説明

アミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法

【課題】前駆体であるアミノ酸カーバメートを製造途中で単離精製する必要がなく、一連の工程によりアミノ酸−N−カルボキシ無水物を合成可能なアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法を提供する。
【解決手段】本製造方法は、(1)アミノ酸(例えば、L−バリン、L−フェニルアラニン等)と、オニウム塩(例えば、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩等)と、カーボネート(例えば、炭酸ジフェニル等)と、水と、有機溶剤(例えば、メチルイソブチルケトン等)と、を混合し、反応させて反応溶液を調製する工程と、(2)得られた反応溶液に、オニウム塩由来の反応残渣を除去するための酸を添加する工程と、(3)酸が添加された反応溶液に含まれる水を除去する工程と、(4)水が除去された反応溶液を加熱する工程と、(5)加熱された反応溶液からアミノ酸−N−カルボキシ無水物を晶析させて得る工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、前駆体であるアミノ酸カーバメートを途中で単離精製する必要がなく、一連の工程によりアミノ酸−N−カルボキシ無水物を合成可能なアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アミノ酸−N−カルボキシ無水物は、アミノ酸からポリペプチドを合成する際の中間原料として有用である。このアミノ酸−N−カルボキシ無水物の合成法としては、アミノ酸にホスゲンを反応させる方法が知られている。
【0003】
しかしながら、ホスゲンは極めて毒性の強いガスであるため、環境問題、安全性の観点から、その取り扱いには厳重な注意が必要である。そのため、ホスゲンの使用は厳しく制限され、アミノ酸−N−カルボキシ無水物の工業的利用を制約している。かかる観点から、ホスゲンを使用しない方法が種々検討されている(特許文献1〜4及び非特許文献1〜3)が、それらはいずれも工業的に応用できないか、又は原料にホスゲンを使用する問題点があった。
【0004】
そこで、本出願人は、アミノ酸とビス(置換フェニル)カーボネートを反応させるか、又はアミノ酸エステルとビス(置換フェニル)カーボネートとを反応させることにより、アミノ酸エステルカーバメート体を介して得られる生成物(アミノ酸カーバメート体)を採取し、その後、加熱することによりアミノ酸−N−カルボキシ無水物が効率よく得られることを見出し、特許出願した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5359086号明細書
【特許文献2】特開平11−29560号公報
【特許文献3】特開2000−327666号公報
【特許文献4】特開2002−322160号公報
【特許文献5】特開2007−22932号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters,1996,37,9043.
【非特許文献2】Chemistry Letters,2003,32,830.
【非特許文献3】Macromolecules 2004,37,251.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献5記載の方法は、ホスゲンを使用せず、工業的に応用可能な方法である。
しかしながら、更なる生産性向上の観点から、目的物であるアミノ酸−N−カルボキシ無水物をより簡便に且つより高収率に製造可能な方法が求められているのが現状である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ホスゲンを用いず、且つ製造途中で前駆体であるアミノ酸カーバメートを反応溶液から単離精製することなく、一連の工程によりアミノ酸−N−カルボキシ無水物を合成可能なアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の通りである。
[1](1)アミノ酸と、オニウム塩と、カーボネートと、水と、有機溶剤と、を混合し、反応させて反応溶液を調製する反応溶液調製工程と、
(2)得られた反応溶液に、前記オニウム塩由来の反応残渣を除去するための酸を添加する酸添加工程と、
(3)前記酸が添加された反応溶液に含まれる水を除去する水除去工程と、
(4)前記水が除去された反応溶液を加熱する加熱工程と、
(5)前記加熱された反応溶液からアミノ酸−N−カルボキシ無水物を晶析させて得る晶析工程と、を備えることを特徴とするアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[2]前記オニウム塩が、4級アンモニウム塩である前記[1]に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[3]前記オニウム塩のアニオンが、HSO又はSO2−である前記[1]又は[2]に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[4]前記有機溶剤は、前記水よりも沸点の高い溶剤である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[5]前記有機溶剤はケトン類である前記[1]乃至[4]のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[6]前記水除去工程後の反応溶液における水含有量が、500ppm以下である前記[1]乃至[5]のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[7]前記加熱工程において、加熱する際に、前記反応溶液に酸を加える前記[1]乃至[6]のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[8]前記加熱工程において加える酸が、カルボン酸類である前記[7]に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[9]前記カルボン酸類は、20℃で液体である前記[8]に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[10]前記晶析工程において、前記アミノ酸−N−カルボキシ無水物の貧溶剤として炭化水素を用いる前記[1]乃至[9]のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
[11]前記晶析工程において、前記貧溶剤に加えて、トルエン及びエーテル類のうちの少なくとも一方を用いる前記[10]に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造途中で前駆体であるアミノ酸カーバメートを反応溶液から単離精製する必要がなく、一連の工程によりアミノ酸−N−カルボキシ無水物を高収率で製造することができる。更には、同一の溶剤を用いて一気通貫に、アミノ酸−N−カルボキシ無水物を高収率で製造することができる。
また、オニウム塩として4級アンモニウム塩を用いる場合には、目的物の収率をより向上させることができる。
更に、オニウム塩のアニオンが、HSO又はSO2−である場合には、反応溶液における不純物の発生を十分に抑制することができ、目的物の収率を向上させることができる。
また、有機溶剤が水よりも沸点の高いものである場合、水の除去がより容易となり、生産性を向上させることができる。
更に、有機溶剤がケトン類である場合、同一の溶剤で一気通貫に、アミノ酸−N−カルボキシ無水物を高収率で安定して製造することができる。
また、水除去工程後の反応溶液における水含有量が、500ppm以下である場合、アミノ酸−N−カルボキシ無水物を高収率で安定して製造することができる。
更に、加熱工程において、反応溶液に酸を加える場合、生成する目的物の溶液中における安定性を向上させることができるとともに、収率も向上させることができる。
また、加熱工程において加える酸が、カルボン酸類である場合、生成する目的物の溶液中における安定性を向上させることができるとともに、収率も向上させることができる。
更に、カルボン酸類が20℃で液体である場合、晶析時に析出することがなく、目的物を容易に単離することができる。
また、晶析工程において、目的物の貧溶剤として炭化水素を用いる場合、アミノ酸−N−カルボキシ無水物を高収率で製造することができる。
更に、晶析工程において、貧溶剤に加えて、トルエン及びエーテル類のうちの少なくとも一方を用いる場合、アミノ酸−N−カルボキシ無水物の精製効率をより向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法は、(1)反応溶液調製工程と、(2)酸添加工程と、(3)水除去工程と、(4)加熱工程と、(5)晶析工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
[1]反応溶液調製工程
上記反応溶液調製工程は、アミノ酸と、オニウム塩と、カーボネートと、水と、有機溶剤と、を混合し、反応させて反応溶液を調製する工程である。
【0013】
上記アミノ酸としては、下記一般式(1)で表されるものが好ましい。
【化1】

〔一般式(1)において、Xは置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示す。〕
【0014】
一般式(1)におけるXとしては、下記一般式(a)で表される2価の炭化水素基が好ましい。
【0015】
【化2】

〔一般式(a)において、R及びRは、互いに独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。mは1〜15の整数を示す。〕
【0016】
一般式(a)におけるR及びRの1価の炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよい複素環アルキル基等が挙げられる。
これらの炭化水素基に置換し得る基としては、例えば、塩素、フッ素等のハロゲン原子、フェニル基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシ基、エステル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0017】
上記R及びRの置換基を有していてもよいアルキル基とは、非置換若しくは任意の一部が置換されたアルキル基を意味し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリクロロエチル基、アダマンチル基、メチルメルカプトエチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、メルカプトメチル基、メルカプトエチル基、メチルメルカプトエチル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、アミノプロピル基、アミノブチル基、アミノカルボニルメチル基、アミノカルボニルエチル基、ペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、−(CH−NH−C(=NH)−NH、−(CHNH−CO−NH等が挙げられる。
【0018】
上記R及びRの置換基を有していてもよいシクロアルキル基とは、非置換若しくは任意の一部が置換されたシクロアルキル基を意味し、具体的には、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0019】
上記R及びRの置換基を有していてもよいアリール基とは、非置換若しくは任意の一部が置換されたアリール基を意味し、具体的には、フェニル基、トリル基、メトキシフェニル基、ベンジルオキシフェニル基、エチルフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ニトロフェニル基等が挙げられる。
【0020】
上記R及びRの置換基を有していてもよいアリールアルキル基とは、非置換若しくは任意の一部が置換されたアリールアルキル基を意味し、具体的には、フルオレニルメチル基、ベンジル基、ニトロベンジル基、アミノベンジル基、ブロモベンジル基、メトキシベンジル基、ヒドロキシベンジル基、ジヒドロキシベンジル基、フェナシル基、メトキシフェナシル基、シンナミル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0021】
上記R及びRの置換基を有していてもよい複素環基とは、非置換若しくは任意の一部が置換された複素環基を意味し、具体的には、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチエニル基、ピペリジル基、モルホリニル基、ピペラジニル基、ピロリル基、ピロリジニル基、フリル基、チエニル基、ピリジル基、フルフリル基、テニル基、ピリミジル基、ピラジル基、イミダゾイル基、インドリル基、イソキノリル基、キノリル基、チアゾリル基等が挙げられる。
【0022】
上記R及びRの置換基を有していてもよい複素環アルキル基とは、非置換若しくは任意の一部が置換された複素環アルキル基を意味し、具体的には、ピリジルメチル基、イミダゾイルメチル基、インドリルメチル基等が挙げられる。
【0023】
また、同一の炭素原子に結合するR及びRは、互いに結合してシクロアルキル骨格(特に、炭素数3〜6)を形成してもよい。また、そのシクロアルキル骨格は縮合環として芳香環又はヘテロ環(例えば、インドール、ピロリジン、イミダゾール、ピロール、ピペリジン、ジヒドロキノリン等)を有していてもよい。
【0024】
また、上記R及びRは、(1)共に水素原子であるか、(2)R又はRが水素原子であり、残りのR又はRが、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、置換基を有していてもよい複素環アルキル基であることが好ましい。
【0025】
また、上記一般式(a)におけるmは、1〜10の整数であることが好ましく、より好ましくは1〜8の整数、更に好ましくは1である。
【0026】
ここで、具体的なアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、シスチン、アルギニン、リジン、セリン、トレオニン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン等の蛋白の主要構成のα−アミノ酸をはじめ、オルチニン、ノルロイシン、セレノシステイン、システインスルホン酸等が挙げられる。更には、β‐アミノ酸、γ‐アミノ酸等が挙げられる。
【0027】
上記オニウム塩としては、下記一般式(2)で表されるものが好ましい。
【0028】
【化3】

〔一般式(2)において、[AY]はカチオンを示し、Zはアニオンを示す。〕
【0029】
一般式(2)におけるYとしては、第14族元素、第15族元素、第16族元素又は第17族元素の原子が好ましい。
第14族元素の原子としては、スズ原子が好ましい。第15族元素の原子としては、窒素原子、リン原子、ヒ素原子、アンチモン原子、ビスマス原子等が挙げられ、これらのなかでも、窒素原子、リン原子が好ましい。第16族元素の原子としては、酸素原子、イオウ原子、セレン原子、テルル原子、ポロニウム原子等が挙げられ、これらのなかでも、酸素原子、イオウ原子が好ましい。第17族元素の原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アスタチン原子等が挙げられ、ヨウ素原子が好ましい。
【0030】
尚、Yがスズ原子の場合、[AY]はスタンノニウムイオンであり、第3級スタンノニウムイオンが好ましい。Yが窒素原子の場合、[AY]はアンモニウムイオンであり、第4級アンモニウムイオンが好ましい。Yがリン原子の場合、[AY]はホスホニウムイオンであり、第4級ホスホニウムイオンが好ましい。Yがヒ素原子の場合、[AY]はアルソニウムイオンであり、第4級アルソニウムイオンが好ましい。Yがアンチモン原子の場合、[AY]はスチボニウムイオンであり、第4級スチボニウムイオンが好ましい。Yが酸素原子の場合、[AY]はオキソニウムイオンであり、第3級オキソニウムイオンが好ましい。Yがイオウ原子の場合、[AY]はスルホニウムイオンであり、第3級スルホニウムイオンが好ましい。Yがセレン原子の場合、[AY]はセレノニウムイオンであり、第3級セレノニウムイオンが好ましい。Yがヨウ素原子の場合、[AY]は、ヨードニウムイオンであり、第2級ヨードニウムイオンが好ましい。
これらのなかでも、目的生成物を高収率で得られるという観点から、Yが窒素原子であることが好ましい。特に、[AY]が第4級アンモニウムイオンであることが好ましい。
【0031】
また、一般式(2)において、[AY]としては、
(a):[(R](ここで、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。nは2〜4の整数を示す。)で表されるカチオン、
(b):置換基を有していてもよい、1以上の上記Y原子を含有する複素環(Y原子含有複素環)のY原子上に水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基が1個結合したカチオン、或いは、
(c):重合体に結合した上記(a)又は(b)のカチオン、であることが好ましい。
【0032】
上記[AY]が上記(a)の場合、[(R]におけるRの1価の炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基が挙げられる。これらのなかでも、目的生成物を高収率で得られるという観点から、置換基を有していてもよいアルキル基が好ましい。
【0033】
これらの炭化水素基における置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基;シリル基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基等のトリ置換シリル基;塩素、フッ素等のハロゲン原子;ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;アミノ基;N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等のN,N−ジ置換アミノ基;水酸基;シロキシ基;メチルシロキシ基、エチルシロキシ基等の置換シロキシ基;シアノ基等が挙げられる。
【0034】
上記アルキル基としては、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜20(好ましくは1〜15、特に1〜12)のアルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デカニル基等が挙げられる。これらのなかでも、n−ブチル基がより好ましい。
上記シクロアルキル基としては、炭素数3〜20(特に3〜10)のシクロアルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0035】
上記アルケニル基としては、炭素数2〜18(特に2〜10)のアルケニル基が挙げられる。具体的には、例えば、ビニル基、プロペニル基、3−ブテニル等が挙げられる。
上記シクロアルケニル基としては、炭素数5〜18(特に5〜10)のシクロアルケニル基が挙げられる。具体的には、例えば、シクロヘキセニル、シクロオクテニル、シクロドデセニル等が挙げられる。
【0036】
上記アリール基としては、炭素数6〜14(特に6〜10)のアリール基が挙げられる。具体的には、例えば、フェニル、トリル、ナフチル等が挙げられる。
上記アリールアルキル基としては、炭素数7〜13(特に7〜9)のアリールアルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル等が挙げられる。
【0037】
また、[(R]において、nは、2〜4の整数を示す。Yが第14族元素の原子の場合にはn=3であり、Yが第15族元素の原子の場合にはn=4であり、Yが第16族元素の原子の場合にはn=3であり、Yが第17族元素の原子の場合にはn=2である。
【0038】
[(R]で表される具体的なカチオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウム等の第4級アンモニウムイオン;テトラブチルホスホニウム、ブチルトリフェニルホスホニウム等の第4級ホスホニウムイオン;トリエチルオキソニウム、トリメチルオキソニウム等の第3級オキソニウムイオン;(2−カルボキシエチル)ジメチルスルホニウム、(3−クロロプロピル)ジフェニルスルホニウム、シクロプロピルジフェニルスルホニウム、ジフェニル(メチル)スルホニウム、トリ−n−ブチルスルホニウム、トリ−p−トリルスルホニウム、トリエチルスルホニウム、トリメチルスルホニウム、トイフェニルスルホニウム等の第3級スルホニウムイオン;ジフェニルヨードニウム等の第2級ヨードニウムイオン等が挙げられる。
これらのなかでも、テトラブチルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0039】
上記[AY]が上記(b)の場合における、1以上のY原子含有複素環としては、芳香族複素環、不飽和複素環が挙げられる。
Yが窒素原子の場合は、芳香族複素環が好ましく、窒素原子を1〜3個有する5員環、6員環又はそれらを含む縮合環がより好ましい。
また、Yがイオウ原子の場合は、イオウ原子を1又は2個有する5員環、6員環又はそれらを含む縮合環が好ましい。
【0040】
また、Y原子含有複素環のY原子上に結合する、置換基を有していてもよい炭化水素基としては、上記Rにおける炭化水素基と同様のものを挙げることができる。
特に、この炭化水素基としては、置換基を有してもよい直鎖状又は分岐状のアルキル基(炭素数1〜6)であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられ、特に、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0041】
また、Y原子含有複素環中のカチオンを形成するY原子以外のY原子及び炭素原子上には、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等の置換基を有していてもよい。このアルキル基としては、炭素数1〜12の直鎖状若しくは分岐状のものが好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数1〜6のものが好ましい。
【0042】
ここで、Yが窒素原子の場合、具体的な複素環カチオンとしては、例えば、ピロリウム、イミダゾリウム、2H−ピロリウム、ピラゾリウム、ピリジニウム、ピラジニウム、ピリミジニウム、ピリダジニウム、インドリジニウム、インドリウム、3H−インドリウム、1H−インダゾリウム、イソインドリウム、プリニウム、4H−キノリジニウム、イソキノリニウム、キノリニウム、フタラジニウム、ナフチリジニウム、キノキサリニウム、キナゾリニウム、シノリニウム、プテリジニウム、4aH−カルバゾリウム、カルバゾリウム、β−カルボリニウム、フェナンスリジニウム、アクリジニウム、ペリミジニウム、フェナンスロリニウム、フェナジニウム等が挙げられる。これらのなかでも、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウムが好ましく、イミダゾリウムがより好ましい。
また、Yが酸素原子の場合、具体的な複素環カチオンとしては、例えば、2,4,6−トリメチルピリリウム、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルピリリウム等が挙げられる。
更に、Yがイオウ原子の場合、具体的な複素環カチオンとしては、1,3−ベンゾジチオリリウム、1−ベンジルテトラヒドロチオフェン−1−イウム等が挙げられる。
【0043】
上記(c)のように、上記[AY]が、重合体に結合した上記(a)又は(b)のカチオンである場合において、上記(a)、(b)のカチオンとしては上述のものが挙げられる。また、上記重合体としては、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリm−メチルスチレン、ポリp−メチルスチレン、ポリビニルトルエン、ポリp−メトキシスチレン、ポリアリルベンゼン等の芳香族ビニル系ポリマー;ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等の脂環族ビニル系ポリマー;ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリプロピルビニルエーテル、ポリブチルビニルエーテル等の脂肪族ビニルエーテル系ポリマー;ポリシクロペンチルビニルエーテル、ポリシクロヘキシルビニルエーテル等の脂環族ビニルエーテル系ポリマー;ポリフェニルビニルエーテル、ポリベンジルビニルエーテル等の芳香族ビニルエーテル系ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル等のアクリル系ポリマー等を挙げることができる。
【0044】
上記オニウム塩のZ(アニオン)としては、例えば、HSO、SO2−、Br、Cl等が挙げられる。これらのなかでも、反応溶液における不純物の発生を十分に抑制することができ、目的物の収率を向上させることができるという観点から、HSO、SO2−であることが好ましい。
【0045】
特に、本発明におけるオニウム塩は、4級アンモニウム塩であることが好ましい。
具体的な4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウム硫酸水素塩、テトラプロピルアンモニウム硫酸塩、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウム硫酸塩等が挙げられる。これらのなかでも、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩が好ましい。
【0046】
上記オニウム塩の配合量は、アミノ酸1モルに対して、0.5〜10.0モルであることが好ましく、より好ましくは0.8〜3.0モルである。
【0047】
上記カーボネートとしては、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
【0048】
【化4】

〔一般式(3)において、Rは、互いに独立に、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。〕
【0049】
一般式(3)におけるRの置換基を有していてもよい1価の炭化水素基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基等が挙げられる。これらのなかでも、置換基を有していてもよいアリール基が好ましい。
【0050】
これらの炭化水素基における置換基としては、例えば、ニトロ基;塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子;パーフルオロアルキル基(ここで、アルキル基としては、炭素数1〜8の直鎖状、分枝状若しくは環状の飽和及び不飽和アルキル基等が挙げられる。);パークロロアルキル基(ここで、アルキル基としては、パーフルオロアルキル基と同じものが挙げられる。);エステル基;アセチル基;シアノ基;ベンゾイル基等が挙げられる。これらのなかでも、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲン置換アルキル基(ここで、アルキル基としては、パーフルオロアルキル基と同じものが挙げられる。)が好ましい。
【0051】
上記アルキル基としては、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜20(特に1〜10)のアルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デカニル基等が挙げられる。
上記シクロアルキル基としては、炭素数3〜20(特に3〜10)のシクロアルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0052】
上記アルケニル基としては、炭素数2〜18(特に2〜10)のアルケニル基が挙げられる。具体的には、例えば、ビニル基、プロペニル基、3−ブテニル等が挙げられる。
上記シクロアルケニル基としては、炭素数5〜18(特に5〜10)のシクロアルケニル基が挙げられる。具体的には、例えば、シクロヘキセニル、シクロオクテニル、シクロドデセニル等が挙げられる。
【0053】
上記アリール基としては、炭素数6〜14(特に6〜10)のアリール基が挙げられる。具体的には、例えば、フェニル、トリル、ナフチル等が挙げられる。
上記アリールアルキル基としては、炭素数7〜13(特に7〜9)のアリールアルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル等が挙げられる。
【0054】
また、具体的なカーボネートとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ビス(4−ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2−ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2,4−ジニトロフェニル)カーボネート、ビス(2,4,6−トリニトロフェニル)カーボネート、ビス(ペンタフルオロフェニル)カーボネート、ビス(4−クロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4−ジクロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)カーボネート等が挙げられる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネートが好ましい。
尚、カーボネートは、公知の方法により製造でき、市販のものを使用できる。
【0055】
上記カーボネートの配合量は、アミノ酸1モルに対して、0.5〜10.0モルであることが好ましく、より好ましくは0.8〜3.0モルである。
【0056】
上記水は特に限定されず、例えば、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。
水の配合量は、上記アミノ酸とオニウム塩とを十分に反応させることができる限り、特に限定されず、適宜調整することができる。
【0057】
上記有機溶剤は、上記カーボネートを溶解可能なものが好ましく、目的物(アミノ酸−N−カルボキシ無水物)及びその前駆体(アミノ酸カーバメート)を溶解可能なものがより好ましい。
【0058】
また、この有機溶剤は、水との相溶性が低いものが好ましい。具体的には、有機溶剤の水への溶解度(20℃)が、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜10質量%である。
【0059】
更に、この有機溶剤の沸点(標準沸点)は、水よりも高いことが好ましく、より好ましくは100〜400℃、更に好ましくは100〜200℃である。有機溶剤の沸点が水より高い場合、水の除去がより容易となり、生産性を向上させることができる。
【0060】
具体的な有機溶剤としては、例えば、ケトン類、エーテル類が挙げられる。
上記ケトン類としては、例えば、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ベンジルメチルケトン、ジエチルケトン、メチルペンチルケトン、メチルヘキシルケトン、アセトフェノン等が挙げられる。
上記エーテル類としては、例えば、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロペンタンモノメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等が挙げられる。
これらのなかでも、同一の有機溶剤で一気通貫に、目的物であるアミノ酸−N−カルボキシ無水物を高収率で安定して製造することができるという観点から、ケトン類が好ましい。ケトン類のなかでも、合計炭素数が5〜10であるものが好ましい。特に、メチルイソブチルケトン(沸点;116.2℃、水への溶解度(20℃);1.91質量%)、メチルヘキシルケトン(沸点;173℃、水への溶解度(20℃);0.9質量%)が好ましい。
尚、これらの有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
また、本発明における上記反応溶液調製工程においては、上述の各原料を混合し、反応させることにより、下記に示すように、目的物の前駆体であるアミノ酸カーバメート[下記式(4)]が生成される。尚、式(4)における、R及びXは、それぞれ、上述の一般式(1)におけるX、及び一般式(3)におけるRと同義である。
【0062】
【化5】

【0063】
また、上記反応溶液を調製する際には、水中におけるアミノ酸とオニウム塩(特に4級アンモニウム塩)との反応を促進させるために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリを配合することができる。
【0064】
反応溶液調製工程において、上記各原料を混合する際の順序等は特に限定されない。具体的には、例えば、(i)アミノ酸と、オニウム塩と、カーボネートと、水と、有機溶剤と、を一括して同一の系において混合し、反応させて反応溶液を調製してもよいし、(ii)アミノ酸、オニウム塩及び水の混合物若しくは反応物と、カーボネート及び有機溶剤の混合物とを混合し、反応させて反応溶液を調製してもよい。特に、目的物の収率向上の観点から、上記(ii)の調製方法が好ましい。尚、上記(ii)における混合物や反応物は、市販品を用いることもできる。
【0065】
上記反応溶液を調製する際の反応条件は特に限定されない。通常、大気下で実施可能であるが、アルゴン、窒素等の不活性気体雰囲気下で実施してもよい。また、常圧、減圧、加圧のいずれの状態でも実施可能である。
また、反応温度は、通常−70〜120℃であり、好ましくは−10〜70℃である。
更に、反応時間は、通常0.1〜100時間であり、好ましくは0.5〜20時間である。
【0066】
[2]酸添加工程
上記酸添加工程は、得られた反応溶液に、上記オニウム塩由来の反応残渣を除去するための酸を添加する工程である。
具体的には、酸の配合により、アミノ酸カーバメート(前駆体)の生成反応が停止されるとともに、カーボネートとの未反応物におけるオニウム塩由来の反応残渣が除去され、不純物の発生を抑制することができる。
そして、本発明の製造方法では、このようにして不純物の発生を抑制しているため、前駆体を途中で単離精製することなく、溶液の状態で後工程に進むことができる。
【0067】
上記酸としては、上述の作用が得られるものであれば特に限定されず、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸等が挙げられる。これらのなかでも、工業的に大量に製造されており、安易に入手可能であり、且つ安価な酸であるという観点から、硫酸、塩酸、硝酸が好ましい。
【0068】
上記酸添加工程における酸の添加量は、アミノ酸1モルに対して、0.1〜30モルであることが好ましく、より好ましくは0.5〜5.0モルである。
【0069】
[3]水除去工程
上記水除去工程は、上記酸添加工程後の反応溶液に含まれる水を除去する工程である。
反応溶液から水を除去する方法は特に限定されず、加熱や減圧等の公知の方法を用いることができる。
また、水除去工程後の反応溶液に含まれる水含有量は、500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは50ppm以下)とすることが好ましい。この含有量が500ppm以下である場合には、アミノ酸−N−カルボキシ無水物を高収率で安定して製造することができる。
【0070】
[4]加熱工程
上記加熱工程は、上記水除去工程後の反応溶液を加熱する工程である。
この加熱工程により、反応溶液中において、以下に示すように下記式(4)の前駆体(アミノ酸カーバメート)を環化させることができ、目的物である下記式(5)のアミノ酸−N−カルボキシ無水物を生成することができる。
尚、式(4)、式(5)における、R及びXは、それぞれ、上述の一般式(1)におけるX、及び一般式(3)におけるRと同義である。
【0071】
【化6】

【0072】
この加熱工程における加熱条件は特に限定されない。具体的には、例えば、加熱温度は50〜200℃であることが好ましく、より好ましくは70〜150℃である。また、加熱時間は0.1〜300時間であることが好ましく、より好ましくは1〜150時間である。
【0073】
また、この加熱工程においては、生成する目的物の溶液中における安定性向上、及び収率向上の観点から、加熱する際に、反応溶液に触媒として酸を加えることが好ましい。
上記酸としては、例えば、カルボン酸類、フェノール類、リン酸類、スルホン酸類等が挙げられる。尚、これらの酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
上記カルボン酸類としては、例えば、酢酸、ヘキサン酸、オクタン酸、オクチル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、無水酢酸、フェニル酢酸、ジフェニル酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸等の置換基を有していてもよい飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、フマル酸、マレイン酸等の置換基を有していてもよい不飽和カルボン酸、安息香酸、p−ニトロ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、2,4−ジニトロ安息香酸、サリチル酸、フタル酸等の置換基を有していてもよい芳香族カルボン酸等が挙げられる。また、これらの具体的な置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シアノ基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0075】
上記フェノール類としては、例えば、2,4−ジニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、シアノフェノール、(2−ブタノン)フェノール等が挙げられる。
上記リン酸類としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸等が挙げられる。
上記スルホン酸類としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸;p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸等が挙げられる。
【0076】
これらの酸のなかでも、カルボン酸類が好ましい。特に、20℃で液体のカルボン酸類を用いることが好ましい。20℃で液体のカルボン酸類を用いる場合、後段の晶析工程において析出することがなく目的物を容易に単離することができ、目的物が高収率で得られるため好ましい。
【0077】
上記加熱工程における酸の使用量は、アミノ酸カーバメート(前駆体)1モルに対して、0.1〜30モルであることが好ましく、より好ましくは0.1〜10モルである。
【0078】
[5]晶析工程
上記晶析工程は、上記加熱された反応溶液から目的物であるアミノ酸−N−カルボキシ無水物を晶析させて得る工程である。即ち、この工程では、溶解度の温度依存性を利用することにより、反応溶液から目的物を結晶化させ、選択的に目的物が分離される。
また、晶析する際には、目的物の収率を向上させる観点から、エバポレーター等の公知の手段を用いて予め濃縮した反応溶液を用いることが好ましい。
【0079】
この晶析工程において用いられる貧溶剤(目的物であるアミノ酸−N−カルボキシ無水物に対して溶解度の小さい溶剤)は特に限定されないが、例えば、炭化水素類、ケトン類、エステル類、アルコール類等が挙げられる。これらのなかでも、目的物の収率を向上させる観点から、炭化水素類が好ましく、ペンタン、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭素数5〜11の炭化水素がより好ましい。
【0080】
また、上記貧溶剤を用いる場合、目的物の精製効率を向上させる観点から、トルエン及びエーテル類のうちの少なくとも一方を併用することが好ましい。エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
トルエン又はエーテル類を併用する際の配合割合は、貧溶剤を100体積%とした場合に、0.1〜1000体積%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜100体積%である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0082】
[1]アミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造
下記実施例1〜8のように、アミノ酸−N−カルボキシ無水物を製造した。
【0083】
<実施例1>
工程(1)[反応溶液調製工程]
ガラス製フラスコに、L−バリン0.52g(4.4mmol)、硫酸水素テトラブチルアンモニウム(TBA−HSO)1.36g(4mmol)を加えた。その後、20.78wt%の水酸化ナトリウム水溶液を1.54g(水酸化ナトリウム4mmol含有)添加し、室温で30分間攪拌した。次いで、30wt%の炭酸ジフェニル(DPC)−メチルイソブチルケトン(MIBK)溶液を2.36g(炭酸ジフェニル4mmol含有)添加し、室温で3時間攪拌して反応させ、反応溶液を調製した。
【0084】
工程(2)[酸添加工程]
上記工程(1)で得られた反応溶液に24gのメチルイソブチルケトンを添加後、1mol/Lの硫酸18gを添加して攪拌し、反応を停止した。
【0085】
工程(3)[水除去工程]
上記工程(2)において酸が添加された反応溶液を分液漏斗に移液し、攪拌した後、水相を除去した。更に、1mol/Lの硫酸18gを再度添加して、攪拌した後、水相を除去した(即ち、合計2回の硫酸洗浄を行った)。
次いで、水20gを添加し、攪拌した後、水相を除去した。更に、水20gによる有機相の洗浄を2回実施した(即ち、合計3回の水洗浄を行った)。
その後、得られた有機相に130gのメチルイソブチルケトンを添加した後、エバポレーターで液重量が52.3gになるまで減圧濃縮することにより反応溶液に含まれる水を除去した。
【0086】
工程(4)[加熱工程]
十分に乾燥させたガラス製フラスコに、上記工程(3)で得られた反応溶液52.3g、オレイン酸0.89mlを加えた。次いで、フラスコをオイルバスで加熱し、内温102℃にて12時間攪拌した。
その後、得られた反応溶液を冷却した後、NMR測定を実施したところ、バリン−N−カルボキシ無水物が収率63%で生成していた。
【0087】
工程(5)[晶析工程]
上記工程(4)で得られた反応溶液をエバポレーターで液重量が3.34gになるまで減圧濃縮した。次いで、ジブチルエーテルを9ml添加した後、n−ヘキサンを90ml添加し、氷浴で2時間攪拌した。吸引濾過により、析出した白色固体を回収したところ、0.16gのバリン−N−カルボキシ無水物が得られた(精製収率44%)。
【0088】
<実施例2>
実施例1における工程(5)において、ジブチルエーテルの代わりにジエチルエーテル9mlを用いたこと以外は、実施例1と同様とし、析出した固体を回収したところ、0.26gのバリン−N−カルボキシ無水物が得られた。
【0089】
<実施例3>
実施例1における工程(4)において、オレイン酸の代わりに酢酸0.16mlを用いたこと以外は、実施例1と同様とし、析出した固体を回収したところ、0.11gのバリン−N−カルボキシ無水物が得られた。
【0090】
<実施例4>
実施例1における工程(5)において、ジブチルエーテルの代わりにトルエン9mlを用いたこと以外は、実施例1と同様とし、析出した固体を回収したところ、0.15gのバリン−N−カルボキシ無水物が得られた。
【0091】
<実施例5>
実施例1における工程(1)において、L−バリンの代わりにL−フェニルアラニン0.80g(4.4mmol)を使用し、実施例1における工程(3)において、内温90℃にて8時間攪拌すること以外は、実施例1と同様とし、析出した固体を回収したところ、0.29gのフェニルアラニン−N−カルボキシ無水物が得られた。
【0092】
<実施例6>
実施例1における工程(4)において、オレイン酸の代わりに酢酸0.16mlを用いたこと以外は、実施例5と同様とし、析出した固体を回収したところ、0.27gのフェニルアラニン−N−カルボキシ無水物が得られた。
【0093】
<実施例7>
実施例1における工程(4)において、オレイン酸の代わりにヘキサン酸0.31mlを用いたこと以外は、実施例5と同様とし、析出した固体を回収したところ、0.30gのフェニルアラニン−N−カルボキシ無水物が得られた。
【0094】
<実施例8>
実施例1における工程(1)において、ガラス製フラスコに、L−フェニルアラニン0.80g(4.4mmol)、硫酸水素テトラブチルアンモニウム1.36g(4mmol)、20.78wt%の水酸化ナトリウム水溶液1.54g(水酸化ナトリウム4mmol含有)、炭酸ジフェニル0.71g(4mmol)、メチルイソブチルケトン1.65gを同時に添加して反応溶液を調製したこと以外は、実施例5と同様とし、析出した固体を回収したところ、0.22gのフェニルアラニン−N−カルボキシ無水物が得られた。
【0095】
[2]実施例の評価
実施例1〜8のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造時における各収率(カーバメート収率、環化収率、環化までの収率、精製収率、トータル収率)、及び相対評価を表1に記載した。更に、各実施例の製造に用いた原料等をまとめて表1に併記した。
尚、各収率の算出方法、及び相対評価の評価基準は下記の通りである。
【0096】
(1)カーバメート収率
原料対比(対カーボネート)でのアミノ酸カーバメート(前駆体)の収率
(2)環化収率
上記(1)のアミノ酸カーバメートを100%とした場合におけるアミノ酸−N−カルボキシ無水物の収率
(3)環化までの収率
[上記(1)のカーバメート収率]×[上記(2)の環化収率]
(4)精製収率
上記(2)のアミノ酸−N−カルボキシ無水物を100%とした場合における、晶析により得られたアミノ酸−N−カルボキシ無水物の収率
(5)トータル収率
[上記(3)の環化までの収率]×[上記(4)の精製収率]
(6)相対評価
上記(5)のトータル収率が40%以上のものを「◎」とし、15%以上、40%未満のものを「○」とした。
【0097】
【表1】

【0098】
[3]実施例の効果
本発明の製造方法によれば、ホスゲンを用いることなくアミノ酸−N−カルボキシ無水物を製造することができ、製造途中で前駆体であるアミノ酸カーバメートを反応溶液から単離精製する必要がなく、一連の工程によりアミノ酸−N−カルボキシ無水物を高収率で製造することができた。更に、溶剤(メチルイソブチルケトン)を一気通貫で使用することができ、従来の製造方法よりも溶剤の使用量を削減できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の製造方法により得られるアミノ酸−N−カルボキシ無水物は、合成ポリアミノ酸の原料として有用であり、本発明のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法は、化粧品、医療・医薬品、各種機能化学品等の産業分野において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アミノ酸と、オニウム塩と、カーボネートと、水と、有機溶剤と、を混合し、反応させて反応溶液を調製する反応溶液調製工程と、
(2)得られた反応溶液に、前記オニウム塩由来の反応残渣を除去するための酸を添加する酸添加工程と、
(3)前記酸が添加された反応溶液に含まれる水を除去する水除去工程と、
(4)前記水が除去された反応溶液を加熱する加熱工程と、
(5)前記加熱された反応溶液からアミノ酸−N−カルボキシ無水物を晶析させて得る晶析工程と、を備えることを特徴とするアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項2】
前記オニウム塩が、4級アンモニウム塩である請求項1に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項3】
前記オニウム塩のアニオンが、HSO又はSO2−である請求項1又は2に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤は、前記水よりも沸点の高い溶剤である請求項1乃至3のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤はケトン類である請求項1乃至4のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項6】
前記水除去工程後の反応溶液における水含有量が、500ppm以下である請求項1乃至5のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程において、加熱する際に、前記反応溶液に酸を加える請求項1乃至6のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程において加える酸が、カルボン酸類である請求項7に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項9】
前記カルボン酸類は、20℃で液体である請求項8に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項10】
前記晶析工程において、前記アミノ酸−N−カルボキシ無水物の貧溶剤として炭化水素を用いる請求項1乃至9のいずれかに記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。
【請求項11】
前記晶析工程において、前記貧溶剤に加えて、トルエン及びエーテル類のうちの少なくとも一方を用いる請求項10に記載のアミノ酸−N−カルボキシ無水物の製造方法。

【公開番号】特開2012−77052(P2012−77052A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226018(P2010−226018)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】