説明

アミノ基含有化合物を精製する方法

本発明は、極性相(A)からアミノ基含有化合物(I)を精製する方法に関し、ここで、該方法においては、(I)をアルデヒド又はケトン(II)と反応させることによって極性相(A)の中で不溶性又は難溶性である対応するイミン(III)に変換し、そのイミン(III)を次に非極性相(B)に変換して相(A)から分離し、当該アミノ基含有化合物を次にイミン(III)から回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性相の中に不純物及び副生物と一緒に存在しているアミノ基含有化合物(特に、アルキルアミン類又はアルキルジアミン類)を精製する方法に関する。特に適しているのは、発酵によって調製されて調製方法の終わりに発酵培地の成分と一緒に水相中に存在しているアミノ基含有化合物を精製する方法である。
【背景技術】
【0002】
アミノ基含有化合物は、化学工業において重要な塩基性物質である。例えば、アルキルアミン類及びアルキルジアミン類は、ポリアミド、ポリ尿素又はポリウレタンの製造において使用され、また、それらのコポリマーの製造においても使用される。
【0003】
リシンを脱カルボキシル化することによるアルキルジアミン類(例えば、ジアミノペンタン(DAP))の発酵的製造又は酵素的製造は、比較的長い間知られている。これに関連して、発酵ブロスから価値のある生成物を単離するためのさまざまな方法が記載されている。
【0004】
かくして、例えば、EP-A-1482055には、当該反応中にpHを固定するためにジカルボン酸の存在下でリシンを酵素的に脱カルボキシル化することが記載されている。当該調製の間に生成されるDAPジカルボキシレートを、価値のある物質を含んでいる溶液を最初に活性炭で脱色し、それを濃縮し、冷却結晶化によりDAPジカルボキシレートを結晶化させることによって、単離する。
【0005】
JP 2004-222569には、L-リシンデカルボキシラーゼを発現するコリネフォルム細菌を使用し、培養上清をpH12に調節し、極性有機溶媒でDAPを抽出することによる、DAPの調製について記載されている。
【0006】
JP 2004-000114には、高度に濃縮されたL-リシン一塩酸塩をL-リシンデカルボキシラーゼを発現する大腸菌(E. coli)細胞と反応させ、その反応溶液をpH13以上に調節し、その反応生成物を極性有機溶媒で抽出し、次いで、蒸留することによる、DAPの調製について記載されている。
【0007】
WO 2009/92793には、DAP含有発酵ブロスから1,5-ジアミノペンタン(DAP)を単離する方法が記載されており、ここで、該方法においては、その発酵ブロスを、(a)アルカリ化し、(b)熱処理し、(c)有機抽出溶媒を用いてDAPを抽出し、及び、(d)分離された有機相からDAPを抽出する。
【0008】
しかしながら、特に、有機溶媒を用いてDAPを抽出することに基づく、従来技術から知られている方法は、価値のある物質の収率が最適ではなく、及び、特に、抽出段階が極めてゆっくりとしか進行せず、従って、当該方法全体が多大な時間を要するという不利点を有している。これは、当該調製方法を工業規模に適用することに関して、重大な不利点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP-A-1482055
【特許文献2】JP 2004-222569
【特許文献3】JP 2004-000114
【特許文献4】WO 2009/92793
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、発酵ブロスからのアミノ基含有化合物の単離をさらに改善することである。特に、価値のある物質の収率はさらに増大されるべきであり、及び、単離(特に、溶媒に基づく抽出)に必要とされる消費時間は改善されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、この目的は、
(i)(I)を、アルデヒド又はケトン(II)との反応を通して、極性相(A)の中で不溶性又は難溶性である対応するイミン(III)に変換し、
(ii)次に、そのイミン(III)を非極性相(B)に変換して、
(iii)相(A)から分離し、
(iv)次に、当該アミノ基含有化合物をイミン(III)から回収する、極性相(A)からアミノ基含有化合物(I)を精製する方法を提供することによって達成された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい実施形態
本発明は、極性相(A)からアミノ基含有化合物(I)を精製する方法を提供し、ここで、該精製方法においては、
(i)(I)を、アルデヒド又はケトン(II)との反応を通して、極性相(A)の中で不溶性又は難溶性である対応するイミン(III)に変換し、
(ii)次に、そのイミン(III)を非極性相(B)に変換して、
(iii)相(A)から分離し、
(iv)次に、当該アミノ基含有化合物をイミン(III)から回収する。
【0013】
アミノ基含有化合物(I)を精製する方法の第1の特定の実施形態では、(I)として、1以上(好ましくは、2又は3)のアミノ官能基を有しているアルキル誘導体を使用する。特に、本発明においては、直鎖形態、分枝鎖形態又は環状形態で存在し得る1〜10個の炭素原子を有するアルキル誘導体を挙げることができる。該方法は、ジアミノアルキル(例えば、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン及びジアミノオクタン)に対して特に有利に使用される。これらの挙げられている化合物において、当該2つのアミノ基は、互いに対して任意の配置にあり得るが、好ましくは、ジアミノn-アルキルに対して1,n位にある(即ち、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタンなど)。
【0014】
そのようなジアミノアルキルは、当業者には既知の方法で調製される。1,5-ジアミノペンタンなどのジアミン類に対して有利に使用される調製方法は、発酵的調製又は酵素的調製である。
【0015】
ここで、当該調製方法の終わりには、アミノ基含有化合物(I)は、通常、水性発酵培地(この水性発酵培地の中には、アミノ基含有化合物に加えて、適切な場合には、副生物及び出発物質、さらに、栄養培地の成分や代謝産物も存在している)の中に存在している。そのような水性発酵培地は、例えば、極性相(A)と称される。極性相(A)の別の例は、水若しくは水溶液、又は、極性有機溶媒(例えば、低級アルキルアルコール又は低級カルボン酸)、又は、これら極性有機溶媒と水の混合物である。
【0016】
該アミノ基含有化合物は、水相中で、特に、(部分的な)プロトン化の結果としての低pHにおいて、一般に、容易に溶解する。
【0017】
該アミノ基含有化合物(I)は、アルデヒド又はケトン(II)との反応を通して、対応するイミン(III)に変換される。(II)は、有利には、形成された(III)がその中に(I)が存在している極性相(A)の中で不溶性であるか又は僅かしか溶解しないように選択する。
【0018】
(III)を生成させるための(I)と(II)の反応は、広い温度範囲内で実施することが可能であるが、20〜50℃の温度が好ましい。当該イミンの形成は、塩基を添加することによって改善される。それは、塩基を添加することの結果として、平衡点が(III)の方にシフトされるからである。
【0019】
アルデヒド又はケトン(II)として、アミノ基を有する化合物とジイミンを形成することが可能な脂肪族又は芳香族の任意の所望されるアルデヒド及びケトンを使用することができる。アミノ基含有化合物がその中に存在している極性相(A)の中で形成されるイミン(III)の溶解性を低減させる化合物(II)が有利である。
【0020】
好ましいアルデヒド又はケトン(II)は、ベンズアルデヒド、バレルアルデヒド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、2-オクタノン及びアセトンであり、ここで、1,5-ジアミノペンタンからイミンを形成させる場合、ベンズアルデヒドが特に好ましい。
【0021】
アルデヒド又はケトン(II)は、定量的なイミン(III)の形成を達成するために、通常は、アミノ基含有化合物(I)のアミノ基に基づいて、等モル量又は僅かに過剰量(1〜1.5当量、好ましくは、1〜1.1当量)で使用する。
【0022】
しかしながら、アルデヒド又はケトン(II)はイミン(III)に対する溶媒としても働き得るので、(II)を(I)に基づいて大過剰に使用し、次に、溶媒としての(II)の中で形成されたイミン(III)を分離することも可能である。
【0023】
本発明による方法の段階(iii)において、形成されたイミン(III)を非極性相(B)に変換する。非極性相(B)は、極性相(A)と著しい程度までは混和しない相、好ましくは、相(A)に対して相分離を形成する相を意味するものと理解される。
【0024】
上記化合物(II)に加えて、非極性相(B)は、エーテル類、中鎖及び比較的長鎖のアルコール類、炭化水素類、ケトン類、アルデヒド類、芳香族化合物などの非極性有機溶媒を含むこともできる。
【0025】
非極性相(B)は、早くも段階(ii)の開始時点で添加することができる。しかしながら、段階(ii)はさらなる溶媒なしで実施することも可能であり、そして、イミン(III)の形成が起こった後になってからのみ非極性相(B)を添加することも可能である。
【0026】
さらなる段階(iii)において、非極性相(B)(これは、イミン(III)を含んでいる)を極性相(A)から分離させる。この段階は、好ましくは、抽出として実施し、そして、連続的に又は非連続的に実施することができる。高温(即ち、30℃〜70℃)下で非連続的に抽出するのが好ましい。
【0027】
好ましい1実施形態では、上記抽出及び/又はその後の相分離は、高温下で非連続的に行い、その際、その温度は、水の沸点並びに抽出溶媒及び/又は場合により形成される共沸混合物の沸点によって制限される。抽出溶媒としてn-ブタノールを使用する場合、抽出及び相分離は、例えば、約25℃〜90℃で、又は、好ましくは、40℃〜70℃で、実施することができる。抽出に関しては、当該2つの相は、分配平衡が確立されるまで、例えば、10秒間〜2時間の期間にわたって、好ましくは、5分間〜15分間の期間にわたって、撹拌する。次に、それらの相を、相が完全に分離するまで放置する。これは、n-ブタノールの場合、特に、約25℃〜90℃又は40℃〜70℃の範囲内にある温度で、好ましくは、10秒間〜5時間の期間で、例えば、15分間〜120分間又は30分間〜90分間の期間で、起こる。
【0028】
本発明に従って使用することが可能な抽出カラムの装置に関するデザインは、いずれの場合にも、日常的な最適化作業の間に、分離すべき相に関して当業者によって確立され得る。原理的に適切であるのは、入力を有さない抽出カラム又は入力を有する抽出カラム、例えば、パルスカラム(pulsed columns)又は回転する内部構造(rotating internals)を有するカラムである。当業者は、さらに、適切な方法での相分離を最適化するために、日常的な作業の間に、内部構造のタイプ及び材料(例えば、シーブトレイ)並びに充填材を選択することもできる。小分子の液−液抽出の理論的な原理は、一般に知られている(cf. 例えば、「H.-J. Rehm and G. Reed, Eds., (1993), Biotechology, Volume 3 Bioprocessing, Chapter 21, VCH, Weinheim」)。工業的に適用可能な抽出カラムの形状については、例えば、「Lo et al., Eds., (1983) Handbook of Solvent Extraction, John Wiley& Sons, New York」に記載されている。特に、上記テキストブックの開示を参照する。
【0029】
抽出を首尾良く行うのに必要とされる相分離は、極性相(A)の中のpHを変えることによって明確に影響され得る。概して、12を超えるpH値によって、非極性相(B)中への最適な物質移動が達成される。
【0030】
必要に応じて、イミン(III)を極性相(A)から分離した後、それを、例えば、蒸留、クロマトグラフィー又は結晶化などによって、イミン段階でさらに精製又は濃縮することができる。
【0031】
最後の段階(iv)において、アミノ基含有化合物(I)をイミン(III)から回収する。該イミン形成のこの逆反応(back-reaction)は、有利には、酸を添加することによって行われ、ここで、鉱酸又は有機酸を使用することが可能である。イミン形成の該逆反応は、等モル量の酸を添加することによって特に容易に行われる。段階(iv)は、蒸気蒸留(steam distillation)を用いて実施することができる。
【0032】
特定の実施形態では、その後のプロセスにおいてアミノ基含有化合物(I)とポリアミドを形成することが可能な酸を使用する。ここで、アミノ基含有化合物(I)の本発明による精製の結果として、カルボン酸とアミノ基含有化合物(I)からなる単量体の「プレ生成物(preproduct)」が、調製されるべきポリアミドと一緒にもたらされ得る。この実施形態は、好ましくは、ポリアミドを生成させるためにジカルボン酸と反応させるべき(I)としてのジアミノアルキレンの場合である。適切なジカルボン酸の非限定的な例は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸である。
【0033】
アミノ基含有化合物 1,5-ジアミノペンタンの場合、この実施形態に好ましい酸は、セバシン酸及びアジピン酸である。
【0034】
1,5-ジアミノペンタン(DAP)の発酵的調製に関する一般的な情報
1,5-ジアミノペンタンの発酵的調製に関しては、WO 2009/92793を参照する。下記に記載されている実験は、発酵によりこのようにして得られたDAPについて言及している。
【0035】
このようにして得られた発酵ブロス、特に、L-リシン又はDAPを含んでいる発酵ブロスは、通常、3〜20重量%の乾燥質量を有している。
【0036】
その発酵ブロスを、次に、さらに処理する。必要に応じて、そのバイオマスは、分離方法(例えば、遠心分離、濾過、デカンテーション、フロキュレーション又はこれらの方法の組合せ)によって当該発酵ブロスから完全に若しくは部分的に除去し得るか、又は、その中に完全に残すことができる。バイオマスを分離除去することが好ましい。
【0037】
該発酵ブロスを、次に、既知方法を用いて、例えば、回転蒸発器を用いて、又は、薄膜蒸発器を用いて、又は、流下膜式蒸発器を用いて、又は、逆浸透によって、又は、ナノ濾過によって、濃厚化又は濃縮することができる。必要に応じて、濃縮によって析出した塩類を、例えば濾過又は遠心分離などによって、分離除去することができる。DAPを得るために、次に、濃縮された発酵ブロスを本発明に従う方法によって後処理することができる。本発明に関連する後処理については、そのような濃縮が可能であるが、必ずしも必要とは限らない。
【実施例】
【0038】
DAPを精製するためのイミンの形成
イミンの形成(図1.例としてベンズアルデヒドを使用)は、水を除去しながら進行する。当該発酵中のpHを調節する結果として、DAPはブロス中において硫酸塩として存在し、それにより、イミンの形成中にpHが低下し、反応がもとの出発物質の方にシフトされる。このことによって、反応を完結させるためには、塩基を添加することが必要となる。
【化1】

【0039】
ベンズアルデヒドを用いて、有機生成物相の自発的な堆積が観察された。概ね、該反応は化学量論的量のベンズアルデヒドを用いて成功し、結果として、最大で98.5面積%GC純度までの生成物が得られた。
【0040】
アルカリ性発酵ブロスをメチルエチルケトンで抽出している間に、イミンとジアミノペンタンと水の混合物が堆積した。この実験では、相分離は極めて良好であった。その混合物から、共沸混合物を除去しながらの水蒸気蒸留(しかし、明確な還流はない)によって、ジアミノペンタンを逆切断(back-cleave)することが可能であった。それは、蒸留残液の中に大量に残されていた。
【0041】
以下のものを使用して成功した:シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、ジイソブチルケトン、ベンズアルデヒド、バレルアルデヒド、2-オクタノン、メチルイソアミルケトン、メチルイソブチルケトン。
【0042】
ベンズアルデヒドを用いたイミンの形成
塩基の必要量を決定するための実験において、DAP含有量が6%である212gの発酵ブロスを2当量のベンズアルデヒドと混合させ、生成物の分布及びpHをNaOHの添加量の関数として測定した(図)。これのために、それぞれの量のNaOHを添加した後、サンプルを取り、相を分離させ、その水相及び有機相をGCと定量的HPLCで分析した。
【0043】
20gのNaOHを添加した後、変換が実質的に完結したことが分かった(ベンズアルデヒドは殆ど消費され、DAPは水相中に殆ど存在せず、上部相のGCでは92.5%ジイミンであった);ここで、該混合物において、pHは9.4に固定されていた。発酵ブロスの中に存在しているPMDAに基づいて、これは、DAP(100%強度)1kg当たり約0.8kg NaOHのフィード数(feed number)に相当し、従って、抽出的な後処理の場合よりも多少良好であるが、それでもなお、同程度である。
【0044】
回転式パーフォレーター(rotary perforator)内における発酵ブロスからのジイミンの連続的抽出に関する実験は、当初、その実施には、ベンズアルデヒドの沸点が高い(180℃)ことによる極めて緩慢な蒸留に起因する困難が伴っていたが、pH5.85(これは、ベンズアルデヒドを添加した後、急速に確立される)では、実質的にジイミンを抽出することはできないということが分かった。
【0045】
4Lミニプラント反応器内で、2当量のベンズアルデヒドが添加されている4kgの発酵ブロス(pH13.5、DAP含有量6.78重量%)から、所望のイミンを高純度で定量的に単離することができた(753g、98.4面積% GC)。相分離は自発的に起こったが、48時間経過してやっと完了した(この期間内でさえ、生成物の僅かに半分が水相から沈澱した)。
【表1】

【0046】
一般に、イミン形成の間、ベンズアルデヒドで乳化されている状態を経て、反応が大部分完結した後になって、ようやく、相分離が再度許容されるようになる。
【0047】
相分離の速度を改善し、増大させるために、一連の実験が溶媒を用いて行った。これのために、アルカリ性発酵ブロスをベンズアルデヒドと当該溶媒の混合物と室温で混合させ、高温下で相を分離させた(表1)。
【表2】

【0048】
シクロヘキサン及びトルエンに関しては、さらに、50℃で相分離時間を反応の進行度合い(これは、使用されるベンズアルデヒド及びNaOHの添加量によって制御される)の関数として調べる実験を実施した。相が分離した後、いずれの場合にもpHが10になるまでNaOHを計量添加することによりその水相を補充し、ベンズアルデヒドと溶媒は新たに加え、その混合物を15分間撹拌し、そして、pH及び相分離時間を測定した。
【0049】
トルエンを用いた場合、27〜54秒の相分離時間が観察され、水相は最初は濁っていたが最後には実質的に透明になった。第1の有機相は極めて安定な泡を含んでいた。この泡は、有機相を合した後でさえ崩壊しなかった。
【0050】
シクロヘキサンを用いた場合、相分離時間は35〜110秒であった。その水相は、概して、トルエンの場合ほど濁っていなかったが、これらの有機相においても、極めて安定な泡が形成された(34224/28)。
【0051】
4当量のベンズアルデヒドを用いたさらなる実験において、NaOHの添加量に依存する相分離について調べた。ここでは、pHが9に達するまでは相分離は遅いままであり、PMDAは全て反応してイミンを生成した。これは、NaOH(50%強度)の量が65gの場合であった。使用したPMDAに基づいて、これは、PMDA 1kg当たり0.6kgのフィード数に相当する。
【0052】
その有機相は反応が完結するまで泡状のままであったが、その後は、相分離は良好であった。
【0053】
イミンの切断
イミンの形成は、水の存在下における平衡反応であり、従って、放出されることとなるカルボニル成分が水蒸気蒸留によって水蒸気-揮発性化合物(steam-volatile compound)として当該平衡から除去され得るように当該逆反応を行わせることは、独自のアイデアであった。それと同時に、その平衡点はpHに依存するが、これも、実際、イミン形成の間にさえ観察された。
【0054】
ベンズアルデヒドイミン類
化学量論的量の硫酸の結果として、イミンの切断は水性混合物中で円滑に起こる。逆切断されたベンズアルデヒドは、独立した有機相として堆積し、そして、分離することができる。
【0055】
小規模な切断実験として、いずれの場合にも15〜20gのイミンを、さらなる添加剤なしで水と一緒に蒸留し、並びに、同様に、いずれの場合にも0.5gの硫酸、Lewatit S 1468(強酸性イオン交換体)、Lewatit CNP80(弱酸性イオン交換体)及びp-トルエンスルホン酸の存在下で水と一緒に蒸留した。これに関連して、いずれの場合にも、触媒としての酸に起因して期待される程度を越えるイミンの切断は観察されなかった。
【0056】
イミン自体は、4mbarで、最高で240℃までの油浴温度で、蒸留され得なかった。
【0057】
最初の予備的な実験において、いずれの場合にも、場合によっては平衡の確立に影響を及ぼし得る凝縮水相(condensed water phases)が存在したので、140〜160℃でのさらなる実験においては、水はゆっくりと滴下して加えたか、又は、水蒸気を導入した。ここで、最初に、5mol%の硫酸を触媒として使用し、同様に、触媒を使用しない比較実験も実施した。水を滴下して加えた実験では、蒸留残液の一部が留出物の初期チャージの中に同伴されるほどまでに、泡が生じた。他方、水蒸気を導入した実験は容易に進行した。
【0058】
触媒としての5mol%の硫酸の存在下では、該蒸留残液の質量が117gから86gに減少するのが観察され、GCによれば、ジイミンは98.2重量%であった。濁った留出物(767g)を塩化メチレンで抽出し;抽出液の中に、4.9%のジアミノペンタンと7.1%のジイミンが見いだされた。かくして、ジイミンの約10%が切断され、別の10%は蒸留された。ジイミンが高沸点にもかかわらず水蒸気によって分解されずに蒸留されるか否か、又は、初期チャージ中のベンズアルデヒドと一緒に蒸留されるジアミノペンタンがイミンの新たな形成をもたらすか否かを、識別することはできなかった。水溶液からのDAPの水蒸気蒸留に関する対照実験により、付属されたVigreuxカラムによってDAPが実質的に完全に保持されているはずであることが示された。
【0059】
添加された硫酸なしで、使用したイミン(117g)の96%が回収され、その内の17%は留出物(900g)の中に存在していた。実際に有用であるためには、より高い分離効率を有するカラムを使用することによって、ジイミンが水蒸気によって分解しないままでどうしても通過しない場合に水/ベンズアルデヒド共沸混合物はDPAから分離されなければならない。蒸留残液中で遊離DAPが高濃度化されることは観察されなかったが、HPLCの条件下ではジイミンが部分的に逆切断されて遊離DAPとなるので分析は困難である。しかしながら、他方、GC法では、PMDAとベンズアルデヒドは、それらの沸点が同じであるという理由で、分離することはできない。
【0060】
要約すれば、ベンジリデン化合物は、明らかに、水蒸気蒸留の結果としての平衡の出発物質の方へのシフトが触媒量の酸が存在しているときでさえ起こらない程、安定している。
【0061】
他方では、逆切断は定量的な量の酸を介して首尾良く行われたので、イミンを切断するための酸として、それを用いてその後の重合が意図されているジカルボン酸を使用することは明らかであるように思われた。1当量のセバシン酸を添加し、放出されるベンズアルデヒドを水蒸気蒸留に付した後、セバシン酸塩が蒸留残液中に残った。この塩は、エタノール又はブタノールから再結晶化させることによって、さらに精製することができた。アジピン酸を用いたDAPアジペートの調製も、正確に同じ方法で成功した。
【0062】
実証実験において、1200gの水の中に入れられた175gのイミン(発酵ブロスから調製されたもの)と121gのセバシン酸とを共沸蒸留に付した。残った残渣を取ってエタノールの中に入れ、共沸蒸留によって水値を0.3%未満に且つ含有量を約30%強度に調節し、並びに、50℃での播種及び40℃まで2時間の冷却及び20℃までさらに2時間の冷却によって結晶化させた。結晶化の間に、アセチルジアミノペンタン(これは、約1.5%でイミンの中に存在していた)は約2/3まで低減された。約89%の僅かに黄色がかった色の結晶が得られた。エタノールから再結晶させても、色はそれ以上改善されなかった。観察された難点は、過度に低い温度では過剰なセバシン酸が沈澱することであった。高純度を達成するためには、イミン含有量を正確に求めること及び化学量論を正確に調節することが有利である。
【化2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性相(A)からアミノ基含有化合物(I)を精製する方法であって、
(i)(I)を、アルデヒド又はケトン(II)との反応を通して、極性相(A)の中で不溶性又は難溶性である対応するイミン(III)に変換し、
(ii)次に、そのイミン(III)を非極性相(B)に変換して、
(iii)相(A)から分離し、
(iv)次に、当該アミノ基含有化合物をイミン(III)から回収する、
前記方法。
【請求項2】
前記アミノ基含有化合物(I)がジアルキルアミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジアルキルアミンが1,5-ジアミノペンタンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(iii)における前記分離が抽出プロセスによって行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(i)においてベンズアルデヒドが(II)として使用される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(iv)における(III)からの(I)の単離が酸を添加することによって達成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸が(I)に基づいて等モル量で添加される、請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2013−514297(P2013−514297A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543657(P2012−543657)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069523
【国際公開番号】WO2011/082976
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】