説明

アミノ化フラーレン及びアミノ化フラーレンの製造方法

【課題】工業的に容易に合成できるとともに、アルコールへの高い溶解性を有し、付加基の数が少なくフラーレンの特性を損なわず、生理活性物質、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアミノ化フラーレンを提供すること。
【解決手段】下記式で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基が、フラーレンに6個以上結合していることを特徴とするアミノ化フラーレン。



(上記式中、nは0以上4以下の整数を表わし、XはNHまたはCHを表わし、Lは環状2級アミノ基と水酸基とを連結する2価の有機基を表わし、pは0または1を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体に関する。詳しくは、本発明は、特定の構造を有するアミノ化フラーレンに関する。
【背景技術】
【0002】
1990年にフラーレンC60の大量製造法が開発されて以来、数多くのフラーレン誘導体が開発され、その多様な機能が明らかにされてきた。それに伴い、フラーレン誘導体を用いた電子伝導材料、半導体、生理活性物質等の各種用途開発が進められている。
【0003】
適用分野によってフラーレン誘導体に要求される物性はそれぞれ大きく異なるが、中でも、塗布による薄膜形成、樹脂への均一な分散等を目的として、種々の溶媒にフラーレン誘導体を溶解させることが強く求められており、各種溶媒への高い溶解性を有するフラーレン誘導体の開発が精力的に行われている。
【0004】
特に電子伝導材料用途においては、フラーレン誘導体の溶液をスピンコート等の手法により塗布し、フラーレン誘導体を含む薄膜として用いることがあり、溶媒に高い溶解性を示すフラーレン誘導体が求められている。例えば、特許文献1には、特定の構造を有するフラーレン誘導体がエステル溶媒に高い溶解性を示すことが記載されている。具体的には、かさ高いエステル置換基を有する有機基をフラーレンに付加することで、フラーレン誘導体のエステル溶媒への高い溶解性を達成している。
【0005】
また、フラーレンは、通常、活性酸素を除去する性質を有するため、生理活性物質用途への応用が期待されている。この用途においても、通常、フラーレン誘導体は溶媒に溶解して用いられるため、水、アルコール等の極性溶媒への高い溶解性が求められるが、毒性の少ない水、アルコール等に高濃度で溶解する公知のフラーレン誘導体は多くない。
【0006】
水溶性を有するフラーレン誘導体の例として、非特許文献1には、ヒドロキシル基が最大40個付加した水酸化フラーレンが記載されている。このフラーレン誘導体は、水に対して最大で58.9g/Lの高い溶解性を示し、さらに、その構造が不明ではあるが、200g/L以上の高い水溶性を示すフラーレン誘導体も記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、フラーレンにアミノ基が付加したアミノ化フラーレンが報告されている。この文献においては、アミノ化フラーレンであるテトラアミノフラーレンエポキシドを、工業的に可能な1段階の反応で、高収率かつ高選択的に製造することができる技術が開示されている。
【0008】
さらに、公知のアミノ化フラーレンがメタノールに溶解性を示さないことを利用して、アミノ化フラーレンの製造時に、晶析用の貧溶媒としてメタノールが用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−56878号公報
【特許文献2】特開2006−199674号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】第30回記念フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム講演要旨集p.149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のフラーレン誘導体は、エステル溶媒に高い溶解性を示すものの、当該フラーレン誘導体を工業的に製造するためには、その製造工程においてGrignard試薬と銅化合物とから調製される不安定な有機銅試薬を用いたり、付加工程、脱保護工程、エステル化工程等の多段工程を経るため、製造コスト高及び製造時間の長時間化となったりする等、工業的に製造するためには多くの課題があった。
【0012】
また、非特許文献1に記載の水酸化フラーレンのように、多くの付加基がフラーレンに付加することで高い溶解性を達成したフラーレン誘導体は、フラーレンの共役が狭くなるため、フラーレンの特性が大きく損なわれている可能性がある。さらに、水酸化フラーレンは、水酸化フラーレン分子ごとに上記付加基の量が異なっていたり、その構造の特定が困難であったりする等の多くの課題を有していた。
【0013】
さらに、特許文献2に記載のアミノ化フラーレンを本発明者らが合成し、それらのアミノ化フラーレンのメタノールへの溶解性を確認したところ、いずれもメタノールに溶解性を示さなかった(具体的には、メタノール1mLに対して、アミノ化フラーレンが0.1mg以下可溶であった。)。従って、公知のアミノ化フラーレンは、メタノール等のアルコールに溶解性を示さないという課題も有していた。
【0014】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、工業的に容易に合成できるとともに、生理活性用途、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアルコール溶媒への高い溶解性を有する、付加基の数が少なくフラーレンの特性を損なわないアミノ化フラーレンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、分子内に水酸基を有するアミノ基が6個以上フラーレンに結合したアミノ化フラーレンが、生理活性用途、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアルコール溶媒や水への高い溶解性を有し、かつフラーレンの特性を損なわないことを見出した。さらに、このアミノ化フラーレンがきわめて容易な方法で粉体として取得できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち、本発明の要旨は、下記式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基が、フラーレンに6個以上結合していることを特徴とするアミノ化フラーレンに存する(請求項1)。
【化1】

(式(20)中、nは0以上4以下の整数を表わし、XはNHまたはCHを表わし、Lは環状2級アミノ基と水酸基とを連結する2価の有機基を表わし、pは0または1を表わす。)
【0017】
このとき、前記式(20)中、Lが、イミノ基(−NH−)、ホスフィンジイル基(−PH−)、オキシ基(−O−)、及びチオ基(−S−)のうち、何れか1種以上の基を含有していてもよい、芳香族性を示す有機基及び/又はアルキレン基であることが好ましい(請求項2)。
【0018】
また、前記式(20)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基が、下記式(1)で表わされる基であることが好ましい(請求項3)。
【化2】

(式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表わし、XはNHまたはCHを表わす。)
【0019】
また、前記式(20)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基が、下記式(21)で表わされる基であることが好ましい(請求項4)。
【化3】

(式(21)中、Arは芳香族性を有する基を表わし、nは0以上4以下の整数を表わし、XはNHまたはCHを表わす。)
【0020】
また、前記のフラーレンが、C60であることが好ましい(請求項5)。
【0021】
また、前記の水酸基含有環状2級アミノ基が、フラーレンに7個以上結合していることが好ましい(請求項6)。
【0022】
また、前記式(1)中、mが2以上であることが好ましい(請求項7)。
【0023】
また、前記式(20)中、nが2であることが好ましい(請求項8)。
【0024】
また、前記のアミノ化フラーレンが、下記式(2)の部分構造を有することが好ましい(請求項9)。
【化4】

(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、前記式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【0025】
また、前記のアミノ化フラーレンが、下記式(3)の部分構造を有することが好ましい(請求項10)。
【化5】

(式(3)中、Rは、それぞれ独立に、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【0026】
また、前記のアミノ化フラーレンが、下記式(4)の部分構造を有することが好ましい(請求項11)。
【化6】

(式(4)中、Rは、それぞれ独立に、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【0027】
本発明の別の要旨は、前記のアミノ化フラーレンを製造する方法であって、フラーレンと、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を含む環状アミンとを、溶媒中で反応させる工程と、該溶媒よりもアミノ化フラーレンの溶解度が低い貧溶媒を混合して、アミノ化フラーレンを析出させる工程とを含むことを特徴とする、アミノ化フラーレンの製造方法に存する(請求項12)。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、工業的に容易に合成できるとともに、生理活性用途、電子伝導材料、樹脂添加剤等の種々の用途に好適に用いられるアルコール溶媒や水への高い溶解性を有し、フラーレンの特性を損なわないアミノ化フラーレンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、実施例1におけるMS分析の結果を示す図である。
【図2】図2は、実施例2におけるMS分析の結果を示す図である。
【図3】図3は、実施例3におけるMS分析の結果を示す図である。
【図4】図4は、実施例4におけるMS分析の結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例5におけるMS分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0031】
本明細書において、特に指定の無い限り、有機化合物が有する、例えば光学異性体、位置異性体、幾何異性体等の異性体の種類に制限はない。例えば、キシレンには、その異性体として、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン等があるが、単に「キシレン」と記載する場合、キシレンはこれらの異性体のいずれでもよい。また、用いる有機化合物は、2種以上の異性体を任意の比率及び組み合わせで含んでもよい。
【0032】
[1.アミノ化フラーレン]
本発明のアミノ化フラーレンは、下記式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基(以下、適宜「環状2級アミノ基」ということがある。)が、フラーレンに6個以上結合しているものである。
【0033】
【化7】

(式(20)中、nは0以上4以下の整数を表わし、XはNHまたはCHを表わし、Lは環状2級アミノ基と水酸基とを連結する2価の有機基を表わし、pは0または1を表わす。)
【0034】
(フラーレン)
「フラーレン」とは、炭素原子が球状又はラグビーボール状に配置して形成される、閉殻構造を有する炭素クラスターである。フラーレンの炭素数は、通常60以上、通常120以下である。
【0035】
フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスター等が挙げられる。なお、以下の説明においては、炭素数i(iは任意の自然数を表わす。)のフラーレンを適宜、式「C」で表わす。
【0036】
本発明のアミノ化フラーレンが有するフラーレンとしては、例えば、上記の具体例が挙げられるが、中でも原料として入手し易いという観点から、C60が好ましい。なお、フラーレンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0037】
(環状2級アミノ基)
環状2級アミノ基は、上記式(20)で表わされるものであり、1個の窒素原子と(n+3)個の炭素原子、または2個の窒素原子と(n+2)個の炭素原子、のいずれかからなる環状アミノ基(以下、適宜「環状2級アミノ骨格」ということがある。)の環上に、直接もしくは2価の有機基Lを介して水酸基が結合しているものである。
【0038】
(環状2級アミノ骨格)
上記式(20)中、nは炭素鎖の炭素数を表わす。nの好ましい範囲としては、通常0以上、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、また、その上限は、通常4以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。中でも、nは2であることが特に好ましい。炭素数が多すぎる場合、極性が低くなりアルコールや水への溶解性が低くなる可能性がある。
上記式(20)中、Xは、NHもしくはCHを表わす。
【0039】
環状2級アミノ骨格の具体例としては、N−ピロリジノ基、N−ピペリジノ基、N−ヘキサメチレンイミノ基、N−イミダゾリジノ基、N−ピペラジノ基、N−ホモピペラジノ基等が挙げられる。中でも、環状2級アミノ骨格を生成する原料の入手の容易さの観点から、N−ピロリジノ基、N−ピペリジノ基、N−ピペラジノ基、N−ホモピペラジノ基が好ましく、N−ピペリジノ基およびN−ピペラジノ基がより好ましい。
なお、環状2級アミノ骨格は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0040】
また、環状2級アミノ骨格は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環状2級アミノ骨格が有する水素原子が置換基に置換されていてもよい。有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシチオ基等が挙げられる。
置換基は、1種を単数又は複数で置換してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換してもよい。
【0041】
置換基の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常9g/モル以上、好ましくは15g/モル以上であり、また、その上限は、通常200g/モル以下、好ましくは150g/モル以下、より好ましくは100g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、単位重量あたりのフラーレンの割合が相対的に低下する結果、フラーレンの特性が十分発現しない可能性がある。
【0042】
さらに、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していてもよい。
【0043】
また、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、飽和結合だけではなく、不飽和結合を有していてもよい。不飽和結合は、二重結合でもよく、三重結合でもよい。また、二重結合と三重結合とを任意の比率及び組み合わせで有していてもよい。
【0044】
(環状2級アミノ骨格と水酸基を連結する2価の有機基L)
環状2級アミノ骨格と水酸基とは、直接、もしくは2価の有機基Lを介して結合している。2価の有機基Lの数pが0の時は、この有機基Lは存在せず、環状2級アミノ骨格と水酸基とが直接結合していることを表わしている。
【0045】
2価の有機基Lとして、芳香族性を示す有機基、アルキレン基等があげられる。また、これらの基が互いに連結して全体として2価の有機基Lを構成してもよい。さらに、これら2価の有機基Lの構成要素として、イミノ基(−NH−)、ホスフィンジイル基(−PH−)、オキシ基(−O−)、チオ基(−S−)のうち何れか一種以上の基を含有していてもよい。なかでも、原料入手の容易さの観点からイミノ基及びオキシ基が好ましく、溶解性の観点からオキシ基が特に好ましい。これら構成要素の数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0046】
2価の有機基Lの分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常14g/モル以上であり、また、通常200g/モル以下、好ましくは150g/モル以下、より好ましくは100g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、環状2級アミノ骨格の極性が低下し、本発明のアミノ化フラーレンの十分な溶解性が発現しない可能性がある。
なお、2価の有機基Lは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0047】
また、2価の有機基Lは、本発明の効果を著しく損なわない限り、飽和結合だけではなく、不飽和結合を有していてもよい。不飽和結合は、二重結合でもよく、三重結合でもよい。また、二重結合と三重結合とを任意の比率及び組み合わせで有していてもよい。
【0048】
2価の有機基Lとしては、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意であるが、中でも、アルキレン基とフェニレン基が好ましく、特にアルキレン基が好ましい。アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基等が挙げられる。中でも、2価の有機基Lとしては、メチレン基が好ましい。
【0049】
また、2価の有機基Lは、本発明の効果を著しく損なわない限り、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシチオ基等が挙げられる。なかでも、溶解性の観点からアリール基が好ましい。
置換基は、1種を単独で置換してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換してもよい。
【0050】
置換基の分子量としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常15g/モル以上、好ましくは29g/モル以上、より好ましくは57g/モル以上であり、また、通常200g/モル以下、好ましくは100g/モル以下、より好ましくは71g/モル以下である。分子量が小さすぎる場合、その効果が十分ではない可能性がある。分子量が多すぎる場合、単位重量あたりのフラーレンの割合が相対的に低下する結果、フラーレンの特性が十分発現しない可能性がある。
【0051】
さらに、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していてもよい。
【0052】
また、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、飽和結合だけではなく、不飽和結合を有していてもよい。不飽和結合は、二重結合でもよく、三重結合でもよい。また、二重結合と三重結合とを任意の比率及び組み合わせで有していてもよい。
【0053】
(2価の有機基Lがアルキレン基の場合)
2価の有機基Lがアルキレン基の場合、上記式(20)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基は、下記式(1)で表わされる基となる。
【化8】

(式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表わし、XはNHまたはCHを表わす。)
【0054】
上記式(1)中、mは炭素鎖が有する炭素数を表わす。mが0の時は、この炭素鎖は存在せず、環状2級アミノ骨格と水酸基とが直接結合していることを表わしている。
mは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0以上、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、また、通常4以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。中でも、mは2であることが好ましい。mの値が小さすぎるとアルコールに対する溶解性が不十分となる可能性がある。また、大きすぎる場合、環状2級アミノ骨格の極性が低下し、本発明のアミノ化フラーレンの十分な溶解性が発現しない可能性がある。
【0055】
環状2級アミノ骨格と水酸基とを結合している炭素数mの炭素鎖は、他に置換基を有していてもよい。この場合、この炭素数mの炭素鎖と置換基とが全体で2価の有機基Lを形成することになる。
置換基の種類は、上述の2価の有機基Lにおける置換基と同様のものを挙げることがでる。置換基は、1種を単独で置換してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換してもよい。さらに、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していてもよい。
【0056】
(2価の有機基Lが芳香族性を有する基の場合)
2価の有機基Lが芳香族性を有する基の場合、上記式(20)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基は、下記式(21)で表わされる基となる。
【化9】

(式(21)中、Arは芳香族性を有する基を表わし、nは0以上4以下の整数を表わし、XはNHまたはCHを表わす。)
【0057】
上記式(21)中、Arは芳香族性を有する基を表わす。芳香族性を有する基Arは、芳香族性を有する2価の有機基であれば任意であるが、具体例としてフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、ビフェニレン基、トリレン基及びメトキシフェニレン基等のアリーレン基;−CS−、−CN−、−CO−等のヘテロアリーレン基、並びにこれらの基に更に置換基が結合した基などが挙げられる。このうちアリーレン基が好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
なお、芳香族性を有する基Arは、1種の基から単独で構成されていてもよく、2種以上の基から任意の比率及び組み合わせで構成されていてもよい。
【0058】
なお、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、Arは置換基を有していてもよく、またその置換基は任意のものを有することができる。具体例を挙げると、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、アルコキシフェニル基、有機ケイ素基などが挙げられる。
置換基は、1種の基が単独で置換してもよく、2種以上の基が任意の比率及び組み合わせで置換してもよい。
さらに、置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していてもよい。
【0059】
(環状2級アミノ骨格と、水酸基もしくは2価の有機基Lの結合位置)
水酸基もしくは2価の有機基Lの、環状2級アミノ骨格上の結合位置は、フラーレンに結合する2級アミノ基を1つ残している構造になるのであれば任意である。環状2級アミノ基上のCH部分に結合していてもよく、X上に結合していてもよい。環状2級アミノ基上の結合位置では、水素原子が、水酸基もしくは2価の有機基Lで置換された構造となる。
【0060】
(環状2級アミノ基の具体的な構造)
本発明のアミノ化フラーレンにおいて、環状2級アミノ基の構造の具体例としては、下記の構造を有するものが挙げられる。
【0061】
【化10】

(なお、上記構造式中、環状2級アミノ骨格を構成する炭素原子の表記(C)は、省略した。)
【0062】
(フラーレンと環状2級アミノ基との結合の好ましい態様)
本発明のアミノ化フラーレンにおいては、上記の環状2級アミノ基が有する窒素原子とフラーレンとが直接結合する。1つのフラーレンに結合する環状2級アミノ基の数は、通常6以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上、また、通常12以下、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。環状2級アミノ基の数が少なすぎる場合、アミノ化フラーレンのアルコールへの溶解性が低くなる可能性がある。また、多すぎる場合、フラーレンの共役が狭くなり、フラーレンの有益な性質が損なわれる可能性がある。
【0063】
また、本発明のアミノ化フラーレンにおいては、上記の環状2級アミノ基以外に、他の原子及び/又は官能基がフラーレンに結合していてもよい。環状2級アミノ基がフラーレンに奇数個結合する場合、通常は、他の原子及び/又は官能基もフラーレンに結合し、結合量の総和が偶数個となる。一方、エステル置換環状2級アミノ基がフラーレンに偶数個結合する場合であっても、他の原子及び/又は官能基がフラーレンに結合してもよい。なお、他の原子及び/又は官能基としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、水素原子、ヒドロキシル基、2価の酸素原子等が挙げられる。他の原子及び/又は官能基は、1種が単数又は複数でフラーレンに結合してもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせでフラーレンに結合してもよい。
【0064】
なお、本発明のアミノ化フラーレンにおいては、1種の環状2級アミノ基がフラーレンに結合してもよく、2種以上の環状2級アミノ基が任意の比率及び組み合わせでフラーレンに結合してもよい。
【0065】
フラーレンと環状2級アミノ基との結合の好ましい態様としては、フラーレンC60に上記の環状2級アミノ基が7つ結合し、さらに、水酸基と2価の酸素原子が1つずつ結合したヘプタアミノC60−エポキシドヒドロキシド、フラーレンC60上に環状2級アミノ基が8個結合し、さらに2価の酸素原子が2つ結合したオクタアミノC60−ジエポキシド、又はフラーレンC60に上記の環状2級アミノ基が9個結合し、水酸基と2価の酸素原子が1ずつ結合したノナアミノC60−エポキシドヒドロキシドが挙げられる。
【0066】
本発明のアミノ化フラーレンは、フラーレンに対する水酸基含有環状2級アミノ基の結合位置に制限はないが、下記式(2)〜式(4)の部分構造を形成するような位置への結合の選択性が高いと推測される。このため、フラーレンの全体に一様に水酸基含有環状2級アミノ基が結合するのに比べて、フラーレン独特の電子配置による特徴を極力維持しながら、アルコールへの溶解性の向上ができるため好ましい。
【0067】
下記式(2)は3つの水酸基含有環状2級アミノ基がフラーレンに結合した場合のアミノ化フラーレン(3付加体のアミノ化フラーレン)の部分構造である。
【化11】

(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【0068】
下記式(3)は4つの水酸基含有環状2級アミノ基がフラーレンに結合した場合のアミノ化フラーレンの部分構造(4付加体のアミノ化フラーレン)である。
【化12】

(式(3)中、Rは、それぞれ独立に、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【0069】
下記式(4)は5つの水酸基含有環状2級アミノ基がフラーレンに結合した場合のアミノ化フラーレンの部分構造(5付加体のアミノ化フラーレン)である。
【化13】

(式(4)中、Rは、それぞれ独立に、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【0070】
また、6つ以上の水酸基含有環状2級アミノ基を有するアミノ化フラーレンは、上記の式(2)〜式(4)の部分構造を複数有する構造と推測される。
例えば、6付加体のアミノ化フラーレンは、上記の3付加体の部分構造を2カ所に有する構造と推測される。
7付加体のアミノ化フラーレンは、上記の3付加体と4付加体の部分構造を1カ所ずつ有する構造と推測される。
8付加体のアミノ化フラーレンは、上記の4付加体の部分構造を2カ所に有する構造、若しくは上記の3付加体と5付加体の部分構造を1カ所ずつ有する構造と推測される。
9付加体はアミノ化フラーレンは、上記の5付加体と4付加体の部分構造を1カ所ずつ有する構造、若しくは上記の3付加体の部分構造を3カ所に有する構造と推測される。
10付加体は、上記の3付加体の部分構造を2カ所と4付加体の部分構造を1カ所とを有する構造、若しくは上記の5付加体の部分構造を2カ所に有する構造と推測される。
【0071】
[2.アミノ化フラーレンの製造方法]
本発明のアミノ化フラーレンは、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の方法を用いて製造することが出来る。
その一例としては、フラーレンと、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を含む環状アミンとを、溶媒中で反応させる工程(以下、「反応工程」ということがある。)と、該溶媒よりもアミノ化フラーレンの溶解度が低い貧溶媒を混合して、アミノ化フラーレンを析出させる工程(以下、「精製工程」ということがある。)とを有するアミノ化フラーレンの製造方法(以下、「本発明のアミノ化フラーレンの製造方法」ということがある。)が挙げられる。
以下、本発明のアミノ化フラーレンの製造方法につき、具体例を用いて詳細に説明するが、上記の工程を満たしていればこれに限定されるものではない。
【0072】
<2−1.反応工程>
本発明に係る反応工程は、フラーレンと、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を含む環状アミンとを、溶媒中で反応させる工程である。
反応工程の一例としては、特開2002−88075号公報、又は特開2006−199674号公報に記載の方法と類似した方法で、可視光又はヒドロペルオキシド存在下、フラーレンとアミノ化フラーレンの原料となる環状2級アミノ基を有するアミン(以下、適宜「環状2級アミン」ということがある。)とを反応させることにより、アミノ化フラーレンを製造することが出来る。
具体的には、例えば、過酸化水素等の無機ヒドロペルオキシド又はクメンヒドロペルオキシド等の有機ヒドロペルオキシドの存在下でフラーレンと環状2級アミンとを反応させたり、酸素分子の存在下でヒドロペルオキシドを生成させた後、フラーレンと環状2級アミンとを反応させたりすることが挙げられる。中でも、工業的な製造方法という観点から、有機ヒドロペルオキシドの存在下でフラーレンと環状2級アミンとを反応させることが好ましい。
【0073】
以下、有機ヒドロペルオキシドの存在下でフラーレンと環状2級アミンとを反応させ、本発明のアミノ化フラーレンを製造する方法(以下、適宜「本発明に係る反応工程の一様態」ということがある。)を説明する。ただし、以下に記載する内容は本発明のアミノ化フラーレンの製造方法の一例であり、本発明のアミノ化フラーレンの製造方法としては、以下に記載する内容に限定されるものではない。
【0074】
本発明に係る反応工程の一様態においては、副反応を抑える観点から、フラーレンを溶媒に溶解し、さらに上記の環状2級アミンを混合した後、有機ヒドロペルオキシドを混合することにより、本発明のアミノ化フラーレンを製造する。
【0075】
(フラーレン)
フラーレンとしては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意のものを用いることができる。中でも、上記の[1.アミノ化フラーレン]で説明したフラーレンを用いることが好ましい。なお、フラーレンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0076】
(環状2級アミン)
環状2級アミンは、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意であり、上記の式(20)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基をフラーレンに結合させることが出来るものを任意に用いることが出来る。その具体例としては、上記の式(20)で表わされる環状2級アミノ基の結合手に水素原子が結合した構造のもの(下記式(5)参照。なお、式(5)において、X、L、n、及びpはそれぞれ式(20)と同様のものを表わす。)が挙げられる。
環状2級アミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0077】
【化14】

【0078】
環状2級アミンは、市販されているものを用いてもよいが、窒素原子を2個有する環状アミン(即ち、NH基を環上に2個有する環状アミン)の窒素原子をアルキル化する方法、あるいは、対応する芳香族アミンを水素化して脂肪族のアミンとする方法、などによって製造される。
【0079】
(有機ヒドロペルオキシド)
有機ヒドロペルオキシドとしては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意のものを用いることが出来るが、下記式(6)の構造を有する、過酸化水素に含まれる水素原子1原子を有機基R’で置換した化合物を用いることが好ましい。
なお、有機ヒドロペルオキシドは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。また、例えば、後述するクメンヒドロペルオキシドとクメンとのように、有機ヒドロペルオキシドと有機ヒドロペルオキシドの製造原料(以下、適宜「有機ヒドロペルオキシド前駆体」ということがある。)とを組み合わせて用いてもよい。
【0080】
【化15】

(式(6)中、R’は任意の有機基を表わす。)
【0081】
式(6)中、R’は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意の有機基を表わす。中でも、R’は、炭化水素基であることが好ましく、第3級炭素原子を有する炭化水素基であることがより好ましい。
R’が有する炭素数は、通常1以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、また、通常15以下、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。R’が有する炭素数が多すぎる場合、単位重量あたりのヒドロペルオキシド部分が少なくなり、有機ヒドロペルオキシドの使用量が多くなるとともに多量の副生物が発生する可能性がある。
【0082】
R’の分子量としては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常50g/モル以上、好ましくは80g/モル以上、より好ましくは100g/モル以上であり、また、その上限は、通常500g/モル以下、好ましくは400g/モル以下、より好ましくは300g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、単位重量あたりのヒドロペルオキシド部分が少なくなり、有機ヒドロペルオキシドの使用量が多くなるとともに多量の副生物が発生する可能性がある。
【0083】
さらに、R’は、本発明の効果を著しく損なわない限り、環を有していてもよい。
【0084】
R’の具体例としては、フェニル基、sec−ブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、t−へキシル基、ベンジル基、メチルベンジル基、クミル基等が挙げられる。中でも、安定性と取り扱いの容易さの観点から、t−ブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、t−へキシル基、クミル基が好ましく、さらに工業的な入手の容易さの観点から、t−ブチル基、クミル基がより好ましい。
【0085】
また、R’は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基等が挙げられる。置換基は、1種のみが置換してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで置換してもよい。
【0086】
置換基の分子量としては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常15g/モル以上、好ましくは50g/モル以上であり、また、その上限は、通常200g/モル以下、好ましくは150g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、単位重量あたりのヒドロペルオキシド部分が少なくなり、有機ヒドロペルオキシドの使用量が多くなるとともに、多量の副生物が発生する可能性がある。
【0087】
さらに、置換基は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、環を有していてもよい。
【0088】
また、これらの置換基が更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。置換しうる置換基としては、上記のR’に置換しうる置換基が挙げられる。
【0089】
有機ヒドロペルオキシドは、例えば、R’が第3級炭素原子を有する炭化水素基の場合、通常、公知の任意の製造方法により、以下の式(7)の構造を有する化合物と酸素原子とから製造することができる。
【0090】
【化16】

【0091】
例えば、R’がクミル基であるクメンヒドロペルオキシドは、通常、公知の任意の製造方法により、クメンと酸素原子とから製造することが出来る。なお、製造したクメンヒドロペルオキシド中には、後述するフラーレンのアミノ化反応を著しく妨げない限り、通常5重量%、好ましくは7重量%以上、より好ましくは10重量%以上、また、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下の未反応のクメンを含んでいてもよい。未反応のクメンの量が少なすぎる場合、クメンヒドロペルオキシドとクメンとの混合物が不安定になり、取り扱い時に爆発する等の可能性があり、多すぎる場合、反応後の廃棄物が多くなる可能性がある。
【0092】
(その他の成分)
本発明に係る反応工程の一様態において、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、上記のフラーレン、環状2級アミン及び有機ヒドロペルオキシド以外の成分(以下、適宜「その他の成分」ということがある。)が反応系に含まれていてもよい。含んでいてもよい成分としては、例えば、アルカン、トリエチルアミン等の3級アミン、ピリジン、t−ブタノール等の3級アルコール、又はそれらの誘導体等が挙げられる。その他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0093】
(溶媒)
フラーレン、環状2級アミン、有機ヒドロペルオキシド及び必要に応じて用いられるその他の成分は、通常は溶媒に溶解して反応させる。溶媒の種類と使用量は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意である。ただし、通常は、フラーレン、環状2級アミン及び有機ヒドロペルオキシドが溶解する溶媒を用いる。なお、溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0094】
溶媒の種類としては、フラーレンに対する高い溶解性の観点から、芳香族炭化水素溶媒、芳香族ハロゲン化炭化水素溶媒等の芳香族性を有する溶媒(以下、適宜「芳香族溶媒」ということがある。)が好ましい。
【0095】
芳香族炭化水素溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン又はそれらの誘導体等が挙げられる。
【0096】
芳香族ハロゲン化炭化水素溶媒の具体例としては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン又はそれらの誘導体等が挙げられる。
【0097】
溶媒として芳香族溶媒を用いる場合、反応速度の大幅な速度の向上の観点から、芳香族溶媒に極性溶媒を混合した混合溶媒として用いることが好ましい。
【0098】
ここで、本発明の製造方法(反応工程及び精製工程)における極性溶媒とは、極性の大きい溶媒のことである。具体的には、溶媒の極性を表わす比誘電率εの値が、通常25以上、好ましくは30以上、より好ましくは35以上、また、その上限は、通常200以下の溶媒である。比誘電率εの値は、例えば、Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry 2nd Ed. 1990、VCH p.59に記載されており、化合物に固有の値である。
【0099】
誘電率は、電束密度Dとそれによって与えられる電場Eとの比(D/E)であり、物質内で電荷とそれによって与えられる力との関係を示す係数である。各物質は固有の誘電率を有し、この値は、外部から電場を与えた時に物質中の原子又は分子がどのように応答するか(即ち、誘電分極の仕方)によって決定される。そして、εを真空の誘電率(8.854×10−12F/m)とすると、ε/εを比誘電率と言い、εで表わす。各種極性有機溶媒の比誘電率εは、以下の通りである(Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry 2nd Ed. 1990、VCH,p.408−p.410の「TableA−1」より抜粋。)。
【0100】
【表1】

【0101】
混合する極性溶媒の具体例としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N’−ジメチルプロピレンウレア等のウレア類;ヘキサメチルホスホラミド等のリン酸アミド類;ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の亜リン酸アミド類等が挙げられる。中でも、極性溶媒の混合による効果の大きさの観点から、スルホキシド類、アミド類が好ましく、工業的な入手の容易さの観点から、中でも、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドがより好ましい。
【0102】
混合する極性溶媒の量としては、極性溶媒の種類によって異なるため一概には言えないが、通常、芳香族溶媒に対して、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、特に好ましくは10体積%以上、また、その上限は、好ましくは99体積%以下、より好ましくは50体積%以下、特に好ましくは40体積%以下であることが望ましい。極性溶媒の量が少なすぎる場合、極性溶媒の混合の効果が十分に得られない可能性があり、多すぎる場合、混合溶媒中の芳香族溶媒の濃度が低くなり、フラーレン、反応中間体等の溶媒への溶解性が低下する可能性がある。
【0103】
また、極性溶媒は、上記の濃度で芳香族溶媒と混合した時に、芳香族溶媒と極性溶媒とが均一に混合するものを用いることが好ましい。
【0104】
(各成分の使用量)
フラーレン、環状2級アミン及び有機ヒドロペルオキシドの使用量としては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、それぞれ任意である。また、溶媒の使用量、その他の成分の使用量も、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意である。
【0105】
中でも、フラーレンの使用量は、溶媒の種類によって異なるため一概には言えないが、溶媒1mLに対して、通常4mg以上、好ましくは5mg以上、より好ましくは6mg以上、また、通常20mg以下、好ましくは18mg以下、より好ましくは16mg以下が望ましい。フラーレンの使用量が少なすぎる場合、多量の溶媒を使うため生産性が低下する可能性がある。多すぎる場合、副反応が顕著になる可能性がある。
【0106】
環状2級アミンの使用量は、フラーレン1モルに対して、通常6倍モル以上、好ましくは10倍モル以上、より好ましくは15倍モル以上、また、通常100倍モル以下、好ましくは50倍モル以下、より好ましくは30倍モル以下である。環状2級アミンの使用量が少なすぎる場合、反応速度が遅くなる可能性がある。多すぎる場合、コスト高となる可能性がある。
【0107】
さらに、有機ヒドロペルオキシドの使用量は、フラーレン1モルに対して、通常3.5倍モル以上、好ましくは5倍モル以上、より好ましくは8倍モル以上、また、通常20倍モル以下、好ましくは16倍モル以下、より好ましくは12倍モル以下である。有機ヒドロペルオキシドの使用量が少なすぎる場合、反応が遅くなる可能性がある。多すぎる場合、副反応が顕著になる可能性がある。
【0108】
さらに、その他の成分の使用量としては、その他の成分の種類によって異なるため一概には言えないが、溶媒1mLに対して、通常1mg以上、好ましくは3mg以上、より好ましくは5mg以上、また、通常100mg以下、好ましくは50mg以下、より好ましくは10mg以下が望ましい。その他の成分の使用量が少なすぎる場合、その他の成分の効果が十分に発揮されない可能性がある。多すぎる場合、副反応が顕著となる可能性がある。
【0109】
(反応条件)
有機ヒドロペルオキシドを用いる製造方法においては、通常、光を照射しなくても反応が進行するため、反応系に積極的に光を照射しなくてもよい。従って、本発明のアミノ化フラーレンの製造方法においては、光の照射の有無は特に限定されない。具体的には、ガラス等の光透過性材料で作られた反応容器を用いて反応を行っても、金属等の光を透過しにくい材料で作られた反応容器を用いて反応を行ってもよい。
【0110】
反応温度としては、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常、0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、また、通常50℃以下、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下である。反応温度が低すぎる場合、反応が遅くなる可能性がある。高すぎる場合、副反応が顕著になる可能性がある。
【0111】
また、反応時間は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上、また、通常20日以下、好ましくは15日以下、より好ましくは12日以下である。反応時間が短いと、十分に付加反応が進行しない可能性がある。反応時間が長すぎる場合、工業的な生産効率が低下する可能性がある。
【0112】
また、反応雰囲気は、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り任意であるが、通常、不活性ガス下で行う。不活性ガスの具体例としては、窒素、アルゴン等が挙げられる。不活性ガスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0113】
また、フラーレン、環状2級アミン、有機ヒドロペルオキシド及び必要に応じて用いられるその他の成分の混合の順序も、本発明のアミノ化フラーレンが得られる限り、任意である。中でも、副反応を抑える観点から、フラーレンを溶媒に溶解し、さらに上記の環状2級アミンを混合した後、有機ヒドロペルオキシドを混合することにより、本発明のアミノ化フラーレンを製造することが好ましい。この際、有機ヒドロキシペルオキシドが化学的に不安定な化合物である場合、有機ヒドロキシペルオキシドが分解しないように反応系内に供給することが好ましい。
【0114】
製造された本発明のアミノ化フラーレンは、公知の任意の方法でその生成を確認することが出来るが、例えば、オクタデシルシリカゲル(ODS)カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に反応液を供することにより確認できる。また、例えば、H−NMRによっても、本発明のアミノ化フラーレンの存在を確認することが出来る。また、たとえば質量分析によってもその存在を確認することができる。
【0115】
<2−2.精製工程>
本発明に係る精製工程は、反応工程で用いた溶媒よりもアミノ化フラーレンの溶解度が低い貧溶媒を混合して、アミノ化フラーレンを析出させる工程である。
以下、その一例として、前述の本発明に係る反応工程の一様態で得られたアミノ化フラーレンを析出して単離する方法の一例を説明する。なお、本発明に係る精製工程は、以下の例に限定されるものではなく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意の方法を用いてもよい。
【0116】
(アミノ化フラーレンの単離)
本発明のアミノ化フラーレンは、公知の任意の方法を用いて、反応後の反応液から単離することが出来る。中でも、本発明のアミノ化フラーレンの製造方法においては、多量の有機過酸化物を用いる場合があることから、濃縮工程を含まない単離方法を選択することが安全性の観点からより好ましい。
具体的には以下に記載する方法(以下、「本発明に係る精製工程の一様態」ということがある。)で精製することが好ましい。ただし、以下に記載する方法は、単離・精製する方法の一例であり、本発明に係る精製工程の手段は以下の内容に限定されるものではない。
【0117】
反応工程における反応液に対して、アミノ化フラーレンの貧溶媒となる溶媒を混合して、アミノ化フラーレンを沈殿させる。その後、ろ過により沈殿物を濾別し、さらに貧溶媒で洗浄することにより粉体としてアミノ化フラーレンを取得する。粉体に含まれる貧溶媒は、減圧乾燥を行うことにより除去することができる。
【0118】
ここで用いる貧溶媒とは、反応工程で用いた溶媒よりもアミノ化フラーレンの溶解度が低い溶媒のことである。より具体的には、貧溶媒単独下、および貧溶媒と反応溶媒との混合溶媒系において、生成物であるアミノ化フラーレンを溶解性が低く、かつ、反応で用いた過剰の有機過酸化物とその反応後の副生物(たとえばクメンヒドロペルオキシドが反応して副生するクミルアルコール、t−ブチルヒドロペルオキシドが反応して副生するt−ブチルアルコールなど)、並びに反応で用いたアミンを溶解除去できる溶媒である。
【0119】
好ましい貧溶媒は、反応工程で用いる有機過酸化物や環状2級アミンの種類、反応溶媒の種類と量により異なるが、ヘキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、プロピオニトリル等が好ましく、中でもアセトニトリルが好ましい。また、2種類以上の溶媒を混合して貧溶媒として用いてもよいし、2種類以上の溶媒を2段階以上にわけて使用してもかまわない。
【0120】
貧溶媒の使用量は、反応工程で用いる有機過酸化物や環状2級アミンの種類、反応溶媒の種類と量や生成したアミノ化フラーレンの物性などにより異なるが、通常体積比で、反応溶媒量の1/2以上、好ましくは当量以上、さらに好ましくは2倍以上であり、また、通常100倍以下、好ましくは50倍以下、より好ましくは20倍以下である。
貧溶媒の量が多すぎると生産効率が低下する可能性がある。少なすぎると溶液側に目的物が溶解してしまう可能性がある。
【0121】
ろ過で得られた粉体の貧溶媒による洗浄の回数は任意であるが、通常、1回以上3回以下である。
【0122】
以上の手順によりアミノ化フラーレンを単離・精製した場合、収率は、使用したエステル置換環状2級アミンの種類にもよるが、通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、また、通常99%以下、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。収率が低すぎる場合、コスト高となる可能性がある。
【0123】
[3.本発明のアミノ化フラーレンの好適な利用分野]
本発明のアミノ化フラーレンは、アルコールおよび中性の水に高い溶解性を示す。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価のアルコール;乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。中でも低級アルコールが好ましく、その中でもメタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0124】
溶解性の具体的な数値範囲としては、親水性有機溶媒として好適に用いられるメタノールに対し、本発明のアミノ化フラーレンは、通常1重量%以上、好ましく1.2重量%以上、より好ましくは2重量%以上の濃度で均一に溶解する。また、水に対しては通常0.1%以上、好ましくは1%以上均一に溶解する。また、シクロヘキサノンなどの極性溶媒とアルコール溶媒との混合溶媒にも通常1重量%以上、好ましく1.2重量%以上、より好ましくは2重量%以上の濃度で均一に溶解する。
【0125】
そのため、アルコールや、アルコールと極性溶媒との混合溶媒に本発明のアミノ化フラーレンを溶解させた溶液を、スピンコート等により基板上に塗布して薄膜として用いる電子伝導材料用途に好適に用いられるほか、水溶性アミノ化フラーレンであることから化粧品、医薬品、生体材料等の生理活性物質として、またエチレングリコールなどの溶媒にも溶解することから樹脂添加剤等の用途にも好適に用いることが出来る。
【0126】
本発明のアミノ化フラーレンは、前述した用途に用いることができる。以下に、いくつかの用途の例に関してより具体的に説明するが、本発明のアミノ化フラーレンの機能が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
【0127】
[フォトレジスト用途]
従来、フォトレジストは、被膜形成成分として(メタ)アクリル系、ポリヒドロキシスチレン系またはノボラック系の樹脂等の樹脂成分と、露光により酸を発生する酸発生剤、感光剤等とを組み合わせた組成物が広く用いられている。本発明のアミノ化フラーレンは、通常、フォトレジストに使用される溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度でフォトレジストに複合化が可能である。また、アミノ化フラーレン単独でもレジスト膜を形成することが可能である。
このように本発明のアミノ化フラーレンをフォトレジストの分野に用いた場合、フラーレン骨格を有する事により、超芳香族分子としての高耐熱性、高エッチング耐性を有し、エッジラフネスの低減が可能であり、高解像度のフォトレジストの再現ができる。また、本発明のアミノ化フラーレンを用いて形成した膜は、反射防止膜としての機能も有することより、多層膜の一層として、特に反射防止膜や塗布型のマスク材(ハードマスク)としても優れた機能を発揮することが期待される。さらに、この膜を加熱すること等によって得られるフラーレン膜もしくはフラーレン含有膜も、反射防止膜としての機能も有することより、多層膜の一層として、特に反射防止膜や塗布型のマスク材(ハードマスク)としても優れた機能を発揮することが期待される。
【0128】
[半導体製造用途]
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率良く形成する方法としてナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
このようなナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程と、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程と、モールドを転写層から離脱させる工程とを順次行なう方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程と、硬化性単量体を硬化させる工程と、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程とを順次行なう方法;などが知られている。本発明のアミノ化フラーレンは、通常、上記の熱可塑性重合体、硬化性物質等に使用される溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、上記熱可塑性重合体に高濃度で充填することが可能である。
このように本発明のアミノ化フラーレンをナノインプリント法に用いた場合、溶媒に対する本発明のアミノ化フラーレンの溶解性が高いことから、本発明のアミノ化フラーレンの熱可塑性重合体中での凝集が抑制され、分子状分散となる。このため、高解像度を実現することが可能である。さらに、この材料を加熱すること等によって得られるフラーレン分散材料も同様に用いることができ、高解像度を実現することが可能である。さらに、本発明のアミノ化フラーレン又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることが可能であることから、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
【0129】
[低誘電率絶縁材料用途]
近年、コンピュータの中央処理装置(CPU)用回路基盤には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。将来のより高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、かつ信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。本発明のアミノ化フラーレンは、通常、上記用途に使用される溶媒への溶解度が高いことより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度で他の材料と複合化することが可能である。また、アミノ化フラーレン単独で成膜することも可能である。この際、本発明のアミノ化フラーレンは、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質を保持しており、複合化して用いる際にはフィラーとしての機械的強度の向上効果を有することができ、これにより、従来無かった優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。さらに、この複合材料もしくはアミノ化フラーレンの膜を加熱すること等によって得られるフラーレン含有材料もしくはフラーレン膜も同様に用いることができ、従来無かった優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。
【0130】
[太陽電池用途]
有機太陽電池は、シリコン系の無機太陽電池と比較して、優位な点が多数あるものの、エネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していない。この点を克服するためのものとして、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン並びにフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体それぞれが分子レベルで混じり合い、その結果非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
本発明のアミノ化フラーレンは、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いため、p型半導体と効率的なバルクへテロ接合構造を構成することが容易である。また、本発明のアミノ化フラーレンは、本質的にn型半導体としてのフラーレンの性質を有している。従って、本発明のアミノ化フラーレンを用いることで、極めて高性能な有機太陽電池の実現が可能となる。また、バルクへテロ構造を形成した後に加熱等によりアミノ化フラーレンをフラーレンへと変換して用いてもよい。さらにこの高溶解性を利用し、導電性高分子等の電子供与体層との層分離制御や誘導体分子の整列配向性・細密充填性などのモルフォロジー制御を可能にし、これにより特性の向上が実現できる上、デバイス設計において高い柔軟性を与える。また、製造上も通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能である。
【0131】
[半導体用途]
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的に、フラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。
本発明のアミノ化フラーレンは、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いことにより、塗布による成膜が容易であり、また、n型半導体としてのフラーレンの本質的な性質は保持している。これにより、本発明のアミノ化フラーレンは、低コスト、高性能な有機半導体として利用されることが期待できる。また、塗布した後に加熱等によりアミノ化フラーレンをフラーレンへと変換して用いてもよい。
【0132】
[原料中間体としての用途]
本発明のアミノ化フラーレンを出発原料として、環状2級アミノ基上の水酸基に特定の有機基(保護基)を導入する工程を経て、新たな機能を有するフラーレン誘導体を製造することができる。以下、その有機基の導入方法に関して代表例を記すが、以下の例に限定されるものではない。
具体的な有機基の導入方法は、導入する有機基の種類に応じて様々である。その例を挙げると、以下のようなものが挙げられる。
(1)本発明のアミノ化フラーレンをエステル化剤と反応させて、エステル化する。
(2)本発明のアミノ化フラーレンをカーボネート化剤と反応させて、カーボネート化する。
(3)本発明のアミノ化フラーレンをエーテル化剤と反応させて、エーテル化する。
(4)本発明のアミノ化フラーレンをウレタン化剤と反応させて、ウレタン化する
さらに、上記(1)〜(4)の方法のほかにも、本発明のアミノ化フラーレンに有機基を導入する条件は、例えば特開2006−56878号公報等に記載の方法を参照することができる。
【実施例】
【0133】
以下、実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。なお、以下の実施例で合成されたアミノ化フラーレンのMS分析(Mass Spectrometry;質量分析法による分析)は、いずれもWaters社製 LCT Premier XEを用い、イオン化法はESI(−)(Cone電圧:−100V)で測定した。
【0134】
[実施例1]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(15mL)に溶解し、1時間攪拌した。4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(2.89g、22.2ミリモル)を5mLのジメチルスルホキシドとともに混合した後、純度83%のクメンヒドロペルオキシド(2.29g、12.5ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合した。
室温で8時間攪拌したのち14時間静置したところ、タール状の沈殿が生じた。
ジメチルスルホキシド5mLを添加して沈殿を溶解したのち、さらに25時間攪拌を行った。
【0135】
アセトニトリル80mLを添加し0.5時間攪拌したのち、析出した固体を桐山ロートを用いて濾別した。得られた固体を80mLのアセトニトリルで洗浄したのち、減圧下、室温で2時間攪拌し、2.59gの褐色固体を得た。
【0136】
この生成物をMS分析した結果を図1に示す。下記式(8)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基(図1中では、Rと示す。)の付加数は8付加体、9付加体が主成分であり、他に7付加体、10付加体も含まれていることがわかる。
【0137】
【化17】

【0138】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、表2に記載の通り900mgの各種溶媒を添加し、目視で溶解性を確認した。さらに3週間後にその均一性を目視で確認した。表2に結果を示す。
【0139】
【表2】

【0140】
[実施例2]
静置の時間を14時間から10日間とした以外は実施例1と同様にして、褐色固体2.66gを得た。
【0141】
この生成物をMS分析した結果を図2に示す。下記式(9)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基(図2中では、Rと示す。)の付加数は8付加体、9付加体が主成分であり、他に10付加体も含まれていることがわかる。
【0142】
【化18】

【0143】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、表3に記載の通り900mgの各種溶媒を添加し、目視で溶解性を確認した。さらに3週間後にその均一性を目視で確認した。表3に結果を示す。
【0144】
【表3】

【0145】
[実施例3]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(5mL)に溶解し、更に5mLのジメチルスルホキシドを加え混合した。4−(2−ヒドロキシエチル)ピペリジン(2.89g、22.2ミリモル)をパラキシレン(10ml)とともに混合した後、純度84%のクメンヒドロペルオキシド(2.26g、12.5ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合した。
室温で4時間攪拌した後に11時間静置し、再び9時間攪拌したところ、タール状の沈殿が生じた。
【0146】
アセトニトリル100mLを添加し10分攪拌したのち、析出した固体は桐山ロートを用いて濾別した。得られた固体を100mLのアセトニトリルで洗浄したのち、減圧下60℃で5時間乾燥し、2.61gの褐色固体を得た。
【0147】
この生成物をMS分析した結果を図3に示す。下記式(10)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基(図3中では、Rと示す。)の付加数は7付加体、8付加体が主成分であり、他に9付加体も含まれていることがわかる。
【0148】
【化19】

【0149】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、表4に記載の通り900mgの各種溶媒を添加し、目視で溶解性を確認した。さらに3週間後にその均一性を目視で確認した。表4に結果を示す。
【0150】
【表4】

【0151】
[実施例4]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(5mL)に溶解し、更に5mLのジメチルスルホキシドを加え混合した。4−(2−ヒドロキシメチル)ピペリジン(2.55g、22.2ミリモル)をパラキシレン(10ml)とともに混合した後、純度84%のクメンヒドロペルオキシド(2.26g、12.5ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合した。
室温で4時間攪拌した後に11時間静置し、再び9時間攪拌したところ、タール状の沈殿が生じた。
【0152】
アセトニトリル100mLを添加し10分攪拌したのち、析出した固体は桐山ロートを用いて濾別した。得られた固体を100mLのアセトニトリルで洗浄したのち、減圧下60℃で5時間乾燥し、2.56gの褐色固体を得た。
【0153】
この生成物をMS分析した結果を図4に示す。下記式(11)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基(図4中では、Rと示す。)の付加数は8付加体が主成分であることがわかる。
【0154】
【化20】

【0155】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、表5に記載の通り900mgの各種溶媒を添加し、目視で溶解性を確認した。さらに3週間後にその均一性を目視で確認した。表5に結果を示す。
【0156】
【表5】

【0157】
[実施例5]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(5mL)に溶解し、更に5mLのジメチルスルホキシドを加え混合した。4−ヒドロキシピペリジン(2.25g、22.2ミリモル)をパラキシレン(10ml)とともに混合した後、純度84%のクメンヒドロペルオキシド(2.26g、12.5ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合した。
室温で6時間攪拌した後に11時間静置し、再び5時間攪拌したところ、タール状の沈殿が生じた。
【0158】
アセトニトリル100mLを添加し10分攪拌したのち、析出した固体は桐山ロートを用いて濾別した。得られた固体を100mLのアセトニトリルで洗浄したのち、減圧下60℃で5時間乾燥し、1.81gの褐色固体を得た。
【0159】
この生成物をMS分析した結果を図5に示す。下記式(12)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基(図5中では、Rと示す。)の付加数は8付加体が主成分であり、他に10付加体も含まれていることがわかる。
【0160】
【化21】

【0161】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、表6に記載の通り900mgの各種溶媒を添加し、目視で溶解性を確認した。さらに3週間後にその均一性を目視で確認した。表6に結果を示す。
【0162】
【表6】

【0163】
[実施例6]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(15mL)に溶解し、更に5mLのジメチルスルホキシドを加え混合した。4−ピペリジルベンズヒドロール(5.94g、22.2ミリモル)を混合した後、純度83%のクメンヒドロペルオキシド(2.29g、12.5ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合し、室温で32時間攪拌した。
【0164】
次に、そこにヘキサン120mLを添加して、生成物を沈殿させたあと、パラキシレンとヘキサンの上澄みを除去した。そこへアセトニトリル100mLを添加し10分攪拌したのち、析出した固体は桐山ロートを用いて濾別した。得られた固体を100mLのアセトニトリルで洗浄したのち、減圧下60℃で5時間乾燥し、3.03gの褐色固体を得た。
【0165】
この生成物に関して、重ジメチルスルホキシドでH−NMRを測定するとともに、内部標準としてクマリンを添加して重ジメチルスルホキシドでH−NMRを再度測定した。
その結果、水酸基と2価の酸素原子が1つずつ結合したと仮定すると、下記式(13)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基の付加数は平均9.0であることがわかった。
【0166】
【化22】

【0167】
また、H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
H−NMR(DMSO−d6,400MHz)]
7.0〜8.0ppm(brs,Ph,10H),5.1〜5.7ppm(brs,OH,1H),2.5〜3.8ppm(m,N(CHCHCH,5H),1.2〜1.8ppm(m,N(CHCHCH,4H)
【0168】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、表7に記載の通り900mgの各種溶媒を添加し、目視で溶解性を確認した。さらに3週間後にその均一性を目視で確認した。表7に結果を示す。
【0169】
【表7】

【0170】
[実施例7]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(15mL)に溶解し、更に5mLのジメチルスルホキシドを加え混合した。4−(ヒドロキシフェニル)ピペラジン(3.96g、22.2ミリモル)を混合した後、純度83%のクメンヒドロペルオキシド(2.29g、12.5ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合し、室温で44時間攪拌した。
【0171】
次に、そこにアセトニトリル100mLを添加し10分攪拌したのち、析出した固体は桐山ロートを用いて濾別した。得られた固体を100mLのアセトニトリルで2回洗浄したのち、減圧下60℃で5時間乾燥し、2.40gの褐色固体を得た。
【0172】
この生成物に関して、重ジメチルスルホキシドでH−NMRを測定するとともに、内部標準としてクマリンを添加して重ジメチルスルホキシドでH−NMRを再度測定した。その結果、水酸基と2価の酸素原子が1つずつ結合したと仮定すると、下記式(14)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基の付加数は平均6.8であることがわかった。
【0173】
【化23】

【0174】
また、H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
H−NMR(DMSO−d6,400MHz)]
8.83ppm(brs,OH,1H),7.0〜6.5ppm(brs,Ph,4H),2.5〜3.8ppm(m,N(CHCHN,8H)
【0175】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、表8に記載の通り900mgの各種溶媒を添加し、目視で溶解性を確認した。さらに3週間後にその均一性を目視で確認した。表8に結果を示す。
【0176】
【表8】

【0177】
[比較例1]
窒素ガス雰囲気下、フラーレンC60(1.0g、1.39ミリモル)をパラキシレン(15mL)に溶解し、更に5mLのジメチルスルホキシドを加え混合した。エチルイソニペコテート(3.49g、22.2ミリモル)を混合した後、純度83%のクメンヒドロペルオキシド(2.29g、12.5ミリモル)を5mLのパラキシレンとともに混合し、室温で28時間攪拌した。
【0178】
次に、そこにヘキサン120mLを添加して、生成物を沈殿させたあと、パラキシレンとヘキサンの上澄みを除去した。そこへ水200mLを添加し10分攪拌したのち、析出した固体は桐山ロートを用いて濾別した。得られた固体を100mLのメタノールで3回洗浄したのち、減圧下60℃で5時間乾燥し、1.49gの褐色固体を得た。
【0179】
この生成物に関して、重ジメチルスルホキシドでH−NMRを測定するとともに、内部標準としてクマリンを添加して重ジメチルスルホキシドでH−NMRを再度測定した。その結果、水酸基と2価の酸素原子が1つずつ結合したと仮定すると、下記式(15)で表わされる環状2級アミノ基の付加数は平均8.6であることがわかった。
【0180】
【化24】

【0181】
また、H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
H−NMR(DMSO−d6,400MHz)]
4.1ppm(brs,0−CH,2H),2.7〜3.5ppm(brs,N(CHCHCH,4H),1.5〜2.5ppm(brs,N(CHCHCH,5H),1.1ppm(brs,CH,3H)
【0182】
得られたアミノ化フラーレン100mgを量りとり、表9に記載の通り900mgの各種溶媒を添加し、目視で溶解性を確認した。さらに3週間後にその均一性を目視で確認した。表9に結果を示す。
【0183】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明のアミノ化フラーレンは、アルコールに高い溶解性を示す。従って、アルコールに本発明のアミノ化フラーレンを溶解させた溶液を、スピンコート等により基板上に塗布して薄膜として用いる電子伝導材料用途等に好適に用いられるほか、化粧品、医薬品、生体材料等の生理活性物質、樹脂添加剤等の用途にも好適に用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基が、フラーレンに6個以上結合している
ことを特徴とする、アミノ化フラーレン。
【化1】

(式(20)中、
nは、0以上4以下の整数を表わし、
Xは、NHまたはCHを表わし、
Lは、環状2級アミノ基と水酸基とを連結する2価の有機基を表わし、
pは、0または1を表わす。)
【請求項2】
前記式(20)中、
Lが、イミノ基(−NH−)、ホスフィンジイル基(−PH−)、オキシ基(−O−)、及びチオ基(−S−)のうち、何れか1種以上の基を含有していてもよい、芳香族性を示す有機基及び/又はアルキレン基である
ことを特徴とする、請求項1記載のアミノ化フラーレン。
【請求項3】
前記式(20)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基が、下記式(1)で表わされる基である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のアミノ化フラーレン。
【化2】

(式(1)中、
m及びnは、それぞれ独立に0以上4以下の整数を表わし、
Xは、NHまたはCHを表わす。)
【請求項4】
前記式(20)で表わされる水酸基含有環状2級アミノ基が、下記式(21)で表わされる基である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のアミノ化フラーレン。
【化3】

(式(21)中、
Arは、芳香族性を有する基を表わし、
nは、0以上4以下の整数を表わし、
Xは、NHまたはCHを表わす。)
【請求項5】
前記のフラーレンが、C60である
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【請求項6】
前記の水酸基含有環状2級アミノ基が、フラーレンに7個以上結合している
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【請求項7】
前記式(1)中、mが2以上である
ことを特徴とする、請求項3、5、6の何れか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【請求項8】
前記式(20)中、nが2である
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【請求項9】
下記式(2)の部分構造を有する
ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【化4】

(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、前記式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【請求項10】
下記式(3)の部分構造を有する
ことを特徴とする、請求項1〜9の何れか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【化5】

(式(3)中、Rは、それぞれ独立に、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【請求項11】
下記式(4)の部分構造を有する
ことを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載のアミノ化フラーレン。
【化6】

(式(4)中、Rは、それぞれ独立に、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を表わす。)
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のアミノ化フラーレンを製造する方法であって、
フラーレンと、前記の式(20)で表わされる置換されていてもよい水酸基含有環状2級アミノ基を含む環状アミンとを、溶媒中で反応させる工程と、
該溶媒よりもアミノ化フラーレンの溶解度が低い貧溶媒を混合して、アミノ化フラーレンを析出させる工程とを含む
ことを特徴とする、アミノ化フラーレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−83864(P2010−83864A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120902(P2009−120902)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】