説明

アミド含有スルフィド化合物、並びにその製造方法及び用途

【課題】高濃度の白金イオンを含有する溶液から選択的にパラジウムイオンを分離する抽出剤又は吸着剤及び当該吸着剤を用いたパラジウムイオンの分離回収方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を含んでなるパラジウムイオン抽出剤、又は下記一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を担体に固定化させたパラジウムイオン吸着剤を用いて、パラジウムイオンを選択的に分離回収する。


(式中、Rは各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは各々独立して、1〜4の整数を表し、Lはメチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド含有スルフィド化合物、並びにその製造方法及び用途に関する。さらに詳しくは、新規アミド含有スルフィド化合物、当該新規アミド含有スルフィド化合物を含んでなる抽出剤、又は当該新規アミド含有スルフィド化合物を担体に固定化してなるパラジウムイオン吸着剤、及び当該抽出剤又は吸着剤を用いたパラジウムイオンの分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用触媒若しくは自動車排ガス浄化触媒及び多くの電化製品には、パラジウム、白金、ロジウム等の貴金属が用いられている。貴金属は高価であり、資源としても有用であることから、従来から使用後に回収してリサイクルすることが行われている。最近では、資源保全の要求が高まり、貴金属の回収及びリサイクルの重要性が一層増加している。
【0003】
貴金属を回収するために、沈殿分離法、イオン交換法、電解析出法、溶媒抽出法等の方法が開発されており、これらのうち溶媒抽出法が経済性及び操作性の点から広く採用されている。
【0004】
溶媒抽出法は、パラジウムイオンが溶解した水相と油溶性抽出剤(抽出剤が担体に固定化されたものは、一般的に吸着剤と呼ばれる)が溶解した有機相を液−液接触させることでパラジウムイオンを有機相側に抽出する抽出工程と、有機相側に抽出されたパラジウムイオンと逆抽出剤(吸着剤に適用する場合は、一般的に脱着剤と呼ばれる)が溶解した水相とを接触させることで再度水相側に逆抽出(吸着剤に適用する場合は、一般的に脱着と呼ばれる)する逆抽出工程(吸着剤に適用する場合は、一般的に脱着工程と呼ばれる)からなる。例えば、抽出剤にジアルキルスルフィド化合物を用いた有機相と逆抽出剤にアンモニア水を用いた水相を用いて、パラジウムイオンの分離回収が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、抽出剤である上記ジアルキルスルフィドの欠点であった抽出速度を改善するため、ジアルキルスルフィドの硫黄近傍にアミド基を導入した抽出剤が提案されており、逆抽出剤としてアンモニア水を用いたパラジウムの分離回収方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−279264号公報
【特許文献2】特開2010−59533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、パラジウムイオン抽出剤又は吸着剤には、白金イオンとの高い分離性が求められている。具体的には、パラジウムに対して白金を多く含有する自動車排ガス浄化触媒や宝飾品等からのパラジウム分離回収の需要が高まっている。このような背景から、高濃度の白金イオンを含む含パラジウムイオン水溶液中から、パラジウムイオンを高選択的に抽出又は吸着するパラジウムイオン抽出剤又は吸着剤が求められている。しかし、従来公知のパラジウムイオン抽出剤又は吸着剤おいては、パラジウムイオンと白金イオンの相互分離が困難であった。したがって、高濃度の白金イオンを含有する水溶液からパラジウムイオンを短時間で選択的に抽出又は吸着でき、且つ抽出又は吸着したパラジウムイオンを容易に逆抽出又は脱着可能な抽出剤又は吸着剤の開発は重要な課題である。
【0008】
本発明は、パラジウムイオンと白金イオンの相互分離性能に優れるパラジウムイオン抽出剤又は吸着剤を提供することを目的とする。特に、高濃度の白金イオンを含有する溶液から選択的にパラジウムイオンを分離する抽出剤又は吸着剤、及び当該抽出剤又は吸着剤を用いたパラジウムイオンの分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、本発明の新規アミド含有スルフィド化合物を含んでなるパラジウムイオン抽出剤、又は本発明の新規アミド含有スルフィド化合物を担体に担持してなるパラジウムイオン吸着剤が、パラジウムイオンと白金イオンの相互分離性能に優れることを見出した。さらに、本発明のパラジウムイオン抽出剤又は吸着剤を用いることによって、パラジウムイオンを含む水溶液から簡便にパラジウムイオンを分離回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。nは各々独立して、1〜4の整数を表す。Lはメチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。)
で示される新規アミド含有スルフィド化合物、当該新規アミド含有スルフィド化合物を含んでなるパラジウムイオン抽出剤、当該新規アミド含有スルフィド化合物を担体に固定化してなるパラジウムイオン吸着剤、並びに当該パラジウムイオン抽出剤又は吸着剤を用いたパラジウムイオンの分離及び回収方法に関する。
[1]
下記一般式(1)で示される新規アミド含有スルフィド化合物。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは各々独立して、1〜4の整数を表し、Lはメチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基を表す。)
[2]
上記一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を含んでなるパラジウムイオン抽出剤。
[3]
上記一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を担体に固定化したパラジウムイオン吸着剤。
[4]
担体がシリカゲルであることを特徴とする[2]に記載のパラジウムイオン吸着剤。
[5]
パラジウムイオン抽出剤又は吸着剤と、パラジウムイオンを含有する水溶液とを接触させることを特徴とするパラジウムイオンの分離方法。
[6]
パラジウムイオン抽出剤又は吸着剤とパラジウムイオンを含有する水溶液とを接触させ、次いで逆抽出剤又は脱着剤と接触させることを特徴とするパラジウムの回収方法。
【0015】
以下本発明を詳細に説明する。
【0016】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物において、Rは各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。
【0017】
炭素数3〜18の鎖式炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、オレイル基、エライジル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、2−エチルヘキシル基、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、1−ヘプチニル基、1−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−メチル−1−プロペニル基等が挙げられる。
【0018】
炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロオクテニル基、シクロオクタジエニル基等が挙げられる。
【0019】
炭素数6〜14の芳香族炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ビフェニリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0020】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物において、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。
【0021】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物において、Lは、メチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。
【0022】
炭素数3〜8の直鎖又は分岐状アルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等が挙げられ、これらが直鎖状又は分枝状であっても良い。置換基の位置は特に限定されない。
【0023】
炭素数3〜8の環状アルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロヘキセニレン基、シクロヘキサジエニレン基、シクロオクテニレン基、シクロオクタジエニレン基等が挙げられる。置換基の位置は特に限定されない。
【0024】
また、炭素数6〜14のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、トリレン基、キシリレン基、クメニレン基、ベンジレン基、フェネチレン基、スチリレン基、シンナミレン基、ビフェニリレン基、フェナントリレン基等が挙げられる。置換基の位置は特に限定されない。
【0025】
これらのうち、Lとしては、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,2−フェニレン基であることが好ましく、特に1,3−プロピレン基又は1,2−フェニレン基である場合に高いパラジウムイオン吸着性能を有するため、好ましい。
【0026】
上記一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物の製造法としては、特に限定するものではないが、例えば、以下のように製造することができる。すなわち、下記一般式(2)
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、Lは一般式(1)と同じ基を表す。)
で示される化合物と下記一般式(3)
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、nは一般式(1)と同じ整数を表す。Xは各々独立してハロゲン原子を表す。)
で示される化合物とを塩基存在下で反応させ、下記一般式(4)
【0031】
【化5】

【0032】
(式中、Lは一般式(1)と同じ基を表す。nは一般式(1)と同じ整数を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
で示される化合物を得、次に、一般式(4)で示される化合物とチオ安息香酸とを塩基存在下で反応させて、下記一般式(5)
【0033】
【化6】

【0034】
(式中、Bzはベンゾイル基を表し。Lは一般式(1)と同じ基を表す。nは一般式(1)と同じ整数を表す。)
で示される化合物を得、次に、一般式(5)で示される化合物と下記一般式(6)
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、Rは一般式(1)と同じ基を表す。Yはハロゲン原子を表す。)
で示される化合物とを塩基存在下で反応させることにより、一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を得ることができる。
【0037】
一般式(2)で示される化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,2−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0038】
一般式(3)で示される化合物において、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、特に限定されないが、塩素、臭素、又はヨウ素が好ましい。
【0039】
一般式(3)で示される化合物としては、特に限定されないが、例えば、クロロ酢酸クロリド、3−クロロプロピオン酸クロリド、4−クロロ酪酸クロリド、5−クロロ吉草酸クロリドが挙げられる。
【0040】
一般式(4)で示される化合物において、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、特に限定されないが、塩素、臭素、又はヨウ素が好ましい。
【0041】
一般式(6)で示される化合物において、Yはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、特に限定されないが、塩素、臭素、又はヨウ素が好ましい。
【0042】
一般式(6)で示される化合物としては、特に限定されないが、例えば、ブロモエタン、ブロモプロパン、ブロモブタン、ブロモヘキサン、ブロモデカン等が挙げられる。
【0043】
上述のように、一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物は、一般式(5)で示される化合物と一般式(6)で示される化合物とを塩基存在下反応させることによって合成することができる。
【0044】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を製造する反応において、用いる塩基としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の無機塩基類、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類、又はリチウムジエチルアミド、リチウム(イソプロピル)シクロヘキシルアミド、リチウム−ビス(ジメチルシリル)アミド、リチウムジイソプロピルアミド、トリフェニルメタンリチウム、リチウム(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジンアミド等の有機金属類が挙げられる。これらの塩基は市販の試薬をそのまま使用することができる。塩基の使用量としては、特に限定されないが、例えば、一般式(5)で示される化合物1モルに対し1.8〜20倍モルの範囲から選ばれ、1.8〜10倍モルの範囲が好ましい。1.8〜20倍モルの範囲であれば反応が十分進行し、1.8〜10倍モルの範囲であれば経済的にも好ましい。
【0045】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物の製造における反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を阻害するものでなければ特に制限は無いが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、又はこれらの有機溶媒と水との混合溶媒が好ましく用いられる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、一般式(5)で示される化合物に対し、通常、2〜40重量比である。
【0046】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物の製造における反応温度は、−78〜100℃の範囲が好ましく、操作性及び経済性の点で−10〜50℃がより好ましい。
【0047】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物の製造における反応時間は、一般式(5)で表される化合物及び塩基の濃度、並びに反応温度等によって変化するが、通常、数分〜24時間の範囲で行われる。
【0048】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物は、分液操作によって、反応液中の他の成分から分離することができる。さらに、再結晶やシリカゲルクロマトグラフィー等を用いて高純度に精製することができる。
【0049】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物は、パラジウムイオン抽出剤又は吸着剤として使用することができる。例えば、アミド含有スルフィド化合物が固体の場合、そのままパラジウムイオン吸着剤として使用することができる。アミド含有スルフィド化合物が液体の場合、そのままパラジウムイオン抽出剤として使用することができる。アミド含有スルフィド化合物を溶媒に溶解して抽出剤として使用することができる。また、アミド含有スルフィド化合物を、任意の方法で、任意の担体に固定化して使用することもできる。
【0050】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物をパラジウムイオン抽出剤として使用する場合、一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物は、有機溶媒に溶解して用いることができる。一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物の濃度としては、1〜99重量%の範囲で選ばれるが、操作性の点から、10〜50重量%の範囲が好ましい。
【0051】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を溶解する有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0052】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物をパラジウムイオン吸着剤として使用する場合、一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を固定化する担体としては、水に不溶性のものであれば特に制限なく用いることができる。使用できる担体としては、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化オレフィン)、ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー、セルロース、アガロース、デキストラン等の高分子量多糖類、等の高分子担体や、活性炭、シリカゲル、珪藻土、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、マグネシア、ポリシロキサン等の無機担体が挙げられる。ここで、架橋ポリスチレンとは、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等のモノビニル芳香族化合物とジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ビスビニルジフェニル、ビスビニルフェニルエタン等のポリビニル芳香族化合物との架橋共重合体を主体とするものであり、これらの共重合体にグリセロールメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等のメタクリル酸エステルが共重合されていてもよい。これらの担体のうち、入手容易性及び価格の点で、シリカゲルが特に好ましい。
【0053】
本発明において用いられる担体の形状としては、球状(例えば、球状粒子等)、粒状、繊維状、顆粒状、モノリスカラム、中空糸、膜状(例えば、平膜など)等の一般的に分離基材として使用される形状が利用可能であり、特に限定するものではないが、これらのうち、球状、膜状、粒状、顆粒状、又は繊維状のものが好ましい。球状、粒状、又は顆粒状担体は、カラム法やバッチ法で使用する際、その使用体積を自由に設定できることから、特に好ましく用いられる。
【0054】
球状、粒状、又は顆粒状担体の粒子サイズとしては、通常、平均粒径1μm〜10mmの範囲のものを用いることができるが、2μm〜1mmの範囲が好ましい。
【0055】
担体は多孔質でも良いし、無孔質でも良い。多孔質担体の平均細孔径としては、通常、1nm〜1μmのものを用いることができるが、パラジウムイオン吸着量の点で1nm〜300nmの範囲が好ましい。
【0056】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を担体へ固定化する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、上記一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を担体に物理的に吸着させて固定化する方法や、上記一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を担体に化学的に結合させて固定化する方法が挙げられる。
【0057】
物理的に吸着させて固定化する方法としては、特に限定されないが、例えば、一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物をジクロロメタン等の溶媒に溶解させ、次いで上記した担体を加え、アミド含有スルフィド化合物を当該担体に含浸させて、更に溶媒を留去する方法が挙げられる。
【0058】
化学的に結合させて固定化する方法としては、特に限定されないが、例えば、ポリクロロメチルスチレン(PCMS)と、一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物とを塩基存在下で反応させる方法が挙げられる。
【0059】
担体へのアミド含有スルフィド化合物の固定化率は、目的に応じて任意に調節可能であり、特に限定するものではないが、上記一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物が1〜50重量%の範囲が好ましく、5〜30重量%の範囲がさらに好ましい。
【0060】
最後に、本発明のパラジウムイオンの分離及び回収方法について説明する。
【0061】
パラジウムイオンの分離方法は、本発明のパラジウムイオン抽出剤又は吸着剤とパラジウムイオンを含む水溶液とを接触させ、パラジウムイオンを前記パラジウムイオン抽出剤により抽出する、又はパラジウムイオン吸着剤により吸着することで行われる。
【0062】
本発明のパラジウムイオンの回収方法は、上記パラジウムイオンの分離に用いた、パラジウムイオン抽出剤と逆抽出剤とを接触させて、又はパラジウムイオン吸着剤と脱着剤とを接触させて、パラジウムイオンを含む水溶液を得ることで行われる。
【0063】
上記したパラジウムイオンの分離方法において、本発明のパラジウムイオン抽出剤又は吸着剤と接触させるパラジウムイオンを含む水溶液としては、特に限定されないが、例えば、自動車排ガス処理触媒や宝飾品を溶解した水溶液や、白金族金属の湿式精錬工程における酸浸出後溶液が挙げられる。
【0064】
上記したパラジウムイオンを含む水溶液はパラジウムイオンの他に、白金イオン、ロジウムイオン等の白金族金属イオン、及び銅イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン等の卑金属イオンを含有していてもよい。
【0065】
パラジウムイオンを含む水溶液の液性は、特に限定されないが、例えば、酸性であることが好ましい。ここで用いられる酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。このうち、塩酸が特に好ましい。
【0066】
パラジウムイオンを含む水溶液の酸濃度としては、特に限定するものではないが、0.1〜5mol/Lの範囲が好ましい。この範囲の酸濃度であれば、パラジウムイオンの吸着効率を損なうことなくパラジウムイオンの分離を行うことができる。
【0067】
パラジウムイオンの分離方法において、本発明のパラジウムイオン抽出剤又は吸着剤の使用量は、上記パラジウムイオンを含む水溶液中のパラジウムイオンに対し、一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物換算で、等モル量以上とすることが好ましい。
【0068】
パラジウムイオンの分離方法においては、パラジウムイオン抽出剤又は吸着剤とパラジウムイオンを含む溶液の混合物を攪拌することが好ましい。攪拌によって、パラジウムイオンの吸着が促進される。また、本発明のパラジウムイオン吸着剤を用いる場合は、カラム等の固定床に充填したパラジウムイオン吸着剤に、パラジウムイオンを含有する水溶液を流通して接触させることもできる。
【0069】
パラジウムイオンの回収方法において用いられるパラジウムイオンの逆抽出剤又は脱着剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アンモニア、チオ尿素、メチオニン、エチレンジアミン等が挙げられる。このうち、分離性能及び後処理の容易性の点でメチオニンが好ましい。
【0070】
逆抽出剤又は脱着剤は、水溶液又は酸性水溶液として用いることができる。逆抽出剤又は脱着剤の濃度としては、特に限定されないが、例えば、1〜99重量%の範囲で選ばれる。また、酸性水溶液とする場合は、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸を用いることができる。酸性水溶液の酸濃度としては、特に限定されないが、例えば、0.1〜5mol/Lの範囲で選ばれる。
【0071】
逆抽出剤又は脱着剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、本発明で使用した抽出剤又は吸着剤における一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物1モルに対して、2〜10000倍モルの範囲で選ばれるが、このうち5〜1000倍モルの範囲が好ましい。
【0072】
パラジウムイオンの回収方法においては、パラジウムイオンを抽出したパラジウムイオン抽出剤と逆抽出剤の混合物、又はパラジウムイオンを吸着したパラジウムイオン吸着剤と脱着剤の混合物を攪拌することが好ましい。攪拌によって、パラジウムイオンの逆抽出又は脱着が促進されるためである。また、パラジウムイオンを吸着したパラジウムイオン吸着剤を用いる場合は、カラム等の固定床に充填したパラジウムイオン吸着剤に、脱着剤を流通して接触させることもできる。
【0073】
以上のように、本発明のパラジウムイオン抽出剤又は吸着剤を用いて、パラジウムイオンの分離回収が行われる。
【発明の効果】
【0074】
本発明のパラジウムイオン抽出剤及び吸着剤は、パラジウムイオンに対して高い親和性を有するため、パラジウムイオン以外に白金イオン、ロジウムイオン等の複数の白金族金属イオンに加え、銅イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン等の卑金属イオンが混在する場合にも、パラジウムイオンを高選択的に吸着するという特長を有する。特に、高濃度の白金イオンを含有する溶液からパラジウムを短時間で相互分離する事を最大の特長とする。
【0075】
したがって、本発明のパラジウムの分離及び回収方法を用いれば、パラジウムイオンを含む水溶液中からパラジウムイオンを、簡便に効率よく分離回収することができる。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定して解釈されるものではない。
【0077】
H−NMR(核磁気共鳴)はGemini−200(Varian社製)で測定した。
【0078】
水溶液中のパラジウムイオン濃度はICP発光分光分析装置(OPTIMA3300DV、Perkin Elmaer社製)で測定した。
【0079】
実施例1 化合物(11)の合成
アミド含有スルフィド化合物の合成例として、N,N’−ビス−(3−チアウンデカニル)−1,3−プロパンジアミン(以下、化合物(11)と称する)の合成例を以下に記す。
【0080】
【化8】

【0081】
ジアシル化体(9)の合成
200mLナス型フラスコに1,3−プロパンジアミン(7) 3.71g(50mmol)、水50g、ジエチルエ−テル 20gを量り取り、これに20重量%水酸化ナトリウム水溶液24.00g(120mmol)を加えた。この混合物に対し、クロロ塩化アセチル(8) 13.55g(120mmol)を0℃にて1時間かけて滴下し、更に0℃で1時間攪拌した。生じた白色固体をろ取した後、水、ジエチルエ−テルで順次洗浄し、上記式(9)で示されるジアシル化体(以下、ジアシル化体(9)と称する)を収量10.41g、収率91.7%で得た。
【0082】
H−NMR(DMSO−d)δ(ppm):1.55(2H,quintet,J=7.0Hz),3.03−3.10(4H,m),4.03(4H,s),8.22(2H,brs)
ジチオエステル化体(10)の合成
100mLナス型フラスコに炭酸カリウム 2.65g(19.2mmol)、水40gを量り取り、これにチオ安息香酸2.65g(19.2mmol)を加えて40℃で30分間攪拌した。これに上記ジアシル化体(9) 1.82g(8mmol)及びテトラヒドロフラン(THF) 10gを加え、40℃で3時間攪拌した。その後更に0℃で1時間攪拌し、生じた白色固体をろ取した後、水で洗浄し、上記式(10)で示されるジチオエステル化体(以下、ジチオエステル化体(10)と称する。)を収量3.51g、収率95.6%で得た。
【0083】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):1.65(2H,quintet,J=6.2Hz),3.23−3.32(4H,m),3.74(4H,s),6.88(2H,brs),7.43−7.52(4H,m),7.57−7.66(2H,m),7.95−8.00(4H,m)
化合物(11)の合成
100mLナス型フラスコに上記ジチオエステル化体(10) 2.15g(5mmol)、メタノ−ル 20gを量り取り、これに20重量%水酸化ナトリウム水溶液2.00g(10mmol)を加え、窒素気流下室温で2時間攪拌した。これに1−ブロモオクタン 1.93g(10mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。溶媒を減圧下留去した後、テトラヒドロフラン 10g、水10g、20%水酸化ナトリウム水溶液2.00g(10mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。反応液を分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した(10mL×2)。有機層を合わせ、飽和重曹水10mL、水10mL、飽和食塩水10mLで順次洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧下留去し、化合物(11)を収量2.12g、収率95.1%で得た。
【0084】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):0.88(6H,t,J=7.0Hz),1.27−1.38(20H,m),1.52−1.79(6H,m),2.54(4H,t,J=7.0Hz),3.23(4H,s),3.29−3.83(4H,m),7.32(2H,brs)
実施例2 吸着剤Aの調製
50mLナス型フラスコに実施例1で合成した化合物(11) 0.25gをジクロロメタン 5mLに溶解させ、これにシリカゲル(富士シリシア化学製、商品名:MB5D 200−350)0.75gを加え、更に40℃で30分間攪拌した。溶媒を減圧下にて留去した後、得られた白色粉末を室温で減圧乾燥することにより化合物(11)を25重量%の割合で含浸担持させたシリカゲルを調製した(吸着剤Aとする)。
【0085】
実施例3 化合物(12)の合成
実施例1において、1,3−プロパンジアミン 3.71gの代わりに1,2−フェニレンジアミン 5.41gを用いる以外は、実施例1と同様にして、下記式(12)
【0086】
【化9】

【0087】
で示されるアミド含有環状スルフィド化合物を調製した(収量1.22g、1,2−フェニレンジアミンからの収率89.7%)。
【0088】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):0.88(6H,t,J=7.0Hz),1.26−1.41(20H,m),1.56−1.66(4H,m),2.62(4H,t,J=7.2Hz),3.39(4H,s),7.22−7.27(2H,m),7.53−7.58(2H,m),8.97(2H,brs)
実施例4 吸着剤Bの調製
実施例2において、化合物(11)の代わりに化合物(12)を用いた以外は実施例2と同様に行い、化合物(12)を25重量%の割合で含浸担持させたシリカゲルを調製した(吸着剤Bとする)。
【0089】
実施例5 吸着剤Cの調製
実施例2において、化合物(11)の代わりに化合物(12)を用い、シリカゲルとして、MB5D 200−350の代わりにMB4B 30−50(富士シリシア化学製)を用いた以外は、実施例2と同様に行い、化合物(12)を25重量%の割合で含浸担持させたシリカゲルを調製した(吸着剤Cとする)。
【0090】
合成例1 化合物(15)の合成
比較例の特許文献2の請求項範囲に該当するパラジウム抽出剤の合成例として、N,N−ジエチル−3−チアウンデカンアミド(以下、化合物(15)と称する。)の合成例を以下に記す。
【0091】
【化10】

【0092】
チオエステル化体(14)の合成
200mLナス型フラスコに炭酸カリウム 15.20g(110mmol)、水80gを量り取り、これにチオ安息香酸15.20g(110mmol)を加えて室温で30分間攪拌した。これに2−クロロ−N,N−ジエチルアセタミド(13) 14.96g(100mmol)、及びテトラヒドロフラン 20gを加え、室温で3時間攪拌した。反応液を分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した(10mL×2)。有機層を合わせ、水10mL、飽和食塩水10mLで順次洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧下留去し、化合物(14)を収量25.67g、収率100%で得た。
【0093】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):1.15(3H,t,J=7.2Hz),1.28(3H,t,J=7.2Hz),3.27(2H,S),3.37−3.50(4H,m),7.41−7.49(2H,m),7.55−7.63(1H,m),7.97−8.01(2H,m)
化合物(15)の合成
100mLナス型フラスコに上記チオエステル化体(14) 1.26g(5mmol)、メタノ−ル 20gを量り取り、これに20重量%水酸化ナトリウム水溶液1.00g(5mmol)を加え、窒素気流下室温で2時間攪拌した。これに1−ブロモオクタン 0.97g(5mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。溶媒を減圧下留去した後、テトラヒドロフラン 10g、水10g、20%水酸化ナトリウム水溶液1.00g(5mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。反応液を分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した(10mL×2)。有機層を合わせ、飽和重曹水10mL、水10mL、飽和食塩水10mLで順次洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧下留去し、化合物(15)を収量1.28g、収率98.5%で得た。
【0094】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):0.87(3H,t,J=7.0Hz),1.09−1.43(16H,m),1.54−1.68(2H,m),2.65(2H,t,J=7.2Hz),3.27(2H,s),3.37(4H,q,J=7.0Hz)
調製例1 吸着剤Dの調製
実施例2において、化合物(11)の代わりに化合物(15)を用いた以外は実施例2と同様に行い、化合物(15)を25重量%の割合で含浸担持させたシリカゲルを調製した(吸着剤Dとする)。
【0095】
合成例2 化合物(18)の合成
【0096】
【化11】

【0097】
(式(16)、(17)、(18)中、Rで示される置換基は、牛脂由来の長鎖アルキル基(例えば、セチル基、ステアリル基、オレイル基等(存在比は不明)を含む。)を表す。Bzはベンゾイル基を表す。)
ジアシル化体(17)の合成
200mLナス型フラスコに牛脂プロピレンジアミン(16)(花王製、商品名:ジアミン RRT)9.51g(30mmol)、10重量%水酸化ナトリウム水溶液30.00g(75mmol)、ジエチルエーテル 40gを加えた。この混合物に対し、クロロ塩化アセチル(8) 8.47g(75mmol)を室温にて2時間かけて滴下し、更に室温で30分間攪拌した。反応液を分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した(15mL×2)。有機層を合わせ、飽和重曹水15mL、飽和食塩水15mLで順次洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧下留去し、上記式(17)で示されるジアシル化体(以下、ジアシル化体(17)と称する。)を収量12.59g、収率89.3%で得た。
【0098】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):0.85−0.91(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.25−1.31(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.52−1.80(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.96−2.05(m,牛脂アルキル基由来ピーク),3.22−3.48(m,6H),4.04(s,2H),4.08(s,2H),5.32−5.38(m,牛脂アルキル基由来ピーク),7.59(1H,brs),2H未検出(牛脂アルキル基由来ピークとオーバーラップしていると推定)
化合物(18)の合成
300mLナス型フラスコに実施例1で合成したジチオエステル化体(10) 11.53g(26.8mmol)、メタノ−ル 100gを量り取り、これに20重量%水酸化ナトリウム水溶液10.71g(53.5mmol)を加え、窒素気流下室温で2時間攪拌した。これに上記ジアシル化体(17) 1.14g(5mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。溶媒を減圧下留去した後、テトラヒドロフラン 30g、水30g、20重量%水酸化ナトリウム水溶液10.71g(53.5mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。反応液を分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した(20mL×3)。有機層を合わせ、飽和重曹水20mL、飽和食塩水20mLで順次洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧下留去し、化合物(18)を収量15.40g、収率92.9%で得た。
【0099】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):0.85−0.91(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.25−1.31(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.50−2.03(m,牛脂アルキル基由来ピーク),3.26−3.52(m,18H),5.32−5.38(m,牛脂アルキル基由来ピーク),7.36(1H,brs),7.58(1H,brs),7.70(1H,brs),4H未検出(牛脂アルキル基由来ピークとオーバーラップしていると推定)
調製例2 吸着剤Eの調製
実施例2において、化合物(11)の代わりに化合物(18)を用いた以外は実施例2と同様に行い、化合物(18)を25重量%の割合で含浸担持させたシリカゲルを調製した(吸着剤Eとする)。
【0100】
実施例6 吸着剤Aを用いたパラジウムイオンの分離
パラジウムイオンを50mg/Lと白金イオンを150mg/L含む1mol/L塩酸溶液10mLに、実施例2で調製した吸着剤Aを20mg添加して室温で1時間攪拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルタ−を用いてろ過し、ろ液中の残存金属濃度を測定した。残存金属濃度と初濃度とから、各金属イオンの吸着率を求めた結果、パラジウムイオン吸着率は87.6%、白金イオン吸着率は0%であった。この時のパラジウムイオン吸着量は吸着剤A 1g当たり21.9mg、白金イオン吸着量は吸着剤A 1g当たり0mgであり、パラジウムイオンが高選択的に吸着された。
【0101】
実施例7 吸着剤Bを用いたパラジウムイオンの分離
実施例6において、吸着剤Aの代わりに、実施例4で調製した吸着剤Bを20mg用いた以外は実施例6と同様に行った結果、パラジウムイオン吸着率は99.7%、白金イオン吸着率は0%であった。この時のパラジウムイオン吸着量は吸着剤B 1g当たり24.9mg、白金イオン吸着量は吸着剤B 1g当たり0mgであり、パラジウムイオンが高選択的に吸着された。
【0102】
実施例8 吸着剤Cを用いたパラジウムイオンの分離回収
実施例5で調製した吸着剤C 0.2gを水に分散させた後、ガラス製の内径5mm、長さ100mmのカラムに充填した。金属標準液及び塩酸水溶液を用いて調製した、表1に示す濃度の各種金属イオンを含有する1mol/L塩酸溶液(以下、移動相と称する)をカラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して金属イオンの吸着を行った。水20mLを通液してカラムを洗浄した後、5重量%の濃度のDL−メチオニンを含む3mol/L塩酸溶液をカラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して金属イオンの脱着を行い、カラム下部から流出液(以下、回収液と称する)を得た。流出液中の金属濃度を測定した結果を表2に示す。以上の操作により、パラジウムイオンが高選択的に分離回収された。なお、回収液中のパラジウム濃度からパラジウムイオン吸着量を算出したところ、吸着剤C 1g当たり38.0mgであった。
【0103】
【表1】

【0104】
比較例1 吸着剤Dを用いたパラジウムイオンの分離
実施例6において、吸着剤Aの代わりに、調製例1で調製した吸着剤Dを20mg用いた以外は実施例6と同様に行った結果、パラジウムイオン吸着率は99.2%、白金イオン吸着率は45.7%であった。この時のパラジウムイオン吸着量は吸着剤D 1g当たり24.8mg、白金イオン吸着量は吸着剤D 1g当たり34.3mgであり、パラジウムイオンを高選択的に吸着する事は出来なかった。
【0105】
比較例2 吸着剤Eを用いたパラジウムイオンの分離
実施例6において、吸着剤Aの代わりに、調製例2で調製した吸着剤Eを20mg用いた以外は実施例6と同様に行った結果、パラジウムイオン吸着率は99.0%、白金イオン吸着率は7.3%であった。この時のパラジウムイオン吸着量は吸着剤E 1g当たり24.8mg、白金イオン吸着量は吸着剤E 1g当たり5.5mgであり、パラジウムイオンを高選択的に吸着する事は出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物。
【化1】

(式中、Rは各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。nは各々独立して、1〜4の整数を表す。Lはメチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。)
【請求項2】
一般式(5)
【化2】

(式中、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。Lはメチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。Bzはベンゾイル基を表す。)
で示される化合物と一般式(6)
【化3】

(式中、Rはメチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。Yはハロゲン元素を表す。)
で示される化合物を塩基存在下で反応させることを特徴とする、一般式(1)
【化4】

(式中、Rは各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。nは各々独立して、1〜4の整数を表す。Lはメチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。)
で示されるアミド含有スルフィド化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を含んでなるパラジウムイオン抽出剤。
【化5】

(式中、Rは各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。nは各々独立して、1〜4の整数を表す。Lはメチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。)
【請求項4】
一般式(1)で示されるアミド含有スルフィド化合物を担体に固定化してなるパラジウムイオン吸着剤。
【化6】

(式中、Rは各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。nは各々独立して、1〜4の整数を表す。Lはメチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。)
【請求項5】
担体がシリカゲルであることを特徴とする請求項4に記載のパラジウムイオン吸着剤。
【請求項6】
請求項3に記載のパラジウムイオン抽出剤と、パラジウムイオンを含有する水溶液とを接触させて、パラジウムイオンを抽出することを特徴とするパラジウムイオンの分離方法。
【請求項7】
請求項3に記載のパラジウムイオン抽出剤とパラジウムイオンを含有する水溶液とを接触させてパラジウムイオンを抽出した抽出剤と、逆抽出剤を接触させてパラジウムイオンを含む水溶液を得ることを特徴とするパラジウムの回収方法。
【請求項8】
請求項4又は請求項5に記載のパラジウムイオン吸着剤と、パラジウムイオンを含有する水溶液とを接触させて、パラジウムイオンを吸着することを特徴とするパラジウムイオンの分離方法。
【請求項9】
請求項4又は請求項5に記載のパラジウムイオン吸着剤とパラジウムイオンを含有する水溶液と接触させてパラジウムイオンを吸着した吸着剤と、脱着剤を接触させてパラジウムイオンを含む水溶液を得ることを特徴とするパラジウムの回収方法。

【公開番号】特開2012−171939(P2012−171939A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37052(P2011−37052)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】