説明

アミノ酸誘導体および垂れ抑制剤としてのその使用

本発明は、1種以上のポリイソシアネートと1種以上の光学活性なアミノ酸の誘導体とを反応させることによって得ることができるレオロジー調節剤のコーティング組成物における垂れ抑制剤(SCA)としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種以上のポリイソシアネートと1種以上の光学活性なアミノ酸誘導体とを反応させることによって得ることができるレオロジー調節剤のコーティング組成物における垂れ抑制剤(SCA)としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ジイソシアネートおよびアミノ酸に基づくビス-尿素タイプのゲル化剤は、文献に挙げられている。例えばL.A.エストロフ(Estroff)およびA.D.ハミルトン(Hamilton)は、Angw. Chem. Int. Ed., 2000年、 第39巻、第19号、第3447〜3450頁において、線状アルキルジイソシアネートおよびL-グルタミン酸モノエステルに基づくビス-尿素タイプのヒドロゲル化剤を開示する。同様に、A.J.カー(Carr)、R.メレンデツ(Melendez)、S.J.ゲイブ(Geib)およびA.D. ハミルトン(Hamilton)は、Tetrahedron Letters, 1998年、第39巻、第7447〜7450頁において、キシリレン-1,4-ジイソシアネートならびにL-アラニン、L-フェニルアラニンおよびL-バリンのtert-ブチルエステルに基づくビス-尿素タイプのゲル化剤を開示する。これらのビス-尿素化合物は、種々の有機溶媒中でゲルを形成する。
【0003】
コーティング組成物におけるSCAの使用はまたよく知られている。例えば、米国特許第4,311,622号明細書は、バインダーおよび、ジイソシアネートとモノアミンまたはヒドロキシモノアミンとの反応生成物である垂れ抑制剤から製造されるチキソトロピーコーティング組成物を開示する。同様に、欧州特許出願第0,261,863号は、塗料に施与したときにコーティングフィルムにチキソトロピー特性を与え、厚いコーティングフィルムの形成において垂れを生成しにくくする、塗料のための流動性制御剤を開示する。
【0004】
特開平15-183,583号公報は、二量体化された脂肪酸とジメチルもしくはジエチルアミノ基とを反応させることによって得ることができる、ポリアミド、ポリエステルまたはポリウレタンから成る非水性コーティング材料のための垂れ防止剤を開示する。
【0005】
米国特許出願2002/082,324号は、アミノホルムアルデヒド樹脂の存在下で、ポリイソシアネート官能性化合物をモノアミン官能性化合物に反応させるか、または逆にモノイソシアネート官能性化合物をポリアミン官能性化合物に反応させて、樹脂にひっかけられた尿素官能性化合物を形成することによって得ることができるチキソトロピーアミノホルムアルデヒド樹脂を開示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コーティング組成物における垂れ抑制剤としてのレオロジー調節剤の好結果の使用についての要求は広くある。好ましくは垂れ抑制剤は、高い剪断応力および中間の剪断応力(>5Pa)での低い粘度と、水平でない基体上の湿ったコーティング層において重力によって作り出されるのに相当する剪断応力(<1Pa)での高い粘度とを併用することができ、チキソトロピー特性は、有効な垂れ抵抗性挙動を良好な均一化性能と結びつけるために、特定の窓に噴霧後時間依存性粘度回復を示す必要があり、かつ溶媒濃度、層の厚みまたは垂直との基体の角度についてのこの特性の変形は、垂れ-均一化のバランスに関して丈夫さを作るのが好都合である必要がある。コーティング処方物においてレオロジー構造が硬化されるとき、その安定性は、最良の全体的均一化を可能にしながら垂れの良好な抑制を維持するように、硬化サイクルにおいて維持されなければならない。例えば噴霧による施与を可能にするのに必要とされる溶媒の量は、垂れ抑制剤の存在によって過度に増やすべきではない。その上、使用されるレオロジー制御剤は、不可逆性の変化なしに時間にわたって貯蔵を可能にするレオロジー性能を有していなければならない。
【0007】
レオロジー性能に加えて、光学性能(垂れまたは均一化による以外のコーティング概観への影響)がまた最大に重要である。これは、薄いフィルムに施与されるとき、垂れ抑制剤が、目に見える妨害(例えばフィルムの外へはみ出す)を作らないように十分に細かくなければならないことを意味する。透明コート用途については特に、それはまた、硬化サイクルの終了後に検出可能な曇りまたは濁りが存在すべきでないこと、およびまた、色の形成が、その存在から生じるべきでないことを意味する。また、これらの特徴は、貯蔵時間と共に不可逆に変化すべきでない。もちろん、費用を限定し、他のコーティング特性を妨げないために、低濃度でその役目を果たすことができる有効な垂れ抑制剤が好ましい。
【0008】
多くのレオロジー制御剤が知られているが、先に挙げた要求を全て満たすことができるものはほとんどない。比較的低い硬化温度(例えば100℃より下)が使用されるコーティング組成物およびホルムアルデヒドから誘導される硬化剤または添加剤を含まない処方物(例えば広く使用されるイソシアネート-ポリオール硬化系または、ラジカル化学によって硬化されるアクリロイオール-官能性樹脂に基づく系におけるような)における施与のためには特に、有効な垂れ抑制挙動と完全な光学特性とを結びつけた良好な垂れ抑制剤の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、本発明者らは、特定の種類の尿素化合物が、コーティング組成物におけるSCAとして使用するのに必要とされる、広い温度範囲にわたるレオロジー性能および光学性能を与えることができることを見出した。
したがって本発明は、1種以上のポリイソシアネートと、1種以上の式(I)
【0010】
【化1】

(ここで、R1、R2およびR3のそれぞれは独立して、水素および線状、環状もしくは分岐した、置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和のヒドロカルビルまたはヘテロ原子含有基から選択され、炭素原子C*がキラル中心であるようにR1およびR2の夫々は異なる)
の光学活性なアミノ酸、それらのエステルおよび/または塩であって、ラセミ混合物ではないものとを反応させることによって得ることができるレオロジー調節剤のコーティング組成物におけるSCAとしての使用に関する。以後、「アミノ酸、エステルおよびまたはそれらの塩」はまた、「アミノ酸誘導体」と称する。
「コーティング組成物におけるSCAとしての使用」という特徴は、本発明のレオロジー調節剤を組み込む工程を含む、所望の垂れ抑制特性を有するコーティング組成物を作る方法を意味する。好ましくは該工程において使用されるSCAは、慣用のポリイソシアネートと、式(I)
【0011】
【化2】

(ここで、R1、R2およびR3は前記と同義である)
の光学活性なアミノ酸エステルとを反応させることによって得ることができるレオロジー調節剤である。
本発明の第1の実施態様に従う特に好ましいSCAは、1種以上の光学活性なアミノ酸誘導体が、2個のイソシアネート基の間の鎖に偶数個の炭素原子を有する置換もしくは非置換の線状脂肪族ポリイソシアネート(ならびにそれらのダイマー誘導体、例えばウレトジオンおよび対応するトリマーイソシアヌレートまたはビウレット)、置換もしくは非置換のアリール、アラルキルおよびシクロヘキシレンポリイソシアネートから成る群より選択される1種以上のポリイソシアネートと反応するなら、得られる。
任意的に、少量の、最終製品の結晶化特性に影響を与えることができる1種以上の追加の化合物、例えば、SCAにおける主化合物とは異なる反応性アミノ酸誘導体および/または他のアミン(多官能性アミンを含む)または、はずれているイソシアネート反応体が、SCAとして使用するためのレオロジー調節剤を製造する反応中に存在することができる。その目的のために特に好ましいアミノ酸誘導体は、
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

である。
【0014】
ポリイソシアネートについて接頭辞「ポリ」の使用は、少なくとも2個の挙げられた官能性がそれぞれの「ポリ」化合物に存在することを示す。ポリ尿素生成物、すなわちアミノ酸エステルとポリイソシアネートとの反応生成物が製造されるときには、二尿素または三尿素生成物を製造するのが好ましいことが注意される。
【0015】
ポリ尿素生成物が製造される本発明の好ましい実施態様においては、一般式X-[尿素-キラル中心]nを有するポリ尿素生成物を製造することが可能であり、Xは分子の結合基であり、nは-[尿素-キラル中心]部分の数(nは2以上)であり、好ましくはnは2〜5、さらに好ましくはnは2または3、最も好ましくはnは2である。
【0016】
この説明において、一般用語「レオロジー調節剤」は、コーティング組成物におけるSCAとして使用するのに適当なレオロジー調節剤を示すのに使用されることが注意される。
少なくとも1種の光学活性なアミノ酸誘導体が使用されるが、得られる最終反応生成物は必ずしも光学活性である必要はないことがまた注意される。最終生成物は、d-、l-および/またはメソ-形態であり得る。
【0017】
式(I)のR1および/またはR2がヒドロカルビルであるなら、ヒドロカルビルは好ましくは、線状、環状もしくは分岐した、置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、任意的にヘテロ原子を含有するC1〜C24アルキル、アリール、アラルキルおよびアルケニル(上記の但し書きを満たす)から成る群より独立して選択され、さらに好ましくは線状または分岐したC1〜C24アルキルから成る群より選択され、なおさらに好ましくは線状または分岐したC1〜C4アルキルから成る群より選択され、最も好ましくはヒドロカルビルは、メチルまたはエチル基である。
【0018】
好ましい実施態様においては、R1およびR2の1つが水素であり、他が上記したC1〜C25基の1つから選択されるヒドロカルビルである。R1および/またはR2がヘテロ原子を含有するC1〜C25基であるなら、好ましくはエーテル単位の形態である。任意的に、R1およびR2は、それらが結合するキラル炭素原子C*と一緒になり、置換もしくは非置換の4〜8個の炭素原子を含む環を形成することができるが、それは、該環が、炭素原子C*でのキラリティーが維持されるようなものであるならばそうである。
【0019】
存在するなら、R1および/またはR2上の置換基および上記した環上の置換基は好ましくは、アルキル、アリール、アルコキシ、ヒドロキシ、(好ましくは1級でない)アミン、カルボン酸、エステル、ホスホン酸、ホスホン酸エステル、ケト、ケチミン、ウレタン、アロファネート、アミド、チオール、イミダゾール、インドール、グアニジン、硫化アルキルおよび尿素基からなる群より選択され、最も好ましくはアルキルまたはアルコキシ基から選択される。
【0020】
R3が先に定義したヒドロカルビルであるなら、好ましくは線状、環状もしくは分岐した、置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、任意的にヘテロ原子を含有するC1〜C25アルキル、アリール、アラルキルおよびアルケニルからなる群より選択され、さらに好ましくは、R3は、線状もしくは分岐した、置換もしくは非置換の、任意的にヘテロ原子を含有するC1〜C25アルキルからなる群より選択され、なおさらに好ましくは、線状もしくは分岐した、置換もしくは非置換のC1〜C8アルキル、エーテルおよび/または任意的にエステル化されたC1〜C8(ポリ)アルコキシからなる群より選択され、最も好ましくは、線状C1〜C4アルキルおよび任意的にアルコキシル化された線状C1〜C4アルコキシからなる群より選択される。アルコキシル化されるなら、エトキシル化、プロポキシル化および/またはブトキシル化された化合物を使用するのが好ましい。
【0021】
存在するなら、R3上の置換基は好ましくは、モノエーテルアルコールおよびアルコキシル化化合物からなる群より選択される。
【0022】
好ましい実施態様においては、本発明のレオロジー調節剤は、1種以上のポリイソシアネートと、以下のアミノ酸、それらのエステル誘導体および塩からなる群より選択される、好ましくは天然に生じる配座での、1種以上の式(I)の光学活性なアミノ酸誘導体とを反応させることによって得られる:
【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
ポリイソシアネートは好ましくは、脂肪族、脂環式、アラルキレンおよびアリーレンポリイソシアネートからなる群より選択され、さらに好ましくは、2個のイソシアネート基の間の鎖に偶数個の炭素原子を有する置換もしくは非置換の線状脂肪族ポリイソシアネート(およびそれらのイソシアヌレート、ビウレット、ウレトジオン)ならびに、置換もしくは非置換のアリーレン、アラルキレンおよびシクロヘキシレンポリイソシアネートからなる群より選択される。ポリイソシアネートは通常2〜40個、好ましくは4〜8個の炭素原子を含む。ポリイソシアネートは好ましくは最大で4個のイソシアネート基、さらに好ましくは最大で3個のイソシアネート基、最も好ましくは2個のイソシアネート基を含む。対称の脂肪族もしくはシクロヘキシレンジイソシアネートを使用するのがなおさらに好ましい。ジイソシアネートの適当な例は好ましくは、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(HMDI)、ω,ω'-ジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、トランス-シクロヘキシル-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、1,5-ジメチル-(2,4-ω-ジイソシアナトメチル)ベンセン、1,5-ジメチル(2,4-ω-ジイソシアナトエチル)ベンセン、1,3,5-トリメチル(2,4-ω-ジイソシアナトメチル)ベンセン、1,3,5-トリエチル(2,4-ω-ジイソシアナトメチル)ベンセン、メタ-キシリレンジイソシアネート、パラ-キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシル-ジメチルメタン-4,4'-ジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネートおよびジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート(MDI)からなる群より選択される。さらに適当なポリイソシアネートは好ましくは、HMDIに基づくポリイソシアネートからなる群より選択され、これは、HDMIの縮合誘導体、例えばウレトジオン、ビウレット、イソシアヌレート(三量体)および非対称三量体等を含み、その多くは、Desmodur(商標)NおよびTolonate(商標)HDBおよびTolonate(商標)HDTならびに「ポリマーMDI」として知られるポリイソシアネートとして販売されている。ポリマーMDIは典型的には、純MDIとMDIのオリゴマーとの混合物である。特に好ましいポリイソシアネートは、HMDI、そのイソシアヌレート三量体、そのビウレット、トランス-シクロヘキシル-1,4-ジイソシアネート、メタ-キシリレンジイソシアネートおよびトルエンジイソシアネートからなる群より選択される。最も好ましくは、HMDIが選択される。
【0028】
置換ポリイソシアネートは典型的には、線状ポリイソシアネートが反応して二量体および/または三量体を形成することによって形成される。
【0029】
当業者に理解されるように、保護剤が分解後に本発明のレオロジー調節剤の形成を妨げない限り、その場で(in situ)2個以上のイソシアネートを生じる慣用的に保護されたポリイソシアネートを使用することがまた可能である。本明細書中では、「ポリイソシアネート」という語は、全てのポリイソシアネートおよびポリイソシアネート生成化合物を呼ぶのに使用される。
【0030】
1種以上の光学活性なアミノ酸誘導体と1種以上の光学活性な(ポリ)イソシアネートとを反応させることがまた可能であることが注意される。しかしながら、経済的な理由のためには、そのようなプロセスおよび得られるレオロジー調節剤はあまり好ましくない。
【0031】
レオロジー調節剤の製造のための、1種以上のイソシアネートと1種以上のアミノ酸誘導体との間の反応においては、化学量論量を使用する代わりに、イソシアネートまたはアミノ酸誘導体が過剰で使用されることが好ましい。例えばアミノ酸誘導体のアミノ基の数対(生成する)イソシアネート基の数の比は、0.7〜1.5の範囲にあることができる。好ましくはこの比は、約0.9〜1.1である。
【0032】
キラルなアミノ酸誘導体の任意の非ラセミ鏡像体混合物を使用して、本発明のレオロジー調節剤を製造することができるが、これは、この混合物が本発明の光学活性なアミノ酸誘導体を含むとすればのことであることを理解すべきである。この説明においては、「鏡像体過剰率」という語は、以下ではまた「ee」と称され、キラル化合物の両方の鏡像体を含む試料中でラセミ物質と比較して1方の鏡像体の過剰を示すのに使用される。鏡像体過剰率は、百分率として表される:ラセミ試料、すなわち両方の鏡像体の50:50混合物は0%のeeを有し、鏡像体的に純粋な試料は100%のeeを有する。2つの鏡像体の50:50比を使用すべきでないが、最適な結果は、2つの鏡像体の比が100:0でないときに非常に良く得ることができることが注意される。言い換えれば、鏡像体混合物のeeは、0%ではあってはならない。eeは好ましくは、少なくとも10%(55:45比のように)、さらに好ましくは少なくとも20%(60:40比のように)、なおさらに好ましくは少なくとも40%(70:30比のように)、最も好ましくは少なくとも50%(75:25比のように)である。
【0033】
本発明の1つの実施態様においては、少なくとも55%、最も好ましくは少なくとも75%のeeを有する鏡像体混合物が好ましく使用される。というのは、この実施態様においては、ちょうど1つの鏡像体の有意の鏡像体過剰、すなわち、少なくとも55%のeeの使用は、改善されたレオロジー制御特性を有するレオロジー調節剤を生じるからである。
【0034】
イソシアネートとアミノ酸誘導体との間の反応は、当業者に明らかなように、任意の自由に選ばれたやり方で、任意的に昇温して、反応成分を合わせることによって行なうことができる。0〜150℃の温度範囲で反応を行なうのが好ましく、さらに特には20〜80℃の範囲で行なう。慨して反応成分を任意の自由に選ばれたやり方で合わせるが、好ましくはイソシアネートをアミノ酸誘導体に添加し、これは所望なら数段階で行なうことができる。任意的に、反応は、不活性溶媒、例えばアセトン、メチルイソブチルケトン、N-メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、キシレンまたは脂肪族炭化水素例えば石油エーテル、アルコールおよび水またはそれらの混合物の存在下で行なうことができる。ここで、「不活性な」という語は、溶媒がポリ尿素形成のプロセスにおいて妨害しないことを示し、これは、溶媒が存在するときに形成されるポリ尿素の量が、溶媒が存在しないときに製造される量の少なくとも80%であることを意味する。
【0035】
レオロジー調節剤の製造は任意的にまた、バインダーの存在下で行なうことができる。これは、バインダーおよびイソシアネートの混合物をアミノ酸誘導体と混合するか、またはイソシアネートをバインダーおよびアミノ酸誘導体の混合物を混合するか、またはバインダーとアミノ酸誘導体およびNCOとのそれぞれ2つの混合物を混合することによって行なうことができる。バインダーがアミノ酸誘導体またはイソシアネートと反応性が高いなら、バインダーおよびその特に反応しやすい化合物を予備混合することができないことは明らかであろう。「反応性が高い」という語は、ここでは、レオロジー調節剤を製造するためにアミノ酸誘導体およびイソシアネートが混合される前に、30%より多い反応しやすいアミノ酸誘導体またはイソシアネートがバインダーと反応することを意味する。混合の操作は、任意の便利なやり方で行うことができ、反応体は激しく撹拌される。アミノ酸誘導体をイソシアネートに添加することができるか、またはイソシアネートをアミノ酸誘導体に添加することができ、どちらも最も便利である。バインダーが使用され、アミノ酸誘導体またはイソシアネートがバインダーと反応性が高いなら、バインダーと最も反応性である化合物は好ましくは、バインダーと、バインダーとあまり反応性でない化合物との混合物に添加される。
【0036】
本発明の1つの実施態様においては、レオロジー調節剤は、任意的にさらなるバインダー、硬化成分および/または他の(慣用の)添加剤を用いて、最終コーティング組成物のバインダーまたは硬化成分中で、バインダー分散物をなお流体として取り扱うことができ、その後コーティング組成物において使用することができるような低濃度で、好ましくは0.1〜8%で製造される。レオロジー調節剤がバインダー中で製造されるとき、適切な撹拌下で、20〜80℃の範囲の温度で好ましく製造される。
【0037】
レオロジー調節剤の製造の別の実施態様においては、バインダーは、反応が終結したなら混合物が固体のような物質として得られるような量のイソシアネートおよびアミノ酸誘導体と混合され、この物質は、5〜99、好ましくは6〜50、より好ましくは7〜25重量部のレオロジー調節剤対95〜1、好ましくは94〜50、より好ましくは93〜75重量部のバインダーからなるレオロジー調節剤のマスターバッチとして使用することができる。任意的に、さらなる希釈剤または補助剤が存在することができる。最終コーティング組成物中およびレオロジー調節剤のマスターバッチ中のバインダーは、同じまたは異なる組成を有することができる。好ましい濃縮物は適当には、20〜80℃の範囲の温度で、不活性気体の雰囲気中で製造され、アミノ酸誘導体がまずバインダー物質に添加され、混合物が均質化された後、イソシアネートが、撹拌しながら混合物にゆっくりと添加される。
【0038】
あまり望ましくはないが、レオロジー調節剤を含むバインダーまたは硬化組成物をまた、該レオロジー調節剤の存在下で、またはバインダーまたは硬化化合物ならびにレオロジー調節剤を同時に製造することによって、製造することができる。当業者は、レオロジー調節剤またはレオロジー調節剤のための出発物質を、バインダーまたは硬化化合物の出発物質と合わせ、次いでレオロジー調節剤含有バインダーまたは硬化組成物を形成する反応に問題はない。
レオロジー調節剤がバインダーまたは硬化化合物中で製造されないなら、好ましくは濃縮溶液として、コーティング組成物の1種以上の成分、好ましくはバインダーまたは任意の他の液体成分と混合することができ、その結果、細かい分散物が得られる。好ましい実施態様の混合物は好ましくは、溶媒なし、溶媒に基づく、または水に基づくことができる、液体成分、例えばバインダー中のレオロジー調節剤の分散物を形成する。
【0039】
本発明はさらに、バインダーおよび本発明のレオロジー調節剤を含むコーティング組成物に関する。レオロジー調節剤がコーティング組成物を処方するのに使用されるときには、得られるコーティング組成物は、ここではチキソトロピックと呼ばれる改善されたレオロジーを示し、レオロジー調節剤の分散粒子の大きさおよび屈折率に依存して、不透明、オパールのような光彩または透明な概観すら有することができる。
【0040】
任意的に、任意の本発明のコーティング組成物中に慣用の添加剤が存在することができ、例えば溶媒および/または分散添加剤、顔料分散剤、染料、顔料、UV硬化添加剤、流動添加剤、他のレオロジー調節添加剤、溶媒および硬化反応の促進剤、例えば酸性化合物、例えばp-トルエンスルホン酸またはその保護された生成物である。コーティング組成物は、溶媒に基づくかまたは溶媒を含まないことができる他の慣用のレオロジー調節剤を含むことができる。別の実施態様においては、液体の他の慣用のレオロジー調節剤は、水に基づく。
【0041】
チキソトロピーコーティング組成物は、任意の所望のやり方で、例えばローリング、空気式または静電気式の噴霧、ブラッシング、散布、キャスティングおよび浸漬によって、基体に施与することができる。
【0042】
本発明のレオロジー調節剤が使用される組成物のレオロジーが変化する程度はとりわけ、レオロジー調節剤の割合およびレオロジー調節剤の性質ならびに組成物の成分に依存する。概して、組成物の全重量に基づいて少なくとも0.01%、さらに好ましくは少なくとも0.05%、なおさらに好ましくは少なくとも0.10%、最も好ましくは少なくとも0.15%でかつ、好ましくは最大で30%、さらに好ましくは最大で10%、なおさらに好ましくは最大で3%、最も好ましくは最大で1.5%の量でレオロジー調節剤を使用することによって、所望の程度のチキソトロピーを得ることができる。
【0043】
本発明のチキソトロピー組成物は、極性および/または非極性の溶媒を含むことができる。好ましくはチキソトロピーは、室温だけでなく高められた温度でも存在し、よって本発明のレオロジー調節剤は、室温における使用および、焼き付け塗料(硬化)、例えば50〜250℃、好ましくは125℃未満、さらに好ましくは100℃未満の範囲で2〜120分間にわたる使用のために適当である。
【0044】
本発明のSCAとして使用されるレオロジー調節剤はさらに、特に透明コートのために、組成物の光沢または明るさを減らさないか、めったに減らさないという著しい利点を有する。
【0045】
レオロジー調節剤は好ましくは、イソシアネートに基づくコーティング組成物、ポリオールに基づくコーティング組成物、アクリロイルに基づくコーティング組成物、エポキシに基づくコーティング組成物および二重硬化性コーティング組成物において使用され、後者はまた、ハイブリッド硬化性コーティング組成物と称される。二重硬化性コーティング組成物は、例えばUV硬化性のアクリロイルに基づく系と化学的硬化性のイソシアネートに基づく系との組合せであり、ここで2つの硬化性の系は、任意の順序で硬化されることができ、イソシアネートは、室温〜140℃までの範囲の温度で硬化されることができる。
【0046】
レオロジー調節剤は、少なくとも25℃でかつ150℃より下、好ましくは125℃より下、より好ましくは100℃より下の温度で、1種以上のポリオール化合物、チオール化合物および/またはアミン-官能性化合物、例えばDesmophen(商標)NH 1220、Desmophen(商標)NH 1420およびDesmophen(商標)NH 1521で硬化される、慣用のイソシアネート-反応性2成分(2K)コーティング系におけるレオロジーを改善するのに特に適していることが見出された。その上、レオロジー調節剤はまた、慣用の方法、例えばほとんどのUVまたはEB-硬化処方物の場合におけるようにラジカルのメカニズムによって硬化されるアクリロイル-官能性化合物に基づく処方物のレオロジーを改善するのに特に適していることが見出された。
【0047】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【0048】
実施例1〜3および比較例A
Setalux(商標)1767 VV-65 アクリルポリオール、アクゾ ノーベル(Akzo Nobel)から
アラニンブチルエステル/HDI アラニンブチルエステル/ヘキサメチレンジイソシアネート
Setal(商標)166 SS-80 ポリエステルポリオール、アクゾ ノーベル(Akzo Nobel)から
Tinstab(商標)BL 277 アクロス ケミカルズ(Akcros Chemicals)から
Baysilon(商標)OL-17 バイエル(Bayer)AGから
Byk(商標)306 ビーワイケー-セラ(Byk-Cera)BVから
Tinuvin(商標)1130 チバ スペシャルティ ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)から
Tinuvin(商標)292 チバ スペシャルティ ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)から
Tolonate(商標)HDT 90 脂肪族ポリ-イソシアネート、ロディア(Rhodia)から
Vestanat(商標)T1890 ポリ-イソシアネート、ヒュエルス(Huels)から
【0049】
4つの塗料処方物(比較処方物Aおよび、本発明の処方物1〜3)を製造した(表I参照)。塗料は、直径1cmの穴13個を有する垂直なスズ-メッキした板の上に噴霧し、示されたスケジュールで垂直にして焼いた。垂れの限界を、垂れが生じた穴と先行する穴との間の層厚として決定した。垂れを測定する別の方法は、滴の長さが1cmである点で層厚を測定することである。
【0050】
これらの実施例は、本発明のレオロジー調節剤が、垂れ抑制剤として良好な活性および、透明コートにおいて優れた透明性を有することを示す。また140℃で24分、60℃で60分および室温で数日間乾燥では、ガラスに施与された透明コートは完全に透明である。40ミクロンのフィルム厚を有するガラスへの透明コートの透過率(%)は、ハンターラブ(Hunterlab)のColorQuest分光光度計を用いて測定した。透過率値が相互に比較されるなら、より低い透過率値は、より曇っていて透明度が低いことを意味する。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例4〜18および比較例B〜D
Setal(商標)166 SS-80 ポリエステルポリオール、アクゾ ノーベル(Akzo Nobel)から
Setalux(商標)1767 アクリルポリオール、アクゾ ノーベル(Akzo Nobel)から
Setalux(商標)1198 アクリルポリオール、アクゾ ノーベル(Akzo Nobel)から
Actilane(商標)890 メラミンアクリレート、 アクゾ ノーベル(Akzo Nobel)から
Resin X 国際特許出願公開WO02/098942の実施例3に記載されたようにして得られる樹脂
Tolonate(商標)HDT-LV 脂肪族ポリ-イソシアネート、ロディア(Rhodia)から
HDI-BA ヘキサメチレンジイソシアネート-ベンジルアミン
アミノ酸 アルドリッチ(Aldrich)から
【0053】
全てのSCAは、固形分3.7重量%に対応する濃度で、挙げられた(表II参照)ホスト樹脂において、その場で(in situ)製造された。コーティング組成物は、全固形分に基づいて1.0〜1.2重量%のSCA濃度を得るように処方された。全てのNCO-ポリオール硬化処方物のために、Tolonate(商標)HDT-LV(Tol(商標)HDT)を、1:1モルOH-NCO化学量論量で、架橋剤として使用した。約0.8Paの高剪断粘度でのレオロジー特性の測定を可能にするために、酢酸ブチルを使用して処方物を希釈した。全てのNCO処方物は60℃で30分間硬化した;Actilane(商標)890は、UV光を用いて室温で硬化した。
【0054】
制御された剪断応力モードで、高(1,000Pa)剪断応力で開始して、円錐形および板のレオメーターを用いて粘度を測定した。0.5Paの剪断応力を施与し、時間の関数として累積する動きを監視して、フィルムの高剪断妨害後に、コンプライアンスを測定した。第1の測定は、平衡レオロジー構造を示す値を与え、第2の測定は、構造回復の速度を明確に考慮に入れ;低い値は、低い累積流動を示す。
【0055】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のポリイソシアネートと、1種以上の式(I)

(ここで、R1、R2およびR3のそれぞれは独立して、水素および線状もしくは分岐した、置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和のヒドロカルビルまたはヘテロ原子含有基から選択され、炭素原子C*がキラル中心であるようにR1およびR2の夫々は異なる)
の光学活性なアミノ酸、それらのエステルおよび/または塩であって、ラセミ混合物としてではないものとを反応させることによって得ることができるレオロジー調節剤のコーティング組成物における垂れ抑制剤としての使用方法。
【請求項2】
1種以上のポリイソシアネートが、2個のイソシアネート基の間の鎖に偶数個の炭素原子を有する置換もしくは非置換の線状脂肪族ポリイソシアネートならびに、ウレトジオン、イソシアヌレートまたはビウレットトリマーのような縮合ダイマーおよびトリマー誘導体ならびに、置換もしくは非置換のアリーレン、アラルキレンおよびシクロヘキシレンポリイソシアネートからなる群より選択される請求項1記載の使用方法。
【請求項3】
式(I)の1種以上の光学活性なアミノ酸および/またはそのエステルが、





それらのエステル誘導体および塩からなる化合物群より選択される請求項1または2記載の使用方法。
【請求項4】
R1および/またはR2がヒドロカルビルであるなら、線状、環状もしくは分岐した、置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、ヘテロ原子を含有することができるC1〜C24アルキル、アリール、アラルキルおよびアルケニルから成る群より独立して選択され、好ましくは線状または分岐したC1〜C24アルキルから成る群より選択され、さらに好ましくは線状または分岐したC1〜C4アルキルから成る群より選択され、最も好ましくはヒドロカルビルはメチルまたはエチル基である請求項1〜3のいずれか1項記載の使用方法。
【請求項5】
R3がヒドロカルビルであるなら、ヒドロカルビルは、線状、環状もしくは分岐した、置換もしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の、ヘテロ原子を含有することができるC1〜C25アルキル、アリール、アラルキルおよびアルケニルからなる群より選択され、さらに好ましくはR3は、線状もしくは分岐した、置換もしくは非置換の、ヘテロ原子を含有することができるC1〜C25アルキルからなる群より選択され、なおさらに好ましくは、線状もしくは分岐した、置換もしくは非置換のC1〜C8アルキル、エーテルおよび/または、エステル化されていることができるC1〜C8(ポリ)アルコキシからなる群より選択され、最も好ましくは、線状C1〜C4アルキルおよびアルコキシル化されていることができる線状C1〜C4アルコキシからなる群より選択される請求項1〜4のいずれか1項記載の使用方法。
【請求項6】
コーティング組成物がイソシアネートに基づくコーティング組成物である請求項1〜5のいずれか1項記載の使用方法。
【請求項7】
コーティング組成物がアクリロイルに基づくコーティング組成物である請求項1〜5のいずれか1項記載の使用方法。
【請求項8】
コーティング組成物がエポキシ硬化性コーティング組成物である請求項1〜5のいずれか1項記載の使用方法。
【請求項9】
コーティング組成物が二重硬化性コーティング組成物である請求項1〜5のいずれか1項記載の使用方法。
【請求項10】
コーティング組成物が、1種以上のポリオール化合物、チオール化合物および/またはアミン官能性化合物を用いて、少なくとも25℃かつ150℃より下、好ましくは100℃より下の温度で硬化される、イソシアネート反応性2成分(2K)コーティング系である請求項1〜5のいずれか1項記載の使用方法。
【請求項11】
コーティング組成物のコーティングフィルムを基体上に、該コーティングフィルムが硬化される前に施与する工程をさらに含む請求項1〜10のいずれか1項記載の使用方法。
【請求項12】
バインダーおよび請求項1〜11のいずれか1項記載のレオロジー調節剤を含むコーティング組成物。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項記載のレオロジー調節剤を使用することによって得ることができるコーティング組成物。

【公表番号】特表2007−528428(P2007−528428A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518167(P2006−518167)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007602
【国際公開番号】WO2005/005558
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(505396349)ヌプレクス レジンズ ビー.ブイ. (13)
【Fターム(参考)】