早く注入した。これらの試薬には、予め窒素ガスを通じておき、また、注入およびその前後には、上記ポリエチレン容器にも少量の窒素ガスを通じ、酸素ガスの混入を防止した。
【0136】
試薬を注入すると、数分間の誘導期の後、ポリエチレン容器の内部の温度が上昇するのが認められたので窒素ガスの供給をとめた。約100分間、保温用ブロック中で、そのままの状態でポリエチレン容器を保持したところ、ポリエチレン容器の内部の温度が約70℃に達した。そこで、ポリエチレン容器を保温用ブロックから取りだし、97℃の水に2時間浸漬しさらに重合反応を進めた。その後冷水に浸漬して冷却し、重合反応を停止した。
【0137】
このようにして得られたアクリルアミドポリマーの含水ゲルをポリエチレン容器から取り出し、小塊にわけ、肉挽器ですりつぶした。このすりつぶしたアクリルアミドポリマーの含水ゲルを、100℃の熱風で2時間乾燥し、さらに、高速回転刃粉砕器で粉砕して乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを得た。得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取し、以後の試験に供するポリマーサンプルとした。
【0138】
〔実施例2−3〕
実施例2−1の反応で用いた精製アクリロニトリルを、さらに、6l/hrの流量で、水洗した0.3lのダイヤイオンWA−20を充填した内径40mm、長さ400mmのSUS−304製カラムに通液した。カラム通液後の精製アクリロニトリル中のアクロレイン濃度は0.4ppmであった。
【0139】
このアクリロニトリルを使用し、実施例2−1および実施例2−2と同様にして、20重量%アクリルアミド水溶液を得て、さらにこのアクリルアミド水溶液を重合してポリマーサンプルを得た。
【0140】
〔比較例2−3〕
実施例2−2と同様にして、比較例2−1で得られた反応液から20重量%アクリルアミド水溶液を得て、さらに、このアクリルアミド水溶液を重合してポリマ−サンプルを得た。
【0141】
〔比較例2−4〕
実施例2−2と同様にして、比較例2−2で得られた反応液から20重量%アクリルアミド水溶液を得て、さらに、このアクリルアミド水溶液を重合してポリマ−サンプルを得た。
【0142】
<アクリルアミドポリマーの試験法>
上記実施例2−2、実施例2−3、比較例2−2で得られたポリマーサンプルの水溶性の評価、標準粘度の測定、および色調の評価を以下の方法で行った。
水溶性:水溶性は、1 Lビーカーに水600mlを入れ、定められた形状の攪拌羽根で25℃で攪拌しながらポリマーサンプル0.66g(純分0.6g)を添加し、400rpmで2時間攪拌を行い、得られた溶液を150メッシュの金網で濾過し、不溶解分の多少と濾過性から、水溶性を判断した。即ち、完溶のものを◎、完溶に近いものを○、不溶解分があるが、それを濾別する事ができるものを△、濾液の通過が遅く、不溶解分の濾過が事実上出来ないものを×とした。
標準粘度:上記の水溶性試験により得られる濾液は、濃度0.1重量%のポリマー水溶液であるが、これに1M濃度相当の塩化ナトリウムを加え、BL型粘度計でBLアダプターを用いて25℃、ローター回転数60rpmで粘度を測定した(標準粘度)。このような方法で得られる標準粘度は分子量に相関のある値として慣用される。
色調:ポリマーの色調についてはポリマ−粉体を目視で評価した。
評価結果を表2−1に示した。
【0143】
【表2−1】

*)濾液の通過が遅く、事実上濾過が不可能な為、濾液の粘度は測定不能
【産業上の利用可能性】
【0144】
第一の発明によれば、ニトリルヒドラターゼを利用した反応により、ニトリル化合物から対応するアミド化合物を効率的に製造することができるので、工業的に実施するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルヒドラターゼ活性を有する触媒の存在下、水性媒体中でニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法において、水性媒体中のベンゼン濃度が4.0ppm以下であることを特徴とするアミド化合物の製造方法。
【請求項2】
ニトリルヒドラターゼがシュードノカルディア属由来、またはロドコッカス属由来ニトリルヒドラターゼである請求項1記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項3】
ニトリル化合物がアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルである請求項1または2に記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のアミド化合物を単独重合、または前記アミド化合物を、アミド化合物と共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合して、アミド系重合体を製造する方法。
【請求項5】
前記アミド化合物がアクリルアミドまたはメタクリルアミドである請求項4に記載のアミド系重合体を製造する方法。
【請求項6】
アクロレインの濃度が1ppm以下であるアクリロニトリルを、水性媒体中で、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体、またはその菌体処理物により水和反応させ、アクリルアミドを製造する方法。
【請求項7】
請求項6に記載のアクリルアミドを単独重合、または前記アクリルアミドを、アクリルアミドと共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合して、アクリルアミド系重合体を製造する方法。

【公開番号】特開2012−29695(P2012−29695A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220827(P2011−220827)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【分割の表示】特願2007−539919(P2007−539919)の分割
【原出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】