説明

アミノ酸を含有する飲料およびアミノ酸の苦味を低減する方法

本発明の目的は、アミノ酸を含有する飲料、およびアミノ酸の苦味を低減する方法を提供することにある。オルニチンをアミノ酸に添加することにより、アミノ酸の苦味を低減することができる。また、アミノ酸を含有する組成物にオルニチンを配合することにより、アミノ酸の苦味の低減された組成物を調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アミノ酸を含有する飲料およびアミノ酸の苦味を低減する方法に関する。
【背景技術】
近年、各種アミノ酸を配合した飲食品、栄養剤等に対する需要が高まっている。
アミノ酸の中には苦味を呈するアミノ酸があり、これら苦味を呈するアミノ酸を飲食品等に配合する場合、甘味料を添加する方法、糖衣等のコーティングする方法等により、苦味をマスキングする工夫がなされる。
しかし、マスキングのために甘味料を使用する場合は、用いる甘味料の量が多いため、飲食品の味が変化するという問題がある。特に清涼飲料水等の味の薄い飲食品は影響を受けやすい。また、コーティングする方法は使用する対象が錠剤等に限定される。
したがって、これら以外の方法でアミノ酸の苦味を低減できる方法が望まれている。
アミノ酸であるアルギニンが、アミノ酸の苦味を低減させる作用を有することが知られている〔Chemical Senses,20,609−623(1995)〕。しかし、アルギニンは、それ自体が苦味、および独特の臭いを有するので、飲食品の風味を低下させることがある。
オルニチンは、ダイエット効果(J.Nutr.、1979年、第109巻、第4号、p.724−729)や創傷治癒効果(Ann.Surg.、1987年、第206巻、p.674−678)を有していることが知られており、米国ではカプセル剤として市販されている。
オルニチンおよびアミノ酸を含有する組成物として、13種類のアミノ酸およびオルニチンを含有する抗肥満剤(特開平6−24977)、13種類のアミノ酸、糖およびオルニチンを含有する組成物が知られている(特開2000−72669)。
オルニチンのクエン酸塩が飲食品の呈味を改善することは知られている(特開2003−144088)が、オルニチンがアミノ酸の苦味を低減することは知られていない。
【発明の開示】
本発明は、下記(1)〜(11)に関する。
(1) 1〜12種類のアミノ酸およびオルニチンを含有することを特徴とする飲料。
(2) アミノ酸を400〜15000mg/L含有する、上記(1)の飲料。
(3) 苦味を呈するアミノ酸を含有する、上記(1)または(2)の飲料。
(4) 苦味を呈するアミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン、またはアルギニンである、上記(3)の飲料。
(5) 苦味を呈するアミノ酸1重量部に対して、オルニチン0.01〜100重量部を含有する、上記(1)〜(4)いずれか1つの飲料。
(6) オルニチンをアミノ酸に添加することを特徴とする、アミノ酸の苦味低減方法。
(7) オルニチンを、アミノ酸を含有する組成物に配合することを特徴とする、アミノ酸を含有する組成物の苦味低減方法。
(8) アミノ酸が、苦味を呈するアミノ酸である、上記(6)または(7)の方法。
(9) 苦味を呈するアミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン、またはアルギニンである、上記(8)の方法。
(10) オルニチンを、苦味を呈するアミノ酸1重量部に対して0.01〜100重量部配合する、上記(6)〜(9)いずれか1つの方法。
(11) アミノ酸を含有する組成物が、アミノ酸を含有する飲料である、上記(7)〜(10)いずれか1つの方法。
本発明において、アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、リジン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン等、またはこれらの塩があげられる。アミノ酸はL体およびD体のいずれであってもよいが、L体が好ましい。
これらの塩は、アミノ酸によって異なるが、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム塩等の金属塩、塩酸塩等の無機酸塩等があげられる。これらのアミノ酸は単独で用いても、2種以上のアミノ酸を組み合わせて用いてもよい。
アミノ酸は、上記アミノ酸であればいずれのアミノ酸であってもよいが、好適には、苦味を呈するアミノ酸があげられる。苦味を呈するアミノ酸としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、リジンがあげられ、好ましくはバリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニンがあげられ、さらに好ましくは、バリン、ロイシン、イソロイシンがあげられる。
なお、オルニチンは本発明の定義におけるアミノ酸には含まれない。
オルニチンは、フリーの状態であってもよいが、塩酸塩が好ましく用いられる。
オルニチンをアミノ酸に添加することにより、アミノ酸の呈する苦味を低減することができる。
アミノ酸はそのままであっても、組成物に含有された状態であってもよい。
アミノ酸を含有する組成物のアミノ酸による苦味を低減するためには、アミノ酸を含有する組成物の製造時または使用時に、オルニチンを添加、混合し、必要に応じて攪拌する。
アミノ酸を含有する組成物は、組成物中にアミノ酸を含有していれば、飲料、食品、医薬等のいずれのものであってもよいが、例えば、粉末状、顆粒状、液状等の形態の組成物が好ましく、飲料等の液状形態の組成物がさらに好ましい。
アミノ酸を含有する組成物は、アミノ酸を添加する以外は、それぞれの組成物の通常の製造方法を用いて製造される。
本発明における飲料としては、清涼飲料水、炭酸飲料、果汁入り飲料、コーヒー飲料、茶系飲料(ウーロン茶飲料、紅茶飲料等)、アルコール飲料、乳酸菌飲料、栄養ドリンク等があげられる。
アミノ酸を含有する飲料は、アミノ酸を添加する以外は、各飲料における一般的な製造方法を用いることにより製造することができる。必要に応じて、ビタミン類、クエン酸、スクラロース、アスパルテーム、ソーマチン、トレハロース、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、糖アルコール(マルチトール等)、香料、着色料、保存料、酸化防止剤等を添加してもよい。また、二酸化炭素を圧入することで、炭酸飲料とすることができる。
本発明における食品としては、上記飲料以外で食用とすることのできるものであればいずれでもよく、例えば、乳製品(バター、チーズ、ヨーグルト、加工乳、脱脂乳等)、冷菓、畜肉製品(ハム、ソーセージ、ハンバーグ等)、菓子類(クッキー、ゼリー、チューインガム、キャンディー、スナック菓子等)、パン類、麺類、漬物類、薫製品、干物、佃煮、塩蔵品、調味料、スープ類、ドレッシング、等があげられる。その他、流動食も食品に包含される。
該食品は、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルト食品、粉末状食品、シート状食品、タブレット食品等の形態のものであってもよい。
アミノ酸を含有する食品は、アミノ酸を添加する以外、一般的な食品の製造方法を用いることにより、加工・製造することができる。また、各種造粒方法、膨化方法、押し出し方法等を用いて製造することもできる。
アミノ酸を含有する食品には、一般的に食品に用いられる食品添加物、例えば、甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色料、漂白剤、防カビ剤、ガムベース、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、香料、香辛料抽出物等が添加されてもよい。
アミノ酸を含有する組成物が医薬の場合、アミノ酸および該医薬の有効成分の他に、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等を混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により、錠剤、散剤、顆粒剤、乳剤、シロップ剤、液剤等の経口剤として調製することができる。
アミノ酸を含有する組成物中のアミノ酸の量は特に限定されないが、本発明の組成物1000重量部中、0.1〜100重量部であることが好ましい。
アミノ酸を含有する組成物が、飲料である場合、アミノ酸の濃度は、アミノ酸の総量として400〜15000mg/Lであることが好ましい。
アミノ酸を含有する組成物にオルニチンを配合するためには、アミノ酸を含有する組成物を調製する工程のいずれかの工程においてオルニチンを添加すればよい。
オルニチンはそのまま用いてもよいが、オルニチンを含有する組成物として添加してもよい。
オルニチンを含有する組成物はいかなる形態のものであってもよく、例えば上記飲料、食品、医薬と同様の形態である組成物があげられる。該組成物は、アミノ酸の苦味低減剤として使用することができる。
オルニチンまたはオルニチンを含有する組成物の添加量は、アミノ酸の種類により異なるが、苦味を呈するアミノ酸1重量部に対して、オルニチンとして、0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部である。アミノ酸を含有する組成物中に苦味を呈するアミノ酸が存在しない場合、オルニチンまたはオルニチンを含有する組成物の添加量は特に限定されないが、本発明の組成物1000重量部中、オルニチンとして、0.1〜100重量部であることが好ましい。
本発明の飲料は、上記アミノ酸を含有する飲料において、1〜12種類のアミノ酸を含有し、かつオルニチンが配合された飲料である。
オルニチンは、ほぼ無味であるので、本発明の飲料は、該飲料の有する風味を損なうことなく、アミノ酸の苦味が低減された飲料として使用することができる。
本発明の飲料は、オルニチンおよび1〜12種類のアミノ酸を添加する以外は、一般的な飲料の製造法により製造することができる。必要に応じて、ビタミンC等のビタミン類、クエン酸、スクラロース、アスパルテーム、ソーマチン、トレハロース、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、糖アルコール等を添加してもよい。また、二酸化炭素を圧入して、炭酸飲料としてもよい。
さらに、必要に応じて、酢酸、乳酸、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤で飲料のpHを調整してもよい。
アミノ酸は、上記アミノ酸のうちの1〜12種類のアミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよいが、苦味を呈するアミノ酸が好ましくあげられる。
本発明の飲料がダイエット用途の飲料である場合は、アルギニンが含有されていることが好ましく、必要に応じてプロリン、リジン、アラニン等が含有されていてもよい。本発明の飲料が筋肉疲労低減用の飲料である場合は、該飲料中には、分岐鎖アミノ酸であるバリン、イソロイシンおよびロイシンが含有されていることが好ましく、必要に応じてアルギニンが含有されていてもよい。この場合、バリン、イソロイシンおよびロイシンの配合比は、0.5〜1.5:0.5〜1.5:1.3〜2.5が好ましく、1:1:2または1:1:1.6がさらに好ましい。
本発明の飲料に含まれるアミノ酸の量に特に限定はないが、アミノ酸の総量として400〜15000mg/Lであることが好ましい。また、本発明の飲料中、アルギニンは、250〜5000mg/L、バリン、イソロイシンおよびロイシンはあわせて20〜3000mg/L含有されていることがさらに好ましい。
オルニチンは、苦味を呈するアミノ酸1重量部に対して、0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部となるように添加する。本発明の飲料中に苦味を呈するアミノ酸が存在しない場合、オルニチンの添加量は特に限定されないが、該飲料1000重量部中、0.1〜100重量部であることが好ましい。
本発明の飲料を製造後、必要に応じて、例えば120℃で30秒間〜30分間の加熱処理等、滅菌処理に供してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
L−イソロイシン、L−ロイシンおよびL−バリンを、それぞれ10mmol/l塩化カリウム水溶液に溶解し、100mmol/l(13.1g/l)L−イソロイシン、150mmol/l(19.7g/l)L−ロイシンおよび300mmol/l(35.1g/l)L−バリン溶液を調製した。
それぞれのアミノ酸溶液に、L−オルニチン塩酸塩を、1mmol/l(0.17g/l)、10mmol/l(1.7g/l)、100mM(16.9g/l)の濃度となるように添加し、溶解した。同様に、それぞれのアミノ酸溶液に、L−アルギニンを、1mmol/l(0.17g/l)、10mmol/l(1.7g/l)、100mM(17.4g/l)の濃度となるように添加し、溶解した。なお、上記アミノ酸は全て協和発酵工業社製のものを用いた。
第1表に示す濃度の塩酸キニーネ溶液を調製し、各濃度の塩酸キニーネの苦味の評価点を第1表に示すように設定した。

調製したそれぞれのアミノ酸溶液の苦味および塩酸キニーネ溶液の苦味について、訓練されたパネラー8人により、官能試験を行った。
各アミノ酸溶液の苦味と塩酸キニーネ溶液の苦味とを比較し、アミノ酸溶液の苦味と同程度の苦味を示す塩酸キニーネ溶液の苦味の評価点を該アミノ酸溶液の苦味の評価点とし、8人のパネラーの評価点の平均値を求めた。
オルニチン塩酸塩を添加した各アミノ酸溶液の苦味について、イソロイシン溶液での結果を第2表に示し、ロイシン溶液での結果を第3表に示し、バリン溶液での結果を第4表に示す。
各表において、濃度は、オルニチン塩酸塩またはアルギニンの濃度を示す。
また、は、オルニチン塩酸塩またはアルギニンを含有しない溶液の苦味と100mmol/lのオルニチン塩酸塩またはアルギニンを含有する溶液の苦味とを比較した際の危険率を示す。は、危険率0.100未満であることを示し、**は、危険率0.050未満であることを示し、***は、危険率0.010未満であることを示し、****は、危険率0.001未満であることを示す。

第2〜4表に示すように、イソロイシン、ロイシンおよびバリンのいずれのアミノ酸による苦味に対しても、オルニチン塩酸塩はアルギニンに比べて、優れた苦味低減効果を示した。
なお、アルギニンを添加した場合は、オルニチン塩酸塩を添加した場合に比べて、それぞれのアミノ酸溶液の風味が悪化する傾向が見られた。
【実施例2】
マルチトール5g、クエン酸0.3g、香料0.5g、アルギニン(協和発酵工業社製、以下同じ)500mgおよびオルニチン塩酸塩(協和発酵工業社製、以下同じ)500mgを蒸留水200mlに溶解して、ダイエット用アミノ酸飲料を作製した。
【実施例3】
マルチトール5g、クエン酸0.3g、香料0.5g、アルギニン400mg、ロイシン400mg、イソロイシン200mg、バリン200mgおよびオルニチン塩酸塩500mgを蒸留水200mlに溶解して、筋肉疲労回復を用途としたアミノ酸飲料を作製した。
【実施例4】
マルチトール5g、クエン酸0.3g、香料0.5g、ロイシン400mg、イソロイシン200mg、バリン200mgおよびオルニチン塩酸塩200mgを蒸留水200mlに溶解して、筋肉疲労回復を用途としたアミノ酸飲料を作製した。
【実施例5】
マルチトール5g、クエン酸0.3g、香料0.5g、ロイシン400mg、イソロイシン200mg、バリン200mgおよびオルニチン塩酸塩800mgを蒸留水500mlに溶解して、筋肉疲労回復按用途としたアミノ酸飲料を作製した。
【実施例6】
マルチトール5g、クエン酸0.3g、香料0.5g、ロイシン400mg、イソロイシン200mg、バリン200mg、フェニルアラニン200mgおよびオルニチン塩酸塩1000mgを蒸留水500mlに溶解して、筋肉疲労回復を用途としたアミノ酸飲料を作製した。
【実施例7】
マルチトール5g、クエン酸0.3g、香料0.5g、アルギニン(協和発酵工業社製、以下同じ)500mg、リジン500mgおよびオルニチン塩酸塩(協和発酵工業社製、以下同じ)500mgを蒸留水200mlに溶解して、ダイエット用アミノ酸飲料を作製する。
【産業上の利用可能性】
本発明により、苦味の低減されたアミノ酸を含有する飲料およびアミノ酸の苦味を低減する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜12種類のアミノ酸およびオルニチンを含有することを特徴とする飲料。
【請求項2】
アミノ酸を400〜15000mg/L含有する、請求の範囲第1項記載の飲料。
【請求項3】
苦味を呈するアミノ酸を含有する、請求の範囲第1または2項記載の飲料。
【請求項4】
苦味を呈するアミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン、またはアルギニンである、請求の範囲第3項記載の飲料。
【請求項5】
苦味を呈するアミノ酸1重量部に対して、オルニチン0.01〜100重量部を含有する、請求の範囲第1〜4いずれか1項記載の飲料。
【請求項6】
オルニチンをアミノ酸に添加することを特徴とする、アミノ酸の苦味低減方法。
【請求項7】
オルニチンを、アミノ酸を含有する組成物に配合することを特徴とする、アミノ酸を含有する組成物の苦味低減方法。
【請求項8】
アミノ酸が、苦味を呈するアミノ酸である、請求の範囲第6または7項記載の方法。
【請求項9】
苦味を呈するアミノ酸が、バリン、ロイシン、イソロイシン、またはアルギニンである、請求の範囲第8項記載の方法。
【請求項10】
オルニチンを、苦味を呈するアミノ酸1重量部に対して0.01〜100重量部配合する、請求の範囲第6〜9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
アミノ酸を含有する組成物が、アミノ酸を含有する飲料である、請求の範囲第7〜10いずれか1項記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/052125
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558422(P2004−558422)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015609
【国際出願日】平成15年12月5日(2003.12.5)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】