説明

アミノアルコールの製造方法

【課題】化学的純度及び光学純度の高いアミノアルコールの製造方法を提供すること。
【解決手段】
下記一般式(1)
【化1】


(式中Pyは置換基を有してもよい2−ピリジル基、置換基を有してもよい3−ピリジル基、置換基を有してもよい4−ピリジル基を表す。*は不斉炭素を表す。)
で表されるシアンヒドリン化合物を、エーテル系溶媒中で還元剤の存在下に還元することにより、アミノアルコールを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なアミノアルコールは光学活性有機合成中間体として有用であり、例えば、医薬品を製造するための中間体として使用される。
【0003】
光学活性アミノアルコールの製造方法としては、α−ハロケトンを不斉還元して得られたハロヒドリンをアミノ化する方法(特許文献1、非特許文献1及び2)、光学活性スチレンオキサイドをアミノ化する方法(非特許文献1)が知られている。しかしながら、いずれの方法もメチルケトン誘導体をハロゲン化する工程及びα−ハロケトンを不斉還元する工程を含んでおり、操作が煩雑である。
【0004】
一方、光学活性アミノアルコールの他の製造方法として、光学活性シアンヒドリン化合物を経てアミノアルコールを製造するルートが開発されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−504299号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,11,757−760(2001)
【非特許文献2】Organic Process Research & Development,7,285−288(2003)
【非特許文献3】Synthesis、575−578(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ピリジン環を有するシアンヒドリン化合物を経て、化学的純度の高いピリジン環を有するアミノアルコールを得る方法については知られていなかった。また、同様に光学純度の高いピリジン環を有するアミノアルコールを得る方法についても知られていなかった。
【0008】
そこで、本発明の主な目的は、化学的純度及び光学純度の高い、ピリジン環を有するアミノアルコールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ピリジン環を有するシアンヒドリン化合物をエーテル系溶媒中で還元することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、「Py」は置換基を有してもよい2−ピリジル基、置換基を有してもよい3−ピリジル基又は置換基を有してもよい4−ピリジル基を表す。「*」は不斉炭素を表す。)
で表されるシアンヒドリン化合物を、エーテル系溶媒中で還元剤の存在下に還元することによりアミノアルコールを製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ピリジン環を有するシアンヒドリン化合物をエーテル系溶媒中で還元することにより、化学純度及び光学純度の高いピリジン環を有するアミノアルコールを得ることができる。また、得られたアミノアルコールの塩を形成することにより、取り扱い易くなり、更に光学純度を高くすることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)アミノアルコール
本発明で製造されるアミノアルコールは、下記一般式(2)
【0015】
【化2】

【0016】
で示される、ピリジン環を有するアミノアルコールである。
【0017】
式中、「Py」は置換基を有してもよい2−ピリジル基、置換基を有してもよい3−ピリジル基又は置換基を有してもよい4−ピリジル基を表す。「*」は不斉炭素を表す。
【0018】
ピリジル基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)又は炭素数1〜4の炭化水素基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、ter−ブチル基)を示す。当該置換基は、2位、3位又は4位のいずれの位置に付加されていても良い。また、当該置換基は1つ又は複数付加されていても良い。
【0019】
当該アミノアルコールとしては、2−アミノ−1−(2−ピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(4−ピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(2−(3−メチルピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(2−(4−メチルピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(3−(4−メチルピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(4−(2−メチルピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(4−(3−メチルピリジニル)エタノール等が挙げられる。これらの中でも、2−アミノ−1−(2−ピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール、2−アミノ−1−(4−ピリジニル)エタノールが好ましく、2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノールがより好ましい。
【0020】
当該アミノアルコールは光学活性を有しており、R体、S体、それらの混合物又はラセミ体のいずれであってもかまわない。これらのうちR体が好ましく、90%e.e.以上の光学純度を有することが好ましく、95%e.e.以上の光学純度を有することがより好ましい。
【0021】
(2)アミノアルコールの製造
当該アミノアルコールは、シアンヒドリン化合物を還元することにより得ることができる。
【0022】
(2−1)シアンヒドリン
本発明で、アミノアルコールを製造するために使用される前駆体は、下記一般式(1)
【0023】
【化3】

【0024】
で示されるシアンヒドリンである。
【0025】
式中、「Py」は置換基を有してもよい2−ピリジル基、置換基を有してもよい3−ピリジル基又は置換基を有してもよい4−ピリジル基を表す。「*」は不斉炭素を表す。ピリジル基が有していてもよい置換基としては、上述した通りである。
【0026】
当該シアンヒドリンとしては、2−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリン、3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリン、4−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリン、2−(3−メチルピリジン)カルバルデヒドシアンヒドリン、2−(4−メチルピリジン)カルバルデヒドシアンヒドリン、3−(2−メチルピリジン)カルバルデヒドシアンヒドリン、3−(4−メチルピリジン)カルバルデヒドシアンヒドリン、4−(2−メチルピリジン)カルバルデヒドシアンヒドリン、4−(3−メチルピリジン)カルバルデヒドシアンヒドリンが挙げられる。これらの中でも、2−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリン、3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリン、4−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリンが好ましく、3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリンがより好ましい。
【0027】
当該シアンヒドリンは光学活性を有しており、R体、S体、それらの混合物又はラセミ体のいずれであってもかまわない。これらのうちR体が好ましく、70%e.e.以上の光学純度を有することが好ましく、80%e.e.以上の光学純度を有することがより好ましい。
【0028】
(2−2)還元剤
本発明のアミノアルコールの製造に用いられる還元剤としては、例えば、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、ジボラン、ボラン−ジメチルスルフィドコンプレックス、ボラン−テトラヒドロフランコンプレックス、ボラン−ピリジンコンプレックス等が挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0029】
これらの中でも、水素化リチウムアルミニウム、ジボラン、ボラン−ジメチルスルフィドコンプレックス、ボラン−テトラヒドロフランコンプレックス、ボラン−ピリジンコンプレックスが、副反応を抑制できるので好適に使用される。
【0030】
(2−3)反応条件
上記還元剤の添加量は還元反応が促進されれば限定されず、基質の種類や反応条件等に応じて適宜選択することができる。例えば、シアンヒドリンに対して0.5〜5当量とすることができ、1〜3当量が好ましい。5当量以下とすることにより、反応後に残存する還元剤を分解させる量を抑制することができる。一方、0.5当量以上とすることにより、還元反応が促進され、アミノアルコールの収率を高めることができる。
【0031】
反応に使用する溶媒は、エーテル系溶媒を使用するのが好ましい。エーテル系溶媒を使用することにより、化学純度及び光学純度の高いアミノアルコールが得られるからである。エーテル系溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、エチレングルコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒を使用することができる。これらの溶媒は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの中でも、メチル−t−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランが好ましい。
【0032】
溶媒の量も還元反応が進めば限定されず、基質の種類や量等に応じて適宜選択することができる。例えば、シアンヒドリンに対して5〜100倍量(W/W)とすることができ、好ましくは10〜50倍量である。100倍量以下とすることにより、後処理における濃縮にかける時間が短くてすむ。一方、5倍量以上とすることにより、除熱の効率が向上して反応の効率が良くなる。
【0033】
反応温度も還元反応が促進され、光学純度が下がらなければ特には限定されない。例えば−20〜70℃とすることができ、好ましくは0〜60℃である。−20℃以上で反応を行うことにより、十分な反応速度を得ることができる。また、70℃以下で反応を行うことにより、不純物の増加を防ぐことができる。
【0034】
反応時間も限定されず、反応規模や基質の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、0.5〜24時間とすることができ、1〜12時間が好ましい。
【0035】
(2−4)反応終了後
還元反応により生成物(アミノアルコール類)が得られたことや、原料(シアンヒドリン化合物)が消失したことは、例えば、液体クロマトグラフィー等の公知の方法によって確認することができる。
【0036】
また、得られたアミノアルコールを採取又は回収する方法は限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、まず、反応液中に存在する還元剤をクエンチすることができる。クエンチする方法も限定されず、還元剤の種類に応じて有機化学実験の手引き、第3巻、P.25〜43(化学同人)を参考に行うことができる。
【0037】
例えば、還元剤として水素化リチウムアルミニウムを使用した場合、塩化アンモニウム水溶液でクエンチした後、析出したアルミニウム由来の化合物をろ過することができる。一方、水素化リチウムアルミニウムを酒石酸ナトリウムカリウム水溶液でクエンチし、アルミニウム由来の化合物を酒石酸ナトリウムカリウムでキレートし、水相に抽出させることもできる。また、還元剤としてボランを用いた場合は、アルカリ水溶液を添加することによりクエンチすることができる。
【0038】
次いで、反応溶媒を留去させることができる。溶媒を留去するときの温度は限定されず、生成物の種類や溶媒の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば0〜80℃とすることができ、20〜60℃であることが好ましい。80℃以下とすることにより生成物の光学純度が低下するのを防ぐことができる。0℃以上とすることにより溶媒の留去を促進することができる。留去の際の圧力は、常圧下であっても減圧下であってもよい。
【0039】
(2−5)塩の形成
得られたアミノアルコールを溶媒から抽出する際には、必要に応じて、当該アミノアルコールの塩を形成して抽出することができる。塩としては、塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩等を挙げることができる。これらの中でも塩酸塩がより好ましい。塩酸塩とすることにより、結晶として回収することができ、また、晶析の過程で化学純度及び光学純度を更に向上させることができるからである。
【0040】
例えば、アミノアルコールの塩酸塩を形成するためは、冷却下、アミノアルコールに塩酸水溶液を添加すればよい。撹拌下に塩を添加することも、添加し終わってから撹拌することも可能である。塩酸水溶液を添加する際のアミノアルコールを含む溶液の温度は、−20〜80℃とすることができ、0〜60℃が好ましい。80℃以下とすることにより、アミノアルコールが分解して純度が低下するのを抑制することができる。一方、−20℃以上とすることにより、塩酸塩の形成が促進される。
【0041】
使用する塩酸水溶液の濃度は限定されず、例えば10〜36質量%とすることができ、20〜36質量%が好ましい。10質量%以上とすることにより、塩酸塩を形成させるための塩酸量を減らすことができる。36質量%以下とすることで、塩酸塩としたのちに留去する水を減らすことができる。
【0042】
反応時間も塩が十分に形成されれば限定されず、例えば、0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間とすることができる。
【0043】
得られたアミノアルコールの塩酸塩は、溶媒を除去(乾固)することにより結晶又は粉末として回収することができる。その後、必要に応じて洗浄や精製を行うことも可能である。このとき、洗浄又は精製用の溶媒として、アルコールの種類、アルコールの濃度を適宜選択することにより、効率良く洗浄又は精製を行うことができる。
【0044】
例えば、アミノアルコール塩酸塩の水溶液を、ロータリーエバポレーターで50Torr以下の減圧下、60℃以上で濃縮することにより溶媒を除去することができる。
【0045】
得られたアミノアルコール塩酸塩を含有する粉末を95質量%アルコール(残りの5%は水)に添加し、65℃以上で1時間以上加温した後に濾過することにより、アミノアルコール塩酸塩以外の塩(例えば、アルコールに可溶な塩以外の塩)を除去することができる。このとき使用するアルコールは、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールが好ましい。
【0046】
更に、ここで得られたアミノアルコール塩酸塩のアルコール溶液からアルコール溶媒を例えば、ロータリーエバポレーターで200Torr以下、40℃以上で留去させた後、メタノールを添加して60℃以上で1時間以上加温することにより、アミノアルコール塩酸塩をメタノールに溶解させた後、溶媒を例えば20℃/hr以下の冷却速度で冷却することにより、アミノアルコール塩酸塩を析出させることができる。10℃以下にまで冷却することが好ましく、より好ましくは5℃以下である。
【0047】
アミノアルコール塩酸塩は、上記冷却温度に到達後、例えば1hr以上熟成した後にろ過することにより回収することができる。ろ過方法は、自然ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過などが挙げられる。
【0048】
このようにして、例えば無機塩(アミノアルコール塩酸塩以外の塩の)含量が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、かつ光学純度が90%ee以上、好ましくは95%ee以上である高純度のアミノアルコールを製造することができる。
【0049】
(3)シアンヒドリンの製造
上記シアンヒドリンは、金属触媒又は酵素触媒の存在下に、カルボニル化合物とシアン化合物とを反応させることにより、製造することができる。本発明においては、酵素反応を用いることが好ましい。反応条件がマイルドであるからであり、また、高い化学純度及び光学純度が得られるからである。
【0050】
(3−1)酵素
本発明では、酵素としてアーモンド(Prunus amygdalus)由来のヒドロキシニトリルリアーゼを使用する。ヒドロキシニトリルリアーゼとは、原料であるカルボニル化合物とシアン化合物とを反応させることにより光学活性シアンヒドリンを合成する触媒作用を有する酵素である。より詳細には、カルボニル化合物に、ヒドロキシニトリルリアーゼ存在下でシアン化合物を不斉付加し得る。
【0051】
ヒドロキシニトリルリアーゼの由来は、アーモンドの果実である。アーモンドの学名はPrunus amygdalusであり、バラ科サクラ属の一種である。上記酵素は、公知の方法でアーモンドの果実から抽出することもできるし、市販されているものを購入することもできる。例えば、CODEXIS社のR−Oxynitrilase 002(50%グリセロール溶液)を使用することができる。

(3−2)ピリジル系カルボニル化合物
ピリジル系カルボニル化合物としては、例えば、2−ピリジンカルバルデヒド、3−ピリジンカルバルデヒド、4−ピリジンカルバルデヒド、2−(3−メチルピリジン)カルバルデヒド、2−(4−メチルピリジン)カルバルデヒド、3−(2−メチルピリジン)カルバルデヒド、3−(4−メチルピリジン)カルバルデヒド、4−(2−メチルピリジン)カルバルデヒド、4−(3−メチルピリジン)カルバルデヒドが挙げられる。これらの中でも、2−ピリジンカルバルデヒド、3−ピリジンカルバルデヒド、4−ピリジンカルバルデヒドが好ましく、3−ピリジンカルバルデヒドがより好ましい。
【0052】
(3−3)シアン化合物
シアン化合物は、上記ピリジル系カルボニル化合物と縮合して、対応するシアンヒドリンを得ることができるものであれば限定されない。例えば、青酸又は青酸を発生し得るシアン化合物が好ましい。より詳細には、シアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、アセトンシアノヒドリン、トリメチルシリルシアニド等を使用することができる。
【0053】
(3−4)反応
当該シアノ化反応は、水系溶媒中で行うのが好ましい。酵素を固定化せずに用いることができるので、工業的に有利だからである。また、高い光学純度の生成物が高い化学純度で得られるからである。
【0054】
水系溶媒としては、有機溶媒を用いなければその種類は特には限定されない。例えば、水又は緩衝液(バッファー)を使用することができる。緩衝液としては、塩酸−塩化カリウム緩衝液、グリシン−塩酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、酒石酸緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、炭酸−重炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等を使用することができる。
【0055】
ピリジル系カルボニル化合物の濃度は反応が効率よく進めば特には限定されない。例えば1〜500g/Lとすることができ、好ましくは5〜300g/Lである。500g/L以下とすることにより、当該カルボニル化合物による酵素の失活を抑制することができる。一方、1g/L以上とすることにより、生成物の生産効率を上昇させることができる。
【0056】
シアン化合物の使用量は、シアンヒドリン化合物が効率良く産生されれば限定されない。例えば、用いるピリジル系カルボニル化合物に対して0.5〜10倍モル、好ましくは1〜3倍モルとすることができる。10倍モル以下とすることにより、反応後に残存するシアンを低減させる操作を抑制することができる。一方、0.5倍モル以上とすることにより、生成物の産生を促進することができる。
【0057】
酵素はどのような状態のものでも使用することができる。例えば、粉末状、液状、又は適当な担体に固定化してなる固定化酵素などの状態のものを使用することができる。酵素の使用量は反応が効率よく進めば特には限定されない。例えば、基質であるピリジル系カルボニル化合物1mmolに対して0.1〜1000単位とすることができ、好ましくは1〜500単位である。1000単位以下とすることにより、コストを抑えることができる。一方、0.1単位以上とすることにより、反応を促進させることができ、生成物の高い光学純度を達成することができる。ここで、1単位とは、1分間に1μmolのシアンヒドリンが生成する酵素活性をいう。
【0058】
反応液のpHも酵素反応が効率よく進めば特には限定されない。例えばpH2〜7とすることができ、好ましくは3〜6である。7以下とすることにより、非酵素的な反応が進行し、光学純度を低下させるのを抑制することができる。一方、2以上とすることにより酵素の失活を防ぐことができる。
【0059】
反応温度は酵素の活性が十分発揮される温度であれば特に限定されるものではない。例えば−10〜70℃とすることができ、好ましくは0〜15℃、より好ましくは0〜5℃である。70℃以下とすることにより、非酵素的な反応が進行し、光学純度を低下させるのを防ぐことができる。一方、−10℃以上とすることにより、酵素反応を促進させることができる。
【0060】
また、必要に応じて反応系内に金属イオン、補酵素(FAD、FMN、NAD等)等を共存させても良い。これらを加えることで、酵素活性を高め、目的化合物の収率を向上させることも可能である。
【0061】
反応時間も限定されず、所望する生産物の量等に応じて適宜選択することができる。例えば、基質であるピリジル系カルボニル化合物の転換率が40%以上、好ましくは80%以上に達するまでの時間とすることができる。
【0062】
上記のようにして得られた光学活性シアノヒドリンは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などによって、測定又は定量することができ、必要に応じて、抽出、減圧蒸留、カラム分離などの通常の手段によって分離精製することができる。
【実施例】
【0063】
[HPLC測定] 転化率と光学純度を以下の条件で求めた。
HPLC:島津 Prominence
カラム :CHIRALCEL OJ−H (ダイセル化学工業製)
4.6mm I.D.×250mm
移動相 :n−ヘキサン:2−プロパノール=92:8
流 速 :1.2mL/分
検 出 :UV 254nm
温 度 :35℃。
【0064】
〔合成例1〕R−3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリンの合成
用いる試料は、全て前もって反応温度である1℃でインキュベートした。
【0065】
1.5mLエッペンチューブに、400mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.0)760μL、1.0M 3−ピリジンカルバルデヒド(東京化成工業)の400mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH 4.0)溶液40μL(最終濃度40mM)、酵素溶液R−Oxynitrilase 002(50%グリセロール溶液、液活性130U/mL、CODEXIS社)100μL及び0.94Mシアン化カリウム−1M塩酸溶液85μL(最終濃度80mM)を順に加え(最終容量1.0mL)、1℃で30分間反応した。
【0066】
反応液を100μL取り、900μLのイソプロパノールを添加して、上清をHPLCにより分析した結果、得られたR−3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリンは、転化率92.9%、光学純度89.6%e.e.であった。
【0067】
〔合成例2〜9〕
酵素反応における反応液の温度及び/又はpHを変化させた以外は、合成例1と同様に実験を行った。結果をまとめて表1に示す。
【0068】
〔参考例1〕
1.5mLエッペンチューブに、400mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.0)810μL、1.0M 3−ピリジンカルバルデヒド(東京化成工業)の400mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.0)溶液40μL(最終濃度40mM)、酵素溶液R−Oxynitrilase 002(50%グリセロール溶液、液活性130U/mL、CODEXIS社)100μL及び1.9Mシアン化カリウムの400mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.0)溶液50μL(最終濃度96mM)を順に加え(最終容量1.0mL)、35℃で30分間反応した。
【0069】
反応液を100μL取り、900μLのイソプロパノールを添加して、上清をHPLCにより分析した結果、得られたR−3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリンは、転化率96.5%、光学純度49.0%e.e.であった。
【0070】
〔参考例2〕
1.5mLエッペンチューブに、400mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH4.0)760μL、1.0M 3−ピリジンカルバルデヒド(東京化成工業)のDMSO(ジメチルスルホキシド)溶液40μL(最終濃度40mM)、酵素溶液R−Oxynitrilase 002(50%グリセロール溶液、液活性130U/mL、CODEXIS社)100μL及び0.94Mシアン化カリウム−1M塩酸溶液100μL(最終濃度94mM)を順に加え(最終容量1.0mL)、25℃で30分間反応した。
【0071】
反応液を100μL取り、900μLのイソプロパノールを添加して、上清をHPLCにより分析した結果、得られたR−3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリンは、転化率99.7%、光学純度64.4%e.e.であった。
【0072】
【表1】

【0073】
以下、還元反応の分析には下記の条件を使用した。
【0074】
[化学純度測定]
HPLC:島津 Prominence
カラム :Inertsil ODS−3V(GL Science製)
4.6mm I.D.×250mm
移動相 :0.1重量%リン酸水溶液
流 速 :0.5mL/分
検 出 :UV 254nm
温 度 :40℃。
【0075】
[光学純度測定]
HPLC:島津 Prominence
カラム :CrownPac CR−(+)(ダイセル化学工業製)
4.6mm I.D.×150mm
移動相 :0.5重量%過塩素酸水溶液:メタノール=99:1
流 速 :0.5mL/分
検 出 :UV 254nm
温 度 :15℃。
【0076】
〔実施例1〕R−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノールの合成
滴下ロートおよび温度計を付した50mL三口フラスコに、水素化ホウ素ナトリウム1.1g(0.03mol)、合成例1で得られたR−3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリン1.0g(0.01mol)及びエチレングリコールジメチルエーテル14.4gを添加し、5℃まで冷却した。
【0077】
次に、硫酸1.4g(0.01mol)とエチレングリコールジメチルエーテル5.3gとを混合した溶液を三口フラスコへ10℃以下で滴下した。滴下終了後、70℃で3時間熟成した。熟成後に得られたR−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノールの転化率は98%、反応収率は93%、光学純度は89.3%eeであった。反応液を10質量%水酸化ナトリウム水溶液12.7gでクエンチした。
【0078】
〔実施例2〕R−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノールの合成
滴下ロートおよび温度計を付した50mL三口フラスコに、水素化リチウムアルミニウム0.4g(0.01mol)及びテトラヒドロフラン12.0gを添加し、5℃まで冷却した。実施例1で得られたR−3−ピリジンカルバルデヒドシアンヒドリン1.0g(0.01mol)を三口フラスコへ10℃以下で添加した。添加終了後、25℃で3時間熟成した。熟成後に得られたR−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノールの転化率は98%、反応収率は91%、光学純度は89.0%eeであった。反応液を27質量%塩化アンモニウム水溶液5.0gでクエンチした。
【0079】
〔比較例1〕
水素化ホウ素ナトリウムを0.2g(5.0mmol)、硫酸を0.2g(1.6mmol)とした以外は、実施例1と同じ条件で反応を実施した。2時間熟成したあとの転化率は、40%、光学純度は89.1%eeであった。
【0080】
〔比較例2〕
熟成温度を80℃とした以外は、実施例2同じ条件で反応を実施した。2時間熟成後のR−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノールの転化率は98%であったが、R−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノールの反応収率は60%、光学純度は65.7%eeであった。
【0081】
〔実施例3〕
実施例1で得られたR−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール溶液の溶媒(エチレングリコールジメチルエーテル)を100Torr以下、40℃で留去した後、35質量%塩酸を3.9g(0.04mol)添加した。水および過剰分の塩酸をトルエン50mLで留去した粗体へ95%エタノール50.0gを添加し、70℃で抽出を行った。濃縮乾固した後の粗体は2.1gであった。この粗体をメタノールで再結晶し、R−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール塩酸塩を1.2g回収した。得られたR−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール塩酸塩は、化学純度99.5%、光学純度99.8%e.e.、収率76%であった。
【0082】
〔実施例4〕
実施例2で得られたR−2−アミノ−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール溶液の溶媒(テトラヒドロフラン)を200Torr以下、40℃で留去した後、35質量%塩酸を3.9g(0.04mol)添加した。水および過剰分の塩酸をトルエン50mLで留去した粗体へ95%エタノール50.0gを添加し、70℃で抽出を行った。濃縮乾固した後の粗体は2.0gであった。この粗体をメタノールで再結晶し、R−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール塩酸塩を1.1g回収した。得られたR−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール塩酸塩は、化学純度99.5%、光学純度99.7%e.e.、収率70%であった。
【0083】
〔比較例3〕
使用したメタノールを95容量%エタノールに変更した以外は、実施例3の方法で再結晶を実施した。その結果、化学純度90%、光学純度99.6%e.e.のR−2−アミノ−1−(3−ピリジニル)エタノール塩酸塩の結晶を1.3g回収した。収率は75%であった。
【0084】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、「Py」は置換基を有してもよい2−ピリジル基、置換基を有してもよい3−ピリジル基又は置換基を有してもよい4−ピリジル基を表す。「*」は不斉炭素を表す。)
で表されるシアンヒドリンを、エーテル系溶媒中で還元剤の存在下に還元することにより、アミノアルコールを製造する方法。
【請求項2】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、「Py」は置換基を有してもよい2−ピリジル基、置換基を有してもよい3−ピリジル基又は置換基を有してもよい4−ピリジル基を表す。「*」は不斉炭素を表す。)
で表されるシアンヒドリンを、エーテル系溶媒中で還元剤の存在下に還元する工程、
及び、得られたシアンヒドリンの塩酸塩を形成する工程
を含む、アミノアルコール塩酸塩を製造する方法。
【請求項3】
シアンヒドリンが、アーモンド(Prunus amygdalus)由来のヒドロキシニトリルリアーゼ存在下に、カルボニル化合物とシアン化合物とを反応させることにより得られたものである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記酵素反応を水系溶媒中で0〜20℃の温度で行う、請求項3記載の方法。
【請求項5】
カルボニルが3−ピリジルカルバルデヒドである、請求項3又は4記載の方法。

【公開番号】特開2012−217375(P2012−217375A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85237(P2011−85237)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】