説明

アミノ酸誘導体及び抗活性酸素剤

【課題】活性酸素種の発生を抑制し、安全性も高くまた比較的安価に製造することが可能である新規抗活性酸素剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(III)で表わされるアミノ酸誘導体。


(式中、Arは2−ヒドロキシ−1−ナフチル基を表わし、Rはロイシン、イソロイシン等のアミノ酸の側鎖を表わし、Xは−CH=N−を表わし、Yは水素原子、−COOR、−SOH、−CON(R)R、−CONHCH(R)COORまたは−CHOHを表わし、そしてnは0または1の整数を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規抗活性酸素剤に関し、更に詳細には活性酸素の発生を抑制し、皮膚の老化防止、各種疾患の防止等の効果が期待される抗活性酸素剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパーオキシドアニオンラジカル(O)、ヒドロキシラジカル(・OH)、一重項酸素()、過酸化脂質等の活性酸素種による様々な障害・疾病が報告されている。例えば太陽光線、特に紫外線による皮膚の老化、癌化、色素沈着、炎症等においては、その原因として活性酸素種が深く関与していることが知られている。これら皮膚への障害・疾病の他、生体内への種々の障害・疾病においても活性酸素種の関与が明らかにされてきている。例えば虚血再潅流による心臓、腸、胃、肝臓、腎臓、脳等の臓器への障害は、虚血組織に血液の再潅流により付加された分子状酸素に由来する活性酸素種が重要な役割を果たしている。その他、生体内で発生した活性酸素種による障害・疾病の例としては、炎症やリウマチ、老化、癌、動脈硬化、消化器疾患、腎疾患、内分泌疾患、肺疾患、ショック、播種性血管内凝固症候群等、極めて広範かつ多岐にわたって挙げられる。また、食品中の油脂の酸化による変質・劣化においても活性酸素種の関与が報告されている。
【0003】
このように皮膚をはじめとする生体臓器や食品等幅広い領域に影響を及ぼしている活性酸素種の作用を抑制することができれば、上記の諸障害・疾病ならびに食品の変質・劣化を防ぐことが期待される。
【0004】
従来、活性酸素種の作用を抑制する物質として、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)をはじめとする酵素系抗酸化剤やアスコルビン酸、トコフェロール及びグルタチオンといった非酵素系抗酸化剤、あるいはタンニン類等植物由来の抗酸化剤が知られている。また近年、生体内に存在する金属イオンが活性酸素種の発生において触媒の役割を果たしていることから、金属イオンを捕捉することにより活性酸素種の発生を抑える検討がいくつか報告されている(例えば、Free Radicals in Biology and Medicine. Oxford, Clarendon Press, 234頁,1989年)。
【0005】
従来より知られている活性酸素種の作用を抑制する物質のうち、SODは高価であり、加えて不安定であることからその使用には制約がある。アスコルビン酸、トコフェロール及びグルタチオンといった非酵素系抗酸化剤についても、不安定な化合物が多く活性酸素種の抑制も不十分である。タンニン類等植物由来の抗酸化剤もまた加水分解され易い、それ自体が酸化され易い等、安定性に問題を有するものが多い。
【0006】
また、金属イオン捕捉能を有する化合物としては、デスフェリオキサミン系化合物が代表的であるが、この化合物は医薬品として使用する場合、金属イオン捕捉能が強すぎるために生体内の金属イオンのバランスに支障をきたし、延いては炎症を併発するといった副作用を示す上に、経口投与では十分な活性酸素種の発生抑制効果を示さないといった問題を有している。さらに、価格が高いことから、化粧料・食品への使用も困難である。デスフェリオキサミン系化合物以外では、2,2’−ジピリジル、1,10−フェナンスロレン、2,2’−ジピリジルアミン等の金属イオンキレート剤が検討されているが、これらはその殆どが毒性や皮膚刺激性を示すものである。
【0007】
本発明の目的は、活性酸素種の発生を抑制し、安全性も高く、また比較的安価に製造することが可能である新規抗活性酸素剤を提供することにある。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、下記一般式(I)で表されるアミノ酸誘導体またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする抗活性酸素剤に関する。
【0009】
【化2】

【0010】
式中、Arは、2−ヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシ−1−ナフチル基またはピリジル基を表わし、そしてこれらの基の芳香環に結合した水素原子は、1個または複数個がハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜6のヒドロキシアルキル基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルコキシル基またはカルボキシル基で置換されていてもよい。水素原子が複数個の基で置換されている場合、複数の置換基は同一であっても異なっていてもよい。Rは、アミノ酸の側鎖を表わす。Xは、−CH−NH−または−CH=N−を表わす。Yは、水素原子、−COOR、−SOH、−CON(R)R、−CONHCH(R)COORまたは−CHOHを表わし(ここに、R〜Rは、それぞれ、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を表わし、Rはアミノ酸の側鎖を表わす。)、nは0または1の整数を表わす。
【0011】
一般式(I)で表わされる化合物中、下記一般式(II)または(III)で表わされる化合物は、文献未収載の新規化合物である。
【0012】
【化3】

【0013】
式中、Arは2−ヒドロキシフェニル基を表わし、この基の芳香環に結合した水素原子は、1個または複数個が上記一般式(I)におけると同じハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ニトロ基、アルコキシル基またはカルボキシル基で同様に置換されていてもよい。Rは、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン、メチオニン、スレオニン、チロシン、トリプトファン、ホモセリンもしくは3,4−ジヒドロキシフェニルアラニンの側鎖または水素原子を表わす。Xは、−CH−NH−を表わし、そしてY及びnは、それぞれ、前記一般式(I)におけると同じである。
【0014】
【化4】

【0015】
式中、Arは、2−ヒドロキシ−1−ナフチル基を表わし、この基の芳香環に結合した水素原子は、1個または複数個が前記一般式(I)におけると同じハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ニトロ基、アルコキシル基またはカルボキシル基で同様に置換されていてもよい。
【0016】
は、ロイシン、イソロイシン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、アルギニン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ホモセリンまたは3,4−ジヒドロキシフェニルアラニンの側鎖を表わす。Xは−CH=N−を表わす。そして、Y及びnは、それぞれ、前記一般式(I)におけると同じである。
【0017】
上記一般式(I)中、Arとしては、2−ヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシ−5−クロロフェニル基、2−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル基、2−ヒドロキシ−1−ナフチル基または2−メチル−3−ヒドロキシ−5−ヒドロキシメチル−4−ピリジル基が、活性酸素抑制効果の点から特に好ましい。また、アミノ酸の側鎖(R)としてはヒスチジン、セリン、ホモセリン、チロシン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、スレオニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、フェニルアラニン、トリプトファン等の側鎖が、同じく活性酸素抑制効果の点から特に好ましい。
【0018】
上記一般式(I)で表わされる化合物は、例えば、以下のようにして容易に製造することができる。
【0019】
【化5】

(式中、Ar、Y、R及びnは前記と同じ。)
例えばサリチルアルデヒドのような2−ヒドロキシ芳香族アルデヒド(1)とアミノ酸またはそのエステル、アミドもしくはアミノ酸を還元して得られるアミノアルコール(2)とを溶媒中または無溶媒で反応させることにより容易に(3)の化合物が得られる。また(4)の化合物は、(1)と(2)との反応中または反応後に水素化ホウ素ナトリウムなどの水素添加剤を添加することによりに導くことができる。
【0020】
前記一般式(I)で表わされる、本発明の抗活性酸素性化合物は、例えば静脈投与、皮膚上への塗布などにより活性酸素発生系に直接投与することにより使用することもできるが、通常、化粧水、クリームなどの化粧料、抗炎症薬、動脈硬化剤などの医薬品、食用油などの食品等に添加配合することにより使用される。そして、例えば、皮膚老化防止成分として化粧料に配合する場合には、要するに、皮膚老化防止作用の発現する量で添加使用すべきはもちろんで、例えば、当該化粧料全体の0.1〜10重量%を占める量で添加することができる。また、医薬品として人に投与する場合も、要するに、目的とする効果の発現する量で投与すべきはもちろんで、例えば、成人1人当り0.1〜1000mg/日投与することができ、さらに食品 の変質・劣化を防ぐためにも同様で、例えば、食品に対して0.1〜10重量%(上乗せ)の量で添加することができる。さらにまた、本発明の抗活性酸素性化合物は、化粧品に配合せずに、例えば、軟膏のようにして専門の皮膚老化防止剤にすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を合成例、試験例及び使用例から成る実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
合成例1
L−ヒスチジン5gを2N水酸化ナトリウム水溶液20mlに溶かした後、これにサリチルアルデヒド3.5mlおよび水素化ホウ素ナトリウム0.4gを順次加えた。1時間撹拌した後、再度、サリチルアルデヒド3.5mlおよび水素化ホウ素ナトリウム0.4gを順次加えた。室温で1時間撹拌後、不溶物を濾別し、濾液をジエチルエーテルで抽出した。塩酸でpHを6に調節して、N−(2−ヒドロキシベンジル)−L−ヒスチジン8gを得た。
【0023】
該化合物の融点、マススペクトル(FAB−MS)ならびにNMRスペクトルの測定結果を後掲表1に示す。
【0024】
合成例2〜26
合成例1と同様の方法で、表1に示す化合物を製造した。これらの化合物の融点、マススペクトルならびにNMRスペクトルの測定結果を表1に示す。
【0025】
【表1】



【0026】
合成例27
L−ヒスチジン1.6gおよび2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド2.6gを無水エタノール220mlに加え、5日間撹拌することによりN−(2−ヒドロキシ−1−ナフタール)−L−ヒスチジン2.4gを得た。
該化合物の融点、マススペクトルならびにNMRスペクトルの測定結果を後掲表2に示す。
【0027】
合成例28〜67
合成例27と同様の方法で、表2に示す化合物を製造した。これらの化合物の融点、マススペクトルならびにNMRスペクトルの測定結果を表2および表3に示す。
【0028】
【表2】






【0029】
【表3】

【0030】
合成例68
L−ヒスチジン(4g)およびピリドキサール塩酸塩(5.5g)を1N水酸化ナトリウム−メタノール溶液(60ml)に加え、5日間撹拌することによりN−ピリドキシリデン−L−ヒスチジン−ナトリウム塩(7g)を得た。
【0031】
該化合物の融点、マススペクトルならびにNMRスペクトルの測定結果を前掲表3に示す。
【0032】
合成例69〜72
合成例68と同様の方法で、表4に示す化合物を製造した。これらの化合物の融点、マススペクトルならびにNMRスペクトルの測定結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
試験例1:紫外線による脂質過酸化抑制作用の試験
試験は、Biochim. Biophys. Act. 1084巻, 261 頁, 1991年及び Method in Enzymol. 52巻, 302 頁, 1978年に記載の方法に基づいて行った。すなわち、常法に従い調製したマウス皮膚細胞の一種であるマウスswiss3T3細胞のホモジネート−20mMリン酸緩衝液(タンパク含量:1.5〜1.8mg/ml)1.2mlに、後掲表5に示す被験化合物の水酸化ナトリウム水溶液12μlを加えた。この時、被験化合物の最終濃度は1mM、そして溶液のpHは7.2〜7.8となるように調製した。被験化合物が水酸化ナトリウム水溶液に溶解しない場合には、N,N−ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。
【0035】
この溶液1.1mlに紫外線をUVBランプ(Spectronics 社製:EB-280C/J )を用いて照射(0.4mW/cm、90分間)した。この溶液の一部(1.0ml)にドデシル硫酸ナトリウム水溶液0.2ml及びチオバルビツール酸−トリクロロ酢酸−塩酸水溶液1.0mlを順次加えて、沸騰水浴中で15分間加温した。氷冷後、1−ブタノール1.0mlで抽出して、過酸化脂質測定用試料とした。過酸化脂質は、分光光度計(日立製:320型)を用いて、波長535nmにおける試料の吸光度で測定した。
【0036】
次式(1)により被験化合物の脂質過酸化の抑制率を算出し、表5に示す。
【0037】
【数1】

:被験化合物添加時の吸光度
:被験化合物未添加時の吸光度
:被験化合物未添加で紫外線照射も行わなかった時の吸光度
【0038】
【表5】

【0039】
試験例2:ヒドロキシラジカル発生に対する抑制効果の試験(1)
試験は、FEBS Letters 128巻,347頁, 1981年に記載の方法に基づいて行った。すなわち、54mM塩化ナトリウム−9mMリン酸緩衝液(以下、PBS−1」と称する)1.1mlに、後掲表6に示す被験化合物のPBS−1溶液140μl、硫酸アンモニウム鉄(III)の1mM塩酸溶液5μl、キサンチン(東京化成(株)製)のPBS−1溶液140μl、デオキシリボース(シグマ社製)のPBS−1溶液14μl及びキサンチンオキシターゼ(シグマ社製)を順次加えた。この時、被験化合物、硫酸アンモニウム鉄(III)、キサンチン、デオキシリボースならびにキサンチンオキシターゼの最終濃度はそれぞれ360μM、36μM、70μM、700μMならびに0.7ユニット/mlとなるように調製した。被験化合物がPBS−1のみでは溶解しない場合には水酸化ナトリウム水溶液またはDMSOを添加して溶解した。また、溶液のpHは7.4〜7.8となるように調製した。
【0040】
この溶液を37℃で15分間保温した後、チオバルビツール酸の水酸化ナトリウム水溶液1ml及び酢酸1mlを順次加えて、沸騰水浴中で10分間加温した後、氷冷してヒドロキシラジカル測定用試料とした。ヒドロキシラジカルは蛍光分光光度計(日立製:F−4000型)を用いて、励起波長532nm、そして蛍光波長553nmで測定した。次式(2)によりヒドロキシラジカルの抑制率を算出し、結果を表6に示す。
【0041】
【数2】

:被験化合物添加時の蛍光強度
:被験化合物を添加しデオキシリボースを未添加の時の蛍光強度
:被験化合物未添加時の蛍光強度
:被験化合物及びデオキシリボース未添加時の蛍光強度
【0042】
【表6】

【0043】
試験例3:金属イオンにより誘発される脂質過酸化の抑制作用の試験
試験は、Method in Enzymol. 52巻, 302 頁, 1978年に記載の方法に基づいて行った。C57ブラックマウスを頚椎脱臼屠殺し、頭部切開して摘出した全脳を20mMリン酸緩衝液(以下、PBS−2と称する)で洗浄した後、全脳の湿重量の19倍量のPBS−2を加えて、ホモジェナイザー(Kinematica社製:ポリトロン)で破砕・均質化した。このようにして調製した5%マウス脳ホモジネート−PBS−2溶液を、PBS−2で5倍に希釈した1%マウス脳ホモジネート−PBS−2溶液(タンパク含量:0.8〜1.0mg/ml)800μlに、後掲表7に示す被験化合物のPBS−2溶液100μl及び硫酸アンモニウム鉄(II)水溶液100μlを順次加えた。この時、被験化合物ならびに硫酸アンモニウム鉄(II)の最終濃度はそれぞれ1mM及び100μMとなるように調製した。被験化合物がPBS−2のみでは溶解しない場合には水酸化ナトリウム水溶液またはDMSOを添加して溶解した。また、溶液のpHは7.2〜7.8となるように調製した。
【0044】
この溶液を37℃で30分間加温した後、チオバルビツール酸−トリクロロ酢酸−塩酸水溶液2.0mlを加えて、沸騰水浴中で15分間加温した。氷冷後、1−ブタノール1.0mlで抽出して、過酸化脂質測定用試料とした。過酸化脂質は、試験例1におけると同様にして測定した。
【0045】
次式(3)により被験化合物の脂質過酸化の抑制率を算出し、結果を表7に示した。
【0046】
【数3】

:被験化合物添加時の吸光度
:被験化合物未添加時の吸光度
:被験化合物未添加で37℃、30分間の加温も行わなかった時の吸光度
【0047】
【表7】


【0048】
試験例4:脂質過酸化の抑制作用の試験
試験例3に示した方法で調製した5%マウス脳ホモジネート−PBS−2溶液900mlに、後掲表8に示す被験化合物のPBS−2溶液100μlを加えた。この時、被験化合物の最終濃度は30μMとなるように調製した。被験化合物がPBS−2のみでは溶解しない場合には水酸化ナトリウム水溶液またはDMSOを添加して溶解した。また、溶液のpHは7.2〜7.8となるように調製した。
【0049】
この溶液を37℃で60分間加温した後、チオバルビツール酸−トリクロロ酢酸−塩酸水溶液1.0mlを加えて、沸騰水浴中で15分間加温した。氷冷後、1−ブタノール2.0mlで抽出して、過酸化脂質測定用試料とした。過酸化脂質は、試験例1におけると同様にして測定した。次式(4)により被験化合物の脂質過酸化の抑制率を算出し、結果を表8に示す。
【0050】
【数4】

:被験化合物添加時の吸光度
:被験化合物未添加時の吸光度
:被験化合物未添加で37℃、90分間の加温も行わなかった時の吸光度
【0051】
【表8】

【0052】
試験例5:ヒドロキシラジカル発生に対する抑制効果(2)の試験
後掲表9に示す被験化合物を0.1Mリン酸緩衝液(以下、PBS−3」と称する)に溶かしたもの75μlに硫酸鉄(II)水溶液75μl、5,5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシド(DMPO)(同仁化学研究所製)水溶液20μl及び過酸化水素水溶液75μlを順次加えた。この時、被験化合物、硫酸鉄(II)、DMPOならびに過酸化水素の最終濃度は、それぞれ、306μM、306μM、75mMならびに306μMとなるように調製した。被験化合物がPBS−3のみでは溶解しない場合には水酸化ナトリウム水溶液またはN,N−ジメチルホルムアミドを添加して溶解した。
【0053】
この溶液を直ちに(40秒以内)電子スピン共鳴(ESR)測定装置(日本電子製:JES−FR80S)を用いて、ヒドロキシラジカルの測定を行った。
【0054】
次式(5)によりヒドロキシラジカルの抑制率を算出し、結果を表9に示した。
【0055】
【数5】

:被験化合物添加時のシグナル強度
:被験化合物未添加時のシグナル強度
【0056】
【表9】

【0057】
試験例6:紫外線吸収作用の試験
後掲表10に示す被験化合物のエタノール溶液を最終濃度が100μMとなるように調製した。被験化合物がエタノールのみでは溶解しない場合には水またはDMSOを添加して溶解した。
分光光度計(日立製:320型)を用いて、試料の吸収スペクトルを測定した。紫外線AおよびB両領域におけるモル吸光係数を表10に示す。
【0058】
【表10】

【0059】
以下、使用例を示すが、成分の配合比は重量%である。
【0060】
使用例1(スキンクリーム)
下記表11に示す成分1を80℃まで、そして成分2を50℃まで各々加温して、成分1を撹拌しながら成分2を徐々に添加することにより乳化した。水冷下、撹拌しながら50℃で成分3を添加し、35℃まで冷却して製品とした。
合成例1の化合物を配合することにより、抗活性酸素性を有する皮膚保護作用の高いスキンクリームが得られた。また、このスキンクリームは光沢を有し、乳白性が高く、かつ、使用感が良好なものであった。
【0061】
【表11】

【0062】
使用例2(スキンミルク)
下記表12に示す成分1を85℃まで加温した。これを撹拌しながら成分2を徐々に添加し、次に成分3を添加した。水冷撹拌して30℃まで冷却して製品とした。
このスキンミルクは、合成例1の化合物を配合することにより、その抗活性酸素性により皮膚保護作用を有するものである。
【0063】
【表12】

【0064】
使用例3(化粧水)
下記表13に示す成分を均一に溶解して、化粧水を得た。
この化粧水は、合成例5の化合物を配合することにより、その抗活性酸素性により皮膚保護作用を有する。
【0065】
【表13】

【0066】
(産業上の利用可能性)
本発明の抗活性酸素剤は、以上の実施例に示すように、活性酸素種による作用を抑制する効果が高いうえ、その調製は容易であることから製造コストは低い。また、物理的及び化学的に安定である。従って、皮膚老化防止剤、化粧料、医薬品あるいは食品に使用することにより、活性酸素種に起因する人体等の諸障害・疾病ならびに食品等の変質・劣化を防ぐことを可能にするものである。また、本発明の抗活性酸素性化合物の一部は、紫外線吸収能をも有し、化粧料等への配合原料として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(III)で表されるアミノ酸誘導体。
【化1】

式中、Arは2−ヒドロキシ−1−ナフチル基を表わし、この基の芳香環に結合した水素原子は、1個または複数個が独立にハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、炭素原子数1〜6のヒドロキシアルキル基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルコキシル基またはカルボキシル基で置換されていてもよく、Rはロイシン、イソロイシン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、アルギニン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ホモセリンまたは3,4−ジヒドロキシフェニルアラニンの側鎖を表わし、Xは−CH=N−を表わし、Yは水素原子、−COOR、−SOH、−CON(R)R、−CONHCH(R)COORまたは−CHOHを表わし(ここに、R〜Rは、それぞれ、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を表わし、Rはアミノ酸の側鎖を表わす。)、そしてnは0または1の整数を表わす。但し、N−(2−ヒドロキシ−1−ナフタル)ロイシン、N−(2−ヒドロキシ−1−ナフタル)イソロイシン、N−(2−ヒドロキシ−1−ナフタル)グルタミン酸、N−(2−ヒドロキシ−1−ナフタル)アルギニン、N−(2−ヒドロキシ−1−ナフタル)リジン、N−(2−ヒドロキシ−1−ナフタル)メチオニン、N−(2−ヒドロキシ−1−ナフタル)フェニルアラニン、N−(2−ヒドロキシ−1−ナフタル)アスパラギン酸を除く。

【公開番号】特開2006−36767(P2006−36767A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201448(P2005−201448)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【分割の表示】特願2001−289068(P2001−289068)の分割
【原出願日】平成5年12月20日(1993.12.20)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】