アミノ官能性化合物の分析方法及び分析試薬

【課題】試料中に含まれるアミノ酸、ペプチド等のアミノ官能性化合物を簡便かつ高感度に分析する方法を提供する。
【解決手段】アミノ官能性化合物を含む試料中のアミノ官能性化合物を、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド等の特定カルバメート化合物でアミノ官能性化合物を標識して選択性を高め、簡便かつ高感度に分析する。特に、MS/MS法等、質量分析法により目的化合物を定量的に分析することができる。更に、このために使用する質量分析用の標識試薬やこの標識試薬に使用することができる新規化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸、ペプチド等アミノ官能性化合物を、質量分析法を利用して、選択性を高める分析試薬により、簡便かつ高感度に分析(検出を含む。)する方法、及びその方法に使用可能な分析(標識)試薬、標識化方法、更にはそれらに使用可能な新規カルバメート化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸、ペプチド、及びその他のアミノ官能性化合物は生体内で重要な役割を演じており、その存在量を正確に把握することは、医学、薬学、農学、生化学、臨床化学の属する分野、及び他の分野で要求されている。それらの分野で特にアミノ酸の選択的かつ高感度な定量法が望まれているのは、この分析に供される試料量や分析対象の濃度が様々であること、また夾雑成分の影響を受け易いことが理由である。細胞内の代謝アミノ酸を定量する場合はその典型的な例である。また、生体から入手する試料量が少なければ少ない程、例えば被験者の肉体的・精神的負担は少なくなる。
【0003】
殆どのアミノ酸は吸収、蛍光性及び電気化学的応答が非常に弱い。分析感度を増大させるために、通常、アミノ基を紫外吸収性の大きな化合物や発色団或いは発蛍光団により標識し、紫外、可視或いは蛍光で、それぞれ検出する方法が用いられている。代表的な紫外標識試薬として、フェニルイソチオシアネート(PITC)[Cohen, S. A. and Strydom, D. J., 174 1 (1988) 参照。]、可視標識試薬として、ニンヒドリンが広く知られ、市販されている。また、蛍光標識試薬として、オルトフタルアルデヒド(OPA)[Roth, M., Anal. Chem., 43 880 (1971) 参照。]、ダンシルクロライド(Dansyl−Cl)[Seiler, N., Methods Biochem. Anal., 18 259 (1970) 参照。]、4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラザン(NBD-F)[Imai, K., and Watanabe Y., Anal. Chim. Acta, 130 377 (1981) 参照。]等が報告され、また市販されている。これらの分析方法は、紫外/可視による方法では、分析感度がおよそ1pmolが限界であり、蛍光による方法の検出できるアミノ酸量は、およそ100fmol程度であり、生化学や臨床化学の分野においては、更なる感度向上が望まれていた。
【0004】
紫外領域に吸収を有する標識体(PITC:254nm)や励起、蛍光波長が比較的短波長にある標識体(OPA:λex=340〜345nm、λem=455nm、Dansyl−Cl:λex=255nm、λem=470nm)の場合、定量に当り、夾雑物の影響を受け易いという問題点を有している。
【0005】
更に、PITC、Dansyl−ClやNBD−F等標識試薬の多くは、試薬或いはその加水分解物は、強い紫外吸収や蛍光を有している。通常、定量的分析結果を得るためには、標識反応では、分析対象に対し大過剰の試薬を加える。そのため、試薬或いはその加水分解物は、分析の大きな障害となってきた。
【0006】
6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)[Iwaki, K., Yoshida, S., Nimura, N., Kinoshita, T., Takeda, K., and Ogura, H., Chromatographia 23 899 (1987) 参照。]もアミノ基を標識し、アミノ酸を蛍光で検出する試薬として開発され、市販されているものである。しかし、励起波長λex=245nm、蛍光波長λem=395nmと短波長側にあり、夾雑物の影響を受け易い点、また、試薬及び試薬の分解物もまた、蛍光を有しているという点で、前記の他の試薬と差は無い。
【0007】
これらの標識試薬を用いた場合、標識化合物を液体クロマトグラフィー(以下HPLC)分離してアミノ酸を分析する方法が行われてきた。HPLCでは、僅かな環境の変化、即ち、移動相の組成の僅かな変化やカラム温度の変動により、その分析対象物質のカラム保持能が変動する場合が多い。検出は標識試薬の吸収や蛍光で行われるため、それぞれのアミノ酸は、カラム保持能で同定しなければならない。また、これまでの知見から化合物が推測できない保持能を有する分析対象が検出された場合、その物質がアミノ基を有することは分かっても、それ以外の構造に関する情報は得られない。
【0008】
このように、紫外、可視或いは蛍光による標識アミノ官能性化合物の分析は、選択性という点でも問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、アミノ酸等のアミノ官能性化合物の簡便かつ高感度で高い選択性を有する分析法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アミノ酸やその他のアミノ官能性化合物を特定の構造を有する標識試薬により標識し、しかる後に標識されたアミノ酸等のアミノ官能性化合物を質量分析法、特に好ましくは質量分析法の一手法であるタンデム質量分析法(MS/MS法)に供することにより、それらの化合物を簡便、選択的かつ高感度に分析できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
即ち、本発明は、少なくともアミノ官能性化合物を含む試料中のアミノ官能性化合物を質量分析法により分析する方法であって、当該化合物を下記一般式(1)で示されるカルバメート化合物により標識し、質量分析に付すことに特徴を有するアミノ官能性化合物等の分析方法に存する。この発明を本発明において、特に「本発明の分析方法」と称することがある。
【化1】

上記式中、カルバメート基に結合するArは、芳香族性を示す炭素環化合物又は複素環化合物残基を表し当該芳香環は置換基(1個又は複数個)を有していてもよく、Arとカルバメート基の窒素原子との結合においてはAr中の当該環を構成する炭素原子と当該カルバメート基の窒素原子とが結合し、当該カルバメート化合物は塩の形態でもよい。前記芳香環はπ電子を環上に共有するものであればよく、この環を構成する原子に関しては、炭素原子のみ、或いは炭素原子と炭素原子以外の原子、例えば窒素原子、硫黄原子等を挙げることができ、炭素原子のみ(炭素環)で又は炭素とそれ以外の原子と(複素環)で、当該環を形成することができる。
【0012】
本発明において、「アミノ官能性化合物」とは分子内にアミノ基及び/又はイミノ基を有する化合物(塩の形態でもよい。)を意味し、これらのアミノ基やイミノ基は1個でも複数でもよい。試料中のアミノ官能性化合物は1種でも複数種混合物でもよい。
【0013】
当該式中、Arに関し、炭素環化合物残基としてそれぞれ置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基(1−及び2−ナフチル基)、アントリル基(1−、2−及び5−アントリル基)等を、また、複素環化合物残基としてそれぞれ置換基を有していてもよいピリジル基(2−、3−及び4−ピリジル基)、ピラジル基、キノリル基(2〜8−キノリル基)、アクリジル基(1〜4−及び9−アクリジル基)、クマリル基(5〜8−クマリル基)等を挙げることができる。当該基は芳香環に置換基を一つ以上有することができる。置換基として、炭素数1〜5のアルキル基、ナフチル基、フェニル基等の芳香族基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基、ジアゾ基、シアノ基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜7のアシル基(アセチル基、ベンゾイル基等)、スルホン酸基、リン酸基、グアニジル基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム基等を挙げることができる。アミノ官能性化合物を高感度で検出するためには、中でも、極性置換基、特に溶液中でイオン化し易い置換基を有することが好ましく、例えばスルホン酸基、リン酸基、グアニジル基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム基等を挙げることができる。
【0014】
Arの具体な例として、下記の基を挙げることができる:
フェニル基、ナフチル基(1−及び2−ナフチル基)、アントリル基(1−、2−及び5−アントリル基)、ピリジル基(2−、3−及び4−ピリジル基)、ピラジル基、キノリル基(3−、6−及び8−キノリル基)、9−アクリジル基、6−クマリル基、p−ジアルキルアミノフェニル基、p−トリアルキルアンモニウムフェニル基、1−(3−トリアルキルアンモニウム)ナフチル基、1−(5−トリアルキルアンモニウム)ナフチル基、1−(3−ジアルキルアミノ)ナフチル基、1−(5−ジアルキルアミノ)ナフチル基、p−スルホフェニル基、1−(3−スルホ)ナフチル基、1−(5−スルホ)ナフチル基、p−ホスホフェニル基、1−(3−ホスホ)ナフチル基、1−(5−ホスホ)ナフチル基、p−グアニジノフェニル基、1−(3−グアニジノ)ナフチル基、1−(5−グアニジノ)ナフチル基等。
【0015】
上記ジアルキルアミノ基及びトリアルキルアンモニウム基のアルキル基はそれぞれ独立的に、炭素数1〜5のアルキル基を表すことができる。
【0016】
当該アミノ官能性化合物としては、アミン類(1級アミン、2級アミン等)、アミノ酸、ペプチド、タンパク質等を挙げることができる。このような化合物を複数種含んでいてもよい。例えば、アミノ酸の複数種混合物、アミノ酸1種以上とペプチド1種以上の混合物、アミノ酸1種以上とアミン1種以上の混合物等を挙げることができる。
【0017】
本発明において使用する質量分析法としては、質量の分析を利用する分析法であれば、特に制限は無いが、タンデム質量分析法(MS/MS法)による検出方法を採用するのが特に好ましい。
【0018】
MS/MS法の代表的な例としてはSelected Reaction Monitoring 法、Precursor Ion Scan 法、及びConstant Neutral Loss Scan 法を挙げることができる。MS/MS法に含まれる分析法であれば今後開発される方法を採用することもできる。
【0019】
複数種のアミノ官能性化合物を含む試料について分析する場合、アミノ官能性化合物の全量を定量することもできるし、化合物単位でこれを定量することもできる。例えば、複数種アミノ酸の混合物を分析する場合、全アミノ酸を定量することも、個別アミノ酸の定量をすることもできる。
【0020】
本発明は、別の形態として、下記の発明が含まれる。
【0021】
1. アミノ官能性化合物と下記一般式(1)で示されるカルバメート化合物とを反応させることに特徴を有する質量分析に適したアミノ官能性化合物の標識化方法(標識方法)。
【化2】

上記式中、カルバメート基の窒素原子に結合するArは、芳香族性を示す炭素環化合物又は複素環化合物残基を表し、当該芳香環は一つ以上の置換基を有していてもよく、Arとカルバメート基の窒素原子との結合においてはAr中の当該環を構成する炭素原子と当該カルバメート基の窒素原子とが結合し、当該カルバメート化合物は塩の形態でもよい。
【0022】
2. 下記一般式(1)で示されるカルバメート化合物を含有することに特徴を有する質量分析に適したアミノ官能性化合物用標識試薬(標識試薬;標識剤)。
【化3】

上記式中、カルバメート基の窒素原子に結合するArは芳香族性を示す炭素環化合物又は複素環化合物残基を表し、当該芳香環は置換基(1個又は複数個)を有していてもよく、Arとカルバメート基の窒素原子との結合においてはAr中の当該環を構成する炭素原子と当該カルバメート基の窒素原子とが結合し、当該カルバメート化合物は塩の形態でもよい。
【0023】
以上、1.標識方法及び2.標識試薬の発明において、アミノ官能性化合物、カルバメート化合物の範囲や内容ついては、前記本発明の分析方法において説明した通りである。
【0024】
本発明は、更に別の形態として、下記の発明が含まれる。
【0025】
3. 下記一般式(1)で示されることに特徴を有するカルバメート化合物(新規化合物)、又はこのカルバメート化合物を含有することに特徴を有するアミノ官能性化合物の分析に適した標識試薬(標識剤)。
【0026】
この発明は、前記標識試薬として使用可能な新規化合物、又はこの新規化合物を含有する標識試薬に関する。本発明の新規化合物は、前記本発明の分析方法に使用可能なカルバメート化合物のうち、既知の化合物を除いた化合物から選択される。従って、カルバメート化合物の範囲については、既知の化合物を除いて、前記本発明の分析方法のところで説明したカルバメート化合物についての説明が先ずここでも適用される。
【化4】

上記式(1)中、好ましくはカルバメート基の窒素原子に結合するArは、極性置換基が環に結合する芳香族性を示す炭素環化合物又は複素環化合物残基、又は極性置換基が環に結合しないピリジル基若しくはピラジル基を表し、Arとカルバメート基の窒素原子との結合においてはAr中の当該芳香環を構成する炭素原子と当該カルバメート基の窒素原子とが結合し、当該カルバメート化合物は塩の形態でもよい。
【0027】
ピリジル基及びピラジル基については、何れも芳香環に極性置換基を有していても有していなくてもよいことになる。
【0028】
当該式中、当該炭素環化合物又は複素環化合物残基としては、フェニル基、ナフチル基(1−及び2−ナフチル基)、アントリル基(1−、2−及び5−アントリル基)等、ピリジル基(2−、3−及び4−ピリジル基)、ピラジル基、キノリル基(3−、6−及び8−キノリル基)、アクリジル基(1〜4−及び9−アクリジル基)、クマリル基(5〜8−クマリル基)等を挙げることができ、上記極性置換基としてスルホン酸基(−SOH、−SONa等)、リン酸基、グアニジル基、ジアルキルアミノ基、及びトリアルキルアンモニウム基等を挙げることができる。
【0029】
当該式中、Arとして、より好ましくは3−ピリジル基、ピラジル基、p−ジアルキルアミノフェニル基、p−トリアルキルアンモニウムフェニル基、1−(3−トリアルキルアンモニウム)ナフチル基、1−(5−トリアルキルアンモニウム)ナフチル基、1−(3−ジアルキルアミノ)ナフチル基、1−(5−ジアルキルアミノ)ナフチル基、p−スルホフェニル基、1−(3−スルホ)ナフチル基、1−(5−スルホ)ナフチル基、p−ホスホフェニル基、1−(3−ホスホ)ナフチル基、1−(5−ホスホ)ナフチル基、p−グアニジノフェニル基、1−(3−グアニジノ)ナフチル基、1−(5−グアニジノ)ナフチル基等を挙げることができる。
【0030】
前記ジアルキルアミノ基及びトリアルキルアンモニウム基のアルキル基としては、それぞれ独立的に、炭素数1〜5であるアルキル基を挙げることができる。
【0031】
本発明で使用するアミノ官能性化合物の上記アミノ基(又はイミノ基)の標識試薬(カルバメート化合物)による標識化には特に困難は無い。アミノ官能性化合物と前記カルバメート化合物とを反応せしめて標識化すればよい。標識化反応の条件は、このような試薬を用いて標識する場合の一般的な条件(Iwaki, K., Yoshida, S., Nimura, N., Kinoshita, T., Takeda, K., and Ogura, H., Chromatographia 23 899 (1987) 参照。)を用いればよいが、好ましくはアミノ官能性化合物をpH値8〜10程度の環境下で、アルコール類を除く適当な有機溶媒で溶解した試薬と標識試薬とを混合した後、60℃程度に加熱する等の条件を好適に採用することができる。標識試薬(カルバメート化合物)の使用量については、アミノ官能性化合物の量、特にその中に含まれる全アミノ基、イミノ基の量を考慮して、アミノ官能性化合物に対し、10〜1000倍モル(当量)程度、好ましくは100〜1000倍モル(当量)程度使用し、全てのアミノ基、イミノ基に対して標識できるようにする。
【0032】
本発明に係る化合物の調製には特に困難は無い。その調製方法としては、例えば、下記の反応式に従って芳香族アミンとN,N‐ジスクシンイミジルとから容易に合成することができる。また、トリアルキルアンモニウム塩を製造する場合は、そのジアルキルアミン体とヨウ化メチル等ヨウ化アルキルとから容易に合成することができる。
【化5】

Arは前記本発明の分析方法において説明したArと同じ意味を有する。
【0033】
本発明の新規化合物には、以下のものが含まれる。
p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート;
3−アミノピリジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート;
p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド;及び
アミノピラジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート。
【0034】
本発明のカルバメート化合物(新規化合物)、及び本発明において使用するカルバメート化合物は何れも遊離体或いは塩の形態でもよい。塩の形態には特別の制限は無い。各種アミンの塩を調製する場合に使用する造塩工程を利用して目的とする塩を調製することができる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸や酢酸等の有機酸との塩を挙げることができる。更に、ヨウ化メチル等のヨウ化アルキル、臭化メチル等の臭化アルキル、塩化メチル等の塩化アルキル等、アミンに作用せしめて第4級アンモニウムを調製する場合に使用する試薬を用いて目的とする塩を調製することもできる。また、スルホン酸基、リン酸基等の酸性置換基を有する場合、それを塩基性物質等で中和した形の誘導体も当該塩の中に含まれる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、アミノ酸、ペプチド等のアミノ官能性化合物を、特定の標識試薬を用いることにより選択性を高めて、簡便かつ高感度に分析することができる。特に、MS/MS法等、質量分析法により目的化合物を定量的に分析することができる。また、複数の試料(サンプル)を同時に測定することもできる。更に、このために使用する質量分析用の標識試薬やこの標識試薬に使用することができる新規化合物も提供する。
【0036】
従って、本発明は産業上、特に食品、医薬品、医療や、分析機器の分野において広く実施することができ、故に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、TAHS−標識アミノ酸17種類のSRM分析結果を図示したものである。 実施例の例7:分析例1において、標識剤としてp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)を用いた標識アミノ酸のLC/MS/MS法によるSRMクロマトグラムである。最終標識アミノ酸濃度:0.2nmol/mL。TIC:Total Ion Chromatogram。
【図2】図2は、TAHS−標識アミノ酸17種類のPrecursor ion scan分析結果を図示したものである。 実施例の例8:分析例2において、標識剤としてp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)を用いた標識アミノ酸のPrecursor ion scan分析によるマススペクトルである。最終標識アミノ酸濃度:2nmol/mL。TIC:Total Ion Chromatogram。
【図3】図3は、DAHS−標識アミノ酸17種類のSRM分析結果を図示したものである。 実施例の例9:分析例3において、標識剤としてp−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(DAHS)を用いた標識アミノ酸のLC/MS/MS法によるSRMクロマトグラムである。最終標識アミノ酸濃度:0.2nmol/mL。TIC:Total Ion Chromatogram。
【図4】図4は、APDS−標識アミノ酸17種類のSRM分析結果を図示したものである。 実施例の例10:分析例4において、標識剤として3−アミノピリジルカルバメート(APDS)を用いた標識アミノ酸のLC/MS/MS法によるSRMクロマトグラムである。最終標識アミノ酸濃度:0.2nmol/mL。TIC:Total Ion Chromatogram。
【図5】図5は、AQC−標識アミノ酸17種類のSRM分析結果を図示したものである。 実施例の例11:分析例5において、標識剤として6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)を用いた標識アミノ酸のLC/MS/MS法によるSRMクロマトグラムである。最終標識アミノ酸濃度:0.2nmol/mL。TIC:Total Ion Chromatogram。
【図6】図6は、NAHS−標識アミノ酸17種類のConstant neutral loss scan分析結果を図示したものである。 実施例の例12:分析例6において、標識剤として1−ナフチルアミノ−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(NAHS)を用いた標識アミノ酸のConstant neutral loss scan分析によるマススペクトルである。最終標識アミノ酸濃度: 2nmol/mL。TIC:Total Ion Chromatogram。
【図7】図7は、標識剤としてPAHSを用いた標識アミノ酸19種類のConstant Neutral loss ion scan分析結果を図示したものである。実施例の例13:分析例7において、標識剤としてPAHSを用いた標識アミノ酸のConstant Neutral Loss Scan分析によるマススペクトルである。最終標識アミノ酸濃度:5nmol/mL。
【図8】図8は、例14:分析例8において、標識剤としてp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)を用いた標識アミノ酸のLC/MS/MSによるSRMクロマトグラムである(アミノ酸20種類の高速分析クロマトグラム)。最終標識アミノ酸濃度:0.5nmol/mL。
【図9】図9は、例19:分析例9において標識剤としてp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)及びp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド−d3(TAHS−d3)を用いたアミノ酸のLC/MS/MSによる2サンプル同時測定のSRMクロマトグラムである。
【図10】図10は、例20:分析例10において標識剤としてp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)及びp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド−d3(TAHS−d3)を用いた、異なる2サンプル(サンプルA及びサンプルB)中のアミノ酸のLC/MS/MSによる同時測定から得られたピークエリア比を代謝マップ上に表現したものである。 #: サンプルB/サンプルA<2; *: 2≦サンプルB/サンプルA≦4; +: 4<サンプルB/サンプルA≦10;及び $: 10<サンプルB/サンプルA。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。好ましい代表例を中心に説明するもので、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
<分析方法の原理>
本発明における分析方法においては質量分析が使用されるが、その原理等について先ず説明する。
【0040】
アミノ官能性化合物、例えばアミノ酸は下記反応式により標識試薬により標識することができる。
【化6】

【0041】
Arは前記本発明の分析方法において説明したArと同じ意味を有する。上記アミノ酸を示す一般式中のRは、この一般式が各種アミノ酸を表すものとして適切な置換基を表す。塩基性アミノ酸のように、R中に更にアミノ基や、イミノ基を有する場合、これらの基ともカルバメート化合物が反応する。
【0042】
標識試薬に、前記カルバメート化合物と、例えばアミノ酸との標識体は、質量分析計内において、衝突誘起解離(Collision−induced dissociation; CID)すると下記反応式に示す点線矢印の部位において選択的な開裂が発生する。標識試薬として、陽イオン性を増大させるために、炭素環或いは複素環に、好ましくは例えば置換基として前記ジアルキルアミノ基又はトリアルキルアンモニウム基が結合したものを選択し、質量分析計で陽イオンを観測するように設定すると、アミノ酸由来の構造がニュートラルロスし、試薬由来のフラグメントイオン [Ar−NH−CO]だけが選択的に検出される。
【0043】
このことを利用して、下記に示す2種類の測定方法、即ち、プリカーサーイオンスキャン法(Precursor Ion Scan)、セレクテッドリアクションモニタリング法(Selected Reaction Monitoring (SRM)法)により、第一のマスアナライザーでアミノ官能性化合物と前記標識試薬との反応体のイオンを、第二のマスアナライザーで試薬由来のフラグメントイオンを検出することで極めて選択性が高く、高感度な分析を達成することができる。Arは前記Arと同じ意味を有する。
【化7】

【0044】
このような特徴は、p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(DAHS)、3−アミノピリジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(APDS)、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)、アミノピラジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミドカルバメート(AQC)、9−アミノアクリジル−N−ヒドロキシスクシンイミドカルバメート等で示された。
【0045】
一方、標識試薬に前記カルバメート化合物の中、試薬のイオン性が小さい化合物を選択した場合、CIDにより同様に点線矢印の部位において選択的な開裂が発生するが、質量分析計内で陽イオンを観測するように設定すると、試薬由来の構造がニュートラルロスし、[アミノ酸+H]がフラグメントイオンとして観測される。このことを利用して、コンスタントニュートラルロススキャン法(Constant Neutral Loss Scan)により、質量分析計で陽イオンを観測するように設定することにより、第一のマスアナライザーでアミノ酸と試薬の反応体のイオンを、第二のマスアナライザーで試薬骨格由来の構造がニュートラルロスしたアミノ酸由来のイオンを検出することで、極めて選択性が高く高感度なアミノ酸分析が達成される。このような特徴は、1−ナフチルアミノ−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(NAHS)で示された。
【0046】
<好適な質量分析方法>
本発明において使用する質量分析法には特に制限は無いが、より好ましい例として幾つか紹介する。
【0047】
<Precursor Ion Scan>
プリカーサーイオンスキャン分析では、第一のマスアナライザー(Q1等)は指定された質量範囲に従ってスキャンされ、この範囲のイオンは、例えばQ2でのCIDにより解離する。このとき第二のマスアナライザー(Q3等)は、特定のフラグメントイオン(例えば、TAHSの場合m/z =177)を選択するように設定する。得られるスペクトルには特定のフラグメントイオンを生成するプリカーサーイオン(親イオン)だけが記録される。
【0048】
<Selected Reaction Monitoring (SRM)>
SRM分析では、対象となるイオンを第一のマスアナライザー(Q1等)で選択し、このイオンを衝突セルの中で解離させ、第二のマスアナライザー(Q3等)で特定のフラグメントイオン(例えば、TAHSの場合m/z =177)を選択してモニタリングする。この方法により、定量対象化合物と同一の保持時間でかつプリカーサーイオンと同一の質量を有する夾雑成分が存在しても、夾雑成分が定量対象化合物のフラグメントイオンを生じない限り、その影響を排除できるので、感度・選択性が飛躍的に向上する。
【0049】
<Constant Neutral Loss Scan>
コンスタントニュートラルスキャン分析では、第一のマスアナライザー(Q1等)は指定された質量範囲に従ってスキャンされ、この範囲のイオンは、例えばQ2でのCIDにより解離する。このとき第二のマスアナライザー(Q3等)は、特定のニュートラルフラグメント(例えば、1−ナフチルアミノ−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートの場合 m/z =170)を選択するように設定する。得られるスペクトルにはある特定の中性分子が脱離する全てのプリカーサーイオン(親イオン)を検出するスキャン法を採用する。
【0050】
質量分析は、その分析対象物質の質量に起因するイオンを検出できるために、極めて選択性の高い検出方法として、広く使用されている。本発明においては、分析対象を規則的な開裂を発生させる標識試薬を設計することで、アミノ官能性化合物のより選択性の高い検出方法を達成した。更に、イオン性の高い標識試薬を設計した場合には、アミノ官能性化合物の高感度分析を達成することができる。
【0051】
また、一般的に質量分析においては、低分子領域に夾雑物が多く、それがノイズの原因となり、分析対象の検出能を妨げる要因となるが、一つ以上の芳香環を試薬に導入することで、分子量を大きくし、ノイズの少ない領域での測定を達成することができる。
【0052】
アミノ酸の検出限界は、アミノ酸の種類によって異なるが、四重極質量分析計、例えばAPI365タイプの検出器(アプライドバイオシステム)を用い、SRMモードを選択した場合、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)で2〜40fmol程度、p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(DAHS)で3〜2000fmol程度、3−アミノピリジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(APDS)で3〜180fmol程度、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミドカルバメート(AQC)で2〜200fmol程度であり、一般的な蛍光標識試薬を凌ぐことができることが確認された(後述の実施例参照。)。特に、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミドカルバメート(AQC)は蛍光標識試薬として市販されているものであるが、その検出限界は数百fmolと報告されている。SRMでの測定では、蛍光法と同等から最大で百倍の感度改善が見られた。
【0053】
質量分析装置の改良は装置会社(例えば、アプライドバイオシステム)により、盛んに進められている。最新の四重極質量分析計(例えば、API4000(アプライドバイオシステム))による測定では、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミドカルバメート標識後のアミノ酸の検出限界は殆どのアミノ酸で1fmol以下となる(後述実施例参照。)。
【0054】
本発明の方法による検出は、標識されたアミノ官能性化合物の質量に起因するイオンで行われるため、それ以外の化合物、例えば、標識試薬や標識試薬の加水分解物、その他、標識反応により形成される予期せぬ夾雑物の障害を受けることなく、分析対象を測定することができる。
【0055】
プリカーサーイオンスキャン及びニュートラルロススキャンでは、標識された全てのアミノ官能性化合物を検出することができる。そのため、同定されていない化合物が検出された場合、マススペクトルによりその質量等から、構造を推定することが可能となる。
【0056】
<一般的な実施方法>
次に、本発明に関し、一般的な実施方法について説明する。試料中のアミノ官能性化合物としてアミノ酸混合溶液を用いた。
【0057】
芳香族アミンを有するカルバメート化合物によるアミノ官能性化合物の標識については、一般的には次のようにして調製することができる。例えば、アミン標準溶液に、硼酸塩緩衝液(硼酸塩0.2M、EDTA5mM)或いはpH8〜9.5を示すその他の緩衝液(酸性塩にはリン酸等、塩基性塩にはNaOH、NaCO等)を添加する。標識試薬の有機溶媒への溶解性を考慮し、上記硼酸塩緩衝液、又はこの緩衝液とアセトニトリル等非アルコール性有機溶媒の混液を添加することもできる。
【0058】
この混合物に試薬溶液(HPLC等級アセトニトリル1mL中にカルバメート化合物3mg)を添加する。得られた混合物を、例えば55℃で10分間加熱する。
【0059】
このように調製した標識アミノ酸(アミノ官能性化合物)は逆相カラムを用いて分離後、質量分析装置に導入する。一般的な条件は次の通りである。
【0060】
a) HPLC:Agilent HP1100;
b) Columun:Develosil C30 UG 5μm 4.6mmI.D×250mm;
c) 検出器:質量分析装置 Sciex API365;及び
d) 移動相
移動相A:0.2% AcOH
移動相B:0.2% AcOH in CHCN
勾配:0min:0% → 20min:30%;及び
e)温度:40℃。
【0061】
SRMモードで標識アミノ酸を検出する場合、質量分析計の陽イオンモードにおけるMS/MS法において第一のマスアナライザー(Q1等)で指定アミノ酸の標識体である質量を選択し、第二のマスアナライザー(Q3等)で試薬のフラグメントイオンの質量を選択して測定する。
【0062】
即ち、アミノ基又はイミノ基が分子(アミノ官能性化合物)中に一つ存在する場合を例にすると、第一のマスアナライザー(Q1等)でアミノ酸の標識体である質量((アミノ酸+標識化試薬−HOSu+H)又は4級アンモニウム試薬の場合 (アミノ酸+標識化試薬−HOSu))を選択し、第二のマスアナライザー(Q3等)で試薬由来のフラグメントイオンを選択し測定する。但し、「HOSu」はN−ヒドロキシスクシンイミドを意味する。
【0063】
プリカーサーイオンスキャンモードで標識アミノ酸のみを検出する場合、質量分析計の陽イオンモードにおけるMS/MS法において第一のマスアナライザー(Q1等)は設定した質量範囲に従ってスキャンされ、第二のマスアナライザー(Q3等)は設定した特定のフラグメントイオンの質量を選択して測定する。
【0064】
即ち、第一のマスアナライザー(Q1等)では設定した質量範囲(例えば m/z=100〜600)をスキャンし、第二のマスアナライザー(Q3等)で試薬由来のフラグメントイオンを選択し測定する。
【0065】
コンスタントニュートラルロススキャンで標識アミノ酸のみを検出する場合、質量分析計の陽イオンモードにおけるMS/MS法において第一のマスアナライザー(Q1等)は設定した質量範囲に従ってスキャンされ、第二のマスアナライザー(Q3等)は設定した特定のニュートラルフラグメントを与える全てのプリカーサーイオンを測定する。
【0066】
即ち、第一のマスアナライザー(Q1等)では設定した質量範囲(例えば、m/z=100〜600)をスキャンし、第二のマスアナライザー(Q3等)で試薬由来のニュートラルフラグメントを損失(ロス)したプリカーサーイオンを選択し測定する。
【0067】
<標識試薬の合成方法>
目的とする標識試薬については、従来法(例えば、Iwaki, K., Yoshida, S., Nimura, N., Kinoshita, T., Takeda, K., and Ogura, H., Chromatographia 23 899 (1987)等参照。)により、容易に調製することができる。例えば、下記一般式(1):
【化8】

で示されるカルバメート化合物(式中、Arは前記本発明の分析方法において説明のArと同じ意味を有する。)を、Ar基中トリアルキルアンモニウム基を有しない場合、芳香族アミン化合物のアセトニトリル溶液等非アルコール性有機溶媒を炭酸N,N-ジスクシンイミジル(DSC)のアセトニトリル中に滴下漏斗を用いて添加することにより合成することができる。一方、Ar基中に、トリアルキルアンモニウム基を含むカルバメート化合物については、先ずジアルキルアミノ基を有するカルバメート化合物を上記の如く調製した後、これにヨウ化メチル等ヨウ化アルキルを作用させることにより合成することができる。
【0068】
この方法で合成した標識試薬として、p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート、3−アミノピリジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド、ナフチルアミノ−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート、アミノピラジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート、9−アミノアクリジル−N−ヒドロキシスクシンイミドカルバメートを挙げることができる。
【0069】
本発明を利用すれば、アミノ官能性化合物の短時間分析、アミノ官能性化合物の同位体の測定、未同定化合物の構造推定、複数試料の同時測定等も可能であり、以下若干説明する。
【0070】
(アミノ官能性化合物の短時間分析)
本発明によればアミノ官能性化合物、特にアミノ酸の短時間分析を行うことができる。p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)等の標識試薬を用いることで短時間分析が可能となる。この結果、分析時間を大幅に短縮できるので処理能力が改善する。例えば、従来のAQC試薬を用いたアミノ酸分析では35分程度の分析時間を有しており(AccQ・TagTMアミノ酸分析法(Waters))、本発明による分析時間は短くなる。
【0071】
(アミノ官能性化合物の同位体の測定)
本発明方法においては、アミノ官能性化合物の同位体を測定することができ、その結果アミノ官能性化合物の同位体比率を高感度で補正計算せずに求めることができる。
【0072】
質量分析計内における衝突誘起解離(CID)によりアミノ官能性化合物と試薬骨格由来の結合位での規則的な開裂を利用することによりこの発明方法が提供される。
【0073】
即ち、この発明においては本発明方法で特にSelected Reaction Monitoring法を使用することによりアミノ官能性化合物の同位体を測定することができ、その結果同位体比率を求めることができる。当該標識試薬としては、分析に際してアミノ酸等アミノ官能性化合物が選択的に開裂し、更にそのフラグメントイオンが高感度に検出される試薬、例えばAQC、TAHS等の標識試薬を使用することができる。
【0074】
〔同位体の測定に関する従来の技術〕
天然とは異なる同位体組成を利用した分析方法は古くから用いられている。例えば、13C、H(D)、15N、18O等の天然存在比の低い安定同位体、或いは放射性同位体を含む基質を生体に導入することで基質の生体内における分布や変化を知ることは医学や、薬学のみならず様々な研究分野で用いられている。同位体を高感度に定量的に評価することができれば、同位体原子の挙動をトレースすることが可能となり、更なる情報の獲得につながる。しかしながら、アミノ官能性化合物を直接的に質量分析計で測定するには、感度面が問題となっている。一方、標識試薬で誘導化したアミノ官能性化合物の同位体比率を質量分析計で高感度に分析するためには、アミノ官能性化合物以外の骨格部分の天然同位体分布を考慮する必要があり、分析結果を補正し目的化合物の同位体比を算出する必要があった。
【0075】
例えば、GC−MS(ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメトリー)法では、本発明方法と同じように誘導体化を行うが、試薬部分の天然同位体比分布に起因する煩雑な補正計算が必要な場合が殆どである。
【0076】
また、NMR法は、低感度或いは広いダイナミックレンジが狭いために微量の同位体の検出には向かない。
【0077】
[この発明の内容と実施]
特に、アミノ官能性化合物のアミノ基と試薬骨格のカルボニル基の位置で規則的に開裂することが重要であることに着目して、タンデム質量分析計において、アミノ官能性化合物と試薬骨格由来の結合位で規則的な開裂を起こし、フラグメントイオンを得ることにより、試薬骨格に相当する部位の天然同位体分布の補正無しに、目的のアミノ官能性化合物の同位体比率を求めることが可能である。また、例えば、三連四重極型の質量分析装置を用いると、広いダイナミックレンジにある同位体比の高感度分析が可能になる。
【0078】
この発明においては、タンデム質量分析(計)において、例えば含まれる誘導化されたアミノ酸が選択的に開裂し、更にそのフラグメントイオンが高感度に検出される試薬を用いて本発明の質量分析を行うことにより目的とするアミノ官能性化合物の同位体の測定を行うことができ、その結果目的とする同位体比率を求めることができる。
【0079】
〔分析の原理〕
この発明においてはタンデム質量分析法のうち、Selected Reaction Monitoring法を採用する。但し、同位体という1マスユニット差の化合物の定量を行うために、1マスユニットが識別可能な分解能で測定を行うことができる。
【0080】
(未同定化合物の構造推定)
本発明の標識試薬を用いると、
(1)標識化されるものは一級及び二級アミノ官能性化合物である。
(2)精密質量から組成式を求めることができる。
(3)(1)及び(2)の情報から未知化合物の構造絞込みが容易となる。
【0081】
即ち、本発明の標識試薬及び分析方法を用い、試料中のアミノ官能性化合物のプロファイリング法及びプロファイリングにより得られた標的化合物の構造を推定することができる。本発明の標識試薬では質量情報を高感度に得ることができるだけでなく、標識試薬骨格部とアミノ官能性化合物との結合部位で規則的な開裂が起こることから、得られるフラグメントイオンの情報は未知のアミノ官能性化合物のフラグメントイオン情報に等しいことから、構造解析をより容易に行うことが可能となる。
【0082】
〔構造解析の従来の技術〕
紫外吸収或いは蛍光を有する試薬で誘導化し、分析を行った際に現われた未知のピークについては誘導化に用いた試薬との反応性から化合物の官能基の推定程度しか行うことができなかった。また、NMRを用いる場合には感度面から微量の化合物の解析は困難であることが多い。
【0083】
質量分析計を用いることで、高感度に得られる未知化合物の質量情報或いは未知化合物のフラグメントイオンの情報は構造解析を行う上で有用な情報となる。
【0084】
〔本発明による実施方法〕
サンプル中から特異的なピーク或いは目的のピークを見出し、その特異的或いは目的のピークに該当する化合物の同定或いはその構造の推定を行う。
【0085】
例えば、タンデム質量分析において、Precursor Ion Scan法やConstant Neutral Loss Scan法を用いることで誘導体化試薬部と被誘導体化化合物との間で規則的に開裂する化合物全てを選択的にモニターすることができる。即ち、誘導体化試薬と反応したアミノ官能性化合物を網羅的に検出し、その中から特異的なピーク或いは目的のピークを見出し質量に関する情報を得ることができる。
【0086】
更に、得られたピークに関しては精密質量の測定可能な装置により、精密質量を求めることにより、目的化合物の組成式を得、公共のデータベース等からその構造の絞込みを行う。また、Product Ion Scan法により得られるアミノ官能性化合物部のフラグメントイオンの解析を行うことにより目的化合物の構造を推定することができる。例えば、未知サンプルをNAHS(或いはPAHS)で標識し、Constant Neutral Loss Scan法による測定を行い、目的のピークを選択する。ここで、目的のピークについて精密質量を測定することで誘導化された 構造未知のアミノ官能性化合物としての組成式を知ることができる。また、Product Ion Scan法により、フラグメントイオンとして得られるアミノ官能性化合物の精密質量から未知化合物そのものの組成式を得ることができる。また、更なるフラグメントイオンの組成式を得ることも可能であり、データベースの併用等により更に、推定構造を絞り込むことが可能である。
【0087】
(複数試料の同時測定)
本発明においては、前記本発明の分析方法を利用して、標識試薬のうち、試薬内の原子の一部或いは全部が天然とは異なる同位体組成を有する化合物を用いることにより複数試料(サンプル)を同時に測定することができる。
【0088】
即ち、本発明は、更に別の形態として、下記一般式(1)で示されるカルバメート化合物であって、構造中O=C−NH−Arに含まれる少なくとも一つの原子(但し、交換性の水素原子は除く。)に安定同位体元素を含むことに特徴を有するカルバメート化合物に存する。
【化9】

【0089】
上記式中、カルバメート基の窒素原子に結合するArは芳香族性を示す炭素環化合物又は複素環化合物残基を表し、当該芳香環は一つ以上の置換基を有していてもよく、Ar基とカルバメート基の窒素原子との結合についてはAr基中当該環を構成する炭素原子と当該カルバメート基の窒素原子とが結合し、当該カルバメート化合物は塩の形態でもよい。
【0090】
当該式中、Arとして置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、ピラジル基、キノリル基、アクリジル基及びクマリル基から選択することができる。
【0091】
Arが置換基を有する場合の置換基には、アルキル基、芳香族基、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基、ジアゾ基、シアノ基、アルコキシ基、アシル基、スルホン酸基、リン酸基、グアニジル基、ジアルキルアミノ基、及びトリアルキルアンモニウム基から選択することができる。
【0092】
この発明において使用する上記カルバメート化合物に関しては、本発明の分析方法で使用するカルバメート化合物について説明した通りである。
【0093】
上記カルバメート化合物に含まれる安定同位体としては、13C、H(D)、15N、及び18Oから選択することができる。
【0094】
本発明は、更に別の形態として、前記本発明の分析方法であって、安定同位体を含まないカルバメート化合物(標識試薬)と反応させた試料(サンプル)と、安定同位体を1つ以上含み、前記カルバメート化合物と同一構造(同一の骨格)を有するカルバメート化合物(標識試薬)を反応させた別の試料(サンプル)とを混合し、タンデム質量分析計で同時に複数の試料(サンプル)を分析する方法にも存する。
【0095】
上記安定同位体を含まないカルバメート化合物として、合成的に導入されたものではない、又は天然存在比に従うものを採用することができる。
【0096】
上記カルバメート化合物と同一構造を有するカルバメート化合物として、分子内に12C及び/又は13Cを含む化合物を採用することができる。
【0097】
この方法において、得られる分析結果を相対的、半定量的かつ視覚的に求める方法、特に相互に比較可能なように表現する方法を含むことができる。
【0098】
以上の方法は、代表的な方法を示したが、複数の試料に対して、同一構造式を有するカルバメート化合物(標識試薬)で相互に同位体組成を異にする化合物を複数種用意し、それぞれ各試料と各カルバメート化合物とを反応させ、これ等の混合物を一つの試料として本発明の質量分析を行うことにより、複数試料の同時測定を行うことができる。
【0099】
例えば、本発明の前記分析方法であって、一のカルバメート化合物(標識試薬)と反応させた試料(サンプル)と、前記一のカルバメート化合物に対する安定同位体を1つ以上含み前記カルバメート化合物と同一構造を有するカルバメート化合物(標識試薬)と反応させた別の試料(サンプル)とを混合し、タンデム質量分析計で同時に複数の試料(サンプル)を分析する方法や;
【0100】
同様に、複数の試料に対し、それぞれ相互に異なる数の同位体を含み質量の異なる同一構造(式)を有するカルバメート化合物複数種を用意し、各試料と当該相互に異なる各カルバメート化合物1種とを反応させた後に各試料反応物を混合し、タンデム質量分析計で同時に複数の試料(サンプル)を分析する方法等を提供する。
【0101】
これらの方法では、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)、p−ジメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(DAHS)のような試薬骨格側が第二マスアナライザーで検出することができる試薬を使用することができる。また、その質量差が大きい程望ましく、更にこれ等の標識試薬と構成原子の安定同位体としては、12Cに対する13Cの関係が望ましい。
【0102】
〔複数試料の同時測定に関する従来の技術〕
複数の試料(サンプル)中のアミノ官能性化合物を分析する際には、サンプルの数の回数分析を行うことが必要となる。このような場合には、測定間誤差、即ち精度が問題となる。特に、質量分析計を検出器として用いた場合、試料ごとにイオン化効率が異なることが広く知られており、サンプル間の化合物量を比較する場合、内部標準物質による補正が必須であった。
【0103】
本発明においては、分析をより迅速に行うために、複数のサンプルを同時に測定する優れた方法を提供することができる。また、得られる分析結果を半定量的に視覚的に表現することもできる。例えば、視覚的にDNAマイクロアレイのように表現することで、大量データを扱うことが可能となる。
【0104】
詳細には、カルバメート化合物の試薬骨格部:O=C−NH−Ar内に安定同位体原子を一つ以上導入することで、物理化学的性質がほぼ同じで、質量のみが異なる試薬を用い、更にタンデム質量分析計を用いることで、複数のサンプルを一度に分析に付すことができるようにする。
【好適な実施の形態】
【0105】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0106】
<例1:p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートの合成>
次の手順に従ってp−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートを合成した。アセトニトリル{純正化学株式会社}25ミリリットル中にN,N−ジメチルアミノ−p−フェニレンジアミン{和光純薬工業株式会社}535mg(5ミリモル)を溶解させ、滴下漏斗に入れた。炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(DSC){和光純薬工業株式会社}1.28g(5ミリモル)をアセトニトリル50ミリリットル中に溶解させ、攪拌した。この溶液に、N,N−ジメチルアミノ−p−フェニレンジアミン溶液を2時間かけて滴下した。滴下が完了した後に、更に22時間攪拌し、反応混合物からアセトニトリルを留去した。5ミリリットルのアセトニトリルに溶解させ、析出物を濾取した。収量は597mg(収率48%)であった。
【0107】
H−NMRスペクトル(CDCN、ppm):δ; 7.22(d、9.0Hz 、2H)、6.72(d、9.0Hz、2H)、2.88(s、6H)、2.76(s、4H)。
QTOFMS:m/z 278[M+H]、Molecular formula:C1316(高分解能QTOFMS;m/z 278.1141,[M+H],Δ−4.4ppm)。
【0108】
<例2:p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイドの合成>
次の手順に従って、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイドを合成した。アセトニトリル8mL、ジクロロメタン{純正化学株式会社}2mLの混合溶媒中に、p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート264mg(1.1ミリモル)を溶解させ、攪拌した。この溶液にヨウ化メチル{ナカライテスク株式会社}0.4mL(8当量)添加し、23時間攪拌し、析出物を濾取した。収量:354mg(収率76%)。
【0109】
H−NMRスペクトル(DMSO−d6、ppm):δ;7.97(d、8.4Hz、2H)、7.62(d、8.4Hz、2H)、3.58(s、9H)、2.83(s、4H)。
QTOFMS:m/z 292[M]、Molecular formula:C1418(高分解能QTOFMS;m/z 292.1297,[M],Δ−2.9ppm)。
【0110】
<例3:3−アミノピリジルカルバメートの合成>
次の手順に従って、2−アミノピリジルカルバメートを合成した。アセトニトリル25ミリリットル中に3−アミノピリジン{和光純薬工業株式会社}470mg(5ミリモル)を溶解させ、滴下漏斗に入れた。炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(DSC)1.28g(5ミリモル)をアセトニトリル50ミリリットル中に溶解させ、攪拌した。この溶液に、3−アミノピリジン溶液を2時間かけて滴下した。滴下が完了した後に、更に21時間攪拌し、反応混合物からアセトニトリルを留去した。得られた、非結晶性固体の112mgを2ミリリットルのジエチルエーテル{純正化学株式会社}に溶解させ、12時間、冷暗所に放置し、析出物を濾取した。収量:32mg(収率29%)。
【0111】
H−NMRスペクトル(CDCl、ppm):δ;8.52(d、2.4Hz、1H)、8.33(dd、1.2 and 4.8Hz、1H)、8.03(ddd、1.2, 2.4 and 8.8Hz、1H)、7.32(dd、4.8 and 8.8Hz、1H)、2.91(s、4H)。
QTOFMS:m/z 236[M+H]、Molecular formula:C10(高分解能QTOFMS;m/z 236.0671,[M+H],Δ−1.5ppm)。
【0112】
<例4:1−ナフチルアミノ−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート合成>
次の手順に従って、1−ナフチルアミノ−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート[N. Nimura, K. Iwaki, T. Kinoshita, K. Takeda and H. Ogura , Anal. Chem., 58 (1986) 2372参照。]を合成した。アセトニトリル25ミリリットル中に1−ナフチルアミン{ICN}715mg(5ミリモル)を溶解させ、滴下漏斗に入れた。炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(DSC)1.28g(5ミリモル)をアセトニトリル50ミリリットル中に溶解させ、攪拌した。この溶液に、1−ナフチルアミン溶液を2時間かけて滴下した。滴下が完了した後に、更に18時間攪拌し、反応混合物からアセトニトリルを留去し目的の化合物558mg(収率28%)を得た。
【0113】
<例5:スクシンイミドフェニルカルバメート(PAHS)の合成>
次の手順に従ってPAHS [N. Nimura, K. Iwaki, T. Kinoshita, K. Takeda and H. Ogura , Anal. Chem., 58 (1986) 2372参照。]を合成した。アセトニトリル25ミリリットル中にアニリン{和光純薬}467mg(5ミリモル)を溶解させ、滴下漏斗に入れた。炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(DSC)1.28g(5ミリモル)をアセトニトリル50ミリリットル中に溶解させ、攪拌した。この溶液にアニリン溶液を2時間かけて滴下した。滴下が完了した後に、更に23時間攪拌し、反応混合物からアセトニトリルを留去し、目的の化合物を混合物として得た。
【0114】
<例6:芳香族カルバメート化合物によるアミンの標識化について具体的手順>
アミノ官能性化合物の標識は、芳香族カルバメートの極性の違いにより、以下の二つの方法(反応条件)を用いた。
【0115】
(1)アミノ官能性化合物を含む試料としてのアミン標準溶液20μLに、硼酸塩緩衝液(硼酸塩0.2M、EDTA5mM)60μLを添加した。この混合物に、標識試薬溶液(HPLC等級アセトニトリル1mL中にカルバメート化合物3mg)20μLを添加した。得られた混合物を55℃に10分間加熱した。
【0116】
(2)アミノ官能性化合物を含む試料としてのアミン標準溶液20μLに、硼酸塩緩衝液(硼酸塩0.2M、EDTA5mM)80μLとアセトニトリル80μLを添加した。この混合物に試薬溶液(HPLC等級アセトニトリル1mL中にカルバメート化合物3mg)20μLを添加した。得られた混合物を55℃に10分間加熱した。
【0117】
前記アミン標準液としてアミノ酸混合液を用いて、同様に調製した標識アミノ酸混合物について逆相カラムを用いて分離後、質量分析装置に導入した。一般的な条件は次の通りである。
【0118】
a)HPLC:Ajilent HP1100;
b)Columun:Develosil C30 UG 5μm 4.6mmI.D×250mm;
c)検出器:質量分析装置 Sciex API365;
d)移動相;
移動相A:0.2% AcOH
移動相B:0.2% AcOH in CHCN;及び
e)温度:40℃。
【0119】
<例7:分析例1>
p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Selected Reaction Monitoringにおいて検出した。
【0120】
HPLC分離の勾配条件は、移動相B 0min 0%→20min 30%を用いた。
SRMモードによる測定は、第一のマスアナライザー(Q1)で指定アミノ酸の標識体である質量(アミノ酸+標識化試薬−HOSu)を選択し、第二のマスアナライザー(Q3)では試薬由来のフラグメントイオンm/z=177を選択し検出する。(HOSuはN−ヒドロキシスクシンイミドを意味する。)
【0121】
例えば、Gluの場合 Q1:m/z=324/Q3:m/z=177を用いた。
但し、Arg, His, Lys, CysにおいてはQ1で標識アミノ酸の2価イオンを選択する。
【0122】
例えば、Arg(試薬の1結合体)の場合 Q1:m/z =176/Q3:m/z =177であり、Lys(試薬の2結合体)の場合 Q1:m/z =250/Q3:m/z =177とした。分析した結果を図1に示す。
【0123】
図1の結果から明らかな如く、試料中に含まれるアミノ酸を定量することができる。
【0124】
<例8:分析例2>
p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Precursor Ion Scan において検出した。
【0125】
HPLC分離の勾配条件は、移動相B 0min 0%→20min 30%を用いた。
Precursor Ion Scanモードによる測定は、第一のマスアナライザー(Q1)ではm/z =100〜600の質量範囲を設定した。第二のマスアナライザー(Q3)では試薬由来のフラグメントイオンm/z =177を設定した。分析した結果を図2に示す。
【0126】
図2の結果から明らかな如く、試料中に含まれるアミノ酸の質量を知ることができる。
【0127】
<例9:分析例3>
p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(DAHS)により、前記例6に記載した(2)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Selected Reaction Monitoringにおいて検出した。
【0128】
HPLC分離の勾配条件は、移動相B 0min 0%→20min 30%を用いた。
質量分析装置の設定方法については前記例7と同様であるが、試薬由来のフラグメントイオンを検出するQ3はm/z=163を設定した。
【0129】
例えば、Gluの場合、Q1:m/z=310/Q3:m/z=163を用いた。
但し、Arg, His, Lys, CysにおいてはQ1で標識アミノ酸の2価イオンを選択する。
【0130】
例えば、Arg(試薬の1結合体)の場合、Q1:m/z =169/Q3:m/z =163であり、Lys(試薬の2結合体)の場合、Q1:m/z =236/Q3:m/z =163とした。分析の結果を図3に示す。
【0131】
図3の結果から明らかな如く、試料中に含まれるアミノ酸を定量することができる。
【0132】
<例10:分析例4>
3−アミノピリジルカルバメート(APDS)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Selected Reaction Monitoringにおいて検出した。
【0133】
HPLC分離の勾配条件は、移動相B 0min 0%→20min 30%を用いた。
質量分析装置の設定方法については、前記例7と同様であるが、試薬由来のフラグメントイオンを検出するQ3はm/z=121を設定した。
【0134】
例えば、Gluの場合、Q1:m/z=148/Q3:m/z=121とした。
但し、Lys,CysにおいてはQ1で標識アミノ酸の2価イオンを選択する。
【0135】
例えば、Lys(試薬の2結合体)の場合、Q1:m/z =194/Q3:m/z =121とした。分析の結果を図4に示す。
【0136】
図4の結果から明らかな如く、試料中に含まれるアミノ酸を定量することができる。
【0137】
<例11:分析例5>
6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Selected Reaction Monitoringにおいて検出した。
HPLC分離の勾配条件は、移動相B 0min 0%→20min 30%を用いた。
【0138】
質量分析装置の設定方法については、前記例7と同様であるが、試薬由来のフラグメントイオンを検出するQ3はm/z=171を設定した。
【0139】
例えば、Gluの場合、Q1:m/z=318/Q3:m/z=171とした。
但し、Arg, His, Lys, CysにおいてはQ1で標識アミノ酸の2価イオンを選択する。
【0140】
例えば、Arg(試薬の1結合体)の場合、Q1:m/z =173/Q3:m/z =171、Lys(試薬の2結合体)の場合は、Q1:m/z =244/Q3:m/z =171とした。分析の結果を図5に示す。
【0141】
図5の結果から明らかな如く、試料中に含まれるアミノ酸を定量することができる。
【0142】
<例12:分析例6>
1−ナフチルアミノ−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(NAHS)により、前記例6に記載した(2)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Constant neutral loss Scan において検出した。
【0143】
HPLC分離の勾配条件については、移動相B 0min 10%→25min 60%→25.1min 80%→37min 80%を用いた。
【0144】
Constant neutral loss Scanモードは、第一マスアナライザー(Q1)では、m/z =200〜600の質量範囲を設定した。第二マスアナライザー(Q3)は、試薬骨格に相当する質量170をニュートラルロスとして設定し、m/z =200〜600の質量範囲をスキャンした。分析の結果を図6に示す。
【0145】
図6の結果から明らかな如く、試料中に含まれるアミノ酸の質量を知ることができる。
【0146】
<例13:分析例7>
PAHSにより、前記例6に記載した(2)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Constant neutral loss Scan において検出した。
【0147】
HPLC分離の勾配条件は、移動相B 0min 10%→25min 60%→25.1min 80%→37min 80%を用いた。
Constant neutral loss Scanモードは、第一マスアナライザー(Q1 )では、m/z =150〜400の質量範囲を設定した。第二マスアナライザー(Q3)は、試薬骨格に相当する質量119をニュートラルロスとして設定し、m/z =150〜400の質量範囲をスキャンした。分析の結果を図7に示す。
【0148】
<例14:分析例8>
p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Selected Reaction Monitoringにおいて検出した。
分離用カラムには野村化学Develosil C30−UG(粒子径3μm、4.6I.D×30mm)を用い、HPLC分離の勾配条件には、移動相B 0min→3min = 0%→56%を用いた。
SRMモードによる測定は、第一のマスアナライザー(Q1)で指定アミノ酸の標識体である質量(アミノ酸+標識化試薬−HOSu)を選択し、第二のマスアナライザー(Q3)では試薬由来のフラグメントイオンm/z=177を設定した。
【0149】
例えば、Gluの場合 Q1:m/z=324/Q3:m/z=177を用いた。
但し、Arg、Lys、及びCysにおいてはQ1で標識アミノ酸の2価イオンを選択する。
【0150】
例えば、Arg(試薬の1結合体)の場合 Q1:m/z =176/Q3:m/z =177であり、Lys(試薬の2結合体)の場合 Q1:m/z =250/Q3:m/z =177とした。
結果を図8に示す。
【0151】
実験条件に従い、各アミノ酸の溶液濃度は0.5nmo1/mLとし、10uLを注入したときに得られたクロマトグラムを図8に示した。その検出限界は2〜40fmolであった。
20種類のアミノ酸が3min(洗浄・平衡化時間を含めて8min/cycle)で分析を終了させることができた。
尚、Ile/Leuは識別できなかった。
【0152】
以上から、本発明方法において、例えばTAHS試薬を用いることにより分析時間を大幅に短縮できることが示された(短時間分析の事例)。
【0153】
<例15:検出限界の測定>
Selected Reaction Monitoring法でのアミノ酸の検出限界を下記の通り測定した。
【0154】
Selected Reaction Monitoring法を用いて、17種類のアミノ酸(ヒスチジン、アルギニン、セリン、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、スレオニン、アラニン、プロリン、シスチン、リジン、チロシン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、及びフェニルアラニンを含む。)の検出限界を求めた。
【0155】
検出限界は、アミノ酸の種類によって異なったが、検出器としてAPI365(アプライドバイオシステム)を用いた場合、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)で2〜40fmol、p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(DAHS)で3〜2000fmol、3−アミノピリジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(APDS)で3〜180fmol、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミドカルバメート(AQC)で2〜200fmolであった。
【0156】
検出器としてAPI4000(アプライドバイオシステム)を用いた場合、6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミドカルバメート標識後のアミノ酸の検出限界は0.03〜3fmolであった。(fmol=10−15mol)結果を下記表1に示した。
【0157】
【表1】

単位 fmol
1: API365(Applied Biosystems)タイプ質量分析計を用いた場合
2: API4000(Applied Biosystems)タイプ質量分析計を用いた場合
【0158】
以上の結果から、アミノ酸等のアミノ官能性化合物を、簡便かつ高感度に分析(定量)できることが分かる。
【0159】
<例16:AQC試薬を用いたアミノ酸標準品の同位体比分析>
6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC){ウォーターズ}により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した標識アミノ酸を逆相カラムによりHPLC分離し、Selected Reaction Monitoringにおいて検出した。
【0160】
HPLC分離の勾配条件は、移動相B 0min 0%→20min 30%を用いた。
SRMモードによる測定は、第一のマスアナライザー(Q1)で指定アミノ酸の標識体である質量(アミノ酸+標識化試薬−HOSu)を選択し、第二のマスアナライザー(Q3)では試薬由来のフラグメントイオンm/z=171.1を選択し検出する。(HOSu: N−ヒドロキシスクシンイミド)
【0161】
同位体比分析の測定では、第一のマスアナライザー(Q1)及び第二のマスアナライザー(Q3)の分解能を1マスユニットが識別できる高分解能条件(Q1/Q3=unit/unit)で分析を行った。
【0162】
例えば、Leuの場合で分子内の13Cの数を考慮すると
Q1:m/z=302.2(m、13Cが0個)/Q3:m/z=171.1
Q1:m/z=303.2(m+1、13Cが1個)/Q3:m/z=171.1
Q1:m/z=304.2(m+2、13Cが2個)/Q3:m/z=171.1
Q1:m/z=305.2(m+3、13Cが3個)/Q3:m/z=171.1
Q1:m/z=306.2(m+4、13Cが4個)/Q3:m/z=171.1
Q1:m/z=307.2(m+5、13Cが5個)/Q3:m/z=171.1
Q1:m/z=308.2(m+6、13Cが6個)/Q3:m/z=171.1
を用いた。
結果を表2に示す。
【0163】
【表2】

【0164】
以上の結果から、本発明においてアミノ官能性化合物の同位体を高感度に簡便に測定することが理解される。また、その同位体比率を高感度にかつ補正計算することなく求められることも分かる。
【0165】
<例17:フェニルアラニンの同定>
フェニルアラニンが質量、フラグメントイオン、組成式が未知であると仮定して、以下の実験操作を行った。以下、標品として用いたフェニルアラニンを未知化合物と表記し、フェニルアラニンと同定するまでの工程を記す。
【0166】
未知化合物のm/zを336であると求められ、精密質量が測定可能な装置(四重極−飛行時間型質量分析計)では、目的の標識された未知化合物の精密質量m/zが336.1373と求められる。得られた精密質量から未知化合物の組成式の候補はC9H11NO2(最も理論値に近い組成式=errorが最小)であった。これ等の情報を元に、KEGG(http://www.genome.ad.jp/kegg/)の化合物データベースから検索を行ない未知化合物はフェニルアラニン及びベンゾカインが候補化合物となった。
【0167】
<例18:p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド−d3の合成>
次の手順に従って、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド−d3を合成した。アセトニトリル8mL、ジクロロメタン{純正化学株式会社}2mLの混合溶媒中にp−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート264mg(1.1ミリモル)を溶解させ、攪拌した。この溶液にヨウ化メチル−d3{日本酸素株式会社}0.4mL(8当量)添加し、50時間攪拌し、析出物を濾取した。
【0168】
<例19:分析例9>
p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド−d3(TAHS−d3)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した標識アミノ酸(アミノ酸の濃度は5nmol/mL)及びp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した標識アミノ酸(アミノ酸の濃度は濃度は10nmol/mL)の反応液を混合したものを逆相カラムによりHPLC分離し、Selected Reaction Monitoringにおいて検出した。
【0169】
HPLC分離の勾配条件は、移動相B 0min 0%→20min 30%を用いた。
SRMモードによる測定は、第一のマスアナライザー(Q1)で指定アミノ酸の標識体である質量(アミノ酸+標識化試薬−HOSu)を選択し、第二のマスアナライザー(Q3)では試薬由来のフラグメントイオンを選択し検出する。
【0170】
例えば、Pheの場合
TAHS−d3により標識されたPheはQ1:m/z=345/Q3:m/z=180
TAHSにより標識されたPheはQ1:m/z=342/Q3:m/z=177を用いた。
結果を図9に示す。
【0171】
<例20:分析例10>
p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド−d3(TAHS−d3)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製したサンプルA及びp−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド(TAHS)により、前記例6に記載した(1)の反応条件によって調製した試料(サンプル)Bの反応混合液の分析結果を、例えば、視覚的に代謝マップ上に表現した結果を図10に示す。
【0172】
この結果から複数のサンプルを同時に測定し、分析間の感度補正等を行うことなく簡便な処理により、例えば、複数のサンプルの状態間差を相対的に半定量的な結果を視覚的に表現することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする新規化合物。



上記式中、カルバメート基の窒素原子に結合するArは、極性置換基が環に結合するフェニル基、又は極性置換基が環に結合しないピラジル基を表し、Ar基とカルバメート基の窒素原子との結合はAr基中当該環を構成する炭素原子と当該カルバメート基の窒素原子とが結合し、当該カルバメート化合物は塩の形態でもよい。
【請求項2】
当該極性置換基がスルホン酸基、グアニジル基、リン酸基、ジアルキルアミノ基、及びトリアルキルアンモニウム基から選択される請求項1記載の新規化合物。
【請求項3】
当該ジアルキルアミノ基及びトリアルキルアンモニウム基のアルキル基はそれぞれ独立的に、炭素数1〜5のアルキル基を表す請求項2記載の新規化合物。
【請求項4】
当該新規化合物が、p−ジメチルアミノアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート、p−トリメチルアンモニウムアニリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートアイオダイド及びアミノピラジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメートである請求項1記載の新規化合物。
【請求項5】
当該新規化合物において、構造中O=C−NH−Arに含まれる少なくとも一つの原子(但し、交換性の水素原子は除く。)に安定同位体元素を含むことを特徴とする請求項1〜4記載の新規化合物。
【請求項6】
当該安定同位体が13C、H(D)、15N、及び18Oから選択される請求項5記載の新規化合物。
【請求項7】
下記一般式(1)で示されるカルバメート化合物を含有することを特徴とする質量分析に適したアミノ官能性化合物用標識試薬。


上記式中、カルバメート基の窒素原子に結合するArは芳香族性を示す炭素環化合物又は複素環化合物残基を表し、当該芳香環は一つ以上の置換基を有していてもよく、Ar基とカルバメート基の窒素原子との結合はAr基中当該環を構成する炭素原子と当該カルバメート基の窒素原子とが結合し、当該カルバメート化合物は塩の形態でもよい。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−15537(P2013−15537A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−216013(P2012−216013)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【分割の表示】特願2009−269796(P2009−269796)の分割
【原出願日】平成15年2月13日(2003.2.13)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】