説明

アミノ酸誘導体徐放性重合体、該重合体を含有する化粧料及び繊維構造物並びにそれらの製造法及び再生処理法

本発明は、皮膚に対して、人体から発生する汗などの電解質塩類含有水分を通じて、徐々にアミノ酸誘導体を供給することによって、角質層の水分保持機能を補い正常な皮膚を保つ効果を発現する重合体、並びに該重合体を含有する化粧料および繊維構造物を提供する。 酸性基含有重合体がアミノ酸誘導体とイオン結合していることを特徴とするアミノ酸誘導体徐放性重合体。かかるアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する化粧料および繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキンケア特性を有する重合体に関し、特に、皮膚にアミノ酸誘導体を供給することにより、角質層の水分保持機能を補い正常な皮膚を保つ効果(以下、スキンケア効果とも言う)を有する重合体に関する。また、本発明は、該重合体を含有する化粧料および繊維構造物並びにそれらの製造方法および再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸や蛋白質などのアミノ酸誘導体は、本来人間の体に備わっている天然保湿因子であり、スキンケア特性を有するものとして知られており、近年、この特性に注目してアミノ酸や蛋白質を付与した肌に優しい繊維製品の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、繊維製品に蛋白質であるセリシンを付与したスキンケア性製品が開示されている。該製品はセリシン水溶液に繊維製品を浸漬して乾燥することによって得られるが、セリシンを繊維製品に積極的に固着させる因子がないため、付与されるセリシンの量は少なく、また、付与されたセリシンも脱落しやすいので、スキンケア効果は小さく、満足いくものではないものとなってしまう。
【0004】
一方、特許文献2には、アミノ酸であるアルギニンをバインダーを介して付与した繊維製品が開示されている。該文献の実施例1では、洗濯10回後のアルギニンの保持率が90%を越えることが示されており、バインダーを使用することにより、優れた洗濯耐久性が得られることが示されている。しかし、このことは、裏を返せば、付与されたアルギニンがなかなか放出されないということである。すなわち、バインダーを使用した場合には、皮膚へのアミノ酸誘導体の移行が必然的に乏しくなり、スキンケア効果も小さなものとならざるを得ない。
この不利を解消するために、より多くのアミノ酸誘導体を付与することが考えられる。しかし、そのためには、それに見合ったより多くのバインダーを使用せざるを得ず、バインダーの使用量が多くなるほど、風合いは硬くなってしまう。皮膚に接触するような用途に使用される場合には、風合いの低下は大きな問題となる。加えて、実際には放出されずにスキンケア効果に関与することのないアミノ酸誘導体を多量に付与しなければならず、経済的にも望ましくない。
【0005】
また、特許文献3には、繊維構造物にアミノ酸水溶液を含浸した後、プラズマ処理でアミノ酸を架橋重合させることで固着させる方法が開示されている。該方法においてはバインダーを使用しないが、架橋重合によってアミノ酸が水不溶性の高分子となり、繊維表面に強く固着されるため、該方法で製造された繊維構造物を皮膚に接触させたとしても、上記と同様に皮膚へのアミノ酸の移行はほとんどなく、スキンケア効果はあまり期待できなかった。
【特許文献1】特開平8−60547号公報
【特許文献2】特開2002−13071号公報
【特許文献3】特開平5−295657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の技術においては、アミノ酸誘導体付与量が少なく容易に脱落してしまう、あるいは、逆に、アミノ酸誘導体を固着できてもほとんど放出できない、さらには、風合いが低下するなどの問題があった。本発明は、かかる従来技術の現状に基づきなされたものであり、皮膚に対して、人体から発生する汗などの電解質塩類含有水分を通じて、徐々にアミノ酸誘導体を供給することによって、角質層の水分保持機能を補い正常な皮膚を保つ効果を発現する重合体、並びに該重合体を含有する化粧料および繊維構造物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記重合体、化粧料および繊維構造物の製造方法並びに再生処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、アミノ酸誘導体を重合体上に保持させる手段としてイオン結合を採用することにより、該重合体が電解質塩類含有水分と接触したときにアミノ酸誘導体が徐々に放出されて、優れたスキンケア効果を発現すること、さらには、アミノ酸誘導体を放出した後の重合体をアミノ酸誘導体溶液で再処理することにより、再びアミノ酸誘導体をイオン結合させ、スキンケア特性を再生させることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)酸性基含有重合体がアミノ酸誘導体とイオン結合していることを特徴とするアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(2)人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率が10%以上であって、純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率の5倍以上の値であることを特徴とする(1)に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(3)アミノ酸誘導体放出後、アミノ酸誘導体溶液を含浸させることによって再生可能であることを特徴とする(1)または(2)に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(4)アミノ酸誘導体が分子内に下記式[I]で示す構造を有していることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【化1】

(Rは少なくとも1個以上の塩基性官能基を有する基を表す。)
(5)アミノ酸誘導体が塩基性アミノ酸であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(6)アミノ酸誘導体がアルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群より選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【0009】
(7)酸性基含有重合体が20℃×65%RH条件で20重量%以上の飽和吸湿率を有するものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(8)酸性基含有重合体がカルボキシル基を有していることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(9)酸性基含有重合体がアクリル酸系重合体であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(10)酸性基含有重合体が架橋構造を有していることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(11)架橋構造がニトリル基とヒドラジン系化合物の反応によって形成されたものであることを特徴とする(10)に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(12)架橋構造が架橋性ビニル単量体を共重合することによって形成されたものであることを特徴とする(10)に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(13)酸性基含有重合体が粒子状であることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
(14)酸性基含有重合体が繊維状であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【0010】
(15)酸性基含有重合体にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、40〜100℃で乾燥することを特徴とする(1)〜(14)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体の製造方法。
(16)(13)に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する化粧料。
(17)(13)または(14)に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物。
(18)繊維構造物が、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、パジャマ、バスローブ、タオル、マット、寝具の中から選択されたものであることを特徴とする(17)に記載の繊維構造物。
(19)酸性基含有重合体を含有してなる原料繊維構造物にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、40〜100℃で乾燥させることを特徴とする(17)または(18)に記載の繊維構造物の製造方法。
(20)使用することによりアミノ酸誘導体結合量の低下した(1)〜(14)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体あるいは(17)または(18)に記載の繊維構造物に、アミノ酸誘導体溶液を付与した後、乾燥することを特徴とするアミノ酸誘導体徐放性重合体の再生処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体は、アミノ酸誘導体を重合体上に保持させる手段としてイオン結合を採用することにより、風合いを低下させることなくアミノ酸誘導体を保持でき、なおかつ、アミノ酸誘導体を徐々に放出するという性質を発現させることを実現したものである。かかる性質を有する本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体は、スキンケア特性に優れたものであり、化粧品や肌着などの皮膚に接する製品やその材料などの幅広い用途に利用することができるものである。
【0012】
また、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体は、一旦アミノ酸誘導体を放出した後でもアミノ酸誘導体溶液で再処理することにより、容易に機能再生することが可能であるため、肌着やTシャツなどの繰り返し洗濯して使用するものに対して特に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は実施例9の編地および未加工布のそれぞれについて、皮膚水分回復率の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体は、酸性基含有重合体とアミノ酸誘導体からなるものであるが、この両者はイオン結合によって結び付けられている。本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体のアミノ酸誘導体を徐放する特徴や再生可能である特徴は、このイオン結合の可逆的な性質に由来する特徴である。
【0015】
すなわち、酸性基含有重合体にイオン結合したアミノ酸誘導体は、水分、特に汗などの電解質塩を含有する水に接したときには結合が解離して皮膚に移行しスキンケア効果を発現する。一方、アミノ酸誘導体結合量の低下したアミノ酸誘導体徐放性重合体はアミノ酸誘導体溶液を付与することにより、アミノ酸誘導体と再びイオン結合を形成し、元の状態に再生させることができる。
【0016】
また、イオン結合を形成するということは、酸性基含有重合体とアミノ酸誘導体との間に強い相互作用が働くということであり、アミノ酸誘導体を付与する際には、アミノ酸誘導体が酸性基含有重合体へ強く引き寄せられることになるので、効率的に多量のアミノ酸誘導体を保持させることが可能であり、よりスキンケア効果の高いものにすることが可能となる。
【0017】
これに対して、重合体にアミノ酸誘導体を共有結合させたり、バインダーで固定したりしたような場合では、アミノ酸誘導体を皮膚に移行させることは容易ではない。また、再生させることもほぼ不可能である。この点、重合体に単に物理的に付着させたりしたような場合には、アミノ酸誘導体の皮膚への移行や再生の可能性がないわけではないが、もともと単に付着させただけであって、重合体とアミノ酸誘導体との間の相互作用が僅かしかないので、付着できるアミノ酸誘導体の量も僅かであり、スキンケア効果はほとんど期待できない。
【0018】
上述してきたように本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体は、アミノ酸誘導体を皮膚へ移行させるという特性を有している。この特性を直接的に評価することは難しいが、間接的には人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)及び純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(β)が一つの目安となる。本発明者らが検討した結果、該溶出率(α)が後述する測定条件で測定した場合に、10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましく50%重量以上であって、人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)と純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(β)との関係においてα/βの値が5以上の値であること、好ましく7以上の値であれば、顕著なスキンケア効果が得られることがわかった。
【0019】
人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)は、以下に規定する方法で測定した場合の値を用いて、α(%)=人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量÷初期アミノ酸誘導体結合量×100の計算式により計算される値である。
【0020】
アミノ酸誘導体徐放性重合体に結合している初期アミノ酸誘導体結合量(mg/g)については、アミノ酸誘導体徐放性重合体0.5gを0.5N塩酸水溶液25mLに40℃、30分間浸漬して抽出されるアミノ酸誘導体量、及び乾燥減量法(五酸化二リン上で40℃、12時間減圧乾燥)より求めたサンプル水分値から計算によってアミノ酸誘導体徐放性重合体1gあたりの初期アミノ酸誘導体結合量を決定する。
【0021】
人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量(mg/g)については、アミノ酸誘導体徐放性重合体0.5gを人工汗液25mL中に25℃、0.5時間浸漬して溶出されるアミノ酸誘導体量、及び乾燥減量法(五酸化二リン上で40℃、12時間減圧乾燥)より求めたサンプル水分値から計算によってアミノ酸誘導体徐放性重合体1gから溶出するアミノ酸誘導体の溶出量を決定する。なお、人工汗液についてはJIS−L−0848を参照して以下のような酸性汗液を作成し使用する。JIS−L−0848には、人工汗液として、酸性汗液、アルカリ汗液が記載されているが、本発明の人工汗液においては酸性汗液をその代表として取り扱うこととする。酸性汗液としてはNaCl 5g/L、リン酸二水素12水和物 2.26gを水に溶解させ、0.5M NaOH水溶液でpH5.5に調整して1Lに容量調整したものを使用する。
【0022】
純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(β)は、上述した初期アミノ酸誘導体結合量と以下に規定する方法で測定した数値を用いて、β(%)=純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量÷初期アミノ酸誘導体結合量×100の計算式により計算される値である。
【0023】
純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量(mg/g)については、アミノ酸誘導体徐放性重合体0.5gを純水25mLに25℃、30分浸漬して溶出されるアミノ酸誘導体量、及び乾燥減量法(五酸化二リン上で40℃、12時間減圧乾燥)より求めたサンプル水分値から計算によってアミノ酸誘導体徐放性重合体1gから純水中に溶出するアミノ酸誘導体の溶出量を決定する。なお、純水は、日本ミリポア社製、純水製造装置を用いて製造した、電気抵抗率が1MΩ・cm以上、TOCが10ppm以下で、pH7.0±0.5のものを使用する。
【0024】
上述してきた各浸漬液中に溶出したアミノ酸誘導体は、それぞれの化合物に適した分析方法を用いて定量分析を行う。アミノ酸誘導体が塩基性アミノ酸の場合には、アミノ酸アナライザーをすると信頼性が高く、簡便である。
【0025】
ここで、念のため付言しておけば、上記測定方法における10重量%以上という溶出率はあくまで大量の人工汗液にアミノ酸誘導体徐放性重合体を浸漬した場合の望ましい溶出率であって、実際の使用にあたって溶出する量ではない。すなわち、実際に皮膚に対して本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を使用する際には、大量の汗中に浸漬されるようなことはなく、はるかに少ない量の汗に接触するのであって、アミノ酸誘導体も大量に放出されることはなく、少量ずつ徐々に皮膚に移行していくことになるのである。なお、現実的には、僅かな量の汗に接触したときのアミノ酸誘導体の溶出量を安定的に測定することは容易ではないので、本発明では上記のような方法で評価することにした。
【0026】
次に本発明にかかるアミノ酸誘導体について説明する。本発明においてアミノ酸誘導体とは、アミノ酸やアミノ酸分子中の官能基の一部が修飾されたもののみならず、ポリペプチドや蛋白質、さらには蛋白質加水分解物などのアミノ酸を構造単位とする化合物をも包含する用語として使用する。
【0027】
アミノ酸誘導体としては、酸性基含有重合体とイオン結合するものならば天然物由来であっても、化学合成されたものであっても、本質的には使用できるが、人体への安全性、経済性の面から、天然物由来のものが好ましく、例えば、絹蛋白質であるフィブロイン、セリシン、乳蛋白質であるカゼイン、皮膚や骨の組織蛋白質であるコラーゲン、その熱変性物であるゼラチン、あるいは、アミノ酸であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、トレニオン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸などを使用することができる。
【0028】
以上のようなアミノ酸誘導体の中でも上記式[I]で示される構造を有していることがより望ましい。該構造においては、「R」中の塩基性官能基と酸性基含有重合体の酸性基との間でより効率的にイオン結合を形成することができる。ここで、「R」中の塩基性官能基としては、アミノ基、グアニジル基、ヒスチジル基などがあげられる。また、塩基性官能基は遊離状態であってもよく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸塩の形であってもよい。このようなアミノ酸誘導体としては、例えば、カゼイン、ケラチン、コラーゲン等の蛋白質やリジン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸を挙げることができる。
【0029】
中でも塩基性アミノ酸は蛋白質などに比べて分子量が小さく、溶液とするのが容易であるため、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を製造しやすく、工業的にも好ましい。さらに、塩基性アミノ酸であるアルギニン、リジン、ヒスチジンは人体に存在し、天然保湿因子中に含まれるアミノ酸であり、スキンケア効果という面から見ても好適に使用できるものである。
【0030】
本発明においては、基本的には酸性基含有重合体の酸性基量が多いほど、より多くのアミノ酸誘導体を結合させることが可能であり、従来のバインダーによる付与などでは実現が難しい数十%という多量のアミノ酸誘導体を結合させることも容易である。このため、酸性基含有重合体にイオン結合されるアミノ酸誘導体の量としては、要求性能や用途などに応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常、得られるアミノ酸誘導体徐放性重合体に対して1〜30重量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは2〜25重量%、さらに好ましくは3〜15重量%である。イオン結合されるアミノ酸誘導体の量が30重量%を超えるとコスト高になるうえに効果の向上も見られなくなる。また、イオン結合されるアミノ酸誘導体が1重量%に満たない場合にはスキンケア効果を有しなくなることがあるため好ましくない。
【0031】
次に本発明にかかる酸性基含有重合体について説明する。本発明にかかる酸性基含有重合体としては、酸性基を含有していることが必要であるが、そのこと以外には特に制限はなく、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリエーテル系重合体、ビニル系重合体あるいはセルロース系重合体などや複数種の重合体を複合させた重合体を使用することができる。
【0032】
本発明にかかる酸性基含有重合体は、20℃×65%RH条件で20重量%以上の飽和吸湿率を有することが好ましい。この場合、酸性基含有重合体の有する吸湿性とアミノ酸誘導体の有する角質層の水分保持機能を補い正常な皮膚を保つ効果が相乗的に作用することにより、より優れたスキンケア効果を発揮することが可能となる。なお、20℃×65%RH条件での飽和吸湿率が20重量%未満の場合には相乗効果はあまり期待できなくなる。
【0033】
また、本発明にかかる酸性基含有重合体の酸性基としては、アミノ酸誘導体とイオン結合を形成できるものであれば特に制限はなく、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。なかでもカルボキシル基は、重合体中に大量に導入することが容易であり、アミノ酸誘導体を大量にイオン結合させることができるので、好ましい。なお、これらの酸性基は、金属塩やアンモニウム塩などの塩を形成させた状態でアミノ酸誘導体の付与処理を行うほうが、イオン交換が起こりやすくなり、酸性基−アミノ酸誘導体のイオン結合を形成しやすくなる。
【0034】
上記のような酸性基は、例えば、酸性基含有重合体がビニル系重合体の場合であれば、酸性基を含有するビニル単量体を共重合することで導入することができる。スルホン酸基を含有するビニル単量体としては、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、4−スルホブチル(メタ)アクリレート、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートやこれらの単量体の金属塩、また、カルボキシル基を含有するビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸やこれらの単量体の金属塩などを挙げることができる。
【0035】
また、グラフト重合可能な重合体に対しては、上記のような酸性基を含有するビニル単量体をグラフト重合することによって酸性基を導入することができる。
【0036】
さらに、ニトリル、アミド、エステルなどの加水分解によってカルボキシル基に変性可能な官能基を有する重合体に対しては、加水分解処理することによってカルボキシル基を導入することができる。加水分解によってカルボキシル基に変性可能な官能基を有する重合体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等のエステル誘導体、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド誘導体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基を有する単量体の無水物等を単独重合または共重合して得られるビニル系重合体などを例示することができる。
【0037】
以上のように様々な方法で得られる重合体を本発明にかかる酸性基含有重合体として使用することができるが、カルボキシル基を多く含有させ、アミノ酸誘導体を多くイオン結合させることができるという点から、酸性基含有重合体としてはアクリル酸系重合体であることが望ましく、後述するような架橋構造を有することが特に望ましい。アクリル酸系重合体の例としては、アクリル酸系の吸水性樹脂、カネボウ合繊(株)製ベルオアシス(登録商標)、東洋紡績(株)製ランシール(登録商標)などの吸水性繊維あるいは東邦テキスタイル(株)製サンバーナー(登録商標)、東洋紡績(株)製モイスファイン(登録商標)などの吸湿性繊維などを挙げることができる。なお、アクリル酸系重合体とは、その製造方法とは関係なく、ポリアクリル酸に代表されるような酸性基の大多数が主鎖に直接結合したカルボキシル基である重合体のことを言う。
【0038】
酸性基含有重合体の酸性基量については、その量が多いほど、上述した飽和吸湿率やアミノ酸誘導体の結合可能な量が高くなるという相関関係があるので、酸性基量を増やすことはスキンケア効果の向上に寄与するが、その一方で酸性基含有重合体の親水性が高まるので、水膨潤が激しくなって強度が低下し形状が崩れる、場合によっては重合体自体が水に溶出するなどの現象を引き起こすことがある。そして、その効果や現象の程度は酸性基の種類によっても影響されるものである。従って、酸性基含有重合体の酸性基量としては、以上のような事項を考慮した上で決定することが望ましい。カルボキシル基の場合であれば、通常、酸性基含有重合体重量に対して、好ましくは1〜10mmol/g、より好ましくは3〜8mmol/gである。
【0039】
また、本発明にかかる酸性基含有重合体は、架橋構造を有することがより好ましい。架橋構造を有することで、上述した「形状が崩れる」、「重合体自体が水に溶出する」といった現象を抑制しつつ、酸性基量を増やすことができるので、より多くのアミノ酸誘導体をイオン結合させることが可能となり、より良好なスキンケア効果を発現できるようになる。このような架橋構造としては、特に制限はなく、例えば、反応性官能基を有する単量体を共重合させておき、該反応性官能基と反応する官能基を複数有する化合物(以下、架橋性化合物とも言う)を反応させることによって形成される架橋構造や、複数の重合性官能基を有する単量体を共重合させることによって形成される架橋構造などが挙げられる。
【0040】
前者の架橋構造において、反応性官能基を有する単量体と架橋性化合物の組み合わせとしては、特に制限はないが、ビニル系重合体の場合であれば、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのニトリル基含有単量体と水加ヒドラジンや硫酸ヒドラジンなどのヒドラジン系化合物との組み合わせ、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシル基含有単量体とエチレングリコールやプロピレングリコールなどの水酸基を複数含有する化合物との組み合わせ、グリシジルメタアクリレートなどのエポキシ基含有単量体とエチレンジアミンやジエチレントリアミンなどのアミノ基を複数含有する化合物との組み合わせなどが例示できる。
【0041】
後者の架橋構造において、複数の重合性官能基を有する単量体としては、特に制限はなく、ビニル系重合体の場合であればビニル基を2個以上有する単量体(以下、架橋性ビニル単量体とも言う)がこれに該当する。このような架橋性ビニル単量体としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシー3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミドなどを例示することができる。
【0042】
なお、上述したような加水分解処理によってカルボキシル基を導入する方法を選択する場合には、加水分解処理条件においても架橋が切断されないことが望ましい。このような架橋構造としては、ニトリル基とヒドラジン系化合物との反応によって形成される架橋構造やトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミドなどを共重合させることによって形成される架橋構造などが挙げられる。
【0043】
また、上述した酸性基導入や架橋構造に関わる単量体以外の酸性基含有重合体を構成する単量体、すなわち共重合成分としては、特に限定はなく、特性等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0044】
本発明にかかる酸性基含有重合体の形状としては、特に限定はないが、その形状はそのまま本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体の形状となるので、通常はアミノ酸誘導体徐放性重合体の用途を考慮して選択される。代表的な形状としては粒子状や繊維状などが挙げられ、粒子状の場合は化粧料などに、繊維状の場合は衣料などに利用することができる。
【0045】
また、酸性基含有重合体を製造する方法には特に限定はなく、重合した後、必要に応じて、上述したような架橋処理や加水分解処理を行うことによって得ることができる。ここで、重合方法としては、特に限定はなく、通常採用される懸濁重合、乳化重合、沈殿重合、分散重合、塊状重合などの方法を採用することができる。なお、繊維状の酸性基含有重合体を製造する場合には、架橋処理や加水分解処理後では繊維状にしにくいので、重合後、溶融紡糸や湿式紡糸などの紡糸工程を経て、繊維状としてから架橋処理や加水分解処理を行うのが一般的である。
【0046】
繊維状の酸性基含有重合体の好適な例としては、アクリロニトリル系繊維にヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩による加水分解処理を施してなるアクリル酸系吸放湿性繊維が挙げられる。該繊維においても20℃×65%RH条件で20重量%以上の飽和吸湿率を有する場合には上述の相乗効果が得られ、優れたスキンケア効果を発揮できるのは勿論であるが、該繊維は吸放湿性に加えて、吸湿発熱性や抗菌性を有しているので、より有用なアミノ酸誘導体徐放性重合体とすることが可能である。以下、該繊維について詳述する。
【0047】
上記アクリル酸系吸放湿性繊維の原料繊維となるアクリロニトリル系繊維としてはアクリロニトリル(以下、ANともいう)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維を採用することができる。AN系重合体は、AN単独重合体、ANと他の単量体との共重合体のいずれでも良いが、AN以外の共重合成分としてはメタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩;スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸メチル等の単量体など、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。
【0048】
アクリロニトリル系繊維は、ヒドラジン系化合物により架橋導入処理を施され、該アクリロニトリル系繊維の溶剤では最早溶解されないものとなるという意味で架橋が形成されて架橋アクリロニトリル系繊維となり、同時に結果として窒素含有量の増加が起こるが、その手段は特に限定されるものではない。この処理による窒素含有量の増加を1.0〜10重量%に調整し得る手段が好ましいが、窒素含有量の増加が0.1〜1.0重量%であっても、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体の特徴を充たす酸性基含有重合体が得られる手段である限り採用し得る。なお、窒素含有量の増加を1.0〜10重量%に調整し得る手段としては、ヒドラジン系化合物の濃度5〜60重量%の水溶液中、温度50〜120℃で5時間以内で処理する手段が工業的に好ましい。尚、窒素含有量の増加を低率に抑えるには、反応工学の教える処に従い、これらの条件をよりマイルドな方向にすればよい。ここで、窒素含有量の増加とは原料アクリロニトリル系繊維の窒素含有量とヒドラジン系化合物による架橋が導入された架橋アクリロニトリル系繊維の窒素含有量との差をいう。
【0049】
ここに使用するヒドラジン系化合物としては、特に限定されるものでなく、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等、この他エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミノ基を複数含有する化合物が例示される。
【0050】
かかるヒドラジン系化合物による架橋導入処理を経た繊維は、該処理で残留したヒドラジン系化合物を十分に除去した後、酸処理を施しても良い。ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸や、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度3〜20重量%、好ましくは7〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜10時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0051】
ヒドラジン系化合物による架橋導入処理を経た繊維、或いはさらに酸処理を経た繊維は、続いてアルカリ性金属塩水溶液により加水分解される。この処理により、アクリロニトリル系繊維のヒドラジン系化合物処理による架橋導入処理に関与せずに残留しているCN基、又は架橋導入処理後に酸処理を施した場合には残留しているCN基と一部酸処理で加水分解されて生成しているCONH2基の加水分解が進められる。これらの官能基は加水分解によりカルボキシル基を形成するが、使用している薬剤がアルカリ性金属塩であるので、対イオンは金属イオンとなる。ここで使用するアルカリ性金属塩としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられ、金属種としては、Li,Na,K等のアルカリ金属、Mg,Ca,Ba等のアルカリ土類金属を挙げることができる。
【0052】
アルカリ性金属塩処理の条件は特に限定されないが、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%の水溶液中、温度50〜120℃で1〜10時間処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。また、加水分解を進める程度即ちカルボキシル基の生成量は1〜10mmol/g、好ましくは3〜10mmol/g、より好ましくは3〜8mmol/gで好結果が得られやすく、これは上述した処理の際の薬剤の濃度や温度、処理時間の組み合わせで容易に調整することができる。カルボキシル基の量が1mmol/g未満の場合には、充分な吸湿性が得られないことがあり、また10mmol/gを超える場合には、実用上満足し得る繊維物性が得られないことがある。尚、かかる加水分解工程を経た繊維は、CN基が残留していてもいなくてもよい。CN基が残留していれば、その反応性を利用して、さらなる機能を付与する可能性がある。
【0053】
加水分解を施された繊維は、必要に応じ金属塩を用いてカルボキシル基の対イオンを調整する処理を行っても良い。かかる対イオン調整処理に採用される金属塩の金属種としては、Li、Na、K、Ca、Mg、Ba、Alから選ばれるが、Na、K、Ca、Mgの場合にはより優れた吸放湿性が得られるので特に推奨される。また、該処理に用いる塩の種類としては、これらの金属の水溶性塩であれば良く、例えば水酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等が挙げられる。具体的には、それぞれの金属で代表的なものとして、Na塩としてはNaOH、NaCO、K塩としてはKOH、Ca塩としてはCa(OH)、Ca(NO、CaClが好適である。
【0054】
なお、本発明に採用されるヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩による加水分解処理を施してなるアクリル酸系吸放湿性繊維としては、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体の性能を阻害しない限り、上述した架橋導入処理、酸処理、加水分解処理、対イオン調整処理以外の処理を施したものであってもかまわない。
【0055】
上述してきたアクリル酸系吸放湿性繊維は本発明における繊維状の酸性基含有重合体として好適なものであるが、該繊維の原料繊維であるアクリロニトリル系繊維の代わりにアクリロニトリル系微粒子を原料として用い、同様の製造工程を経て得られるアクリル酸系吸放湿性微粒子は、本発明における粒子状の酸性基含有重合体として好適に使用できる。なお、粒子状の場合には繊維状の場合とは異なり、繊維物性に関する制約がなくなるので、窒素含有量の増加としては0.1〜15重量%、カルボキシル基量としては1.0mmol/g以上の範囲で採用することが可能である。なお、カルボキシル基量の上限については特に限定はないが、重合体の骨格部分を差し引いた量となるため、32mmol/gが上限となる。ヒドラジン系化合物による架橋導入処理や加水分解処理の条件などはこれらの範囲を満たすように適宜設定すればよい。
【0056】
また、この他にも、粒子状の酸性基含有重合体の好適な例としては、アクリロニトリルを50重量%以上含有し、さらにジビニルベンゼンまたはトリアリルイソシアヌレート、および他の共重合単量体を含有する共重合単量体組成物を共重合して架橋構造を導入したアクリロニトリル系架橋重合体のニトリル基を加水分解によりカルボキシル基に変性せしめた微粒子やアクリル酸メチルを5重量%以上含有し、さらにジビニルベンゼンまたはトリアリルイソシアヌレート、および他の共重合単量体を含有する共重合単量体組成物を共重合して架橋構造を導入したアクリル酸メチル系架橋重合体のメチルエステル部を加水分解によりカルボキシル基に変性せしめた微粒子などを挙げることができる。なお、これらの粒子状の酸性基含有重合体についても、カルボキシル基量としては1.0mmol/g以上の範囲で採用することが可能である。
【0057】
次に、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体の製造方法について説明する。本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体は、上述してきた酸性基含有重合体にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、乾燥することによって得ることができる。ここで、付与方法としては特に制限はなく、噴霧、浸漬あるいは塗布などの方法を採用することができる。
【0058】
アミノ酸誘導体溶液については、環境負荷に対する配慮などから水溶液であることが望ましい。アミノ酸誘導体の水に対する溶解性が低い場合でも、当該アミノ酸誘導体の塩酸塩などを使用すれば水溶液を作成することが可能な場合も多い。また、アミノ酸誘導体溶液の濃度については、特に制限はなく、必要量のアミノ酸誘導体がイオン結合されるよう適宜設定すればよいが、通常、0.5〜5.0重量%が好ましい。
【0059】
アミノ酸誘導体溶液を付与するときの温度としては特に限定はないが、好ましくは10〜80℃、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは20〜35℃である。また、乾燥温度としても特に限定はないが、好ましくは40〜100℃、より好ましくは40〜80℃、さらに好ましくは50〜70℃である。一般にアミノ酸誘導体は熱により変質しやすいので、付与や乾燥を高温で行うことは好ましくない。
【0060】
次に本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体の用途について説明する。本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体はスキンケア効果が求められるあらゆる用途に利用することが可能であるが、代表的なものとしては化粧料や繊維構造物を挙げることができる。
【0061】
まず、該重合体を含有することを特徴とする化粧料について説明する。本発明の化粧料は、粉末状、液状、クリーム状、練り状、ケーキ状、固形状等のいずれの形態でも良く、具体的には、ファンデーション、白粉、頬紅、アイシャドー等のメイクアップ化粧料、ボディーパウダー、ベビーパウダー等のボディー化粧料、化粧水、乳液、美容液、スキンクリーム、サンケア製品等の基礎化粧料、洗顔パウダー、ヘアシャンプー、ボディーシャンプー、ハンドソープ、固形石鹸等の洗浄剤、リンス、トリートメント、スタイリング剤、制汗剤、浴剤、染毛剤等の毛髪化粧料等が挙げられる。
【0062】
該重合体の化粧料への配合量は、化粧料の形態によって大きく異なるが、メイクアップ化粧料、ボディ化粧料および基礎化粧料では0.01〜95重量%、洗浄剤及び毛髪化粧料では0.01〜30重量%である。
【0063】
本発明の化粧料に配合しうるその他の成分としては、特に限定はなく、それぞれ用いる化粧料の形態に応じて、化粧品原料として従来汎用されている各種成分を使用することができる。例えば、無機粉体、有機粉体、分散剤、油剤、乳化剤、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、香料、紫外線吸収剤(有機系、無機系を含む。UV−A.Bのいずれに対応していても構わない)、保湿剤、生理活性成分、塩類、溶媒、酸化防止剤、抗菌剤、制汗剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤等の各種成分を同時に配合することができる。
【0064】
次に本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有することを特徴とする繊維構造物について説明する。繊維構造物の場合には、粒子状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を繊維構造物を構成する繊維表面に固着させる、あるいは、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を構成繊維として使用するなどして含有させることができる。
【0065】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物において併用しうる他素材としては特に制限はなく、公用されている天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維が用いられ、さらには無機繊維、ガラス繊維等も用途によっては採用し得る。具体的な例としては、綿、麻、絹、羊毛、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アクリル繊維などを挙げることができる。
【0066】
繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を他の繊維を併用して繊維構造物とする場合、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体の使用量は好ましくは3重量%以上100重量%未満、より好ましくは5重量%〜50重量%である。
【0067】
上述のような本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物は、スキンケア効果が優れており、良好な風合いを有するものである。特に、該繊維構造物が20℃×65%RH条件で5重量%以上、好ましくは8重量%以上の飽和吸湿率を有する場合には、より優れたスキンケア効果を発揮することができる。
【0068】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物としては、糸、ヤーン(ラップヤーンも含む)、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等が挙げられるが、皮膚に接触する衣料品などに利用されるという点から織物や編物が最も一般的である。具体的な形態としては、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、パジャマ、バスローブ、タオル、マット、寝具などを挙げることができる。
【0069】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物は、粒子状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を固着させた繊維、あるいは繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を用い、場合によっては他の素材と混紡して製造したり、あるいは、予め作成しておいた繊維構造物に粒子状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を固着させて製造したりすることができる。粒子状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を固着させる方法としては特に限定はなく、バインダーなどを使用することができる。
【0070】
これらの方法のほかに、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物は、酸性基含有重合体を含有してなる繊維構造物に対してアミノ酸誘導体溶液を付与した後、乾燥することによっても製造することができる。この場合の付与や乾燥については、上述したアミノ酸誘導体徐放性重合体の製造方法と同様の方法、条件を採用することができる。
【0071】
以上に説明してきた本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体は酸性基含有重合体の酸性基にアミノ酸誘導体がイオン結合しているということが大きな特徴である。イオン結合は可逆的な結合であるので、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体が、水分、特に汗などの電解質塩を含有する水に接触した場合には、アミノ酸誘導体が徐々に溶け出す。この作用によって、良好なスキンケア効果が発現されるわけであるが、逆に言えば、使用することによってアミノ酸誘導体徐放性重合体中のアミノ酸誘導体の結合量は低下することになる。アミノ酸誘導体の結合量が低下すれば当然スキンケア効果も低下してしまうことになるが、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体はそのイオン結合によってアミノ酸誘導体を含有せしめるという特徴を生かして、再生することが可能である。
【0072】
再生処理方法としては、使用することによってアミノ酸誘導体結合量の低下したアミノ酸誘導体徐放性重合体や該重合体を含有する繊維構造物に、アミノ酸誘導体溶液を付与して乾燥すればよい。この処理により、再びアミノ酸誘導体がイオン結合され、スキンケア効果を発現できるようになるのである。この再生処理は、肌着などのアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物の場合であれば、家庭での洗濯時のすすぎ終了後に洗濯槽にアミノ酸誘導体を直接あるいは柔軟剤に混ぜて添加したり、脱水後にアミノ酸誘導体溶液をスプレーしたりすることによって実施することが可能であり、大変実用的である。
【実施例】
【0073】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、これらはあくまでも例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。実施例中の酸性基含有重合体の製造方法は以下のとおりである。
【0074】
[アクリル酸系吸放湿性繊維A]
AN90%、酢酸ビニル10%からなるAN系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率:10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥、湿熱処理して単繊維繊度0.9dtexの原料繊維aを得た。原料繊維aに、水加ヒドラジンの20%水溶液中で、98℃×5Hr架橋導入処理を行い、水洗した。次に、硝酸の3%水溶液中、90℃×2Hr酸処理を行った。続いて水酸化ナトリウムの1%水溶液中で、90℃×2Hr加水分解処理を行った後、pH12に調整し、純水で洗浄し、アクリル酸系吸放湿性繊維Aを得た。該繊維は酸性基が1.2mmol/g、飽和吸湿率が18%であった。
【0075】
[アクリル酸系吸放湿性繊維B]
原料繊維aの加水分解処理における水酸化ナトリウムの濃度を3%とした以外は、アクリル酸系吸放湿性繊維Aと同様の方法により、アクリル酸系吸放湿性繊維Bを得た。該繊維は酸性基が6.1mmol/g、飽和吸湿率が57%であった。
【0076】
[アクリル酸系吸放湿性繊維C]
原料繊維aの加水分解処理における水酸化ナトリウムの濃度を10%とした以外は、アクリル酸系吸放湿性繊維Aと同様の方法により、アクリル酸系吸放湿性繊維Cを得た。該繊維は酸性基が8.8mmol/g、飽和吸湿率が75%であった。
【0077】
[イタコン酸含有アクリル繊維D]
上述の原料繊維aの作成方法において、アクリロニトリル94%、イタコン酸6%からなるアクリロニトリル系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)を使用すること以外は同様にして、イタコン酸含有アクリル繊維Dを得た。該繊維は酸性基が0.9mmol/g、飽和吸湿率が7%であった。
【0078】
[酸性基含有粒子E]
メタクリル酸/p−スチレンスルホン酸ソーダ=70/30の水溶性重合体300部及び硫酸ナトリウム30部を6595部の水に溶解し、櫂型撹拌機付きの重合槽に仕込んだ。次にアクリロニトリル2700部およびジビニルベンゼン300部に2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)15部を溶解して重合槽に仕込み、400rpmの撹拌条件下、60℃で2時間懸濁重合を行い、重合率87%で原料粒子を得た。該原料粒子100部をイオン交換水900部中に分散し、これに100部の水酸化ナトリウムを添加し、90℃で2時間加水分解反応を行った後、pH12に調整し、得られた粒子を洗浄、脱水、乾燥し、さらに粉砕することによって、酸性基含有粒子Eを得た。該粒子は平均粒子径が10μm、酸性基量が5.5mmol/g、飽和吸湿率が45%であった。
【0079】
[酸性基含有粒子F]
メタクリル酸/p−スチレンスルホン酸ソーダ=70/30の水溶性重合体300部及び硫酸ナトリウム30部を6595部の水に溶解し、櫂型撹拌機付きの重合槽に仕込んだ。次にアクリロニトリル2700部及びアクリル酸メチル300部に2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)15部を溶解して重合槽に仕込み、400rpmの撹件条件下、60℃で2時間重合し、重合率87%で原料粒子を得た。該原料粒子100部に60重量%ヒドラジン100部および水800部を混合し、90℃で3時間加熱を行うことにより架橋を導入し、さらに、100部の水酸化ナトリウムを添加し、120℃で2時間加水分解反応を行った後、pH12に調整し、得られた粒子を洗浄、脱水、乾燥し、さらに粉砕することによって、酸性基含有粒子Fを得た。該粒子は平均粒子径が12μm、酸性基量が3.4mmol/g、飽和吸湿率が38%であった。
【0080】
[実施例1]
メタノール7/水93の比率の溶液にアルギニン塩酸塩(東京化成工業(株)製)溶解し、1.0%のアルギニン塩酸塩溶液を作成した。東洋紡績(株)製ランシールFを該溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0081】
[実施例2]
アルギニン塩酸塩(東京化成工業(株)製)水に溶解し、1.0%のアルギニン塩酸塩水溶液を作成した。前記アクリル酸系吸放湿性繊維Aを該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0082】
[実施例3]
アルギニン塩酸塩(東京化成工業(株)製)水に溶解し、3.0%のアルギニン塩酸塩水溶液を作成した。前記アクリル酸系吸放湿性繊維Bを該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0083】
[実施例4]
アルギニン塩酸塩(東京化成工業(株)製)水に溶解し、5.0%のアルギニン塩酸塩水溶液を作成した。前記アクリル酸系吸放湿性繊維Cを該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0084】
[実施例5]
ヒスチジン塩酸塩(東京化成工業(株)製)水に溶解し、3.0%のヒスチジン塩酸塩水溶液を作成した。前記アクリル酸系吸放湿性繊維Bを該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0085】
[実施例6]
リジン塩酸塩(東京化成工業(株)製)水に溶解し、3.0%のリジン塩酸塩水溶液を作成した。前記アクリル酸系吸放湿性繊維Bを該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0086】
[実施例7]
セリシンA−30F(株式会社シンコーシルク社製)を水に溶解し、塩酸塩の形に変え、5.0%のセリシン水溶液を作成した。アクリル酸系吸放湿性繊維Bを該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0087】
[実施例8]
アルギニン塩酸塩(東京化成工業(株)製)水に溶解し、1.0%のアルギニン塩酸塩水溶液を作成した。前記イタコン酸含有アクリル繊維Dを該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0088】
[比較例1]
アルギニン塩酸塩(東京化成工業(株)製)水に溶解し、5.0%のアルギニン塩酸塩水溶液を作成した。東洋紡績株式会社製ポリエステル繊維2T38を該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状の重合体を得た。
【0089】
[実施例9]
アクリル酸系吸放湿性繊維B30%/レーヨン30%/ポリエステル40%で構成された紡績糸をフライス・ゾッキ丸編みした編地を、アルギニン塩酸塩(味の素(株)製)の0.3%水溶液に浴比1/50、40℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する編地を得た。
【0090】
[実施例10]
実施例9において、アルギニン塩酸塩(味の素(株)製)の10%水溶液を使用したこと以外は同様にして、繊維状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する編地を得た。
【0091】
[実施例11]
酸性基含有粒子Eをアルギニン塩酸塩(味の素(株)製)の0.3%水溶液に浴比1/50、25℃で30分間浸漬した後、遠心脱水機で水洗、脱水し、30℃で乾燥することによって、粒子状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0092】
[実施例12]
酸性基含有粒子Fをアルギニン塩酸塩(味の素(株)製)の0.3%水溶液に浴比1/50、25℃で30分間浸漬した後、遠心脱水機で水洗、脱水し、30℃で乾燥することによって、粒子状のアミノ酸誘導体徐放性重合体を得た。
【0093】
[試験例1]
実施例1〜8および比較例1、2について、下記の方法で、酸性基量、飽和吸湿率、初期アミノ酸誘導体結合量、風合い、皮膚に対する効果を評価した。評価結果を表1に示す。
【0094】
<酸性基量(カルボキシル基量)の測定方法>
十分乾燥した酸性基含有重合体約1gを精秤し(Xg)、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1mol/L塩酸水溶液を添加してpH2にし、次いで0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線から酸性基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(Yml)を求め、次式によってカルボキシル基(mmol/g)を算出する。
(カルボキシル基量mmol/g)=0.1Y/X
【0095】
<飽和吸湿率の測定方法>
試料約5.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W1g)。次に該試料を20℃、65%RHの恒湿槽に24時間入れておく。このようにして吸湿した試料の重量を測定する(W2g)。以上の測定結果から、次式によって算出する。
(飽和吸湿率%)={(W2−W1)/W1}×100
【0096】
<初期アミノ酸誘導体結合量の測定方法>
初期アミノ酸誘導体結合量は、アミノ酸誘導体徐放性重合体サンプル0.5gを0.5N塩酸水溶液25mLに40℃、30分間浸漬してアミノ酸誘導体を抽出する。その後、サンプルが繊維状や編地の場合にはサンプルを絞って取り出すことにより、また、粒子状の場合には濾過することにより、抽出液を得る。得られた抽出液について、それぞれの化合物に適した分析方法を用いて定量分析を行い抽出されたアミノ酸誘導体量を決定する。アミノ酸誘導体が塩基性アミノ酸の場合には、アミノ酸アナライザー(HITACHI製 L−8800)を用いて定量分析を行った。五酸化二リンを入れたデシケーター中で40℃、12時間減圧下で乾燥した場合の重量減量変化により求めたサンプル水分値を決定する。抽出されたアミノ酸誘導体量及びサンプル水分値よりアミノ酸誘導体徐放性重合体サンプル1gあたりの初期アミノ酸誘導体結合量を計算によって決定する。
【0097】
<試料風合いの評価方法>
繊維試料を、常法に従って紡績して綿番手40/1の紡績糸を作成し、該紡績糸を16ゲージ2プライでゴム編みして、目付が約200g/m2の編み地に編成した後、該編地を掴んだ感触により、以下の方法で評価する。
◎ :極めてソフトな風合いである。
○ :ソフトな風合いである。
△ :ややソフトな風合いである。
× :ソフト感がなく硬い風合いである。
【0098】
<皮膚に対する効果の評価方法>
上記と同様にして作成した編地を乾燥肌の被験者5名の肘部に貼り付け、貼り付け7日後の肘部の皮膚状態を次の5段階で評価し、平均値を算出する。
+2:特にしっとりしている
+1:しっとりしている
0 :普通
−1:肌荒れがある
−2:特に肌荒れが強い
【0099】
【表1】

【0100】
表1に示すとおり実施例1〜8のアミノ酸誘導体徐放性重合体で編成した編地は、皮膚に対する効果が高く、風合も良好なものであった。特に実施例3、4、6ではアミノ酸誘導体の結合量が多く、優れた性能であった。このことは、酸性基含有重合体の酸性基量が多く、アミノ酸誘導体が塩基性官能基を有するものであることで、効率的にイオン結合が形成されたためと考えられる。なお、セリシン含有率はセリシン付与前後の繊維重量の差から算出した。
【0101】
これに対して、比較例1では酸性基を含有しないポリエステル繊維を使用しているため、アミノ酸誘導体が固着されず、ほとんど効果が得られなかった。
【0102】
また、これらの評価結果から、本発明においては、極めて多量のアミノ酸誘導体を結合せしめることが可能であることがわかる。
【0103】
[試験例2]アミノ酸誘導体溶出量
実施例10〜12および比較例1について、下記の方法によってアミノ酸誘導体溶出量を測定した結果を表2に示す。
【0104】
<人工汗液又は純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体溶出量の測定方法>
アミノ酸誘導体徐放性重合体サンプル0.5gを下記に示す人工汗液又は純水25mLに25℃、30分間浸漬して抽出する。その後、サンプルが繊維状や編地の場合にはサンプルを絞って取り出すことにより、また、粒子状の場合には濾過することにより、抽出液を得る。得られた抽出液について、それぞれの化合物に適した分析方法を用いて定量分析を行い抽出されたアミノ酸誘導体量を決定する。アミノ酸誘導体が塩基性アミノ酸の場合には、アミノ酸アナライザー(HITACH製 L−8800)を用いて定量分析を行った。五酸化二リンを入れたデシケーター中で40℃、12時間減圧下で乾燥した場合の重量減量変化により求めたサンプル水分値を決定する。抽出されたアミノ酸誘導体量及びサンプル水分値よりアミノ酸誘導体徐放性重合体サンプル1gあたりの人工汗液又は純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量を計算によって決定する。
【0105】
人工汗液はJIS−L−0848を参照して以下のような酸性汗液を作成し使用する。酸性汗液の液組成としてはNaCl 5g/L、リン酸二水素12水和物 2.26gを水に溶解させ、0.5M NaOH水溶液でpH5.5に調整して1Lに容量調整したものを使用する。純水は、日本ミリポア社製、純水製造装置を用いて製造した、電気抵抗率が1MΩ・cm以上、TOCが10ppm以下の純水を使用した。
【0106】
人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)及び純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(β)については以下の計算式により計算した。
人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)
=(人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量÷初期アミノ酸誘導体結合量)×100%
純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(β)
=(純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量÷初期アミノ酸誘導体結合量)×100%
【0107】
【表2】

【0108】
表2に示すように、本発明例である実施例10〜12においては、人工汗液に対する溶出率が10%以上、かつ、α/βが5以上という顕著なスキンケア効果が得られる条件を満たすものが得られることがわかる。これに対して、比較例1では、人工汗液に対しても純水に対しても、ほとんどのアミノ酸誘導体が溶出してしまっており、上記の顕著なスキンケア効果が得られる条件を満たすには、本発明のように、アミノ酸誘導体の保持方法としてイオン結合を採用することが有効であることがわかる。
【0109】
[試験例3]皮膚水分回復テスト
実施例9の編地および該編地にアルギニンを付与する前の編地(以下、未加工布という)について、下記の方法により皮膚水分回復率を測定した。なお、実施例9の編地のアミノ酸誘導体結合量は79.4mg/gであった。
【0110】
<皮膚水分回復試験方法>
被験者の前腕内側部に、3cm×3cmの測定領域を6箇所設定し、22℃/40%RHの恒温恒湿室へ入室し安静状態で15分経過後、皮膚水分測定装置(コルネオメーターCM825)を用いて通常時の皮膚水分(A)を測定した。測定値は測定領域内の9箇所の平均により求めた。
【0111】
次に、測定領域を設定した前腕内側部に、10%ラウリン酸カリウム水溶液1mLを滴下し、軽くなでるように1分間洗浄した後、35℃の温水で30秒間洗い流すという一連の操作を1サイクルとして3サイクル実施することで前腕内側部の測定領域をモデル乾燥肌とした後、22℃/40%RHの恒温恒湿室へ入室し安静状態で15分経過後、モデル乾燥肌の皮膚水分(B)を上記と同様にして測定した。
【0112】
続いて、モデル乾燥肌とした6箇所の測定領域に実施例9の編地(3箇所)および未加工布(3箇所)を貼付し、温度:20〜24.5℃、湿度:15〜23%RHの環境下で5時間経過後、22℃/40%RHの恒温恒湿室へ入室し安静状態で15分経過後に上記と同様にして貼付後の皮膚水分(C)を測定した。
【0113】
以上の測定結果から、各測定領域について、モデル乾燥肌作成による皮膚水分低下量(D=A−B)及び生地の貼付により回復した皮膚水分増加量(R=C−B)を求め、これらの量から皮膚水分回復率(X=R/D)を算出し、実施例9の編地および未加工布のそれぞれについて、皮膚水分回復率の平均値を求めた。結果は、図1に示すようにアミノ酸加工布では52.7%、未加工布では24.6%であり、実施例9の編地を貼付することで、皮膚水分回復率が2倍前後高くなることが示された。このことから、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物を皮膚に接触するような用途に用いた場合には良好なスキンケア効果を得られることがわかる。
【0114】
[試験例4]再生テスト
実施例9の編地(30×60cm)2枚に対して、0.05%の洗剤(ライオン社製 トップ)水溶液に室温で浸漬して5分間攪拌した後、脱水、すすぎを行うという洗濯操作を1サイクルとして5サイクル行った後、脱水、乾燥することにより、洗濯によって結合量の低下したサンプルを得た。該サンプルのアミノ酸誘導体結合量は29.9mg/gであった。
【0115】
次に、該サンプルを1%アルギニン塩酸塩水溶液に、浴比1/50、温度25℃で30分間浸漬し、絞りを行った後、水2Lですすぎ、脱水し、25℃にて乾燥させた。得られた編地のアミノ酸誘導体結合量は87.6mg/gであり、アミノ酸誘導体を再付与することができた。このことは、本発明のアミノ酸誘導体徐放性重合体のスキンケア効果は、再生処理により回復させることが可能であることを示すものである。
【0116】
[試験例5]粒子状のアミノ酸誘導体徐放性重合体の原末評価
実施例11の粒子状のアミノ酸誘導体徐放性重合体(以下、アミノ酸加工粒子という)および酸性基含有粒子E(以下、未加工粒子という)それぞれについて、0.5gを片手にとり、水を加え溶いて肌になじませた後、水ですすぎ、タオルドライし、乾燥後の肌の質感を比較した。アミノ酸加工粒子は未加工粒子よりも肌がなめらかであった。
【0117】
[試験例6]脂肪酸塩系の洗顔パウダーでの評価
表3に示す成分割合で、上記アミノ酸加工粒子を添加した洗顔パウダー(添加品)と添加しない洗顔パウダー(未添加品)を作成した。これらを用いて手洗いを行い、タオルドライを行った。手洗い中の泡立ち、乾燥後の肌の質感を比較した。アミノ酸加工粒子を添加した洗顔パウダーは、泡立ちが良く、すすぎ時のキシミ感が少なく、乾燥後の肌の質感はサラサラとしてなめらかであった。
【0118】
【表3】

【0119】
[試験例7]アシルグルタミン酸塩系の洗顔パウダーでの評価
表4に示す成分割合で、上記アミノ酸加工粒子を添加した洗顔パウダー(添加品)と添加しない洗顔パウダー(未添加品)を作成した。これらを用いて手洗いを行い、タオルドライを行った。手洗い中の泡立ち、乾燥後の肌の質感を比較した。アミノ酸加工粒子を添加した洗顔パウダーは、泡立ちが速く泡量が多かった。乾燥後の肌の質感はサラサラとしてなめらかでしっとり感があった。
【0120】
【表4】

【0121】
[試験例8]パウダーファンデーションでの評価
カネボウ社製ファンデーション(Kanebo Revue Natural Stay Pact)97部に対して3部の割合で上記アミノ酸加工粒子を添加してパウダーファンデーションを作成した。該パウダーファンデーションについて、外観、匂い、塗布時の感触について評価を行ったところ、ファンデーションとして良好なものであった。
【0122】
[試験例9]口紅での評価
表5に示す成分割合に従い、常法を用いて上記アミノ酸加工粒子を添加した口紅を作成した。得られたアミノ酸加工粒子添加口紅は、のびが良く、なめらかで、しっとりとした感触であった。
【0123】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基含有重合体がアミノ酸誘導体とイオン結合していることを特徴とするアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項2】
人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)と純水に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(β)との関係において、α/βが5倍以上でかつαが10%以上であることを特徴とする請求項1に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項3】
アミノ酸誘導体放出後、アミノ酸誘導体溶液を含浸させることによって再生可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項4】
アミノ酸誘導体が分子内に下記式「I」で示す構造を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【化1】

(Rは少なくとも1個以上の塩基性官能基を有する基を表す。)
【請求項5】
アミノ酸誘導体が塩基性アミノ酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項6】
アミノ酸誘導体がアルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群より選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項7】
酸性基含有重合体が20℃×65%RH条件で20重量%以上の飽和吸湿率を有するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項8】
酸性基含有重合体がカルボキシル基を有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項9】
酸性基含有重合体がアクリル酸系重合体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項10】
酸性基含有重合体が架橋構造を有していることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項11】
架橋構造がニトリル基とヒドラジン系化合物の反応によって形成されたものであることを特徴とする請求項10に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項12】
架橋構造が架橋性ビニル単量体を共重合することによって形成されたものであることを特徴とする請求項10に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項13】
酸性基含有重合体が粒子状であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項14】
酸性基含有重合体が繊維状であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体。
【請求項15】
酸性基含有重合体にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、40〜100℃で乾燥することを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体の製造方法。
【請求項16】
請求項13に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する化粧料。
【請求項17】
請求項13または14に記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体を含有する繊維構造物。
【請求項18】
繊維構造物が、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、パジャマ、バスローブ、タオル、マット、寝具の中から選択されたものであることを特徴とする請求項17に記載の繊維構造物。
【請求項19】
酸性基含有重合体を含有してなる原料繊維構造物にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、40〜100℃で乾燥させることを特徴とする請求項17または18に記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項20】
使用することによりアミノ酸誘導体結合量の低下した請求項1〜14のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性重合体あるいは請求項17または18に記載の繊維構造物に、アミノ酸誘導体溶液を付与した後、乾燥することを特徴とするアミノ酸誘導体徐放性重合体の再生処理方法。

【図1】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/007714
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511843(P2005−511843)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010127
【国際出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】