説明

アミド化合物及びその塩、それを用いたバイオフィルム形成阻害剤及びバイオフィルム剥離剤

【課題】バイオフィルムの形成阻害作用または形成されたバイオフィルムを除去剥離する作用を有する新規アミド化合物及びその塩を提供する。また当該アミド化合物またはその塩を有効成分とするバイオフィルムの形成阻害剤又はバイオフィルム剥離剤を提供する。
【解決手段】本発明のアミド化合物またはその塩は下記一般式(1)で表される:


〔式中、RはC1−11アルキル基を示す。〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオフィルムの形成阻害作用または形成されたバイオフィルムを除去剥離する作用を有する新規アミド化合物及びその塩に関する。さらに本発明は当該アミド化合物またはその塩を有効成分とするバイオフィルムの形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、真菌等のある種の微生物は、担体表面に付着してコロニーを形成し、一定の菌細胞数に達すると、多糖類や糖タンパク質等の有機物質を生成、分泌してバイオフィルム(生物膜)を形成するが、そのバイオフィルムに他の微生物が入り込んで複雑な微生物の集団を形成することが知られている。バイオフィルムはあらゆる自然界の環境や産業分野、更には人体の内外においてその形成が認められ、例えば、工場の排水管内等における配管の金属腐食やバルブ操作障害等の産業設備への障害の原因や、循環式浴槽におけるレジオネラ属菌の発生問題、ヒト皮膚上のニキビや炎症等の皮膚疾患、コンタクトレンズなどを介した細菌性角膜炎等の眼感染症、口腔内のう蝕や歯周病等の口腔内疾患、その他、中耳炎、細菌性前立腺炎、嚢胞性線維症肺炎など、人体への感染症の原因となっている。
【0003】
歯周病などを含む、これらのバイオフィルム感染症は難治性のものが多い。この理由として、バイオフィルム内の微生物がフィルム(細胞外マトリックス)によって覆われているため免疫細胞や抗菌物質などと直接的な接触が妨げられていることが挙げられる。また抗生物質の抗菌効果は細菌が活発に分裂しているときに発揮されて細菌の増殖を抑えるというものであるのに対して、バイオフィルム中の細菌は代謝が非常にゆっくりしているため、これが抗生物質を効きにくくしている原因の1つと考えられている。このため、バイオフィルム感染症を完治させるには、微生物によるバイオフィルムの形成を阻害する予防的な処置に加え、既に形成されたバイオフィルムを除去する処置が必要である。
【0004】
バイオフィルムの除去は基本的にブラシ等でこするなどの物理的手段がとられるが、バイオフィルムは担体表面に強固に付着しており、多大な労力に対して期待するほどの効果が得られない。
【0005】
かかる実情を踏まえて、近年バイオフィルムの形成を制御する作用を有する化合物が注目されており、例えばある種のアミド構造を有する化合物がバイオフィルム形成を調整することが報告されている(特許文献1および2等参照)。
【特許文献1】特表2006−512290号公報
【特許文献2】特表2004−528356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載された化合物は、既に形成されたバイオフィルムを剥離除去する作用を有するものではない。確かにバイオフィルムの形成を制御して阻害することによって、バイオフィルムの膜厚を薄くしたり、更に進んで崩壊させることが期待されるものの、依然としてバイオフィルム内部に存在する微生物は生き残っているため、抗菌剤の効力が弱まったり又は消失した時点で、再度バイオフィルムを形成する可能性があり、バイオフィルム感染症を含む種々の障害の根本的な解決方法にはならない。よって、これらバイオフィルムが原因とされる種々の障害の排除ならびにバイオフィルム感染症の徹底した治療には、バイオフィルム形成阻害作用を有する薬剤だけでは不十分であり、形成されたバイオフィルムを除去し剥離する作用を有する薬剤の開発が熱望されている。
【0007】
本発明は、既に形成されたバイオフィルムを除去剥離する作用を有する化合物、特に微生物のバイオフィルム形成を阻害する作用とともに、当該バイオフィルム剥離作用を有する新規な化合物を提供することを目的とする。また本発明は、かかる化合物を有効成分とするバイオフィルム剥離剤またはバイオフィルム形成阻害剤、特に緑膿菌や歯周病原性細菌等の細菌が形成するバイオフィルムに対して有効に作用するバイオフィルム剥離剤またはバイオフィルム形成阻害剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、これらのバイオフィルム剥離剤またはバイオフィルム形成阻害剤を含有する製品、例えば歯周病原性細菌が関連する歯周病などの口腔内疾患の予防または治療を目的とした口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ある種のアミド構造を有する特定の化合物に微生物のバイオフィルム形成阻害作用があることを見出すとともに、既に形成されたバイオフィルムを除去剥離する作用があることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明には下記の態様を有するものが含まれる:
項1.一般式(1)で表されるアミド化合物またはその塩:
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、RはC1−11アルキル基を示す。〕。
項2.項1に記載のアミド化合物またはその塩を有効成分とするバイオフィルム形成阻害剤。
項3.バイオフィルムが緑膿菌又は歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムである項2に記載するバイオフィルム形成阻害剤。
項4.項1に記載のアミド化合物またはその塩を有効成分とするバイオフィルム剥離剤。
項5.バイオフィルムが緑膿菌又は歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムである項4に記載するバイオフィルム剥離剤。
項6.項3に記載する歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムに対するバイオフィルム形成阻害剤、または項5に記載する歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムに対するバイオフィルム剥離剤を含有する、口腔用組成物。
更に、本発明は以下の態様を有するものを含むことができる:
項7.一般式(1)で表されるアミド化合物が下記のいずれかである、項1に記載のアミド化合物またはその塩:
N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド、
N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ヘキサナミド、
N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)オクタナミド、
N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)デカナミド、
N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ドデカナミド。
項8.項7に記載のアミド化合物またはその塩を有効成分とするバイオフィルム形成阻害剤。
項9.バイオフィルムが緑膿菌又は歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムである項8に記載するバイオフィルム形成阻害剤。
項10.項7に記載のアミド化合物またはその塩を有効成分とするバイオフィルム剥離剤。
項11.バイオフィルムが緑膿菌又は歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムである項10に記載するバイオフィルム剥離剤。
項12.項9に記載する歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムに対するバイオフィルム形成阻害剤、または項11に記載する歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムに対するバイオフィルム剥離剤を含有する、口腔用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物によれば、微生物が形成するバイオフィルムによって生じる様々な障害を、バイオフィルムの形成を阻害すること、更には形成されたバイオフィルムを除去することで解決することができる。
【0013】
特に本発明の化合物は、緑膿菌や歯周病原性細菌によるバイオフィルム形成を阻害し、更にはその形成されたバイオフィルムを除去剥離するという特有の作用を有している。このため本発明の化合物は適用範囲が広範囲に亘るだけでなく、難治性のバイオフィルム感染症に対しても有効に使用することができ、これらの感染症の根本的治療に対して多大に貢献することが期待できる。
【0014】
例えば、緑膿菌は自然環境中に常に存在しており、わずかな有機物と水分があれば増殖してバイオフィルムを形成するため、院内感染や菌交代症、日和見感染を起こす原因となったり、水道管等の配管や貯水槽内等の衛生環境の悪化原因となっている。
【0015】
また、歯周病原性細菌が形成するプラークはバイオフィルムの形態をとり、歯周病や歯槽膿漏などの口腔内疾患および口臭などの病因となっている。かかるプラークを除去することが口腔衛生およびこれらの口腔内疾患の治療において重要であることは従来より周知である。
【0016】
しかしバイオフィルムは、前述するように殺菌剤などの薬剤が効きにくいという問題がある。
【0017】
本発明のバイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤によれば、病院施設又は家庭や工場等の配管や貯水槽内などで緑膿菌によるバイオフィルム形成を阻害し、また既に形成したバイオフィルムの除去を促進して、衛生環境を整え、院内感染や種々の障害を効果的に予防または改善することが可能となる。また本発明のバイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤によれば、歯、歯肉または口腔内の歯科材料などで、歯周病原性細菌によるバイオフィルム形成を阻害し、また表面に付着形成したバイオフィルムの除去を促進して、歯周炎や歯槽膿漏などの歯周疾患、口内炎などの口腔内疾患などを効果的に予防または治療することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(I)新規アミド化合物またはその塩
本発明は、バイオフィルム形成阻害作用またはバイオフィルム除去剥離作用を有し、後述するバイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤の有効成分として有用な新規アミド化合物およびその塩を提供する。
【0019】
ここで「バイオフィルム」(「生物膜」とも呼ばれる)とは、微生物が分泌生成する粘液質のフィルムで、その中に複数種類の微生物が共存して複合体(群生)を形成し、固体の表面に付着した状態のものをいう。言い換えれば、「バイオフィルム」は、微生物が分泌排泄するスライムで囲まれた微生物の集合体である。かかるバイオフィルムが付着する固体としては、自動力または自浄力のないもの、例えばポリマー、プラスチック、セラミック、金属、ガラス、ヒドロキシアパタイトなどのほか、皮膚、骨、歯、歯肉または組織など生体を、制限することなく挙げることができる。
【0020】
当該アミド化合物は、下記の一般式(1)で表すことができる:
【0021】
【化2】

〔式中、RはC1−11アルキル基を示す。〕。
【0022】
一般式(1)中、Rとして表されるC1−11アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチル−n−ブチル、2−メチル−n−ブチル、3−メチル−n−ブチル、1,1−ジメチル−n−プロピル、1,2−ジメチル−n−プロピル、2,2−ジメチル−n−プロピル、1−エチル−n−プロピル、n−ヘキシル、1−メチル−n−ペンチル、2−メチル−n−ペンチル、3−メチル−n−ペンチル、4−メチル−n−ペンチル、1,1−ジメチル−n−ブチル、1,2−ジメチル−n−ブチル、1,3−ジメチル−n−ブチル、2,2−ジメチル−n−ブチル、2,3−ジメチル−n−ブチル、3,3−ジメチル−n−ブチル、1−エチル−n−ブチル、2−エチル−n−ブチル、1,1,2−トリメチル−n−プロピル、1,2,2−トリメチル−n−プロピル、1−エチル−1−メチル−n−プロピル、1−エチル−2−メチル−n−プロピル、1−メチル−1−エチル−n−ペンチル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、1−エチル−1,2−ジメチル−n−プロピル、1−エチル−2,2−ジメチル−n−プロピル、n−オクチル、3−オクチル、4−メチル−3−n−ヘプチル、6−メチル−2−n−ヘプチル、2−プロピル−1−n−ヘプチル、2,4,4−トリメチル−1−n−ペンチル、n−ノニル、2−ノニル、2,6−ジメチル−4−n−ヘプチル、3−エチル−2,2−ジメチル−3−n−ペンチル、3,5,5−トリメチル−1−n−へキシル、n−デシル、2−デシル、4−デシル、3,7−ジメチル−1−n−オクチル、3,7−ジメチル−3−n−オクチル、n−ウンデシル、n−ドデシル等の炭素数1〜11の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0023】
好ましくは炭素数1〜11の直鎖状のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、またはn−ドデシル等の直鎖状のアルキル基を好ましい基として挙げることができ、更に好ましくは炭素数1〜7の直鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0024】
一般式(1)で表されるアミド化合物の具体例として、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)アセトアミド、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ヘキサナミド、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)オクタナミド、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)デカナミド、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ドデカナミド等、及びそれらの塩を好ましく挙げることができ、中でもN−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)アセトアミド、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ヘキサナミド等、及びそれらの塩が好ましく、N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド及びその塩が特に好ましい。
【0025】
本発明の式(1)で表されるアミド化合物は、酸と塩を形成することができる。アミド化合物(1)と塩を形成する酸としては、特に制限されず、例えば塩酸、硝酸、硫酸およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、酒石酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、サリチル酸、安息香酸およびアスコルビン酸等の有機酸を挙げることができる。好ましくは薬学的に使用可能な塩である。
【0026】
本発明のアミド化合物(1)は、例えば下記に説明する反応式−1で表される方法に従って製造することができる。
【0027】
【化3】

【0028】
反応式−1によると、式(2)で表される3−アミノ−1−フェニルピラゾール−5−オンと式(3)で表されるカルボン酸化合物とを作用することで、本発明のアミド化合物(1)を製造することができる。
【0029】
この反応は適当な縮合剤の存在下、不活性溶媒中で行うことができる。使用する縮合剤としては、制限されないが、三塩化リン、三臭化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、塩化チオニル等の酸ハロゲン化物生成剤;クロロぎ酸エチル、塩化メタンスルホニル等の混合酸無水物生成剤;N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド等のカルボジイミド類;あるいはその他の縮合剤、例えばN,N−カルボニルジイミダゾール、2−エトキシ−N−エトキシカルボニル−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)、トリフェニルホスフィン−四塩化炭素(錯体)等を挙げることができる。
【0030】
使用される不活性溶媒としては、制限されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、1,2−クロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド 、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;またはこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0031】
また、本発明のアミド化合物(1)は、下記の反応式−2に示すように、式(2)で表される3−アミノ−1−フェニルピラゾール−5−オンと式(4)で表されるカルボン酸ハロゲン化物とを適当な溶媒中、必要に応じて塩基の存在下で、反応させることによっても製造することができる。
【0032】
【化4】

【0033】
この反応で使用される溶媒としては、上記反応式−1で使用できる溶媒を同様に挙げることができる。
【0034】
上記反応は、前述するように、必要に応じて塩基の存在下で行うことができる。ここで使用される塩基としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムまたは水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウムや炭酸カリウムまたは炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩または炭酸水素塩;酢酸ナトリウムや酢酸カリウムまたは酢酸カルシウム等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の酢酸塩;水素化ナトリウムや水素化カリウムまたは水素化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物;水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウムまたは酢酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;あるいはトリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、ジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)等の第三級アミン類を挙げることができる。
【0035】
これらの反応に供される試薬の量は特に限定されないが、カルボン酸化合物(3)又はカルボン酸ハロゲン化物(4)1モルに対して、通常、3−アミノ−1−フェニルピラゾール−5−オン(2)を0.8〜5モル程度、好ましくは1〜3モルの範囲で使用するのがよい。また反応式−1の場合、縮合剤の使用割合として、カルボン酸化合物(3)1モルに対して0.8〜5モル程度、好ましくは1〜3モルの範囲を挙げることができる。さらに反応式−2の場合、塩基を使用する場合、当該塩基の使用割合も同様に、カルボン酸化合物(3)1モルに対して0.8〜5モル程度、好ましくは1〜3モルの範囲を挙げることができる。
【0036】
反応温度は特に限定されないが、通常、−10℃から使用する溶媒の沸点温度以下の範囲内とすればよい。また、反応時間は、前記の濃度、温度等によって変化するが、通常5〜10時間の範囲で適宜調整することができる。
【0037】
なお、上記反応に原料として使用する3−アミノ−1−フェニルピラゾール−5−オン(2)、カルボン酸化合物(3)及びカルボン酸ハロゲン化物(4)はいずれも商業的に容易に入手できるか、公知の方法にしたがって製造することができるものである。
【0038】
斯くして得られるアミド化合物(1)は、通常の分離手段、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶等により反応混合物から容易に単離精製することができる。
【0039】
(II)バイオフィルム剥離剤、バイオフィルム形成阻害剤
上記本発明のアミド化合物(1)およびその塩は、後述する試験例で示すようにバイオフィルム形成阻害作用またはバイオフィルム剥離除去作用を有する。従って、上記本発明のアミド化合物(1)およびその塩は、バイオフィルムの形成阻害または除去剥離を目的に使用される組成物(バイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤)の有効成分として有用である。
【0040】
本発明のアミド化合物(1)及びその塩は、バイオフィルムを形成する能力を有する細菌および当該細菌によって形成されたバイオフィルムに対して有効であるが、特に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)及び歯周病原性細菌のバイオフィルム形成能に対する阻害効果に優れている。また、これらの細菌によって形成されるバイオフィルムに対して優れたバイオフィルム剥離効果を発揮する。なお、バイオフィルム形成性の歯周病原性細菌としては、制限されないが、例えば、Porphyromonas gingivalisTannerella forsythensisActinobacillusactinomycetemcomitansPrevotella intermediaEikenellacorrodensCampyrobacter rectusFusobacterium necleatumTreponemadenticolaなどを挙げることができる。
【0041】
ゆえに本発明は、上記アミド化合物(1)またはその塩を有効成分とするバイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤を提供する(以下、これらのバイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤を総称して、「製剤」ともいう)。
【0042】
本発明の製剤は、上記アミド化合物(1)またはその塩だけからなるものであってもよいし、または、任意の担体や添加剤と組み合わせて、従来公知の方法で所望の用途に適した形態に調製した組成物であってもよい。本発明の製剤の形態としては、制限されないが、例えば錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤、粉末シロップ剤およびカプセル剤(硬カプセルおよび軟カプセル)などの固体状の製剤;クリーム、軟膏およびジェルなどのペースト状またはゲル状の製剤;液剤、懸濁剤、乳液剤、シロップ、エリキシル剤、噴霧剤およびエアゾールなどの液体状の製剤、等とすることができる。
【0043】
本発明の製剤に配合する上記アミド化合物(1)またはその塩の割合としては、バイオフィルム形成阻害作用またはバイオフィルム除去剥離作用を発揮する割合であれば特に制限されず、例えば、製剤100重量%中、0.001〜99重量%、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.05〜10重量%の範囲で適宜設定調製することができる。
【0044】
当該製剤は、上記アミド化合物(1)またはその塩を、バイオフィルム形成阻害効果またはバイオフィルム除去剥離効果を発揮する割合で含むものであればよく、この効果を妨げない範囲で他成分を配合することもできる。かかる他成分は、バイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤の使用目的や使用対象の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、制限されないが、かかる他成分には、賦形剤、結合剤、分散剤、増粘剤、滑沢剤、pH調整剤、可溶化剤などの一般に製剤の製造に使用される担体のほか、抗生物質、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、ビルダー、漂白剤、酵素、キレート剤、消泡剤、着色料(染料、顔料など)、柔軟剤、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、矯味剤、矯臭剤、溶媒などが含まれる。
【0045】
本発明の製剤は、上記アミド化合物(1)またはその塩に加えて、例えば塩酸ミノサイクリン等のテトラサイクリン系殺菌剤;トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム等のカチオン性殺菌剤;マクロライド系抗生物質等の抗菌又は殺菌剤を含有することが好ましい。
【0046】
また本発明の製剤には、かかる抗菌又は殺菌剤の活性を向上させる化合物、例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸;ファルネソール、トランスグルコシダーゼ、CGTase等のデンプン改変酵素、α−アミラーゼ等のデンプン加水分解酵素の酵素を併用して配合することもできる。
【0047】
本発明の製剤は、バイオフィルムが形成され、当該バイオフィルムの形成によって障害を生じる場所に対して広く適用することができる。
【0048】
使用方法としては、産業用設備や循環式浴槽等におけるバイオフィルムに対しては、懸濁剤、水和剤、水溶剤を配管等に循環させたり、局所的にスプレーする方法やタンクや浴槽等に高濃度液や錠剤、粉剤、粒剤等の固形剤を投入してタンク内等の水で希釈又は溶解して施用する方法等が考えられる。また本発明の製剤は、経口、非経口又は局所投与に適した医薬製剤の形態に調製して用いることができる。さらに後述するように、歯磨剤、口中清涼剤、洗口剤、歯肉用製剤、ガム、うがい薬、または義歯や歯科材料用の洗浄剤などの口腔用製剤の形態に調製して用いることができる。
【0049】
本発明の製剤の使用量は、使用する場所、剤形、特に徐放性剤の場合などによって異なるため、一概に規定することはできないが、例えば本発明の製剤をバイオフィルム感染症の予防または治療目的で使用する場合、適当な1日の投与量としては、上記本発明のアミド化合物(1)またはその塩の投与量に換算して、1 ng/mL〜100mg/mL、好ましくは10ng/mL〜10mg/mL程度の範囲、絶対量として通常1ng〜500mgの範囲で適宜設定調整することができる (例えば、ヒトの場合には総量およそ300mg)。
【0050】
(III)口腔用組成物
本発明は、上記バイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤を含有する口腔用組成物を提供する。本発明は、上記本発明のアミド化合物(1)またはその塩を有効成分とするバイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤が、特に歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムに対して、優れたバイオフィルム形成阻害作用またはバイオフィルム剥離作用を有することに基づくものである。
【0051】
ここで本発明が対象とする口腔用組成物としては、歯周病原性細菌が関連する歯周病などの口腔内疾患の予防または治療を目的とした組成物であって専ら口腔内で用いられるものを挙げることができる。具体的には、練歯磨剤、粉歯磨剤、液状歯磨剤、潤製歯磨剤などの歯磨剤;トローチ状、錠剤状、液状、ガム状、グミ状、フィルム状等の口中清涼剤や洗口剤;クリーム状、軟膏状またはジェル状の形態を有する歯肉用の製剤などが含まれる。また本発明が対象とする口腔用組成物には、上記口腔内疾患の予防を目的とした組成物であって専ら口腔内で使用される義歯や歯科材料の処理に使用されるものも含まれる。かかる口腔用組成物としては義歯や歯科材料用の洗浄剤などを例示することができる。
【0052】
口腔用組成物に配合するバイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤の割合は、バイオフィルム形成阻害剤またはバイオフィルム剥離剤の有効成分である上記本発明のアミド化合物(1)またはその塩の含有量(総量)が、組成物100重量%中に0.001〜99重量%、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.05〜10重量%の範囲になるように適宜設定調製することができる。
【0053】
本発明の口腔用組成物には、その種類や形態に応じて、上記成分に加えて、必要により以下の成分を通常の使用量の範囲内で配合することができる。
【0054】
<研磨剤>
シリカゲル、沈降性シリカ、火成性シリカ、含水ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸チタニウム、ゼオライト、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤;第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム二水和物、第二リン酸カルシウム無水和物、ピロリン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カルシウム、酸化チタン、および合成樹脂系研磨剤など。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。かかる研磨剤を配合する場合(例えば、歯磨剤など)、配合量は特に制限されないが、口腔用組成物100重量%中に3〜80重量%、好ましくは10〜50重量%の範囲を例示することができる。
【0055】
<湿潤剤または粘稠剤>
グリセリン、濃グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール;キシリトール、マルチトール、ラクトール等の糖アルコール等。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0056】
<粘結剤>
アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルシウム含有アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩及びその誘導体;カラギーナン(ι、λ、κ)、キサンタンガム、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、グァーガム等のガム類;カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロースナトリウムなどのセルロース類;ゼラチン、寒天、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、カーボポール、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、増粘性シリカなど。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。かかる粘結剤を配合する場合(例えば、歯磨剤など)、配合量は特に制限されないが、口腔用組成物100重量%中に0.1〜10重量%程度の範囲を例示することができる。
【0057】
<発泡剤>
ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸モノグリセリンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、N-アシルグルタメート等のN-アシルアミノ酸塩、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、マルチトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0058】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤のいずれもが使用できる。
【0059】
アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、N−ミリストイルザルコシン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタルミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタメート、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム等のN−アシルタウレート等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ラクトール脂肪酸エステル等の糖アルコール脂肪酸エステル、アルキロールアマイド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ラウリル酸モノ又はジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プルロニック等が挙げられる。また、両性イオン界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−ラウリルジアミノエチルグリシン、N−ミリスチルジアミノエチルグリシン等のN−アルキルジアミノエチルグリシンあるいはN−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウム等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0060】
<甘味剤>
サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、グリチルチリン、ソーマチン等。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0061】
<防腐剤>
メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類;安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0062】
<香料成分>
l-メントール、アネトール、メントン、シネオール、リモネン、カルボン、メチルサリシレート、エチルブチレート、オイゲノール、チモール、n−デシルアルコール、シトロネロール、α−テレピネオール、シトロネリルアセテート、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、チモール、ペパーミント、シンナミックアルデヒド、トランス-2-ヘキセナール等。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。なお、これらの成分は純品(精製物)として用いることもできるが、これに限らず、これらを含有する精油等の粗精製物の状態で配合することもできる(例えば、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、桂皮油、ピメント油、桂葉油、シソ油、冬緑油、チョウジ油、ユーカリ油など)。
【0063】
また、上記香料成分に加え、脂肪族アルコールやそのエステル、テルペン系炭化水素、フェノールエーテル、アルデヒド、ケトン、ラクトン等の香料成分や精油を本発明の効果を妨げない範囲で配合してもよい。香料成分を配合する場合、その配合量としては、口腔用組成物全体100重量%中0.02〜2重量%の範囲を例示することができる。
【0064】
<抗菌成分>
銀、銅および亜鉛等の抗菌性金属またはその水難溶性金属塩(例えば、酸化銀、塩化銀、炭酸銀、リン酸銀、水酸化銅、グルコン酸銅、酸化亜鉛、クエン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛、水酸化亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛など);銅クロロフィル、セチルピリジウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、ヒノキチオール、塩化リゾチーム等。
【0065】
<防腐成分>
各種パラベン、安息香酸ナトリウム、トリクロサン等の非イオン性抗菌剤;塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウムなどのカチオン性抗菌剤など。
【0066】
<口腔用有効成分>
塩化リゾチーム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール,ポリビニルピロリドン、ヒノキチオール、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩類、クロルヘキシジン塩類、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ビサボロール、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、酢酸トコフェロール、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アルミニウムヒドロキシルアラントイン、乳酸アルミニウム、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸塩類、銅クロロフィリン塩、塩化ナトリウム、グァイアズレンスルホン酸塩、デキストラナーゼ、塩酸ピリドキシン、トラネキサム酸、塩化ナトリウム、ビタミンCやE、各種酵素(例えば、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテナーゼ、ムタナーゼ、ペクチナーゼなど)、アズレン、ポリリン酸塩などの歯石予防剤、ポリエチレングリコールやポリビニルピロリドンなどのタバコヤニ除去剤、乳酸アルミニウムや硝酸カリウムなどの近く過敏予防剤など。これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0067】
<その他>
青色1号等の色素、酸化チタン等の顔料、ジブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤、チャ乾留液、グルタミン酸ナトリウム等の矯味剤など。
【0068】
なお、本発明の口腔用組成物は、常法に従って製造することができ、その製造方法は特に限定されるものではない。また、得られた練歯磨剤等の口腔用組成物は、アルミニウムチューブ、ラミネートチューブ、ガラス蒸着チューブ、プラスチックチューブ、プラスチックボトル、エアゾール容器等に充填された形で製造され、また販売され、使用時にそれから取りだして使用することができる。
【0069】
本発明の口腔用組成物によれば、歯周病原性細菌による口腔内でのバイオフィルム形成を抑制し、また形成されたバイオフィルムを除去することができるため、細菌叢の生成を防止し、また抗菌剤を同時に配合する場合には当該抗菌効果を高めることによって、プラーク形成抑制効果および抗菌効果に優れた口腔用組成物を提供することができる。従って、本発明の口腔用組成物は、歯周炎や歯周疾患(例えば、歯槽膿漏など)の口腔用疾患の予防または治療に有効に利用することができる。また本発明の口腔用組成物は、歯周炎や歯周疾患(例えば、歯槽膿漏など)の原因とする口臭の予防または除去に有効に利用することができる。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明のアミド化合物(1)の製造例及び試験例を挙げて、本発明を一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
製造例1 N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド(化合物1a)の製造
3−アミノ−1−フェニル−1H−ピラゾール−5(4H)−オン357mg(2.0mmol)をピリジン15mlに溶解し、ブチル酸クロライド0.22g(2.0mmol)を氷冷下滴下して加え、約4時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、得られた残渣を精製水で洗浄した。その後、酢酸エチルを用いて再結晶し吸引濾過した後、減圧乾燥して、下式で示されるN−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド(化合物1a)を得た。
【0072】
【化5】

【0073】
収量:226mg(0.92mmol)
収率:46%
1H-NMR(CDCl3, 500MHz):1.00ppm(t, 3H), 1.73ppm(q, 2H), 2.36ppm(q, 2H), 4.08ppm(s, 2H), 7.18ppm(m, 1H), 7.37ppm(m, 2H), 7.80ppm(m, 2H), 8.05ppm(br, 1H)。
【0074】
製造例2 N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ヘキサナミド(化合物1b)の製造
ブチル酸クロライドに代えてカプロン酸クロライドを用いる以外は製造例1と同様に操作して、下式で示されるN−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ヘキサナミド(化合物1b)を得た。
【0075】
【化6】

【0076】
収量:300mg(1.1mmol)
収率:55%
1H-NMR(CDCl3, 500MHz):0.92ppm(t, 3H) , 1.36ppm(m, 4H), 1.70ppm(q, 2H), 2.37ppm(q, 2H), 4.08ppm(s, 2H), 7.16ppm(m, 1H), 7.39ppm(m, 2H), 7.82ppm(m, 2H), 7.94ppm(br, 1H)。
【0077】
製造例3 N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)オクタナミド(化合物1c)の製造
ブチル酸クロライドに代えてオクタン酸クロライドを用いる以外は製造例1と同様に操作して、下式で示されるN−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)オクタナミド(化合物1c)を得た。
【0078】
【化7】

【0079】
収量:403mg(1.34mmol)
収率:67%
1H-NMR(CDCl3, 500MHz):0.89ppm(t, 3H) , 1.32ppm(m, 8H), 1.69ppm(q, 2H), 2.37ppm(q, 2H), 4.14ppm(s, 2H), 7.16ppm(m, 1H), 7.39ppm(m, 2H), 7.80ppm(m, 2H), 7.99ppm(br, 1H)。
【0080】
製造例4 N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)デカナミド(化合物1d)の製造
ブチル酸クロライドに代えてデカン酸クロライドを用いる以外は製造例1と同様に操作して、下式で示されるN−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)デカナミド(化合物1d)を得た。
【0081】
【化8】

【0082】
収量:454mg(1.38mmol)
収率:69%
1H-NMR(CDCl3, 500MHz):0.89ppm(t, 3H) , 1.32ppm(m, 12H), 1.68ppm(m, 2H), 2.36ppm(m, 2H), 4.08ppm(s, 2H), 7.18ppm(m, 1H), 7.41ppm(m, 2H), 7.80ppm(m, 2H), 7.97ppm(br, 1H)。
【0083】
製造例5 N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ドデカナミド(化合物1e)の製造
ブチル酸クロライドに代えてドデカン酸クロライドを用いる以外は製造例1と同様に操作して、下式で示されるN−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ドデカナミド(化合物1e)を得た。
【0084】
【化9】

【0085】
収量:457mg(1.28mmol)
収率:64%
1H-NMR(CDCl3, 500MHz):0.88ppm(t, 3H) , 1.27ppm(m, 16H), 1.69ppm(m, 2H), 2.36ppm(m, 2H), 4.12ppm(s, 2H), 7.18ppm(m, 1H), 7.39ppm(m, 2H), 7.82ppm(m, 2H), 7.99ppm(br, 1H)。
【0086】
試験例1 (バイオフィルム生合成阻害効果の評価試験)
各種の菌株〔Porphyromonas gingivalis 381株(以下、「Pg381」という)、Porphyromonas gingivalis ATCC 33277株(以下、「Pg33277」という)、Fusobacterium nucleatum ATCC 25586株(以下、「Fn25586」という)、またはTannerella forsythensis ATCC 43037株(以下、「Tf43037」という)〕を血液平板培地にて培養後、コロニーを採取し、Tripticase Soy液体培地(TSB)に接種して定常期まで培養した。その培養液500μLにTSB4500μLを加えて、一晩培養した。
【0087】
各菌株の培養液を吸光度(OD595nm)が0.10となるようにTSBを加えて調整し、得られた各培養液180μL、及び各培養液を2種類(Pg381とFn25586、またはTf43037とFn25586)を等量混合した培養液180μLをそれぞれ96穴の細胞培養用プレートの各Wellに入れた。
【0088】
製造例1で製造したN−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド(化合物1a)のエタノール溶液を終濃度50μMとなるように、上記培養液の入った各Wellに加え、37℃、嫌気条件(5%CO,10%H,85%N)で24時間培養した。対照試験として、同量のエタノール又は蒸留水を加えて同様に培養した。
【0089】
培養終了後、各Wellの上澄液の一部を抜き取り、吸光度(OD595nm)を測定した(吸光度1)。この吸光度(吸光度1)は菌総数に相当する。
【0090】
次に各Wellの残りの上澄液を除去し、0.2%(w/v)クリスタルバイオレット溶液180μLを各Wellに加えて20分間染色した。各Wellのクリスタルバイオレット溶液を除去した後、蒸留水270μLで2回洗浄した。各Wellにエタノール210μLを加えて、内壁に付着したバイオフィルムが完全に遊離する程度に十分撹拌した後、吸光度(OD595)を測定した(吸光度2)。この吸光度(吸光度2)はバイオフィルム形成量に相当する。各Wellの吸光度2を吸光度1で除して、細菌の単位数あたりのバイオフィルム形成量を求めた。
【0091】
本試験は8連で行ない、各細菌によるバイオフィルム形成量の平均値を求めた。
【0092】
結果を図1及び2に示す。なお、図中、「1a」のグラフは化合物1a存在下での各細菌のバイオフィルム形成量を、「ETOH」のグラフは化合物1aの添加に代えてエタノールを添加して培養した場合の各細菌のバイオフィルム形成量を、また「Broth」のグラフは化合物1aの添加に代えて蒸留水を添加して培養した場合の各細菌のバイオフィルム形成量を、それぞれ示す。
【0093】
この結果から化合物1aの添加により各細菌によるバイオフィルム形成量が低下すること、すなわち、化合物1aが各細菌のバイオフィルム形成能を阻害する作用を有していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド(化合物1a)存在下での、各種菌株〔Porphyromonas gingivalis 381株(Pg381)、Porphyromonas gingivalis ATCC 33277株(Pg33277)、Fusobacterium nucleatum ATCC 25586株(Fn25586)、またはTannerella forsythensis ATCC 43037株(Tf43037)〕のバイオフィルム形成量(細菌単位数あたり)を示す(試験例1)。
【図2】N−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1−フェニルピラゾール−3−イル)ブチルアミド(化合物1a)存在下での、2種菌株〔Pg381+Fn25586、Tf43037+Fn25586〕のバイオフィルム形成量(細菌単位数あたり)を示す(試験例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるアミド化合物またはその塩:
【化1】

〔式中、RはC1−11アルキル基を示す。〕。
【請求項2】
請求項1に記載のアミド化合物またはその塩を有効成分とするバイオフィルム形成阻害剤。
【請求項3】
バイオフィルムが緑膿菌又は歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムである請求項2に記載するバイオフィルム形成阻害剤。
【請求項4】
請求項1に記載のアミド化合物またはその塩を有効成分とするバイオフィルム剥離剤。
【請求項5】
バイオフィルムが緑膿菌又は歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムである請求項4に記載するバイオフィルム剥離剤。
【請求項6】
請求項3に記載する歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムに対するバイオフィルム形成阻害剤、または請求項5に記載する歯周病原性細菌によって形成されるバイオフィルムに対するバイオフィルム剥離剤を含有する、口腔用組成物。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−43003(P2010−43003A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320753(P2006−320753)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】