説明

アミノ酸誘導体

【課題】本発明はアミノ酸の血中濃度及び血中持続性が高められたアミノ酸誘導体、及びそれを含む医薬組成物の提供を目的とする。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物又はその医薬的に許容し得る塩。


〔式中、Xはケトイソロイシン、ケトロイシン及びケトバリンからなる群より選択される1種のケト酸であり、AAはトリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン及びトレオニンからなる群より選択される1種のアミノ酸であり、−はアミド結合を表す〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアミノ酸誘導体及びそれを含む医薬組成物に関する。さらに本発明はペプチドトランスポーターの基質に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アミノ酸はそれ自体で様々な生理活性作用を有しており、食品や医薬品としての有効性が見出されている。例えば分岐鎖アミノ酸(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)は筋肉内で運動エネルギーに変換され得る、体内で合成することのできない必須アミノ酸であり、乳酸の発生を抑え運動後の疲労感を軽減する作用等が報告されている。トリプトファンもまた必須アミノ酸であり、蛋白質生合成の材料となる。さらにトリプトファンは脳に運ばれて、脳内の神経伝達物質のひとつであるセロトニンへと代謝される。これらの作用からトリプトファンは、うつ病、不眠症、肥満等の抑制剤としての使用が期待されている。セリンは必須アミノ酸のトレオニンから合成される物質であり、神経伝達物質のアセチルコリンを作り出すのに重要な役割を果たしている。又、肝臓に余計な脂肪が蓄積して脂肪肝になるのを阻止する働きがある。さらに細胞膜の構成成分であるホスファチジルセリンの原料としても重要である。グルタミン酸は脳内で興奮系の神経伝達物質として作用する一方で抑制系の神経伝達物質GABAの原料となる。細胞の柔軟性を維持する作用、エネルギー代謝や窒素代謝への関与が報告されている。アルコール依存症抑制、潰瘍治癒の促進、疲労や気分の落ち込みの緩和、胃腸を守る役割がある。アルギニンは成長ホルモンの合成に関与し、又、免疫反応の活性化や細胞増殖の促進等の作用を有している。先天性尿素回路異常症又はリジン尿性蛋白不耐症の治療、高アンモニア血症の治療に有用である。又、下垂体機能検査薬として利用できる。トレオニンは必須アミノ酸の一つで、コラーゲンの材料になり、肝臓への脂肪の蓄積の予防や小腸の働きを高めて消化吸収を良くする作用が知られている。穀物の栄養強化、貧血の予防に用いられる。プロリンは表皮細胞増殖促進活性、コラーゲン合成促進活性、角質層保湿作用等の生理活性を有している。
【0003】
アミノ酸は小腸上皮から吸収、あるいは腎近位尿細管上皮から再吸収され、体内に補給あるいは保持されるが、この機能は吸収上皮細胞に存在する膜タンパク質であるアミノ酸トランスポーター によって担われている。アミノ酸トランスポーターは、多細胞生物においては各組織の中で特定の部位に配置され、各組織の特異機能の発現に重要な役割を果たしている。しかしながら、アミノ酸トランスポーターを介するアミノ酸の取り込みには、以下の如く幾つかの問題点がある。
(1)摂取したアミノ酸が腸内細菌に利用される(非特許文献1)。
例えばトリプトファンは腸内細菌に利用され、尿毒性物質であるインドールに変換され、便の悪臭源となる。回腸では、アミノ酸は、約80%がペプチドとして存在するのに対し、腸内細菌が利用できるフリーの状態のアミノ酸としては約20%しか存在しない。即ちアミノ酸はフリーの状態では腸管から取り込まれて血液内へ輸送される前に代謝されてしまう。
(2)臨床上有用な薬物にアミノ酸トランスポーターの働きを阻害するものが存在する(非特許文献2〜4)。
例えばアミノ酸トランスポーターはシクロホスファミドや5−FU等のある種の薬物に障害を受けやすいことが報告されている。
(3)アミノ酸トランスポーターの狭い基質認識性のために食事等に含まれるアミノ酸との競合阻害を受けやすい(非特許文献5及び6)。
アミノ酸トランスポーターにおける基質認識には、α−アミノ基、α−カルボキシル基、及び側鎖の認識が要求されるため、その基質選択性は一般に狭いものとなる。従って、アミノ酸トランスポーターを介してアミノ酸を取り込ませた場合、食事中に含まれるアミノ酸による競合阻害を受けやすい。さらにアミノ酸トランスポーターはキャパシティが少なく飽和しやすい。
【0004】
アミノ酸の経口摂取において、上記したようなアミノ酸トランスポーターによる膜輸送を介するが故に生じる問題点を改善し、血中濃度、更には血中持続性を高めることができる方法を開発することが望まれている。
【0005】
一方、アミノ酸誘導体として、アミノ酸にケト酸を結合させた化合物が報告されている。特許文献1にはケトイソロイシンとプロリンがアミド結合した化合物(特許文献1、実施例95化合物)が記載されており、当該化合物はロタマーゼ阻害剤の合成中間体である。特許文献2にはケトイソロイシン、ケトロイシン及びケトバリンからなる群より選ばれるケト酸とバリン、ロイシン及びイソロイシンからなる群より選ばれるアミノ酸とがアミド結合した化合物が記載されている。腎臓病患者にアミノ酸を投与することは、尿素を産生する恐れがあるため好ましくなく、代用アミノ酸としてケト酸が用いられている。しかしながら、ケト酸は加熱処理に不安定であるという問題がある。特許文献2では、代用アミノ酸であるケト酸を安定に投与するためにケト酸にアミノ酸を結合させたものを用いている。
【0006】
いずれの先行技術も、本願発明の如き、腸管からのアミノ酸の取り込みに関する問題点を解決するものではではなく、また、ペプチドトランスポーターを介して腸管からアミノ酸を取り込むことによって効率の良いアミノ酸輸送を可能とし、さらにアミノ酸の血中濃度及び血中持続性が高められるという本願発明の作用・効果は何ら記載されていない。
【特許文献1】米国特許第7056935号明細書
【特許文献2】特開平3−34960号公報
【非特許文献1】Adibi SA. Mercer DW., Protein Digestion in Human Intestine as Reflected in Luminal, Mucosal, and Plasma Amino Acid Concentrations after Meals. J Clin Invest, 1973 July; 52(7): 1586-1594.
【非特許文献2】亀岡一裕:Cyclophosphamide投与下の経腸栄養剤の窒素源の腸管吸収に関する研究.四国医誌41:112-130, 1985
【非特許文献3】細田友則、馬場忠雄、細田四郎:Cyclophosphamide投与ラット回腸粘膜における各種アミノ酸およびジペプチドの吸収.日消誌88:2837-2846, 1991
【非特許文献4】Tanaka H., Miyamoto K. et al., Regulation of the PepT1 peptide transporter in the rat small intestine in response to 5-fluorouracil-induced injury. Gastroenterology, 1998 114(4): 714-723.
【非特許文献5】Hara H. et al., Portal absorption of small peptides in rats under unrestrained conditions. J Nutr., 1984 114(6): 1122-9.
【非特許文献6】Adibi SA., : The oligopeptide transporter (Pept-1) in human intestine: Biology and function. Gastroenterology, 1997 113(1): 332-340.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アミノ酸の血中濃度及び血中持続性が高められたアミノ酸誘導体、及びそれを含む医薬組成物の提供を目的とする。さらに、本発明の別の目的は、ペプチドトランスポーターの基質となり得るアミノ酸誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
腸管におけるアミノ酸の取り込みに関して、本発明者らは、まず、腸内細菌による分解に晒され、薬物による障害を受け、さらにはその狭い基質認識性の為に食事等に含まれる他のアミノ酸と競合してしまう、という幾つかの問題点を抱えたアミノ酸トランスポーターを介したアミノ酸の膜輸送経路の代替経路を探索した。フリーのアミノ酸はアミノ酸トランスポーターによって取り込まれるが、ジペプチド、トリペプチドといったオリゴペプチドは、ペプチドトランスポーターによって腸管から取り込まれる。又、フリーのアミノ酸、特にトリプトファンの場合と異なりオリゴペプチドは、腸内細菌による分解も受けづらい。
【0009】
小腸や腎尿細管上皮細胞の刷子縁膜に発現するH駆動型ペプチドトランスポーター(PEPT1,PEPT2)は、ジペプチド、トリペプチドの輸送を媒介し、蛋白質の吸収やペプチド性窒素源の維持に寄与している。また、ペプチドトランスポーターは基質認識性が比較的広範で、且つアミノ酸トランスポーターのような薬物による障害も受けにくい。又、ペプチドトランスポーターは種差が少なく、マウスやラット等を用いた動物実験の結果がそのままヒトへの適用に繋がる、という利点がある。従って、本発明者らは、腸管からのアミノ酸取り込みの経路としてペプチドトランスポーターにより介在される経路に注目した。PEPT1は、消化管からジペプチド、トリペプチドを吸収(輸送)するトランスポーターとして1994年にクローニングされた。PEPT1は709個のアミノ酸から成り、12回膜貫通の糖蛋白質で、小腸と腎臓に発現している。PEPT1は、ジペプチド、トリペプチドを認識し、その他、一部のペプチド類似構造を持つ化合物の輸送に重要な役割を果たしている。PEPT1のアイソフォームとして、腎での高親和性ペプチドトランスポーターとしてPEPT2が単離されている。
【0010】
本発明者らは、アミノ酸のN末端、あるいはC末端にアミノ酸代謝物が結合した化合物を種々合成し、それらが腸管に存在するトランスポーターであるPEPT1で輸送されるかどうかを鋭意検討した結果、一般式(1)の化合物又はその医薬上許容される塩、あるいは一般式(2)で表される化合物又はその医薬上許容される塩が、PEPT1によって腸管より取り込まれることを見出し、さらに腸管内容物中にて安定である化合物、腸管から吸収された後アミノ酸を徐々に放出することが可能な化合物等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記の通りである。
〔1〕下記一般式(1)で表される化合物又はその医薬的に許容し得る塩。
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、Xはケトイソロイシン、ケトロイシン及びケトバリンからなる群より選択される1種のケト酸であり、AAはトリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン及びトレオニンからなる群より選択される1種のアミノ酸であり、−はアミド結合を表す〕
〔2〕Xがケトイソロイシン又はケトバリンである、上記〔1〕記載の化合物又はその医薬的に許容し得る塩。
〔3〕Xがケトイソロイシンである、上記〔1〕又は〔2〕記載の化合物又はその医薬的に許容し得る塩。
〔4〕AAがトリプトファンである、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の化合物又はその医薬的に許容し得る塩。
〔5〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の化合物又はその医薬的に許容し得る塩を有効成分として含有する医薬。
〔6〕経口剤である上記〔5〕に記載の医薬。
〔7〕下記一般式(2)で表される化合物又はその医薬的に許容し得る塩を含む、ペプチドトランスポーターの基質。
【0014】
【化2】

【0015】
〔式中、Xはケトイソロイシン、ケトロイシン及びケトバリンからなる群より選択される1種のケト酸であり、AA’はトリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、トレオニン、プロリン及びイソロイシンからなる群より選択される1種のアミノ酸であり、−はアミド結合を表す〕
〔8〕Xがケトイソロイシン又はケトバリンである、上記〔7〕記載の基質。
〔9〕Xがケトイソロイシンである、上記〔7〕記載の基質。
〔10〕ペプチドトランスポーターがPEPT1である、上記〔7〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の基質。
【発明の効果】
【0016】
本発明の新規なアミノ酸誘導体は、アミノ酸のプロドラッグとして有効であり、経口投与でアミノ酸の血中持続性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の、下記一般式(1)
【0018】
【化3】

【0019】
〔式中、Xはケトイソロイシン、ケトロイシン及びケトバリンからなる群より選択される1種のケト酸であり、AAはトリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン及びトレオニンからなる群より選択される1種のアミノ酸であり、−はアミド結合を表す〕
で表される化合物(以下、単に式(1)化合物)においてXで表されるケトイソロイシン、ケトロイシン又はケトバリンは、それぞれ基礎となるアミノ酸であるイソロイシン、ロイシン及びバリンのα−アミノ基とα−炭素原子に結合された水素原子をオキソ基にかえることによって誘導されるケト酸である。Xで表されるケト酸とAAで表されるアミノ酸とのアミド結合によって式(1)化合物が得られる。例えばXで表されるケト酸がケトイソロイシンであり、AAで表されるアミノ酸がトリプトファンである場合、得られる式(1)化合物は、ケトイソロイシンのカルボキシル基とアミノ酸のα―アミノ基とがアミド結合を形成した化合物であり、この化合物をケトイソロイシル−トリプトファンと称する。他のケト酸及びアミノ酸を用いた場合も同様に命名する。具体的には式(1)化合物としては以下の化合物が挙げられる。
ケトイソロイシル−トリプトファン、ケトイソロイシル−セリン、ケトイソロイシル−グルタミン酸、ケトイソロイシル−アルギニン、ケトイソロイシル−トレオニン、ケトロイシル−トリプトファン、ケトロイシル−セリン、ケトロイシル−グルタミン酸、ケトロイシル−アルギニン、ケトロイシル−トレオニン、ケトバリル−トリプトファン、ケトバリル−セリン、ケトバリル−グルタミン酸、ケトバリル−アルギニン、ケトバリル−トレオニン。好ましくは、ケト酸がケトイソロイシン又はケトバリンのものである。特に好ましくはケト酸がケトイソロイシンのものであり、とりわけケトイソロイシル−トリプトファンが好ましい。
【0020】
本発明はまた、式(2)で表される化合物(以下、式(2)化合物)又はその医薬上許容される塩を含む、ペプチドトランスポーターの基質を提供する。
【0021】
【化4】

【0022】
〔式中、Xはケトイソロイシン、ケトロイシン及びケトバリンからなる群より選択される1種のケト酸であり、AA’はトリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、トレオニン、プロリン及びイソロイシンからなる群より選択される1種のアミノ酸であり、−はアミド結合を表す〕
式(1)化合物と同様にして式(2)化合物を命名する。尚、式(1)化合物は式(2)化合物の範疇にある。式(2)化合物としては、上記した式(1)化合物以外に以下の化合物が挙げられる。
ケトイソロイシル−プロリン、ケトイソロイシル−イソロイシン、ケトロイシル−プロリン、ケトロイシル−イソロイシン、ケトバリル−プロリン、ケトバリル−イソロイシン。好ましくは、ケト酸がケトイソロイシン又はケトバリンのものであり、とりわけケトイソロイシル−プロリン及びケトイソロイシル−イソロイシンが好ましい。
【0023】
本明細書において、便宜上、式(1)化合物及び式(2)化合物を、本発明のアミノ酸誘導体と総称する。
本発明のアミノ酸誘導体は、ケト酸とアミノ酸から合成することができる。ケト酸もアミノ酸も、商業的に入手可能である。あるいは当分野で通常行われている反応を適宜用いることにより合成することができる。
ケト酸とアミノ酸をアミド結合反応に付し脱水縮合することによって本発明のアミノ酸誘導体が得られる。アミド結合反応は当分野では公知の技術であり、反応試薬や反応条件等は従来実施されている方法に準じて行うことができる。例えば、カルボキシル基が保護された保護アミノ酸とケト酸を水溶性カルボジイミド(WSCI)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HoBt)、トリエチルアミン(EtN)、ジクロロメタン(CHCl)中で反応させることで合成できる。反応後は食塩水で洗浄し、クロマトグラフィー等を用いて精製し、次いで保護基を脱保護することでケト酸とアミド結合したアミノ酸を得ることができる。保護アミノ酸における保護基としては、カルボキシル基の保護基として通常用いられるものが利用でき、具体的には、ベンジルエステル基、p−ニトロベンジルエステル基、p−メトキシベンジルエステル基、メチルエステル基、エチルエステル基などを用いることができる。保護、脱保護の方法については、用いた保護基の種類に応じて従来実施されている方法に準じて行うことができる。
【0024】
上記の方法により製造した本発明のアミノ酸誘導体は、常法の単離精製手段、例えば溶媒による抽出、クロマトグラフィー、結晶化によって反応混合物から容易に分離し、かつ精製することができる。
【0025】
本発明のアミノ酸誘導体が塩の形態をとる場合、その塩は医薬的に許容し得るものであればよく、例えば、式中に酸性基が存在する場合の酸性基に対しては、アンモニウム塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アルミニウム塩;亜鉛塩;トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピペリジン、ジシクロヘキシルアミン等の有機アミンとの塩;アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸との塩を挙げることができる。式中に塩基性基が存在する場合の塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩;シュウ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、グルタミン酸等の有機カルボン酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。塩を形成する方法としては、式(1)又は式(2)の化合物と必要な酸又は塩基とを適当な量比で溶媒又は分散剤中で混合することや、他の塩の形態より陽イオン交換又は陰イオン交換を行うことが挙げられる。
さらに本発明のアミノ酸誘導体又はその医薬的に許容し得る塩にはその溶媒和物、例えば水和物、アルコール付加物等も包含される。
【0026】
本発明のアミノ酸誘導体又はその医薬的に許容し得る塩は、腸内細菌による分解を受けづらく、又、ペプチドトランスポーター、特にPEPT1を介して腸管膜より体内に取り込まれることにより、他の薬物による影響を受けにくく、さらに食事中に含まれるであろう他のアミノ酸とも競合しない。又、実施例にて後述するが、本発明の好ましいアミノ酸誘導体は、体内でのケト酸とアミノ酸との解離が徐放的である。これらの特性より本発明のアミノ酸誘導体又はその医薬的に許容し得る塩は、ヒトをはじめウシ、ウマ、イヌ、マウス、ラット等の哺乳動物において所定のアミノ酸(アミノ酸誘導体を構成するアミノ酸)の高い血中濃度を示し、好ましくは更に優れた血中持続性を示す。従って、本発明のアミノ酸誘導体又はその医薬的に許容し得る塩を用いることにより、ケト酸と結合させることなくフリーの状態でアミノ酸を投与する場合に比べて、その作用や効果の点での向上が期待できる。即ち、本発明のアミノ酸誘導体及びその医薬的に許容し得る塩は種々の医薬に有効成分として含められる。ここで「種々の医薬」とは、本発明のアミノ酸誘導体を構成するアミノ酸(一般式(1)中AA、一般式(2)中AA’でそれぞれ表される)の種類、その生理活性、薬理作用に応じて適宜決定される。
【0027】
本発明のアミノ酸誘導体又はその医薬的に許容し得る塩を医薬として使用する場合には、好ましくは経口投与により投与される。上記目的のために用いる、本発明のアミノ酸誘導体又はその医薬的に許容し得る塩の投与量は、目的とする治療効果(アミノ酸の種類に依存する)、投与方法、治療期間、患者の年齢や体重等により決定されるが、経口のルートにより、通常成人一日あたりの投与量として経口投与の場合で10mg−10g、好ましくは100mg−5gを用いる。
【0028】
さらに、本発明のアミノ酸誘導体を経口用製剤(経口剤)として調製する場合には賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤等を加えた後、常法により、例えば、錠剤、散剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、溶液剤、糖衣剤、デポー剤、又はシロップ剤等とする。賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、ソルビット、結晶セルロース等が、結合剤としては例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ポリビニルピロリドン等が、崩壊剤としては例えばデンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストラン、ペクチン等が、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香酸、ハッカ油、竜脳、桂皮末等が用いられる。これらの錠剤又は顆粒剤には、糖衣、ゼラチン衣、その他必要により適宜コーティングすることは勿論差し支えない。
注射剤を調製する場合には必要によりpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内、静脈内注射剤とする。pH調整剤としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、塩酸、リン酸水素ナトリウム、クエン酸等が、緩衝剤としては、ホウ酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が、安定化剤としては、プロピレングリコール、亜硫酸塩、アスコルビン酸等が、保存剤としては、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、ホウ酸等が用いられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳しく説明する。これらは本発明の好ましい実施態様でありこれらの実施例によって限定されるものではない。また、本実施例で用いる装置、試薬等について、特に記載がないものは、当分野で通常実施されている方法に従って容易に調製入手できるか、あるいは商業的に入手可能なものである。
本明細書および図面において、アミノ酸等を略号で表示する場合、各表示は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
Trp :トリプトファン
Ser :セリン
Pro :プロリン
Glu :グルタミン酸
Thr :トレオニン
Arg :アルギニン
Ile :イソロイシン
Leu :ロイシン
Val :バリン
Bn :ベンジル基
Ac :アセチル基
Et :エチル基
Me :メチル基
【0030】
実施例1:アミノ酸誘導体の合成
原料となる各種アミノ酸、各種ケトアミノ酸及び各種保護アミノ酸は東京化成工業株式会社、渡辺化学工業株式会社等から入手した。
(1)ケトイソロイシル−トリプトファン(KetoIle-Trp)
【0031】
【化5】

【0032】
H−トリプトファン−OBn・HCl(渡辺化学工業株式会社)(500mg,1.52mmol)及びケトイソロイシン(東京化成工業株式会社)(216mg,1.67mmol)を25mLのジクロロメタンに溶かし室温で攪拌した。この混合液にWSC・HCl(320mg,1.67mmol)、HOBT・HO(256mg,1.67mmol)を加えて攪拌した。3時間後にジクロロメタンとNaHCO水で希釈した後、有機層を分液し、水層をジクロロメタンで2回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。その残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル(EtOAc):ヘキサン(Hex)=30:70)にて精製し、ケトイソロイシル−トリプトファン−OBnを得た(426mg,69%)。ケトイソロイシル−トリプトファン−OBn(400mg,0.98mmol)をメタノールに溶かし、アルゴン置換した後で、7.5%Pd−C(PH) 400mgを加えた。水素で置換して1時間攪拌した。フィルターセルで濾過してパラジウム触媒を除去し、濾液を濃縮した。その残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(MeOH:CHCl=15:85)で精製し、ケトイソロイシル−トリプトファンを得た(281mg,91%)。
1H-NMR (CDCl3, 300 MHz); 8.21 (1H, s), 7.54 (1H, d, J=7.5), 7.45 (1H, d, J=7.5), 7.32 (1H, d, J=7.5), 7.18 (1H, t, J=7.5), 7.09 (1H, t, J=7.5), 6.97 (1H, s), 4.88 (1H, dd, J=5.7, 14.1), 3.30-3.48 (3H, m), 1.60-1.77 (1H, m), 1.25-1.45 (1H, m), 1.05 (3H, m), 0.86 (3H, t, J=7.5) m/z: 317 (M+H)+
【0033】
(2)ケトイソロイシル−トレオニン(KetoIle-Thr)
H−トレオニン(OBn)−OBn(1.5g,5mmol)及びケトイソロイシン(720mg,5.5mmol)を用いて、上記ケトイソロイシル−トリプトファンと同様にしてケトイソロイシル−トレオニン730mgを合成した。
1H-NMR (DMSO-d6, 300 MHz); 8.04 (1H, d, J=8.4), 4.12-4.25 (2H, m), 3.25-3.35 (1H, m), 1.58-1.72 (1H, m), 1.30-1.44 (1H, m), 0.98-1.12 (6H, m), 0.84 (3H, t, J=7.5) m/z: 232 (M+H)+
【0034】
(3)ケトイソロイシル−セリン(KetoIle-Ser)
H−セリン−OBn・HCl(1.0g,4.3mmol)及びケトイソロイシン(620mg,4.7mmol)を用いて、上記ケトイソロイシル−トリプトファンと同様にしてケトイソロイシル−セリン145mgを合成した。
1H-NMR (DMSO-d6, 300 MHz); 8.34 (1H, d, J=7.5), 4.23-4.29 (1H, m), 3.62-3.79 (2H, m), 3.24-3.30 (1H, m), 1.56-1.70 (1H, m), 1.24-1.42 (1H, m), 1.00 (3H, dd, J=2.1, 7.2), 0.82 (3H, t, J=7.2) m/z: 218 (M+H)+
【0035】
(4)ケトイソロイシル−グルタミン酸(KetoIle-Glu)
H−グルタミン酸(OBn)−OBn・HCl(1.0g,2.8mmol)及びケトイソロイシン(390mg,3.0mmol)を用いて、上記ケトイソロイシル−トリプトファンと同様にしてケトイソロイシル−グルタミン酸425mgを合成した。
1H-NMR (DMSO-d6, 300 MHz); 8.78 (1H, dd, J=2.1, 7.8), 4.22-4.29 (1H, m), 3.18-3.30 (1H, m), 2.26 (2H, t, J=5.7), 2.00-2.14 (1H, m), 1.82-1.96 (1H, m), 1.56-1.70 (1H, m), 1.28-1.44 (1H, m), 1.01 (3H, d, J=6.9), 0.83 (3H, t, J=7.2) m/z: 260 (M+H)+
【0036】
(5)ケトイソロイシル−アルギニン(KetoIle-Arg)
ケトイソロイシン(520mg,4.0mmol)をテトラヒドロフラン25mlに溶かし、N−ヒドロキシスクシイミド(460mg,4.0mmol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド(824mg,4.0mmol)を加えた。室温で4時間攪拌し、析出した固体をフィルターで濾取した。一方で、アルギニン(696mg,4.0mmol)をテトラヒドロフラン10ml及び水10mlの混合溶液に溶かし、トリエチルアミンを1.1ml(8.0mmol)加えた。このアルギニン溶液を上記反応液に加えて24時間攪拌した。反応液の不溶物を濾過して除き、濃縮した。逆相HPLCで精製して目的とするケトイソロイシル−アルギニン707mgを得ることができた。
1H-NMR (DMSO-d6, 300 MHz); 8.70 (1H, d, J=7.8), 7.74-7.78 (1H, m), 6.80-7.50 (3H, brs), 4.15-4.21 (1H, m), 3.22-3.29 (1H, m), 3.05-3.12 (2H, m), 1.56-1.90 (3H, m), 1.28-1.56 (3H, m), 0.99-1.03 (3H, m), 0.81-0.86 (3H, m) m/z: 287 (M+H)+
【0037】
(6)ケトイソロイシル−プロリン(KetoIle-Pro)
H−プロリン−OBn・HCl(1.0g,4.1mmol)及びケトイソロイシン(590mg,4.5mmol)を用いて、上記ケトイソロイシル−トリプトファンと同様にしてケトイソロイシル−プロリン478mgを合成した。
1H-NMR (DMSO-d6, 300 MHz); 4.62-4.68 (0.5H, m), 4.29-4.34 (0.5H, m), 3.40-3.58 (2H, m), 3.16-3.24 (1H, m), 2.12-2.34 (1H, m), 1.58-2.06 (4H, m), 1.20-1.42 (1H, m), 0.92-1.10 (3H, m), 0.78-0.92 (3H, m) MASS 228 (MH+)
【0038】
(7)ケトイソロイシル−イソロイシン(KetoIle-Ile)
ケトイソロイシン(520mg,4.0mmol)をテトラヒドロフラン25mlに溶かし、N−ヒドロキシスクシイミド(460mg,4.0mmol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド(824mg,4.0mmol)を加えた。室温で4時間攪拌し、析出した固体をフィルターで濾取した。一方で、イソロイシン(524mg,4.0mmol)をテトラヒドロフラン10ml及び水10mlの混合溶液に溶かし、トリエチルアミンを1.1ml(8.0mmol)加えた。このイソロイシン溶液を上記反応液に加えて24時間攪拌した。反応液の不溶物を濾過して除き、濃縮した。逆相HPLCで精製して目的とするケトイソロイシル−イソロイシン247mgを得ることができた。
1H-NMR (DMSO-d6, 300 MHz); 8.47 (1H, d, J=8.4), 4.14-4.19 (1H, m), 3.14-3.23 (1H, m), 1.84-1.96 (1H, m), 1.56-1.68 (1H, m), 1.28-1.46 (2H, m), 1.10-1.26 (1H, m), 1.01 (3H, d, J=6.9), 0.81-0.88 (9H, m) MASS 244 (MH+)
【0039】
(8)ケトロイシル−トリプトファン(KetoLeu-Trp)
H−トリプトファン−OBn・HCl(300mg,0.9mmol)及びケトロイシン(130mg,1.0mmol)を用いて、上記ケトイソロイシル−トリプトファンと同様にしてケトロイシル−トリプトファン80mgを合成した。
1H-NMR (CD3OD, 300 MHz); 7.52 (1H, d, J = 8.1), 7.31 (1H, d, J = 8.1), 7.04-7.12 (1H, m), 7.07 (1H, s), 6.94-7.02 (1H, m), 4.71 (1H, dd, J = 4.8, 7.8), 3.41 (1H, dd, J = 4.8, 14.4), 3.27 (1H, dd, J = 7.8, 14.4), 2.60 (2H, d, J = 5.4), 1.98-2.07 (1H, m), 0.87 (6H, d, J = 6.9) m/z: 317 (M+H)+.
【0040】
(9)ケトバリル−トリプトファン(KetoVal-Trp)
H−トリプトファン−OBn・HCl(500mg,1.5mmol)及びケトバリンナトリウム塩(230mg,1.7mmol)を用いて、上記ケトイソロイシル−トリプトファンと同様にしてケトバリル−トリプトファン338mgを合成した。
1H-NMR (CDCl3, 300 MHz); 8.25 (1H, s), 7.54 (1H, d, J = 7.8), 7.46 (1H, d, J = 7.8), 7.31 (1H, d, J = 8.4), 7.17 (1H, t, J = 7.2), 7.08 (1H, t, J = 7.2), 6.97 (1H, d, J = 2.4), 4.86 (1H, dd, J = 4.6, 14.0), 3.45-3.66 (1H, m), 3.32-3.40 (2H, m), 1.06 (6H, m) m/z: 303 (M+H)+.
【0041】
実施例2:hPEPT1に対する親和性の評価
本発明のアミノ酸誘導体が、ペプチドトランスポーターの基質となり得るか調べる為に本発明のアミノ酸誘導体のヒトPEPT1(hPEPT1)に対する親和性を測定した。(評価系)
PEPT1を発現していることが知られているヒト膵臓癌由来のAsPC−1細胞(ATCC(American Type Culture Collection))を用いた。
hPEPT1の蛍光基質ochratoxin A(10μM:Sigma,USA)と試験化合物とをAsPC−1細胞に同時添加し、pH5.5の緩衝液(138 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 25 mM D−Glucose, 20 mM MES, 1.25 mM CaCl2, 0.5 mM MgCl2)中で30分間、37℃で反応させた。反応終了後、氷冷したpH7.4緩衝液(138 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 25 mM D−Glucose, 20 mM HEPES, 1.25 mM CaCl2, 0.5 mM MgCl2;pHをKOHで調整)で細胞を洗浄し、細胞内に取り込まれたochratoxin Aを蛍光定量により測定した(励起波長:355nm、蛍光波長:435nm)。試験化合物がhPEPT1に認識されると、ochratoxin Aと競合することにより、ochratoxin Aの細胞内への取り込みが減少する。
(結果)
トリプトファンを、アミン類、α−ヒドロキシ脂肪酸類、D,L−アミノ酸及びその代謝物、α−ケトアミノ酸類等で修飾した化合物、計100点〔実施例1で合成した(1)、(8)及び(9)のアミノ酸誘導体を含む〕について、上記評価系によりそのhPEPT1親和性を調べた。結果、ケト酸と結合させたトリプトファン〔実施例1で合成した(1)、(8)及び(9)のアミノ酸誘導体〕にhPEPT1に対する高い親和性が認められた。特にケトイソロイシル−トリプトファンが最も高い親和性を示した。
【0042】
実施例3:hPEPT1による膜透過性の評価
実施例2でAsPC−1細胞上のhPEPT1に対して親和性を示した化合物が実際にhPEPT1によって輸送されているかどうかを調べる為にhPEPT1−MDCK細胞を用いて評価した。hPEPT1−MDCK細胞は、イヌ腎臓尿細管由来細胞であるMDCK細胞にhPEPT1を高発現させた細胞である。この細胞は、ATCC由来のMDCK細胞にhPEPT1cDNA(gi:109731546)を組み込んだベクター(インビトロジェンpcDNA3.1)をトランスフェクションさせた後、ペプチド輸送活性の高いMDCK株をクローニングすることにより得た。
試験化合物としては実施例1で合成した化合物(1)〜(9)を用いた。
(評価系)
hPEPT1−MDCK細胞を1×10細胞/ウェルの濃度で撒き、トランスウェル上で4日間培養(培地:DMEM:F12=1:1の混合培地)した。トランスウェルは、細胞が撒き込まれている上室と多孔質膜で区切られた下室とから成り、上室に添加した試験化合物が多孔質膜を透過することにより下室で検出されるようになる。細胞膜透過のモデルとして利用されている。
上室(Apical側)にpH6.5の緩衝液(138 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 25 mM D−Glucose, 20 mM MES, 1.25 mM CaCl2, 0.5 mM MgCl2;pHをKOHで調整)を、下室(basal側)にpH7.4の緩衝液(138 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 25 mM D−Glucose, 20 mM HEPES, 1.25 mM CaCl2, 0.5 mM MgCl2;pHをKOHで調整)を添加し20分間、37℃でプレインキュベーションした。続いて、100μMの試験化合物を添加し、1時間、37℃で反応させた。上室及び下室の溶液を回収し、LC/MSで試験化合物の濃度を定量した。評価結果は透過性スコアPm[cm/sec],Pm=(透過側化合物濃度×0.6mL)/(3600sec×0.33cm×添加化合物初期濃度),として表示し、スコアの値が7×10−7以上なら透過性ありと判定した。
(結果)
結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
これらの結果により本発明のアミノ酸誘導体はhPEPT1により輸送されることが明らかとなった。
【0045】
実施例4:消化管内安定性評価
hPEPT1を介して膜輸送される、本発明のアミノ酸誘導体の消化管内安定性を評価した。
飽食下ラットのトライツ靭帯から下10cm〜40cmの部分を摘出し、氷冷生理食塩水で外側(筋肉側)を洗浄後、二つに裂きpH6.5緩衝液(138 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 25 mM D−Glucose, 20 mM MES, 1.25 mM CaCl2, 0.5 mM MgCl2,;pHをKOHで調整)にいれ、消化管液を抽出した。得られた消化管液に0.2mM又は1mMの濃度となるように実施例1で合成したケトイソロイシル−トリプトファンを添加し、37℃で反応させた。対照としてpH6.5の緩衝液にケトイソロイシル−トリプトファンを0.2mMの濃度となるように添加した。反応開始後、0(反応開始直後)、15分、30分、60分後にサンプリングし、8%TCA溶液で反応を停止させた。反応液を遠心分離し、上清を採取後、LC/MSでケトイソロイシル−トリプトファンの濃度を測定した。結果を図1に示す。
ケトイソロイシル−トリプトファンは、およそ1時間はラット消化管液中で安定であった。
ケトバリル−トリプトファンは、同様の実験の結果、消化管液中1時間で約65%程度の残存率を示した。
【0046】
実施例5:経口投与後の血中濃度
実施例2〜4の結果からhPEPT1認識性に優れ、且つ、消化管内で安定なケトイソロイシル−トリプトファンを用いた。
7週齢の雄性SDラット(n=3)に、絶食下、100mg/kgの投与量でケトイソロイシル−トリプトファン(投与媒体:0.5%カルボキシメチルセルロース懸濁液)を経口投与した。対照として、ケト酸と結合させていないトリプトファンを同様にラットに投与した。
経口投与後、0.25、0.5、1、2、5、8時間経過した時点で、門脈及び動脈からほぼ同時に血液を採取し、除タンパク後に上清を採取しLC/MSにてケトイソロイシル−トリプトファン及びトリプトファンの濃度をそれぞれ測定した。
結果を図2に示す。
門脈内のケトイソロイシル−トリプトファンの濃度と、動脈内のケトイソロイシル−トリプトファンの濃度の差が吸収量に相当し、等しくなると吸収が完了したことを意味する。図2から明らかなようにラットにケトイソロイシル−トリプトファンを経口投与すると、ケトイソロイシル−トリプトファンは消化管から吸収された後に血液中に現れた(図2(a))。この実験によりケトイソロイシル−トリプトファンが経口で吸収されることが明らかとなった。又、ケトイソロイシル−トリプトファンは血中に入り分解されてトリプトファンを放出する。トリプトファン投与群よりケトイソロイシル−トリプトファン投与群の方が消失相のトリプトファン濃度推移が緩やかであった。半減期を測定すると、ケトイソロイシル−トリプトファン投与群では4.9時間(図2(b))、トリプトファン投与群では2時間(図2(c))であり、ケト酸との結合により血中消失半減期(経口投与時)が約2.5倍に向上した。
【0047】
実施例6:血中持続性の評価
実施例1に準じて、下記構造式で表される安定同位体トリプトファン(味の素株式会社)をケトイソロイシル化した化合物(ケトイソロイシル−安定同位体トリプトファン)を合成した。対照化合物としてケトイソロイシル化していない化合物(安定同位体トリプトファン)を用いた。
【0048】
【化6】

【0049】
両化合物を、7週齢の雄性Wistarラットに、絶食下、2mg/kg、5mg/kg及び20mg/kgの投与量で、尾静脈に投与した。投与後、1、5、10、30、60、180及び240分後に頸静脈採血し、トリプトファンの濃度を測定した。結果を図3に示す。
図3より明らかなようにラットにケトイソロイシル−安定同位体トリプトファンを静脈内投与すると、血中で分解されて徐放的にトリプトファンが放出される。ケトイソロイシル−安定同位体トリプトファンを静脈内投与した際の安定同位体トリプトファンの血中消失半減期は1.33時間であった(図3(a))。
一方、安定同位体トリプトファン自体を静脈内投与した際の安定同位体トリプトファンの血中消失半減期は、0.55時間であった(図3(b))。
ケト酸との結合により血中消失半減期(静脈内投与時)が約2.5倍に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ケトイソロイシル−トリプトファンの消化管内安定性を評価した結果を示す図である。−○−;0.2mMケトイソロイシル−トリプトファン(ラット消化管液中)、−●−;1mMケトイソロイシル−トリプトファン(ラット消化管液中)、−■−;0.2mMケトイソロイシル−トリプトファン(pH6.5緩衝液中)。縦軸は、ケトイソロイシル−トリプトファン濃度を、横軸は反応時間(分)を示す。
【図2】ケトイソロイシル−トリプトファンあるいはトリプトファン経口投与後のケトイソロイシル−トリプトファン及びトリプトファンの血中濃度の推移を示す図である。(a)は、ケトイソロイシル−トリプトファン経口投与後のケトイソロイシル−トリプトファンの血中濃度の推移を示す図である。(b)は、ケトイソロイシル−トリプトファン経口投与後のトリプトファンの血中濃度の推移を示す図である。(c)は、トリプトファン経口投与後のトリプトファンの血中濃度の推移を示す図である。 −●−;門脈内の濃度、−○−;動脈内の濃度。縦軸はケトイソロイシル−トリプトファン又はトリプトファンの濃度を、横軸は反応時間(時間)を示す。
【図3】安定同位体トリプトファンをケトイソロイシル化して合成したケトイソロイシル−安定同位体トリプトファンあるいは安定同位体トリプトファンを静脈内投与した後の安定同位体トリプトファンの血中濃度の推移を示す図である。(a)は、ケトイソロイシル−安定同位体トリプトファン静脈内投与後の安定同位体トリプトファンの血中濃度の推移を示す図である。縦軸は安定同位体トリプトファン濃度を、横軸は反応時間(時間)を示す。(b)は、安定同位体トリプトファン静脈内投与後の安定同位体トリプトファンの血中濃度の推移を示す図である。縦軸は安定同位体トリプトファン濃度を、横軸は反応時間(時間)を示す。−○−:投与量2mg/kg、−●−:投与量5mg/kg、−□−:投与量20mg/kg。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその医薬的に許容し得る塩。
【化1】

〔式中、Xはケトイソロイシン、ケトロイシン及びケトバリンからなる群より選択される1種のケト酸であり、AAはトリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン及びトレオニンからなる群より選択される1種のアミノ酸であり、−はアミド結合を表す〕
【請求項2】
Xがケトイソロイシン又はケトバリンである、請求項1記載の化合物又はその医薬的に許容し得る塩。
【請求項3】
Xがケトイソロイシンである、請求項1又は2記載の化合物又はその医薬的に許容し得る塩。
【請求項4】
AAがトリプトファンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物又はその医薬的に許容し得る塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物又はその医薬的に許容し得る塩を有効成分として含有する医薬。
【請求項6】
経口剤である請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
下記一般式(2)で表される化合物又はその医薬的に許容し得る塩を含む、ペプチドトランスポーターの基質。
【化2】

〔式中、Xはケトイソロイシン、ケトロイシン及びケトバリンからなる群より選択される1種のケト酸であり、AA’はトリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、トレオニン、プロリン及びイソロイシンからなる群より選択される1種のアミノ酸であり、−はアミド結合を表す〕
【請求項8】
Xがケトイソロイシン又はケトバリンである、請求項7記載の基質。
【請求項9】
Xがケトイソロイシンである、請求項7記載の基質。
【請求項10】
ペプチドトランスポーターがPEPT1である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の基質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−156233(P2008−156233A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343095(P2006−343095)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】