説明

アミド化合物を製造する方法及びその方法に使用される触媒

【課題】本発明の課題は、穏やかな条件で効率良くニトリル化合物の水和反応を仲介してアミド化合物を生成するための新たな触媒と、その触媒を用いた効率的なアミド化合物の合成方法を提供することである。
【解決手段】ルテニウム錯体又はイリジウム錯体と、ピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、穏和な条件下で効率良くニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はルテニウム錯体又はイリジウム錯体と、ピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法、及びその方法に使用される触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルに水を付加することによるアミド化合物の触媒的な合成法は公知であり、固体触媒、生体触媒によるものが知られている。これらの触媒は比較的高い活性を示すものの、更に高活性で選択性の高い触媒の開発が望まれている。錯体触媒による方法も公知ではあるが、工業的に実施可能な十分な活性を持ち、かつ調製が容易な触媒が望まれていた。村橋らにより報告されているルテニウム錯体は容易に入手できるトリフェニルホスフィンを配位子に持つために、比較的容易に調製できるが、その活性は高くない(非特許文献1)。Parkinsらの白金錯体が活性の高い触媒として知られているが、配位子と触媒の調製が煩雑である(非特許文献2)。
【0003】
更にルテニウム−アセチルアセトナト配位子ユニット(Ru(acac)2)にジフェニル−2−ピリジルホスフィン(=PPh2py)(化学式2)が配位した錯体(化学式3)は、ニトリルの水和反応に対して高い触媒活性をもつことが、押木らにより報告している(非特許文献3)。この錯体はルテニウム中心でニトリルを活性化し、配位子のピリジルホスフィンの窒素原子が水素結合により水の求核攻撃を補助する2元機能型の触媒として機能するため、高い触媒活性が発現する。なおこのようなルテニウム錯体と、それを用いてアミドを製造することについて特許出願されている(特許文献1)。
【0004】
【化2】

【化3】

【0005】
【特許文献1】特開2004−269522号公報
【非特許文献1】Murahashi S. -I. et al. J.Org.Chem. 1992, 57, 2521
【非特許文献2】Ghaffar, T.; Parkins, A. M. J.Mol.Cat.A 2000, 160, 249
【非特許文献3】Oshiki,T. et al. Organometallics 2005, 24, 6287
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら非特許文献3や特許文献1に記載されている錯体は、180℃付近の高温条件でないと水和反応を触媒することができない。ルテニウムに強固に結合しているアセチルアセトナト配位子(acac)の解離により空配位座が生じ、そこにニトリルが配位する。しかしこの解離が高温でないと起こらないために、この錯体触媒による水和反応には高い温度が必要となる。
【0007】
そこで180℃付近というような厳しい条件を採用しなくても、効率良くニトリル化合物の水和反応を触媒してアミド化合物を生成できる新たな触媒が求められていた。そこで本発明の課題は、そのような利点を有する触媒、及びその触媒を用いた効率的なアミド化合物の合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって上記課題を達成するために本発明は、下記(1)から(31)からなる発明を提供する。
【0009】
(1)X2-Ru-L2で示されるルテニウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは炭素上に陰電荷を持つ三座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法。
(2)前記Xは炭素上に陰電荷をもつ有機基であり、且つルテニウムと配位しうる原子団を持つ配位子であることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3)前記Xはアルケンの誘導体又はアルキンの誘導体からなる配位子であることを特徴とする上記(1)から(2)のいずれか1つに記載の方法。
(4)前記Xはアリル誘導体からなる配位子であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)前記Xは2-メチルアリルからなる配位子であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)前記Lは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子であることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)前記Lはアルケン、アルキン、窒素化合物、リン化合物、エーテル類及びチオエーテル類からなる群から選択されたもの、又はそれらが相互に環を形成したものであることを特徴とする上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)上記Lはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテン、アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレン、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン及びチオフェンからなる群から選択され、又は上記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエン若しくはノルボルナジエンであることを特徴とする上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の方法。
(9)前記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエンであることを特徴とする上記(1)から(8)いずれか1つに記載の方法。
(10)前記ルテニウム錯体がルテニウム(2-メチルアリル)2(シクロオクタジエン)であり、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル-2-ピリジルホスフィン又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミンであることを特徴とする上記(1)から(9)のいずれか1つに記載の方法。
【0010】
(11)X-Ir-L2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは16族原子上に陰電荷を持つ二座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子又はピリジルホスフィン誘導体であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法。
(12)前記Xは、イリジウムと配位しうる15族、16族又は17族の元素、及び酸素がイリジウムと結合している二座配位子であり、該酸素上に陰電荷を持つことを特徴とする上記(11)に記載の方法。
(13)前記15族、16族又は17族の元素が、酸素、硫黄、又はセレンであることを特徴とする上記(12)に記載の方法。
(14)前記Xの16族の元素が酸素であることを特徴とする上記(13)に記載の方法。
(15)前記Xは、下記一般式(I)で表される陰電荷をもつベータジケトナト配位子であることを特徴とする上記(14)に記載の方法。
【化4】

(上記一般式(I)中、R1、R2及びR3は水素、飽和または不飽和の炭化水素基、飽和又は不飽和の環状炭化水素基、芳香族化合物残基、アルコキシ基、アリールオキシ基、及び有機金属化合物残基からなる群から選択された基を表し、R1とR2、R2とR3、R1とR3、若しくはR1とR2とR3が相互に連結して環を形成してもよい。)
(16)前記R1とR3が飽和炭化水素基または芳香族化合物残基であり、前記R2が水素である上記(14)又は(15)に記載の方法。
(17)前記R1とR3がターシャリーブチル基であり、前記R2が水素である上記(14)から(16)のいずれか1つに記載の方法。
(18)R1とR3がフェニル基であり、R2が水素である上記(14)から(16)のいずれか1つに記載の方法。
(19)R1とR3がメチル基であり、R2が水素である上記(14)から(16)のいずれか1項記載の方法。
(20)前記R1ないしR3が飽和炭化水素基または芳香族化合物残基である上記(14)又は(15)記載の方法。
(21)前記R1がフェニル基であり、前記R2が水素であり、前記R3がメチル基である上記(20)の方法。
(22)前記R1がターシャリーブチル基であり、前記R2が水素であり、前記R3がメチル基である上記(20)記載の方法。
(23)前記R1がメチル基であり、前記R2がメチル基であり、前記R3がメチル基である上記(20)記載の方法。
(24)前記R2とR3が相互に連結して飽和の環状炭化水素基を形成する上記(14)又は(15)記載の方法。
(25)前記飽和の環状炭化水素基がシクロヘキサンまたはシクロペンタンである上記(24)記載の方法。
(26)前記Lは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子であることを特徴とする上記(11)から上記(25)のいずれか1つに記載の方法。
(27)前記Lはアルケン、アルキン、窒素化合物、リン化合物、エーテル類及びチオエーテル類からなる群から選択されたもの、又はそれらが相互に環を形成したものであることを特徴とする上記(11)から上記(26)のいずれか1つに記載の方法。
(28)上記Lはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテン、アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレン、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン及びチオフェンからなる群から選択され、又は上記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエン若しくはノルボルナジエンであることを特徴とする上記(11)から上記(27)のいずれか1つに記載の方法。
(29)前記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエンであることを特徴とする上記(11)から上記(28)のいずれか1つに記載の方法。
(30)前記イリジウム錯体はアセチルアセトナトイリジウムシクロオクタジエン又はアセチルアセトナトビス(ジフェニル-2-ピリジルホスフィン)イリジウムであり、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル-2-ピリジルホスフィン又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミンであることを特徴とする上記(11)から上記(29)のいずれか1つに記載の方法。
(31)前記イリジウム錯体は(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、および(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムおよびからなる群から選択され、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル−2−ピリジルホスフィン又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミンであることを特徴とする上記(11)から上記(29)のいずれか1つに記載の方法。
(32)前記イリジウム錯体は1−フェニルブタン−1,3−ジオナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、2−アセチル−1−シクロヘキサナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、および2−アセチル−1−シクロペンタナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムからなる群から選択され、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル−2−ピリジルホスフィンであることを特徴とする上記(11)から上記(29)のいずれか1つに記載の方法。
【0011】
(33)(X-Ir-L)2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは16族元素又は17族元素を含む基からなる群から選択された配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法。
(34)前記16族元素を含む基は酸素を含む基であることを特徴とする上記(33)記載の方法。
(35)前記酸素を含む基はヒドロキソ(OH)又はメトキソ(OMe)であることを特徴とする上記(34)記載の方法。
(36)前記17族元素を含む基は塩素を含む基であることを特徴とする上記(35)記載の方法。
(37)前記Lは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子であることを特徴とする上記(33)から(36)のいずれか1つに記載の方法。
(38)前記Lはアルケン、アルキン、窒素化合物、リン化合物、エーテル類及びチオエーテル類からなる群から選択されたもの、又はそれらが相互に環を形成したものであることを特徴とする上記(33)から(37)のいずれか1つに記載の方法。
(39)上記Lはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテン、アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレン、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン及びチオフェンからなる群から選択され、又は上記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエン若しくはノルボルナジエンであることを特徴とする上記(33)から上記(38)のいずれか1つに記載の方法。
(40)前記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエンであることを特徴とする上記(33)から(39)のいずれか1つに記載の方法。
(41)前記イリジウム錯体はクロロシクロオクタジエンイリジウム・ダイマー、シクロオクタジエン(μ-ヒドロキソ)イリジウム・ダイマー及びシクロオクタジエン(μ-メトキソ)イリジウム・ダイマーからなる群から選択され、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル−2−ピリジルホスフィン又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミンであることを特徴とする上記(33)から(40)のいずれか1つに記載の方法。
【0012】
(42)アセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
(43)X2-Ru-L2で示されるルテニウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは炭素上に陰電荷を持つ三座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とする触媒。
(44)X-Ir-L2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは16族原子上に陰電荷を持つ二座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子又はピリジルホスフィン誘導体であることを特徴とする触媒。
(45)(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
(46)(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
(47)1−フェニルブタン−1,3−ジオナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
(48)5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
(49)3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
(50)2−アセチル−1−シクロヘキサナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
(51)2−アセチル−1−シクロペンタナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
(52)上記(42)、上記(44)ないし(51)のいずれか1つに記載のイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、水とニトリル化合物のみで水和反応を起こすことを特徴とするアミド化合物を合成する方法。
(53)(X-Ir-L)2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは16族元素又は17族元素を含む基からなる群から選択された配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とする触媒。
【発明の効果】
【0013】
本発明により提供された触媒を用いることにより、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を穏やかな条件下で簡便に合成することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において本発明を更に詳細に説明する。ニトリルの水和反応に対してルテニウム錯体が高い触媒活性を示すという非特許文献3と特許文献1の知見に基づいて、より解離しやすいアニオン性の配位子をもつルテニウム錯体を使用し、それとピリジルホスフィンを組み合わせることにより、ニトリルの配位が容易な2元機能型の触媒が得られる事を本発明者らは見い出した。
【0015】
アニオン性のアリル配位子はη3型(πアリル基)とη1型(σアリル基)の配位様式をとる。なおη1型は末端の炭素だけで配位しているアリル錯体であり、η3型は3個の炭素で配位しているアリル錯体である。一般的にはπ配位型のη3型アリル錯体が単離されることが多いが、このη3型アリル錯体が系中でη1型の配位をとることにより、配位不飽和錯体を生成し、ドナー性の中性の配位子の配位が可能となる(化学式5)。
【0016】
【化5】

【0017】
そこで本発明者らは2価のアリルルテニウム錯体であるルテニウムメチルアリル)2(シクロオクタジエン)(化学式6)に着目し、検討を行った。シクロオクタジエンは中性配位子であるピリジルホスフィンと配位子交換を起こし、さらにη3の2-メチルアリル配位子が反応系中でη1型となり、それによって高温を必要とせずにニトリルが配位できる空配位座が生成すると考えられる。そのようにして本発明者らは、ルテニウム(2−メチルアリル)2(シクロオクタジエン)とピリジルホスフィンを組み合わせることにより、100℃以下の温度でも、この触媒を使用することによりニトリルの水和反応が起こることを見出した。
【0018】
【化6】

【0019】
なおいくつかのピリジルホスフィン誘導体について検討したところ、2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミン(化学式7)は、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン(化学式2)よりも高い活性を示した。
【0020】
【化7】

【0021】
ルテニウム錯体とピリジルホスフィンをニトリル化合物の水和反応の触媒として利用した場合の、該触媒の作用機構を下記の化学式8に示す。ニトリル化合物としてはベンゾニトリルの例を例示した。原料のルテニウム錯体にピリジルホスフィン(PPh2py)を加えるとシクロオクタジエンとの配位子交換が起こり、ピリジルホスフィンが配位した錯体Aが生成する。そして錯体Aのη3型で配位しているメチルアリル配位子はη1型となり、錯体Bが生成する。すると錯体Bは配位不飽和となるために、そこへベンゾニトリルが配位して錯体Cが生成する。この錯体Cと水が反応し、水はピリジルホスフィンに含まれる窒素原子との水素結合を生成して活性化される。そしてこの活性化された水がニトリルの炭素原子を攻撃し、生成物であるベンズアミドが生成する。
【0022】
【化8】

【0023】
かかる技術思想に基づき本発明は、X2-Ru-L2で示されるルテニウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは炭素上に陰電荷を持つ三座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法を提供する。
【0024】
なお本願明細書において「配位子」という用語は本技術分野で通常用いられる意味を示すものであり、錯体中で中心原子に配位結合で結合している分子又はイオンを意味するものである。この配位結合に直接関わっている原子が配位原子であり、2つ以上の配位可能な原子を持つ配位子は多座配位子といわれ、配位可能な原子の数に応じて二座配位子、三座配位子などという。よって本願明細書において「二座配位子」とは、2つの配位原子を持つ配位子を意味し、「三座配位子」とは、3つの配位原子を持つ配位子を意味する。
【0025】
更に本願明細書において「炭素上に陰電荷を持つ三座配位子」とは、例えばアリル基などの炭素上に陰電荷を持つ基がルテニウムと結合した三座配位子を意味するものである。なおアリル基は不飽和炭素−炭素結合を有し、かつ炭素上に陰電荷を持つ。その不飽和炭素-炭素結合はルテニウムに二座で配位する。
【0026】
上記Xは好ましくは炭素上に陰電荷をもつ有機基であり、且つルテニウムと配位しうる原子団を持つ配位子である。また上記Xは更に好ましくはアルケンの誘導体又はアルキンの誘導体からなる配位子である。また上記Xは更に好ましくはアリル誘導体からなる配位子であり、具体的な配位子Xとして2−メチルアリルは最も好適であるが、それに限定されるものではない。三座配位子Xは、ルテニウム原子上から解離し、ルテニウム上に空配位座をつくりやすい性質が要求される。そのため、ルテニウムとは配位するものの、配位力が弱くルテニウム中心から解離しやすいアルケンやアルキンなどの原子団が好適である。
【0027】
また上記Lは好ましくは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子である。また上記Lとして、14族の中性の配位子としてはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどのアルケン;アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレンなどのアルキン;15族の中性の配位子としてはアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの窒素化合物;トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンなどのリン化合物;16族の中性の配位子としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン、チオフェンなどチオエーテル類を挙げることができる。また上記Lは相互に環を形成したもの、例えば、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンなどであってもよい。本発明において、2つのLが架橋して環を形成したL2がシクロオクタジエンであることは特に好適であるが、それに限定されるものではない。
【0028】
なおLが中性の配位子であることは、Lが弱い配位結合でルテニウムに結合することを示すものであり、すなわちLは他の配位子、例えばピリジルホスフィン誘導体と置換しうる性質をもつこととなる。中性の配位子には多くの化合物が存在するが、中でも上記に例示した14族、15族、又は16族の中性の配位子はルテニウムから解離しやすい性質を持つことから、ピリジルホスフィン誘導体との置換に好適な化合物である。
【0029】
また該ルテニウム錯体として具体的には、ルテニウム(2−メチルアリル)2(シクロオクタジエン)、ルテニウム(2−メチルアリル)2(ノルボルナジエン)、ルテニウム(2−メチルアリル)2(シクロオクテン)2、ルテニウム(2−メチルアリル)2(シクロヘキセン)2、ルテニウム(2−メチルアリル)2(エチレン)2、ルテニウム(アリル)2(シクロオクタジエン)、ルテニウム(アリル)2(ノルボルナジエン)、ルテニウム(アリル)2(シクロオクテン)2、ルテニウム(アリル)2(エチレン)2、ルテニウム(2−エチルシリルアリル)2(シクロオクタジエン)、ルテニウム(2−エチルアリル)2(ノルボルナジエン)、ルテニウム(2−エチルアリル)2(シクロオクテン)2、ルテニウム(2−エチルアリル)2(エチレン)2が挙げられる。中でもルテニウム(2−メチルアリル)2(シクロオクタジエン)は好ましい。
【0030】
また該ピリジルホスフィン誘導体として、具体的には2−ピリジルホスフィン、3−ピリジルホスフィン、4−ピリジルホスフィン、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニル−3−ピリジルホスフィン、ジフェニル−4−ピリジルホスフィン、2−ジフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、フェニルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジトリル−2−ピリジルホスフィン、ビス(メトキシフェニル)−2−ピリジルホスフィン、ジフェノキシ−2−ピリジルホスフィン、フェノキシフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシメチル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジメトキシ−2−ピリジルホスフィン、ジメチル−2−ピリジルホスフィン、ジイソプロピル−2−ピリジルホスフィン、ジターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジデシル−2−ピリジルホスフィン、ジノニル−2−ピリジルホスフィン、ジオクチル−2−ピリジルホスフィン、ジヘプチル−2−ピリジルホスフィン、ジヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジペンチル−2−ピリジルホスフィン、ジノルマルブチル−2−ピリジルホスフィン、ジイソブチル−2−ピリジルホスフィン、ジノルマルプロピル−2−ピリジルホスフィン、ジエチル−2−ピリジルホスフィン、オクチルメチル−2−ピリジルホスフィン、メチルヘプチル−2−ピリジルホスフィン、メチルヘキシル−2−ピリジルホスフィン、メチルペンチル−2−ピリジルホスフィン、ジメチルブチル−2−ピリジルホスフィン、ノルマルブチルメチル−2−ピリジルホスフィン、ターシャリーブチルメチル−2−ピリジルホスフィン、イソプロピルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジシクロヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジベンジル−2−ピリジルホスフィン、メチルシクロヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジフリル−2−ピリジルホスフィン、ビスペンタフルオロフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェニルペンタフルオロフェニル−2−ピリジルホスフィン、ペンタフルオロフェニルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニルホスフィノー6ーメチルピリジン、ジフェニルホスフィノー6ーエチルピリジン、ジフェニルホスフィノー6ーターシャリーブチルピリジン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージメチルホスファニル-4-ピリジル(ジメチル)アミン、2ージエチルホスファニル-4-ピリジル(ジメチル)アミン、2ージプロピルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージイソプロピルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージブチルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジエチル)アミン、2ージフェニルホスファニルー4ーピロリジノピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーメトキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーエトキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーフェノキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーチオメチルピリジンなどの有機ホスフィンが挙げられる。好ましくは、2−ピリジルホスフィン、3−ピリジルホスフィン、4−ピリジルホスフィン、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニル−3−ピリジルホスフィン、ジフェニル−4−ピリジルホスフィン、2−ジフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジトリル−2−ピリジルホスフィン、ビス(メトキシフェニル) −2−ピリジルホスフィン、ジフェノキシ−2−ピリジルホスフィン、フェノキシフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシメチル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジメトキシ−2−ピリジルホスフィンが挙げられ、中でもジフェニル−2−ピリジルホスフィンと2−ジフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンは特に好ましい。
【0031】
なおルテニウム錯体としてルテニウム(2−メチルアリル)2(シクロオクタジエン)(化学式9、表1の実施例の錯体1)を、ピリジルホスフィン誘導体としてジフェニル−2−ピリジルホスフィン(化学式10:表1の実施例の配位子1)又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミン(化学式11:表1の実施例の配位子2)を用いてニトリル化合物からアミド化合物を合成した具体例を表1と表3の実施例において示す。
【0032】
【化9】

【化10】

【化11】

【0033】
更に本発明者らは反応をより低温下で進行させるために、アセチルアセトナト配位子(acac)とジフェニル−2−ピリジルホスフィンを有する配位不飽和の16電子の錯体を使うことを考えて更に検討を行った。即ちイリジウム錯体は平面4配位の16電子構造であるので、acacが解離して空配位座を与えなくてもニトリルが配位できる。なお16電子構造の錯体は2電子を受け取って18電子となりやすい傾向があることは一般的に知られており、このイリジウム錯体の場合にはアミド化合物合成の原料であるニトリル化合物によって必要とされる2電子が供与される。そこで本発明により、16電子のイリジウム−ピリジルホスフィン錯体を触媒として用いてニトリルを水和する方法も確立された。
【0034】
イリジウム錯体とピリジルホスフィンを触媒として利用した場合の、該触媒の作用機構を下記の化学式12に示す。イリジウム錯体にピリジルホスフィン(PPh2py)が作用し、錯体aが生成する。錯体3にベンゾニトリルがそのまま配位して錯体bが生成する。生成した錯体bと水が反応し、水はPPh2pyに含まれる窒素原子との水素結合を生成して活性化される。そしてこの活性化された水がニトリルの炭素原子を攻撃し、生成物であるベンズアミドが生成する。このbからcの段階は、ルテニウム錯体におけるCからDの段階(化学式7)と同じ作用機構であると考えられており、水が窒素原子と水素結合を作ることにより活性化される。
【0035】
【化12】

【0036】
かかる技術思想に基づき本発明は、X-Ir-L2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは16族原子上に陰電荷を持つ二座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体の作用により該イリジウム錯体と置換しうる配位子又はピリジルホスフィン誘導体であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法を提供する。
【0037】
本願明細書において「16族原子上に陰電荷を持つ二座配位子」とは、酸素原子などの16族原子が陰電荷を有してイリジウムと結合した二座配位子を意味するものである。例えばアセチルアセトナト基は、極限構造としては一方の酸素原子上に陰電荷を持ち、他方の酸素原子は中性のケトンとして金属イオンに配位する。
【0038】
なお上記Xは、イリジウムと配位しうる15族、16族又は17族の元素、及び酸素が該イリジウムと結合している二座配位子であることが好ましく、この場合には該酸素上に陰電荷を持つ。そして前記15族、16族又は17族の元素が酸素、硫黄、又はセレンであることは更に好ましい。なお上記Xがアセチルアセトナトである場合にはイリジウムと配位しうる元素は16族の酸素であり、2-N-フェニルイミノフェノキシである場合にはイリジウムと配位しうる元素は15族の窒素と16族の酸素であり、酸素が陰電荷を有する。具体的な配位子Xとしてアセチルアセトナトは最も好適であるが、それに限定されるものではない。
【0039】
更にイリジウム錯体を構成するベータジケトナト配位子の検討を鋭意進めた結果、ターシャリーブチル基またはフェニル基で置換されたベータジケトナト配位子とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒を用いると、アセチルアセトナト配位子をもつイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒よりも高い活性を示す新規な触媒を本発明者らは見い出した。その触媒とは、具体的にはベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせる新規な触媒であり、さらに具体的には2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト配位子又は1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト配位子をもつイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせる触媒である。
【0040】
その場合には上記Xの16族の原子が酸素であることが好ましく、上記Xは、下記一般式(I)で表される陰電荷をもつベータジケトナト配位子であることは更に好ましい。
【化13】

【0041】
上記一般式(I)中、R1、R2及びR3は水素、飽和または不飽和の炭化水素基、飽和又は不飽和の環状炭化水素基、芳香族化合物残基、アルコキシ基、アリールオキシ基、及び有機金属化合物残基からなる群から選択された基を表し、R1とR2、R2とR3、R1とR3、若しくはR1とR2とR3が相互に連結して環を形成してもよい。
【0042】
なお本願明細書において「ベータジケトナト配位子」とは、ベータジケトンおよびその誘導体である陰電荷を有する配位子を意味するものであり、その陰電荷は非局在化している。ベータジケトナト配位子は含まれる2つの酸素原子で金属中心に二座配位することが多いが、ひとつの酸素原子で単座配位する場合もある。
【0043】
また上記Lは好ましくは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子である。また上記Lとして、14族の中性の配位子としてはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどのアルケン;アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレンなどのアルキン;15族の中性の配位子としてはアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの窒素化合物;トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンなどのリン化合物;16族の中性の配位子としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン、チオフェンなどチオエーテル類を挙げることができる。また上記Lは相互に環を形成したもの、例えば、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンなどであってもよい。本発明において、2つのLが架橋して環を形成したL2がシクロオクタジエンであることは特に好適であるが、それに限定されるものではない。
【0044】
なおLが中性の配位子であることは、Lが弱い配位結合でルテニウムに結合することを示すものであり、すなわちLは他の配位子、例えばピリジルホスフィン誘導体と置換しうる性質をもつこととなる。中性の配位子には多くの化合物が存在するが、中でも上記に例示した14族、15族、又は16族の中性の配位子はルテニウムから解離しやすい性質を持つことから、ピリジルホスフィン誘導体との置換に好適な化合物である。
【0045】
また該イリジウム錯体として具体的には、アセチルアセトナトイリジウムシクロオクタジエン、アセチルアセトナトイリジウムノルボルナジエン、アセチルアセトナトイリジウム(シクロオクテン)2、アセチルアセトナトイリジウム(エチレン)2、2,2,6,6ーテトラメチルー3,5ーヘプタンジオナトイリジウムシクロオクタジエン、2,2,6,6ーテトラメチルー3,5ーヘプタンジオナトイリジウムノルボルナジエン、2,2,6,6ーテトラメチルー3,5ーヘプタンジオナトイリジウム(シクロオクテン)2、2,2,6,6ーテトラメチルー3,5ーヘプタンジオナトイリジウム(エチレン)2、2,2,6,6ーテトラフルオロー3,5ーヘプタンジオナトイリジウムシクロオクタジエン、2,2,6,6ーテトラフルオロー3,5ーヘプタンジオナトイリジウムノルボルナジエン、2,2,6,6ーテトラフルオロー3,5ーヘプタンジオナトイリジウム(シクロオクテン)2、2,2,6,6ーテトラフルオロー3,5ーヘプタンジオナトイリジウム(エチレン)2アセタトイリジウムシクロオクタジエン、アセタトイリジウムノルボルナジエン、アセタトイリジウム(シクロオクテン)2、アセタトイリジウム(エチレン)2、リン化合物を含むものとしてはアセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、2,2,6,6ーテトラメチルー3,5ーヘプタンジオナトビス(ジフェニルー2ーピリジルホスフィン)イリジウム、2,2,6,6ーテトラフルオロー3,5ーヘプタンジオナトビス(ジフェニルー2ーピリジルホスフィン)イリジウム、アセタトビス(ジフェニルー2ーピリジルホスフィン)イリジウム、アセチルアセトナトビス(2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン)イリジウム、2,2,6,6ーテトラメチルー3,5ーヘプタンジオナトビス(2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン)イリジウム、2,2,6,6ーテトラフルオロー3,5ーヘプタンジオナトビス(2ーホスファニル4ーピリジル(ジメチル)アミン)イリジウム、アセタトビス(2ーホスファニル4ーピリジル(ジメチル)アミン)イリジウム、アセチルアセトナトビス(ジフェニルホスフィノー6ーメチルピリジン)イリジウム、2,2,6,6ーテトラメチルー3,5ーヘプタンジオナトビス(ジフェニルホスフィノー6ーメチルピリジン)イリジウム、2,2,6,6ーテトラフルオロー3,5ーヘプタンジオナトビス(ジフェニルホスフィノー6ーメチルピリジン)イリジウム、アセタトビス(ジフェニルホスフィノー6ーメチルピリジン)イリジウム、2-N-フェニルイミノフェノキシイリジウムビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)が挙げられる。中でもアセチルアセトナトイリジウムシクロオクタジエンとアセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムは特に好ましい。
【0046】
更にベータジケトナト配位子を有する該イリジウム錯体として具体的には、(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ビス(2−メチルフェニル)−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ビス(2,6−ジメチルフェニル)−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ビス(2−メトキシルフェニル)−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ビス(トリメチルシリル)−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ジアダマンチル−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ジメトキシ−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ジフェノキシ−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ビス(トリフェニルメチル)−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ジフェロセニル−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ビス(2−メチルフェニル)−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ビス(2,6−ジメチルフェニル)−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ビス(2−メトキシルフェニル)−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ビス(トリメチルシリル)−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ジメトキシ−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ジフェノキシ−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ジアダマンチル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ビス(トリフェニルメチル)−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(1,3−ジフェロセニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、1−フェニルブタン−1,3−ジオナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、2−アセチル−1−シクロヘキサナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、および2−アセチル−1−シクロペンタナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムからなる群から選択され、中でも、(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、1−フェニルブタン−1,3−ジオナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、2−アセチル−1−シクロヘキサナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、および2−アセチル−1−シクロペンタナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムは特に好ましい。
【0047】
また該ピリジルホスフィン誘導体として、具体的には2−ピリジルホスフィン、3−ピリジルホスフィン、4−ピリジルホスフィン、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニル−3−ピリジルホスフィン、ジフェニル−4−ピリジルホスフィン、2−ジフェニルホスファニル4ーピリジル(ジメチル)アミン、フェニルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジトリル−2−ピリジルホスフィン、ビス(メトキシフェニル)−2−ピリジルホスフィン、ジフェノキシ−2−ピリジルホスフィン、フェノキシフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシメチル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジメトキシ−2−ピリジルホスフィン、ジメチル−2−ピリジルホスフィン、ジイソプロピル−2−ピリジルホスフィン、ジターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジデシル−2−ピリジルホスフィン、ジノニル−2−ピリジルホスフィン、ジオクチル−2−ピリジルホスフィン、ジヘプチル−2−ピリジルホスフィン、ジヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジペンチル−2−ピリジルホスフィン、ジノルマルブチル−2−ピリジルホスフィン、ジイソブチル−2−ピリジルホスフィン、ジノルマルプロピル−2−ピリジルホスフィン、ジエチル−2−ピリジルホスフィン、オクチルメチル−2−ピリジルホスフィン、メチルヘプチル−2−ピリジルホスフィン、メチルヘキシル−2−ピリジルホスフィン、メチルペンチル−2−ピリジルホスフィン、ジメチルブチル−2−ピリジルホスフィン、ノルマルブチルメチル−2−ピリジルホスフィン、ターシャリーブチルメチル−2−ピリジルホスフィン、イソプロピルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジシクロヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジベンジル−2−ピリジルホスフィン、メチルシクロヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジフリル−2−ピリジルホスフィン、ビスペンタフルオロフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェニルペンタフルオロフェニル−2−ピリジルホスフィン、ペンタフルオロフェニルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニルホスフィノー6ーメチルピリジン、ジフェニルホスフィノー6ーエチルピリジン、ジフェニルホスフィノー6ーターシャリーブチルピリジン、2ーフォスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージメチルホスファニルー4-ピリジル(ジメチル)アミン、2ージエチルホスファニルー4-ピリジル(ジメチル)アミン、2ージプロピルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージイソプロピルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージブチルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジエチル)アミン、2ージフェニルホスファニルー4ーピロリジノピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーメトキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーエトキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーフェノキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーチオメチルピリジンなどの有機ホスフィンが挙げられる。好ましくは、2−ピリジルホスフィン、3−ピリジルホスフィン、4−ピリジルホスフィン、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニル−3−ピリジルホスフィン、ジフェニル−4−ピリジルホスフィン、2−ジフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジトリル−2−ピリジルホスフィン、ビス(メトキシフェニル) −2−ピリジルホスフィン、ジフェノキシ−2−ピリジルホスフィン、フェノキシフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシメチル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジメトキシ−2−ピリジルホスフィンが挙げられ、中でもジフェニル−2−ピリジルホスフィンと2−ジフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンは特に好ましい。
【0048】
なおイリジウム錯体としてアセチルアセトナトイリジウムシクロオクタジエン(化学式14:表2の実施例の錯体2)又はアセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム(化学式15:表2の実施例の錯体3)、ピリジルホスフィン誘導体としてジフェニル−2−ピリジルホスフィン(化学式16:表2の実施例の配位子1)、又は2−ジフェニルホスファニルー4−ピリジル(ジメチル)アミン(化学式17:表2の実施例の配位子2)を用いてニトリル化合物からアミド化合物を合成した具体例を表2と表4の実施例において示す。
【0049】
【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【0050】
更にベータジケトナト配位子を有する該イリジウム錯体として(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン(化学式18:表2の実施例の錯体7)、(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン(化学式19:表2の実施例の錯体8)、(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム(化学式20:表2の実施例の錯体9)又は(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム(化学式21:表2の実施例の錯体10)、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル−2−ピリジルホスフィン(化学式22:表2の実施例の配位子1)又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミン(化学式23:表2の実施例の配位子2)を用いてニトリル化合物からアミド化合物を合成した具体例を表2の実施例において示す。
【0051】
【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【0052】
更にベータジケトナト配位子を有する該イリジウム錯体として1−フェニルブタン−1,3−ジオナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム(化学式24、錯体11、表5の実施例27のIr錯体)、5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム(化学式25、錯体12、表5の実施例30のIr錯体)、3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム(化学式26、錯体13、表5の実施例33のIr錯体)、2−アセチル−1−シクロヘキサナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム(化学式27、錯体14、表5の実施例36のIr錯体)、および2−アセチル−1−シクロペンタナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム(化学式28、錯体15、表5の実施例39のIr錯体)、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル−2−ピリジルホスフィン(化学式29、配位子1:表5の実施例の配位子PPh2py)を用いてニトリル化合物からアミド化合物を合成した具体例を表5の実施例において示す。
【0053】
【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

【0054】
更に本発明のイリジウム錯体は2つの配位子が架橋した構造を有するものでもよい。よって本発明は、(X-Ir-L)2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは16族元素又は17族元素を含む基からなる群から選択された配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法も提供する。該イリジウム錯体は1価の錯体であるため、Xはアニオン性の原子団である必要があり、原理的には16族元素又は17族元素から選択することができる。
【0055】
なお前記16族元素を含む基が酸素を含む基であること、又は前記17族元素を含む基が塩素を含む基であることは好適である。具体的な配位子Xとしてヒドロキソ(OH)とメトキソ(OMe)は特に好適である。
【0056】
また上記Lは好ましくは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子である。また上記Lとして、14族の中性の配位子としてはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどのアルケン;アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレンなどのアルキン;15族の中性の配位子としてはアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの窒素化合物;トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンなどのリン化合物;16族の中性の配位子としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン、チオフェンなどチオエーテル類を挙げることができる。また上記Lは相互に環を形成したもの、例えば、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンなどであってもよい。本発明において、2つのLが架橋して環を形成したL2がシクロオクタジエンであることは特に好適であるが、それに限定されるものではない。
【0057】
なおLが中性の配位子であることは、Lが弱い配位結合でイリジウムに結合することを示すものであり、すなわちLは他の配位子、例えばピリジルホスフィン誘導体と置換しうる性質をもつこととなる。中性の配位子には多くの化合物が存在するが、中でも上記に例示した14族、15族、又は16族の中性の配位子はイリジウムから解離しやすい性質を持つことから、ピリジルホスフィン誘導体との置換に好適な化合物である。
【0058】
また架橋した該イリジウム錯体として具体的には、クロロシクロオクタジエンイリジウム・ダイマー、シクロオクタジエン(μ-ヒドロキソ)イリジウム・ダイマー、フルオロシクロオクタジエンイリジウム ダイマー、ブロモシクロオクタジエンイリジウム ダイマー、ヨードシクロオクタジエンイリジウム ダイマー、フルオロノルボルナジエンイリジウム ダイマー、クロロノルボルナジエンイリジウム ダイマー、ブロモノルボルナジエンイリジウム ダイマー、ヨードノルボルナジエンイリジウム ダイマー、シクロオクタジエン(μ-スルファニド)イリジウム ダイマー、シクロオクタジエン(μ-エトキソ)イリジウム ダイマーが挙げられる。中でもクロロシクロオクタジエンイリジウム・ダイマー、シクロオクタジエン(μ-ヒドロキソ)イリジウム・ダイマーは特に好ましい。
【0059】
また該ピリジルホスフィン誘導体として、具体的には2−ピリジルホスフィン、3−ピリジルホスフィン、4−ピリジルホスフィン、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニル−3−ピリジルホスフィン、ジフェニル−4−ピリジルホスフィン、2−ジフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、フェニルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジトリル−2−ピリジルホスフィン、ビス(メトキシフェニル)−2−ピリジルホスフィン、ジフェノキシ−2−ピリジルホスフィン、フェノキシフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシメチル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジメトキシ−2−ピリジルホスフィン、ジメチル−2−ピリジルホスフィン、ジイソプロピル−2−ピリジルホスフィン、ジターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジデシル−2−ピリジルホスフィン、ジノニル−2−ピリジルホスフィン、ジオクチル−2−ピリジルホスフィン、ジヘプチル−2−ピリジルホスフィン、ジヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジペンチル−2−ピリジルホスフィン、ジノルマルブチル−2−ピリジルホスフィン、ジイソブチル−2−ピリジルホスフィン、ジノルマルプロピル−2−ピリジルホスフィン、ジエチル−2−ピリジルホスフィン、オクチルメチル−2−ピリジルホスフィン、メチルヘプチル−2−ピリジルホスフィン、メチルヘキシル−2−ピリジルホスフィン、メチルペンチル−2−ピリジルホスフィン、ジメチルブチル−2−ピリジルホスフィン、ノルマルブチルメチル−2−ピリジルホスフィン、ターシャリーブチルメチル−2−ピリジルホスフィン、イソプロピルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジシクロヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジベンジル−2−ピリジルホスフィン、メチルシクロヘキシル−2−ピリジルホスフィン、ジフリル−2−ピリジルホスフィン、ビスペンタフルオロフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェニルペンタフルオロフェニル−2−ピリジルホスフィン、ペンタフルオロフェニルメチル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニルホスフィノー6ーメチルピリジン、ジフェニルホスフィノー6ーエチルピリジン、ジフェニルホスフィノー6ーターシャリーブチルピリジン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージメチルホスファニルー4-ピリジル(ジメチル)アミン、2ージエチルホスファニルー4-ピリジル(ジメチル)アミン、2ージプロピルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージイソプロピルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージブチルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、2ージフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジエチル)アミン、2ージフェニルホスファニルー4ーピロリジノピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーメトキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーエトキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーフェノキシピリジン、2ーフェニルホスファニルー4ーチオメチルピリジンなどの有機ホスフィンが挙げられる。好ましくは、2−ピリジルホスフィン、3−ピリジルホスフィン、4−ピリジルホスフィン、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニル−3−ピリジルホスフィン、ジフェニル−4−ピリジルホスフィン、2−ジフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジトリル−2−ピリジルホスフィン、ビス(メトキシフェニル) −2−ピリジルホスフィン、ジフェノキシ−2−ピリジルホスフィン、フェノキシフェニル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシメチル−2−ピリジルホスフィン、フェノキシターシャリーブチル−2−ピリジルホスフィン、ジメトキシ−2−ピリジルホスフィンが挙げられ、中でもジフェニル−2−ピリジルホスフィンと2−ジフェニルホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンは特に好ましい。
【0060】
なおイリジウム錯体としてクロロシクロオクタジエンイリジウム・ダイマー(化学式30:表2の実施例の錯体4)、シクロオクタジエン(μ-ヒドロキソ)イリジウム・ダイマー(化学式31:表2の実施例の錯体5)、又はシクロオクタジエン(μ-メトキソ)イリジウム・ダイマー(化学式32:表2の実施例の錯体6)、ピリジルホスフィン誘導体としてジフェニル−2−ピリジルホスフィン(化学式33:表2の実施例の配位子1)、又は2−ジフェニルホスファニルー4−ピリジル(ジメチル)アミン(化学式34:表2の実施例の配位子2)を用いてニトリル化合物からアミド化合物を合成した具体例を実施例において示す。
【0061】
【化30】

【化31】

【化32】

【化33】

【化34】

【0062】
更に下記の化学式35に示す(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、下記の化学式36に示す(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、および下記の化学式37に示すアセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムは新規のイリジウム錯体であり、本発明は該化合物を包含する。アセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムはニトリル化合物の水和反応によりアミド化合物を得るための触媒として有用である。下記の実施例において示すように、アセチルアセトナトイリジウムシクロオクタジエンとジフェニル−2−ピリジルホスフィンを加熱して反応させることにより、アセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムを得ることができる。
【0063】
【化35】

【化36】

【化37】

【0064】
更に本発明は、ルテニウム錯体又はイリジウム錯体と、ピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた、水和反応のための触媒も提供する。本発明の触媒はニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法に好適であり、ベンゾニトリルを水和してベンズアミドを合成する反応、あるいは3-シアノピリジンを水和してニコチンアミドを合成する反応に特に好適である。
【0065】
より具体的には、本発明の触媒は、X2-Ru-L2で示されるルテニウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは炭素上に陰電荷を持つ三座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とする。
【0066】
なお上記Xは、好ましくは炭素上に陰電荷をもつ有機基であり、且つルテニウムと配位しうる原子団を持つ配位子である。そして上記Xは更に好ましくはアルケンの誘導体又はアルキンの誘導体からなる配位子である。また上記Xは更に好ましくは前記Xはアリル誘導体からなる配位子であり、具体的な配位子Xとして2−メチルアリルは最も好適であるが、それに限定されるものではない。
【0067】
また上記Lは好ましくは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子である。また上記Lとして、14族の中性の配位子としてはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどのアルケン;アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレンなどのアルキン;15族の中性の配位子としてはアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの窒素化合物;トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンなどのリン化合物;16族の中性の配位子としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン、チオフェンなどチオエーテル類を挙げることができる。また上記Lは相互に環を形成したもの、例えば、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンなどであってもよい。本発明において、2つのLが架橋して環を形成したL2がシクロオクタジエンであることは特に好適であるが、それに限定されるものではない。
【0068】
更に本発明の触媒は、X-Ir-L2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは16族原子上に陰電荷を持つ二座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子又はピリジルホスフィン誘導体であることを特徴とする。
【0069】
なお上記Xは、イリジウムと配位しうる15族、16族又は17族の元素、及び酸素が該イリジウムと結合している二座配位子であることが好ましく、この場合には該酸素上に陰電荷を持つ。そして前記15族、16族又は17族の元素が酸素、硫黄、又はセレンであることは更に好ましい。なお上記Xがアセチルアセトナトである場合にはイリジウムと配位しうる元素は16族の酸素である。具体的な配位子Xとしてアセチルアセトナトは最も好適であるが、それに限定されるものではない。
【0070】
また上記Lは好ましくは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子である。また上記Lとして、14族の中性の配位子としてはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどのアルケン;アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレンなどのアルキン;15族の中性の配位子としてはアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの窒素化合物;トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンなどのリン化合物;16族の中性の配位子としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン、チオフェンなどチオエーテル類を挙げることができる。また上記Lは相互に環を形成したもの、例えば、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンなどであってもよい。本発明において、2つのLが架橋して環を形成したL2がシクロオクタジエンであることは特に好適であるが、それに限定されるものではない。
【0071】
更に本発明の触媒は、(X-Ir-L)2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは16族元素又は17族元素を含む基からなる群から選択された配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とする。
【0072】
なお前記16族元素を含む基が酸素を含む基であること、又は前記17族元素を含む基が塩素を含む基であることは好適である。具体的な配位子Xとしてヒドロキソ(OH)とメトキソ(OMe)は特に好適である。
【0073】
また上記Lは好ましくは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子である。また上記Lとして、14族の中性の配位子としてはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどのアルケン;アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレンなどのアルキン;15族の中性の配位子としてはアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの窒素化合物;トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミンなどのリン化合物;16族の中性の配位子としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン、チオフェンなどチオエーテル類を挙げることができる。また上記Lは相互に環を形成したもの、例えば、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンなどであってもよい。本発明において、2つのLが架橋して環を形成したL2がシクロオクタジエンであることは特に好適であるが、それに限定されるものではない。
【0074】
本発明のルテニウム錯体触媒又はイリジウム錯体触媒を用いた方法は、ニトリル化合物を水和しアミド化合物を合成する触媒として好ましい。その様な水和反応に用いられるニトリル化合物には特に制限はないが、具体的な例として、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、シンナモニトリルなどの1価の脂肪族ニトリル類、マロノニトリル、サクシノニトリル、アジポニトリルなどの多価の脂肪族ニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和脂肪族ニトリル類、ベンゾニトリル、3-シアノピリジン、フタロニトリルなどの芳香族ニトリル類などが挙げられる。なお、上記においても述べたように、本発明の触媒は、ベンゾニトリルからのベンズアミドの製造、シンナモニトリルからシンナモアミドの製造あるいは3-シアノピリジンからのニコチンアミドの製造に特に好適である。
【0075】
本発明のニトリルの水和反応において使用する水の使用量としてはニトリル基に対し、水/ニトリル基のモル比で、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上であり、通常1000以下、好ましくは100以下、より好ましくは10以下の範囲である。水の使用量が少なすぎるとアミドの収率の低下が大きくなり、多すぎるとニトリル等の原料の触媒への接触が抑制されることによりアミドの収率が低下する。
【0076】
ニトリル化合物と錯体の比は、通常、ニトリル1モルに対し錯体として、0.00001モル以上、好ましくは0.001モル以上であり、通常1モル以下、好ましくは0.5モル以下となるように反応系に存在させればよい。ニトリルに対して錯体量が少なすぎると反応速度が低下して工業的に不利になり、多すぎると錯体の使用量が増大し経済性が低下する。
【0077】
錯体と配位子の比は、通常、錯体1モルに対し配位子が、0.01モル以上、好ましくは0.1モル以上であり、通常10モル以下、好ましくは5モル以下となるように反応系に存在させればよい。錯体に対して配位子量が少なすぎると触媒活性種の生成濃度が低下し反応速度の低下を招き工業的に不利になり、多すぎると錯体に対するニトリル配位が困難になり触媒活性が低下する。
【0078】
本発明のニトリル化合物の水和反応に用いる溶媒としては、例えば、水;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類;フェノール等のフェノール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トルイル酸等のカルボン酸類;酢酸メチル、酢酸ブチル、安息香酸ベンジル等のエステル類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のカルボン酸アミド;ヘキサメチルリン酸トリアミド等の他のアミド化合物;N,N−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素;ジメチルスルホン等のスルホン類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ガンマブチロラクトン、カプロラクトン等のラクトン類;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等の炭酸エステル類;トリグライム、テトラグライム等のポリエーテル類等が挙げられる。また、原料となるアクリロニトリル、アセトニトリル、ベンゾニトリル、3-シアノピリジン等のニトリル化合物そのものを溶媒として用いることもできる。
【0079】
反応温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、通常350℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下の範囲で反応させるとよい。反応温度が低すぎると反応速度が低下して、工業的に不利となり、高すぎると触媒成分の分解による反応活性の低下が進行する。
【0080】
錯体濃度は、工業的に所望な活性を示す程度でよいが、通常、反応液に対しルテニウム又はイリジウム等の金属原子として通常0.0001モル/L以上、好ましくは0.001モル/L以上であり、通常100モル/L以下、好ましくは10モル/L以下となるように反応系に存在させればよい。錯体濃度が低すぎると反応速度が低下して工業的に有利な生産性は得られず、高すぎると触媒コストが増大し、実用上の価値をなくす。反応は通常均一触媒反応として進行する。
【0081】
反応圧力は、反応系が液相に保たれる程度の圧力であれば任意であるが、水の沸点以下の温度で反応が進行する場合には圧力容器を必要とすることはない。閉鎖系で行う場合には、雰囲気は窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などの不活性ガスが好ましい。反応は回分方式でも連続方式でも行うことができる。反応生成液からは、蒸留や晶析等の方法により生成物であるアミド化合物を回収できる。また生成物を回収した後の残留液には、触媒が溶解しているので、直接又は間接的に循環させて、再度反応に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例になんら限定されない。
【0083】
ルテニウム(2−メチルアリル)2(シクロオクタジエン)(Ru(2-methylallyl)2(cod):錯体1)については、市販されているStrem社の製品をそのまま用いた。
【0084】
アセチルアセトナトイリジウムシクロオクタジエン(Ir(acac)(cod):錯体2)については、市販されているStrem社の製品をそのまま用いた。
【0085】
アセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム((Ir(acac)(PPh2py)2):錯体3)の合成
ガラス製の20mLシュレンク型反応容器にIr(acac)(cod)(34.4mg,86.1μmol)とジフェニル−2−ピリジルホスフィン(45.3mg,17.2μmol)を入れてアルゴンガスで置換した1,2−ジメトキシエタン(5mL)を加え、この溶液を80℃に加温したオイルバスで3時間加熱した。生じたオレンジ色溶液から真空ポンプを使って揮発性の化合物を留去し、黄色の残査をTHF(1mL)に溶かした。石油エーテル(5mL)をゆっくりと加え−30℃で結晶化することにより錯体3を黄色の結晶として収率73%で単離した(51.7mg,63.2μmol)。
得られた錯体3の融点、IRスペクトルデータ、1H NMR、13C{1H}、31P{1H}NHRスペクトルデータは以下の通りである。
Mp72℃(dec).IR(nujol/CsI)1560,1515,1088,1061, 742, 692,602,563,524,500,453,442,408,254cm-1
1H NMR(C6D6):δ1.36(s,6H), 5.39(s,1H), 6.40(m,2H),6.80-7.00(m,14H),8.05-8.10(m,8H), 8.18-8.20(m,2H), 8.70-8.80(m,2H).
13C{1H} NMR(C6D6):δ27.1, 101.9, 122.3, 126.7, 126.8, 128.9, 128.6, 132.7, 132.8, 133.0, 133.67, 133.72, 133.8, 135.60, 135.65, 135.71, 135.92, 136.47, 148.52, 148.57, 148.65, 160.07, 160.16, 160.87, 160.96, 181.50.
31P{1H} NMR(C6D6):δ19.7(s)
【0086】
クロロシクロオクタジエンイリジウム・ダイマー([IrCl(cod)]2:錯体4)については、市販されているStrem社の製品をそのまま用いた。
【0087】
シクロオクタジエン(μ-ヒドロキソ)イリジウム・ダイマー([Ir(OH)(cod)]2:錯体5)については、Green,L.M,;Meek,D.W.0ranometallics 1989,8,659に記載の方法で合成した。
【0088】
シクロオクタジエン(μ-メトキソ)イリジウム・ダイマー([Ir(OMe)(cod)]2:錯体6)については、Uson,R.; Oro,L.A; Cabeza,J.A.Inorg.Synth.1983,23,128に記載の方法で合成した。
【0089】
ジフェニル−2−ピリジルホスフィン(PPh2py:配位子1)については、市販されているAldrich社の製品をそのまま用いた。
【0090】
2−ジフェニルホスファニルー4−ピリジル(ジメチル)アミン(PPh2(dmap):配位子2)については、Cuperly,D.;Gros,P;Fort,Y.J.0rg.Chem.2002,67,238.に記載の方法で合成した。
【0091】
ルテニウム錯体によるベンゾニトリルの水和反応は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、1,2−ジメトキシエタン0.5 mLと、実施例1に示した錯体を所定量、ベンゾニトリル(102 μL, 1 mmol)、水(72μL,4 mmol)を加えて密閉した。そしてオイルバスで所定の反応温度で所定の反応時間加熱した。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、生成物収率(ベンズアミド収率)と原料回収率(ベンゾニトリル回収率)を算出した。実施例4と5については水を36μL(2 mmol)用いた。実施例11は1,2−ジメトキシエタンの替わりにエタノール0.5 mLを用いた。実施例12は1,2−ジメトキシエタンの替わりにTHF 0.5 mLを用いた。実施例13は1,2−ジメトキシエタンの替わりに0.5 mLの1,4-ジオキサンを用いた。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
イリジウム錯体によるベンゾニトリルの水和反応は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、1,2−ジメトキシエタン0.5mLと、実施例2から6に示した錯体を所定量、ベンゾニトリル(102μL,1mmol)、水(72μL,4mmol)を加えて密閉した。そしてオイルバスで所定の反応温度で所定の反応時間加熱した。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、生成物収率(ベンズアミド収率)と原料回収率(ベンゾニトリル回収率)を算出した。その結果を表2に示す。実施例13の配位子DMAPとは4,4-ジメチルアミノピリジンである。
【0094】
【表2】

【0095】
ルテニウム錯体による3-シアノピリジンの水和反応は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、1,2−ジメトキシエタン0.5 mLと、実施例1に示した錯体を所定量、3-シアノピリジン(104.1 mg,1 mmol)、水(72μL,4 mmol)を加えて密閉した。そしてオイルバスで所定の反応温度で所定の反応時間加熱した。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、生成物収率(ニコチンアミド収率)と原料回収率(3−シアノピリジン回収率)を算出した。その結果を表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
イリジウム錯体による3−シアノピリジンの水和反応は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、1,2−ジメトキシエタン0.5mLと、実施例2に示した錯体を所定量、3−シアノピリジン(104.1mg,1mmol)、水〈72μL,4mmo1〉を加えて密閉した。そしてオイルバスで所定の反応温度で所定の反応時間加熱した。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、生成物収率(ニコチンアミド収率)と原料回収率(3−シアノピリジン回収率)を算出した。その結果を表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
ニトリル化合物の水和反応について検討を行なった。その結果、180℃という高温の条件を用いなくても、ベンゾニトリルの水和反応は、ルテニウム錯体と配位子(ピリジルホスフィン誘導体)の触媒作用により60℃から80℃でも進行し、高い収率でベンズアミドを得ることができた(表1)。またイリジウム錯体と配位子を用いても同様に、60℃から80℃でベンゾニトリルの水和反応は進行した(表2)。なおこの触媒反応において、錯体に加えて配位子も必要であることが示された(表1の実施例2、表2の実施例10参照)。
【0100】
原料として3−シアノピリジンを用いた場合についても検討を行なった。するとルテニウム錯体と配位子を用いた場合でも(表3)、イリジウム錯体と配位子を用いた場合でも(表4)、80℃で水和反応は進行してニコチンアミドを得ることができた。以上の結果から、ルテニウム触媒又はイリジウム触媒と配位子を組み合わせた触媒を利用した本発明の方法により、ニトリル化合物の水和反応を穏和な条件下で効率的に行なえることが示された。
【0101】
更に、ターシャリーブチル基またはフェニル基で置換されたベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒について検討を行い、アセチルアセトナト配位子をもつイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒と活性を比較した。
【0102】
(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン(Ir(acac-Ph2)(cod)):錯体7)の合成
ガラス製の20mLシュレンク反応容器にシクロオクタジエン(μ-クロロ)イリジウム・ダイマー([IrCl(cod)]2)(51.6mg, 76.8μmol)を入れてアルゴンガスで置換した。脱水、脱気済みのジエチルエーテル(1mL)を加え、続いて1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン(37.0mg, 0.165mmol)を室温で加えた。かくはんしながら脱気した水酸化カリウム水溶液(0.25mL, 1mol/L)を加え、室温で2時間かくはんした。水(3.0mL)を加えた後、水層をシリンジで除去し、続いて真空ポンプを使いジエチルエーテルを減圧下で留去した。残査を水(3.0mL)で2回洗浄し、得た橙色粉末を減圧下で乾燥し、目的とする錯体7(77.5mg, 0.147mmol)を収率96%で得た。合成した錯体7の1H NMRスペクトルは、文献(Platzer, N. et al. J.Organomet.Chem. 1973, 54, 313)記載の値と一致した。
【0103】
2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン(Ir(acac-tBu2)(cod)):錯体8)の合成
ガラス製の20mLシュレンク反応容器にシクロオクタジエン(μ-クロロ)イリジウム・ダイマー([IrCl(cod)]2)(56.9mg, 84.7μmol)を入れてアルゴンガスで置換した。脱水、脱気済みのジエチルエーテル(1mL)を加え、続いて2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン(33.5μL, 0.169mmol)を室温で加えた。かくはんしながら脱気した水酸化カリウム水溶液(0.25mL, 1mol/L)を加え、室温で1時間かくはんした。水(2.0mL)を加えた後、水層をシリンジで除去し、続いて真空ポンプを使いジエチルエーテルを減圧下で留去した。残査を水(3.0mL)で4回洗浄し、得た黄色粉末を減圧下で乾燥し、目的とする錯体8(48.7mg, 0.101mmol)を収率60%で得た。合成した錯体8の1H NMRスペクトルは、文献(Platzer, N. et al. J.Organomet.Chem. 1973, 54, 313)記載の値と一致した。
【0104】
(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム((Ir(acac-Ph2)(PPh2py)2):錯体9)の合成
ガラス製の20mLシュレンク型反応容器にIr(acac-Ph2)(cod)(162mg,0.31mmol)とジフェニル−2−ピリジルホスフィン(164mg,0.62mmol)を入れてアルゴンガスで置換した。1,2−ジメトキシエタン(5mL)を加え、この溶液を室温で1時間撹拌した。生じた茶色溶液から真空ポンプを使って揮発性の化合物を留去し、錯体9を茶色の結晶として収率99%で単離した(298mg,0.30mmol)。
得られた錯体9の1H NMR、31P{1H}NHRスペクトルデータは以下の通りである。
1H NMR(C6D6):δ 6.35-6.39(m,2H), 6.86-7.33(m,25H), 8.09-8.16(m,10H), 8.85-8.87(m,2H).
31P{1H} NMR(C6D6):δ18.4(s)
【0105】
(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム((Ir(acac-tBu2)(PPh2py)2):錯体10)の合成
ガラス製の20mLシュレンク型反応容器にIr(acac-tBu2)(cod)(54.3mg,0.112mmol)とジフェニル−2−ピリジルホスフィン(118.2mg,0.449mmol)を入れてアルゴンガスで置換した。1,2−ジメトキシエタン(5mL)を加え、この溶液を80℃で2時間撹拌した。生じたオレンジ色溶液から真空ポンプを使って揮発性の化合物を留去した。残査を5mLのDMEで2回洗浄し、錯体10を黄色の結晶として収率80%で単離した(80.8mg,0.089mmol)。
得られた錯体の1H NMR、31P{1H}NHRスペクトルデータは以下の通りである。
1H NMR(C6D6):δ0.92(s,18H), 6.20(s,1H), 6.40-6.43(m,2H), 6.94-6.98(m,14H), 8.05-8.17(m,10H), 8.97-8.99(m,2H).
31P{1H} NMR(C6D6):δ19.6(s)
【0106】
更に、フェニル基とメチル基で置換されたベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体、ターシャリーブチル基とメチル基で置換されたベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体、3つのメチル基で置換されたベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体、2つの置換基が相互に連結してシクロへキサン又はシクロペンタンを形成したベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒についても合成し、活性を検討した。
【0107】
1−フェニルブタン−1,3−ジオナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム:錯体11)の合成
ガラス製の20mLシュレンク型反応容器に1−フェニルブタン−1,3−ジオナトイリジウムシクロオクタジエン(59.1mg,0.128mmol)とジフェニル−2−ピリジルホスフィン(67.4mg,0.256mmol)を入れてアルゴンガスで置換した1,2−ジメトキシエタン(5mL)を加え、この溶液を80℃に加温したオイルバスで3時間加熱した。生じたオレンジ色溶液から真空ポンプを使って揮発性の化合物を留去し、黄色の残査にDME(10mL)を加え洗い、上澄み液を取り除き精製した。沈殿を乾固させ茶色い粉末として収率65%で単離した(251.4mg,0.2857mmol)。
得た錯体11の融点、1H NMR、31P{1H}NHRスペクトルデータは以下の通りである。
Mp:207-208℃
1HNMR(C6D6):1.36(s,3H),6.26(s,1H),6.31(m,1H),6.46(s,1H),6.83(s,1H),6.94-7.02(m,15H),7.30-7.31(m,2H), 8.02-8.07(m,5H),8.15-8.20(m,4H),8.28-8.29(m,1H),8.41-8.44(m,1H),9.02-9.06(m,1H).
31P{1H} NMR(C6D6):δ17.9(d),20.9(d)
【0108】
5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム:錯体12)の合成
ガラス製の20mLシュレンク型反応容器に5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトイリジウムシクロオクタジエン(56.7mg,0.1284mmol)とジフェニル−2−ピリジルホスフィン(67.6mg,0.2568mmol)を入れてアルゴンガスで置換した1,2−ジメトキシエタン(5mL)を加え、この溶液を80℃に加温したオイルバスで3時間加熱した。生じた黄色溶液から真空ポンプを使って揮発性の化合物を留去し、黄色の残査にヘキサン(3mL)を加え数回洗い、上澄み液を取り除き精製した。沈殿を乾固させ黄色い粉末として収率65%で単離した(71.8mg,83.5μmol)。
得られた錯体12の融点、1H NMR、31P{1H}NHRスペクトルデータは以下の通りである。
Mp:204-207℃
1HNMR(C6D6):1.04(s,9H),1.29(s,3H),5.75(s,1H),5.74(s,1H),6.32-6.44(m,1H),6.89-6.91(m,1H),6.91-7.20(m,14H),7.93-7.98(m,4H),8.05-8.06(m,1H), 8.19-8.24(m,5H),9.24-9.25(m,1H).
31P{1H} NMR(C6D6):δ17.1(d),23.5(d)
【0109】
3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム:錯体13)の合成
ガラス製の20mLシュレンク型反応容器に3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトイリジウムシクロオクタジエン(182.5mg,0.4413mmol)とジフェニル−2−ピリジルホスフィン(232.4mg,0.8826mmol)を入れてアルゴンガスで置換した1,2−ジメトキシエタン(5mL)を加え、この溶液を80℃に加温したオイルバスで3時間加熱した。生じた黄色懸濁液から上澄み液を取り除き精製した。沈殿を乾固させ黄色い粉末として収率85%で単離した(311.8mg,0.3747mmol)。
得られた錯体3の1H NMR、31P{1H}NHRスペクトルデータは以下の通りである。
1HNMR(C6D6):1.41(s,6H),1.69(s,3H) ,6.39-6.42(m,2H),6.92-6.96(m,2H),7.02-7.20(m,12H),8.11(s,8H),8.20-8.21(m,2H),8.70(s,2H).
31P{1H} NMR(C6D6):δ20.1(s)
【0110】
2−アセチル−1−シクロヘキサナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム:錯体14)の合成
ガラス製の20mLシュレンク型反応容器に2−アセチル−1−シクロヘキサナトイリジウムシクロオクタジエン(91.8mg,0.2103mmol)とジフェニル−2−ピリジルホスフィン(108.8mg,0.4132mmol)を入れてアルゴンガスで置換した1,2−ジメトキシエタン(5mL)を加え、この溶液を80℃に加温したオイルバスで3時間加熱した。生じた黄色懸濁液から上澄み液を取り除き精製した。沈殿を乾固させ黄色い粉末として収率70%で単離した(140.1mg,0.1450mmol)。
得られた錯体13の1H NMR、31P{1H}NHRスペクトルデータは以下の通りである。
1HNMR(C6D6):1.32-1.33(m,7H),1.60(s,2H),2.16(s,2H),6.40(s,2H),6.95-7.02(m,14H),8.12-8.21(m,10H),8.66-8.76(m,2H).
31P{1H} NMR(C6D6):δ19.7(d),20.7(d)
【0111】
2−アセチル−1−シクロペンタナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム:錯体15)の合成
ガラス製の20mLシュレンク型反応容器に2−アセチル−1−シクロペンタナトイリジウムシクロオクタジエン(84.4mg,0.1997mmol)とジフェニル−2−ピリジルホスフィン(105.0mg,0.3994mmol)を入れてアルゴンガスで置換した1,2−ジメトキシエタン(5mL)を加え、この溶液を80℃に加温したオイルバスで3時間加熱した。生じた黄色懸濁液から上澄み液を取り除き精製した。沈殿を乾固させ黄色い粉末として収率70%で単離した(131.5mg,0.1381mmol)。
得られた錯体14の1H NMR、31P{1H}NHRスペクトルデータは以下の通りである。
1HNMR(C6D6):1.32(s,3H),1.46-1.49(m,2H),1.72-1.76(m,2H),2.41-2.44(m,2H),6.41(s,2H),7.00-7.01(m,14H),8.09-8.22(m,10H),8.70-8.72(m,1H),8.82-8.84(m,1H).
31P{1H} NMR(C6D6):δ18.8(d),20.3(d)
【0112】
アセチルアセトナト配位子をもつイリジウム錯体(Ir(acac)(PPh2py)2)(錯体3)及びターシャリーブチル基またはフェニル基の置換基を有するベータジケトナト配位子を有するイリジウム錯体(錯体7から錯体10)と、ピリジルホスフィン誘導体の配位子を組み合わせた触媒について、ベンゾニトリル又は3−シアノピリジンの水和反応を触媒するか検討した。更に錯体11から錯体15とピリジルホスフィン誘導体の配位子を組み合わせた触媒についても、ベンゾニトリル又は3−シアノピリジンの水和反応を触媒するか検討した。更に、錯体9と錯体11とピリジルホスフィン誘導体の配位子を組み合わせた触媒については、シンナモニトリルの水和反応を触媒するか検討した。
【0113】
実施例1から42の実験は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、溶媒0.5mLと、イリジウム錯体を0.005mmol、配位子を所定量、ベンゾニトリル(102μL,1mmol)、水(72μL,4mmo1)を加えて密閉した。そしてオイルバスで80℃に加熱し所定の反応時間、反応させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、生成物収率(ベンズアミド収率)と原料回収率(ベンゾニトリル回収率)を算出した。実施例1から42のすべての場合において、ベンズアミド以外に検出された有機化合物は原料のベンゾニトリルのみであり、副生成物は検出されなかった。実施例15ではベンゾニトリルは検出されていない。その結果を表5に示す。実施例10、21、26の配位子PPh2(dmap)は配位子2である。
【0114】
実験例43から45の実験は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、イリジウム錯体を0.005mmol、配位子を所定量、ベンゾニトリル(510μL,5mmol)、水(360μL,20mmo1)を加えて密閉した。そしてオイルバスで80℃に加熱し所定の反応時間、反応させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、生成物収率(ベンズアミド収率)と原料回収率(ベンゾニトリル回収率)を算出した。実施例43から45のすべての場合において、ベンズアミド以外に検出された有機化合物は原料のベンゾニトリルのみであり、副生成物は検出されなかった。実施例45ではベンゾニトリルは検出されていない。その結果を表5に示す。実施例45の配位子PPh2(dmap)は配位子2である。
【0115】
実験例46から47の実験は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、イリジウム錯体を0.005mmol、配位子を所定量、ベンゾニトリル(102μL,1mmol)、水(72μL,4mmo1)を加えて密閉した。そしてオイルバスで100℃に加熱し0.5時間、反応させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、生成物収率(ベンズアミド収率)と原料回収率(ベンゾニトリル回収率)を算出した。実施例46から47のすべての場合において、ベンズアミド以外に検出された有機化合物は原料のベンゾニトリルのみであり、副生成物は検出されなかった。その結果を表5に示す。
【0116】
実験例48から49の実験は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、イリジウム錯体を0.005mmol、配位子を所定量、ベンゾニトリル(102μL,1mmol)、水(72μL,4mmo1)を加えて密閉した。そしてオイルバスで180℃に加熱し10分間、反応させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、ベンズアミドが収率100%で生成したことを確認した。その結果を表5に示す。
【0117】
実験例50から51の実験は次のように行った。アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、イリジウム錯体を0.02mmol、配位子を所定量、シンナモニトリル(131μL,1mmol)、水(72μL,4mmo1)を加えて密閉した。そしてオイルバスで80℃に加熱し3.5時間、反応させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、シンナモアミドが収率100%で生成したことを確認した。その結果を表5に示す。

【0118】
【表5−1】

【0119】
【表5−2】

【0120】
【表5−3】

【0121】
アルゴン雰囲気下で、ネジ式のガラス製小型試験管に、1,2-ジメトキシエタン(= DME)(0.5mL)と、イリジウム錯体を所定量、配位子をイリジウム錯体と同じモル量、3-シアノピリジン(104mg,1mmol)、水(72μL,4mmo1)を加えて密閉した。そしてオイルバスで所定の温度に加熱し所定の反応時間、反応させた。反応の進行はガスクロマトグラフィーで確認し、生成物収率(ニコチンアミド収率)と原料回収率(シアノピリジン回収率)を算出した。実施例52と53いずれの場合も原料のシアノピリジンは全く検出されなかった。その結果を表6に示す。
【0122】
【表6】

【0123】
アセチルアセトナト配位子をもつイリジウム錯体Ir(acac)(PPh2py)2と配位子PPh2pyを用いることにより、THF, 1.4-ジオキサン、水、アセトンなどの種々の溶媒において、80℃という低温で、3.5時間でニトリル化合物の水和反応が進行した(表5の実施例1から実施例10)。表2の実施例15に示すように、配位子PPh2Pyが存在しないとベンゾニトリルの水和反応は殆ど進行しなかった(ベンズアミド収率10%)。更に実施例8で示すように、溶媒が存在しなくてもベンゾニトリルの水和反応は効率よく進行することが認められた。
【0124】
更にターシャリーブチル基またはフェニル基で置換されたベータジケトナト配位子を有するイリジウム錯体(Ir(acac-Ph2)(cod))、Ir(acac-tBu2)(cod))、Ir(acac-Ph2)(PPh2py)2、Ir(acac-tBu2)(PPh2py)2)とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせて用いた場合でも、80℃という低温でニトリル化合物の水和反応が進行した。ターシャリーブチル基またはフェニル基で置換基されたベータジケトナト配位子を有するイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせにおいては、80℃で3.5時間反応させることにより、80%から100%という高い収率でベンゾニトリルの水和反応が進行した(表5の実施例11から実施例15)。
【0125】
更にターシャリーブチル基またはフェニル基で置換基されたベータジケトナト配位子を有するイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせにおいては、80℃において0.5時間という短時間でも、30%から60%程度の収率でベンゾニトリルの水和物が得られた(表5の実施例16から実施例26)。よってターシャリーブチル基またはフェニル基で置換基されたベータジケトナト配位子を有するイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせは、Ir(acac)(PPh2py)2などのアセチルアセトナト配位子とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせよりも、効率のよい触媒を与えると考えられる。更に実施例18で示すように、ターシャリーブチル基で置換基されたベータジケトナト配位子を有するイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせにおいても、溶媒が存在しなくてもベンゾニトリルの水和反応が効率よく進行した。
【0126】
加えて、フェニル基とメチル基で置換されたベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体、ターシャリーブチル基とメチル基で置換されたベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体、3つのメチル基で置換されたベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体、2つの置換基が相互に連結してシクロへキサン又はシクロペンタンを形成したベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせた場合についても検討した。その結果それらの触媒を用いて80℃で0.5時間反応を行なうことにより、上記の実施例16から実施例26よりは効率が低いものの、やはりベンゾニトリルの水和物が得られた(表5の実施例27から実施例41)。このことは、種々の置換基を有するベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体が本発明の目的で使用することができることを示している。なお実施例42に示すように、イリジウム錯体Ir(acac)(PPh2py)2と配位子PPh2pyを80℃で0.5時間反応させた場合でも、21%の収率が認められた。
【0127】
表5の実施例8で示すように、溶媒が存在しなくてもアセチルアセトナト配位子をもつイリジウム錯体がベンゾニトリルの水和反応を効率よく触媒することは明らかになったが、さらに、種々の置換基を有するベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体を触媒とするベンゾニトリルの水和反応を検討した。その結果、ターシャリーブチル基またはフェニル基で置換されたIr(acac-tBu2)(PPh2py)2、Ir(acac-Ph2)(PPh2py)2とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた場合にも反応が進行した(実施例43から45)。なお表5の実施例45に示すように溶媒が存在しなくても80℃で3.5時間反応させることによりベンズアミドが収率100%で得られることがわかった。
【0128】
さらに、種々の置換基を有するベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体の触媒としての耐熱性を確認するための実験を行った。その結果、ターシャリーブチル基またはフェニル基で置換されたIr(acac-tBu2)(PPh2py)2、Ir(acac-Ph2)(PPh2py)2とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた場合、表5の実施例46から49に示すように100℃から180℃の温度範囲でベンゾニトリルからベンズアミドが84%から100%と高収率で得られることがわかった。反応時間は30分と短時間である。このことは、種々の置換基を有するベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体がニトリル化合物の水和反応において広い温度範囲で使用できる触媒であることを示している。
【0129】
さらに、種々の置換基を有するベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体の触媒が、芳香族ニトリルであるベンゾニトリルやニコチンアミドだけではなく、脂肪族のニトリルの水和反応にも適用できることを確認するための実験を行った。その結果、ターシャリーブチル基またはフェニル基で置換されたIr(acac-tBu2)(PPh2py)2、Ir(acac-Ph2)(PPh2py)2とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた場合、表5の実施例50から51に示すように80℃でシンナモアミドが収率100%で得られることがわかった。このことは、種々の置換基を有するベータジケトナト配位子をもつイリジウム錯体が、芳香族ニトリルだけではなく、脂肪族ニトリルの水和反応にも有効な触媒であることを示している。
【0130】
更に3−シアノピリジンの水和反応についても触媒効果の検討を行った。その結果、ベンゾニトリルの場合と同様に、フェニル基で置換されたベータジケトナト配位子を有するイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせにより、水和反応の進行が認められた(表6の実施例52,53)。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明により、ルテニウム錯体又はイリジウム錯体と、ピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法が与えられた。本発明の方法によると、80℃程度という水の沸点以下の温度で水和反応が進行するので、反応容器を加熱するためのエネルギーが少なくてすむこと、さらに、水和反応に圧力容器を使用する必要がないという利点を有する。なお、ベータジケトナト配位子を有するイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒は、ニトリル化合物の水和反応をとりわけ良く進行させた。さらに水とニトリル化合物のみ、すなわち無溶媒で効率よく水和反応が進行するため、溶媒を用いる必要がない経済性も兼ね備えている。よって本発明の触媒を用いた方法によれば、工業的に有用なニコチンアミド類をはじめとする芳香族アミドや脂肪族アミドを高収率で容易に合成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X2-Ru-L2で示されるルテニウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは炭素上に陰電荷を持つ三座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法。
【請求項2】
前記Xは炭素上に陰電荷をもつ有機基であり、且つルテニウムと配位しうる原子団を持つ配位子であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記Xはアルケンの誘導体又はアルキンの誘導体からなる配位子であることを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
前記Xはアリル誘導体からなる配位子であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記Xは2-メチルアリルからなる配位子であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記Lは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記Lはアルケン、アルキン、窒素化合物、リン化合物、エーテル類及びチオエーテル類からなる群から選択されたもの、又はそれらが相互に環を形成したものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
上記Lはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテン、アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレン、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン及びチオフェンからなる群から選択され、又は上記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエン若しくはノルボルナジエンであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエンであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ルテニウム錯体がルテニウム(2-メチルアリル)2(シクロオクタジエン)であり、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル-2-ピリジルホスフィン又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミンであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
X-Ir-L2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは16族原子上に陰電荷を持つ二座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子又はピリジルホスフィン誘導体であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法。
【請求項12】
前記Xは、イリジウムと配位しうる15族、16族又は17族の元素、及び酸素がイリジウムと結合している二座配位子であり、該酸素上に陰電荷を持つことを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記15族、16族又は17族の元素が、酸素、硫黄、又はセレンであることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記Xの16族の元素が酸素であることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記Xは、下記一般式(I)で表される陰電荷をもつベータジケトナト配位子であることを特徴とする請求項14記載の方法。
【化1】

(上記一般式(I)中、R1、R2及びR3は水素、飽和または不飽和の炭化水素基、飽和又は不飽和の環状炭化水素基、芳香族化合物残基、アルコキシ基、アリールオキシ基、及び有機金属化合物残基からなる群から選択された基を表し、R1とR2、R2とR3、R1とR3、若しくはR1とR2とR3が相互に連結して環を形成してもよい。)
【請求項16】
前記R1とR3が飽和炭化水素基または芳香族化合物残基であり、前記R2が水素である請求項14又は請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記R1とR3がターシャリーブチル基であり、前記R2が水素である請求項14から請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
R1とR3がフェニル基であり、R2が水素である請求項14から請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
R1とR3がメチル基であり、R2が水素である請求項14から請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記R1ないしR3が飽和炭化水素基または芳香族化合物残基である請求項14又は請求項15記載の方法。
【請求項21】
前記R1がフェニル基であり、前記R2が水素であり、前記R3がメチル基である請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記R1がターシャリーブチル基であり、前記R2が水素であり、前記R3がメチル基である請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記R1がメチル基であり、前記R2がメチル基であり、前記R3がメチル基である請求項20記載の方法。
【請求項24】
前記R2とR3が相互に連結して飽和の環状炭化水素基を形成する請求項14又は請求項15記載の方法。
【請求項25】
前記飽和の環状炭化水素基がシクロヘキサンまたはシクロペンタンである請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記Lは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子であることを特徴とする請求項11から請求項25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記Lはアルケン、アルキン、窒素化合物、リン化合物、エーテル類及びチオエーテル類からなる群から選択されたもの、又はそれらが相互に環を形成したものであることを特徴とする請求項11から請求項26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
上記Lはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテン、アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレン、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン及びチオフェンからなる群から選択され、又は上記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエン若しくはノルボルナジエンであることを特徴とする請求項11から請求項27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
前記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエンであることを特徴とする請求項11から請求項28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記イリジウム錯体はアセチルアセトナトイリジウムシクロオクタジエン又はアセチルアセトナトビス(ジフェニル-2-ピリジルホスフィン)イリジウムであり、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル-2-ピリジルホスフィン又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミンであることを特徴とする請求項11から請求項29のいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
前記イリジウム錯体は(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イリジウムシクロオクタジエン、(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、および(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムおよびからなる群から選択され、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル−2−ピリジルホスフィン又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミンであることを特徴とする請求項11から請求項29のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
前記イリジウム錯体は1−フェニルブタン−1,3−ジオナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、2−アセチル−1−シクロヘキサナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウム、および2−アセチル−1−シクロペンタナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムからなる群から選択され、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル−2−ピリジルホスフィンであることを特徴とする請求項11から請求項29のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
(X-Ir-L)2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、ニトリル化合物を水和してアミド化合物を合成する方法であって、ここで上記Xは16族元素又は17族元素を含む基からなる群から選択された配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とするアミド化合物を合成する方法。
【請求項34】
前記16族元素を含む基は酸素を含む基であることを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記酸素を含む基はヒドロキソ(OH)又はメトキソ(OMe)であることを特徴とする請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記17族元素を含む基は塩素を含む基であることを特徴とする請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記Lは電子供与性の14族、15族、又は16族の中性の配位子であることを特徴とする請求項33から請求項36のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
前記Lはアルケン、アルキン、窒素化合物、リン化合物、エーテル類及びチオエーテル類からなる群から選択されたもの、又はそれらが相互に環を形成したものであることを特徴とする請求項33から請求項37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
上記Lはエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、シクロヘキセン、シクロオクテン、アセチレン、プロピン、フェニルアセチレン、トリメチルシリルプロピン、フェニルプロピン、ジフェニルアセチレン、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、4,4-ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルペンタフルオロフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、2ーホスファニルー4ーピリジル(ジメチル)アミン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、ジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェン及びチオフェンからなる群から選択され、又は上記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエン若しくはノルボルナジエンであることを特徴とする請求項33から請求項38のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記Lが相互に環を形成したL2がシクロオクタジエンであることを特徴とする請求項33から請求項39のいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
前記イリジウム錯体はクロロシクロオクタジエンイリジウム・ダイマー、シクロオクタジエン(μ-ヒドロキソ)イリジウム・ダイマー及びシクロオクタジエン(μ-メトキソ)イリジウム・ダイマーからなる群から選択され、前記ピリジルホスフィン誘導体がジフェニル−2−ピリジルホスフィン又は2−ジフェニルホスファニル−4−ピリジル(ジメチル)アミンであることを特徴とする請求項33から請求項40のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
アセチルアセトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
【請求項43】
X2-Ru-L2で示されるルテニウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは炭素上に陰電荷を持つ三座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とする触媒。
【請求項44】
X-Ir-L2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは16族原子上に陰電荷を持つ二座配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子又はピリジルホスフィン誘導体であることを特徴とする触媒。
【請求項45】
(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
【請求項46】
(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
【請求項47】
1−フェニルブタン−1,3−ジオナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
【請求項48】
5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
【請求項49】
3−メチルペンタン−2,4−ジケトナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
【請求項50】
2−アセチル−1−シクロヘキサナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
【請求項51】
2−アセチル−1−シクロペンタナトビス(ジフェニル−2−ピリジルホスフィン)イリジウムであるイリジウム錯体。
【請求項52】
請求項42、請求項44ないし請求項51のいずれか1項に記載のイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体の組み合わせによる触媒作用を用いて、水とニトリル化合物のみで水和反応を起こすことを特徴とするアミド化合物を合成する方法。
【請求項53】
(X-Ir-L)2で示されるイリジウム錯体とピリジルホスフィン誘導体を組み合わせた触媒であって、ここで上記Xは16族元素又は17族元素を含む基からなる群から選択された配位子であり、上記Lは中性であり且つ該ピリジルホスフィン誘導体と置換しうる配位子であることを特徴とする触媒。

【公開番号】特開2008−88153(P2008−88153A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71086(P2007−71086)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】