説明

アミノグリコシド系抗生物質およびブロムフェナクを含有する水溶液製剤

アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩と非ステロイド性抗炎症剤であるブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩を含有する、安定で澄明な水溶液製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩と非ステロイド性抗炎症剤であるブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩を含有する水溶液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノグリコシド系抗生物質は、グラム陽性菌、グラム陰性菌に対し広域抗菌スペクトルを有し、その作用機序は細菌の蛋白合成阻害といわれている。アミノグリコシド系抗生物質は、MIC(最小発育阻止濃度)以下に血清中濃度が低下した後も細菌増殖抑制効果をもたらす抗生物質治療効果(post−antibiotic effect;PAE)を有するので、アミノグリコシド系抗生物質はグラム陽性菌、グラム陰性菌などの細菌に短時間接触した後においても持続してみられる細菌増殖抑制効果を持つことが知られている。このためゲンタマイシン、トブラマイシン、ストレプトマイシン、アミカシン、アルベカシン等種々のアミノグリコシド系抗生物質が、例えば緑膿菌、変形菌、大腸菌、ブドウ球菌などによる敗血症、気管支炎、肺炎、腎盂炎、膀胱炎、腹膜炎、眼瞼炎、麦粒腫、結膜炎、角膜炎、涙のう炎、中耳炎、外耳炎または副鼻腔炎などさまざまな感染症の治療に全身的に内服、注射薬として、あるいは局所的に点眼薬、点鼻薬、点耳薬などとして広く用いられている。
【0003】
感染性疾患に対しては、上記したようにアミノグリコシド系抗生物質が有用である。しかし、感染性疾患では、感染に伴う炎症も同時に抑制することが肝要である。抗生物質と抗炎症剤との併用が感染部位の炎症病変をも速やかに改善することが知られている。水溶液製剤においてもアミノグリコシド系抗生物質とステロイド性抗炎症薬を配合した薬剤、例えば硫酸フラジオマイシンとリン酸ベタメタゾンナトリウムとの配合製剤も眼科用および耳鼻科用水溶液製剤として実用に供されている。
しかし、前記配合製剤はステロイドで知られている副作用、例えば誘発感染症、感染症の増悪、続発性副腎皮質機能不全、緑内障、後のう白内障などが問題となる。このため、前記副作用などが見られないアミノグリコシド系抗生物質と非ステロイド性抗炎症剤との配合水溶液製剤が非常に有用であると考えられる。しかし、例えばトブラマイシンと非ステロイド性抗炎症剤であるジクロフェナクナトリウムとを配合した場合では、沈殿が生じ、懸濁するという問題があり(非特許文献1参照)、アミノグリコシド系抗生物質と非ステロイド性抗炎症剤とを配合した水溶液製剤の調製が困難であるという問題があった。
【0004】
非ステロイド性抗炎症剤のブロムフェナク(Bromfenac)は次の式(I):
【化1】

で表される化合物であり、その化学名は2−アミノ−3−(4−ブロモベンゾイル)フェニル酢酸である。ブロムフェナクは、眼科においては外眼部および前眼部の炎症性疾患(眼瞼炎、結膜炎、強膜炎、術後炎症)に対して有効で、特にぶどう膜炎の治療に対する有効性は従来用いられてきたステロイド性抗炎症剤に匹敵するものである(特許文献1参照)。ブロムフェナクは、眼科においてはナトリウム塩として点眼液の形態で実用に供されている。
しかし、ブロムフェナクについても、アミノグリコシド系抗生物質との配合水溶液製剤においては、上記したアミノグリコシド系抗生物質と非ステロイド性抗炎症剤の配合による製剤化の困難性から安定な配合製剤は未だ知られていない。
【特許文献1】特許第2683676号公報(対応する米国特許4,910,225)
【非特許文献1】ION−PAIRED CODRUG FOR INCREASED OCULAR ABSORPTION、 Proceed, Int’l Symp. Control. Rel. Bioact. Mater., 24 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩とブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩とを含有する、安定で澄明な水溶液製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、アミノグリコシド系抗生物質とブロムフェナクとを含有する水溶液は、意外にもpHを7.0以上に調整することにより、沈殿が生じないことを見出した。しかし、前記水溶液は保存すると、徐々に沈殿が発生することが分かった。そこで、本発明者は、前記水溶液が保存によっても沈殿の生じないように、さらに検討を重ねた。その結果、前記水溶液に、さらにクエン酸もしくはその薬理的に許容される塩、モノエタノールアミンもしくはその薬理的に許容される塩、N−メチルグルカミンもしくはその薬理的に許容される塩、ニコチン酸アミド、非イオン性水溶性高分子または非イオン性界面活性剤を添加することにより、沈殿が生じない安定な水溶液を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、次のものを提供する。
(1)アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩とブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩とを含有する水溶液製剤、
(2)さらにクエン酸またはその薬理的に許容される塩、モノエタノールアミンまたはその薬理的に許容される塩、N−メチルグルカミンまたはその薬理的に許容される塩及びニコチン酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する上記(1)に記載の水溶液製剤、
(3)pH7.0以上8.5以下の範囲内である上記(2)に記載の水溶液製剤、
(4)さらに非イオン性水溶性高分子及び非イオン性界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する上記(1)に記載の水溶液製剤、
(5)pHが6.0以上8.5以下の範囲内である上記(4)に記載の水溶液製剤、
(6)アミノグリコシド系抗生物質がトブラマイシンまたはゲンタマイシンである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水溶液製剤、
(7)水溶液製剤中のアミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩の濃度範囲が、下限0.01w/v%、上限35.0w/v%、水溶液製剤中のブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩の濃度範囲が、下限0.01w/v%、上限0.5w/v%である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水溶液製剤、
(8)点眼液、点鼻液、点耳液または注射液である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の水溶液製剤、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩とブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩とを含有する、安定で澄明な水溶液製剤を得ることができる。
したがって、本発明の水溶液製剤は、点眼液として、例えば眼瞼炎、麦粒腫、結膜炎、角膜炎または涙のう炎などの治療に、点鼻液として、例えば急性鼻炎、急性副鼻腔炎、副鼻腔炎(蓄膿症)などの治療に、点耳液として、例えば外耳道真珠腫(症)、急性外耳炎、外耳の軟骨膜炎、外耳道蜂巣炎、耳介蜂巣炎、悪性外耳炎、壊死性外耳炎、緑膿菌性外耳炎、びまん性外耳炎、その他の感染性外耳炎または急性中耳炎などの治療に、注射液として種々の感染症の治療に有利に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水溶液製剤に使用されるアミノグリコシド系抗生物質としては、トブラマイシン、アストロマイシン、アミカシン、アルベカシン、イパセマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、シソマイシン、ジベカシン、ストレプトマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、フラジオマイシン、べカナマイシン、ミクロノマイシンまたはリボスタマイシンなどが挙げられる。
アミノグリコシド系抗生物質の薬理的に許容される塩としては、塩酸塩、硫酸塩などの無機塩、酢酸塩などの有機塩が挙げられる。
アミノグリコシド系抗生物質または薬理的に許容される塩の特に好ましいものとしては、トブラマイシン、ゲンタマイシンまたは硫酸ゲンタマイシンが挙げられる。
【0010】
本発明の水溶液製剤に使用されるブロムフェナクは、例えばジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(Journal of medicinal chemistry)、第27巻第1370−88号(1984)や米国特許第1,136,375号明細書等の記載に基づいて、またはそれらに準じて製造することができる。
【0011】
ブロムフェナクの薬理的に許容される塩としては、ナトリウム塩またはカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩またはマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。これらの塩のうちナトリウム塩が特に好ましい。また、ブロムフェナクおよびその薬理学的に許容される塩は、合成の条件や再結晶の条件などによりそれらの水和物として得られるが、これら水和物も本発明の水溶液製剤に用いることができる。水和物としては例えば3/2水和物が例示される。
【0012】
本発明の水溶液製剤は、クエン酸またはその薬理的に許容される塩、モノエタノールアミンもしくはその薬理的に許容される塩、N−メチルグルカミンもしくはその薬理的に許容される塩またはニコチン酸アミドなどを含有させるのがよい。これら化合物は単独で用いても、また組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明の水溶液製剤に使用されるクエン酸の薬理的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。また、クエン酸またはその薬理的に許容される塩は水和物であってもよい。クエン酸またはその薬理的に許容される塩としては、例えば、クエン酸無水物、クエン酸・1水和物、クエン酸1カリウム、無水クエン酸三カリウム、クエン酸三カリウム・1水和物、クエン酸カルシウム・4水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、無水クエン酸三ナトリウム、クエン酸三ナトリウム・2水和物、無水クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸マグネシウム・9水和物、クエン酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウムまたはクエン酸二水素アンモニウム等が挙げられる。
【0014】
本発明の水溶液製剤に使用されるモノエタノールアミンおよびN−メチルグルカミンの薬理的に許容される塩としては、塩酸塩、硫酸塩などの無機塩、酢酸塩などの有機塩が挙げられる。
クエン酸またはその薬理的に許容される塩、モノエタノールアミンもしくはその薬理的に許容される塩、N−メチルグルカミンもしくはその薬理的に許容される塩またはニコチン酸アミドなどは単独で用いても、また組み合わせて用いてもよい。
【0015】
また本発明の水溶液製剤は、非イオン性水溶性高分子または非イオン性界面活性剤などを含有させるのがよい。非イオン性水溶性高分子としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン〔例.ポピドン K 30など〕、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはα−シクロデキストリンなどが挙げられる。好ましい非イオン性水溶性高分子は、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたはα−シクロデキストリンなどである。
【0016】
非イオン性界面活性剤としては、例えばポリソルベート20、ポリソルベート60またはポリソルベート80のようなポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;チロキサポール;モノステアリン酸ポリオキシル40;ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油またはポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油のようなポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;またはポロキサマーが挙げられる。好ましい非イオン性界面活性剤はポリソルベート80、チロキサポールまたはモノステアリン酸ポリオキシル40などである。
【0017】
前記非イオン性水溶性高分子または非イオン性界面活性剤は単独で用いても、また組み合わせて用いてもよい。
また、前記非イオン性水溶性高分子または非イオン性界面活性剤は、上記クエン酸またはその薬理的に許容される塩、モノエタノールアミンもしくはその薬理的に許容される塩、N−メチルグルカミンもしくはその薬理的に許容される塩またはニコチン酸アミドなどと組み合わせて用いても良い。好ましい組合せとしては、例えばクエン酸またはその薬理的に許容される塩と非イオン性水溶性高分子〔例.ポピドン K 30、ポリビニルアルコール、α−シクロデキストリンなど〕;クエン酸またはその薬理的に許容される塩と非イオン性界面活性剤(例.チロキサポール、ポリソルベート80、モノステアリン酸ポリオキシル40など);モノエタノールアミンまたはその薬理的に許容される塩と非イオン性水溶性高分子〔例.ポピドン K 30、ポリビニルアルコール、α−シクロデキストリンなど〕;モノエタノールアミンまたはその薬理的に許容される塩と非イオン性界面活性剤(例.チロキサポール、ポリソルベート80、モノステアリン酸ポリオキシル40など);N−メチルグルカミンまたはその薬理的に許容される塩と非イオン性水溶性高分子(〔例.ポピドン K 30、ポリビニルアルコール、α−シクロデキストリンなど〕;N−メチルグルカミンまたはその薬理的に許容される塩と非イオン性界面活性剤(例.チロキサポール、ポリソルベート80、モノステアリン酸ポリオキシル40など);ニコチン酸アミドと非イオン性水溶性高分子〔例.ポピドン K 30、ポリビニルアルコール、α−シクロデキストリンなど〕;ニコチン酸アミドと非イオン性界面活性剤(例.チロキサポール、ポリソルベート80、モノステアリン酸ポリオキシル40など);非イオン性界面活性剤(例.チロキサポール、ポリソルベート80、モノステアリン酸ポリオキシル40など)と非イオン性水溶性高分子〔例.ポピドン K 30、ポリビニルアルコール、α−シクロデキストリンなど〕等が挙げられる。
【0018】
本発明の水溶液製剤は、pHの調整剤を用いて任意のpHに調整されるのがよい。pH調整剤は、通常医薬品の製造に使用されるpH調整剤であればいずれも好ましく用いることができ、酸または塩基、例えば塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸または酢酸などが挙げられる。
【0019】
本発明の水溶液製剤のpHにおいて、例えばアミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩とブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩との水溶液製剤は、前記のpH調節剤を用いて、pHを約7.0以上とするのが良く、通常約7.0以上約8.5以下程度に調整されるのがよい。アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩とブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩との水溶液製剤に、さらにクエン酸もしくはその薬理的に許容される塩、モノエタノールアミンもしくはその薬理的に許容される塩、N−メチルグルカミンもしくはその薬理的に許容される塩またはニコチン酸アミドが配合される場合においても、pHは約7.0以上約8.5以下に調整されるのがよい。また、アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩とブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩との水溶液製剤に、さらに非イオン性水溶性高分子または非イオン性界面活性剤が配合される場合、pHは約6.0以上約7.0未満でも安定な水溶液製剤を得ることができ、通常は、pHを約6.0以上約8.5以下に調整され得る。本発明における水溶液製剤の最も好ましいpH範囲は約7.5〜8.5である。
上記pHの調節の添加量は特に限定されず、また添加されるpH調整剤は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明の水溶液製剤の主薬アミノグリコシド系抗生物質の濃度範囲は、用いられるアミノグリコシド系抗生物質の種類等により異なるが、特に限定されるものではないが、通常下限約0.01w/v%程度、好ましくは約0.1w/v%程度、上限約35.0w/v%程度、好ましくは約10.0w/v%程度の濃度範囲から適宜選択される。例えばトブラマイシンの場合の濃度範囲は、通常下限約0.01w/v%程度、好ましくは約0.1w/v%程度、上限約5.0w/v%程度、好ましくは約1.0w/v%程度である。トブラマイシンの特に好ましい濃度は約0.3〜0.5w/v%程度である。また、例えば硫酸ゲンタマイシンの場合の濃度範囲は、通常下限約0.01w/v%程度、好ましくは約0.1w/v%程度、上限約10.0w/v%程度、好ましくは約5.0w/v%程度、さらに好ましくは約1.0w/v%程度である。硫酸ゲンタマイシンの特に好ましい濃度は約0.3〜0.5w/v%程度である。
アミノグリコシド系抗生物質の濃度は、使用目的、適応症状の程度に応じて適宜増減するのが好ましい。
【0021】
本発明の水溶液製剤のもう一方の主薬であるブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩の濃度範囲は特に限定されるものではないが、通常下限約0.01w/v%程度、好ましくは約0.05w/v%程度、上限約0.5w/v%程度、好ましくは約0.2w/v%程度である。特に好ましい濃度は約0.1〜0.2w/v%程度である。
ブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩の濃度は使用目的、適応症状の程度に応じて適宜増減するのが好ましい。
【0022】
本発明の水溶液製剤に使用されるクエン酸およびその薬理的に許容される塩の濃度範囲は特に限定されるものではないが、下限約0.01w/v%程度、好ましくは約0.05w/v%程度、上限約5.0w/v%程度、好ましくは約0.3w/v%程度である。また、本発明の水溶液製剤に使用されるモノエタノールアミン、N−メチルグルカミン、それらの薬理的に許容される塩およびニコチン酸アミドの濃度範囲は特に限定されるものではないが、下限0.01w/v%程度、好ましくは0.05w/v%程度、上限5.0w/v%程度、好ましくは1.0w/v%程度である。さらに、本発明の水溶液製剤に使用される非イオン性水溶性高分子または非イオン性界面活性剤の濃度範囲は特に限定されるものではないが、下限0.01w/v%程度、好ましくは0.05w/v%程度、上限10.0w/v%程度、好ましくは1.0w/v%程度である。
【0023】
本発明の水溶液製剤は、点眼液、点鼻液、点耳液または注射液などとして適宜に用いることができる。
【0024】
本発明の水溶液製剤は、自体公知の調製法、例えば、第14改正日本薬局方、製剤総則の液剤あるいは点眼剤に記載された方法またはそれに準じた方法で製造することができる。
【0025】
例えば、点眼液を製造する場合、溶剤(精製水又は注射用水など)に点眼剤に通常用いられる添加剤を溶解し、そこへアミノグリコシド系抗生物質(例えば硫酸ゲンタマイシンなど)およびブロムフェナクナトリウムを加えて溶解し、pH調整剤でpHを約7.0以上、好ましくは約7.5以上、約8.5以下に調整するのがよい。
【0026】
また、前記溶剤にクエン酸またはその薬理的に許容される塩、モノエタノールアミンもしくはその薬理的に許容される塩、ニコチン酸アミドまたはN−メチルグルカミンもしくはその薬理的に許容される塩および点眼剤に通常用いられる添加剤を加えて溶解した溶液を調製してもよい。この溶液にアミノグリコシド系抗生物質(例えばトブラマイシン、硫酸ゲンタマイシンなど)およびブロムフェナクナトリウムを加えて溶解し、pH調整剤でpHを約7.0以上、好ましくは約7.5以上、約8.5以下に調整するのがよい。
【0027】
また、前記溶剤に非イオン性水溶性高分子または非イオン性界面活性剤および点眼剤に通常用いられる添加剤を加えて溶解した溶液を調製してもよい。この溶液にアミノグリコシド系抗生物質(例えばトブラマイシン、硫酸ゲンタマイシンなど)およびブロムフェナクナトリウムを加えて溶解し、pH調整剤でpHを約6.0以上、好ましくは約7.5以上、約8.5以下に調整するのがよい。
【0028】
上記点眼剤に通常用いられる添加剤としては、例えば等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ブドウ糖、プロピレングリコールなど)、緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸、イプシロンアミノカプロン酸など)、保存剤(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル類、エデト酸ナトリウム、ホウ酸など)などが挙げられる。これら添加剤の添加量は、添加する添加剤の種類、用途などによって異なるが、添加剤の目的を達成し得る濃度を添加すればよい。
【0029】
点鼻液、点耳液または注射液を製造する場合、上記した点眼剤の通常用いられる添加剤を使用することができる。
注射剤に通常用いられる添加剤としては、例えば安定化剤(エデト酸ナトリウム、チオグリコール酸等)、無痛化剤(ベンジルアルコール等)、等張化剤(塩化ナトリウム、グリセリン、濃グリセリン、マンニトール等)、緩衝剤(クエン酸ナトリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等)又は保存剤(クロロブタノール等)などが挙げられる。
【0030】
本発明の水溶液製剤には、本発明の目的に反しない限り、その他の同種または別種の薬効成分を適宜含有させてもよい。
【0031】
本発明の水溶液製剤は、温血動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなど)に使用することができる。
【0032】
本発明の水溶液製剤は、例えば点眼液として、例えば眼瞼炎、麦粒腫、結膜炎、角膜炎、涙のう炎などの治療に用いられる。その投与量は、例えば、ブロムフェナクナトリウム・水和物0.1w/v%とトブラマイシン0.3w/v%または硫酸ゲンタマイシン0.3w/v%とを含有する点眼液を点眼する場合は、1回1〜2滴を1日3〜6回点眼すればよい。なお、適応症状の程度などにより、適宜投与回数を増減する。
【0033】
また、本発明の水溶液製剤を点鼻液として、例えば急性鼻炎、急性副鼻腔炎、副鼻腔炎(蓄膿症)などの治療に、例えば、ブロムフェナクナトリウム・水和物0.1w/v%とトブラマイシン0.3w/v%または硫酸ゲンタマイシン0.3w/v%とを含有する点鼻液を点鼻する場合は、1回1〜2滴を1日3〜6回点鼻すればよい。
【0034】
また、本発明の水溶液製剤を点耳液として、例えば外耳道真珠腫(症)、急性外耳炎、外耳の軟骨膜炎、外耳道蜂巣炎、耳介蜂巣炎、悪性外耳炎、壊死性外耳炎、緑膿菌性外耳炎、びまん性外耳炎、その他の感染性外耳炎または急性中耳炎などの治療に、例えば、ブロムフェナクナトリウム・水和物0.1w/v%とトブラマイシン0.3w/v%または硫酸ゲンタマイシン0.3w/v%とを含有する点耳液を点耳する場合は、1回1〜2滴を1日3〜6回点耳すればよい。
【0035】
また、本発明の水溶液製剤を注射液として種々の感染症の治療に、例えば、ブロムフェナクナトリウム・水和物0.1w/v%とトブラマイシン0.3w/v%または硫酸ゲンタマイシン0.3w/v%とを含有する注射液を適量筋肉注射または皮下注射すればよい。
【0036】
以下に実施例等を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
配合変化試験−1
表1に示す処方を調製した。処方例1はホウ酸およびホウ砂を一定量の精製水に加えて溶かし、トブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。処方例2については、さらにクエン酸ナトリウムを加えて溶かした。精製水を所定量まで加えた。処方例3はホウ酸およびホウ砂を一定量の精製水に加えて溶かし、硫酸ゲンタマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。この後に、塩酸および水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、外観を肉眼で観察した。
なお、外観は以下を基準とした。
澄明:溶液が澄みきっている状態。
濁り:黒色の背景の下で観察すると、黄色にかすんで見える状態。
微濁:前記濁りの程度が低い状態。
懸濁:黒色の背景の下で観察すると、微粒子が浮遊し、黄色にかすんで見える状態。
混濁:黒色の背景の下で観察すると、背景が見えない程度に微粒子が浮遊している状態または、沈殿物が生じている状態。
【0038】
【表1】

【0039】
配合変化試験の結果を表2に記載した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から明らかなように、pHの低下とともに濁りまたは懸濁が生じることがわかった。すなわち処方例1、2および3のいずれの処方でも、pH6.6未満では沈殿を生じた。処方例1では、pHを7.5以上に調整することで黄色澄明となった。また、0.3w/v%クエン酸ナトリウムを添加した処方例2では、pHを7.1以上に調整することで黄色澄明となった。処方例3においてもpHを7.1以上に調整することで黄色澄明となった。
【実施例2】
【0042】
配合変化試験−2
表3に示すトブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウム配合液を調製した(処方例4)。ホウ酸およびホウ砂を一定量の精製水に加えて溶かし、トブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。別に、各添加剤を所定量の精製水に加えて溶解させることによって添加剤溶液を調製した(表4)。配合液および添加剤溶液を1:1となるように混合し、塩酸を加えてpHを7.0に調整した。調製した試料溶液の外観を肉眼で観察した。外観は実施例1に記載の基準に従った。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
配合試験結果による添加剤による外観を表5に示した。
【0046】
【表5】

【0047】
上記表5における外観は、澄明、微濁、濁りの順で本発明の水溶液製剤として好ましいこと示し、混濁は、本発明の水溶液製剤として好ましくないことを示す。表5から明らかなように、有機アミンであるモノエタノールアミンおよびN−メチルグルカミン、ニコチン酸アミド、非イオン性水溶性高分子であるポピドン K 30、非イオン性界面活性剤であるポリソルベート80、チロキサポールおよびモノステアリン酸ポリオキシル40を添加することで、濁りの抑制または軽減がみられた。
【実施例3】
【0048】
配合変化試験−3
表6に示す硫酸ゲンタマイシンおよびブロムフェナクナトリウム配合液を調製した(処方例5および6)。処方例5はリン酸二水素ナトリウムおよび濃グリセリンを一定量の精製水に加えて溶かし、硫酸ゲンタマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。処方例6はホウ酸およびホウ砂を一定量の精製水に加えて溶かし、硫酸ゲンタマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。別に、添加剤溶液を調製した(表7)。各添加剤を所定量の水に加えて溶かした。配合液および添加剤溶液を1:1となるように混合した。ポリビニルアルコールおよびα−シクロデキストリンは処方例5と混合し、それ以外の添加剤は処方例6と混合した。塩酸を加えてpHを6.5に調整した。ポリソルベート80およびα−シクロデキストリンについては、pH6.0にも調整した。調製した混合液の外観を肉眼で観察した。外観は実施例1に記載の基準に従った。
【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
配合変化試験による添加剤による外観を表8に記載した。
【0052】
【表8】

【0053】
上記表8における外観は、澄明、微濁、濁りの順で本発明の水溶液製剤として好ましいこと示し、懸濁および混濁は、本発明の水溶液製剤として好ましくないことを示す。表8から明らかなように、クエン酸ナトリウム、有機アミンであるモノエタノールアミン、N−メチルグルカミン、ニコチン酸アミド、非イオン性水溶性高分子であるポピドン、ポリビニルアルコール、α−シクロデキストリン、並びに非イオン性界面活性剤であるポリソルベート80、チロキサポールおよびモノステアリン酸ポリオキシル40を添加することで、濁りの抑制または軽減がみられた。また、非イオン性水溶性高分子であるα−シクロデキストリンおよび非イオン性界面活性剤であるポリソルベート80では、pH6.0においても沈殿生成の抑制がみられた。
【0054】
[製剤実施例1]点眼液
【表9】

約80mLの精製水にホウ砂を加えて溶かした。この液にトブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。この液にホウ酸を加えて溶かし、塩酸を加えてpHを調整し、精製水で全量を100mLとした。
【0055】
[製剤実施例2]点耳液
【表10】

約80mLの精製水にトブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。この液にクエン酸ナトリウムおよびホウ酸を加えて溶かし、水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、精製水で全量を100mLとした。
【0056】
[製剤実施例3]点鼻液
【表11】

約80mLの精製水にリン酸二水素ナトリウム、濃グリセリン、ポリソルベート80を加えて溶かした。この液に硫酸ゲンタマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。この液に水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、精製水で全量を100mLとした。
【0057】
[製剤実施例4]点眼液
【表12】

約80mLの精製水にトブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。この液にポピドン K 30およびホウ酸を加えて溶かし、水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、精製水で全量を100mLとした。
【0058】
[製剤実施例5]点眼液
【表13】

約80mLの精製水にトブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。この液にN−メチルグルカミンおよびホウ酸を加えて溶かし、水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、精製水で全量を100mLとした。
【0059】
[製剤実施例6]点眼液
【表14】

約80mLの精製水にトブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。この液にポピドン K 30、N−メチルグルカミン、ホウ酸およびホウ砂を加えて溶かし、水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、精製水で全量を100mLとした。
【0060】
[製剤実施例7]点眼液
【表15】

約80mLの精製水にトブラマイシンおよびブロムフェナクナトリウムを加えて溶かした。この液にチロキサポール、ポピドン K 30、エデト酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、ホウ酸およびホウ砂を加えて溶かし、水酸化ナトリウムを加えてpHを調整し、精製水で全量を100mLとした。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容できる塩とブロムフェナクまたはその薬理的に許容できる塩を含有する、澄明な水溶液製剤を得ることができる。
したがって、本発明の水溶液製剤は、たとえば点眼液として、眼瞼炎、麦粒腫、結膜炎、角膜炎、涙のう炎などの治療に、また、点鼻液として、例えば急性鼻炎、急性副鼻腔炎、副鼻腔炎(蓄膿症)などの治療に、点耳液として、例えば外耳道真珠腫(症)、急性外耳炎、外耳の軟骨膜炎、外耳道蜂巣炎、耳介蜂巣炎、悪性外耳炎、壊死性外耳炎、緑膿菌性外耳炎、びまん性外耳炎、その他の感染性外耳炎または急性中耳炎などの治療に、注射液として種々の感染症の治療に有利に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩とブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩とを含有する水溶液製剤。
【請求項2】
さらにクエン酸またはその薬理的に許容される塩、モノエタノールアミンまたはその薬理的に許容される塩、N−メチルグルカミンまたはその薬理的に許容される塩及びニコチン酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する請求の範囲第1項に記載の水溶液製剤。
【請求項3】
pHが7.0以上8.5以下の範囲内である請求の範囲第2項に記載の水溶液製剤。
【請求項4】
さらに非イオン性水溶性高分子及び非イオン性界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する請求の範囲第1項に記載の水溶液製剤。
【請求項5】
pHが6.0以上8.5以下の範囲内である請求の範囲第4項に記載の水溶液製剤。
【請求項6】
アミノグリコシド系抗生物質がトブラマイシンまたはゲンタマイシンである請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の水溶液製剤。
【請求項7】
水溶液製剤中のアミノグリコシド系抗生物質またはその薬理的に許容される塩の濃度範囲が、下限0.01w/v%、上限35.0w/v%、水溶液製剤中のブロムフェナクまたはその薬理的に許容される塩の濃度範囲が、下限0.01w/v%、上限0.5w/v%である請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の水溶液製剤。
【請求項8】
点眼液、点鼻液、点耳液または注射液である請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の水溶液製剤。


【国際公開番号】WO2005/046700
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515458(P2005−515458)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016849
【国際出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】