説明

アミノ酸のα−N−メチル化

【課題】Fmoc/tBuSPPSと適合性があるアミノ酸のN−メチル化法の提供。
【解決手段】式I:


で表される化合物、該化合物を利用した樹脂上メチル化に適切なアミノ酸のαN−保護方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、αN−メチル化アミノ酸の合成に関する。
【0002】
ペプチド合成において、アミド結合αN−メチル化はしばしばタンパク質分解感受性を妨害するように作用し、構造的混乱を最小にしてペプチドの安定性を増強する。アミノ酸のメチル化は、α−アミノ酸のモノメチル化を最初に達成したEmil Fischerの研究に遡る(Fischer, E.; Lipschitz, W. Chem. Ber. 1915, 48, 360)。Fischerの3工程合成経路は以下の3つの鍵となる工程を含んでいた:単一のN−H基を残す第1のα−アミノ基の一過性保護、N−HをN−CH基に置換するαN−メチル化、および現在第2のαN−メチルアミノ酸を遊離させる一過性保護基の脱保護。化学的な詳細の差異にもかかわらず、同じ3つの鍵となる工程が、Fischerの独創的な研究以来およそ100年の今日用いられている多くのαN−メチル化化学においてなお使用されている。
【0003】
詳細に分析すると、Fischerのオリジナルの化学は2つの理由で問題があった。第1に、彼の一過性保護としての第1工程におけるトルエンスルホンアミド(トシルアミド)保護基の使用は、第3工程における過度に厳しい脱保護化学(還流温度での濃HCl)を命じ、これはアミド結合と、そして実際多くのタンパク質新生側鎖と非適合性である。第2に、第2工程におけるメチル化化学は、強いアルキル化およびラセミ化促進条件下で生じる。これらの理由から、それ以来の合成の効果の大部分は、この同じ3工程反応シークエンスのためのより穏和な方法の開発に焦点を合わせていた。
【0004】
αN−ベンジルアミノ酸のメチル化のためにLeukart反応が使用されたαN−メチル化化学の第1の改善がQuitt et al.によって報告された(Quitt, P. In Proceedings of the 5th European Peptide Symposium Oxford, UK, 1963, p 165-169)。
【0005】
この反応の穏和さおよび化学選択性(両方が官能基許容性および、その結果、一般的な適用性に重要である)は、後にEbata et al.(Ebata, M.; Takahashi, Y.; Otsuka, H. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1966, 39, 2535)によって詳述されたように、ある範囲(全てではないが)のタンパク質新生官能基を有する立体化学的に純粋なαN−メチルアミノ酸への接近を可能にする。これらの反応はFischerの第3工程(N−脱保護)を触媒的水素化を介して達成するので、含硫アミノ酸による触媒毒化、Trpインドールの還元、および水素化反応におけるアミノ酸の不溶性が全て、一般に低い収率に顕在化する問題である。それにもかかわらず、この化学は立体化学的に純粋なαN−メチルアミノ酸のその後の合成のための基準を設定した。
【0006】
αN−メチル化のためのLeukart反応の有効性の実証以来、この変換のためのいくつかの他の方法がその後数年にわたって種々の程度の複雑さを伴って報告された。これらは他所で詳細に概説されているが、大部分が、天然物シントンのような特定の構造への接近を可能にする技術革新であり、そしてαN−メチル化のために一般的に適用可能な方法としては意図されなかった(Aurelio, L.; Brownlee, R. T. C.; Hughes, A. B. Chem. Rev. 2004, 104, 5823-5846; Sagan, S.; Karoyan, P.; Lequin, O.; Chassaing, G.; Lavielle, S. Curr. Med. Chem. 2004, 11, 2799-2822)。1つの顕著なクラスの化学は、一般に、ホルムアルデヒド供給源からの環脱水(cyclodehydration)によって調製され、次いで還元されて、αN−保護されたαN−メチルアミノ酸が得られるαN−カルバモイルまたはアシルアミノ酸の5−オキザゾリジノンの周辺に集中している(Reddy, G. V.; Rao, G. V.; Iyengar, D. S. Tetrahedron Lett. 1998, 39, 1985-1986; Freidinger, R. M.; Hinkle, J. S.; Perlow, D. S.; Arison, B. H. J. Org. Chem. 1983, 48, 77)。別の注目に値する(そしてエレガントな)化学は、Aza-Diels Alder反応を含み、ここでメチルイミニウム中間体がシクロペンタジエンを用いる付加環化によって捕捉され、酸触媒シクロレバーション(cycloreversion)およびシラン還元がそれに続いて、αN−メチルアミノ酸が得られる(Grieco, P. A.; Bahsas, A. J. Org. Chem. 1987, 52, 5746-5749)。
【0007】
上記の化学の全ては、2つの主な理由から固相上でのメチル化に本質的に適用できない。第1に、大部分は触媒的水素化を用いており、これは、これらの反応において用いられる触媒粒子への固体支持体の実質的な非浸透性に起因して固相合成と非適合性であると長らく認識されていた。第2に、触媒的水素化によって除去可能でない一過性αN−保護基を用いる化学のために、最後の脱保護工程は厳しい酸によって達成され、これは現代のSPPS(固相ペプチド合成)において使用される多くの保護基およびペプチド樹脂結合と非適合性である。
【0008】
Kaljuste and Undenの新規な3工程化学の技術革新までは、Boc/Bzlストラテジーに従うペプチド合成のために固相上で還元的メチル化を用いることはできなかった(Kaljuste, K.; Unden, A. Int. J. Pept. Prot. Res. 1993, 42, 118-124)。
【0009】
この化学において、4,4’−ジメトキシジフェニルメチルクロリド(Dod−Cl)が、αN−脱保護ペプチド樹脂のためのアルキル化剤として使用される。第2工程において、現在第2のαN−末端が、還元剤としてのNaCNBHおよびホルムアルデヒドを使用して還元的にメチル化される。次いで、最後の脱保護工程は、固相上で1:1 TFA:CHClを用いて達成され、Dodカチオンおよび新たなαNメチル末端アミノ酸残基が遊離される。この化学の利益はその穏和さ(強塩基、SN2アルキル化、不均一な触媒作用、および熱の非存在)に由来し、そしてその全てはこれをBoc/Bzl SPPSの関連で樹脂上αN−メチル化のために完全に適切にする。
【0010】
しかし、この化学は強酸を最後の脱保護工程において使用することを必要とし;αN−Dod末端の脱保護は高濃度のTFA(CHCl中50%(v/v))への長時間(1時間)の曝露を命ずる。従って、この化学は、現代のFmoc/tBu SPPSと根本的に非適合性であり、ここでこのような高濃度の酸は側鎖保護基を効果的に除去し、そして/またはペプチド樹脂結合を開裂する。
【0011】
Fmoc/tBu SPPSと組み合わせた樹脂上メチル化と適合性である最初のメチル化化学は、Fukuyamaのニトロベンゼンスルホンアミド化学であった(Fukuyama, T.; Jow, C. K.; Cheung, M. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 6373-6374, Miller, S. C.; Scanlan, T. S. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 2301-2302, Yang, L. H.; Chiu, K. L. Tetrahedron Lett. 1997, 38, 7307-7310)。
【0012】
この化学において、αN−末端は2−または2,4−ジニトロベンゼンスルホニルクロリドを用いてスルホニル化される。次の工程において、スルホンアミド窒素はアルキル化されて(SN2またはMitsunobu条件下で)、N−メチルスルホンアミドが得られる。次いで、このスルホンアミドはチオフェノールなどのチオール求核剤によって固相上で脱保護され、現在第2のαN−メチル末端を残す。この化学は、Fmoc/tBu SPPSにおいて一般的に用いられる側鎖保護基およびペプチド−樹脂固定体(anchorage)に、理論上、完全に直行性であるという利益を有し、そして固相上での選択された単一のαN−メチルアミノ酸および短いペプチドの調製のために使用されている(Lin, X. D.; Dorr, H.; Nuss, J. M. Tetrahedron Lett. 2000, 41, 3309-3313, Biron, E.; Chatterjee, J.; Kessler, H. Journal of Peptide Science 2006, 12, 213-219, Biron, E.; Kessler, H. J. Org. Chem. 2005, 70, 5183-5189)。
【0013】
しかし、この化学についての最初の公開においてさえ、それが求核性側鎖を有するアミノ酸、特にMetおよびArg(Pbf)とかなりまたは全く非適合性であることが示された。これらの化学選択性の問題は、そのより大きな側鎖適合性の故に、代わりにUndenの化学を使用すること(Boc/Bzl合成において)を選んだRivier et al.によって後に他所で報告された(Erchegyi, J.; Hoeger, C. A.; Low, W.; Hoyer, D.; Waser, B.; Eltzschinger, V.; Schaer, J. C.; Cescato, R.; Reubi, J. C.; Rivier, J. E. J. Med. Chem. 2005, 48, 507-514)。Fukuyamaの化学のArg(Pbf)との非適合性は、ニトロベンゼンスルホンアミドおよびPbfスルホンアミドの類似したpKaに由来するようであり、これによってPbf保護グアニジンが、意図されるN−末端ニトロベンゼンスルホンアミドと同様にアルキル化される。
【化1】

【0014】
Fukuyama化学のSPPSへの適用の後数年のうちに、Laplante and Hallは樹脂上メチル化のためのMatteson転移の変形を報告した(Laplante, C.; Hall, D. G. Org. Lett. 2001, 3, 1487-1490)。しかし、この化学は操作上複雑であり、そして強力な酸化剤処理を用い;その結果、それは酸化可能な側鎖、例えばMet、Cys(Trt)、およびTrpと非適合性であり、それゆえペプチド化学における有用性が限られている。
【0015】
Fmoc SPPSにおいて、Arg側鎖は一般的に2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン−5−スルホンアミド(Pbf)基でマスクされ、これは他のタンパク質新生官能基に対する有害性なしに相対的に穏和な全体的脱保護条件下で円滑に脱保護され得る。N−メチルArg残基を有するペプチドの合成において、Fmoc−MeArg(Mtr)−OHをシントンとして使用して(より酸安定性の4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルファミド保護基を組み入れて)、樹脂上αN−メチル化の工程を完全に回避し得る。しかし、Arg(Mtr)はArg(Pbf)に対する実行可能な代替物ではない。これは、Arg(Mtr)の存在下での全体的脱保護工程に、容認されないほど低い収率および複雑なクロマトグラフィー精製をもたらすいくつかの重大な副反応が伴うからである。これらの問題は、αN−メチル化Arg(MeArg)残基上でのMtr保護基の使用に帰し得る。なぜなら、この保護基は高度に酸安定性であり、Arg側鎖からのその除去のための全体的脱保護工程の間に厳しい長期の酸処理を必要とするからである。さらに、それは時折部分的にのみ除去され、そしてこのようにして除去されたスルホニルカチオンはTrpのような他の残基を共有結合的に修飾し得る。従って、αN−メチル化Argの組み入れを必要とするペプチド構築スケールアップ手順においてより酸不安定性のArg(Pbf)に対してArg(Mtr)は有効な代替物ではない。
【0016】
それゆえ、Fmoc/tBu SPPSと、そして保護または非保護求核性側鎖を有するアミノ酸、特にArg(Pgf)、Met、Cys、およびTrpと適合性の樹脂上メチル化のために適切なαN−メチル化化学についての必要性が存在する。
【0017】
発明の概要
本出願は、側鎖保護または非保護アミノ酸またはペプチドをDbs−Clと接触させる工程を含む、アミノ酸のαN−保護のための方法を提供する。
【0018】
本出願は、アミノ酸またはペプチドが固相樹脂に結合される、上記方法を提供する。
【0019】
本出願は、アミノ酸がArg(Pbf)である、上記方法を提供する。
【0020】
本出願は、以下の工程:
a)アミノ酸またはペプチドを固相樹脂に結合する工程、
b)工程a)の生成物をDbs−Clと接触させる工程
を含む、アミノ酸のαN−保護のための方法を提供する。
【0021】
本出願は、アミノ酸がArg(Pbf)である、上記方法を提供する。
【0022】
本出願は、アミノ酸またはペプチドをDbs−Clと接触させる工程を含む、アミノ酸またはペプチドのαN−メチル化のための方法を提供する。
【0023】
本出願は、アミノ酸またはペプチドが固相樹脂に結合される、上記方法を提供する。
【0024】
本出願は、アミノ酸またはペプチドをホルムアルデヒドまたは保護ホルムアルデヒド等価物と接触させる工程をさらに含む、上記方法を提供する。
【0025】
本出願は、アミノ酸またはペプチドを還元剤と接触させる工程をさらに含む、上記方法を提供する。
【0026】
本出願は、アミノ酸またはペプチドを酸と接触させる工程をさらに含む、上記方法を提供する。
【0027】
本出願は、酸がTFAである、上記方法を提供する。
【0028】
本出願は、TFAが5%TFAである、上記方法を提供する。
【0029】
上記方法の特定の実施態様において、還元剤はNaCNBHまたはNaBH(OAc)である。
【0030】
上記方法の特定の実施態様において、アミノ酸は側鎖保護基をさらに含む。
【0031】
上記方法の特定の実施態様において、アミノ酸はArg(Pbf)である。
【0032】
上記方法の特定の実施態様において、アミノ酸はメチオニンである。
【0033】
上記方法の特定の実施態様において、アミノ酸はトリプトファンである。
【0034】
上記方法の特定の実施態様において、アミノ酸はシステインである。
【0035】
本出願は、固相樹脂上でArg(Pbf)をαN−メチル化するための方法であって、以下の工程:
a)Fmoc保護Arg(Pbf)をFmoc脱保護する工程;
b)工程a)の生成物をDbs−Clと接触させる工程;
c)工程b)の生成物をホルムアルデヒドまたは保護ホルムアルデヒド等価物と接触させる工程;
d)工程c)の生成物を還元剤と接触させる工程;および
e)工程d)の生成物を酸と接触させる工程
を含む、方法を提供する。
【0036】
本出願は、酸がTFAである、上記方法を提供する。
【0037】
本出願は、TFAが5%TFAである、上記方法を提供する。
【0038】
本出願は、還元剤がNaCNBHまたはNaBH(OAc)である、上記方法を提供する。
【0039】
本出願は、式I:
【化2】


[式中、
Rは保護または非保護アミノ酸側鎖であり;
XおよびYの各々は独立して低級アルキル、ハロゲン、低級アルコキシ、または低級ハロアルキルから選択され;そして
mおよびnは独立して0、1または2である]
で表される化合物を提供する。
【0040】
上記化合物の特定の実施態様において、mは0である。
【0041】
上記化合物の特定の実施態様において、nは0である。
【0042】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はArgのものである。
【0043】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はArg(Pbf)のものである。
【0044】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はMetのものである。
【0045】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はCysのものである。
【0046】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はTrpのものである。
【0047】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はGlnのものである。
【0048】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はGlyのものである。
【0049】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はValのものである。
【0050】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はAlaのものである。
【0051】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はOrnのものである。
【0052】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はIleのものである。
【0053】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はLeuのものである。
【0054】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はTyrのものである。
【0055】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はPheのものである。
【0056】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はSerのものである。
【0057】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はAsnのものである。
【0058】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はLysのものである。
【0059】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はThrのものである。
【0060】
上記化合物の特定の実施態様において、アミノ酸側鎖はHisのものである。
【0061】
本出願は、以下の構造:
【化3】


を有する化合物を提供する。
【0062】
本出願は、固相樹脂上でペプチドを合成する方法であって、以下の工程:
a)Fmoc保護またはBoc保護されたアミノ酸またはペプチドを脱保護する工程、
b)工程a)の生成物を上記化合物と接触させる工程
を含む、方法を提供する。
【0063】
本出願は、工程b)の生成物を酸と接触させる工程をさらに含む、上記方法を提供する。
【0064】
本出願は、酸がTFAである、上記方法を提供する。
【0065】
本出願は、TFAが5%TFAである、上記方法を提供する。
【0066】
定義
本明細書において使用する用語「a」または「an」の物体("a" or "an" entity)は1つ以上のその物体を指し;例えば化合物(a compound)は1つ以上の化合物または少なくとも1つの化合物を指す。それで、用語「a」(または「an」)、「1つ以上」、および「少なくとも1つ」は本明細書において互換的に使用され得る。
【0067】
本明細書(過渡的な文でも特許請求の範囲の本文でも)において使用する用語「含む」は、制限のない意味を有すると解釈されるべきである。すなわち、この用語は、用語「少なくとも有する」または「少なくとも含む」と同義であると解釈されるべきである。方法に関連して使用する場合、用語「含む」は、方法が少なくとも記載される工程を含むが、さらなる工程を含み得ることを意味する。化合物または組成物に関連して使用する場合、用語「含む」は化合物または組成物が少なくとも記載される特徴または成分を含むが、さらなる特徴または成分も含み得ることを意味する。
【0068】
本明細書において使用する用語「または」は、別段具体的に示さない限り、「および/または」の「包括的」意味で使用され、「いずれか/または」の「排他的」意味では使用されない。
【0069】
用語「独立して」は本明細書において、変数が、同じ化合物内でその同じかまたは異なる定義を有する変数の存在または非存在に関係なく、任意の場合に適用されることを示すように使用される。従って、Rが2回出現し、そして「独立して炭素または窒素」と定義される化合物において、両方のRが炭素であり得るか、両方のRが窒素であり得るか、または一方のRが炭素であり、かつ他方が窒素であり得る。
【0070】
任意の変数が、本発明において用いられるか請求される化合物を表しそして記載する任意の部分または式において1回より多く出現する場合、各出現についてのその定義は、全ての他の出現におけるその定義から独立している。また、置換基および/または変数の組み合わせはそのような化合物が安定な化合物を生じる場合にのみ許容される。
【0071】
本明細書において使用する用語「所望による」または「所望により」は、後に記載される事象または状況が生じ得(必ずしもそうではないが)、そして記載がその事象または状況が生じる場合および生じない場合を含むことを意味する。例えば、「所望により置換された」は所望により置換された部分が水素または置換基を組み入れ得ることを意味する。
【0072】
用語「約」は本明細書において、おおよそ、見当、概略、または近くを意味する。用語「約」が数値範囲との組み合わせで使用される場合、それは記載される数値の上および下に境界を拡張することによってその範囲を緩和する。一般に、用語「約」は本明細書において、数値を、記載される値の上および下に20%の変動で緩和するように使用される。
【0073】
本明細書において使用する「アミノ酸」は、R’−NH−CH(R)−C(O)−R’[式中、各々のR’は独立して水素、脂肪族基、置換脂肪族基、芳香族基、別のアミノ酸、ペプチドまたは置換芳香族基である]によって表される基を指す。アミノ酸の例としては、限定するものではないが、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニ、リジン、オルニチン、プロリン、ヒドロキシプロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、メチオニンおよびヒスチジンが挙げられる。Rは水素または天然アミノ酸の保護もしくは非保護側鎖であり得る。
【0074】
本明細書において使用する天然「アミノ酸側鎖」としては、メチル(アラニン)、イソプロピル(バリン)、sec−ブチル(イソロイシン)、−CHCH(−CH(ロイシン)、ベンジル(フェニルアラニン)、p−ヒドロキシベンジル(チロシン)、−CH−OH(セリン)、−CHOHCH(トレオニン)、−CH−3−インドリル(トリプトファン)、−CHCOOH(アスパラギン酸)、−CHCHCOOH(グルタミン酸)、−CHC(O)NH(アスパラギン)、−CHCHC(O)NH(グルタミン)、−CHSH(システイン)、−CHCHSCH(メチオニン)、−[(CH)]NH(リジン)、−[(CH)]NH(オルニチン)、−[(CH)NHC(=NH)NH(アルギニン)および−CH−3−イミダゾリル(ヒスチジン)が挙げられる。
【0075】
ヘテロ原子含有官能基、例えばアルコール(セリン、チロシン、ヒドロキシプロリンおよびトレオニン)、アミン(リジン、オルニチン、ヒスチジンおよびアルギニン)を含むアミノ酸の側鎖は、本明細書において考察される反応を容易にするために保護基を必要とし得る。ヘテロ原子含有官能基が保護基を含むように修飾されている場合、側鎖はアミノ酸の「保護側鎖」といわれる。ヘテロ原子含有官能基が保護基を含むように修飾されていない場合、側鎖はアミノ酸の「非保護側鎖」といわれる。保護基は一般的にペプチド合成において使用されており、そしてこれらは当業者に公知であり、そしてしばしば当業者によって使用されている。例えば、多くの適切な保護基、および保護アミノ酸の調製のための方法が、Green et al., Protecting Groups In Organic Synthesis, Third Edition, John Wiley & Sons, Inc. New York, 1999において見出され得る。
【0076】
本明細書において使用する用語「保護基」または「一過性保護基」は、分子中の官能基と反応および結合して、官能基が分子の後の反応に関与することを妨げるが、その基はその後除去されて、それによって非保護官能基を再生し得る化学基を指す。「保護基」が有機化学の分野において十分に確立された用語であることの証拠として、Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology, Oxford University Press, Oxford, 1997にさらに言及する。いくつかの一般的なアミン保護基はAloc、Cbz、Dde、Fmoc、Trtおよびt−Bocを含む。
【0077】
本明細書において使用する用語「アミノ酸または側鎖保護誘導体」は、天然もしくは非天然アミノ酸またはその側鎖上に保護基をさらに含むその誘導体を意味する。例えば、限定するものではないが、「アミノ酸または側鎖保護誘導体」は、ArgおよびArg(Pbf)の両方を含む。
【0078】
用語「保護ホルムアルデヒド等価物」は、1,3,5−トリオキサン、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ホルムアルデヒドジメチルアセタール(またはより高次のアルキルアセタール)、パラホルムアルデヒド、およびDMSOを含む。
【0079】
本明細書において使用する「支持体」、「固体支持体」または「固相」は、その上でアミノ酸またはペプチドが合成、付着、連結またはそうでなければ固定化される任意の固相材料を指す。支持体は、「樹脂」、「固相」、「表面」および「固体支持体」のような用語を包含する。支持体は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフルオロエチレン、ポリエチレンオキシ、およびポリアクリルアミドのような有機ポリマー、ならびにそのコポリマーおよびグラフトから構成され得る。支持体はまた、無機、例えばガラス、シリカ、制御多孔性ガラス(CPG)、または逆相シリカであり得る。支持体の立体配置は、ビーズ、球、粒子、顆粒、ゲル、または表面の形態であり得る。表面は、平面、実質的に平面、または非平面であり得る。支持体は、多孔性または非多孔性であり得、そして膨潤または非膨潤特性を有し得る。支持体は、ウェル、くぼみまたは他の収容物の形態、容器、特徴または位置で形成され得る。
【0080】
用語「樹脂」または「固相樹脂」は、ポリ(スチレン−コ−ジビニルベンゼン)(PS−DVB)樹脂、ポリ(エチレングリコール)(PEG)ベースの樹脂、PEGおよびポリスチレン成分の両方から構成される「ハイブリッド」樹脂、およびシリカベースのおよびメタクリラートベースの樹脂を含む。これらの樹脂は全て、Dbs/メチル化化学(アルキル化、還元的アルキル化、および穏和なアシドリシス)と適合性である。なぜなら、これらの反応は、上記の樹脂の型と適合性の穏和な条件下で行われるからであり、これらの樹脂は本明細書に記載の反応条件に不活性なエーテル、エステル、アミド、およびポリマー骨格から作製されているからである。「樹脂」は、限定するものではないが、ポリスチレン樹脂、例えばPS−DVB樹脂、PEGベースの樹脂、例えばCLEAR樹脂、ChemMatrix樹脂、およびPEGA樹脂、「ハイブリッド」樹脂(一部PEGおよび一部ポリスチレン)、例えばTentaGelおよびHypoGel、およびシリカ/メタクリラート樹脂、例えばSynBeadsおよびFunctionalized Silicaを含む。
【0081】
用語「リンカー」は、限定するものではないが、アミノ酸またはペプチドを樹脂に連結する任意の化学物体、例えばRink Amide Linker(これは短期間の低濃度のTFAに安定である)、ベンジルエステル結合(Merrifield Resin)、4−ヒドロキシメチルフェニル酢酸結合(PAM Linker)、p−アルコキシベンジルエステル結合(Wang Resin)、4−ヒドロキシメチルフェノキシ酢酸結合(Sheppard Linker)、4−メチルベンズヒドリルアミド結合(MBHA Resin)、Rink Amide Resin、Rink Amide Linker、および4−(4−アミノメチル,3,5−ジメトキシフェノキシ)酪酸リンカー(PAL Linker)を含む。
【0082】
本明細書において使用する用語「固相樹脂に結合」は、リンカーを介して固体支持体または樹脂に連結または結合されることを意味する。例えば、固相樹脂に結合したアミノ酸は、限定するものではないが、Rink Amideリンカーを介してPS−DVB樹脂に結合したアミノ酸、例えばArg(Pbf)を含む。
【0083】
本明細書において使用する技術的および科学的用語は、別段定義しない限り、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書において、当業者に公知の種々の方法および材料に言及する。薬理学の一般原理を記載する標準参照著作はGoodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th Ed., McGraw Hill Companies Inc., New York (2001)を含む。当業者に公知の任意の適切な材料および/または方法を本発明の実施において利用することができる。しかし、好ましい材料および方法は記載されている。以下の説明および実施例において言及する材料、試薬などは、別段示さない限り、商業的供給源から入手可能である。
【0084】
環系中に引かれる結合(明確な頂点で連結されたものと対照をなす)は、結合が任意の適切な環原子に結合され得ることを示す。
【0085】
本明細書において使用する用語「アルキル」は、1〜10個の炭素原子を含む非分枝鎖または分枝鎖、飽和、一価炭化水素残基を示す。用語「低級アルキル」は、1〜6個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖炭化水素残基を示す。本明細書において使用する「C1−10アルキル」は、1〜10個の炭素から構成されるアルキルを指す。アルキル基の例としては、限定するものではないが、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチルまたはペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、およびオクチルを含む低級アルキル基が挙げられる。
【0086】
用語「アルキル」が「ハロアルキル」におけるように別の用語の後に接尾辞として使用される場合、これは他の具体的に名付けられた基から選択される1〜3個の置換基で置換された、上記で定義するようなアルキル基を指すことが意図される。従って、例えば、「ハロアルキル」は基R’R”を示し、ここでR’はハロゲン基であり、そしてR”は本明細書において定義するようなアルキレン基であり、ハロアルキル部分の結合点はアルキレン基上であることが理解される。
【0087】
本明細書において使用する用語「アルキレン」または「アルキレニル」は、別段示さない限り、1〜10個の炭素原子の二価飽和直鎖炭化水素基(例えば、(CH)または2〜10炭素原子の分枝鎖飽和二価炭化水素基(例えば、−CHMe−または−CHCH(i−Pr)CH−)を示す。メチレンの場合を除いて、アルキレン基の開放原子化は同じ原子に結合されない。アルキレン基の例としては、限定するものではないが、メチレン、エチレン、プロピレン、2−メチル−プロピレン、1,1−ジメチル−エチレン、ブチレン、2−エチルブチレンが挙げられる。
【0088】
本明細書において使用する略語「Dbs−Cl」は、5−クロロジベンゾスベランを指す。
【0089】
本明細書において使用する略語「Dbs」は、ジベンゾスベランを指す。
【0090】
本明細書において使用する略語「TFA」は、トリフルオロ酢酸を指す。
【0091】
本明細書において使用する略語「Pbf」は、2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン−5−スルホニルを指す。
【0092】
一般的に使用される略語としては以下が挙げられる:アセチル(Ac)、アゾ−ビス−イソブチリルニトリル(AIBN)、大気(Atm)、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9−BBNまたはBBN)、tert−ブトキシカルボニル(Boc)、ジtert−ブチルピロカーボナートまたはbocアンヒドリド(BOCO)、ベンジル(Bn)、ブチル(Bu)、Chemical Abstracts Registration Number(CASRN)、ベンジルオキシカルボニル(CBZまたはZ)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、ジエチルアミノサルファトリフルオリド(DAST)、ジベンジリデンアセトン(dba)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1,2−ジクロロエタン(DCE)、ジクロロメタン(DCM)、ジエチルアゾジカルボキシラート(DEAD)、ジ−イソ−プロピルアゾジカルボキシラート(DIAD)、ジ−イソ−ブチルアルミニウムヒドリド(DIBALまたはDIBAL−H)、ジ−イソ−プロピルエチルアミン(DIPEA)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、4−N,N−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,1’−ビス−(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、1,1’−ビス−(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDCI)、エチル(Et)、酢酸エチル(EtOAc)、エタノール(EtOH)、2−エトキシ−2H−キノリン−1−カルボン酸エチルエステル(EEDQ)、ジエチルエーテル(Et2O)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート酢酸(HATU)、酢酸(HOAc)、1−N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、イソ−プロパノール(IPA)、リチウムヘキサメチルジシラザン(LiHMDS)、メタノール(MeOH)、融点(mp)、MeSO2−(mesylまたはMs)、メチル(Me)、アセトニトリル(MeCN)、m−クロロ過安息香酸(MCPBA)、質量スペクトル(ms)、メチルt−ブチルエーテル(MTBE)、N−ブロモスクシンイミド(NBS)、N−カルボキシアンヒドリド(NCA)、N−クロロスクシンイミド(NCS)、N−メチルモルホリン(NMM)、N−メチルピロリドン(NMP)、クロロクロム酸ピリジニウム(PCC)、二クロム酸ピリジニウム(PDC)、フェニル(Ph)、プロピル(Pr)、イソ−プロピル(i−Pr)、ポンド毎平方インチ(psi)、ピリジン(pyr)、室温(rtまたはRT)、tert−ブチルジメチルシリルまたはt−BuMe2Si(TBDMS)、トリエチルアミン(TEAまたはEt3N)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO)、トリフラートまたはCF3SO2−(Tf)、1,1’−ビス−2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−2,6−ジオン(TMHD)、O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート(TBTU)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、テトラヒドロフラン(THF)、トリメチルシリルまたはMe3Si(TMS)、p−トルエンスルホン酸一水和物(TsOHまたはpTsOH)、4−Me−C6H4SO2−またはトシル(Ts)、N−ウレタン−N−カルボキシアンヒドリド(UNCA)。
【0093】
接頭辞ノルマル(n)、イソ(i-)、第二級(sec-)、第三級(tert-)およびneoを含む従来の命名法は、アルキル部分について使用される場合のその通例の意味を有する(J. Rigaudy and D. P. Klesney, Nomenclature in Organic Chemistry, IUPAC 1979 Pergamon Press, Oxford.)。
【0094】
一般的に、本出願において使用する命名法は、IUPAC系統的命名法の生成のためのBeilstein Instituteコンピューター化システムであるAUTONOMTM v.4.0に基づく。示される構造とその構造に与えられる名称との間に矛盾が存在する場合、示される構造により重きを置く。さらに、構造または構造の部分の立体化学が、例えば、太線または破線で示されていない場合、構造または構造の部分はその全ての立体化学を包含すると解釈されるべきである。
【0095】
Fmoc/tBu SPPSと、そして保護または非保護求核性側鎖を有するアミノ酸、特にArg(Pbf)、Met、Cys、およびTrpと適合性である、樹脂上メチル化に適切なαN−メチル化化学のための方法の開発において、固相化学におけるMitsunobu反応に関連する有害性(アゾジカルボキシラート試薬の爆発性)および不均一性の問題(トリフェニルホスフィンオキシドの沈殿)の故に、Fukuyamaの2,4−ジニトロベンゼンスルホンアミドを使用しないことが選ばれた。さらに、予想通り、Fukuyamaの2−ニトロベンゼンスルホンアミド化学は取り扱いにくいことが判明した;いくつかの所望の生成物は得られたが、この化学は低収率であり、そして確かに計測可能でない。努力を、Boc/Bzl SPPSにおいて一般的に用いられるトシルアミドベースのArg側鎖保護と完全に適合性であるオリジナルのUnden化学に向けた。しかし、メチル化後αN−Dod脱保護に必要とされる相対的に厳しいアシドリシス脱保護条件は、Fmoc/tBu化学において使用される側鎖保護およびペプチド樹脂固定体と非適合性である。それゆえ、保護基、例えばArg(Pbf)およびTyr(t−Bu)、ならびにリンカー、例えばRink Amideリンカー(これはより高濃度のTFAでの長時間の酸処理下で開裂される)の完全性を保持する、より穏和な条件下(CHCl中≦10容量%TFAで約5分間)で除去され得る代替の一過性αN−保護基を同定することが意図された。N−トリチルアミンは極めて穏和な条件下で脱保護される(CHCl中1%(v/v)TFA)。しかし、Undenの観察と一致して、大きなトリチル骨格からの極度な立体障害におそらく起因して、αN−トリチル化がα―アミノ基を還元的アルキル化から効果的に遮蔽することが見出された。
【0096】
Fmoc/tBu化学に必要とされる高度の酸感受性およびα−アミノ基周辺のより小さな立体障害を有する一過性αN−保護保護基が必要とされた。有機化学において使用される多くの保護基およびリンカーのうち、1つの酸感受性結合剤であるRamageの三環式アミドリンカーは、ジベンゾスベラン(Dbs)骨格に基づく(Ramage, R.; Irving, S. L.; McInnes, C. Tetrahedron Lett. 1993, 34, 6599-6602)。αN−ジベンゾスベリルアミンは、αN−トリチルアミンよりもかなり立体的に込み入っていない。なぜなら、α−炭素が前者においては第三級であるのに対して後者においては第四級であり、それゆえDod基と同等に還元的アルキル化により接近可能であるからである。Dbsは、アシドリシスおよび触媒的水素化に対するその感受性に起因してアミン保護基として以前に報告されているが(Pless, J. Helv. Chim. Acta 1976, 59, 499-512, Hong, C. Y.; Overman, L. E.; Romero, A. Tetrahedron Lett. 1997, 38, 8439-8442)、これは約10〜20%(v/v)TFA(CHCl中)に対して感受性であることが以前に知られており、これは本出願のためには高すぎるが、全体的脱保護工程において開裂可能なペプチド−樹脂結合剤としてのその通常の適用のためには許容される。標準的な第二級アミド窒素保護基と対照をなす、一過性αN−保護基としてのこの保護基の使用、およびこの保護基の対応する最小の酸感受性は以前に報告されておらず、そして本明細書に記載されている。
【0097】
以下でさらに詳細に記載するように、Dbs基は、Fmoc/tBu化学、側鎖保護基、およびペプチド−樹脂固定体と適合性である、希TFAによって円滑に脱保護されるので、一過性αN−保護基として首尾よく用いられている。3工程メチル化シークエンス(保護、メチル化、および脱保護)をDbs基を使用して行った(一般的スキーム)。実施例1において、Arg(Pbf)Fmoc脱保護後のペプチド−樹脂は、NMP中DIEAの存在下でDbs−Clを用いて容易にN−アルキル化された。
【0098】
一般的スキーム:
【化4】

【0099】
この反応は、ニンヒドリン試験によって容易にモニターされ、そして一晩の反応の後に完了することが見出された(そして後に6時間のうちに完了することが実証された)。還元的メチル化工程は、Undenのオリジナルの反応条件に基づいて、ホウ酸塩を協調させ、そして樹脂内部でのその沈殿を防止するために共溶媒としてTHFを加え、そして樹脂の膨潤を改善するために水含量を低下させて、形作った。メチル化収率を最大にするために若干変化させた化学量論もまた用いたが、それにもかかわらずメチル化工程を反復して、定量的なメチル化を確実にした。次いで、Dbs基をCHCl中の5容量%TFAを用いて除去し(5×1分間)、その後樹脂をDIEAを用いて遊離塩基化し、次いでニンヒドリンによってアッセイした。第一級および第二級両方のアミンがニンヒドリンと反応するが、第一級アミンのみが可溶性のRuhemannの紫色付加物を形成させ;第二級アミンは樹脂上でかすかな赤みがかった色を帯びる。それゆえ、Ruhemannの紫色付加物の非存在が、メチル化反応が定量的に進行したことの確認を提供した。
【0100】
樹脂上メチル化工程の後、Gln残基を結合し、そして樹脂結合Fmoc−QmRY−CONHの試料を開裂し、そしてRP−HPLCによってアッセイした。この材料は、市販のFmoc−MeArg(Mtr)−OHを使用して得られた精製トリペプチドに匹敵する純度であることが見出され、このことはメチル化が実際定量的であり、そして還元的アルキル化条件が後の結合を妨害する沈殿した塩をペプチド−樹脂に混入させなかったことを示唆する。次いで、鎖構築をN末端まで完了させ、そしてペプチドの純度を、本明細書に記載する樹脂上Dbsメチル化経路およびFmoc−MeArg(Mtr)−OHを使用する代替経路の両方を使用して比較した。開裂、精製、および凍結乾燥の後、Dbs/樹脂上メチル化経路からの粗材料は、有意により純粋であり、そして単離収率はほぼ3倍高かった。
【0101】
Fmoc−MeArg(Mtr)−OHを用いるペプチド合成は、特に標的配列がTrp、Met、または非天然アミノ酸残基を含む場合、しばしば複雑な混合物、困難なクロマトグラフィー、および低い単離収率を与える。これらの問題は、しばしばArg保護のためのMtr基の使用に帰し得る。より酸感受性のArg(Pbf)の使用はこれらの事態を伴わないので、このDbs樹脂上N−メチル化方法は、安価なそして広く入手可能なFmoc−Arg(Pbf)−OHを使用したペプチド構築スケールアップを容易にする。さらに、この化学は、SPPSの関連で樹脂上メチル化のために断然最も一般的に適用可能な化学である。同様に、Boc/Bzl化学において、市販されていないDod−Cl試薬を市販のDbs−Clに置換することができる。Fmoc/tBu化学に関連して、この化学は、Arg(Pbf)と完全に適合性であることが実証された最初のものであり、そしてまたMet、Cys、およびTrpを含む他のアミノ酸のαN−メチル化のために匹敵しそして有効である。しかし、Dbs/樹脂上メチル化化学はHis(Trt)残基の側鎖メチル化を効果的に生じたが、これは予想外ではなかった。なぜなら、Kaljuste and UndenがBoc/Bzl SPPSの関連でHis(Dnp)を使用して同じ観察を報告しているからである。この問題は、His側鎖上の側鎖保護を先行することによって同様に迂回され得る。これは、いくつかの特殊化されたHis側鎖保護ストラテジーの使用を通してFmoc/tBu SPPSにおいてもおそらく用いられ得る方法である。
【0102】
実施例
材料
NaCNBH(Aldrich cat# 156159)、ホルムアルデヒド、水中37重量%(12.3M)(Aldrich cat# 252549)、5−クロロジベンゾスベラン(Dbs−Cl)(Aldrich cat# C34308)。全ての操作を周囲温度、圧力、および大気で行う。全ての洗浄は200mLであり、1分の攪拌期間である。全ての百分率は容量%である。使用した基礎樹脂はPolymer Labs PL−AMS樹脂、1.0mmol/gである。
【0103】
一般手順
以下の一般手順は、ヒスチジン(これは、イミダゾール側鎖窒素原子の1つでの過剰なメチル化を受ける)以外の任意のアミノ酸のαN−メチル化に適用される。アミノ酸またはペプチドは、以下の3つの一般工程に従う末端アミノ酸のαN−メチル化のために、本明細書において定義するような任意の樹脂に、本明細書において定義するような任意のリンカーによって連結され得る。
【0104】
工程1 − Dbs保護:
Fmoc脱保護の後、樹脂上の1当量のアミノ酸またはペプチドをDMFで適切に洗浄し、そして排出する。5当量のDbs−Clを十分なDMF中に溶解して、樹脂を膨潤させ、それに25当量のDIEAを添加し、次いで溶液を樹脂に添加し、次いで、これを4時間攪拌する。ニンヒドリンはこの時点では陰性である。次いで、樹脂を洗浄し(5×DMF)、そして次工程までDMF中で懸濁したままにする。
【0105】
工程2 − メチル化:
メチル化試薬溶液を、約3:1:0.05 NMP/THF/AcOH中の25当量のホルムアルデヒドとして使用直前に調製する。
【0106】
工程1からの樹脂を排出し、そしてメチル化試薬溶液を添加する。次いで、樹脂を数分間攪拌して、メチルイミンを事前形成する。次いで、10当量のNaCNBHを攪拌中のペプチド樹脂に粉末漏斗を介して添加し、そして数時間攪拌し、その後それを排出し、DMFで洗浄し、そして次工程までDMF中で懸濁したままにする。
【0107】
工程3 − Dbs脱保護:
工程2からの樹脂を排出し、そしてCHClで洗浄して、微量のDMFを樹脂から除去し、そして再度排出する。次いで、樹脂を、攪拌しながらCHCl中の5%TFAでバッチ式で処理し、CHClおよびDMFで洗浄し、次いでDIC/HOAt化学を介する後の結合に利用可能とする。
【0108】
実施例1
工程1 − Dbs保護:
Fmoc脱保護して、0.01molのHN−Arg(Pbf)−Tyr(tBu)−Rink−Ahx−Resinを得た後、樹脂を適切に洗浄し(2×DMF、2×CHCl、2×DMF)、そして排出した。0.05molのDbs−Clを150mLのDMF中に溶解し、それに50mLの1:1 DIEA:トルエンを添加した。次いで、この溶液を樹脂に添加し、次いで、これを4時間攪拌した。ニンヒドリンはこの時点では陰性である。次いで、樹脂を洗浄し(5×DMF)、そして次工程までDMF中で懸濁したままにした。
【0109】
工程2 − メチル化:
以下のメチル化試薬溶液を使用直前に調製した:300mL NMP、80mL THF、20mLホルムアルデヒド溶液(0.246mol)、4mL酢酸。
【0110】
工程1からの樹脂を排出し、その後メチル化試薬溶液を添加した。次いで、樹脂を15分間攪拌して、メチルイミンを事前形成した。次いで、0.1mol(6.2g)のNaCNBHを秤量し、そして攪拌中のペプチド樹脂に粉末漏斗を介して1度に添加し、必要に応じて最少(10〜20mL)のNMPを追加した。樹脂を6時間攪拌し、その後それを排出し、洗浄し(5×DMF)、再度排出し、そして全体のメチル化手順を新鮮なカクテルを用いて反復した(今回は一晩(約18時間))。次いで、樹脂を排出し、洗浄し(5×DMF)、そして次工程までDMF中で懸濁したままにした。
【0111】
工程3 − Dbs脱保護:
工程2からの樹脂を排出し、そして洗浄して(5×CHCl)、微量のDMFを樹脂から除去し、次いで再度排出した。次いで、樹脂を、攪拌しながらCHCl中の5%TFAで(5×1分間)バッチ式で処理した。次いで、樹脂を洗浄し(2×CHCl、2×DMF)、次いでFmoc脱保護(ピペリジン処理は通常N末端を遊離塩基として遊離させるように作用するので、これはこの場合不要である)で開始する自動化サイクルを使用するDIC/HOAt化学を介する後の結合に供した。
【0112】
上記の発明を、明確さおよび理解の目的で、説明および例として幾分詳細に記載した。添付の特許請求の範囲の範囲内で変更および改変を行い得ることは当業者に明らかである。それゆえ、上記の記載は説明的なものであり限定的なものではないと意図されることが理解されるべきである。それゆえ、本発明の範囲は、上記の記載を参照して決定されるべきではなく、代わりに以下の添付の特許請求の範囲を、特許請求の範囲に権利が与えられる等価物の全範囲とともに参照して決定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸またはペプチドを5−クロロジベンゾスベラン(Dbs−Cl)と接触させる工程を含む、アミノ酸のαN−保護のための方法。
【請求項2】
アミノ酸またはペプチドが固相樹脂に結合される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アミノ酸がArg(Pbf)[Pbf=2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン−5−スルホンアミド]、メチオニン、トリプトファン、システインの群より選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
以下の工程:
a)アミノ酸またはペプチドを固相樹脂に結合する工程、
b)工程a)の生成物をDbs−Clと接触させる工程
を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
アミノ酸が側鎖保護基を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
アミノ酸またはペプチドをホルムアルデヒドまたは保護ホルムアルデヒド等価物と接触させる工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸またはペプチドを還元剤と接触させる工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
アミノ酸またはペプチドを酸と接触させる工程をさらに含む、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
酸がTFAである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
TFAが5%TFAである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
還元剤がNaCNBHまたはNaBH(OAc)である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
固相樹脂上でArg(Pbf)をαN−メチル化するための方法であって、以下の工程:
a)Fmoc保護Arg(Pbf)をFmoc脱保護する工程;
b)工程a)の生成物をDbs−Clと接触させる工程;
c)工程b)の生成物をホルムアルデヒドまたは保護ホルムアルデヒド等価物と接触させる工程;
d)工程c)の生成物を還元剤と接触させる工程;および
e)工程d)の生成物を酸と接触させる工程
を含む、方法。
【請求項13】
酸がTFAである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
TFAが5%TFAである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
還元剤がNaCNBHまたはNaBH(OAc)である、請求項12〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
式I:
【化5】


[式中、
Rは保護または非保護アミノ酸側鎖であり;
XおよびYの各々は独立して低級アルキル、ハロゲン、低級アルコキシ、または低級ハロアルキルから選択され;そして
mおよびnは独立して0、1または2である]
で表される化合物。
【請求項17】
mが0である、請求項16記載の化合物。
【請求項18】
nが0である、請求項16または17記載の化合物。
【請求項19】
アミノ酸側鎖がArg、Arg(Pbf)、Met、Cys、Trp、Gln、Gly、Val、Ala、Orn、Ile、Leu、Tyr、Phe、Ser、Asn、Lys、ThrおよびHisのものである、請求項16〜18のいずれか1項記載の化合物。
【請求項20】
アミノ酸側鎖がArg(Pbf)である、請求項19記載の化合物。
【請求項21】
以下の構造:
【化6】


を有する、請求項20記載の化合物。
【請求項22】
固相樹脂上でペプチドを合成する方法であって、以下の工程:
a)Fmoc保護またはBoc保護されたアミノ酸またはペプチドを脱保護する工程、
b)工程a)の生成物を請求項21記載の化合物と接触させる工程
を含む、方法。
【請求項23】
工程b)の生成物を酸と接触させる工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
酸がTFAである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
TFAが5%TFAである、請求項24記載の方法。

【公開番号】特開2009−280569(P2009−280569A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−98602(P2009−98602)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】